(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-21
(45)【発行日】2024-10-29
(54)【発明の名称】陽圧缶体
(51)【国際特許分類】
B65D 1/16 20060101AFI20241022BHJP
【FI】
B65D1/16 111
(21)【出願番号】P 2020193991
(22)【出願日】2020-11-24
【審査請求日】2023-10-12
(73)【特許権者】
【識別番号】313005282
【氏名又は名称】東洋製罐株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100153497
【氏名又は名称】藤本 信男
(72)【発明者】
【氏名】米田 渉
(72)【発明者】
【氏名】諏訪 利明
【審査官】二ッ谷 裕子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/158355(WO,A1)
【文献】実開平1-116120(JP,U)
【文献】特開2016-430(JP,A)
【文献】特開2000-211624(JP,A)
【文献】米国特許第4412627(US,A)
【文献】実開昭61-178333(JP,U)
【文献】特開昭53-20120(JP,A)
【文献】米国特許第3693828(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65D 1/00 - 1/48
B21D 51/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
缶胴と当該缶胴と連続する缶底を有し、
前記缶底が、缶上方に凸となっているドーム状のドーム部と、当該ドーム部よりも径方向外側において缶下方に凸となっている環状の接地リム部とを有する陽圧缶体であって、
前記ドーム部と前記接地リム部とが缶軸を含む縦断面視で円弧状のコーナー部を介して連続し、
前記接地リム部は、載置面に載置した際に当該載置面と接する接地部と、前記接地部の上方かつ径方向内側に延びる立ち上がり部とを有し、前記接地リム部は、前記立ち上がり部を介してコーナー部の外周端に接続され、
前記ドーム部のドーム外縁領域の板厚が、前記ドーム部のドーム中央領域の板厚よりも厚
く、かつ、缶軸から前記ドーム部の外周端に向かうに従って厚くなり、
前記ドーム外縁領域が、前記ドーム中央領域の板厚の102~108%の厚みを有し、
前記ドーム部のドーム直径が36~48mmである場合に、前記ドーム外縁領域の板厚が0.200~0.350mmであり、
前記立ち上がり部の前記載置面に対する角度αは、75~130°であり、
前記コーナー部の曲率半径は、1.5~3.5mmであり、
前記ドーム部の曲率半径は、10~70mmであり、
前記缶底を形成するための板材が、アルミニウム合金製のものであることを特徴とする陽圧缶体。
【請求項2】
前記ドーム外縁領域が、缶軸を含む縦断面におけるドーム部のドーム半径を100%とした場合に、前記ドーム部の外周端から20%までの領域であることを特徴とする請求項1に記載の陽圧缶体。
【請求項3】
前記ドーム中央領域が、缶軸を含む縦断面におけるドーム部のドーム半径を100%とした場合に、前記缶軸から10%までの領域であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の陽圧缶体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、缶底の中央にドーム状のドーム部を有する陽圧缶体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、炭酸飲料等を内容物とする陽圧缶体として、缶内圧による変形に耐え得る強度(耐圧性)が付与されるよう缶上方に凸となって連続するドーム状のドーム部を形成した缶底を有するものが知られている(特許文献1参照)。
【0003】
このような陽圧缶体においては、内圧が耐圧強度を超えると缶底のドーム部が反転するバックリングが発生することがある。バックリングが発生すると、缶底の接地部より下方にドーム部の一部または全部が突出して陽圧缶体の自立性を損なう等の不具合が生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記課題を解決するものであって、その目的は、特に落下衝撃等により缶内圧が急激に上昇するいわゆるウォーターハンマーが生じたときであってもバックリングの発生が防止される高い耐圧性を有する陽圧缶体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の陽圧缶体は、缶胴と当該缶胴と連続する缶底を有し、
前記缶底が、缶上方に凸となっているドーム状のドーム部と、当該ドーム部よりも径方向外側において缶下方に凸となっている環状の接地リム部とを有する陽圧缶体であって、
前記ドーム部と前記接地リム部とが缶軸を含む縦断面視で円弧状のコーナー部を介して連続し、
前記接地リム部は、載置面に載置した際に当該載置面と接する接地部と、前記接地部の上方かつ径方向内側に延びる立ち上がり部とを有し、前記接地リム部は、前記立ち上がり部を介してコーナー部の外周端に接続され、
前記ドーム部のドーム外縁領域の板厚が、前記ドーム部のドーム中央領域の板厚よりも厚く、かつ、缶軸から前記ドーム部の外周端に向かうに従って厚くなり、
前記ドーム外縁領域が、前記ドーム中央領域の板厚の102~108%の厚みを有し、
前記ドーム部のドーム直径が36~48mmである場合に、前記ドーム外縁領域の板厚が0.200~0.350mmであり、
前記立ち上がり部の前記載置面に対する角度αは、75~130°であり、
前記コーナー部の曲率半径は、1.5~3.5mmであり、
前記ドーム部の曲率半径は、10~70mmであり、
前記缶底を形成するための板材が、アルミニウム合金製のものであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明の陽圧缶体によれば、ドーム外縁領域の板厚がドーム中央領域の板厚よりも厚くされることにより、バックリングの起点となるドーム外縁領域に適当な厚みを付与することができるので、ウォーターハンマーが生じたときであってもバックリングの発生が抑制されて十分な落下強度が確保され、高い耐圧性が得られる。
【0008】
また、ドーム外縁領域がドーム中央領域の板厚の102~108%の厚みを有することにより、上記効果を確実に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の一実施形態に係る陽圧缶体の缶底形状を示す端面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について詳細に説明する。
本実施形態の陽圧缶体は、炭酸飲料等が充填、密封される陽圧缶体である。
陽圧缶体は、
図1および
図2に示されるように、缶胴110と当該缶胴110と連続する缶底120とを有する。缶底120は、缶上方(
図1において上方)に凸となるよう膨出するドーム状のドーム部130と、このドーム部130よりも径方向外側において缶下方(
図1において下方)に凸となるよう膨出する缶軸Xを含む縦断面視で略U字状の缶軸周りの周方向に延びる環状の接地リム部121とを有する。接地リム部121は、陽圧缶体100が水平面(載置面F)に接地した状態で安定した直立形態が保持される形状とされる。
接地リム部121およびドーム部130は、缶軸Xを含む縦断面視で円弧状のコーナー部127を介して連続しており、コーナー部127とドーム部130との接続位置である当該コーナー部127の円弧の始点がドーム部130の外周端131となる。
ドーム部130の外周端131は、ドーム部130を構成する部分のうち缶軸Xからの距離が最も大きい周縁とされる。
接地リム部121は、水平面である載置面Fに載置した際に載置面Fと接する接地部122と、接地部122の上方かつ径方向内側に延びる立ち上がり部123と、接地部122の上方かつ径方向外側に、缶胴110の下端に連続するよう拡径する方向に延びて径方向内側に凸となっている缶軸Xを含む縦断面において円弧状の外側円弧部124とを有しており、接地リム部121は、立ち上がり部123を介してコーナー部127の外周端128に接続されている。
【0011】
ドーム部130はドーム状のものであり、その曲率半径は10~70mmとされ、この実施形態においては40.8mmである。なお、ドーム部130は単一の曲率半径を有するものであってもよく、例えばドーム部130の径が外周端131に至るに従って曲面の曲率半径が小さくなるような、複数の曲率半径部分からなるものであってもよい。
【0012】
コーナー部127の曲率半径Rは、ドーム部130の曲率半径の下限値よりも小さく、具体的には1.5~3.5mmとされ、この実施形態においては2.0mmである。なお、コーナー部127も単一の曲率半径を有するものに限定されず、上記の曲率半径を有する複数の曲率半径部分からなるものであってもよい。
【0013】
接地リム部121の立ち上がり部123は、陽圧缶体100の載置面Fとの接地部122からコーナー部127の外周端128までの部分であり、その外周面は缶軸Xを含む縦断面で直線、曲線およびこれらの組み合わせから構成され、傾斜角度や湾曲状態については公知の形状が適用され得る。立ち上がり部123のコーナー部127側の傾きあるいは曲率半径は、コーナー部127の曲率半径とは大きく異なり、立ち上がり部123からコーナー部127にかけて接続点においてその延伸方向が急に変化する。
立ち上がり部123の載置面Fに対する角度αは75~130°とされ、この実施形態においては86.5°である。
【0014】
接地リム部121の外側円弧部124の曲率半径Rは、1~10mmとされ、この実施形態においては1.5mmである。なお、外側円弧部124も単一の曲率半径を有するものに限定されず、上記の曲率半径を有する複数の曲率半径部分からなるものであってもよい。外側円弧部124の曲率半径Rが上記範囲にあることによって、陽圧缶体100が水平面に対して傾斜した姿勢で落下する等の落下衝撃が付与された場合にもバックリングを抑制することができる。
【0015】
そして、ドーム部130の板厚が、缶軸Xから外周端131に向かうに従って厚くなる。すなわち、ドーム部130の外縁領域からなるドーム外縁領域135の板厚が、ドーム部130のドーム中央領域132の板厚よりも厚いものとされる。具体的には、ドーム外縁領域135の板厚は、ドーム中央領域132の板厚を100%とした場合に、102~108%の厚みを有する。
本発明において、ドーム外縁領域135とは、缶軸Xを含む縦断面におけるドーム部130のドーム半径を100%とした場合の、外周端131から缶軸Xに向かって20%までの領域がドーム外縁領域135とされる。また、ドーム中央領域132とは、缶軸Xを含む縦断面におけるドーム部130のドーム半径を100%とした場合の、缶軸Xから外周端131に向かって10%までの領域をいう。ドーム部130のドーム半径とは、陽圧缶体100を載置面Fに載置した状態で載置面Fと平行な面で外周端131を含むよう切断したときの、外周端131を円周とする円の平均半径をいう。
ドーム外縁領域135の板厚とは、ドーム外縁領域135の平均の板厚であり、具体的には、ドーム外縁領域135の任意の10点の板厚の平均値をいう。また、ドーム中央領域132の板厚とは、ドーム中央領域132の平均の板厚であり、具体的には、ドーム中央領域132の任意の10点の板厚の平均値をいう。
【0016】
この実施形態の各サイズの一例を示すと、内容量が350mL、缶胴110の外径が66.1mm、接地リム部121の接地径Aが48.0mm、ドーム部130のドーム直径Bが41.1mmであり、ドーム中央領域132の板厚が0.274mm、ドーム外縁領域135の板厚が0.290mmである。
ドーム部130のドーム直径とは、陽圧缶体100を載置面Fに載置した状態で載置面Fと平行な面で外周端131を含むよう切断したときの、外周端131を円周とする円の平均直径をいう。
また、接地リム部121の接地径とは、陽圧缶体100を水平面に載置したときに接地している部分(接地部122)による円の直径をいう。
【0017】
接地リム部121の最下端である接地部122からドーム部130の最頂部まで、すなわち陽圧缶体100を載置面Fに載置した場合の載置面Fからドーム部130までの最大距離(ボトムシンク:BS)は、6~14mmとされ、この実施形態においては10.85mmである。
ボトムシンク(BS)が過小である場合は、陽圧缶体100に耐圧性が得られず内圧上昇時に変形が生じるおそれがある。一方、ボトムシンク(BS)が過大である場合は、陽圧缶体の内容積の低下をもたらすと共に陽圧缶体を形成するための金属材料量が増大してしまうという不具合が生じるおそれがある。
【0018】
缶底120を形成するための板材としては、公知のアルミニウム合金製の2ピース飲料缶と同様に、板厚0.20mm~0.35mmのアルミニウム合金の板材が用いられる。板材は、両側に約0.01mmのPETフィルムをラミネートしたものであってもよい。
【0019】
陽圧缶体100は、例えば缶内圧が室温において60~120kPaの範囲とされる。
【0020】
以上、本発明の実施形態に係る陽圧缶体について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更を加えることができる。
例えば、本発明の陽圧缶体は、缶胴と缶底がシームレスに一体に成形された陽圧缶体であれば、ボトル缶やステイ・オン・タブ(SOT)蓋を備えたSOT2ピース缶とすることができる。
また例えば、内容量が350mlの缶のみならず、内容量が500mlのいわゆるロング缶、内容量が190mlのいわゆるコーヒー缶であってもよい。
【実施例】
【0021】
以下、本発明の具体的な実施例について説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
〔実施例1〕
以下の仕様で、
図1に示す缶底形状を有し、ドーム部の板厚が缶軸から外周端に向かうに従って厚くなる陽圧缶体〔1〕を作製した。
・容量:350ml
・缶重量:11.53g
・原板の材質:アルミニウム
・ドーム中央領域の板厚:0.274mm
・ドーム外縁領域の板厚:0.289mm
(ドーム外縁領域の板厚がドーム中央領域の板厚の105.47%)
・缶胴の外径:66.1mm(充填前)
・接地径:48mm
・ドーム直径:41.11mm
・BS:10.85±0.1mm
・コーナー部の曲率半径R:2.0mm
上記の陽圧缶体〔1〕について、以下の通りに単体落下強度およびケース落下強度を測定した。
単体落下強度は、水平に設置された鉄板上に筒を用いて陽圧缶体を落下高さ15cm、20cm、25cm、30cm、35cmで落下させ、10缶中のバックリングを生じた缶数が0である最大の落下高さとされる。陽圧缶体〔1〕の単体落下強度は25cmであった。
ケース落下強度は、陽圧缶体24缶を段ボールケース中に隙間なくパッキングした状態において、当該段ボールケースを20度の傾斜角度で傾斜させた姿勢で水平に設置された鉄板上に、落下高さ15cm(最短高さ15cm、最長高さ30cm)、20cm、25cm、30cm、35cmで落下させ、72缶(3ダンボールケース)中のバックリングを生じた缶数が0である最大の落下高さとされる。陽圧缶体〔1〕の単体落下強度は25cmであった。
【0022】
〔実施例2〕
実施例1において、下記のように条件が変更されるよう陽圧缶体〔2〕を作製し、単体落下強度およびケース落下強度を測定したところ、55cmであった。
・ドーム中央領域の板厚:0.290mm
・ドーム外縁領域の板厚:0.2958mm
(ドーム外縁領域の板厚がドーム中央領域の板厚の102%)
【0023】
〔比較例1〕
実施例2において、下記のように条件が変更されるよう陽圧缶体〔3〕を作製し、単体落下強度およびケース落下強度を測定したところ、45cmであった。
・ドーム中央領域の板厚:0.290mm
・ドーム外縁領域の板厚:0.290mm
(ドーム外縁領域の板厚がドーム中央領域の板厚の100%)
【0024】
以上の実施例および比較例から、実施例に係る陽圧缶体は、比較例に係る陽圧缶体よりも、単体落下強度およびケース落下強度のいずれもが10cm以上向上することが確認された。
【符号の説明】
【0025】
100 ・・・ 陽圧缶体
110 ・・・ 缶胴
120 ・・・ 缶底
121 ・・・ 接地リム部
122 ・・・ 接地部
123 ・・・ 立ち上がり部
124 ・・・ 外側円弧部
127 ・・・ コーナー部
128 ・・・ 外周端
130 ・・・ ドーム部
131 ・・・ 外周端
132 ・・・ ドーム中央領域
135 ・・・ ドーム外縁領域
F ・・・ 載置面
X ・・・ 缶軸