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特許7574511シミ改善作用を有する成分のスクリーニング方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-21
(45)【発行日】2024-10-29
(54)【発明の名称】シミ改善作用を有する成分のスクリーニング方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/50 20060101AFI20241022BHJP
   G01N 33/15 20060101ALI20241022BHJP
   G01N 33/48 20060101ALI20241022BHJP
   G01N 33/483 20060101ALI20241022BHJP
【FI】
G01N33/50 Z
G01N33/15 Z
G01N33/50 Q
G01N33/48 P
G01N33/483 C
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020193877
(22)【出願日】2020-11-20
(65)【公開番号】P2022082366
(43)【公開日】2022-06-01
【審査請求日】2023-09-14
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 株式会社ポーラ・オルビスホールディングスが、http://www.pola-rm.co.jp/pdf/release_20191205.pdfのアドレスのウェブサイトにて発表。
(73)【特許権者】
【識別番号】000113470
【氏名又は名称】ポーラ化成工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137338
【弁理士】
【氏名又は名称】辻田 朋子
(72)【発明者】
【氏名】丸山 玲奈
(72)【発明者】
【氏名】多田 明弘
(72)【発明者】
【氏名】稲葉 知佳
(72)【発明者】
【氏名】梶原 篤史
【審査官】三木 隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-012512(JP,A)
【文献】特開2007-199053(JP,A)
【文献】特開2012-211886(JP,A)
【文献】特開2000-135207(JP,A)
【文献】特表2016-525697(JP,A)
【文献】特開2020-144070(JP,A)
【文献】特開2017-216965(JP,A)
【文献】特開2017-011966(JP,A)
【文献】特開平08-068791(JP,A)
【文献】特表2014-520135(JP,A)
【文献】特開2006-328024(JP,A)
【文献】米国特許第06342208(US,B1)
【文献】国際公開第2014/044591(WO,A1)
【文献】特開2006-104117(JP,A)
【文献】特開平06-199647(JP,A)
【文献】特表2018-505130(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2019-0048152(KR,A)
【文献】シミ部位は過剰な接着タンパクが原因で皮膚が硬くなっていることを発見,(株) ポーラ・オルビスホールディングス,2019年12月05日,https://www.pola-rm.co.jp/pdf/release_20191205.pdf
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/50
G01N 33/15
G01N 33/48
G01N 33/483
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
角層細胞におけるデスモグレインの減少効果を指標とする、シミ改善作用を有する成分のスクリーニング方法であって、
(1-1)ヒト皮膚のシミが存在する部位から角層細胞を採取すること;
(1-2)前記(1-1)で採取した角層細胞におけるデスモグレインを染色し、デスモグレインが染色された角層細胞の画像を取得すること;
(1-3)前記(1-2)で画像を取得した角層細胞におけるメラニンを染色し、メラニンが染色された角層細胞の画像を取得すること;
(2)前記(1-1)において角層細胞を採取した部位と同一の部位に被験物質を適用すること;
(3-1)前記(2)において被験物質を適用した部位と同一の部位から角層細胞を採取すること;
(3-2)前記(3-1)で採取した角層細胞におけるデスモグレインを染色し、デスモグレインが染色された角層細胞の画像を取得すること;
(3-3)前記(3-2)で画像を取得した角層細胞におけるメラニンを染色し、メラニンが染色された角層細胞の画像を取得すること;
(4)前記(1-2)及び(1-3)で取得したデスモグレイン及びメラニンが染色された角層細胞の画像と、前記(3-2)及び(3-3)で取得したデスモグレイン及びメラニンが染色された角層細胞の画像と、を対比観察すること;
(5)前記(1-2)及び(3-2)で取得した画像の染色部分の面積をデスモグレイン量として、前記(3-1)において採取した角層細胞におけるデスモグレイン量が、前記(1-1)において採取した角層細胞におけるデスモグレイン量と比較して少なくなる場合に、前記被験物質はシミ改善作用を有すると判定すること;
を含む、スクリーニング方法。
【請求項2】
前記(4)が、デスモグレイン減少作用と、角層細胞の排出によるメラニン減少作用と、に基づくシミ改善作用の効果の度合いを評価する工程である、請求項1に記載にスクリーニング方法。
【請求項3】
前記(1-1)及び(3-1)における角層細胞の採取方法が、テープストリッピング法である、請求項1又は2に記載のスクリーニング方法。
【請求項4】
前記(1-1)及び(3-1)において採取された角層細胞をスライドガラスに転写し、
前記スライドガラスに転写された角層細胞をそれぞれ前記(1-2)及び(3-2)におけるデスモグレイン染色、前記(1-3)及び(3-3)におけるメラニン染色に供する、請求項1~3の何れか一項に記載のスクリーニング方法。
【請求項5】
前記(1-2)及び(3-2)におけるデスモグレインの染色が、免疫染色であり、
前記(1-3)及び(3-3)におけるメラニンの染色が、フォンタナ・マッソン染色法である、
請求項1~4の何れか一項に記載のスクリーニング方法。
【請求項6】
前記(1-2)及び(3-2)におけるデスモグレインの染色に供した角層細胞試料を、70%エタノールに浸漬させた後、蒸留水に、37℃で一晩浸漬したのち、カバーガラスを外し、風乾した後、前記(1-3)及び(3-3)におけるフォンタナ・マッソン染色法に供する、請求項5に記載のスクリーニング方法。
【請求項7】
前記(2)は、1日に1回又は2回以上、被験物質を皮膚に適用し、2日以上継続して行う、請求項1~6の何れか一項に記載のスクリーニング方法。
【請求項8】
前記デスモグレインがデスモグレイン1である、請求項1~7の何れか一項に記載のスクリーニング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、角層細胞におけるデスモグレインの減少効果を指標とする、シミ改善効果を有する成分のスクリーニング方法、及び当該スクリーニング方法を用いた組成物の設計方法に関する。
【背景技術】
【0002】
角化細胞(ケラチノサイト)の接着装置として代表的なものにデスモソームがある。デスモソームは、表皮細胞間及び角層細胞間の接着に関与している構造物であり、デスモソームを介する表皮細胞同士の接着はケラチン線維からなる細胞骨格と連携し、上皮組織における強固な構築が維持されるものであることが知られている。
【0003】
肌荒れ、日焼けや乾燥により生じる角層の落屑等の肌状態の悪化に関し、デスモゾームタンパク質の増加が原因の一つとして知られている。
デスモゾームタンパク質の量をコントロールする方法として、角層に蓄積したデスモゾームタンパク質のプロテアーゼにより分解し、ニキビ、フケ、落屑を改善する方法がこれまでに報告されている(特許文献1)。
【0004】
このデスモソームの構成タンパク質は、デスモグレイン1、2、3、4、デスモコリン1、2、3、及びデスモプラキン1、2等が知られている。
このデスモソームの構成タンパクの中でも、特に接着タンパク質のデスモグレイン1が、デスモソーム成分のタンパク分解と細胞剥離との間に密接な相関関係がある。このため、角層のデスモグレインの存在状態を確認することは、デスモソーム機能を評価することでもあり、皮膚の状態を評価する上で極めて重要である。
【0005】
本発明者らは、鋭意研究努力の結果、シミ部位では、非シミ部位よりも多くの接着タンパク質が角層細胞に存在することを明らかにした(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特表平7-505383号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】“シミ部位は過剰な接着タンパクが原因で皮膚が硬くなっていることを発見”,[online],令和1年12月5日,株式会社ポーラ・オルビスホールディングス,[令和2年10月21日検索],インターネット <URL:http://www.pola-rm.co.jp/pdf/release_20191205.pdf>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
肌のシミやくすみは、多くの人を悩ませる肌状態の一つである。
本発明は、シミに対する新たなアプローチによるシミ改善剤として有効な成分を探索することを目的とし、そのための新たなスクリーニング方法を確立することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は鋭意研究を行った結果、デスモグレインに着目し、デスモグレインを減少させる効果と、肌のシミを減少させる効果との間に、相関関係があることを見出した。すなわち、デスモグレインを減少させる効果を有する成分は、シミを減少させる効果を有するという知見を得て、本発明を完成させた。
【0010】
すなわち、前記課題を解決する本発明は、
角層細胞におけるデスモグレインの減少効果を指標とする、シミ改善効果を有する成分のスクリーニング方法である。
本発明のスクリーニング方法によれば、従来から存在が知られていたシミの主な原因であるメラニンを分解する成分、メラニンの排出を促す成分、メラニンの産出を抑制する成分ではなく、接着タンパクであるデスモグレインを減少させることで、メラニンを含む角層細胞を排出させることができる、新たなアプローチによるシミ改善作用を有する成分をスクリーニングすることができる。
【0011】
本発明の好ましい形態では、前記スクリーニング方法は、被験物質を添加した角層細胞におけるデスモグレインの量が、被験物質を添加しなかった角層細胞におけるデスモグレインの量と比較して少なくなる場合に、前記被験物質はシミ改善作用を有すると判定する判定工程を含む。
【0012】
本発明の好ましい形態では、
ヒトの任意の部位から角層細胞を採取する第1採取工程と、
前記第1採取工程において角層細胞を採取した部位と同一の部位に被験物質を適用する適用工程と、
前記適用工程において被験物質を使用した部位と同一の部位から角層細胞を採取する第2採取工程と、を含み、
前記判定工程が、第2採取工程において採取した角層細胞におけるデスモグレイン量が、第1採取工程において採取した角層細胞におけるデスモグレイン量と比較して少なくなる場合に、前記被験物質はシミ改善作用を有すると判定する工程である。
【0013】
本発明の好ましい形態では、
さらに、角層細胞におけるデスモグレインを染色する第1染色工程と、
デスモグレインが染色された角層細胞の画像を取得する第1画像取得工程と、を含み、
前記判定工程が、前記画像の染色部分の面積をデスモグレイン量として、被験物質を添加した角層細胞におけるデスモグレインの量が、被験物質を添加しなかった角層細胞におけるデスモグレインの量と比較して少なくなる場合に、前記被験物質はシミ改善作用を有すると判定する工程である。
このように、染色されたデスモグレインの面積を指標とすることで、より簡便にシミ改善作用を有する成分のスクリーニング行うことができる。
【0014】
本発明の好ましい形態では、
さらに、角層細胞におけるメラニンを染色する第2染色工程と、
メラニンが染色された角層細胞の画像を取得する第2画像取得工程と、
第1画像取得工程により取得した画像と、第2画像取得工程により取得した画像とを対比観察する対比観察工程と、を含む。
【0015】
本発明の好ましい形態では、
前記対比観察工程が、デスモグレイン減少作用に基づくシミ改善作用の効果の度合いを評価する工程である。
【0016】
本発明の好ましい形態では、前記角層細胞が、シミが存在する部位の角層細胞である。
本発明者らは、シミ部位には多くの接着タンパク質、特にデスモグレインが存在することを明らかにした。
角層細胞を採取する部位としてシミが存在する部位を選択することで、より効率的に被験物質のデスモグレイン減少効果を確認することができる。
【0017】
また、前記課題を解決する本発明は、
前記スクリーニング方法を行う工程と、
前記工程によりシミ改善作用を有すると判定された成分を含有させる工程と、を含む、
組成物の設計方法である。
【0018】
本発明の好ましい形態では、前記組成物が、シミ改善用である。
また、本発明の好ましい形態では、前記組成物が飲食品又は皮膚外用剤である。
【発明の効果】
【0019】
本発明のスクリーニング方法によれば、シミ改善作用を有する成分のスクリーニングを行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】ワイルドタイム抽出物を被験物質としたシミ改善作用確認試験の実験結果である。
図2】トゲナシ抽出物を被験物質としたシミ改善作用確認試験の実験結果である。
図3】ウスベニタチアオイ抽出物を被験物質としたシミ改善作用確認試験の実験結果である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明のスクリーニング方法は、デスモグレインの減少効果を指標とすることを特徴とする。
本発明者らは、角層細胞中のデスモグレイン量が減少することで、メラニンを含む角層細胞が排出され、シミを改善する作用があることを見出した。すなわち、デスモグレイン減少作用を有する成分は、シミ改善剤となり得る。
なお、本明細書中において、「シミ」には、黒ずみ及びくすみを含む。
【0022】
本発明のスクリーング方法の好ましい態様においては、被験物質を添加した角層細胞におけるデスモグレインの量が、被験物質を添加しなかった角層細胞におけるデスモグレインの量と比較して少なくなる場合に、前記被験物質はシミ改善作用を有すると判定する判定工程を含む。
【0023】
本願発明において指標とするデスモグレインは、デスモグレイン1であることが好ましい。
【0024】
本発明のスクリーニング方法における好ましい態様について、以下説明する。
【0025】
(1)第1採取工程
まず、ヒト皮膚の任意の部位から、角層細胞を採取する。角層細胞の採取方法は、特に限定されないが、テープストリッピング法により採取することが好ましい。
【0026】
角層細胞を採取する部位としては、顔及び腕等が例示できる。角層細胞を採取する部位としては、シミが存在する部位が好ましい。
正常な角層の表層部では、細胞同士を接着するタンパク質の分解が進み、角層細胞は垢になって剥がれ落ちるが、接着タンパク質の分解が進まないと、角層細胞が強く接着したまま積み重なり、硬い角層になってしまうことが知られている。
また、シミ部位には非シミ部位と比して多くの接着タンパク質が存在し、その結果としてシミ部位は非シミ部位と比して厚く、さらには硬くなっていることが知られている(非特許文献1)。
したがって、シミ部位の角層細胞に対して本発明のスクリーニング方法を適用することで、被験物質のデスモグレイン減少効果をより効率的に観測することができる。
【0027】
(2)適用工程
次いで、前記第1工程において角層細胞を採取した部位と同一の部位に被験物質を適用する。
【0028】
本発明の被験物質は、本発明のスクリーニング方法が対象とする被験物質は、純物質、動植物由来の抽出物、またはそれらの混合物等のいずれであってもよい。
また、皮膚に適用する被験物質は、溶液の形態であってもよく、被験物質を含む組成物の形態であってもよい。
【0029】
適用工程は、複数回実施してもよい。例えば、1日に1回又は2回以上の被験物質を皮膚に適用し、2日以上継続して行うことができる。
定期的に適用工程を実施することで、被験物質のヒト皮膚への有効性を正確に評価することができる。
【0030】
(3)第2採取工程
次いで、適用工程において被験物質を適用した部位、すなわち、第1採取工程において角層細胞を採取した部位と同一の部位から、角層細胞を採取する。
角層細胞の採取方法としては、テープストリッピング法が例示できる。
【0031】
(4)判定工程
第2採取工程において採取した角層細胞、すなわち被験物質を添加した角層細胞におけるデスモグレインの量と、第1採取工程において採取した角層細胞、すなわち被験物質を添加しなかった角層細胞とを比較して、被験物質を添加した角層細胞におけるデスモグレインの量が、被験物質を添加しなかった角層細胞におけるデスモグレインの量と比較して少なくなる場合に、前記被験物質はシミ改善作用を有すると判定する。
【0032】
本発明のスクリーニング方法は、上述した方法に限られない。例えば、以下の方法が例示できる。
まず、第1採取工程において角層細胞を採取して、当該角層細胞のデスモグレイン量を測定する。
次いで、当該角層細胞に被験物質を適用し、被験物質適用後の角層細胞のデスモグレイン量を測定する。
被験物質の適用前後における角層細胞のデスモグレイン量を比較して、被験物質を適用した角層細胞のデスモグレイン量が、被験物質を適用しなかった角層細胞のデスモグレイン量よりも少ない場合に、前記被験物質はシミ改善作用を有すると判定する。
このように、本発明のスクリーニング方法は、ヒト皮膚に対する被験物質の適用(in vivo)及び採取した角層細胞に対する被験物質の適用(in vitro)の何れの方法も採用することができる。
【0033】
角層細胞のデスモグレイン量は、任意の方法を用いて測定することができる。
デスモグレイン量の測定方法として、例えば、ELISA法、ウェスタンブロッティング法等が例示できる。
以下、本発明のスクリーング方法の好ましい態様における、デスモグレイン量の測定方法について説明を加える。
【0034】
(5)染色工程
まず、採取した角層細胞中のデスモグレインを染色する。
デスモグレインの染色方法は特に限定されないが、免疫染色が好ましい。また、蛍光染色であることが好ましい。
免疫染色法による染色は、常法により行うことができ、直接法、間接法及び増感法を任意に選択することができる。
また、必要に応じて、任意のブロッキング剤を用いることができる。
【0035】
(6)第1画像取得工程
デスモグレインが染色された角層細胞を顕微鏡で観察し、画像を取得する。
顕微鏡の種類は特に限定されないが、共焦点レーザー顕微鏡が好ましく例示できる。
【0036】
本発明の好ましい態様においては、取得した画像の染色部分(デスモグレイン)の面積をデスモグレイン量として取り扱う。
すなわち、被験物質を添加した角層細胞の画像における染色部分の面積と、被験物質を添加しなかった角層細胞の画像における染色部分の面積とを比較することで、簡便に被験物質のデスモグレイン減少能を評価することができる。
【0037】
染色部分の面積は、画像全体の面積を100%とした場合の、染色部分の割合(%)であってもよく、この割合から算出した染色部分の面積の絶対値であってもよい。
【0038】
染色部分の面積を算出する画像は、比較する画像同士の倍率が同一であれば特に限定されず、撮影した画像全体であってもよく、撮影した画像の任意の箇所を切り出した画像であってもよい。
また、撮影した画像から複数の任意の箇所を切り出し、それぞれの画像における染色部分の面積を算出し、平均値を算出してもよい。
【0039】
以下、本発明のさらに好ましい形態について、説明を加える。
【0040】
(7)第2染色工程
さらに、本発明は、角層細胞のメラニンを染色する第2染色工程を備えるのが好ましい。
メラニンの染色方法は、特に限定されないが、フォンタナ・マッソン染色法が例示できる。
【0041】
角層細胞としては、前述した第1染色工程によりデスモグレインを染色し、第1画像取得工程により画像を取得した角層細胞を用いることが好ましい。
【0042】
(8)第2画像取得工程
前記第2染色工程によりメラニンが染色された角層細胞を顕微鏡で観察し、画像を取得する。
顕微鏡の種類は特に限定されないが、光学顕微鏡が好ましく例示できる。
【0043】
第2画像取得工程において取得する角層細胞の画像は、第1画像取得工程において画像を取得した部分と同一の部分の画像であることが好ましい。
【0044】
(9)対比観察工程
対比観察工程は、第1画像取得工程により取得した画像と、第2画像取得工程により取得した画像を対比観察する工程である。
デスモグレインが染色された角層細胞と、メラニンが染色された角層細胞とをそれぞれ対比観察することで、被験物質のデスモグレイン減少効果に伴うシミ改善効果をより効率的に観察することができる。
【0045】
第1画像取得工程により取得した画像及び第2画像取得工程により取得した画像を対比する方法としては、それぞれの画像を並列に配置し、本分野を専門とする評価者により、デスモグレインの存在位置と角層内におけるメラニンの存在位置とを対比観察する方法を挙げることができる。
【0046】
また、対比観察する方法として、第1画像取得工程として、前記適用工程における被験物質の適用前後における角層細胞におけるデスモグレインが染色された画像を取得し、第2画像取得工程として、前記適用工程における被験物質の適用前後における角層細胞のメラニンが染色された画像を取得し、時系列ごとに対比観察する方法が挙げられる。
すなわち、本発明の好ましい態様において、対比観察工程は、被験物質を適用しなかった角層細胞における第1画像取得工程及び第2画像取得工程により取得した画像と、被験物質を適用した角層細胞における第1画像取得工程及び第2画像取得工程により取得した画像とを、対比観察する工程を含む。
このような手法により対比観察することで、被験物質の適用前後におけるデスモグレイン量及びメラニン量を効率的に観察することができ、簡便に被験物質の有効性を評価することができる。
【0047】
また、第1画像取得により取得した画像及び第2画像取得工程により取得した画像を対比する他の方法として、それぞれの画像とを重ね合わせた照合後画像を生成することを挙げることができる。
具体的には、照合後画像生成手段により、第1画像取得工程により取得した画像と、第2画像取得工程により取得した画像とを重ね合わせた照合後画像を生成し、端末に表示可能とすることもできる。
【0048】
ここで、照合後画像を生成する方法に特に制限はなく、例えば、第1画像取得工程により取得した画像と、第2画像取得工程により取得した画像の一致率が高くなるよう、画像の向き変更処理、画像の拡大縮小処理をおこなうことで、第1画像取得工程により取得した画像と、第2画像取得工程により取得した画像とを重ね合わせた照合後画像を生成する方法をとることができる。
【0049】
中でも、照合後映像を生成する方法は、各染色前の細胞の配置の一致率が高くなるよう、画像の拡大縮小処理をおこなうことで、第1画像取得工程により取得した画像と、第2画像取得工程により取得した画像とを重ね合わせた照合後映像を生成する方法とすることが好ましい。
【0050】
また、照合後映像における、第1画像取得工程により取得した画像と、第2画像取得工程により取得した画像との差分を可視化することが好ましい。
具体的には、差分可視化手段により、差分の色付け、差分の透かし、差分の切り出し、差分の印付け、から選ばれる1又は2以上の方法により、照合後映像における、第1画像取得工程により取得した画像と、第2画像取得工程により取得した画像の差分を可視化し、端末に表示可能とすることもできる。
【0051】
上述した対比観察の手法は、第1画像取得工程により取得した画像と、第2画像取得工程により取得した画像との対比観察のみならず、被験物質を適用しなかった角層細胞における第1画像取得工程及び第2画像取得工程により取得した画像と、被験物質を適用した角層細胞における第1画像取得工程及び第2画像取得工程により取得した画像との対比観察にも適用できる。
【0052】
本発明のスクリーニング方法は、接着タンパクであるデスモグレインを減少させることで、メラニンを含む角層細胞を排出させることができる、新たなアプローチによるシミ改善作用を有する成分をスクリーニングするものであるが、デスモグレイン量の比較のみでは、シミ改善作用の度合いまで評価するには不十分である。
【0053】
上述した対比観察工程によれば、被験物質を適用しなかった角層細胞における第1画像取得工程及び第2画像取得工程により取得した画像と、被験物質を適用した角層細胞における第1画像取得工程及び第2画像取得工程により取得した画像と、を対比観察することで、デスモグレイン減少作用に基づくシミ改善作用、角層細胞を排出することによるシミ改善作用を有する成分における、その効果の度合いを評価することができる。
効果の度合いを評価する手法として、被験物質を適用しなかった角層細胞における第2画像取得工程により取得した画像と、被験物質を適用した角層細胞における第2画像取得工程により取得した画像とを、「(6)第1画像取得工程」で説明した、染色部分の面積を比較する手法により、メラニン量の減少率を算出する方法が挙げられる。
【0054】
(10)組成物の設計方法
本発明のスクリーニング方法によりシミ改善作用を有すると判定された物質は、任意の調製方法により組成物に含有させることができる。すなわち、本発明のスクリーニング方法は、シミ改善用組成物の設計に好適に用いることができる。かかる組成物としては、皮膚外用組成物や飲食品組成物等が例示できる。
【0055】
本発明のスクリーニング方法によりシミ改善作用を有すると判定された物質(シミ改善剤)を組成物に含有させる場合、その含有量は、通常、0.00001質量%以上、好ましくは0.0001質量%以上、より好ましくは0.001質量%以上であり、通常15質量%以下、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下である。
【0056】
また、該組成物には、本発明のスクリーニングによりシミ改善作用を有すると判定された物質以外の肌状態改善用成分、ハリ・弾力改善剤、色素沈着改善剤、美白剤、抗炎症剤、抗シワ剤、バリア機能改善剤、薄毛改善剤等をともに配合してもよい。
【0057】
本発明のスクリーニング方法によるシミ改善剤を皮膚外用組成物に含有させる場合、その製造に際しては、化粧料、医薬部外品、医薬品などの製剤化で通常使用される成分を任意に配合することができる。該皮膚外用組成物は、例えば、ローション剤型、乳化剤型、オイル剤型など任意の剤型とすることができる。
【0058】
本発明のスクリーニング方法によるシミ改善剤を飲食品に含有させる場合、その製造に際しては、食品製造において通常使用される成分を任意に配合することができる。
飲食品の形態としては、液状、ペースト状、固体、粉末、顆粒等の形態を問わない。また、錠菓、流動食、飼料等も飲食品の態様に含まれる。
シワ改善剤を含有する食品組成物の態様としては、通常の食品、飲料、機能性表示食品、特定保健用食品等の保健機能食品、サプリメント等が挙げられ、特に機能性表示食品が好ましい。
【実施例
【0059】
(試験例1)ワイルドタイム抽出物のシミ改善作用の確認
(1)乳液の調製
下記表1に示す処方に従って、ワイルドタイム抽出物を含む化粧料(乳液)を調製した。即ち、(イ)、(ロ)、(ハ)の成分をそれぞれ70℃に加熱し、(ロ)に(ハ)を加えて中和し、これを撹拌しながら(イ)を徐々に加えて乳化し、ホモジナイザーを用いて均質化した後、撹拌しながら冷却し、製造例1の乳液を得た。
【0060】
【表1】
【0061】
(2)被験者及び測定部位
本実施例では、40歳から52歳の女性20名を被験者とした。
そして、本実施例では、被験者顔面における、シミが存在する部位(92箇所)を測定部位として選定した。
各被験者のシミが存在する部位に、製造例1の乳液を1日1回塗布し、これを12週間続けた。
【0062】
(3)角層細胞試料の調製
製造例1の乳液の使用前、使用継続6週間経過時点、及び12週間経過時点において、被験者のシミが存在する部位の角層を採取し、スライドガラス(「MASコート」松波硝子工業株式会社製)に転写し、当該スライドガラスをキシレンに一晩浸漬した。
次いで、当該スライドガラスをキシレンで10分間、2回洗浄した後、PBSで洗浄し、角層細胞試料を調製した。
【0063】
(4)デスモグレイン1の免疫染色
角層細胞試料をPBSで洗浄後、4%PFA・リン酸緩衝液中、室温で15分間インキュベートした。インキュベート後の測定用試料をPBSで洗浄し、20%ブロックエース(DSバイオファーマメディカル社製)水溶液中、室温条件下で、1時間インキュベートした。
その後、一次抗体(Anti-Desmoglein 1,Mouse-Mono)を加え、湿潤箱中、室温条件下で、2時間インキュベートした。
【0064】
各角層細胞試料をPBSで5分間、3回洗浄した後、二次抗体(Allexa Fluor@488 Goat Anti-mouce IgG)、を加え、湿潤箱中、室温で1時間インキュベートした。
それぞれの角層細胞試料をPBSで5分間、3回洗浄し、蒸留水で2回洗浄した後、Fluoromout-G(southern biotech社製)を用いて封入した。
【0065】
(5)測定
染色した角層細胞試料を、共焦点レーザー顕微鏡を用いて、解析用画像を撮影し、蛍光(染色)の確認を行った。
【0066】
解析用画像全体の面積を100%として、蛍光部分の面積を算出した。結果を表2、表3及び図1に示す。なお、乳液使用12週間経過後のデータは、シミ部位93箇所のうち、80箇所のデータを集計し、同箇所における乳液使用前のデータと比較した。
【0067】
【表2】
【0068】
【表3】
【0069】
表2、3、及び図1に示す通り、ワイルドタイム抽出物を含む乳液を継続的に使用することで、シミ部位におけるデスモグレイン1量が有意に減少することが確認できた。
【0070】
(6)メラニンの染色
デスモグレイン1(Dsg1)染色に供した各角層細胞試料を、70%エタノールに浸漬させた。浸漬後、蒸留水に、37℃で一晩浸漬したのち、カバーガラスを外した。
【0071】
風乾した後、角層細胞試料をフォンタナ・アンモニア銀溶液に、37℃、遮光条件下、24時間浸漬させた。浸漬後に水洗いをした後、風乾し、New M・X(FX00100 MATSUNAMI社製)を用いて封入した。その後、光学顕微鏡を用いて、解析用画像を撮影した。結果を図1に示す。
【0072】
図1に示す通り、ワイルドタイム抽出物を含む組成物を継続して適用することで、デスモグレイン1の減少に伴い、メラニンも減少していることが確認された。
【0073】
(試験例2)トゲナシ抽出物、ウスベニタチアオイ抽出物のシミ改善作用の確認
有効成分として、トゲナシ抽出物又はウスベニタチアオイ抽出物を用いた以外は、試験例1と同様に、デスモグレイン1が染色された角層細胞試料を調製し、画像を取得した。
また、試験例1と同様にメラニンが染色された角層細胞試料を調製し、画像を取得した。
トゲナシ抽出物を被験物質として用いた結果を図2、ウスベニタチアオイ抽出物を被験物質として用いた結果を図3に示す。
【0074】
図2図3に示す通り、トゲナシ抽出物、又はウスベニタチアオイ抽出物を継続的に使用することで、シミ部位におけるデスモグレイン1量が有意に減少することが確認できた。
さらに、トゲナシ抽出物、又はウスベニタチアオイ抽出物を継続して適用することで、デスモグレイン1の減少に伴い、メラニンも減少していることが確認された。
【0075】
試験例1及び試験例2に示す通り、デスモグレイン量を減少させる作用を有する成分であるワイルドタイム抽出物、トゲナシ抽出物、及びウスベニタチアオイ抽出物は、何れも継続的に皮膚に適用することで、メラニン量を減少させる効果を有していた。
この効果は、接着タンパク質であるデスモグレイン1量が減少することで、メラニンを含む角層細胞の排出が促進されていることに由来すると推定できる。
この結果から、角層細胞におけるデスモグレインの減少効果を指標とすることで、シミ改善作用を有する成分のスクリーニングができることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明は、新たなシミ改善剤の設計技術に応用することができる。

図1
図2
図3