(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-21
(45)【発行日】2024-10-29
(54)【発明の名称】接着部品の製造方法
(51)【国際特許分類】
B05D 1/26 20060101AFI20241022BHJP
B05D 7/24 20060101ALI20241022BHJP
B05D 3/12 20060101ALI20241022BHJP
B05D 3/00 20060101ALI20241022BHJP
B05D 1/28 20060101ALI20241022BHJP
【FI】
B05D1/26 Z
B05D7/24 301P
B05D3/12 C
B05D3/00 D
B05D1/28
(21)【出願番号】P 2021127426
(22)【出願日】2021-08-03
【審査請求日】2023-07-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森 伸一郎
(72)【発明者】
【氏名】青木 良太
(72)【発明者】
【氏名】角 博康
(72)【発明者】
【氏名】竹内 宏弥
(72)【発明者】
【氏名】山崎 祐樹
【審査官】大塚 美咲
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-119147(JP,A)
【文献】特開2002-299894(JP,A)
【文献】特開2010-262983(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05D 1/26
B05D 7/24
B05D 3/12
B05D 3/00
B05D 1/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
接着部品の製造方法であって、
第1部品の表面に接着剤を塗布する工程であって、線状に伸びるとともに前記線状に伸びる方向に交差する方向に間隔を開けた複数の塗布領域に前記接着剤を塗布する工程と、
前記接着剤が前記第1部品と第2部品で挟まれるように前記第1部品上に前記第2部品を配置する工程と、
加圧機によって前記第2部品を前記第1部品に向かって加圧することによって前記接着剤を圧縮する工程、
を有し、
前記加圧機によって加圧する前記工程では、前記加圧機に加わる荷重が前記接着剤の圧縮量の増加に伴って曲線状に上昇する曲線上昇期間と、前記荷重が前記接着剤の圧縮量の増加に伴って前記曲線上昇期間中の前記荷重の軌跡に対して折線状に上昇する急上昇期間と、をこの順序で経るように前記荷重が変化し、
前記加圧機によって加圧する前記工程では、荷重センサによって前記荷重を検出しながら前記加圧機による加圧を行い、前記荷重センサの検出値に基づいて前記急上昇期間を検出し、前記急上昇期間中に前記加圧機による加圧を停止する、
製造方法。
【請求項2】
前記加圧機によって加圧する前記工程では、前記荷重センサの前記検出値が閾値に達したときに前記加圧機による加圧を停止し、
前記閾値が、前記急上昇期間中の前記荷重の値に設定されている、
請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記接着剤が、チクソトロピー性を有する、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記第1部品が、電池パックであり、
前記第2部品が、冷却器である、
請求項1~3のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記第1部品と前記第2部品の一方の剛性が、前記第1部品と前記第2部品の他方の剛性よりも低い、請求項1~4のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記接着剤中に、セラミックスの粉末が分散されている、請求項1~5のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項7】
接着部品の製造方法であって、
第1部品の表面に接着剤を塗布する工程であって、線状に伸びるとともに前記線状に伸びる方向に交差する方向に間隔を開けた複数の塗布領域に前記接着剤を塗布する工程と、
前記接着剤が前記第1部品と第2部品で挟まれるように前記第1部品上に前記第2部品を配置する工程と、
加圧機によって前記第2部品を前記第1部品に向かって加圧することによって前記接着剤を圧縮する工程、
を有し、
前記加圧機によって加圧する前記工程では、前記接着剤の圧縮速度が前記接着剤の圧縮量の増加に伴って曲線状に低下する曲線低下期間と、前記圧縮速度が前記接着剤の圧縮量の増加に伴って前記曲線低下期間中の
前記圧縮速度の軌跡に対して折線状に低下する急低下期間と、をこの順序で経るように前記圧縮速度が変化し、
前記加圧機によって加圧する前記工程では、圧縮速度センサによって前記圧縮速度を検出しながら前記加圧機による加圧を行い、前記圧縮速度センサの検出値に基づいて前記急低下期間を検出し、前記急低下期間中に前記加圧機による加圧を停止する、
製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書に開示の技術は、接着部品の製造方法に関する。
【0002】
特許文献1には、2つの部品を接着剤で接着する技術が開示されている。この技術では、まず、第1部品の表面の複数個所に接着剤をビード状に塗布する。次に、接着剤が第1部品と第2部品で挟まれるように第2部品を第1部品上に載置する。次に、第2部品を第1部品に向けて加圧する加圧工程を行う。加圧工程を行うと、接着剤が圧縮されて横方向に拡大する。拡大した接着剤どうしが繋がることで、広範囲に接着剤が塗布される。このように、この技術では、接着剤を複数個所に分散して塗布した後に、接着剤を圧縮、拡大して接着剤どうしを繋げる。この技術によれば、加圧工程の荷重として比較的低い荷重を用いながら、接着剤を広範囲に塗布することができる。したがって、第1部品及び第2部品に高い負荷を加えることなく、接着剤を広範囲に塗布することができる。その後、接着剤を硬化させることで、第1部品と第2部品が接着される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の技術においては、加圧工程において接着剤の拡大範囲を把握することが難しい。このため、加圧工程において、複数個所に塗布された接着剤どうしが繋がらないおそれがある。接着剤どうしが繋がらず、接着剤どうしの間に隙間が存在していると、接着強度が低くなる。本明細書では、複数個所に接着剤を塗布し、その後、加圧工程を行う技術において、加圧工程中に接着剤どうしを確実に繋げる技術を提案する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本明細書が開示する接着部品の第1の製造方法は、塗布工程、部品配置工程、及び、加圧工程を有する。前記塗布工程では、第1部品の表面に接着剤を塗布する。前記塗布工程では、線状に伸びるとともに前記線状に伸びる方向に交差する方向に間隔を開けた複数の塗布領域に前記接着剤を塗布する。前記部品配置工程では、前記接着剤が前記第1部品と第2部品で挟まれるように前記第1部品上に前記第2部品を配置する。前記加圧工程では、加圧機によって前記第2部品を前記第1部品に向かって加圧することによって前記接着剤を圧縮する。前記加圧機によって加圧する前記加圧工程では、前記加圧機に加わる荷重が前記接着剤の圧縮量の増加に伴って曲線状に上昇する曲線上昇期間と、前記荷重が前記接着剤の圧縮量の増加に伴って前記曲線上昇期間中の前記荷重の軌跡に対して折線状に上昇する急上昇期間と、をこの順序で経るように前記荷重が変化する。前記加圧機によって加圧する前記加圧工程では、荷重センサによって前記荷重を検出しながら前記加圧機による加圧を行い、前記荷重センサの検出値に基づいて前記急上昇期間を検出し、前記急上昇期間中に前記加圧機による加圧を停止する。
【0006】
この製造方法では、第1部品の複数の塗布領域に接着剤を塗布し、接着剤が第1部品と第2部品で挟まれるように第2部品を配置した後に、加圧工程を実施する。加圧工程では、加圧機によって第2部品を第1部品に向かって加圧することによって接着剤を圧縮し、接着剤を横方向に拡大させる。接着剤どうしが繋がっていない間は、加圧機に加わる荷重は、接着剤の圧縮量の増加に伴って曲線状に上昇する。すなわち、接着剤どうしが繋がっていない期間が、曲線上昇期間に相当する。その後、接着剤の拡大によって接着剤どうしが繋がると、接着剤どうしが繋がった領域において接着剤が横方向に流動し難くなる。このため、接着剤が圧縮され難くなり、加圧機に加わる荷重が急上昇する。このとき、加圧機に加わる荷重は、曲線上昇期間中の荷重の軌跡に対して折線状に上昇する。すなわち、接着剤どうしが繋がったタイミング以降の期間が急上昇期間に相当する。この製造方法では、荷重センサによって加圧機に加わる荷重を検出しながら加圧機による加圧を行い、荷重センサの検出値に基づいて急上昇期間を検出し、急上昇期間中に加圧機による加圧を停止する。したがって、接着剤どうしが繋がっている状態で加圧を停止することができる。すなわち、この製造方法によれば、加圧工程中に接着剤どうしを確実に繋げることができる。
【0007】
本明細書が開示する接着部品の第2の製造方法は、塗布工程、部品配置工程、及び、加圧工程を有する。前記塗布工程では、第1部品の表面に接着剤を塗布する。前記塗布工程では、線状に伸びるとともに前記線状に伸びる方向に交差する方向に間隔を開けた複数の塗布領域に前記接着剤を塗布する。前記部品配置工程では、前記接着剤が前記第1部品と第2部品で挟まれるように前記第1部品上に前記第2部品を配置する。前記加圧工程では、加圧機によって前記第2部品を前記第1部品に向かって加圧することによって前記接着剤を圧縮する。前記加圧機によって加圧する前記加圧工程では、前記接着剤の圧縮速度が前記接着剤の圧縮量の増加に伴って曲線状に低下する曲線低下期間と、前記圧縮速度が前記接着剤の圧縮量の増加に伴って前記曲線低下期間中の前記圧縮速度の軌跡に対して折線状に低下する急低下期間と、をこの順序で経るように前記圧縮速度が変化する。前記加圧機によって加圧する前記加圧工程では、圧縮速度センサによって前記圧縮速度を検出しながら前記加圧機による加圧を行い、前記圧縮速度センサの検出値に基づいて前記急低下期間を検出し、前記急低下期間中に前記加圧機による加圧を停止する。
【0008】
この製造方法では、第1部品の複数の塗布領域に接着剤を塗布し、接着剤が第1部品と第2部品で挟まれるように第2部品を配置した後に、加圧工程を実施する。加圧工程では、加圧機によって第2部品を第1部品に向かって加圧することによって接着剤を圧縮し、接着剤を横方向に拡大させる。接着剤どうしが繋がっていない間は、接着剤の圧縮速度は、接着剤の圧縮量の増加に伴って曲線状に低下する。すなわち、接着剤どうしが繋がっていない期間が、曲線低下期間に相当する。その後、接着剤の拡大によって接着剤どうしが繋がると、接着剤どうしが繋がった領域において接着剤が横方向に流動し難くなる。このため、接着剤が圧縮され難くなり、接着剤の圧縮速度が急低下する。このとき、接着剤の圧縮速度は、曲線低下期間に対して折線状に低下する。すなわち、接着剤どうしが繋がったタイミング以降の期間が急低下期間に相当する。この製造方法では、圧縮速度センサによって接着剤の圧縮速度を検出しながら加圧機による加圧を行い、圧縮速度センサの検出値に基づいて急低下期間を検出し、急低下期間中に加圧機による加圧を停止する。したがって、接着剤どうしが繋がっている状態で加圧を停止することができる。すなわち、この製造方法によれば、加圧工程中に接着剤どうしを確実に繋げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図2】塗布工程を示す断面図(
図1のII-II線における断面図)。
【
図11】圧縮工程における圧縮速度の変化を示すグラフ。
【
図12】塗布領域の数と圧縮時に必要な荷重の関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0010】
上述した第1の製造方法の一例においては、前記加圧機によって加圧する前記工程では、前記荷重センサの前記検出値が閾値に達したときに前記加圧機による加圧を停止ししてもよい。また、前記閾値が、前記急上昇期間中の前記荷重の値に設定されていてもよい。
【0011】
この構成によれば、急上昇期間中に加圧機による加圧を停止することができる。
【0012】
上述した第1の製造方法の一例においては、前記接着剤が、チクソトロピー性を有していてもよい。
【0013】
この構成によれば、接着剤どうしが繋がったときに接着剤の粘度が上昇するので、急上昇期間中に加圧機に加わる荷重がより急激に上昇する。したがって、急上昇期間を検出し易い。
【0014】
上述した第1の製造方法の一例においては、前記第1部品が電池パックであり、前記第2部品が冷却器であってもよい。
【0015】
上述した第1の製造方法の一例においては、前記第1部品と前記第2部品の一方の剛性が、前記第1部品と前記第2部品の他方の剛性よりも低くてもよい。
【0016】
この構成によれば、剛性が高い方の部品に歪みが存在していた場合に、剛性が低い方の部品が歪みに追従して変形することができる。したがって、より適切に接着し易い。
【0017】
上述した第1の製造方法の一例においては、前記接着剤中に、セラミックスの粉末が分散されていてもよい。
【0018】
この構成によれば、接着剤の熱伝導率を向上させることができる。
【0019】
以下に、実施例として、電動車両用の電池パックに冷却器を接着することで、電池パックと冷却器のモジュールを製造する方法について説明する。
【実施例1】
【0020】
実施例1の製造方法では、接着剤塗布工程、部品配置工程、及び、加圧工程を順に実施する。
【0021】
接着剤塗布工程では、
図1に示すように、電池パック12のケース14の表面に接着剤20を塗布する。ここでは、x方向に間隔を開けて配置された2つの塗布領域21a、21bに接着剤20を塗布する。また、ここでは、塗布領域21a、21bのそれぞれにおいて、接着剤20がy方向(すなわち、x方向に直交する方向)に直線状に伸びるように接着剤20を塗布する。ここでは、
図2に示すように、接着剤20の断面形状が略円形となるように接着剤20を塗布する。接着剤20は、ゼリー状であり、チクソトロピー性を有する。なお、本明細書において、チクソトロピー性とは、せん断応力が加わっている状態において粘度が低下し、静止状態において粘度が次第に上昇する特性を意味する。また、接着剤20の内部には、セラミックスの粉末が分散されている。また、以下では、塗布領域21a内の接着剤20を接着剤20aといい、塗布領域21b内の接着剤20を接着剤20bという場合がある。
図1、2の状態では、接着剤20aと接着剤20bの間に隙間22が存在している。
【0022】
次に、部品配置工程において、
図3に示すように電池パック12上に冷却器16を配置する。ここでは、電池パック12のケース14と冷却器16の外壁18で接着剤20を挟むように、電池パック12上に冷却器16を配置する。なお、電池パック12のケース14の剛性は、冷却器16の外壁18の剛性よりも高い。
【0023】
次に、加圧工程を実施する。加圧工程では、
図4の矢印100に示すように加圧機30によって冷却器16を電池パック12に向かって加圧する。これによって、接着剤20を圧縮する。すなわち、接着剤20の厚さt1を減少させる。
図4に示すように、加圧機30は、荷重センサ40と制御装置42を有している。荷重センサ40は、加圧機30に加わる荷重N1(すなわち、接着剤20に加わる荷重)を検出する。制御装置42は、荷重センサ40の検出値に応じて加圧機30を制御する。加圧工程では、荷重センサ40によって加圧機30に加わる荷重N1を検出しながら接着剤20を圧縮する。接着剤20が圧縮されると、
図5の矢印102に示すように接着剤20がx方向に流動する。これによって、接着剤20a、20bの幅W1が拡大する。
図5の状態から接着剤20をさらに圧縮すると、
図6、7に示すように、接着剤20a、20bの幅W1がさらに拡大し、接着剤20aと接着剤20bとが互いに接触する。このように接着剤20aと接着剤20bとが互いに繋がることで、ケース14の表面の主要範囲(すなわち、
図6、7の幅W2を有する範囲)全体に接着剤20が塗り広げられる。
【0024】
加圧工程では、加圧機30は、加圧機30に加わる荷重N1(すなわち、接着剤20に加わる荷重)が変化可能な態様で接着剤20を圧縮する。例えば、加圧機30は、一定の仕事率、または、一定の圧縮速度で接着剤20を圧縮する。このため、加圧工程中に、加圧機30に加わる荷重N1が変化する。
【0025】
図8は、加圧工程中に加圧機30に加わる荷重N1の変化を示している。
図8に示すように、加圧工程の開始時に加圧機30に加わる荷重N1は低い。加圧工程の開始直後は、
図4、5のように、接着剤20aと接着剤20bとが分離されている。この状態では、接着剤20a、20bの幅W1が拡大するのに伴って幅W1を拡大するために必要な荷重が上昇する。このため、
図8に示すように、加圧工程の開始直後は、接着剤20の厚さt1が減少するのに伴って加圧機30に加わる荷重N1が曲線状に緩やかに上昇する。その後、
図6のように接着剤20aと接着剤20bが互いに接触すると、接触位置J1において接着剤20a、20bがx方向に流動できなくなる。このため、その後は、接着剤20の幅W2を拡大するために必要な荷重が急上昇する。その結果、
図8に示すように、加圧機30に加わる荷重N1が屈曲点P1から急上昇する。特に、実施例1では、接着剤20がチクソトロピー性を有する。このため、接触位置J1において接着剤20がx方向に流動しなくなると、接触位置J1周辺において接着剤20の粘度が上昇する。このため、加圧機30に加わる荷重N1が屈曲点P1から極めて急峻に上昇する。以下では、荷重N1が曲線状に緩やかに上昇する期間を曲線上昇期間T1といい、荷重N1が急上昇する期間を急上昇期間T2という。急上昇期間T2では、曲線上昇期間T1内の荷重N1の上昇率よりも高い上昇率で荷重N1が上昇する。急上昇期間T2では、曲線上昇期間T1内の荷重N1の軌跡に対して折線状に荷重N1が上昇する。すなわち、屈曲点P1において、荷重N1が微分不可能な態様で変化する。上述したように、曲線上昇期間T1の間は接着剤20aと接着剤20bとが分離されており、急上昇期間T2の間は接着剤20aと接着剤20bとが互いに繋がっている。
【0026】
加圧工程の間に、加圧機30の制御装置42は、荷重センサ40の検出値を監視する。制御装置42は、荷重センサ40の検出値が
図8に示す閾値Nthに達すると、加圧機30による加圧を停止する。閾値Nthは、急上昇期間T2の間に加圧機30に加わる荷重N1の値に設定されている。すなわち、閾値Nthは、屈曲点P1における荷重N1よりも高い値に設定されている。このため、制御装置42が加圧を停止するタイミング(すなわち、荷重N1が閾値Nthに達するタイミング)においては、
図6、7のように接着剤20aと接着剤20bとが互いに接触している。このように、曲線上昇期間T1から急上昇期間T2に移行したタイミング以降に加圧を停止することで、接着剤20aと接着剤20bとを確実に接触させることができる。その後、加圧機30で電池パック12と冷却器16を挟んだ状態を維持しながら、接着剤20を硬化させる。接着剤20が硬化することで、電池パック12が冷却器16に接着される。これによって、電池パック12と冷却器16のモジュールが完成する。
【0027】
以上に説明したように、実施例1の製造方法では、閾値Nthとして急上昇期間T2内の荷重N1の値を設定し、荷重センサ40の検出値が閾値Nthに達したときに加圧を停止する。したがって、塗布領域21a内の接着剤20aと塗布領域21b内の接着剤20bとを確実に接触させることができる。加圧工程中及び加圧工程後に接着剤20aと接着剤20bとが接触しているか否かを視認することはできない。しかしながら、上記の製造方法によれば、接着剤20a、20bを視認することなく、接着剤20aと接着剤20bとを確実に接触させることができる。したがって、この製造方法によれば、接着剤20aと接着剤20bの間に隙間22が残存することを防止でき、接着強度不足を防止できる。
【0028】
圧縮前の接着剤20の断面積S1は、接着剤20a、20bのそれぞれの断面積の合計値である。
図2に示す接着剤20a、20bの断面の直径Rに対して、断面積S1は、S1=2・π・(R/2)
2の関係を満たす。また、
図6から明らかなように、圧縮後の接着剤20の断面積S2は、S2=W2・t1の関係を満たす。圧縮前の接着剤20の断面積S1と圧縮後の接着剤20の断面積S2は略等しい。したがって、R=((4・W2・t1)/(2・π))
1/2の関係が成立する。また、
図2、6から明らかなように、圧縮前の接着剤20aの中心と接着剤20bの中心の間の間隔L1は、圧縮後の接着剤20の幅W2の1/2と略等しい。すなわち、L1=W2/2の関係が成立する。したがって、幅W2の設計値をW2t、厚さt1の設計値をt1tとした場合、L1=W2t/2、及び、R=((4・W2t・t1t)/(2・π))
1/2の関係を満たすように接着剤20の塗布時の間隔L1、直径Rを設定することができる。このように間隔L1、直径Rを設定すると、荷重N1が急上昇するタイミング(すなわち、屈曲点P1)において接着剤20の幅W2及び厚さt1が、設計上の幅W2t及び厚さt1tと略一致する。したがって、実施例1のように曲線上昇期間T1から急上昇期間T2に移行した直後に加圧機30による加圧を停止することで、接着剤20の幅W2及び厚さt1を、設計上の幅W2t及び厚さt1tと略一致させることができる。このように、実施例1の製造方法によれば、圧縮後の接着剤20の幅W2及び厚さt1を正確に制御することができる。
【0029】
また、実施例1では、電池パック12のケース14の剛性が、冷却器16の外壁18の剛性よりも高い。これによって、加圧工程における荷重の集中、及び、接着強度不足を防止できる。すなわち、ケース14の設計上の形状は平面であるが、
図9のようにケース14の表面にわずかな歪み(例えば、反り)が生じている場合がある。この場合、冷却器16の外壁18の剛性がケース14の剛性よりも低いので、加圧工程において
図9のように冷却器16の外壁18がケース14の形状に倣って弾性変形する。このため、ケース14の表面に歪みが存在している場合でも、ケース14及び外壁18の一部に局所的に高い荷重が加わることを防止できる。また、この状態で接着剤20を硬化させると、外壁18が元の形状に戻ろうとする力よりも接着剤20の接着強度が強いので、外壁18が撓んだ状態でケース14に固定される。このように外壁18がケース14の歪みに倣った形状で固定されるので、高い強度で冷却器16をケース14に固定することができる。
【0030】
また、実施例1では、接着剤20の内部にセラミックスの粉末が分散されているので、接着剤20は高い熱伝導率を有している。したがって、冷却器16によって電池パック12を効率的に冷却することができる。
【0031】
なお、実施例1では、急上昇期間T2中の荷重N1の値を閾値Nthとして設定し、荷重センサ40の検出値が閾値Nthに達しているか否かを検出することで、急上昇期間T2を検出した。しかしながら、他の方法によって急上昇期間T2を検出してもよい。例えば、荷重センサ40の検出値から荷重N1の上昇率を算出し、荷重N1の上昇率に基づいて急上昇期間T2を検出してもよい。
【実施例2】
【0032】
次に、実施例2の製造方法について説明する。実施例2の製造方法でも、実施例1と同様にして接着剤塗布工程と部品配置工程を実施する。実施例2では、
図10に示す加圧機30aを使用して加圧工程を実施する。
図10の加圧機30aは、荷重センサ40の代わりに圧縮速度センサ44を有している。
図10の加圧機30aのその他の構成は、
図4の加圧機30と等しい。圧縮速度センサ44は、加圧工程における接着剤20の圧縮速度V1を検出する。圧縮速度V1は、接着剤20の厚さt1の減少速度dt1/dtと等しい。また、実施例2の加圧工程では、加圧機30は、圧縮速度V1が変化可能な態様で接着剤20を圧縮する。例えば、加圧機30は、一定の仕事率、または、一定の荷重で接着剤20を圧縮する。このため、加圧工程中に、圧縮速度V1が変化する。
【0033】
図11は、実施例2の加圧工程中における圧縮速度V1の変化を示している。
図11に示すように、加圧工程の開始時の圧縮速度V1は高い。接着剤20a、20bの厚さt1が減少するのに伴って、幅W1が拡大し、幅W1を拡大するために必要な荷重が上昇する。このため、加圧工程の開始直後は、接着剤20の厚さt1が減少するのに伴って圧縮速度V1が曲線状に緩やかに低下する。その後、接着剤20aと接着剤20bとが互いに接触すると、接触位置において接着剤20a、20bがx方向に流動しなくなる。このため、その後は、接着剤20の幅W2を拡大するために必要な荷重が急上昇する。その結果、
図11に示すように、圧縮速度V1が屈曲点P2から急低下する。特に、接着剤20がチクソトロピー性を有するため、圧縮速度V1が屈曲点P2から極めて急峻に低下する。以下では、圧縮速度V1が曲線状に緩やかに低下する期間を曲線低下期間T3といい、圧縮速度V1が急低下する期間を急低下期間T4という。急低下期間T4では、曲線低下期間T3内の荷重N1の軌跡に対して折線状に荷重N1が低下する。
【0034】
加圧工程の間に、加圧機30の制御装置42は、圧縮速度センサ44の検出値を監視する。制御装置42は、圧縮速度センサ44の検出値が
図11に示す閾値Vthまで低下すると、加圧機30による加圧を停止する。閾値Vthは、急低下期間T4における圧縮速度V1の値に設定されている。すなわち、閾値Vthは、屈曲点P2における圧縮速度V1よりも低い値に設定されている。このため、制御装置42が加圧を停止するタイミング(すなわち、圧縮速度V1が閾値Vthまで低下するタイミング)においては、接着剤20aと接着剤20bとが互いに接触している。このように、曲線低下期間T3から急低下期間T4に移行したタイミング以降に加圧を停止することで、接着剤20aと接着剤20bとを確実に接触させることができる。その後、接着剤20を硬化させることで、ケース14が冷却器16に接着される。これによって、電池パック12と冷却器16のモジュールが完成する。
【0035】
以上に説明したように、実施例2の製造方法でも、接着剤20aと接着剤20bとを確実に接触させることができる。なお、実施例2では、急低下期間T4中の圧縮速度V1の値を閾値Vthとして設定し、圧縮速度センサ44の検出値が閾値Vthまで低下しているか否かを検出することで、急低下期間T4を検出した。しかしながら、他の方法によって急低下期間T4を検出してもよい。例えば、圧縮速度センサ44の検出値から圧縮速度V1の低下率dV1/dtを算出し、低下率dV1/dtに基づいて急低下期間T4を検出してもよい。
【0036】
なお、上述した実施例1、2では、2つの塗布領域21a、21bに接着剤20を塗布した。しかしながら、3つ以上の塗布領域に分散して接着剤20を塗布してもよい。
図12は、実施例1、2と同じ範囲に加圧機を使用して接着剤20を拡大させるときに必要な荷重N1の値を示している。
図12では、塗布領域の数nを変更しながら必要な荷重N1を測定した結果を示している。
図12に示すように、塗布領域の数nが増加するほど、必要な荷重N1を低下させることができる。なお、塗布領域の数が2つよりも多い場合には、L1=W2t/n、及び、R=((4・W2t・t1t)/(n・π))
1/2の関係を満たすように接着剤20の塗布時の間隔L1、直径Rを設定することがで、圧縮後の接着剤20の厚さt1、幅W2を設計値に正確に制御することができる。
【0037】
以上、実施形態について詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例をさまざまに変形、変更したものが含まれる。本明細書または図面に説明した技術要素は、単独あるいは各種の組み合わせによって技術有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組み合わせに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成するものであり、そのうちの1つの目的を達成すること自体で技術有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0038】
12 :電池パック
14 :ケース
16 :冷却器
18 :外壁
20 :接着剤
30 :加圧機
40 :荷重センサ
42 :制御装置