(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-18
(45)【発行日】2024-10-28
(54)【発明の名称】二次電池の診断方法、充放電制御方法、診断装置、管理システム、及び、診断プログラム
(51)【国際特許分類】
H01M 10/48 20060101AFI20241021BHJP
H01M 10/44 20060101ALI20241021BHJP
H02J 7/00 20060101ALI20241021BHJP
【FI】
H01M10/48 P
H01M10/48 301
H01M10/44 Q
H02J7/00 X
(21)【出願番号】P 2023564299
(86)(22)【出願日】2021-11-30
(86)【国際出願番号】 JP2021043843
(87)【国際公開番号】W WO2023100241
(87)【国際公開日】2023-06-08
【審査請求日】2023-07-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】海野 航
(72)【発明者】
【氏名】金井 佑太
(72)【発明者】
【氏名】八木 亮介
【審査官】高野 誠治
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-149280(JP,A)
【文献】特開2016-065832(JP,A)
【文献】特開2015-094726(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/48
H01M 10/44
H02J 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
二相共存反応をする第1の電極活物質を含む第1の電極、及び、単一相反応をする第2の電極活物質を含む前記第1の電極とは反対の極性の第2の電極を備える二次電池の診断方法であって、
前記二次電池の複数のSOC値のそれぞれについて、前記二次電池のインピーダンスの計測結果に基づいて前記第2の電極の電荷移動抵抗及び頂点周波数の少なくとも一方を算出することにより、前記第2の電極の前記電荷移動抵抗及び前記頂点周波数の少なくとも一方と前記二次電池のSOCとの関係を取得することを具備する、診断方法。
【請求項2】
前記第2の電極の前記電荷移動抵抗及び前記頂点周波数の少なくとも一方と前記二次電池の前記SOCとの前記関係に基づいて、前記第2の電極の前記頂点周波数が最大となる前記二次電池のSOC値を特定することをさらに具備する、請求項1に記載の診断方法。
【請求項3】
前記第2の電極の前記頂点周波数が最大となる前記二次電池のSOC値を、第1の時間及び前記第1の時間より後の第2の時間のそれぞれについて特定することと、
前記第2の電極の前記頂点周波数が最大となる前記二次電池のSOC値に関して、前記第1の時間についての特定結果と前記第2の時間について特定結果とを比較することにより、前記第1の時間での前記第2の電極のストイキメトリーに対する前記第2の時間での前記第2の電極の前記ストイキメトリーのずれを、前記二次電池の前記SOCに換算して算出することと、
をさらに具備する、請求項2に記載の診断方法。
【請求項4】
前記第2の電極の前記電荷移動抵抗及び前記頂点周波数の少なくとも一方と前記二次電池の前記SOCとの前記関係に基づいて、前記第2の電極のストイキメトリー及び電位の少なくとも一方と前記二次電池の前記SOCとの関係を取得することをさらに具備する、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の診断方法。
【請求項5】
前記第2の電極の前記ストイキメトリー及び前記電位の少なくとも一方と前記二次電池の前記SOCとの前記関係を、第1の時間及び前記第1の時間より後の第2の時間のそれぞれについて取得することと、
前記第1の時間及び前記第2の時間のそれぞれにおける前記第2の電極の前記ストイキメトリー及び前記電位の少なくとも一方と前記二次電池の前記SOCとの前記関係に基づいて、前記第1の時間での前記第2の電極の前記ストイキメトリーに対する前記第2の時間での前記第2の電極の前記ストイキメトリーのずれを、前記二次電池の前記SOCに換算して算出することと、
をさらに具備する、請求項4に記載の診断方法。
【請求項6】
前記第2の電極の前記ストイキメトリー及び前記電位の少なくとも一方と前記二次電池の前記SOCとの前記関係に基づいて、前記第2の電極について、利用可能なストイキメトリー範囲及び利用可能な電位範囲の少なくとも一方を算出することをさらに具備する、請求項4又は請求項5に記載の診断方法。
【請求項7】
前記第2の電極の前記ストイキメトリー及び前記電位の少なくとも一方と前記二次電池の前記SOCとの関係に基づいて、前記第1の電極のストイキメトリー及び電位の少なくとも一方と前記二次電池の前記SOCとの関係を取得することと、
前記第1の電極の前記ストイキメトリー及び前記電位の少なくとも一方と前記二次電池の前記SOCとの前記関係に基づいて、前記第1の電極について、利用可能なストイキメトリー範囲及び利用可能な電位範囲の少なくとも一方を算出することと、
をさらに具備する、請求項4から請求項6のいずれか1項に記載の診断方法。
【請求項8】
前記第2の電極の前記電荷移動抵抗及び前記頂点周波数の少なくとも一方と前記二次電池の前記SOCとの前記関係の取得では、
前記二次電池の前記複数のSOC値のそれぞれに関して、前記二次電池の前記インピーダンスの前記計測結果に加えて前記二次電池の温度に基づいて、前記第2の電極の前記電荷移動抵抗及び前記頂点周波数の少なくとも一方を算出する、
請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の診断方法。
【請求項9】
前記第2の電極の前記電荷移動抵抗及び前記頂点周波数の少なくとも一方と前記二次電池の前記SOCとの前記関係の取得では、
前記二次電池の前記複数のSOC値のそれぞれに関して、前記第1の電極の電荷移動インピーダンスに対応する電気特性パラメータ及び前記第2の電極の電荷移動インピーダンスに対応する電気特性パラメータを含む複数の電気特性パラメータが設定される等価回路、並びに、前記二次電池の前記インピーダンスの前記計測結果を用いてフィッティング計算を行うことにより、前記等価回路の前記電気特性パラメータのそれぞれを算出し、
前記二次電池の前記複数のSOC値のそれぞれに関して、前記第2の電極の前記電荷移動インピーダンスに対応する前記電気特性パラメータについての算出結果に基づいて、前記第2の電極の前記電荷移動抵抗及び前記頂点周波数の少なくとも一方を算出する、
請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の診断方法。
【請求項10】
交流電流の電流波形を直流電流に重畳させた重畳電流を前記二次電池に入力することにより、前記二次電池の前記複数のSOC値のそれぞれについて、前記二次電池の前記インピーダンスを計測することをさらに具備する、請求項1から請求項9のいずれか1項に記載の診断方法。
【請求項11】
請求項1から請求項10のいずれか1項に記載の診断方法によって前記二次電池を診断することと、
前記第2の電極の前記電荷移動抵抗及び前記頂点周波数の少なくとも一方と前記二次電池の前記SOCとの前記関係を含む前記二次電池の診断結果に基づいて、前記二次電池の充電及び放電を制御することと、
を具備する、前記二次電池の充放電制御方法。
【請求項12】
二相共存反応をする第1の電極活物質を含む第1の電極、及び、単一相反応をする第2の電極活物質を含む前記第1の電極とは反対の極性の第2の電極を備える二次電池の診断装置であって、
前記二次電池の複数のSOC値のそれぞれについて、前記二次電池のインピーダンスの計測結果に基づいて前記第2の電極の電荷移動抵抗及び頂点周波数の少なくとも一方を算出することにより、前記第2の電極の前記電荷移動抵抗及び前記頂点周波数の少なくとも一方と前記二次電池のSOCとの関係を取得する、
プロセッサを具備する、診断装置。
【請求項13】
請求項12に記載の診断装置と、
前記診断装置によって診断される前記二次電池と、
を具備する前記二次電池の管理システム。
【請求項14】
前記二次電池では、前記第1の電極は、チタン酸リチウムを前記第1の電極活物質として含む負極、又は、リン酸鉄リチウムを前記第1の電極活物質として含む正極である、請求項13に記載の管理システム。
【請求項15】
二相共存反応をする第1の電極活物質を含む第1の電極、及び、単一相反応をする第2の電極活物質を含む前記第1の電極とは反対の極性の第2の電極を備える二次電池の診断プログラムであって、コンピュータに、
前記二次電池の複数のSOC値のそれぞれについて、前記二次電池のインピーダンスの計測結果に基づいて前記第2の電極の電荷移動抵抗及び頂点周波数の少なくとも一方を算出することにより、前記第2の電極の前記電荷移動抵抗及び前記頂点周波数の少なくとも一方と前記二次電池のSOCとの関係を取得させる、
診断プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、二次電池の診断方法、充放電制御方法、診断装置、管理システム、及び、診断プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、リチウムイオン二次電池、鉛蓄電池及びニッケル水素電池等の二次電池は、電子機器、自動車及び定置用電源等に幅広く利用されている。このような二次電池等の電池を長寿命で利用する観点から、電池の内部状態を推定、及び、推定した内部状態に基づいた電池の劣化等についての診断が行われている。例えば、電池の劣化等の診断では、電池の正極活物質の容量である正極の容量、電池の負極活物質の容量である負極の容量、及び、電池のインピーダンスの抵抗成分等を、電池の内部状態を示す内部状態パラメータとして推定する。
【0003】
ここで、二次電池等の電池では、充電及び放電を繰返すことにより、使用開始時等に比べて、正極の充電状態(ストイキメトリー)及び電位と電池のSOCとの関係、及び、負極の充電状態(ストイキメトリー)及び電位と電池のSOCとの関係が変化する。特に、正極及び負極で劣化の度合いが互いに対して大きく異なる場合は、正極及び負極の一方の充電状態及び電位と電池のSOCとの関係が、電池の使用開始時等から大きく変化する。このため、正極及び負極のそれぞれの過充電及び過放電等を防止する観点から、正極及び負極のそれぞれの充電状態及び電位と電池のSOCとの関係の電池の使用開始時等からの変化、すなわち、電池の使用開始時等からの正極及び負極のそれぞれの充電状態(ストイキメトリ―)のずれを適切に推定することが、求められている。したがって、電池の診断では、電極の充電状態と電池のSOCとのリアルタイムにおける関係を適切に推定可能にすることが、求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】日本国特開2011-64471号公報
【文献】国際公開第2012/095913号公報
【文献】日本国特開2018-151194号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】J. P. Schmidt et al., “Studies on LiFePO4 as cathode materials using impedance spectrometry” Journal of power Sources. 196, (2011), pp5342-pp5348
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、電極の充電状態と二次電池のSOCとのリアルタイムにおける関係を適切に推定可能にする二次電池の診断方法、充放電制御方法、診断装置、管理システム、及び、診断プログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
実施形態では、二相共存反応をする第1の電極活物質を含む第1の電極、及び、単一相反応をする第2の電極活物質を含む第1の電極とは反対の極性の第2の電極を備える二次電池の診断方法が提供される。診断方法では、二次電池の複数のSOC値のそれぞれについて、二次電池のインピーダンスの計測結果に基づいて第2の電極の電荷移動抵抗及び頂点周波数の少なくとも一方を算出することにより、第2の電極の電荷移動抵抗及び頂点周波数の少なくとも一方と二次電池のSOCとの関係を取得する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、実施形態に係る電池について、電池の充電状態と正極及び負極のそれぞれの電位との関係の一例を示すグラフである。
【
図2】
図2は、実施形態において診断対象となる電池について、第2の電極のストイキメトリー(充電状態)と第2の電極の電荷移動抵抗との関係の一例を示すグラフである。
【
図3】
図3は、実施形態において診断対象となる電池について、第1の電極のストイキメトリー(充電状態)と第1の電極の電荷移動抵抗との関係の一例を示すグラフである。
【
図4】
図4は、実施形態において診断対象となる電池について、第1の電極及び第2の電極のそれぞれの電荷移動インピーダンスの周波数特性の一例を、複素インピーダンスプロットで示すグラフである。
【
図5】
図5は、実施形態において診断対象となる電池について、第2の電極のストイキメトリー(充電状態)と第2の電極の電荷移動インピーダンスの頂点周波数との関係の一例を示すグラフである。
【
図6】
図6は、実施形態において診断対象となる電池について、第1の電極のストイキメトリー(充電状態)と第1の電極の電荷移動インピーダンスの頂点周波数との関係の一例を示すグラフである。
【
図7】
図7は、第1の実施形態に係る電池の管理システムを示す概略図である。
【
図8】
図8は、第1の実施形態に係る電池のインピーダンスの計測において電池に流す電流の一例を示すグラフである。
【
図9】
図9は、第1の実施形態に係る電池のインピーダンスの計測において電池に流す電流の
図8とは別の一例を示すグラフである。
【
図10】
図10は、第1の実施形態において、複数のSOCのそれぞれについて電池のインピーダンスの周波数特性を計測する際の、電池の電圧の時間変化の一例を示すグラフである。
【
図11】
図11は、第1の実施形態においてフィッティング計算に用いられる電池の等価回路の一例を概略的に示す回路図である。
【
図12】
図12は、第1の実施形態において取得される、第2の電極の電荷移動抵抗と電池のSOCとの関係の一例を示すグラフである。
【
図13】
図13は、
図12の一例の関係が取得される場合における、第2の電極の電荷移動インピーダンスの頂点周波数と電池のSOCとの関係を示すグラフである。
【
図14】
図14は、第1の実施形態において診断装置によって行われる、電池の診断における処理の一例を概略的に示すフローチャートである。
【
図15】
図15は、第2の実施形態において取得される、第1の時間及び第1の時間より後の第2の時間のそれぞれでの第2の電極の電荷移動抵抗と電池のSOCとの関係の一例を示すグラフである。
【
図16】
図16は、
図15の一例の関係が取得される場合における、第1の時間及び第2の時間のそれぞれでの第2の電極の電荷移動インピーダンスの頂点周波数と電池のSOCとの関係を示すグラフである。
【
図17】
図17は、第2の実施形態において診断装置によって行われる、電池の診断における処理の一例を概略的に示すフローチャートである。
【
図18】
図18は、第3の実施形態において診断装置によって行われる、電池の診断における処理の一例を概略的に示すフローチャートである。
【
図19】
図19は、第4の実施形態に係る電池の管理システムを示す概略図である。
【
図20】
図20は、第4の実施形態において診断装置によって行われる、電池の診断における処理の一例を概略的に示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、実施形態について、図面を参照して説明する。
【0010】
まず、実施形態において、診断対象となる電池について説明する。診断対象となる電池は、例えば、リチウムイオン二次電池、鉛蓄電池及びニッケル水素電池等の二次電池である。電池は、単セル(単電池)から形成されてもよく、複数の単セルを電気的に接続することにより形成される電池モジュール又はセルブロックであってもよい。電池が複数の単セルから形成される場合、電池において、複数の単セルが電気的に直列に接続されてもよく、複数の単セルが電気的に並列に接続されてもよい。また、電池において、複数の単セルが直列に接続される直列接続構造、及び、複数の単セルが並列に接続される並列接続構造の両方が形成されてもよい。また、電池は、複数の電池モジュールが電気的に接続される電池ストリング、電池アレイ及び蓄電池のいずれかであってもよい。また、複数の単セルが電気的に接続される電池モジュールにおいて、複数の単セルのそれぞれを診断対象の電池として診断してもよい。なお、以下の説明では、二次電池を単に“電池”と称して、説明する。
【0011】
前述のような電池では、電池の充電状態を示すパラメータとして電池の電荷量(充電量)及びSOCが規定される。ここで、時間t及び電池の電荷量qを規定すると、時間t=t1における電池の電荷量q(t1)は、時間t=t0における電荷量q(t0)、及び、電池に流れる電流の時間変化I(t)を用いて、式(1)のようにして算出される。このため、所定の時点における電池の電荷量、及び、電池に流れる電流についての所定の時点からの時間変化等に基づいて、リアルタイムの電池の電荷量を算出可能である。
【0012】
【0013】
電池では、電圧について、下限電圧Vmin及び上限電圧Vmaxが規定される。また、電池のSOCの値として、SOC値が規定される。電池では、所定の条件での放電又は充電における電圧が下限電圧Vminになる状態が、SOC値が0(0%)の状態として規定され、所定の条件での放電又は充電における電圧が上限電圧Vmaxになる状態が、SOC値が1(100%)の状態として規定される。また、電池では、所定の条件での充電においてSOC値が0から1になるまでの充電容量(充電電荷量)、又は、所定の条件での放電においてSOC値が1から0になるまでの放電容量(放電電荷量)が、電池容量として規定される。そして、電池の電池容量に対するSOC値が0の状態までの残存電荷量(残容量)の比率が、電池のSOCとなる。
【0014】
また、電池の電極である正極及び負極のそれぞれは、充電状態に対応した電位となる。電極のそれぞれでは、充電状態を示すパラメータとして、例えば、ストイキメトリーが規定される。正極及び負極のそれぞれでは、電位と充電状態(ストイキメトリー)との間に所定の関係を有する。このため、電池の電極のそれぞれに関しては、充電状態(ストイキメトリー)に基づいて電位を算出可能であるとともに、電位に基づいてストイキメトリー等を算出可能である。
【0015】
二次電池等の電池では、充電及び放電を繰返すことにより、電極(正極及び負極)のそれぞれの充電状態(ストイキメトリー)及び電位と電池のSOCとの関係が、電池の使用開始時等に比べて、変化する。特に、正極及び負極で劣化の度合いが互いに対して大きく異なる場合は、正極及び負極の一方の充電状態及び電位と電池のSOCとの関係が、電池の使用開始時等から大きく変化する。実施形態では、診断対象となる電池について、電極のそれぞれの充電状態及び電位と電池のSOCとのリアルタイムにおける関係を推定する。そして、電極のそれぞれの充電状態及び電位と電池のSOCとの関係の電池の使用開始時等からの変化、すなわち、電池の使用開始時等からの正極及び負極のそれぞれのストイキメトリー等の充電状態のずれを推定する。電極のそれぞれの充電状態及び電位と電池のSOCとのリアルタイムにおける関係、及び、電池の使用開始時等からの電極のそれぞれの充電状態のずれ等を適切に推定することにより、正極及び負極のそれぞれの過充電及び過放電等を適切に防止可能となる。
【0016】
図1は、実施形態に係る電池について、電池の充電状態と正極及び負極のそれぞれの電位との関係の一例を示すグラフである。
図1では、横軸が電池の充電状態として電池の電荷量(充電量)を示し、縦軸が電位を示す。
図1では、電池の電荷量と正極の電位との関係Vp1,Vp2、及び、電池の電荷量と負極の電位との関係Vnが示される。
図1の一例の電池では、充電及び放電を繰返すことにより、電池の電荷量と正極の電位との関係が、関係Vp1から関係Vp2へ変化する。電池の電荷量が互いに対して同一の条件下で比較すると、関係Vp2では、関係Vp1に比べて、正極の電位が高い。このため、
図1の一例では、正極の劣化によって、劣化後の正極の電位は、電池の電荷量が互いに対して同一の条件下で比較して、劣化前の正極の電位に対して高電位側にずれる。
図1の一例では、前述のように電池の電荷量と正極の電位との関係が変化するため、正極の充電状態及び電位と電池のSOCとの関係が、電池の使用開始時等から変化し、電池の使用開始時等に対する正極のストイキメトリーのずれが発生する。
【0017】
また、診断対象となる電池において、正極及び負極の一方を第1の電極とし、正極及負極の中で第1の電極とは反対の極性の一方を第2の電極とする。診断対象となる電池では、第1の電極は、第1の電極活物質を電極活物質として含み、第2の電極は、第1の電極活物質とは異なる第2の電極活物質を電極活物質として含む。ここで、電池のSОC値が0~1(0%~100%)の範囲で変化する場合、第1の電極の充電状態(ストイキメトリー)は、第1の範囲で変化し、第2の電極の充電状態(ストイキメトリー)は、第2の範囲で変化するとする。第1の電極活物質は、第1の電極の充電状態が前述の第1の範囲になる場合のリチウムの吸蔵及び放出のそれぞれにおいて、二相共存反応をする。第2の電極活物質は、第2の電極の充電状態が前述の第2の範囲になる場合のリチウムの吸蔵及び放出のそれぞれにおいて、単一相反応(固溶反応)する。二相共存反応をする第1の電極活物質を含む第1の電極は、ストイキメトリー(充電状態)が変化しても電位(開回路電位)が一定又は略一定となるプラトー領域を有する。
図1の一例では、負極が二相共存反応する第1の電極活物質を含む第1の電極となり、負極は、プラトー領域εを有する。
【0018】
ある一例では、診断対象となる電池は、正極と負極との間でリチウムイオンが移動することにより、充電及び放電するリチウムイオン二次電池である。この場合、第1の電極は、リチウムの吸蔵及び放出のそれぞれにおいて二相共存反応をする第1の電極活物質を含み、第2の電極は、リチウムの吸蔵及び放出のそれぞれにおいて単一相反応をする第2の電極活物質を含む。負極が第1の電極となる場合、負極において二相共存反応する第1の電極活物質(負極活物質)としては、チタン酸リチウム、酸化チタン及びニオブチタン酸化物が挙げられる。この場合、第2の電極となる正極では、単一相反応する第2の電極活物質(正極活物質)として、リチウムニッケルコバルトマンガン酸化物、リチウムコバルト酸化物及びリチウムニッケルコバルトアルミ酸化物等の層状酸化物等が用いられる。また、正極が第1の電極となる場合、正極において二相共存反応をする第1の電極活物質(正極活物質)としては、リン酸鉄リチウム及びリチウムマンガン酸化物等が用いられる。この場合、第2の電極となる負極では、単一相反応する第2の電極活物質(負極活物質)として、炭素系活物質等が用いられる。
【0019】
また、実施形態等では、電極(第1の電極及び第2の電極)のそれぞれの充電状態及び電位と電池のSOCとのリアルタイムにおける関係を推定する際に、診断対象となる電池のインピーダンス及びインピーダンスの周波数特性を計測する。そして、電池のインピーダンスの周波数特性の計測結果等に基づいて、電池のインピーダンスの抵抗成分を算出する。ここで、電池のインピーダンス成分としては、電解質等でのリチウムの移動過程における抵抗を含むオーミック抵抗、正極及び負極のそれぞれの電荷移動インピーダンス、反応等によって正極又は負極に形成される被膜の被膜抵抗を含む被膜に起因するインピーダンス、拡散抵抗を含むワーブルグインピーダンス、及び、電池のインダクタンス成分等が含まれる。そして、正極及び負極のそれぞれでは、電荷移動インピーダンスの抵抗成分が電荷移動抵抗となる。第1の電極及び第2の電極の電荷移動抵抗等を含む電池のインピーダンス成分は、電池のインピーダンスの周波数特性を用いて、算出可能である。
【0020】
単一相反応する第2の電極活物質では、交流電荷密度及び後述する頂点周波数等の電荷移動抵抗の逆数に比例するパラメータは、第2の電極の充電状態が変化すると、第2の電極の充電状態に応じて変化する。例えば、横軸を第2の電極をストイキメトリー(充電状態)とし、かつ、縦軸を第2の電極活物質の交流電荷密度として、第2の電極のストイキメトリーと第2の電極活物質の交流電荷密度との関係をプロットする。この場合、プロットされた第2の電極のストイキメトリーと第2の電極活物質の交流電荷密度(第2の電極活物質の電荷移動抵抗の逆数)との関係は、交流電荷密度の高い側(上側)へ凸の形状となる。
【0021】
図2は、実施形態において診断対象となる電池について、第2の電極のストイキメトリー(充電状態)と第2の電極の電荷移動抵抗との関係の一例を示すグラフである。
図2では、横軸が第2の電極の充電状態として第2の電極のストイキメトリーを示し、縦軸が第2の電極の電荷移動抵抗Rc2を示す。実施形態等の電池では、第2の電極のストイキメトリーと第2の電極活物質の交流電荷密度との関係が前述のようになるため、
図2等に示すように、第2の電極の充電状態が変化すると、第2の電極の電荷移動抵抗Rc2は、第2の電極の充電状態に対応して変化する。そして、
図2等においてプロットされる第2の電極のストイキメトリーと第2の電極の電荷移動抵抗Rc2との関係は、電荷移動抵抗の低い側(下側)へ凸の形状となる。
【0022】
図3は、実施形態において診断対象となる電池について、第1の電極のストイキメトリー(充電状態)と第1の電極の電荷移動抵抗との関係の一例を示すグラフである。
図3では、横軸が第1の電極の充電状態として第1の電極のストイキメトリーを示し、縦軸が第1の電極の電荷移動抵抗Rc1を示す。
図3等に示すように、二相共存反応をする第1の電極活物質を含む第1の電極では、ストイキメトリー(充電状態)が変化しても、電荷移動抵抗Rc1は、変化しない又はほとんど変化しない。すなわち、第1の電極の電荷移動抵抗Rc1は、第1の電極のストイキメトリーが変化しても、一定又は略一定に維持される。
【0023】
また、電池のインピーダンスの周波数特性、及び、第1の電極及び第2の電極のそれぞれの電荷移動インピーダンスの周波数特性は、例えば、複素インピーダンスプロット(Cole-Coleプロット)等のナイキスト図で示される。
図4は、実施形態において診断対象となる電池について、第1の電極及び第2の電極のそれぞれの電荷移動インピーダンスの周波数特性の一例を、複素インピーダンスプロットで示すグラフである。
図4では、横軸がインピーダンスの実数成分Zreを、縦軸がインピーダンスの虚数成分-Zimを示す。また、
図4では、第1の電極の電荷移動インピーダンスの周波数特性を実線で、第2の電極の電荷移動インピーダンスの周波数特性を破線で示す。
【0024】
図4等に示すように、複素インピーダンスプロットにプロットされる第1の電極及び第2の電極のそれぞれの電荷移動インピーダンスの周波数特性では、虚数成分の正側(上側)へ凸の円弧部分(A1,A2の対応する一方)が示される。第1の電極の電荷移動インピーダンスの周波数特性を示すインピーダンス軌跡において、円弧部分A1の頂点M1での周波数、すなわち、インピーダンスの虚数成分の極小値での周波数が、第1の電極の電荷移動インピーダンスの頂点周波数F1に対応する。そして、第2の電極の電荷移動インピーダンスの周波数特性を示すインピーダンス軌跡において、円弧部分A2の頂点M2での周波数、すなわち、インピーダンスの虚数成分の極小値での周波数が、第2の電極の電荷移動インピーダンスの頂点周波数F2に対応する。
【0025】
ある一例では、診断対象となる電池の等価回路、及び、電池のインピーダンスの周波数特性の計測結果を用いて、第1の電極及び第2の電極のそれぞれの電荷移動抵抗を含む電池のインピーダンス成分が算出される。この場合、等価回路では、第1の電極の電荷移動インピーダンスのインピーダンス成分に対応する電気特性パラメータ(回路定数)として、前述した第1の電極の電荷移動抵抗Rc1に加えて、キャパシタンスC1及びデバイの経験パラメータα1が設定される。そして、等価回路では、第2の電極の電荷移動インピーダンスのインピーダンス成分に対応する電気特性パラメータとして、前述した第2の電極の電荷移動抵抗Rc2に加えて、キャパシタンスC2及びデバイの経験パラメータα2が設定される。
【0026】
ここで、第1の電極の電荷移動インピーダンスの頂点周波数F1、及び、第2の電極の電荷移動インピーダンスの頂点周波数F2とすると、頂点周波数Fi(i=1,2)は、電荷移動抵抗Rci、キャパシタンスCi及びデバイの経験パラメータαiに対して、式(2)の関係が成立する。なお、電池の等価回路には、回路素子としてCPE(constant phase element)Qiが設けられ、キャパシタンスCi及びデバイの経験パラメータαiはCPEQiの電気特性パラメータとなる。
【0027】
【0028】
図5は、実施形態において診断対象となる電池について、第2の電極のストイキメトリー(充電状態)と第2の電極の電荷移動インピーダンスの頂点周波数との関係の一例を示すグラフである。
図5では、横軸が第2の電極の充電状態として第2の電極のストイキメトリーを示し、縦軸が第2の電極の電荷移動インピーダンスの頂点周波数F2を示す。
図5等に示すように、実施形態等の電池において、第2の電極の頂点周波数F2は、第2の電極の充電状態に応じて変化する。そして、
図5等においてプロットされる第2の電極のストイキメトリーと第2の電極の電荷移動インピーダンスの頂点周波数との関係は、頂点周波数が高い側(上側)へ凸の形状となる。
【0029】
図6は、実施形態において診断対象となる電池について、第1の電極のストイキメトリー(充電状態)と第1の電極の電荷移動インピーダンスの頂点周波数との関係の一例を示すグラフである。
図6では、横軸が第1の電極の充電状態として第1の電極のストイキメトリーを示し、縦軸が第1の電極の電荷移動インピーダンスの頂点周波数F1を示す。
図6等に示すように、二相共存反応をする第1の電極活物質を含む第1の電極では、ストイキメトリー(充電状態)が変化しても、電荷移動インピーダンスの頂点周波数F1は、変化しない又はほとんど変化しない。すなわち、第1の電極の頂点周波数F1は、第1の電極のストイキメトリーが変化しても、一定又は略一定に維持される。
【0030】
前述のように、実施形態等において診断対象となる電池は、二相共存反応をする第1の電極活物質を含む第1の電極、及び、単一相反応をする第2の電極活物質を含む第1の電極とは反対の極性の第2の電極を備え、前述のような特性を有する。このため、診断対象となる電池のSOCが変化すると、第2の電極の電荷移動抵抗Rc2及び頂点周波数F2は、電池のSOCに対応して変化する。一方、診断対象となる電池のSOCが変化しても、第1の電極の電荷移動抵抗Rc1及び頂点周波数F1は、変化しない又はほとんど変化しない。
【0031】
したがって、第1の電極の電荷移動抵抗Rc1及び頂点周波数F1等と電池のSOCとの関係は、第2の電極の電荷移動抵抗Rc2及び頂点周波数F2等と電池のSOCとの関係に対して、差異を有する。実施形態等では、診断対象となる電池の前述した2つの関係の差異を利用して、第1の電極及び第2の電極のそれぞれのストイキメトリー及び電位の少なくとも一方と電池のSOCとの関係を取得し、電極のそれぞれのストイキメトリー(充電状態)及び電位の少なくとも一方と電池のSOCとの関係の電池の使用開始時等からの変化を推定する。これにより、電池の使用開始時等からの第1の電極及び第2の電極のそれぞれのストイキメトリーのずれを適切に推定可能となり、第1の電極及び第2の電極のそれぞれについて、利用可能なストイキメトリー範囲及び利用可能な電位範囲等を算出可能となる。
【0032】
(第1の実施形態)
まず、実施形態の一例として、第1の実施形態について説明する。
図7は、第1の実施形態に係る電池の管理システムを示す概略図である。
図7に示すように、管理システム1は、電池搭載機器2及び診断装置3を備える。電池搭載機器2には、電池5、計測回路6及び電池管理部(BMU:battery management unit)7が搭載される。電池搭載機器2としては、電力系統用の大型蓄電装置、スマートフォン、車両、定置用電源装置、ロボット及びドローン等が挙げられ、電池搭載機器2となる車両としては、鉄道用車両、電気バス、電気自動車、プラグインハイブリッド自動車及び電動バイク等が、挙げられる。また、電池5は、前述した電池が用いられる。このため、電池5は、二相共存反応をする第1の電極活物質を含む第1の電極、及び、単一相反応をする第2の電極活物質を含む第1の電極とは反対の極性の第2の電極を備える。
【0033】
計測回路6は、電池5に関連するパラメータを検出及び計測する。計測回路6では、所定のタイミングで定期的に、パラメータの検出及び計測が行われる。電池5が充電又は放電されている状態では、計測回路6によって、電池5に関連するパラメータが定期的に計測される。また、電池5のインピーダンスの計測する後述の電流等の計測用の信号が電池5に入力されている状態においても、計測回路6によって、電池5に関連するパラメータが定期的に計測される。電池5に関連するパラメータには、電池5を流れる電流、及び、電池5の電圧が含まれる。このため、計測回路6には、電流を計測する電流計、及び、電圧を計測する電圧計等が含まれる。
【0034】
電池管理部7は、電池5の充電及び放電を制御する等して、電池5を管理する処理装置(コンピュータ)を構成し、プロセッサ及び記憶媒体を備える。プロセッサは、CPU(Central Processing Unit)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、マイコン、FPGA(Field Programmable Gate Array)及びDSP(Digital Signal Processor)等のいずれかを含む。記憶媒体には、メモリ等の主記憶装置に加え、補助記憶装置が含まれ得る。記憶媒体としては、磁気ディスク、光ディスク(CD-ROM、CD-R、DVD等)、光磁気ディスク(MO等)、及び、半導体メモリ等が挙げられる。電池管理部7では、プロセッサ及び記憶媒体のそれぞれは、1つであってもよく、複数であってもよい。電池管理部7では、プロセッサは、記憶媒体等に記憶されるプログラム等を実行することにより、処理を行う。また、電池管理部7では、プロセッサによって実行されるプログラムは、インターネット等のネットワークを介して接続されたコンピュータ(サーバ)、又は、クラウド環境のサーバ等に格納されてもよい。この場合、プロセッサは、ネットワーク経由でプログラムをダウンロードする。
【0035】
診断装置3は、電池5の劣化等について診断する。このため、電池5は、診断装置3による診断対象となる。
図7等の一例では、診断装置3は、電池搭載機器2の外部に設けられる。診断装置3は、通信部11、周波数特性計測部12、抵抗算出部13、電極電位算出部15及びデータ記憶部16を備える。診断装置3は、例えば、電池管理部7とネットワークを介して通信可能なサーバである。この場合、診断装置3は、電池管理部7と同様に、プロセッサ及び記憶媒体を備える。そして、通信部11、周波数特性計測部12、抵抗算出部13及び電極電位算出部15は、診断装置3のプロセッサ等によって行われる処理の一部を実施し、診断装置3の記憶媒体が、データ記憶部16として機能する。
【0036】
なお、ある一例では、診断装置3は、クラウド環境に構成されるクラウドサーバであってもよい。クラウド環境のインフラは、仮想CPU等の仮想プロセッサ及びクラウドメモリによって、構成される。このため、診断装置3がクラウドサーバである場合、仮想プロセッサによって行われる処理の一部を、通信部11、周波数特性計測部12、抵抗算出部13及び電極電位算出部15が実施する。そして、クラウドメモリが、データ記憶部16として機能する。
【0037】
また、データ記憶部16は、電池管理部7及び診断装置3とは別のコンピュータに設けられてもよい。この場合、診断装置3は、データ記憶部16等が設けられるコンピュータに、ネットワークを介して接続される。また、診断装置3が、電池搭載機器2に搭載されてもよい。この場合、診断装置3は、電池搭載機器2に搭載される処理装置等から構成される。また、診断装置3が電池搭載機器2に搭載される場合、電池搭載機器2に搭載される1つの処理装置等が、後述する診断装置3の処理を行うとともに、電池5の充電及び放電の制御等の電池管理部7の処理を行ってもよい。以下、診断装置3の処理について説明する。
【0038】
通信部11は、ネットワークを介して、診断装置3以外の処理装置等と通信する。通信部11は、例えば、電池5に関連する前述のパラメータの計測回路6での計測結果を含む計測データを、電池管理部7から受信する。計測データは、計測回路6での計測結果等に基づいて、電池管理部7等によって生成される。計測データは、電池5に関連するパラメータの計測値を含む。また、電池5に関連するパラメータについて複数の計測時点のそれぞれで計測が行われた場合、計測データは、複数の計測時点のそれぞれでの電池5に関連するパラメータの計測値、及び、電池5に関連するパラメータの時間変化(時間履歴)を含む。したがって、計測データには、電池5の電流の時間変化(時間履歴)、及び、電池5の電圧の時間変化(時間履歴)が含まれる。通信部11は、受信した計測データを、データ記憶部16に書込む。
【0039】
電池管理部7及び診断装置3のプロセッサの少なくとも一方は、電池5に関連するパラメータの計測回路6での計測結果等に基づいて、電池5の電荷量(充電量)及びSOCを推定する。そして、診断装置3は、電池5の充電量及びSOCのそれぞれについて、推定値及び推定値の時間変化(時間履歴)を、前述の計測データに含まれるデータとして取得する。リアルタイムでの電池5の充電量は、前述のようにして算出される。そして、電池5のSOCは、前述のように規定され、リアルタイムでの電池5のSOCは、前述のようにして算出される。
【0040】
周波数特性計測部12は、通信部11が受信した計測データ等に基づいて、判定対象となる電池5のインピーダンスを計測する。周波数特性計測部12による電池5のインピーダンスの計測においては、電池管理部7等は、周期的に電流値が変化する電流波形で電池5に電流を流す。
図8は、第1の実施形態に係る電池のインピーダンスの計測において電池に流す電流の一例を示すグラフである。
図9は、第1の実施形態に係る電池のインピーダンスの計測において電池に流す電流の
図8とは別の一例を示すグラフである。
図8及び
図9では、横軸は時間tを示し、縦軸は電流Iを示す。
【0041】
図8の一例では、電池5のインピーダンスの計測において、電池管理部7等は、流れる方向が周期的に変化する電流波形の交流電流Ia(t)を、電池5に入力する。一方、
図9の一例では、交流電流の電流波形を直流電流の基準電流軌跡Ibref(t)に重畳させた重畳電流Ib(t)を、電池5に入力する。電池5に入力される重畳電流Ib(t)では、基準電流軌跡Ibref(t)を中心として、電流値が周期的に変化する。また、重畳電流Ib(t)は、流れる方向が変化しない直流電流である。基準電流軌跡Ibref(t)は、例えば、電池5の充電等において充電条件として設定される充電電流の時間変化の軌跡である。
【0042】
ある一例では、電池5のインピーダンスの計測は、電池5の充電(電池5のSOCの調整)と並行して行われる。この場合、
図9の一例の重畳電流Ib(t)等と同様に、充電電流の時間変化の軌跡として設定される直流電流の基準電流軌跡に交流電流の電流波形を重畳した重畳電流が、電池5に入力される。そして、重畳電流は、充電における基準電流軌跡を中心として周期的に電流値が変化する直流電流となる。充電における基準電流軌跡では、充電電流の電流値が経時的に一定であってもよく、充電電流の電流値が経時的変化してもよい。また、
図8の交流電流Ia(t)の電流波形、及び、
図9の重畳電流Ib(t)の電流波形のそれぞれは正弦波(sin波)であるが、交流電流及び重畳電流のそれぞれの電流波形は、三角波及び鋸波等の正弦波以外の電流波形であってもよい。
【0043】
計測回路6は、前述のように周期的に電流値が変化する電流波形で電池5に電流を入力している状態において、電池5の電流及び電圧のそれぞれを、複数の計測時点で計測する。そして、診断装置3の通信部11は、周期的に電流値が変化する電流波形で電池5に電流を入力している状態での電池5の電流及び電圧のそれぞれの計測結果等を、前述の計測データとして、受信する。周期的に電流値が変化する電流波形で電池5に電流を流している状態での電池5の電流及び電圧のそれぞれの計測結果には、複数の計測時点のそれぞれでの電池5の電流及び電圧のそれぞれの計測値、及び、電池5の電流及び電圧のそれぞれの時間変化(時間履歴)等が、含まれる。
【0044】
周波数特性計測部12は、通信部11が受信した計測結果に基づいて、電池5のインピーダンスの周波数特性を算出する。したがって、周期的に電流値が変化する電流波形で電池5に電流を流すことにより、電池5のインピーダンスの周波数特性が計測される。ある一例では、周波数特性計測部12は、電池5の電流の時間変化に基づいて、電池5の電流の周期的な変化におけるピーク-ピーク値(変動幅)を算出し、電池5の電圧の時間変化に基づいて、電池5の電圧の周期的な変化におけるピーク-ピーク値(変動幅)を算出する。そして、周波数特性計測部12は、電流のピーク-ピーク値に対する電圧のピーク-ピーク値の比率から、電池5のインピーダンスを算出する。
【0045】
電池管理部7等は、電池5のインピーダンスの周波数特性の計測において、所定の周波数範囲内で、電池5に入力させる電流の電流波形の周波数を変化させる。そして、通信部11は、所定の周波数範囲内の複数の周波数のそれぞれで電流を電池5に入力している状態での電池5の電流及び電圧のそれぞれの計測結果を、計測データとして受信する。そして、周波数特性計測部12は、計測データに基づいて、所定の周波数範囲内の複数の周波数のそれぞれで電流を電池5に入力している状態について、前述のようにし電池5のインピーダンスを算出する。これにより、周波数特性計測部12は、互いに対して異なる複数(多数)の周波数のそれぞれでの電池5のインピーダンスを計測し、電池5のインピーダンス特性を計測する。例えば、0.01mHz以上10MHz以下の範囲内の複数の周波数のそれぞれで電池5のインピーダンスを計測し、電池5のインピーダンス特性を計測する。
【0046】
また、別のある一例では、電池管理部7等は、基準周波数の電流波形で電池5に電流を流し、電池5の電流及び電圧のそれぞれの時間変化を、診断装置3が計測データとして取得する。そして、周波数特性計測部12は、電池5の電流及び電圧のそれぞれの時間変化をフーリエ変換する等して、電池5の電流及び電圧のそれぞれの周波数特性として、電池5の電流及び電圧のそれぞれの周波数スペクトル等を算出する。算出された電池5の電流及び電圧のそれぞれの周波数スペクトルでは、前述の基準周波数の成分に加え、基準周波数の整数倍の成分が示される。そして、周波数特性計測部12は、電池5の電流及び電圧のそれぞれの周波数特性に基づいて、電池5の電流の時間変化の自己相関関数、及び、電池5の電流の時間変化と電池5の電圧の時間変化との相互相関関数を算出する。そして、周波数特性計測部12は、自己相関関数及び相互相関関数を用いて、電池5のインピーダンスの周波数特性を算出する。電池5のインピーダンスの周波数特性は、例えば、相互相関関数を自己相関関数で除算することにより、算出する。
【0047】
周波数特性計測部12は、電池5のインピーダンスの周波数特性の計測結果として、例えば、インピーダンスの複素インピーダンスプロット(Cole-Coleプロット)を取得する。複素インピーダンスプロットでは、複数(多数)の周波数のそれぞれについて、電池5のインピーダンスが示される。そして、複素インピーダンスプロットでは、複数の周波数のそれぞれについて、電池5のインピーダンスの実数成分及び虚数成分が示される。なお、周期的に電流値が変化する電流波形で電池に電流を入力することにより電池のインピーダンスの周波数特性を計測する方法、及び、電池のインピーダンスの周波数特性の計測結果である複素インピーダンスプロット等は、非特許文献1(J. P. Schmidt et al., “Studies on LiFePO4 as cathode materials using impedance spectrometry” Journal of power Sources. 196, (2011), pp5342-pp5348)等に示される。
【0048】
周波数特性計測部12は、電池5の複数のSOC値のそれぞれについて、前述のようにして電池5のインピーダンスの周波数特性を計測する。この際、電池管理部7等によって電池5を充電する等して、インピーダンスの周波数特性の計測対象となるSOC値のそれぞれへ、電池5のSOCを調整する。
図10は、第1の実施形態において、複数のSOC値のそれぞれについて電池のインピーダンスの周波数特性を計測する際の、電池の電圧の時間変化の一例を示すグラフである。
図10では、横軸が時間tを示し、縦軸が電池5の電圧Vを示す。
図10の一例では、電池5の電圧Vを下限電圧Vminに調整してから、すなわち、電池5のSOC値を0に調整してから、電圧Vが下限電圧Vminの状態における電池5のインピーダンスの周波数特性を計測する。
【0049】
そして、下限電圧Vminから電池5を充電しながら、インピーダンスの周波数特性の計測対象となる複数のSOC値のそれぞれへ電池5のSOCを調整し、計測対象となるSOC値のそれぞれについて、電池5のインピーダンスの周波数特性を計測する。この際、インピーダンスの周波数特性の計測対象となる電池5の複数のSOC値の間隔は、等間隔であってもよく、等間隔でなくてもよい。そして、電圧Vが上限電圧Vmaxになると、電圧Vが上限電圧Vmaxの状態(SOC値が1の状態)における電池5のインピーダンスの周波数特性を計測し、電池5の充電を終了する。
【0050】
ある一例では、計測対象のなるSOC値のそれぞれに電池5のSOCを充電等によって調整してから、
図8の一例と同様の交流電流を電池5に入力し、計測対象となるSOC値のそれぞれについて、電池5のインピーダンスの周波数特性を計測する。別のある一例では、
図9の一例と同様の重畳電流を電池5に入力し、電池5を充電しながら、計測対象となるSOC値のそれぞれについて、電池5のインピーダンスの周波数特性を計測する。周波数特性計測部12は、複数のSOC値のそれぞれにおける電池5のインピーダンスの周波数特性の計測結果を、データ記憶部16に書込む。この際、計測対象となったSOC値のそれぞれが、そのSOC値でのインピーダンスの周波数特性の計測結果と関連付けられた状態で、データ記憶部16に記憶される。
【0051】
抵抗算出部13は、電池5のインピーダンスの周波数特性の計測結果に基づいて、すなわち、複数の周波数のそれぞれでの電池5のインピーダンスの計測結果に基づいて、電池5のインピーダンスの抵抗成分を算出する。電池5のインピーダンスの抵抗成分は、インピーダンスの周波数特性が計測された複数のSOC値のそれぞれについて、算出される。抵抗算出部13は、インピーダンスの周波数特性が計測された複数のSOC値のそれぞれについて、第1の電極の電荷移動抵抗Rc1、及び、第2の電極の電荷移動抵抗Rc2を、電池5のインピーダンスの抵抗成分として算出する。ここで、データ記憶部16には、第1の電極の電荷移動インピーダンスの頂点周波数F1に関する情報が、記憶される。頂点周波数F1に関する情報では、例えば、頂点周波数F1について代表値等の値、及び、電池5のSOCを用いて頂点周波数F1を導出する演算式等のいずれかが、示される。抵抗算出部13は、データ記憶部16から頂点周波数F1に関する情報を読取ることにより、インピーダンスの周波数特性の計測対象となった複数のSOC値のそれぞれに関して、電荷移動抵抗Rc1,Rc2の算出に用いる頂点周波数F1の値を取得する。
【0052】
ある一例では、電池5のSOCと頂点周波数F1との関係を示す関係式等がデータ記憶部16に記憶される。そして、抵抗算出部13は、インピーダンスの周波数特性の計測対象となった複数のSOC値のそれぞれに関して、そのSOC値を前述の関係式に代入する等して、頂点周波数F1を算出する。そして、周波数特性の計測対象となった複数のSOC値のそれぞれについて、関係式によって算出した頂点周波数F1の値を用いて、電荷移動抵抗Rc1,Rc2等を算出する。
【0053】
また、前述のように、第1の電極の電荷移動インピーダンスの頂点周波数F1は、電池5のSOCが変化しても、変化しない、又は、ほとんど変化しない。このため、別のある一例では、頂点周波数F1の代表値(固定値)が、データ記憶部16に記憶される。そして、周波数特性の計測対象となった複数のSOC値のそれぞれについて、代表値を頂点周波数F1の値として用いて、電荷移動抵抗Rc1,Rc2等を算出する。
【0054】
なお、データ記憶部16に記憶され、頂点周波数F1について代表値等の値、及び、電池5のSOCと頂点周波数F1との関係を示す関係式等は、第1の電極(正極及び負極の対応する一方)のみを備えるハーフセルを用いた実験における実験データ等から取得可能である。ここで、ハーフセルには作用極に第1の電極、参照極及び対極に金属リチウムを用いる三極式セル、作用極に第1の電極、対極に金属リチウムを用いる二極式セルを用いることができるが、これらに限定されない。また、ハーフセルは、診断対象となる電池5とは異なり、ハーフセルを用いて頂点周波数F1に関する情報を取得した後、診断対象となる電池5について、前述のようにしてインピーダンスの周波数特性を計測する。なお、ハーフセルについても、電池5と同様にして、インピーダンスの周波数特性を計測可能である。そして、ハーフセルのインピーダンスの周波数特性について計測したデータを解析することにより、第1の電極の頂点周波数F1を取得可能となる。
【0055】
データ記憶部16には、電池5の等価回路に関する情報を含む等価回路モデルが、記憶される。等価回路モデルの等価回路では、電池5のインピーダンス成分に対応する複数の電気特性パラメータ(回路定数)が設定される。等価回路において設定される電気特性パラメータには、前述した電荷移動抵抗Rci(i=1,2)が含まれるとともに、回路素子となるCPEQiの電気特性パラメータとして、前述のキャパシタンスCi及びデバイの経験パラメータαiが含まれる。また、等価回路では、電荷移動抵抗Rci以外の抵抗、キャパシタンスCi以外のキャパシタンス、インダクタンス、電荷移動インピーダンス以外のインピーダンス、デバイの経験パラメータαi以外のパラメータ等のいずれかが、電気特性パラメータとして設定されてもよい。
【0056】
また、データ記憶部16に記憶される等価回路モデルには、頂点周波数F1,F2のそれぞれと等価回路の電気特性パラメータとの関係を示すデータ、及び、等価回路の電気特性パラメータと電池5のインピーダンスとの関係を示すデータ等が、含まれる。頂点周波数F1,F2のそれぞれと等価回路の電気特性パラメータとの関係を示すデータでは、第1の電極の電荷移動インピーダンスのインピーダンス成分に対応する電気特性パラメータから頂点周波数F1を算出する演算式、及び、第2の電極の電荷移動インピーダンスのインピーダンス成分に対応する電気特性パラメータから頂点周波数F2を算出する演算式が示され、例えば、前述の式(2)の関係が示される。電気特性パラメータと電池5のインピーダンスとの関係を示すデータでは、例えば、電気特性パラメータ(回路定数)からインピーダンスの実数成分及び虚数成分のそれぞれを算出する演算式等が、示される。この場合、演算式では、電気特性パラメータ及び周波数等を用いて、電池5のインピーダンスの実数成分及び虚数成分のそれぞれが、算出される。
【0057】
抵抗算出部13は、インピーダンスの周波数特性を計測した複数のSOC値のそれぞれに関して、等価回路モデルを用いて、以下のようにして電荷移動抵抗Rc1,Rc2を算出する。すなわち、複数のSOC値のそれぞれでの電荷移動抵抗Rciの算出において、抵抗算出部13は、等価回路を含む等価回路モデル、及び、複数の周波数のそれぞれにおける電池5のインピーダンスの計測結果を用いて、フィッティング計算を行う。この際、等価回路の電気特性パラメータを変数としてフィッティング計算を行い、変数となる電気特性パラメータを算出する。また、フィッティング計算では、例えば、インピーダンスが計測された周波数のそれぞれにおいて、等価回路モデルに含まれる演算式を用いたインピーダンスの算出結果とインピーダンスの計測結果との差が可能な限り小さくなる状態に、変数となる電気特性パラメータの値を決定する。また、フィッティング計算では、頂点周波数F1として、頂点周波数F1に関する前述の情報に基づいて取得した値を代入して、演算を行う。フィッティング計算では、頂点周波数F1に対して、前述の代入した値へ固定する等式等の制約条件が与えられることが、好ましい。
【0058】
前述のようにフィッティング計算が行われることにより、第1の電極及び第2の電極のそれぞれの電荷移動インピーダンスのインピーダンス成分に対応する電気特性パラメータが、算出される。これにより、第1の電極及び第2の電極の電荷移動抵抗Rciが算出されるとともに、キャパシタンスCi及びデバイの経験パラメータαiが算出される。また、抵抗算出部13は、電池5のインピーダンスの周波数特性を計測した複数のSOC値のそれぞれについて、前述した第2の電極の頂点周波数F2を算出する。頂点周波数F2は、算出した電荷移動抵抗Rc2、キャパシタンスC2及びデバイの経験パラメータα2を、前述した式(2)に代入する等して算出される。なお、電池の等価回路等は、非特許文献1に示される。また、電池のインピーダンスの周波数特性についての計測結果、及び、電池の等価回路モデルを用いてフィッティング計算を行い、等価回路の電気特性パラメータ(回路定数)を算出する方法等も、非特許文献1に示される。
【0059】
図11は、第1の実施形態においてフィッティング計算に用いられる電池の等価回路の一例を概略的に示す回路図である。
図11の一例の等価回路では、抵抗Ro1,Ro2,Rc1,Rc2,Rc3、キャパシタンスC1,C2,C3、インダクタンスL1、インピーダンスZw1,Zw2及びデバイの経験パラメータα1,α2,α3が、電池5のインピーダンス成分に対応する電気特性パラメータとして設定される。ここで、抵抗Ro1,Ro2は、オーミック抵抗となる抵抗成分に対応し、インダクタンスL1は、電池5のインダクタンス成分に対応し、インピーダンスZw1,Zw2は、ワーブルグインピーダンスとなるインピーダンス成分に対応する。また、抵抗Rc3は、反応等によって正極又は負極に形成される被膜の被膜抵抗に対応し、抵抗Rc3、キャパシタンスC3及びデバイの経験パラメータα3は、被膜抵抗を含む被膜に起因するインピーダンスに対応する。キャパシタンスC3及びデバイの経験パラメータα3は、CPEQ3の電気特性パラメータとなる。
【0060】
また、
図11の一例の等価回路でも、前述のように第1の電極の電荷移動インピーダンスのインピーダンス成分に対応する電気特性パラメータとして、抵抗(電荷移動抵抗)Rc1、キャパシタンスC1及びデバイの経験パラメータα1が設定され、キャパシタンスC1及びデバイの経験パラメータα1は、CPEQ1の電気特性パラメータとなる。そして、
図11の一例の等価回路でも、前述のように第2の電極の電荷移動インピーダンスのインピーダンス成分に対応する電気特性パラメータとして、抵抗(電荷移動抵抗)Rc2、キャパシタンスC2及びデバイの経験パラメータα2が設定され、キャパシタンスC2及びデバイの経験パラメータα2は、CPEQ2の電気特性パラメータとなる。フィッティング計算によって前述のようにして
図11の一例の等価回路の電気特性パラメータを算出することにより、抵抗Rc1が第1の電極の電荷移動抵抗として算出され、抵抗Rc2が第2の電極の電荷移動抵抗として算出される。そして、抵抗Rc2、キャパシタンスC2及びデバイの経験パラメータα2の算出結果を用いて、第2の電極の電荷移動インピーダンスの頂点周波数F2が、前述のようにして算出される。
【0061】
抵抗算出部13は、電池5のインピーダンスの周波数特性を計測した複数のSOC値のそれぞれについて第2の電極の電荷移動抵抗Rc2を算出することにより、電荷移動抵抗Rc2と電池5のSOCとの関係を取得する。電荷移動抵抗Rc2と電池5のSOCとの関係は、例えば、横軸を電池5のSOCとし、かつ、縦軸を電荷移動抵抗Rc2とするグラフにおいて、曲線等で示される。電荷移動抵抗Rc2と電池5のSOCとの関係を示す曲線等は、前述したグラフにおいて、複数のSOC値のそれぞれでの電荷移動抵抗Rc2を示す点をプロットし、プロットされた点を用いてフィッティング計算を行うことにより、取得される。ある一例では、フィッティング計算において、電荷移動抵抗Rc2を導出するモデル式として、電池5のSOCと電荷移動抵抗Rc2との関係を示す二次関数及び三次関数等の関数式が用いられる。別のある一例では、フィッティング計算において、スプライン補間等の補間が行われる。
【0062】
また、抵抗算出部13は、電池5のインピーダンスの周波数特性を計測した複数のSOC値のそれぞれについて第2の電極の電荷移動インピーダンスの頂点周波数F2を算出することにより、頂点周波数F2と電池5のSOCとの関係を取得する。頂点周波数F2と電池5のSOCとの関係は、例えば、横軸を電池5のSOCとし、かつ、縦軸を頂点周波数F2とするグラフにおいて、曲線等で示される。頂点周波数F2と電池5のSOCとの関係を示す曲線等は、前述したグラフにおいて、複数のSOC値のそれぞれでの頂点周波数F2を示す点をプロットし、プロットされた点を用いてフィッティング計算を行うことにより、取得される。フィッティング計算は、電荷移動抵抗Rc2と電池5のSOCとの関係を示す曲線の導出におけるフィッティング計算と同様にして、行われる。なお、抵抗算出部13では、電荷移動抵抗Rc2及び頂点周波数F2の少なくとも一方と電池5のSOCとの関係が取得されればよい。抵抗算出部13は、電荷移動抵抗Rc2及び頂点周波数F2の少なくとも一方と電池5のSOCとの関係との取得結果を、データ記憶部16に書込む。
【0063】
抵抗算出部13は、電荷移動抵抗Rc2及び頂点周波数F2の少なくとも一方と電池5のSOCとの関係との算出結果に基づいて、第2の電極の頂点周波数F2が最大となる電池5のSOC値を特定する。頂点周波数F2が最大となる電池5のSOC値は、第2の電極の電荷移動抵抗Rc2が最小となる電池5のSOC値に相当する。
図12は、第1の実施形態において取得される、第2の電極の電荷移動抵抗と電池のSOCとの関係の一例を示すグラフである。
図13は、
図12の一例の関係が取得される場合における、第2の電極の電荷移動インピーダンスの頂点周波数と電池のSOCとの関係を示すグラフである。
図12及び
図13では、横軸が電池5のSOCをパーセント表示で示す。そして、
図12では、縦軸が第2の電極の電荷移動抵抗Rc2を示し、
図13では、縦軸が第2の電極の頂点周波数F2を示す。
【0064】
図12及び
図13の一例では、SOC値が0以上1以下の範囲において電池5のSOC換算で0.1(10%)の間隔で、電池5のインピーダンスの周波数特性が計測される。そして、インピーダンスの周波数特性が計測された複数のSOC値のそれぞれについて、第2の電極の電荷移動抵抗Rc2及び頂点周波数F2が前述のようにして算出される。インピーダンスの周波数特性が計測された複数のSOC値のそれぞれについては、電荷移動抵抗Rc2の算出結果が、
図12において黒塗りの点で示され、頂点周波数F2の算出結果が、
図13において黒塗りの点で示される。また、複数のSOC値のそれぞれについての電荷移動抵抗Rc2の算出結果を用いてフィッティング計算を行うことにより、
図12に示す曲線が、電荷移動抵抗Rc2と電池5のSOCとの関係として取得される。同様に、複数のSOC値のそれぞれについての頂点周波数F2の算出結果を用いてフィッティング計算を行うことにより、
図13に示す曲線が、頂点周波数F2と電池5のSOCとの関係として取得される。
図12等に示すように、第2の電極の電荷移動抵抗Rc2と電池5のSOCの関係は、電荷移動抵抗Rc2が低い側(下側)へ凸の形状となる。また、
図13等に示すように、第2の電極の電荷移動インピーダンスの頂点周波数F2と電池5のSOCの関係は、頂点周波数F2が高い側(上側)へ凸の形状となる。
図12及び
図13の一例では、抵抗算出部13は、SOC=60%(0.6)を、頂点周波数F2が最大となる電池5のSOC値、すなわち、第2の電極の電荷移動抵抗Rc2が最小となる電池5のSOC値として、特定する。抵抗算出部13は、第2の電極の頂点周波数F2が最大となる電池5のSOC値として特定したSOC値を、データ記憶部16に書込む。
【0065】
電極電位算出部15は、電荷移動抵抗Rc2及び頂点周波数F2の少なくとも一方と電池5のSOCとの関係に基づいて、電極(第1の電極及び第2の電極)のそれぞれの充電状態(ストイキメトリー)及び電位の少なくとも一方と電池5のSOCとのリアルタイムにおける関係を取得する。ある一例では、データ記憶部16に、電荷移動抵抗Rc2及び頂点周波数F2の少なくとも一方と第2の電極のストイキメトリーとの関係を示す情報が記憶され、例えば、
図2に示す関係及び
図5の関係の少なくとも一方が、データ記憶部16に記憶されるデータに含まれる。電極電位算出部15は、電荷移動抵抗Rc2及び頂点周波数F2の少なくとも一方と電池5のSOCとの関係についての取得結果、及び、電荷移動抵抗Rc2及び頂点周波数F2の少なくとも一方と第2の電極のストイキメトリーとの関係に基づいて、第2の電極のストイキメトリー(充電状態)と電池5のSOCとのリアルタイムにおける関係を取得する。この際、インピーダンスの周波数特性を計測した複数のSOC値のそれぞれについて、第2の電極のストイキメトリーの対応値を算出することにより、第2の電極のストイキメトリー(充電状態)と電池5のSOCとの関係が取得される。
【0066】
また、別のある一例では、データ記憶部16に、電荷移動抵抗Rc2及び頂点周波数F2の少なくとも一方と第2の電極の電位との関係を示す情報が、記憶される。電極電位算出部15は、電荷移動抵抗Rc2及び頂点周波数F2の少なくとも一方と電池5のSOCとの関係についての取得結果、及び、電荷移動抵抗Rc2及び頂点周波数F2の少なくとも一方と第2の電極の電位との関係に基づいて、第2の電極の電位と電池5のSOCとのリアルタイムにおける関係を取得する。この際、インピーダンスの周波数特性を計測した複数のSOC値のそれぞれについて、第2の電極の電位の対応値を算出することにより、第2の電極の電位と電池5のSOCとの関係が取得される。また、データ記憶部16には、第2の電極における電位とストイキメトリー(充電状態)との間の前述の所定の関係を示す情報が、記憶される。なお、電荷移動抵抗Rc2及び頂点周波数F2は、第2の電極の充電状態(ストイキメトリ―)、すなわち、第2の電極の電位に対応した値となる。
【0067】
電極電位算出部15は、第2の電極のストイキメトリー及び電位の一方と電池5のSOCとのリアルタイムにおける関係の取得結果、及び、第2の電極における電位とストイキメトリーとの間の前述の所定の関係に基づいて、第2の電極のストイキメトリー及び電位の他方と電池5のSOCとのリアルタイムにおける関係を取得する。この場合、インピーダンスの周波数特性を計測した複数のSOC値のそれぞれについて、第2の電極のストイキメトリーの対応値及び第2の電極の電位の対応値を算出することにより、第2の電極のストイキメトリー及び電位のそれぞれと電池5のSOCとの関係が取得される。なお、電極電位算出部15は、第2の電極のストイキメトリー及び電位の少なくとも一方と電池5のSOCとのリアルタイムにおける関係を取得すればよい。
【0068】
前述のように第2の電極のストイキメトリーと電池5のSOCとの関係が取得されることにより、インピーダンスの周波数特性が計測された複数のSOC値のそれぞれに対応する第2の電極のストイキメトリーの値が、算出される。例えば、電池5のSOC=0(電池5の下限電圧Vmin)の状態に対応する第2の電極のストイキメトリーの値、及び、電池5のSOC=1(電池5の上限電圧Vmax)の状態に対応する第2の電極のストイキメトリーの値が、算出される。電極電位算出部15は、SOC=0(0%)の状態に対応する第2の電極のストイキメトリーの値とSOC=1(100%)の状態に対応する第2の電極のストイキメトリーの値との間の範囲を、第2の電極についてのリアルタイムでの利用可能なストイキメトリー範囲として算出する。
【0069】
同様に、第2の電極の電位と電池5のSOCとの関係が取得されることにより、インピーダンスの周波数特性が計測された複数のSOC値のそれぞれに対応する第2の電極の電位の値が、算出される。例えば、電池5のSOC=0(電池5の下限電圧Vmin)の状態に対応する第2の電極の電位の値、及び、電池5のSOC=1(電池5の上限電圧Vmax)の状態に対応する第2の電極の電位の値が、算出される。電極電位算出部15は、SOC=0(0%)の状態に対応する第2の電極の電位の値とSOC=1(100%)の状態に対応する第2の電極の電位の値との間の範囲を、第2の電極についてのリアルタイムでの利用可能な電位範囲として算出する。
【0070】
また、電極電位算出部15は、第2の電極の電位と電池5のSOCとのリアルタイムにおける関係の取得結果に基づいて、第1の電極の電位と電池5のSOCとのリアルタイムにおける関係を取得する。この際、電池5のインピーダンスの周波数特性を計測した複数のSOC値のそれぞれでの電池5の電圧の計測結果を用いて、演算が行われる。そして、インピーダンスの周波数特性を計測した複数のSOC値のそれぞれについて、電池5の電圧の計測結果、及び、第2の電極の電位の算出結果に基づいて、第1の電極の電位の対応値が算出される。なお、電池モジュール等に設けられる複数の単電池のそれぞれが診断対象の電池5となる場合は、複数の単電池の電圧の平均値を電池5の電圧の計測結果として用いて、インピーダンスの周波数特性を計測した複数のSOC値のそれぞれに対応する第1の電極の電位の値が、算出される。
【0071】
前述のように、第1の電極の電位と電池5のSOCとの関係が取得されることにより、例えば、電池5のSOC=0(電池5の下限電圧Vmin)の状態に対応する第1の電極の電位の値、及び、電池5のSOC=1(電池5の上限電圧Vmax)の状態に対応する第1の電極の電位の値が、算出される。電極電位算出部15は、SOC=0(0%)の状態に対応する第1の電極の電位の値とSOC=1(100%)の状態に対応する第1の電極の電位の値との間の範囲を、第1の電極についてのリアルタイムでの利用可能な電位範囲として算出する。
【0072】
また、データ記憶部16には、第1の電極における電位とストイキメトリー(充電状態)との間の前述の所定の関係を示す情報が、記憶される。電極電位算出部15は、第1の電極の電位と電池5のSOCとのリアルタイムにおける関係の取得結果、及び、第1の電極における電位とストイキメトリーとの間の前述の所定の関係に基づいて、第1の電極のストイキメトリーと電池5のSOCとのリアルタイムにおける関係を取得する。この際、インピーダンスの周波数特性を計測した複数のSOC値のそれぞれについて、第1の電極のストイキメトリーの対応値を算出することにより、第1の電極のストイキメトリー(充電状態)と電池5のSOCとの関係が取得される。
【0073】
前述のように第1の電極のストイキメトリーと電池5のSOCとの関係が取得されることにより、インピーダンスの周波数特性が計測された複数のSOC値のそれぞれに対応する第1の電極のストイキメトリーの値が、算出される。例えば、電池5のSOC=0(電池5の下限電圧Vmin)の状態に対応する第1の電極のストイキメトリーの値、及び、電池5のSOC=1(電池5の上限電圧Vmax)の状態に対応する第1の電極のストイキメトリーの値が、算出される。電極電位算出部15は、SOC=0(0%)の状態に対応する第1の電極のストイキメトリーの値とSOC=1(100%)の状態に対応する第1の電極のストイキメトリーの値との間の範囲を、第1の電極についてのリアルタイムでの利用可能なストイキメトリー範囲として算出する。
【0074】
電極電位算出部15は、前述した演算等による算出結果及び取得結果をデータ記憶部16に書込む。また、診断装置3では、抵抗算出部13及び電極電位算出部15等での演算による算出結果及び取得結果に基づいて、電池5の劣化等について診断される。電池5の劣化等についての診断結果は、データ記憶部16に記憶されてもよい。
【0075】
図14は、第1の実施形態において診断装置によって行われる、電池の診断における処理の一例を概略的に示すフローチャートである。
図14の処理を開始すると、周波数特性計測部12は、複数のSOC値のそれぞれについて、前述のようにして電池5のインピーダンスの周波数特性を計測する(S51)。この際、交流電流又は前述の重畳電流を電池5に入力し、計測対象となるSOC値のそれぞれについて、電池5のインピーダンスの周波数特性を計測する。そして、抵抗算出部13は、データ記憶部16に記憶された情報等から、第1の電極の電荷移動インピーダンスの頂点周波数F1の値を、演算に用いる値として取得する(S52)。そして、抵抗算出部13は、インピーダンスの周波数特性を計測した複数のSOC値のそれぞれについて、電池5のインピーダンスの周波数特性の計測結果、及び、等価回路モデルを用いて前述のようにフィッティング計算を行うことにより、等価回路の電気特性パラメータを算出する(S53)。この際、等価回路の電気特性パラメータを変数とし、かつ、S52で取得した頂点周波数F1の値を用いて、フィッティング計算を行う。
【0076】
そして、抵抗算出部13は、インピーダンスの周波数特性を計測した複数のSOC値のそれぞれについて、等価回路の電気特性パラメータについての算出結果に基づいて、第2の電極の電荷移動抵抗Rc2及び第2の電極の電荷移動インピーダンスの頂点周波数F2の少なくとも一方を算出する(S54)。そして、抵抗算出部13は、複数のSOC値のそれぞれでの電荷移動抵抗Rc2及び頂点周波数F2の少なくとも一方の算出結果から、前述のようにして、電荷移動抵抗Rc2及び頂点周波数F2の少なくとも一方と電池5のSOCとのリアルタイムにおける関係を取得する(S55)。そして、抵抗算出部13は、電荷移動抵抗Rc2及び頂点周波数F2の少なくとも一方と電池5のSOCとの関係から、第2の電極の頂点周波数F2が最大となる電池5のSOC値、すなわち、第2の電極の電荷移動抵抗Rc2が最小となる電池5のSOC値を特定する(S56)。
【0077】
そして、電極電位算出部15は、電荷移動抵抗Rc2及び頂点周波数F2の少なくとも一方と電池5のSOCとの関係についての取得結果に基づいて、前述のようにして、電池5のSOCと第2の電極のストイキメトリー(充電状態)及び電位の少なくとも一方との関係を取得する(S57)。そして、電極電位算出部15は、電池5のSOCと第2の電極のストイキメトリー及び電位の少なくとも一方との関係等に基づいて、第2の電極について、利用可能なストイキメトリー範囲及び利用可能な電位範囲の少なくとも一方を算出する(S58)。また、電極電位算出部15は、電池5のSOCと第2の電極のストイキメトリー及び電位の少なくとも一方との関係、及び、電池5の電圧についての計測結果等に基づいて、電池5のSOCと第1の電極のストイキメトリー及び電位の少なくとも一方との関係を取得する(S59)。そして、電極電位算出部15は、電池5のSOCと第1の電極のストイキメトリー及び電位の少なくとも一方との関係等に基づいて、第1の電極について、利用可能なストイキメトリー範囲及び利用可能な電位範囲の少なくとも一方を算出する(S60)。
【0078】
前述のように、本実施形態では、二相共存反応をする第1の電極活物質を含む第1の電極、及び、単一相反応をする第2の電極活物質を含む第1の電極とは反対の極性の第2の電極を備える電池5が、診断対象となる。そして、電池5の診断では、第2の電極の電荷移動抵抗及び頂点周波数の少なくとも一方と電池5のSOCとの関係が、前述のようにして取得される。第2の電極の電荷移動抵抗及び頂点周波数の少なくとも一方と電池5のSOCとのリアルタイムにおける関係が取得されることにより、取得された関係を用いて、第1の電極及び第2の電極のそれぞれのストイキメトリー(充電状態)及び電位と電池5のSOCとのリアルタイムにおける関係を、前述のようにして適切に推定可能となる。
【0079】
また、第1の電極及び第2の電極のそれぞれのストイキメトリー(充電状態)及び電位と電池5のSOCとのリアルタイムにおける関係が適切に推定されることにより、電池5の劣化等についての診断における精度が向上する。また、第1の電極及び第2の電極のそれぞれのストイキメトリー(充電状態)及び電位と電池5のSOCとのリアルタイムにおける関係が適切に推定されることにより、適切に推定された関係に基づいた電池5の運用条件で電池5を充放電可能となる。これにより、電池5において、第1の電極及び第2の電極のそれぞれの過充電及び過放電等が、有効に防止される。
【0080】
(第2の実施形態)
次に、第1の実施形態の変形例として第2の実施形態について説明する。第2の実施形態では、電池5の使用開始時等の第1の時間、及び、第1の時間より後の第2の時間のそれぞれについて、抵抗算出部13は、第2の電極の電荷移動抵抗Rc2及び頂点周波数F2の少なくとも一方と電池5のSOCとの関係を、前述のようにして取得する。そして、第1の時間及び第2の時間のそれぞれについて、第2の電極の頂点周波数F2が最大となる電池5のSOC値、すなわち、第2の電極の電荷移動抵抗Rc2が最小となる電池5のSOC値を、前述のようにして特定する。本実施形態では、電極電位算出部15は、第2の電極の頂点周波数F2が最大となる電池5のSOC値に関して、第1の時間についての特定結果と第2の時間についての特定結果とを比較することにより、第1の時間での第2の電極のストイキメトリーに対する第2の時間での第2の電極のストイキメトリーのずれを算出する。
【0081】
ここで、劣化の程度にもよるが、通常の使用条件の場合、電池5が劣化しても、第2の電極の頂点周波数F2と第2の電極のストイキメトリーとの関係は、変化しない又はほとんど変化しない。このため、第2の電極の頂点周波数F2が最大となる電池5のSOC値に関して第1の時間についての特定結果と第2の時間についての特定結果を比較することで、第1の時間に対する第2の時間での第2の電極のストイキメトリーのずれが、算出可能である。
【0082】
図15は、第2の実施形態において取得される、第1の時間及び第1の時間より後の第2の時間のそれぞれでの第2の電極の電荷移動抵抗と電池のSOCとの関係の一例を示すグラフである。
図16は、
図15の一例の関係が取得される場合における、第1の時間及び第2の時間のそれぞれでの第2の電極の電荷移動インピーダンスの頂点周波数と電池のSOCとの関係を示すグラフである。
図15及び
図16では、横軸が電池5のSOCをパーセント表示で示す。そして、
図15では、縦軸が第2の電極の電荷移動抵抗Rc2を示し、
図16では、縦軸が第2の電極の頂点周波数F2を示す。また、
図15及び
図16では、第1の時間での関係が実線で示され、第2の時間での関係が破線で示される。
【0083】
図15及び
図16の一例では、第1の時間及び第2の時間のそれぞれにおいて、複数のSOC値のそれぞれでの電池5のインピーダンスの周波数特性が計測される。第1の時間及び第2の時間のそれぞれでは、SOC値が0以上1以下の範囲において電池5のSOC換算で0.1(10%)の間隔で、電池5のインピーダンスの周波数特性が計測される。そして、第1の時間及び第2の時間のそれぞれについて、インピーダンスの周波数特性が計測された複数のSOC値のそれぞれにおける第2の電極の電荷移動抵抗Rc2及び頂点周波数F2が、前述のようにして算出される。
【0084】
図15及び
図16の一例では、第1の時間での電荷移動抵抗Rc2と電池5のSOCとの関係において、点Xbで電荷移動抵抗Rc2が最小となり、第1の時間での頂点周波数F2と電池5のSOCとの関係において、点Ybで頂点周波数F2が最大となる。このため、抵抗算出部13は、SOC=60%(0.6)を、第1の時間において頂点周波数F2が最大となる(電荷移動抵抗Rc2が最小となる)電池5のSOC値として、特定する。また、
図15及び
図16の一例では、第2の時間での電荷移動抵抗Rc2と電池5のSOCとの関係において、点Xaで電荷移動抵抗Rc2が最小となり、第2の時間での頂点周波数F2と電池5のSOCとの関係において、点Yaで頂点周波数F2が最大となる。このため、抵抗算出部13は、SOC=50%(0.5)を、第2の時間において頂点周波数F2が最大となる(電荷移動抵抗Rc2が最小となる)電池5のSOC値として、特定する。
【0085】
図15及び
図16の一例では、電荷移動抵抗Rc2が最小となる電池5のSOC値、すなわち、頂点周波数F2が最大となる電池5のSOC値が、第1の時間に比べて第2の時間で10%(0.1)程度低いことが、算出される。このため、第2の時間での第2の電極のストイキメトリーが、第1の時間での第2の電極のストイキメトリーに対して、電池5のSOCが互いに対して同一の条件下で比較して高電位側に、電池5のSOC換算で10%程度ずれていることが、電極電位算出部15によって算出される。したがって、本実施形態では、第2の電極の電荷移動抵抗Rc2及び頂点周波数F2の少なくとも一方と電池5のSOCとの関係について過去のある時点(第1の時間)でのデータとリアルタイム(第2の時間)でのデータとを比較することで、過去のある時点に対する第2の電極のストイキメトリーのずれが算出される。
【0086】
図17は、第2の実施形態において診断装置によって行われる、電池の診断における処理の一例を概略的に示すフローチャートである。
図17の処理は、第2の電極の電荷移動抵抗Rc2及び頂点周波数F2の少なくとも一方と電池5のSOCとの関係についての過去のデータが既に取得されている時点で行われ、例えば、前述の第2の時間において行われる。
図17に示す診断処理においても、
図14の診断処理等と同様に、S51~S56の処理が順次に実施される。
【0087】
S56において、リアルタイムにおいて第2の電極の頂点周波数F2が最大となる電池5のSOC値を抵抗算出部13等が特定すると、電極電位算出部15は、第2の電極の電荷移動抵抗Rc2及び頂点周波数F2の少なくとも一方と電池5のSOCとの関係について、電池5の使用開始時等の過去のデータとリアルタイムでのデータとを比較する(S61)。そして、電極電位算出部15は、過去のデータとリアルタイムでのデータとの比較結果に基づいて、前述のようにして、電池5の使用開始時等の過去のある時点に対するリアルタイムでの第2の電極のストイキメトリーのずれを算出する(S62)。
【0088】
また、本実施形態では、電極電位算出部15は、第1の時間、及び、第1の時間より後の第2の時間のそれぞれについて、第2の電極のストイキメトリー及び電位の少なくとも一方と電池5のSOCとの関係を、取得してもよい。この場合も、第1の実施形態等と同様にして、第2の電極のストイキメトリー及び電位の少なくとも一方と電池5のSOCとの関係が、取得される。そして、電極電位算出部15は、第1の時間及び第2の時間のそれぞれにおける第2の電極のストイキメトリー及び電位の少なくとも一方と電池5のSOCとの関係に基づいて、第1の時間での第2の電極のストイキメトリーに対する第2の時間での第2の電極のストイキメトリーのずれを算出する。第2の電極のストイキメトリーのずれは、例えば、前述のように電池5のSOCに換算して算出される。第2の電極のストイキメトリーのずれの算出においては、第2の電極のストイキメトリー及び電位の少なくとも一方と電池5のSOCとの関係に関して、例えば、第1の時間(過去)のデータと第2の時間(リアルタイム)のデータとが比較される。
【0089】
また、本実施形態では、電極電位算出部15は、第1の時間、及び、第1の時間より後の第2の時間のそれぞれについて、第1の電極のストイキメトリー及び電位の少なくとも一方と電池5のSOCとの関係を、取得してもよい。この場合も、第1の実施形態等と同様にして、第1の電極のストイキメトリー及び電位の少なくとも一方と電池5のSOCとの関係が、取得される。そして、電極電位算出部15は、第1の時間及び第2の時間のそれぞれにおける第1の電極のストイキメトリー及び電位の少なくとも一方と電池5のSOCとの関係に基づいて、第1の時間での第1の電極のストイキメトリーに対する第2の時間での第1の電極のストイキメトリーのずれを算出する。第1の電極のストイキメトリーのずれは、例えば、電池5のSOCに換算して算出される。第1の電極のストイキメトリーのずれの算出においては、第1の電極のストイキメトリー及び電位の少なくとも一方と電池5のSOCとの関係に関して、例えば、第1の時間(過去)のデータと第2の時間(リアルタイム)のデータとが比較される。
【0090】
前述のように本実施形態では、第1の電極及び第2の電極のそれぞれのストイキメトリーについて、電池5の使用開始時等の過去のある時点に対するずれが算出される。電極のそれぞれについてストイキメトリーのずれが適切に算出されることにより、電池5の劣化等についての診断における精度が、さらに向上する。
【0091】
(第3の実施形態)
次に、前述の実施形態等の変形例として第3の実施形態について説明する。第3の実施形態では、計測回路6は、電池5に関連するパラメータとして、電池5の電流及び電圧に加えて、電池5の温度Tを計測する。そして、計測回路6によって計測された計測データには、電池5の温度Tの計測結果、及び、温度Tの時間変化(時間履歴)等が含まれる。本実施形態では、周波数特性計測部12は、計測対象となったSOC値のそれぞれについて、電池5のインピーダンスの周波数特性を計測するとともに、周波数特性の計測時における電池5の温度Tを取得する。このため、計測対象となったSOC値のそれぞれでのインピーダンスの周波数特性の計測結果は、その計測時の電池5の温度Tと関連付けられた状態で、データ記憶部16に記憶される。
【0092】
本実施形態でも、抵抗算出部13は、インピーダンスの周波数特性を計測した複数のSOC値のそれぞれについて、前述のようにして、第2の電極の電荷移動抵抗Rc2及び第2の電極の電荷移動インピーダンスの頂点周波数F2の少なくとも一方を算出する。ただし、本実施形態では、抵抗算出部13は、周波数特性を計測した複数のSOC値のそれぞれについて、電池5の温度Tの計測結果に基づいて、フィッティング計算によって算出された電荷移動抵抗Rc2及び/又は頂点周波数F2を補正する。ある一例では、アレニウスの式に対応する式(3)を用いて、算出された頂点周波数F2が補正される。式(3)では、基準温度T0、計測された温度T、及び、温度Tに対する頂点周波数F2の勾配を示すパラメータEaが、規定される。基準温度T0及びパラメータEaの値等は、データ記憶部16等に記憶される。また、式(3)において、関数F2(T)は、温度Tにおける頂点周波数F2を示し、周波数F2(T0)は、基準温度T0における頂点周波数F2の値を示す。
【0093】
【0094】
電荷移動抵抗Rc2についても、頂点周波数F2と同様にして、温度Tに基づいて補正される。したがって、本実施形態では、抵抗算出部13は、電池5の複数のSOC値のそれぞれに関して、電池5のインピーダンスの周波数特性の計測結果に加えて、電池5の温度Tに基づいて、第2の電極の電荷移動抵抗Rc2及び頂点周波数F2の少なくとも一方を算出する。そして、抵抗算出部13は、温度Tに基づいて補正した電荷移動抵抗Rc2及び頂点周波数F2を用いて、電荷移動抵抗Rc2及び頂点周波数F2の少なくとも一方と電池5のSOCとの関係を取得する。本実施形態でも、電極電位算出部15は、電荷移動抵抗Rc2及び頂点周波数F2の少なくとも一方と電池5のSOCとの関係を用いて、第1の電極及び第2の電極のそれぞれのストイキメトリー及び電位の少なくとも一方と電池5のSOCとの関係の取得等を実行する。
【0095】
図18は、第3の実施形態において診断装置によって行われる、電池の診断における処理の一例を概略的に示すフローチャートである。
図18に示す診断処理を開始すると、
図14の診断処理等と同様に、S51の処理が実施される。そして、S51において、複数のSOC値のそれぞれについて電池5のインピーダンスの周波数特性が計測されると、抵抗算出部13は、周波数特性が計測された複数のSOC値のそれぞれについて、計測時における温度Tを取得する(S63)。そして、
図18に示す診断処理においても、
図14の診断処理等と同様に、S52~S54の処理が順次に実施される。
【0096】
そして、S54において、複数のSOC値のそれぞれについて電荷移動抵抗Rc2及び頂点周波数F2の少なくとも一方が算出されると、抵抗算出部13は、周波数特性を計測した複数のSOC値のそれぞれについて、電池5の温度Tの計測結果に基づいて、フィッティング計算によって算出された電荷移動抵抗Rc2及び/又は頂点周波数F2を補正する(S64)。そして、抵抗算出部13は、温度Tに基づいて補正した電荷移動抵抗Rc2及び頂点周波数F2を用いて、電荷移動抵抗Rc2及び頂点周波数F2の少なくとも一方と電池5のSOCとの関係を取得する(S55)。
図18に示す診断処理においても、
図14の診断処理等と同様に、S55~S60の処理が順次に実施される。
【0097】
本実施形態では、電池5の複数のSOC値のそれぞれに関して、電池5のインピーダンスの周波数特性の計測結果に加えて、電池5の温度Tに基づいて、第2の電極の電荷移動抵抗Rc2及び頂点周波数F2の少なくとも一方が算出される。このため、第2の電極の電荷移動抵抗Rc2及び頂点周波数F2の推定における精度が、向上する。これにより、第1の電極及び第2の電極のそれぞれのストイキメトリー及び電位の少なくとも一方と電池5のSOCとの関係等が、さらに適切に推定され、電池5の劣化等の診断における精度が、さらに向上する。
【0098】
なお、ある一例では、抵抗算出部13は、インピーダンスの周波数特性を計測した複数のSOC値のそれぞれについて、温度Tの計測結果に基づいて、フィッティング計算に用いる頂点周波数F1の値を算出する。この場合、データ記憶部16には、温度Tと頂点周波数F1との関係を示すデータが、記憶される。ある一例では、温度Tと頂点周波数F1との関係を示す式として、前述の式(3)と同様のアレニウスの式に対応する式が記憶される。そして、抵抗算出部13は、温度Tの計測結果、及び、アレニウスの式に対応する式に基づいて、頂点周波数F1の値を補正する。フィッティング計算では、頂点周波数F1として、アレニウスの式に対応する式に基づいて補正した値を代入して、演算が行われる。
【0099】
本一例でも、
図18の一例等と同様に、抵抗算出部13は、電池5の複数のSOC値のそれぞれに関して、電池5のインピーダンスの周波数特性の計測結果に加えて、電池5の温度Tに基づいて、第2の電極の電荷移動抵抗Rc2及び頂点周波数F2の少なくとも一方を算出する。このため、
図18の一例等を含む実施形態と同様の作用及び効果を奏する。
【0100】
(第4の実施形態)
次に、前述の実施形態等の変形例として第4の実施形態について説明する。
図19は、第4の実施形態に係る電池の管理システムを示す概略図である。
図19に示すように、本実施形態では、管理システム1の診断装置3は、通信部11、周波数特性計測部12、抵抗算出部13、電極電位算出部15及びデータ記憶部16に加えて、運用条件設定部17を備える。診断装置3がサーバ等である場合、運用条件設定部17は、診断装置3のプロセッサ等によって行われる処理の一部を実施し、診断装置3がクラウドサーバ等である場合は、運用条件設定部17は、仮想プロセッサ等によって行われる処理の一部を実施する。
【0101】
運用条件設定部17は、第2の電極の電荷移動抵抗Rc2及び頂点周波数F2の少なくとも一方と電池5のSOCとの関係、及び、使用開始時等に対する第2の電極のストイキメトリーずれ等のいずれかを含む電池5の診断結果に基づいて、電池5の充電及び放電等の電池5の運用に関する条件を設定(更新)する。そして、運用条件設定部17は、新たに設定した運用に関する条件に基づいた制御指令を、通信部11を介して、電池管理部7に送信する。そして、電池管理部7は、運用条件設定部17からの制御指令に基づいて、充電及び放電を含む電池5の作動を制御する。これにより、電池5の診断結果に基づいて、電池5の充電及び放電等が制御される。
【0102】
ある一例では、使用開始時に対する第2の電極のストイキメトリーのずれ量に基づいて、Cレート等の電池5に流す電流についての条件が、設定される。この場合、リアルタイムにおける第2の電極のストイキメトリーの使用開始時に対するずれ量が大きいほど、電池5に流す電流についての上限を低く設定する。また、別のある一例では、使用開始時に対する第2の電極のストイキメトリーのずれ量に基づいて、電池5の作動時(充電時及び放電時)における電池5の電圧範囲が、設定される。この場合、リアルタイムにおける第2の電極のストイキメトリーの使用開始時に対するずれ量が大きいほど、電池5の作動時における電池5の電圧範囲を狭く設定する。なお、第1の電極の電位及びストイキメトリーと電池5のSOCとの関係、及び、第1の電極の電位及びストイキメトリーと電池5のSOCとの関係等の取得結果に基づいて、電池5の運用に関する条件が設定されてもよい。
【0103】
図20は、第4の実施形態において診断装置によって行われる、電池の診断における処理の一例を概略的に示すフローチャートである。
図20に示す診断処理を開始すると、
図17の診断処理等と同様に、S51~S56,S61及びS62の処理が順次に実施される。そして、S62において、電池5の使用開始時等の過去のある時点に対するリアルタイムでの第2の電極のストイキメトリーのずれが算出されると、運用条件設定部17は、前述のようにして、電池5の運用条件を設定する(S65)。この際、第2の電極の電荷移動抵抗Rc2及び頂点周波数F2の少なくとも一方と電池5のSOCとの関係、及び、第2の電極のストイキメトリーの使用開始時等に対するずれ等に基づいて、電池5の運用に関する条件が設定される。
【0104】
本実施形態では、第2の電極の電荷移動抵抗Rc2及び頂点周波数F2の少なくとも一方と電池5のSOCとの関係、及び、第2の電極のストイキメトリーの使用開始時等に対するずれ等に基づいて、電池5の充電及び放電等が制御される。このため、電池5のリアルタイムの状態に対応させて、電池5の作動が適切に制御される。
【0105】
前述の少なくとも一つの実施形態又は実施例では、二相共存反応をする第1の電極活物質を含む第1の電極、及び、単一相反応をする第2の電極活物質を含む第1の電極とは反対の極性の第2の電極を備える二次電池について、診断する。そして、二次電池の複数のSOC値のそれぞれについて、二次電池のインピーダンスの計測結果に基づいて第2の電極の電荷移動抵抗及び頂点周波数の少なくとも一方を算出することにより、第2の電極の電荷移動抵抗及び頂点周波数の少なくとも一方と二次電池のSOCとの関係を取得する。これにより、電極の充電状態と二次電池のSOCとのリアルタイムにおける関係を適切に推定可能にする二次電池の診断方法、充放電制御方法、診断装置、管理システム、及び、診断プログラムを提供することができる。
【0106】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。