IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ トヨタ自動車株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-シール構造および弁装置 図1
  • 特許-シール構造および弁装置 図2
  • 特許-シール構造および弁装置 図3
  • 特許-シール構造および弁装置 図4
  • 特許-シール構造および弁装置 図5
  • 特許-シール構造および弁装置 図6
  • 特許-シール構造および弁装置 図7
  • 特許-シール構造および弁装置 図8
  • 特許-シール構造および弁装置 図9
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-21
(45)【発行日】2024-10-29
(54)【発明の名称】シール構造および弁装置
(51)【国際特許分類】
   F16J 15/3236 20160101AFI20241022BHJP
   F16J 15/18 20060101ALI20241022BHJP
   F16J 15/3204 20160101ALI20241022BHJP
   F16J 15/3212 20160101ALI20241022BHJP
   F16K 41/04 20060101ALI20241022BHJP
【FI】
F16J15/3236
F16J15/18 A
F16J15/3204 101
F16J15/3212
F16K41/04
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021073388
(22)【出願日】2021-04-23
(65)【公開番号】P2022167540
(43)【公開日】2022-11-04
【審査請求日】2024-01-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000028
【氏名又は名称】弁理士法人明成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小宮 健嗣
(72)【発明者】
【氏名】山下 顕
(72)【発明者】
【氏名】富永 知樹
【審査官】杉山 豊博
(56)【参考文献】
【文献】実公昭47-039147(JP,Y1)
【文献】実開昭53-046457(JP,U)
【文献】特開2012-062975(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 15/3236
F16J 15/3212
F16J 15/3204
F16J 15/18
F16K 41/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
保持部材に形成された収容穴の内周部と、前記収容穴に収容された軸部材の外周部と、の隙間に設けられ、前記隙間における流体の漏洩を防止するシール構造であって、
前記隙間において、前記シール構造を挟んで前記軸部材の軸方向の一方側が高圧部であり、前記軸方向の他方側が低圧部であり、
Uシールリングと、
前記Uシールリングよりも前記低圧部側に設けられるバックアップリングと、
を備え、
前記バックアップリングの外周面には、前記軸方向における前記バックアップリングの一方の端面から他方の端面に亘る複数の溝部であって、前記外周面から前記バックアップリングの径方向の内側に向かって凹んだ複数の溝部が、前記バックアップリングの周方向に等間隔に形成されており、
前記バックアップリングの前記径方向の厚みをtとし、前記溝部の前記径方向の内側への深さをdとすると、d≦1/5tの関係を満たし、
前記溝部は、前記軸方向に見て、三角形状を有し、
前記軸部材は、前記保持部材に対して相対移動可能であり、
前記Uシールリングおよび前記バックアップリングは、前記収容穴の前記内周部に形成され円周方向に連続した装着溝に設けられ、
前記装着溝は、前記保持部材の外周面に設けられた外周溝であってシールリングが装着され円周方向に連続した外周溝よりも、前記軸方向において前記他方側に位置しており、
前記Uシールリングは、前記軸部材の中心軸を含む断面がU字形状をなすUリングと、前記U字形状の凹部に嵌め込まれるコイル状の金属製ばねと、を組み合わせた複合シールである、シール構造。
【請求項2】
前記溝部は、前記周方向における幅が、前記外周面から前記径方向の内側へ向かうほど小さくなる形状である請求項1に記載のシール構造。
【請求項3】
前記溝部の前記周方向における幅に対応する中心角度をθとすると、0°<θ≦60°の条件を満たす請求項1または請求項2に記載のシール構造。
【請求項4】
前記流体は、水素ガスまたはヘリウムガスである請求項1~請求項3のうちいずれか一項に記載のシール構造。
【請求項5】
ガス流路を開閉する弁装置であって、
請求項1~請求項のうちいずれか一項に記載のシール構造と、
前記保持部材と、
前記軸部材であって、前記保持部材に対して相対移動することにより前記ガス流路を開閉する弁棒として機能する前記軸部材と、
を備える弁装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、シール構造および弁装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば特許文献1の弁装置に記載されるように、スリーブと、スリーブの収容穴との間に設けられ、高圧部と低圧部との境界をシールするシール構造として、Uシールリングに加え、バックアップリングを有するものが知られている。バックアップリングは、Uシールリングが高圧力によって潰れて変形してしまうことを防止するものであり、Uシールリングに対して低圧部側に設けられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-80001号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、高圧部が急減圧した際に、Uシールリングの縮径が起こり、これにより低圧部側への脱圧が生じ、この脱圧に起因して高圧流体がバックアップリングの周辺に滞留する虞がある。この場合、バックアップリングが高圧流体による高圧力により変形してしまう虞があった。さらに高圧流体が滞留していき、高圧部と低圧部との大小関係が逆転すると、その差圧によって、本来の方向とは逆の方向からの圧力を受けてUシールリングまでも変形してしまう虞があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示は、以下の形態として実現することが可能である。
【0006】
(1)本開示の一形態によれば、シール構造が提供される。このシール構造は、保持部材に形成された収容穴の内周部と、前記収容穴に収容された軸部材の外周部と、の隙間に設けられ、前記隙間における流体の漏洩を防止するシール構造であって、前記隙間において、前記シール構造を挟んで前記軸部材の軸方向の一方側が高圧部であり、前記軸方向の他方側が低圧部であり、Uシールリングと、前記Uシールリングよりも前記低圧部側に設けられるバックアップリングと、を備え、前記バックアップリングの外周面には、前記軸方向における前記バックアップリングの一方の端面から他方の端面に亘る複数の溝部であって、前記外周面から前記バックアップリングの径方向の内側に向かって凹んだ複数の溝部が、前記バックアップリングの周方向に等間隔に形成されており、前記バックアップリングの前記径方向の厚みをtとし、前記溝部の前記径方向の内側への深さをdとすると、d≦1/5tの関係を満たし、前記溝部は、前記軸方向に見て、三角形状を有し、前記軸部材は、前記保持部材に対して相対移動可能であり、前記Uシールリングおよび前記バックアップリングは、前記収容穴の前記内周部に形成され円周方向に連続した装着溝に設けられ、前記装着溝は、前記保持部材の外周面に設けられた外周溝であってシールリングが装着され円周方向に連続した外周溝よりも、前記軸方向において前記他方側に位置しており、前記Uシールリングは、前記軸部材の中心軸を含む断面がU字形状をなすUリングと、前記U字形状の凹部に嵌め込まれるコイル状の金属製ばねと、を組み合わせた複合シールである。
ここで、「周方向に等間隔」とは、厳密な角度同一での「等間隔」に限らず、当該技術分野の技術常識に照らして、通常、「等間隔」であると判断される範囲の同一性を有していれば、「等間隔」であると解釈する。この形態によれば、通常の圧力保持状態では、Uシールリングが高圧部からの圧力を受けて膨張して気密が保持される。一方、高圧部が一時的に急減圧した際に、Uシールリングの形状が戻り縮径し、バックアップリング側へ高圧部の流体(高圧流体)が微少に漏洩したときでも、漏洩した高圧流体はバックアップリングに形成された溝部を通って低圧部側へ逃げる。このため、バックアップリングの周辺に高圧流体が滞留することを抑制でき、バックアップリングが変形することを抑制できる。
また、溝部は、周方向に等間隔に形成されているため、バックアップリングに作用する面圧を均等にできるとともに、溝部が1箇所に集中して形成されている場合と比較してバランス良く圧力を逃がすことができる。さらに、溝部の径方向への深さが大きすぎると、径方向内側の先端から剪断したり、Uシールリングのバックアップとしての支え力が弱くなったりすることが懸念される。この場合、Uシールリングの変形によって高圧流体が漏洩する。その点、上記形態の溝部は、径方向の厚みtと深さdとの関係においてd≦1/5tの関係を満たすため、d≦1/5tの関係を満たさない場合と比較して、剪断の発生やバックアップ力の欠如といった虞を回避することができ、高圧流体が滞留することをより好適に抑制できる。
また、シール漏れが生じやすい軸部材と保持部材の収容穴との摺動箇所において、バックアップリングおよびUシールリングの変形を抑制できる。
(2)上記形態において、前記溝部は、前記周方向における幅が、前記外周面から前記径方向の内側へ向かうほど小さくなる形状であってもよい。この形態によれば、外周面から切削により溝部を形成する場合、溝部の形状が外周面から径方向の内側へ向かうほど小さくなっているため、溝部の形状が径方向の内側へ向かうほど大きくなっている形状と比較して、製造作業が容易である。
(3)上記形態において、前記溝部の前記周方向における幅に対応する中心角度をθとすると、0°<θ≦60°の条件を満たしてもよい。溝部の周方向における幅に対応する中心角度θが大きすぎるとバックアップリングの外周面での変形防止機能が低下する虞があるが、上記形態によれば、0°<θ≦60°としているため、変形防止機能を保持することができる。
(4)上記形態において、前記流体は、水素ガスまたはヘリウムガスであってもよい。この形態によれば、例えば70MPaを超えるような超高圧となる水素ガスやヘリウムガスを取り扱う機器に適用される好適なシール構造とできる。
)本開示の他の形態によれば弁装置が提供される。弁装置は、ガス流路を開閉する弁装置であって、上記形態のシール構造と、前記保持部材と、前記軸部材であって、前記保持部材に対して相対移動することにより前記ガス流路を開閉する弁棒として機能する前記軸部材と、を備えていてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本開示の第1実施形態におけるシール構造を備える弁装置の概略構成を模式的に示す断面図である。
図2】バックアップリングを示す平面図である。
図3】シール構造に作用する圧力を説明するため図である。
図4】シール構造に作用する圧力を説明するため図である。
図5】シール構造に付与した、時間経過における圧力の変化を示す図である。
図6】試験後のバックアップリングの様子について説明する図である。
図7】比較形態による、試験後のバックアップリングの様子について説明する図である。
図8】他の実施形態におけるバックアップリングを示す平面図である。
図9】他の実施形態におけるバックアップリングを示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
A.実施形態:
A1.弁装置100の全体構成:
図1は、本開示の第1実施形態におけるシール構造40を備える弁装置100の概略構成を模式的に示す断面図である。第1実施形態の弁装置100は、例えば、水素ステーションに配置される水素ディスペンサーにおいて、水素ガス供給の流路を開閉するための遮断弁である。水素ディスペンサーは、高圧(例えば70MPa~90MPa)の水素ガスを燃料電池車(FCV)に直接充填する機器である。以下、弁装置100の構成から説明する。
【0009】
図1に示すように、弁装置100は、弁ボディ10と、ステム20と、グランド30と、シール構造40と、を備えている。弁ボディ10は、上底部11を有する円筒形状をなし、内部にグランド30、ステム20、およびシール構造40を収容する。以下、図1における上を「上」とし、下を「下」とする。図1における上下方向は、ステム20の軸方向(ステム20の中心軸Cが延びる方向)と一致する。また、図1における下方が軸方向の「一方」であり、図1における上方が軸方向の「他方」である。
【0010】
図1において、ステム20の下方には図示しない高圧ガス流路が設けられている。図1において、ステム20の上方には、ステム20を駆動する図示しない駆動部が設けられている。ステム20は、小径部21と、大径部22と、を有している。大径部22は、小径部21と同軸上であって小径部21の下側に位置している。小径部21の上端は駆動部に接続している。大径部22の下端は図示しない弁体に接続している。
【0011】
弁体は例えばニードル弁であり、駆動部により機械的にステム20および弁体を上下動させることで、高圧ガス流路を開閉することができる。また、弁体をボール弁とし、ソレノイド部で構成される駆動部により電磁的にステム20および弁体を中心軸Cまわりに回動させることで高圧ガス流路を開閉する弁装置100としてもよい。ステム20は、「軸部材」に相当し、グランドに対して相対移動可能な「弁棒」である。
【0012】
グランド30は、ステム20を収容する収容穴31が貫通形成された円筒部材であり、弁ボディ10内に固定されている。グランド30は、ステム20のぐらつきを抑える台座であり、中心軸Cが垂直を維持するようにステム20を保持する機能を有する。グランド30は、「保持部材」に相当する。グランド30において、軸方向の中心近傍の外周面には、円周方向へ連続した外周溝32が形成されている。外周溝32には、2つの同様のシールリング(Oリング)33,34が軸方向に並んで装着されている。
【0013】
また、グランド30において、軸方向の中心近傍の内周面には、円周方向へ連続した内周溝35が形成されている。内周溝35は、外周溝32よりも軸方向において若干上側に設けられている。内周溝35には、Uシールリング41とバックアップリング42とが軸方向に並んで装着されている。内周溝35は、「装着溝」に相当する。バックアップリング42は、Uシールリング41に対して軸方向の他方側(図1における上側であって後述する低圧部Lp側)に設けられている。また、装着された状態において、Uシールリング41とバックアップリング42の外径は、略同じとなっている。
【0014】
Uシールリング41とバックアップリング42とで、シール構造40が構成されている。すなわち、シール構造40は、収容穴31の内周部36と、ステム20(小径部21)の外周部23との隙間(内周溝35を含む)に設けられ、ステム20の軸方向の一方から他方への水素ガスの漏洩を防止する。
【0015】
Uシールリング41は、PTFE等のフッ素樹脂材料からなる。Uシールリング41は、中心軸Cを含む平面での断面がU字形状をなすUリング43と、U字形状の凹部に嵌め込まれ耐屈曲疲労性に優れたコイル状の金属製ばね44と、を組み合わせた複合シールである。バックアップリング42は、Uシールリング41よりも硬質なPTFE等のフッ素樹脂材料からなる。バックアップリング42は、中心軸Cを含む平面での断面が長方形状をなすシールリング部材である。
【0016】
図1において、Uシールリング41の軸方向における設置位置であって、Uシールリング41とグランド30とが接しているラインが、高圧部Hpと低圧部Lpとの境界Lを形成する。図1において、境界Lより上側が低圧部Lpであり、下側が高圧部Hpである。すなわち、シール構造40挟んで軸方向の一方側が高圧部Hpであり、軸方向の他方側が低圧部Lpである。
【0017】
ステム20の外周部23には、高圧ガスを意図的に低圧部Lp側へ流通させる流路は形成されていない。しかし、大径部22の外周部と弁ボディ10の内周部との隙間、グランド30の下面と大径部22の上面との隙間、および、小径部21の外周部23と収容穴31の内周部36との隙間を、高圧ガスが漏れ出るようにして流通する。図1において、高圧ガス流路から高圧ガスが各隙間を漏れ出るルートRを太線で図示している。本開示のシール構造40は、このルートRを通る高圧ガスの外部への漏れを防止する。なお、弁ボディ10の上底部11とステム20の外周部23との隙間12はシールされていないため、境界Lより上側の低圧部Lpは大気圧となっている。
【0018】
A2.バックアップリング42の詳細構成:
図2は、バックアップリング42を示す平面図である。図2では、軸方向から見たバックアップリング42を表している。図2に示すように、バックアップリング42の外周面45には、軸方向へ延びる複数の溝部46が、周方向に等間隔に形成されている。溝部46は、軸方向の一端面から他端面に亘って連続して形成され、外周面45からバックアップリング42の径方向の内側へ切り欠かれて形成されている。本実施形態の溝部46は、周方向に90度の等間隔で全体として4つ形成されている。
【0019】
各溝部46は、周方向における切り欠き幅が、外周面45から径方向の内側へ向かうほど小さくなっており、平面視において略等脚台形形状をなしている。また、各溝部46の周方向における切り欠き幅に対応する中心角度θは、約20°~30°程度である。中心角度θは、大きすぎるとバックアップリング42の外周面45での変形防止機能が低下する虞があるため、0°<θ≦60°の条件の範囲にあることが望ましい。なお、溝部46の角には適宜Rを形成してもよい。
【0020】
また、バックアップリング42の径方向の厚みtと、各溝部46の径方向の内側への切り欠き深さdとは、d≦1/5tの関係を満たしている。本実施形態では、概ねd=1/5tの関係になっている。切り欠き深さdの値が大きすぎると、溝部46周辺の剪断の発生やシール力の欠如といった虞があるため、d≦1/5tの関係を満たすことが望ましい。なお、詳細な効果については後述する。
【0021】
A3.バックアップリング42の溝部46による作用:
次に、上記シール構造40のシール機能について説明する。図3は、シール構造40に作用する圧力を説明するため図であり、圧力保持状態を示している。図4は、シール構造40に作用する圧力を説明するため図であり、急速減圧時の状態を示している。図3に示すように、通常の圧力保持状態では、矢印A1に示すように高圧部Hpから低圧部Lpへの方向に作用する高温高圧ガスによる応力と、熱膨張とによりUシールリング41が矢印A2に示す方向に開いており、高圧部Hpと低圧部Lpとの境界Lにおける気密が保持されている。
【0022】
図3に示すように、通常はシール構造40により気密が保持されているが、高圧ガス流路内の圧力が急速に減圧した場合、図4において矢印A3に示すように、Uシールリング41の形状が戻って縮径し、高圧ガスが低圧部Lp側へ微少ながら漏洩する。
【0023】
このとき、漏洩した高圧ガスは、矢印A4に示すように、バックアップリング42の溝部46を通り、さらに、バックアップリング42より低圧部Lp側のステム20の外周部23とグランド30の内周部36との隙間を通って、上底部11と外周部23との隙間12(図1参照)から大気側へ逃がされる。このため、バックアップリング42の周辺Sに高圧ガスが滞留することがない。
【0024】
[効果]
(1)上記のように、シール構造40の内部で微少に高圧ガスが漏洩しても、上記第1実施形態では、高圧ガス溜まりができないように、バックアップリング42に溝部46を設けているため、溝部46から大気側へ圧を逃がすことができる。このため、高圧ガス溜まりによるバックアップリング42の破損を防止でき、また、高圧ガス溜まりによって、図4において矢印A5に示すように、本来の圧力保持状態とは逆の方向である逆圧が発生することによるUシールリング41の破損も防止できる。Uシールリング41は、1方向シールため逆圧がかかると潰れてしまうためである。
【0025】
次に、上記第1実施形態のシール構造40を用いた本出願人による耐久試験について考察する。本出願による耐久試験では、シール構造40に対して急加圧および急減圧を3万回繰り返し、その後、Uシールリング41の状態を観察した。図5は、シール構造40に付与した、時間経過における圧力の変化を示す図である。図5に示すように、約10秒に一回、90MPaから0MPaまでの急減圧を行った。
【0026】
図6は、図5に示す急減圧を3万回実施した後のUシールリング41の様子について説明する図であり、Uシールリング41を金属製ばね44側から見た写真が示されている。図6に示すように、第1実施形態のUシールリング41では、金属製ばね44やUリング43の変形が見られず良好であった。また、高圧ガスの漏れは計測されなかった。
【0027】
図7は、図5と同様の急減圧を3万回実施した後の比較形態におけるUシールリング51の様子について説明する図であり、Uシールリング51を金属製ばね54側から見た写真が示されている。比較形態のUシールリング51は、d≦1/5tの関係を満たす溝部46が形成されない従来のバックアップリングとともに配置されたものである。図7に示すように、比較形態のUシールリング51では、金属製ばね54が部分的に潰れて破損していることが確認された。また、計測により得られた高圧ガスの漏れ量は7500ppmであった。以上より、上記第1実施形態のシール構造40では、比較形態と比べて高圧ガスの漏れを抑制でき、耐久性が向上していることが確認された。
【0028】
(2)上記第1実施形態における溝部46は、周方向に等間隔に形成されているため、バックアップリング42に作用する面圧を均等にできるとともに、溝部46が1箇所に集中して形成されている場合と比較してバランス良く圧力を逃がすことができる。さらに、溝部46の径方向への切り欠き深さdが大きすぎると、切り欠き先である径方向内側の先端から剪断したり、Uシールリング41のバックアップとしての支え力が弱くなったりすることが懸念される。この場合、Uシールリング41の変形によって高圧流体が漏洩する。その点、上記第1形態の溝部46は、径方向の厚みtと深さdとの関係においてd≦1/5tの関係を満たすため、d≦1/5tの関係を満たさない場合と比較して、剪断の発生やバックアップ力の欠如といった虞を回避することができ、高圧流体が滞留することを抑制できる。
【0029】
(3)上記第1実施形態における溝部46は、周方向の切り欠き幅が、外周面45から径方向の内側へ向かうほど小さくなる形状である。このため、外周面45から切削により溝部46を形成する場合、溝部46の形状が径方向の内側へ向かうほど大きくなっている形状と比較して、製造作業が容易である。
【0030】
(4)上記第1実施形態において、溝部46の周方向における切り欠き幅に対応する中心角度θは20~30°程度であり、0°<θ≦60°の範囲内である。溝部46の周方向における切り欠き幅に対応する中心角度θが大きすぎるとバックアップリング42の外周面45での変形防止機能が低下する虞があるが、上記形態によれば、バックアップリング42としての機能を好適に保持することができる。
【0031】
B.他の実施形態:
(B1)図8は、他の実施形態におけるバックアップリング61を示す平面図である。上記第1実施形態の溝部46は、平面視において等脚台形形状をなすものとしたが、図8に示す溝部62のように、径方向の内側へなだらかに湾曲した凹部として形成してもよい。溝部は、周方向に等間隔であり、かつ、径方向の厚みtと切り欠き深さdとの関係においてd≦1/5tの関係を満たしていればよい。
【0032】
(B2)図9は、図8とは異なる他の実施形態におけるバックアップリング71を示す平面図である。溝部46のさらに別な形態として、図9に示すように、平面視において三角形状を有する溝部72を、周方向に等間隔に8つ形成してもよい。その他、溝部46の個数は、2つや、3つ、5つ等種々変更可能である。
【0033】
(B3)また、溝部46は、周方向の切り欠き幅が、外周面45から径方向の内側へ向かうほど小さくなるものとしたが、同じ幅でも良いし、内側の幅の方が広くてもよい。
【0034】
(B4)溝部46は、軸方向に延びて形成したが、軸方向の一端面から他端面に至るように連続して形成されていればよく、周方向に対して斜めに延びていてもよい。
【0035】
(B5)上記第1実施形態の弁装置100およびシール構造40では、封止する流体として水素ガスを用いたが、ヘリウムガスでもよい。
【0036】
(B6)上記第1実施形態のシール構造40を有する弁装置100は、遮断弁としたが、複数の流路を切り替える切り替え弁としてもよい。
【0037】
(B7)上記第1実施形態のバックアップリング42は、中心軸Cを通る平面での断面が四角形状であるとしたが、円形状やその他の形状であってもよい。
【0038】
(B8)上記第1実施形態のシール構造40は、弁装置100の内部に適用したが、本開示のシール構造40の適用は弁装置100に限られない。例えば、単に、高圧が作用する流体流路の外壁部位に漏洩防止のために設けてもよい。
【0039】
本開示は、上記各実施形態に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する各実施形態中の技術的特徴は、上述の課題の一部又は全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。
【符号の説明】
【0040】
10…弁ボディ、11…上底部、12…隙間、20…ステム、21…小径部、22…大径部、23…外周部、30…グランド、31…収容穴、32…外周溝、35…内周溝、36…内周部、40…シール構造、41…Uシールリング、42…バックアップリング、43…Uリング、44…金属製ばね、45…外周面、46…溝部、100…弁装置。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9