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特許7574771焼結原料の処理方法および焼結鉱の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-21
(45)【発行日】2024-10-29
(54)【発明の名称】焼結原料の処理方法および焼結鉱の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 1/16 20060101AFI20241022BHJP
   B01F 29/25 20220101ALI20241022BHJP
【FI】
C22B1/16 K
B01F29/25
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021150946
(22)【出願日】2021-09-16
(65)【公開番号】P2023043367
(43)【公開日】2023-03-29
【審査請求日】2023-04-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100184859
【弁理士】
【氏名又は名称】磯村 哲朗
(74)【代理人】
【識別番号】100123386
【弁理士】
【氏名又は名称】熊坂 晃
(74)【代理人】
【識別番号】100196667
【弁理士】
【氏名又は名称】坂井 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100130834
【弁理士】
【氏名又は名称】森 和弘
(72)【発明者】
【氏名】竹原 健太
(72)【発明者】
【氏名】樋口 隆英
(72)【発明者】
【氏名】山本 哲也
(72)【発明者】
【氏名】廣澤 寿幸
(72)【発明者】
【氏名】瀧川 洋平
(72)【発明者】
【氏名】藤原 頌平
【審査官】池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/094255(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 1/00-61/00
B01F 29/00-29/94
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転する容器と前記容器内に設けられるローターとを有する撹拌機で焼結原料を撹拌する焼結原料の処理方法であって、
前記容器には前記焼結原料を装入する装入口と、前記焼結原料を排出する排出口が設けられ、
前記撹拌機は複数の前記ローターを有し、前記焼結原料の装入から排出までが連続的に行われる態様において、複数の前記ローターのうち、撹拌領域の一部が前記ローターの軸心方向において前記排出口に重なる前記ローターの回転方向を前記容器の回転方向に対して逆方向に調整する、焼結原料の処理方法。
【請求項2】
前記容器の周速度を1.3m/sec以上にする、請求項1に記載の焼結原料の処理方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の焼結原料の処理方法で処理された前記焼結原料を造粒し、造粒された前記焼結原料を焼結機のパレットに装入して原料装入層を形成し、前記焼結機において前記原料装入層を焼結して焼結鉱を製造する、焼結鉱の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼結原料の造粒性を向上させる焼結原料の処理方法および焼結鉱の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
焼結鉱は、粒径が1000μm程度以下の複数の銘柄の粉鉄鉱石(シンターフィードとも呼ばれる。)に、石灰石や珪石、蛇紋岩等の副原料粉と、ダスト、スケール、返鉱等の雑原料粉と、粉コークス等の固体燃料とを適量ずつ配合した焼結原料に、水分を添加して混合および造粒し、得られた造粒原料を焼結機に装入して焼成して製造される。
【0003】
焼結原料は、水分を含むことで造粒時に互いに凝集して擬似粒子となる。そして、擬似粒子化した焼結用造粒原料は、焼結機のパレット上に装入された際、原料装入層の良好な通気の確保に役立ち、焼結反応が円滑に進むことになる。焼結反応においては、熱せられた造粒粒子の水分が蒸発し、風下の造粒粒子が高水分となり強度が低下する領域(湿潤帯)が形成される。湿潤帯は、造粒粒子が潰れやすくなり、原料装入層の通気を阻害し、通気を悪化させる。
【0004】
近年、鉄鉱石の微粉化が進行しており、この微粉鉱を用いた造粒粒子は強度が小さくなる。特に、水を添加した後の焼結用造粒原料としての強度が大きく低下し、焼結原料装入層の通気性低下の要因となる。また微粉鉱は、焼結鉱の製造において重要な造粒が困難となることが知られている。このような状況下で、最近、難造粒性である微粉鉱を多く含む鉄鉱石を使って、高品質の焼結鉱を製造するための技術が提案されている。
【0005】
ここで、特許文献1には、Hybrid Pelletized Sinter法(以下、「HPS法」という。)が開示されている。HPS法は、鉄分の高い微粉鉄鉱石を多量に含む焼結配合原料をドラムミキサーとペレタイザーとを使って造粒することにより、低スラグ比・高被還元性の焼結鉱を製造する方法である。更に、特許文献1には、微粉を含む焼結原料を高速撹拌機で撹拌処理した後、ドラムミキサーにて造粒する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第6508500号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に開示された技術では、焼結原料を多量に処理する際に、ペレタイザーを多数設置する必要があり、製造コストが大きくなるという問題がある。また、高速撹拌機の撹拌条件が適正でないと高速撹拌機内における焼結原料の滞留時間のバラツキにより、一部の焼結原料が高速撹拌機内で撹拌処理されずに排出口から排出(以下、「ショートパス」と記載する。)され、高速撹拌機による事前処理を行ったにもかかわらず、造粒性改善効果が得られないという問題がある。
【0008】
本発明は、かかる事情を鑑みてなされたもので、ショートパスによる未解砕状態の焼結原料の撹拌機からの排出を抑制し、微粉鉄鉱石を含む焼結原料の造粒性低下を抑制できる焼結原料の処理方法および焼結鉱の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決する本発明の要旨構成は以下のとおりである。
[1]回転する容器と前記容器内に設けられる撹拌羽根とを有する撹拌機で焼結原料を撹拌する焼結原料の処理方法であって、前記容器には前記焼結原料を排出する排出口が設けられ、前記容器内における前記焼結原料の滞留時間の分布が狭くなるように前記容器の周速度および前記撹拌羽根の回転方向の少なくとも一方を調整する、焼結原料の処理方法。
[2]前記容器の周速度を1.3m/sec以上にする、[1]に記載の焼結原料の処理方法。
[3]前記撹拌機は複数の前記撹拌羽根を有し、複数の前記撹拌羽根のうち、撹拌領域の一部が前記撹拌羽根の軸心方向において前記排出口に重なる前記撹拌羽根の回転方向を前記容器の回転方向に対して逆方向にする、[1]または[2]に記載の焼結原料の処理方法。
[4][1]~[3]のいずれか1つに記載の焼結原料の処理方法で処理された前記焼結原料を造粒し、造粒された前記焼結原料を焼結機のパレットに装入して原料装入層を形成し、前記焼結機において前記原料装入層を焼結して焼結鉱を製造する、焼結鉱の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る焼結原料の処理方法の実施により、撹拌機内における焼結原料の滞留時間の分布を狭くできるので、これにより、当該滞留時間の変動により撹拌処理されず未解砕状態の焼結原料が撹拌機から排出されることが抑制される。このように未解砕状態の焼結原料の排出を抑制することで焼結原料の造粒性低下を抑制できるので、当該処理方法で処理された焼結原料を焼結鉱の製造に用いることで焼結原料を好適な擬似粒子に造粒でき、これにより、焼結鉱の生産性の向上が実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】焼結原料の処理方法および焼結鉱の製造方法の概要を示す模式図である。
図2】焼結原料が装入される撹拌機の一例を示す斜視図及び平面模式図である。
図3】トレーサー粒子の滞留時間の分布の一例を示すグラフである。
図4】容器の回転速度と滞留時間(T25、T75、ave.)との関係を示すグラフである。
図5】容器内におけるローター(A~D)の複数の撹拌羽根Qの回転方向を説明する模式図である。
図6】ローターの回転方向と滞留時間(T25、T75、ave.)との関係を示すグラフである。
図7】撹拌羽根Qの回転速度と滞留時間(T25、T75、ave.)との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための方法について説明する。本発明では、離散要素法等を用いて撹拌機内における焼結原料の撹拌現象をシミュレートして撹拌機内における焼結原料の滞留時間の分布を求め、当該滞留時間の分布を狭くすることにより、滞留時間のバラツキによるショートパスによって未解砕状態の焼結原料が撹拌機内から排出されることを抑制する。
【0013】
図1は、本実施形態に係る焼結原料の処理方法および焼結鉱の製造方法の概要を示す模式図である。シンターフィード等の微粉鉄鉱石を含む焼結原料1は、撹拌機2で撹拌処理された後、ドラムミキサー等の造粒装置3で造粒される。その後、造粒された焼結原料1は焼結機4のパレットに装入されて原料装入層が形成され、当該原料装入層が焼結機4で焼結されて焼結ケーキ5とされる。
【0014】
焼結ケーキ5はその後、破砕及び冷却され、整粒されることで焼結鉱として製造される。微粉鉄鉱石は水分を吸収して粗大粒子を形成するので、微粉鉄鉱石を含む焼結原料1には粗大粒子が含まれる。この粗大粒子は焼結原料1の造粒性を低下させるので、本実施形態に係る焼結原料の処理方法では、撹拌機2による撹拌処理で当該粗大粒子を予め解砕しておくことで焼結原料1の造粒性が改善され、これにより焼結鉱の生産性を向上させている。
【0015】
撹拌機2による焼結原料1の処理方法において、一部の焼結原料1が撹拌機2内でショートパスし、撹拌処理されないまま撹拌機2の外部に排出される場合がある。ショートパスが発生すると、焼結原料1の粗大粒子が解砕されないまま造粒装置3にて造粒処理が行われるため、粉鉄鉱石を含む焼結原料1の造粒性が改善されず、その結果、焼結鉱の生産性が低下する。
【0016】
そこで、本発明者らは、撹拌機2におけるショートパスの発生状況を把握するため、DEM(離散要素法)を用いて、撹拌機2内での焼結原料1の滞留時間の分布を確認した。DEM(Discrete Element Method)は、粒子の形状を決定し、粒子同士が接触したときに当該粒子に生じる力を求め、その力に基づいて、解析時間における粒子の挙動を所定の時間隔毎に求めるものである。DEMに用いた密度、ヤング率、ポアソン比の値、および、粒子-粒子間、粒子-壁間の反発係数、摩擦係数(静摩擦、ころがり摩擦)の値は、DEMでの安息角の計算値と安息角の実験値とが一致するようにそれぞれ設定した。
【0017】
また、撹拌機2内での焼結原料1の粒子の接触状態を把握するため、以下の式(1)として示す、JKR理論に基づくJKRモデル(Herz-Mindlin)を用いた。JKRモデルは、表面エネルギーを持つ二つの球面あるいは球面と平面とが弾性接触するときの、接触面半径と外力との関係を示す理論である。
【0018】
【数1】
式(1)において、FJKRは外力、γは接触する二面の表面エネルギー、aは接触面の半径、Eは二面の合成ヤング率、Rは(1/R+1/R-1として曲率半径がそれぞれR及びRになる二面の等価半径である。
【0019】
図2は、焼結原料1が装入される撹拌機2の一例を示す斜視図及び平面模式図である。図2(a)は撹拌機2の斜視図であり、図2(b)は撹拌機2の内部を示す平面模式図である。撹拌機2は、例えば、高さが2mであり、平面視で直径が4.2mの略円形の形状の容器21を有する。
【0020】
容器21は、図中Fの方向に向けて回転可能である。容器21は、焼結原料1を装入する装入口Yと、撹拌処理された後の焼結原料1を排出する排出口Wとを有する。
【0021】
撹拌機2の内部にはローターが4本(図中のA~D)設けられ、各々のローターは撹拌羽根Qを有する。撹拌羽根Qは、各ローターにおいて高さ方向に異なる6ケ所の各位置にてそれぞれ6枚設けられている。また、各ローターの撹拌羽根Qが6枚設けられている各位置において、撹拌羽根Qはローターの軸方向に25mm間隔で装着されている。撹拌羽根Qの形状は、大きい撹拌羽根の直径(ローターの軸芯からの長さ)は1000mm、小さい撹拌羽根の直径(ローターの軸芯からの長さ)は800mmである。
【0022】
容器21内における焼結原料1の滞留時間を把握するため、図2に示した容器21内への焼結原料1の総装入量を1500kg、焼結原料1の装入速度を930/h、焼結原料1の滞留時間を58sに設定した。焼結原料1を模擬した粒子の内の50~60個をトレーサー粒子(図2(a)中のE)とし、当該トレーサー粒子をモニターすることで焼結原料1の容器内の焼結原料の滞留時間を評価した。
【0023】
図3は、トレーサー粒子の滞留時間の分布の一例を示すグラフである。図3の横軸は時間(s)であり、縦軸は排出割合(質量%)である。時間(s)は、トレーサー粒子が撹拌機2の装入口Yから装入された時点を0とする時間である。排出割合(質量%)は、焼結原料1のショートパスに関係し、撹拌機2の内部に装入されたトレーサー粒子の総量に対する排出口Wから排出されたトレーサー粒子の割合を意味する。
【0024】
図3に示す通り、トレーサー粒子が排出口Wから排出され始める時間をT0とした。また、トレーサー粒子の25質量%が排出された時間をT25とし、75質量%が排出された時間をT75とし、すべてのトレーサー粒子が排出された時間をT100とした。本実施形態では、容器21内における焼結原料1の滞留時間の分布をT25とT75との時間差で評価した。すなわち、T25とT75との時間差が小さい場合に焼結原料1の滞留時間の分布が狭いと評価し、T25とT75との時間差が大きい場合に焼結原料1の滞留時間の分布が広いと評価した。一方、T100は、長時間排出されない一部の粒子のために非常に長くなる場合があってバラツキが大きくなるので、T100を用いると焼結原料1の滞留時間の予測精度が低下する。このため、本実施形態では、上記の通り、T25とT75との時間差を用いて焼結原料1の滞留時間の分布を評価した。
【0025】
まず、容器21の回転速度について説明する。撹拌機2における焼結原料1の滞留時間の分布に対する容器21の回転速度の影響を確認するため、容器21の回転速度を変更した各条件での滞留時間T25、T75およびave.を求めた。図4は、容器の回転速度と滞留時間(T25、T75、ave.)との関係を示すグラフである。なお、「ave.」は平均滞留時間であり、トレーサー粒子の50質量%が排出された時間である。図4において、横軸は容器の回転速度(rpm)であり、縦軸は滞留時間(s)である。また、図4における各回転速度の滞留時間(T25、T75)の値を下記表1に示す。
【0026】
【表1】
【0027】
図4に示す通り、容器21の回転速度が速いほど、T25とT75との時間差が小さくなった。この結果から、容器21の回転速度(rpm)は、焼結原料1の滞留時間の分布に影響を及ぼすことが確認された。さらに、容器21の回転速度を6rpm(容器21の周速度:1.3m/sec)以上とすることで、容器21の回転速度が6rpmより遅い場合よりも焼結原料1の滞留時間の分布を狭くできることが確認された。これにより、焼結原料1の滞留時間の変動が少なくなるので、当該変動によりショートパスが発生することを抑制できる。
【0028】
また、容器21の回転速度を速くすることで、焼結原料1の滞留時間の分布が狭くなるので、焼結原料1のショートパスの抑制と共に焼結原料1の滞留時間が長くなることも抑制されるので、これにより焼結原料1の滞留時間(s)の延長も抑制され、撹拌時間の短縮にも寄与できる。さらに、焼結原料1の撹拌機2への装入タイミング及び排出タイミングがより一致するようになるので、焼結原料1の滞留時間が均一化され、焼結原料1に対して均一な撹拌処理が施されることとなる。
【0029】
なお、容器21の回転速度が10rpmを超えると、回転速度をさらに速くしても焼結原料1の滞留時間の分布を狭くする効果が得られない。このため、容器21の回転速度は10rpm(容器21の周速度:2.2m/sec)以下とすることが好ましい。
【0030】
次に、撹拌機2内におけるローター(A~D)の回転方向について説明する。撹拌機2における焼結原料1の滞留時間の分布に対するローター(A~D)の撹拌羽根Qの回転方向の影響を確認するため、ローター(A~D)の撹拌羽根Qの回転方向を変更した各条件での滞留時間T25、T75およびave.を求めた。
【0031】
図5は、容器21内におけるローター(A~D)の複数の撹拌羽根Qの回転方向を説明する模式図である。図5(a)は、基準の容器21の回転方向Fと各ローター(A~D)の回転方向の状態を示す。図5(b)は、上記基準に対し各ローター(A~D)の回転方向を逆にした状態(全部逆回転)を示す。図5(c)は、上記基準に対しローターDの回転方向を容器21の回転方向Fと逆方向にした状態(D逆回転)を示す。図5(d)は、ローターDの回転方向を容器21の回転方向Fとは逆方向にすると共に、ローター(A~C)の回転方向を容器21の回転方向Fに対して順方向及び逆方向を混在させた状態(A、D逆回転)を示す。また、図6は、ローターの回転方向と滞留時間(T25、T75、ave.)との関係を示すグラフである。さらに、各ローター(A~D)の回転方向の各条件における滞留時間(T25、T75)の値を下記表2に示す。
【0032】
【表2】
【0033】
図5及び図6に示す通り、各ローター(A~D)の撹拌羽根Qの回転方向を変更して検証したところ、撹拌羽根の撹拌領域の一部が当該撹拌羽根の軸心方向において容器21の排出口Wに重なる撹拌羽根Q(図5中のローターDの撹拌羽根Q)の回転方向を、容器21の回転方向Fに対して逆の方向にすることで、焼結原料1の滞留時間の分布(T25とT75との時間の差)が狭くなることが確認できた。
【0034】
焼結原料1の滞留時間の分布を狭くするには、焼結原料1の滞留時間を短くし過ぎても長くし過ぎても好ましくない。滞留時間を短くし過ぎると焼結原料1のショートパスが助長される。一方で、滞留時間を長くし過ぎると、滞留している焼結原料1によって容器21内の有効容積が減少してしまい、ショートパスする焼結原料1が逆に増加するからである。図5(a)に示す「基準」パターンでは、ローターA~Cを容器21の回転方向Fに対して逆回転にすると共に、ローターDを容器21の回転方向Fに対して順方向の回転にしている。この構成ではローターAに当たった焼結原料1はローターDの方向に流される。ローターDにより焼結原料1は排出口Wの方向に流されるので、焼結原料1の滞留時間が短くなり過ぎ、各ローター(A~D)の撹拌羽根Qの回転方向における全4パターンの中で、焼結原料1の滞留時間の分布(T25とT75との時間の差)が最も広くなることが確認された。
【0035】
次に、図5(b)に示す「全部逆回転」パターンでは、ローターA~Cを容器21の回転方向Fに対して順方向に回転にさせると共に、ローターDを容器21の回転方向Fに対して逆回転にしている。この構成ではローターAに当たった焼結原料1は外周方向に流され、ローターCに行きやすくなる。ローターCでも焼結原料1は外周方向に流され、ローターBでも焼結原料1は外周方向に流される。ローターBを抜けるとローターDにより、焼結原料1は排出口Wの方向に流される。また、ローターB、Cでも中心に向かう流れがあるのでそこで一部の焼結原料1が排出口Wの方向に流される。これにより、焼結原料1の滞留時間が長くなり、図6に示す通り「全部逆回転」パターンでは、「基準」パターンに比べて、焼結原料1の滞留時間の分布が狭くなった。
【0036】
図5(c)に示す「D逆回転」パターンでは、ローターA~Cを容器21の回転方向Fに対して逆回転にすると共に、ローターDも容器21の回転方向Fに対して逆回転にしている。この構成ではローターAに当たった焼結原料1はローターDの方向に流される。一方、ローターDが逆回転してるので排出口Wへの排出が抑制された。その後、焼結原料1はローターCに流され、ローターCにより焼結原料1が排出口Wの方向に流される。これにより、図5(b)よりも焼結原料1の滞留時間がより好ましい時間になり、図6に示す通り「D逆回転」パターンは、「基準」パターン及び「全部逆回転」パターンに比べて、焼結原料1の滞留時間の分布が更に狭くなった。
【0037】
また、図5(d)に示す「A、D逆回転」パターンでは、ローターA~Cを容器21の回転方向Fに対して順方向及び逆方向の回転を混在(図5(d)においてはローターB及びCが回転方向Fに対し逆回転)させると共に、ローターDも容器21の回転方向Fに対して逆回転にしている。この構成ではローターAに当たった焼結原料1は外周方向に流され、ローターCに行きやすくなる。ローターCにより焼結原料1は排出口Wの方向に流される。これにより、図5(c)よりも焼結原料1の滞留時間がさらに好ましい時間になり、図6に示す通り「A、D逆回転」パターンは、各ローター(A~D)の撹拌羽根Qの回転方向における全4パターンの中で、焼結原料1の滞留時間の分布が最も狭くなった。
【0038】
この結果から、ローターA~Cの撹拌羽根Qの回転方向が容器21の回転方向に対し順方向や逆方向であったとしても、撹拌領域の一部が当該撹拌羽根の軸心方向において排出口Wに重なる撹拌羽根Qの回転方向を容器21の回転方向に対して逆回転とすることで、焼結原料1の滞留時間の分布の幅を狭くできることが確認できた。
【0039】
この結果から、撹拌機2における撹拌羽根の撹拌領域の一部が当該撹拌羽根の軸心方向において排出口Wに重なる撹拌羽根Qの回転方向は、焼結原料1の滞留時間の分布に影響を及ぼすことが確認された。さらに、当該撹拌羽根Qの回転方向を容器21の回転方向の逆方向とすることで、焼結原料1の滞留時間の分布を狭くできることが確認された。これにより、焼結原料1の滞留時間の変動が少なくなるので、当該変動によりショートパスが発生することを抑制できる。
【0040】
次に、撹拌羽根Qの回転速度について説明する。撹拌機2における焼結原料1の滞留時間の分布に対する撹拌羽根Qの回転速度の影響を確認するため、撹拌機2における各ローター(A~D)の撹拌羽根Qの回転速度を変更した各条件での滞留時間T25、T75およびave.を求めた。図7は、撹拌羽根Qの回転速度と滞留時間(T25、T75、ave.)との関係を示すグラフである。なお、撹拌羽根Qの回転速度の確認では、各ローター(A~D)の全ての撹拌羽根Qの回転速度を図7に示す回転速度(175rpm、215rpm)にしている。
【0041】
図7に示す通り、撹拌羽根Qの回転速度を上げても、焼結原料1の滞留時間の分布はほとんど変化しないことが確認できた。この結果から、撹拌機2における撹拌羽根Qの回転速度は、焼結原料1の滞留時間の分布に影響を及ぼさないことが確認された。
【0042】
以上の結果から、撹拌機2における焼結原料1の滞留時間の分布に影響を及ぼす因子が撹拌機2の容器21の周速度および撹拌羽根Qの回転方向であることが確認された。一方、撹拌羽根Qの回転速度は、撹拌機2における焼結原料の滞留時間の分布に影響を及ぼさないことが確認された。これらのことから本実施形態に係る焼結原料の処理方法では、撹拌機2の容器21の周速度および撹拌機2の撹拌羽根Qの回転方向の少なくとも一方を、焼結原料1の滞留時間が短くなるように調整する。これにより、撹拌機2内の焼結原料1の滞留時間の分布を狭くできるので、当該滞留時間の変動が少なくなり、当該変動により撹拌処理されず未解砕状態の焼結原料が撹拌機から排出されることが抑制できる。この結果、焼結原料1の造粒性が改善され、その後の造粒工程では通気性が良好な装入層が形成される擬似粒子が造粒されるようになり、焼結鉱の生産性の向上が実現できる。
【符号の説明】
【0043】
1 焼結原料
2 撹拌機
21 容器
3 造粒装置
4 焼結機
5 焼結ケーキ
A~D ローター
E トレーサー粒子
F 容器の回転方向
Q 撹拌羽根
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7