(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-18
(45)【発行日】2024-10-28
(54)【発明の名称】等方性グラニュラー薄膜
(51)【国際特許分類】
H01F 10/16 20060101AFI20241021BHJP
H01F 1/00 20060101ALI20241021BHJP
【FI】
H01F10/16
H01F1/00 163
(21)【出願番号】P 2023575586
(86)(22)【出願日】2023-08-22
(86)【国際出願番号】 JP2023030166
(87)【国際公開番号】W WO2024043235
(87)【国際公開日】2024-02-29
【審査請求日】2023-12-07
(31)【優先権主張番号】P 2022131957
(32)【優先日】2022-08-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000166948
【氏名又は名称】シチズンファインデバイス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000001960
【氏名又は名称】シチズン時計株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100114018
【氏名又は名称】南山 知広
(74)【代理人】
【識別番号】100180806
【氏名又は名称】三浦 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100160716
【氏名又は名称】遠藤 力
(72)【発明者】
【氏名】宮本 光教
(72)【発明者】
【氏名】久保 利哉
【審査官】井上 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-27222(JP,A)
【文献】特開2022-57406(JP,A)
【文献】国際公開第2023/021877(WO,A1)
【文献】特開2023-124672(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 10/16
H01F 1/00
H01F 41/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電体マトリックスに強磁性ナノ粒子が分散された等方性グラニュラー薄膜であって、
前記強磁性ナノ粒子は、Coから構成され、
前記強磁性ナノ粒子の平均粒径が、5.0nm以上17.0nm以下であり、
前記強磁性ナノ粒子の粒子体積濃度が、1vol%以上20vol%以下であり、
前記強磁性ナノ粒子の磁気双極子相互作用エネルギーが、2.0E-26J以下である、
ことを特徴とする等方性グラニュラー薄膜。
【請求項2】
前記誘電体マトリックスは、MgF
2から構成される、請求項1に記載の等方性グラニュラー薄膜。
【請求項3】
前記強磁性ナノ粒子の磁気双極子相互作用エネルギーが、4.6E-28J以上である、請求項2に記載の等方性グラニュラー薄膜。
【請求項4】
面内方向に磁界を印加したときに飽和磁化に達する磁界と法線方向に磁界を印加したときに飽和磁化に達する磁界との差が1kOe以下である、請求項1~3の何れか一項に記載の等方性グラニュラー薄膜。
【請求項5】
法線方向から入射する直線偏光の単位長さ当たりのファラデー回転角は、0.05°/μm以上である、請求項1~3の何れか一項に記載の等方性グラニュラー薄膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、等方性グラニュラー薄膜に関する。
【背景技術】
【0002】
磁場に平行な直線偏光を透過させたときに偏光面が回転するファラデー効果とも称される磁気光学効果を示す透光性磁性体薄膜が知られている(例えば特許第6619216号公報(以下、特許文献1と称する)及び特開2022-85978号公報(以下、特許文献2と称する)を参照)。特許文献1及び2に記載される磁性体薄膜は、フッ化物マトリックスと金属グラニュールとも称されるナノミクロンサイズの強磁性ナノ粒子から構成されるものである。特許文献1及び2に記載される磁性体薄膜において、フッ化物マトリックスは、Li、Be、Mg、Al、Si、Ca、Sr、Ba、Bi及び希土類元素から選択される少なくとも1種以上の元素とフッ素から構成される。また、強磁性ナノ粒子は、Fe、Co及びNiから選択される1種以上の元素から構成される。
【0003】
特許文献1及び2に記載される磁性体薄膜のファラデー回転角は、近赤外波長域において0.1〔°/μm〕以上となり、磁性体薄膜として従来用いられていたイットリウムガーネットやビスマス置換ガーネットのファラデー回転角よりも大きい。近赤外波長域は、光通信や光計測に使用される帯域であり、特許文献1及び2に記載される磁性体薄膜を光通信や光計測デバイスに搭載することにより、各種デバイスの磁気特性が向上される。
【発明の概要】
【0004】
しかしながら、特許文献1及び2に記載される磁性体薄膜では、強磁性ナノ粒子の大きさと強磁性ナノ粒子の間の隣接距離によって生じる磁気的相互作用が大きいため、面内方向が磁化容易軸となり且つ法線方向が磁化困難軸となり、面内磁気異方性が発現する。特許文献1及び2に記載される磁性体薄膜は、面内磁気異方性が発現するため、直線偏光を磁性体薄膜の法線方向から入射させたときに、ファラデー効果が生じ難く、外部磁界に対する感度が低くなるおそれがある。
【0005】
本発明は、このような課題を解決するものであり、直線偏光を磁性体薄膜の法線方向から入射させたときに、外部磁界に対する感度が高い等方性グラニュラー薄膜を提供することにある。
【0006】
本発明に係る等方性グラニュラー薄膜は、誘電体マトリックスに強磁性ナノ粒子が分散された等方性グラニュラー薄膜であって、強磁性ナノ粒子は、Coから構成され、強磁性ナノ粒子の平均粒径が、5.0nm以上17.0nm以下であり、強磁性ナノ粒子の粒子体積濃度が、1vol%以上20vol%以下であり、強磁性ナノ粒子の磁気双極子相互作用エネルギーが、2.0E-26J以下である。
【0007】
また、本発明に係る等方性グラニュラー薄膜では、誘電体マトリックスは、MgF2から構成されることが好ましい。
【0008】
また、本発明に係る等方性グラニュラー薄膜では、強磁性ナノ粒子の磁気双極子相互作用エネルギーが、4.6E-28J以上であることが好ましい。
【0009】
また、本発明に係る等方性グラニュラー薄膜では、面内方向に磁界を印加したときに飽和磁化に達する磁界と法線方向に磁界を印加したときに飽和磁化に達する磁界との差が1kOe以下であることが好ましい。
【0010】
また、本発明に係る等方性グラニュラー薄膜では、法線方向から入射する直線偏光の単位長さ当たりのファラデー回転角は、0.05°/μm以上であることが好ましい。
【0011】
本発明に係る等方性グラニュラー薄膜は、外部磁界に対する感度が高くできる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施形態に係る等方性グラニュラー薄膜の斜視図である。
【
図2】実施形態に係る等方性グラニュラー薄膜のTEM画像を示す図である。
【
図3】(a)は実施形態に係る等方性グラニュラー薄膜の面内方向の異方性磁界と等方性グラニュラー薄膜の法線方向の異方性磁界との差を示す図であり、(b)は異方性磁界の決定方法の第2工程を示す図であり、(c)は異方性磁界の決定方法の第3工程を示す図であり、(d)は異方性磁界の決定方法の第4工程を示す図である。
【
図4】
図2に示す強磁性ナノ粒子の平均粒径を算出するために使用されるTEM画像の一例を示す図である。
【
図5】磁気双極子相互作用エネルギーの算出に使用される変数を示す図である。
【
図8】実施例1~10及び比較例1~3のそれぞれの強磁性ナノ粒子の平均粒径、磁気双極子相互作用エネルギー及び体積濃度の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係る好適な実施形態について図面を用いて説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。また、各図において同一、又は相当する機能を有するものは、同一符号を付し、その説明を省略又は簡潔にすることもある。
【0014】
(実施形態に係る等方性グラニュラー薄膜の概要)
本願発明の発明者等は、強磁性ナノ粒子の間の距離を広くして、強磁性ナノ粒子を磁気的に孤立させることで、面内磁気異方性の発現を抑制して、磁気的に等方性を有する等方性グラニュラー薄膜を形成することを見出した。実施形態に係る等方性グラニュラー薄膜は、強磁性ナノ粒子の平均粒径、粒子体積密度及び磁気双極子相互作用エネルギーを所定の範囲に制御することで、面内磁気異方性の発現を抑制し、磁気的に等方性を有することができる。実施形態に係る等方性グラニュラー薄膜では、強磁性ナノ粒子の平均粒径は5.0〔nm〕以上であり、強磁性ナノ粒子の粒子体積密度は1〔vol%〕以上20〔vol%〕以下である。また、強磁性ナノ粒子の磁気双極子相互作用エネルギーは、2.0E-26〔J〕以下である。実施形態に係る等方性グラニュラー薄膜は、強磁性ナノ粒子の平均粒径、粒子体積密度及び磁気双極子相互作用エネルギーを所定の範囲に制御することで、直線偏光を磁性体薄膜の法線方向から入射させたときに、外部磁界に対する感度が高くすることができる。
【0015】
(実施形態に係る等方性グラニュラー薄膜の構成)
図1は実施形態に係る等方性グラニュラー薄膜の斜視図であり、
図2は実施形態に係る等方性グラニュラー薄膜の透過電子顕微鏡(Transmission Electron Microscopy、TEM)画像を示す図である。
【0016】
等方性グラニュラー薄膜1は、誘電体マトリックス2と、誘電体マトリックス2から安定的に相分離した状態で誘電体マトリックス2中に分散している強磁性ナノ粒子3とを有するグラニュラー膜である。
【0017】
誘電体マトリックス2の材料は、フッ化マグネシウム(MgF2)、フッ化アルミニウム(AlF3)、フッ化イットリウム(YF3)等のフッ化物(金属フッ化物)が好ましい。また、誘電体マトリックス2の材料は、酸化タンタル(Ta2O5)、二酸化ケイ素(SiO2)、二酸化チタン(TiO2)、五酸化二ニオビウム(Nb2O5)、二酸化ジルコニウム(ZrO2)、二酸化ハフニウム(HfO2)、及び三酸化二アルミニウム(Al2O3)等の酸化物であってもよい。誘電体マトリックス2と強磁性ナノ粒子3との良好な相分離のためには、酸化物よりもフッ化物の方が好ましく、透過率が高いフッ化マグネシウムが特に好ましい。透過率が高いフッ化マグネシウムを誘電体マトリックス2の材料の材料として使用することにより、等方性グラニュラー薄膜1の透過率が高くなり、入射される光の光量の減衰が抑制されるので、等方性グラニュラー薄膜1の光学特性が向上する。
【0018】
強磁性ナノ粒子3の材料は、ファラデー効果を生じるものであればよく、特に限定されないが、強磁性ナノ粒子3の材料としては、強磁性金属である鉄(Fe)、コバルト(Co)及びニッケル(Ni)並びにこれらの合金が挙げられる。Fe、Co及びNiの合金としては、例えば、FeNi合金、FeCo合金、FeNiCo合金、NiCo合金が挙げられる。
【0019】
強磁性ナノ粒子3の表面がフッ化されることが好ましい。強磁性ナノ粒子3の表面がフッ化されることで、フッ化物の化学量論比以上のフッ素元素を強磁性ナノ粒子3の周囲に配置することができる。
【0020】
強磁性ナノ粒子3の平均粒径は、5〔nm〕以上17〔nm〕以下であることが好ましい。強磁性ナノ粒子3の平均粒径が5〔nm〕未満であるとき、強磁性ナノ粒子3の磁気特性は、超常磁性となり、強磁性ではなくなる。また、強磁性ナノ粒子3の平均粒径が17〔nm〕より大きいとき、磁気双極子相互作用エネルギーが2.0E‐26〔J〕より大きくなり、等方性グラニュラー薄膜1の磁気特性が等方性ではなくなる。したがって、強磁性ナノ粒子3の平均粒径は、5〔nm〕以上17〔nm〕以下であることが好ましい。なお、強磁性ナノ粒子3の平均粒径は、5〔nm〕以上17〔nm〕以下であるが、6〔nm〕以上11〔nm〕以下であることが特に好ましい。強磁性ナノ粒子3の平均粒径が6〔nm〕以上11〔nm〕以下であるとき、等方性グラニュラー薄膜1の磁気特性の等方性が発現し易くなる。
【0021】
等方性グラニュラー薄膜1は、第1面内方向及び第2面内方向を含む等方性グラニュラー薄膜1の面内方向の異方性磁界Hkfと、等方性グラニュラー薄膜1の法線方向の異方性磁界Hknの差ΔHkが1〔kOe〕以下である場合、磁気的に等方性を有すると考えられる。等方性グラニュラー薄膜1は、磁気的に等方性を有することで、法線方向から入射する直線偏光により生じる外部磁場に対して高い感度を有することができる。異方性磁界Hkは、等方性グラニュラー薄膜1の面内方向又は法線方向に磁界を印加したときに飽和磁化に達する磁界である。
【0022】
等方性グラニュラー薄膜1は、法線方向から入射する直線偏光の単位長さ当たりのファラデー回転角が、0.05〔°/μm〕以上であれば、薄膜を過剰に厚く成膜する必要がなく、外部磁場に対して高いファラデー効果が得られる。等方性グラニュラー薄膜1は、法線方向から入射する外部磁場に対して高いファラデー効果を有するので、法線方向から入射する直線偏光に対して高い感度を有する。
【0023】
(等方性グラニュラー薄膜1の製造方法)
等方性グラニュラー薄膜1は、蒸着装置およびRFスパッタ装置において、誘電体マトリックス2及び強磁性ナノ粒子3のそれぞれの原材料をターゲットとして5.0E―4〔Pa〕以下の真空度中で450〔℃〕に加熱された基板上に成膜される。
【0024】
強磁性ナノ粒子3の体積濃度は、誘電体マトリックス2及び強磁性ナノ粒子3の材料の含有量を調整することで制御される。誘電体マトリックス2及び強磁性ナノ粒子3のそれぞれの成膜レートを調整することで、成膜される等方性グラニュラー薄膜1における強磁性ナノ粒子3の平均粒径及び磁気双極子相互作用エネルギーが制御される。
【0025】
(異方性磁界Hkの差ΔHkの測定方法)
図3(a)は、等方性グラニュラー薄膜1の面内方向の異方性磁界Hkfと等方性グラニュラー薄膜1の法線方向の異方性磁界Hknとの差ΔHkを示す図である。
図3(b)は異方性磁界Hkの決定方法の第2工程を示す図であり、
図3(c)は異方性磁界Hkの決定方法の第3工程を示す図であり、
図3(d)は異方性磁界Hkの決定方法の第4工程を示す図である。
図3(a)~3(d)において、横軸は外部磁場〔kOe〕を示し、縦軸は磁化〔T〕を示す。また、
図3(a)において、波形W101は面内方向の磁化を示し、波形W102は法線方向の磁化を示す。
【0026】
等方性グラニュラー薄膜1の面内方向の異方性磁界Hkfは、面内方向に印加される外部磁場を増加させたときに磁化が飽和したときの磁界である。一方、等方性グラニュラー薄膜1の法線方向の異方性磁界Hknは、法線方向に印加される外部磁場を増加させたときに磁化が飽和したときの磁界である。面内方向の異方性磁界Hkfと法線方向の異方性磁界Hknとの差ΔHkは、法線方向の異方性磁界Hknから面内方向の異方性磁界Hkfを減じた値の絶対値である。
【0027】
異方性磁界Hkの測定方法の第1工程において、VSM(振動試料型磁力計)等を用いて、等方性グラニュラー薄膜1の法線方向に磁界を印加して、磁化を計測し、異方性磁界Hknの測定に使用される磁化曲線を得る。
【0028】
次いで、
図3(b)に示すように、第2工程において、磁化曲線の原点を通り且つ磁化がゼロであるときの磁化曲線の接線方向に平行な直線L1を、第1工程で求めた磁化曲線上に付加する。第2工程において付加される直線L1の傾きθは、第1工程において外部磁化を増加させたときの磁化曲線の磁化がゼロである点P
Iの接線の傾きと、外部磁化を減少させたときの磁化曲線の磁化がゼロである点P
Dの接線の傾きの平均値として算出される。
【0029】
次いで、
図3(c)に示すように、第3工程において、磁化が正であるときの飽和磁化に平行に延伸直線L2を付加する。第2工程において付加される直線L2は、磁化曲線の正側のヒステリシスが閉じる点P
Hと、外部磁場の最大値に対応する磁化を示す点P
HMとを結んだ直線を延伸することで描画される。
【0030】
次いで、
図3(d)に示すように、第4工程において、第2工程において付加される直線L1と第3工程において付加される直線L2との交点P
Cに対応する外部磁場の値を法線方向の異方性磁界Hknとする。
【0031】
次いで、第5工程において、VSM(振動試料型磁力計)等を用いて、等方性グラニュラー薄膜1の面内方向に磁界を印加して、磁化を計測し、異方性磁界Hkfの測定に使用される磁化曲線を得る。次いで、第6工程において、磁化曲線の原点を通り且つ磁化がゼロであるときの磁化曲線の接線方向に平行な直線L1を、第5工程で求めた磁化曲線上に付加する。次いで、第7工程において、磁化が正であるときの飽和磁化に平行に延伸直線L2を付加する。次いで、第8工程において、第6工程において付加される直線L1と第7工程において付加される直線L2との交点PCに対応する外部磁場の値を面内方向の異方性磁界Hkfとする。第6工程~第8工程は、第2工程~第4工程と同様なので、ここでは詳細な説明は省略する。
【0032】
そして、第9工程において、第4工程において得られた法線方向の異方性磁界Hknから第8工程において得られた面内方向の異方性磁界Hkfを減じた値の絶対値を、面内方向の異方性磁界Hkfと法線方向の異方性磁界Hknとの差ΔHkとして求める。
【0033】
(ファラデー回転角の測定方法)
ファラデー回転角は、直交偏光子法、回転検光子法、振動偏光子法、及びファラデー変調器法等の公知の測定方法により測定される。
【0034】
(強磁性ナノ粒子3の平均粒径の測定方法)
図4は、強磁性ナノ粒子3の平均粒径を算出するために使用されるTEM画像の一例を示す図である。
【0035】
強磁性ナノ粒子3の平均粒径〔nm〕は、等方性グラニュラー薄膜1の表面の任意の領域を撮像したTEM画像に含まれる強磁性ナノ粒子3の粒径の平均値として算出される。まず、撮像工程において、等方性グラニュラー薄膜1の表面の任意の領域のTEM画像が撮像される。撮像工程において撮像されるTEM画像の撮像領域は、100〔nm〕×100〔nm〕の矩形の領域である。
【0036】
次いで、粒径抽出工程において、TEM画像に含まれる強磁性ナノ粒子3の粒径が抽出される。粒径抽出工程において、強磁性ナノ粒子3の粒径は、強磁性ナノ粒子3の長手方向の長さと短手方向の長さの平均値として抽出される。例えば、粒子Gの長手方向の長さは、LLであり、短手方向の長さはLSであるので、粒子Gの粒径は、(LL+LS)/2で求めることができる。
【0037】
粒径抽出工程では、撮像工程において撮像されたTEM画像に含まれる強磁性ナノ粒子3の内、輪郭が明確であり且つ他の強磁性ナノ粒子3と重なって撮像されていない少なくとも20個の強磁性ナノ粒子3の粒径を抽出する。そして、平均粒径算出工程において、粒径抽出工程において抽出された強磁性ナノ粒子3の粒径の平均値が強磁性ナノ粒子3の平均粒径dとされる。
図4において、平均粒径dを算出するために利用された全ての粒子の周囲を点線で示している。
【0038】
(強磁性ナノ粒子の磁気双極子相互作用エネルギーの算出方法)
強磁性ナノ粒子3の磁気双極子相互作用エネルギーは、強磁性ナノ粒子3の平均粒径から算出される強磁性ナノ粒子3の体積、及び強磁性ナノ粒子3の粒子中心間距離に基づいて算出される。
【0039】
図5は、強磁性ナノ粒子3の磁気双極子相互作用エネルギーの算出に使用される変数を示す図である。
図5において、符号「d」は強磁性ナノ粒子3の平均粒径を示し、符号「h」は強磁性ナノ粒子3の表面間距離を示し、符号「r」は強磁性ナノ粒子3の中心間距離を示す。
【0040】
まず、体積濃度算出工程において、等方性グラニュラー薄膜1における強磁性ナノ粒子3の体積濃度を算出する。体積濃度算出工程では、エネルギー分散型X線分光法(Energy Dispersive X-ray Spectroscopy、EDX)による元素分析により、等方性グラニュラー薄膜1の組成比を測定する。次いで、測定された等方性グラニュラー薄膜1の組成比、及び等方性グラニュラー薄膜1に含有される元素の密度から等方性グラニュラー薄膜1における強磁性ナノ粒子3の体積濃度を算出する。等方性グラニュラー薄膜1に含有されるCoおよびMgF2の密度は、理論密度を使用する。
【0041】
次いで、表面間距離算出工程において、
図4を用いて求めた等方性グラニュラー薄膜1における強磁性ナノ粒子3の平均粒径d及び体積濃度算出工程において算出された等方性グラニュラー薄膜1における強磁性ナノ粒子3の体積濃度F〔vol%〕から式(1)を使用して表面間距離h〔nm〕を算出する。
【0042】
【0043】
次いで、磁気双極子相互エネルギー算出工程において、式(2)を使用して磁気双極子相互エネルギーEp-p〔J〕が算出される。式(2)において、MS〔Wb/m2〕は飽和磁化値であり、V〔nm3〕は強磁性ナノ粒子3の平均粒径から算出される強磁性ナノ粒子3の体積であり、μ0は真空での透磁率であり、r〔nm〕は強磁性ナノ粒子3の中心間距離である。中心間距離は、強磁性ナノ粒子3の平均粒径d〔nm〕と表面間距離算出工程において算出される表面間距離h〔nm〕との和である。
【0044】
【0045】
(等方性グラニュラー薄膜の評価)
強磁性ナノ粒子3の主成分をCoとし、誘電体マトリックス2の主成分をMgF2とした等方性グラニュラー薄膜を複数製造し、強磁性ナノ粒子の体積濃度、平均粒径及び磁気双極子相互作用エネルギーを変化させたときの等方性及びファラデー効果を評価した。等方性グラニュラー薄膜1は、Co及びMgF2をターゲットとして5.0E-4〔Pa〕以下の真空度中で450〔℃〕に加熱された基板上に成膜された。
【0046】
製造する等方性グラニュラー薄膜では、強磁性ナノ粒子の体積濃度が、0.5〔vol%〕、1〔vol%〕、3〔vol%〕、5〔vol%〕、10〔vol%〕、20〔vol%〕となるように、Co及びMgF2の含有量を調整した。製造された複数の等方性グラニュラー薄膜について、前述した「強磁性ナノ粒子3の平均粒径の算出方法」に基づいて平均粒径d(nm)を測定し、前述した式(1)を利用して表面間距離h(nm)を算出した。また、測定した平均粒径d(nm)及び算出した表面間距離h(nm)と、前述した式(2)を利用して磁気双極子相互エネルギーEp-pを算出した。
【0047】
表1は、製造した13種類の等方性グラニュラー薄膜について、強磁性ナノ粒子の主成分、誘電体マトリックスの主成分、強磁性ナノ粒子の体積濃度〔vol%〕、平均粒径〔nm〕、及び、磁気双極子相互作用エネルギー〔J〕を記載した表である。
【0048】
なお、表1では、製造した13種類の等方性グラニュラー薄膜について、前述した「異方性磁界Hkの差ΔHkの測定方法」に従い、「等方性」の指標として面内方向の異方性磁界Hkfと法線方向の異方性磁界Hknとの差ΔHkを測定した。前述した様に、面内方向の異方性磁界Hkfと法線方向の異方性磁界Hknとの差ΔHkが1〔kOe〕以下である場合、磁気的に等方性を有すると考えられることから、測定した値が1〔kOe〕以下の場合に「〇」と記入し、そうでない場合に「×」を記入した。さらに、表1では、製造した13種類の等方性グラニュラー薄膜について、前述した「ファラデー回転角の測定方法」に従い、「ファラデー効果」の指標としてファラデー回転角を測定した。前述した様に、ファラデー回転角が0.05〔°/μm〕以上である場合、所望のファラデー効果を得られると考えられることから、測定したファラデー回転角が0.05〔°/μm〕以上である場合に「〇」と記入し、そうでない場合に「×」を記入した。
【0049】
表1では、「等方性」及び「ファラデー効果」の双方に「〇」が記入される等方性グラニュラー薄膜を実施例1~10とし、そうでない場合を比較例1~3とした。
【0050】
【0051】
図6は実施例6の磁化曲線を示す図であり、
図7は比較例2の磁化曲線を示す図である。
図6及び7において、横軸は外部磁場〔kOe〕を示し、左縦軸は磁化〔T〕を示し、右縦軸はファラデー回転角θ
Fを示す。また、
図6及び7において、実線は法線方向に外部磁場を印加したときの磁化曲線を示し、破線は面内方向に外部磁場を印加したときの磁化曲線を示し、丸印はファラデー回転角θ
Fを示す。
【0052】
実施例6において、面内方向の異方性磁界Hkfと法線方向の異方性磁界Hknの差ΔHkは0.1〔kOe〕であり、ファラデー回転角が0.12〔°/μm〕である。また、比較例2において、面内方向の異方性磁界Hkfと法線方向の異方性磁界Hknの差ΔHkは1.6〔kOe〕であり、ファラデー回転角が0.23〔°/μm〕である。
【0053】
図6の面内方向の磁化曲線と法線方向の磁化曲線が概ね一致しており、また異方性磁界の差ΔHkも十分に小さいことから磁化方向に異方性が無く、等方性であることがわかる。一方で、
図7では、面内方向の磁化曲線に比べて法線方向の磁化曲線の傾きが小さく異方性磁界の差ΔHkも大きいことから面内方向に磁化が向きやすい異方性を有していることが分かる。薄膜のファラデー効果を利用する場合、通常は法線方向に入射するのが一般的であるため、
図6のような等方性である方が、外部磁界に対する感度が高くなる。
【0054】
図8は実施例1~10及び比較例1~3のそれぞれの強磁性ナノ粒子3の平均粒径、磁気双極子相互作用エネルギー及び体積濃度の関係を示す図である。
図8において、横軸は強磁性ナノ粒子3の平均粒径を示し、横軸は強磁性ナノ粒子3の平均粒径〔nm〕であり、縦軸は強磁性ナノ粒子3の磁気双極子相互作用エネルギー〔J〕である。図中の点1~E10は実施例1~10に対応し、点C1~C3は比較例1~3に対応している。
【0055】
また、
図8に示す5つの曲線は、同じ体積濃度を有する実施例を結んだ曲線である。曲線W201は体積濃度を1〔vol%〕に対応し、曲線W202は体積濃度を3〔vol%〕に対応し、曲線W203は体積濃度を5〔vol%〕に対応し、曲線204は体積濃度を10〔vol%〕に対応し、曲線205は体積濃度を20〔vol%〕に対応している。
【0056】
図8より、斜線で示した領域80に合致する等方性グラニュラー薄膜(実施例1~10)は、強磁性ナノ粒子の平均粒径が5.0〔nm〕以上17.0〔nm〕以下であり、強磁性ナノ粒子の粒子体積濃度が1〔vol%〕以上20〔vol%〕以下であり、強磁性ナノ粒子の磁気双極子相互作用エネルギーが、2.0E-26〔J〕以下であり、所定の等方性及びファラデー効果を有することが理解できる。
【0057】
一方、
図8の領域80外の等方性グラニュラー薄膜(比較例1~3)は、所定の等方性及びファラデー効果を有していない。比較例1では、強磁性ナノ粒子3の平均粒径は4〔nm〕と5〔nm〕よりも小さいため、強磁性ナノ粒子3の磁気特性は、超常磁性となり、強磁性ではなくなる。比較例2では、磁気双極子相互作用エネルギーは6.1×10E-26〔J〕と2.0×10E-26〔J〕よりも高いため、ΔHkが1〔kOe〕よりも大きく、十分な等方性を得ることが出来なかった。比較例3では、強磁性ナノ粒子3の平均粒径は10〔nm〕と実施例1よりも大きいものの体積濃度は0.5〔vol%〕と実施例1及び2の体積濃度である1〔vol%〕よりも小さいため、ファラデー回転角が0.05〔°/μm〕よりも小さくなり、十分なファラデー効果を得ることが出来なかった。
【0058】
以上より、強磁性ナノ粒子の平均粒径が5.0〔nm〕以上17.0〔nm〕以下であり、強磁性ナノ粒子の粒子体積濃度が1〔vol%〕以上20〔vol%〕以下であり、強磁性ナノ粒子の磁気双極子相互作用エネルギーが、2.0E-26〔J〕以下である等方性グラニュラー薄膜が、直線偏光を磁性体薄膜の法線方向から入射させたときに、外部磁界に対する感度が高い等方性グラニュラー薄膜として利用可能であると言える。