(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-21
(45)【発行日】2024-10-29
(54)【発明の名称】超硬合金及び切削工具
(51)【国際特許分類】
C22C 29/08 20060101AFI20241022BHJP
B23B 27/14 20060101ALI20241022BHJP
C22C 1/051 20230101ALN20241022BHJP
【FI】
C22C29/08
B23B27/14 B
C22C1/051 G
(21)【出願番号】P 2021062899
(22)【出願日】2021-04-01
【審査請求日】2023-09-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】城戸 保樹
(72)【発明者】
【氏名】岡村 克己
【審査官】國方 康伸
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-126824(JP,A)
【文献】特開2012-229138(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00- 8/00
C22C 1/04- 1/059
C22C 29/00-29/18
C22C 33/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
硬質相と結合相とを備える超硬合金であって、
前記硬質相は、第1硬質相粒子及び第2硬質相粒子を有し、
前記第1硬質相粒子は、炭化タングステンからなり、
前記第2硬質相粒子は、M
xW
1-xC
1-yN
yで示される固溶体からなり、
前記Mは周期表第4族元素、第5族元素、クロム及びモリブデンからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属元素であり、
前記xは、
0.40以上0.70以下であり、
前記yは、0以上0.90以下であり、
前記結合相は、鉄、コバルト及びニッケルからなる群より選ばれる少なくとも1種の鉄族元素を含み、
前記第2硬質相粒子の面積基準の50%累積個数粒径は、0.1μm以上
0.5μm以下であり、
前記第2硬質相粒子は分散して存在している、超硬合金。
【請求項2】
前記第1硬質相粒子の面積基準の50%累積個数粒径は、0.1μm以上1.5μm以下である、請求項
1に記載の超硬合金。
【請求項3】
前記超硬合金は、クロム及びバナジウムの一方又は両方を含まない、請求項1
または請求項2に記載の超硬合金。
【請求項4】
請求項1から請求項
3のいずれか1項に記載の超硬合金を含む切削工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、超硬合金及び切削工具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、炭化タングステン(WC)を主成分とする硬質相と、鉄族元素を主成分とする結合相とを備える超硬合金は、切削工具の素材として用いられている。近年、更に金属窒化物からなる第2の硬質相を添加して、超硬合金の耐摩耗性や耐欠損性を高める技術が開発されている(例えば、国際公開第2017/191744号(特許文献1))。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、切削加工において被削材の難削化が進み、特に小径ドリルの分野において、低速加工においても優れた耐欠損性及び耐折損性を有する超硬合金が求められている。
【0005】
そこで、本開示は、工具材料として用いた場合に、低速加工においても優れた耐欠損性及び耐折損性を有する超硬合金を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の超硬合金は、
硬質相と結合相とを備える超硬合金であって、
前記硬質相は、第1硬質相粒子及び第2硬質相粒子を有し、
前記第1硬質相粒子は、炭化タングステンからなり、
前記第2硬質相粒子は、MxW1-xC1-yNyで示される固溶体からなり、
前記Mは周期表第4族元素、第5族元素、クロム及びモリブデンからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属元素であり、
前記xは、0.20以上0.70以下であり、
前記yは、0以上0.90以下であり、
前記結合相は、鉄、コバルト及びニッケルからなる群より選ばれる少なくとも1種の鉄族元素を含み、
前記第2硬質相粒子の面積基準の50%累積個数粒径は、0.1μm以上1.0μm以下であり、
前記第2硬質相粒子は分散して存在している、超硬合金である。
【0007】
本開示の切削工具は、上記の超硬合金を含む切削工具である。
【発明の効果】
【0008】
本開示の超硬合金は、工具材料として用いた場合に、低速加工においても優れた耐欠損性及び耐折損性を有することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、本開示の一実施形態の超硬合金の一断面を模式的に示す図である。
【
図2】
図2は、第2硬質相粒子のライン分析の方法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。
(1)本開示の超硬合金は、硬質相と結合相とを備える超硬合金であって、
前記硬質相は、第1硬質相粒子及び第2硬質相粒子を有し、
前記第1硬質相粒子は、炭化タングステンからなり、
前記第2硬質相粒子は、MxW1-xC1-yNyで示される固溶体からなり、
前記Mは周期表第4族元素、第5族元素、クロム及びモリブデンからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属元素であり、
前記xは、0.20以上0.70以下であり、
前記yは、0以上0.90以下であり、
前記結合相は、鉄、コバルト及びニッケルからなる群より選ばれる少なくとも1種の鉄族元素を含み、
前記第2硬質相粒子の面積基準の50%累積個数粒径は、0.1μm以上1.0μm以下であり、
前記第2硬質相粒子は分散して存在している、超硬合金である。
【0011】
本開示の超硬合金は、工具材料として用いた場合に、低速加工においても優れた耐欠損性及び耐折損性を有することができる。
【0012】
(2)前記xは、0.40以上0.70以下であり、
前記第2硬質相粒子の面積基準の50%累積個数粒径は、0.1μm以上0.5μm以下であることが好ましい。
【0013】
これによると、超硬合金の耐欠損性及び耐折損性が更に向上する。
【0014】
(3)前記第1硬質相粒子の面積基準の50%累積個数粒径は、0.1μm以上1.5μm以下であることが好ましい。これによると、超硬合金の耐欠損性及び耐折損性が更に向上する。
【0015】
(4)前記超硬合金は、クロム及びバナジウムの一方又は両方を含まないことが好ましい。これによると、超硬合金の耐欠損性及び耐折損性が更に向上する。
【0016】
(5)本開示の超硬合金は、上記の超硬合金を含む切削工具である。本開示の切削工具は、低速加工においても優れた耐欠損性及び耐折損性を有することができる。
【0017】
[本開示の実施形態の詳細]
本開示の超硬合金及び切削工具の具体例を、以下に図面を参照しつつ説明する。本開示の図面において、同一の参照符号は、同一部分または相当部分を表すものである。また、長さ、幅、厚さ、深さなどの寸法関係は図面の明瞭化と簡略化のために適宜変更されており、必ずしも実際の寸法関係を表すものではない。
【0018】
本明細書において「A~B」という形式の表記は、範囲の上限下限(すなわちA以上B以下)を意味し、Aにおいて単位の記載がなく、Bにおいてのみ単位が記載されている場合、Aの単位とBの単位とは同じである。
【0019】
本明細書において、「粒子の面積基準の10%累積個数粒径」を「D10」と示し、「粒子の面積基準の50%累積個数粒径」を「D50」と示し、「粒子の面積基準の90%累積個数粒径」を「D90」と示す。
【0020】
本明細書において化合物などを化学式で表す場合、原子比を特に限定しないときは従来公知のあらゆる原子比を含むものとし、必ずしも化学量論的範囲のもののみに限定されるべきではない。たとえば「WC」と記載されている場合、WCを構成する原子数の比は、従来公知のあらゆる原子比が含まれる。
【0021】
[実施形態1:超硬合金]
<超硬合金>
本開示の一実施形態(以下、「本実施形態」とも記す。)の超硬合金について、
図1を用いて説明する。
図1は、本実施形態の超硬合金の一断面を模式的に示す図である。
本実施形態の超硬合金は、硬質相と結合相3とを備える超硬合金であって、
硬質相は、第1硬質相粒子1及び第2硬質相粒子2を有し、
第1硬質相粒子1は、炭化タングステンからなり、
第2硬質相粒子2は、M
xW
1-xC
1-yN
yで示される固溶体からなり、
Mは周期表第4族元素、第5族元素、クロム及びモリブデンからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属元素であり、
xは、0.20以上0.70以下であり、
yは、0以上0.90以下であり、
結合相3は、鉄、コバルト及びニッケルからなる群より選ばれる少なくとも1種の鉄族元素を含み、
第2硬質相粒子2の面積基準の50%累積個数粒径は、0.1μm以上1.0μm以下であり、
第2硬質相粒子は分散して存在している、超硬合金である。
【0022】
本実施形態の超硬合金は、工具材料として用いた場合に、低速加工においても優れた耐欠損性及び耐折損性を有することができる。
【0023】
<硬質相>
本実施形態の超硬合金において、硬質相は、第1硬質相粒子及び第2硬質相粒子を有する。
【0024】
<第1硬質相粒子>
(第1硬質相粒子の組成)
第1硬質相粒子は、炭化タングステン(WC)からなる。ここで、第1硬質相粒子が炭化タングステンからなるとは、第1硬質相粒子が実質的に炭化タングステンからなることを意味する。具体的には、第1硬質相粒子が、炭化タングステンを99.9質量%以上含むことが好ましい。
【0025】
第1硬質相粒子は、炭化タングステン以外にも、本開示の効果を示す限りにおいて、WCの製造過程で混入する不可避不純物元素及び微量の不純物元素等を含むことができる。これらの不純物元素としては、例えば、モリブデン(Mo)及びクロム(Cr)が挙げられる。第1硬質相粒子中の不純物元素の含有率(不純物元素が2種類以上の場合は、合計含有率)は、0.1質量%未満であることが好ましい。第1硬質相粒子中の不純物元素の含有率は、ICP(Inductively Coupled Plasma)発光分析(測定装置:島津製作所製「ICPS-8100」(商標))により測定される。
【0026】
(第1硬質相粒子のD50)
第1硬質相粒子の面積基準の50%累積個数粒径(D50)は、0.1μm以上1.5μm以下であることが好ましい。これによると、超硬合金の耐欠損性及び耐折損性が向上する。
【0027】
第1硬質相粒子のD50の下限は、0.1μm以上が好ましく、0.2μm以上がより好ましい。第1硬質相粒子のD50の上限は、耐欠損性及び耐折損性向上の観点から、1.5μm以下が好ましく、1.2μm以下がより好ましく、1.0μm以下が更に好ましい。第1硬質相粒子のD50は、0.1μm以上1.5μm以下が好ましく、0.2μm以上1.2μm以下がより好ましく、0.2μm以上1.0μm以下が更に好ましい。
【0028】
第1硬質相粒子のD50を算出するための、各第1硬質相粒子の粒径の測定方法は以下の通りである。まず、アルゴンのイオンビームを用いて超硬合金をCP(Cross Section Polisher)加工することにより、平滑な断面を有する試料を得る。該断面に対し、電解放出型走査電子顕微鏡(FE-SEM)(測定装置:日本電子株式会社製「JSM-7000F」(商標))を用いて10000倍で撮像することにより、上記断面の電子顕微鏡像(SEM-BSE像)を得る。
【0029】
上記電子顕微鏡像(SEM-BSE像)に対して、上記電解放出型走査電子顕微鏡(FE-SEM)に付帯したエネルギー分散型X線分光装置(EDX)によりEDXマッピングを行うことにより、第1硬質相粒子、第2硬質相粒子及び結合相を特定する。EDXマッピング像において、タングステンが存在する領域が、第1硬質相粒子に相当する。EDXマッピング像において、周期表第4族元素、第5族元素、クロム及びモリブデンからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属元素が存在する領域が第2硬質相粒子に該当する。本明細書において、周期表第4族元素は、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)及びハフニウム(Hf)を含み、周期表第5族元素は、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)及びタンタル(Ta)を含む。EDXマッピング像において、鉄、コバルト及びニッケルからなる群より選ばれる少なくとも1種の鉄族元素を含む領域が結合相に該当する。
【0030】
上記の電子顕微鏡像をコンピュータに取り込み、画像解析ソフト(株式会社マウンテック製「Mac-View」(商標))を用いて画像処理を行い、上記電子顕微鏡像(SEM-BSE像)中に観察される全ての第1硬質相粒子のそれぞれの円相当径(Heywood径:等面積円相当径)を算出する。画像処理条件は、以下の通りである。
(画像処理条件)
粒子形状:非球状
検出感度:5
検出角度:0.7
走査密度:7×1回
ハイカット:無効
ローカット:反転
【0031】
上記第1硬質相粒子のD50の算出では、超硬合金の一断面に対し、重複する撮像部分が現れないようにして任意の10枚(10視野)の電子顕微鏡像を準備する。10視野における第1硬質相粒子のD50の平均を、上記超硬合金における第1硬質相粒子のD50とする。
【0032】
なお、出願人が測定した限り、測定視野を任意に設定しても、結果にばらつきはないことが確認された。
【0033】
後述の第2硬質相粒子のD10、D50及びD90も、上記電子顕微鏡像において、第2硬質相粒子を測定対象とすることにより、上記と同一の方法で算出することができる。
【0034】
(第1硬質相粒子の含有率)
本実施形態の超硬合金における第1硬質相粒子の含有率は、80体積%以上99体積%以下が好ましい。超硬合金中の第1硬質相粒子の含有率が80体積%以上であると、超硬合金の機械的強度が向上する。ここで、「機械的強度」とは、超硬合金の耐摩耗性、耐欠損性、耐折損性及び曲げ強さ等の諸特性を含む機械的な強さを意味する。超硬合金中の第1硬質素粒子の含有率が99体積%以下であると、超硬合金の靭性が向上する。超硬合金中の第1硬質相粒子の含有率は、83体積%以上97体積%以下がより好ましく、85体積%以上95体積%以下が更に好ましい。
【0035】
超硬合金中の第1硬質相粒子の含有率(体積%)の測定方法は以下の通りである。上記の第1硬質相粒子の粒径の測定方法と同様の方法で、超硬合金からなる試料の断面の電子顕微鏡像(SEM-BSE像)に対してEDXマッピングを行うことにより、第1硬質相粒子、第2硬質相粒子及び結合相を特定する。
【0036】
上記の電子顕微鏡像をコンピュータに取り込み、画像解析ソフト(株式会社マウンテック製「Mac-View」(商標))を用いて画像処理を行い、測定視野全体(縦9μm×幅12μm)を分母として、上記EDXマッピングにより特定された第1硬質相粒子の面積割合を測定する。画像処理条件は、上記の第1硬質相粒子の粒径の測定方法と同一の測定条件とする。第1硬質相粒子の面積が上記断面の奥行方向に連続するとみなすことにより、上記面積割合を該測定視野中の第1硬質相粒子の含有率(体積%)とみなすことができる。
【0037】
上記第1硬質相粒子の含有率の測定方法では、超硬合金の一断面に対し、重複する撮像部分が現れないようにして5枚(5視野)の電子顕微鏡像を準備する。この5視野は、上記一断面の中央部分の1視野と、この1視野に対して上下および左右に位置する4視野とする。5視野の第1硬質相粒子の含有率の平均を、上記超硬合金における第1硬質相粒子の含有率(体積%)とする。
【0038】
なお、出願人が測定した限り、測定視野を任意に設定しても、結果にばらつきはないことが確認された。
【0039】
後述の超硬合金における第2硬質相粒子の含有率(体積%)及び結合相の含有率(体積%)も、上記測定視野において、第2硬質相粒子及び結合相を測定対象とすることにより、上記と同一の方法で測定することができる。
【0040】
<第2硬質相粒子>
(第2硬質相粒子の形態、組成及び原子比)
第2硬質相粒子は、MxW1-xC1-yNyで示される固溶体からなる。ここで、Mは周期表第4族元素(チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf))、第5族元素(バナジウム(V)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta))、クロム(Cr)及びモリブデン(Mo)からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属元素であり、xは、0.20以上0.70以下であり、yは、0以上0.90以下である。超硬合金が第2硬質相粒子を含み、かつ、x及びyが上記の範囲であると、第2硬質相粒子の粒子強度が優れ、かつ、超硬合金中の粒子間の界面強度が優れるため、超硬合金は優れた耐欠損性及び耐折損性を有することができる。
【0041】
上記Mは、Ti、Zr、Hf、Nb、Ta及びMoからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属元素であることが好ましい。上記Mは、Ti、Zr及びNbからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属元素であることがより好ましい。
【0042】
上記xは、0.40以上0.70以下が好ましい。これによると、超硬合金の耐欠損性及び耐折損性が更に向上する。上記xは、0.41以上0.69以下がより好ましく、0.42以上0.68以下が更に好ましい。
【0043】
上記yは、第2硬質相粒子の微細化の観点から、0以上0.90以下であり、0.20以上0.80以下が好ましく、0.30以上0.70以下がより好ましい。
【0044】
第2硬質相粒子の組成は、特に限定されないが、例えば、TiWC、TiWCN、ZrWC、ZrWCN、NbWC、NbWCN、TiNbWC、TiNbWCNを挙げることができる。
【0045】
第2硬質相粒子の形態、組成及び原子比の測定方法は、以下(A1)~(H1)の通りである。
(A1)上記の第1硬質相粒子の粒径の測定方法と同様の方法で、超硬合金からなる試料の断面の電子顕微鏡像(SEM-BSE像)に対してEDXマッピングを行うことにより、第1硬質相粒子、第2硬質相粒子及び結合相を特定する。
【0046】
(B1)上記で特定された第2硬質相粒子に対して、電解放出型走査電子顕微鏡(FE-SEM)に付帯したエネルギー分散型X線分光装置(EDX)を用いてライン分析を行う。ライン分析について、
図2を用いて具体的に説明する。
【0047】
(C1)
図2は、第2硬質相粒子のライン分析の方法を示す図である。
図2において、Xは第2硬質相粒子の重心を示し、a1~a8は測定点を示す。初めに、上記の電子顕微鏡像をコンピュータに取り込み、画像解析ソフト(株式会社マウンテック製「Mac-View」(商標))を用いて画像処理を行い、任意の1つの第2硬質相粒子の重心Xを特定する。画像処理条件は、上記の第1硬質相粒子の粒径の測定方法における画像処理条件と同一とする。ここで、重心Xは、上記の電子顕微鏡像における第2硬質相粒子の形状に基づき特定される。重心Xを通る任意の線L1を引く。第2硬質相粒子の外縁と、線L1との交点(測定点)a1及びa8を特定する。a1とa8とをつなぐ線分を7等分する位置(測定点)a2~a7を特定する。
【0048】
(D1)各測定点a1~a8においてEDX分析を行い、各測定点における第2硬質相粒子の組成及び各元素の割合(原子%)を算出する。
【0049】
(E1)8個の測定点a1~a8において、周期表第4族元素、第5族元素、クロム及びモリブデンからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属元素(MxW1-xC1-yNyにおけるMに相当)の割合の最大値Mmax(原子%)と最小値Mmin(原子%)との差Mmax-Mminが40原子%未満の場合、該第2硬質相粒子の形態は固溶体であると判定される。
【0050】
(F1)上記(E1)の判定を、任意の10個の第2硬質相粒子について行う。本明細書において、10個の第2硬質相粒子のうち、6個以上が固溶体と判定された場合に、「超硬合金において、第2硬質相粒子の形態は固溶体である」、すなわち、「超硬合金において、第2硬質相粒子は、(MxW1-xC1-yNyで示される)固溶体からなる」と判定される。本明細書において、「超硬合金において、第2硬質相粒子は、MxW1-xC1-yNyで示される固溶体からなる」とは、「超硬合金において、第2硬質相粒子の組成は、MxW1-xC1-yNyで示され、超硬合金中の第2硬質相粒子の総個数に対する、固溶体からなる第2硬質相粒子の個数の百分率は50%超である。」を意味する。
【0051】
(G1)上記(D1)で得られた8つの測定点における各元素の割合の平均値を上記第2硬質相粒子の各元素の割合とする。これにより、上記第2硬質相粒子の組成及び各元素の割合が特定される。
【0052】
(H1)上記(G1)の第2硬質相粒子の組成及び各元素の割合の特定を任意の10個の第2硬質相粒子について行う。本明細書において、10個の第2硬質相粒子の各元素の割合の平均値を、上記超硬合金の第2硬質相粒子の各元素の割合とする。これにより、上記超硬合金における第2硬質相粒子の組成及び各元素の割合が特定される。
【0053】
なお、出願人が測定した限り、測定視野を任意に設定しても、結果にばらつきはないことが確認された。
【0054】
第1硬質相粒子における炭化タングステンの組成、及び、後述の結合相の組成も、上記電子顕微鏡像において、第1硬質相粒子及び結合相を測定対象とすることにより、上記と同一の方法で測定することができる。
【0055】
(第2硬質相粒子のD50)
第2硬質相粒子の面積基準の50%累積個数粒径(D50)は、0.1μm以上1.0μm以下である。これによると、超硬合金の耐欠損性及び耐折損性が向上する。
【0056】
第2硬質相粒子のD50の下限は、0.1μm以上であり、0.15μm以上とすることができる。第2硬質相粒子のD50は、耐欠損性及び耐折損性向上の観点から、1.0μm以下であり、0.5μm以下が好ましく、0.4μm以下がより好ましく、0.3μm以下が更に好ましい。第2硬質相粒子のD50は、0.1μm以上0.5μm以下が好ましく、0.15μm以上0.4μm以下がより好ましく、0.15μm以上0.3μm以下が更に好ましい。
【0057】
(第2硬質相粒子のD10/D90)
第2硬質相粒子の面積基準の10%累積個数粒径(D10)と90%累積個数粒径(D90)との比D10/D90は、0.1以上0.5以下が好ましい。これによると、第2硬質相粒子の粒度分布がシャープであり、第2硬質相粒子が凝集せず、超硬合金の組織が均質となるため、耐欠損性及び耐折損性が向上する。第2硬質相粒子のD10/D90は、0.1以上0.4以下がより好ましい。
【0058】
第2硬質相粒子のD10、D50及びD90は、上記の第1硬質相粒子のD50の測定方法において、電子顕微鏡像中の第2硬質相粒子を測定対象とすることにより、上記の第1硬質相粒子のD50の測定方法と同一の方法で算出することができる。
【0059】
(第2硬質相粒子の分散状態)
本実施形態の超硬合金において、第2硬質相粒子は分散して存在している。本明細書において、「超硬合金において、第2硬質相粒子が分散して存在している。」とは、超硬合金中に第2硬質相粒子が偏りなく、均一に分散されていることを意味する。また、「超硬合金において、第2硬質相粒子が偏在している」とは、超硬合金中に第2硬質相粒子が偏って存在していることを意味する。超硬合金中に第2硬質相粒子が分散して存在しているか、又は、偏在しているかの判定方法について以下に説明する。該判定方法は、以下(A2)~(D2)の通りである。
【0060】
(A2)上記の第1硬質相粒子の粒径の測定方法と同様の方法で、超硬合金からなる試料の断面の電子顕微鏡像(SEM-BSE像)に対してEDXマッピングを行うことにより、第1硬質相粒子、第2硬質相粒子及び結合相を特定する。
【0061】
(B2)次に、上記電子顕微鏡像(9μm×12μm)中に、一辺が1.5μmの正方形の単位領域Rを、縦方向に6個、横方向に8個並べることにより合計48個の単位領域Rを設ける。
【0062】
(C2)画像解析ソフト(株式会社マウンテック製「Mac-View」(商標))を用いて画像解析することにより、各単位領域Rの内部に存する上記EDXマッピングにより特定された第2硬質相粒子の個数を数える。画像処理条件は、上記の第1硬質相粒子の粒径の測定方法における画像処理条件と同一とする。隣接する2つ以上の単位領域Rに第2硬質相粒子がまたがって存在した場合、該第2硬質相粒子は、またがって存在する単位領域Rのうち、第2硬質相粒子の個数が最も少ない単位領域Rに含まれているとみなして数える。また、第2硬質相粒子の形状から、該第2硬質相粒子は2個の第2硬質相粒子が接合して形成されていると考えられる場合、該第2硬質相粒子の個数は1個として数える。
【0063】
(D2)続いて、合計48個の単位領域Rの内部に存する第2硬質相粒子の総数を数えるともに、該総数に対するそれぞれの単位領域Rの内部に存する第2硬質相粒子の個数の百分率を算出する。
【0064】
上記電子顕微鏡像には、合計48個の単位領域Rが設けられているため、超硬合金中に第2硬質相粒子が偏りがなく、均一に分散される場合、各単位領域R中の第2硬質相粒子の個数の百分率は、2.08%(1/48×100%)となる。本明細書において、合計48個の単位領域Rのうち、単位領域R中の第2硬質相粒子の個数の百分率が0.5%未満又は5%超となる単位領域Rの数が14以下の場合、超硬合金中で第2硬質相粒子が分散して存在していると判定される。一方、合計48個の単位領域Rのうち、単位領域R中の第2硬質相粒子の個数の百分率が0.5%未満又は5%超となる単位領域Rの数が15以上の場合、超硬合金中で第2硬質相粒子が偏在していると判定される。
【0065】
なお、出願人が測定した限り、同一の測定試料において測定視野を任意に設定しても、結果にばらつきはないことが確認された。
【0066】
本実施形態の超硬合金において、合計48個の単位領域Rのうち、単位領域R中の第2硬質相粒子の個数の百分率が0.5%未満又は5%超となる単位領域Rの数が14以下である。すなわち、超硬合金中で第2硬質相粒子が分散して存在している。これによると、超硬合金の耐欠損性及び耐折損性が向上する。
【0067】
合計48個の単位領域Rのうち、単位領域R中の第2硬質相粒子の個数の百分率が0.5%未満又は5%超となる単位領域Rの数は13以下が好ましく、12以下がより好ましく、10以下が更に好ましい。
【0068】
(第2硬質相粒子の含有率)
本実施形態の超硬合金における第2硬質相粒子の含有率は、0.5体積%以上3.0体積%以下が好ましい。超硬合金中の第2硬質相粒子の含有率が0.5体積%以上であると、耐摩耗性が向上する。超硬合金中の第2硬質素粒子の含有率が3.0体積%以下であると、強度が向上する。超硬合金中の第2硬質相粒子の含有率は、0.8体積%以上2.5体積%以下がより好ましく、1.0体積%以上2.0体積%以下が更に好ましい。
【0069】
超硬合金中の第2硬質相粒子の含有率(体積%)は、上記の第1硬質相粒子の含有率(体積%)の測定方法において、電子顕微鏡像中の第2硬質相粒子を測定対象とすることにより、上記の第1硬質相粒子の含有率(体積%)の測定方法と同一の方法で算出することができる。
【0070】
<結合相>
(結合相の組成)
結合相は、鉄、コバルト及びニッケルからなる群より選ばれる少なくとも1種の鉄族元素を含む。結合相中の該鉄族元素の含有率は、90質量%以上が好ましく、95質量%以上がより好ましく、98質量%以上が更に好ましく、100質量%が最も好ましい。
【0071】
結合相は、鉄族元素以外にも本開示の効果を示す限りにおいて、第1硬質相粒子及び第2硬質相粒子から混入する不可避不純物元素及び微量の不純物元素等を含むことができる。これらの不純物元素としては、例えば、タングステン(W)及びチタン(Ti)が挙げられる。結合相中の不純物元素の含有率(不純物元素が2種類以上の場合は、合計含有率)は、1質量%未満であることが好ましい。結合相中の不純物元素の含有率は、ICP(Inductively Coupled Plasma)発光分析(測定装置:島津製作所製「ICPS-8100」(商標))により測定される。
【0072】
(結合相の含有率)
本実施形態の超硬合金における結合相の含有率は、0.5体積%以上20体積%以下が好ましい。超硬合金中の結合相の含有率が0.5体積%以上であると、第1硬質相粒子、第2硬質相粒子及び結合相の密着強度が向上し、超硬合金の靱性が向上する。超硬合金中の結合相の含有率が20体積%以下であると、超硬合金の硬度が向上する。超硬合金中の結合相の含有率は、1体積%以上18体積%以下がより好ましく、5体積%以上15体積%以下が更に好ましい。
【0073】
超硬合金中の結合相の含有率(体積%)は、上記の第1硬質相粒子の含有率(体積%)の測定方法において、電子顕微鏡像中の結合相を測定対象とすることにより、上記の第1硬質相粒子の含有率(体積%)の測定方法と同一の方法で算出することができる。
【0074】
<クロム及びバナジウム>
本実施形態の超硬合金は、クロム及びバナジウムの一方又は両方を含まないことが好ましい。すなわち、本実施形態の超硬合金はクロムを含まないことが好ましく、又は、本実施形態の超硬合金はバナジウムを含まないことが好ましく、又は、本実施形態の超硬合金はクロム及びバナジウムを含まないことが好ましい。炭化クロム(Cr3C2)及び炭化バナジウム(VC)は、粒成長抑制作用を有するため、従来の超微粒超硬合金の製造時に粒成長抑制剤として用いられていた。しかし、超硬合金中でクロムが炭化物として析出した場合、破損の起点となる傾向がある。また、超硬合金中のバナジウムは粒子同士の界面に存在するため、超硬合金の強度が低下する傾向がある。よって、超硬合金がクロム及びバナジウムの一方又は両方を含まないことにより、超硬合金の耐欠損性及び耐折損性が向上する。なお、第2硬質相粒子がクロム及びバナジウムの一方又は両方を含む場合は、超硬合金の第2硬質相粒子以外の領域は、結合相がクロム及びバナジウムの一方又は両方を含まないことが好ましい。
【0075】
超硬合金中のクロム及びバナジウムの含有率は、ICP(Inductively Coupled Plasma)発光分析(測定装置:島津製作所製「ICPS-8100」(商標))により測定される。本明細書では、該ICP分析において、クロムの含有率が検出限界以下の場合、「超硬合金は、クロムを含まない」と判断され、バナジウムの含有率が検出限界以下の場合、「超硬合金は、バナジウムを含まない」と判断される。
【0076】
[実施形態2:切削工具]
本実施形態の切削工具は、上記超硬合金を含む。該切削工具は、上記超硬合金からなる刃先を含むことが好ましい。本明細書において、刃先とは、切削に関与する部分を意味し、超硬合金において、その刃先稜線と、該刃先稜線から超硬合金側へ、該刃先稜線の接線との距離が2mmである仮想の面と、に囲まれる領域を意味する。
【0077】
切削工具としては、例えば、切削バイト、ドリル、エンドミル、フライス加工用刃先交換型切削チップ、旋削加工用刃先交換型切削チップ、メタルソー、歯切り工具、リーマ又はタップ等が挙げられる。特に、本実施形態の切削工具は、プリント回路基板加工用の小径ドリルの場合に、優れた効果を発揮することができる。
【0078】
本実施形態の超硬合金は、これらの工具の全体を構成していてもよいし、一部を構成するものであってもよい。ここで「一部を構成する」とは、任意の基材の所定位置に本実施形態の超硬合金を蝋付けして刃先部とする態様等を示している。
【0079】
本実施形態の切削工具は、超硬合金からなる基材の表面の少なくとも一部を被覆する硬質膜を更に備えることができる。硬質膜としては、例えば、ダイヤモンドライクカーボンやダイヤモンドが挙げられる。
【0080】
[実施形態3:超硬合金の製造方法]
実施形態1の超硬合金は、代表的には、原料粉末の準備工程、混合工程、成形工程、焼結工程、冷却工程を前記の順で行うことにより、製造することができる。以下、各工程について説明する。
【0081】
<準備工程>
準備工程は、超硬合金を構成する材料のすべての原料粉末を準備する工程である。原料粉末としては、炭化タングステン粉末、周期表第4族元素、第5族元素、クロム及びモリブデンからなる群より選択される金属元素の水素化物(以下、「金属水素化物」とも記す。)粉末、黒鉛粉末、及び、鉄族元素粉末を準備する。
【0082】
(炭化タングステン粉末)
炭化タングステン粉末の平均粒径は、0.1μm以上1.5μm以下が好ましい。炭化タングステン粉末の平均粒径が前記範囲の通り微粒であると、超硬合金における第2硬質相粒子の分散性を向上させることができる。本明細書において、粉末の平均粒径は、マイクロトラック社の粒度分布測定装置(MT330EX(商標))を用いて測定される。
【0083】
(金属水素化物粉末)
金属水素化物粉末としては、例えば、チタン水素化物(TiH2)、ジルコニウム水素化物(ZrH2)、ニオブ水素化物(NbH)が挙げられる。金属水素化物粉末中の金属元素は、第2硬質相粒子中の金属元素Mの供給源となる。
【0084】
金属水素化物粉末の平均粒径は、0.1μm以上1.0μm以下が好ましい。これによると、超硬合金中で第2硬質相粒子の凝集体が形成されにくい。
【0085】
(黒鉛粉末)
黒鉛粉末は従来公知のものを用いることができる。中でも天然黒鉛を用いることが好ましい。黒鉛粉末中の炭素は、第2硬質相粒子中の炭素源となる。
【0086】
黒鉛粉末の平均粒径は、10nm以上100nm以下が好ましい。これによると、超硬合金中で黒鉛粉末の凝集体が形成されにくい。
【0087】
鉄族元素粉末としては、鉄粉末、コバルト粉末、ニッケル粉末が挙げられる。鉄族元素粉末は、結合相の原料である。
【0088】
鉄族元素粉末の平均粒径は、0.1μm以上1.5μm以下が好ましい。これによると、超硬合金中で結合相の凝集体が形成されにくい。
【0089】
<混合工程>
混合工程は、準備工程で準備した各原料粉末を混合して混合粉末を得る工程である。
【0090】
混合粉末中の炭化タングステン粉末の割合は、例えば、88質量%以上99質量%以下とすることが好ましい。
【0091】
混合粉末中の金属水素化物粉末の割合は、例えば、0.1質量%以上1.0質量%以下とすることが好ましい。
【0092】
混合粉末中の黒鉛粉末の割合は、例えば、0.05質量%以上0.3質量%以下とすることが好ましい。本実施形態では、第2硬質相粒子の炭素源として、黒鉛粉末と共に、後述の焼結工程におけるCOガス中の炭素を用いる。このため、混合粉末中の黒鉛粉末の割合を前記の通り少量とすることができる。よって、第2硬質相粒子に取り込まれなかった残存カーボンによる焼結体組織の不均質化や強度低下を抑制することができる。
【0093】
混合粉末中の鉄族元素粉末の割合は、例えば、0.3質量%以上15質量%以下とすることが好ましい。
【0094】
混合は、ビーズミルを用いて、0.5時間以上24時間以下行うことが好ましい。これによると、過粉砕を抑制することができ、混合粉末の粒度分布がブロードになるのを抑制することができる。
【0095】
混合工程の後、必要に応じて混合粉末を造粒してもよい。混合粉末を造粒することで、後述する成形工程の際にダイ又は金型へ混合粉末を充填しやすい。造粒には、公知の方法を用いることができる。例えば、スプレードライヤーや、押出し造粒機等の市販の造粒機を用いることができる。
【0096】
<成形工程>
成形工程は、混合工程で得られた混合粉末を所定の形状に成形して、成形体を得る工程である。成形工程における成型方法及び成形条件は、一般的な方法及び条件を用いることができる。所定の形状としては、切削工具形状(例えば、小型ドリル用の丸棒)が挙げられる。
【0097】
<焼結工程>
焼結工程は、成形工程で得られた成形体を焼結して、超硬合金を得る工程である。まず、成形体を、窒素(N2)ガス及び一酸化炭素(CO)ガスを含む混合ガス中で、温度1350~1500℃で、60~120分間加熱する。混合ガス中のN2とCOとの体積比は、N2とCOとの合計を100体積%とした場合、N2が20体積%以上50体積%以下、かつ、COが50体積%以上80体積%以下であることが好ましい。ここで用いられるCOガス中の炭素は、第2硬質相粒子中の炭素源となる。
【0098】
続いて、加熱後の成形体を、窒素(N2)ガス中で、温度1350~1500℃及び圧力3kPa以上10kPa以下で、60~120分間加熱加圧して焼結して超硬合金を得る。加圧することにより、超硬合金中の粗大欠陥の発生を抑制することができる。N2ガス中で加熱加圧することにより、第2硬質相粒子中の窒素量が増加し、超硬合金における第2硬質相粒子の分散性を向上させることができる。
【0099】
焼結工程において、金属水素化物粉末、炭化タングステン粉末、黒鉛粉末及びN2ガスは、一旦鉄族元素からなる結合相中に溶解して、これらの構成元素が複合体を形成し、その後の冷却工程により、該複合体が固溶体として析出する。該固溶体が第2硬質相粒子であると考えられる。金属水素化物粉末を用いると、焼結工程おいて上記複合体が粗大化しにくく、かつ、凝集しにくい。よって、超硬合金における第2硬質相粒子の分散性を向上させることができる。これは、本発明者らが鋭意検討の結果、新たに見出したものである。なお、従来の超硬合金の製造方法では、金属水素化物に代えて金属酸化物(TiO2等)を用いていたが、金属酸化物を用いると超硬合金中に酸素が残存しやすく、強度が低下する。
【0100】
<冷却工程>
冷却工程は、焼結完了後の超硬合金を冷却する工程である。冷却条件は、特に限定されず、一般的な条件を用いることができる。
【0101】
<付記>
上記の説明は、以下に付記する実施形態を含む。
[付記1]
本開示の超硬合金は、第1硬質相粒子を88体積%以上99体積%以下、第2硬質相粒子を0.2体積%以上2.5体積%以下、結合相を0.5体積%以上20体積%以下含むことが好ましい。
本開示の超硬合金は、第1硬質相粒子を80体積%以上99体積%以下、第2硬質相粒子を0.5体積%以上3.0体積%以下、結合相を0.5体積%以上20体積%以下含むことが好ましい。
【0102】
[付記2]
本開示の超硬合金は、合計48個の単位領域Rのうち、単位領域R中の第2硬質相粒子の個数の百分率が0.5%未満又は5%超となる単位領域Rの数は13以下が好ましい。
本開示の超硬合金は、合計48個の単位領域Rのうち、単位領域R中の第2硬質相粒子の個数の百分率が0.5%未満又は5%超となる単位領域Rの数は12以下が好ましい。
本開示の超硬合金は、合計48個の単位領域Rのうち、単位領域R中の第2硬質相粒子の個数の百分率が0.5%未満又は5%超となる単位領域Rの数は10以下が好ましい。
【実施例】
【0103】
本実施の形態を実施例によりさらに具体的に説明する。ただし、これらの実施例により本実施の形態が限定されるものではない。
【0104】
[試料a~試料d、試料A~試料H]
<超硬合金の作製>
(準備工程)
原料粉末として、炭化タングステン粉末、金属水素化物粉末、天然黒鉛粉末、炭化クロム(Cr3C2)粉末、炭化バナジウム(VC)粉末及びコバルト(Co)粉末を準備した。炭化タングステン(WC)粉末の平均粒径は1.0μmである。金属水素化物(TiH2)粉末の平均粒径は1.0μmである。天然黒鉛粉末(LONZA社製「Graphite Powder」)の平均粒径は0.5μmである。炭化クロム(Cr3C2)粉末の平均粒径は0.8μmである。炭化バナジウム(VC)粉末の平均粒径は0.8μmである。コバルト(Co)粉末の平均粒径は0.8μmである。WC粉末、金属水素化物粉末、炭化クロム粉末、炭化バナジウム粉末、コバルト粉末は市販品である。
【0105】
(混合工程)
各原料粉末を混合し、混合粉末を得た。混合粉末中の各原料粉末の割合は以下の通りとした。
金属水素化物(TiH2)粉末:0.2~2.0質量%
天然黒鉛粉末:0.1~2.5質量%
コバルト(Co)粉末:4.5~5質量%
炭化クロム(Cr3C2)粉末:0.3質量%(試料Gのみ配合)
炭化バナジウム(VC)粉末:0.1質量%(試料Hのみ配合)
炭化タングステン粉末:残り(炭化タングステン粉末が混合粉末の残部を占めるように調整する。)
混合はビーズミルで12時間行った。得られた混合粉末をスプレードライヤーを用いて造粒した。
【0106】
(成形工程)
得られた造粒をプレス成型して、丸棒形状の成形体を作製した。
【0107】
(焼結工程)
成形体を、N2ガスとCOガスをN2/CO(体積比)=0.25~1の体積比で混合した混合ガス中で、圧力2~50kPa及び温度1500℃で、60分間加熱加圧した。続いて、成形体を、窒素ガス中で、温度1500℃及び圧力2~50kPaで、60分間加熱加圧して焼結して超硬合金を得た。
【0108】
(冷却工程)
上記超硬合金を、アルゴン(Ar)ガス雰囲気中、徐冷した。
【0109】
[試料I]
試料Iは、特許文献1に記載の方法で丸棒形状の超硬合金を作製した。
【0110】
(準備工程)
原料粉末として、WC粉末(平均粒径2.6μm)、TiC粉末(平均粒径0.7μm)、TaC粉末(平均粒径0.6μm)、Cr3C2粉末(平均粒径0.9μm)、Co粉末(平均粒径0.4μm)を準備した。
【0111】
(混合工程)
各原料粉末を混合し、混合粉末を得た。混合は溶媒とともに、アトライター(回転数:250rpm)で1時間行った。得られた混合粉末をスプレードライヤーを用いて造粒した。
【0112】
(成形工程)
得られた造粒をプレス成型して、丸棒形状の成形体を作製した。
【0113】
(焼結工程)
成形体を、Arガス中で、温度1330℃で、2時間加熱して丸棒形状の超硬合金を得た。
【0114】
(冷却工程)
上記超硬合金を、アルゴン(Ar)ガス雰囲気中、徐冷した。
【0115】
[試料J]
試料Jは、金属水素化物(TiH2)粉末に代えて、TiO2粉末を用い、焼結時にアルゴンガスを用いた以外は、試料a~試料dと同様の方法で丸棒形状の超硬合金を作製した。
【0116】
<評価>
(第1硬質相粒子及び第2硬質相粒子のD50)
各試料について、第1硬質相粒子及び第2硬質相粒子の面積基準の50%累積個数粒径(D50)を測定した。具体的な測定方法は実施形態1に記載されているため、その説明は繰り返さない。結果を表1の「超硬合金」の「第1硬質相粒子」の「D50(μm)」欄及び「第2硬質相粒子」の「D50(μm)」欄に示す。なお、「D50(μm)」欄の記載が「-」の試料については、測定を行わなかった。
【0117】
(第2硬質相粒子のD10/D90)
各試料について、第2硬質相粒子のD10/D90を測定した。具体的な測定方法は実施形態1に記載されているため、その説明は繰り返さない。結果を表1の「超硬合金」の「第2硬質相粒子」の「D10/D90」欄に示す。
【0118】
(第2硬質相粒子の形態、組成及び原子比)
各試料について、第2硬質相粒子の形態、組成及び原子比を測定した。具体的な測定方法は実施形態1に記載されているため、その説明は繰り返さない。試料a~試料d、試料A~試料Iの第2硬質相粒子は固溶体であった。試料Jの第2硬質相粒子は二重構造であった。
【0119】
第2硬質相粒子の組成及び原子比を表1の「超硬合金」の「第2硬質相粒子」の「組成TixW1-xC1-yNy」欄に示す。例えば、試料aでは、組成TixW1-xC1-yNyにおいてx=0.42、y=0.40であり、すなわち、組成はTi0.42W0.58C0.60N0.40であることを示す。試料Iの第2硬質相粒子の組成はTiWCであった。試料Jは二重構造であるため、組成の測定を行わなかった。
【0120】
(クロム及びバナジウムの含有率)
各試料の超硬合金について、クロム及びバナジウムの質量基準の含有率を測定した。具体的な測定方法は実施形態1に記載されているため、その説明は繰り返さない。
【0121】
試料Gはクロムを含み、試料Hはバナジウムを含むことが確認された。その他の試料は、クロム及びバナジウムのいずれも含まないことが確認された。
【0122】
(第2硬質相粒子の分散状態の判定)
各試料について、超硬合金中に第2硬質相粒子が分散して存在しているか、又は、偏在しているかの判定を行った。具体的な判定方法は実施形態1に記載されているため、その説明は繰り返さない。合計48個の単位領域Rのうち、単位領域R中の第2硬質相粒子の個数の百分率が0.5%未満又は5%超となる単位領域Rの数が14以下の場合、超硬合金中で第2硬質相粒子が分散して存在していると判定される。該単位領域Rの数が15以上の場合、超硬合金中で第2硬質相粒子が偏在していると判定される。結果を表1の「超硬合金」の「第2硬質相粒子」の「分散/偏在(数)」に示す。該欄において括弧内の数値は、合計48個の単位領域Rのうち、単位領域R中の第2硬質相粒子の個数の百分率が0.5%未満又は5%超となる単位領域Rの数を示す。
【0123】
(超硬合金の組成)
試料a~試料d及び試料A~試料Hの超硬合金は、第1硬質相粒子を88体積%以上99体積%以下、第2硬質相粒子を0.2体積%以上2.5体積%以下、結合相を0.5体積%以上20体積%以下含むことが確認された。具体的な確認方法は実施形態1に記載されているため、その説明は繰り返さない。
【0124】
(切削試験)
各試料の超硬合金からなる丸棒の先端を刃付け加工して、刃径φ0.3mmの小径ドリルを作製した。各試料において、10本のドリルを準備した。該ドリルを用いて、市販の車載用プリント配線基板の穴開け加工を行った。穴開け加工の条件は、回転数100krpm、送り速度1.0m/分とした。該条件は、低速加工に該当する。2000個の穴開けを行った後のドリルにおいて、チッピングの有無及び刃先状態を観察した。10本のドリルにおけるチッピングの数の平均を表1の「切削試験」の「チッピング数」欄に示す。チッピングの数が少ないほど、耐欠損性及び耐折損性が優れている。切削試験後のドリルの刃先状態を「刃先状態」欄に示す。更に、切削試験後も継続して使用可能か否かを判定した。結果を「継続使用の可否」欄に示す。
【0125】
【0126】
<考察>
試料a~試料d及び試料F~試料Hの超硬合金は実施例に該当する。試料a及びbの超硬合金からなるドリルは、チッピング数が0であり、切削試験後に更に継続使用が可能な状態であった。試料c及び試料dの超硬合金からなるドリルは、チッピング数が1であり、該チッピングは微小であり、切削試験後に更に継続使用が可能な状態であった。試料F(第1硬質相粒子のD50が1.6μm)、試料G(クロムを含む)、試料H(バナジウムを含む)の超硬合金からなるドリルは、チッピング数が2~3であり、切削試験後に更に継続使用が可能な状態であった。
【0127】
すなわち、試料a~試料d及び試料F~試料Hの超硬合金からなるドリルは、低速加工においても、耐欠損性及び耐折損性に優れ、長い工具寿命を有することが確認された。中でも、試料a~試料dは、チッピング数が0又は1であり、非常に優れた耐欠損性及び耐折損性を示した。
【0128】
試料A~試料Eの超硬合金は比較例に該当する。試料A~試料Eの超硬合金からなるドリルは、チッピング数が6~8であり、切削試験後の継続使用が不可能な状態であった。
【0129】
試料Iの超硬合金は比較例に該当する。試料Iの超硬合金からなるドリルは、1000個の穴開け前にドリル自体が折損した。これは、原料に金属炭化物粉末を用いると、焼結工程において第2硬質相粒子の原料粉末が粗大化、かつ、凝集しやすいためと推察される。また、原料に粗粒WC粉末を用いると、第2硬質相粒子の分散性が低下するためと推察される。
【0130】
試料Jの超硬合金は比較例に該当する。試料Jの超硬合金からなるドリルは、1000個の穴開け前にドリル自体が折損した。これは、原料に金属酸化物粉末を用いると、超硬合金中に酸素が残存し、超硬合金の強度が低下するためと推察される。また、第2硬質相粒子の炭素源が配合カーボンのみであると、第2硬質相粒子に取り込まれなかった残存カーボンにより、焼結体組織の不均質化や強度低下が生じたためと推察される。
【0131】
以上のように本開示の実施の形態および実施例について説明を行なったが、上述の各実施の形態および実施例の構成を適宜組み合わせたり、様々に変形することも当初から予定している。
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した実施の形態および実施例ではなく特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0132】
1 第1硬質相粒子
2 第2硬質相粒子
3 結合相
L1 第2硬質相粒子の重心Xを通る任意の線
a1~a8 測定点
R 単位領域