IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ アース製薬株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-ハチ用毒餌剤 図1
  • 特許-ハチ用毒餌剤 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-21
(45)【発行日】2024-10-29
(54)【発明の名称】ハチ用毒餌剤
(51)【国際特許分類】
   A01N 25/22 20060101AFI20241022BHJP
   A01N 47/02 20060101ALI20241022BHJP
   A01N 63/14 20200101ALI20241022BHJP
   A01N 65/00 20090101ALI20241022BHJP
   A01P 7/04 20060101ALI20241022BHJP
【FI】
A01N25/22
A01N47/02
A01N63/14
A01N65/00 Z
A01P7/04
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2021065219
(22)【出願日】2021-04-07
(62)【分割の表示】P 2020571723の分割
【原出願日】2020-08-25
(65)【公開番号】P2021107409
(43)【公開日】2021-07-29
【審査請求日】2023-05-22
(31)【優先権主張番号】P 2019154668
(32)【優先日】2019-08-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020006296
(32)【優先日】2020-01-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000100539
【氏名又は名称】アース製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100162396
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100202430
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 千香子
(72)【発明者】
【氏名】阿部 練
(72)【発明者】
【氏名】前田 和輝
【審査官】神谷 昌克
(56)【参考文献】
【文献】特表平11-508551(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第104336032(CN,A)
【文献】特開2003-238317(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N 25/22
A01N 47/02
A01N 63/14
A01N 65/00
A01P 7/04
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
含蜜糖および/またはハチミツを有効成分とする、フィプロニル分解抑制剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハチ用毒餌剤に関する。詳しくは、フィプロニルと特定の溶剤および/または界面活性剤を含有すること、また、フィプロニルと含蜜糖および/またはハチミツを含有することを特徴とする発明に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ハチ類による被害が増大し問題となっている。日本において約3000種のハチが知られており、そのうち刺咬性の強い肉食系ハチは約20種といわれている。肉食系ハチの中でも、スズメバチやアシナガバチ等のスズメバチ科に属するハチは攻撃性の強い種であり、刺咬されるとアナフィラキシーショックを引き起こすほか、毒針の構造上複数回の攻撃が可能であるため、駆除要望が非常に高い害虫種の1つであり、その駆除に際し、速効性が求められている。
肉食系ハチは、民家の軒下や天井裏に営巣することもあり、都市部では、人の居住区域と肉食系ハチの活動範囲が重複しているため、刺咬による被害が多発する傾向にある。肉食系ハチは、好戦的であるため、人が知らずに巣に接近すると攻撃され、被害に遭う場合もある。例えば、肉食系ハチに刺咬されたことが原因で死亡する人の数は、毎年10~20人程度報告されている。
【0003】
現在のハチ類の駆除方法としては、殺虫活性成分を含有する液剤またはエアゾール剤を、ハチ類に直接噴霧して駆除するタイプのものが一般的であり、速効性を有するピレスロイド系殺虫剤などを有効成分として含有するエアゾール剤が多く提案されている(例えば、特許文献1~3等)。しかしながら、これらのエアゾール剤を使用しても、各個体に十分量を噴霧することができない場合や、殺虫効果が発現するまでの時間に、興奮状態となったハチが警戒フェロモンを発散し、より多くの興奮したハチを呼び寄せてしまい、これらのハチに攻撃されることもあった。
このような状況から、液剤またはエアゾール剤以外のハチ類の駆除方法として、設置するだけで、より安全にハチを駆除することができるハチの毒餌剤に期待が寄せられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-178793号公報
【文献】特開2015-093846号公報
【文献】特開2011-144151号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
毒餌剤によるハチ駆除効果を高めるには、溶剤や界面活性剤を配合しても、それらを配合しないものと同等の喫食性を維持させることが有効である。
そこで、本発明は、喫食性の高いハチ用毒餌剤の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、殺虫成分として少量で高活性が得られるフィプロニルを選択した。フィプロニルの安定した殺虫効果を得るため、特定の溶剤および/または界面活性剤をフィプロニルと併用することにより、フィプロニルを製剤中に均一に分散できること、さらには、溶剤や界面活性剤を配合しても、それらを配合しないものと同等のハチ喫食性を維持できることを見出し、上記課題を解決するに至ったものである。
【0007】
本発明は、具体的には次の事項を要旨とする。
1.含蜜糖および/またはハチミツを有効成分とする、フィプロニル分解抑制剤。
2.フィプロニルと、含蜜糖および/またはハチミツを混合することを特徴とする、フィプロニルの分解抑制方法。
3.フィプロニルと含蜜糖を含有するハチ用毒餌剤。
【発明の効果】
【0008】
本発明のハチ用毒餌剤は、成分(A)として、殺虫効果の高いフィプロニルを含有するため、高いハチ駆除効果を得ることができる。しかも、成分(B)の配合により、フィプロニルの溶解性を高めることができ、かつ、成分(B)を配合しない場合と同等のハチ喫食性を維持できるため、ハチに対する高い駆除効果を発揮することができ、有用である。
また、本発明のハチ用毒餌剤は、フィプロニルと、含蜜糖および/またはハチミツを併用することにより、フィプロニルが分解等により減少することを抑制できるため、本発明のハチ用毒餌剤の長期保存安定性が向上するほか、ハチに対する高い駆除効果を長期間維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明のハチ用毒餌剤を収納する、ハチ毒餌剤容器の具体的態様のうち吸液性部材を除いた構成の分解斜視図である。
図2図1に示すハチ毒餌剤容器の中蓋及び傘を取り外した状態を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明のハチ用毒餌剤について詳細に説明する。
本発明のハチ用毒餌剤は、成分(A)として、フィプロニルを含有するものである。
<成分(A)>
フィプロニルは、一般名であり、その化学名は5-アミノ-1-[2,6-ジクロロ-4-(トリフルオロメチル)フェニル]-4-(トリフルオロメチルスルホニル)-1H-ピラゾール-3-カルボニトリルである、下記化学構造を有する化合物である。
【化1】

フィプロニルは、神経伝達物質とされるγ-アミノ酪酸による神経伝達を阻害することで殺虫活性を示す化合物とされている。効果の発現が遅効性であるため、喫食してから帰巣した後に致死するまでの時間差を利用して、ゴキブリ用毒餌剤の殺虫成分として利用されている化合物でもある。
本発明の成分(A)は、ハチ用毒餌剤中に0.0001重量%以上10重量%以下の範囲で含有することが好ましく、0.001重量%以上5重量%以下の範囲で含有することがより好ましい。
【0011】
<成分(B)>
本発明のハチ用毒餌剤は、成分(B)として、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、乳酸エチル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、モノラウリン酸ポリグリセリル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルおよびモノラウリン酸ポリエチレングリコールから選択される1種以上を含有するものである。
成分(A)のフィプロニルは、少量で高活性が得られる物質であり、安定した効果を得るためには製剤中で均一に分散させることが好ましい。しかし、フィプロニルの水溶解度は3.78×103μg/L(20℃、pH6.6)と、水に非常に溶けにくい化合物であるため、安定したハチ用毒餌剤とするためには、溶剤や界面活性剤が必要である。
そこで、溶剤や界面活性剤を種々検討した結果、使用する溶剤や界面活性剤の中には、ハチ喫食性を阻害する溶剤や界面活性剤が多数ある一方で、溶剤や界面活性剤を配合しないものと同等のハチ喫食性を維持できる溶剤や界面活性剤が存在することが明らかとなった。その検討の中で、選抜された溶剤や界面活性剤が本発明の成分(B)である。
本発明の成分(B)は、ハチ用毒餌剤中に0.005重量%以上50重量%以下の範囲で含有することが好ましく、中でも、0.05重量%以上30重量%以下の範囲がより好ましく、0.05重量%以上10重量%以下の範囲がさらに好ましく、0.1重量%以上5重量%以下の範囲が特に好ましい。
【0012】
<成分(C)>
本発明のハチ用毒餌剤は、成分(C)として、含蜜糖および/またはハチミツを含有することが好ましい。含蜜糖とは、砂糖の製造法による種類のひとつであり、ミネラルなどを豊富に含む糖蜜を結晶と分離せずに結晶化したものである。具体的には、例えば、黒砂糖(黒糖)、加工黒砂糖、白下糖・赤糖・和三盆糖・ソルガム糖、メープルシュガーなどが含まれる。
本発明の成分(C)は、例えば、黒砂糖(黒糖)ではソトロン、フルフリルアルコール、フルフラール等を含有することを、メープルシュガーではソトロン、フルフリルアルコール等を含有することを、ハチミツではソトロン、イソバレルアルデヒド、メチオナール等を含有することを、それぞれ特徴とする。
成分(A)のフィプロニルは、分解や酸化作用によりフィプロニルスルホン等の分解物となることが公知の化合物であるが、本発明の成分(C)を併用することにより、この分解等によるフィプロニルの減少が抑制されることが今回初めて明らかとなった。
すなわち、フィプロニルと、含蜜糖および/またはハチミツを併用することにより、フィプロニルの分解等による減少を抑制することができるため、フィプロニルと、含蜜糖および/またはハチミツを含有する本発明のハチ用毒餌剤は、長期保存安定性が向上するほか、ハチに対する高い駆除効果を長期間維持することができる。
成分(A)のフィプロニルと、成分(C)の含蜜糖および/またはハチミツを併用し、フィプロニルの分解等による減少を抑制するためには、成分(C)の含蜜糖および/またはハチミツを、ハチ用毒餌剤全体に対して1重量%以上含有することが好ましい。
【0013】
本発明のハチ用毒餌剤は、成分(C)として、含蜜糖および/またはハチミツを含有する際に、その糖度(Brix)を40以上83未満の範囲とするとハチの喫食性およびハチの巣への本発明のハチ用毒餌剤の運搬を促進させることが出来るため好ましく、ハチに対する高い駆除効果を発揮し、ハチの巣全体を効率的に崩壊させることができ、有用である。
また、本発明のハチ用毒餌剤が成分(C)として、含蜜糖および/またはハチミツを含有する際に、糖度(Brix)を40以上とすると、空気との接触が大きな担持体にこの毒餌剤を含浸、付着または塗布させた場合においても、カビ等の発生が大きく低減され、毒餌剤の腐敗が抑制されるので、ハチに対する駆除効果が低下しないという効果が得られる。
さらに、本発明のハチ用毒餌剤の糖度(Brix)を40以上83未満の範囲として、ハチの巣から1メートルより離れ、かつ、ハチの動線から3メートル以内の範囲に配置することにより、当該毒餌剤をハチが新しい餌もしくは新たな餌場として早い時点で認識するため、結果として、ハチの巣全体を早期に崩壊させることができるために好ましい。
【0014】
本発明のハチ用毒餌剤の糖度(Brix)を40以上83未満の範囲とする場合における糖度(Brix)とは、20℃における糖用屈折計の示度であり、ハチ駆除に使用する際の毒餌剤全体を、デジタル屈折計PAL-1(アタゴ社製)を使用して20℃で測定した数値を意味する。デジタル屈折計PAL-1(アタゴ社製)の測定範囲は0.0~53.0(Brix)であるため、糖度(Brix)が53.0より高いものについては、イオン交換水で10倍に希釈して測定し、その数値を10倍に換算した数値とする。また、液状製剤以外の場合は、イオン交換水で10倍に希釈して測定し、測定値を10倍した数値を糖度とする。
本発明のハチ用毒餌剤の糖度(Brix)は、40以上とすることが好ましく、50以上がより好ましく、60以上がさらに好ましい。この糖度(Brix)の上限値は83未満とすることが好ましい。
本発明のハチ用毒餌剤の糖度(Brix)を40以上83未満の範囲とすることにより、ハチの喫食性を向上させるのみならず、ハチがその毒餌剤を巣に運搬する行動を促進させることが出来る。これにより、運搬された毒餌剤は巣内にいる他のハチに与えられ、巣全体に当該毒餌剤が伝播し、巣が崩壊するという優れた駆除効果を発揮する。すなわち、ハチを巣から毒餌剤に誘引し、毒餌剤を巣内に持ち帰らせることにより、最終的に、巣全体を崩壊させることができ有用である。
【0015】
本発明のハチ用毒餌剤の糖度(Brix)を40以上83未満の範囲として、ハチの巣から1メートルより離れ、かつ、ハチの動線から3メートル以内の範囲に配置することにより、当該毒餌剤をハチが新しい餌もしくは新しい餌場として早い時点で認識するため、結果として、ハチの巣全体を早期に崩壊させることができるため好ましい。この好適な配置は、ハチの巣から1メートル以内に毒餌剤を配置すると、新たに出現した人工物である毒餌剤にハチが警戒して近づきにくいこと、また、ハチの動線から3メートルより離れた場所に毒餌剤を配置すると、ハチが毒餌剤を新しい餌もしくは新しい餌場として認識するまでに非常に時間がかかることなどに起因すると考えられる。
すなわち、本発明のハチ用毒餌剤の糖度(Brix)を40以上83未満の範囲として、ハチの巣から1メートルより離れ、かつ、ハチの動線から3メートル以内の範囲に配置することにより、ハチが当該毒餌剤に早期に到達して巣への毒餌剤の運搬が促進され、結果として、ハチの巣全体が早期に崩壊するものと推察している。
なお、本発明における「ハチの動線」とは、ハチの巣を起点としてハチが巣と従来からの餌場を往来する軌跡を意味する。
【0016】
<ハチ>
本発明のハチ用毒餌剤が優れた駆除効果を発揮するハチは、スズメバチ科(Vespidae)に属するハチを主な対象とするものであるが、アリガタバチ類、クマバチ、ベッコウバチ、ジガバチ、ドロバチ等の膜翅目害虫に属するものが挙げられる。中でも、スズメバチ科ハチとしては、スズメバチ亜科(Vespinae)およびアシナガバチ亜科(Polistinae)に属するハチを挙げることができる。
スズメバチ亜科に属するハチとしては、例えば、オオスズメバチ、キイロスズメバチ、コガタスズメバチ、モンスズメバチ、ヒメスズメバチ、チャイロスズメバチ、クロスズメバチ、シダクロスズメバチ、ヤドリスズメバチ、ツマアカスズメバチなどを挙げることができる。
また、アシナガバチ亜科に属するハチとしては、例えば、キアシナガバチ、セグロアシナガバチ、フタモンアシナガバチ、トガリフタモンアシナガバチ、ヤマトアシナガバチ、キボシアシナガバチ、コアシナガバチ、ヤエヤマアシナガバチ、ムモンホソアシナガバチ、ヒメホソアシナガバチなどを挙げることができる。
【0017】
<誘引成分>
本発明のハチ用毒餌剤は、公知の誘引成分と組み合わせて使用することにより、ハチを誘引し、確実に駆除することができる。公知の誘引成分としては、例えば、バルサミコ酢、リンゴ酢、米酢、玄米酢、粕酢、大豆酢、黒酢、ワインビネガー、すだち酢、赤酢、柿酢、麦芽酢、紫イモ酢、サトウキビ酢等の酢、乳酸製品(乳酸菌飲料等)、砂糖類、でんぷん糖類、ハチミツ、糖蜜、廃糖蜜、果実、果実加工品、果汁、果汁飲料、果実酒、ビール、日本酒、焼酎、ウィスキー、ブランデー、ウォッカ、ラム、ジン、テキーラ、紹興酒、白酒、老酒等の酒類、酒粕、魚介類、魚介類加工品、魚介類抽出物、食肉、食肉加工品、食肉抽出物、香料等をベースとしたものであってもよい。中でも、成分(A)のフィプロニルの分解等による減少を抑制することも踏まえ、成分(C)の含蜜糖および/またはハチミツを誘引成分としても採用することが好ましく、特に含蜜糖が好ましい。上記誘引成分の中でも、特に液体のものが好ましい。さらに、グリセリン等の脂肪族多価アルコール、ソルビトール等の糖アルコール、キサンタンガム等の増粘多糖類等の保湿成分を含ませれば、長期にわたり誘引成分の効能を発揮させることができる。
【0018】
<成分(A)以外の殺虫成分>
本発明のハチ用毒餌剤は、成分(A)のフィプロニル以外に、公知の殺虫剤を併用することができる。併用できる公知の殺虫剤としては、例えば、天然ピレトリン、アレスリン、レスメトリン、フラメトリン、プラレトリン、テラレスリン、フタルスリン、フェノトリン、ペルメトリン、シフェノトリン、サイパーメスリン、トランスフルトリン、メトフルトリン、プロフルトリン、イミプロトリン、エンペントリン、エトフェンプロックス、シラフルオフェン、メペルフルトリン、ジメフルトリン等のピレスロイド系化合物;プロポクスル、カルバリル等のカーバメイト系化合物;フェニトロチオン、ダイアジノン、テトラクロロビンホス、DDVP等の有機リン系化合物;メトキサジアゾン等のオキサジアゾール系化合物;アミドフルメト等のスルホンアミド系化合物;イミダクロプリド、ジノテフラン等のネオニコチノイド系化合物;ピリプロキシフェン、メトプレン、ハイドロプレン等の昆虫幼若ホルモン様化合物;スルフルラミド等の酸化的リン酸化脱共役剤;プレコセン等の抗幼若ホルモン様化合物;ノバルロン、ジフルベンズロン、エトキサゾール等のキチン合成阻害剤;ヒドラメチルノン等のアミジノヒドラゾン系化合物;フィトンチッド、ハッカ油、オレンジ油、桂皮油、丁子油等の殺虫精油類等の各種殺虫剤を挙げることができ、さらに、サイネピリン、ピペロニルブトキサイド等の共力剤も併用することができる。忌避性の少ない、昆虫幼若ホルモン様化合物、抗幼若ホルモン様化合物、キチン合成阻害剤等の昆虫成長制御剤も、好適に併用することができる。
【0019】
また、成分(A)のフィプロニルと併用する場合には、水溶性が高いものが製剤上好ましい場合がある。例えば、アセフェート、バミドチオン、メチダチオン(DMTP)、フェノブカルブ(BPMC)、エチオフェンカルブ、カルタップ、チオシクラム、イミダクロプリド、チアクロプリド、シロマジン、ホスチアゼート、アセタミプリド、チアメトキサム、カルバリル(NAC)、クロチアニジン、ピメトロジン、ジノテフラン等が挙げられる。これらの中でも、例えば、ジノテフラン(20℃における水溶解度:約54000ppm)、チアメトキサム(20℃における水溶解度:約4100ppm)、イミダクロプリド(20℃における水溶解度:約510ppm)、フェノブカルブ(BPMC、20℃における水溶解度:約610ppm)等の20℃における水溶解度が500ppm以上のものが、本発明のハチ用毒餌剤と組み合わせる殺虫剤として製剤上適している。
【0020】
<製剤>
本発明のハチ用毒餌剤は、成分(A)と成分(B)、さらに成分(C)を含有させて、または、フィプロニルと、含蜜糖および/またはハチミツを含有させて製剤化したもの、さらには、製剤化したものを水で希釈したものなどが含まれる。中でも、本発明のハチ用毒餌剤としては製剤化したものが、コンパクトでありかつ保存安定性に優れるため、移送時や保管時において有利である。製剤型としては、例えば油剤、乳剤、水和剤、フロアブル剤(水中懸濁剤、水中乳濁剤等)等の液状製剤のほか、ゲル剤、ペースト剤、マイクロカプセル剤、粉剤、粒剤、錠剤等の固形製剤が挙げられる。中でも、液状製剤は水で希釈しやすく、溶け残りが少ない点において好適である。希釈に使用する水としては、精製水、水道水、イオン交換水、蒸留水、ろ過処理した水、滅菌処理した水、地下水、井戸水等が用いられる。
本発明のハチ用毒餌剤は、スポンジ、脱脂綿、天然繊維、合成繊維の不織布、吸水性ポリマー等のポリマー、織布、紙、多孔体等の担持体に含浸、付着または塗布して、容器に収納して使用することが好ましい。本発明のハチ用毒餌剤を野外に設置する場合、雨水等が浸入し本発明のハチ用毒餌剤が希釈され、ハチ駆除効果が低下することを防止するために、開口部に対し空間を有しつつ雨水等の浸入を防止する覆い部を備える態様が好ましい。
【0021】
<製剤助剤>
本発明のハチ用毒餌剤は、製剤化に際して、本発明の効果を妨げない範囲で成分(B)以外の界面活性剤を使用することができる。界面活性剤としては、非イオン性界面活性剤、陰イオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤、両性界面活性剤の何れでも特に制限なく使用することができるが、中でも、非イオン性界面活性剤または陰イオン性界面活性剤が好適である。
具体的には、例えば、非イオン性界面活性剤としては、糖エステル型、脂肪酸エステル型、植物油型、アルコール型、アルキルフェノール型、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンブロックポリマー型、アルキルアミン型、ビスフェノール型、多芳香環型のものが挙げられる。陰イオン性界面活性剤としては、カルボン酸型、スルホン酸型、硫酸エステル型、リン酸エステル型のものが挙げられる。陽イオン性界面活性剤としては、アンモニウム型、ベンザルコニウム型のものが挙げられる。両性界面活性剤としては、ベタイン型のものが挙げられる。
なお、成分(B)以外の界面活性剤は、単独もしくは2種以上を混合したもの何れも用いることができる。
【0022】
本発明のハチ用毒餌剤は、一般的に製剤に添加される成分を、本発明の効果を妨げない範囲で含有させて製剤化することができる。一般的に製剤に添加される成分の例としては、安定化剤、防腐剤、着色料、誤飲・誤食防止剤、液体担体等が挙げられる。安定化剤の例としては、ジブチルヒドロキシトルエン(BHT)やブチルヒドロキシアニソール(BHA)等の酸化防止剤、アスコルビン酸等が挙げられる。防腐剤の例としては、塩化ナトリウム、ソルビン酸、ソルビン酸塩、パラヒドロキシ安息香酸エステル類、チアベンダゾール等が挙げられる。着色料としては、カラメル色素、クチナシ色素、アントシアニン色素、紅花色素、フラボノイド色素、赤色2号、赤色3号、黄色4号、黄色5号、等が挙げられる。誤飲・誤食防止剤としては、安息香酸デナトニウム等が挙げられる。
【0023】
製剤化の際に用いられる液体担体としては、例えばアルコール類(メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ブタノール、ヘキサノール、エチレングリコール等)、エーテル類(ジエチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等)、エステル類(酢酸エチル、酢酸ブチル、ミリスチン酸イソプロピル等)、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等)、芳香族または脂肪族炭化水素類(キシレン、トルエン、アルキルナフタレン、フェニルキシリルエタン、ケロシン、軽油、ヘキサン、シクロヘキサン等)、ハロゲン化炭化水素類(クロロベンゼン、ジクロロメタン、ジクロロエタン、トリクロロエタン等)、ニトリル類(アセトニトリル、イソブチロニトリル等)、スルホキシド類(ジメチルスルホキシド等)、ヘテロ環系溶剤(スルホラン、γ-ブチロラクトン、N-エチル-2-ピロリドン、N-オクチル-2-ピロリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン)、酸アミド類(N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド等)、炭酸アルキリデン類(炭酸プロピレン等)、植物油(大豆油、綿実油等)、植物精油(オレンジ油、ヒソップ油、レモン油等)、および水が挙げられる。
【0024】
<ハチ用毒餌剤容器>
本発明のハチ用毒餌剤は、容器に収納して使用することが好ましい。
収納する容器は、本発明のハチ用毒餌剤を内部に収容できる形態であれば形状や大きさ等は制限されず、使用場所や使用方法に合った形態であればよい。この容器の材質としては、例えば、ガラス、金属、プラスチック等のほか、本発明のハチ用毒餌剤が容器から漏出することがない防水や撥水機能を有する特殊紙などの材質であれば特に制限されない。
容器の態様の1例として、容器の開口部を覆う蓋を有し、この蓋または容器の何れかにハチが侵入する開口部が形成されていると良い。ハチが容器内に侵入しやすいように、複数の開口部を容器に形成することが良く、その数は容器の大きさにもよるが2個以上5個以下の開口部を形成することが好ましい。また、容器内に侵入したハチが、本発明のハチ用毒餌剤を喫食したのち、容易に容器外に出られる形状であることが好ましい。
容器は、ハチを目視できるように、透明又は半透明の窓相当部を設けたもの、もしくは透明または半透明の容器としてもよい。
ハチ用毒餌剤容器を野外に設置する場合、雨水等が浸入して本発明のハチ用毒餌剤が希釈され、ハチ駆除効果が低下することを防止するために、開口部に対し空間を有しつつ雨水等の浸入を防止する覆い部を備える態様が好ましい。
本発明のハチ用毒餌剤容器は、なるべく直射日光の当たらない、または容器の入り口がふさがらないような、地面やベランダなどの平坦な場所に置いて使用するか、当該平坦な場所の平坦面から1~3mの高さの範囲に吊るして使用することが好ましい。特にハチの巣から1メートルより離れ、かつ、ハチの動線から3メートル以内の範囲に設置することがより好ましい。なお、この「ハチの動線」とは、ハチの巣を起点としてハチが巣と従来からの餌場を往来する軌跡を意味する。
【0025】
<ハチ毒餌剤容器の具体例>
図1、2を参照しながら、本発明の毒餌剤の収納に適したハチ毒餌剤容器1の構成について説明する。ハチ毒餌剤容器1は、ハチが侵入し易いと同時に人の指が本発明の毒餌剤に触れにくくなるよう、またハチ毒餌剤の有効期間を延ばすことができるように構成した。
ハチ毒餌剤容器1は、下容器10(容器本体:底面101、側面102、突起103、開口部105)と、中蓋20と、傘30と、吸液性部材40とを備える。
【0026】
中蓋20は、下容器10の外側に係合し、下容器10と固定可能に構成されている。中蓋20の中央には、下容器10に連通するハチ出入口21(開口)が形成されている。また、中蓋20には、ハチが停留するためのハチ停留ポート22が形成されている。ハチ停留ポート22は、その外縁よりも内側が高くなるように傾斜(ハチ停留ポート22の外縁から中央側に向かうに従い高さが大きくなるように傾斜)している。ハチは、負の走地性、即ち、生物が重力と反対の方向に進行する性質を有すると説明される場合がある。傾斜面22A(外縁からハチ出入口21までの距離D4)を設けることにより、ハチのハチ毒餌剤容器1内への歩行を促進させることが可能になる。なお、図1に示されるように、隣接する傾斜面22A間には、径方向に延在する溝Gを設けてもよい。溝Gにより、ハチが脚を引っ掛けることが可能になるため、ハチが傾斜面22Aを登ることを補助することが可能になる。傾斜面22Aには、凸部又は凹凸を設けてもよい。
【0027】
傾斜面22Aを設けることにより、傘30と中蓋20の隙間から人の指が差し込まれた場合、差し込まれた指は傾斜面22Aに接触して斜め上方に誘導される。そのため、下容器10内の下方に収納される吸液性部材40と離れる方向に指を誘導することが可能になる。また、指の関節を曲げようとしても指が傘30に当たって曲がりづらくなり、吸液性部材40に触れにくくすることが可能になる。
更に、傾斜面22Aを設けることによって、ハチ毒餌剤容器1を通過する風は、傾斜面22Aに沿って上方に誘導される。このため、風が吸液性部材40に直接当たることを抑制することが可能になり、吸液性部材40に含浸された毒餌剤の揮散量の変動を抑え、ひいては、吸液性部材40の使用可能期間の変動を抑えることが可能になる。
また、ハチ停留ポート22は、下容器10の外周面よりも径方向外側に張り出すように形成されている。このようにハチ停留ポート22を張り出すように設けることで、ハチが停留し易くなり、中蓋20の中央に形成されたハチ出入口21を通して、ハチは下容器10内部に侵入することができる。
なお、中蓋20の周辺部には、傘30の下端(側壁部32の下端)を係合するための係合穴部23が複数形成されている。
【0028】
傘30は、ハチ出入口21の上方を覆うように、中蓋20に係合される。傘30が中蓋20に係合されることで、ハチ出入口21を通して外部に露出する吸液性部材40が傘30によって上方側から覆われ、外部から吸液性部材40に水等(例えば雨)が直接あたることを抑制することができる。また上述の中蓋20の傾斜面22Aによっても水等が下容器10内に入り込むことを抑制することができる。傘30には、ハチ出入口21とハチ毒餌剤容器1外部とを連通するアーチ型開口部31が設けられている。ハチ停留ポート22に停留したハチは、アーチ型開口部31からハチ毒餌剤容器1の内部(傘30の内部)に入り、更にハチ出入口21から下容器10の内部に入ることができる。なお、アーチ型開口部31の両側に位置する側壁部32が中蓋20に係合して傘30と中蓋20とが固定される。ここで、中蓋20の傾斜面22Aを基準とするアーチ型開口部31の高さ(傾斜面22Aと、アーチ型開口部31の中間部との鉛直方向の距離)は、10mm以上35mm以下であることが好ましく、10mm以上30mm以下であることが更に好ましい。中蓋20からのアーチ型開口部31の高さが10mm以上の場合、スズメバチのような大型のハチであっても、ハチ毒餌剤容器1内に侵入することが可能になる。一方で、中蓋20とアーチ型開口部の高さが35mmより大きいと、人の指が本発明の毒餌剤に触れやすくなってしまう。また、ハチ以外の大型昆虫が侵入してしまう。
なお、傘30の上面には、ハチ毒餌剤容器1を外部の部材に引っ掛けて配置するための掛止部35が設けられている。
【0029】
吸液性部材40は、ハチに喫食させるための本発明の毒餌剤が含浸された含浸体である。
図2に示すように、吸液性部材40には、本体部(吸液性部材本体)の上面40a側から下面に向かう方向に延在した孔42(凹部)が形成されている。孔42は、吸液性部材40のみに形成される態様に限定されず、例えば、吸液性部材40と下容器10との間に形成されてもよく、また、下容器10のみに形成されてもよい。なお、孔42が下容器10のみに形成される場合には、吸液性部材40の周縁に沿うように形成されていると、孔42の内部に侵入したハチが吸液性部材40に含浸された本発明の毒餌剤を喫食できるので好適である。
【0030】
孔42は、その内部にハチが侵入するための開口形状、言い換えれば、内部にハチの頭が入る程度の開口を有している。具体的には、孔42の直径は、5~30mmの範囲であることが好適である。孔42の直径が30mmより大きいと孔42の内部が乾燥しやすくなり、孔42の直径が5mmより小さいと孔42の内部にハチの頭が入りにくくなる。ハチは巣穴に首を突っ込む習性がある(例えばスズメバチやアシナガバチは巣穴にいる幼虫から栄養液を口移しで貰うために巣穴に頭を突っ込む(孔42の下方側に濃い液体が溜まっている場合、スズメバチやアシナガバチは頭を突っ込んで孔42の下方側の液体を舐める)習性がある)ため、この習性を利用して、孔42の内部に含まれる本発明の毒餌剤をハチが喫食する。そのため、吸液性部材40の上面40a側が乾燥したとしても、このようなハチの習性を利用して、吸液性部材40に形成された孔42の内部に保持されている本発明の毒餌剤をハチが喫食するので、毒餌剤の有効期間を延ばすことができる。
孔42は、吸液性部材40の上面40a側から下面側に向かう方向に延びて形成されているが、その延在方向は、任意の方向を含む。
また、孔42は、ハチの頭が入る程度の開口を有していれば、吸液性部材40を貫通していなくてもよい。たとえば、吸液性部材40の厚さの半分以上であると、比較的乾燥しやすい上面40a側と比較して乾燥しにくい下面側に含まれる本発明の毒餌剤をハチが喫食することができるので好適である。
以上、図1、2を参照しながら、ハチ毒餌剤容器1の具体的態様を説明したが、大きさ、形状、配置、数などはこれに限定されず、目的に応じて適宜変更することができる。
【実施例
【0031】
以下、試験検体調製例および試験例等により、本発明をさらに詳しく説明するが、本発明は、これらの例に限定されるものではない。
なお、実施例において、特に明記しない限り、部は重量部を意味する。
【0032】
<成分(B)の適性確認試験1>
(1)試験検体の調製
フィプロニルを種々の溶剤に溶解させ、フィプロニルの溶解度が10g/L以上の溶剤を選定し、その中から、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、乳酸エチル、N-メチルピロリドン、ポリエチレングリコール600を選択した。
下記表1に示すように、誘引成分(糖、乳酸菌飲料等)、上記溶剤および水により、試験検体1~4を作製した。また、上記溶剤とフィプロニルを含有せず、誘引成分のみを含有する比較試験検体を作製した。試験検体1~4はフィプロニルを均一に分散した液体であった。
試験検体1~4と比較試験検体の組成を、下記表1にまとめて示す。なお、表1中の数値はそれぞれ重量%を意味する。
【0033】
【表1】
【0034】
(2)試験方法
表1に組成を示す試験検体1~4と比較試験検体それぞれ25gを、円柱形不織布(直径50mm×厚み10mm)に含浸し、KPカップ(直径130mm×高さ100mm)に載置した。これに供試虫(スズメバチ)1頭をいれ、45分間観察し、1回当たりの喫食時間(秒)の平均値を計測した。試験検体1~4と比較試験検体について、各喫食平均時間(秒)を下記表2にまとめて示す。
【0035】
【表2】
【0036】
表2に示すとおり、本発明の成分(B)の1つであるジエチレングリコールモノエチルエーテルを含有する試験検体1は、誘引成分のみを含有する比較試験検体と略同等のハチ喫食性を維持することが、また、本発明の成分(B)の1つである乳酸エチルを含有する試験検体2は、誘引成分のみを含有する比較試験検体を上回るハチ喫食性を有することが確認された。
これに対して、本発明の成分(B)ではない溶剤であるN-メチルピロリドンまたはポリエチレングリコール600を含有する試験検体3、4は、誘引成分のみを含有する比較試験検体に比べて、ハチ喫食性が極めて悪化することも確認された。
この結果より、本発明のハチ用毒餌剤は、特定の成分(B)の溶剤を配合することにより、殺虫効果の高いフィプロニルの溶解性を高めるとともに、誘引成分のみを含有するものと同等またはそれ以上のハチ喫食性を有することが明らかとなった。
【0037】
<成分(B)の適性確認試験2>
(1)試験検体の調製
フィプロニルを種々の界面活性剤に溶解させ、フィプロニルの溶解度が10g/L以上の界面活性剤を選定し、その中から、ポリオキシエチレン(60)硬化ヒマシ油を選択した。
下記表3に示すように、誘引成分(糖、乳酸菌飲料等)、上記界面活性剤、フィプロニルおよび水により、試験検体5を作製した。また、上記「成分(B)の適性確認試験1」の比較試験検体を使用した。試験検体5はフィプロニルを均一に分散した液体であった。
試験検体5と比較試験検体の組成を、下記表3にまとめて示す。なお、表3中の数値はそれぞれ重量%を意味する。
【0038】
【表3】
【0039】
(2)試験方法
表3に組成を示す試験検体5と比較試験検体それぞれ25gを、円柱形不織布(直径50mm×厚み10mm)に含浸し、KPカップ(直径130mm×高さ100mm)に載置した。これに供試虫(スズメバチ)1頭をいれ、45分間観察し、1回当たりの喫食時間(秒)の平均値を計測した。試験検体5と比較試験検体について、各喫食平均時間(秒)を下記表4にまとめて示す。
【0040】
【表4】
【0041】
表4に示すように、本発明の成分(B)の1つであるポリオキシエチレン硬化ヒマシ油を含有する試験検体5は、誘引成分のみを含有する比較試験検体と同等のハチ喫食性を維持できることが確認された。
この結果より、本発明のハチ用毒餌剤は、特定の成分(B)の界面活性剤を配合することにより、殺虫効果の高いフィプロニルの溶解性を高めるとともに、誘引成分のみを含有するものと同等のハチ喫食性を維持することが明らかとなった。
【0042】
<成分(B)の適性確認試験3>
(1)試験検体の調製
フィプロニルを種々の溶剤または界面活性剤に溶解させ、フィプロニルの溶解度が10g/L以上の溶剤または界面活性剤を選定し、溶剤から、乳酸エチル、乳酸メチル、乳酸ブチルを、界面活性剤からモノラウリン酸ポリエチレングリコール(12EO)、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、モノラウリン酸ポリグリセリル、モノラウリン酸ポリオキシエチレンソルビタン、モノオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタンを選択した。
下記表5に示すように、誘引成分(糖、乳酸菌飲料等)、上記溶剤または界面活性剤、フィプロニルおよび水により、試験検体6~13を作製した。また、上記「成分(B)の適性確認試験1」の試験検体2と比較試験検体を使用した。試験検体2、6~13はフィプロニルを均一に分散した液体であった。
試験検体2、6~13と比較試験検体の組成を、下記表5にまとめて示す。なお、表5中の数値はそれぞれ重量%を意味する。
【0043】
【表5】
【0044】
(2)試験方法
表5に組成を示す試験検体2、6~13と比較試験検体それぞれ25gを、円柱形不織布(直径50mm×厚み10mm)に含浸し、KPカップ(直径130mm×高さ100mm)に載置した。これに供試虫(アシナガバチ)1頭をいれ、45分間観察し、1回当たりの喫食時間(秒)の平均値を計測した。試験検体2、6~13と比較試験検体について、各喫食平均時間(秒)を下記表6にまとめて示す。
【0045】
【表6】
【0046】
表6に示すように、本発明の成分(B)の1つである乳酸エチル、モノラウリン酸ポリエチレングリコール、モノラウリン酸ポリグリセリル、モノラウリン酸ポリオキシエチレンソルビタン、モノオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタンを含有する試験検体2、8、11、12、13は、誘引成分のみを含有する比較試験検体と同等のハチ喫食性を維持または向上させ得ることが確認された。これに対して、本発明の成分(B)ではない溶剤である乳酸メチル、乳酸ブチル、本発明の成分(B)ではない界面活性剤であるポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテルを含有する試験検体6、7、9、10は、誘引成分のみを含有する比較試験検体に比べて、ハチ喫食性が極めて悪化することも確認された。
この結果より、本発明のハチ用毒餌剤は、特定の成分(B)の溶剤または界面活性剤を配合することにより、殺虫効果の高いフィプロニルの溶解性を高めるとともに、誘引成分のみを含有するものと同等またはそれ以上のハチ喫食性を維持することが明らかとなった。
【0047】
<含蜜糖および/またはハチミツの配合効果確認試験1>
(1)試験検体の調製
下記表7に示す成分(C)または成分(C)には含まれない誘引成分(粉糖)と、成分(A)、(B)および水により、試験検体14~19を作製した。試験検体14~19はフィプロニルを均一に分散した液体であった。
試験検体14~19の組成を、下記表7にまとめて示す。なお、表7中の数値はそれぞれ重量%を意味する。
表7中成分(C)と粉糖は、下記のものを使用した。
黒糖 :焚黒糖(上野砂糖(株)製)
メープルシュガー:メープルシュガーパウダー((株)メープルファームズジャパン製)
ハチミツ :純粋はちみつ(トップバリュ製)
粉糖 :粉糖初雪(上野砂糖(株)製)
【0048】
【表7】
【0049】
(2)試験方法
試験検体14~19それぞれ300gを透明な容器(ポリエチレンテレフタレート製)に入れ、キセノンウェザーメーターX25(スガ試験機(株)製)により、下記条件下における耐候促進試験を行った。
放射照度 :60W/m
槽内温度 :48℃
BPT(ブラックパネル)温度:63℃
湿度 :50%RH
照射時間 :20時間
耐侯促進試験前後の試験検体14~19のフィプロニル濃度を、液体クロマトグラフィー(SIL-20A:(株)島津製作所製)で測定し、耐侯促進試験によるフィプロニルの減少率を、下記計算式により算出し、下記表8に示した。
[計算式]
減少率(%)=(試験開始前のフィプロニルの濃度-試験後のフィプロニルの濃度)÷試験開始前のフィプロニルの濃度×100
【0050】
【表8】
【0051】
表8に示すように、黒糖、メープルシュガーといった含蜜糖やハチミツは、フィプロニルと併用することにより、分解や酸化作用によるフィプロニルの減少を、粉糖に比べても大きく抑制することが明らかとなった。
すなわち、含蜜糖および/またはハチミツは、フィプロニルの分解抑制剤としての機能を発揮することが確認された。
【0052】
<含蜜糖および/またはハチミツの配合効果確認試験2>
(1)試験検体の調製
下記表9に示す成分(C)黒糖(焚黒糖、上野砂糖(株)製)、本発明の成分(C)には含まれない誘引成分である粉糖(粉糖初雪、上野砂糖(株)製)と、成分(A)、(B)および水により、試験検体20~23を作製した。試験検体20~23はフィプロニルを均一に分散した液体であった。
試験検体20~23の組成を、下記表9にまとめて示す。なお、表9中の数値はそれぞれ重量%を意味する。
【0053】
【表9】
【0054】
(2)試験方法
試験検体20~23を使用して、上記「含蜜糖および/またはハチミツの配合効果確認試験1」と同じ方法、条件により耐候促進試験を行った。
耐侯促進試験前後の試験検体20~23のフィプロニル濃度を、液体クロマトグラフィー(SIL-20A:(株)島津製作所製)で測定し、耐侯促進試験によるフィプロニルの減少率を、下記計算式により算出し、下記表10に示した。
[計算式]
減少率(%)=(試験開始前のフィプロニルの濃度-試験後のフィプロニルの濃度)÷試験開始前のフィプロニルの濃度×100
【0055】
【表10】
【0056】
表10に示すように、黒糖などの含蜜糖やハチミツは、フィプロニルと併用する場合、ハチ用毒餌剤全体に対して1重量%以上含有させることにより、フィプロニルの分解等による減少を効果的に抑制することが明らかとなった。
上記「含蜜糖および/またはハチミツの配合効果確認試験1」の試験検体18は、本発明の成分(C)を含有せず、粉糖を65重量%含有する組成であるが、フィプロニル減少率は17%であったことを考慮すると、試験検体18の粉糖の1重量%を黒糖に代えた組成である試験検体23のフィプロニル減少率は2.1%であり、ハチ用毒餌剤全体に対して本発明の成分(C)を1重量%以上含有させることにより、極めて優れた効果を発揮することが明らかとなった。
【0057】
<殺虫効果確認試験>
本発明のハチ用毒餌剤のハチ以外の害虫に対する殺虫効果を確認するために、試験を行った。
(1)試験検体
上記「含蜜糖および/またはハチミツの配合効果確認試験1」の試験検体14を使用した。
(2)試験方法1:アリ
KPカップ(直径80mm×高さ45mm)に、80mm×80mmの脱脂綿を四つ折りにしたものに、水を15g含侵させたものと試験検体14を15g含浸させたものを載置したものに、供試虫(アメミアリ)10頭を入れた試験容器2個と、試験検体14を含侵させた脱脂綿のみを使用しない比較試験容器2個を準備した。
供試虫(アメミアリ)10頭を容器に入れてから1日後に、供試虫の致死数を確認し、その平均値から致死率(%)を算出し、下記表11に示した。
(3)試験方法2:ゴキブリ
バット(270mm×380mm×高さ180mm)に、80mm×80mmの脱脂綿を四つ折りにしたものに、水を15g含侵させたものと試験検体14を15g含浸させたものを、それぞれを入れた容器(KPカップ:直径50mm×高さ35mm)と、紙製(蛇腹折り)シェルター(230mm×320mm)を載置し、そこに、供試虫(クロゴキブリ、オス25頭、メス25頭)50頭を入れた試験バット2個と、試験検体14を含侵させた脱脂綿のみを使用しない比較試験バット2個を準備した。
供試虫(クロゴキブリ)50頭をバットに入れてから1日後に、供試虫の致死数を確認し、その平均値から致死率(%)を算出し、下記表11に示した。
【0058】
【表11】
【0059】
表11に示すように、本発明のハチ用毒餌剤は、アリやゴキブリに対しても高い駆除効果が得られることが明らかとなった。
この結果より、本発明のハチ用毒餌剤は、ハチ以外の害虫に対しても高い喫食性を維持できるため、害虫に対する高い駆除効果を発揮することが確認された。
なお、本発明のハチ用毒餌剤である試験検体14は、ハチに対しても高い喫食性が得られることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明のハチ用毒餌剤は、成分(A)として、殺虫効果の高いフィプロニルを含有するため、高いハチ駆除効果を得られることに加え、成分(B)として、フィプロニルの溶解性を高め、かつ、誘引成分のみを含有するものと同等あるいはそれ以上のハチ喫食性を有する溶剤および/または界面活性剤を配合するため、ハチに対する高い駆除効果を発揮することができ、非常に有用である。
また、フィプロニルと、含蜜糖および/またはハチミツとの併用は、分解等によるフィプロニルの減少を抑制できるため、本発明のハチ用毒餌剤の長期保存安定性が向上するほか、ハチに対する高い駆除効果を長期間維持することができる。
図1
図2