(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-21
(45)【発行日】2024-10-29
(54)【発明の名称】二重巻締構造、それを有する電池、及び二重巻締構造の製造方法
(51)【国際特許分類】
B32B 15/08 20060101AFI20241022BHJP
B32B 1/00 20240101ALI20241022BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20241022BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20241022BHJP
B32B 3/02 20060101ALI20241022BHJP
B65D 8/20 20060101ALI20241022BHJP
B21D 51/26 20060101ALI20241022BHJP
B21D 51/30 20060101ALI20241022BHJP
B21D 51/44 20060101ALI20241022BHJP
H01M 50/10 20210101ALI20241022BHJP
H01M 50/147 20210101ALI20241022BHJP
H01M 50/543 20210101ALI20241022BHJP
H01M 50/572 20210101ALI20241022BHJP
【FI】
B32B15/08 M
B32B1/00 Z
B32B27/30 A
B32B27/00 101
B32B3/02
B65D8/20 B
B21D51/26 Z
B21D51/30 E
B21D51/44 R
H01M50/10
H01M50/147
H01M50/543
H01M50/572
(21)【出願番号】P 2020062952
(22)【出願日】2020-03-31
【審査請求日】2023-02-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000003768
【氏名又は名称】東洋製罐グループホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002354
【氏名又は名称】弁理士法人平和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】瀬上 幸太
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 和伸
【審査官】石塚 寛和
(56)【参考文献】
【文献】特開昭60-240343(JP,A)
【文献】特開2006-321500(JP,A)
【文献】特開昭57-149377(JP,A)
【文献】特開昭61-232174(JP,A)
【文献】特開2002-343310(JP,A)
【文献】特開2009-134986(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
B65D 6/00-13/02
B21D 51/26、51/44、51/30
H01M 50/00-50/198、50/50-50/598
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の金属部材と、第2の金属部材とを備え、前記第1の金属部材の第1の端面を含む第1の領域と、前記第2の金属部材の第2の端面を含む第2の領域とが二重巻締によって密接して密封を保つ、二重巻締構造であって、
前記第1の領域と前記第2の領域とを電気的に絶縁し、前記第1の端面又は前記第2の端面と接している樹脂層をさらに備え
、
前記第1の金属部材の前記第1の領域と前記第2の金属部材の前記第2の領域との間に、前記樹脂層に加えて、アクリレートモノマーを主成分とする嫌気性接着剤が固化することで形成された層をさらに備える、
二重巻締構造。
【請求項2】
前記樹脂層は、シリコーン樹脂を含む、請求項1に記載の二重巻締構造。
【請求項3】
前記第1の端面又は前記第2の端面に設けられた前記樹脂層の厚さは、他の部分に設けられた前記樹脂層の厚さよりも厚い、請求項1又は2に記載の二重巻締構造。
【請求項4】
前記樹脂層は、一種類の樹脂組成物で形成されている、請求項1~3の何れかに記載の二重巻締構造。
【請求項5】
前記樹脂層は、0.1μm以上25μm以下の厚みを有する、請求項1~4の何れかに記載の二重巻締構造。
【請求項6】
前記樹脂層は、少なくとも前記第1の領域又は前記第2の領域に形成された塗膜である、請求項1~5の何れかに記載の二重巻締構造。
【請求項7】
請求項1~6の何れかに記載の二重巻締構造と、
前記第1の金属部材と前記第2の金属部材とで密封された空間に収容された正極材及び負極材と
を備え、
前記正極材と前記負極材との一方は、前記第1の金属部材に接続されており、
前記正極材と前記負極材との他方は、前記第2の金属部材に接続されている、
電池。
【請求項8】
フランジ部を含む金属製の缶胴を成形することと、
カール部を含む金属製の缶蓋を成形することと、
成形された前記フランジ部
及びその端面を含む第1の領域と成形された前記カール部
及びその端面を含む第2の領域とのうち少なくとも何れか一方を含む塗布領域を塗装して樹脂層を形成することと、
前記第1の領域と前記第2の領域とのうち少なくとも何れか一方に、アクリレートモノマーを主成分とする嫌気性接着剤に塗布することと、
前記第1の領域と前記第2の領域とを巻き締めること
で、前記嫌気性接着剤を固化させて、前記樹脂層によって前記第1の領域と前記第2の領域とが電気的に絶縁され、前記第1の領域と前記第2の領域との間に前記樹脂層に加えて前記嫌気性接着剤が固化することで形成された層をさらに備えた、二重巻締構造を形成することと
を含む二重巻締構造の製造方法。
【請求項9】
前記樹脂層を形成することは、
前記塗布領域を液状の樹脂に浸すことと、
前記樹脂を固化させることと
を含む、請求項8に記載の製造方法。
【請求項10】
前記樹脂層を形成することは、樹脂を常温硬化させることを含む、請求項8又は9に記載の製造方法。
【請求項11】
前記塗布領域は、少なくとも前記缶胴と前記缶蓋とが接触する領域に対応して設けられている、請求項8~10の何れかに記載の製造方法。
【請求項12】
前記樹脂層は、シリコーン樹脂を含む、請求項8~11の何れかに記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二重巻締構造、それを有する電池、及び二重巻締構造の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属製容器における缶胴と缶蓋との接合方法として、二重巻締が知られている。二重巻締によれば、安価で信頼性が高い封止が実現される。例えば特許文献1及び特許文献2には、電気機器用ケースに二重巻締を用いることが開示されている。特許文献1には、缶胴と缶蓋とを絶縁するために、コーティング又はラミネートされた缶胴と缶蓋との間にさらに延伸フィルムを挟んで二重巻締を行うことが開示されている。また、特許文献2には、樹脂フィルムが積層されたアルミニウム板を用いて形成された缶胴と缶蓋との二重巻締をする際に、密封性及び絶縁性を確保するために、有機コンパウンドが塗布されることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2002-343310号公報
【文献】特開2006-320918号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、二つの金属が絶縁された二重巻締構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様によれば、二重巻締構造は、第1の金属部材と、第2の金属部材とを備え、前記第1の金属部材の第1の端面を含む第1の領域と、前記第2の金属部材の第2の端面を含む第2の領域とが二重巻締によって密接して密封を保つ。この二重巻締構造は、前記第1の領域と前記第2の領域とを電気的に絶縁し、前記第1の端面又は前記第2の端面と接している樹脂層をさらに備える。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、二つの金属が絶縁された二重巻締構造を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】
図1は、一実施形態に係る電池の構成例の概略を示す部分切断斜視図である。
【
図2】
図2は、一実施形態に係る巻締部の二重巻締構造の構成例の概略を示す端面図である。
【
図3】
図3は、一実施形態に係る電池の製造方法の一例の概略を示すフローチャートである。
【
図4】
図4は、二重巻締される前の缶胴と缶蓋との形状の一例の概略を示す断面図である。
【
図5】
図5は、一実施形態で用いられる樹脂コーティング容器の構成例の概略を示す図である。
【
図6】
図6は、一実施形態に係る二重巻締について説明するための図である。
【
図7】
図7は、一変形例に係る巻締部の二重巻締構造の構成例の概略を示す端面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
一実施形態について図面を参照して説明する。本実施形態は、電池に関する。特に、金属製の缶胴と缶蓋とが二重巻締構造により密封された電池容器を有し、当該二重巻締構造において缶胴と缶蓋とが絶縁されており、缶胴と缶蓋とがそれぞれ電極として機能する電池に関する。
【0009】
[電池の構造]
図1は、本実施形態に係る電池1の構成例の概略を模式的に示す部分切断斜視図である。電池1は、電池容器2の内部に電池部9が収容された構造を有する。電池容器2は、缶胴3と缶蓋4とを備え、缶胴3と缶蓋4とは、巻締部5の二重巻締構造によって接合されている。電池容器2は、この二重巻締構造で接合された缶胴3と缶蓋4とで密閉されている。説明のため、
図1は、電池容器2の内部の電池部9及び缶胴3の底面部31を除いて、電池容器2の缶胴3及び缶蓋4を縦に切断した様子を示している。
【0010】
缶胴3は、上方が開口した有底円筒形状を有している。缶胴3の底を底面部31と称し、缶胴3の側面を円筒部32と称することにする。開口した缶胴3の上方が、缶蓋4で閉じられている。缶蓋4は、缶胴3の開口部分を塞ぐ部材であって底面部31と平行な平面部41と、缶胴3の円筒部32と密着する接合部42とを有する。
なお、底面部31及び平面部41は、内圧による変形に対する抵抗(剛性)を向上させるための形状(図示しないが例えばビード等)をそなえていてもよい。
【0011】
電池容器2の密封された内部空間には、電池部9が収容されている。電池部9は、どのような電池であってもよい。電池部9は、例えばリチウムイオン電池であってもよい。電池部9の正極は缶胴3に、負極は缶蓋4にそれぞれ電気的に接続されている。本実施形態では、缶胴3と缶蓋4とは、巻締部5で絶縁されている。したがって、缶胴3は、正極として機能し、缶蓋4は、負極として機能する。正極と負極が逆であり、電池部9の負極が缶胴に接続されており、電池部9の正極が缶蓋に接続されていてもよい。
【0012】
電池1のサイズは、これに限らないが、例えば、直径70mm程度、高さ70mm程度であってもよい。これに限らないが、缶胴3の板厚は、例えば0.2mm程度であり、缶蓋4の板厚は、例えば0.25mm程度であってよい。また、電池容器2は、これに限らないが、例えば1MPa程度の耐圧性を備えている。
【0013】
電池1を重ねると、下の電池1の缶蓋4の平面部41の周囲に立ち上がる接合部42の内側に、上の電池1の缶胴3が入る。このとき、下の電池1の缶蓋4の平面部41と上の電池1の缶胴3の底面部31とが接触する。缶胴3と缶蓋4とがそれぞれ正極と負極となっているので、電池1を重ねると電池1を直列に接続した状態になる。
【0014】
缶胴3と缶蓋4との材料は、電極として適した金属であることが好ましい。缶胴3と缶蓋4とには、同一の金属が用いられてもよいし、異なる金属が用いられてもよい。例えば、ニッケルめっき鋼、スズめっき鋼鈑、ティンフリースチール、アルミニウムなどが用いられてもよい。
【0015】
[二重巻締構造]
図2は、本実施形態に係る巻締部5の二重巻締構造100の概略を示す端面図である。この二重巻締構造100は、缶胴3を形成する第1の金属部材111と、缶蓋4を形成する第2の金属部材121とによって形成されている。本実施形態の二重巻締構造100は、基本的には、一般的に二重巻締構造として知られている構造と同様の構造である。すなわち、缶蓋4のカール部分を缶胴3のフランジ部分に巻き込んで圧着して接合することで形成され、缶蓋4の第2の金属部材121と缶胴3の第1の金属部材111とがそれぞれ二重になる構造を有する。
【0016】
図2に示すように、缶胴3の第1の金属部材111は、円筒部32から連なって上方向に延びるボディーウォール172と、その上端から外側に折り返されることで、下方向に延びるボディーフック171とを形成している。ボディーフック171及びボディーウォール172の合計長さは、これに限らないが、例えば5~10mm程度である。
【0017】
缶蓋4の第2の金属部材121は、ボディーフック171とボディーウォール172との間に下方向から入り込むように設けられたカバーフック173と、カバーフック173の下端から外側に折り返されてボディーフック171の外側で上方向に延びるシーミングウォール174と、シーミングウォール174の上端から内側に折り返されてボディーウォール172の内側で下方向に延びるチャックウォール175と有しており、チャックウォール175が缶蓋4の平面部41に連なっている。
【0018】
本実施形態では、二重巻締構造100によって、第1の金属部材111の第1の端面114を含む第1の領域115と、第2の金属部材121の第2の端面124を含む第2の領域125とが密接して密封を保っている。第1の金属部材111と第2の金属部材121との間の電気的な絶縁を確保するために、第1の金属部材111の第1の領域115には、絶縁性の塗料が塗布されて形成された塗膜である第1の絶縁層131が設けられている。同様に、第2の金属部材121の第2の領域125には、絶縁性の塗料が塗布されて形成された塗膜である第2の絶縁層141が設けられている。
【0019】
絶縁性を確保するため、本実施形態では、第1の絶縁層131は、第1の金属部材111の第1の端面114を含めて第1の領域115に形成されている。同様に、第2の絶縁層141は、第2の金属部材121の第2の端面124を含めて第2の領域125に形成されている。塗布領域としての第1の領域115は、少なくとも第2の金属部材121と接触する領域である。塗布領域としての第2の領域125は、少なくとも第1の金属部材111と接触する領域である。
【0020】
第1の絶縁層131と第2の絶縁層141とは、同一の材料で形成されている。すなわち、第1の絶縁層131と第2の絶縁層141とは、一種類の樹脂組成物で形成されている。例えば、第1の絶縁層131と第2の絶縁層141とは、シリコーン樹脂を用いて形成されている。このように、本実施形態では、絶縁層は樹脂層である。
【0021】
また、第1の絶縁層131と第2の絶縁層141との厚さは、これに限らないが、例えば0.1μm以上25μm以下であることが好ましい。絶縁層を塗膜によって形成することで、薄くすることができる。
なお、第1の絶縁層131と第2の絶縁層141とは、金属部材の上に直接形成されるに限らず、塗装、印刷などの表面の加工が行われた後に、その上に形成されてよい。
【0022】
また、本実施形態に係る二重巻締構造100では、第1の領域115と第2の領域125とが密接している部分の隙間にはシーリングコンパウンド161が満たされてもよい。このシーリングコンパウンド161によって、二重巻締構造100の密封能が向上している。
【0023】
[電池の製造方法]
電池1の製造方法について説明する。
図3は、本実施形態に係る電池の製造方法の概略を示すフローチャートである。まず、缶胴3が成形され(ステップS1)、缶蓋4が成形される(ステップS2)。
【0024】
図4は、二重巻締される前の缶胴3と缶蓋4との形状の概略を示す縦断面図である。缶胴3については、
図4(b)に示すように、底面部31と円筒部32とを有するカップ状の部材が成形される。円筒部32の上端部分には、外側に広がったフランジ部38が形成される。缶蓋4については、
図4(a)に示すように、円板状の平面部41の周縁部に、缶胴3のフランジ部38にかぶさるような形状を有するカール部48が形成される。
【0025】
缶胴3及び缶蓋4が成形されたら、それぞれの少なくとも端面を含む領域に、樹脂が塗布される(ステップS3)。すなわち、缶胴3の第1の端面114を含む第1の領域115に樹脂材が塗布される。同様に、缶蓋4の第2の金属部材121の第2の端面124を含む第2の領域125に樹脂材が塗布される。第1の領域115と第2の領域125とは、第1の金属部材111と第2の金属部材121とが接触する領域に対応して設けられてもよいし、当該接触する領域よりも広く設けられてもよい。
【0026】
本実施形態では、樹脂材の塗布は、例えば、液状の樹脂に、第1の領域115及び第2の領域125を浸すことで行われる。
図5は、本実施形態で用いられる樹脂コーティング容器300の構成例の概略を示す。樹脂コーティング容器300は、缶胴3のフランジ部38及び缶蓋4のカール部48の直径に応じた円環形状の容器本体310を有している。容器本体310の上面には、円環状に溝320が設けられている。この溝320に液状の樹脂360が溜められる。缶胴3の第1の領域115は、第1の領域115があるフランジ部38を下側にして、溝320内の樹脂360に浸けられる。同様に、缶蓋4の第2の領域125は、第2の領域125があるカール部48を下側にして、溝320内の樹脂360に浸けられる。樹脂の粘度を調整することで膜厚を調整することができる。
【0027】
本実施形態では、樹脂は、エポキシ樹脂、又は、シリコーン樹脂である。エポキシ樹脂は、接着性及び絶縁性に優れる。シリコーン樹脂も接着性及び絶縁性に優れる。さらに、シリコーン樹脂は、硬化後にゴム弾性体になり、エポキシ樹脂などよりも靭性が高く、巻締時に金属部材が大きく変形しても金属部材から剥がれることなく絶縁膜としての機能を維持する。このため、二重巻締構造100の絶縁層として、シリコーン樹脂の方がより好ましい。エポキシ樹脂やシリコーン樹脂に代えて、ウレタン樹脂、フェノール樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレンなどが用いられてもよい。
【0028】
シリコーン樹脂としては、例えば、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ社のTSEシリーズなどが知られている。TSEシリーズでは、タックフリータイムが10~90分程度であり、本硬化に要する時間は7日程度となっている。ただし、巻締等の後の加工は本硬化まで待つ必要はなく、適度に硬化した段階で次の加工が行われてよい。
【0029】
また、TSEシリーズでは、硬化後特性として140~300%の伸び率が期待される。この値は、エポキシの場合に期待される3~6%の伸び率と比較して極めて大きい。このような伸び率の特性は、巻締時の金属部材の変形においても金属部材に密着して絶縁膜としての機能を維持することに貢献する。また、TSEシリーズでは、絶縁破壊電圧は、20~22kV/mmであり、エポキシの絶縁破壊電圧14.9kV/mmよりも高い。したがって、シリコーン樹脂は、絶縁性の面でも優れる。
【0030】
なお、樹脂の塗布は、上述のように液体樹脂に浸すディップ方式に限らず、例えば、ローラを用いた塗布、スプレーでの塗布、静電塗布、刷毛を用いた塗布などが行われてもよい。
【0031】
樹脂の塗布に続いて、塗布された樹脂を硬化させられる(ステップS4)。樹脂は、これに限らないが、例えば常温で硬化する。樹脂が硬化することで、第1の領域115には第1の絶縁層131となる塗膜が形成され、第2の領域125には第2の絶縁層141となる塗膜が形成される。缶胴3のフランジ部38及び缶蓋4のカール部48の成形後に絶縁層が形成されるので、成形前に絶縁層の塗膜が形成される場合よりも、絶縁層の加工量が小さくなり、絶縁層は破れにくい。
【0032】
二重巻締構造100の内部に巻き込まれる領域である缶蓋4のカール部48の内側にシーリングコンパウンドが塗布されていてもよい。(ステップS5)。
次に、別途用意された電池部9が缶胴3の内部に配置され、缶蓋4が缶胴3の開口にかぶせられる(ステップS6)。このとき、電池部9の正極は、缶胴3に接続され、電池部9の負極は、缶蓋4に接続される。
【0033】
最後に、缶胴3のフランジ部38と缶蓋4のカール部48とが巻締られる(ステップS7)。本実施形態の巻締について、
図6を参照して説明する。
図6は、本実施形態の二重巻締について説明するための図である。
図6(a)に示すように、巻締時には缶胴3のフランジ部38の上に、缶蓋4のカール部48が置かれる。続いて、
図6(b)に示すように、缶蓋4にシーミングチャック410を嵌合させる。次に、
図6(c)及び(d)に順に示すように、ファースト巻締ロール420を用いたファースト巻締めが行われ、缶胴3の第1の金属部材111と、缶蓋4の第2の金属部材121とが巻き込まれる。続いて、
図6(e)及び(f)に順に示すように、セカンド巻締ロール430を用いたセカンド巻締めが行われ、第1の金属部材111の第1の領域115と第2の金属部材121の第2の領域125とは、しっかりと圧着し、二重巻締構造100が形成される。
以上のようにして、電池1は製造される。
【0034】
[本実施形態の二重巻締構造について]
本実施形態に係る二重巻締構造100についてさらに説明する。本実施形態の二重巻締構造100では、第1の金属部材111と第2の金属部材121との電気的絶縁性が良好に形成される。このため、本実施形態に係る二重巻締構造100を有する電池容器2は、電池の容器として適している。
【0035】
絶縁層を、第1の金属部材111上の第1の絶縁層131及び第2の金属部材121上の第2の絶縁層141のように、一種類の塗膜で形成することで、一工程で、安価に簡便に絶縁層を形成することができる。また、塗膜を設けずに、一枚の樹脂フィルムで絶縁層を形成しても、塗膜とフィルムとを違う素材を用いて両方設けるよりも、絶縁層を安価に簡便に形成することができる。
【0036】
本実施形態では、第1の絶縁層131は、第1の金属部材111の第1の端面114にまで形成されており、第2の絶縁層141は、第2の金属部材121の第2の端面124にまで形成されている。このような構成によって、巻締時に、第1の端面114の第1の絶縁層131は、第2の金属部材121の第2の絶縁層141を破壊することを防止し、第2の端面124の第2の絶縁層141は、第1の金属部材111の第1の絶縁層131を破壊することを防止する。このため、第1の金属部材111と第2の金属部材121との電気的絶縁性が良好に維持される。
【0037】
仮に第1の金属部材111の第1の端面114及び第2の金属部材121の第2の端面124に絶縁層が形成されていないと、第1の端面114の露出した第1の金属部材111は、第2の絶縁層141を破壊し、第2の端面124の露出した第2の金属部材121は、第1の絶縁層131を破壊するおそれがある。例えば、板状の金属部材に対して絶縁層をコーティング又はラミネートし、この板状の金属部材を打ち抜いて成形前駆体(ブランク)を作製した場合、このような状況が生じ得る。
【0038】
また、二重巻締の密封性の向上のために一般に使用されている、スチレンブタジエンゴム、エチレンプロピレンゴム、ポリイソプレンゴム、ポリアミド系樹脂、ポリオレフィン系樹脂などを含む有機コンパウンドは、シリコーン樹脂などを用いた塗膜と比べて強度が低い。このため、一般に使用されている有機コンパウンドでは、金属部材の端面の保護が不十分となり、巻締時に金属部材の端面が露出し、露出した金属部材が絶縁層を破壊するおそれがある。
【0039】
[第1の変形例]
上述の実施形態の一変形例について説明する。ここでは、上述の実施形態との相違点について説明し、同一の部分については、同一の符号を付してその説明を省略する。
図7は、本変形例に係る二重巻締構造101の概略を示す端面図である。
【0040】
この二重巻締構造101では、絶縁性を確保するために第1の金属部材111に設けられた第1の絶縁層131が、第1の端面114において他の部分よりも厚くなっており、樹脂組成物による第1の溜まり部181が形成されている。言い換えると、第1の端面114よりも先端側の第1の絶縁層131の厚さが、第1の端面114よりも後側の第1の絶縁層131の厚さよりも厚くなっている。同様に、第2の金属部材121に設けられた第2の絶縁層141が、第2の端面124において他の部分よりも厚くなっており、樹脂組成物による第2の溜まり部182が形成されている。言い換えると、第2の端面124よりも先端側の第2の絶縁層141の厚さが、第2の端面124よりも後側の第2の絶縁層141の厚さよりも厚くなっている。
【0041】
第1の溜まり部181及び第2の溜まり部182は、ステップS3で樹脂が塗布された後、樹脂が硬化するまでの間の適当な期間、第1の端面114及び第2の端面124の側を下側にすることで、重力により液状の樹脂が第1の端面114及び第2の端面124の部分に溜まり、形成される。
【0042】
第1の端面114及び第2の端面124において、第1の絶縁層131及び第2の絶縁層141が厚くなっていることで、巻締時に、第1の端面114及び第2の端面124が第2の絶縁層141及び第1の絶縁層131を破壊することを防止する効果がより大きくなり、第1の金属部材111と第2の金属部材121との電気的絶縁性がより良好に維持される。
【0043】
また、カバーフック173とシーミングウォール174とに挟まれたボディーフック171の先端の第1の溜まり部181が膨らんでおり、そこが引っ掛かることで、ボディーフック171が、カバーフック173とシーミングウォール174との間から抜けにくくなっている。同様に、ボディーフック171とボディーウォール172とに挟まれたカバーフック173の先端の第2の溜まり部182が膨らんでおり、そこが引っ掛かることで、カバーフック173が、ボディーフック171とボディーウォール172との間から抜けにくくなっている。その結果、この二重巻締構造101の強度は高いものとなる。
【0044】
[他の変形例]
上述の実施形態又はその変形例では、第1の金属部材111と第2の金属部材121との電気的絶縁を、第1の金属部材111及び第2の金属部材121の上に形成された樹脂製の塗膜である第1の絶縁層131及び第2の絶縁層141で担う例を示したがこれに限らない。第1の絶縁層131及び第2の絶縁層141の何れか一方であってもよい。
【0045】
また、塗膜に限らず、第1の金属部材111と第2の金属部材121との間に設けられた、樹脂製の例えば延伸フィルムであってもよい。ただし、延伸フィルムは比較的高価である。このため、上述の実施形態のように、塗膜により絶縁膜を形成することで、第1の金属部材と第2の金属部材との間の電気的な絶縁を安価に実現できる。また、延伸フィルムを間に挟んだ場合、第1の金属部材111と第2の金属部材121と密着が悪くなり、延伸フィルムを挟み込んだ二重巻締構造では、密封性が悪くなるおそれがある。塗膜で絶縁膜を形成することでより高い密封性が得られるので、絶縁膜が塗膜である方がより好ましい。
【0046】
また、二重巻締構造100において、第1の領域115と第2の領域125とが密接している部分を、嫌気性の接着剤で固化してもよい。嫌気性接着剤は、アクリレートモノマーを主成分とし、金属イオンとの接触と空気を遮断することで固化を開始するもので、一般には螺子のゆるみ止めや配管の接合部において多用されているものが使用可能である。嫌気性接着剤の固化に金属イオンが不十分となる場合には反応活性剤(アクティベータ)を併用することもできる。この嫌気性接着剤は、二重巻締構造100の形成前に第1の領域115又は第2の領域125に塗布され、巻締によって二重巻締構造100内の空気が遮断されると固化する。このような嫌気性接着剤によって、二重巻締構造100の強度と密封性はさらに向上する。また、固化前の液状の接着剤は、潤滑剤の役割を果たすので、安定した巻締にも寄与する。
【0047】
以上、本発明について、好ましい実施形態を示して説明したが、本発明は、前述した実施形態にのみ限定されるものではなく、本発明の範囲で種々の変更実施が可能であることはいうまでもない。
上述の実施形態では、二重巻締構造を電池容器に用いる場合を例に挙げて説明したが、この二重巻締構造は、電池に限らず他の物品において、二つの金属部材を絶縁しつつ接合することに用いられてもよいことはもちろんである。
【符号の説明】
【0048】
1…電池
2…電池容器
3…缶胴
31…底面部、32…円筒部、38…フランジ部
4…缶蓋
41…平面部、42…接合部、48…カール部
5…巻締部
9…電池部
100,101…二重巻締構造
111…第1の金属部材、114…第1の端面、115…第1の領域
121…第2の金属部材、124…第2の端面、125…第2の領域
131…第1の絶縁層、141…第2の絶縁層
161…シーリングコンパウンド
171…ボディーフック、172…ボディーウォール
173…カバーフック、174…シーミングウォール、175…チャックウォール
300…樹脂コーティング容器
310…容器本体、320…溝
410…シーミングチャック
420…ファースト巻締ロール、430…セカンド巻締ロール