(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-21
(45)【発行日】2024-10-29
(54)【発明の名称】化学変性ミクロフィブリルセルロース繊維の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08B 11/12 20060101AFI20241022BHJP
C08B 15/04 20060101ALI20241022BHJP
【FI】
C08B11/12
C08B15/04
(21)【出願番号】P 2020113440
(22)【出願日】2020-06-30
【審査請求日】2023-06-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000183484
【氏名又は名称】日本製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130812
【氏名又は名称】山田 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100164161
【氏名又は名称】三宅 彩
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 友希
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 浩由
(72)【発明者】
【氏名】中田 咲子
(72)【発明者】
【氏名】高山 雅人
【審査官】増永 淳司
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/136453(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/059860(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/194049(WO,A1)
【文献】特開2017-071700(JP,A)
【文献】特開2019-172858(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08B 11/12
C08B 15/04
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(A)~(C)の工程を含む化学変性ミクロフィブリルセルロース繊維の製造方法。
(A)化学変性セルロースを準備する工程
(B)
pH8.0~13.0の反応系において過酸化物で前記化学変性セルロースを処理する工程
(C)前記処理後の化学変性セルロースを解繊して、
平均繊維径1μm以上且つ平均繊維長200μm以上の化学変性ミクロフィブリルセルロース繊維を得る工程
【請求項2】
前記過酸化物の添加量が、化学変性セルロースの絶乾重量に対して0.1~100質量%である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記工程(B)を過酸化物、化学変性セルロース、および媒体を含む混合物で実施し、当該混合物中の前記化学変性セルロースの濃度が0.1~50質量%である、請求項1~2のいずれかに記載の製造方法。
【請求項4】
前記化学変性セルロースがカルボキシル基を有するセルロースである、請求項1~3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
前記化学変性セルロースがカルボキシメチル化セルロースである、請求項1~3のいずれかに記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は化学変性ミクロフィブリルセルロース繊維の製造方法に関する。より詳しくは低粘度の水分散液を与えるフィブリル化された化学変性セルロース繊維の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
化学変性ミクロフィブリルセルロース繊維は、パルプ等のセルロース原料を変性後、解繊、あるいは粉砕することにより得られ、紙力の向上や保水性を向上させる添加剤、食品、化粧品の添加剤としての用途が期待されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、B型粘度計を用いて3rpm、25℃で測定される粘度が2800mPa・s以上で、ヘーズ値が10%以上50%以下である微細繊維状セルロース含有物が記載されている。また、特許文献2には、カナダ標準濾水度が200ml未満で、平均繊維径が500nm以上である酸化ミクロフィブリルセルロースが記載されている。特許文献3には、カナダ標準濾水度が200ml以上で、平均繊維径が500nm以上であるカルボキシメチル化ミクロフィブリルセルロース繊維紙が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-57390号公報
【文献】国際公開第2019/189588号公報
【文献】国際公開第2019/189595号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1~3に記載の方法では、低粘度の分散液を与える化学変性ミクロフィブリルセルロース繊維を製造することは困難であった。以上を鑑み、本発明は低粘度の分散液を与える化学変性ミクロフィブリルセルロース繊維の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、過酸化水素で化学変性セルロースを処理することで前記課題を解決できることを見出した。これに限定されるものでないが、本発明は、以下の態様を包含する。
(1) 下記(A)~(C)の工程を含む化学変性ミクロフィブリルセルロース繊維の製造方法。
(A)化学変性セルロースを準備する工程
(B)過酸化物で前記化学変性セルロースを処理する工程
(C)前記処理後の化学変性セルロースを解繊して、化学変性ミクロフィブリルセルロース繊維を得る工程
(2) 前記過酸化物の添加量が、化学変性セルロースの絶乾重量に対して0.1~100質量%である、(1)に記載の製造方法。
(3) 前記工程(B)を過酸化物、化学変性セルロース、および媒体を含む混合物で実施し、当該混合物中の前記化学変性セルロースの濃度が0.1~50質量%である、(1)~(2)のいずれかに記載の製造方法。
(4) 前記化学変性セルロースがカルボキシル基を有するセルロースである、(1)~(3)のいずれかに記載の製造方法。
(5) 前記化学変性セルロースがカルボキシメチル化セルロースである、(1)~(3)のいずれかに記載の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明により製造された化学変性ミクロフィブリルセルロース繊維は、低粘度の分散液を与えるという特徴を有する。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明を詳細に説明する。本発明において「X~Y」はその端値であるXおよびYを含
む。
【0009】
本発明の化学変性ミクロフィブリルセルロース繊維の製造方法は、(A)化学変性セルロースを準備する工程、(B)過酸化物で前記化学変性セルロースを処理する工程、ならびに(C)前記処理後の化学変性セルロースを解繊して、化学変性ミクロフィブリルセルロース繊維を得る工程、を含むことが必須である。
【0010】
(1)工程A
<化学変性セルロース>
本発明の化学変性ミクロフィブリルセルロース繊維に用いる化学変性セルロースは、繊維を構成するセルロース鎖が化学的に変性されているものである。化学変性セルロースの種類としては、これらに限定されないが、例えば、カルボキシル基を導入したカルボキシル化セルロース、カルボキシメチル基などのカルボキシアルキル基をエーテル結合させたカルボキシアルキル化セルロース、リン酸基を導入したリン酸エステル化セルロースなどを挙げることができる。中でも、酸化(カルボキシル化)、エーテル化(例えば、カルボキシアルキル化)、カチオン化、エステル化が好ましく、酸化(カルボキシル化)、カルボキシアルキル化がより好ましい。これらの製法は後述する。
【0011】
化学変性セルロースは、塩の形態をとる場合もあり、本明細書で化学変性セルロースという場合には、塩型の化学変性セルロースも含むこととする。塩型の化学変性セルロースとしては、例えば、ナトリウム塩などの金属塩を形成しているものが挙げられる。
【0012】
本発明の化学変性ミクロフィブリルセルロース繊維に用いる化学変性セルロースは、水に分散した際にも繊維状の形状の少なくとも一部が維持されるものである。すなわち、化学変性セルロース繊維の水分散体を電子顕微鏡等で観察すると、繊維状の物質を観察することができ、また、X線回折で測定すると、セルロースI型結晶のピークを観測することができるものである。
【0013】
<化学変性ミクロフィブリルセルロース繊維>
本発明の化学変性ミクロフィブリルセルロース繊維は、化学変性されたセルロース原料をリファイナーなどを用いて適度に叩解または解繊(フィブリル化)することにより得られるものである。化学変性ミクロフィブリルセルロース繊維は、叩解または解繊されていない化学変性セルロース繊維に比べて、繊維表面にセルロースのミクロフィブリルの毛羽立ちが見られる。また、化学変性セルロースナノファイバーに比べて、繊維径が大きく、繊維自体の微細化(内部フィブリル化)を抑制しながら効率的に繊維表面を毛羽立たせた(外部フィブリル化)した形状を有する。
【0014】
また、本発明の化学変性ミクロフィブリルセルロース繊維は、化学変性されていないミクロフィブリルセルロース繊維と比べて、化学変性により、保水性が高い、高チキソ性を有する、などの特徴を有する。
【0015】
また、本発明の化学変性されたセルロース原料をフィブリル化することにより得られる化学変性ミクロフィブリルセルロース繊維は、化学変性されていないセルロース原料を叩解した後に化学変性したものと比べて、フィブリル化時にセルロース繊維が化学変性されているため、繊維間に存在する強固な水素結合が弱められており、フィブリル化の際に繊維同士がほぐれやすく、繊維の損傷が少ないという特徴を有する。
【0016】
本発明の化学変性ミクロフィブリルセルロース繊維は、平均繊維径が500nm以上であり、1μm以上が好ましく、10μm以上がより好ましい。平均繊維径の上限は60μm以下が好ましく、40μm以下がより好ましく、30μm以下がさらに好ましく、20μm以下がさらに好ましい。平均繊維径がこの範囲になる程度の適度なフィブリル化を行うことにより、未解繊のセルロース繊維に比べて高い保水性を呈し、また、微細に解繊されたセルロースナノファイバーに比べて少量でも高い強度付与効果や歩留まり向上効果が得られる。
【0017】
化学変性ミクロフィブリルセルロース繊維の平均繊維長は、200μm以上が好ましく、250μm以上が好ましく、300μm以上がより好ましい。平均繊維長の上限は、特に限定されないが、3000μm以下が好ましく、2500μm以下が好ましく、2000μm以下がさらに好ましく、1500μm以下がさらに好ましい。本発明によれば、化学変性されたセルロース原料を叩解または解繊に用いるため、繊維を極端に短くすることなく、フィブリル化を進めることができる。また、化学変性により、水との親和性が向上しているため、繊維長が長い場合であっても保水性を高くすることができる。
【0018】
上記の平均繊維径及び平均繊維長は、例えば、ABB株式会社製L&W Fiber Tester Plusや、バルメット株式会社製フラクショネーター等の、画像解析型繊維分析装置により求めることができる。具体的には、フラクショネーターを用いた場合、それぞれ、length-weighted fiber width及びlength-weighted average fiber lengthとして求めることができる。
【0019】
化学変性ミクロフィブリルセルロース繊維のアスペクト比は、10以上が好ましく、15以上がより好ましく、20以上がさらに好ましい。アスペクト比の上限は特に限定されないが、1000以下が好ましく、100以下がより好ましく、80以下がさらに好ましい。アスペクト比は、下記の式により算出できる:
アスペクト比=平均繊維長/平均繊維径
【0020】
化学変性ミクロフィブリルセルロース繊維についてバルメット株式会社製フラクショネーターを用いて測定したフィブリル化率(Fibrillation %)は、1.0%以上であることが好ましく、1.2%以上であることがより好ましく、1.5%以上であることがさらに好ましい。使用したセルロース原料の種類によってフィブリル化率は異なるが、上記範囲であればフィブリル化が行なわれていると考えられる。また、本発明では、フィブリル化する前の化学変性されたセルロース原料のフィブリル化率(f0)が、向上するようにフィブリル化を行うことが好ましい。フィブリル化された化学変性セルロース繊維のフィブリル化率をfとすると、フィブリル化率の差Δf=f-f0は、0を超えていればよく、好ましくは0.1%以上であり、より好ましくは0.2%以上であり、さらに好ましくは0.3%以上である。
【0021】
<セルロースI型の結晶化度>
本発明の化学変性ミクロフィブリルセルロース繊維におけるセルロースの結晶化度は、結晶I型が50%以上であり、60%以上であることがより好ましい。セルロースの結晶性は、化学変性の度合によって制御できる。セルロースI型の結晶化度の上限は特に限定されない。現実的には90%程度が上限となると考えられる。
【0022】
化学変性セルロース繊維のセルロースI型の結晶化度の測定方法は、以下の通りである:
試料をガラスセルに乗せ、X線回折測定装置(LabX XRD-6000、島津製作所製)を用いて測定する。結晶化度の算出はSegal等の手法を用いて行い、X線回折図の2θ=10°~30°の回折強度をベースラインとして、2θ=22.6°の002面の回折強度と2θ=18.5°のアモルファス部分の回折強度から次式により算出する。
【0023】
Xc=(I002c―Ia)/I002c×100
Xc=セルロースのI型の結晶化度(%)
I002c:2θ=22.6°、002面の回折強度
Ia:2θ=18.5°、アモルファス部分の回折強度。
【0024】
<アニオン化度>
本発明の化学変性ミクロフィブリルセルロース繊維のアニオン化度(アニオン電荷密度)は、通常は2.50meq/g以下であり、2.30meq/g以下が好ましく、2.00meq/g以下がより好ましく、1.50meq/g以下、1.00meq/g以下がさらに好ましい。これにより、アニオン化度がより高い化学変性セルロース繊維に比べ、化学変性がセルロース全体にわたり均一になされていると考えられ、保水性等の化学変性セルロース繊維に特有の効果をより安定に得ることができると考えられる。下限は、通常は0.08meq/g以上、好ましくは0.10meq/g以上、より好ましくは0.30meq/g以上であるが、特に限定されない。従って、0.08meq/g以上2.50meq/g以下が好ましい。アニオン化度は、単位質量の変性セルロースマイクロフィブリルあたりのアニオンの当量であり、単位質量の変性セルロースマイクロフィブリルにおいてアニオン性基を中和するのに要するジアリルジメチルアンモニウムクロリド(DADMAC)の当量から算出できる。本発明において、アニオン化度の測定方法は、以下の通りである。
【0025】
化学変性セルロース繊維を水に分散し、固形分10g/Lの水分散体を調製し、マグネチックスターラーを用い10分以上1000rpmにて撹拌する。得られたスラリーを0.1g/Lに希釈後、10ml採取し、流動電流検出器(Mutek Particle Charge Detector 03)用い、1/1000規定度のジアリルジメチルアンモニウムクロリド(DADMAC)で滴定して、流動電流がゼロになるまでのDADMACの添加量を用い、以下の式によりアニオン化度を算出する。:
q=(V×c)/m
q:アニオン化度(meq/g)
V:流動電流がゼロになるまでのDADMACの添加量(L)
c:DADMACの濃度(meq/L)
m:測定試料中の化学変性ミクロフィブリルセルロース繊維の質量(g)
【0026】
<保水能>
本発明の化学変性ミクロフィブリルセルロース繊維は、以下の方法で測定される保水能が、15以上であることが好ましい。保水能の測定方法は、以下の通りである:
化学変性ミクロフィブリルセルロース繊維の固形分0.3質量%のスラリー(媒質:水)を40mL調製する。このときのスラリーの質量をAとする。次いで、スラリーの全量を高速冷却遠心機で30℃で25000Gで30分間遠心分離し、水相と沈降物とを分離する。このときの沈降物の質量をBとする。また、水相をアルミカップに入れ、105℃で一昼夜乾燥させて水を除去し、水相中の固形分の質量を測定する。この水相中の固形分の質量をCとする。以下の式を用いて、保水能を計算する。
保水能=(B+C-0.003×A)/(0.003×A-C)。
【0027】
保水能は、上述の式の通り、沈降物中の繊維の固形分の質量に対する沈降物中の水の質量に相当する。値が大きいほど、繊維が水を保持する力が高いことを意味する。本発明のフィブリル化された化学変性セルロース繊維における保水能は、好ましくは15以上であり、より好ましくは20以上であり、さらに好ましくは30以上である。上限は特に限定されないが、現実的には200以下程度となると思われる。
【0028】
なお、上述の保水能の測定方法は、フィブリル化された繊維を対象とするものであり、フィブリル化または解繊されていない繊維や、シングルミクロフィブリルにまで解繊されたセルロースナノファイバーに対しては通常適用できない。フィブリル化または解繊されていないセルロース繊維の保水能を上述の方法で測定しようとすると、上述の遠心分離の条件では密な沈降物が形成できず、沈降物と水相とを分離することが困難である。また、セルロースナノファイバーは、上述の遠心分離の条件ではほとんど沈降しない。
【0029】
<B型粘度>
本発明において、B型粘度の測定方法は、以下の通りである:
化学変性ミクロフィブリルセルロース繊維をポリプロピレン製容器に量り取り、イオン交換水160mlに分散し、固形分1質量%となるように水分散体を調整する。水分散体を25℃に調整する。その後、その後、JIS-Z-8803の方法に準じて、B型粘度計(東機産業社製)を用いて、回転数60rpmで1分後の粘度を測定する。
【0030】
本発明の化学変性ミクロフィブリルセルロース繊維のB型粘度(25℃、60rpm)の上限値は4,000mPa・s以下であり、好ましくは3,000mPa・s以下、より好ましくは2,000mPa・s以下である。下限値は40mPa・s以上であり、好ましくは50mPa・s以上、より好ましくは60mPa・s以上である。
【0031】
<その他>
本発明の化学変性ミクロフィブリルセルロース繊維は、固形分濃度1.0質量%の水分散体とした際に、好ましくは500mS/m以下の電気伝導度を有する。より好ましくは300mS/m以下であり、さらに好ましくは200mS/m以下であり、さらに好ましくは100mS/m以下であり、さらに好ましくは70mS/m以下である。電気伝導度の下限は、好ましくは5mS/m以上であり、より好ましくは10mS/m以上である。電気伝導度は、以下の方法により測定できる:
化学変性ミクロフィブリルセルロース繊維の固形分濃度1.0質量%の水分散体200gを調製し、十分に撹拌する。その後、電気伝導度計(HORIBA社製ES-71型)を用いて電気伝導度を測定する。
【0032】
本発明の化学変性ミクロフィブリルセルロース繊維は、BET比表面積が好ましくは30m2/g以上であり、より好ましくは50m2/g以上であり、さらに好ましくは70m2/g以上である。BET比表面積が高いと、例えば製紙用添加剤として用いた場合にパルプに結合しやすくなり、歩留まりが向上する、紙への強度付与の効果が高まるなどの利点がある。BET比表面積は、窒素ガス吸着法(JIS Z 8830)を参考に以下の方法により測定できる:
(1)化学変性ミクロフィブリルセルロース繊維の約2%スラリー(分散媒:水)を、固形分が約0.1gとなるように取り分け遠心分離の容器に入れ、100mlのエタノールを加える。
(2)攪拌子を入れ、500rpmで30分以上攪拌する。
(3)撹拌子を取り出し、遠心分離機で、7000G、30分、30℃の条件で化学変性ミクロフィブリルセルロース繊維を沈降させる。
(4)化学変性ミクロフィブリルセルロース繊維をできるだけ除去しないようにしながら、上澄みを除去する。
(5)100mlエタノールを加え、撹拌子を加え、(2)の条件で攪拌、(3)の条件で遠心分離、(4)の条件で上澄み除去をし、これを3回繰り返す。
(6)(5)の溶媒をエタノールからt-ブタノールに変え、t-ブタノールの融点以上の室温下で、(5)と同様にして撹拌、遠心分離、上澄み除去を3回繰り返す。
(7)最後の溶媒除去後、t-ブタノールを30ml加え、軽く混ぜた後ナスフラスコに移し、氷浴を用いて凍結させる。
(8)冷凍庫で30分以上冷却する。
(9)凍結乾燥機に取り付け、3日間凍結乾燥する。
(10)BET測定を行う(前処理条件:窒素気流下105℃2時間、相対圧0.01~0.30、サンプル量30mg程度)。
【0033】
本発明の化学変性ミクロフィブリルセルロース繊維のショッパー・リーグラーろ水度は特に限定されないが、好ましくは1°SR以上であり、より好ましくは10°SR以上であり、より好ましくは25°SR以上である。ショッパー・リーグラーろ水度の測定方法は、JIS P 82121-1:2012に準じるものとし、具体的には、以下の通りである。
【0034】
化学変性ミクロフィブリルセルロース繊維を水に分散し、固形分10g/Lの水分散体を調製し、マグネチックスターラーを用い10分以上1000rpmにて撹拌する。得られたスラリーを2g/Lに希釈する。ミューテック社製DFR-04に60メッシュスクリーン(ワイヤー太さ0.17mm)をセットし、1000mlの検液から、上記メッシュを通過する液量を60秒間計測し、JIS P 8121-1:2012に準じた方法で、ショッパー・リーグラーろ水度を算出する。
【0035】
ショッパー・リーグラーろ水度は、繊維の懸濁液の水切れの程度を測定するものであり、下限値は0°SR、上限値は100°SRであり、ショッパー・リーグラーろ水度が100°SRに近づくほど、水切れ(排水量)が少ないことを示す。本発明のフィブリル化された化学変性セルロース繊維のショッパー・リーグラーろ水度は、特に限定されないが下限は好ましくは1°SR以上であり、より好ましくは10°SR以上であり、より好ましくは25°SR以上であり、より好ましくは40°SR以上であり、さらに好ましくは50°SR以上である。上限は特に限定されず、100°SR以下である。
【0036】
本発明の化学変性ミクロフィブリルセルロース繊維は、固形分1質量%の水分散体とした際の透明度(660nm光の透過率)が、60%未満であることが好ましく、40%以下がさらに好ましく、30%以下がさらに好ましく、20%以下がさらに好ましい。下限は特に限定されず、0%以上でよい。透明度がこのような範囲であると、フィブリル化の程度が適度であり、本発明の効果が得られやすい。透明度は、以下の方法で測定することができる。:
化学変性ミクロフィブリルセルロース繊維の水分散体(固形分1%(w/v)、分散媒:水)を調製し、UV-VIS分光光度計 UV-1800(島津製作所社製)を用い、光路長10mmの角型セルを用いて波長660nmの光の透過率を測定する。
【0037】
本発明の化学変性ミクロフィブリルセルロース繊維は、水を分散媒とした際に、固形分濃度2%以上程度で、半透明から白色のゲル、またはクリーム状、ペースト状となる。
【0038】
化学変性ミクロフィブリルセルロース繊維は、製造後に得られる分散体の状態であってもよいが、必要に応じて乾燥してもよく、また水に再分散してもよい。乾燥方法は何ら限定されないが、例えば凍結乾燥法、噴霧乾燥法、棚段式乾燥法、ドラム乾燥法、ベルト乾燥法、ガラス板等に薄く伸展し乾燥する方法、流動床乾燥法、マイクロウェーブ乾燥法、起熱ファン式減圧乾燥法などの既知の方法を使用できる。乾燥後に必要に応じて、カッターミル、ハンマーミル、ピンミル、ジェットミル等で粉砕しても良い。また、水への再分散の方法も特に限定されず、既知の分散装置を使用することができる。
【0039】
本発明の化学変性ミクロフィブリルセルロース繊維の用途は、種々の用途に用いられる。保水性に優れているから、保形性や保水性が必要とされる用途に特に最適に用いることができると考えられる。また、解繊の程度が強すぎず、適度な繊維径を保持していることから、繊維の強度を必要とする用途や、繊維の高い歩留まりが要求される用途に特に最適に用いることができると考えられる。しかし、それら以外の用途に用いてもよい。化学変性ミクロフィブリルセルロース繊維が用いられる分野は限定されず、一般的に添加剤が用いられる様々な分野、例えば、食品、飲料、化粧品、医薬、製紙、各種化学用品、塗料、スプレー、農薬、土木、建築、電子材料、難燃剤、家庭雑貨、接着剤、洗浄剤、芳香剤、潤滑用組成物などで、増粘剤、ゲル化剤、糊剤、食品添加剤、賦形剤、塗料用添加剤、接着剤用添加剤、製紙用添加剤、研磨剤、ゴム・プラスチック用配合材料、保水剤、保形剤、泥水調整剤、ろ過助剤、溢泥防止剤などとして使用することができると考えられる。
【0040】
<化学変性ミクロフィブリルセルロース繊維の製造方法>
本発明の化学変性ミクロフィブリルセルロース繊維は、まず化学変性されたセルロース原料を準備し、次いでそれをフィブリル化することにより製造することができる。化学変性の種類としては、前述した通り、例えば、セルロースのカルボキシル化、カルボキシアルキル化、リン酸エステル化などを挙げることができるが、これらに限定されない。フィブリル化に供する化学変性されたセルロース原料としては、市販のものを用いてもよいし、例えば後述するセルロース原料を、後述する方法で化学変性することにより、製造してもよい。
【0041】
<セルロース原料>
本発明の化学変性ミクロフィブリルセルロース繊維の原料となるセルロースとしては、特に限定されないが、例えば、植物、動物(例えばホヤ類)、藻類、微生物(例えば酢酸菌(アセトバクター))、微生物産生物に由来するものが挙げられる。植物由来のものとしては、例えば、木材、竹、麻、ジュート、ケナフ、農地残廃物、布、パルプ(針葉樹未漂白クラフトパルプ(NUKP)、針葉樹漂白クラフトパルプ(NBKP)、広葉樹未漂白クラフトパルプ(LUKP)、広葉樹漂白クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹未漂白サルファイトパルプ(NUSP)、針葉樹漂白サルファイトパルプ(NBSP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)、針葉樹溶解パルプ、広葉樹溶解パルプ、再生パルプ、古紙等)が挙げられる。また、上述のセルロース原料を粉砕処理したセルロースパウダーを使用してもよい。セルロース原料として、これらのいずれかまたは組合せを使用してもよいが、好ましくは植物または微生物由来のセルロース繊維であり、より好ましくは植物由来のセルロース繊維であり、さらに好ましくは木質系パルプである。
【0042】
化学変性ミクロフィブリルセルロース繊維における50%以上のセルロースI型の結晶化度を維持するために、セルロースI型の結晶化度が高いセルロースを原料として用いることが好ましい。セルロース原料のセルロースI型の結晶化度は、好ましくは、70%以上であり、さらに好ましくは80%以上である。セルロースI型の結晶化度の測定方法は、上述したものと同じである。
【0043】
<セルロース原料のカルボキシル化>
化学変性されたセルロース原料の一例として、カルボキシル化(カルボキシル基のセルロースへの導入、「酸化」とも呼ぶ。)されたセルロース原料を用いることができる。カルボキシル化されたセルロース原料(「酸化されたセルロース原料」とも呼ぶ)としては、市販のものを用いてもよいし、上記のセルロース原料を公知の方法でカルボキシル化(酸化)することにより製造してもよい。カルボキシル基の量はカルボキシル化セルロース繊維の絶乾質量に対して、0.1~2.5mmol/gが好ましく、0.6mmol/g~2.5mmol/gがさらに好ましく、1.0mmol/g~2.0mmol/gがさらに好ましい。
【0044】
カルボキシル化セルロースのカルボキシル基量は、以下の方法で測定することができる。:
カルボキシル化セルロースの0.5質量%スラリー(水分散液)60mlを調製し、0.1M塩酸水溶液を加えてpH2.5とした後、0.05Nの水酸化ナトリウム水溶液を滴下してpHが11になるまで電気伝導度を測定し、電気伝導度の変化が緩やかな弱酸の中和段階において消費された水酸化ナトリウム量(a)から、下式を用いて算出する。
【0045】
カルボキシル基量〔mmol/gカルボキシル化セルロース〕=a〔ml〕×0.05/カルボキシル化セルロース質量〔g〕
フィブリル化する前のカルボキシル化されたセルロース原料におけるカルボキシル基量と、フィブリル化した後のカルボキシル化セルロース繊維におけるカルボキシル基量とは、通常同じである。
【0046】
カルボキシル化(酸化)方法の一例として、セルロース原料を、N-オキシル化合物と、臭化物、ヨウ化物、およびこれらの混合物からなる群から選択される化合物との存在下で酸化剤を用いて水中で酸化する方法を挙げることができる。この酸化反応により、セルロース表面のグルコピラノース環のC6位の一級水酸基が選択的に酸化され、表面にアルデヒド基と、カルボキシル基(-COOH)またはカルボキシレート基(-COO-)とを有するセルロース原料を得ることができる。反応時のセルロース原料の濃度は特に限定されないが、5質量%以下が好ましい。
【0047】
N-オキシル化合物とは、ニトロキシラジカルを発生しうる化合物をいう。N-オキシル化合物としては、目的の酸化反応を促進する化合物であればいずれの化合物も使用できる。例えば、2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシラジカル(TEMPO)およびその誘導体(例えば4-ヒドロキシTEMPO)が挙げられる。N-オキシル化合物の使用量は、セルロース原料を酸化できる触媒量であればよく、特に制限されない。例えば、絶乾1gのセルロース原料に対して、0.01mmol~10mmolが好ましく、0.01mmol~1mmolがより好ましく、0.05mmol~0.5mmolがさらに好ましい。また、反応系に対し0.1mmol/L~4mmol/L程度がよい。
【0048】
臭化物とは臭素を含む化合物であり、その例には、水中で解離してイオン化可能な臭化アルカリ金属が含まれる。また、ヨウ化物とはヨウ素を含む化合物であり、その例には、ヨウ化アルカリ金属が含まれる。臭化物またはヨウ化物の使用量は、酸化反応を促進できる範囲で選択できる。臭化物およびヨウ化物の合計量は、例えば、絶乾1gのセルロース原料に対して、0.1mmol~100mmolが好ましく、0.1mmol~10mmolがより好ましく、0.5mmol~5mmolがさらに好ましい。
【0049】
酸化剤としては、公知のものを使用でき、例えば、ハロゲン、次亜ハロゲン酸、亜ハロゲン酸、過ハロゲン酸またはそれらの塩、ハロゲン酸化物、過酸化物などを使用できる。中でも、安価で環境負荷の少ない次亜塩素酸ナトリウムは好ましい。酸化剤の適切な使用量は、例えば、絶乾1gのセルロース原料に対して、0.5mmol~500mmolが好ましく、0.5mmol~50mmolがより好ましく、1mmol~25mmolがさらに好ましく、3mmol~10mmolが最も好ましい。また、例えば、N-オキシル化合物1molに対して1mol~40molが好ましい。
【0050】
セルロース原料の酸化工程は、比較的温和な条件であっても反応を効率よく進行させられる。よって、反応温度は4℃~40℃が好ましく、また15℃~30℃程度の室温であってもよい。反応の進行に伴ってセルロース鎖中にカルボキシル基が生成するため、反応液のpHの低下が認められる。酸化反応を効率よく進行させるためには、水酸化ナトリウム水溶液などのアルカリ性溶液を添加して、反応液のpHを8~12、好ましくは10~11程度に維持することが好ましい。反応媒体は、取扱い性の容易さや、副反応が生じにくいこと等から、水が好ましい。酸化反応における反応時間は、酸化の進行の程度に従って適宜設定することができ、通常は0.5時間~6時間、例えば、0.5時間~4時間程度である。
【0051】
また、酸化反応は、2段階に分けて実施してもよい。例えば、1段目の反応終了後に濾別して得られた酸化セルロースを、再度、同一または異なる反応条件で酸化させることにより、1段目の反応で副生する食塩による反応阻害を受けることなく、効率よく酸化させることができる。
【0052】
カルボキシル化(酸化)方法の別の例として、オゾンを含む気体とセルロース原料とを接触させることにより酸化する方法を挙げることができる。この酸化反応により、グルコピラノース環の少なくとも2位および6位の水酸基が酸化されると共に、セルロース鎖の分解が起こる。オゾンを含む気体中のオゾン濃度は、50g/m3~250g/m3であることが好ましく、50g/m3~220g/m3であることがより好ましい。セルロース原料に対するオゾン添加量は、セルロース原料の固形分を100質量部とした際に、0.1質量部~30質量部であることが好ましく、5質量部~30質量部であることがより好ましい。オゾン処理温度は、0℃~50℃であることが好ましく、20℃~50℃であることがより好ましい。オゾン処理時間は、特に限定されないが、1分~360分程度であり、30分~360分程度が好ましい。オゾン処理の条件がこれらの範囲内であると、セルロース原料が過度に酸化および分解されることを防ぐことができ、酸化セルロースの収率が良好となる。オゾン処理を施した後に、酸化剤を用いて、追酸化処理を行ってもよい。追酸化処理に用いる酸化剤は、特に限定されないが、二酸化塩素、亜塩素酸ナトリウム等の塩素系化合物や、酸素、過酸化水素、過硫酸、過酢酸などが挙げられる。例えば、これらの酸化剤を水またはアルコール等の極性有機溶剤中に溶解して酸化剤溶液を作製し、溶液中にセルロース原料を浸漬させることにより追酸化処理を行うことができる。
【0053】
カルボキシル化されたセルロース原料におけるカルボキシル基の量は、上記した酸化剤の添加量、反応時間等の反応条件をコントロールすることで調整することができる。
【0054】
<セルロース原料のカルボキシアルキル化>
化学変性されたセルロース原料の一例として、カルボキシメチル基等のカルボキシアルキル基をエーテル結合させたセルロース原料(カルボキシアルキル化されたセルロース原料)を用いることができる。このような原料は、市販のものを用いてもよいし、上記のセルロース原料を公知の方法でカルボキシアルキル化することにより製造してもよい。セルロースの無水グルコース単位当たりのカルボキシアルキル置換度は0.01~0.50であることが好ましい。上限は好ましくは0.40以下である。カルボキシアルキル置換度が0.50を超えると水への溶解が起こりやすくなり、水中で繊維形態を維持できなくなる。カルボキシアルキル化による効果を得るためには、一定程度の置換度を有することは必要であり、例えば、置換度が0.02より小さいと、用途によっては、カルボキシアルキル基を導入したことによる利点が得られない場合がある。したがって、カルボキシアルキル置換度は、0.02以上であることが好ましく、0.05以上であることが更に好ましく、0.10以上であることが更に好ましく、0.15以上であることが更に好ましく、0.20以上であることがさらに好ましく、0.25以上であることがさらに好ましい。カルボキシアルキル置換度は、反応させるカルボキシアルキル化剤の添加量、マーセル化剤の量、水と有機溶媒の組成比率をコントロールすること等によって調整することができる。
【0055】
本明細書において無水グルコース単位とは、セルロースを構成する個々の無水グルコース(グルコース残基)を意味する。また、カルボキシアルキル置換度(エーテル化度ともいう。)とは、セルロースを構成するグルコース残基中の水酸基のうちカルボキシアルキルエーテル基に置換されているものの割合(1つのグルコース残基当たりのカルボキシアルキルエーテル基の数)を示す。なお、カルボキシアルキル置換度はDSと略すことがある。
【0056】
カルボキシアルキル置換度の測定方法は以下の通りである:
試料約2.0gを精秤して、300mL共栓付き三角フラスコに入れる。硝酸メタノール(メタノール1000mLに特級濃硝酸100mLを加えた液)100mLを加え、3時間振盪して、塩型のカルボキシアルキル化セルロースを水素型のカルボキシアルキル化セルロースに変換する。水素型のカルボキシアルキル化セルロース(絶乾)を1.5~2.0g精秤し、300mL共栓付き三角フラスコに入れる。80%メタノール15mLで湿潤し、0.1N-NaOHを100mL加え、室温で3時間振盪する。指示薬として、フェノールフタレインを用いて、0.1N-H2SO4で過剰のNaOHを逆滴定し、次式によってカルボキシアルキル置換度(DS値)を算出する。
A=[(100×F’-0.1N-H2SO4(mL)×F)×0.1]/(水素型カルボキシアルキル化セルロースの絶乾質量(g))
カルボキシアルキル置換度=0.162×A/(1-0.058×A)
F’:0.1N-H2SO4のファクター
F:0.1N-NaOHのファクター。
【0057】
フィブリル化する前のカルボキシアルキル化されたセルロース原料におけるカルボキシアルキル置換度と、フィブリル化した後のカルボキシアルキル化セルロース繊維におけるカルボキシアルキル置換度とは、通常同じである。
【0058】
カルボキシアルキル化されたセルロース原料を製造する方法の一例として、カルボキシメチル化されたセルロース原料の製造例を以下で説明する。
【0059】
まず、セルロース原料と、溶媒及びマーセル化剤とを混合し、反応温度0~70℃、好ましくは10~60℃、かつ反応時間15分~8時間、好ましくは30分~7時間、セルロース原料のマーセル化を行う。次いで、カルボキシメチル化剤をグルコース残基当たり0.05~10.0倍モル添加し、反応温度30~90℃、好ましくは40~80℃、かつ反応時間30分~10時間、好ましくは1時間~4時間、カルボキシメチル化を行う。
【0060】
溶媒としては、3~20質量倍の水または有機溶媒あるいはこれらの混合物を用いることができ、有機溶媒としては、これらに限定されないが、メタノール、エタノール、N-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、N-ブタノール、イソブタノール、第3級ブタノール等のアルコールや、アセトン、ジエチルケトン、メチルエチルケトンなどのケトン、ならびに、ジオキサン、ジエチルエーテル、ベンゼン、ジクロロメタンなどを挙げることができる。これらのうち、水との相溶性が優れることから、炭素数1~4の一価アルコールが好ましく、炭素数1~3の一価アルコールがさらに好ましい。マーセル化剤としては、セルロース原料の無水グルコース残基当たり0.5~20倍モルの水酸化アルカリ金属、具体的には水酸化ナトリウム、水酸化カリウムを使用することが好ましい。カルボキシメチル化剤としては、モノクロロ酢酸、モノクロロ酢酸ナトリウム、モノクロロ酢酸メチル、モノクロロ酢酸エチル、モノクロロ酢酸イソプロピルなどが挙げられる。これらのうち、原料の入手しやすさという点でモノクロロ酢酸、またはモノクロロ酢酸ナトリウムが好ましい。カルボキシメチル化剤の使用量は特に限定されないが、一実施形態において、セルロースの無水グルコース単位当たり、0.5~1.5モルの範囲で添加することが好ましい。上記範囲の下限はより好ましくは0.6モル以上、さらに好ましくは0.7モル以上であり、上限はより好ましくは1.3モル以下、さらに好ましくは1.1モル以下である。カルボキシメチル化剤は、これに限定されないが、例えば、5~80質量%、より好ましくは30~60質量%の水溶液として反応器に添加することができるし、溶解せず、粉末状態で添加することもできる。
【0061】
マーセル化剤とカルボキシメチル化剤のモル比(マーセル化剤/カルボキシメチル化剤)は、カルボキシメチル化剤としてモノクロロ酢酸又はモノクロロ酢酸ナトリウムを使用する場合では、0.90~2.45が一般的に採用される。その理由は、0.90未満であるとカルボキシメチル化反応が不十分となる可能性があり、未反応のモノクロロ酢酸又はモノクロロ酢酸ナトリウムが残って無駄が生じる可能性があること、及び2.45を超えると過剰のマーセル化剤とモノクロロ酢酸又はモノクロロ酢酸ナトリウムによる副反応が進行してグリコール酸アルカリ金属塩が生成する恐れがあるため、不経済となる可能性があることにある。
【0062】
セルロース原料のカルボキシメチル化を行う際には、通常、マーセル化とカルボキシメチル化の両方を水を主とする溶媒下で行う方法(水媒法)と、マーセル化とカルボキシメチル化の両方を水と有機溶媒との混合溶媒下で行う方法(溶媒法)とがあるが、本発明では、マーセル化の際には水を主とする溶媒を用い、カルボキシメチル化の際には有機溶媒と水との混合溶媒を使用してもよい。そのようにすることにより、セルロースの結晶化度を50%以上に維持した場合にも、カルボキシメチル基が局所的ではなく均一に導入された(すなわち、アニオン化度の絶対値が小さい)カルボキシメチル化セルロース原料を経済的に得ることができる。
【0063】
溶媒に水を主として用いる(水を主とする溶媒)とは、水を50質量%より高い割合で含む溶媒をいう。水を主とする溶媒中の水は、好ましくは55質量%以上であり、より好ましくは60質量%以上であり、より好ましくは70質量%以上であり、より好ましくは80質量%以上であり、さらに好ましくは90質量%以上であり、さらに好ましくは95質量%以上である。特に好ましくは水を主とする溶媒は、水が100質量%(すなわち、水)である。マーセル化時の水の割合が多いほど、カルボキシメチル基がセルロースにより均一に導入されるという利点が得られる。水を主とする溶媒中の水以外の(水と混合して用いられる)溶媒としては、前述した有機溶媒を用いることができる。水を主とする溶媒中の有機溶媒の量は、好ましくは45質量%以下であり、さらに好ましくは40質量%以下であり、さらに好ましくは30質量%以下であり、さらに好ましくは20質量%以下であり、さらに好ましくは10質量%以下であり、さらに好ましくは5質量%以下であり、より好ましくは0質量%である。
【0064】
カルボキシメチル化剤を添加するのと同時に、あるいはカルボキシメチル化剤の添加の前または直後に、反応器に有機溶媒または有機溶媒の水溶液を適宜添加し、又は減圧などによりマーセル化処理時の水以外の有機溶媒等を適宜削減して、水と有機溶媒との混合溶媒を形成し、この水と有機溶媒との混合溶媒下で、カルボキシメチル化反応を進行させることが好ましい。有機溶媒の添加または削減のタイミングは、マーセル化反応の終了後からカルボキシメチル化剤を添加した直後までの間であればよく、特に限定されないが、例えば、カルボキシメチル化剤を添加する前後30分以内が好ましい。
【0065】
カルボキシメチル化の際の混合溶媒中の有機溶媒の割合は、水と有機溶媒との総和に対して有機溶媒が20質量%以上であることが好ましく、30質量%以上であることがより好ましく、40質量%以上であることがさらに好ましく、45質量%以上であることがさらに好ましく、50質量%以上であることが特に好ましい。有機溶媒の割合が高いほど、均一なカルボキシメチル基の置換が起こりやすいことにより、得られるカルボキシメチル化されたセルロース原料の品質が安定する。有機溶媒の割合の上限は限定されず、例えば、99質量%以下であってよい。添加する有機溶媒のコストを考慮すると、好ましくは90質量%以下であり、更に好ましくは85質量%以下であり、更に好ましくは80質量%以下であり、更に好ましくは70質量%以下である。
【0066】
カルボキシメチル化の際の反応媒(セルロースを含まない、水と有機溶媒等との混合溶媒)は、マーセル化の際の反応媒よりも、水の割合が少ない(言い換えれば、有機溶媒の割合が多い)ことが好ましい。本範囲を満たすことで、得られるカルボキシメチル化されたセルロース原料の結晶化度を維持しやすくなり、本発明の繊維を、より効率的に得ることができるようになる。また、カルボキシメチル化の際の反応媒が、マーセル化の際の反応媒よりも水の割合が少ない(有機溶媒の割合が多い)場合、マーセル化反応からカルボキシメチル化反応に移行する際に、マーセル化反応終了後の反応系に所望の量の有機溶媒を添加するという簡便な手段でカルボキシメチル化反応用の混合溶媒を形成させることができるという利点も得られる。
【0067】
カルボキシメチル化において、カルボキシメチル化剤の有効利用率は、15%以上であることが好ましい。より好ましくは20%以上であり、さらに好ましくは25%以上であり、特に好ましくは30%以上である。カルボキシメチル化剤の有効利用率とは、カルボキシメチル化剤におけるカルボキシメチル基のうち、セルロースに導入されたカルボキシメチル基の割合を指す。マーセル化の際に水を主とする溶媒を用い、カルボキシメチル化の際に水と有機溶媒との混合溶媒を用いることにより、高いカルボキシメチル化剤の有効利用率で(すなわち、カルボキシメチル化剤の使用量を大きく増やすことなく、経済的に)、カルボキシメチル化されたセルロース原料を得ることができる。カルボキシメチル化剤の有効利用率の上限は特に限定されないが、現実的には80%程度が上限となる。なお、カルボキシメチル化剤の有効利用率は、AMと略すことがある。
【0068】
カルボキシメチル化剤の有効利用率の算出方法は以下の通りである:
AM = (DS ×セルロースのモル数)/カルボキシメチル化剤のモル数
DS: カルボキシメチル置換度(測定方法は後述する)
セルロースのモル数:パルプ質量(100℃で60分間乾燥した際の乾燥質量)/162
(162はセルロースのグルコース単位当たりの分子量)。
【0069】
<セルロース原料のリン酸エステル化>
化学変性されたセルロース原料の一例として、リン酸エステル化されたセルロース原料を用いることができる。エステル化の方法としては、セルロース原料にリン酸基を有する化合物の粉末や水溶液を混合する方法、セルロース原料のスラリーにリン酸基を有する化合物の水溶液を添加する方法等が挙げられる。リン酸基を有する化合物としては、リン酸、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸三ナトリウム、亜リン酸ナトリウム、亜リン酸カリウム、次亜リン酸ナトリウム、次亜リン酸カリウム、ピロリン酸ナトリウム、メタリン酸ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸三カリウム、ピロリン酸カリウム、メタリン酸カリウム、リン酸二水素アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸三アンモニウム、ピロリン酸アンモニウム、メタリン酸アンモニウム等が挙げられる。これらの1種、あるいは2種以上を併用してセルロース原料にリン酸基を導入することができる。これらのうち、リン酸基導入の効率が高く、下記解繊工程で解繊しやすく、かつ工業的に適用しやすい観点から、リン酸、リン酸のナトリウム塩、リン酸のカリウム塩、リン酸のアンモニウム塩が好ましい。特にリン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウムが好ましい。また、反応を均一に進行できかつリン酸基導入の効率が高くなることから前記リン酸基を有する化合物は水溶液として用いることが望ましい。リン酸基を有する化合物の水溶液のpHは、リン酸基導入の効率が高くなることから7以下であることが好ましいが、繊維の加水分解を抑える観点からpH3~7が好ましい。
【0070】
リン酸エステル化されたセルロース原料の製造方法の例として、以下の方法を挙げることができる。固形分濃度0.1~10質量%のセルロース原料の懸濁液に、リン酸基を有する化合物を撹拌しながら添加してセルロースにリン酸基を導入する。セルロース原料を100質量部とした際に、リン酸基を有する化合物の添加量はリン元素量として、0.2~500質量部であることが好ましく、1~400質量部であることがより好ましい。
【0071】
得られたリン酸エステル化されたセルロース原料の懸濁液を脱水した後、セルロースの加水分解を抑える観点から、100~170℃で加熱処理することが好ましい。さらに、加熱処理の際に水が含まれている間は130℃以下、好ましくは110℃以下で加熱し、水を除いた後、100℃~170℃で加熱処理することが好ましい。
【0072】
リン酸エステル化されたセルロース原料のグルコース単位当たりのリン酸基置換度は0.001以上0.40未満であることが好ましい。フィブリル化する前のリン酸エステル化されたセルロース原料におけるリン酸基置換度と、フィブリル化した後のリン酸エステル化セルロース繊維におけるリン酸基置換度とは、通常、同じである。
【0073】
(2)工程B
本工程では過酸化物で前記化学変性セルロースを処理する。当該処理によって化学変性セルロースが酸化分解され、低粘度の水分散液を与える化学変性ミクロフィブリルセルロース繊維を得ることができる。
【0074】
副反応を抑制する観点から、水を含む反応媒体、化学変性セルロース繊維、および過酸化物を含む混合物を撹拌して本工程を実施することが好ましい。当該反応媒体中の水の量は80~100質量%であることが好ましく、90~100質量%であることがより好ましく、100質量%であることがさらに好ましい。他の成分はアルコール等の水溶性有機溶媒であることが好ましい。
【0075】
過酸化物としては、過酸化水素、過酢酸、過硫酸を使用することが可能であり、過酸化水素を使用することが好ましい。
【0076】
反応系のpHは限定されないが、化学変性ミクロフィブリルセルロース繊維の低粘度化を達成する観点から、反応系のpHは中性~アルカリ性領域であることが好ましく、7.0~14.0であることがより好ましく、8.0~13.0であることがさらに好ましい。特にカルボキシメチル化ミクロフィブリルセルロースにおいては、pHが7.0未満であるとカルボキシメチル化セルロースへのダメージが大きくなり、得られる化学変性ミクロフィブリルセルロース繊維の強度が低下する場合がある。また、カルボキシメチル化セルロースは、エーテル化処理前のマーセル化によってセルロースが部分的に膨潤するという特徴を持つ。このため本工程におけるpHが高くなると、上記マーセル化により膨潤した箇所を起点にカルボキシメチル化セルロースがより膨潤しやすくなって3次元網目構造体の絡まりが強くなり、低粘度化効果が得られにくくなる傾向がある。一方、pHが14.0を超えた場合も、同様に得られるフィブリル化された化学変性セルロース繊維の強度が低下する場合がある。過酸化水素を含むため反応系のpHは通常は酸性となるが、アルカリを用いてpHを適宜調整することが好ましい。pHは公知の装置を用いて測定できる。本発明で使用する反応媒体は主成分が水であるので、有機溶媒を含む場合であっても水のpHを測定する装置(pHメーター等)を用いて測定した値をそのまま反応媒体のpHとしてよい。
【0077】
使用するアルカリは水酸化ナトリウムが好ましい。水酸化ナトリウムを添加する場合、その添加量は化学変性セルロース繊維の絶重量に対して、1~10質量%であることが好ましく、2~5質量%であることがより好ましい。
【0078】
混合物中の化学変性セルロース繊維の濃度は、1~50質量%が好ましく、1~10質量%がより好ましい。過酸化水素の添加量は、化学変性セルロース繊維の絶乾重量に対して、0.1~100質量%であることが好ましく、1~80質量%であることがより好ましい。また、反応温度や時間は適宜設定できるが、60~120℃で0.5~24時間程度実施することが好ましい。本工程を実施する装置も限定されない。例えば、オートクレーブ、ニーダー等の公知の装置を使用できる。
【0079】
本工程に供するカルボキシメチル化セルロースのカルボキシメチル基は酸型(-CH2-COOH)、塩型(-CH2-COOM:Mは一価の金属イオン)、これらの混合型であってよい。
【0080】
(3)工程C
工程Cにおいて、化学変性されたセルロース原料を解繊または叩解することにより、化学変性ミクロフィブリルセルロース繊維を得る。フィブリル化における解繊または叩解は、ディスク型、コニカル型、シリンダー型等といったリファイナー、高速解繊機、せん断型撹拌機、コロイドミル、高圧噴射分散機、ビーター、PFIミル、ニーダー、ディスパーザーなどを用いて、湿式で(すなわち、水等を分散媒とする分散体の形態で)行うことが好ましいが、特にこれらの装置に限定されず、湿式にて機械的な解繊力を付与する装置であればいずれでもよい。
【0081】
フィブリル化に供する化学変性されたセルロース原料の分散体における原料の固形分濃度は、0.1質量%以上が好ましく、0.5質量%以上がさらに好ましく、1.0質量%以上がさらに好ましく、2.0質量%以上がさらに好ましい。濃度の上限としては、50質量%以下が好ましく、30質量%以下がさらに好ましい。
【0082】
解繊する際の化学変性されたセルロース原料の水分散体のpHは、機械的処理の際のpHは、7以上が好ましく、8以上がより好ましく、5以下がさらに好ましい。pHの下限は、特に限定されないが、通常は2以上、好ましくは3以上、より好ましくは3.5以上である。pHの調整は、例えば、水分散体に酸(例、塩酸)を添加して行うことができる。
【0083】
なお、フィブリル化に供するための分散体を調製する前に、上述の方法で得られた化学変性されたセルロース原料を予め乾燥させ、粉砕してもよい。次いで、乾式粉砕した化学変性セルロース原料を分散媒に分散し、フィブリル化(湿式)に供してもよい。原料の乾式粉砕に用いる装置は特に限定されず、ハンマーミル、ピンミル等の衝撃式ミル、ボールミル、タワーミル等の媒体ミル、ジェットミル等を例示することができる。
【0084】
フィブリル化は、上述した通り、平均繊維径として500nm以上、好ましくは1μm以上、さらに好ましくは10μm以上を維持するような範囲で行う。平均繊維径の上限は60μm以下が好ましく、40μm以下がより好ましく、30μm以下がさらに好ましく、20μm以下がさらに好ましい。平均繊維径がこの範囲になる程度の適度なフィブリル化を行うことにより、未解繊のセルロース繊維に比べて高い保水性を呈し、また、より微細に解繊されたセルロースナノファイバーに比べて少量でも高い強度付与効果や歩留まり向上効果が得られる。
【実施例】
【0085】
以下、本発明を実施例及び比較例をあげてより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、特に断らない限り、部および%は質量部および質量%を示す。
【0086】
<化学変性ミクロフィブリルセルロース繊維の物性の測定手順>
(化学特性)
・カルボキシル(COOH)基量:サンプルの0.5質量%水分散体60mlを調製し、0.1M塩酸水溶液を加えてpH2.5とした。その後、0.05Nの水酸化ナトリウム水溶液を滴下してpHが11になるまで電気伝導度を測定した。電気伝導度の変化が緩やかな弱酸の中和段階において消費された水酸化ナトリウム量(a)から、下式を用いて算出した:
カルボキシル基量〔mmol/gカルボキシル化セルロース〕=a〔ml〕×0.05/カルボキシル化セルロース質量〔g〕。
・置換度:試料約2.0gを精秤して、300mL共栓付き三角フラスコに入れた。硝酸メタノール(メタノール1000mLに特級濃硝酸100mLを加えた液)100mLを加え、3時間振盪して、塩型カルボキシル基を酸型に変換した。得られた酸型サンプル(絶乾)を1.5~2.0g精秤し、300mL共栓付き三角フラスコに入れた。80%メタノール15mLでサンプルを湿潤し、0.1N-NaOHを100mL加え、室温で3時間振盪した。指示薬として、フェノールフタレインを用いて、0.1N-H2SO4で過剰のNaOHを逆滴定し、次式により置換度(DS値)を算出した。
【0087】
A=[(100×F’-0.1N-H2SO4(mL)×F)×0.1]/(酸型サンプルの絶乾質量(g))
置換度=0.162×A/(1-0.058×A)
F’:0.1N-H2SO4のファクター
F:0.1N-NaOHのファクター。
【0088】
・セルロースI型の結晶化度:試料をガラスセルに乗せ、X線回折測定装置(例えば、LabX XRD-6000、島津製作所製)を用いて測定する。結晶化度の算出はSegal等の手法を用いて行う。例えば、X線回折図の2θ=10°~30°の回折強度をベースラインとして、2θ=22.6°の002面の回折強度と2θ=18.5°のアモルファス部分の回折強度から次式により算出する。
Xc=(I002C-Ia)/I002C×100
Xc:セルロースのI型の結晶化度(%)
I002C:2θ=22.6°、002面の回折強度
Ia:2θ=18.5°、アモルファス部分の回折強度
結晶化度測定用試料は、後段の比表面積の測定における項目(1)~(9)と同様の手順で調製した凍結乾燥サンプルを、タブレット状に成型して使用した。
【0089】
・アニオン化度の測定方法:化学変性ミクロフィブリルセルロース繊維を水に分散し、固形分10g/Lの水分散体を調製し、マグネチックスターラーを用い10分以上1000rpmにて撹拌した。得られた水分散体を0.1g/Lに希釈後、10ml採取し、流動電流検出器(Mutek Particle Charge Detector 03)用い、1/1000規定度のジアリルジメチルアンモニウムクロリド(DADMAC)で滴定して、流動電流がゼロになるまでのDADMACの添加量を用い、以下の式によりアニオン化度を算出した:
q=(V×c)/m
q:アニオン化度(meq/g)
V:流動電流がゼロになるまでのDADMACの添加量(L)
c:DADMACの濃度(meq/L)
m:測定試料中の化学変性ミクロフィブリルセルロース繊維の質量(g)。
【0090】
(繊維特性)
・平均繊維幅及び平均繊維長:固形分濃度0.25質量%に希釈した水分散体を、フラクショネーターにかけ、length-weighted fiber width及びlength-weighted average fiber lengthとして求めた(n=2)。
【0091】
・アスペクト比:繊維幅及び繊維長の測定値より下記の式から算出した。
アスペクト比=平均繊維長/平均繊維径
【0092】
・比表面積:(1)化学変性ミクロフィブリルセルロース繊維の約2%水分散体を、固形分が約0.1gとなるように取り分け遠心分離の容器に入れ、100mlのエタノールを加えた。
(2)攪拌子を入れ、500rpmで30分以上攪拌した。
(3)撹拌子を取り出し、遠心分離機で、7000G、30分、30℃の条件で化学変性ミクロフィブリルセルロース繊維を沈降させた。
(4)化学変性ミクロフィブリルセルロース繊維をできるだけ除去しないようにしながら、上澄みを除去した。
(5)100mlエタノールを加え、撹拌子を加え、(2)の条件で攪拌、(3)の条件で遠心分離、(4)の条件で上澄み除去をし、これを3回繰り返した。
(6)(5)の溶媒をエタノールからt-ブタノールに変え、t-ブタノールの融点以上の室温下で、(5)と同様にして撹拌、遠心分離、上澄み除去を3回繰り返した。
(7)最後の溶媒除去後、t-ブタノールを30ml加え、軽く混ぜた後ナスフラスコに移し、氷浴を用いて凍結させた。
(8)冷凍庫で30分以上冷却した。
(9)凍結乾燥機に取り付け、3日間凍結乾燥した。
(10)BET測定を行った(前処理条件:窒素気流下、105℃、2時間、相対圧0.01~0.30、サンプル量30mg程度)。
・保水能:化学変性ミクロフィブリルセルロース繊維の固形分濃度0.3質量%の水分散体を40mL調製した。このときの水分散体の質量をAとした。次いで、水分散体の全量を高速冷却遠心機で30℃、25,000Gで30分間遠心分離し、水相と沈降物とを分離した。このときの沈降物の質量をBとした。また、水相をアルミカップに入れ、105℃で一昼夜乾燥させて水を除去し、水相中の固形分の質量を測定した。この水相中の固形分の質量をCとした。以下の式を用いて、保水能を計算した。
【0093】
・電気伝導度:化学変性ミクロフィブリルセルロース繊維の固形分濃度1.0質量%の水分散体200gを調製し、十分に撹拌する。その後、電気伝導度計(HORIBA社製ES-71型)を用いて電気伝導度を測定した。
【0094】
・pH:フィブリル化処理後の化学変性ミクロフィブリルセルロース繊維を固形分濃度1.0質量%に調整し、pHを測定した。
【0095】
[実施例1]
(1)工程A <パルプのTEMPO酸化>
針葉樹由来の漂白済み未叩解クラフトパルプ(NBKP、日本製紙(株)製、白色度85%)5.00g(絶乾)をTEMPO(Sigma Aldrich社)39mg(絶乾1gのセルロースに対し0.05mmol)と臭化ナトリウム514mg(絶乾1gのセルロースに対し1.0mmol)を溶解した水溶液500mlに加え、パルプが均一に分散するまで撹拌した。反応系に次亜塩素酸ナトリウム水溶液を次亜塩素酸ナトリウムが5.5mmol/gになるように添加し、室温にて酸化反応を開始した。反応中は系内のpHが低下するが、3M水酸化ナトリウム水溶液を逐次添加し、pH10に調整した。次亜塩素酸ナトリウムを消費し、系内のpHが変化しなくなった時点で反応を終了した。反応後の混合物に塩酸を添加しpH2に調整した後、ガラスフィルターで濾過してパルプ分離し、分離されたパルプを十分に水洗して、TEMPO酸化パルプを得た。この時のパルプ収率は90%であり、酸化反応に要した時間は90分、カルボキシル基量は1.54mmol/g、pHは4.5であった。得られたTEMPO酸化パルプの固形分濃度2.0質量%の水分散体を調製し、5%NaOH水溶液及び炭酸水素ナトリウムを添加してpH7.5に調整した。
(2)工程B <過酸化水素による処理>
得られたTEMPO酸化パルプ水分散体に、TEMPO酸化パルプ絶乾1gに対し0.6gの5%水酸化ナトリウム水溶液、0.14gの35%過酸化水素水を加えたのち、十分に攪拌した。攪拌後30分間静置することにより、過酸化物処理TEMPO酸化パルプを得た。
(3)工程C <フィブリル化>
得られた過酸化水素処理TEMPO酸化パルプをトップファイナー(相川鉄工株式会社製)を用いて10分間処理し、酸化セルロースミクロフィブリル(TEMPO酸化MFC)を調製した。得られた酸化セルロースミクロフィブリルの物性値を表1に示す。各物性値の測定方法は、上述した通りである。
【0096】
[実施例2]
(1)工程A <パルプのカルボキシメチル化>
回転数を100rpmに調節した二軸ニーダーに、水75部と、水酸化ナトリウム22部を水100部に溶解したものとを加え、広葉樹由来の漂白済み未叩解クラフトパルプ(LBKP、日本製紙(株)製)を100部(100℃で60分間乾燥した際の乾燥質量)仕込んだ。これらを30℃で90分間撹拌、混合しマーセル化されたセルロース系原料を調製した。更に撹拌しつつイソプロパノール(IPA)200部と、モノクロロ酢酸ナトリウム60部を添加し、30分間撹拌した後、70℃に昇温して90分間カルボキシメチル化反応をさせた。カルボキシメチル化反応時の反応媒中のIPAの濃度は、37%であった。反応終了後、酢酸でpH7程度になるように中和し、カルボキシメチル化度0.36、カルボキシル基量は2.11mmol/g、セルロースI型の結晶化度59%のカルボキシメチル化パルプ(ナトリウム塩)を得た。得られたカルボキシメチル化パルプの固形分濃度2.0質量%の水分散体を調製し、5%NaOH水溶液を添加してpH7.5に調整した。
(2)工程B <過酸化水素による処理>
得られたカルボキシメチル化パルプ水分散体に、カルボキシメチル化パルプ絶乾1gに対し0.6gの5%水酸化ナトリウム水溶液、0.14gの35%過酸化水素水を加えたのち、十分に攪拌した。攪拌後30分間静置することにより、過酸化物処理カルボキシメチル化パルプを得た。
(3)工程C <フィブリル化>
得られた過酸化水素処理カルボキシメチル化パルプをトップファイナー(相川鉄工株式会社製)を用いて10分間処理し、カルボキシメチル化セルロースミクロフィブリル(カルボキシメチル化MFC)を調製した。得られたカルボキシメチル化セルロースミクロフィブリルの物性値を表1に示す。各物性値の測定方法は、上述した通りである。
【0097】
[比較例1]
過酸化水素の処理を行わないこと以外は、実施例1と同様に調製した。得られた酸化セルロースミクロフィブリルの物性値を表1に示す。各物性値の測定方法は、上述した通りである。
【0098】
[比較例2]
過酸化水素の処理を行わないこと以外は、実施例2と同様に調製した。得られたカルボキシメチル化セルロースミクロフィブリルの物性値を表1に示す。各物性値の測定方法は、上述した通りである。
【0099】
【0100】
表1に示されるように、過酸化水素処理により低粘度の化学変性ミクロフィブリルセルロース繊維の水分散液を得ることができた。