(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-21
(45)【発行日】2024-10-29
(54)【発明の名称】停車判定装置
(51)【国際特許分類】
B60T 8/17 20060101AFI20241022BHJP
B60T 8/171 20060101ALI20241022BHJP
B60T 8/1755 20060101ALI20241022BHJP
【FI】
B60T8/17 Z
B60T8/171 A
B60T8/1755 Z
(21)【出願番号】P 2020166219
(22)【出願日】2020-09-30
【審査請求日】2023-08-09
(73)【特許権者】
【識別番号】301065892
【氏名又は名称】株式会社アドヴィックス
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】山本 勇作
【審査官】羽鳥 公一
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-020481(JP,A)
【文献】特開2019-025977(JP,A)
【文献】特開2013-049389(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 7/12-8/1769
B60T 8/32-8/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪の回転速度に応じた信号を出力する車輪速センサと、
前記車輪速センサの出力信号に基づいて、車両が減速している所定の基準タイミングにおける車輪速を取得する取得部と、
前記取得部により取得された前記車輪速に基づいて、前記車両が停止する停止位置を導出する導出部と、
前記基準タイミング以降の前記車両の位置と前記停止位置との差分距離が停止判定値以下となる場合に、前記車両が停止したことを判定する停止判定を実施する判定部と、を備える
停車判定装置。
【請求項2】
前記車両が停止するまでに前記車輪に付与する制動力の目標値の時間変化が規定された制動プロファイルに基づいて、前記車輪に付与する制動力を調整する制動制御部を備え、
前記取得部は、前記基準タイミングにおける前記制動プロファイルを取得し、
前記導出部は、前記取得部により取得された前記制動プロファイルに基づいて前記停止位置を導出する
請求項1に記載の停車判定装置。
【請求項3】
前記基準タイミングは、前記車輪速が基準速度以上であるタイミングである
請求項1又は請求項2に記載の停車判定装置。
【請求項4】
前記車両は、前記車両の現在位置に関する位置情報を取得する車両位置情報取得装置を備え、
前記導出部は、前記車両位置情報取得装置により取得された前記位置情報に基づいて、前記基準タイミング以降の前記車両の位置を導出する
請求項1~請求項3の何れか一項に記載の停車判定装置。
【請求項5】
前記車両は、前記車両の周辺に存在する対象の位置及び前記車両と前記対象との距離の少なくとも一方に関する情報を取得する対象情報取得装置を備え、
前記導出部は、前記対象情報取得装置により取得された前記情報に基づいて、前記車両の位置を導出する
請求項1~請求項3の何れか一項に記載の停車判定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、停車判定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、車両が停止する直前に車両に付与する制動力を運転者の要求制動力よりも減少させることで、車両の停止間際のピッチング挙動を抑制する停車判定装置の一例が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような停車判定装置は、車両が停止したと判定すると、車両が停止した状態を維持するために車両に付与する制動力を増大させる。このため、上記のような停車判定装置は、車両が停止したか否かの判定を精度良く行う必要がある。こうした実情は、車両が停止する前後で、車両の様々なアクチュエータを対象とした制御内容を変更する停車判定装置においても概ね共通する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
以下、上記課題を解決するための手段及びその作用効果について記載する。
上記課題を解決する停車判定装置は、車輪の回転速度に応じた信号を出力する車輪速センサと、前記車輪速センサの出力信号に基づいて、車両が減速している所定の基準タイミングにおける車輪速を取得する取得部と、前記取得部により取得された前記車輪速に基づいて、前記車両が停止する停止位置を導出する導出部と、前記基準タイミング以降の前記車両の位置と前記停止位置との差分距離が停止判定値以下となる場合に、前記車両が停止したことを判定する停止判定を実施する判定部と、を備える停車判定装置。
【0006】
車両が停止する直前など、車体速度が極めて低速となる場合には、車輪速センサの出力信号に基づいて車輪速を精度良く取得することが困難となる場合がある。この点、上記停車判定装置は、車両の走行に伴って変化する車両の位置と事前に導出した停止位置との差分距離に基づいて車両が停止したか否かを判定する。このため、停車判定装置は、車両の位置と停止位置との差分距離が停止判定値よりも大きければ、車輪速センサの出力信号に基づいて取得される車輪速が「0」になったとしても、車両が停止したと判定しない。したがって、停車判定装置は、車両が停止したか否かの判定を精度良く行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】一実施形態に係る停車判定装置を備える車両の模式図。
【
図2】停止前ブレーキ制御を実施するために上記停車判定装置が実施する処理の流れを説明するフローチャート。
【
図3】(a)~(c)は、上記停車判定装置が停止前ブレーキ制御を実施する場合のタイミングチャート。
【
図4】(a)~(c)は、上記停車判定装置が停止前ブレーキ制御を実施する場合のタイミングチャート。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、車両の制御装置の一実施形態について、図面を参照して説明する。
図1には、本実施形態の停車判定装置100を備える車両10の概略構成が図示されている。
図1に示すように、車両10の前輪11及び後輪12には、制動機構13の作動によって制動力がそれぞれ付与される。各制動機構13は、ホイールシリンダ131内の液圧であるWC圧が高いほど、車輪11,12と一体回転する回転体132に摩擦材133を押し付ける力が大きくなるように構成されている。そのため、各制動機構13は、WC圧が高いほど大きな制動力を車輪11,12に付与することができる。
【0009】
車両10の制動装置20は、液圧発生装置21と、液圧発生装置21からブレーキ液が供給される制動アクチュエータ22と、を備えている。液圧発生装置21内では、車両10の運転者による制動操作部材23の操作量に応じた液圧が発生する。制動操作部材23としては、例えば、ブレーキペダルを挙げることができる。制動アクチュエータ22は、各ホイールシリンダ131に接続されている。そのため、制動操作部材23が操作されると、その操作量に応じた量のブレーキ液が各ホイールシリンダ131に供給される。すなわち、各車輪11,12に制動力が付与される。
【0010】
制御装置30には、各種の検出装置からの出力信号が入力される。検出装置としては、ストロークセンサ41、車輪速センサ42、車両位置情報取得装置43及び対象情報取得装置44を挙げることができる。
【0011】
ストロークセンサ41は、制動操作部材23の操作量に応じた信号を出力する。車輪速センサ42は、車輪11,12の回転速度に応じたパルス幅の信号を出力する。例えば、車輪速センサ42は、車輪11,12が1回転する間に48個のパルスを含む信号を出力する。この場合、車輪速センサ42の出力信号にパルスが現れる度に車輪11,12が48分の1回転することになる。
【0012】
車両位置情報取得装置43は、車両10の現在位置に関する位置情報を取得するGPS(グローバル・ポジショニング・システム)装置である。対象情報取得装置44は、車両10の周囲に存在する対象の位置及び車両10と対象との距離の少なくとも一方に関する情報を取得する。対象情報取得装置44は、例えば、カメラを含んで構成することもできるし、レーダー又はレーザ光を用いた検出装置を含んで構成することもできる。対象としては、他の車両及び道路脇に存在する標識などを挙げることができる。
【0013】
次に、制御装置30について詳しく説明する。なお、本実施形態では、制御装置30と車輪速センサ42とを含んで、停車判定装置100が構成されている。
制御装置30は、機能部として、制動制御部31と、取得部32と、導出部33と、判定部34と、補正部35と、を有している。
【0014】
制動制御部31は、制動操作部材23の操作量に応じた目標制動力BPTに基づいて、制動装置20の制動アクチュエータ22を作動させる。こうして、制動制御部31は、各車輪11,12に付与する制動力を個別に制御する。言い換えれば、制動制御部31は、車両10に付与する制動力を制御する。
【0015】
また、制動制御部31は、車両10の停止間際において、車両10のピッチング挙動を抑制するために、車両10に付与する制動力を調整する停止前ブレーキ制御を実施する。制動制御部31は、例えば、車体速度VS及び車体加速度ASに基づいて、停止前ブレーキ制御の開始判定を行う。制動制御部31は、車両10を停止させる目標停止位置が決まっている場合には、目標停止位置までの残りの距離によって、停止前ブレーキ制御の開始判定を行ってもよい。一方、制動制御部31は、車両10が停止したか否かで、停止前ブレーキ制御の終了判定を行う。また、制動制御部31は、制動操作部材23の操作が解消される場合にも停止前ブレーキ制御を終了する。
【0016】
制動制御部31は、停止前ブレーキ制御を実施する場合、車両10が停止するまでに車輪11,12に付与する制動力の目標値の時間変化が規定された制動プロファイルに基づいて、車両10に付与する制動力を調整する。このため、制動制御部31が停止前ブレーキ制御を実施する場合には、車両10に付与する制動力が目標制動力BPTから変化する。なお、制動プロファイルは、停止前ブレーキ制御の開始時点における車両10の状態、詳しくは、車体速度VS及び車体加速度ASを考慮して、後述する取得部32により取得される。
【0017】
制動プロファイルは、車両10に付与する制動力を目標制動力BPTよりも大きくする増大期間P1と、車両10に付与する制動力を目標制動力BPTよりも減少させる減少期間P2と、車両10に付与する制動力を維持する維持期間P3と、を含んでいる。減少期間P2及び維持期間P3は、車両10に付与する制動力が目標制動力BPT未満となるため、停止前ブレーキ制御を実施する場合には停止前ブレーキ制御を実施しない場合と比較して、車両10の制動距離が増大する可能性がある。この点で、増大期間P1は、目標制動力BPTよりも大きい制動力を車両10に付与することで、車両10の制動距離が増大することを抑制する期間である。減少期間P2は、増大期間P1に続く期間である。減少期間P2は、車両10に付与する制動力を目標制動力BPTよりも減少させることで、車両10のピッチング挙動を抑制する期間である。維持期間P3は、減少期間P2に続く期間である。維持期間P3は、車両10に付与する制動力を小さくした状態で、車両10が停止するのを待機する期間である。なお、維持期間P3は省略可能である。
【0018】
制動制御部31は、車両10の停止を判定したことに起因して停止前ブレーキ制御を終了した場合、車両10が停止した状態を維持するために、車両10に付与する制動力を目標制動力BPTに向けて速やかに増大させる。ただし、車両10が完全に停止する前に車両10に付与する制動力が増大されると、車両10の減速度が大きくなるため、車両10にピッチング挙動が発生するおそれがある。一方、車両10が完全に停止してから車両10に付与する制動力が増大されるまでに時間差があると、車両10が停止した状態が維持されなくなるおそれがある。例えば、車両10が坂路で停止した場合、車両10が坂路に沿ってずり下がるおそれがある。このため、本実施形態のように、車両10の停止前後で車両10のアクチュエータの制御内容を変更する制御装置30においては、車両10が停止されたか否かの判定が精度良く行われることが好ましい。
【0019】
取得部32は、車輪速センサ42の出力信号に基づいて、各車輪11,12の車輪速VWを取得する。また、取得部32は、各車輪11,12のうちの少なくとも1つの車輪の車輪速VWを車両10の速度である車体速度VSとする。さらに、取得部32は、車体速度VSの単位時間あたりの変化量に基づいて、車体加速度ASを取得する。取得部32は、任意のタイミングから車輪速センサ42の出力信号に現れるパルスを計数することにより、当該タイミングからの車両10の走行距離を取得することもできる。
【0020】
ところで、車両10が低速で走行する場合には車両10が高速で走行する場合よりも、車輪速センサ42の出力信号に含まれる単位時間あたりのパルス数が少なくなる。このため、車両10が停止する直前など、車体速度VSが極めて低速となる場合には、取得部32は、車輪速センサ42の出力信号に基づいて車体速度VS及び車体加速度ASを精度良く取得できなくなるおそれがある。この場合、制動制御部31は、車両10が停止するタイミング、言い換えれば、停止前ブレーキ制御を終了するタイミングを正しく判定できなくなるおそれがある。
【0021】
そこで、本実施形態の制御装置30は、車体速度VSではなく、車両10の走行距離に基づいて車両10が停止したか否かの判定を行う。以下、車両10の停止を判定するために、各機能部が実施する処理の内容について説明する。
【0022】
導出部33は、取得部32が基準タイミングTSで取得した車体速度VS及び車体加速度ASに基づいて、車両10が停止する停止位置を導出する。言い換えれば、導出部33は、基準タイミングTSから車両10が停止するまでの走行距離である「停止距離Dx」を導出する。つまり、基準タイミングTSにおける車両10の位置から停止距離Dxだけ進んだ位置が停止位置に相当する。
【0023】
ここで、基準タイミングTSは、車両10が減速中のタイミングであり、取得部32が車体速度VSを精度良く取得できるタイミングである。本実施形態では、取得部32が取得した車体速度VSが基準速度VSS以上である場合、当該車体速度VSの取得精度は良好である。このため、基準タイミングTSは、車体速度VSが基準速度VSS以上であるタイミングといえる。なお、基準速度VSSは、車輪速センサ42の性能及び車輪11,12の外径に応じて定めることが好ましい。基準速度VSSは、一例として、数km/h程度となることが一般的である。
【0024】
そして、判定部34は、基準タイミングTS以降の車両10の位置と停止位置との差分距離が停止判定値ΔDth1以下となる場合に、車両10が停止したことを判定する停止判定を実施する。言い換えれば、判定部34は、基準タイミングTSからの車両10の走行距離である「累積距離Dy」と停止距離Dxとの差分が停止判定値ΔDth1以下となる場合に、車両10が停止したと判定する。詳しくは、判定部34は、停止距離Dxから累積距離Dyを差し引いた差が停止判定値ΔDth1以下となる場合に、車両10が停止したと判定する。累積距離Dyは、車輪速センサ42の出力信号に基づき取得部32により取得される。つまり、停止距離Dxが推定値であるのに対して、累積距離Dyは実測値である。一例として、停止判定値ΔDth1は、車輪速センサ42が1個~数個のパルスを含む信号を出力する間に車両10が進む距離とすればよい。
【0025】
停止前ブレーキ制御の実施中である場合には、上記の制動プロファイルに基づいて車両10に付与される制動力が変化するため、基準タイミングTSから車両10が停止するまでの期間において、車体加速度ASが一定に維持されることはない。このため、基準タイミングTSから停止前ブレーキ制御を実施する場合と停止前ブレーキ制御を実施しない場合とでは、基準タイミングTSにおける車体速度VS及び車体加速度ASが等しくても、基準タイミングTSから車両10が停止するまでの実際の走行距離に差が生じるおそれがある。このため、停止前ブレーキ制御が実施される場合には、導出部33は、基準タイミングTSにおける車体速度VS及び車体加速度ASに加え、基準タイミングTSで作成された制動プロファイルも考慮して、停止位置、すなわち停止距離Dxを導出する。
【0026】
一例として、導出部33は、増大期間P1の長さと増大期間P1の加速度とを基に、増大期間P1中における走行距離である第1走行距離を導出する。また、導出部33は、減少期間P2の長さと減少期間P2の加速度とを基に、減少期間P2中における走行距離である第2走行距離を導出する。さらに、導出部33は、維持期間P3の長さと維持期間P3の加速度とを基に、維持期間P3中における走行距離である第3走行距離を導出する。なお、増大期間P1、減少期間P2及び維持期間P3における加速度は、それぞれ増大期間P1、減少期間P2及び維持期間P3における制動力と相関する。そして、導出部33は、第1走行距離、第2走行距離及び第3走行距離の和を、停止距離Dxとして導出する。
【0027】
さらに、停止前ブレーキ制御の実施中において、車両10が走行する路面の勾配が一定でない場合など、車両10を加速させたり減速させたりする外乱が車両10に作用すると、制動プロファイルに基づいて車両10に付与する制動力を制御しても、車両10が停止するまでの実際の走行距離が停止距離Dxから乖離するおそれがある。このため、導出部33は、まず、取得部32が基準タイミングTSで取得した車体速度VS及び車体加速度ASと制動プロファイルとに基づいて、基準タイミングTSから車両10が停止するまでの期間における時間と車両10の走行距離との関係を示した停止プロファイルを導出する。以降の記載では、停止プロファイルに示される走行距離を「推定距離Dz」ともいう。
【0028】
そして、補正部35は、推定距離Dzと累積距離Dyとに差分が生じている場合、当該差分を解消するように、制動プロファイルを補正する。例えば、あるタイミングにおいて、累積距離Dyが推定距離Dzよりも大きくなる場合、補正部35は、上記タイミングよりも後に車両10に付与される制動力が増大されるように制動プロファイルを補正する。同様に、あるタイミングにおいて、累積距離Dyが推定距離Dzよりも小さい場合、補正部35は、上記タイミングよりも後に車両10に付与される制動力が減少されるように制動プロファイルを補正する。この場合、補正部35は、推定距離Dzと累積距離Dyとの差分が大きいほど、制動力の増減量が大きくなるように制動プロファイルを補正することが好ましい。
【0029】
補正部35は、制動プロファイルの補正の可否を判定するための判定値として、補正判定値ΔDth2を用いる。つまり、補正部35は、推定距離Dzと累積距離Dyとの差分が補正判定値ΔDth2よりも大きい場合には制動プロファイルを補正し、推定距離Dzと累積距離Dyとの差分が補正判定値ΔDth2以下の場合には制動プロファイルを補正しない。
【0030】
ただし、推定距離Dzと累積距離Dyとの差分が補正判定値ΔDth2よりも大きい場合であっても、当該差分が大き過ぎる場合には、補正部35が制動プロファイルを補正しても、当該差分を解消できない可能性がある。このため、制動制御部31は、推定距離Dzと累積距離Dyとの差分が補正判定値ΔDth2よりも大きな中止判定値ΔDth3以上の場合、停止前ブレーキ制御を中止する。そして、制動制御部31は、車両10に付与する制動力を速やかに目標制動力BPTまで増大させる。
【0031】
本実施形態では、車両10の制動中において、導出部33が停止距離Dx及び停止プロファイルを導出するタイミングは、取得部32が取得する車体速度VSが上述した基準速度VSSよりも大きな状態であってかつ当該車体速度VSがなるべく小さくなったタイミングである。そこで、導出部33は、車体速度VSが基準速度VSSよりも僅かに大きな速度判定値VSth以下となる場合に、停止距離Dx及び停止プロファイルを導出する。また、本実施形態では、取得部32が停止距離Dx及び停止プロファイルを導出するタイミングで、制動制御部31が停止前ブレーキ制御を開始する。つまり、制動制御部31は、車体速度VSが速度判定値VSth以下となる場合に、停止前ブレーキ制御を開始する。
【0032】
次に、
図2に示すフローチャートを参照して、制御装置30が実施する処理の流れについて説明する。本処理は、車両10が減速中である場合に所定の制御サイクルごとに実施される処理である。
【0033】
図2に示すように、制御装置30は、車輪速センサ42の出力信号に基づいて、車体速度VS及び車体加速度ASを取得する(S11)。続いて、制御装置30は、車体速度VSが速度判定値VSth以下か否かを判定する(S12)。車体速度VSが速度判定値VSthよりも大きい場合(S12:NO)、すなわち、車両10が停止間際でない場合、制御装置30は、本処理を終了する。
【0034】
一方、車体速度VSが速度判定値VSth以下の場合(S12:YES)、すなわち、車両10が停止間際の場合、制御装置30は、停止前ブレーキ制御を開始する(S13)。つまり、制御装置30は、制動プロファイルを作成し、制動プロファイルに基づいて車両10に付与する制動力を調整する。そして、制御装置30は、停止距離Dx及び停止プロファイルを取得する(S14)。ここで、停止距離Dx及び停止プロファイルの導出に必要な車体速度VS及び車体加速度ASは、ステップS11で取得される。つまり、ステップS12が肯定判定される直前において、ステップS11が実施されるタイミングが基準タイミングTSに相当する。
【0035】
次のステップS15において、制御装置30は、制動プロファイルに基づいて車両10に付与する制動力を調整する(S15)。例えば、制御装置30は、停止前ブレーキ制御の開始時点からの経過時間に応じた制動力を、制動プロファイルから取得する。制動プロファイルから取得した制動力を指示制動力とした場合、制御装置30は、指示制動力を基に制動装置20を作動させる。
【0036】
続いて、制御装置30は、車輪速センサ42の出力信号に基づいて、基準タイミングTSからの累積距離Dyを取得する(S16)。例えば、累積距離Dyは、基準タイミングTSから、車輪速センサ42の出力信号に含まれるパルス数の積算値に基づいて取得できる。
【0037】
そして、制御装置30は、停止距離Dxから累積距離Dyを差し引いた差が停止判定値ΔDth1以下か否かを判定する(S17)。言い換えれば、現在の車両10の位置と停止位置との差分距離が停止判定値ΔDth1以下か否かを判定する。停止距離Dxから累積距離Dyを差し引いた差が停止判定値ΔDth1以下の場合(S17:YES)、すなわち、車両10が停止していると判定できる場合、制御装置30は、停止前ブレーキ制御を終了し(S18)、車両10に付与する制動力を目標制動力BPTに向けて増大させる(S19)。その後、制御装置30は、本処理を終了する。
【0038】
一方、先のステップS17において、停止距離Dxから累積距離Dyを差し引いた差が停止判定値ΔDth1よりも大きい場合(S17:NO)、すなわち、車両10が停止していないと判定できる場合、制御装置30は、停止プロファイルにおける推定距離Dzと累積距離Dyとの差分が中止判定値ΔDth3以下か否かを判定する(S20)。
【0039】
推定距離Dzと累積距離Dyとの差分が中止判定値ΔDth3よりも大きい場合(S20:NO)、すなわち、車両10の実際の走行態様と停止プロファイルとが大きく乖離している場合、制御装置30は、停止前ブレーキ制御を中止し(S21)、車両10に付与する制動力を目標制動力BPTに向けて増大させる(S22)。その後、制御装置30は、本処理を終了する。
【0040】
制御装置30は、先のステップS18,S19を実施する場合には、車両10が停止していると判定しているが、ステップS21,S22を実施する場合には、車両10が停止していないと判定している。このため、車両10が停止していないステップS22の実施時における制動力の増大速度は、車両10が停止しているステップS19の実施時における制動力の増大速度よりも低速とすることが好ましい。停止前の車両10に付与する制動力を短期間で増大させると、車両10の減速度が急に大きくなったことに起因して車両10にピッチング挙動が発生するためである。
【0041】
先のステップS20において、推定距離Dzと累積距離Dyとの差分が中止判定値ΔDth3以下の場合(S20:YES)、すなわち、車両10の実際の走行態様と停止プロファイルとの乖離がそれほど大きくない場合、制御装置30は、推定距離Dzと累積距離Dyとの差分が補正判定値ΔDth2以下か否かを判定する(S23)。
【0042】
推定距離Dzと累積距離Dyとの差分が補正判定値ΔDth2よりも大きい場合(S23:NO)、すなわち、車両10の実際の走行態様と停止プロファイルとの間に乖離が発生していると判定できる場合、制御装置30は、当該差分が小さくなるように制動プロファイルを補正する(S24)。その後、制御装置30は、ステップS15に処理を移行する。この場合、補正後の制動プロファイルに基づき、車両10に付与する制動力が調整される。一方、推定距離Dzと累積距離Dyとの差分が補正判定値ΔDth2以下である場合(S23:YES)、すなわち、車両10の実際の走行態様と停止プロファイルとの間に乖離が発生していないと判定できる場合、制御装置30は、ステップS15に処理を移行する。
【0043】
本実施形態の作用及び効果について説明する。
詳しくは、
図3(a)~(c)及び
図4(a)~(c)を参照して、目標制動力BPTが一定に維持される状況下において、停止間際の車両10に付与される制動力、車体速度及び走行距離の推移について説明する。
【0044】
図3(a)及び
図4(a)は、制動プロファイルに基づく制動力を「BPP」で示している。また、
図3(b)及び
図4(b)において、車体速度VSは、車輪速センサ42の出力信号に基づいて取得不能な車両10の実際の走行速度である。
【0045】
まず、
図3を参照して、停止間際の車両10に作用する外乱が小さい場合について説明する。
図3(a),(b)に示すように、車両10に制動力が付与されることにより、車体速度VSが速度判定値VSth以下となる第1のタイミングt11になると、停止前ブレーキ制御が開始される。このため、第1のタイミングt11から、車両10に付与される制動力が要求制動力よりも大きくなる増大期間P1が開始する。また、第1のタイミングt11では、停止距離Dx及び停止プロファイルが導出される。すなわち、
図3に示す例では、第1のタイミングt11が、概ね基準タイミングTSに相当する。
【0046】
第2のタイミングt12になると、増大期間P1が終了し、車両10に付与される制動力が次第に減少される減少期間P2が開始する。その後、
図3(c)に示すように、減少期間P2中の第3のタイミングt13になると、推定距離Dzと累積距離Dyとに差が生じ始める。詳しくは、第3のタイミングt13において、車両10が下り勾配の路面に差し掛かるなど、車両10を加速させる外乱が車両10に作用することに起因して、累積距離Dyが推定距離Dzよりも大きくなり始める。
【0047】
第4のタイミングt14において、推定距離Dzと累積距離Dyとの差分が補正判定値ΔDth2よりも大きくなると、
図3(a)に二点鎖線で示すように、制動プロファイルが補正される。
図3(c)に示すように累積距離Dyが推定距離Dzよりも大きくなる場合、制動プロファイルが補正されると、補正後の制動プロファイルに基づいた制動力BPPが、補正前の制動プロファイルに基づいた制動力BPPよりも大きくなる。その結果、
図3(a)に示すように、車両10に付与される制動力が大きくなる。
【0048】
第4のタイミングt14以降では、
図3(c)に示すように、推定距離Dzと累積距離Dyとの差分が一時的に大きくなった後、次第に小さくなる。すると、制動プロファイルの補正量の大きさが徐々に小さくなる。そして、推定距離Dzと累積距離Dyとの差分が補正判定値ΔDth2以下になる第5のタイミングt15になると、
図3(a)に示すように、制動プロファイルが補正されなくなる。
【0049】
その後、
図3(a)に示すように、第6のタイミングt16になると、減少期間P2が終了し、車両10に付与される制動力が維持される維持期間P3が開始する。そして、減少期間P2中の第7のタイミングt17になると、
図3(c)に示すように、停止距離Dxと累積距離Dyとが等しくなる。詳しくは、停止距離Dxから累積距離Dyを差し引いた差が停止判定値ΔDth1以下となる。言い換えれば、現在の車両10の位置と停止位置との差分距離が停止判定値ΔDth1以下となる。このため、第7のタイミングt17において、車両10が停止されたと判定される。また、第7のタイミングt17は、
図3(b)に示すように、車両10の走行速度が「0」になるタイミングでもある。
【0050】
本実施形態では、第7のタイミングt17よりも前に、車輪速センサ42の出力信号に基づいて取得される車体速度VSが「0」になっていたとしても、停止距離Dxから累積距離Dyを差し引いた差が停止判定値ΔDth1以下になっていなければ、車両10が停止されたと判定されない。こうして、車輪速センサ42の出力信号に基づいて車体速度VSを精度良く取得できない場合でも、車両10の停止判定の精度が低下することが抑制される。
【0051】
図3(a)に示すように、第7のタイミングt17以降は、車両10が停止した状態が維持されるように、車両10に付与される制動力が目標制動力BPTに向けて速やかに増大される。つまり、精度良く車両10の停止判定が行われることにより、車両10の停止タイミングと制動力の増大タイミングとのずれによる車両挙動の乱れが抑制される。
【0052】
また、停止前ブレーキ制御の実施中において、車両10を加減速させる外乱が作用する場合には、推定距離Dzと累積距離Dyとの乖離を是正する方向に制動プロファイルが補正される。そして、補正後の制動プロファイルに基づいて車両10に付与する制動力が調整される。このため、基準タイミングTSからの車両10の実際の走行距離が、停止プロファイルにおける推定距離Dzから乖離した状態が続くことを抑制できる。
【0053】
続いて、
図4を参照して、停止間際の車両10に作用する外乱が大きい場合について説明する。第1のタイミングt11から第4のタイミングt14までは、
図3と略同様のため、第4のタイミングt14以降について説明する。
【0054】
図4に示すように、第4のタイミングt14において、推定距離Dzと累積距離Dyとの差分が補正判定値ΔDth2よりも大きくなると、
図4(a)に二点鎖線で示すように、制動プロファイルが補正される。その結果、
図4(a)に示すように、車両10に付与される制動力が大きくなる。
【0055】
ところが、
図4に示す場合には、車両10に作用する外乱が大きいため、第4のタイミングt14以降も推定距離Dzと累積距離Dyとの差分が増大し続ける。そして、
図4(c)に示すように、第5のタイミングt141において、推定距離Dzと累積距離Dyとの差分が中止判定値ΔDth3よりも大きくなると、制動プロファイルの補正が中止、言い換えれば、停止前ブレーキ制御が中止される。つまり、第5のタイミングt141以降では、制動プロファイルに基づいて車両10に付与する制動力の調整が行われなくなる代わりに、
図4(a)に二点鎖線で示すように、車両10に付与される制動力が目標制動力BPTに向けて増大される。このため、
図4に示す場合には、停止距離Dxに応じた第7のタイミングt17とは異なるタイミングである第6のタイミングt142で車両10が停止する。
【0056】
こうして、推定距離Dzと累積距離Dyとが大きく乖離する場合には、停止前ブレーキ制御が中止され、車両10に付与する制動力が目標制動力BPTとなる。このため、車両10を大きく加減速させる外乱が作用する場合に、車両10が運転者の意図とは異なる態様で制動される事態が回避される。
【0057】
本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
・制御装置30は、停止前ブレーキ制御の実施中において、時間とともに変化する車両10の位置と停止位置との差分距離が停止判定値ΔDth1以下となる場合に、車両10が停止したと判定してもよい。この場合、車両10の位置は、以下のように導出できる。
【0058】
・制御装置30の導出部33は、車両位置情報取得装置43により取得された位置情報に基づいて、基準タイミングTS以降の車両10の位置を導出してもよい。
・制御装置30の導出部33は、対象情報取得装置44により取得された情報に基づいて、車両10の位置を取得してもよい。この場合、導出部33は、対象の位置の変化に基づいて車両10の位置を取得したり、対象との距離の変化に基づいて車両10の位置を取得したりすればよい。
【0059】
・制御装置30の取得部32は、車両位置情報取得装置43及び対象情報取得装置44が出力する情報に基づいて、車輪速センサ42の検出信号に基づいて導出した累積距離Dyを補正してもよい。
【0060】
・制御装置30の補正部35は、推定距離Dzと累積距離Dyとに差分が生じている場合、制動プロファイルを補正するのではなく、制動プロファイルから取得した指示制動力を補正してもよい。
【0061】
・制御装置30は、停止前ブレーキ制御以外の処理を実施するために、車両10が停止したか否かを判定してもよい。例えば、こうした処理としては、車両停止後に電動パーキングブレーキをオンにするオートブレーキホールド及び車両停止後にエンジンを停止するアイドリングストップが挙げられる。
【0062】
・制御装置30は、停止前ブレーキ制御を実施しない場合、基準タイミングTS以降の目標制動力BPTが変化しないと想定して、基準タイミングTSにおける車体速度VS及び車体加速度ASに基づいて停止距離Dxを導出してもよい。この場合、制御装置30は、基準タイミングTSにおいて、停止プロファイルを導出したり、推定距離Dzと累積距離Dyとの差分に基づいて車両10に付与する制動力を調整したりしてもよい。
【0063】
・制動プロファイルは、基準タイミングTSからの車両10の移動量と制動力との関係を示す制動プロファイルであってもよい。
・制御装置30は、停止距離Dx及び停止プロファイルを導出するタイミングと停止前ブレーキ制御の実施を開始するタイミングとをずらしてもよい。
【0064】
・制御装置30は、停止前ブレーキ制御が繰り返し実施される中で、推定距離Dzと累積距離Dyとの差分が中止判定値ΔDth3よりも大きくなることが何度もある場合、言い換えれば、停止前ブレーキ制御が何度も異常終了される場合には、その旨を学習してもよい。例えば、上記の場合には、制御装置30は、停止前ブレーキ制御の異常終了の原因が車両特性によるものであると学習し、中止判定値ΔDth3を大きくしてもよい。
【0065】
・車両10は、車輪11,12に回生制動力を付与する回生制動装置を備えていてもよい。この場合、制御装置30は、車輪11,12に付与する回生制動力を変化させることにより、車両10に付与する制動力の大きさを調整できる。
【0066】
・制御装置30は、以下(a)~(c)の何れかの構成であればよい。(a)制御装置30は、コンピュータプログラムに従って各種処理を実行する一つ以上のプロセッサを備えている。プロセッサは、CPU並びに、RAM及びROMなどのメモリを含んでいる。メモリは、処理をCPUに実行させるように構成されたプログラムコード又は指令を格納している。メモリ、すなわちコンピュータ可読媒体は、汎用又は専用のコンピュータでアクセスできるあらゆる利用可能な媒体を含んでいる。(b)制御装置30は、各種処理を実行する一つ以上の専用のハードウェア回路を備えている。専用のハードウェア回路としては、例えば、特定用途向け集積回路、すなわちASIC又はFPGAを挙げることができる。ASICとは「Application Specific Integrated Circuit」の略記であり、FPGAとは「Field Programmable Gate Array」の略記である。(c)制御装置30は、各種処理の一部をコンピュータプログラムに従って実行するプロセッサと、各種処理のうち残りの処理を実行する専用のハードウェア回路とを備えている。
【符号の説明】
【0067】
10…車両
11…前輪
12…後輪
30…制御装置
31…制動制御部
32…取得部
33…導出部
34…判定部
35…補正部
42…車輪速センサ
43…車両位置情報取得装置
44…対象情報取得装置
100…停車判定装置
Dx…停止距離
Dy…累積距離
Dz…推定距離
TS…基準タイミング
VW…車輪速
VS…車体速度
VSS…基準速度
AS…車体加速度
VSth…速度判定値
VW…車輪速
ΔDth1…停止判定値
ΔDth2…補正判定値
ΔDth3…中止判定値