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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-21
(45)【発行日】2024-10-29
(54)【発明の名称】制御装置
(51)【国際特許分類】
   H02P 27/06 20060101AFI20241022BHJP
   H02M 7/48 20070101ALI20241022BHJP
   H02M 3/155 20060101ALI20241022BHJP
【FI】
H02P27/06
H02M7/48 M
H02M3/155 C
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021081119
(22)【出願日】2021-05-12
(65)【公開番号】P2022175017
(43)【公開日】2022-11-25
【審査請求日】2024-02-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 修平
(72)【発明者】
【氏名】池山 敏生
(72)【発明者】
【氏名】田栗 賢人
【審査官】谿花 正由輝
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-055676(JP,A)
【文献】特開2008-312306(JP,A)
【文献】特開2019-193445(JP,A)
【文献】特開2012-186905(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0233816(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 27/06
H02M 7/48
H02M 3/155
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータを駆動するインバータ、及び電源から前記インバータに印加される電圧を昇圧する昇圧コンバータを、前記モータに要求されるトルクに応じてそれぞれ制御する制御部と、
前記昇圧コンバータにより昇圧された電圧を第1閾値、及び前記第1閾値より低い第2閾値とそれぞれ比較する比較部とを有し、
前記制御部は、前記比較部の比較結果に基づき、
前記電圧が前記第1閾値以上である場合、前記昇圧コンバータの動作を停止させ、
前記電圧が前記第2閾値以上、かつ前記第1閾値未満である場合、前記モータに要求されるトルクを、前記電圧が前記第2閾値未満である場合より低くなるように制限する、
制御装置。
【請求項2】
前記第1閾値は、前記インバータの回路素子及び前記昇圧コンバータの回路素子の耐圧のうち、低い方の耐圧から、前記トルクが制限されたときの電流値において生ずるサージ電圧分を減じた値以下に設定されている、
請求項1に記載の制御装置。
【請求項3】
前記モータの回転数及びトルクの相関性を示す第1データ及び第2データを格納する格納部を有し、
前記第2データのトルクの上限値は、前記第1データのトルクの上限値より低く、
前記制御部は、
前記電圧が前記第2閾値未満である場合、前記第1データに基づき、前記モータの回転数から前記モータに要求されるトルクを決定し、
前記電圧が前記第2閾値以上、かつ前記第1閾値未満である場合、前記第2データに基づき、前記モータの回転数から前記モータに要求されるトルクを決定する、
請求項1または2に記載の制御装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記電圧が前記第2閾値以上、かつ前記第1閾値未満である場合、前記昇圧コンバータから前記インバータに出力される最大電力を前記電圧が前記第2閾値未満である場合より低くなるように制御する、
請求項1乃至3の何れかに記載の制御装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記モータに要求されるトルクを制限した後、前記電圧が前記第2閾値未満となった場合、前記モータに要求されるトルクの制限を解除する、
請求項1乃至4の何れかに記載の制御装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータの制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えばハイブリッド車や電気自動車などの電動車両には、車輪を駆動するモータ、モータに三相交流電流を出力するインバータ、電源からインバータに印加される電圧を昇圧する昇圧コンバータ、及び、インバータと昇圧コンバータを制御するECU(Electronic Control Unit)などの制御装置が搭載される。ECUは、例えば昇圧コンバータの昇圧後の電圧値が閾値を超えた場合、昇圧コンバータ及びインバータの各々を構成するIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)などの回路素子を過電圧から保護するため、昇圧動作を停止させる(例えば特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2009-55676号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
回路素子の耐圧は、例えば回路素子のスイッチング動作中に生ずるサージ電圧により回路素子の印加電圧が上昇して閾値を超えても到達しない値となるように設定される。このとき、最大サージ電圧を想定して耐圧が決定されるが、回路素子の耐圧が高いほど、インバータ及び昇圧コンバータの装置コストが高くなってしまう。
【0005】
そこで本発明は上記の課題に鑑みてなされたものでありインバータ及び昇圧コンバータの回路素子の耐圧を低減することができる制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本明細書に記載の制御装置は、モータを駆動するインバータ、及び電源から前記インバータに印加される電圧を昇圧する昇圧コンバータを、前記モータに要求されるトルクに応じてそれぞれ制御する制御部と、前記昇圧コンバータにより昇圧された電圧を第1閾値、及び前記第1閾値より低い第2閾値とそれぞれ比較する比較部とを有し、前記制御部は、前記比較部の比較結果に基づき、前記電圧が前記第1閾値以上である場合、前記昇圧コンバータの動作を停止させ、前記電圧が前記第2閾値以上、かつ前記第1閾値未満である場合、前記モータに要求されるトルクを、前記電圧が前記第2閾値未満である場合より低くなるように制限する。
【0007】
上記の構成において、前記第1閾値は、前記インバータの回路素子及び前記昇圧コンバータの回路素子の耐圧のうち、低い方の耐圧から、前記トルクが制限されたときの電流値において生ずるサージ電圧分を減じた値以下に設定してもよい。
【0008】
上記の構成において、制御装置は、前記モータの回転数及びトルクの相関性を示す第1データ及び第2データを格納する格納部を有し、前記第2データのトルクの上限値は、前記第1データのトルクの上限値より低く、前記制御部は、前記電圧が前記第2閾値未満である場合、前記第1データに基づき、前記モータの回転数から前記モータに要求されるトルクを決定し、前記電圧が前記第2閾値以上、かつ前記第1閾値未満である場合、前記第2データに基づき、前記モータの回転数から前記モータに要求されるトルクを決定してもよい。
【0009】
上記の構成において、前記制御部は、前記電圧が前記第2閾値以上、かつ前記第1閾値未満である場合、前記昇圧コンバータから前記インバータに出力される最大電力を前記電圧が前記第2閾値未満である場合より低くなるように制御してもよい。
【0010】
上記の構成において、前記制御部は、前記モータに要求されるトルクを制限した後、前記電圧が前記第2閾値未満となった場合、前記モータに要求されるトルクの制限を解除してもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、インバータ及び昇圧コンバータの回路素子の耐圧を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】モータシステムの一例を示す構成図である。
図2】IGBTの印加電圧の例を示す図である。
図3】IGBTの電流値に対するサージ電圧の変化の一例を示す図である。
図4】ECUの動作の一例を示すフローチャートである。
図5】負荷の制限及び制限解除の処理の一例を示すフローチャートである。
図6】モータの通常トルクマップデータ及び制限トルクマップデータの一例を示す図である。
図7】昇圧コンバータの最大電力の変化の一例を示す図である。
図8】インバータの制御処理の一例を示すフローチャートである。
図9】電流マップデータの一例を示す図である。
図10】昇圧コンバータの制御処理の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(電源システムの構成)
図1は、モータシステム9の一例を示す構成図である。モータシステム9は、例えばハイブリッド車や電気自動車などの電動車両に搭載される。モータシステム9は、電源回路1、モータ2a、直流電源3、回転数センサ41a,41b、電流センサ42a,42b、アクセルセンサ43、ブレーキセンサ44、及びECU5を有する。
【0014】
一方のモータ2aは不図示の車輪を駆動し、他方のモータ2bは発電機として動作し、モータ2aなどに電力を供給する。モータ2a,2bは、例えばブラシレスモータであり、ステータに三相の巻線20a,20b,20cを有する。三相の巻線20a,20b,20cには、電源回路1から出力された三相交流電流が流れる。なお、モータ2bの三相の巻線20a,20b,20cの図示は省略する。
【0015】
回転数センサ41a,41bは、例えばレゾルバであり、モータ2a,2bの回転数を検出して、その検出値をECU5に出力する。電流センサ42a,42bは、三相の巻線20a,20b,20cに流れる三相交流電流の各電流値をそれぞれ検出し、その検出値をECU5に出力する。
【0016】
電源回路1は、インバータ10a,10b、昇圧コンバータ11、一組のリレー13、及びフィルタコンデンサ14,15を含む。電源回路1は、直流電源3とモータ2a,2bの間に電気的に接続されている。直流電源3は電源の一例であり、例えばリチウムイオン電池である。
【0017】
インバータ10a,10bは、直流電源3から入力される直流電流によりモータ2a,2bをそれぞれ駆動する。インバータ10a,10bは互いに同一の構成を有するため、一方のインバータ10aの構成のみを図示して説明する。
【0018】
インバータ10aは、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)101a~101c,102a~102c及び還流ダイオード103a~103c,104a~104cを含む。IGBT101a,102aは、モータ2aの巻線20aにそれぞれ接続される上アーム及び下アームである。IGBT101b,102bは、モータ2aの巻線20bにそれぞれ接続される上アーム及び下アームである。IGBT101c,102cは、モータ2aの巻線20cにそれぞれ接続される上アーム及び下アームである。
【0019】
還流ダイオード103a~103c,104a~104cはIGBT101a~101c,102a~102cにそれぞれ並列接続されている。還流ダイオード103a~103c,104a~104cには、三相の巻線20a,20b,20cから回生電流が流れる。また、還流ダイオード103a~103c,104a~104cは、IGBT101a~101c,102a~102cがオフ制御されたときに生ずるサージ電圧が流れる。
【0020】
IGBT101a~101cのコレクタ端子は直流電源3の正極端子に接続され、IGBT101a~101cのエミッタ端子は、IGBT102a~102cのコレクタ端子にそれぞれ接続されている。IGBT102a~102cのエミッタ端子は直流電源3の負極端子に接続されている。
【0021】
IGBT101a~101c,102a~102cのゲート端子には、ECU5からPWM(Pulse Width Modulation)信号S1a~S1c,S2a~S2cがそれぞれ入力される。IGBT101a~101c,102a~102cは、PWM信号S1a~S1c,S2a~S2cによりそれぞれオンオフされる。これにより、インバータ10aは直流電源3の直流電流から三相交流電流を生成してモータ2aに出力する。また、他方のインバータ10bもインバータ10aと同様に直流電流から三相交流電流を生成して他方のモータ2bに出力する。なお、インバータ10a,10bは、IGBT101a~101c,102a~102cに代えて、他種のトランジスタを含んでもよい。
【0022】
昇圧コンバータ11は、直流電源3とインバータ10a,10bの間に電気的に接続されている。昇圧コンバータ11は、直流電源3からインバータ10a,10bに印加される電圧を昇圧する。
【0023】
昇圧コンバータ11は、リアクトル12、IGBT110,111、及び還流ダイオード112,113を含む。IGBT110,111は直列接続されている。IGBT110のコレクタ端子はインバータ10aのIGBT101a~101cのコレクタ端子に接続され、IGBT110のエミッタ端子はIGBT111のコレクタ端子に接続されている。IGBT111のエミッタ端子は直流電源3の負極端子及びIGBT102a~102cのエミッタ端子に接続されている。
【0024】
リアクトル12の一端はIGBT110,111の接続点に接続され、リアクトル12の他端は直流電源3の正極端子に接続されている。リアクトル12は、IGBT110,111のスイッチング動作に従って直流電源3から入力されるエネルギーを蓄積して放出する。
【0025】
還流ダイオード112,113はIGBT110,111にそれぞれ並列接続されている。還流ダイオード112,113は、IGBT110,111がオフ制御されたときに直流電源3の直流電流を流す。
【0026】
IGBT110,111のゲート端子には、ECU5からPWM信号S1u,S2uがそれぞれ入力される。IGBT110,111は、PWM信号S1u,S2uによりそれぞれオンオフされる。これにより、昇圧コンバータ11は直流電圧を昇圧する。なお、昇圧コンバータ11は、IGBT110,111に代えて他種のトランジスタを含んでもよい。
【0027】
リレー13は、直流電源3の供給ラインLp,Ln上に設けられる。リレー13は、直流電源3と昇圧コンバータ11及びインバータ10a,10bの間の接続をオンオフする。
【0028】
フィルタコンデンサ14は直流電源3と並列接続されている。フィルタコンデンサ14は、リレー13と昇圧コンバータ11の間の供給ラインLp,Lnの間に接続されている。フィルタコンデンサ14は、昇圧コンバータ11から直流電源3に加わる電圧変動を平滑化する。
【0029】
フィルタコンデンサ15は各インバータ10a,10bと並列接続されている。フィルタコンデンサ15は、各インバータ10a,10bから直流電源3に加わる電圧変動を平滑化する。フィルタコンデンサ15には、昇圧コンバータ11により昇圧されたシステム電圧VHが印加される。
【0030】
電圧センサ40は、フィルタコンデンサ15の両端間に接続され、フィルタコンデンサ14に印加されているシステム電圧VHを検出する。電圧センサ40は、システム電圧VHの検出値をECU5に出力する。
【0031】
アクセルセンサ43は車両のアクセルペダル(不図示)の踏み込み量を検出し、その検出値をECU5に出力する。ブレーキセンサ44は車両のブレーキペダル(不図示)の踏み込み量を検出し、その検出値をECU5に出力する。
【0032】
ECU5は、例えばCPU(Central Processing Unit)などのプロセッサ及びメモリなどを有するコンピュータであり、モータ2a,2bの状態に応じて電源回路1の動作を制御する。ECU5は、制御部50、比較部52、及び格納部51を有する。なお、ECU5は制御装置の一例である。
【0033】
格納部51は、例えばメモリなどの記憶回路である。格納部51は、通常トルクマップデータ510、制限トルクマップデータ511、及び電流マップデータ512を格納する。通常トルクマップデータ510は、モータ2a,2bの回転数及びトルクの相関性を示す第1データの一例であり、制限トルクマップデータ511は、モータ2a,2bの回転数及びトルクの相関性を示す第2データの一例である。
【0034】
制御部50及び比較部52は、例えばプロセッサを駆動するプログラムにより形成される機能であるが、これに限定されず、例えばFPGA(Field Programmable Gate Array)やASIC(Application Specified Integrated Circuit)などのハードウェアから構成される回路であってもよい。
【0035】
制御部50は、インバータ10a,10b及び昇圧コンバータ11を、モータ2a,2bに要求されるトルク(以下、要求トルクと表記)に応じてそれぞれ制御する。制御部50は、要求トルクに応じてインバータ10a,10bのPWM信号S1a~S1c,S2a~S2c、及び昇圧コンバータ11のPWM信号S1u,S2uを生成する。制御部50は、PWM信号S1a~S1c,S2a~S2cをインバータ10a,10bのIGBT101a~101c,102a~102cにそれぞれ出力し、PWM信号S1u,S2uを昇圧コンバータ11のIGBT110,111にそれぞれ出力する。
【0036】
比較部52は、昇圧コンバータ11により昇圧されたシステム電圧VHを過電圧閾値THexc、及び過電圧閾値THexcより低い負荷制限閾値THregとそれぞれ比較する。ここで過電圧閾値THexcは第1閾値の一例であり、負荷制限閾値THregは第2閾値の一例である。
【0037】
制御部50は、比較部52の比較結果に基づき、モータ2a,2bの負荷を制限することにより昇圧コンバータ及びインバータ10a,10bの最大電流を抑制してサージ電圧を低下させる。これにより、車両の異常動作時、インバータ10a,10bの各IGBT101a~101c,102a~102c、及び昇圧コンバータ11の各IGBT110,111に印加される電圧(以下、印加電圧と表記)の最大値が低減されるため、その耐圧を低下させることができる。
【0038】
(IGBTの印加電圧)
図2は、IGBT101a~101c,102a~102c,110,111の印加電圧の例を示す図である。図2の縦軸は、IGBT101a~101c,102a~102c,110,111の印加電圧(V)を示す。なお、IGBT101a~101c,102a~102c,110,111は回路素子の一例である。
【0039】
符号G1aは、通常動作時のシステム電圧VHの内訳を示す。システム電圧VHは基本分の電圧VHoと通常動作時の変動分の電圧ΔVH(通常)の和となる。基本分の電圧VHoは、電源回路1の電気的特性に基づいて決定される固定値であり、通常動作時の変動分の電圧ΔVH(通常)は、例えば通常の車両の運転状態に応じて変動する。
【0040】
符号G1bは、異常動作時のシステム電圧VHの内訳を示す。システム電圧VHは基本分の電圧VHoと異常動作時の変動分の電圧ΔVH(異常)の和となる。異常動作時の変動分の電圧ΔVH(異常)は、例えば仕様上の想定外の車両の運転状態に応じて変動し、その最大値は通常動作時の変動分の電圧ΔVH(通常)より大きい。
【0041】
ECU5の制御部50は、電圧センサ40が検出したシステム電圧VHが過電圧閾値THexc以上である場合、昇圧コンバータ11及びインバータ10a,10bの動作を停止させる。過電圧閾値THexcは、サージ電圧ΔVがシステム電圧VHに加わっても、IGBT101a~101c,102a~102c,110,111の印加電圧が耐圧を超えないように設定される。
【0042】
符号G1cは、制御部50がモータ2a,2bの負荷を制限していない場合の最大電流値において生ずるサージ電圧ΔV(制限無し)を示す。仮に負荷の制限が行われないと仮定すると、異常動作時にサージ電圧ΔV(制限無し)が発生しても、印加電圧が耐圧Vdrを超えないように、IGBT101a~101c,102a~102c,110,111の耐圧Vdrは、過電圧閾値THexcにサージ電圧ΔV(制限無し)を加えた印加電圧より高く設定される。
【0043】
符号G1dは、制御部50がモータ2a,2bの負荷を制限している場合の最大電流値において生ずるサージ電圧ΔV(制限有り)を示す。この場合の最大電流値におけるサージ電圧ΔV(制限有り)は、負荷制限がない場合の最大電流値におけるサージ電圧ΔV(制限無し)より低いため(「サージ電圧低下」参照)、IGBT101a~101c,102a~102c,110,111の耐圧Vdr’は、負荷の制限がない場合に要求される耐圧Vdrより低くすることができる(「耐圧低下」参照)。したがって、耐圧Vdr’は、過電圧閾値THexcにサージ電圧ΔV(制限有り)を加えた印加電圧より高く、かつ耐圧Vdrより低く設定される。
【0044】
制御部50は、システム電圧VHが負荷制限閾値THreg以上になった場合、異常動作時のサージ電圧ΔVの予兆を検知して負荷を制限する。これにより、IGBT101a~101c,102a~102c,110,111の電流値が負荷制限前より低下してサージ電圧ΔVが抑制されるため、IGBT101a~101c,102a~102c,110,111の耐圧Vdr’を低くすることができる。
【0045】
図3は、IGBT101a~101c,102a~102c,110,111の電流値に対するサージ電圧(V)の変化の一例を示す図である。サージ電圧は、電流値に対して正方向に凸の二次関数状に増加する。
【0046】
制御部50がモータ2a,2bの負荷を制限していない場合の最大電流値Inrmではサージ電圧ΔV_nrmが発生する。制御部50がモータ2a,2bの負荷を制限している場合の最大電流値Iregではサージ電圧ΔV_regが発生する。ここで、最大電流値Iregは最大電流値Inrmより小さく、サージ電圧ΔV_regはサージ電圧ΔV_nrmより小さい。
【0047】
制御部50は、負荷の制限によりIGBT101a~101c,102a~102c,110,111の負荷制限前の最大電流値Inrmを負荷制限時の最大電流値Iregに低下させる。これによりサージ電圧ΔV_nrmがサージ電圧ΔV_regに抑制される。
【0048】
(ECUの動作)
図4は、ECU5の動作の一例を示すフローチャートである。比較部52は、システム電圧VHの検出値を電圧センサ40から取得する(ステップSt1)。次に比較部52は、システム電圧VHを過電圧閾値THexcと比較する(ステップSt2)。これにより、ECU5は、電源回路1に異常が発生していないか否かを判定する。
【0049】
過電圧閾値THexcは、図2及び図3に示されるように、インバータ10a,10b及び昇圧コンバータ11のIGBT101a~101c,102a~102c,110,111の耐圧Vdr’から、負荷である要求トルクが制限されたときの最大電流値Iregにおいて生ずるサージ電圧ΔV_reg(ΔV(制限有り))分を減じた値以下に設定されている。このため、システム電圧VHが過電圧閾値THexcを超えたときにサージ電圧ΔV_regが発生しても、印加電圧がIGBT101a~101c,102a~102c,110,111の耐圧Vdr’を超えることが抑制される。
【0050】
ここで、インバータ10a,10bのIGBT101a~101c,102a~102cの耐圧と昇圧コンバータ11のIGBT110,111の耐圧が相違する場合、過電圧閾値THexcは、低い方の耐圧Vdr’から、負荷である要求トルクが制限されたときの最大電流値Iregにおいて生ずるサージ電圧ΔV_reg(ΔV(制限有り))分を減じた値以下に設定されている。なお、過電圧閾値THexcは、さらに電圧センサ40の検出値の誤差を見込んで設定されてもよい。
【0051】
制御部50は、システム電圧VHが過電圧閾値THexc以上である場合(ステップSt2のNo)、昇圧コンバータ11及びインバータ10a,10bの動作を停止させる(ステップSt9)。このとき、制御部50は、昇圧コンバータ11に対するPWM信号S1u,S2uの出力を停止することによりIGBT110,111をオフにする。また、制御部50は、インバータ10a,10bに対するPWM信号S1a~S1c,S2a~S2cの出力を停止することによりIGBT101a~101c,102a~102cをオフにする。制御部50は、昇圧コンバータ11及びインバータ10a,10bの動作の停止後、処理を終了する。
【0052】
なお、昇圧コンバータ11の動作が停止すると、インバータ10a,10bにはシステム電圧VHが印加されなくなるため、制御部50は昇圧コンバータ11の動作だけを停止してもよい。しかし、制御部50はインバータ10a,10bの動作を停止することによりその消費電力を削減することができる。
【0053】
また、比較部52は、システム電圧VHが過電圧閾値THexc未満である場合(ステップSt2のYes)、システム電圧VHを負荷制限閾値THregと比較する(ステップSt3)。これにより、ECU5は、電源回路1に異常が発生する予兆の有無を判定する。
【0054】
制御部50は、システム電圧VHが負荷制限閾値THreg以上である場合(ステップSt3のNo)、モータ2a,2bの負荷を制限する(ステップSt8)。このとき、制御部50は、モータ2a,2bの要求トルクを、システム電圧VHが負荷制限閾値THreg未満である場合より低くなるように制限する。なお、負荷制限処理の詳細は後述する。
【0055】
また、制御部50は、システム電圧VHが負荷制限閾値THreg未満である場合(ステップSt3のYes)、モータ2a,2bの負荷制限中であるか否かを判定する(ステップ4)。制御部50は、負荷制限中である場合(ステップSt4のYes)、負荷制限を解除する(ステップSt5)。このとき、制御部50は、モータ2a,2bの要求トルクの制限を解除する。このため、電源回路1に異常が発生する予兆がなくなった場合、モータ2a,2bの要求トルクを、システム電圧VHが負荷制限閾値THreg未満である場合に戻すことができる。なお、負荷制限の解除処理の詳細は後述する。
【0056】
また、制御部50は、負荷制限中ではない場合(ステップSt4のNo)、ステップSt5の処理を実行しない。
【0057】
次に制御部50は、モータ2a,2bの要求トルクに応じて昇圧コンバータ11及びインバータ10a,10bをそれぞれ制御する(ステップSt6)。なお、昇圧コンバータ11及びインバータ10a,10bの制御処理の詳細は後述する。
【0058】
次に制御部50は、昇圧コンバータ11及びインバータ10a,10bの制御を停止するか否かを判定する(ステップSt7)。このとき、制御部50は、例えば車両のイグニッションスイッチ(不図示)がオフになったとき、制御の停止を決定する。制御が継続する場合(ステップSt7のNo)、ステップSt1以降の各処理が再実行される。また、制御が停止する場合(ステップSt7のYes)、処理は終了する。このようにしてECU5は動作する。
【0059】
図5は、負荷の制限及び制限解除の処理の一例を示すフローチャートである。本処理は上記のステップSt5,St8において実行される。
【0060】
制御部50は、負荷の制限及び制限解除の何れを実行するかを判定する(ステップSt11)。制御部50は、負荷の制限解除を実行する場合(ステップSt11のNo)、昇圧コンバータ11からインバータ10a,10bに出力される最大電力を通常値Pnrmに設定する(ステップSt14)。これにより、昇圧コンバータ11のIGBT110,111の最大電流値が、負荷制限がないときの最大電流値Inrmとなる。
【0061】
次に制御部50は、インバータ10a,10bの制御に用いるトルクマップデータとして通常トルクマップデータ510を選択する(ステップSt15)。制御部50は、通常トルクマップデータ510によりモータ2a,2bから仕様上の最大トルクを出力させることができる。
【0062】
また、制御部50は、負荷の制限を実行する場合(ステップSt11のYes)、昇圧コンバータ11からインバータ10a,10bに出力される最大電力を、通常値Pnrmより小さい制限値Pregに設定する(ステップSt12)。これにより、昇圧コンバータ11のIGBT110,111の最大電流値が負荷制限時の最大電流値Iregとなる。なお、最大電流値Iregは、一例として最大電流値Inrmの3分の2以下である。
【0063】
次に制御部50は、インバータ10a,10bの制御に用いるトルクマップデータとして制限トルクマップデータ511を選択する(ステップSt13)。制御部50は、制限トルクマップデータ511によりモータ2a,2bから仕様上の最大トルク未満のトルクしか出力させることができない。なお、負荷制限中の最大トルクは、車両の運動性能などに応じて決定される。
【0064】
図6は、モータ2a,2bの通常トルクマップデータ510及び制限トルクマップデータ511の一例を示す図である。なお、通常トルクマップデータ510及び制限トルクマップデータ511は、便宜上、モータ2a,2bの間で共通であると仮定するが、相違してもよい。
【0065】
通常トルクマップデータ510及び制限トルクマップデータ511は、モータ2a,2bのトルク及び回転数の相関関係を示す。回転数が高いほど、トルクは低下する。符号G2aは通常トルクマップデータ510のトルクの上限値を示し、符号G2bは制限トルクマップデータ511のトルクの上限値を示す。制限トルクマップデータ511のトルクの上限値は、全ての回転数の範囲において通常トルクマップデータ510のトルクの上限値より低い。
【0066】
制御部50は、通常トルクマップデータ510及び制限トルクマップデータ511のうち、上記のステップSt13またはSt15の処理において選択されたトルクマップデータ基づき、モータ2a,2bの回転数から要求トルクを決定する。制御部50は、上述したように、システム電圧VHが負荷制限閾値THreg未満である場合、通常トルクマップデータ510を選択し、システム電圧VHが負荷制限閾値THreg以上、かつ過電圧閾値THexc未満である場合、制限トルクマップデータ511を選択する。
【0067】
このため、制御部50は、負荷の制限中、トルクマップデータの切り替えにより容易に要求トルクを制限することができる。これにより、モータ2a,2bの三相交流電流の実効値は、例えば負荷制限中、負荷制限がない場合の半分以下となる。
【0068】
図7は、昇圧コンバータ11の最大電力の変化の一例を示す図である。図7において、横軸は時間(msec)を示し、縦軸は昇圧コンバータ11からインバータ10a,10bに出力される最大電力(kW)を示す。制御部50は、一例として時間Tregにおいて、モータ2a,2bの負荷を制限する。
【0069】
制御部50は、上記のステップSt12において、昇圧コンバータ11の最大電力を制限値Pregに制御し、上記のステップSt14において、昇圧コンバータ11の最大電力を通常値Pnrmに制御する。このため、昇圧コンバータ11の最大電力は、時間Treg以前では通常値Pnrmとなり、時間Treg以降では制限値Pregとなる。ここで、例えば、制限値Pregは制限トルクマップデータ511のトルクの上限値に従って予め決定され、通常値Pnrmは、通常トルクマップデータ510のトルクの上限値に従って予め決定されている。
【0070】
このように、制御部50は、負荷の制限中、つまりシステム電圧VHが負荷制限閾値THreg以上、かつ過電圧閾値THexc未満である場合、昇圧コンバータ11からインバータ10a,10bに出力される最大電力を、負荷制限がない場合、つまりシステム電圧VHが負荷制限閾値THreg未満である場合より低くなるように制御する。このため、昇圧コンバータ11の消費電力が負荷制限時に抑制される。
【0071】
(インバータの制御処理)
図8は、インバータ10a,10bの制御処理の一例を示すフローチャートである。本処理は上記のステップSt6において実行される。
【0072】
制御部50は、通常トルクマップデータ510及び制限トルクマップデータ511のうち、上記のステップSt13またはSt15の処理において選択されたトルクマップデータを格納部51から読み出す(ステップSt21)。次に制御部50は、トルクマップデータに基づき、回転数センサ41a,41bが検出した回転数から要求トルクを決定する(ステップSt22)。このとき、制御部50は、例えばアクセルセンサ43及びブレーキセンサ44の各検出値から得られる車両の駆動力に応じて、トルクマップデータから回転数に応じた動作点のトルクを要求トルクとして算出する。
【0073】
次に制御部50は、格納部51から電流マップデータ512を読みだす(ステップSt23)。次に制御部50は、要求トルクから電流マップデータ512に基づいてモータ2a,2bの電流指令値を算出する(ステップSt24)。
【0074】
図9は、電流マップデータ512の一例を示す図である。電流マップデータ512は、モータ2a,2bの電流指令値及び要求トルクの相関関係を示す。電流指令値は、要求トルクの所定の増加量に対して一定の割合で増加する。制御部50は、例えば要求トルクがTであるとき、電流マップデータ512から要求トルクTに対応する電流指令値Iを算出する。
【0075】
再び図8を参照すると、ステップSt24の処理の後、制御部50は、モータ2a,2bの電圧指令値を電流指令値から算出する(ステップSt25)。このとき、制御部50は、電流センサ42a,42bから3相交流電流の電流値を取得する。制御部50は、例えば電流指令値と電流センサ42a,42bの電流値の差分に従って電流指令値をPI制御により決定する。
【0076】
次に制御部50は、電圧指令値に基づき、インバータ10a,10bに出力するPWM信号S1a~S1c,S2a~S2cを生成する(ステップSt26)。このとき、制御部50は、電圧指令値からPWM信号S1a~S1c,S2a~S2cのデューティ演算を行う。
【0077】
制御部50は、符号G3で示されるように、時間軸において、三角波状に変化するキャリア信号を生成して、正弦波状に変化する電圧指令値とキャリア信号の信号値を比較する。キャリア信号は、PWM信号S1a~S1c,S2a~S2cのオンオフタイミングを決めるための信号であり、キャリア信号の信号値が電圧指令値以上である場合、PWM信号S1a~S1c,S2a~S2cはオフとなり、キャリア信号の信号値が電圧指令値未満である場合、PWM信号S1a~S1c,S2a~S2cはオフとなる。
【0078】
制御部50は、PWM信号S1a~S1c,S2a~S2cがオンとなる時間Ton、及びPWM信号S1a~S1c,S2a~S2cがオフとなる時間Toffを算出する。この時間Ton,ToffによりPWM信号S1a~S1c,S2a~S2cのデューティ比が決定される。このようにしてインバータ10a,10bの制御処理は実行される。
【0079】
(昇圧コンバータの制御)
図10は、昇圧コンバータ11の制御処理の一例を示すフローチャートである。本処理は上記のステップSt6において実行される。
【0080】
制御部50は、上記のステップSt22で算出された要求トルクに応じてシステム電圧VHの目標値を算出する(ステップSt31)。システム電圧VHの目標値は、例えば不図示のマップデータに基づいて要求トルクから算出されてもよいし、あるいは電源回路1の電気的なパラメータに基づいて算出されてもよい。
【0081】
次に制御部50はシステム電圧VHの目標値に応じて、昇圧コンバータ11に出力するPWM信号S1u,S2uを生成する(ステップSt32)。符号G4aは、モータ2a,2bの負荷が制限されていない場合の昇圧コンバータ11のPWM信号S1u,S2u及び電流を示し、符号G4bは、モータ2a,2bの負荷が制限されている場合の昇圧コンバータ11のPWM信号S1u,S2u及び電流を示す。
【0082】
昇圧コンバータ11の電流は、PWM信号S1u,S2uのデューティ比に応じて変化する。制御部50は、上記のステップSt12またはSt14で設定された最大電力以下の電力が昇圧コンバータ11から出力されるように、システム電圧VHの目標値に応じてデューティ比を設定する。制御部50は、例えば、最大電圧が制限値Pregである場合のデューティ比とシステム電圧VHの目標値の相関関係、及び最大電力が通常値Pnrmである場合のデューティ比とシステム電圧VHの目標値の相関関係を示す不図示のマップデータからデューティ比を算出する。このようにして昇圧コンバータ11の制御処理は実行される。
【0083】
これまで述べたように、制御部50は、モータの要求トルクに応じて昇圧コンバータ11及びインバータ10a,10bそれぞれ制御する。比較部52は、システム電圧VHを過電圧閾値THexc及び負荷制限閾値THregとそれぞれ比較する。
【0084】
制御部50は、システム電圧VHが過電圧閾値THexc以上である場合、昇圧コンバータ11の動作を停止させる。また、制御部50は、システム電圧VHが負荷制限閾値THreg以上、かつ過電圧閾値THexc未満である場合、モータ2a,2bの要求トルクを、システム電圧VHが負荷制限閾値THreg未満である場合より低くなるように制限する。
【0085】
このため、昇圧コンバータ11及びインバータ10a,10bの電流値は、要求トルクが制限されている場合、要求トルクが制限されていない場合より小さくなるため、システム電圧VHが負荷制限閾値THreg以上となった後のサージ電圧ΔVが低減される。したがって、昇圧コンバータ11及びインバータ10a,10bのIGBT101a~101c,102a~102c,110,111の耐圧は、要求トルクが制限されていない場合の高いサージ電圧ΔVではなく、要求トルクが制限された場合の低いサージ電圧ΔVに応じた値とすることができる。
【0086】
これにより、IGBT101a~101c,102a~102c,110,111の耐圧が低減される。
【0087】
上述した実施形態は本発明の好適な実施の例である。但し、これに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変形実施可能である。
【符号の説明】
【0088】
1 電源回路
2a,2b モータ
3 直流電源(電源)
5 ECU(制御装置)
9 モータシステム
10a,10b インバータ
11 昇圧コンバータ
14,15 フィルタコンデンサ
40 電圧センサ
50 制御部
51 格納部
52 比較部
510 通常トルクマップデータ(第1データ)
511 制限トルクマップデータ(第2データ)
VH システム電圧(電圧)
THexc 過電圧閾値(第1閾値)
THreg 制限閾値(第2閾値)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10