(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-21
(45)【発行日】2024-10-29
(54)【発明の名称】塗布装置及び塗布方法
(51)【国際特許分類】
B05C 5/02 20060101AFI20241022BHJP
B05C 11/10 20060101ALI20241022BHJP
B05D 1/26 20060101ALI20241022BHJP
B05D 3/00 20060101ALI20241022BHJP
B05D 7/00 20060101ALI20241022BHJP
【FI】
B05C5/02
B05C11/10
B05D1/26 Z
B05D3/00 B
B05D7/00 K
(21)【出願番号】P 2020163332
(22)【出願日】2020-09-29
【審査請求日】2023-09-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】弁理士法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】谷 義則
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 俊文
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 暁雄
【審査官】當間 庸裕
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-148769(JP,A)
【文献】特開2015-192984(JP,A)
【文献】特開2011-167603(JP,A)
【文献】特開2015-207691(JP,A)
【文献】米国特許第06495205(US,B1)
【文献】特開2016-150311(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05C 5/02
B05C 11/10
B05D 1/26
B05D 3/00
B05D 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗布対象となる基材よりも一方向に長い吐出口を有する塗布器と、
前記一方向に交差する方向を移動方向として前記塗布器と前記基材との相対移動を行わせるための移動機構と、
前記塗布器と繋がり当該塗布器に液を供給する供給動作を行うことが可能である供給部と、
を備え、
前記基材は、その少なくとも一部に、前記移動方向に直交する幅方向の寸法が変化する輪郭形状を有していて、
前記塗布器内の液を負圧に維持しつつ前記相対移動を行いながら前記吐出口から液を吐出することにより、当該吐出口と対向する前記基材の幅方向の全体を塗布幅として塗布する、キャピラリ塗布式の塗布装置であって、
前記基材のうち、前記幅方向の寸法が徐々に小さくなる縮幅領域に対して、液を塗布する縮幅塗布の際、前記供給部は、前記塗布幅に応じた必要量よりも
、ビードの液量の変化分に相当する余剰量の分だけ少ない量の液を前記塗布器に供給する、
塗布装置。
【請求項2】
前記供給部は、更に、前記塗布器の液を吸引する吸引動作を行うことが可能であり、
前記縮幅塗布の間に、前記相対移動を行いながら前記供給部は前記吸引動作を行うタイミングが含まれる、請求項1に記載の塗布装置。
【請求項3】
前記供給部は、液を送り出す第一ポンプと、液を吸引する第二ポンプとを有し、
前記縮幅塗布の際、前記第一ポンプは液を送り出すと共に、前記第二ポンプは液の吸引を行う、請求項2に記載の塗布装置。
【請求項4】
前記縮幅塗布の際、その途中で、
前記第一ポンプによる液の送り出し量が、前記第二ポンプによる液の吸引量よりも大きい第一状態から、
前記第二ポンプによる液の吸引量が、前記第一ポンプによる液の送り出し量よりも大きい第二状態へ、
変更する、請求項3に記載の塗布装置。
【請求項5】
前記第一ポンプは、前記塗布器と直接的に繋がる第一配管を通じて接続されていて、
前記第二ポンプは、前記第一配管とは別であって前記塗布器と直接的に繋がる第二配管を通じて接続されている、請求項3又は請求項4に記載の塗布装置。
【請求項6】
前記基材のうち、前記幅方向の寸法が徐々に大きくなる拡幅領域に対して、液を塗布する拡幅塗布の際、前記供給部は、前記塗布幅に応じた必要量よりも
、ビードの液量の変化分に相当する不足量の分だけ多い量の液を前記塗布器に供給する、請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の塗布装置。
【請求項7】
塗布対象となる基材よりも一方向に長い吐出口を有する塗布器と、
前記一方向に交差する方向を移動方向として前記塗布器と前記基材との相対移動を行わせるための移動機構と、
前記塗布器と繋がり当該塗布器に液を供給する供給動作を行うことが可能である供給部と、を備える塗布装置が、
前記塗布器内の液を負圧に維持しつつ前記相対移動を行いながら前記吐出口から液を吐出することにより、当該吐出口と対向する前記基材の幅方向の全体を塗布幅として塗布する、キャピラリ塗布式の塗布方法であって、
前記基材は、その少なくとも一部に、前記移動方向に直交する幅方向の寸法が変化する輪郭形状を有していて、
前記基材のうち、前記幅方向の寸法が徐々に小さくなる縮幅領域に対して、液を塗布する縮幅塗布の際、前記供給部は、前記塗布幅に応じた必要量よりも
、ビードの液量の変化分に相当する余剰量の分だけ少ない量の液を前記塗布器に供給する、
塗布方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材に液を塗布するための塗布装置及び塗布方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば半導体の製造工程では、半導体ウエハに液状である機能性材料(以下、単に「液」と称する。)が塗布される。半導体ウエハに液を塗布する技術としてスピンコートが知られている。しかし、スピンコートの場合、液の利用効率が悪い。
そこで、近年、半導体ウエハ等の基材に液を塗布するための装置として、塗布器を備えた塗布装置が用いられる。その塗布器は、一方向に長いスリットを有し、スリットの開口が液の吐出口となる。塗布器と半導体ウエハとを相対的に移動させながら、吐出口から液を吐出し、半導体ウエハ上に塗膜を形成する。特許文献1に、塗布器を備えた塗布装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記のような塗布器を備える塗布装置の場合、半導体ウエハに対する塗布の開始部及び終了部で、塗布した液の膜厚精度が低下しやすい。
ここで、半導体ウエハ上の塗布領域には、
図8に示すように、チップ等の部品Cを形成するために高い膜厚精度が要求される有効領域A1と、その周囲(半導体ウエハの周縁部)の除外領域A2とが存在する。
前記塗布装置の場合、塗布開始の一端部7aと塗布終了の他端部7bとで膜厚精度が低下しやすいが、このような一端部7a及び他端部7bが、除外領域A2の範囲内に収まるように液を塗布するのが望ましい。そして、有効領域A1をできるだけ広く確保するために、除外領域A2は狭く設定され、このような狭い除外領域A2の範囲内に、膜厚精度の低い不良部を収めることが可能となる塗布手段の研究が進められている。
【0005】
前記のような塗布器を用いて行う塗布方式として、近年、前記特許文献1に開示されているようなキャピラリ塗布が注目されている。キャピラリ塗布は、
図9に示すように、液を溜めているタンク95aを含む負圧発生手段95によって、塗布器90内の液を負圧の状態とし、その状態を維持しつつ、基材7と塗布器90とを相対移動させながら、塗布器90の吐出口91から液を吐出する方式の塗布である。
【0006】
塗布器90の吐出口91は(
図8参照)、基材7の幅方向の寸法(直径)Dよりも長く形成されていて、その吐出口91と対向する基材7の幅方向の全体を「塗布幅E」として塗布が行われる。半導体ウエハのような輪郭形状が円形である基材7は、塗布の進行方向に沿って幅方向の寸法が徐々に変化するが、このような基材7であっても、キャピラリ塗布の場合、基材7外の範囲に液が塗布されず、基材7上の全範囲にのみ液が塗布される。
【0007】
前記特許文献1に開示の塗布装置では、キャピラリ塗布の際、ポンプ92(
図9参照)が液を塗布器90に供給する。ポンプ92による液の単位時間あたりの供給量Qpは、基材7の前記塗布幅Eに応じた単位時間あたりの必要量Qcと等しく設定されればよく、その必要量Qc(=Qp)は、次の式で計算される。
(必要量Qc)=(塗布幅E)×(膜厚t)×(相対移動の速度v)
【0008】
円形の基材7の場合、塗布の進行方向に沿って塗布幅Eが徐々に変化することから、必要量Qcが刻々と変化し、これに応じてポンプ92による供給量Qpも刻々と変化させる。具体的に説明すると、基材7のうち、幅寸法が徐々に大きくなる前半の領域A11(
図8参照)に対して塗布を行う際、前記塗布幅Eは徐々に大きくなることから、ポンプ92による供給量Qpも徐々に多くなる。反対に、幅寸法が徐々に小さくなる後半の領域A12に対して塗布を行う際、前記塗布幅Eは徐々に小さくなることから、ポンプ92による供給量Qpも徐々に少なくなる。
膜厚t及び移動速度vを一定とする場合、前記式によれば、ポンプ92による液の供給量Qp(=Qc)は、塗布幅Eに応じて変化する。塗布幅Eは、基材7の形状により既知であるため、供給量Qpは計算により求められる。このため、予め求められている供給量Qpに基づいて作成されたコンピュータプログラムによって、ポンプ92の動作が制御されることで、基材7上に所望の膜厚の塗膜が得られると考えられる。
【0009】
しかし、実際では、例えば、基材7の後半の領域A12では、膜厚が規定よりも厚くなる場合があることが、発明者によって見いだされた。その理由は、キャピラリ塗布では、塗布の進行にしたがって、基材7における塗布幅Eが変化する他に、吐出口91が開口する塗布器90の先端と基材7との間に満たされている液(その液を「ビードB」と称する。)の量(ビード量)も変化するためである。すなわち、キャピラリ塗布では、塗布器90の先端と基材7との間に液が満たされた状態(ビードBが形成された状態)となることから、基材7に実際に塗布される液量には、ポンプ92による液の供給量Qpの他に、ビードBの液量の変化分も含まれるためである。後半の領域A12では、塗布幅Eが徐々に小さくなるが、それに応じてビードBの長さ(幅寸法)も徐々に短くなる。このようなビードBの液量の変化が膜厚に影響を与え、後半の領域A12では、膜厚が設定値よりも厚くなる場合がある。
【0010】
そこで、本開示では、ポンプを用いて行うキャピラリ塗布において、膜厚精度をより一層高めることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本開示は、塗布対象となる基材よりも一方向に長い吐出口を有する塗布器と、前記一方向に交差する方向を移動方向として前記塗布器と前記基材との相対移動を行わせるための移動機構と、前記塗布器と繋がり当該塗布器に液を供給する供給動作を行うことが可能である供給部と、を備え、前記基材は、その少なくとも一部に、前記移動方向に直交する幅方向の寸法が変化する輪郭形状を有していて、前記塗布器内の液を負圧に維持しつつ前記相対移動を行いながら前記吐出口から液を吐出することにより、当該吐出口と対向する前記基材の幅方向の全体を塗布幅として塗布する、キャピラリ塗布式の塗布装置であって、前記基材のうち、前記幅方向の寸法が徐々に小さくなる縮幅領域に対して、液を塗布する縮幅塗布の際、前記供給部は、前記塗布幅に応じた必要量よりも少ない量の液を前記塗布器に供給する。
【0012】
基材に実際に塗布される液量には、供給部による液の供給量の他に、塗布器と基材との間に形成されるビードの液量の変化分も含まれる。前記縮幅領域では、ビードの液量の変化分が余剰の液となるが、前記塗布装置によれば、塗布幅に応じた必要量よりも少ない量の液が供給部によって塗布器に供給される。よって、ビードの液量の変化が膜厚に与える影響を低減することができ、膜厚精度をより一層高めることが可能となる。
【0013】
また、好ましくは、前記供給部は、更に、前記塗布器の液を吸引する吸引動作を行うことが可能であり、前記縮幅塗布の間に、前記相対移動を行いながら前記供給部は前記吸引動作を行うタイミングが含まれる。
例えば、基材の輪郭形状が円形である場合、塗布(縮幅塗布)の最後では、塗布幅が大きく変化し、これによりビードの液量の変化が大きくなる。このような場合であっても、膜厚が規定よりも厚くなるのを、前記吸引動作により防ぐことが可能となる。
【0014】
前記供給部は1台のポンプを有し、そのポンプによって前記供給動作及び前記吸引動作を行うように、供給部は構成されてもよいが、好ましくは、前記供給部は、液を送り出す第一ポンプと、液を吸引する第二ポンプとを有し、前記縮幅塗布の際、前記第一ポンプは液を送り出すと共に、前記第二ポンプは液の吸引を行う。
この構成によれば、第一ポンプによる液の送り出し量が、第二ポンプによる液の吸引量を超えていると、供給部は前記供給動作を行っている状態となり、反対に、第二ポンプによる液の吸引量が、第一ポンプによる液の送り出し量を超えていると、供給部は前記吸引動作を行っている状態となる。
塗布の途中で、1台のポンプにより液の送り出し(供給動作)と吸引(吸引動作)とを切り替える場合、その切り換えのタイミングで、ポンプが不連続な動作となり、その結果、基材に塗布された塗膜にスジが発生する可能性がある。しかし、供給部が2台のポンプを有する構成によれば、そのようなスジの発生を抑えることが可能となる。
【0015】
さらに、好ましくは、前記縮幅塗布の際、その途中で、前記第一ポンプによる液の送り出し量が、前記第二ポンプによる液の吸引量よりも大きい第一状態から、前記第二ポンプによる液の吸引量が、前記第一ポンプによる液の送り出し量よりも大きい第二状態へ、変更する。
前記構成によれば、縮幅塗布の際に、供給部は、はじめ供給動作を行うが、その途中で吸引動作を行う構成が得られる。しかも、第一ポンプ及び第二ポンプそれぞれは不連続な動作とならないことから、前記のようなスジの発生を防ぐことが可能となる。
【0016】
また、第一ポンプ及び第二ポンプを有する構成であっても、塗布器と供給部とを繋ぐ配管において、液の流れの反転が生じると、膜厚に影響を与える可能性がある。そこで、好ましくは、前記第一ポンプは、前記塗布器と直接的に繋がる第一配管を通じて接続されていて、前記第二ポンプは、前記第一配管とは別であって前記塗布器と直接的に繋がる第二配管を通じて接続されている。
前記構成によれば、塗布器と供給部とを繋ぐ配管において、液の流れの反転が生じない。その結果、塗膜に液のスジが発生するのをより効果的に抑制することが可能となる。
【0017】
また、好ましくは、前記基材のうち、前記幅方向の寸法が徐々に大きくなる拡幅領域に対して、液を塗布する拡幅塗布の際、前記供給部は、前記塗布幅に応じた必要量よりも多い量の液を前記塗布器に供給する。
前記拡幅領域では、ビードの液量の変化分が液の不足となり、膜厚が規定よりも薄くなる場合があるが、前記構成を備える塗布装置によれば、塗布幅に応じた必要量よりも多い量の液が供給部によって塗布器に供給される。よって、ビードの液量の変化が膜厚に与える影響を低減することができ、膜厚精度をより一層高めることが可能となる。
【0018】
また、本開示の塗布方法は、塗布対象となる基材よりも一方向に長い吐出口を有する塗布器と、前記一方向に交差する方向を移動方向として前記塗布器と前記基材との相対移動を行わせるための移動機構と、前記塗布器と繋がり当該塗布器に液を供給する供給動作を行うことが可能である供給部と、を備える塗布装置が、前記塗布器内の液を負圧に維持しつつ前記相対移動を行いながら前記吐出口から液を吐出することにより、当該吐出口と対向する前記基材の幅方向の全体を塗布幅として塗布する、キャピラリ塗布式の塗布方法であって、前記基材は、その少なくとも一部に、前記移動方向に直交する幅方向の寸法が変化する輪郭形状を有していて、前記基材のうち、前記幅方向の寸法が徐々に小さくなる縮幅領域に対して、液を塗布する縮幅塗布の際、前記供給部は、前記塗布幅に応じた必要量よりも少ない量の液を前記塗布器に供給する。
【0019】
基材に実際に塗布される液量には、供給部による液の供給量の他に、塗布器と基材との間に形成されるビードの液量の変化分も含まれる。前記縮幅領域では、ビードの液量の変化分が余剰の液となるが、前記塗布方法によれば、塗布幅に応じた必要量よりも少ない量の液が供給部によって塗布器に供給される。よって、ビードの液量の変化が膜厚に与える影響を低減することができ、膜厚精度をより一層高めることが可能となる。
【発明の効果】
【0020】
ポンプを用いて行うキャピラリ塗布において、膜厚精度をより一層高めることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図3】液付け動作及びキャピラリ塗布を説明するための図である。
【
図5】
図4の上側の図と同じ図を示すと共に、その図の塗布器及び基材を移動方向に見た断面図である。
【
図6】
図1に示す形態と異なる供給部を備える塗布装置の概略図である。
【
図7】
図1及び
図6に示す各形態と異なる供給部を備える塗布装置の概略図である。
【
図8】塗布対象となる半導体ウエハ上の塗布領域を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
〔塗布装置の構成〕
図1は、塗布装置の一例を示す概略構成図である。
図1に示す塗布装置10は、塗布対象となる基材7に液Lを塗布するための装置である。塗布装置10は、後にも説明するが、一方向に長い吐出口23を有する塗布器11を備え、その塗布器11と基材7とを相対移動させながら、吐出口23から液Lを吐出させる。これにより、基材7の一面である被塗布面に液Lが塗布され、塗膜が形成される。本実施形態では、基材7に一定の膜厚で液Lを塗布する。このような塗布を行うために、
図1に示す塗布装置10は、塗布器11、移動機構12、供給部13、制御装置14、及びステージ16を備える。
【0023】
図2は、
図1に示す塗布装置10の斜視図である。塗布器11は、スリットダイとも呼ばれ、一方向に長い部材である。前記一方向、つまり、塗布器11の長手方向を「幅方向」と定義する。各図において「幅方向」の一方が矢印Xで示す方向である。塗布器11と基材7との相対移動の方向は、幅方向と交差する方向であり、本実施形態では、幅方向と直交する方向である。基材7に対して相対的に塗布器11が移動する方向が、塗布の進行方向となり、この進行方向を「相対移動の移動方向」とし、以下において「相対移動方向」と称することもある。各図において、塗布の進行方向となる相対移動方向が矢印Yで示す方向である。幅方向と相対移動方向との双方に直交する方向が「上下方向」であり、各図において、上下方向のうちの上方向が矢印Zで示す方向である。本実施形態では、幅方向及び相対移動方向は、水平面に沿った方向となり、上下方向は、鉛直線に沿った方向となる。
【0024】
本実施形態における基材7は、
図2に示すように、一般的な半導体ウエハのような輪郭形状が円形の板である。このため、基材7の輪郭形状は、塗布の進行方向となる相対移動方向(矢印Y方向)の前半領域では、矢印Y方向に向かうにしたがって幅方向の寸法(基材幅)が徐々に大きくなる形状である。基材7のうち、矢印Y方向に向かって幅方向の寸法が徐々に大きくなる領域を「拡幅領域K1」と称する。拡幅領域K1に対して、液Lを塗布することを「拡幅塗布」と称する。
【0025】
また、基材7の輪郭形状は、残りである後半領域で、矢印Y方向に向かうにしたがって幅方向の寸法(基材幅)が小さくなる形状である。基材7のうち、矢印Y方向に向かって幅方向の寸法が徐々に小さくなる領域を「縮幅領域K2」と称する。縮幅領域K2に対して、液Lを塗布することを「縮幅塗布」と称する。
なお、基材7は、円形以外であってもよく、その少なくとも一部に、矢印Y方向に向かうにしたがって幅方向の寸法が徐々に変化する(小さくなる)輪郭形状を有していればよい。
【0026】
塗布器11は、塗布装置10が備える支持部(図示省略)に搭載されている。
図1において、塗布器11内に、液が溜められる液溜め空間21と、スリット22とが形成されている。液溜め空間21及びスリット22は、幅方向に沿って長く直線状に形成されている。スリット22の一方側(
図1では上側)は、液溜め空間21に開口し、液溜め空間21と繋がっている。スリット22の他方側(
図1では下側)は、塗布器11の先端面24で開口している。スリット22の開口が、液Lを吐出する吐出口23である。
図2に示すように、吐出口23の幅方向の寸法(幅寸法A)は、基材7の直径D(幅方向の最大寸法D)よりも大きい(A>D)。塗布器11に供給され液溜め空間21に一旦溜められた液Lが、スリット22を通じて吐出口23から外部空間へ吐出される。塗布器11の先端面24は、基材7に隙間を有して対向していて、吐出口23から吐出された液Lが基材7に塗布される。
【0027】
移動機構12は、塗布器11と基材7とを相対移動させる。本実施形態では、静止状態にある塗布器11に対して、基材7が移動する。このために、基材7を保持するステージ16が移動するように構成されている。
図1において、ステージ16は、基材7を例えばエアの吸引によって保持する。基材7に液Lを塗布する際、その基材7の上方に塗布器11が位置する。
本実施形態の移動機構12は、静止状態にある塗布器11に対して、ステージ16を移動させる構成を備える。具体的に説明すると、ステージ16はY方向に前進移動可能でかつY方向と反対方向に後退移動可能となって設けられていて、移動機構12は、ステージ16を移動させるアクチュエータ26を有する。アクチュエータ26は、例えばリニアアクチュエータである。移動機構12により、基材7の被塗布面が水平状態となって基材7が移動する。なお、本実施形態の構成とは反対に、ステージ16が静止状態であって塗布器11(塗布器11を搭載する支持部)が移動してもよい。つまり、移動機構12は、塗布器11の長手方向に交差する方向(直交する方向)を相対移動方向として、基材7と塗布器11とを相対的に移動させる構成であればよい。移動機構12による相対移動の開始、相対移動の停止、相対移動の速度調整は制御装置14によって制御される。
【0028】
図1及び
図2に示す供給部13は、1つのポンプ17を有する。ポンプ17は、塗布器11と直接的に繋がる配管31を通じて接続されている。配管31は供給部13に含まれる。ポンプ17は定量ポンプであり、制御装置14からの指令信号に基づいて、単位時間あたり一定量の液Lを精度よく送り出すことが可能である。ポンプ17による液Lの送り出し量、つまり、塗布器11への液Lの供給量は、ポンプ17の動作速度に応じて可変であり、その動作速度は制御装置14により制御される。ポンプ17から送り出された液Lは、配管31を通じて塗布器11に供給される。配管31には、開閉式のバルブ32が設けられている。バルブ32が閉じている状態で、ポンプ17と塗布器11との間で液Lは流れることができず、ポンプ17から液Lが塗布器11に供給されない。バルブ32が開いている状態で、ポンプ17と塗布器11との間で液は流れることができ、ポンプ17から液Lが塗布器11に供給される。
【0029】
このように、供給部13が有するポンプ17は、配管31を通じて塗布器11と繋がり、塗布器11に液Lを供給する供給動作を行うことが可能である。供給部13は、塗布開始前の事前処理として、基材7に液Lを付着させる液付け動作のためにも機能する。事前処理(液付け動作)について後に説明する。
本実施形態のポンプ17は、シリンジポンプである。制御装置14からの指令信号により、ポンプ17のピストン17aは、液Lを送り出す場合と反対方向に移動可能である。つまり、ポンプ17は、配管31を通じて塗布器11側の液Lを吸引することが可能である。以上より、供給部13は、液Lを送り出す供給動作以外に、塗布器11の液Lを吸引する吸引動作を行うことが可能である。
【0030】
制御装置14は、コントロールユニットとも呼ばれ、コンピュータを含む。そのコンピュータに記憶されているプログラムが、コンピュータの処理装置(CPU)によって実行されることで、塗布装置10が備える各部の動作及びその動作タイミングが制御され、基材7に対する液の塗布が行われる。制御装置14は、移動機構12、つまり、アクチュエータ26の動作を制御することで、塗布器11と基材7(ステージ16)との相対移動の制御を行う機能を有する。また、制御装置14は、供給部13(ポンプ17)の動作の制御を行う機能を有する。
【0031】
以上の構成を備える塗布装置10によれば、塗布器11に対して基材7が移動しながら、その塗布器11の吐出口23から液Lが吐出され、後に説明するキャピラリ塗布が行われる。塗布器11の吐出口23と、基材7との間隔(隙間)を調整するために、塗布器11は、上下方向に移動可能となって支持部に搭載されている。基材7に対して塗布器11から液Lを吐出することで、その基材7に液Lを塗布する際、供給部13が液Lを塗布器11に供給することができる。更に、基材7は円形であることから、後にも説明するが、その基材7に液Lを塗布する際、供給部13によって塗布器11から液Lを吸引する動作が実行されるタイミングも含まれる。このような供給部13(ポンプ17)の動作の具体例については後に説明する。
【0032】
〔キャピラリ塗布について〕
前記事前処理としての液付け動作が行われ、その後、実際に基材7に対して液Lを連続塗布する塗布処理(塗布動作)が行われる。この塗布処理において、キャピラリ塗布が行われる。
液付け動作について説明する。
図3の(A)図に示すように、基材7の端部7aと塗布器11の先端面24とを接近させ対向させた状態とする。液溜め空間21(
図1参照)及びスリット22を含む塗布器11内の空間、並びに、配管31に液Lが充填状態にあり、ポンプ17は停止状態にある。事前処理及び塗布処理の際、前記空間及び配管31は、吐出口23以外で開口しておらず、閉じた領域である。このため、
図3の(A)図に示すように、塗布器11内において液Lが充填された状態が維持され、吐出口23から液Lは吐出されない。この状態を初期状態と称する。
【0033】
初期状態から、ポンプ17(
図1参照)による液Lの送り出しが開始され、液Lが塗布器11に供給される。すると、幅方向に長い吐出口23の全体から、液Lが帯状となって吐出され始める。基材7は円形であることから、
図3の(B)図に示すように、基材7の端部7aには、帯状に吐出され始めた液Lのうち、端部7aと対向する一部の液Lのみが付着する。帯状に吐出され始めた液Lのうち、端部7aと対向しない部分は、当然に基材7に付着しないで吐出口23で保持される(メニスカスを形成する)。液Lが端部7aに付着すると、図外のセンサによる検出やタイマ等の機能によって、ポンプ17は液Lの送り出しを停止する。すると、塗布器11の先端面24と基材7の端部7aとの間に液Lが保持された状態となり、その液LによるビードBが形成される。ビードBを形成する液付け動作は、基材7と塗布器11との相対移動が行われない停止状態で実行される。
【0034】
ビードBが形成されると、基材7と塗布器11との相対移動が開始され(
図3の(C)参照)、実際の塗布動作が開始される。前記相対移動が開始されると、基材7に付着しているビードB(ビードBの表面張力)が、塗布器11内の液Lを吐出口23から引き出そうとする。前記相対移動の開始にあわせて、塗布器11に液Lを補充するために、ポンプ17を有する供給部13が液Lを塗布器11に供給開始する。相対移動の開始後、塗布動作が継続される間も、ポンプ17を有する供給部13は動作を継続する。
【0035】
前記相対移動の間、供給部13(ポンプ17)が液Lを送り出す量(供給量)は、形成されているビードBに連なって塗布器11内の液Lが吐出口23から自然に出ようとする液量よりも、僅かに少なくなる量に設定される。これにより、前記相対移動の間、塗布器11内の液Lの圧力は、外気に対して僅かに負圧となり、その負圧の状態が維持される。このように塗布器11内の液Lの圧力を、外気に対して負圧に維持しつつ、基材7と塗布器11とを相対移動させながら、その塗布器11の吐出口23から液Lを吐出する。このようにして行われる塗布が、キャピラリ塗布である。つまり、キャピラリ塗布の場合、ポンプ17を有する供給部13により塗布器11に液Lを供給する量が、塗布器11内の液Lが吐出口23から自然に出ようとする液量よりも少なくなるように、その供給部13による液Lの供給量の制御を行うことで、塗布器11内の液の負圧が維持される。
キャピラリ塗布の場合、相対移動速度が調整されることで、基材7に塗布される膜厚を調整することが可能となる。
【0036】
図4は、本実施形態のキャピラリ塗布を説明するための図である。
図4の上側の図は、基材7及び塗布器11を上から見たイメージ図である。
図4の下側の図は、供給部13による塗布器11への液Lの供給量Qpを説明するための図である。その供給量Qpは、ポンプ17による、単位時間あたりの液Lの送り出し量である。
図5は、
図4の上側の図と同じ図を示すと共に、その図の塗布器11及び基材7を移動方向(Y方向)に見た断面図である。
【0037】
図4及び
図5において、塗布器11の吐出口23の幅寸法(全長)が「A」である。吐出口23は、基材7の幅寸法(直径)Dよりも幅方向に長く形成されているが(A>D)、キャピラリ塗布の場合、吐出口23の全幅が塗布幅となるのではなく、吐出口23と対向する基材7の一部の幅方向の全体が「塗布幅E」となって、塗布が行われる。このため、基材7外の範囲に液Lが塗布されない。最終的に、基材7上の全範囲にのみ液Lが塗布される。基材7の直径Dは、吐出口23の幅寸法Aよりも小さいことから、全範囲を塗布する場合において、いずれの塗布位置(いずれのタイミング)でも、塗布幅Eは、吐出口23の幅寸法Aよりも小さい(E<A)。
なお、前記「塗布位置」は、基材7上の相対移動方向(矢印Y方向)に沿った位置であり、吐出口23が対向する位置である。
図4の下側の図に示すように、塗布位置「0」が、基材7の塗布開始の端部位置であり、塗布位置「100」が、基材7の塗布終了の端部位置である。
【0038】
以上のように、本実施形態のキャピラリ塗布では、塗布器11内の液Lを負圧に維持しつつ、基材7と塗布器11との相対移動を行いながら、塗布器11の吐出口23から液Lを吐出する。このように吐出することによって、各塗布位置において、吐出口23と対向する基材7の幅方向の全体を塗布幅Eとして塗布が行われる。
図4及び
図5に示す、半導体ウエハのような円形である基材7は、塗布の進行方向となる相対移動方向(矢印Y方向)に向かって、幅方向の寸法が徐々に変化する輪郭形状を有する。このような形状の基材7であっても、キャピラリ塗布の場合、基材7外の範囲に液が塗布(吐出)されず、基材7上の全範囲にのみ液が塗布される。
そして、本実施形態のキャピラリ塗布では、ポンプ17を有する供給部13が用いられる。
【0039】
〔ポンプ17を用いたキャピラリ塗布について〕
図4により、供給部13の液Lの供給量Qpに関して説明する。供給量Qpは、塗布器11に対してポンプ17が単位時間あたりに液Lを送り出す体積である。
ここで、基材7に一定の膜厚tで液Lを塗布するためには、ポンプ17は、基材7の輪郭形状に応じた必要量の液Lを送り出せばよいと考えられる。つまり、ポンプ17は、各塗布位置において、基材7の前記塗布幅Eに応じた必要量の液Lを吐出すれば、その基材7に一定の膜厚tで液Lを塗布することが可能であると考えられる。前記塗布幅Eに応じた必要量を「Qc」とする。その必要量Qcは、次の式(1)で計算される。
(必要量Qc)=(塗布幅E)×(膜厚t)×(相対移動の速度v)・・・式(1)
必要量Qcは、基材7に一定の膜厚tで液Lを塗布するために、単位時間あたりに必要とする液Lの体積であり、相対移動の速度vは、前記単位時間あたりの移動距離である。
【0040】
本実施形態の基材7は、円形の輪郭形状を有する。このため、その基材7に一定の膜厚tの塗膜を形成するための液Lの必要量Qcは、
図4の下側の図において、塗布位置との関係で破線により示されるように半円に沿った線で示される。そこで、ポンプ17は、
図4の下側の図の破線で示す半円に沿った必要量Qcと同じとなる供給量で、液Lを供給すればよいと考えられる。しかし、キャピラリ塗布の場合、前記のとおりビードBが形成され、しかも、そのビードBの幅寸法が塗布位置によって変化し、その変化が膜厚tに影響を与える。このため、本実施形態では、膜厚tの精度をより一層高くするために、次に説明するように、ポンプ17の供給量Qpは必要量Qcと異なるように設定される。
【0041】
〔拡幅塗布〕
基材7のうち、塗布の前半となる拡幅領域K1に対して、液Lを塗布する拡幅塗布に関して説明する。
本実施形態では、拡幅塗布の際、ポンプ17による液Lの供給量Qpは、
図4の下側の図において実線で示す量となり、破線で示す必要量Qcよりも多い。つまり、拡幅塗布の際、ポンプ17を有する供給部13は、塗布幅Eに応じた必要量Qcよりも多い量の液Lを、塗布器11に供給する。このように、塗布幅Eに応じた必要量Qcよりも多い量の液Lを塗布器11に供給することを「追加供給」と称する。
【0042】
円形の基材7のうち、拡幅領域K1に対して塗布を行う際に、前記の追加供給を行う理由は、次のとおりである。
・拡幅領域K1に対して塗布を行う場合、塗布を進めるにしたがってビードBの幅寸法は徐々に大きくなり、ビードBの液量(ビードBを維持するための必要液量)は、相対移動方向(矢印Y方向)に向かって徐々に増加する。
・その結果、拡幅領域K1では、ビードBの液量の変化分が液の不足となるためである。つまり、拡幅塗布の場合、現時点の塗布位置(タイミング)と直前の塗布位置(タイミング)とのビードBの長さの差に相当する液(液量の変化分)が、現時点の塗布位置(タイミング)において不足するためである。
なお、
図4の下側の図において、前記ビードBの液量の変化が、二点鎖線で示されている。拡幅領域K1では、ビードBの液量の変化は、その変化の割合が徐々に小さくなるが、ゼロを超える「増加」となる。
【0043】
そこで、前記追加供給によれば、ビードBの液量の変化によって不足する液Lを補うように、塗布幅Eに応じた必要量Qcよりも多い量の液Lがポンプ17(供給部13)によって塗布器11に供給される。その結果、ビードBの液量の変化分に相当する液の不足量と、実際のポンプ17による液Lの供給量Qpとをあわせた液量を、塗布幅Eに応じた必要量Qcと一致させることが可能となる。これにより、基材7の拡幅領域K1に対して一定の膜厚tで精度良く、液Lを塗布することが可能となる。その結果、ビードBの液量の変化が膜厚tに与える影響を低減することができ、膜厚精度を高めることが可能となる。
【0044】
〔縮幅塗布〕
次に、基材7のうち、塗布の後半となる縮幅領域K2に対して、液Lを塗布する縮幅塗布に関して説明する。
本実施形態では、縮幅塗布の際、ポンプ17による液Lの供給量Qpは、
図4の下側の図において実線で示す量となり、破線で示す必要量Qcよりも少ない。つまり、縮幅塗布の際、ポンプ17を有する供給部13は、塗布幅Eに応じた必要量Qcよりも少ない量の液Lを、塗布器11に供給する。このように、塗布幅Eに応じた必要量Qcよりも少ない量の液Lを塗布器11に供給することを「制限供給」と称する。
【0045】
円形の基材7のうち、縮幅領域K2に対して塗布を行う際に、前記の制限供給を行う理由は、次のとおりである。
・縮幅領域K2に対して塗布を行う場合、塗布を進めるにしたがってビードBの幅寸法は徐々に小さくなり、ビードBの液量(ビードBを維持するための必要液量)は、相対移動方向(矢印Y方向)に向かって徐々に減少する。
・その結果、基材7に実際に塗布される液量には、ポンプ17による液Lの供給量の他に、塗布器11と基材7との間に形成されるビードBの液量の変化分も含まれるためである。つまり、縮幅塗布の場合、現時点の塗布位置(タイミング)と直前の塗布位置(タイミング)とのビードBの長さの差に相当する液(液量の変化分)が、現時点の塗布位置(タイミング)において余剰の液となるためである。
なお、
図4の下側の図において、前記ビードBの液量の変化が、二点鎖線で示されている。縮幅領域K2では、ビードBの液量の変化はゼロ未満となる「減少」となり、その変化の割合が徐々に大きくなる。
【0046】
そこで、前記制限供給によれば、塗布幅Eに応じた必要量Qcよりも少ない量の液Lが供給部13によって塗布器11に供給される。その結果、ビードBの液量の変化分に相当する液の余剰量と、実際のポンプ17による液Lの供給量Qpとをあわせた液量を、塗布幅Eに応じた必要量Qcと一致させることが可能となる。これにより、基材7の縮幅領域K2に対して一定の膜厚tで精度良く、液Lを塗布することが可能となる。このような制限供給によれば、ビードEの液量の変化が膜厚に与える影響を低減することができ、膜厚精度をより一層高めることが可能となる。
【0047】
更に本実施形態では、基材7が円形であることから、特に、縮幅塗布の最後では、塗布幅Eが大きく変化し、これによりビードBの液量の変化が大きくなる。そこで、縮幅塗布の間であって最後の時間帯では、基材7と塗布器11との相対移動を行いながら、ポンプ17を有する供給部13は、前記吸引動作を行う。
図4の下側の図において、クロスハッチで示す範囲が、供給量Qpがゼロ未満(マイナス)となる範囲である。すなわち、その範囲が、吸引動作を行う前記最後の時間帯である。
このように、基材7が円形であり、特に、縮幅塗布の最後では、塗布幅Eが大きく変化し、これによりビードBの液量の変化が大きくなるが、供給部13が吸引動作を行うことで、膜厚が規定よりも厚くなるのを、前記吸引動作により防ぐことが可能となる。
【0048】
〔縮幅塗布及び拡幅塗布について〕
以上より、各塗布位置における供給部13(ポンプ17)による液Lの供給量Qpは、各塗布位置における、塗布幅Eに応じた必要量Qc(
図4の下側の図の破線で示す量)と、ビードBの液量の変化分(
図4の下側の図の二点鎖線で示す量)との和である。特に、塗布(縮幅塗布)の最後では、塗布幅Eが大きく変化し、ビードBを構成する液Lが余剰な液となるので、その余剰な液を解消するために、相対移動を行いながら、ポンプ17は吸引動作を行う。供給量Qpは、塗布幅Eに応じた必要量Qcと、ビードBの液量の変化分との和であるが、塗布の最後(クロスハッチの範囲)では、ビードBの液量の変化分と比較して、必要量Qcは少なくなるので、供給量Qpはマイナスの値となる、つまり、「Qp」はポンプ17の吸引量となる。
【0049】
膜厚t及び移動速度vを一定とする場合、前記式(1)によれば、ポンプ17の供給量Qpは、塗布幅Eに応じて変化する。塗布幅Eは、基材7の形状により既知であり、また、ビードBの液量の変化も基材7の形状との関係で既知である。このため、基材7の形状に基づく塗布幅E及びビードBの液量の変化に基づいて、供給量Qpは計算により求められる。このため、予め求められる供給量Qpに基づいて作成されたコンピュータプログラムによって、ポンプ17の動作制御を制御装置14が行うことで、基材7上に所望の一定膜厚tの塗膜が得られる。
【0050】
〔供給部13の変形例について〕
図6は、
図1に示す形態と異なる供給部13を備える塗布装置10の概略図である。
図1に示す第一の形態では、供給部13は1台のポンプ17を有するのに対して、
図6に示す第二の形態では、供給部13は、第一ポンプ171と、これとは別の第二ポンプ172とを有する。第一ポンプ171は、塗布器11と直接的に繋がる第一配管131を通じて接続されている。第二ポンプ172は、塗布器11と直接的に繋がる第二配管132を通じて接続されている。第一配管131と第二配管132とは別の配管であり、相互間で繋がっておらず、独立して塗布器11に接続されている。このために、塗布器11は、その一部に供給用のポート177を有し、その他部に吸引用のポート178を有する。供給用のポート177に第一配管131が接続され、吸引用のポート178に第二配管132が接続されている。
【0051】
第一ポンプ171は塗布器11に液Lを送り出す供給用(供給専用)のポンプであり、第二ポンプ172は塗布器11の液Lを吸引(回収)する吸引用(吸引専用)のポンプである。供給部13以外の構成は、第一の形態と同じであり、同じ構成については同じ符号を付している。第一ポンプ171及び第二ポンプ172それぞれは、第一の形態のポンプ17と同じポンプである。
【0052】
図6の下側の図は、
図4の下側の図と同様に、供給部13による液Lの供給量Qpを示す説明図である。
図6の下側の図には、第一ポンプ171による液Lの単位時間あたりの送り出し量q1(供給量)と、第二ポンプ172による液Lの単位時間あたりの吸引量q2とについても示されている。
図6の下側の図に示すように、基材7に塗布を行う塗布動作の間で、つまり、基材7の塗布位置「0」から「100」までの間で、第一ポンプ171は塗布器11へ液Lを送り出す。
図6に示す形態では、前記塗布動作の間、第一ポンプ171は液Lを送り出す動作を継続する。
また、基材7に塗布を行う塗布動作の間で、つまり、基材7の塗布位置「0」から「100」までの間で、第二ポンプ172は塗布器11側から液Lの吸引を行う。
図6に示す形態では、前記塗布動作の間、第二ポンプ172は液Lを吸引する動作を継続する。
【0053】
各塗布位置における、第一ポンプ171による送り出し量q1と、第二ポンプ172による吸引量q2との和が、各塗布位置における供給部13による塗布器11への液Lの供給量Qpとなる。送り出し量q1はプラスの値であり、吸引量q2はマイナスの値である。供給部13が塗布器11に供給する液Lの供給量Qpは、第一の形態と第二形態とで同じである。なお、第一の形態において説明した各塗布位置における供給量Qpは、各塗布位置における、塗布幅Eに応じた必要量Qcと、ビードBの液量の変化分との和である。
【0054】
第二の形態では、第一ポンプ171及び第二ポンプ172を有する供給部13が液Lを塗布器11に供給する合計の供給量Qpが、前記必要量Qcと前記ビードBの液量の変化分との和と一致するように、送り出し量q1及び吸引量q2それぞれが設定される。送り出し量q1及び吸引量q2それぞれが、このように設定されるように、第一ポンプ171及び第二ポンプ172を動作させる制御が、制御装置14によって行われる。
【0055】
第二形態では、塗布の前半となる拡幅領域K1に対して、液Lを塗布する拡幅塗布の際、第一ポンプ171は液Lを送り出す(送り出しを継続する)と共に、第二ポンプ172は液Lの吸引を行う(吸引を継続する)。塗布の後半となる縮幅領域K2に対して、液Lを塗布する縮幅塗布の際、第一ポンプ171は液Lを送り出す(送り出しを継続する)と共に、第二ポンプ172は液Lの吸引を行う(吸引を継続する)。第一ポンプ171による液Lの送り出し量q1が、第二ポンプ172による液Lの吸引量q2を超えている場合、供給部13は前記供給動作を行っている状態となる。これに対して、第二ポンプ172による液Lの吸引量q2が、第一ポンプ171による液Lの送り出し量q1を超えている場合、供給部13は前記吸引動作を行っている状態となる。
【0056】
第一の形態でも説明したように、塗布の最後(クロスハッチの範囲)では、ビードBの液量の変化分と比較して、必要量Qcは少なくなるため、塗布の最後では、供給部13は吸引動作を行う。つまり、
図6に示す形態では、後半の縮幅塗布の際、その途中で、下記の第一状態から、下記の第二状態へ変更される。
・第一状態:第一ポンプ171による液Lの送り出し量q1が、第二ポンプ172による液Lの吸引量q2よりも大きい状態。
・第二状態:第二ポンプ172による液Lの吸引量q2が、第一ポンプ171による液Lの送り出し量q1よりも大きい状態。
なお、前半の拡幅塗布の際、終始、前記第一状態にある。
【0057】
〔供給部13の他の変形例について〕
図7は、
図1及び
図6に示す各形態と異なる供給部13を備える塗布装置10の概略図である。
図7に示す第三の形態では、供給部13は、第一ポンプ171及び第二ポンプ172を有する。この点で、第三の形態は第二の形態と同じであるが、第三の形態では、第一ポンプ171及び第二ポンプ172それぞれは、塗布器11と直接的に繋がる一つの配管173に接続されている。つまり、配管173は、第一ポンプ171及び第二ポンプ172にとって、共通の配管である。
【0058】
供給専用である第一ポンプ171及び吸引専用である第二ポンプ172の動作は、第三の形態と第二の形態とで同じである。
図7の下側の図は、
図6の下側の図と同様に、供給部13による液Lの供給量Qpを示す説明図である。
図7の下側の図には、第一ポンプ171による液Lの単位時間あたりの送り出し量q1(供給量)と、第二ポンプ172による液Lの単位時間あたりの吸引量q2とについても示されている。基材7に塗布を行う塗布動作の間、第一ポンプ171は液Lを送り出す(継続する)と共に、第二ポンプ172は液Lの吸引を行う(継続する)。後半の縮幅塗布の際、その途中で、送り出し量q1が吸引量q2よりも大きい第一状態から、吸引量q2が送り出し量q1よりも大きい第二状態へ、変更される。前半の拡幅塗布の際、終始、前記第一状態にある。
【0059】
第三の形態においても、第二の形態と同様、第一ポンプ171及び第二ポンプ172を有する供給部13が液Lを塗布器11に供給する合計の供給量Qpが、前記必要量Qcと前記ビードBの液量の変化分との和と一致するように、送り出し量q1及び吸引量q2それぞれが設定される。送り出し量q1及び吸引量q2それぞれが、このように設定されるように、第一ポンプ171及び第二ポンプ172を動作させる制御が、制御装置14によって行われる。
【0060】
〔各形態の塗布装置10について〕
第一の形態(
図4参照)と同様、第二の形態(
図6参照)及び第三の形態(
図7参照)それぞれにおいても、供給部13による液Lの供給量Qpは計算により求められる。このため、第二の形態及び第三の形態それぞれにおいて、予め求められる供給量Qpに基づいて作成されたコンピュータプログラムによって、第一ポンプ171及び第二ポンプ172の動作制御を制御装置14が行うことで、基材7上に所望の一定膜厚tの塗膜が得られる。塗布動作の後半である縮幅塗布の際に、前記のように動作制御されることで、第一の形態の場合と同様、供給部13は全体として、はじめ供給動作を行うが、その途中で吸引動作を行うことができる。
【0061】
第二の形態及び第三の形態それぞれでは、第一ポンプ171及び第二ポンプ172は、供給専用及び吸引専用であるため、塗布動作の間、不連続な動作とならない。このため、塗布動作を終えた後、成形された基材7上の塗膜において、以下に説明するようなスジの発生を防ぐことが可能となる。
つまり、第一の形態の場合、1台のポンプ17により液Lの送り出しと吸引とが途中で切り替えられる。この場合、その切り換えのタイミングでポンプ17が不連続な動作となり、その結果、相対移動速度によっては、基材7に塗布された塗膜にスジが発生する可能性がある。
これに対して、第二の形態及び第三の形態では、第一ポンプ171及び第二ポンプ172は、塗布動作の間、動作(機械的な動作)を反転させない。よって、相対移動速度に関係なく、塗布動作を終えた後、塗膜において、スジの発生を抑えることが可能となる。
【0062】
また、供給部13が第一ポンプ171及び第二ポンプ172を有する構成であっても、第三の形態(
図7参照)では、縮幅塗布の途中(最後)、塗布器11と供給部13とを繋ぐ共通の配管173において、液Lの流れの反転が生じる。この場合、その反転により、基材7上に形成される膜厚の精度に影響を与える可能性がある。
これに対して、第二の形態(
図6参照)では、塗布器11と供給部13とを繋ぐ2つの配管131,132それぞれにおいて、液Lの流れの反転が生じない。つまり、第一ポンプ171及び第二ポンプ172は機械的な反転動作を伴うことなく、供給部13全体として吐出動作から吸引動作に切り換えられる。その結果、塗膜に液のスジが発生するのをより効果的に抑制することが可能となる。
以上より第二の形態(
図6参照)の方が、第三の形態(
図7参照)よりも、膜厚精度をより一層高めるためには、好ましい。
【0063】
第二の形態(
図6参照)及び第三の形態(
図7参照)それぞれでは、塗布位置が代わっても吸引量q2が一定であるが、吸引量q2は塗布位置に応じて変化してもよい。この場合、送り出し量q1もそれに応じて変化させ、これら送り出し量q1と吸引量q2との和が、第一の形態において説明した供給量Qpと同じとなるようにすればよい。また、第二ポンプ172は、塗布位置「0」から吸引を開始しているが、それ以外であってもよく、塗布位置「0」と「100」との間の途中位置から吸引を開始してもよい。
【0064】
第一の形態(
図1及び
図2参照)の塗布装置10は、ポンプ17に液Lを補充するためのタンク18を有する。タンク18には、液Lが溜められる。タンク18は、補充用の配管19を通じてポンプ17と繋がっている。補充用の配管19には開閉式の第二のバルブ33が設けられていて、そのバルブ33は、塗布動作の間、閉じた状態にある。なお、塗布動作の間、配管31の第一のバルブ32は開いた状態にある。塗布動作の終了後、第一のバルブ32は閉じた状態となり、第二のバルブ33が開いた状態となる。ポンプ17が吸引の動作を行うことで、タンク18からポンプ17に液Lが補充される。これにより、塗布動作前の状態に戻り、次の塗布動作に移行することが可能となる。
【0065】
第二の形態(
図6参照)の塗布装置10は、第一ポンプ171に液Lを補充するための第一タンク181と、第二ポンプ172から液Lを受け取るための第二タンク182とを有する。タンク181,182には、液Lが溜められる。第一タンク181は、補充用の配管191を通じて第一ポンプ171と繋がっている。第二タンク182は、戻し用の配管192を通じて第二ポンプ172と繋がっている。
補充用の配管191には開閉式の第三のバルブ133が設けられていて、そのバルブ133は、塗布動作の間、閉じた状態にある。なお、塗布動作の間、配管131の第一のバルブ32-1は開いた状態にある。塗布動作の終了後、第一のバルブ32-1は閉じた状態となり、第三のバルブ133が開いた状態となる。ポンプ171が塗布動作の場合と反対の動作(吸引動作)を行うことで、タンク181からポンプ171に液Lが補充される。
戻し用の配管192には開閉式の第四のバルブ134が設けられていて、そのバルブ134は、塗布動作の間、閉じた状態にある。なお、塗布動作の間、配管132の第二のバルブ32-2は開いた状態にある。塗布動作の終了後、第二のバルブ32-2は閉じた状態となり、第四のバルブ134が開いた状態となる。ポンプ171が塗布動作の場合と反対の動作(送り出し動作)を行うことで、第二ポンプ172が吸引した液Lがタンク182に送られる。
以上により、塗布動作前の状態に戻り、次の塗布動作に移行することが可能となる。
【0066】
第三の形態(
図7参照)の塗布装置10は、第一ポンプ171及び第二ポンプ172と準備用の配管193を通じて繋がるタンク183を有する。タンク183には、液Lが溜められる。準備用の配管193には開閉式の第二のバルブ135が設けられていて、そのバルブ135は、塗布動作の間、閉じた状態にある。なお、塗布動作の間、配管173の第一のバルブ32は開いた状態にある。塗布動作の終了後、第一のバルブ32は閉じた状態となり、第二のバルブ135が開いた状態となる。第一ポンプ171が塗布動作の場合と反対の動作(吸引動作)を行うことで、タンク183からポンプ171に液Lが補充される。更に、第二ポンプ172が塗布動作の場合と反対の動作(送り出し動作)を行うことで、第二ポンプ172が吸引した液Lがタンク183に送られる。
以上により、塗布動作前の状態に戻り、次の塗布動作に移行することが可能となる。
【0067】
〔前記各形態の塗布装置10及びその塗布装置10による塗布方法〕
前記各形態の塗布装置10は、キャピラリ塗布式の装置である。この塗布装置10が行う塗布方法は、塗布器11内の液Lを負圧に維持しつつ、塗布器11と基材7との相対移動を行いながら、吐出口23から液Lを吐出することにより、その吐出口23と対向する基材Fの幅方向の全体を塗布幅Eとして塗布する方法である。
基材7のうち、相対移動方向に向かって幅方向の寸法が徐々に大きくなる拡幅領域K1に対して、液Lを塗布する拡幅塗布の際、供給部13は、塗布幅Eに応じた必要量Qcよりも多い量の液Lを塗布器11に供給する。この方法によれば、拡幅領域K1において、膜厚精度をより一層高めることが可能となる。
基材7のうち、相対移動方向に向かって幅方向の寸法が徐々に小さくなる縮幅領域K2に対して、液Lを塗布する縮幅塗布の際、供給部13は、塗布幅Eに応じた必要量Qcよりも少ない量の液Lを塗布器11に供給する。この方法によれば、縮幅領域K2において、膜厚精度をより一層高めることが可能となる。
【0068】
なお、従来、サックバック法と呼ばれ、塗布の終端で液を塗布器側に吸引させる技術が知られている。サックバック法では、終端において膜厚精度を向上させることが可能となるが、終端を含む縮幅領域の広い範囲で膜厚精度を向上させることは不可能である。サックバック法では、塗布器の吐出口が基材の終端の直上に到達すると、相対移動を停止させた状態で吸引を行い、その吸引によってビードが破壊される。サックバック法は、基材の幅寸法(塗布幅)の変化、つまり、ビードの長さの変化と関係なく、一律に吸引が行われる。
これに対して、本実施形態の塗布装置10が行う塗布方法では、基材7の幅寸法E(塗布幅)の変化、つまり、ビードBの長さの変化との関係により、供給部13による液Lの供給量及び吸引量が制御される。本実施形態の場合、相対移動により、吐出口23が基材7の終端の直上に到達しても、ビードBは残された状態となり、更なる相対移動によって、吐出口23が基材7の終端を通過して離れることでビードBが破壊される。
【0069】
〔その他について〕
前記実施形態では、キャピラリ塗布のために、つまり、塗布器11内を負圧とするために、供給部13(ポンプ17、第一ポンプ171及び第二ポンプ172)が用いられる。塗布器11内を負圧とするための手段は、他であってもよい。例えば、図示しないが、前記特許文献1のように、タンク95a(
図9参照)を含む負圧発生手段95によって、負圧としてもよい。また、液付け動作についても、負圧発生手段95によって行われてもよい。
【0070】
今回開示した実施形態は全ての点で例示であって制限的なものではない。本発明の権利範囲は、上述の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲の範囲に記載された構成と均等の範囲内での全ての変更が含まれる。
【符号の説明】
【0071】
7:基材 10:塗布装置 11:塗布器
12:移動機構 13:供給部 23:吐出口
131:第一配管 132:第二配管 171:第一ポンプ
172:第二ポンプ E:塗布幅 K1:拡幅領域
K2:縮幅領域 L:液