(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-21
(45)【発行日】2024-10-29
(54)【発明の名称】加工プラスチックフィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
H05F 3/04 20060101AFI20241022BHJP
H05F 3/02 20060101ALI20241022BHJP
【FI】
H05F3/04 Z
H05F3/02 R
(21)【出願番号】P 2021098726
(22)【出願日】2021-06-14
【審査請求日】2024-03-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(72)【発明者】
【氏名】伊関 清司
【審査官】石井 茂
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-181938(JP,A)
【文献】特開2016-225227(JP,A)
【文献】特開2013-125205(JP,A)
【文献】特開2016-156060(JP,A)
【文献】特開2002-367796(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05F 1/00-7/00
B01J 19/18
B32B 9/00
C23C 14/20
C23C 14/54
G11B 5/84
G11B 5/72
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空中を走行するプラスチックフィルムの帯電量を軽減する方法としてプラスチックフィルム近傍に1mm以下の曲率半径を持つ導電体をプラスチックフィルムの幅方向に設置し、プラスチックフィルム表面と導電体との最近距離を2mm以上10mm以下として、その間の圧力を8Pa以上800Pa以下に保ち接地した導電体を使用した除電方法により除電する工程(工程1)を含むことを特徴とする加工プラスチックフィルムの製造方法。
【請求項2】
前記工程1につづき板状電極に負電位または高周波数の交流電位を接続し、板状電極とプラスチックフィルム間にガスを流してプラズマを発生し、発生したプラズマにより除電する装置を設置してプラスチックフィルムを除電する工程(工程2)を含む請求項1に記載の加工プラスチックフィルムの製造方法。
【請求項3】
前記の導電体の設置面側に対してプラスチックフィルムの反対面側に金属ロールが設置されており、その金属ロールが接地されており、その金属ロール上をプラスチックフィルムが走行しながら除電する工程を含む請求項1又は2に記載の加工プラスチックフィルムの製造方法。
【請求項4】
プラスチックフィルムに蒸着層を設ける製造方法において前記 請求項1、2に記載又は3記載の工程を含む加工プラスチックフィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空中を走行するプラスチックフィルムに帯電する電荷を除電する工程を含む加工プラスチックフィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気記録テープ、ITOフィルム、アルミニウム蒸着フィルム、透明蒸着フィルムなどプラスチックフィルムに無機物を積層した積層フィルムが市販されている。これらの積層フィルムはスパッタリング技術、真空蒸着技術を使用して製造される。これらの製造では長尺のプラスチックフィルムを真空装置に巻物として入れてプラスチックフィルムを巻き出しながら真空中を走行させて無機薄膜層を積層する方法が一般的に使われる(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
プラスチックフィルムを巻き出したり、ロールなどを利用して走行させたりするとプラスチックフィルムは剥離帯電、摩擦帯電などにより電荷がプラスチックフィルムに帯電してしまう。多くの電荷の帯電により電位が高くなると放電を起こしプラスチックフィルム表面を破壊したり、近くの導電体に放電してプラスチックフィルムに穴をあけたりする。
また帯電により、プラスチックフィルムに接触しているロールに静電気吸着して巻き付いて走行不能となってしまう。
【0004】
そこで、除電器を設置して除電を行っている。例えば巻き出したプラスチックフィルムにアースに接続したステンレス繊維の静電ブラシをプラスチックフィルムに1mmまで近づけたものあるいはイオン発生器がある。(例えば、特許文献1参照)。
また、帯電したプラスチックフィルムにガスを吹きかけて除電する方法がある。(例えば、特許文献2参照)
また、直流電圧や交流電圧を電極にかけて且つ圧力を調整することによりグロー放電を発生させてプラスチックフィルムを除電する方法がある。(例えば特許文献3参照)
【0005】
特許文献1に記載されているように静電ブラシを1mm以内に設置した場合、プラスチックフィルムが低速度(例えば10m/min)で走行した場合は、問題は発生しにくいが高速(例えば100m/min)走行した場合、プラスチックフィルムが振動して静電ブラシと接触しプラスチックフィルムに擦り傷を発生させてしまう。
一般的に高真空では電界が集中して高電圧がかからないと空間への電荷の移動は起こらない。また、ガスが存在する状態ではその圧力領域により放電の状態が変化し、比較高い圧力ではアーク放電が発生しプラスチックフィルムを損傷してしまう。また、電極間の距離、電極形状によっても放電開始電圧が変化する。従って、特許文献2に記載されているような単純にガスを吹き付ける方法では、除電できない場合や逆にアーク放電を起こしプラスチックフィルムを損傷することがある。
【0006】
特許文献3に記載されているグロー放電よる除電は、グロー放電で発生させたプラズマにより除電する方式でプラズマ中に存在する電子とイオンとにより除電するものでプラスチックフィルムの表面が電子により帯電している場合はプラズマの境界領域とプラスチックフィルムの表面との間の電位差によりプラズマ内で境界領域まで移動してきたイオンが加速され電子と結合して中和するものである。従って、十分時間をかけてプラズマにさらせば完全に中和される。
しかしながら、プラスチックフィルムの走行速度が速くなるとプラスチックフィルムの剥離帯電や摩擦帯電が増すのに対してプラズマにさらされる時間が短くなり十分除電できなくなる。
【0007】
プラスチックフィルム上に無機薄膜層を形成する方法としてスパッタリング法がある。この方法では作成する膜の原料であるものをターゲットとして作成しプラズマを発生して負電位に置いたターゲットにイオンをぶつけて原料の原子、分子を叩き出しプラスチックフィルムに原子、分子を堆積するものである。また、この方法での薄膜形成速度は一般的には数m/minで帯電量は比較的少ない。また、プラズマにさらされる意味でも帯電は少なくなる。
【0008】
また、別の方法としては化学的蒸着法(CVD)では電極間に原料ガスを入れてプラズマを発生することによりガスを化学変化させ膜を形成する方法である。この方法では通常プラスチックフィルム速度は数十m/minで、またプラズマ中をプラスチックフィルムが走行するので帯電量は少ない。
【0009】
真空蒸着法では膜の原料を温度を上げて蒸発させてプラスチックフィルム上に膜を形成する方法であり、プラスチックフィルムの走行速度は数百m/minで製造につかわれる。このために帯電が他の方法に比較して多くなる。中でも、原料に電子ビームを照射して加熱して蒸発させる電子ビーム加熱蒸着法では、原料で電子ビームの一部が跳ね返ったり、二次電子が発生したりして蒸着中に多量の電子がプラスチックフィルム上に帯電する。
【0010】
スパッタリング法やCVD法による無機物の積層法に比較して蒸着法では帯電量が多くなるので、除電はより困難となる。また、電子ビームを使った蒸着法においては既存の除電方法では除電能力が不足することがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開平2―281420号公報
【文献】特開2000-54151号公報
【文献】特開昭62-56567号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、かかる従来技術の課題を背景になされたものである。すなわち、本発明の目的は、簡便な装置により帯電したプラスチックフィルムの電荷を取り除き表面の電位を下げることにより、異常放電によるプラスチックフィルムの損傷を防ぎ静電密着によるプラスチックフィルム走行の不具合を無くすための除電工程を含む加工プラスチックフィルムの製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは鋭意検討した結果、以下に示す手段により、上記課題を解決できることを見出し、本発明に到達した。すなわち、本発明は、以下の構成からなる。
真空中を走行するプラスチックフィルムの帯電量を軽減する方法としてプラスチックフィルム近傍に1mm以下の曲率半径を持つ導電体をプラスチックフィルムの幅方向に設置し、プラスチックフィルム表面と導電体との最近距離を2mm以上10mm以下として、その間の圧力を8Pa以上800Pa以下に保ち接地した導電体を使用した除電方法により除電する工程(工程1)を含むことを特徴とする加工プラスティックの製造方法である。
【0014】
さらに、前記工程1につづき板状電極に負電位または高周波数の交流電位を接続し、板状電極とプラスチックフィルム間にガスを流してプラズマを発生し、発生したプラズマにより除電する装置を設置してプラスチックフィルムを除電する工程(工程2)を含む加工プラスティックの製造方法である。
【0015】
さらに、前記の導電体の設置面側に対してプラスチックフィルムの反対面側に金属ロールが設置されており、その金属ロールが接地されており、その金属ロール上をプラスチックフィルムが走行しながら除電する工程を含む加工プラスティックの製造方法である。
【0016】
さらに、プラスチックフィルムに蒸着層を設ける製造方法において前記の工程を含む加工プラスチックフィルムの製造方法である。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、プラスチックフィルム上に帯電した電荷を除去でき表面電位を接地電位に近づけることにより、意図しないアーク放電などによるプラスチックフィルム損傷を防ぐことができる。また、静電密着による走行中のプラスチックフィルムのロールへの巻き付きによる走行の不具合を回避できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図9】除電方法を使った製造方法の一例(ロール ツウ ロールによる電子ビーム蒸着)
【
図10】導電体による除電方法に続き板状電極によるプラズマを利用した除電方法の組み合わせた一例
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の製造方法は、真空中を走行するプラスチックフィルムの帯電量を軽減する方法としてプラスチックフィルム近傍に一定の圧力下に1mm以下の曲率半径を持つ接地した導電体を設置して除電する工程を含むことを特徴とする加工プラスティックの製造方法である。
【0020】
本発明で言うプラスチックフィルムとは、有機高分子を溶融押し出しをして、必要に応じ、長手方向、及び、又は、幅方向に延伸、冷却、熱固定を施したプラスチックフィルムである。有機高分子としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタート、ポリエチレン-2 、6-ナフタレート、ナイロン6、ナイロン4、ナイロン66、ナイロン1 2 、ポリ塩化ビニール、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニールアルコール、全芳香族ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリスルフォン、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンオキサイドなどがあげられる。また、これらの有機高分子は他の有機重合体を少量共重合をしたり、ブレンドしたりしてもよい。
【0021】
近年の地球環境問題より、バイオマス由来の有機物を一部あるいは全部使って作成した有機高分子を一部または全部使った有機高分子を使用することも可能である。
【0022】
さらに、プラスチックフィルムをコロナ処理等の表面処理を行ってもよい。
【0023】
更に異なる有機物を積層して一体とした積層体もプラスチックフィルムと呼ぶ。また、プラスチックフィルムに他の有機物をコートして積層した積層体もプラスチックフィルムと呼ぶ。また、プラスチックフィルムあるいは、プラスチックフィルムに有機物をコートした積層体にアルミニウム等の金属層又は、ITO、酸化アルミニウム等の金属酸化物等々の無機物をコートして積層した積層体もプラスチックフィルムと呼ぶ。本発明のプラスチックフィルムは、その厚さとして5~500μmの範囲が好ましく、さらに好ましくは8~300μmの範囲である。
【0024】
本発明で言う加工プラスチックフィルムとは前記プラスチックフィルムに有機層を積層したり、無機層を積層したりする加工を行ったり、表面をプラズマ等で処理し表面物性を変化させたりする加工を施したプラスチックフィルムを言う。
【0025】
本発明1mm以下の曲率半径を持つ導電体の導電体(1)とは、金属あるいはカーボンなどの導電率1×10
3S/m以上の導電物質を成形したものを言い。また、これら導電物質の繊維状、粉体状のものを樹脂等に練りこみ 導電性を持たせた樹脂、また、樹脂の表面に金属層、カーボン層を積層したもの等のものを成形加工したものを言う。
本発明の曲率半径 1mm以下とは例えば
図1で設置している除電の為の導電体(1)の場合、その導電体のプラスチックフィルム(2)と対している側の先端個所が
図2で示す様に半径1mmの円より小さな曲率半径である面の先端を待つことである。この曲率半径を求めている面は先端を通る任意面で断面を見た場合に最小となる曲率半径をとる面である。
また、
図3に示すような点線で示す半径1mmの円よりも小さな曲率半径を持つ角を持った先端でもよい。
また、
図4に示す様に櫛状、ブラシ状の形状をしている場合、櫛の歯にあたる部分あるいはブラシの毛にあたる部分の先端部が
図5の形状になっていた場合、その先端を通る任意の断面で求めた曲率半径の最小となる値が1mm以下である。形状は
図6、
図7の様に特に制限されるものではなく曲率半径が1mm以下の値を持つ先端を持つものであればよい。
【0026】
曲率半径は1mm以下が好ましい。1mmを超える場合はプラスチックフィルムに帯電する電荷からの電気力線が導電体において集中が低くなり、ガスの電離、電荷を引き抜く力が不十分になる。
【0027】
本発明の導電体(1)を満足する具体的なものとしては例えば1mm厚み以下の銅条や一般に除電ブラシとして市販されているカーボンや金属できた細い糸を並べたものあるいは、有機物の繊維と金属糸などを織り込んだ織物の除電布あるいは繊維に導電物質を積層した繊維を織った織物が使える。
【0028】
本発明のプラスチックフィルム(2)の幅方向に設置するとは
図1に示す様にプラスチックフィルム(2)の全幅または実質的に全幅を覆う様に設置することをいう。
【0029】
本発明で言うプラスチックフィルム(2)表面と導電体(1)との最短距離を2mm以上10mm以下にするとは、実質的に導電体(1)の先端部分を通りプラスチックフィルム(2)の表面を結ぶ法線で先端部からプラスチックフィルム(2)表面までの長さが2mm以上であり10mm以下であるということである。2mmよりも近いと走行するプラスチックフィルムが振動して導電体と接触してキズ等の発生や破れが生じる。反対に10mmよりも距離が広がると、プラスチックフィルムと導電体との間の電位勾配が緩やかになりガスの電離、電荷を引き抜く力が不十分になる。
【0030】
走行するプラスチックフィルム表面と導電体との距離を保持する方法としては、
図1に例示するように、少なくとも2本のロール(3)間で張力をかけた状態で走行させることによりプラスチックフィルムの表面位置を固定し導電体との距離を保持する方法がある。ただし、25μm以下の薄いプラスチックフィルムではその平面性、厚み均一性の影響でシワが発生し距離の保持が難しくなる場合がある。
【0031】
好ましい方法として
図8に例示する様に金属ロール(3)上にプラスチックフィルム(2)を走行させて金属ロール(3)の設置反対面に導電体(1)を設置して導電体(1)とプラスチックフィルム(2)との距離を保持する方法がある。
【0032】
本発明で言う圧力とは導電体の先端とプラスチックフィルムとの間にある空間の圧力を指す。圧力は残留ガスにより維持されてもよいが通常は外部よりガスを導入して圧力を調整する。ガスとしては主としてアルゴンを導入して調整維持するのが好ましい。
1Pa程度の圧力があれば除電効果があるが、より好ましい除電効果を得るためには8Pa以上の圧力が必要である。800Pa以上になると自己放電による除電効果が落ち始めるので好ましくない。
【0033】
外部よりガスを導入する場合、導電体(1)の先端とプラスチックフィルム(2)との間にガスを吹き込むノズル(4)を導電体近傍に設置するのが好ましい。導電体とプラスチックフィルムの間の圧力を効率よく調整することができる。更に導電体(1)とノズル(4)とを壁(5)で囲うことが好ましい。更に効率よく圧力を調整できる上に、他の部分での圧力上昇を低減することができる。壁(5)は金属等導電性を持ち接地されていることが好ましい。
【0034】
導電体(1)の設置面側に対してプラスチックフィルムの反対面側に設置した金属ロール(3)も同じく接地された真空槽(6)または真空槽内の金属構造物で接地電位にあるものに結線することで接地することが好ましい。
【0035】
本発明の除電方法によりプラスチックフィルム(2)に帯電した電荷を効率よく除電できる。帯電した電荷の放電による障害、ロールへの巻き付きなどを防ぐことができる。しかし、導電体の接地電位との電位差を利用した除電であるのでプラスチックフィルムの電荷を接地電位まで除電できない。そこで、
図10で示す様に接地導電体による除電に引き続き板状電極(7)に負電位または高周波数の交流電位を接続し、板状電極(7)下にガスを流してプラズマを発生し、発生したプラズマにより除電する装置を設置して除電する工程(工程2)を有することが好ましい。
【0036】
板状電極(7)は金属 中でもチタンやステンレスなどプラズマ中のイオンによりスパッタされにくい素材が好ましい。また、導電性を持つカーボンも好ましい。除電に寄与するプラズマは板状電極(7)を負電位に実質的に維持することにより発生させる。よく使われる方法良しては直流電源により電位を下げる方法、または、RFと呼ばれる高周波数の交流を電位をかけることにより実質的に負電位にする方法がある。電位の基準は接地を基準としている。
【0037】
プラズマを安定的に発生させるために、磁場により電子を電極の近傍に閉じ込めるマグネトロン方式を使うことが好ましい。磁場は板状電極のプラズマを発生させる反対面に磁石等を設置することで形成できる。効率よく閉じ込め磁場を形成するために板状電極(7)は非磁性の材料が好ましい。この条件からも板状電極(7)はチタンやステンレス等非磁性金属、カーボンが好ましい。
【0038】
また、板状電極(7)はプラズマにより加熱されるので冷却することがこのましい。
プラズマを発生させるためのガスとしてはアルゴンガスが好ましい。また圧力を安定するのに壁(8)で囲うことが好ましい。圧力は0.1Paから10Paの範囲が好ましい。
【0039】
板状電極(7)の形状は板状ではあるが、ロール(5)上に設置する場合、ロール(5)との距離を一定にするために湾曲していてもよい。
【0040】
この除電方法を利用した製造方法の例として電子ビーム加熱方式の蒸着法によるアルミナ透明バリアフィルムの製造がある。アルミナ透明バリアフィルムはポリエチレンテレフタレート(PET)やポリアミド樹脂、一般的にナイロン(Ny)と呼ばれているプラスチックフィルム(2)に酸化アルミニウム層を積層してバリア性を付与したプラスチックフィルムである。
【0041】
図9に示す製造装置の概略図を使い説明する。基材となるプラスチックフィルム(2)のロールフィルムを巻き出しロール(9)にセットする。プラスチックフィルム(2)はガイドロール(10)に沿って走行しコーティングロール(11)上を走行する。
坩堝(12)に入ったアルミニウムを電子銃(19)から照射した電子ビームで加熱して蒸発させる。アルミニウムは気体となって上方に飛翔する。途中ノズル(13)から酸素ガスを吹き込み反応させて、コーティングロール(11)上を走行するプラスチックフィルム(2)上にアルミナ層を形成する。
【0042】
坩堝(12)からアルミニュウム蒸気と同時に多量の反射電子、二次電子が放出される。放出された電子の一部は、コーティングロール(11)上のプラスチックフィルム(2)上に帯電する。この状態でコーティングロール(11)よりプラスチックフィルムを引きはがすと帯電した電子が放電してアルミナ層、プラスチックフィルムにダメージを与える。
【0043】
本発明導電体を使った除電器(14)及び板状電極を使った除電器(15)をコーティングロール(11)上に設置し、帯電した電子を除電する。また、プラスチックフィルム(2)がコーティングロール(11)より引きはがされるときに剥離帯電するのを軽減するため、剥離地点の近傍に負電極(16)を設置してプラズマを発生させる。
【0044】
コーティングロール(11)を離れたプラスチックフィルム(2)は光学的膜厚計(17)を通して巻き取りロール(18)に巻き取る。光学的膜厚計(17)では通過するプラスチックフィルム(2)の光線透過率を測定して、積層したアルミナ層の膜厚を測定する。目標とする膜厚に制御するために電子銃(13)の出力である電子ビームを制御し坩堝からのアルミニウム蒸発量を制御する。
【0045】
本説明に置いてのコーティングロール(11)は、導電体の設置面側に対してプラスチックフィルムの反対面側に設置した金属ロール(3)に該当する。
【実施例】
【0046】
以下に実施例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
実施例1
図9記載の製造装置の概略図で示したロール ツウ ロール電子ビーム加熱の反応性蒸着装置を使い透明バリアフィルムを作成した。
プラスチックフィルム(2)として東洋紡(株)製 東洋紡エステル(R)フィルム E5100 12μm厚みを使用した。
アルミナ製の坩堝(12)にアルミニウム(純度3N)を入れ電子ビームにより加熱し蒸発させた。
ノズル(13)より酸素ガスを16800sccm導入してアルミニウム蒸気と反応させて -20℃に設定したコーティングロール(11)上を走行するプラスチックフィルム(2)にアルミナ層を積層した。
プラスチックフィルムは8m/secで走行させた。
【0047】
アルミナ層を積層後、プラスチックフィルム(2)は導電体(1)を使った除電器(14)で除電し、板状電極(7)を使った除電器(15)でさらに除電してコーティングロール(11)より離れる。コーティングロール(11)よりプラスチックフィルム(2)が離れる位置に負電極(16)を設置して剥離帯電を防いだ。除電の条件は表1に示す。
導電体(1)は金属積層した数十μm短繊維を紡いだ繊維と化学繊維とで編み込んだ織物でプラスチックフィルム側に簾状に約5mm繊維を出したものである。プラスチックフィルムと簾の繊維先端の距離は3mmに保持した。
曲率半径は数十μmの短繊維を紡いだ繊維を使っているので100μm以下となる。
板状電極(7)はステンレス製で裏面に磁石を設置してプラズマを閉じ込めるようにした。また裏面に水を流して冷却した。電源は直流電源でプラス側を接地してマイナス側と板状電極とをつないだ。
負電極(16)はステンレス製の円柱で内部に水を流して冷却している。電源は直流電源でプラス側を接地してマイナス側と円柱状の電極とつないだ。
【0048】
アルミナ層を積層したプラスティックフィルム(2)は光学膜厚計(17)により365nm付近の光線透過率を測定し、目標光線透過率 83%になるように制御した。
【0049】
積層したプラスチックフィルム(2)は巻き取りロール(18)で巻き取りとった。巻き取りロールからサンプルを採取して、微分干渉顕微鏡でアルミナ層側より観察し、放電痕の有無を確認した。結果を表1に示す。
【0050】
実施例2
実施例1において導電体の織物の簾の繊維先端とプラスチックフィルムとの距離を5mmに変更した。また、導電体とプラスチックフィルムとの間の圧力も表1に示す様に変更した。蒸着したアルミナ透明バリアフィルムの放電痕の有無を確認した。
【0051】
【0052】
比較例1
導電体を使った除電器にArガスを導入しないで以外実施例1と同じ条件で蒸着を実施した。蒸着したアルミナ透明バリアフィルムの放電痕の有無を確認した。
【0053】
比較例2
実施例1において導電体とプラスチックフィルムとの間の圧力を表1に示す様に変更した。蒸着したアルミナ透明バリアフィルムの放電痕の有無を確認した。
【0054】
比較例3
導電体を使った除電器を設置しないで蒸着を実施した。コーティングロールからのプラスチックフィルムの剥がれをよくするために負電極を使った除電器の放電電流を0.65Aとした。蒸着したアルミナ透明バリアフィルムの放電痕の有無を確認した。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明により、真空中でプラスチックフィルム走行させて加工する場合において簡便に除電をすることができ、放電によるプラスチックフィルムの損傷が防げる除電方法を含む工程をもつ加工プラスチックフィルムの製造方法を提供することができる。
【符号の説明】
【0056】
1:導電体
2:プラスチックフィルム
3:ロール
4:ノズル
5:壁
6:真空槽
7:板状電極
8:壁
9:巻き出しロール
10:ガイドロール
11:コーティングロール
12:坩堝
13:ノズル
14:導電体を使った除電器
15:板状電極を使った除電器
16:負電極
17:光学的膜厚計
18:巻き取りロール
19:電子銃