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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-21
(45)【発行日】2024-10-29
(54)【発明の名称】情報送信方法及び通信装置
(51)【国際特許分類】
   H04L 12/46 20060101AFI20241022BHJP
   B60R 16/023 20060101ALI20241022BHJP
【FI】
H04L12/46 E
B60R16/023 Z
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020201139
(22)【出願日】2020-12-03
(65)【公開番号】P2022088981
(43)【公開日】2022-06-15
【審査請求日】2023-04-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【氏名又は名称】矢作 和行
(74)【代理人】
【識別番号】100121991
【弁理士】
【氏名又は名称】野々部 泰平
(74)【代理人】
【識別番号】100145595
【弁理士】
【氏名又は名称】久保 貴則
(72)【発明者】
【氏名】生島 佳祐
【審査官】中川 幸洋
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-192953(JP,A)
【文献】特開2020-028121(JP,A)
【文献】特開2020-017221(JP,A)
【文献】特開2020-145647(JP,A)
【文献】特開2020-088825(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04L 12/46
B60R 16/023
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一つの車載ECU(40)へ向けて、車両(Au)の外部から無線通信による情報のプッシュ送信を行う情報送信方法であって、
少なくとも一つのプロセッサ(11)にて実行される処理に、
前記外部の送信元からプッシュ情報を受信し(S47)、
前記プッシュ情報の通知先となる前記車載ECUに関するECU情報を把握し(S50)、
把握した前記ECU情報に対応した前記プッシュ情報の通知を実施(S53)、
前記プッシュ情報を通知先に送信できない場合に、前記プッシュ送信の失敗を、当該失敗に紐づく理由情報であって、前記プッシュ情報の通知先がなくなっているのか又は前記プッシュ情報の通知先への引き渡しが失敗したのかを示す前記理由情報と共に前記送信元に通知する(S51,S67)、
というステップを含む情報送信方法。
【請求項2】
前記ECU情報を把握するステップでは、複数の前記車載ECUの中から前記プッシュ情報の通知先となる前記車載ECUを特定し、
前記プッシュ情報の通知を実施するステップでは、特定した前記車載ECUに前記プッシュ情報を提供する請求項1に記載の情報送信方法。
【請求項3】
前記ECU情報を把握するステップでは、前記プッシュ情報の通知先となる前記車載ECUの電源状態を特定し、
前記プッシュ情報の通知を実施するステップでは、電源がオン状態にある前記車載ECUに前記プッシュ情報を提供する請求項1又は2に記載の情報送信方法。
【請求項4】
前記プッシュ情報の通知先となる前記車載ECUの電源がオフ状態である場合に、前記車載ECUを起動させる起動処理を実施する(S54)、というステップをさらに含み、
前記プッシュ情報の通知を実施するステップでは、前記起動処理によって電源がオン状態となった前記車載ECUに前記プッシュ情報を提供する請求項3に記載の情報送信方法。
【請求項5】
一つの前記車載ECUにて動作する複数のアプリケーション(40a)の中から前記プッシュ情報の通知先となる前記アプリケーションを特定し(S70)、
特定した前記アプリケーションに前記プッシュ情報を提供する(S71)、
というステップをさらに含む請求項1~4のいずれか一項に記載の情報送信方法。
【請求項6】
前記プッシュ情報が通知先に到達した場合に、前記プッシュ送信の成功を前記送信元に通知する(S75)、というステップをさらに含む請求項1~のいずれか一項に記載の情報送信方法。
【請求項7】
少なくとも一つの車載ECU(40)を搭載する車両(Au)において、当該車両の外部から無線通信によってプッシュ送信される情報を受信する通信装置であって、
前記外部の送信元からプッシュ情報を受信するプッシュ受信部(21)と、
前記プッシュ情報の通知先となる前記車載ECUに関するECU情報を把握する把握部(23)と、
把握した前記ECU情報に対応した前記プッシュ情報の通知を実施する送信制御部(25)と、
前記プッシュ情報を通知先に送信できない場合に、前記プッシュ送信の失敗を、当該失敗に紐づく理由情報であって、前記プッシュ情報の通知先がなくなっているのか又は前記プッシュ情報の通知先への引き渡しが失敗したのかを示す前記理由情報と共に前記送信元に通知する進捗監視部(22)と、
を備える通信装置。
【請求項8】
複数の車両(Au)のうちの少なくとも一つに搭載される車載ECU(40)へ向けて、前記車両の外部から無線通信による情報のプッシュ送信を行う情報送信方法であって、
少なくとも一つのプロセッサ(111)にて実行される処理に、
前記プッシュ送信の要求元から取得する要求情報に基づき、プッシュ情報の送信先となる前記車両に紐づいた無線通信機(10)を特定し(S43)、
前記プッシュ情報の通知先となる前記車載ECUを特定する機能を備える前記無線通信機へ向けて、前記プッシュ情報を送信(S45,S46)、
前記プッシュ情報の通知が失敗した場合に、当該失敗に紐づく理由情報として、前記プッシュ情報の通知先がなくなっているのか又は前記プッシュ情報の通知先への引き渡しが失敗したのかを示す情報を少なくとも把握する(S51,S67)、
というステップを含む情報送信方法。
【請求項9】
記プッシュ情報の送信を繰り返すリトライ期限内であり、且つ、前記理由情報の示す失敗理由の解消を把握した場合に、前記プッシュ情報を再送信する、
というステップをさらに含む請求項に記載の情報送信方法。
【請求項10】
前記無線通信機、前記車載ECU及び前記車載ECUにて動作するアプリケーション(40a)をそれぞれ識別する識別情報の組み合わせに紐づけて、前記プッシュ情報の通知先を特定するためのトークンを発行する(S27)、というステップをさらに含み、
記無線通信機を特定するステップでは、前記トークンを用いて前記プッシュ情報の前記送信先を特定する請求項又はに記載の情報送信方法。
【請求項11】
前記トークンには、有効期限が設定されている請求項10に記載の情報送信方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この明細書による開示は、情報のプッシュ送信を行う情報送信方法及び通信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、プッシュ情報サーバが仲介することにより、車両外部の車両情報サーバから車両に搭載され車載機へ向けて、コマンドのプッシュ送信を行う技術が開示されている。車載機は、通信機を介して外部との情報の送受信を行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-192953号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年では、車両の電源がオフ状態であっても、通信機をネットワークに接続させた状態が維持される傾向にある。対して、車両の電源がオフ状態である場合、一般的に、特許文献1の車載機のような車載ECUの電源も、オフ状態となる。この場合、通信機との通信が可能であっても、車載ECUへのプッシュ情報の送信は、実質的に不可能となる。以上のように、特許文献1の技術では、車載ECUへプッシュ送信の利便性が不十分となり得た。
【0005】
本開示は、プッシュ送信の利便性を向上可能な情報送信方法及び通信装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、開示された一つの態様は、少なくとも一つの車載ECU(40)へ向けて、車両(Au)の外部から無線通信による情報のプッシュ送信を行う情報送信方法であって、少なくとも一つのプロセッサ(11)にて実行される処理に、外部の送信元からプッシュ情報を受信し(S47)、プッシュ情報の通知先となる車載ECUに関するECU情報を把握し(S50)、把握したECU情報に対応したプッシュ情報の通知を実施(S53)、プッシュ情報を通知先に送信できない場合に、プッシュ送信の失敗を、当該失敗に紐づく理由情報であって、プッシュ情報の通知先がなくなっているのか又はプッシュ情報の通知先への引き渡しが失敗したのかを示す理由情報と共に送信元に通知する(S51,S67)、というステップを含む情報送信方法とされる。
【0007】
また開示された一つの態様は、少なくとも一つの車載ECU(40)を搭載する車両(Au)において、当該車両の外部から無線通信によってプッシュ送信される情報を受信する通信装置であって、外部の送信元からプッシュ情報を受信するプッシュ受信部(21)と、プッシュ情報の通知先となる車載ECUに関するECU情報を把握する把握部(23)と、把握したECU情報に対応したプッシュ情報の通知を実施する送信制御部(25)と、プッシュ情報を通知先に送信できない場合に、プッシュ送信の失敗を、当該失敗に紐づく理由情報であって、プッシュ情報の通知先がなくなっているのか又はプッシュ情報の通知先への引き渡しが失敗したのかを示す理由情報と共に送信元に通知する進捗監視部(22)と、を備える通信装置とされる。
【0008】
これらの態様によれば、車両外部の送信元からプッシュ情報を受信する受信側にて、プッシュ情報の通知先の車載ECUに関するECU情報が把握され、このECU情報に対応したプッシュ情報の通知が車載ECUに対して実施される。故に、車載ECUに関する情報をプッシュ情報の送信元が詳細に把握していなくても、正しい通知先にプッシュ情報が到達し得る。したがって、プッシュ送信の利便性が向上可能となる。
【0009】
また開示された一つの態様は、複数の車両(Au)のうちの少なくとも一つに搭載される車載ECU(40)へ向けて、車両の外部から無線通信による情報のプッシュ送信を行う情報送信方法であって、少なくとも一つのプロセッサ(111)にて実行される処理に、プッシュ送信の要求元から取得する要求情報に基づき、プッシュ情報の送信先となる車両に紐づいた無線通信機(10)を特定し(S43)、プッシュ情報の通知先となる車載ECUを特定する機能を備える無線通信機へ向けて、プッシュ情報を送信(S45,S46)、プッシュ情報の通知が失敗した場合に、当該失敗に紐づく理由情報として、プッシュ情報の通知先がなくなっているのか又はプッシュ情報の通知先への引き渡しが失敗したのかを示す情報を少なくとも把握する(S51,S67)、というステップを含む情報送信方法とされる。
【0010】
この態様によれば、プッシュ情報を送信する送信元にて、プッシュ送信の要求元から取得する要求情報に基づき、プッシュ情報の送信先となる車両に紐づいた無線通信機が特定される。加えて、プッシュ情報を受信する無線通信機は、プッシュ情報の通知先となる車載ECUを特定できる。故に、車両及びそのシステム構成に関する情報をプッシュ送信の要求元が詳細に把握していなくても、正しい通知先にプッシュ情報が到達し得る。したがって、プッシュ送信の利便性が向上可能となる。
【0011】
尚、上記及び特許請求の範囲等における括弧内の参照番号は、後述する実施形態における具体的な構成との対応関係の一例を示すものにすぎず、技術的範囲を何ら制限するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本開示の一実施形態によるプッシュ配信システムの全体像を示す図である。
図2】クラウドシステム及び車載システムの構成を示す図である。
図3】車載通信機をプッシュサーバに登録する登録シーケンスの詳細を示すシーケンス図である。
図4】アプリケーションとアプリサーバとを紐付けるためのトークンの払出シーケンスの詳細を示すシーケンス図である。
図5】アプリサーバからアプリケーションへのプッシュ配信を行うプッシュ配信シーケンスの詳細を図6と共に示すシーケンス図である。
図6】プッシュ配信シーケンスの詳細を図5と共に示すシーケンス図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1及び図2に示す本開示の一実施形態によるプッシュ配信システムは、クラウド側に設けられたアプリサーバ140から、車載ECU40にて動作するアプリケーション40aへ向けた情報のプッシュ送信を可能にする。プッシュ配信システムには、オートモーティブ無線通信プラットフォーム100が採用されている。オートモーティブ無線通信プラットフォーム100は、いつでも、どこでも、アプリサーバ140及びアプリケーション40a間のセキュアな接続を可能にする。詳記すると、車載ECU40は、例えば車両Auが駐車中の場合、電源がオフ状態となる。また、各車両Auでは、車載ECU40を含む車載システムの構成が互いに異なっている。こうした電源状態の違い及びシステム構成の違いを、オートモーティブ無線通信プラットフォーム100は、アプリサーバ140側から隠蔽する。その結果、車両Au毎の単位で、全ての車載ECU40があたかも車外のネットワークに常時接続されているような擬似的な常時接続が実現される。
【0014】
以下、オートモーティブ無線通信プラットフォーム100が実装されるクラウド側のシステム及び各車両Auの車載システムの詳細を、順に説明する。
【0015】
クラウド側には、車載アプリ向けのプッシュ配信に対応したサービスの実現システムとして、複数のアプリサーバ140と、少なくとも一つのプッシュサーバ110等が設けられている。
【0016】
アプリサーバ140は、プッシュ送信の要求元である。アプリサーバ140は、ID管理部141を有している。ID管理部141は、アプリケーション40aを識別するアプリID及びトークン(後述する)の少なくとも一方を管理している。アプリサーバ140は、プッシュサーバ110にプッシュ送信を要求する場合、アプリケーション40aに送信するメッセージ本体と共に、アプリID又はトークンを要求情報として提供する。本実施形態では、要求情報としてトークンが主に用いられる。アプリサーバ140は、プッシュ情報の送信先に紐づくトークンをID管理部141から読み出す。トークンは、プッシュサーバ110及び車載システム等にて、プッシュ情報の送信先を決定するキー情報となる。
【0017】
プッシュサーバ110は、プッシュ送信の送信元である。プッシュサーバ110は、複数のアプリサーバ140と接続されている。プッシュサーバ110は、車両Auに搭載された車載通信機10との間で、移動体通信網を介した無線通信によって情報をやり取りできる。プッシュサーバ110は、携帯電話回線だけでなく、Wi-Fi(登録商標)及びV2X等の無線通信によっても、車載通信機10と通信可能である。プッシュサーバ110は、アプリサーバ140からの配信要求に基づき、複数の車両Auのうちの少なくとも一つに搭載される車載ECU40へ向けて、無線通信による情報のプッシュ送信を行う。
【0018】
プッシュサーバ110は、プロセッサ111、RAM112及び記憶媒体113等を主体として含む演算処理装置である。プッシュサーバ110は、暗号処理部131及びクラウド通信部132を備えている。暗号処理部131は、TLS(Transport Layer Security)処理等により、通信相手の認証、通信内容の暗号化及び改竄の検出等の機能を提供する。暗号処理部131により、プッシュサーバ110は、各アプリサーバ140及び各車載通信機10と、セキュアに通信可能となる。クラウド通信部132は、データ通信の機能を提供する。具体的に、クラウド通信部132は、TCP/IP、UDP/IP及びこれら以外のプロトコルを用いたデータ通信を実現できる。クラウド通信部132を介して、プッシュサーバ110は、各アプリサーバ140及び各車載通信機10とのデータ通信を実施する。
【0019】
プッシュサーバ110は、オートモーティブ無線通信プラットフォーム100のクラウド側の機能を実現するACPクラウド110aに含まれるサーバ装置である。プッシュサーバ110は、ACPクラウド110aの主要な機能を実現する。ACPクラウド110aは、アプリサーバ140からのプッシュ情報の配信要求に基づき、送信先となる車両Au(車載通信機10)を選択し、選択した車両Auへ向けた情報のプッシュ送信を実施する。プッシュサーバ110は、記憶媒体113に記憶されたプログラムをプロセッサ111によって実行することで、ACPクラウド110aの機能を実現する。プッシュサーバ110は、ACPクラウド110aの機能部として、プッシュ配信部121、進捗監視部122及びID管理部127等を備える。尚、ID管理部127は、プッシュサーバ110とは異なる演算装置(ハードウェア)に実装されてもよい。
【0020】
プッシュ配信部121は、アプリサーバ140からのプッシュ情報の配信要求に基づき、クラウド通信部132と連携し、車載通信機10へ向けてプッシュ情報の配信を実施する。プッシュ配信部121は、アプリサーバ140から要求情報として取得するトークンをキーとし、ID管理部127にて管理されるID情報に基づき、プッシュ情報の送信先となる車載通信機10を特定する。
【0021】
プッシュ配信部121は、車載通信機10へ向けたプッシュ情報の送信を、所定時間内において繰り返すことができる。詳記すると、プッシュ配信には、車載システムの応答が直ちに必要なシーンと、プッシュ情報が通知先に届けばよいシーンとが存在する。そのためプッシュ配信には、要求されるレスポンスに応じた配信期限(以下、リトライ期限)が設定される。プッシュ配信部121は、車載通信機10へのプッシュ情報の送信が失敗した場合、プッシュ情報の内容に応じて設定されたリトライ期限に基づき、リトライ期限の経過前となる所定時間内において、車載通信機10へ向けたプッシュ情報の送信を繰り返す。プッシュ配信部121は、車載通信機10へのプッシュ情報の送信が失敗したままリトライ期限が経過した場合に、プッシュ配信が失敗したと判断し、プッシュ情報の送信を終了する。
【0022】
進捗監視部122は、車載通信機10のネットワークへの接続状態と、プッシュ送信の進捗状態とを監視する。進捗監視部122は、例えば車載通信機10がネットワークに非接続の状態である場合に、配信要求元であるアプリサーバ140にプッシュ配信の失敗を通知する(図5 S44参照)。進捗監視部122は、プッシュ情報の送信先である車載システム内にて通知先へのプッシュ情報の引き渡しが失敗した場合、引き渡しの失敗を示す通知に加えて、当該失敗に紐づく理由情報を車載通信機10(後述する進捗監視部22)から受信する。進捗監視部122は、車載通信機10から受信する通知及び理由情報に基づき、配信要求元であるアプリサーバ140にプッシュ配信の失敗を通知する(図5 S52及び図6 S68参照)。
【0023】
ID管理部127は、複数の車両Auのうちでどの車両Auのどの車載ECU40にアプリケーション40aが載っているかを示す情報を管理する。具体的に、ID管理部127は、アプリID、ECU ID及びTCU IDを互いに紐づけて管理する。アプリID、ECU ID及びTCU IDは、車載通信機10に登録された情報と同期される。アプリIDは、アプリケーション40aを識別する識別情報である。ECU IDは、車載ECU40を識別する識別情報である。TCU IDは、車載通信機10(車両Au)を識別する識別情報である。ID管理部127に登録されるアプリID,ECU ID及びTCU IDは、車載通信機10(後述するID管理部27)に登録された情報と同期される。
【0024】
ID管理部127は、アプリID、ECU ID及びTCU IDの組合せを、トークンというユニークなIDで管理する。トークンは、アプリケーション40a、車載ECU40及び車載通信機10の紐づけを代替する情報である。複数の車両Auに同一のアプリケーション40aが載っており、これらのアプリIDが同一となる場合でも、ACPクラウド110aは、トークンを用いることで、特定の車両Auの特定の車載ECU40に載るアプリケーション40aを通知先に設定できる。ID管理部127は、クラウド通信部132と連携し、発行したトークンを車載通信機10に通知する。
【0025】
ID管理部127は、トークンの無効化及び再発行等を実施可能であり、トークンの有効及び無効を管理する。これにより、トークンには有効期限が設定され、トークンを捨てることが可能になっている。一例として、ID管理部127は、複数のユーザで共有されるシェアカーのような車両Auに対し、ユーザの乗り換わりのタイミングで、前ユーザに発行された既存のトークンの無効化と、新しいユーザへの新規のトークンの発行とを実施できる。
【0026】
個々の車両Auに搭載される車載システムは、少なくとも一つの車載通信機10と複数の車載ECU40等によって構成されている。
【0027】
車載通信機10は、TCU(Telematics Control Unit)又はDCM(Data Communication Module)等と呼称され、車載システムと外部との無線通信を可能にする。車載通信機10は、プッシュ送信の送信先であり、携帯電話回線、Wi-Fi及びV2X等の種々の無線通信により、車両外部の送信元であるプッシュサーバ110からプッシュ情報を受信する。車載通信機10は、複数の車載ECU40と車内ネットワークを通じて接続されている。車載通信機10は、プッシュサーバ110から受信したプッシュ情報を、プッシュ情報の通知先である車載ECU40及びアプリケーション40aに引き渡す処理を実施する。
【0028】
車載通信機10は、プロセッサ11、RAM12及び記憶媒体13等を有するマイクロコントローラを主体として含む制御装置である。車載通信機10は、暗号処理機能を提供する暗号処理部31と、データ通信機能を提供するTCU通信部32とをさらに備えている。暗号処理部31により、車載通信機10は、プッシュサーバ110及び各車載ECU40とセキュアな通信を実施できる。TCU通信部32により、車載通信機10は、プッシュサーバ110及び各車載ECU40との間でデータの送受信を実施できる。TCU通信部32は、TCP/IP、UDP/IP及びこれら以外のプロトコルを用いたデータ通信を実現できる。
【0029】
車載通信機10は、例えば駐車中等、車両Auの主電源、具体的には、所謂イグニッションがオフの状態である場合でも、ネットワークに接続されたオンラインの状態を維持できる。車載通信機10では、オートモーティブ無線通信プラットフォーム100の機能を実現するACPエンジン10aが動作する。ACPエンジン10aは、一つ又は複数の車載ECU40を搭載する車両Auにおいて、当該車両Auの外部から無線通信によってプッシュ送信される情報を受信し、受信したプッシュ情報を通知先となる車載ECU40に引き渡す。車載通信機10は、記憶媒体13に記憶されたプログラムをプロセッサ11によって実行することで、ACPエンジン10aの機能を実現する。車載通信機10は、ACPエンジン10aの機能部として、プッシュ受信部21、進捗監視部22、宛先識別部23、起動指示部24及び送信制御部25等を備える。
【0030】
プッシュ受信部21は、進捗監視部22、宛先識別部23及び起動指示部24は、プッシュクライアントとして動作する機能部である。プッシュ受信部21は、送信元であるプッシュ配信部121からプッシュ情報を受信する。
【0031】
進捗監視部22は、プッシュサーバ110との間での無線通信を介した接続状態と、車内ネットワークにおけるプッシュ送信の進捗状態とを監視する。進捗監視部22は、プッシュサーバ110の進捗監視部122と連携し、車載通信機10及びプッシュサーバ110間の相互接続確認(以下、死活監視)を可能にする。加えて、進捗監視部22は、プッシュ情報が通知先に到達しなかった場合に、プッシュ送信の失敗を当該失敗に紐づく理由情報と共に送信元に通知する。一例として、進捗監視部22は、通知先となるアプリケーション40a又は車載ECU40が車内ネットワークから無くなっている場合、こうした理由情報に紐づけて、プッシュ配信の失敗を送信元であるプッシュサーバ110に通知する(図5 S47参照)。進捗監視部122は、アプリケーション40aへのプッシュ情報の引き渡しが失敗した場合、こうした理由情報に紐づけて、プッシュ配信の失敗を送信元であるプッシュサーバ110に通知する(図6 S67参照)。
【0032】
宛先識別部23は、プッシュ情報の通知先となる車載ECU40に関するECU情報を把握する。具体的に、宛先識別部23は、宛先情報及びステータス情報を、ECU情報として把握する。宛先情報は、複数の車載ECU40の中からプッシュ情報の通知先となる車載ECU40を特定した情報である。宛先識別部23は、ID管理部27にて管理される情報、具体的には各ID情報又はトークンを参照し、宛先情報を取得する。ステータス情報は、宛先として特定された車載ECU40の電源状態(オンオフ状態)を示す情報である。詳記すると、ここでの電源オフの状態とは、イグニッションのオフ等により、車載ECU40が起動状態から休止状態などに遷移した状態である。このとき車載ECU40は、省電力で起動要求を受信可能である一方、ECU通信部52(後述する)による通信が不可能な状態となる。
【0033】
起動指示部24は、宛先識別部23にて把握されたステータス情報に基づき、宛先として特定された車載ECU40の電源がオフ状態である場合に、当該車載ECU40を起動させて電源をオン状態(起動状態)にする起動処理を実施する。起動指示部24は、電源制御部36と連携し、対象となる車載ECU40へ向けて、電源をオン状態(起動状態)とする起動制御のための信号(起動要求)を出力する。
【0034】
送信制御部25は、宛先識別部23にて把握された宛先情報に基づき、プッシュ送信の対象となる車載ECU40を選択する。送信制御部25は、TCU通信部32と連携し、選択した対象の車載ECU40へ向けて、プッシュ情報の通知を実施する。送信制御部25は、車載ECU40の電源がオフ状態である場合、起動処理によって車載ECU40の電源がオン状態となるのを待機する。送信制御部25は、電源がオン状態にある車載ECU40へ向けて、プッシュ情報を提供する。
【0035】
ID管理部27は、プッシュ情報の通知先となる対象のアプリケーション40aがどの車載ECU40にあるのかを管理する。ID管理部27には、アプリID、ECU ID及びトークン等が登録されている。ID管理部27は、各アプリケーション40aに紐づくアプリIDと、各車載ECU40に紐づくECU IDとを、各車載ECU40から取得する。ID管理部27は、取得したアプリID及びECU IDを、車載通信機10に紐づくTCU IDと共に、ACPクラウド110aのID管理部127に通知する。こうした処理により、各ID管理部27,127に登録されるID情報が同期される。ID管理部27は、ID管理部127によって発行されたトークンを受信する。ID管理部27は、受信したトークンを、当該トークンに紐づけられた車載ECU40に引き渡す。
【0036】
車載ECU40は、一つ又は複数のアプリケーション40aを実行可能である。アプリケーション40aは、プッシュサーバ110から配信されるプッシュ情報の通知先となる。車載ECU40は、エンドECUに相当する。車載ECU40は、車載通信機10とは異なり、車両Auの電源がオフ状態である場合には、消費電力抑制のため原則的にオフ状態とされる。このとき、車載ECU40は、ネットワークへの接続も切断された状態となる。尚、一部の車載ECU40には、アプリケーション40aが実装されなくてもよい。また、車載通信機10は、車載ECU40を兼ねる構成として車載システムに設けられ、アプリケーション40aを実行可能であってもよい。
【0037】
車載ECU40は、マイクロコントローラを主体として含む制御装置であり、暗号処理部51、ECU通信部52及び電源制御部56を備えている。暗号処理部51は、暗号処理機能を提供し、車載ECU40及び車載通信機10間でのセキュアな通信を確立させる。ECU通信部52は、TCU通信部32との間でデータの送受信を実施する。電源制御部56は、車載ECU40の電源のオンオフ状態を切り替える制御部である。電源制御部56は、電源制御部36からの電源オン要求の受信に基づき、車載ECU40の電源をオフ状態からオン状態に切り替える。
【0038】
車載ECU40は、ACPエンジン10aとアプリケーション40aとの間にてデータの中継処理を行うACPクライアント44の機能部として、情報取得部41、アプリ識別部42及びID管理部43等を備える。
【0039】
情報取得部41は、ECU通信部52と連携し、車載通信機10から送信されるプッシュ情報を取得する。情報取得部41にて取得されるプッシュ情報には、トークン(又はアプリID)が紐づけられている。
【0040】
アプリ識別部42は、情報取得部41にてプッシュ情報が取得されると、複数のアプリケーション40aの中から、プッシュ情報の引き渡し先となるアプリケーション40aを識別する。アプリ識別部42は、ID管理部43に登録されたアプリID及びトークンを参照し、プッシュ情報に紐づくトークンと一致する登録情報を抽出する処理により、プッシュ情報を引き渡すアプリケーション40aを特定する。
【0041】
ID管理部43には、アプリケーション40aを識別するアプリID及びトークンが、アプリ識別部42によって参照可能に登録されている。アプリIDは、各アプリケーション40aによって発行される情報である。ID管理部43は、各アプリケーション40aから固有のアプリIDを取得し、ECU通信部52を通じてACPエンジン10aにアプリIDを通知する。トークンは、ACPクラウド110aから払い出された情報である。ID管理部43は、ECU通信部52を通じて、ACPエンジン10aに払い出されたトークンを取得する。
【0042】
次に、クラウド側のシステム及び各車載システム間にて実施される各シーケンス処理の詳細を、図3図6に基づき、図1及び図2を参照しつつ、以下説明する。
【0043】
図3に示すTCU IDの登録シーケンスは、例えば車載通信機10が起動され、最初にオンラインの状態となった場合に、ACPエンジン10a及びACPクラウド110a間にて実施される。具体的には、新規の車両Auに搭載された車載通信機10が起動された場合、交換された車載通信機10が最初に起動された場合、又は通信不可能な状態から通信可能な状態になった場合に、登録シーケンスがACPエンジン10aによって開始される。登録シーケンスにより、車載通信機10及びプッシュサーバ110間での死活監視が有効化される。
【0044】
S11及びS12では、車載通信機10に紐づく固有のTCU IDがオンラインの状態となっているACPエンジン10aから、ACPクラウド110aに通知される。具体的に、S11では、TCU IDの管理処理として、車載通信機10のTCU IDが読み出される。S12では、S11にて読み出されたTCU IDの登録が、ACPクラウド110aに要求される。
【0045】
S13では、S12にて取得する登録要求に基づき、ACPクラウド110aがTCU IDの管理処理を実施する。具体的に、S13では、TCU IDが接続先情報と紐づけられて、ID管理部127に登録される。
【0046】
S14~S16では、死活監視が実施される。死活監視では、車載通信機10がオンラインの状態か否かが監視される。具体的に、S14及びS16では、ACPクラウド110a及びACPエンジン10aが互いの接続状態監視を実施する。S15では、死活監視のための所定の制御パケットがACPエンジン10aからACPクラウド110aに送信される。S14~S16の各処理は、一定の時間間隔で繰り返し実施される。
【0047】
図4に示すトークンの払出シーケンスは、例えばアプリケーション40aの車載ECU40へのインストールが実施された場合、又は車両Auのユーザが変更された場合等に実施される。トークンの払出シーケンスにより、各ID管理部27,43,127,141にて管理される複数のID情報及びトークンの同期が図られる。トークンの払出シーケンスによれば、アプリサーバ140及びアプリケーション40a間でのエンド・トゥ・エンドの紐づけが完了する。
【0048】
S21では、アプリケーション40aからACPクライアント44にトークンの取得を要求するメッセージが送信される。S21では、ACPクライアント44にアプリIDが通知される。
【0049】
S22では、アプリIDの管理処理として、ACPクライアント44は、アプリIDをアプリケーション40aと紐づけて、ID管理部43に登録する。尚、ACPクライアント44に発行済みのトークンが既に登録されていた場合、ACPクライアント44は、アプリIDをトークンに紐づけたうえで、アプリケーション40aへのトークンの払い出しを実施してもよい。
【0050】
S23では、ACPクライアント44からACPエンジン10aにトークンの取得を要求するメッセージが送信される。S23では、アプリケーション40aから通知されるアプリIDに加えて、車載ECU40に紐づくECU IDがACPエンジン10aに通知される。
【0051】
S24では、ECU IDの管理処理として、ACPエンジン10aは、アプリID及びECU IDを互いに紐づけた状態で、ID管理部27に登録する。さらに、S25では、TCU IDの管理処理として、ACPエンジン10aは、アプリID及びECU IDと紐づけられた状態で、TCU IDをID管理部27に登録する。以上のS21~S25によって複数のIDが互いに紐づけられることで、ACPエンジン10aは、プッシュ情報を受信した場合に、このプッシュ情報の通知先となるアプリケーション40aを特定できるようになる。その結果、車両毎の車載システムのECU構成の違いが、ACPクラウド110a側から隠蔽される。
【0052】
S26では、ACPエンジン10aからACPクラウド110aにトークンの取得を要求するメッセージが送信される。S26では、ACPクラウド110aに、アプリID、ECU ID及びTCU IDが通知される。
【0053】
S27では、IDの管理処理として、アプリID、ECU ID及びTCU IDが互いに紐づけられた状態で、ID管理部127に登録される。加えて、S27では、アプリケーション40a、車載ECU40及び車載通信機10をそれぞれ識別する識別情報である各IDの組み合わせに紐づくユニークなIDとして、ACPクラウド110aのID管理部127がトークンを発行する。ID管理部127は、トークンの発行後、各IDとトークンとの紐づけ管理を継続する。
【0054】
S28では、S27にて発行されたトークンがACPクラウド110aからACPエンジン10aに払い出される。ACPエンジン10aは、ACPクラウド110aから取得するトークンをID管理部27に保管する。S29では、ACPエンジン10aからACPクライアント44へのトークンの払い出しが実施される。
【0055】
S30では、アプリID及びトークンの管理処理として、ACPクライアント44は、トークンをアプリIDと紐づけて、ID管理部43に登録する。S31では、ACPクライアント44からアプリケーション40aへのトークンの払い出しが実施される。
【0056】
S32では、トークンの管理処理として、アプリケーション40aが、トークンをアプリIDと紐づける。S33では、アプリIDの管理処理として、アプリIDとトークンとの紐づけ管理を実施する。
【0057】
S34では、アプリケーション40aを通じたサービス提供に関わる特定のアプリサーバ140へ向けて、アプリID及びトークンが通知される。これにより、アプリケーション40aとアプリサーバ140とのサービスの紐づけが完了する。S35では、アプリID及びトークンの管理処理として、アプリサーバ140が、アプリケーション40aから通知されたアプリID及びトークンを、互いに紐づけた状態でID管理部141に登録する。トークンの共有により、アプリサーバ140は、トークンに基づく送信先に、プッシュ送信が可能な状態となる。一方、アプリケーション40aは、プッシュサービスを受けることができる状態となる。
【0058】
図5及び図6に示すプッシュ配信シーケンスは、アプリサーバ140にてプッシュ配信の実施が決定されたことによって開始される。プッシュ配信シーケンスにより、アプリサーバ140が通知先として指定したアプリケーション40aに、プッシュ情報が配信される。加えてプッシュ配信シーケンスでは、ACPエンジン10aの進捗監視部22がACPクラウド110aの進捗監視部122に対し進捗を逐次通知する。そして、ACPクラウド110aからアプリサーバ140に、プッシュ配信の進捗が通知される。こうしたプッシュ配信過程で逐次返信されるメッセージにより、アプリサーバ140は、プッシュ情報がどこまで到達したか、及びアプリケーション40aへのプッシュ送信が成功したか否かを把握できる。尚、サービスによって必要がない場合は、アプリサーバ140によるプッシュ配信の進捗把握は、任意で省略されてよい。
【0059】
S41では、アプリサーバ140からACPクラウド110aにプッシュ配信の実施を要求するメッセージが送信される。S41において、アプリサーバ140は、トークンをキーとしてACPクラウド110aにプッシュ配信の実施を要求する。S41aでは、ACPクラウド110aからアプリサーバ140にプッシュ配信を受け付けた旨のメッセージが通知される。
【0060】
S41bでは、プッシュ配信の配信先が識別される。このS41bにて、ACPクラウド110aは、プッシュ送信の要求元であるアプリサーバ140から要求情報として取得するトークンに基づき、プッシュ情報の送信先となる車両Auに紐づいた車載通信機10(ACPエンジン10a)を特定する。具体的に、ACPクラウド110aは、ID管理部127の保管情報を参照し、取得したトークンに紐づくTCU IDの車載通信機10を抽出する。S42では、プッシュ配信の配信先の車載通信機10を特定できたことを、ACPクラウド110aがアプリサーバ140に進捗通知として返信する。
【0061】
S43では、ACPクラウド110aが、S41bにて特定した車載通信機10の接続状態を監視し、車載通信機10がオンラインの状態にあるか否かを判定する。車載通信機10がオフラインである場合、ACPクラウド110aは、S44にて、プッシュ配信の失敗を示すメッセージをアプリサーバ140に通知する。この場合、ACPクラウド110aは、配信失敗の理由情報として、車載通信機10がオフラインである旨もアプリサーバ140に通知する。上述したように、所定のリトライ期限が経過するまで、車載通信機10のネットワークへの接続が待機されてもよい。
【0062】
一方、車載通信機10がオンラインである場合、S45及びS46にて、車載通信機10へ向けたプッシュ情報の配信が開始される。S46では、トークンが少なくともACPエンジン10aに送信される。そして、S47では、ACPエンジン10aが、S46にてACPクラウド110aから送信されたプッシュ情報のメッセージ本体及びトークンを受信する。S48では、プッシュ配信の進捗通知として、ACPエンジン10aが、プッシュ情報の配信を受け付けた旨のメッセージをACPクラウド110aに返信する。S49では、ACPクラウド110aからアプリサーバ140に、プッシュ配信の進捗が通知される。
【0063】
S50では、プッシュ情報の通知先となる車載ECU40に関するECU情報が把握され、プッシュ配信の配信先が識別される。このS50にて、ACPエンジン10aは、ID管理部27の保管情報を参照し、受信したトークンに紐づくECU IDの車載ECU40を特定する。受信したトークンがID管理部27の保管情報に存在する場合、ACPエンジン10aは、複数の車載ECU40の中からプッシュ情報の通知先となる車載ECU40を特定する宛先情報と、特定した車載ECU40の電源状態を示すステータス情報とを取得する。
【0064】
一方、受信したトークンがID管理部27の保管情報に存在しない場合、ACPエンジン10aは、S51にて、プッシュ配信の失敗を示すメッセージをACPクラウド110aに通知する。この場合、ACPエンジン10aは、配信失敗の理由情報として、プッシュ配信の宛先が不明である旨もACPクラウド110aに通知する。ACPクラウド110aは、ACPエンジン10aから受信した失敗通知及び理由情報を、S52にて、アプリサーバ140に転送する。尚、例えばアプリケーション40aの変更又は削除、或いはユーザの変更等があった場合に、プッシュ配信の宛先が不明となる。
【0065】
S53にて、ACPエンジン10aは、S50にて把握したECU情報に対応したプッシュ情報の通知を実施する。S53では、特定した車載ECU40のACPクライアント44にプッシュ情報が提供される。ACPエンジン10aは、特定した車載ECU40の電源がオフ状態である場合、S54にて、起動制御の開始要求メッセージを車載ECU40に送信する。起動制御の開始メッセージ送信が、車載ECU40を起動させる起動処理に相当する。
【0066】
S55では、起動制御の開始要求メッセージを受信した車載ECU40が、起動制御を受け付けた旨のメッセージをACPエンジン10aに返信する。S56及びS57では、プッシュ配信の進捗通知として、車載ECU40の起動開始を示すメッセージが、ACPクラウド110a及びアプリサーバ140に順に通知される。
【0067】
S58では、電源制御部56による起動制御が開始され、車載ECU40の電源は、オン状態(起動状態)となる。これにより、車載ECU40は、実質的に通信可能な状態となる。S59では、電源がオン状態(起動完了)となった旨を示すメッセージが、ACPクライアント44からACPエンジン10aに送信される。S60及びS61では、プッシュ配信の進捗通知として、車載ECU40の電源オンを示すメッセージが、ACPクラウド110a及びアプリサーバ140に順に通知される。
【0068】
S62にて、ACPエンジン10aは、起動処理によって電源がオン状態となった車載ECU40のACPクライアント44へ向けてプッシュ情報を送信する。S62では、トークンが少なくともACPクライアント44に送信される。S63では、プッシュ配信の進捗通知として、ACPクライアント44が、プッシュ配信を受け付けた旨のメッセージをACPエンジン10aに返信する。S64及びS65では、ACPクライアント44によってプッシュ配信が受け付けられた旨のメッセージが、ACPクラウド110a及びアプリサーバ140に順に通知される。
【0069】
ここで、ACPエンジン10aからACPクライアント44へのプッシュ配信が失敗した場合、ACPクライアント44は、S66にて、プッシュ配信の失敗を示すメッセージをACPエンジン10aに通知する。この場合も、ACPクライアント44は、配信失敗の理由情報として、プッシュ配信の宛先が不明である旨をACPエンジン10aに通知する。S67及びS68では、ACPエンジン10aに返信された失敗通知及び理由情報が、ACPクラウド110a及びアプリサーバ140に順に通知される。
【0070】
S69では、ACPクライアント44が、プッシュ情報のメッセージ本体の受信を完了する。S69aでは、プッシュ配信の進捗通知として、ACPクライアント44が、プッシュ受信の完了を示すメッセージをACPエンジン10aに返信する。S69b及びS69cでは、ACPクライアント44によるプッシュ受信の完了を示すメッセージが、ACPクラウド110a及びアプリサーバ140に順に通知される。
【0071】
S70では、プッシュ配信の配信先が識別される。S70にて、ACPクライアント44は、プッシュ情報の通知先となるアプリケーション40aを特定する。S71及びS72にて、ACPクライアント44は、S70にて特定したアプリケーション40aへ向けて、プッシュ情報であるメッセージ本体を提供する。S73では、アプリケーション40aが、プッシュ通知に基づくサービスを受け付けた旨のメッセージをACPクライアント44に返信する。S74及びS75では、通知先であるアプリケーション40aへのプッシュ情報の到達が、ACPエンジン10a及びACPクラウド110aに通知される。そして、S76では、プッシュ送信の成功を示すプッシュ進捗通知が、プッシュ送信の成功を送信元であるアプリサーバ140に届けられる。その結果、S77にて、アプリケーション40a及びアプリサーバ140の間でのアプリ通信(データ通信)が開始される。一例として、S77では、アプリケーション40aが、プッシュ情報にて要求されたサービス情報を、アプリサーバ140へ向けて送信する。
【0072】
以上のプッシュ配信シーケンスによるプッシュ情報の送信は、所定のリトライ期限内であれば、各送信元によって繰り返し実施される。この場合、プッシュ情報の送信側は、プッシュ進捗通知又は配信失敗の通知により、送信先の状態を把握できる。故に、プッシュ情報の送信側は、プッシュ情報の送信を繰り返すリトライ期限内であり、且つ、理由情報の示す失敗理由の解消が把握できた場合に、プッシュ情報の再送信を実施する。こうした再配信処理は、ACPクラウド110a、ACPエンジン10a及びACPクライアント44によって適宜実施可能である。
【0073】
ここまで説明した本実施形態では、車両外部の送信元(ACPクラウド110a)からプッシュ情報を受信する受信側(ACPエンジン10a)にて、プッシュ情報の通知先の車載ECU40に関するECU情報が把握される。そして、このECU情報に対応したプッシュ情報の通知が車載ECU40に対して実施される。故に、例えば車載システムの構成及び電源のオンオフ状態といった車載ECU40に関する情報をプッシュ情報の送信元が詳細に把握していなくても、正しい通知先にプッシュ情報が到達し得る。したがって、プッシュ送信の利便性が向上可能となる。
【0074】
加えて本実施形態では、複数の車載ECU40の中からプッシュ情報の通知先となる車載ECU40が特定される。そして、特定された車載ECU40にプッシュ情報が提供される。以上のように、プッシュ情報の受信側がプッシュ情報の通知先となる車載ECU40を特定できれば、プッシュ情報の送信元が車載システムの具体的な構成を把握していなくても、プッシュ情報は、正しい車載ECU40に到達し得る。
【0075】
また本実施形態では、プッシュ情報の通知先となる車載ECU40の電源状態が特定される。そして、電源がオンとなった起動状態にある車載ECU40にプッシュ情報が提供される。以上のように、プッシュ情報の受信側が起動状態にある車載ECU40に限定してプッシュ情報を提供すれば、プッシュ情報の送信元が車載ECU40の電源状態を把握していなくても、プッシュ情報は、正しい車載ECU40に到達し得る。
【0076】
さらに本実施形態では、プッシュ情報の通知先となる車載ECU40の電源がオフ状態である場合に、この車載ECU40を起動させる起動処理が実施される。そして、起動処理によって電源がオン状態となった車載ECU40に、プッシュ情報が提供される。これにより、例えば駐車中等、車載ECU40の電源がオフ状態とされるシーンでも、プッシュ情報の送信元は、車載ECU40の電源のオンオフ状態を把握することなく、プッシュ情報の配信を実施できる。したがって、プッシュ送信の利便性は、いっそう向上し得る。
【0077】
加えて本実施形態では、一つの車載ECU40にて動作する複数のアプリケーション40aの中からプッシュ情報の通知先となるアプリケーション40aが特定される。そして、特定されたアプリケーション40aにプッシュ情報が提供される。以上のように、車載ECU40がプッシュ情報の通知先となるアプリケーション40aを特定できれば、プッシュ情報の送信元が車載システム内のアプリ構成を把握していなくても、プッシュ情報は、正しいアプリケーション40aに到達し得る。したがって、プッシュ送信の利便性は、いっそう向上し得る。
【0078】
また本実施形態では、プッシュ情報が通知先に到達しなかった場合、プッシュ送信の失敗が、この失敗に紐づく理由情報と共に送信元に通知される。故に、ACPクラウド110a及びアプリサーバ140は、車両側のシステム構成を把握していなくても、プッシュ配信の状態を逐次把握できる。したがって、プッシュ送信の利便性は、さらに向上し得る。
【0079】
さらに本実施形態では、プッシュ情報が通知先に到達した場合に、プッシュ送信の成功が送信元に通知される。故に、ACPクラウド110a及びアプリサーバ140は、車両側のシステム構成を把握していなくても、プッシュ配信の状態を逐次把握できる。したがって、プッシュ送信の利便性は、さらに向上し得る。
【0080】
加えて本実施形態では、プッシュ情報を送信する送信元(ACPクラウド110a)にて、プッシュ送信の要求元(アプリサーバ140)から取得する要求情報に基づき、プッシュ情報の送信先となる車両Auに紐づいた車載通信機10が特定される。加えて、プッシュ情報を受信する車載通信機10は、プッシュ情報の通知先となる車載ECU40を特定できる。故に、車両Au及びそのシステム構成に関する情報をプッシュ送信の要求元が詳細に把握していなくても、正しい通知先にプッシュ情報が到達し得る。したがって、プッシュ送信の利便性が向上可能となる。
【0081】
ここで、プッシュ配信に要求されるレスポンスは、プッシュ配信によって提供されるサービスの内容に応じて異なってくる。一例として、車両Auのドアの鍵を開錠するようなサービスを提供する場合、車載ECU40に開錠を指示するプッシュ配信には、高いレスポンスが要求される。一方で、単なる情報通知のためのプッシュ配信には、高いレスポンスは要求されない。故に、ACPクラウド110aは、プッシュ配信によって実現されるサービスの内容に応じたリトライ期限を設定し、このリトライ期限内において、プッシュ情報の送信を繰り返すことができる。
【0082】
さらに本実施形態では、プッシュ情報の通知が失敗した場合に、ACPクラウド110aは、当該失敗に紐づく理由情報を受信する。そして、ACPクラウド110aは、理由情報の示す失敗理由の解消を把握した場合に、リトライ期限内であればプッシュ情報を再送信する。こうした送信リトライの実施によれば、プッシュ配信を用いたサービスのクオリティを維持しつつ、プッシュ配信の成功率を高めることが可能になる。
【0083】
加えて本実施形態のACPクラウド110aは、車載通信機10、車載ECU40及びアプリケーション40aをそれぞれ識別する各IDの組み合わせに紐づけて、プッシュ情報の通知先を特定するためのトークンを発行する。さらに、本実施形態のトークンには、アプリIDが組み込まれている。以上のようなトークンの利用によれば、各IDに重複が生じ得る場合でも、正しいプッシュ情報の配信先の特定が可能になる。
【0084】
加えて本実施形態のトークンには、有効期限が設定されている。故に、ユーザの変更が発生するシェアカー等において、特定のユーザが利用している期間に限定したプッシュ配信が可能になる。その結果、プッシュ配信の利便性がいっそう向上する。
【0085】
尚、上記実施形態では、車載通信機10が「無線通信機」及び「通信装置」に相当し、宛先識別部23が「把握部」に相当する。また、宛先情報及びステータス情報が「ECU情報」に相当し、TCU ID及びECU IDが「識別情報」に相当し、アプリID及びトークンが「要求情報」に相当する。
【0086】
(他の実施形態)
以上、本開示の一実施形態について説明したが、本開示は、上記実施形態に限定して解釈されるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲内において種々の実施形態及び組み合わせに適用することができる。
【0087】
上記実施形態の変形例1では、アプリケーション40aを動作させる車載ECU40が車載システムに一つのみ設けられている。こうした変形例1では、宛先情報を把握し、複数の車載ECU40の中からプッシュ情報の通知先となる車載ECU40を特定する機能は、ACPエンジン10aから省略されてよい。以上のように、プッシュ送信の宛先となる車載ECU40は、一つであってもよく、複数であってもよい。
【0088】
上記実施形態の変形例2では、ステータス情報を把握し、プッシュ情報の通知先となる車載ECU40の電源状態を特定する機能と、車載ECU40を起動する処理機能とが、ACPエンジン10aから省略されている。
【0089】
上記実施形態の変形例3では、アプリケーション40aが車載ECU40に一つのみ載せられている。こうした変形例3では、複数のアプリケーション40aの中からプッシュ情報の通知先となるアプリケーション40aを特定する機能が、ACPクライアント44から省略されている。
【0090】
上記実施形態の変形例4では、プッシュ通知の進捗や配信成功をACPクラウド110aに通知する機能の一部が省略されている。こうした進捗監視は、ACPクラウド110aによる進捗監視まではマストとされるのが望ましい。一方で、ACPクラウド110aからアプリサーバ140への通知は、サービスにおけるプッシュ配信の用途次第であるため、変形例4では任意とされてよい。また変形例4では、リトライ期間を設定し、プッシュ送信を繰り返す処理が省略されている。
【0091】
上記実施形態の変形例5では、トークンに有効期限が設定されない。また、上記実施形態の変形例6では、トークンの発行機能が省略されている。変形例6のACPクラウド110aは、アプリIDをキーとしてプッシュ情報を送信する車載通信機10を特定する。また、ACPエンジン10aは、アプリIDをキーとしてプッシュ情報を送信する車載ECU40を特定する。
【0092】
上記実施形態にて、車載通信機10及びACPクラウド110aによって提供されていた各機能は、ソフトウェア及びそれを実行するハードウェア、ソフトウェアのみ、ハードウェアのみ、あるいはそれらの複合的な組合せによっても提供可能である。さらに、こうした機能がハードウェアとしての電子回路によって提供される場合、各機能は、多数の論理回路を含むデジタル回路、又はアナログ回路によっても提供可能である。
【0093】
上記実施形態にて、各プロセッサ11,111は、それぞれRAM12,112と結合された演算処理のためのハードウェアであり、本開示による情報送信方法を実現するコンピュータの主体構成である。各プロセッサ11,111は、CPU(Central Processing Unit)等の演算コアを少なくとも一つ含む構成である。プロセッサ11,111を含む処理回路は、FPGA(Field-Programmable Gate Array)及びASIC(Application-Specific Integrated Circuit)を主体とした構成であってもよい。
【0094】
記憶媒体13,113は、不揮発性の記憶媒体を含む構成である。各記憶媒体13,113には、各プロセッサ11,111によって実行される種々のプログラム(情報送信プログラム等)が格納されている。こうした記憶媒体13,113の形態は、適宜変更されてよい。例えば記憶媒体13,113は、回路基板上に設けられた構成に限定されず、メモリカード等の形態で提供され、スロット部に挿入されて、車載通信機10及びプッシュサーバ110の処理回路に電気的に接続される構成であってよい。さらに、記憶媒体13,113は、プログラムのコピー基となる光学ディスク及びのハードディスクドライブ等であってもよい。
【0095】
本開示に記載の制御部及びその手法は、コンピュータプログラムにより具体化された一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサを構成する専用コンピュータにより、実現されてもよい。あるいは、本開示に記載の装置及びその手法は、専用ハードウェア論理回路により、実現されてもよい。もしくは、本開示に記載の装置及びその手法は、コンピュータプログラムを実行するプロセッサと一つ以上のハードウェア論理回路との組み合わせにより構成された一つ以上の専用コンピュータにより、実現されてもよい。また、コンピュータプログラムは、コンピュータにより実行されるインストラクションとして、コンピュータ読み取り可能な非遷移有形記録媒体に記憶されていてもよい。
【符号の説明】
【0096】
Au 車両、10 車載通信機(無線通信機,通信装置)、11,111 プロセッサ、21 プッシュ受信部、23 宛先識別部(把握部)、25 送信制御部、40 車載ECU、40a アプリケーション
図1
図2
図3
図4
図5
図6