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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-18
(45)【発行日】2024-10-28
(54)【発明の名称】不焼成れんが及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/043 20060101AFI20241021BHJP
   C04B 35/443 20060101ALI20241021BHJP
   F27D 1/00 20060101ALI20241021BHJP
【FI】
C04B35/043 500
C04B35/443
F27D1/00 N
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2024117626
(22)【出願日】2024-07-23
【審査請求日】2024-07-30
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000138772
【氏名又は名称】株式会社ヨータイ
(74)【代理人】
【識別番号】110001885
【氏名又は名称】弁理士法人IPRコンサルタント
(72)【発明者】
【氏名】田中 憲一
(72)【発明者】
【氏名】芝原 茉依
(72)【発明者】
【氏名】木村 健二
【審査官】大西 美和
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-024910(JP,A)
【文献】特開昭61-068367(JP,A)
【文献】特開2001-253768(JP,A)
【文献】特開2001-247356(JP,A)
【文献】特開平08-081256(JP,A)
【文献】特表2024-525514(JP,A)
【文献】特開昭58-140371(JP,A)
【文献】特開昭59-156958(JP,A)
【文献】特開昭57-129878(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/443
C04B 35/043
F27D 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マグネシア又はマグネシア及びスピネルを主成分とし、1~2質量%の塩基性乳酸アルミニウムを含む耐火性原料100%に対して、外掛けで1~2質量%のアルミン酸ソーダ水溶液を添加して混練した後、任意の形状の成形体を得る第一工程と、
前記第一工程で得た前記成形体を乾燥させて乾燥体を得る第二工程と、を有し、
前記第一工程において、前記アルミン酸ソーダ水溶液を添加した前記主成分にリン酸塩を添加し、前記乾燥体のリン(P)の含有量を0.2~0.6質量%とし、
前記アルミン酸ソーダ水溶液のAl 固形分濃度を10~20質量%とすること、
を特徴とする不焼成れんがの製造方法。
【請求項2】
前記リン酸塩として、リン酸ナトリウムガラス、第一リン酸カルシウム、リン酸カリウムガラス及びリン酸アルミニウムのうちの少なくとも一つを添加すること、
を特徴とする請求項1に記載の不焼成れんがの製造方法。
【請求項3】
マグネシア又はマグネシア及びスピネルを主成分とし、
リン(P)の含有量が0.2~0.6質量%であり、
圧縮強さが100MPa以上であること、
を特徴とする不焼成れんが。
【請求項4】
レナニット(CaNaPO)が形成されていること、
を特徴とする請求項に記載の不焼成れんが。
【請求項5】
1200℃における曲げ強さが10MPa以上であること、
を特徴とする請求項又はに記載の不焼成れんが。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製鉄製鋼、非鉄金属製錬、石灰製造、セメント製造及びガラス製造等の工業炉の内張り等として使用することができる耐火物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
マグネシアスピネルれんがは、耐熱スポーリング性と容積安定性に優れ、主にセメントや石灰を焼成するロータリーキルンで使用されている。マグネシアスピネルれんがは焼成工程を経て製造される焼成耐火物であるが、二酸化炭素排出量を削減するという観点では、焼成工程を経ない不焼成耐火物が優れている。
【0003】
例えば、特許文献1(特開平9-87007号公報)においては、「スラグ耐食性に優れたマグネシア質れんがのスラグ浸透の改善のために、マグネシア粒子の周辺にスピネルを生成させ、マグネシア粒子を二次生成のスピネルで結合させた組織を形成すること」を課題として、「アルミニウムを含む金属粉末0.5~10重量%、炭素を含む樹脂を固定炭素量に換算して0.5~3重量%含有し、残部がマグネシアを主体とする耐火材料よりなることを特徴とするマグネシア質不焼成れんが」が提案されている。
【0004】
上記特許文献1に記載のマグネシア質不焼成れんがにおいては、800℃付近の温度域よりアルミニウムと樹脂中の炭素が反応して炭化アルミニウムを生成し、更に温度が上昇すると、れんが内の雰囲気であるCOと炭化アルミニウムが反応してアルミナと炭素を生成する。アルミナはれんが素材のマグネシアと反応してスピネルを生成し、このスピネルは1000℃付近の温度域より生成されるため、溶融金属容器の内張りに使用された場合、稼働面付近は主としてマグネシア及び二次生成されたスピネルで構成された組織となる。この二次生成されたスピネルは反応性に富むため、スラグと接触した場合スラグ中のFeO、MnO等の成分はスピネル中に固溶され、れんが深部への浸透が抑制される。また、スラグ中のCaO成分はスピネル生成前のアルミナによりCaO・Al系化合物として捕捉され、れんが内部への浸透が防止される、とされている。
【0005】
また、特許文献2(特開2000-272956号公報)においては、「2次精錬炉の鍋の内張りに使用した際に、耐食性が良好で、亀裂、剥離、目地開き等が発生しない不焼成耐火物を提供すること」を課題として、「組成が、Al:94.7重量%、MgO:5.3重量%、アルミナ原料として、電融アルミナを80重量%、仮焼アルミナを10重量%、マグネシア原料として、粒度3.36~1.0mmの電融マグネシアを5重量%、および粒度1.0mm以下の電融スピネルを5重量%配合した不焼成アルミナ-マグネシア系れんが。」が提案されている。
【0006】
上記特許文献2に記載の不焼成アルミナ-マグネシア系れんがにおいては、マグネシア量を適正範囲とし、マグネシア供給原料としてマグネシアとスピネルを選び、それらの配合割合、それらの粒度を選定することにより、耐食性、膨張量、圧縮強さを制御することができる、とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平9-87007号公報
【文献】特開2000-272956号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記特許文献1に記載のマグネシア質不焼成れんがや上記特許文献2に記載の不焼成アルミナ-マグネシア系れんがでは主として耐食性の改善を目的としており、高温強度等の熱間特性は十分とは言い難い。
【0009】
以上のような従来技術における問題点に鑑み、本発明の目的は、二酸化炭素排出量の低減に資する、高温強度や耐熱スポーリング性等の熱間特性に優れた不焼成れんが及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記目的を達成すべく、不焼成れんが及びその製造方法について鋭意研究を重ねた結果、耐火性原料に塩基性乳酸アルミニウムを含有させると共に、混練時にアルミン酸ソーダ水溶液を添加することに加え、リン酸塩を添加すること等が極めて有効であることを見出し、本発明に到達した。
【0011】
即ち、本発明は、
マグネシア又はマグネシア及びスピネルを主成分とし、1~2質量%の塩基性乳酸アルミニウムを含む耐火性原料100%に対して、外掛けで1~2質量%のアルミン酸ソーダ水溶液を添加して混練した後、任意の形状の成形体を得る第一工程と、
前記第一工程で得た前記成形体を乾燥させて乾燥体を得る第二工程と、を有し、
前記第一工程において、前記アルミン酸ソーダ水溶液を添加した前記主成分にリン酸塩を添加し、前記乾燥体のリン(P)の含有量を0.2~0.6質量%とすること、
を特徴とする不焼成れんがの製造方法、を提供する。
【0012】
従来、焼成工程を経ない不焼成れんがでは、高強度かつ耐熱スポーリング性と容積安定性に優れることに加え、高い熱間強度を発現するものを見いだせていなかった。これに対し、本発明の不焼成れんがにおいては、適量の塩基性乳酸アルミニウム、アルミン酸ソーダ水溶液及びリン酸塩を混合することで、これらの特性を全て付与することができる。
【0013】
より具体的には、塩基性乳酸アルミニウムとアルミン酸ソーダを適量混合することで、ゲル化が生じ、乳酸アルミニウムが生成する。乳酸アルミニウムは保湿効果を有していることから、坏土の乾燥が抑制され、良好な成形体を得ることができる(第一工程)。更に、リン酸塩を添加することで、結合相として比較的高融点のレナニット(CaNaPO:融点1830℃)が形成され、第二工程を経て最終的に得られる不焼成れんがに高い熱間強度を付与することができる。
【0014】
ここで、第二工程後の乾燥体のリン(P)の含有量を0.2質量%以上とすることで、レナニットの形成による熱間強度の向上効果を十分に得ることができる。一方で、第二工程後の乾燥体のリン(P)の含有量を0.6質量%以下とすることで、塩基性乳酸アルミニウムのゲル化に及ぼすリン酸塩添加の影響を小さくすることができる。また、リン(P)の含有量を0.6質量%以下とすることで、リン酸塩の添加によって増加するナトリウム分が多くなり、低融点物質が形成されることを抑制できる。
【0015】
本発明の不焼成れんがにおいては、前記リン酸塩として、リン酸ナトリウムガラス、第一リン酸カルシウム、リン酸カリウムガラス及びリン酸アルミニウムのうちの少なくとも一つを添加すること、が好ましい。これらのリン酸塩を添加することで、塩基性乳酸アルミニウムのゲル化に及ぼすリン酸塩添加の影響を小さくすると共に、レナニットの形成による熱間強度の向上効果をより確実に得ることができる。
【0016】
また、本発明の不焼成れんがの製造方法においては、前記アルミン酸ソーダ水溶液のAl固形分濃度を10~20質量%とすること、が好ましい。
【0017】
塩基性乳酸アルミニウムを含有する耐火性原料100%に対して、外掛けで1~2質量%のAl固形分濃度が10~20質量%のアルミン酸ソーダ水溶液を添加することで、実炉で使用される際の加熱過程で乳酸ナトリウムなどの乳酸塩が分解して乳酸が蒸発し、活性度の高いアルミニウムがマグネシアと反応し、アルミニウムとマグネシアとの反応によるスピネル化を十分かつ円滑に進行させることができる。
【0018】
更に、第二工程における乾燥の温度は200~300℃とすることが好ましい。乾燥の温度を200℃以上とすることで、乳酸ナトリウムの分解及び乳酸の分解を抑制しつつ、乾燥を十分かつ円滑に進行させることができ、乾燥の温度を300℃以下とすることで、不焼成れんがの強度の低下を抑制し、乾燥工程に係る二酸化炭素排出量の増加を抑制することができる。
【0019】
また、本発明は、
マグネシア又はマグネシア及びスピネルを主成分とし、
リン(P)の含有量が0.2~0.6質量%であること、
を特徴とする不焼成れんが、も提供する。
【0020】
本発明の不焼成れんがは、本発明の不焼成れんがの製造方法によって好適に得られるものであり、リン(P)の含有量を0.2~0.6質量%とすることで、高強度かつ高温強度及び耐熱スポーリング性に優れた不焼成れんがとなっている。主成分はマグネシア又はマグネシア及びスピネルであり、マグネシアとアルミナの比率については、マグネシアを含んでいる限りにおいて特に制限はない。
【0021】
また、本発明の不焼成れんがにおいては、レナニット(CaNaPO)が形成されていること、が好ましい。融点の高いレナニットが結合相となることで、不焼成れんがに優れた高温強度と耐熱スポーリング性を付与することができる。
【0022】
また、本発明の不焼成れんがにおいては、1200℃における曲げ強さが10MPa以上であること、が好ましい。1200℃において10MPa以上の曲げ強さを有していることで、製鉄製鋼、非鉄金属製錬、石灰製造、セメント製造及びガラス製造等の工業炉の内張り等として好適に使用することができる。
【0023】
本発明の不焼成れんがの製造方法によって、緻密な成形体が得られ、当該成形体を適切な温度で乾燥させることで乳酸ナトリウムなどの乳酸塩が分解せずに残存する。その結果、1200℃までの加熱過程で乳酸ナトリウムなどの乳酸塩が分解して乳酸が蒸発し、活性度の高いアルミニウムがマグネシアと反応し、アルミニウムとマグネシアとの反応によるスピネル化を十分かつ円滑に進行させることができる。加えて、リン酸の添加によって融点の高いレナニットが結合相となることで、不焼成れんがにより高い熱間強度を発現させることができる。
【0024】
更に、本発明の不焼成れんがにおいては、圧縮強さが100MPa以上であること、が好ましい。優れた熱間強度に加えて、室温でも高い圧縮強さを有していることで、不焼成れんがの信頼性及び耐久性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、二酸化炭素排出量の低減に資する、高温強度や耐熱スポーリング性等の熱間特性に優れた不焼成れんが及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の不焼成れんが及びその製造方法の代表的な実施形態について詳細に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【0027】
1.不焼成れんがの製造方法
本発明の不焼成れんがの製造方法は、マグネシア又はマグネシア及びスピネルを主成分とし、1~2質量%の塩基性乳酸アルミニウムを含む耐火性原料100%に対して、外掛けで1~2質量%のアルミン酸ソーダ水溶液を添加して混練した後、任意の形状の成形体を得る第一工程と、第一工程で得た成形体を乾燥させて乾燥体を得る第二工程と、を有し、第一工程において、アルミン酸ソーダ水溶液を添加した主成分にリン酸塩を添加し、乾燥体のリン(P)の含有量を0.2~0.6質量%とすること、を特徴とするものである。以下、各工程について詳細に説明する。
【0028】
(1)第一工程
第一工程は、マグネシア又はマグネシア及びスピネルを主成分とし、1~2質量%の塩基性乳酸アルミニウムを含む耐火性原料100%に対して、外掛けで1~2質量%のアルミン酸ソーダ水溶液を添加して混練した後、任意の形状の成形体を得るための工程である。ここで、本発明の不焼成れんがの製造方法の最大の特徴は、第一工程において、アルミン酸ソーダ水溶液を添加した主成分に、更にリン酸塩を添加することにある。
【0029】
(1-1)主成分
主成分となる耐火性原料には、マグネシア粒子又はマグネシア粒子及びスピネル粒子を用いることができる。マグネシア粒子とスピネル粒子の混合割合は、本発明の効果を損なわない限りにおいて特に限定されず、不焼成れんがの所望の特性に応じて適宜調整すればよい。また、スピネル粒子を用いることなく、マグネシア粒子を主成分としてもよい。
【0030】
マグネシア粒子及びスピネル粒子は、粒度の異なる原料を混合することが好ましい。異なる粒度の原料を混合して使用することで、不焼成れんがに良好な耐熱スポーリング性を付与することができる。
【0031】
マグネシア原料の種類は、本発明の効果を損なわない限りにおいて特に限定されないが、例えば、従来公知の電融マグネシア、海水マグネシア及び天然マグネシア等を使用することができる。また、マグネシア原料の純度に関して、不純物による耐食性の低下や過焼結の影響を避けるために、95重量%以上の高純度のものを使用することが好ましい。
【0032】
スピネル原料の種類及びMgOとAlの比率は、本発明の効果を損なわない限りにおいて特に限定されず、例えば、従来公知のアルミナ-マグネシアスピネル(MgAl)やマグネシア-マグネシアスピネルを用いることができる。また、スピネル原料についても、マグネシア原料と同様に、95重量%以上の高純度のものを使用することが好ましい。スピネル原料は特に限定されるものではなく、電融スピネル、焼成スピネル等を使用することができる。
【0033】
(1-2)必須の添加成分(バインダー)
必須の添加成分として、1~2質量%の塩基性乳酸アルミニウムを添加する。また、マグネシア及びスピネルを主成分とし、1~2質量%の塩基性乳酸アルミニウムを含む耐火性原料100%に対して、外掛けで1~2質量%のアルミン酸ソーダ水溶液を添加する。
【0034】
アルミン酸ソーダ水溶液のAl固形分濃度は10~20質量%とすることが好ましく、14~18質量%とすることがより好ましい。1~2質量%の塩基性乳酸アルミニウムを含有する耐火性原料100%に対して、外掛けで1~2質量%のAl固形分濃度が10~20質量%のアルミン酸ソーダ水溶液を添加することで、アルミナとマグネシアとの反応によるスピネル化を十分かつ円滑に進行させることができる。
【0035】
また、融点の高いレナニットを結合相として活用するために、アルミン酸ソーダ水溶液を添加した主成分にリン酸塩を添加する。添加するリン酸塩の種類は本発明の効果を損なわない限りにおいて特に限定されないが、リン酸ナトリウムガラス、第一リン酸カルシウム、リン酸カリウムガラス及びリン酸アルミニウムのうちの少なくとも一つを添加すること、が好ましい。ここで、リン酸塩の添加量は、最終的に得られる不焼成れんがにおけるリン(P)の含有量が0.2~0.6質量%となるように調整すればよい。
【0036】
(1-3)任意の添加成分
例えば、成形助剤として、耐火性原料100%に対して、外掛けで1~3質量%のソルビトールを添加することができる。ソルビトールはD-ソルビトールを主成分とし、HOCH(CHOH)CHOHで表され、粉末で水に容易に溶解し、一般的には界面活性剤や食品添加物として使用されている。ソルビトールを添加することで、混練杯土の充填性、粒子間の潤滑性を向上させ、杯土の経時変化を低減し、かつスレーキングを抑制する。また、毒性もなく、高い成形密度の成形体を得ることができる。また、にがりや硫酸マグネシウムなどの焼成れんがの成形助剤として使用されている添加材も使用することができる。
【0037】
その他、本発明の効果を損なわない限りにおいて、マグネシアれんがやマグネシアスピネルれんがに使用されているアルミナ、ジルコニアや酸化鉄など、従来公知の種々の任意の成分を添加してもよい。
【0038】
(1-4)混練及び成形
主成分とする耐火性原料、必須の添加成分及び任意の添加成分を混練し、任意の形状に成形する。混練及び成形の方法は特に限定されず、耐火物の製造に用いられている従来公知の種々の方法を適用することができる。
【0039】
ここで、本発明の不焼成れんがの製造方法においては、アルミン酸ソーダと塩基性乳酸アルミニウムを適量混合することで、ゲル化が生じ、乳酸アルミニウムが生成する。乳酸アルミニウムは保湿効果を有していることから、坏土の乾燥が抑制され、良好な成形体を得ることができる。また、最終的に得られる不焼成れんがにおけるリン(P)の含有量が0.2~0.6質量%となる程度のリン酸塩の添加であれば、アルミン酸ソーダと塩基性乳酸アルミニウムを適量混合することによるゲル化を阻害することはない。
【0040】
(2)第二工程
第二工程は、第一工程で得た成形体を乾燥させ、不焼成れんがを得るための工程である。
【0041】
第一工程で得られた成形体を適切な温度で乾燥させると、乳酸ナトリウムなどの乳酸塩が分解せずに残り、強度の低下を抑制することができる。
【0042】
乾燥の温度は200~300℃とすることが好ましい。乾燥の温度を200℃以上とすることで、余剰の水分が蒸発して脱水し強度を上げることができる。また、乾燥の温度を300℃以下とすることで、乳酸ナトリウムなどの乳酸塩が分解せずに残り、強度の低下を抑制することができ、かつ乾燥工程に係る二酸化炭素排出量の増加を抑制することができる。
【0043】
成形体を乾燥させる方法は特に限定されず、不焼成耐火物の製造に用いられている従来公知の種々の方法を適用することができる。
【0044】
なお、本発明の不焼成れんがの製造方法は、乾燥後の不焼成れんがを適当な条件で焼成することを妨げるものではない。
【0045】
2.不焼成れんが
本発明の不焼成れんがは、本発明の不焼成れんがの製造方法によって好適に得ることができ、マグネシア又はマグネシア及びスピネルを主成分とし、リン(P)の含有量が0.2~0.6質量%であること、を特徴としている。
【0046】
不焼成れんがにおけるリン(P)の含有量を測定する方法は、特に限定されず、従来公知の種々の測定方法を用いることができ、例えば、蛍光X線分析、EPMA測定及びSEM-EDS測定等を用いることができる。
【0047】
また、本発明の不焼成れんがにはレナニット(CaNaPO)が形成されていることが好ましい。融点の高いレナニットが結合相となることで、不焼成れんがに優れた高温強度と耐熱スポーリング性を付与することができる。レナニットの形成を確認する方法は特に限定されないが、例えば、X線回折測定や透過電子顕微鏡観察における制限視野電子回折等を用いることができる。
【0048】
また、本発明の不焼成れんがにおいては、1200℃における曲げ強さが10MPa以上であること、が好ましい。1200℃において10MPa以上の曲げ強さを有していることで、製鉄製鋼、非鉄金属製錬、石灰製造、セメント製造及びガラス製造等の工業炉の内張り等として好適に使用することができる。
【0049】
不焼成れんがの1200℃における曲げ強さを測定する方法は、特に限定されず、従来公知の種々の測定方法を用いることができる。例えば、熱間曲げ試験装置を用い、1200℃の大気雰囲気下で三点曲げ試験を実施すればよい。不焼成れんがの1200℃における曲げ強さは10MPa以上であることが好ましく、11MPa以上であることがより好ましい。
【0050】
また、本発明の不焼成れんがにおいては、圧縮強さが100MPa以上であることが好ましい。優れた熱間強度に加えて、室温でも高い圧縮強さを有していることで、不焼成れんがの信頼性及び耐久性を向上させることができる。圧縮強さは110MPa以上であることがより好ましく、120MPa以上であることが最も好ましい。
【0051】
更に、本発明の不焼成れんがは優れた耐食性及び耐組織脆化性も有している。具体的には、同等の組成を有して0.2~0.6質量%のリン(P)を含まない場合(レナニットが形成されていない場合)と比較して、同等以上の耐食性及び耐組織脆化性を有し、更に、極めて優れた熱間強度と熱間スポーリング性を有している。
【0052】
以上、本発明の代表的な実施形態について説明したが、本発明はこれらのみに限定されるものではなく、種々の設計変更が可能であり、それら設計変更は全て本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例
【0053】
≪実施例≫
表1に実施例1~実施例5として示す割合で原料を調整し、高速ミキサーで混練し、230×230×85mmの形状において、油圧プレスにより成形した。乾燥にはバッチ式ドライヤーを用い、200~320℃で8時間保持して本発明の実施例である不焼成れんがを得た。表1の値は質量%を示し、各種リン酸塩、アルミン酸ソーダ水溶液、ソルビトール水溶液及び水の添加量は、マグネシアクリンカー、スピネルクリンカー及び塩基性乳酸アルミニウムの合計量に対する外掛けの値として示している。また、マグネシアクリンカー及びスピネルクリンカーについては粒度、アルミン酸ソーダ水溶液についてはAl固形分濃度(質量%)を示している。
【0054】
≪比較例≫
表1に比較例1~比較例6として示す割合で原料を調整したこと以外は実施例と同様にして、不焼成れんがを得た。ここで、比較例1についてのみ、トンネルキルン式焼成窯を用い、最高温度1750±10℃で焼成した。
【0055】
【表1】
【0056】
[評価]
実施例及び比較例として得られた各不焼成れんがについて、耐食性、圧縮強さ、熱間強度、耐熱スポーリング性、耐組織脆化性を評価した。加えて、各不焼成れんがに含まれるリン(P)の含有量を測定した。
【0057】
(1)耐食性
耐食性は回転ドラム侵食試験によって評価した。試験方法は次のとおりである。試験片をドラム内部に内張りし、酸素-プロパンバーナーを使用して1750±50℃で行った。侵食材として、ポルトランドセメント及び硫酸カリウムを5:1の比率で混ぜ合わせたものを投入した。1時間毎に侵食材を交換しながら6時間保持した試験後、試料を稼働面に垂直な方向に切断し、損耗量を8点測定して平均損耗量を出した。平均損耗量は比較例1の侵食量を100とする指数で表示した。得られた結果を表2に示す。指数が小さいほど耐食性に優れることを示しており、当該指数が105以下の場合は〇、105超115未満の場合は△、115以上となった場合を×とした。
【0058】
(2)圧縮強さ
60mm×60mm×60mmの試片を、アムスラー式強度測定試験装置を用いて圧縮強さを測定した。得られた結果を表2に示す。100MPa以上の場合は〇、70MPa以上100MPa未満の場合は△、70MPa未満の場合は×とした。
【0059】
(3)熱間強度
30mm×30mm×120mmの試片を、熱間曲げ試験装置を用いて熱間強度を測定した。1200℃の大気雰囲気下で三点曲げ(支点間距離80mm)を行った結果を表2に示す。熱間曲げ強さが10MPa以上の場合は〇、5MPa以上10MPa未満の場合は△、5MPa未満の場合は×とした。
【0060】
(4)耐熱スポーリング性
耐熱スポーリング性の評価はJIS R2657に基づく空冷法によって行った。温度条件は1400℃とし、最大10回の加熱冷却を行った。途中で剥落した場合は当該剥落時の操作回数を記録し、最後まで剥落しなかった場合は亀裂の深さを測定した。亀裂の深さを相対比較し、亀裂が大きい場合は「大」、中程度の場合は「中」、小さい場合は「小」とした。また、亀裂が大きい場合は×、中程度の場合は△、小さい場合は〇とした。得られた結果を表2に示す。
【0061】
(5)耐組織脆化性
耐熱スポーリング性試験後の試件片を稼働面に垂直方向で切断し、切断面の表面状態を確認した。加熱面からの脱粒深さを組織脆化層として、耐組織脆化性を評価した。脱粒範囲が50mm以下の場合を〇、50mm超60以下の場合を△、60mm超の場合を×とした。得られた結果を表2に示す。
【0062】
(6)リン(P)の含有量
蛍光X線分析法を用いてリン(P)の含有量を測定した。測定には株式会社リガク製のZSX PrimusIII+を用いた。得られた結果を表2に示す。
【0063】
【表2】
【0064】
本発明の実施例においては、全ての不焼成れんがでリン(P)の含有量が0.2~0.6質量%となっている。また、何れの不焼成れんがも高い熱間強度を発現しており、1200℃における熱間曲げ強さは10MPa以上となっている。これに対し、比較例においては、焼成材である比較例1の不焼成れんが以外は、1200℃における熱間曲げ強度が10MPa以上となる不焼成れんがは存在しない。
【0065】
また、本発明の実施例については、全ての不焼成れんがで耐熱スポーリング性の評価が〇となっている。これに対して、比較例で耐熱スポーリング性の評価が〇となっているのは焼成材である比較例1の不焼成れんがのみである。リン酸塩(リン酸ナトリウムガラス)を添加した場合であっても、不焼成れんがの(P)の含有量が0.96質量%となる比較例5では耐熱スポーリング性の評価が△となり、(P)の含有量が1.92質量%となる比較例6では耐熱スポーリング性の評価が×となっている。これは、リン酸ナトリウムガラスの添加量の増加に伴ってリン分が多くなり、低融点物質が形成されやすくなる結果である。
【0066】
更に、本発明の実施例については、全ての不焼成れんがで耐食性、耐組織脆化性及び圧縮強さの評価が全て〇となっており、本発明の不焼成れんがは、高温強度及び耐熱スポーリング性の熱間特性に優れるだけでなく、耐食性、耐組織脆化性及び圧縮強さにも優れていることが分かる。
【0067】
これに対して、リン酸塩を添加することなくアルミナセメントを添加した比較例2においては、CaO分が多いことに起因して低融点物質ができやすくなり、熱間曲げ強さ及び耐熱スポーリング性が低下している。
【0068】
また、フェノール樹脂の添加によるカーボンボンドを利用した比較例3においては、酸化に起因して熱間曲げ強さが低くなっている。粉末珪酸ソーダを添加した比較例4においては、SiO、NaO分に起因して低融点物質ができやすくなり、熱間曲げ強さ及び耐熱スポーリング性が低下している。
【0069】
以上の結果より、高温強度や耐熱スポーリング性等の熱間特性に優れた不焼成れんがを得るためには、マグネシア又はマグネシア及びスピネルを主成分とし、1~2質量%の塩基性乳酸アルミニウムを含む耐火性原料100%に対して、外掛けで1~2質量%のアルミン酸ソーダ水溶液を添加し、更に、リン酸塩を添加して乾燥体のリン(P)の含有量を0.2~0.6質量%とすることが重要であることが分かる。
【要約】
【課題】二酸化炭素排出量の低減に資する、高温強度や耐熱スポーリング性等の熱間特性に優れた不焼成れんが及びその製造方法を提供する。
【解決手段】マグネシア又はマグネシア及びスピネルを主成分とし、1~2質量%の塩基性乳酸アルミニウムを含む耐火性原料100%に対して、外掛けで1~2質量%のアルミン酸ソーダ水溶液を添加して混練した後、任意の形状の成形体を得る第一工程と、第一工程で得た成形体を乾燥させて乾燥体を得る第二工程と、を有し、第一工程において、アルミン酸ソーダ水溶液を添加した主成分にリン酸塩を添加し、乾燥体のリン(P)の含有量を0.2~0.6質量%とすること、を特徴とする不焼成れんがの製造方法。
【選択図】なし