(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-21
(45)【発行日】2024-10-29
(54)【発明の名称】交流電動機の制御装置
(51)【国際特許分類】
H02P 23/04 20060101AFI20241022BHJP
H02P 27/08 20060101ALI20241022BHJP
H02P 21/05 20060101ALI20241022BHJP
【FI】
H02P23/04
H02P27/08
H02P21/05
(21)【出願番号】P 2021007026
(22)【出願日】2021-01-20
【審査請求日】2023-12-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川口 裕貴
【審査官】池田 貴俊
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-117875(JP,A)
【文献】特開2020-010474(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0073280(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 23/04
H02P 27/08
H02P 21/05
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
交流電動機と、
前記交流電動機を駆動するインバータと、
前記インバータを制御する制御装置と、を備えた交流電動機の制御装置であって、
前記制御装置は、前記交流電動機の駆動電流が、基本波電流に前記交流電動機の回転数に応じて設定された高調波電流を重畳した電流となるよう前記インバータを制御し、
前記高調波電流は、前記交流電動機の回転数に応じて設定されたマップに基づいて算出され、
前記マップには、前記高調波電流を重畳しないOFF領域が設定されており、
前記制御装置は、前記交流電動機の回転数に基づいて、前記設定された高調波電流の中から前記基本波電流に重畳する高調波電流を選択し、前記交流電動機の回転数に応じて前記基本波電流に重畳する高調波電流を切り替える際、
前記交流電動機の回転数が前記OFF領域を通過することにより、一旦、前記交流電動機の駆動電流を前記基本波電流とし、その後、前記交流電動機の駆動電流が、前記基本波電流に、選択された前記高調波電流を重畳した電流となるよう前記インバータを制御する、交流電動機の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、交流電動機の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2020-10474号公報(特許文献1)には、トルクリプルに起因するモータノイズを低減するため、モータ駆動電流が、基本波電流に高調波電流を重畳した電流となるようインバータを制御する、モータ駆動システムが開示されている。このモータ駆動システムでは、高調波電流として、モータ(ロータ)の回転数に応じて、ステータの半径方向に作用する強制力およびステータの円周方向に作用する強制力について、これら強制力を低減するための位相の高調波電流がそれぞれ設定されており、モータの回転数に基づき、設定された高調波電流の中から基本波電流に重畳する高調波電流を選択し、モータの駆動電流を求めている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のモータ駆動システムでは、モータの回転数に基づき、基本波電流に重畳する新た高調波電流が選択され、高調波電流が切り替えられる際、基本波電流に重畳される高調波電流が大きく変化するので、モータの駆動電流の変化が激しくなる。このため、高調波電流の切替時に、モータの出力トルクが乱れトルク抜けが発生したり、ノイズ(聴感の急変)が発生したりする可能性がある。
【0005】
本開示は、基本波電流に重畳する高調波電流の切替時に、トルクの乱れやノイズが発生することを抑制可能な、交流電動機の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の交流電動機の制御装置は、交流電動機と、交流電動機を駆動するインバータと、インバータを制御する制御装置と、を備えた交流電動機の制御装置である。制御装置は、交流電動機の駆動電流が、基本波電流に交流電動機の回転数に応じて設定された高調波電流を重畳した電流となるようインバータを制御する。制御装置は、交流電動機の回転数に基づいて、設定された高調波電流の中から基本波電流に重畳する高調波電流を選択し、交流電動機の回転数に応じて基本波電流に重畳する高調波電流を切り替える際、一旦、交流電動機の駆動電流を基本波電流とし、その後、交流電動機の駆動電流が、基本波電流に、選択された高調波電流を重畳した電流となるようインバータを制御する。
【0007】
この構成によれば、交流電動機の制御装置は、基本波電流に重畳する高調波電流を切り替える際、一旦、駆動電流を基本波電流とし、その後、駆動電流が、基本波電流に高調波電流を重畳した電流となるようインバータを制御する。したがって、高調波電流の切替時に、一旦、駆動電流が基本波電流になったあと、新たな高調波電流が重畳された駆動電流に切り替わるので、駆動電流の変化が穏やかになり、トルク抜けやノイズの発生を抑制することができる。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、基本波電流に重畳する高調波電流の切替時に、トルクの乱れやノイズが発生することを抑制することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本実施の形態に係る交流電動機の制御装置の全体構成図である。
【
図2】ECUに構成された機能ブロックを示す図である。
【
図3】(A)、(B)は、モータジェネレータMGの回転数に応じて設定された高調波電流を説明する図である。
【
図4】本実施の形態において、ECUで実行されるノイズ対策処理の概略フローチャートである。
【
図5】変形例1において、モータジェネレータMGの回転数に応じて設定される高調波電流を説明する図である。
【
図6】変形例2において、ECUで実行されるノイズ対策処理の概略フローチャートである。
【
図9】モータ回転数MRNとトルク指令値TRをパラメータとして高調波電流が記憶されたマップA*~E*を変形例1に適用した図である。
【
図10】高調波電流を出力する高調波演算部33aを用いた機能ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。
【0011】
図1は、本実施の形態に係る交流電動機の制御装置100の全体構成図である。本実施の形態1に係る交流電動機の制御装置100は、たとえば、ハイブリッド自動車、電気自動車または燃料電池自動車(以下、総称して「車両」とも称する)等に適用することができる。
図1を参照して、交流電動機の制御装置100は、バッテリBTと、交流電動機としてのモータジェネレータMGと、電力変換装置(PCU(Power Control Unit))23と、ECU(Electronic Control Unit)30とを含む。
【0012】
交流電動機の制御装置100は、さらに、電源ラインPL1、PL2と、接地ラインSLと、バッテリBTの端子間の電圧VBを検出する電圧センサ10と、バッテリBTに流れる電流IBを検出する電流センサ11とを含む。バッテリBTとしては、たとえば、ニッケル水素電池、リチウムイオン電池等の二次電池であり、電気二重層キャパシタ等の蓄電装置であってもよい。
【0013】
コンデンサC1は、図示しないシステムメインリレーが導通しているときにバッテリBTに接続され、バッテリBTの端子間電圧を平滑化する。コンデンサC1は、電源ラインPL1と接地ラインSL間に接続される。電圧センサ21は、コンデンサC1の両端間の電圧VLを検知してECU30に対して出力する。
【0014】
電力変換装置23は、昇圧コンバータ12およびインバータ14を含む。昇圧コンバータ12は、コンデンサC1の端子間電圧を昇圧する。コンデンサC2は、昇圧コンバータ12によって昇圧された電圧を平滑化する。電圧センサ13は、平滑用コンデンサC2の端子間電圧VHを検知してECU30に出力する。インバータ14は、昇圧コンバータ12から与えられる直流電圧を三相交流に変換してモータジェネレータMGに出力する。なお、モータジェネレータMGの回転軸を、減速ギヤ、差動ギヤおよびドライブシャフトを介して駆動輪(いずれも図示せず)に結合することにより、交流電動機の制御装置100を、車両に適用することができる。
【0015】
電力変換装置23の昇圧コンバータ12は、一方端が電源ラインPL1に接続されるリアクトルL1と、電源ラインPL2と接地ラインSLとの間に直列に接続されるIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)素子Q1、Q2と、IGBT素子Q1、Q2にそれぞれ並列に接続されるダイオードD1、D2とを含む。
【0016】
リアクトルL1の他方端はIGBT素子Q1のエミッタおよびIGBT素子Q2のコレクタに接続される。ダイオードD1のカソードはIGBT素子Q1のコレクタと接続され、ダイオードD1のアノードはIGBT素子Q1のエミッタと接続される。ダイオードD2のカソードはIGBT素子Q2のコレクタと接続され、ダイオードD2のアノードはIGBT素子Q2のエミッタと接続される。
【0017】
電力変換装置23のインバータ14は、電源ラインPL2と接地ラインSLに接続されている。インバータ14は、モータジェネレータMGに対して昇圧コンバータ12の出力する直流電圧を三相交流に変換して出力する。またインバータ14は、回生に伴い、モータジェネレータMGにおいて発電された電力を昇圧コンバータ12に戻す。このとき昇圧コンバータ12は、降圧回路として動作するようにECU30によって制御される。
【0018】
インバータ14は、U相アーム15と、V相アーム16と、W相アーム17とを含む。U相アーム15、V相アーム16、およびW相アーム17は、電源ラインPL2と接地ラインSLとの間に並列に接続される。
【0019】
U相アーム15は、電源ラインPL2と接地ラインSLとの間に直列接続されたIGBT素子(スイッチング素子ともいう)Q3、Q4と、IGBT素子Q3、Q4とそれぞれ並列に接続されるダイオードD3、D4とを含む。ダイオードD3のカソードはIGBT素子Q3のコレクタと接続され、ダイオードD3のアノードはIGBT素子Q3のエミッタと接続される。ダイオードD4のカソードはIGBT素子Q4のコレクタと接続され、ダイオードD4のアノードはIGBT素子Q4のエミッタと接続される。
【0020】
V相アーム16は、電源ラインPL2と接地ラインSLとの間に直列接続されたIGBT素子Q5、Q6と、IGBT素子Q5、Q6とそれぞれ並列に接続されるダイオードD5、D6とを含む。ダイオードD5のカソードはIGBT素子Q5のコレクタと接続され、ダイオードD5のアノードはIGBT素子Q5のエミッタと接続される。ダイオードD6のカソードはIGBT素子Q6のコレクタと接続され、ダイオードD6のアノードはIGBT素子Q6のエミッタと接続される。
【0021】
W相アーム17は、電源ラインPL2と接地ラインSLとの間に直列接続されたIGBT素子Q7、Q8と、IGBT素子Q7、Q8とそれぞれ並列に接続されるダイオードD7、D8とを含む。ダイオードD7のカソードはIGBT素子Q7のコレクタと接続され、ダイオードD7のアノードはIGBT素子Q7のエミッタと接続される。ダイオードD8のカソードはIGBT素子Q8のコレクタと接続され、ダイオードD8のアノードはIGBT素子Q8のエミッタと接続される。
【0022】
なお、本実施の形態では、IGBT素子Q3~Q8およびダイオードD3~D8として、IGBT素子(スイッチング素子)とダイオードを1チップ化したRC-IGBT(Reverse Conducting IGBT(逆導通IGBT))を用いている。
【0023】
各相のアームの中間点は、モータジェネレータMGの各相のコイルの一端に接続されている。すなわち、モータジェネレータMGは、三相の永久磁石同期電動機であり、U、V、W相の3つのコイルUL、VL、WLは各々一方端が中点に共に接続されている。そして、U相コイルULの他方端がIGBT素子Q3、Q4の接続ノードに接続される。またV相コイルVLの他方端がIGBT素子Q5、Q6の接続ノードに接続される。またW相コイルWLの他方端がIGBT素子Q7、Q8の接続ノードに接続される。なお、モータジェネレータMGは、たとえば、IPM(Interior Permanent Magnet)同期電動機であってよい。
【0024】
電流センサ24は、モータジェネレータMGに流れる電流をモータ電流値MCRTとして検出し、モータ電流値MCRTをECU30へ出力する。電流センサ24は、U相コイルULに流れる電流を検出する電流センサ24Uと、V相コイルVLに流れる電流を検出する電流センサ24Vとを含む。W相コイルWLに流れる電流は電流センサ24U、24Vの出力から計算により求めることができる。このため、W相コイルWLには電流センサは設けられていない。
【0025】
モータジェネレータMGの回転数(回転速度(rpm))であるモータ回転数MRNは、回転センサ44で検出される。回転センサ44としては、ロータの回転速度と回転角θが検出可能なレゾルバを用いることができる。
【0026】
ECU30は、CPU(Central Processing Unit)と、メモリと、バッファ(いずれも図示せず)とを含んで構成される。ECU30は、各センサからの信号の入力ならびにメモリに記憶されたマップおよびプログラムに基づいて制御信号を出力し、電力変換装置23を制御する。たとえば、ECU30は、モータ回転数MRN、モータ回転角θ、電圧VB、VH、電流IBの各値、モータ電流値MCRTを受信する。また、要求駆動トルクに基づいて算出された、モータジェネレータMGへのトルク指令値TRが入力される。そして、ECU30は、昇圧コンバータ12に対して昇圧指示PWU、降圧指示PWDおよび動作禁止を指示する信号CSDNを出力する。ECU30は、インバータ14に対して、駆動指示PWMIを出力する。
【0027】
図2は、ECU30に構成された機能ブロックを示す図である。各機能ブロックは、ECU30のハードウェアあるいはソフトウェアの処理によって実現される。電流指令部31は、トルク指令値TRおよびモータ回転数MRNから、予め作成されたマップ(テーブル)等に従って電流指令値(d軸電流指令値、q軸電流指令値)を求める。なお、モータ回転数MRNを用いない回転数センサレス制御によって、トルク指令値TRから電流指令値を求めてもよい。
【0028】
電流電圧変換部32では、電流指令部31で求めた電流指令値とモータ電流値MCRTの偏差に基づき、所定ゲインによるPI(比例積分)演算を行い制御偏差を求め、制御偏差に応じた指令電圧値(d軸電圧指令値、q軸電圧指令値)を算出する。そして、モータ角θを用いて座標変換(2相→3相)を行い、指令電圧値(d軸電圧指令値、q軸電圧指令値)をU相、V相、W相の各相電圧指令値に変換して出力する。電流電圧変換部32から出力された各相電圧指令値は、PWM変調部35で処理され、インバータ14の各相のIGBT素子Q3~Q8の駆動信号PMWIとして出力される。これにより、モータジェネレータMGは、トルク指令値TRに応じたトルクを出力するための基本波電流によって駆動される。
【0029】
高調波演算部33は、基本波電流に重畳するための高調波電流を演算する。本実施の形態において、高調波電流は、モータジェネレータMGのトルクリプルに起因するモータノイズを低減するために、基本波電流に重畳する高調波電流であってよい。たとえば、特許文献1と同様に、高調波電流として、モータジェネレータMGの回転数に応じて、ステータの半径方向に作用する強制力およびステータの円周方向に作用する強制力について、これら強制力を低減するための位相の高調波電流をそれぞれ設定し、モータジェネレータMGの回転数に基づき、設定された高調波電流の中から基本波電流に重畳する高調波電流を選択する。
【0030】
図3は、モータジェネレータMGの回転数(モータ回転数MRN)に応じて設定された高調波電流を説明する図である。本実施の形態のモータジェネレータMGでは、モータ回転数(基本波電流)の6n次、12n次の高調波によるノイズが大きく、6n次ノイズおよび12n次ノイズに対して高調波波形を重畳している。なお、nはモータジェネレータMGの対極数であり、本実施の形態のモータジェネレータMGはn=4であり、24次ノイズ、48次ノイズに対して高調波波形を重畳している。
【0031】
図3(A)は、モータ回転数MRNに応じて重畳する高調波波形を示しており、
図3(B)には、波形a1、a2、b1、b2を示している。
図3(A)に示すように、最もモータ回転数MRNが低い範囲アにおいては波形a1のマップA、次に回転数が低い範囲イにおいては波形a1+b1のマップB、範囲イより回転数が高い範囲ウにおいては波形a2+b1のマップC、その上の範囲エにおいては波形b1のマップD、それより回転数が高い範囲オでは波形b2のマップEを選択して、基本波電流に重畳する高調波電流を算出する。なお、
図3(B)に示すように、方向が異なる強制力によるノイズを相殺するために基本波電流に重畳する高調波波形は180度程度異なったものになり、波形a1と波形a2は位相が180度程度異なっており、波形b1と波形b2も位相が180度程度異なっている。なお、マップA~Eの高調波波形の設定方法等については、特許文献1と同様であるので、詳細な説明は省略する。マップA~Eは、モータ回転数MRNに応じてECU30のメモリに記憶される。
【0032】
図2を参照して、高調波演算部33は、モータ回転数MRNに基づいて、マップA~Eの何れかを選択し、選択した高調波波形の振幅をトルク指令値TRによって決定する。なお、トルク指令値TRが大きいほど、高調波波形の振幅が大きくなる。高調波演算部33は、モータ回転数MRNとトルク指令値TRにより求めた高調波波形の高調波電流が得られるよう、U相、V相、W相の各相高調波電圧指令値を出力する。
【0033】
高調波演算部33から出力された各相高調波電圧指令値は、加算器34において、電流電圧変換部32から出力された各相電圧指令値に重畳され、PWM変調部35で処理され、インバータ14の各相の駆動信号PMWIとして出力される。これにより、モータジェネレータMGは、基本波電流に高調波電流が重畳された電流によって駆動される。
【0034】
ところで、モータ回転数MRNに基づいて選択されるマップA~Eが切り替わると、基本波電流に重畳される高調波電流が大きく変化するので、モータジェネレータMGの駆動電流の変化が激しくなる。このため、高調波電流の切替時に、モータジェネレータMGの出力トルクが乱れトルク抜けが発生したり、ノイズ(聴感の急変)が発生したりする可能性がある。また、マップ切り替え時時に駆動電流の指令値と実際値の差が大きくなり、制御性が悪化する可能性がある。本実施形態では、高調波電流の切替時に発生する、トルク抜けやノイズの発生を抑制するため、高調波電流の切替時に、一旦、高調波電流の重畳を禁止する。
【0035】
図4は、本実施の形態において、ECU30で実行されるノイズ対策処理の概略フローチャートである。このフローチャートは、モータジェネレータMGの駆動中(交流電動機の制御装置100の作動中)に、所定期間毎に繰り返し実行される。ステップ(以下、ステップをSと略す)10において、トルク指令値TRが所定値α以上か否かを判定する。モータジェネレータMGの出力トルクが小さいとき、トルクリプルに起因するモータノイズは小さいので、ノイズ対策は不要である。そこで、トルク指令値TRが所定値αより小さく、S10で否定判定される場合は、高調波電流を重畳することなく、今回のルーチンを終了する。トルク指令値TRが所定値α以上であり、ノイズ対策が必要な場合は、肯定判定されS11へ進む。
【0036】
S11では、高調波演算部33において、モータ回転数MRNに基づいてマップA~Eの何れかを選択し、選択した高周波波形の振幅をトルク指令値TRによって決定し、S12へ進む。
【0037】
S12では、今回のルーチンにおいて、高調波波形のマップ(A~D)が切り替わったか否かを判定する。今回選択されたマップが前回のルーチンで選択されたマップと同じ場合は、否定判定されS13へ進む。
【0038】
S13で、高調波演算部33は、S11においてモータ回転数MRNとトルク指令値TRにより求めた高調波波形の高調波電流が得られるよう、U相、V相、W相の各相高調波電圧指令値を出力する。これにより、モータジェネレータMGは、基本波電流に高調波電流が重畳された電流によって駆動される。
【0039】
今回選択されたマップが前回のルーチンで選択されたマップと異なり、マップが切り替えられた場合は、S12で肯定判定されS14へ進む。S14では、高調波電流の重畳を禁止する。たとえば、U相、V相、W相の各相高調波電圧指令値を0として出力する。これにより、基本波電流に高調波電流が重畳されず、モータジェネレータMGは、基本波電流よって駆動される。
【0040】
続くS15では、所定時間が経過したか否かを判定する。マップが切り替わってから所定時間経過するまでは、S15で否定判定されS14が繰り返し処理されることにより、高調波電流の重畳が禁止される。マップが切り替わってから所定時間が経過すると、S15で肯定判定され、S13へ進む。
【0041】
S15に続くS13において、高調波演算部33は、新たに選択された(切り替え後の)高調波波形の高調波電流が得られるよう、U相、V相、W相の各相高調波電圧指令値を出力する。これにより、モータジェネレータMGは、基本波電流に高調波電流が重畳された電流によって駆動される。
【0042】
本実施の形態では、高調波電流の切替時には、S14およびS15が処理されることにより、所定時間の間、一旦、高調波電流の重畳が禁止され、モータジェネレータMGは基本波電流よって駆動される。これにより、モータ回転数MRNに基づいて選択されるマップA~Eの切替時に、モータジェネレータMGの駆動電流が、一旦、基本波電流になり、その後、基本波電流に高周波電流が重畳される。特に、マップA~Eの切替時に、切替前後の高調波電流の周波数が異なる場合や位相が異なる場合には、駆動電流の変化が大きくなる。本実施の形態では、マップA~Eの切替時に、モータジェネレータMGの駆動電流が、一旦、基本波電流になり、その後、基本波電流に高周波電流が重畳されるので、マップの切替時における駆動電流の変化が穏やかになり、トルク抜けやノイズの発生を抑制することができる。
【0043】
(変形例1)
上記本実施の形態では、高調波電流の切替時に、所定時間の間、一旦、高調波電流の重畳を禁止していた。変形例1では、モータ回転数MRNに応じて設定されるマップに、高調波電流を重畳しないOFF領域を設定することにより、高調波電流の切替時に、一旦、モータジェネレータMGの駆動電流を基本波電流とする。
【0044】
図5は、変形例1において、モータジェネレータMGの回転数(モータ回転数MRN)に応じて設定される高調波電流を説明する図である。
図5に示すように、変形例1では、マップA(波形a1)とマップB(波形a1+b1)の間に、OFF領域が設定されている。OFF領域は、高調波電流が重畳されない領域であり、たとえば高調波電流が0とされる。OFF領域は、マップBとマップCの間、マップCとマップDの間、および、マップDとマップEの間にも設定されており、モータ回転数MRNに応じて高調波電流が切り替えられる際には、OFF領域が一旦選択されることになる。
【0045】
変形例1では、
図4に示すフローチャートのS12、S14およびS15の処理が廃止され、S11が処理されるとS13へ進む。S11で、高調波演算部33において、モータ回転数MRNに基づいてマップA~Eの何れかを選択する際に、マップが切り替わるときには、OFF領域が、一旦選択される。OFF領域が選択されているときには、S13において高調波電流が0とされ、高調波演算部33は、U相、V相、W相の各相高調波電圧指令値を0として出力する。これにより、基本波電流に高調波電流が重畳されず、モータジェネレータMGは、基本波電流よって駆動される。
【0046】
この変形例1においても、高調波電流の切替時には、OFF領域が選択されることにより、一旦、高調波電流の重畳が禁止され、モータジェネレータMGは基本波電流よって駆動される。これにより、モータ回転数MRNに基づいて選択されるマップA~Eの切替時に、モータジェネレータMGの駆動電流が、一旦、基本波電流になり、その後、基本波電流に高周波電流が重畳される。したがって、マップの切替時における駆動電流の変化が穏やかになり、トルク抜けやノイズの発生を抑制することができる。
【0047】
(変形例2)
上記実施の形態では、高調波演算部33は、マップが切り替えられた場合、一旦(所定時間の間)、U相、V相、W相の各相高調波電圧指令値を0として出力し、高調波電流の重畳を禁止している。変形例2では、マップの切替時に高調波電流を徐々に変化させる。
【0048】
図6は、変形例2において、ECU30で実行されるノイズ対策処理の概略フローチャートである。このフローチャートは、モータジェネレータMGの駆動中に、所定期間毎に繰り返し実行され、
図4に示したフローチャートに、S20~S23を追加したものである。S10~S15は、
図4のフローチャートと同様であるので、説明を省略する。
【0049】
図6において、今回のルーチンでマップが切り替えられ、S12で肯定判定されるとS20へ進む。S20では、前回のルーチンで選択されていたマップ(前回マップ)から求めた高調波波形の振幅に係数K1を乗算し、遷移高調波波形を算出する。そして、高調波演算部33は、遷移高調波波形の高調波電流が得られるよう、U相、V相、W相の各相高調波電圧指令値を出力する。
【0050】
続くS21では、係数K1が0であるか否かを判定する。
図7は、係数K1を説明する図である。係数K1は、
図7に示すように、初期値が1.0とされており、その値が時間の経過と共に減少して、t1時間経過後(たとえば1秒経過後)に0になる。係数K1は、最初にS20が処理されたとき、初期値1.0が設定され、その後、時間の経過と共に減少するよう、図示しないサブルーチンで処理される。S21において、係数K1が0になるまでは、否定判定され、S20の処理が繰り返し実行され、係数K1が0になると、肯定判定されてS14へ進む。
【0051】
S20およびS21の処理によって、前回マップから求めた高調波波形の振幅に係数K1を乗算した遷移高調波波形は、その振幅が時間の経過とともに小さくなり、高調波電流の振幅も小さくなる。そして、係数K1が0になると、高調波電流の振幅が0になるので、U相、V相、W相の各相高調波電圧指令値も0になる。したがって、マップの切替時に、U相、V相、W相の各相高調波電圧指令値が徐々に0になるので、基本波電流に重畳される高調波電流が徐々に0になる。
【0052】
S14およびS15の処理により、所定時間の間、一旦、高調波電流の重畳が禁止されたあと、S22に進むと、今回のルーチンで選択したマップ(今回マップ)から求めた高調波波形の振幅に係数K2を乗算し、遷移高調波波形を算出する。そして、高調波演算部33は、遷移高調波波形の高調波電流が得られるよう、U相、V相、W相の各相高調波電圧指令値を出力する。
【0053】
続くS23では、係数K2が1であるか否かを判定する。
図8は、係数K2を説明する図である。係数K2は、
図8に示すように、初期値が0とされており、その値が時間の経過と共に増大して、t2時間経過後(たとえば1秒経過後)に1.0になる。係数K2は、最初にS22が処理されたとき、初期値0が設定され、その後、時間の経過と共に増大するよう、図示しないサブルーチンで処理される。S23において、係数K2が1.0になるまでは、否定判定され、S22の処理が繰り返し実行され、係数K2が1.0になると、肯定判定されてS13へ進む。
【0054】
S22およびS23の処理によって、今回マップから求めた高調波波形の振幅に係数K2を乗算した遷移高調波波形は、その振幅が時間の経過とともに大きくなり、高調波電流の振幅も大きくなる。そして、係数K2が1.0になると、高調波電流の振幅が今回マップから求めた高調波波形の振幅になるので、U相、V相、W相の各相高調波電圧指令値も、今回マップから求めた高調波波形の高調波電流が得られるよう大きくなる。これにより、基本波電流に重畳される高調波電流が、徐々に大きくなる。
【0055】
この変形例2によれば、マップの切替時に、基本波電流に重畳される高調波電流が徐々に変化するので、ノイズの発生(聴感の急変)をより抑制することが可能になる。
【0056】
変形例1において、モータ回転数MRNに応じて、OFF領域が選択された際、および、OFF領域からマップA~Eが選択された際に、基本波電流に重畳される高周波電流が徐々に変化するよう制御してもよい。これにより、ノイズの発生(聴感の急変)をより抑制することが可能になる。
【0057】
本実施の形態、および変形例では、マップA~Eには、基本波電流に重畳する高周波波形が記憶され、トルク指令値TRにより高周波波形の振幅を決定していた。しかし、たとえば
図9に示すように、モータ回転数MRNとトルク指令値TRをパラメータとして高調波電流が記憶されたマップA*~E*を用いて、基本波電流に重畳する高調波電流を求めてもよい。
【0058】
図9は、モータ回転数MRNとトルク指令値TRをパラメータとして高調波電流が記憶されたマップA*~E*を変形例1に適用した図である。マップA*~E*には、トルク指令値TRが大きいほど、高調波波形の振幅が大きくなる高調波電流が記憶されている。高調波演算部33は、モータ回転数MRNおよびトルク指令値TRに基づいて、マップA*~E*をマップ検索し高調波電流を求め、求めた高調波電流が得られるよう、U相、V相、W相の各相高調波電圧指令値を出力する。なお、マップA*~E*において、トルク指令値TRに応じた高調波波形は、トルク指令値TRの複数の領域に設定されており、その領域間の高調波波形を線形補間することにより、トルク指令値TRに応じた高調波波形を算出するようにしてもよい。
【0059】
本実施の形態、および変形例では、高調波演算部33は、モータ回転数MRNとトルク指令値TRにより求めた高調波波形の高調波電流が得られるよう、U相、V相、W相の各相高調波電圧指令値を出力していた。しかし、高調波演算部は、高調波電流を出力する構成であってもよい。
【0060】
図10は、高調波電流を出力する高調波演算部33aを用いた機能ブロック図である。
図10において、高調波演算部33aは、モータ回転数MRNとトルク指令値TRに基づいて、基本波電流に重畳する高調波電流を演算し出力する。高調波演算部33aから出力された高調波電流は、加算器34aにおいて、電流指令部31から出力された電流指令値に加算され、電流電圧変換部32に入力される。電流電圧変換部32は、指令電流値に高調波電流が加算された電流値を、U相、V相、W相の各相電圧指令値に変換して出力する。電流電圧変換部32から出力された各相電圧指令値は、PWM変調部35で処理され、インバータ14の各相のIGBT素子Q3~Q8の駆動信号PMWIとして出力される。これにより、モータジェネレータMGは、基本波電流に高調波電流が重畳された電流によって駆動される。
【0061】
本実施の形態では、高調波電流として、ステータの半径方向に作用する強制力およびステータの円周方向に作用する強制力について、これら強制力を低減するための位相の高調波電流を用いていた。しかし、基本波電流に重畳される高調波電流は、異なる目的の高調波電流であってもよい。たとえば、特開2004-64909号公報に開示された、永久磁石による電機子鎖交磁束の高調波成分を打ち消す高調波電流等であってもよい。
【0062】
本開示における実施態様を例示すると、次のような態様を例示できる。
1)交流電動機(MG)と、交流電動機(MG)を駆動するインバータ(14)と、インバータ(14)を制御する制御装置(30)と、を備えた交流電動機(MG)の制御装置(100)であって、制御装置(30)は、交流電動機(MG)の駆動電流が、基本波電流に交流電動機(MG)の回転数(MRN)に応じて設定された高調波電流を重畳した電流となるようインバータ(14)を制御し、制御装置(30)は、交流電動機(MG)の回転数(MRN)に基づいて、設定された高調波電流の中から基本波電流に重畳する高調波電流を選択し、交流電動機(MG)の回転数(MRN)に応じて基本波電流に重畳する高調波電流を切り替える際、一旦、交流電動機(MG)の駆動電流を基本波電流とし、その後、交流電動機(MG)の駆動電流が、基本波電流に、選択された高調波電流を重畳した電流となるようインバータ(14)を制御する、交流電動機の制御装置。
【0063】
2)1において、基本波電流は、トルク指令値(TR)に基づき算出される。
3)1または2において、高調波電流は、マップ(A~E)として制御装置(30)のメモリに記憶されている。
【0064】
4)3において、メモリに記憶された高調波電流のマップ(A~E)は、交流電動機(MG)の回転数(MRN)に応じて設定されるとともに、高調波電流のマップ(A~E)とマップ(A~E)の間に、高調波電流を重畳しないOFF領域が設定されている。
【0065】
この構成によれば、高調波電流のマップの切替時、OFF領域を通過するので、交流電動機(MG)の駆動電流が、一旦、基本波電流になる。
【0066】
5)1~4において、基本波電流に高調波電流を重畳した駆動電流から、駆動電流を基本波電流にする際、高調波電流の振幅を徐々に小さくするとともに、駆動電流を、基本波電流から、基本波電流に高調波電流を重畳した駆動電流にする際、高調波電流の振幅を徐々に大きくする。
【0067】
この構成によれば、基本波電流に重畳される高調波電流が徐々に変化するので、ノイズの発生(聴感の急変)をより抑制することが可能になる。
【0068】
6)1~5において、交流電動機(MG)は、永久磁石同期電動機である。
今回開示された実施の形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本開示の範囲は、上記した実施の形態の説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0069】
10,13,21 電圧センサ、11,24U,24V 電流センサ、12 昇圧コンバータ、14 インバータ、15 U相アーム、16 V相アーム、17 W相アーム、23 電力変換装置、30 ECU、44 回転センサ、100 交流電動機の制御装置、BT バッテリ、C1,C2 コンデンサ、D1~D8 ダイオード、L1 リアクトル、MG モータジェネレータ、PL1,PL2 電源ライン、Q1~Q8 スイッチング素子、SL 接地ライン、UL,VL,WL コイル。