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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-21
(45)【発行日】2024-10-29
(54)【発明の名称】電動車両の制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60L 3/04 20060101AFI20241022BHJP
   H02M 7/48 20070101ALI20241022BHJP
【FI】
B60L3/04 E
H02M7/48 M
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2021134017
(22)【出願日】2021-08-19
(65)【公開番号】P2023028359
(43)【公開日】2023-03-03
【審査請求日】2024-01-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大櫃 充弘
(72)【発明者】
【氏名】西垣 知香
【審査官】加藤 昌人
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-62582(JP,A)
【文献】特開2009-131043(JP,A)
【文献】特開2014-217112(JP,A)
【文献】特開2013-129299(JP,A)
【文献】特開2018-207567(JP,A)
【文献】特開2015-146709(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0278182(US,A1)
【文献】特開2017-17888(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60L 1/00- 3/12
B60L 7/00-13/00
B60L 15/00-58/40
H02M 7/42- 7/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪を駆動するモータと、前記モータへ供給される三相交流電力を調節するインバータとを有する電動車両の制御装置であって、
前記モータへ供給される前記三相交流電力の各相電流を検出する三つの電流センサと、
前記電動車両のアクセル開度及び速度に基づいて前記モータの目標トルクを決定し、前記目標トルクと前記三つの電流センサによる検出値とに基づいて、前記インバータを制御するコントローラと、
を備え、
前記コントローラは、前記三つの電流センサのうちの一つに異常が生じたときに、他の二つの電流センサの検出値に基づいて、前記電動車両を退避走行させる退避走行モードを実行し、
前記退避走行モードでは、所定の条件が満たされるときに、前記目標トルクにかかわらず、前記インバータによる前記モータへの電力供給が禁止され、
前記所定の条件は、少なくとも、前記アクセル開度がユーザの加速意思を否定し得る範囲内であること、前記目標トルクが所定の閾値を下回ること、及び、前記速度が所定の閾値を上回ることを含む、
制御装置。
【請求項2】
前記コントローラはさらに、
前記退避走行モードの実行中に、前記所定の条件が満たされない場合は、前記目標トルクに応じて前記インバータを制御するとともに、前記電動車両の加速度が所定の範囲を逸脱したときは、前記インバータによる前記モータへの電力供給を所定時間に亘って禁止する、請求項1に記載の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書が開示する技術は、電動車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に、電動車両の制御装置が記載されている。この制御装置は、複数のセンサと、複数のセンサによる検出値に基づいて、インバータを制御するコントローラとを備える。コントローラは、複数のセンサのいずれかに異常が発生していると判定すると、電動車両を退避走行させる退避走行モードを実行する。このような構成によると、複数の電流センサのうちの一つに異常が生じたときでも、退避走行モードが実行することにより、残りの電流センサを用いてインバータを制御することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-017888号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような退避走行において、残りの電流センサにさらなる異常やノイズが生じることも想定される。この場合、既に一つの電流センサに異常が発生しているために、当該残りの電流センサに生じた異常やノイズを検出することができず、インバータが不適切に制御されることによって、モータのトルクが意図せず増加又は減少するおそれがある。このような事態を回避するために、車両の加速度が所定の値を上回るときは、インバータからモータへの電力供給を禁止することが考えられる。しかしながら、車両の加速度はさまざまな要因で増減し得ることから、そのようなフェールセーフが頻繁に作動してしまうと、車両の挙動がかえって不安定となり、ドライバビリティを過剰に低下させるおそれがある。
【0005】
上記の実情を鑑み、本明細書は、電動車両の退避走行において、ドライバビリティを向上する技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本明細書が開示する技術は、車輪を駆動するモータと、前記モータへ供給される三相交流電力を調節するインバータとを有する電動車両の制御装置に具現化される。この制御装置は、前記モータへ供給される前記三相交流電力の各相電流を検出する三つの電流センサと、前記電動車両のアクセル開度及び速度に基づいて前記モータの目標トルクを決定し、前記目標トルクと前記三つの電流センサによる検出値とに基づいて、前記インバータを制御するコントローラと、を備える。前記コントローラは、前記三つの電流センサのうちの一つに異常が生じたときに、他の二つの電流センサの検出値に基づいて、前記電動車両を退避走行させる退避走行モードを実行する。前記退避走行モードでは、所定の条件が満たされるときに、前記目標トルクにかかわらず、前記インバータによる前記モータへの電力供給が禁止される。前記所定の条件は、少なくとも、前記アクセル開度がユーザの加速意思を否定し得る範囲内であること、前記目標トルクが所定の閾値を下回ること、及び、前記速度が所定の閾値を上回ることを含む。ここで、「アクセル開度がユーザの加速意思を否定し得る範囲内」について、制御装置は、アクセル開度がゼロ又は比較的に小さい所定値以下の値のときに、「アクセル開度がユーザの加速意思を否定し得る範囲内」であると判断することができ、このときの所定値は、電動車両の速度に応じて調整されるとよい。
【0007】
上記の制御装置では、退避走行モードの実行中に、各種センサによる検出値に基づいて、所定の条件が満たされるのか否かが判定される。ここでいう所定の条件には、少なくとも、アクセル開度がユーザの加速意思を否定し得る範囲内であること、モータの目標トルクが所定の閾値を下回ること、及び、速度センサによる検出値が所定の閾値を上回ることが含まれる。この所定の条件が満たされる場合は、ユーザが車両に対して車輪を駆動させるためのトルク出力を要求していないことが推定される。そのことから、コントローラは、所定の条件が満たされているとき、即ち、ユーザがトルク出力を要求していないと推定されるときは、インバータによるモータへの電力供給を一律に禁止する。これにより、限られた電流センサを用いた退避走行においても、例えばインバータが不適切に制御されることを未然に防止して、車両の意図しない挙動を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】制御装置100及び車両10の構成を示す概略図。
図2】コントローラ38が実行する処理のフロー図。
図3】コントローラ38が図2の処理を実行する具体例を説明するための図。
【実施例
【0009】
本技術の一実施形態において、コントローラはさらに、退避走行モードの実行中に、所定の条件が満たされない場合は、目標トルクに応じてインバータを制御するとともに、電動車両の加速度が所定の範囲を逸脱したときは、インバータによるモータへの電力供給を所定時間に亘って禁止してもよい。このような構成によると、車両に生じている加速度が、ユーザの意思に基づくものなのか、電流センサのさらなる異常等によるものなのかを判別して、インバータが不適切に制御されることを未然に防止することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図面を参照して、実施例の制御装置100と、それが搭載されている電動車両10(以下、車両10と称する)について説明する。車両10は、路面を走行する車両であって、例えば、燃料電池車、電気自動車、ソーラーカー等である。図1に示すように、車両10は、バッテリ12は、モータ14とを備える。バッテリ12は、例えばリチウムイオンバッテリやニッケル水素バッテリであって、複数の二次電池セルを内蔵している。モータ14は、車両10の車輪を駆動する走行用モータであり、本実施例では、U相、V相、W相を有する三相モータジェネレータである。
【0011】
図1に示すように、車両10は、インバータ16をさらに備える。インバータ16は、バッテリ12とモータ14との間で、直流-交流間の電力変換を行うことができる。インバータ16は、バッテリ12とモータ14との間に設けられており、バッテリ12からの直流電力を三相交流電力に変換して、モータ14へ供給することができる。また、インバータ16は、モータ14からの三相交流電力を直流電力に変換して、バッテリ12へ供給することもできる。なお、特に限定されないが、バッテリ12の定格電圧とモータ14の定格電圧とが異なる場合には、バッテリ12とインバータ16との間に、DC-DCコンバータがさらに設けられてもよい。
【0012】
図1に示すように、インバータ16は、複数のスイッチング素子18a-18fと、複数のダイオード20a-20fとを備える。複数のスイッチング素子18a-18fには、第1スイッチング素子18aと、第2スイッチング素子18bと、第3スイッチング素子18cと、第4スイッチング素子18dと、第5スイッチング素子18eと、第6スイッチング素子18fとが含まれる。同様に、複数のダイオード20a-20fには、第1ダイオード20aと、第2ダイオード20bと、第3ダイオード20cと、第4ダイオード20dと、第5ダイオード20eと、第6ダイオード20fとが含まれる。第1スイッチング素子18aと第2スイッチング素子18bとは直列に接続されており、第3スイッチング素子18cと第4スイッチング素子18dとは直列に接続されており、第5スイッチング素子18eと第6スイッチング素子18fとは直列に接続されている。各スイッチング素子18a-18fには、対応するダイオード20a-20fが逆並列に接続されている。各二つのスイッチング素子が直列に接続された三つの組は、並列に接続されている。
【0013】
ここで、説明の便宜上、各二つのスイッチング素子の直列接続の高電位側における三つのスイッチング素子18a、18c、18eを、上アームスイッチング素子と称することがある。これに対して、各二つのスイッチング素子の直列接続の低電位側における三つのスイッチング素子18b、18d、18fを、下アームスイッチング素子と称することがある。上アームスイッチング素子18a、18c、18eと、それに対応する下アームスイッチング素子18b、18d、18fとが交互にオン及びオフされることにより、各二つのスイッチング素子の直列接続の中点22U、22V、22Wから交流電力が出力される。特に限定されないが、本実施例では、第1、2スイッチング素子18a、18bとの直列接続の中点22U(以下、U相の中点22Uと称する)から、U相電流IUが出力される。同様に、第3、4スイッチング素子18c、18dとの直列接続の中点22V(以下、V相の中点22Vと称する)から、V相電流IVが出力され、第5、6スイッチング素子18e、18fとの直列接続の中点22W(以下、W相の中点22Wと称する)から、W相電流IWが出力される。
【0014】
図1に示すように、車両10は、コンデンサ24をさらに備える。コンデンサ24は、いわゆる平滑化コンデンサであって、電圧の変動を抑制することができる。コンデンサ24は、バッテリ12とモータ14との間に設けられており、バッテリ12とモータ14とを接続する直流回路へ並列に接続されている。これにより、コンデンサ24は、バッテリ12とモータ14とを接続する直流回路において、電力の変動を抑制することができる。なお、コンデンサ24の数及び位置は、インバータ16(又はDCーDCコンバータ)といった電力変換回路の構成に応じて、適宜変更することができる。
【0015】
図1に示すように、車両10は、一対のリレー26、28をさらに備える。一方のリレー26は、バッテリ12の正極側において、バッテリ12とインバータ16との間に介挿されている。他方のリレー28は、バッテリ12の負極側において、バッテリ12とインバータ16との間に介挿されている。一対のリレー26、28が閉じることによって、バッテリ12がインバータ16に電気的に接続され、一対のリレー26、28が開くことによって、バッテリ12がインバータ16から電気的に切断される。特に限定されないが、一対のリレー26、28の動作は、後述するコントローラ38(例えば、第2コントローラ42)によって制御される。
【0016】
図1に示すように、制御装置100は、三つの電流センサ30と、アクセルセンサ32と、速度センサ34と、回転角センサ36と、コントローラ38とを備える。三つの電流センサ30は、モータ14へ供給される三相交流電力の各相電流IU、IV、IWを検出する。三つの電流センサ30には、U相電流センサ30Uと、V相電流センサ30Vと、W相電流センサ30Wとが含まれる。U相電流センサ30Uは、インバータ16のU相の中点22Uと、モータ14との間に設けられており、U相電流IUを検出する。同様に、V相電流センサ30V及びW相電流センサ30Wの各々は、インバータ16の対応する相の中点22V、22Wと、モータ14との間に設けられており、対応する相電流(即ち、V相電流IV、W相電流IW)をそれぞれ検出する。
【0017】
アクセルセンサ32は、ユーザによるアクセル操作子の操作量、即ち、アクセル開度ACを検出する。アクセル操作子は、例えば、車両10の室内に配置されており、ユーザの足によって操作される。速度センサ34は、車両10の速度Vを検出する。回転角センサ36は、モータ14の回転速度Rを検出する。回転角センサ36は、例えば、レゾルバであり、モータ14に設けられている。
【0018】
コントローラ38には、第1コントローラ40と、第2コントローラ42とが含まれる。第1コントローラ40は、インバータ16の動作を監視及び制御する制御ユニットであり、第2コントローラ42は、車両10の動作を監視及び制御する上位の制御ユニットである。第1コントローラ40と第2コントローラ42とは、互いに通信可能に接続されており、取得した情報、又は作成した情報を相互に取得することができる。
【0019】
第1コントローラ40は、インバータ16と通信可能に接続されている。第1コントローラ40は、電流センサ30による検出値や、第2コントローラ42から送信される情報(例えば、モータ14の目標トルクTT)に基づいて、インバータ16の動作を制御することができる。一例ではあるが、第1コントローラ40は、インバータ16のスイッチング素子18a-18fをオン及びオフするタイミングを調整することで、バッテリ12からモータ14へ供給される三相交流電力を調節することができる。
【0020】
第1コントローラ40は、各電流センサ30とも通信可能に接続されており、三相交流電力の各相電流IU、IV、IWを監視することができる。第1コントローラ40は、各電流センサ30の検出値から、三つの電流センサ30のうちの一つに異常が生じていることを検知した場合に、退避走行モードを実行する。このとき、第1コントローラ40は、異常が検出されていない二つの電流センサ30の検出値に基づいて、インバータ16を制御する。
【0021】
第1コントローラ40は、回転角センサ36とも通信可能に接続されており、モータ14の回転速度Rを監視することができる。そして、第1コントローラ40は、モータ14の回転速度Rからモータ14の回転数及び車両10の加速度Aを算出して、それらを第2コントローラ42へ送信する。これにより、第2コントローラ42は、モータ14の回転数及び車両10の加速度Aを監視することができる。
【0022】
第2コントローラ42は、アクセルセンサ32及び速度センサ34と通信可能に接続されている。そのため、第2コントローラ42は、車両10のアクセル開度AC及び速度Vを監視することができる。
【0023】
従って、第2コントローラ42は、車両10のアクセル開度AC及び速度Vに基づいて、車両10の目標トルクTTを決定することができる。特に限定されないが、第2コントローラ42は、車両10のアクセル開度AC及び速度Vに加えて、モータ14の回転数等を踏まえて、目標トルクTTを決定してもよい。第2コントローラ42は、決定した目標トルクTTを第1コントローラ40へ送信する。第1コントローラ40は、第2コントローラ42から送信された目標トルクTTに基づいて、インバータ16を制御する。
【0024】
次に、図2に示すフローチャートに沿って、コントローラ38が実行する処理を説明する。ステップS10において、第1コントローラ40は、三つの電流センサ30のうちの一つに異常が生じていることを検知すると、ステップS12へ移行して、車両10を退避走行させる退避走行モードを実行する。退避走行モードは、例えば車両10の最大速度に制限を設けた上で、健全な二つの電流センサ30の検出値に基づいてインバータ16を制御することにより、車両10の走行継続を許容するものである。ここで、コントローラ38が実行する退避走行モードの具体的な内容については、特に限定されない。本実施例における退避走行モードには、公知の退避走行モードを適宜採用することができる。
【0025】
コントローラ38が退避走行モードを実行しているときに、残りの電流センサ30にさらなる異常やノイズが生じることも想定される。この場合、既に一つの電流センサ30に異常が発生しているために、当該残りの電流センサ30に生じた異常やノイズを検出することができず、インバータ16が不適切に制御されることによって、モータ14のトルクが意図せず増加又は減少するおそれがある。このような事態を回避するために、車両10の加速度が所定の値を上回るときは、インバータ16からモータ14への電力供給を禁止することが考えられる。しかしながら、車両10の加速度はさまざまな要因で増減し得ることから、そのようなフェールセーフが頻繁に作動してしまうと、車両10の挙動がかえって不安定となり、ドライバビリティを過剰に低下させるおそれがある。そこで、本実施例の車両10では、退避走行モードを実行中に、コントローラ38が下記する処理をさらに実行するように構成されている。
【0026】
図2に戻り、ステップS14では、第2コントローラ42は、各種センサによる検出値に基づいて、所定の条件が満たされるのか否かを判定する。ここで、所定の条件とは、車両10のアクセル開度ACがユーザの加速意思を否定し得る範囲内であること、モータ14の目標トルクTTが所定の閾値を下回ること、及び、車両10の速度Vが所定の閾値を上回ることである。この所定の条件が満たされる場合は、ユーザが車両10に対して車輪を駆動させるためのトルク出力を要求していないことが推定される。特に限定されないが、車両10の速度Vに対する所定の閾値としては、車両10にクリープ現象が生じているときの速度の上限値を採用することができる。なお、所定の条件には、上記の三つの条件に加えて、他の条件がさらに含まれてもよい。
【0027】
第2コントローラ42は、ステップS14における判定結果に基づいて、第1コントローラ40に動作指令を出力する。動作指令は、例えば二値信号であり、インバータ16の動作を許容する「ゲート許可」と、インバータ16の動作を禁止する「ゲート遮断」のいずれかを意味する。所定の条件が満たされる場合(即ち、ステップS14でYESの場合)、第2コントローラ42は、第1コントローラ40に対して、「ゲート遮断」を示す動作指令SC(以下、ゲート遮断指令SCと称する)を出力する。これに対して、ステップS14でNOの場合、第2コントローラ42は、第1コントローラ40に対して、「ゲート許可」を示す動作指令EC(以下、ゲート許可指令ECと称する)を出力する。
【0028】
ステップS14でYESの場合、第1コントローラ40には、ゲート遮断指令SCが入力される。ゲート遮断指令SCを受け取った第1コントローラ40は、第2コントローラ42から入力される目標トルクTTにかかわらず、インバータ16の全てのスイッチング素子18a-18fをターンオフする(ステップS18)。これにより、モータ14の目標トルクTTにかかわらず、インバータ16によるモータ14への電力供給が禁止される。そして、第1コントローラ40は、ステップS14に戻り、第2コントローラ42は、所定の条件が満たされるのか否かを再度判定する。一方、ステップS14でNOの場合、第1コントローラ40には、ゲート許可指令ECが入力される。ゲート許可指令ECを受け取った第1コントローラ40は、第2コントローラ42から入力される目標トルクTTに応じて、インバータ16のスイッチング素子18a-18fをそれぞれ制御する(ステップS16)。その後、第2コントローラ42は、ステップS20へ移行する。以上より、ステップS14でYESと判定される間は、インバータ16の全てのスイッチング素子18a-18fがターンオフされており、インバータ16によるモータ14への電力供給が禁止されている。
【0029】
ステップS20において、第2コントローラ42は、車両10の加速度Aが所定の範囲内であるのか否かを判定する。車両10の加速度Aには、加速度(即ち、正の加速度)及び減速度(即ち、負の加速度)が含まれる。ここで、車両10の加速度Aが所定の範囲内であるとは、車両10の安全性が確保されており、フェールセーフを作動させる必要がない状態であることを意味する。この所定の範囲は、特に限定されないが、ISO 26262のASIL(Automotive Safety Integrity Level)で表現されるリスク指標であるQM(Quality Management)に基づいている。例えば、正の加速度Aのときには、当該加速度AがQMの上限値を下回るのか否かが判定される。同様に、負の加速度Aのときには、当該加速度AがQMの下限値を上回るのか否かが判定される。なお、車両10の加速度Aとしては、例えば、回転角センサ36の検出値から算出された加速度Aを用いることができる。但し、他の実施形態として、車両10の加速度Aは、加速度センサによる検出値であってもよいし、他の方法で算出される推定値であってもよい。
【0030】
第2コントローラ42は、ステップS14と同様に、ステップS20における判定結果に基づいて、第1コントローラ40に動作指令を出力する。ステップS20でYESの場合、第1コントローラ40には、ゲート許可指令ECが入力される。ゲート許可指令ECを受け取った第1コントローラ40は、第2コントローラ42から入力される目標トルクTTに応じて、インバータ16のスイッチング素子18a-18fをそれぞれ制御する(ステップS26)。これにより、インバータ16によるモータ14への電力供給が許可され、第1コントローラ40は、一連の処理を終了する。
【0031】
これに対して、ステップS20でNOの場合、第1コントローラ40には、ゲート遮断指令SCが入力される。ゲート遮断指令SCを受け取った第1コントローラ40は、第2コントローラ42から入力される目標トルクTTにかかわらず、インバータ16の全てのスイッチング素子18a-18fをターンオフして(ステップS22)、インバータ16によるモータ14への電力供給を禁止する。次いで、ステップS24において、第2コントローラ42は、車両10の加速度Aが前述した所定の範囲内であり、かつ、インバータ16によるモータ14への電力供給が禁止されている時間が所定時間を超えたのか否かを判定する。インバータ16によるモータ14への電力供給が禁止されている時間とは、車両10の加速度Aが所定の範囲を逸脱し、それに対するフェールセーフが作動し続けている時間を意味する。なお、インバータ16によるモータ14への電力供給が禁止されている時間に対する所定時間は、車両10の仕様等に応じて適宜変更することができる。
【0032】
ステップS24でNOの場合、第1コントローラ40は、ステップS24に戻る。即ち、第1コントローラ40は、ステップS24でYESとなるまで、ステップS24の処理を繰り返す。一方、ステップS24でYESの場合、第1コントローラ40には、ゲート許可指令ECが入力される。ゲート許可指令ECを受け取った第1コントローラ40は、第2コントローラ42から入力される目標トルクTTに応じて、インバータ16のスイッチング素子18a-18fを制御する(ステップS26)。これにより、インバータ16によるモータ14への電力供給が許可され、第1コントローラ40は、一連の処理を終了する。
【0033】
なお、上記した各処理は、第1コントローラ40又は第2コントローラ42のいずれによって実行されてもよい。即ち、本実施例において、第1コントローラ40により実行される処理は、第2コントローラ42によって実行されてもよく、第2コントローラ42により実行される処理は、第1コントローラ40によって実行されてもよい。
【0034】
図3を参照して、コントローラ38が図2の処理を実行する具体例を、車両10の一連の動作例に合わせて説明する。時刻T0において、コントローラ38は、ステップS14の処理を実行しているとする。即ち、車両10は退避走行しており、第2コントローラ42は、所定の条件が満たされるのか否かを判定している。このとき、車両10の速度Vは、所定の閾値を上回っているが、ユーザがアクセル操作子を操作していることから、アクセル開度ACはユーザの加速意思を否定し得る範囲よりも大きく、目標トルクTTは所定の閾値を上回っている。従って、時刻T0では、ステップS14でNOと判定されるため、第2コントローラ42は、目標トルクTTに加えてゲート許可指令ECを第1コントローラ40に入力する。第1コントローラ40は、目標トルクTTに応じて、インバータ16のスイッチング素子18a-18fをそれぞれ制御して、インバータ16からの電力供給を許可する(ステップS16)。
【0035】
その後、ユーザがアクセル操作子の操作を解除すると、アクセル開度ACがユーザの加速意思を否定し得る範囲内であり、かつ、目標トルクTTが所定の閾値を下回る(即ち、ステップS14でYES)。この場合、第2コントローラ42は、目標トルクTTに加えて、ゲート遮断指令SCを第1コントローラ40に入力する(時刻T1)。これにより、第1コントローラ40は、第2コントローラ42から入力される目標トルクTTにかかわらず、インバータ16の全てのスイッチング素子18a-18fをターンオフして、インバータ16からの電力供給を禁止する(ステップS18)。
【0036】
続いて、ユーザがアクセル操作子を再度操作し始めると、アクセル開度ACがユーザの加速意思を否定し得る範囲よりも大きくなり、かつ、目標トルクTTが所定の閾値を上回る(即ち、ステップS14でNO)。この場合、第2コントローラ42は、目標トルクTTに加えて、ゲート許可指令ECを第1コントローラ40に入力する(時刻T2)。これにより、第1コントローラ40は、目標トルクTTに応じて、インバータ16のスイッチング素子18a-18fをそれぞれ制御して、インバータ16からの電力供給を許可する(ステップS16)。
【0037】
以上のように、時刻T1から時刻T2までの間は、ユーザが車両10に対して車輪を駆動させるためのトルク出力を要求していないと推定されることから、インバータ16からモータ14への電力供給が一律に禁止される。そのため、時刻T1から時刻T2までの間、車両10の加速度Aが、所定時間Pに亘ってQMの下限値を下回っても、第2コントローラ42は、その加速度Aが残りの電流センサ30に生じたさらなる異常等により、インバータ16が不適切に制御されることによって、モータ14が出力したトルクに基づくものでないに基づくものではないと推定することができる。従って、第2コントローラ42は、時刻T1から時刻T2までの間では、予めインバータ16からの電力供給を禁止しておくことによって、車両10の加速度Aが逸脱しても、その加速度Aに基づいてフェールセーフを作動させることを回避する。このように、退避走行している車両10において、インバータ16が不適切に制御されることを未然に防止して、車両10の意図しない挙動を抑制することができる。
【0038】
一方、第2コントローラ42は、所定の条件が満たされない場合(ステップS14でNO)に、車両10の加速度Aに応じてフェールセーフを作動させることができる(S20-S26)。例えば、図3中の時刻T0から時刻T1までの間又は時刻T2以降では、所定の条件が満たされないことから、インバータ16による電力供給が許容されている。この場合、車両10の加速度Aが所定の範囲内を逸脱すると(即ち、ステップS20でNO)、第2コントローラ42は、目標トルクTTに加えて、ゲート遮断指令SCを第1コントローラ40に入力する。これにより、第1コントローラ40は、第2コントローラ42から入力される目標トルクTTにかかわらず、インバータ16の全てのスイッチング素子18a-18fをターンオフして、インバータ16からの電力供給を禁止する(ステップS22)。このインバータ16によるモータ14への電力供給の禁止は、車両10の加速度Aに応じたフェールセーフの発動であり、所定時間に亘って継続される(ステップS24)。このような構成によって、車両10に生じている加速度Aが、ユーザの意思に基づくものなのか、電流センサ30のさらなる異常等によるものなのかを判別して、インバータ16が不適切に制御されることを未然に防止することができる。
【0039】
以上、いくつかの具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。本明細書又は図面に説明した技術要素は、単独であるいは組み合わせによって技術的有用性を発揮するものである。
【符号の説明】
【0040】
10 :電動車両
12 :バッテリ
14 :モータ
16 :インバータ
18a-18f :スイッチング素子
20a-20f :ダイオード
22U、22V、22W:中点
24 :コンデンサ
26、28 :リレー
30 :電流センサ
32 :アクセルセンサ
34 :速度センサ
36 :回転角センサ
38 :コントローラ
40 :第1コントローラ
42 :第2コントローラ
100 :制御装置
A :加速度
AC :アクセル開度
EC :ゲート許可指令
IU、IV、IW:電流
R :回転速度
SC :ゲート遮断指令
TT :目標トルク
V :速度
図1
図2
図3