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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-21
(45)【発行日】2024-10-29
(54)【発明の名称】サンプル回収装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 1/10 20060101AFI20241022BHJP
【FI】
G01N1/10 H
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021054199
(22)【出願日】2021-03-26
(65)【公開番号】P2022151227
(43)【公開日】2022-10-07
【審査請求日】2023-11-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000006507
【氏名又は名称】横河電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100188307
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 昌宏
(74)【代理人】
【識別番号】100195534
【弁理士】
【氏名又は名称】内海 一成
(72)【発明者】
【氏名】井上 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】田口 朋之
(72)【発明者】
【氏名】片山 浩之
【審査官】三木 隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-195283(JP,A)
【文献】特開2020-045298(JP,A)
【文献】特表2011-520109(JP,A)
【文献】特開2007-292565(JP,A)
【文献】実開平07-039942(JP,U)
【文献】特表2017-503489(JP,A)
【文献】特表2004-520081(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0051282(US,A1)
【文献】超遠心機・高速冷却遠心機テクニカルノート 連続処理遠心の原理 - JCF-Z ロータと CF-32 Ti ロータ -,ベックマン・コールター ライフサイエンス,2015年01月31日,https://ls.beckmancoulter.co.jp/files/appli_note/Continuous_centrifugal.pdf
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 1/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回収対象と夾雑物とを含む試料水を受け入れて前記夾雑物の少なくとも一部を沈降させることによって前記試料水から除去し、上清として送り出す連続遠心機と、
前記上清から前記回収対象を吸着して回収するフィルタと
前記試料水を前記連続遠心機に送り込む配管に設置された第1バルブと、
前記回収対象を含まない無菌溶液を前記連続遠心機に送り込む配管に設置された第2バルブと
を備え、
前記第1バルブは、前記連続遠心機の回転数が所定値未満である場合に閉じ、前記連続遠心機の回転数が前記所定値以上になった場合に開き、
前記第2バルブは、前記第1バルブが閉じている間に開く、サンプル回収装置。
【請求項2】
回収対象と夾雑物とを含む試料水を受け入れて前記夾雑物の少なくとも一部を沈降させることによって前記試料水から除去し、上清として送り出す連続遠心機と、
前記上清から前記回収対象を吸着して回収するフィルタと、
前記上清に混合する添加液を、前記連続遠心機から前記フィルタまでの間を接続する配管に送り込む第1ポンプと
を備える、サンプル回収装置。
【請求項3】
前記連続遠心機は、第1連続遠心機と第2連続遠心機とを含み、
前記第1連続遠心機の遠心処理条件と前記第2連続遠心機の遠心処理条件とが互いに異なる、請求項1又は2に記載のサンプル回収装置。
【請求項4】
前記試料水を前記連続遠心機に送り込む前に前記試料水に対して所定の処理を実行する前処理部を更に備える、請求項1から3までのいずれか一項に記載のサンプル回収装置。
【請求項5】
前記前処理部は、前記所定の処理として、前記試料水に界面活性剤を添加する処理、前記試料水の水素イオン濃度を調整する処理、又は、前記試料水に超音波を印加する処理のうち少なくとも1つの処理を実行する、請求項4に記載のサンプル回収装置。
【請求項6】
前記上清を加圧して前記フィルタに送り込む加圧部を更に備える、請求項1から5までのいずれか一項に記載のサンプル回収装置。
【請求項7】
前記連続遠心機に前記試料水を送り込む第2ポンプと、
前記連続遠心機と前記第2ポンプと前記第1ポンプとを制御する制御装置と
を更に備え、
前記制御装置は、前記連続遠心機の遠心ロータの回転数と、前記第2ポンプの流量と、前記第1ポンプの流量とを関連させて制御する、請求項2に記載のサンプル回収装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、サンプル回収装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、フィルタの上流にフィルタより孔の粗いプレフィルタを設置することによって下流のフィルタを目詰まりしにくくする水処理方法が知られている(例えば特許文献1参照)。また、遠心分離により得られた上清を用いて分析用試料を調製する方法が知られている(例えば特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2013-39047号公報
【文献】特開2020-139789号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
処理水中のウイルス又は微生物等をフィルタで回収する装置において、フィルタの上流にプレフィルタを設置した場合、プレフィルタがウイルス又は微生物等に影響を及ぼし得る。フィルタの上流に遠心分離機を設置した場合、遠心分離機からの上清の回収に時間がかかる。
【0005】
本開示は、試料水中のウイルス又は微生物等の回収作業時間を短縮しつつ回収作業がウイルス又は微生物等に及ぼす影響を低減できるサンプル回収装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
幾つかの実施形態に係るサンプル回収装置は、回収対象と夾雑物とを含む試料水を受け入れて前記夾雑物の少なくとも一部を沈降させることによって前記試料水から除去し、上清として送り出す連続遠心機と、前記上清から前記回収対象を吸着して回収するフィルタとを備える。このようにすることで、連続遠心機で連続遠心処理して得られた上清が留置されることなく陰電荷膜に送り込まれる。その結果、遠心分離の上清を留置する場合と比較して回収処理時間が短縮され得る。また、プレフィルタが用いられないことによって、プレフィルタによる回収対象の損失が低減され得る。また、プレフィルタの目詰まりのような試料水の流れを妨げる問題が生じにくい。その結果、夾雑物を除去する処理が回収対象に及ぼす影響が低減され得る。
【0007】
一実施形態において、前記サンプル回収装置は、前記試料水を前記連続遠心機に送り込む配管に設置された第1バルブと、前記回収対象を含まない無菌溶液を前記連続遠心機に送り込む配管に設置された第2バルブとを更に備えてよい。前記第1バルブは、前記連続遠心機の回転数が所定値未満である場合に閉じ、前記連続遠心機の回転数が前記所定値以上になった場合に開いてよい。前記第2バルブは、前記第1バルブが閉じている間に開いてよい。このようにすることで、連続遠心機の状態が夾雑物を十分に沈降させられる状態になった後で試料水を送り込むことができる。その結果、試料水の損失が減らされ得る。また、連続遠心機の状態が夾雑物を十分に沈降させられる状態でない場合に無菌溶液を送り込むことによって、連続遠心機及び配管に後で送り込まれる試料水の汚染が低減され得る。
【0008】
一実施形態において、前記連続遠心機は、第1連続遠心機と第2連続遠心機とを含んでよい。前記第1連続遠心機の遠心処理条件と前記第2連続遠心機の遠心処理条件とが互いに異なってよい。このようにすることで、試料水の遠心処理条件の自由度が高められ得る。その結果、上清に含まれる夾雑物の除去率又は回収対象の残留率の少なくとも一方が向上されるように遠心処理条件を設定することが容易になり得る。
【0009】
一実施形態において、前記サンプル回収装置は、前記試料水を前記連続遠心機に送り込む前に前記試料水に対して所定の処理を実行する前処理部を更に備えてよい。このようにすることで、試料水に含まれる回収対象が試料水の中で浮遊状態になりやすい。その結果、回収対象が上清に残留しやすくなる。
【0010】
一実施形態において、前記前処理部は、前記所定の処理として、前記試料水に界面活性剤を添加する処理、前記試料水の水素イオン濃度を調整する処理、又は、前記試料水に超音波を印加する処理のうち少なくとも1つの処理を実行してよい。このようにすることで、試料水に含まれる回収対象が試料水の中で浮遊状態になりやすい。その結果、回収対象が上清に残留しやすくなる。
【0011】
一実施形態において、前記サンプル回収装置は、前記上清を加圧して前記フィルタに送り込む加圧部を更に備えてよい。このようにすることで、連続遠心機から上清を送り出す圧力だけで上清が陰電荷膜を透過できない場合でも上清が陰電荷膜を透過できる。その結果、回収作業時間の短縮又は回収作業が回収対象に及ぼす影響の低減が実現され得る。
【0012】
一実施形態において、前記サンプル回収装置は、前記上清に混合する添加液を、前記連続遠心機から前記フィルタまでの間を接続する配管に送り込む第1ポンプを更に備えてよい。このように、上清に添加液が混合されることによって、陰電荷膜における回収対象の吸着効率が向上し得る。
【0013】
一実施形態において、前記サンプル回収装置は、前記連続遠心機に前記試料水を送り込む第2ポンプと、前記連続遠心機と前記第2ポンプと前記第1ポンプとを制御する制御装置とを更に備えてよい。前記制御装置は、前記連続遠心機の遠心ロータの回転数と、前記第2ポンプの流量と、前記第1ポンプの流量とを関連させて制御してよい。このようにすることで、夾雑物が沈降する速度又は試料水と添加液との混合比率の少なくとも一方が所定範囲内に制御され得る。その結果、夾雑物の除去率の向上又は陰電荷膜における回収対象の吸着効率の向上の少なくとも一方が実現され得る。
【発明の効果】
【0014】
本開示に係るサンプル回収装置によれば、試料水中のウイルス又は微生物等の回収作業時間の短縮と、回収作業がウイルス又は微生物等に及ぼす影響の低減とが実現され得る。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】第1比較例に係る、プレフィルタをフィルタの上流に設置する構成を表すブロック図である。
図2】第2比較例に係る、遠心分離機の上清をフィルタに送り込む構成を表すブロック図である。
図3】一実施形態に係るサンプル回収装置の構成例を示す模式図である。
図4】連続遠心機の遠心ロータの回転数が所定値に到達するまでの期間におけるサンプル回収装置の液の流れを示す模式図である。
図5】連続遠心機の遠心ロータの回転数が所定値に到達した後におけるサンプル回収装置の液の流れを示す模式図である。
図6】一実施形態に係るサンプル回収方法の手順例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本開示に係る実施形態が図面を参照して説明される。
【0017】
(比較例)
試料水中に夾雑物がある場合、目的とする孔径フィルタに試料水を送り込む前に、夾雑物を低減させることが考えられる。
【0018】
<第1比較例>
第1比較例として、フィルタの上流に設置したプレフィルタでプレろ過を実施する構成が説明される。図1に示されるように、第1比較例に係る構成は、プレフィルタ90と、フィルタ91とを備える。プレフィルタ90は、回収対象93と夾雑物94とを含む試料水92をプレろ過して、試料水92から夾雑物94を除去する。プレフィルタ90でプレろ過された水はプレ処理水95とも称される。プレ処理水95は、回収対象93を含む。フィルタ91は、プレ処理水95から回収対象93を回収する。フィルタ91は、回収対象93を回収した水を排水として送り出す。
【0019】
複数のフィルタカートリッジを用いる場合、平膜フィルタを重ねる構成、又は、プレろ過層を重ねる構成等が採用され得る。ここで、フィルタ91が回収対象93としてのウイルス又は微生物等を陰電荷膜法で回収するように構成されるとする。陰電荷膜法において、フィルタ91に回収対象93を吸着した後、フィルタ91から回収対象93が誘出されることによって回収対象93が回収される。そして、陰電荷膜法において、フィルタ91を透過される溶液のpH変動によってフィルタ91への回収対象93の脱着が制御される。そうしてみると、孔径の異なるプレフィルタ90をフィルタ91に層状に重ねることによって、回収対象93として必要でない要素が誘出され得る。
【0020】
また、陰電荷膜法において、電荷を帯びた回収対象93がフィルタ91の電荷によって吸着される。プレフィルタ90が電荷を帯びている材料を含んで構成されている場合、プレろ過の段階で、電荷を帯びた回収対象93に損失が生じ得る。回収対象93の損失を減らすように、プレフィルタ90の材質の選択に注意が必要である。
【0021】
以上述べてきたように、第1比較例に係る構成は、回収対象93の回収に影響を及ぼし得る。
【0022】
<第2比較例>
第2比較例として、遠心分離機の上清をフィルタに送り込む構成が説明される。図2に示されるように、第2比較例に係る構成は、遠心分離機96と、フィルタ91とを備える。遠心分離機96は、回収対象93と夾雑物94とを含む試料水92に対して遠心分離を実行することによって、夾雑物94を沈降させて上清を回収する。上清は、回収対象93を含むプレ処理水95としてフィルタ91に送り込まれる。フィルタ91は、プレ処理水95から回収対象93を回収する。フィルタ91は、回収対象93を回収した水を排水として送り出す。
【0023】
遠心分離機96は、ピペッティング又はデカンテーションによって、遠心分離機96の遠沈管から上清を排出して回収することで処理を完了させる。遠心分離機96の遠沈管は、図2において、回収対象93、夾雑物94及びプレ処理水95が存在する部分に対応する。回収された上清は、一時的に上清回収容器に貯えられる。したがって、上清を次工程のフィルタ91に送り込むまでに待機時間が生じ得る。つまり、第2比較例に係る構成において、回収作業にかかる時間が増大し得る。また、一般的な遠心分離機の場合、一度に処理できる容量が限られる。処理可能容量を超える試料水92を処理する場合、サンプルセット、加速及び減速、並びにサンプルの回収等の工程を繰り返し行う必要がある。
【0024】
<比較例の小括>
以上述べてきたように、比較例に係る構成は、種々の課題を有する。そこで、これらの課題を解決することが求められる。以下、これらの課題を解決できるように、又は、これらの課題のうち少なくとも一部の課題を解決できるように、本開示の一実施形態に係るサンプル回収装置1(図3等参照)が説明される。
【0025】
(サンプル回収装置1の構成例)
本開示において、試料水30(図3等参照)に含まれるウイルス又は微生物等が陰電荷膜法によって回収される。陰電荷膜法は、電荷を帯びたウイルス又は微生物等を陰電荷膜10(図3等参照)によって吸着する工程と、ウイルス又は微生物等を吸着した陰電荷膜10からウイルス又は微生物等を誘出して回収する工程とを含む。以下、陰電荷膜法の吸着工程を実行可能に構成される装置が説明される。
【0026】
図3に示されるように、本開示の一実施形態に係るサンプル回収装置1は、陰電荷膜10と、連続遠心機20と、ポンプ21と、制御装置80とを備える。
【0027】
サンプル回収装置1は、ポンプ21によって、回収対象31と夾雑物32とを含む試料水30を連続遠心機20に送り込む。回収対象31は、ウイルス又は微生物等であるとする。ポンプ21は、例えばペリスタポンプ(登録商標)を含んで構成されてよい。ポンプ21は、例示した形態に限られず他の種々の形態で構成されてもよい。ポンプ21は、送液ポンプであり、他の送液ポンプと単に区別されるためだけの意味で第2ポンプとも称される。
【0028】
サンプル回収装置1は、連続遠心機20において試料水30を連続遠心処理することによって沈降物と上清とに分離し、上清を陰電荷膜10に送り込む。言い換えれば、連続遠心機20は、試料水30を連続遠心処理して得られた上清を陰電荷膜10に送り込む。試料水30を連続遠心処理して得られた水は、遠心処理水とも称される。連続遠心機20は、連続遠心ロータを含んで構成される。連続遠心ロータは、一定の回転数で回転している間に、受け入れた試料水30に含まれる夾雑物32を遠心分離し、回収対象31を含む上清を排出するように構成される。サンプル回収装置1は、連続遠心機20から排出される上清の流量を測定する流量計22を更に備えてよい。流量計22は、連続遠心機20と陰電荷膜10との間に接続されている。
【0029】
連続遠心ロータとして、例えばベックマン・コールター社からJCF-Z及びCF-32Tiの2種類のロータが提供されている。JCF-Zは、バクテリア又はミトコンドリア等の、沈降係数が概ね500S以上である粒子の沈降に適しており、3-45L/hの流速で水を処理できる。CF-32Tiロータは、沈降係数が50S程度の粒子を沈降させることができ、最大で9L/h程度の流速で水を処理できる。連続遠心ロータは、試料水30に含まれる夾雑物32の沈降係数に基づいて選定され得る。なお、バクテリアの沈降係数は、例えば数十スヴェドベリ(S)である。一般的な水処理プラントは、原水に含まれる夾雑物32のうち、主に、サイズがバクテリアのサイズ以上である夾雑物32、又は、沈降係数がバクテリアの沈降係数以上である夾雑物32が除去されるように構成され得る。
【0030】
サンプル回収装置1は、陰電荷膜10に遠心分離の上清に含まれる回収対象31を吸着させることによって、陰電荷膜10で回収対象31を回収する。陰電荷膜10は、陰電荷を帯びた膜として構成され、回収対象31としてウイルス又は微生物を吸着するように構成される。陰電荷膜10は、例えば混合セルロース膜を含んで構成されてよい。陰電荷膜10は、例えばカートリッジ型フィルタとして構成されてもよい。陰電荷膜10は、単にフィルタとも称される。遠心分離によって得られる上清において夾雑物32の量が減少していることによって、回収対象31が陰電荷膜10で回収されやすくなる。サンプル回収装置1は、陰電荷膜10を通過した上清を排水として排出する。
【0031】
制御装置80は、連続遠心機20を制御する。制御装置80は、連続遠心機20の起動及び停止を制御してよい。制御装置80は、連続遠心機20の遠心ロータの回転数を制御してよい。制御装置80は、ポンプ21を制御する。制御装置80は、ポンプ21の起動及び停止を制御してよい。制御装置80は、ポンプ21が連続遠心機20に送り込む液の流量を制御してよい。制御装置80は、流量計22から、連続遠心機20から排出される上清の流量の測定結果を取得し、測定結果に基づいてポンプ21を制御してよい。制御装置80は、連続遠心機20の遠心ロータの回転数とポンプ21が連続遠心機20に送り込む液の流量とを関連させて制御してもよい。制御装置80がポンプ21と連続遠心機20とを関連させて制御することによって、夾雑物32が沈降する速度が所定範囲内に制御され得る。その結果、夾雑物32の除去率が向上し得る。
【0032】
制御装置80は、例えばCPU(Central Processing Unit)等のプロセッサを含んで構成されてよい。制御装置80は、プロセッサに所定のプログラムを実行させることによって所定の機能を実現してもよい。制御装置80は、記憶部を備えてもよい。記憶部は、制御装置80の動作に用いられる各種情報、又は、制御装置80の機能を実現するためのプログラム等を格納してよい。記憶部は、制御装置80のワークメモリとして機能してよい。記憶部は、例えば半導体メモリ等で構成されてよい。記憶部は、制御装置80に含まれてもよいし、制御装置80と別体として構成されてもよい。
【0033】
本実施形態に係るサンプル回収装置1は、以上述べてきたように陰電荷膜法の吸着工程を実行できる。回収対象31を吸着した陰電荷膜10は、陰電荷膜10から回収対象31を回収するために陰電荷膜法の誘出工程に供される。
【0034】
本実施形態に係るサンプル回収装置1は、試料水30を連続遠心機20で連続遠心処理して上清を留置せずに陰電荷膜10に送り込む。遠心分離の上清が留置されないことで、処理時間が短縮され得る。また、比較例に係るプレフィルタ90が用いられないことによって、プレフィルタ90による回収対象31の損失が低減され得る。また、プレフィルタ90が用いられないことによってプレフィルタ90の目詰まりのように試料水30の流れを妨げる問題が生じにくい。その結果、夾雑物32を除去する処理において、ウイルス又は微生物等の回収対象31に対する影響が低減され得る。
【0035】
<上清への添加物の混合>
サンプル回収装置1は、連続遠心機20で遠心分離して得られた上清に添加物を混合する構成を更に備えてもよい。具体的に、サンプル回収装置1は、図3に例示されるように、添加液を貯えた添加液ボトル50と、連続遠心機20と陰電荷膜10との間を接続する配管に添加液を送り出すポンプ51と、添加液の流量を測定する流量計52とを更に備えてもよい。ポンプ51は、送液ポンプであり、他の送液ポンプと単に区別されるためだけの意味で第1ポンプとも称される。制御装置80は、流量計52の測定結果に基づいてポンプ51が送り出す添加液の流量を制御する。連続遠心機20と陰電荷膜10との間を接続する配管に添加液を送り込む配管が合流することによって、上清に添加液が混合され得る。添加液は、例えば塩化マグネシウム溶液を含んでよいがこれに限られない。上清に添加液が混合されることによって、陰電荷膜10における回収対象31の吸着効率が向上し得る。制御装置80は、連続遠心機20から排出される上清の流量に関連させて添加液の流量を制御してもよい。制御装置80がポンプ21と連続遠心機20とポンプ51とを関連させて制御することによって、連続遠心機20から送り出される上清と添加液との混合比率が所定範囲内に制御され得る。その結果、陰電荷膜10における回収対象31の吸着効率が向上し得る。
【0036】
<連続遠心機20の稼働開始時の動作>
サンプル回収装置1において、連続遠心機20が稼働を開始する場合、遠心ロータの回転数が徐々に大きくなっていく。遠心ロータの回転数が小さい場合、遠心力が小さい。したがって夾雑物32が十分に沈降しない。連続遠心機20の稼働の開始時の所定期間において、遠心力による沈降速度とポンプ21が試料水30を送り込む流量とが調整され得るが、調整中において連続遠心機20から夾雑物32の沈降が不十分な状態で上清が排出され得る。その結果、連続遠心機20から送り出される上清に混入する夾雑物32の量が増加し得る。夾雑物32の増加によって、陰電荷膜10における回収対象31の回収効率が低下し得る。そこで、サンプル回収装置1は、連続遠心機20の稼働の開始時の所定期間において試料水30を連続遠心機20に送り込まないことによって、試料水30の損失を低減できる。ここで、連続遠心機20の稼働の開始時の所定期間において、試料水30以外の液を送り込むことによって、連続遠心機20の空運転が避けられる。本実施形態に係るサンプル回収装置1において、連続遠心機20の稼働の開始時の所定期間において、無菌溶液が送り込まれるとする。このようにすることで、連続遠心機20が汚染されにくくなる。
【0037】
サンプル回収装置1は、試料水30をポンプ21に送り込む配管を開閉するためのバルブ33を更に備えてよい。バルブ33は、後述するバルブ41と単に区別されるためだけの意味で第1バルブとも称される。サンプル回収装置1は、無菌溶液を連続遠心機20に送り込む構成を更に備えてよい。具体的に、サンプル回収装置1は、無菌溶液を貯えた無菌溶液ボトル40と、無菌溶液ボトル40とポンプ21との間の配管を開閉するためのバルブ41とを更に備えてよい。バルブ41は、上述のバルブ33と単に区別されるためだけの意味で第2バルブとも称される。バルブ41及び33の開閉は、制御装置80によって制御される。
【0038】
サンプル回収装置1は、連続遠心機20の遠心ロータの回転数が所定値に到達するまでの期間、つまり遠心ロータの回転数が所定値未満の期間において、バルブ33を閉じ、バルブ41を開く。所定値は、例えば連続遠心機20の仕様に基づいて定められてよいし、連続遠心機20の定格回転数とされてもよい。また、所定値は、連続遠心機20の回転数のゆらぎが所定範囲内に収まる値に定められてよい。所定値は、粒子沈降に要する時間と試料水が遠心ロータを通過する時間とを比較し、試料水が遠心ロータ通過時間中に夾雑物が沈降する回転数以上の値に定められてもよい。所定値は、試料水が遠心ロータ通過時間中に目的物粒子が沈降しきらない回転数以下の値に定められてもよい。粒子沈降に要する時間は、t=k/sという式で表される。ここで、tは、粒子沈降に要する時間(hr)である。kは、遠心ロータのロータ径及び回転数等の遠心条件により定まるkファクタである。sは、粒子の沈降係数(スヴェドベリ値)である。所定値は、これらの例に限られず適宜定められてよい。この状態において、サンプル回収装置1内の液は、図4において太い線で示されるように、無菌溶液ボトル40から連続遠心機20を通って陰電荷膜10に向けて流れる。このようにすることで、ポンプ21は、夾雑物32を十分に沈降させられない状態の連続遠心機20に無菌溶液を送り込むことができる。
【0039】
サンプル回収装置1は、連続遠心機20の遠心ロータの回転数が所定値に到達した後、バルブ41を閉じ、バルブ33を開く。この状態において、図5において太い線で示されるように、試料水30が連続遠心機20を通って陰電荷膜10に向けて流れる。このようにすることで、ポンプ21は、夾雑物32を十分に沈降させられる状態になった連続遠心機20に試料水30を送り込むことができる。連続遠心機20の状態が夾雑物32を十分に沈降させられる状態になった後で試料水30を送り込むことによって、試料水30の損失が減らされ得る。また、試料水30の前に無菌溶液を送り込むことによって、連続遠心機20及び配管に後で送り込まれる試料水30の汚染が低減され得る。また、図5において太い線で示されるように、サンプル回収装置1は、バルブ33を開いた状態において、連続遠心機20を通った試料水30の上清に対して添加液ボトル50の添加液を所定の比率で混合するようにポンプ51を制御してよい。
【0040】
<試料水30の前処理>
サンプル回収装置1は、試料水30を連続遠心機20に送り込む前に、試料水30に対して所定の処理を実行する前処理部70を更に備えてよい。前処理部70は、試料水30をポンプ21に送り込む配管に設置されてよい。所定の処理は、試料水30に含まれる回収対象31が試料水30の中で浮遊状態になるように実行されてよい。所定の処理は、例えば試料水30に界面活性剤を添加する処理を含んでよい。所定の処理は、例えば試料水30の水素イオン濃度又はpHを調整する処理を含んでよい。所定の処理は、例えば試料水30に超音波を印加する処理を含んでよい。所定の処理は、これらに限られず他の処理を含んでもよい。ウイルス又は微生物等の回収対象31が試料水30の中で浮遊状態になることによって、連続遠心機20において夾雑物32とともに沈降させられにくくなる。言い換えれば、回収対象31が上清に残留しやすくなる。
【0041】
<加圧部60>
サンプル回収装置1は、連続遠心機20の上清を加圧して陰電荷膜10に送り込む加圧部60を更に備えてもよい。加圧部60は、連続遠心機20と陰電荷膜10との間に接続される配管に設置される。加圧部60は、例えば陰電荷膜10に目詰まりが生じて連続遠心機20から上清を送り出す圧力だけで上清が陰電荷膜10を透過できない場合に、上清が陰電荷膜10を透過できるように上清を加圧して陰電荷膜10に送り込む。仮に連続遠心機20から上清を送り出す圧力だけで上清が陰電荷膜10を透過できる場合、加圧部60が上清を加圧する必要はない。加圧部60が上清を加圧して陰電荷膜10に送り込むことによって、上清が陰電荷膜10の前で滞留しにくくなる。つまり、上清が陰電荷膜10を透過するまでにかかる時間が短縮され得る。その結果、回収作業時間の短縮と回収作業が回収対象31に及ぼす影響の低減とが実現され得る。
【0042】
<サンプル回収の手順例>
サンプル回収装置1は、例えば図6に示されるフローチャートの手順を含むサンプル回収方法を実行してよい。サンプル回収方法は、制御装置80を構成するプロセッサに実行させるサンプル回収プログラムとして実現されてもよい。
【0043】
制御装置80は、無菌溶液が無菌溶液ボトル40から連続遠心機20に送り込まれるようにバルブ41(第2バルブ)を開く(ステップS1)。制御装置80は、連続遠心機20を始動させる(ステップS2)。
【0044】
制御装置80は、連続遠心機20の遠心ロータの回転数が所定値以上になったか判定する(ステップS3)。制御装置80は、遠心ロータの回転数が所定値以上になっていない場合(ステップS3:NO)、ステップS3の判定手順を繰り返す。つまり、制御装置80は、遠心ロータの回転数が所定値以上になるまでステップS4以降の手順に進まない。
【0045】
制御装置80は、遠心ロータの回転数が所定値以上になった場合(ステップS3:YES)、試料水30が連続遠心機20に送り込まれるようにバルブ33(第1バルブ)を開く(ステップS4)。さらに、制御装置80は、バルブ41を閉じてもよい。
【0046】
制御装置80は、ポンプを制御する(ステップS5)。制御装置80は、連続遠心機20で試料水30に含まれる夾雑物32をできるだけ多く沈降させるようにポンプ21を制御してよい。制御装置80は、連続遠心機20から送り出される上清に混合する添加液の比率が所定の比率になるようにポンプ51を制御してよい。制御装置80は、ステップS5の手順の実行後、図6のフローチャートの手順の実行を終了してよい。制御装置80は、ステップS5の手順を実行し続けてもよい。制御装置80は、ステップS5の手順の実行後、連続遠心機20を停止させる手順を実行してもよい。
【0047】
<小括>
以上述べてきたように、本実施形態に係るサンプル回収装置1及びサンプル回収方法によれば、試料水30から夾雑物32を除去するために第1比較例として説明したプレフィルタ90のような構成が必要ない。その結果、試料水30に含まれる回収対象31に影響を及ぼしにくいように試料水30から夾雑物32が低減され得る。また、連続遠心機20から送り出される上清がそのまま陰電荷膜10に送り込まれることで、上清を留置して取り出す場合と比較して処理時間が短縮され得る。
【0048】
(他の実施形態)
他の実施形態に係るサンプル回収装置1は、直列に接続される少なくとも2台の連続遠心機20を備えてよい。仮にサンプル回収装置1が第1連続遠心機と第2連続遠心機とを備えるとする。第1連続遠心機は、試料水30が送り込まれる側に接続されるとする。また、第2連続遠心機は、陰電荷膜10に上清を送り込む側に接続されるとする。つまり、試料水30は最初に第1連続遠心機に送り込まれる。第1連続遠心機から送り出された上清は第2連続遠心機に送り込まれる。第2連続遠心機から送り出された上清は陰電荷膜10に送り込まれる。遠心処理が少なくとも2回に分けて実施されることによって、ウイルス又は微生物等の回収対象31が夾雑物32に付着したまま沈降しにくくできる。つまり、夾雑物32とともに除去されてしまう回収対象31の割合が低減され得る。
【0049】
制御装置80は、第1連続遠心機の遠心処理条件と、第2連続遠心機の遠心処理条件とを互いに異ならせるように各連続遠心機20を制御してよい。遠心処理条件は、遠心ロータの回転数、又は、連続遠心機20に送り込む液の流量等を含んでよい。少なくとも2台の連続遠心機20それぞれで遠心処理条件を設定できることで、試料水30の遠心処理条件の自由度が高められ得る。その結果、上清に含まれる夾雑物32の除去率又は回収対象31の残留率の少なくとも一方が向上されるように遠心処理条件を設定することが容易になり得る。
【0050】
サンプル回収装置1は、第1連続遠心機と第2連続遠心機との間に送液ポンプを更に備えてもよい。サンプル回収装置1は、流量調整のために第1連続遠心機と第2連続遠心機との間に分岐配管又は貯液タンク等を更に備えてもよい。
【0051】
上述してきた、少なくとも2台の連続遠心機20を備える構成は、1台の連続遠心機20が少なくとも2つの遠心ロータを備える構成で置き換えられてもよい。
【0052】
本開示は、上述した実施形態で特定された構成に限定されず、特許請求の範囲に記載した開示の要旨を逸脱しない範囲内で種々の変形が可能である。例えば、各ステップに含まれる機能等は、論理的に矛盾しないように再構成可能である。また、複数のステップを1つに組み合わせたり、1つのステップを分割したりすることが可能である。
【符号の説明】
【0053】
1 サンプル回収装置
10 陰電荷膜(フィルタ)
20 連続遠心機
21 ポンプ(第2ポンプ)
22 流量計
30 試料水(31:回収対象、32:夾雑物)
33 バルブ(第1バルブ)
40 無菌溶液ボトル
41 バルブ(第2バルブ)
50 添加液ボトル
51 ポンプ(第1ポンプ)
52 流量計
60 加圧部
70 前処理部
80 制御装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6