(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-21
(45)【発行日】2024-10-29
(54)【発明の名称】無線装置、及び、無線装置の制御方法
(51)【国際特許分類】
H04B 1/3822 20150101AFI20241022BHJP
H04B 1/59 20060101ALI20241022BHJP
B60R 25/24 20130101ALI20241022BHJP
E05B 49/00 20060101ALI20241022BHJP
【FI】
H04B1/3822
H04B1/59
B60R25/24
E05B49/00 K
(21)【出願番号】P 2023564775
(86)(22)【出願日】2022-10-13
(86)【国際出願番号】 JP2022038184
(87)【国際公開番号】W WO2023100488
(87)【国際公開日】2023-06-08
【審査請求日】2024-03-01
(31)【優先権主張番号】P 2021193984
(32)【優先日】2021-11-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000010098
【氏名又は名称】アルプスアルパイン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】二木 祐樹
(72)【発明者】
【氏名】山田 幸光
(72)【発明者】
【氏名】高井 大輔
(72)【発明者】
【氏名】陳 洪源
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 岳男
(72)【発明者】
【氏名】阿部 章広
【審査官】川口 貴裕
(56)【参考文献】
【文献】特表2021-528301(JP,A)
【文献】国際公開第2020/077231(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 1/3822
H04B 1/59
B60R 25/01
B60R 25/24
E05B 49/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
他のデバイスに信号を送信する送信部と、
前記他のデバイスから信号を受信する受信部と、
前記送信部が前記他のデバイスに送信した所定周波数の信号の単位時間における所定物理量の第1差分を求めるとともに、前記受信部が受信した前記信号に基づいて、前記他のデバイスが受信した前記所定周波数の信号の単位時間における前記所定物理量の第2差分を算出する差分算出部と、
前記第1差分と前記第2差分とを比較し、前記受信部が受信した前記信号の正当性を判定する判定処理を行う判定部と
を含む、無線装置。
【請求項2】
前記判定部は、前記受信部が受信した前記信号が正当であると判定すると前記判定処理を継続し、前記受信部が受信した前記信号が正当ではないと判定すると前記判定処理を中止する、請求項1に記載の無線装置。
【請求項3】
前記判定部は、前記受信部が受信した前記信号が正当ではないと判定すると前記判定処理を中止するとともに、前記送信部及び前記受信部の送信処理及び受信処理を中止させる、請求項2に記載の無線装置。
【請求項4】
前記所定物理量は、前記信号の位相である、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の無線装置。
【請求項5】
他のデバイスに信号を送信する送信部と、
前記他のデバイスから信号を受信する受信部と、
前記送信部が前記他のデバイスに送信した所定周波数の信号の単位時間における所定物理量の第1差分を求めるとともに、前記受信部が受信した前記信号に基づいて、前記他のデバイスが受信した前記所定周波数の信号の単位時間における前記所定物理量の第2差分を算出する差分算出部と
を含む無線装置において、
前記第1差分と前記第2差分とを比較し、前記受信部が受信した前記信号の正当性を判定する、無線装置の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、無線装置、及び、無線装置の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、耐リレーアタック通信の方法がある。この耐リレーアタック通信の方法では、同期化信号をスレーブワイヤレスデバイス(Slave)に送るマスターワイヤレスデバイス(Master)を含み、前記同期化信号がタイミング情報を含み、前記タイミング情報が、前記Masterに対して及び前記Slaveに対して交互のTX及びRXロールパターンが提供されるように、Master及びSlave通信時間スロットを連動するための共通時間基準及びタイムスロット期間を含み、前記Masterが、パケット誤差となる前記Master及び前記スレーブパケットデータからの伝送のオーバーラップを識別するために、前記スレーブから受信したスレーブパケットデータを分析し、前記パケット誤差の場合、リレーアタックを防止するため、前記Masterから前記Slaveへの通信を中断する(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の耐リレーアタック通信の方法では、Master及びSlave通信時間スロットを連動するための共通時間基準及びタイムスロット期間を利用してパケット誤差を検出している。このため、例えば、MasterとなるマスターデバイスがSlaveとなるスレーブデバイスに対して送信する送信信号の位相を変化させた場合に、不正なスレーブデバイスが送信信号を受信して、送信信号の位相を変化させて正当なスレーブデバイスになりすましたような場合に、不正を見破ることができない。このように送信信号の位相を変化させて正当なスレーブデバイスになりすますリレーアタックの手法は、EDLC(early detect late commitment)と言われている。
【0005】
そこで、受信信号の位相を変化させて正当なデバイスになりすますリレーアタックを検出可能な無線装置、及び、無線装置の制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の実施形態の無線装置は、他のデバイスに信号を送信する送信部と、前記他のデバイスから信号を受信する受信部と、前記送信部が前記他のデバイスに送信した所定周波数の信号の単位時間における所定物理量の第1差分を求めるとともに、前記受信部が受信した前記信号に基づいて、前記他のデバイスが受信した前記所定周波数の信号の単位時間における前記所定物理量の第2差分を算出する差分算出部と、前記第1差分と前記第2差分とを比較し、前記受信部が受信した前記信号の正当性を判定する判定処理を行う判定部とを含む。
【発明の効果】
【0007】
受信信号の位相を変化させて正当なデバイスになりすますリレーアタックを検出可能な無線装置、及び、無線装置の制御方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施形態の無線装置を含む測距装置をそれぞれ実装した車両及びスマートキーを示す図である。
【
図3】送信信号の位相と不正な受信信号の位相を説明する図である。
【
図4】送信信号の位相差、正当な受信信号の位相差、及び不正な受信信号の位相差を示す図である。
【
図5】BLEのパケットのデータ構造の一例を示す図である。
【
図6】送信信号の位相差と受信信号の位相差との相関を説明する図である。
【
図7】不正なデバイスであるかどうかを判定するために制御装置が実行する処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示の無線装置、及び、無線装置の制御方法を適用した実施形態について説明する。
【0010】
<実施形態>
図1は、実施形態の無線装置を含む測距装置100A及び100Bをそれぞれ実装した車両10及びスマートキー20を示す図である。ここでは一例として、測距装置100Aは、車両10に搭載されるスマートエントリシステムに実装され、測距装置100Bは、車両10のスマートキー20に実装される形態について説明する。測距装置100A及び100Bは、一例としてBLE(Bluetooth Low Energy(登録商標))でパケット通信を行う。
【0011】
車両10の測距装置100Aとスマートキー20の測距装置100Bとのうちの少なくともいずれか一方が車両10とスマートキー20との間の距離を測定し、車両10のドアやトランク等のロックは、測距装置100A又は100Bによって測距された距離が適切な距離である場合に解錠される。
【0012】
ここでは、一例として、車両10の測距装置100Aが測距を行い、測距の結果をスマートキー20の測距装置100Bに通知することとする。測距装置100A及び100Bは、一例として同一の構成を有する。このため、以下において測距装置100A及び100Bを区別しない場合には、単に測距装置100と称す。車両10の測距装置100Aとスマートキー20の測距装置100Bとのうち、測距を行わない測距装置100Bは、他のデバイスの一例である。ここでは一例として車両10の測距装置100Bが他のデバイスの一例になる。なお、測距装置100Aをマスターデバイス、測距装置100Bをスレーブデバイスとして取り扱うことや、これとは逆に、測距装置100Bをマスターデバイス、測距装置100Aをスレーブデバイスとして取り扱うことも可能であるが、ここではそのような取り扱いは行わずに説明する。
【0013】
<測距装置100Aの構成>
図2は、実施形態の測距装置100Aを示す図である。上述のように、車両10の測距装置100Aと、スマートキー20の測距装置100Bとは、同一の構成を有する。ここでは、測距を行う測距装置100Aについて説明する。また、測距装置100Aは、実施形態の無線装置100Rを含む。無線装置100Rに含まれる構成要素には括弧書きで符号100Rを記す。
【0014】
測距装置100Aは、アンテナ101、PA(Power Amplifier)110、LNA(Low Noise Amplifier)120、OM(Orthogonal Modulator)130、ODM(Orthogonal DeModulator)140、VCO(Voltage Controlled Oscillator)150、PLL(Phase Locked Loop)155、コーデック処理部160、及び制御装置170を含む。無線装置100Rは、測距装置100Aの構成要素のうちの制御装置170の位相測定部178及び測距部179以外の構成要素を含む。このため、測距装置100Aの構成要素のうちの制御装置170の位相測定部178及び測距部179以外の構成要素に括弧書きで符号100Rを記す。
【0015】
アンテナ101は、車両10の測距装置100Bのアンテナ101と通信を行う。アンテナ101は、PA110とLNA120に接続されている。ここでは、アンテナ101の接続先をPA110とLNA120とのいずれか一方に切り替える切替スイッチを省略する。
【0016】
PA110は、OM130とアンテナ101との間に設けられており、OM130から入力される送信用の変調信号を増幅してアンテナ101に出力する。PA110は送信用のアンプである。
【0017】
LNA120は、アンテナ101とODM140との間に設けられており、アンテナ101で受信された電波を低ノイズで増幅してODM140に出力する。LNA120は、受信用のアンプである。
【0018】
OM130は、送信部の一例であり、VCO150から入力される高周波信号を用いて、コーデック処理部160から入力されるI/Q信号を変調し、送信用の変調信号としてPA110に出力する。
【0019】
ODM140は、受信部の一例であり、VCO150から入力される高周波信号を用いて、LNA120から出力される信号を復調してI/Q信号を取得し、I/Q信号をコーデック処理部160に出力する。LNA120から出力される信号は、測距装置100Aが測距装置100Bから受信した信号である。
【0020】
VCO150は、PLL155が設定する周波数で発振する。VCO150は、PLL155によって設定される複数の周波数で発振可能である。
【0021】
PLL155は、VCO150が発振する周波数を設定する。PLL155は、複数の周波数をVCO150に設定可能である。
【0022】
コーデック処理部160は、ADC(Analog to Digital Converter)とDAC(Digital to Analog Converter)を含み、コーデック処理を行う。コーデック処理部160は、BLE(登録商標)のパケットの検出や、アドレス判定処理等を行う。より具体的には、コーデック処理部160は、ODM140で処理されたI/Q信号をデジタル変換(ADC処理)し、BLEのパケット情報に変換する。また、コーデック処理部160は、制御装置170から入力されるBLEのパケット(デジタル信号)からI/Q信号を生成(I信号、Q信号に分割)し、DAC処理でアナログ変換して、送信信号としてのI/Q信号としてOM130に出力する。
【0023】
以下では、測距装置100AのOM130が測距装置100Bに送信する所定周波数の信号を送信信号と称す。また、測距装置100Aによって送信信号として送信され、他のデバイスによって受信された信号を受信信号と称す。
【0024】
制御装置170は、主制御部171、設定部172、通知部173、切替部174、位相取得部175、差分算出部176、判定部177、位相測定部178、測距部179、及びメモリ170Mを有する。メモリ170Mは格納部の一例である。制御装置170は、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、入出力インターフェース、及び内部バス等を含むマイクロコンピュータによって実現される。
【0025】
主制御部171、設定部172、通知部173、切替部174、位相取得部175、差分算出部176、判定部177、位相測定部178、測距部179は、制御装置170が実行するプログラムの機能(ファンクション)を機能ブロックとして示したものである。また、メモリ170Mは、制御装置170のメモリを機能的に表したものである。
【0026】
主制御部171は、制御装置170の処理を統括する処理部であり、設定部172、通知部173、切替部174、位相取得部175、差分算出部176、判定部177、位相測定部178、測距部179が実行する処理以外の処理を実行する。
【0027】
設定部172は、測距装置100Aから測距装置100Bに送信する信号の周波数(所定周波数)と位相を設定する。また、測距装置100Bは、測距装置100Aに送信する信号と同一周波数の信号を測距装置100Aに送信する。なお、測距装置100A及び100Bが送信し合う信号の同一周波数については、測距装置100A及び100Bの間で予め取り決めておけばよく、BLEのパケット通信を利用して周波数を表すデータを共有してもよい。
【0028】
通知部173は、測距の結果を車両10の測距装置100Bの通知部173に通知する。通知には、測距のための通信とは異なる周波数のBLEのパケット通信を利用する。通知においては、測距の結果等をBLEのパケットのペイロードに書き込めばよい。
【0029】
切替部174は、OM130が信号を送信する送信状態と、ODM140が信号を受信する受信状態とを切り替える。切替部174は、送信状態ではPA110が信号を増幅可能にし、受信状態ではLNAが信号を増幅可能にする。切替部174は、送信状態と受信状態とを切り替える際に、位相や周波数を安定させるための安定時間を設ける。
【0030】
位相取得部175は、測距装置100Aが送信した所定周波数の送信信号を測距装置100Bが受信信号として受信したときの位相を測距装置100Bから取得する。位相取得部175は、測距のための通信とは異なる周波数のBLEのパケット通信で位相を表すデータを測距装置100Bから取得する。位相を表すデータは、BLEのパケットのペイロードに書き込めばよい。また、位相を表すデータは、測距装置100Bの位相測定部178が測定して、測距装置100Aに送信すればよい。
【0031】
差分算出部176は、OM130が測距装置100Bに送信した所定周波数の送信信号の位相の第1差分を求めるとともに、ODM140が受信した信号に基づいて位相取得部175によって取得される位相を表すデータを用いて、他のデバイスが受信した所定周波数の受信信号の位相の第2差分を算出する。位相は所定物理量の一例である。
【0032】
他のデバイスは、測距装置100B又は不正なデバイスのいずれか一方である。測距装置100Bは、測距装置100Aに対して正当なアクセス権限を有する正当なデバイスである。不正なデバイスは、正当なデバイスである測距装置100Bになりすましたデバイスであり、測距装置100Aに対して正当なアクセス権限を有しないデバイスである。第1差分及び第2差分は、ODM140が受信した信号を送信した送信元のデバイスの正当性を判定する際に用いられる。第1差分と第2差分の算出方法については、
図3及び
図4を用いて後述する。
【0033】
判定部177は、差分算出部176によって算出された第1差分と第2差分とを比較し、ODM140が受信した信号の正当性を判定する判定処理を行う。判定部177が信号の正当性を判定することは、ODM140が受信した信号を送信した送信元のデバイスの正当性を判定部177が判定することである。より具体的には、送信元が測距装置100Bであるか、測距装置100Bになりすました不正なデバイスであるかどうかを判定部177が判定することである。
【0034】
位相測定部178は、測距装置100Aが測距装置100Bから所定周波数の信号を受信したときの位相を測定する。この位相は、測距用に測定される。このため、無線装置100Rの構成要素には位相測定部178は含まれない。
【0035】
測距部179は、位相取得部175によって取得された送信信号の位相と、位相測定部178によって測定された位相と、測距装置100A及び100Bの間における送信信号及び受信信号の波数とに基づいて、測距装置100Aと測距装置100Bとの距離を測距する。
【0036】
メモリ170Mは、制御装置170の主制御部171、設定部172、通知部173、切替部174、位相取得部175、差分算出部176、判定部177、位相測定部178、及び測距部179が上述の処理を行うために必要なプログラムやデータ等を格納する。メモリ170Mは、測距装置100A及び100Bの間で送信し合う信号の所定周波数及び位相を設定したデータ等を格納する。
【0037】
<送信信号の位相と不正な受信信号の位相>
図3は、送信信号の位相と不正な受信信号の位相を説明する図である。不正な受信信号とは、不正なデバイスによって位相が改竄された受信信号である。
図3において、横軸はサンプリングが行われるサンプルポイント(0.25μs/point)を表し、左側の縦軸は位相(度)を表し、右側の縦軸は、シンボル値(0又は1)を表す。横軸はサンプルポイントを表すため、時間軸に相当する。
【0038】
図3において、一点鎖線は、制御装置170からコーデック処理部160に入力されるBLE(登録商標)のパケット(デジタル信号)のシンボル値(送信シンボル)を示す。また、実線は、送信信号の位相を表し、破線は、不正な受信信号の位相を示す。
【0039】
一例として
図3に示すようにBLEのパケットのシンボル値が変化すると、BLEのパケットに基づいて生成される送信信号としてのI/Q信号の位相は、実線で示すように変化する。
図3には示さないが、正当な測距装置100Bの受信信号の位相は、実線で示す送信信号の位相に追従して変化するため、送信信号に対して1サンプルポイントから数サンプルポイントだけ遅れた波形になる。
【0040】
図3に破線で示す不正な受信信号の位相は、一例としてEDLCというリレーアタックの手法で生成され得る不正な受信信号の位相の一例を表す。EDLCとは、受信信号の送信シンボルを推測し、推測した送信シンボルに基づいて受信信号よりも位相の立上りのタイミングを早めた受信信号を生成して、BLEのパケットのペイロードに格納して測距装置100Aに送信する手法である。このように、位相を改竄し、不正なデバイスと測距装置100Aとの距離を測距装置100Aに誤って計算させて正当な測距装置100Bになりすますことで、リレーアタックを行おうとするのが、EDLCである。
【0041】
EDLCによって生成される不正な受信信号の位相は、BLEのパケットのシンボル値に追従するように急峻に変化しており、結果的に送信信号の位相にも追従するパターンになっている。このように位相が急峻に変化しても、従来の耐リレーアタック通信の方法では、ビット異常として検出されない。
【0042】
<送信信号の位相差、正当な受信信号の位相差、及び不正な受信信号の位相差>
図4は、送信信号の位相差、正当な受信信号の位相差、及び不正な受信信号の位相差を示す図である。横軸はサンプリングが行われるサンプルポイント(0.25μs/point)を表し、縦軸は位相差(度)を表す。送信信号の位相差は、第1差分の一例であり、正当な受信信号の位相差と、不正な受信信号の位相差とは、第2差分の一例である。
【0043】
図4において、実線は送信信号の位相差を示し、二点鎖線は正当な受信信号の位相差を表し、破線は不正な受信信号の位相差を示す。
【0044】
送信信号の位相差とは、送信信号の位相と、サンプリング周期における1周期前にサンプリングされた位相との差(位相差)である。サンプリング周期は、単位時間の一例であり、このような送信信号の位相差は、単位時間における位相の差分(第1差分)である。すなわち、送信信号の位相差とは、測距装置100Aにおいて繰り返しサンプリングされる送信信号の位相のうち、連続した2つのサンプリング周期(連続した2つのサンプルポイント)においてサンプリングされた位相同士の差(位相差)である。
【0045】
同様に、正当な受信信号の位相差とは、測距装置100Bにおいて繰り返しサンプリングされる受信信号の位相のうち、連続した2つのサンプリング周期(連続した2つのサンプルポイント)においてサンプリングされた位相同士の差(位相差)である。
【0046】
また、不正な受信信号の位相差とは、測距装置100Bになりすました不正なデバイスが、測距装置100Aの送信信号に基づいて不正に生成した受信信号の位相差であり、正当な受信信号についての連続した2つのサンプリング周期(連続した2つのサンプルポイント)においてサンプリングされた位相同士の差(位相差)を模擬したものである。
【0047】
図4に示すように、正当な受信信号の位相差は、送信信号の位相差に追従しており、送信信号に対する遅れがあっても1サンプルポイントから数サンプルポイント程度である。正当な受信信号の位相差の波形は、送信信号の位相差の波形と類似している。
【0048】
これに対して、不正な受信信号の位相差は、送信信号の位相差が変化する際に変化しているが、位相自体が
図3に示すように急峻に変化しているため、
図4に示すように位相差も急峻に変化している。
【0049】
このように、正当な受信信号の位相差と、不正な受信信号の位相差とは、変化の様子が全く異なる。実施形態の無線装置100R及び測距装置100Aは、このような時間的な変化の違いに基づいて、正当な測距装置100Bであるか、不正なデバイスであるかを判定する。
【0050】
<BLEのパケットのデータ構造>
図5は、BLE(登録商標)のパケットのデータ構造の一例を示す図である。BLEのパケットは、先頭から、プリアンブル(preamble)、アクセスアドレス(Access Address)、プロトコルデータユニット(Protocol Data Unit)、及びCRCを有する。プロトコルデータユニットには、ヘッダやペイロード等の領域がある。一例として、測距装置100Bの位相取得部175は、位相を表すデータを取得して、BLEのパケットのペイロードに書き込めばよい。なお、一例として、位相を表すデータとしては、FSK(frequency shift keying)変調で、周波数が高い区間の値を1にし、周波数が低い区間の値を0にしたデータを用いればよい。
【0051】
<送信信号の位相差と受信信号の位相差との相関>
図6は、送信信号の位相差と受信信号の位相差との相関を説明する図である。
図6において、横軸は送信信号と受信信号のサンプルポイントの差を表し、縦軸は送信信号の位相差と受信信号の位相差との相関値を表している。横軸のサンプルポイントの差は、送信信号及び受信信号の位相が得られるサンプルポイントの差であり、送信信号及び受信信号の位相差は、各サンプルポイントの位相との差から、各サンプルポイントの1つ前のサンプルポイントの位相を減算して得る位相差である。
【0052】
図6において、実線は、測距装置100Aの送信信号の位相差と、正当な測距装置100Bの受信信号の位相差との相関の一例を示し、破線は、測距装置100Aの送信信号の位相差と、不正なデバイスの受信信号の位相差との相関の一例を示す。
【0053】
測距装置100Aの送信信号の位相差と、正当な測距装置100Bの受信信号の位相差との相関は、実線で示すように最大値が1に近い値になる。
図4で説明したように、正当な受信信号の位相差の波形は、送信信号の位相差の波形と類似しているため、サンプルポイントを一例として±10の範囲内でずらせば、このように大きな最大値を有する相関の特性が得られる。なお、ここでは、サンプルポイントの±10の範囲内に位相差のピークが存在するため、±10の範囲内でサンプルポイントをずらせば、相関の最大値が得られる。相関の最大値を求めるには、位相差のピークが存在する範囲内で、サンプルポイントをずらせばよい。
【0054】
これに対して、測距装置100Aの送信信号の位相差と、不正なデバイスの受信信号の位相差との相関は、破線で示すように最大値が低くなる。これは、
図4に示すように、不正なデバイスの受信信号の位相差は急峻に変化し、送信信号の位相差の波形とは全く異なるからである。
【0055】
このため、例えば、相関の最大値に対して、適切な閾値を用いて判別すれば、正当な測距装置100Bの受信信号の位相差であるか、不正なデバイスの受信信号の位相差であるかを判定することができる。このような判定は、制御装置170の判定部177が行えばよい。判定部177が
図6に示すような相関を計算し、相関の最大値が閾値以上であれば正当なデバイスであると判定し、相関の最大値が閾値未満であれば不正なデバイスであると判定すればよい。なお、閾値は、
図6の例では、一例として0.7から0.8の値に設定すればよい。
【0056】
<不正なデバイスであるかどうかを判定する処理>
図7は、不正なデバイスであるかどうかを判定するために制御装置170が実行する処理を示すフローチャートである。
図7に示す処理は、無線装置100Rの制御方法を実現する処理である。
【0057】
まず、主制御部171は、処理がスタートすると、送信する信号の周波数(所定周波数)と位相を設定部172に設定させて送信信号を送信し、送信信号の位相と、受信信号の位相とを取得する(ステップS1)。
【0058】
差分算出部176は、OM130が測距装置100Bに送信した所定周波数の送信信号の単位時間における位相の第1差分と、ODM140が受信した信号に基づいて、他のデバイスが受信した所定周波数の受信信号の単位時間における位相の第2差分とを算出する(ステップS2)。
【0059】
判定部177は、相関を計算する(ステップS3)。ステップS3では、
図6に示すように、サンプルポイントを一例として±10の範囲内でずらすことによって、最大値を有する相関の特性を求めればよい。
【0060】
判定部177は、正当なデバイスであるかどうかを判定する(ステップS4)。正当なデバイスであるかどうかの判定は、相関の最大値が閾値以上であるかどうかで判定すればよい。
【0061】
判定部177は、正当なデバイスである(S4:YES)と判定すると、正当なデバイスであることを位相測定部178及び測距部179に通知する(ステップS5)。ステップS5の処理が終わると一連の処理が終了し(エンド)、再びスタートから処理が行われる。すなわち、判定部177は、判定処理を継続する。
【0062】
位相測定部178及び測距部179は、正当なデバイスであることが通知されると、測距用に位相を測定し、測距を行う。
【0063】
また、判定部177は、ステップS4において正当なデバイスではない(S4:NO)と判定すると、OM130及びODM140の送信処理及び受信処理を中止させる(ステップS6)。測距装置100Aに対する正当なアクセス権限を有しないため、車両10への不正なアクセスを阻止するためである。
【0064】
次いで、判定部177は、正当なデバイスではないことを位相測定部178及び測距部179に通知する(ステップS7)。
【0065】
位相測定部178及び測距部179は、正当なデバイスではないことが通知されると、測距用の位相の測定、及び、測距を行わずに処理を終了する。この場合は、測距装置100A及び無線装置100Rの上位装置(車両10を管理するECU等)に不正なデバイスからのアクセスがあったことが通知され、車両10のドアロックの解錠や、イグニッションスイッチのオンへの切り替え等を行えない状態になる。
【0066】
次いで、判定部177は、判定処理を中止する(ステップS8)。不正なデバイスにアクセスされたため、すべての処理を中止することとしたものである。この場合には、処理がスタートには戻らずに中止される。なお、例えば、中止後に、正当なデバイスの信号を受信して正当なデバイスであると判定された場合に、復帰可能にすればよい。
【0067】
以上のように、差分算出部176が送信信号の位相の第1差分を求めるとともに、受信信号の位相の第2差分を算出し、判定部177が第1差分と第2差分とを比較して、信号の正当性を判定する。このため、EDLCによって受信信号の位相が急峻に変化するような場合を判別することができる。
【0068】
したがって、受信信号の位相を変化させて正当なデバイスになりすますリレーアタックを検出可能な無線装置100R、及び、無線装置100Rの制御方法を提供することができる。
【0069】
また、判定部177は、正当なデバイスであると判定すると判定処理を継続し、正当なデバイスではないと判定すると判定処理を中止する。このため、不正なデバイスにアクセスされて車両10が不正に利用されることを抑制することができる。
【0070】
また、判定部177は、正当なデバイスではないと判定すると判定処理を中止するとともに、OM130及びODM140の送信処理及び受信処理を中止させるので、車両10への不正なアクセスを阻止することができる。
【0071】
また、送信信号及び受信信号の所定物理量として位相を用いるので、EDLCのように受信信号の位相を急峻に変化させる不正が行われた場合に、位相差に基づいて不正なデバイスを見破ることができる。
【0072】
以上、本開示の例示的な実施形態の無線装置、及び、無線装置の制御方法について説明したが、本開示は、具体的に開示された実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲から逸脱することなく、種々の変形や変更が可能である。
【0073】
なお、本国際出願は、2021年11月30日に出願した日本国特許出願2021-193984に基づく優先権を主張するものであり、その全内容は本国際出願にここでの参照により援用されるものとする。
【符号の説明】
【0074】
10 車両
20 スマートキー
100A、100B 測距装置
100R 無線装置
110 PA
120 LNA
130 OM (送信部の一例)
140 ODM (受信部の一例)
150 VCO
155 PLL
160 コーデック処理部
170 制御装置
171 主制御部
172 設定部
173 通知部
174 切替部
175 位相取得部
176 差分算出部
177 判定部
178 位相測定部
179 測距部
170M メモリ