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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-18
(45)【発行日】2024-10-28
(54)【発明の名称】補強構造
(51)【国際特許分類】
   E04C 3/14 20060101AFI20241021BHJP
【FI】
E04C3/14
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2024098748
(22)【出願日】2024-06-19
【審査請求日】2024-08-08
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096091
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 誠一
(72)【発明者】
【氏名】高谷 真次
(72)【発明者】
【氏名】田中 裕樹
(72)【発明者】
【氏名】皆川 宥子
【審査官】兼丸 弘道
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-115663(JP,A)
【文献】米国特許第5501054(US,A)
【文献】特開2002-021252(JP,A)
【文献】特開平10-176385(JP,A)
【文献】特開2021-063336(JP,A)
【文献】国際公開第2016/108742(WO,A1)
【文献】特開2024-084352(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04C 3/12-3/18
E04C 5/07
B27M 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
木質梁の補強構造であって、
前記木質梁は、梁材の梁軸方向の側面である対向面同士が対向するように複数の梁材を梁幅方向に重ねたものであり、
前記梁材は、梁幅方向に貫通する貫通孔を有し、
繊維補強シートが、前記梁材の対向面の前記貫通孔の周囲と、前記貫通孔の孔壁とに設けられたことを特徴とする補強構造。
【請求項2】
前記繊維補強シートは、前記梁材の対向面の前記貫通孔の周囲と、前記貫通孔の孔壁にのみ設けられることを特徴とする請求項1記載の補強構造。
【請求項3】
前記繊維補強シートは、前記梁材の対向面において、
前記貫通孔の中心から梁軸方向に対して45°傾斜した4方向の位置を覆うように配置されたことを特徴とする請求項1記載の補強構造。
【請求項4】
前記繊維補強シートは、前記梁材の対向面と前記貫通孔の孔壁とに亘って連続するように設けられることを特徴とする請求項1記載の補強構造。
【請求項5】
前記貫通孔の開口縁が面取りされたことを特徴とする請求項4記載の補強構造。
【請求項6】
前記繊維補強シートは、前記梁材の対向面において、前記梁材の対向面に設けた溝内に配置されることを特徴とする請求項1記載の補強構造。
【請求項7】
前記貫通孔の延伸方向から見た時に、複数の前記梁材の対向面の繊維補強シートが、一部が重なるように配置されたことを特徴とする請求項1記載の補強構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木質梁の補強構造に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、木質材を建物の梁として使用する事例が増加しつつある。このような木質梁に貫通孔をあけて設備配管等を通すことは、天井裏空間の有効活用につながり、階高を低減できるメリットがある。
【0003】
ただし、木質梁に貫通孔をあけると耐力の低下が予測される。例えば図11は貫通孔101を有する木質梁100の概略を示す図であるが、鉛直荷重等に対して木質梁100の貫通孔101周辺に生じる応力は、木質梁100の梁軸方向の側面において、貫通孔101の中心Cから梁軸方向Hに対しておよそ45°傾斜した方向aの位置で大きくなり、当該位置を起点に木質梁100に梁軸方向の亀裂(割裂)102が生じる可能性が高いことが知られている(「円形孔を有する集成材梁の耐力に関する研究」岡本他、日本建築学会構造系論文集、第85巻、第775号、1199-1208、2020年9月)。
【0004】
これに対し、特許文献1では、貫通孔を有する木質梁の補強構造として、木質梁の梁心部の側面に繊維補強シートを設け、これにより木質梁の耐力の低下を抑制することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第6482224号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
木質梁としては、梁材を梁幅方向に重ねて用いたものもある。このような場合にも、貫通孔の補強構造として、確実に貫通孔の補強を行えるようなものが求められていた。
【0007】
本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、梁材を梁幅方向に重ねた木質梁において、確実に貫通孔の補強を行える補強構造等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するための本発明は、木質梁の補強構造であって、前記木質梁は、梁材の梁軸方向の側面である対向面同士が対向するように複数の梁材を梁幅方向に重ねたものであり、前記梁材は、梁幅方向に貫通する貫通孔を有し、繊維補強シートが、前記梁材の対向面の前記貫通孔の周囲と、前記貫通孔の孔壁とに設けられたことを特徴とする補強構造である。
【0009】
本発明では複数の梁材により木質梁を構成し、この時、梁材の対向面の貫通孔の周囲と、貫通孔の孔壁とに繊維補強シートを設ける。これにより、梁材を梁幅方向に重ねた木質梁において確実に貫通孔の補強を行い、貫通孔から進行する亀裂を繊維補強シートによって抑制することができる。また梁材の対向面の繊維補強シートは梁材の間に挟まって木質梁の内部に配置されるため、耐久性等の面でも好ましい。
【0010】
前記繊維補強シートは、前記梁材の対向面と前記貫通孔の孔壁にのみ設けられることが望ましい。
これにより、繊維補強シートが木質梁の外部に露出するのを避けることができ、木質梁の意匠面で好ましい。
【0011】
前記繊維補強シートは、前記梁材の対向面において、前記貫通孔の中心から梁軸方向に対して45°傾斜した4方向の位置を覆うように配置されることが望ましい。
これにより、貫通孔を有する梁材について、前記した亀裂の発生や進行をより確実に防止できる。
【0012】
前記繊維補強シートは、前記梁材の対向面と前記貫通孔の孔壁とに亘って連続するように設けられることが望ましい。また、前記貫通孔の開口縁が面取りされることも望ましい。
繊維補強シートが梁材の対向面と貫通孔の孔壁との間で連続していれば、繊維補強シートの施工を簡易に行うことができる。また貫通孔周辺の応力に対し、梁材の対向面の繊維補強シートと貫通孔の孔壁の繊維補強シートとが一体で抵抗できる。さらに、貫通孔の開口縁が面取りされることにより、繊維補強シートが開口縁で直角に折れ曲がるのを避け、繊維補強シートに損傷が生じるのを抑制できる。
【0013】
前記繊維補強シートは、前記梁材の対向面において、前記梁材の対向面に設けた溝内に配置されることも望ましい。
これにより、梁材の対向面から繊維補強シート等が浮き上げるのを避けることができ、梁材同士を隙間なく並べることができる。
【0014】
複数の前記梁材の対向面の繊維補強シートが、前記貫通孔の延伸方向から見た時に、一部が重なるように配置されることも望ましい。
これにより、繊維補強シートの使用量を減らしつつ広範囲を補強できる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、梁材を梁幅方向に重ねた木質梁において、確実に貫通孔の補強を行える補強構造等を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】補強構造10を有する木質梁1を示す図。
図2】木質梁1の断面を示す図。
図3】木質梁1を構成する梁材2を分解して示した斜視図。
図4】繊維補強シート3の配置の別の例。
図5】繊維補強シート3の配置の別の例。
図6】溝211、221を示す図。
図7】貫通孔21の開口縁を面取りする例。
図8】補強構造10aを有する木質梁1aを示す図。
図9】繊維補強シートを、対向面22のシート31と貫通孔21の孔壁のシート32とに分割する例。
図10】貫通孔21の断面を矩形状とする例。
図11】木質梁100の概略を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面に基づいて本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0018】
(1.木質梁1)
図1は、本発明の実施形態に係る補強構造10を有する木質梁1を示す図であり、木質梁1の梁軸方向の側面を示したものである。梁軸方向は図1の左右方向に対応する。図1に示すように、木質梁1は、梁材2と繊維補強シート3等を有する。補強構造10は、繊維補強シート3によって木質梁1の梁材2を補強するものである。
【0019】
梁材2は、木質梁1において主に荷重を負担する荷重支持部であり、木質材により梁状に形成される。梁材2の梁軸方向と直交する断面は、例えば矩形状である。木質材は、繊維方向を梁軸方向とした集成材等であるが、これに限ることはない。例えばCLT(Cross Laminated Timber)など、繊維方向を梁軸方向または梁せい方向としたその他の木質材を用いてもよい。梁せい方向は図1の上下方向に対応する。
【0020】
図2は、図1の線A-Aによる木質梁1の断面を示したものである。図2に示すように、木質梁1は、複数の梁材2を、梁軸方向の側面である対向面22同士が対向するように梁幅方向に重ねて形成される。梁幅方向は梁軸方向および梁せい方向と直交する方向であり、図2の左右方向に対応する。
【0021】
梁材2は貫通孔21を有する。貫通孔21は、梁材2を梁幅方向に貫通するように設けられる。貫通孔21は設備配管等を通すためのものである。図1に示すように、本実施形態では梁材2の梁せい方向の中心部に貫通孔21が形成され、その断面が円形とされる。しかしながら、貫通孔21の位置や形状等は特に限定されない。
【0022】
繊維補強シート3は、梁材2の対向面22および貫通孔21の孔壁に設けられる帯状のシートである。繊維補強シート3は、梁材2の補強を行い、前記した亀裂の発生や進行を抑制する。繊維補強シート3としては、構造性能が既知のアラミド繊維シートが用いられる。繊維補強シート3は例えば幅10cm程度の細幅のものであり、厚さは例えば1mm以下である。しかしながら、繊維補強シート3の材料や寸法がこれらに限ることはない。例えば繊維補強シート3として炭素繊維補強シートを用いることもできる。
【0023】
本実施形態では、繊維補強シート3が、梁材2の対向面22と貫通孔21の孔壁とに亘って連続するように設けられる。繊維補強シート3は、図示しない接着材により梁材2の対向面22と貫通孔21の孔壁に接着して固定される。接着材としては、エポキシ樹脂系の接着材を用いることができるが、これに限ることはない。
【0024】
梁材2の対向面22における貫通孔21および繊維補強シート3の位置は、木質梁1を構成する複数の梁材2の間で対応している。これらの梁材2の対向面22の繊維補強シート3同士は、図示しない接着材等で固定される。あるいは、両梁材2の対向面22の繊維補強シート3を貫通するように、梁幅方向のビス(不図示)を木質梁1に打ち込んでもよい。
【0025】
(2.繊維補強シート3による補強構造10)
図3は、木質梁1を構成する梁材2を分解して示した斜視図である。本実施形態では、4本の繊維補強シート3(3-1~3-4)を用いて梁材2の貫通孔21の周囲が補強され、これにより貫通孔21を起点とする梁軸方向(梁材2の繊維方向)の亀裂が防止される。
【0026】
繊維補強シート3-1~3-4の長手方向の一方の端部は、梁材2の対向面22において、貫通孔21から外側へと放射状に配置される。当該端部は、貫通孔21の中心Cから梁軸方向Hに対して45度傾斜した4方向a1~a4の位置を覆うように配置される。
【0027】
繊維補強シート3-1~3-4の長手方向の他方の端部は、貫通孔21の開口縁で折り返されて貫通孔21内に折り込まれ、貫通孔21の孔壁に設けられる。当該端部は、貫通孔21の延伸方向の中間部まで達している。しかしながら、当該端部は、貫通孔21内において、梁材2の対向面22と反対側の側面23の手前まで達するように配置してもよいし、当該側面23に達するように配置してもよい。
【0028】
梁材2の対向面22における繊維補強シート3-1~3-4の長さLや幅Wは、事前の構造計算で割り出した貫通孔21の開口縁の応力が大きくなっている範囲を余裕をもって覆うことができるように決定する。繊維補強シート3-1~3-4の幅Wは、貫通孔21の孔壁においても、亀裂の起点となると想定される範囲を余裕をもって覆うようにする。これにより、貫通孔21の孔壁上の起点から梁材2に発生すると想定される亀裂の幅を繊維補強シート3-1~3-4で覆うことができ、亀裂の発生を防止できる。
【0029】
貫通孔21は工場等において梁材2に形成され、繊維補強シート3も工場等で梁材2に設けられる。こうして製作された梁材2を現場に搬入し、一対の梁材2を重ねて配置して木質梁1とする。あるいは、工場等で一対の梁材2を重ねて木質梁1を製作し、完成品の木質梁1を現場に搬入して使用してもよい。
【0030】
以上説明したように、本実施形態では、複数の梁材2により木質梁1を構成し、この時、梁材2の対向面22の貫通孔21の周囲と、貫通孔21の孔壁とに繊維補強シート3を設ける。これにより、梁材2を梁幅方向に重ねた木質梁1において確実に貫通孔21の補強を行い、貫通孔21から進行する亀裂を繊維補強シート3によって抑制することができる。このように貫通孔21の補強を行うことで、梁せいに対する貫通孔21の孔径を大きくすることができ、貫通孔21を形成するハードルも低くなる。結果、設備配管等の配置の自由度が向上し、建物の階高の低減や、天井裏のスペースの有効利用等が可能になる。
【0031】
また梁材2の対向面22の繊維補強シート3は梁材2の間に挟まって木質梁1の内部に配置されるため、耐久性等の面でも好ましい。さらに、繊維補強シート3は、梁材2の対向面22と貫通孔21の孔壁にのみ設けられ、梁材2の対向面22と反対側の側面23には設けられないので、繊維補強シート3が木質梁1の外部に露出するのを避けることができ、木質梁1の意匠面でも好ましい。
【0032】
また梁材2の対向面22では、繊維補強シート3が貫通孔21の中心Cから梁軸方向Hに対して45°傾斜した4方向a1~a4の位置を覆うように配置されており、貫通孔21を有する梁材2について、前記した亀裂の発生や進行をより確実に防止できる。
【0033】
また本実施形態では、繊維補強シート3が梁材2の対向面22と貫通孔21の孔壁に亘って連続するように設けられるので、梁材2の対向面22と貫通孔21の孔壁に別々に繊維補強シート3を配置する場合と比較して、繊維補強シート3の施工を簡易に行うことができる。また貫通孔21周辺の応力に対し、梁材2の対向面22の繊維補強シート3と貫通孔21の孔壁の繊維補強シート3とが一体で抵抗できる。
【0034】
しかしながら、本発明は前記の実施形態に限定されない。例えば本実施形態では2つの梁材2を重ねて木質梁1としているが、3つ以上の梁材2を前記したように重ねて木質梁としてもよい。この場合も、繊維補強シート3は、隣り合う梁材2の対向面22と貫通孔21の孔壁に設けられる。
【0035】
また繊維補強シート3は、梁材2の貫通孔21内から梁材2の対向面22と反対側の側面23まで連続させ、当該側面23においても、前記した対向面22における配置と同様の配置で設けられるようにしてもよい。これにより梁材2の補強効果が向上する。
【0036】
また繊維補強シート3は、梁材2の対向面22の貫通孔21の周囲と、貫通孔21の孔壁とに設けられていればよく、その具体的配置も図3の例に限定されない。図4図5は、繊維補強シート3の配置の別の例を、図3と同様の斜視図で示したものである。
【0037】
例えば図4(a)、(b)の例では、梁材2の対向面22において、貫通孔21から遠ざかるにつれて幅広となる2枚の繊維補強シート3が貫通孔21の梁軸方向の左右両側と上下とにそれぞれ配置される。これらの繊維補強シート3は貫通孔21の開口縁で折り返され、貫通孔21の孔壁に折り込まれる。また図4(c)の例は、梁材2の対向面22において、貫通孔21の開口縁に沿った円弧状の繊維補強シート3を、貫通孔21の左上、右上、左下、右下に設けたものである。これらの繊維補強シート3も貫通孔21の開口縁で折り返され、貫通孔21の孔壁に折り込まれる。
【0038】
また図5(a)の例では、梁材2の対向面22において、貫通孔21の周囲を矩形状に囲む繊維補強シート3が設けられる。上記と同様、繊維補強シート3は貫通孔21の開口縁で折り返され、貫通孔21の孔壁に折り込まれる。図5(b)は、図5(a)の繊維補強シート3を上下に2分割した例であり、図5(c)は、図5(a)の繊維補強シート3を上下左右に4分割したものである。
【0039】
図5(a)の例は、繊維補強シート3が1枚で済むため施工が簡単であり、図4(a)、(b)、図5(b)の例は、繊維補強シート3が2枚で済むため次いで施工性が良い。また、図4(b)、図5(a)、(b)の例は、繊維補強シート3が貫通孔21の上下で梁軸方向に延伸するため、梁軸方向の荷重伝達性能が向上する。また図4(c)、図5(c)の例は、貫通孔21の周囲の繊維補強シート3を4つに分割した形となっており、貫通孔21の周囲を広く覆いながらも繊維補強シート3の使用量を極力減らすことができる。
【0040】
また、図6において図2と同様の断面で示すように、梁材2の貫通孔21の孔壁と対向面22とに座彫りを施して溝211、221をそれぞれ設け、溝211、221内に繊維補強シート3を配置してもよい。溝211、221の深さは、繊維補強シート3や接着材の厚さを考慮して決定される。これにより、繊維補強シート3や接着材が梁材2の貫通孔21の孔壁や対向面22から盛り上がるのを避け、2つの梁材2を隙間なく重ねることができるなど、木質梁1の施工が容易になる。ただし、座彫りを施す分、梁材2の製作自体には手間がかかる。
【0041】
さらに、図7において図2と同様の断面で示すように、梁材2の貫通孔21の開口縁において、繊維補強シート3の折り返し箇所に対応する一部あるいは全周を面取りし、対向面22や貫通孔21の孔壁に対して傾斜した傾斜面24としてもよい。これにより、繊維補強シート3が貫通孔21の開口縁で直角に折れ曲がることによる損傷を抑制できる。傾斜面24はごく小さなもので問題ない。
【0042】
また、本実施形態では木質梁1を構成する複数の梁材2の対向面22において、繊維補強シート3が対応する位置に配置されるが、これに限ることもない。例えば図8の木質梁1aの補強構造10aに示すように、一方の梁材2の繊維補強シート3aと他方の梁材2の繊維補強シート3bを、異なる位置あるいは異なる向きで配置してもよい。
【0043】
ただし、これらの繊維補強シート3は、貫通孔21の延伸方向(図8の紙面法線方向に対応する)から見た時に、一部が重なるように配置される。これにより、繊維補強シート3の使用量を増やすことなく広範囲の補強が可能となる。なお、両繊維補強シート3a、3bとも、貫通孔21の中心Cから梁軸方向Hに対して45°傾斜した4方向a1~a4(図3参照)の位置を覆うように配置される。
【0044】
さらに、図9において分解斜視図として示すように、梁材2の繊維補強シートを、対向面22のシート31と貫通孔21の孔壁のシート32とに分割して施工してもよい。前者のシート31は、梁材2の間に1枚のみ設けられる。この場合、繊維補強シートを貫通孔21の開口縁で折り返す作業が不要となる。また梁材2の間に配置される繊維補強シートが1枚となるので、繊維補強シートの使用量を削減できる。
【0045】
図9の例では、シート31が中央に孔を有する矩形状のものであり、両梁材2の貫通孔21を矩形状に囲むように配置される。またシート32は貫通孔21の孔壁の全周に亘って配置される帯状の部材である。なお、シート32は貫通孔21の孔壁の周方向に複数枚に分けて配置してもよいが、その場合でも、亀裂の起点となると想定される範囲は余裕をもって覆うようにする。例えば、貫通孔21の中心Cから梁軸方向Hに対して45°傾斜した4方向a1~a4(図3参照)の位置を覆うように配置する。
【0046】
なお、繊維補強シートを梁材2の対向面22のシート31と貫通孔21の孔壁のシート32とに分割して施工する形態は、図3~5など、繊維補強シート3の他の配置例にも適用することが可能である。
【0047】
また本実施形態では貫通孔21の断面が円形であるが、貫通孔21の形状もこれに限らない。例えば図10において図3と同様の斜視図で示すように、梁材2の貫通孔21の断面は矩形状であってもよい。この例では、繊維補強シート3(3-1、3-2)が、梁材2の対向面22において矩形状であり、貫通孔21の梁軸方向の左右両側に配置される。これらの繊維補強シート3は、貫通孔21の開口縁で折り返され、貫通孔21内に折り込まれる。貫通孔21の断面は矩形状であるため、繊維補強シート3の折線は直線状となる。そのため、繊維補強シート3を容易に折り返すことができ、施工が容易になる。
【0048】
対向面22における繊維補強シート3の形状や大きさも、事前の構造計算で割り出した貫通孔21の開口縁の応力が大きくなっている範囲を余裕をもって覆うことができるように決定する。この例では、梁材2の対向面22において、繊維補強シート3(3-1、3-2)が、貫通孔21の中心Cから貫通孔21の断面の四隅に達する4方向b1~b4の位置を覆うように配置される。なお図10の例においても、図9の例と同様、繊維補強シート3を梁材2の対向面22と貫通孔21の孔壁とで分割して施工することは可能である。
【0049】
以上、添付図面を参照しながら、本発明に係る好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、本願で開示した技術的思想の範疇内において、各種の変更例又は修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0050】
1、1a、100:木質梁
2:梁材
3、3-1~3-4、3a、3b:繊維補強シート
10、10a:補強構造
21、101:貫通孔
22:対向面
23:側面
24:傾斜面
211、221:溝
【要約】
【課題】梁材を梁幅方向に重ねた木質梁において、確実に貫通孔の補強を行える補強構造等を提供する。
【解決手段】木質梁は、梁材2の梁軸方向の側面である対向面22同士が対向するように複数の梁材2を梁幅方向に重ねたものである。梁材2は、梁幅方向に貫通する貫通孔21を有する。木質梁の補強構造では、繊維補強シート3が、梁材2の対向面22の貫通孔21の周囲と、貫通孔21の孔壁とに設けられる。繊維補強シート3は、梁材2の対向面22において、貫通孔21の中心Cから梁軸方向Hに対して45°傾斜した4方向a1~a4の位置を覆うように配置される。
【選択図】図3
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11