(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-21
(45)【発行日】2024-10-29
(54)【発明の名称】電力変換システム
(51)【国際特許分類】
H02M 3/155 20060101AFI20241022BHJP
【FI】
H02M3/155 C
(21)【出願番号】P 2021029773
(22)【出願日】2021-02-26
【審査請求日】2023-08-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】前田 英樹
【審査官】上野 力
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-048513(JP,A)
【文献】特開2009-303329(JP,A)
【文献】特開2011-229247(JP,A)
【文献】特開2012-080674(JP,A)
【文献】特開2019-047633(JP,A)
【文献】特開2009-171702(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 3/155
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
設定されたキャリア周波数で作動することにより電圧を昇圧するように構成されたコンバータと、
前記コンバータを流れる電流を検出する電流センサと、
前記コンバータを保護するための制御を実行する制御装置と
、
予め定められた複数の関係を記憶する記憶部とを備え、前記複数の関係の各々は、前記電流センサの検出値と、前記コンバータの温度上昇量との関係を前記コンバータの昇圧前後の電圧比および前記キャリア周波数の組み合わせごとに示し、
前記制御装置は、
前記複数の関係の中から、前
記電圧比および前記キャリア周波数
に応じた関係を選択し、
選択された関係を用いて、前記検出値に従って、前記温度上昇量を推定し、
前記温度上昇量の積算値がしきい値に到達した場合に、前記コンバータを流れる電流を抑制するための制御を実行する、電力変換システム。
【請求項2】
前記コンバータを流れる電流を抑制するための制御は、前記積算値が前記しきい値に到達する直前よりも前記キャリア周波数を高くする
制御を含む、請求項
1に記載の電力変換システム。
【請求項3】
前記コンバータは、蓄電装置と負荷装置との間に電気的に接続されており、
前記制御装置は、前記蓄電装置に入出力される電力が前記蓄電装置の充電電力上限値および放電電力上限値にそれぞれ制限されるように前記負荷装置を制御し、
前記コンバータを流れる電流を抑制するための制御は、前記積算値が前記しきい値に到達する直前よりも前記充電電力上限値および前記放電電力上限値を小さくする
制御を含む、請求項
1に記載の電力変換システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電力変換システムに関し、特に、コンバータを備える電力変換システムに関する。
【背景技術】
【0002】
特開2011-049032号公報(特許文献1)は、コンバータを保護可能な制御システムを開示する。この制御システムは、電池と、昇降圧コンバータ回路と、電流センサと、制御部とを備える。電流センサは、昇降圧コンバータ回路に流れる電流を検出する。制御部は、電流センサの検出値の二乗積算値を、昇降圧コンバータ回路を保護するためのしきい値と比較する。上記積算値がしきい値以下であるとき、制御部は、電池昇温制御を継続する。他方、上記積算値が閾値よりも大きくなったとき、制御部は、電池昇温制御を停止して、昇降圧コンバータ回路を過熱から保護する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
コンバータを流れる電流には、直流成分に加えてリップル成分が含まれる。そして、直流成分の大きさが同じであっても、リップル成分が大きくなるにつれて、コンバータの温度上昇量がより大きくなる。ここで、電流センサは、その検出精度によっては、リップル成分を正確に検出できないものも多い。そのため、コンバータの過熱保護を目的として当該電流センサの検出値に従ってコンバータの温度上昇量が推定される場合、電流センサの検出値に対してリップル成分が常に最大であると仮定された条件の下でコンバータの温度上昇量が推定されることも考えられる。しかしながら、そのように推定された温度上昇量に基づいてコンバータの過熱保護が実行されると、コンバータの保護が過剰になる。特許文献1においては、このような問題について特に検討されていない。
【0005】
本開示は、上記問題を解決するためになされたものであり、その目的は、コンバータを備える電力変換システムにおいて、コンバータを流れる電流を検出する電流センサの検出値に従ってコンバータを過熱から適切に保護することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の電力変換システムは、コンバータと、電流センサと、制御装置とを備える。コンバータは、設定されたキャリア周波数で作動することにより電圧を昇圧するように構成される。電流センサは、コンバータを流れる電流を検出する。制御装置は、コンバータを保護するための制御を実行する。制御装置は、コンバータの昇圧前後の電圧比およびキャリア周波数の少なくとも一方と、電流センサの検出値とに従って、コンバータの温度上昇量を推定し、温度上昇量の積算値がしきい値に到達した場合に、コンバータを流れる電流を抑制するための制御を実行する。
【0007】
上記の構成では、電流センサの検出値のみならず、リップル成分に影響するコンバータの電圧比およびキャリア周波数の少なくとも一方に基づいてコンバータの温度上昇量が推定される。このように、コンバータの電圧比およびキャリア周波数の少なくとも一方が考慮されるため、リップル成分が最大であると仮定された条件の下でコンバータの過熱保護が実行されなくてもよい。その結果、コンバータを過熱から適切に保護することが可能となる。
【0008】
電力変換システムは、電流センサの検出値と、電圧比およびキャリア周波数の少なくとも一方と、温度上昇量との予め定められた関係を記憶する記憶部をさらに備えていてもよい。制御装置は、電圧比およびキャリア周波数の少なくとも一方と予め定められた関係とを用いて、電流センサの検出値に従って、温度上昇量を推定してもよい。
【0009】
上記の構成では、予め用意された上記関係に基づいてコンバータの温度上昇量が推定される。その結果、電力変換システムの構成を簡易にしつつ、コンバータを過熱から適切に保護することが可能となる。
【0010】
制御装置は、積算値がしきい値に到達した場合に、積算値がしきい値に到達する直前よりもキャリア周波数を高くしてもよい。
【0011】
上記の構成では、コンバータのキャリア周波数がより高くなるため、コンバータに流れる電流のリップル振幅が低減される。その結果、コンバータにおける温度上昇量が低減されるため、コンバータを過熱から保護することが可能となる。
【0012】
コンバータは、蓄電装置と負荷装置との間に電気的に接続されていてもよい。制御装置は、蓄電装置に入出力される電力が蓄電装置の充電電力上限値および放電電力上限値にそれぞれ制限されるように負荷装置を制御してもよい。そして、制御装置は、積算値がしきい値に到達した場合に、積算値がしきい値に到達する直前よりも充電電力上限値および放電電力上限値を小さくしてもよい。
【0013】
これにより、コンバータを流れる電流が抑制されるため、コンバータにおける温度上昇量が低減される。その結果、コンバータを過熱から保護することが可能となる。
【発明の効果】
【0014】
本開示によれば、コンバータを備える電力変換システムにおいて、コンバータを流れる電流を検出する電流センサの検出値に従って、コンバータを過熱から適切に保護することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本実施の形態に係る電力変換システムが適用された車両の全体構成を示す図である。
【
図2】リアクトルを流れる電流のリップル振幅と、昇圧比との関係を示す図である。
【
図3】リアクトルを流れる電流のリップル振幅と、コンバータのキャリア周波数との関係を示す図である。
【
図4】昇圧比およびキャリア周波数に応じたコンバータの温度TCの時間的な推移を示す図である。
【
図5】リアクトルを流れる電流の検出値と、しきい値到達時間との関係を表すマップを示す図である。
【
図6】リアクトルを流れる電流の検出値と、コンバータの温度上昇量との関係を表すテーブルを示す図である。
【
図8】モータECUにより実行される処理の一例を示す図である。
【
図9】本実施の形態においてコンバータ電流抑制制御が実行されるタイミングを説明するための図である。
【
図10】実施の形態の変形例におけるモータECUの機能ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、図中の同一または相当部分には同一の符号を付しており、その説明を繰り返さない。以下の実施形態では、電力変換システムの適用例として示される車両の構成を説明するが、本開示の電力変換システムは、車両用に限定されない。
【0017】
図1は、本実施の形態に係る電力変換システムが適用された車両の全体構成を示す図である。本実施の形態では、車両10が電気自動車である場合を例として説明するが、車両10は、内燃機関がさらに搭載されるハイブリッド車両、または燃料電池がさらに搭載される燃料電池車であってもよい。
【0018】
車両10は、電池パック1と、PCU(Power Control Unit)2と、MG(Motor Generator)3と、車両ECU(Electronic Control Unit)50とを備える。
【0019】
電池パック1は、バッテリ11と、電圧センサ12と、電流センサ13と、温度センサ14と、SMR(System Main Relay)15と、バッテリECU16とを含む。
【0020】
バッテリ11は、充放電可能に構成される蓄電装置である。バッテリ11は、例えば、リチウムイオン電池、ニッケル水素電池または鉛蓄電池などの二次電池である。バッテリ11に代えて、電気二重層キャパシタなどの蓄電素子により構成される蓄電装置が用いられてもよい。バッテリ11は、車両10の車輪(図示せず)の駆動力を発生させるための電力をPCU2に供給する。また、バッテリ11は、MG3(後述)により発電された電力を蓄電可能に構成されている。
【0021】
電圧センサ12は、バッテリ11の電圧Vbを検出する。電流センサ13は、バッテリ11に入出力される電流Ibを検出する。温度センサ14は、バッテリ11の温度Tbを検出する。各センサは、その検出値をバッテリECU16に出力する。
【0022】
SMR15は、バッテリ11とコンバータ21(後述)との間に設けられる。SMR15は、バッテリECU16からの指令に従って開閉される。
【0023】
バッテリECU16は、CPU(Central Processing Unit)などのプロセッサと、ROM(Read Only Memory)およびRAM(Random Access Memory)などのメモリとを含む(いずれも図示せず)。
【0024】
バッテリECU16は、各センサから受ける信号ならびにメモリに記憶されたプログラムおよびマップなどに基づいて、バッテリ11の状態を監視したり、SMR15を制御したりする。一例として、バッテリECU16は、バッテリ11の電流Ib、電圧Vbおよび温度Tbならびに当該メモリに記憶されたプログラムおよびマップなどに基づいて、バッテリ11のSOC(State of Charge)を算出する。バッテリECU16は、算出されたSOCを車両ECU50(後述)へ伝達する。
【0025】
PCU2は、正極線PL1と、負極線NLと、コンデンサC1と、コンバータ21と、正極線PL2と、コンデンサC0と、電圧センサ22,24と、インバータ23と、モータECU4とを含む。
【0026】
正極線PL1は、バッテリ11の正極とコンバータ21(後述)の高電位端とを電気的に接続する。負極線NLは、バッテリ11の負極とコンバータ21の低電位端とを電気的に接続する。電圧VLは、正極線PL1と負極線NLとの間の電圧である。
【0027】
コンデンサC1は、正極線PL1と負極線NLとの間に接続されている。コンデンサC1は、正極線PL1と負極線NLとの間の電圧を平滑化する。
【0028】
電圧センサ24は、コンデンサC1の両端の電圧である電圧VLを検出し、その検出値をモータECU4に出力する。
【0029】
コンバータ21は、昇圧チョッパ回路であって、リアクトルL1と、電流センサ210と、スイッチング素子Q1,Q2と、ダイオードD1,D2とを含む。
【0030】
リアクトルL1は、バッテリ11の正極と、スイッチング素子Q1とスイッチング素子Q2との中間点(接続ノード)との間に電気的に接続されている。
【0031】
電流センサ210は、リアクトルL1を流れる電流ILを検出し、その検出値をモータECU4に出力する。電流センサ210は、電流ILのリップル成分を正確に検出できない。本実施形態では、電流センサ210は、電流ILのリップル成分の最大のピーク値と最小のピーク値との平均に相当する値を検出値として出力する。
【0032】
スイッチング素子Q1,Q2は、正極線PL2と負極線NLとの間に直列に接続されている。スイッチング素子Q1,Q2は、それぞれ、モータECU4からの駆動信号S1,S2に従ってスイッチング動作(オン/オフ動作)を行う。スイッチング素子Q1,Q2は、例えば、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)またはMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)等である。
【0033】
ダイオードD1,D2は、スイッチング素子Q1,Q2にそれぞれ逆並列に接続されている。
【0034】
コンバータ21は、スイッチング素子Q1,Q2がスイッチング動作するようにモータECU4(後述)により制御される。コンバータ21は、設定されたキャリア周波数で作動することにより、電圧VLを昇圧し、昇圧された電圧VHを出力するように構成されている。
【0035】
コンバータ21において、電圧VHと電圧VLとの電圧比(VL/VH)(即ち、昇圧前後の電圧比)は、コンバータ21のスイッチング周期(キャリア周期)に対するスイッチング素子Q1,Q2のオン期間比(デューティ比)により制御される。以下、電圧比(VL/VH)を「昇圧比」と称する。コンバータ21の制御の詳細については後ほど説明する。
【0036】
正極線PL2は、コンバータ21の高電位端とインバータ23(後述)の高電位端とを電気的に接続する。負極線NLは、コンバータ21の低電位端とインバータ23の低電位端とを電気的に接続する。
【0037】
コンデンサC0は、正極線PL2と負極線NLとの間に接続され、その間の電圧を平滑化する。
【0038】
電圧センサ22は、コンデンサC0の両端の電圧である電圧VHを検出し、その検出値をモータECU4に出力する。
【0039】
インバータ23は、U相アーム231と、V相アーム232と、W相アーム233とを含む。U相アーム231は、スイッチング素子Q3,Q4と、スイッチング素子Q3,Q4にそれぞれ逆並列に接続されるダイオードD3,D4とを含む。V相アーム232は、スイッチング素子Q5,Q6と、スイッチング素子Q5,Q6にそれぞれ逆並列に接続されるダイオードD5,D6とを含む。W相アーム233は、スイッチング素子Q7,Q8と、スイッチング素子Q7,Q8にそれぞれ逆並列に接続されるダイオードD7,D8とを含む。
【0040】
スイッチング素子Q3~Q8は、それぞれ、モータECU4からの駆動信号S3~S8に従ってスイッチング動作を行う。
【0041】
インバータ23は、スイッチング素子Q3~Q8がスイッチング動作することにより、コンバータ21から出力される直流電力を交流電力に変換し、変換された交流電力をMG3に出力する。一方、車両10の回生制動時、インバータ23は、MG3により発電された交流電力を直流電力に変換し、その直流電力をコンバータ21に出力する。コンバータ21に出力された直流電力は、コンバータ21における昇圧比(VL/VH)に従って降圧された後、バッテリ11に蓄えられる。
【0042】
MG3は、負荷装置の一例として示されており、3相の永久磁石型同期電動である。MG3において、U相、V相およびW相の3つのコイルの一端が中性点に接続される。U相、V相およびW相のコイルの他端は、U相アーム231、V相アーム232、W相アーム233の中間点にそれぞれ接続されている。MG3の出力トルクが、動力伝達ギヤを通じて駆動輪(いずれも図示せず)に伝達されることにより、車両10が走行する。また、MG3は、車両10の回生制動時には駆動輪の回転力によって発電する。
【0043】
モータECU4は、バッテリECU16と同様に、CPUなどのプロセッサ(図示せず)と、ROMおよびRAMなどにより構成されるメモリ5とを含む。モータECU4は、車両ECU50(後述)と通信可能に構成されており、様々なデータおよび信号を相互にやり取りする。
【0044】
モータECU4は、各センサから受ける信号ならびにメモリ5に記憶されたプログラムおよびマップなどに基づいて、コンバータ21およびインバータ23をパルス幅変調(PWM:Pulse Width Modulation)制御する。モータECU4は、例えば、コンバータ21のPWM制御のキャリア周波数を設定したり、コンバータ21による昇圧後の電圧VHを制御したりする。
【0045】
車両ECU50は、車両10の各種センサから出力される信号などに基づいて、車両10全体を制御する上位ECUである。車両ECU50は、例えば、バッテリECU16から伝達されるバッテリ11のSOCに基づいて、バッテリ11の充電電力上限値Winおよび放電電力上限値Woutを制御する。車両ECU50は、バッテリ11の入出力電力(充電電力および放電電力)が充電電力上限値Winおよび放電電力上限値Woutにそれぞれ制限されるようにMG3のトルクを制御する。
【0046】
コンバータ21を流れる電流には、直流成分に加えてリップル成分が含まれる。リップル成分は、スイッチング素子Q1,Q2によるスイッチング動作に起因して発生する。コンバータ21を流れる電流の直流成分の大きさが同じであっても、リップル成分が大きくなるにつれて、コンバータ21の温度上昇量がより大きくなる。ここで、電流センサ210は、リップル成分を正確に検出できない。そのため、コンバータ21の過熱保護を目的として電流センサ210の検出値に従ってコンバータ21の温度上昇量が推定される場合、電流センサ210の検出値に対してリップル成分が常に最大であると仮定された条件の下でコンバータ21の温度上昇量が推定されることも考えられる。しかしながら、そのように推定された温度上昇量に基づいてコンバータ21の過熱保護制御が実行されると、コンバータ21の保護が過剰になる。
【0047】
上記のような問題に関して、発明者らは、コンバータ21を流れる電流のリップル成分の振幅(以下、「リップル振幅」とも称する)が、コンバータ21の昇圧比(VL/VH)とコンバータ21のPWM制御のキャリア周波数とに応じて変化することに着目した。
【0048】
そこで、本実施の形態に従うモータECU4は、コンバータ21の昇圧比(VL/VH)およびコンバータ21のキャリア周波数と、コンバータ21を流れる電流の検出値とに従ってコンバータ21の温度上昇量を推定する。これにより、電流センサ210の検出値に対してリップル成分が常に最大であると仮定された条件の下で温度上昇量が過剰に見積もられる必要がなくなる。そして、上記のように推定された温度上昇量の積算値がしきい値に到達すると、コンバータ21を流れる電流を抑制するための制御が実行される。以下、当該制御を「コンバータ電流抑制制御」とも称する。コンバータ電流抑制制御の具体例については後述する。
【0049】
以下、本実施の形態に従うモータECU4の制御についてさらに詳しく説明する。また、以下の説明において、コンバータ21を流れる電流の一例として電流ILが用いられる。
【0050】
電流ILのリップル振幅ILpp(ピーク-ピーク値)は、下記の式(1)に示されるように、コンバータ21の電圧VLおよび電圧VHと、コンバータ21のキャリア周波数fcとの関数であることが知られている。
【0051】
ILpp=(VL/L)×(1/fc)×(VH-VL)/VH ・・・(1)
上記の式(1)は、昇圧比(VL/VH=k)について以下のように変形される。
【0052】
ILpp=-(1/L)×(1/fc)×{(k-1/2)
2-1/4}×VH(2)
したがって、
図2の線300に示されるように、昇圧比(VL/VH=k)が0.5である場合に、リップル振幅ILppは、昇圧比(VL/VH)について極大になる。また、コンバータ21において、昇圧後の電圧VHが昇圧前の電圧VL以上であるため(VL≦VH)、昇圧比VL/VH(=k)について0<k≦1が成立する。当該昇圧比が1である場合、リップル振幅ILppは極小になる(値0)。
【0053】
また、式(1),(2)から分かるように、リップル振幅ILppは、キャリア周波数fcが大きくなるにつれて小さくなる。ここで、キャリア周波数fcが下限fcminから上限fcmaxまでの間で設定される場合、
図3の線305に示されるように、キャリア周波数fcが下限fcminのとき、リップル振幅ILppは、キャリア周波数fcについて極大となる。他方、キャリア周波数fcが上限fcmaxのとき、リップル振幅ILppは、キャリア周波数fcについて極小となる。
【0054】
このように、リップル振幅ILppは、昇圧比(VL/VH)およびキャリア周波数fcに関して、昇圧比(VL/VH)が0.5であり、かつ、キャリア周波数fcがfcminであるという条件の下で極大となる。以下、この条件を「リップル振幅極大条件」とも記載する。
【0055】
他方、リップル振幅ILppは、昇圧比(VL/VH)に関して、昇圧比(VL/VH)が1であるという条件の下で極小(即ち、0)となる。以下、この条件を「リップル振幅極小条件」とも記載する。
【0056】
コンバータ21における温度上昇量は、リアクトルL1における発熱量に関係しており、当該発熱量は、電流ILの二乗に関係している。そして、電流ILは、その直流成分とリップル成分とにより構成される。そのため、電流ILの直流成分が同じ場合であっても、電流ILのリップル成分を表すリップル振幅ILppが大きくなるにつれて、当該発熱量がより多くなるため、当該温度上昇量がより大きくなる。このように、当該温度上昇量は、リップル振幅ILppに依存している。
【0057】
リップル振幅ILppは、上式(2)に示されるように、コンバータ21の昇圧比(VL/VH)と、コンバータ21のキャリア周波数fcとの関数である。そのため、コンバータ21における温度上昇量は、コンバータ21の昇圧比(VL/VH)と、コンバータ21のキャリア周波数fcとに依存する。
【0058】
図4を参照して、コンバータ21の昇圧比およびコンバータ21のキャリア周波数に応じてコンバータ21の温度上昇の態様がどのように変わるかについて説明する。
【0059】
図4は、昇圧比(VL/VH)およびキャリア周波数fcに応じたコンバータ21の温度TCの時間的な推移を示す図である。
図4において、横軸は、温度TCが初期温度T0である時点から経過した時間tを表し、縦軸はコンバータ21の温度TCを表す。
【0060】
図4を参照して、一点鎖線により表される線402,410および420は、それぞれ、電流ILがIa,IbおよびIcである状態が仮に継続した場合において、リップル振幅極大条件の下での温度TCの時間的な推移を示す。リップル振幅ILppが大きくなるにつれてコンバータ21の温度上昇量がより大きくなるため、リップル振幅極大条件の下で、リップル振幅ILppによるコンバータ21の温度上昇量への寄与量は極大となる。
【0061】
一方、実線により表される線405,415および425は、それぞれ、電流ILがIa,IbおよびIcである状態が仮に継続した場合において、リップル振幅極小条件の下での温度TCの時間的な推移を示す。リップル振幅ILppが小さくなるにつれてコンバータ21の温度上昇量がより小さくなるため、リップル振幅極小条件の下で、リップル振幅ILppによるコンバータ21における温度上昇量への寄与量は極小となる。
【0062】
しきい値温度TTHは、コンバータ21を過熱から保護するために実験などにより適宜予め定められる。しきい値温度TTHは、例えばリアクトルL1における発熱量ならびにコンバータ21を構成する部品の比熱および使用可能温度に基づいて定められる。
【0063】
時間tTH1,tTH2およびtTH3は、それぞれ、電流ILがIa,IbおよびIcである状態が仮に継続した場合におけるリップル振幅極大条件の下での、温度TCが所定の初期温度T0からしきい値温度THに到達するまでの時間である。以下、温度TCが所定の初期温度T0からしきい値温度THに到達するまでの時間を「しきい値到達時間」とも称する。しきい値到達時間は、コンバータ21の初期温度T0からの温度上昇量がΔTTHに到達する時間でもある。また、初期温度T0は、例えば、予め定められる。
【0064】
また、時間tTH1’,tTH2’およびtTH3’は、それぞれ、電流ILがIa,IbおよびIcである状態が仮に継続した場合におけるリップル振幅極小条件の下でのしきい値到達時間である。
【0065】
コンバータ21の温度TCがしきい値温度THに到達すると、リアクトルL1による発熱に起因してコンバータ21が過熱されることを防止するために、コンバータ電流抑制制御が実行される。
【0066】
コンバータ電流抑制制御の一例として、バッテリ11の充電電力上限値Winおよび放電電力上限値Woutを、しきい値到達時間が経過する直前よりも小さくするための制御が挙げられる。例えば、放電電力上限値Woutがより小さくされた場合、トルク指令値に従うMG3のトルクを得るためにバッテリ11から放電される電力が、当該より小さくされた放電電力上限値以上である場合、モータECU4は、バッテリ11からの放電電力を制限するためにMG3のトルクが制限されるようにインバータ23を制御する。これにより、コンバータ21に供給される電力が、しきい値到達時間の経過前の当該電力に比べて制限されるため、コンバータ21を流れる電流ILが抑制される。その結果、コンバータ21の過熱が防止される。
【0067】
ここで、図示されるように、電流ILの検出値が同じ場合であっても、しきい値到達時間は、昇圧比(VL/VH)およびキャリア周波数fcに応じて異なる。例えば、線402と線405とに関して、電流ILの検出値が同じIaであっても、線405の場合の昇圧比(VL/VH)は、リップル振幅ILppが極小となる1であり(
図2)、線402の場合の昇圧比(VL/VH)は、リップル振幅ILppが極大となる0.5である(
図2)。そして、線405の場合のキャリア周波数fcは、線402の場合のキャリア周波数fcよりも大きい(
図3)。
【0068】
そのため、線405の場合のリップル振幅ILppは、線402の場合のリップル振幅ILppよりも小さい。リップル成分が小さいほどコンバータ21の温度上昇量が小さいため、線405の場合の、単位時間あたりのコンバータ21の温度上昇量は、線402の場合の当該温度上昇量よりも小さい。したがって、線405の場合のしきい値到達時間としてのtTH1’は、線402の場合のしきい値到達時間としてのtTH1よりも長い。
【0069】
このように、しきい値到達時間は、リップル振幅ILpp(具体的には、昇圧比およびキャリア周波数fc)に依存して異なる。他方、電流センサ210は、電流ILのリップル成分を正確に検出できない。
【0070】
ここで、電流ILのリップル成分が正確に検出されないという前提の下で、リップル振幅極大条件が常に満たされているという仮定の下でコンバータ21の温度上昇量が見積もられることは、コンバータ21の過剰な保護を招く。
【0071】
例えば、上記の条件が実際のリップル振幅ILppを正確に反映していない場合、コンバータ電流抑制制御が不必要に早いタイミングにおいて実行される可能性がある。具体的には、不必要に早いタイミングとは、実際にはコンバータ21の温度TCがしきい値温度THまで上昇していないため当該制御が未だ実行される必要がない場合において当該制御が実行されるタイミングをいう。
【0072】
コンバータ電流抑制制御として、例えば、バッテリ11の充電電力上限値Winおよび放電電力上限値Woutが、しきい値到達時間が経過する直前よりも小さくされると、しきい値到達時間の経過後においてMG3のトルクが制限される場合が多くなる。この場合、車両10の走行性能が低下する。そのため、当該制御が実行されるタイミングは、コンバータ21が過熱から保護される範囲内で可能な限り遅いことが好ましい。
【0073】
そこで、本実施の形態では、リップル振幅極大条件が常に満たされていると仮定された状況においてコンバータ21が保護される場合とは異なり、昇圧比(VL/VH)およびキャリア周波数fcが考慮された状況において、コンバータ21の過熱保護制御(コンバータ電流抑制制御)が実行される。
【0074】
図5を参照して、リップル振幅ILppが極大となる場合と、リップル振幅ILppが極小となる場合とにおいて、しきい値到達時間がどのように異なるかをさらに詳しく説明する。
【0075】
図5は、電流ILの検出値と、しきい値到達時間との関係を表すマップ500,505を示す図である。
図5の上段および下段において、縦軸は電流ILの検出値を表し、横軸は
図4におけるしきい値到達時間を表す。マップ500,505は、実験などにより予め定められており、モータECU4のメモリ5(
図1)に予め記憶されている。
【0076】
図5の上段を参照して、マップ500は、リップル振幅極大条件の下で電流ILの検出値が仮に継続して得られた場合のしきい値到達時間を表している。マップ500は、線402,410および420(
図4)にそれぞれ関連して示されるしきい値到達時間tTH1,tTH2およびtTH3をも表す。
【0077】
他方、
図5の下段を参照して、マップ505は、リップル振幅極小条件の下で電流ILの検出値が仮に継続して得られた場合のしきい値到達時間を表している。マップ505は、線405,415および425(
図4)にそれぞれ関連して示されるしきい値到達時間tTH1’,tTH2’およびtTH3’をも表す。
【0078】
このように、マップ500,505は、電流ILの検出値と、しきい値到達時間との関係を、コンバータ21の昇圧比(VL/VH)およびキャリア周波数fcに応じて予め規定している。また、メモリ5は、昇圧比(VL/VH)およびキャリア周波数fcの他の組み合わせに応じて上記関係を予め規定している他の複数のマップ(図示せず)をさらに記憶している。
【0079】
このように、実験などに基づいて予め用意されたマップが用いられることにより、コンバータ過熱保護制御のための構成を簡易化することが可能となる。
【0080】
モータECU4は、メモリ5に記憶されているマップ500,505および当該他の複数のマップのうち、コンバータ21の昇圧比(VL/VH)およびキャリア周波数fcに対応するマップを選択する。モータECU4は、例えば、当該昇圧比(VL/VH)が0.5であり、かつ、キャリア周波数fcがfcminである場合、マップ500を選択する。また、モータECU4は、例えば、当該昇圧比(VL/VH)が1であり、かつ、キャリア周波数fcがfcmaxである場合、マップ505を選択する。
【0081】
次いで、モータECU4は、電流ILの検出値と、選択されたマップとに基づいて、当該検出値に対応するしきい値到達時間tTHを取得する。例えば、当該検出値がIL1であり、かつ、マップ505が選択された場合、当該検出値が仮に継続して得られた場合のしきい値到達時間tTHは、tTH1’である。このように選択されたマップに従って取得されたしきい値到達時間tTHは、以下に説明されるように、コンバータ21の温度上昇量の推定のために利用される。
【0082】
図6を参照して、取得されたしきい値到達時間tTHに従ってコンバータ21の温度上昇量を推定するための手法について説明する。
【0083】
図6は、電流ILの検出値と、コンバータ21の温度上昇量ΔTCとの関係を表すテーブル600を示す図である。具体的には、テーブル600は、昇圧比(VL/VH)がVLa/VHaであり、かつ、キャリア周波数fcがfcaである場合の当該関係を記憶している。テーブル600は、モータECU4のメモリ5に予め記憶されている。テーブル600は、列605と、列610と、列615を含む。列605は、電流ILの検出値を表す。
【0084】
列610は、当該検出値に対応するしきい値到達時間tTHを表す。当該しきい値到達時間は、仮に当該検出値が継続して得られた場合のしきい値到達時間である。
図5を参照して説明されたように、しきい値到達時間tTHは、昇圧比(VL/VH)およびキャリア周波数fcに応じて変化するため、これらの関数である。
【0085】
列610は、昇圧比(VL/VH)がVLa/VHaであり、かつ、キャリア周波数fcがfcaであるときの、上記の場合のしきい値到達時間tTHを表す。例えば、電流ILの検出値がIL1である場合、仮に当該検出値が継続して得られた場合のしきい値到達時間tTHは、tTH11である。仮に、(VLa/VHa)が0.5であり、かつ、fcaがfcminである場合(リップル振幅極大条件)、tTH11はtTH1(
図4)である。また、仮に、(VLa/VHa)が1である場合(リップル振幅極小条件)、tTH11はtTH1’(
図4)である。
【0086】
列615は、電流ILに対応するしきい値到達時間tTHに従うコンバータ21の温度上昇量ΔTCを表す。当該温度上昇量は、電流センサ210の検出値のあるサンプリング時刻から次のサンプリング時刻までのサンプリング周期にわたるコンバータ21の温度上昇量である。温度上昇量ΔTCは、以下に説明されるようにしきい値到達時間tTHに基づいて算出されるため、しきい値到達時間tTHと同様に昇圧比(VL/VH)およびキャリア周波数fcの関数である。列615は、昇圧比(VL/VH)がVLa/VHaであり、かつ、キャリア周波数fcがfcaである場合に推定される温度上昇量ΔTCを表す。
【0087】
電流センサ210の検出値は、サンプリング周期TSでモータECU4により取得される。コンバータ21の温度TCは、当該サンプリング時刻から次のサンプリング時刻までのサンプリング周期TSにわたって、リアクトルL1からの発熱に起因して上昇する。ここで、サンプリング周期TSと、サンプリング周期TSにわたるコンバータ21の温度上昇量ΔTCとの関係は、電流ILのある検出値が仮に継続して得られた場合のしきい値到達時間tTHと、当該しきい値到達時間が経過した時点でのコンバータ21のトータルの温度上昇量としてのΔTTH(
図4)との関係と同様であると考えられる。
【0088】
図6の例では、電流ILの検出値がIL1である場合、当該検出値として仮に継続してIL1が得られるとき、しきい値到達時間tTHがtTH11である。ここで、温度TCが、その初期温度T0からしきい値温度TTH(いずれも
図4)に対してどれくらい上昇したかを示す温度上昇率は、百分率を用いて表される。
【0089】
例えば、温度TCが初期温度T0から未だ上昇していない時点において、コンバータ21の温度上昇は0%である。また、温度TCが、初期温度T0としきい値温度TTHとの平均温度まで上昇した時点において、温度上昇は50%である。また、温度TCがしきい値温度TTHまで上昇した時点において、温度上昇は100%である。
【0090】
そのため、サンプリング周期TSごとに温度TCがどれくらい上昇するかも、百分率を用いて表される。例えば、電流ILの検出値として仮に継続してIL1が得られる場合、tTH11の時間間隔にわたる温度上昇率は100%である。そのため、電流ILの検出値がIL1である場合、当該検出値のサンプリング時刻から次のサンプリング時刻までのサンプリング周期TSにわたる温度上昇率は、(TS/tTH11)×100(%)であると推定される。
【0091】
よって、サンプリング周期TSにわたる温度上昇量は、温度TCが初期温度T0である時点からしきい値到達時間tTHの経過時点までのトータルのコンバータ21の温度上昇量(ΔTTH)(
図4)と、上記温度上昇率とに基づいて、(TS/tTH11)×100×ΔTTHと推定される。電流ILの検出値が他の値(例えば、IL2またはIL3)である場合においても、サンプリング周期TSにわたる温度上昇量ΔTCは、同様に推定される(列615)。
【0092】
なお、メモリ5は、テーブル600に加えて、昇圧比(VL/VH)およびキャリア周波数fcが他の組み合わせの値を取る場合の温度上昇量ΔTCの算出用のテーブル620,630などのテーブルをも記憶している。
【0093】
例えば、テーブル620は、昇圧比(VL/VH)がVLb/VHbであり、かつ、キャリア周波数fcがfcbである場合の、サンプリング周期TSにわたる温度上昇量ΔTCの算出用のテーブルである。また、テーブル630は、昇圧比(VL/VH)がVLc/VHcであり、かつ、キャリア周波数fcがfccである場合の、サンプリング周期TSにわたる温度上昇量ΔTCの算出用のテーブルである。
【0094】
このように、モータECU4は、サンプリング時刻における電流センサ210の検出値に従って、当該サンプリング時刻から次のサンプリング時刻までのサンプリング周期TSにわたる温度上昇量ΔTCを推定する。ここで、温度上昇量ΔTCは、リップル振幅極大条件が常に満たされているという仮定の下で見積もられる温度上昇量とは異なり、サンプリング時刻におけるコンバータ21の実際の昇圧比(VL/VH)およびキャリア周波数fcを反映している。
【0095】
そして、コンバータ21の温度上昇量ΔTCの積算値がしきい値としてのΔTTH(
図4)に到達する時刻において、コンバータ21の温度TCがしきい値温度THに到達すると推定されるため、コンバータ電流抑制制御が実行される。なお、当該積算値は、温度TCが初期温度T0である時点からの、温度上昇量ΔTCの積算値である。
【0096】
このようにコンバータ電流抑制制御が実行されるため、コンバータ21を流れる電流(電流IL)が抑制されるタイミングは、リップル振幅極大条件の下で算出されるタイミングのように不必要に早められることがない。即ち、コンバータ21が過熱から保護される範囲内で、コンバータ電流抑制制御が実行されるタイミング(車両10の走行性能が低下するタイミング)を、当該条件の下で算出されるタイミングに比べて遅らせることが可能となる。
【0097】
図7は、モータECU4の機能ブロック図である。モータECU4は、データ選択部702と、温度上昇量推定部705と、しきい値判定部710と、コンバータ電流抑制部715と、キャリア周波数決定部717と、キャリア波生成部720と、駆動信号生成部725とを含む。
【0098】
データ選択部702は、電圧センサ22および電圧センサ24からそれぞれ出力される電圧VHおよび電圧VLを受ける。また、データ選択部702は、キャリア周波数決定部717から出力されるキャリア周波数fcを受ける。データ選択部702は、電圧VLおよび電圧VHから算出される昇圧比(VL/VH)と、キャリア周波数fcとに従って、メモリ5に格納された温度上昇量推定用データ701の中から、当該昇圧比および当該キャリア周波数に対応するデータを選択する。
【0099】
なお、温度上昇量推定用データ701は、電流ILの検出値と、昇圧比(VL/VH)およびキャリア周波数fcと、コンバータ21の温度上昇量ΔTCとの予め定められた関係を規定するデータである。具体的には、温度上昇量推定用データ701は、複数のマップ(例えば、
図5のマップ500,505を含む)および複数のテーブル(例えば、
図6のテーブル600,620,630を含む)により構成される。
【0100】
データ選択部702は、例えば、昇圧比が0.5であり、かつ、キャリア周波数fcがfcminである場合、当該昇圧比および当該キャリア周波数の組み合わせに対応するマップ500(
図5)を選択する。また、この場合、データ選択部702は、当該昇圧比および当該キャリア周波数の組み合わせに対応するテーブル(
図6)を選択する。データ選択部702により選択されたマップおよびテーブルは、温度上昇量推定部705へ出力される。
【0101】
温度上昇量推定部705は、データ選択部702により選択されたデータ(マップおよびテーブル)を用いて、電流ILの検出値に従って、当該検出値のサンプリング時刻から次のサンプリング時刻までのサンプリング周期TS(
図6)にわたるコンバータ21の温度上昇量ΔTCを推定する。推定された温度上昇量ΔTCは、しきい値判定部710へ出力される。
【0102】
しきい値判定部710は、温度上昇量ΔTCの積算値ΔTCSがしきい値としてのΔTTH(
図4)以上であるか否かを判定する。積算値ΔTCSがΔTTH以上である場合、しきい値判定部710は、コンバータ電流抑制制御を実行するようにコンバータ電流抑制部715へ要求を出力する。
【0103】
コンバータ電流抑制部715は、当該要求を受けると、コンバータ21を過熱から保護するために電流ILを抑制するための制御を実行する。電流ILの抑制は、以下に説明されるように、車両ECU50から伝達される充電電力上限値Winおよび放電電力上限値Woutに基づいて実施される。
【0104】
コンバータ電流抑制部715は、しきい値判定部710から上記要求を受けると、充電電力上限値Winおよび放電電力上限値Woutを、しきい値到達時間が経過する直前よりも小さくするように車両ECU50へ要求を出力する。
【0105】
車両ECU50は、当該要求を受けたことに基づいて、しきい値到達時間の経過後のより小さい充電電力上限値Winおよび放電電力上限値Woutを決定する。これらの上限値は、バッテリECU16から伝達されるバッテリ11のSOCおよび温度Tbなどバッテリ11の状態を示す情報に基づいて決定される。HV-ECU50は、しきい値到達時間の経過後の充電電力上限値Winおよび放電電力上限値Woutをコンバータ電流抑制部715へ伝達する。
【0106】
コンバータ電流抑制部715は、しきい値到達時間の経過後のより小さい充電電力上限値Winおよび放電電力上限値WoutをHV-ECU50から受けると、これらの上限値に従って、インバータ23に対する電圧指令値を生成し、その生成された電流指令値を駆動信号生成部725へ出力する。
【0107】
駆動信号生成部725は、キャリア波生成部720により生成されたキャリア波CWIと、当該電圧指令値とを比較する。ここで、キャリア波CWIは、インバータ23のPWM制御に用いられ、インバータ23用のキャリア周波数(図示せず)に基づいて生成される。
【0108】
そして、駆動信号生成部725は、これらの比較結果に応じて論理状態が変化するPWM信号を、駆動信号S3~S8として生成する。駆動信号生成部725は、生成された駆動信号S3~S8を、インバータ23のスイッチング素子Q3~Q8(
図1)にそれぞれ出力する。
【0109】
なお、駆動信号生成部725は、コンバータ21用のキャリア周波数fcに基づいてキャリア波生成部720により生成されたキャリア波CWCと、電圧VHの指令値とをも比較する。そして、比較の結果に基づいて論理状態が変化するPWM信号が、駆動信号S1,S2として生成される。コンバータ21のスイッチング素子Q1,2(
図1)は、駆動信号S1,S2に従って駆動される。
【0110】
上記のように、充電電力上限値Winおよび放電電力上限値Woutに従ってインバータ23が制御される。これにより、車両10の制動時にMG3の回生トルクが制限されたり、車両10の走行時にMG3の力行トルクが制限されたりする。そのため、正極線PL1,PL2および負極線NL(
図1)に供給される電力が制限されるので、電流ILが抑制される。結果として、コンバータ21が過熱から保護される。
【0111】
図8は、モータECU4により実行される処理の一例を示す図である。このフローチャートは、所定の周期ごとに実行される。各センサ値は、当該周期ごとにサンプリングされる。
【0112】
モータECU4は、電圧センサ24から電圧VLの検出値を取得し(S105)、電圧センサ22から電圧VHの検出値を取得する(S110)。そして、モータECU4は、キャリア周波数fc、および昇圧比(VH/VL)に応じた温度上昇量推定用データ701(
図7)を選択する(S115)。
【0113】
次いで、モータECU4は、電流センサ210から電流ILの検出値を取得する(S120)。そして、モータECU4は、キャリア周波数fcおよび昇圧比(VH/VL)と、選択された温度上昇量推定用データ701とを用いて、電流ILの検出値に従って、当該検出値のサンプリング時刻から次のサンプリング時刻までのサンプリング周期TS(
図6)にわたるコンバータ21の温度上昇量ΔTCを推定する(S125)。
【0114】
次いで、モータECU4は、温度上昇量ΔTCの積算値ΔTCS(
図7)がしきい値としてのΔTTH(
図4)以上であるか否かを判定する(S130)。温度上昇量ΔTCの積算値ΔTCSがΔTTH以上である場合(S130においてYES)、モータECU4は、ステップS135へ処理を進める。そうでない場合(S130においてNO)、モータECU4は、ステップS105へ処理を戻す。
【0115】
ステップS135において、モータECU4は、コンバータ21を保護するための制御として、コンバータ21を流れる電流を抑制するための制御を実行する。具体的には、モータECU4は、バッテリ11の充電電力上限値Winおよび放電電力上限値Woutを、しきい値到達時間が経過する直前よりも小さくするように車両ECU50へ要求を出力する。これにより、充電電力上限値Winおよび放電電力上限値Woutがより小さくなる結果、電流ILが抑制される。そして、モータECU4は、その後、リターンへ処理を移行する。
【0116】
図9は、本実施の形態においてコンバータ電流抑制制御が実行されるタイミングを説明するための図である。
図9において、
図5の場合と同様に、縦軸は、電流ILの検出値を表し、横軸は、しきい値到達時間tTHを表し、
図5のマップ500,505が併せて示されている。
【0117】
比較例のモータECUは、リップル振幅極大条件が常に満たされていると仮定されたマップ500を用いて、各サンプリング周期にわたるコンバータの温度上昇量を見積もる。これに対して、本実施の形態のモータECU4は、リップル振幅ILppに関連する昇圧比(VL/VH)およびキャリア周波数fcが考慮されたマップ505を用いて、各サンプリング周期にわたるコンバータ21の温度上昇量ΔTCを推定する。
【0118】
比較例(マップ500)において、電流ILの検出値がILaである状態が継続した場合のしきい値到達時間tTHは、tTHaminである。tTHaminは、リップル振幅極大条件が仮定された状況下でのしきい値到達時間である。この状況下では、リップル振幅ILppによるコンバータ21の温度上昇量への寄与量が極大であることが仮定されている。そのため、tTHaminは、昇圧比(VL/VH)およびキャリア周波数fcが変わり得る範囲内でしきい値到達時間tTHが取り得る値の中で最も短い。その結果、コンバータ電流抑制制御が不必要に早いタイミングにおいて実行され、車両10の走行性能も不必要に早いタイミングにおいて低下する可能性がある。
【0119】
これに対して、本実施の形態において、電流ILの検出値がILaである状態が継続した場合であっても、しきい値到達時間tTHaは、電圧VLおよび電圧VHが検出されるサンプリング時刻における昇圧比(VL/VH)ならびにキャリア周波数fcに応じて変わり得る。
【0120】
具体的には、本実施の形態において、コンバータ21の温度上昇量ΔTCの積算値ΔTCSがしきい値(
図4のΔTTH)に到達するまで、昇圧比(VL/VH)は0.5(
図2)以外であったり、キャリア周波数fcは、fcmin(
図3)以外であったりする。また、昇圧比(VL/VH)およびキャリア周波数fcは、サンプリング時刻ごとに変わる場合もある。そのため、本実施の形態において、しきい値到達時間tTHaは、電流ILのサンプリング時刻における昇圧比(VL/VH)およびキャリア周波数fcに応じて、tTHamin<tTHa<tTHamax(後述)の範囲内(図中の白矢印の範囲内)のいずれかの値を取る。
【0121】
それゆえ、本実施の形態では、しきい値到達時間tTHがtTHaminである比較例とは異なり、コンバータ電流抑制制御が不必要に早いタイミングにおいて実行されない。そのため、車両10の走行性能も不必要に早いタイミングにおいて低下しない。よって、本実施の形態では、コンバータ21が過熱から保護される範囲内でドライバビリティの低下を抑制することが可能となる。
【0122】
なお、tTHamaxは、リップル振幅極小条件の下でのしきい値到達時間である。この条件の下では、リップル振幅ILppが0であるため、リップル振幅ILppによるコンバータ21の温度上昇量への寄与量が極小(0)である。それゆえ、tTHamaxは、昇圧比(VL/VH)およびキャリア周波数fcが変わり得る範囲内でしきい値到達時間tTHが取り得る値の中で最も長い。
【0123】
[変形例]
図10を参照して、実施の形態の変形例について説明する。
図10は、実施の形態の変形例におけるモータECU4の機能ブロック図である。
【0124】
上記の実施の形態において、温度上昇量ΔTCの積算値ΔTCSがしきい値に到達した場合、コンバータ電流抑制部715は、充電電力上限値Winおよび放電電力上限値Woutを制限するように車両ECU50へ要求を出力するものとした。
【0125】
これに対して、実施の形態の変形例では、コンバータ電流抑制部715は、上記の場合、積算値ΔTCSがしきい値に到達する直前よりもコンバータ21のキャリア周波数fcを高くするようにキャリア周波数決定部717に指令を出力する。これにより、リップル振幅ILppがより小さくなるため(
図2)、電流ILのリップル成分が減少する。その結果、電流ILが、リップル成分の減少分だけ抑制される。
【0126】
キャリア周波数fcが高められる場合、キャリア周波数決定部717は、上記指令を受けると、高められた後のキャリア周波数fcを決定する。キャリア周波数決定部717は、高められた後のキャリア周波数fcをデータ選択部702およびキャリア波生成部720へ出力する。
【0127】
キャリア波生成部720は、高められた後のキャリア周波数fcに基づいてコンバータ21のPWM制御のキャリア波CWCを生成する。駆動信号生成部725は、高められた後のキャリア波CWCに従ってコンバータ21のPWM制御を実行するための駆動信号S1,S2(
図1)を生成する。コンバータ21は、当該駆動信号に基づくデューティ比に従って駆動される。
【0128】
これにより、コンバータ21を流れる電流ILのリップル振幅ILppが、キャリア周波数fcが高められる前の当該振幅よりも小さくなる。そのため、電流ILがリップル振幅ILppの減少分だけ抑制される。よって、リアクトルL1における発熱量が減少するため、コンバータ21の温度上昇量が低減される。その結果、コンバータ21が過熱から保護される。このように、温度上昇量ΔTCの積算値ΔTCSがしきい値に到達した場合、コンバータ電流抑制部715は、積算値ΔTCSがしきい値に到達する直前よりもコンバータ21のキャリア周波数fcを高くしてもよい。
【0129】
[その他の変形例]
上述の実施の形態では、モータECU4は、コンバータ21の昇圧比(VL/VH)およびキャリア周波数fcに従ってコンバータ21の温度上昇量ΔTCを推定するものとした。これに対して、モータECU4は、コンバータ21の昇圧比(VL/VH)およびキャリア周波数fcのいずれか一方に従ってコンバータ21の温度上昇量ΔTCを推定してもよい。
【0130】
この場合、温度上昇量推定用データ701は、コンバータ21の昇圧比(VL/VH)およびキャリア周波数fcのいずれか一方に応じて、電流ILの検出値と、コンバータ21の温度上昇量ΔTCとの予め定められた関係を規定している。例えば、温度上昇量推定用データ701は、コンバータ21の昇圧比(VL/VH)およびキャリア周波数fcのいずれか一方ごとの上記関係を規定している。
【0131】
そして、モータECU4は、昇圧比(VL/VH)およびキャリア周波数fcのいずれか一方に従って、当該いずれか一方に対応するデータを温度上昇量推定用データ701から選択する。モータECU4は、当該いずれか一方と選択されたデータとを用いて、電流ILの検出値に従って、当該検出値のサンプリング時刻から次のサンプリング時刻までのサンプリング周期TSにわたるコンバータ21の温度上昇量ΔTCを推定する。
【0132】
また、上述の実施の形態では、コンバータ21を流れる電流として、電流ILを流れる電流が用いられたが、これに限定されない。例えば、バッテリ11を流れる電流Ibが、電流ILに代えて用いられてもよい。この場合、電流センサ210は設けられていなくてもよく、モータECU4は、バッテリECU16および車両ECU50を通じて伝達される電流センサ13の検出値に従ってコンバータ21の温度上昇量ΔTCを推定する。
【0133】
また、上述の実施の形態では、モータECU4がメモリ5を含むものとしたが、メモリ5は、モータECU4とは異なる構成要素として設けられていてもよい。
【0134】
なお、前述の実施の形態およびその変形例において、モータECU4および車両ECU50は、本開示における「制御装置」の一例に該当する。また、PCU2および車両ECU50は、本開示における「電力変換システム」の一例に該当する。
【0135】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した説明ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0136】
2 PCU、3 MG、4 モータECU、5 メモリ、50 車両ECU、11 バッテリ、12,22,24 電圧センサ、13,210 電流センサ、21 コンバータ、23 インバータ、500,505 マップ、600,620,630 テーブル、701 温度上昇量推定用データ、702 データ選択部、705 温度上昇量推定部、710 しきい値判定部、715 コンバータ電流抑制部、717 キャリア周波数決定部、IL,Ib 電流、ILpp リップル振幅、L1 リアクトル、VH,VL,Vb 電圧、Win 充電電力上限値、Wout 放電電力上限値、fc キャリア周波数。