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特許7574473PTMCに基づく生体吸収性柔軟性エラストマー腸吻合ステント及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-18
(45)【発行日】2024-10-28
(54)【発明の名称】PTMCに基づく生体吸収性柔軟性エラストマー腸吻合ステント及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61L 31/06 20060101AFI20241021BHJP
   A61L 31/12 20060101ALI20241021BHJP
   A61L 31/14 20060101ALI20241021BHJP
   A61L 31/16 20060101ALI20241021BHJP
   A61L 31/04 20060101ALI20241021BHJP
【FI】
A61L31/06
A61L31/12
A61L31/14
A61L31/16
A61L31/04
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2023565596
(86)(22)【出願日】2022-04-25
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2024-04-04
(86)【国際出願番号】 CN2022088873
(87)【国際公開番号】W WO2022228356
(87)【国際公開日】2022-11-03
【審査請求日】2023-11-10
(31)【優先権主張番号】202110487743.6
(32)【優先日】2021-04-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】522426722
【氏名又は名称】国科温州研究院(温州生物材料与工程研究所)
(74)【代理人】
【識別番号】110002262
【氏名又は名称】TRY国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】石 長燦
(72)【発明者】
【氏名】李 徐堅
(72)【発明者】
【氏名】季 志孝
(72)【発明者】
【氏名】潘 ▲る▼▲ち▼
(72)【発明者】
【氏名】楊 嘯
【審査官】長谷川 茜
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2008/0114466(US,A1)
【文献】特開2007-130179(JP,A)
【文献】特表2015-530157(JP,A)
【文献】特表2012-503092(JP,A)
【文献】特表2009-539548(JP,A)
【文献】特表2014-528954(JP,A)
【文献】特表2020-518351(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 15/00-33/18
A61F 2/00- 4/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
PTMCに基づく生体吸収性柔軟性エラストマー腸吻合ステントであって、前記腸吻合ステントPTMCホモポリマー材料を用いて作製され、前記PTMCホモポリマーは高分子医療材料TMCモノマーに対して開環重合の方法を用いて合成されるポリマー材料であり、前記腸吻合ステントの厚さは0.05~0.3mmであり、前記腸吻合ステント内にはさらに植物性セルロース管が設けられ、前記腸吻合ステントは隙間のない嵌着構造であり、内部は植物性セルロース材料の管であり、外部はPTMCホモポリマー材料であることを特徴とするPTMCに基づく生体吸収性柔軟性エラストマー腸吻合ステント。
【請求項2】
前記生体吸収性柔軟性エラストマー腸吻合ステントのPTMCホモポリマー材料にトリクロサン(triclosan、TCS)が担持されることを特徴とする請求項1に記載の生体吸収性柔軟性エラストマー腸吻合ステント。
【請求項3】
PTMCの開環重合であって、TMCモノマーを反応容器に移し、N雰囲気下、触媒Sn(Oct)を無水トルエン溶液に溶解し、ピペットで100ppmを取り出して反応容器に加えて共重合反応させ、プロセス全体で水と酸素がないことを保証し、24時間後に生成物を溶解し、完全に溶解すると、ポリマー溶液を精製し、複数回繰り返し、精製後の共重合体を箱型真空乾燥機の中で48時間乾燥し、次に乾燥キャビネットの中で保管するステップ(1)と、
エレクトロスピニングによる吻合ステントの製造であって、乾燥後のサンプルをCHCl/DMF混合溶液に溶解し、調製した溶液の濃度は5~10.0%であり、混合溶液の0.1~1.0wt%で抗菌剤を加え、混合後に37℃でシェーカーに置いてサンプルが充分に溶解することにより、均一な共溶解紡糸原液を得て、原液を2.5mLの注射器に入れ、当該注射器は内径が0.5mmである1本の金属針を含み、紡糸後のサンプルの厚さは0.2±0.01mmであり、得られた繊維を箱型真空乾燥機の中で室温下でさらに乾燥して、残留した有機溶媒及び水分を除去するステップ(2)とにより製造することを特徴とする請求項1に記載の生体吸収性柔軟性エラストマー腸吻合ステントの製造方法。
【請求項4】
前記ステップ(1)で生成物の溶解の条件はCHCl又はDMF又はTHFで溶解して、シェーカーに置き、シェーカーの温度を37℃と設定することであることを特徴とする請求項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記ステップ(1)で精製の条件はn-ヘキサン又はエタノールで精製し、且つガラス棒で不断に撹拌することであることを特徴とする請求項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記ステップ(2)でCHCl/DMF混合溶液中のCHCl:DMF=1:1であることを特徴とする請求項に記載の製造方法。
【請求項7】
前記ステップ(2)の紡糸ステップは、具体的には、所定のサイズの植物性セルロース管をエレクトロスピニングレセプターに嵌めて紡糸し、パラメータを限定して対応するサイズの管を得ることができることであり、前記針先の押し速度はV=1.0~5.0mL/時間であり、ローラーの回転速度はV=100~500rpmであり、温度T=25~35℃、湿度WET=20~40%であることを特徴とする請求項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、具体的には、高分子材料の技術分野に関し、具体的には、PTMCに基づく生体吸収性柔軟性エラストマー腸吻合ステント及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
消化管の再建・吻合術は腹部外科で最も一般的な手術操作の1つであり、1世紀近くにわたる消化管外科の発展の歩みを見ると、吻合部漏出の発生率は明らかに低下しておらず、これは消化器外科手術の成功を妨げる世界的な難題の1つである。消化管の良性及び悪性腫瘍、消化管穿孔、消化管閉塞、出血、虚血などの腸管病変は、一般的に病変腸管の一部を切除して吻合する必要があり、従来の方法では、手動縫合による吻合が殆どであるが、ここ数十年、管式吻合器による端々若しくは端側吻合、又は直線型切断吻合器(リニアステープラー)による側々吻合が多く行われるようになる。どの吻合方式であろうと、吻合部漏出という致命的な合併症は防げられないのである。
【0003】
現在、国内外の結腸直腸外科医によって一般的に認可及び実施されているのは、一時的なバイパスルート変更手術であり、例えば、一時的な回腸瘻造設又は結腸瘻造設であり、このような付加的な手術は吻合部漏出から起こる合併症を確実に避けられるが、吻合部漏出の発生率を低減できるかどうかについては言及している文献がまだない。しかしながら、ルート変更手術では計画的な二次手術を行って復元させる必要があり、再び復元を行うのは再び消化管の再建と吻合を行うことになるため、依然として吻合部漏出、吻合部狭窄などの関連合併症が発生する可能性はあるが、初回の手術と比べて発生の可能性が低い。吻合部の両端の血液供給が良好で、張力を伴わず突き合わせている場合、吻合部領域における腸管内容物、特に糞便内容物の隔離を実現して、相対的に隔絶している、清潔な局所環境を実現するのは、吻合部漏出や、腹膜炎、腹腔内膿瘍などの合併症を予防するための効果的な方式である。当該方式を実現する上で大きな技術的ボトルネックは理想的な吻合補助材料の取得である。
【0004】
腸管吻合の目的は吻合部の両端の腸管の物理学的、組織学的及び生理学的機能を回復させることである。現在、従来の吻合器の主な問題点は以下を含む。(1)金属吻合器は生分解性ではないため、体内に永続的に留置される。(2)分解性高分子材料吻合器は、創傷組織との機械的適合性が不十分である。(3)吻合器は組織修復の調節機能を備えないため、腸管の正常な機能の回復に対して合理的な調節を行えない。例えば、発明特許CN111449707Aは、ハンドルベースと、伝動アセンブリと、トリガーアセンブリと、キスカットアセンブリとを含む肛門-直腸吻合器を提案し、伝動アセンブリは、ハンドルベースの内部に設けられるボールねじと、ハンドルベースの尾端に設けられ前記ボールねじの尾端に接続される調節機構とを含み、ボールねじの前端にはステイプル当たり座が固定して取り付けられ、トリガーアセンブリは、ハンドルベースに設けられる可動ハンドルと、ボールねじに嵌設されるストレートプッシュロッドとを含み、キスカットアセンブリは、ステイプル押し板と、ステイプルカートリッジハウジングと、ステイプルカートリッジと、環状ナイフとを含む。当該発明ではステイプル押し板、ステイプルカートリッジハウジング及びステイプルカートリッジがいずれも金属材料で作製され、部品は体内で分解できないため、体内に永続的に留置されるか二次手術で取り出すしない。特許CN109480943Aは分解性材料で作製され、ステイプルボディで穿孔して固定する方式を採用し、ステイプルボディの後端にサポートフレームが設計されるが、吻合リングは硬さが高く、弾性がないため、腸管の蠕動にうまく適応できず、明らかな異物感がある。似ているものとして発明特許CN103230265Aがあり、それは分解性材料であるポリグリコール酸、ポリ乳酸を原料とし、消化管の吻合のために利用される。当該吻合器は崩れやすいという特性があるが、腸管組織との機械的適合性はやはり不十分である。理想的な吻合器は次の特徴を備える。(1)腸管内容物を効果的に隔離する。(2)吻合器の埋め込み操作は吻合部の腸壁に対する損傷が小さい。(3)操作が簡単で行いやすい。現在市販されている吻合装置はどれもが上記の要件を同時に満たすことができない。
【0005】
製造の面からみると、ステントは異なる個体に適応するよう異なる長さと直径にして製造され、複雑な保管プロセスは一切不要でなければならない。これらは全て要件を満たしながら、ステントの経済性とアフォーダビリティを保たなければならない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、従来技術の技術上の欠点を解決するために、腸管に適合する弾性を有し、組織修復の調節機能を有し、腸管吻合部の漏出及び他の合併症の発生率を明らかに低減することができる、PTMCに基づく生体吸収性柔軟性エラストマー腸吻合ステント及びその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明が採用する技術的解決手段は次のとおりである。PTMCに基づく生体吸収性柔軟性エラストマー腸吻合ステントであって、前記腸吻合ステントは全体としてPTMCホモポリマー材料を用いて作製され、前記PTMCホモポリマーは高分子医療材料PTMCモノマーに対して開環重合の方法を用いて合成されるポリマー材料であり、前記腸吻合ステントの厚さは0.05~0.3mmである。
【0008】
前記生体柔軟性エラストマー腸吻合ステントのPTMCホモポリマー材料にトリクロサン(triclosan、TCS)が担持される。
【0009】
前記腸吻合ステント内にはさらに植物性セルロース管が設けられ、前記腸吻合ステントは隙間のない嵌着構造であり、内部は植物性セルロース材料の管であり、外部はPTMCホモポリマー材料である。
【0010】
生体吸収性柔軟性エラストマー腸吻合ステントの製造方法であって、以下のステップより製造することを特徴とする。
(1)PTMCの開環重合であって、TMCモノマーを反応容器に移し、N雰囲気下、触媒Sn(Oct)を無水トルエン溶液に溶解し、ピペットで100ppmを取り出して反応容器に加えて共重合反応させ、プロセス全体で水と酸素がないことを保証し、24時間後に生成物を溶解し、完全に溶解すると、ポリマー溶液を精製し、複数回繰り返し、精製後の共重合体を箱型真空乾燥機の中で48時間乾燥し、次に乾燥キャビネットの中で保管する。
(2)エレクトロスピニングによる吻合ステントの製造であって、乾燥後のサンプルをCHCl/DMF混合溶液に溶解し、調製した溶液の濃度は5~10.0%であり、混合溶液の0.1~1.0wt%で抗菌剤を加え、混合後に37℃でシェーカーに置いてサンプルが充分に溶解することにより、均一な共溶解紡糸原液を得て、原液を2.5mLの注射器に入れ、当該注射器は内径が0.5mmである1本の金属針を含み、紡糸後のサンプルの厚さは0.2±0.01mmであり、得られた繊維を箱型真空乾燥機の中で室温下でさらに乾燥して、残留した有機溶媒及び水分を除去する。
【0011】
前記ステップ(1)で生成物の溶解の条件はCHCl又はDMF又はTHFで溶解して、シェーカーに置き、シェーカーの温度を37℃と設定することである。
【0012】
前記ステップ(1)で精製の条件はn-ヘキサン又はエタノールで精製し、且つガラス棒で不断に撹拌することである。
【0013】
前記ステップ(2)でCHCl/DMF混合溶液中のCHCl:DMF=1:1である。
【0014】
前記ステップ(2)の紡糸ステップは、具体的には、所定のサイズの植物性セルロース管をエレクトロスピニングレセプターに嵌めて紡糸し、パラメータを限定して対応するサイズの管を得ることができることであり、前記針先の押し速度はV=1.0~5.0mL/時間であり、ローラーの回転速度はV=100~500rpmであり、温度T=25~35℃、湿度WET=20~40%である。
【発明の効果】
【0015】
本発明の有益な効果は次のとおりである。本発明は、PTMCに基づく生体吸収性柔軟性エラストマー腸吻合ステント及びその製造方法を提供し、エレクトロスピニング法を用いて、PTMCを基材とする腸管吻合ステントを製造しており、分解速度及び機械的特性に基づいて体内への埋め込みに適する適切な範囲をスクリーニングしている。滅菌効果のあるTCSを担持して、組織修復の調節機能を持たせることで、細菌の多い劣悪な腸管環境の中で創傷のより早い癒合を実現し、術後の組織癒合と機能の修復を調節するために利用される。体内動物腸管吻合試験を行って、実際の効果及び方法の実行可能性を検証した。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は体内試験のプロセスであり、(1)盲腸の切開であり、(2)吻合ステントの埋め込みであり、(3)断続全層縫合である。
図2図2は本発明のPTMCの合成プロセスの概略図である。
図3図3はPTMCの赤外吸収スペクトルルである。
図4図4はPTMCホモポリマーのH NMRスペクトルである。
図5図5はエレクトロスピニングサンプルのSEM写真である。
図6a】異なる分子量のPTMC膜の酵素溶液での分解時間である。
図6b】異なる分子量のPTMC膜の酵素分解後のリパーゼ溶液のpH曲線である。
図6c】異なる厚さのPTMC膜の分解時間である。
図6d】吻合ステントを埋め込んだ後のSEM写真である。
図6e】吻合ステントの分解の物性である。
図6f】対応する時間でラットの体から取った吻合ステントの重量損失である。
図6g】対応する時間でラットの体から取った吻合ステントの長さの減少である。
図7図7はトリクロサンを含まないサンプル(上の図)及びトリクロサンを含むサンプル(下の図)の抗菌効果であり、Aは黄色ブドウ球菌であり、Bは大腸菌である。
図8図8は異なるサンプルの溶血率である。
図9図9はサンプルの細胞毒性作用である。
図10図10は腸吻合術後の異なる時間の腹部癒着スコアリングである。
図11図11は術後7日目の異なるサンプル群の吻合部の破壊圧力である。
図12図12はH&E染色及びマッソン(Masson)染色の結果である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施例の図面を参照しながら、本発明の実施例の技術的解決手段を明瞭かつ完全に記述し、言うまでもないが、記述される実施例は本発明の全ての実施例ではなく、その一部の実施例に過ぎない。当業者が本発明の実施例に基づいて、新規性のある作業をせず得ている他の実施例は、全て本発明の請求範囲に属する。
【0018】
材料:
ポリエチレングリコール(Poly(ethylene glycol))(PEG、Mn=5000)、オクタン酸第一スズ((Sn(Oct))、テトラヒドロフラン(THF)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、クロロホルム(CHCl)、トリクロサン(TCS)、トルエン、n-ヘキサン、リパーゼ(Lipase、ニホンコウジカビ(Aspergillus oryzae)由来、溶液、10万U/g以上)、以上はSigma-Aldrich Co.LLCより購入、ポリマーグレードの1,3-トリメチレンカーボネート(Polymer grade 1,3-trimethylene carbonate、TMC、中国Daigang Biology)。全ての試薬と化学品は分析グレードであり、精製しなくても使用できる。
【0019】
マウス線維芽細胞株L929は中国科学院典型培養物保藏センター(中国上海)が提供した。培養皿はコーニング(米国ニューヨーク)より購入された。ダルベッコ(Dulbecco’s)改変イーグル(Eagle)培地(DMEM、Gibco)に10%のウシ胎児血清(FBS、Gibco)、100IU/mLのペニシリン及び100mg/mLの硫酸ストレプトマイシンを添加して培養した。全ての細胞はいずれも37℃、5%CO、完全に加湿された条件でインキュベーターの中で培養された。
【0020】
温州医科大学(中国温州)試験動物センターによって提供された雄のSprague-Dawleyラット(200±20g)を25℃と湿度55%の条件で飼育した。全ての動物試験は倫理委員会によって評価及び承認されるガイドラインに従って行われた。
【0021】
PTMCを基材とする腸管吻合ステントの製造ステップ:
PTMC-b-PEG-b-PTMCの開環重合:
開環重合の方法を用いてPTMCホモポリマーを合成した。簡単に言えば、計量したTMCモノマーを磁気撹拌棒を備える完全に乾燥したガラス反応器に移した。N雰囲気下、Sn(Oct)を無水トルエン溶液に溶解し、ピペットで100ppmを取り出して反応容器に加えた。共重合反応は130±2℃で24時間反応し、プロセス全体で水と酸素がないことを保証した。24時間後に生成物をクロロホルムに溶解し、完全に溶解すると、ポリマー溶液に対して過剰のn-ヘキサンで生成物を精製し、3回繰り返した。精製後のホモポリマーを40℃の箱型真空乾燥機の中で48時間乾燥し、次に乾燥キャビネットの中で保管した。
【0022】
エレクトロスピニングによる吻合ステントの製造:
乾燥後のサンプルをCHCl/DMF(9:1、V:V)混合溶液に溶解し、調製した溶液の濃度は5.5%であり、37℃でシェーカーに36時間置いてサンプルが充分に溶解することにより、均一な共溶解紡糸原液を得た。原液を2.5mLの注射器に入れ、当該注射器は内径が0.5mmである1本の金属針を含む。具体的なエレクトロスピニングの条件の詳細は表1を参照する[30]。紡糸後のサンプルの厚さは0.2±0.01mmであった。得られた繊維を箱型真空乾燥機の中で室温下でさらに24時間乾燥して、残留した有機溶媒及び水分を除去した。紡糸後のサンプルを用いて機械的特性試験及び体外分解試験を行った。
【表1】
【0023】
特性評価:
物理的及び化学的特性の評価:
ATRアクセサリを備えるNicolet Magna-560分光計でPTMCポリマーのFTIR-ATRスペクトルを測定した。Bruker分光計でPTMCホモポリマーのH NMRスペクトルを測定し、全てのH NMRはテトラメチルシラン(TMS)を内部参照とし、重水素化クロロホルム(CDCl)を溶媒とし、ppm単位でサンプルの化学シフト(D)を記録した。日立冷陰極電界放出型走査電子顕微鏡SU8010を用いてサンプルのエレクトロスピニング後の微視的形態、及び動物の体内に埋め込まれて分解した後の微視的形態を撮影した。DSC8000(米国PerkinElmer)を用いてDSC分析を行い、10℃/分の加熱速度でPTMCポリマーの熱特性を記録した。ウベローデ粘度計を用いて25℃の恒温ウォーターバスにおいてPTMCの固有粘度を測定し、試験結果は3回の試験の平均値であった。応力と歪みは電子万能試験機(Instron 5944)において測定し、エレクトロスピニング後のサンプルに対してサイズが45.0mm×25.0mmであるシート状の材料になるよう処理し、SDラットの盲腸のサイズは45.0mm×25.0mm×0.3mmであり、生理食塩水で洗い流してきれいにし、表面から余分な水分を拭き取った。
【0024】
体外酵素分解:
サイズが10.0×10.0mmであるPTMC膜を1mLのリパーゼ溶液に入れて、37℃の空気浴の中に置き、毎日8時間振とうし、振幅は65回/分であった。酵素溶液を3日ごとに1回交換して酵素の活性を維持し、それぞれ、1日後、5日後、10日後、15日後、20日後、30日後、40日後、50日後にサンプルを取り出し、ランダムに3つの並行サンプルを選択した。蒸留水で充分に洗浄した後、濾紙で表面の水分を吸い取り、37℃で12時間真空乾燥して質量が一定になった。乾燥サンプルの質量及び分解生成物を含有する媒体の水素イオン濃度を記録した。
【0025】
体内の生分解性挙動は、吻合ステントの埋め込み前と後の質量及びサイズを記録することにより得た。吻合ステントを取り出した後は蒸留水で洗浄してきれいにし、濾紙で表面の水分を吸い取った。重量損失率は下式で計算した。
重量損失率(Weight loss)(%)=(W-Wt)/W×100%
式中、W、Wは、それぞれ、サンプルの分解前と分解後の乾燥重量を表す。
【0026】
生物学的特性の評価:
ホモポリマーの溶血性研究:
サンプル材料を予め蒸留水で洗い流してきれいにし、表面から余分な水分を拭き取り、新鮮なヒト全血を使用した。試験群は、15mgのエレクトロスピニングサンプルをEP管に入れて、1mLの生理食塩水及び0.1mLの全血を加え、陰性対照群は、EP管に1mLの生理食塩水及び0.1mLの全血を加え、陽性対照群は、EP管に1mLの超純水及び0.1mLの全血を加えた。上記のサンプルを全て37℃で2時間インキュベートすることで、溶血反応試験を行った。
【0027】
全てのサンプルを3000rpmで10分間遠心分離し、上清がまだ透明でなければ再び遠心分離を1回繰り返した。写真を撮った後に上清を吸い出してウェルプレートに移し、各サンプルの上清から3つの並行サンプルを作り、各サンプルは200μL取り出して、721分光光度計を用いて波長540nmで吸光度(OD)を測定して結果を記録した。
【0028】
データ処理であって、サンプル群、対照群からそれぞれ3つのサンプルのODの平均値を得た。下式でサンプルの溶血率を計算した。
H(%)=(OD-ODnc)/(ODpc-ODnc)×100%
式中、H%は溶血率であり、ODはサンプルの吸光度であり、ODncは陰性対照サンプルの吸光度であり、ODpcは陽性対照サンプルの吸光度であった。GB/T1423.2-1993基準に従って、材料と赤血球が体外で接触する過程で起きている赤血球の溶解及びヘモグロビンの遊離の程度を測定することにより、材料の体外溶血性を評価し、溶血反応が5%を超えれば陽性であった。
【0029】
細胞毒性研究:
CCK-8法を用いて試験サンプルの毒性学研究を行い、試験ステップは次のとおりであった。
細胞培養液の調製であって、RPMI1640培地500mL+ウシ胎児血清50mL+ペニシリン/ストレプトマイシン5mL。
【0030】
試験群浸出液の調製であって、サンプルを予め75%アルコールで滅菌・消毒し、次にクリーンベンチにおいて正面と背面にそれぞれ紫外線を30分間照射した。エレクトロスピニングサンプルをそれぞれ切断して辺長1.82cmの正方形のフィルムにし、2mLの完全培地を加え、37℃の環境で24時間共インキュベートして、紡糸サンプル浸出液を得た。
【0031】
細胞の作製であって、細胞培養液でL929細胞を(細胞が壁に付着するまで)体外培養し、培養フラスコいっぱいになるまで、3世代以上増殖させた。PBSで3回洗い流した(細胞が流されないよう、正面から当たらない)。続いて50μLの0.25%トリプシンでそれを30秒間(37℃)消化して、細胞懸濁液に変えた。すぐに3~5mLの完全培地を加えて遠心分離管に移し、1000rpmで5分間遠心分離して、上部の廃液を捨て、遠心分離管に5mLのPBSを加え、ピペットでピペッティングして細胞を均一に分散させた。1μLを取り出して、細胞計数盤に滴下して細胞を計数し、細胞の濃度を5×10個/mLに調整した。
【0032】
共培養であって、希釈後のL929細胞を96ウェルプレートに接種し、1ウェルあたり100μLであり、各ウェルには5000~8000個の細胞を必要とし、37℃、5%COの環境で24時間培養し、細胞が完全に壁に付着すると培養液を捨て、それぞれ、試験群浸出液及び陽性溶液(陽性対照群は10%DMSO(200μL))各100μLをウェルに加え、各群は6ウェル並行であり、37℃のインキュベーターで24時間インキュベートした。
【0033】
CCK-8測定であって、それぞれ、予め設定した時点(24時間、48時間)で96ウェルプレートを取り出し、原液を吸い出してサンプルウェルの周りに加え、各ウェルにはそれぞれ10μLのCCK-8試薬、100μLの完全培地を加え(予め2種の溶液を混合した)、37℃のインキュベーターで2時間インキュベートした後、多目的マイクロプレートリーダー(吸光度450nm)で吸光度(OD)の値を測定した。
【0034】
細胞の相対的増殖率の計算であって、各群の6ウェルのOD値の平均値を算出し、下式で各群の細胞の相対的増殖率(RGR)を計算した。
細胞生存率(Cell Viability)(%)=(A-A)/(A-A)×100%
式中、Aは試験ウェルの吸光度であり(ポリマー抽出液あり、細胞培地あり、CCK-8あり)、Aは対照ウェルの吸光度であり(ポリマー抽出液なし、細胞培地あり、CCK-8あり)、
は試験ウェルの吸光度であった(ポリマー抽出液なし、細胞培地なし、CCK-8あり)。
【0035】
抗菌性研究:
それぞれ、凍結保存していた大腸菌及び黄色ブドウ球菌の細菌原液を50μL取り出して5mLの細菌培養液が入った遠心分離管に加え、細菌インキュベーターで24時間インキュベートしておいた。材料に対して直径1.0cmの円形でシート状の材料になるよう裁断し、75%アルコールで洗い流してきれいにした後に表面から余分な水分を拭き取り、紫外線で30分間殺菌した。それぞれ、希釈後の細菌を100μL取り出して培地に均一に塗布し、円形でシート状の材料を細菌を塗布された培地の上に置き、37℃の細菌インキュベーターで24時間インキュベートした。
【0036】
体内生体適合性研究:
SDラットによる体内試験:
腸管吻合部の癒合には主に炎症反応、細胞増殖、腸壁構造の再構成などの段階があり、機械的、組織学的及び機能的の3つの面の修復を実現しないと最終的には癒合にたどり着けない。そのうち機能的な修復は非常に長いプロセスであり、消化吸収、内外分泌、神経修復及び伝播性の収縮運動(migrating motor complex)に関わるため、機械的な面及び組織学的な面で指標を満たさないと、吻合部の癒合が完了すると考えることはできない。手術操作と結び付ければ、動物試験の段階では次の指標を満たすべきである。破壊圧力試験:機械的癒合の指標、腹腔内癒着スコアリング:吻合部の近くの局所的な炎症状況の反映、吻合部組織のHE染色、マッソン(Masson)染色及び免疫組織化学染色:炎症細胞の浸潤の程度と、コラーゲンの沈着状況の評価。
【0037】
試験前に、PTMCサンプルを75%アルコールに10分間浸漬し、紫外線で30分間滅菌・消毒した。一般グレードのSprague-Dawley雄ラットが180匹おり、体重は200±10gであり、体重基準で10%抱水クロラールを腹腔内注射して麻醉した。試験では、A群のPTMC群、B群のTCS/PTMC群及びC群のブランク対照群の3群を設け、各群は4つの時点を設定し、それぞれ、7日、14日、21日、28日であり、5匹のラットの並行群を設けた。腹部を除毛し、腹部を切開してラットの盲腸を見つけ、盲腸の中上部に切開部を作り、サイズは10±1mmであり、盲腸内容物を全て取り出し、A群、B群は試験サンプルを入れて縫合し、C群は直接縫合した。吻合部の縫合はいずれも4針の単純断続全層縫合で行い、盲腸の横断面に対して、それぞれ、時計の3時、6時、9時、12時に対応する各位置において全層断続縫合を行い、ピッチは約0.4cmであり、間隔は約0.5cmであった。術後2群のラットが麻醉から目覚めると直ちに自由に摂食、飲水させた。
【0038】
術後1ケージ1匹で独立して飼育し、マウスの摂食、排便及び行為挙動の状況を常に観察した。2群の吻合方式の所要時間、術後の一般状況及び死亡状況を比較した。各群のラットはそれぞれ対応する時点になると麻醉して開腹し、腹腔内癒着の状況、腹腔内感染があるかどうか、吻合部漏出の現象があるかどうかを観察及び記録した。
【0039】
腹腔内癒着スコアリング(Adhesion score):
術後SDラットの腹腔内癒着に対して段階評価を行って[31]、定量化結果を得た[32]。スコアリング基準はスコア0~3であった。
スコア0は、癒着なし。
スコア1は、軽度の癒着であり、吻合部の近くだけは組織によって覆われており、剥離しやすい。
スコア2は、中等度の癒着であり、吻合部が腹腔内組織と癒着しており、剥離しにくいが、剥離はまだ可能である。
スコア3は、重度の癒着であり、吻合部は腹腔内組織又は他の臓器組織と癒着しており、又は包まれて癒着している。
【0040】
吻合部の破壊圧力:
吻合部組織の破壊圧力は吻合部の癒合強度を測定する上で重要な機械的指標であり、それは腸管が耐えられる圧力の大きさを反映しているため、一般的には吻合部の癒合強度を測定するために利用される。
【0041】
術後7日目に吻合部の腸管部分の破壊圧力試験を行い、体外圧力測定法を用いた。吻合部とその周りの約5cmの腸管を切り出して生理食塩水で腸内容物を洗い流した。腹腔内癒着を適切に剥離して、各吻合部の腸管部分を露出させ、腸管の片端に圧力計(YB-150A精密圧力計)を接続させて、2本の絹糸で結紮して固定し、吻合部を隔てた他端は同様に2本の絹糸で結紮して腸管腔を閉鎖させ、腸管を圧力計と同じ高さに保った。蠕動ポンプを用いて10mL/分の速度で腸管にメチレンブルー希釈液(0.16mg/mL)を定速で注入し、吻合部を観察しながら、吻合部から青い液体が溢れた(又は圧力が突然低下した)時の圧力計の表示値を記録し、これが吻合部の破壊圧力であった。
【0042】
H&E染色:
H&E染色はヘマトキシリン-エオシン染色法と称され、ヘマトキシリンはHematoxylinと、エオシンはEosinと表記される。その基本原理は次のとおりである。塩基性色素ヘマトキシリン、酸性色素エオシンをそれぞれ細胞核、細胞質と作用させて、細胞の微細構造を色によって屈折率を変化させることで、光学顕微鏡下で細胞画像を明瞭に表示し、細胞核と細胞質をコントラストよく染め分けることができる。
【0043】
検査原理は次のとおりであった。ヘマトキシリンは青紫色の塩基性色素であり、細胞核を着色させることができ、ヘマトキシリンによって着色された構造自体は酸性であり、好塩基性(Basphili)を有する。エオシンはピンク色の酸性色素であり、細胞質を赤く染めることができ、エオシンによって着色された構造自体は塩基性であり、好酸性(Acidophilic)を有する。ヘマトキシリン及びエオシンによって着色されにくい構造は好中球性(Neutrophilic)を有する。
【0044】
結果は次のとおりであった。細胞核が青紫色になり、細胞質、筋線維、コラーゲン繊維、赤血球は程度の差はあるが赤色になり、カルシウム塩及び細菌が青色又は青紫色になった。
【0045】
それぞれ所定の時点にラットを殺し、紡糸ステント及びそれを包み込む腸組織を取り出して、4%ホルムアルデヒド溶液で固定し、エタノール溶液で脱水した後、パラフィン包埋を行い、切片し(4μm)、H&E染色を行った。染色後の切片を光学顕微鏡下で観察した。切片作製の具体的なプロセスは次のとおりであった。
(1)材料を取得し、固定した後、通常のパラフィン包埋を行い、4μmに切片した。
(2)切片をキシレンで通常脱蝋し、各濃度のエタノールで洗浄し、最後には水で洗浄した。即ち、キシレン(I)5分→キシレン(II)5分→100%エタノール2分→95%エタノール1分→80%エタノール1分→75%エタノール1分→蒸留水で2分洗浄。
(3)ヘマトキシリンで5分間染色し、水道水で洗い流した。
(4)塩酸・エタノールで30秒間分化させた。
(5)水道水に15分間又は温水(約50℃)に5分間浸漬した。
(6)エオシン染色液に2分間置いた。
【0046】
マッソン(Masson)染色:
マッソン(Masson)染色は主にコラーゲン繊維及び筋線維を識別するための染色に用いられ、病変組織中の線維性結合組織の増殖及び分布を観察するために利用される。染色結果は、細胞核が黒色になり、筋線維が赤色になり、コラーゲン繊維が青色になった。ステップは次のとおりであった。
組織を10%中性緩衝ホルマリン溶液で固定して、流水で洗い流し、通常の脱水包埋を行った。
(1)切片を水で通常脱蝋した。
(2)適量のワイゲルト(Weigert)鉄ヘマトキシリンA液及びワイゲルト(Weigert)鉄ヘマトキシリンB液を等量に混合して、ワイゲルト(Weigert)鉄ヘマトキシリン染色液を得た。調製したワイゲルト(Weigert)鉄ヘマトキシリン染色液で5~10分間染色した。
(3)酸性エタノール分化液で5~15秒間分化させて、水で洗浄した。
(4)マッソン(Masson)ブルーイング剤で3~5分間青色に戻して、水で洗浄した。
(5)蒸留水で1分間洗浄した。
(6)ポンソー酸性フクシン液で5~10分間染色した。
(7)蒸留水:弱酸溶液=2:1の比率で弱酸作業溶液を調製し、弱酸作業溶液で1分間洗浄した。
(8)リンモリブデン酸溶液で1~2分間洗浄した。
(9)調製した弱酸作業溶液で1分間洗浄した。
(10)95%エタノールで急速脱水した。
(11)無水エタノールで3回脱水し、1回当たり5~10秒間であった。
(12)キシレンで3回透徹させ、1回当たり1~2分間であった。
【0047】
免疫組織化学染色:
パラフィン切片を水で脱蝋し、続いて抗原賦活用クエン酸緩衝液(pH6.0)が入った圧力鍋に組織切片を入れて抗原賦活化を行った。3%過酸化水素水溶液(過酸化水素:純水=1:9)で内因性ペルオキシダーゼをブロックし、3%BSAを加えてブロッキングし、次に4℃で一次抗体と共に一晩インキュベートした。一次抗体に対応する種の二次抗体を加えて室温で50分間インキュベートし、細胞核をヘマトキシリンで染色した。インキュベートするたびに、細胞をPBSで2回洗浄した。蛍光顕微鏡(NIKON ECLIPSE TI-SR)を用いて染色した細胞の写真を撮った。
【0048】
結果及び検討:
PTMCの合成及びその特性評価の結果:
Sn(Oct)の触媒作用で、開環重合によってPTMCホモポリマーを合成した(図2)。共重合反応は表2に示すとおりであった。
【0049】
異なる分子量のホモポリマーはその分解速度及び機械的特性に差異が大きく、分子量の高いPTMCはより良好な分解速度及び形状保持性を有し、且つ、形状がその分解速度に大きな影響を与える[35]。腸管に埋め込むから製品には適切な分解速度と優れた機械的特性が求められるため、当試験では、PTMCの分子量に対する反応時間の影響を検討した。反応時間を限定して異なる分子量のPTMCを得た。PTMCの分子量及びガラス転移温度の結果を表1に示す。データは、分子量の増大に伴いPTMCのガラス転移温度が低減することを示し、これは、分子量が低くて結晶化度が増大することでTgは上昇するためであった。
【0050】
PTMCの赤外吸収スペクトルルを図3に示す。PTMCには-CH-(2970及び2909cm-1)、C=O(1735cm-1)及び-O-(1218cm-1)の伸縮振動が観察された[36]図4はPTMCホモポリマーのH NMRスペクトルであった。それは化学シフトδ 4.171ppm(a)がPTMCブロック中の酸素の隣のメチレンプロトンに属し、δ 1.984ppm(b)がPTMCブロック中の他のメチレンプロトンに属し、且つ、ピーク面積の比が生成物に一致するということを明瞭に示す。
【表2】
a.[η]=KMαより求められる。K=1.986×10-4、α=0.789[37]
【0051】
エレクトロスピニングサンプル及びその機械的特性の評価:
エレクトロスピニング繊維が均一に分布し、直径は5~10μmであった(図5)。
【0052】
PTMCを用いてエレクトロスピニングにより製造した吻合ステントの機械的特性を表3に示す。ステント材料の生理学的条件下の機械的特性は埋め込み材料としての重要な指標の1つであり、生理学的条件下の材料の機械的特性を観察するために、試験前に、サンプルをPBS溶液に24時間浸漬し、ステントの機械的特性の違いがさほど大きいものではなく、引張強さ及び弾性率がやや低減しており、破断伸びはいずれもある程度増加しているということが見出され、これはステントの粗鬆の多孔質構造が吸水するためであった。分子量の高いPTMCは良好な機械的特性及び形状保持性を有し、PTMC及びPTMCの分子量が低すぎるため、良好な支持の効果を果たすことができない。反応時間が30時間を超えると、反応時間の増加に伴い、PTMCの機械的特性の差異はさほど大きいものでなくなる。PTMCからなる吻合ステントは乾燥及び湿潤状態ではいずれも機械的特性が非常に安定的であり、これは実際の使用でのその信頼性を保証している。
【表3】
a:弾性率(完成品そのまま)、b:弾性率(24時間予備湿潤)、c:引張強さ(完成品そのまま)、d:引張強さ(24時間予備湿潤)、e:破断伸び(完成品そのまま)、f:破断伸び(24時間予備湿潤)。
【0053】
乾燥後のサンプルをクロロホルム(chloroform)/DMF(9:1、V:V)混合溶液に溶解し、調製した溶液の濃度は5.5%であり、37℃でシェーカーに36時間置いてサンプルが充分に溶解することにより、均一な共溶解紡糸原液を得た。原液を2.5mLの注射器に入れ、当該注射器は内径が0.5mmである1本の金属針を含む。具体的なエレクトロスピニングの条件の詳細は表1を参照する。紡糸後のサンプルの厚さは具体的なエレクトロスピニング時間によって決められた。得られた繊維を箱型真空乾燥機の中で室温下でさらに24時間乾燥して、残留した有機溶媒及び水分を除去した。紡糸後のサンプルを用いて機械的特性試験及び体外分解試験を行った。
【0054】
エレクトロスピニングの条件:
【表4】
【表5】
【0055】
体外生分解性の評価:
PTMCは主に体外酵素分解及び体内表面侵食により分解される。Feijenらが、酵素は界面活性化の役割を果たすと考えており、そのために体外酵素溶液での分解速度は体内分解より早い。同じサイズで異なる厚さのPTMC材料はその分解速度の差異が非常に大きい。腸管ステントについて、当方はエレクトロスピニング後の異なる分子量及び異なる厚さの膜状材料の分解の差異を研究した。
【0056】
当回の動物試験の対象は雄のラットであり、ラットの腸管癒合期間は14日程度であることから、腸管に埋め込まれた吻合ステントは少なくとも2週間持続する機械的特性の強さと、約3週間で分解されるという要件を満たすべきである。最初に、重量損失率に対する分子量の影響を研究し(図6a)、PTMC1~7を同じサイズ(10.0×10.0×0.4mm)のフィルムシートに裁断し、結果は、PTMCの分子量の増加に伴い、分解が早くなり、且つ、分解の過程で酸性物質がなかったことを示す(図6b)。PTMCの分子量が低すぎる場合は、PTMC及びPTMCにおいて示されるように、50日での重量損失が20%だけで、分解が非常に遅く、分子量が15万以上になると、PTMCの50日での重量損失は60%に達しているため、ラット腸管への埋め込みの条件に適合する。また、当方は、重量損失率に対する異なる厚さの材料の影響を研究した(図6c)。PTMCが選択され、長さと幅は10.0mmであり、厚さは、それぞれ、0.10mm、0.20mm、0.30mm、0.40mm、0.50mmであった。厚さが大きいほど、分解は遅いということが見出された。PTMCについては、厚さが0.2mmである場合に、体外酵素溶液での分解速度が我々の条件を満たしている。当方は、また、エレクトロスピニング、体外酵素溶液分解及び機械的特性の総合的要因から、分子量が15万~25万で、厚さが0.2mmであるステントが当方の期待に沿えると考えている。当試験では厚さが0.2mmであるPTMCサンプルを吻合ステントとして選択してマウスの盲腸に埋め込み、後の体内分解及び癒合促進効果を観察した。
【0057】
体内吻合ステントを対応する時点に取り出して微視的形態を観察した(図6c)。吻合ステントの質量及び長さは、程度の差はあるがいずれも減少しており(図6e、6f)、28日後に質量は40%以上減少し、長さは50%減少しており、2週間持続する機械的特性という要件を達成した。体内分解後にその形態は崩れ始めているが、マクロレベルにおいて全体としてよく維持されている(図6d)。
【0058】
体外生物学的評価:
抗菌:
周知のように、創傷が癒合する過程では細菌に感染する可能性があり、これは創傷の癒合を遅らせてしまう。腸管中の微生物と細菌は数え切れないほどあり、細菌の桁数は1014に達し、種類は1000種を超えており、他の上皮と比べて、腸管の癒合中に出現する病原性細菌はより高い密度を有し、それらは創傷の癒合という正常な生理的プロセスをかき乱す。手術部位の性質上、腸管吻合部で比較的清潔な環境を保つのは難しいから、この場合に吻合ステントの抗菌と隔離効果が非常に重要な役割を果たす。
【0059】
この課題を解決するために、抗菌剤TCSを所定の比率でサンプルに添加し、材料に抗菌性を持たせて、創傷部が比較的清潔であることを保証した。図7に示すように、TCSを含まないサンプルは細菌への抵抗力がなく、TCSを添加したサンプルは緑膿菌、大腸菌及び黄色ブドウ球菌に対して明らかな阻害領域があった。PTMCの分解は表面侵食分解であり、表面から徐々に内部へと分解していく過程であるため、TCSがゆっくりと放出されて滅菌の役割を果たし続けることになる。
【0060】
溶血率:
吻合ステントが腸吻合部に直接接触するため、材料の関係で赤血球が破裂してしまえば、一般的にアデノシン二リン酸が放出され、血小板の凝集が加速されることで、血栓が発生する。体外の材料を血液に直接接触させることにより、吻合ステントの溶血性を評価し、試験結果を図8に示し、その溶血率は0.1%未満であり、埋め込み型医療機器の5%の上限値をはるかに下回っていた。
【0061】
細胞毒性:
L929細胞を細胞毒性及び細胞適合性の体外試験に用いて、純粋なPTMC及びTCSを添加したPTMCの細胞適合性を評価した(図9)。L929細胞をサンプルと共に24時間、48時間インキュベートし、且つTCSを添加したサンプルの細胞毒性を表す値は単純なホモポリマーと大差がなく、細胞生存率はいずれも90%以上に保たれており、これはTCSの添加量は効果的かつ実施可能であり、滅菌効果をもたらすと同時に組織細胞を傷つけることはないということを示した。
【0062】
創傷回復状況の評価:
腹腔内癒着スコアリング及び吻合部の破壊圧力:
それぞれ、術後7日目、14日目、21日目、28日目に開腹し、腹腔内癒着の状況についてスコアリングし、結果の詳細を図10に示す。損傷の刺激又は感染により、腹腔では局所的にフィブリノゲンのコロイド溶液が生成し、それが早くフィブリンの凝固物に変わって損傷した粘膜の表面を覆って、修復保護の役割を果たす。フィブリンは高い接着性を有するため、互いに隣接する腹腔の粘膜をつなげる。損傷が癒合した後は、体がこれらのフィブリンを良好に吸収できれば、痕跡は残らない。吸収が不完全であれば、癒着は存在し続け、深刻な場合は癒着性腸閉塞になり、腸管の正常な生理的活動に影響を与える。吻合ステントによる癒合支援群は癒着がブランク対照群より明らかに少なく、これは吻合ステントが創傷と腸管内容物の直接接触を効果的に遮り、感染の発生を軽減させることにより、吻合部の修復・癒合速度が早くなるためであった。
【0063】
吻合部の破壊圧力は腸管吻合術後の癒合から一定の期間後の吻合部の癒合の強度を効果的に反映でき、当該機械的指標で、吻合部が耐えられる張力の大きさを定量的に示すことができる。腸管が癒合する過程では、粘膜の下層のコラーゲン合成の沈着と再構築の速度との間のバランスが大きな要因である。組織修復の不足と過剰はいずれも正常な腸管の機能に影響を与え、修復が不足する場合は潰瘍と瘻が起こり、修復過剰は繊維症と狭窄を引き起こす。術後4日目までは、コラーゲンの再構築の速度が沈着の速度をはるかに上回り、術後5日目からは、コラーゲンの沈着がメインとなり、最終的に7日目には増殖期のピークに達していた。増殖期のピークへの到達の遅延又は損傷は吻合部の裂開を引き起こす可能性がある。コラーゲンの沈着過剰と炎症は吻合部の狭窄を引き起こす。そのため、術後7日目に、吻合部の局所的な状況に影響を与えないことを前提として、癒着を剥離し、次に手術対象区間の盲腸を取得し、吻合部盲腸区間の破壊圧力試験を行った(図11)。対照群で生存する20匹のラットの破壊圧力は183mmHgであり、吻合ステント群で生存する20匹のラットの190mmHg(PTMC群)、205mmHg(TCS/PTMC群)より低かった。吻合ステントは創傷の癒合に明らかな促進効果を果たし、且つTCSを加えるのは創傷部と細菌を隔絶させ、創傷の癒合に役立った。3群では統計学的有意差があった(P<0.001)。
【0064】
組織学的分析:
急性及び慢性腸炎の間に、マクロファージ及び好中球は活性酸素種及び組織分解酵素を分泌することにより局所的な組織損傷を誘導する。組織の損傷が深刻な場合は、筋線維芽細胞が欠損した部位まで遊走する。炎症は、T細胞、マクロファージ、好中球などの免疫細胞の浸潤に関係しており、それらが常に炎症の起きる組織に深刻な損傷をもたらす。このような持続的な炎症と組織分解は繊維症及び狭窄の形成を引き起こす可能性がある。
【0065】
当方は、術後の対応する時点に、吻合部の近くの腸壁組織に対してH&E及びマッソン(Masson)染色を行った(図12)。時間順で、組織癒合の過程を炎症期、増殖期及び再構築期に分けることができ、3つのプロセスには厳密な境界がない[54]。一般的には、7日目は炎症期と増殖期の境目とされ、14日目は増殖期と再構築期の境目とされる。炎症期は好中球を中心とする炎症細胞の凝集及び浸潤として認識され、増殖期は線維芽細胞数の増加、無秩序に並んだ大量の弱いコラーゲン繊維の生成として認識され、再構築期では急性炎症が明らかに減少し、代わりに慢性炎症のマーカーである多核巨細胞が生成され、コラーゲン繊維が明らかに増加する。HE染色は炎症細胞の浸潤の程度を反映することができる。術後の対応する時点に、対照群の炎症細胞の浸潤は吻合ステント支援群を明らかに上回り、TCSを添加した吻合ステント群の炎症細胞はTCSを添加しなった吻合ステント群より明らかに少なかった。マッソン(Masson)染色の方も上述したことを裏付けており、ステント群は細菌を隔絶させて炎症反応を低減させているため、繊維の再生に役立ち、TCSの添加は創傷の癒合を一層促進していた。
【0066】
免疫組織化学分析:
創傷の修復は細胞によって分泌される成長因子、例えば、トランスフォーミング成長因子-β(TGF-β)を介して行われる。TGF-βはα-平滑筋アクチン(α-SMA)の最も効果的かつ重要な誘導物質である。実験的小腸・結腸炎及びクローン病患者の繊維化部位の筋線維芽細胞の中で、TGF-βが増加している。トランスフォーミング成長因子はi型コラーゲンの発現を誘導でき、且つα-SMAの発現を効果的に刺激できる。創傷部のTGF-βレベルを測定すれば、創傷回復の早さとその良さを直感的に知ることができる。
【0067】
創傷感染は負傷した患者が死亡する主な原因の1つであるため、腫瘍壊死因子-α(TNF-α)を監視指標として選び、免疫組織化学分析により感染の予防における吻合ステントの効果について試験した。
【0068】
結論:
吻合後の腸管の癒合は複雑かつ長い生理学的プロセスである。実際には、腸管の吻合は物理的癒合、組織学的癒合及び生理学的癒合の3つのプロセスを含む。物理的癒合とは吻合後の腸管が腸管腔を閉鎖させることができ、腸管内容物は腹腔に入ることができず、腸壁は一定の圧力に耐えられることを指す。組織学的癒合とは吻合部の粘膜上皮は組織学的に結合していることを指す。吻合部の両端の腸管に本来の神経支配が戻り、全体において規律的な腸管運動と蠕動を実現するというプロセスを生理学的癒合と呼ぶ。
【0069】
吻合ステントの埋め込みは、細菌やウィルスなどの不利な要因を効果的に隔絶させて、創傷に比較的清潔な環境を作ることができ、これは吻合部の癒合にとって極めて重要である。
【0070】
吻合部の張力は癒合不良につながる主な原因である。この張力は組織から来てもよいし、持続的に緊張している血管への血液供給不足が引き起こす可能性もある。当試験で製造した腸管吻合ステントは組織従順性を備えており、このような張力を大いに軽減できるため、吻合部にはより良い癒合効果が得られる。
【0071】
なお、上記の特定の実施形態で本発明を記述しているが、本発明の趣旨は当該開示に限定されず、本発明の趣旨を用いた作り変えであれば、いずれも本特許の請求範囲に入るということを当業者は知るべきである。
【0072】
上述したのは本発明の好ましい実施形態に過ぎず、本発明の請求範囲は上記の実施例に限定されず、本発明の趣旨に基づく技術的解決手段であればいずれも本発明の請求範囲に属する。なお、当業者は本発明の原理を逸脱しない限りはいくつかの改良と修飾を行うことができ、これらの改良と修飾も本発明の請求範囲と見なすべきである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6a
図6b
図6c
図6d
図6e
図6f
図6g
図7
図8
図9
図10
図11
図12