(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-21
(45)【発行日】2024-10-29
(54)【発明の名称】金属粒子含有組成物、接合用ペースト、接合体及び接合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
B22F 1/102 20220101AFI20241022BHJP
B22F 1/05 20220101ALI20241022BHJP
B22F 7/08 20060101ALI20241022BHJP
B22F 9/00 20060101ALI20241022BHJP
C09J 9/02 20060101ALI20241022BHJP
C09J 11/04 20060101ALI20241022BHJP
C09J 11/06 20060101ALI20241022BHJP
C09J 179/02 20060101ALI20241022BHJP
H01B 1/22 20060101ALI20241022BHJP
【FI】
B22F1/102
B22F1/05
B22F7/08 C
B22F9/00 B
C09J9/02
C09J11/04
C09J11/06
C09J179/02
H01B1/22 A
(21)【出願番号】P 2021161128
(22)【出願日】2021-09-30
【審査請求日】2023-12-04
(31)【優先権主張番号】P 2020211947
(32)【優先日】2020-12-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】artience株式会社
(72)【発明者】
【氏名】上杉 隆彦
(72)【発明者】
【氏名】田中 直宏
【審査官】坂本 薫昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-097074(JP,A)
【文献】特開2017-137375(JP,A)
【文献】特開2018-109232(JP,A)
【文献】特開2019-173023(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/102,1/05,7/08,9/00
C09J 9/02,11/04,11/06,179/02
H01B 1/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒子径が1nm~1000nmである金属粒子(A)と、多価脂肪酸(B)と、ポリアミン(C)とを含有
し、
前記金属粒子(A)100質量部に対して、前記多価脂肪酸(B)0.05質量部~0.98質量部及び前記ポリアミン(C)0.05質量部~0.98質量部を含有してなることを特徴とする金属粒子含有組成物。
【請求項2】
多価脂肪酸(B)の炭素数が20~80であり、かつ、ポリアミン(C)の炭素数が20~80であることを特徴とする請求項1記載の金属粒子含有組成物。
【請求項3】
多価脂肪酸(B)が、二価及び/又は三価の脂肪酸を含むことを特徴とする請求項1又は2記載の金属粒子含有組成物。
【請求項4】
ポリアミン(C)が、ジアミン及び/又はトリアミンを含むことを特徴とする請求項1~3いずれか記載の金属粒子含有組成物。
【請求項5】
多価脂肪酸(B)及び/又はポリアミン(C)が、分岐及び/又は環状構造を有することを特徴とする請求項1~4いずれか記載の金属粒子含有組成物。
【請求項6】
多価脂肪酸(B)の価数をm、ポリアミン(C)の価数をnとした際、多価脂肪酸(B)がm価の炭化水素基(D)を有するか、ポリアミン(C)がn価の炭化水素基(E)を有することを特徴とする請求項1~5いずれか記載の金属粒子含有組成物。
【請求項7】
m価の炭化水素基(D)の炭素数及び/又はn価の炭化水素基(E)の炭素数が、30~60であることを特徴とする請求項6記載の金属粒子含有組成物。
【請求項8】
金属粒子(A)100質量部に対して、多価脂肪酸(B)
0.1質量部~0.5質量部を含有してなることを特徴とする請求項1~7いずれか記載の金属粒子含有組成物。
【請求項9】
金属粒子(A)100質量部に対して
、ポリアミン(C)0.1質量部~0.5質量部を含有してなることを特徴とする請求項1~8いずれか記載の金属粒子含有組成物。
【請求項10】
金属粒子(A)の平均粒子径が、180nm~400nmであることを特徴とする請求項1~9いずれか記載の金属粒子含有組成物。
【請求項11】
金属粒子(A)の平均粒子径が、200nm~300nmであることを特徴とする請求項1~10いずれか記載の金属粒子含有組成物。
【請求項12】
請求項1~11いずれか記載の金属粒子含有組成物と、分散媒(F)とを含有する接合用ペースト。
【請求項13】
金属粒子(A)と多価脂肪酸(B)とポリアミン(C)と分散媒(F)との質量の和に占める金属粒子(A)の質量の割合が、80質量%~95質量%である請求項12記載の接合用ペースト。
【請求項14】
第一の被接合部と第二の被接合部とが接合層を介して接合された接合体であって、接合層が、請求項12又は13記載の接合用ペーストによって形成された層である接合体。
【請求項15】
第一の被接合部と第二の被接合部とが接合層を介して接合された接合体の製造方法であって、平均粒子径が1nm~1000nmである金属粒子(A)と、多価脂肪酸(B)と、ポリアミン(C)と、分散媒(F)とを含有する接合用ペーストを第一の被接合部に塗布し、第二の被接合部を載置して焼結を行う工程を含むことを特徴とする接合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属粒子含有組成物、接合用ペースト、接合体及び接合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、金属部材同士、金属部材と半導体素子、金属部材と発光ダイオード(LED)素子等を接着するための接合材としては、はんだが使用されていた。近年、次世代パワーエレクトロニクスの技術分野では、高温動作可能なSiC等のデバイスが求められている。このようなデバイスを製造するための接合材としては、高温駆動信頼性の観点で、はんだの代替材料が求められており、例えば、特許文献1~4に示すような焼結性を有する金属粒子を用いた接合用ペースト等の接合材が提案されている。
【0003】
特許文献1には、平均一次粒径0.5~3.0μmである金属サブミクロン粒子と、平均一次粒子径が1~200nmであって炭素数6~8の有機化合物で被覆された金属ナノ粒子とを含む接合材が開示されている。しかし、接合された箇所の接合強度に乏しく、冷熱サイクルに伴って接合強度が低下するという問題があった。
【0004】
特許文献2には、平均一次粒子径が1~200nmであって、炭素数8以下の有機物質で被覆されている銀ナノ粒子と、少なくともカルボキシル基を二つ有するフラックス成分を含む接合材が開示されている。また、特許文献3には、平均一次粒子径が130nm以下である銀微粒子と、銀微粒子同士の間隔を保持する架橋型粒子間距離保持剤とを含有する接合材が開示されている。
【0005】
特許文献4には、平均粒子径2~200nmの金属ナノ粒子を含む金属粒子と、側鎖にフェノール性水酸基を有し、炭素数20~60の炭化水素基を有する特定のポリアミドと、前記フェノール性水酸基と反応し得る3官能以上の化合物とを含有する接合材が開示されている。
【0006】
しかし、特許文献1~4に記載されている接合材では、接合部にボイド(空隙)等の欠陥が形成されてしまうため、接合された箇所の強度に乏しく、冷熱サイクルに伴って接合強度が低下するという問題があった。さらに、緻密で強固な接合を実現するべく、銀ナノ粒子を高濃度に含有する接合用ペーストを作成した場合、流動性が著しく乏しくなる欠点を有していた。その結果、被接合部に接合用ペーストを印刷する工程において、印刷部分にかすれが生じたり、塗工できない箇所が発生する(非塗工部が形成される)という問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2011-80147号公報
【文献】特開2011-240406号公報
【文献】特開2018-109232号公報
【文献】特開2017-137375号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、本発明が解決しようとする課題は、接合された箇所の接合強度が高く、冷熱サイクルに伴う接合強度の低下が抑制された金属粒子含有組成物を提供することである。また、前記特性に加えて、高濃度に金属粒子を含有していても被接合部への印刷適性に優れる接合用ペーストを提供することである。さらに、1000サイクル以上の長期の冷熱サイクルによって劣化しない接合体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、本発明に至った。
すなわち、本発明は、平均粒子径が1nm~1000nmである金属粒子(A)と、多価脂肪酸(B)と、ポリアミン(C)とを含有することを特徴とする金属粒子含有組成物に関する。
【0010】
また、本発明は、多価脂肪酸(B)の炭素数が20~80であり、かつ、ポリアミン(C)の炭素数が20~80である上記金属粒子含有組成物に関する。
【0011】
また、本発明は、多価脂肪酸(B)が、二価及び/又は三価の脂肪酸を含む上記金属粒子含有組成物に関する。
【0012】
また、本発明は、ポリアミン(C)が、ジアミン及び/又はトリアミンを含む上記金属粒子含有組成物に関する。
【0013】
また、本発明は、多価脂肪酸(B)及び/又はポリアミン(C)が、分岐及び/又は環状構造を有する上記金属粒子含有組成物に関する。
【0014】
また、本発明は、多価脂肪酸(B)の価数をm、ポリアミン(C)の価数をnとした際、多価脂肪酸(B)がm価の炭化水素基(D)を有するか、ポリアミン(C)がn価の炭化水素基(E)を有する上記金属粒子含有組成物に関する。
【0015】
また、本発明は、m価の炭化水素基(D)の炭素数及び/又はn価の炭化水素基(E)の炭素数が、30~60である上記金属粒子含有組成物に関する。
【0016】
また、本発明は、金属粒子(A)100質量部に対して、多価脂肪酸(B)0.05質量部~1質量部及び/又はポリアミン(C)0.05質量部~1質量部含有してなる上記金属粒子含有組成物に関する。
【0017】
また、本発明は、金属粒子(A)100質量部に対して、多価脂肪酸(B)0.1質量部~0.5質量部及び/又はポリアミン(C)0.1質量部~0.5質量部含有してなる上記金属粒子含有組成物に関する。
【0018】
また、本発明は、金属粒子(A)の平均粒子径が、180nm~400nmである上記金属粒子含有組成物に関する。
【0019】
また、本発明は、金属粒子(A)の平均粒子径が、200nm~300nmである上記金属粒子含有組成物に関する。
【0020】
また、本発明は、上記金属粒子含有組成物と、分散媒(F)とを含有する接合用ペーストに関する。
【0021】
また、本発明は、金属粒子(A)と多価脂肪酸(B)とポリアミン(C)と分散媒(F)との質量の和に占める金属粒子(A)の質量の割合が、80質量%~95質量%である上記接合用ペーストに関する。
【0022】
また、本発明は、第一の被接合部と第二の被接合部とが接合層を介して接合された接合体であって、接合層が、上記接合用ペーストによって形成された層である接合体に関する。
【0023】
また、本発明は、第一の被接合部と第二の被接合部とが接合層を介して接合された接合体の製造方法であって、平均粒子径が1nm~1000nmである金属粒子(A)と、多価脂肪酸(B)と、ポリアミン(C)と、分散媒(F)とを含有する接合用ペーストを第一の被接合部に塗布し、第二の被接合部を載置して焼結を行う工程を含むことを特徴とする接合体の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0024】
本発明により、接合された箇所の接合強度が高く、長期の冷熱サイクルに伴って接合強度が低下しない金属粒子含有組成物及び、これらの効果に加えて印刷適性にも優れる接合用ペーストを提供できるようになった。また、冷熱サイクルによって劣化しない接合体を提供できるようになった。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の金属粒子含有組成物は、平均粒子径が1nm~1000nmである金属粒子(A)と、多価脂肪酸(B)と、ポリアミン(C)とを含有する。また、本発明の接合用ペーストは、上記金属粒子含有組成物に加えて、分散媒(F)を含有する。金属粒子含有組成物は、接合用ペーストから、接合のためのプロセス中に分散媒(F)の一部又は全部が揮発することによって形成されてもよい。
本明細書では、「平均粒子径が1nm~1000nmである金属粒子(A)」を「金属粒子(A)」と略記することがある。
【0026】
金属粒子(A)は、特定の平均粒子径の範囲にあることで、加熱又は焼結されると粒子同士が溶融又は結着(以下、焼結ともいう)し、バルクの金属に変化する。その結果、被接合部同士を接合することができる。以下、被接合部の間に存在する金属粒子含有組成物が焼結することで形成される部位を接合層と呼ぶこととする。
【0027】
また、本発明の接合用ペーストは、多価脂肪酸(B)とポリアミン(C)を含むことにより、焼結時にボイド(空隙)等の欠陥の少ない接合層が得られるため、接合された箇所の接合強度が高く、長期の冷熱サイクル後も接合強度の低下が抑制されるものと推察される。
【0028】
金属粒子含有組成物や接合用ペーストを焼結する温度は、特に制限はないが、一般的には200℃~350℃で焼結される場合が多い。焼結を行うことにより、多価脂肪酸(B)とポリアミン(C)との脱水縮合が起こり、焼結時間の後期では、接合層中に多価脂肪酸(B)とポリアミン(C)とが脱水縮合したポリアミドが形成される。このため、製造される接合層中に有機物が残存したとしても、高分子化によって揮発が抑制され、耐熱性が向上していると考えられる。その結果、長期の冷熱サイクル試験による接合強度の低下が抑えられるものと考えられる。
【0029】
<金属粒子(A)>
金属粒子(A)中の金属としては、例えば、金、銀、銅、ニッケル、クロム、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、インジウム、ケイ素、アルミニウム、タングステン、モリブデン、白金及びこれらの合金が挙げられる。また、核体と、前記核体物質とは異なる物質で被覆した微粒子、具体的には、例えば、銅を核体とし、その表面を銀で被覆した銀コート銅粉等が挙げられる。また、酸化銀、酸化インジウム、酸化スズ、酸化亜鉛、酸化ルテニウム、ITO(スズドープ酸化インジウム)、AZO(アルミドープ酸化亜鉛)、及びGZO(ガリウムドープ酸化亜鉛)等の金属酸化物の粉末、並びにこれらの金属酸化物で表面被覆した粉末等も挙げられる。使用する金属の種類は1種でもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0030】
特に優れた強度を有する接合体が得られる点で、金属粒子(A)は銅又は銀から選ばれることが好ましい。さらに、幅広い焼成温度に対応することができ、大気圧下、窒素雰囲気、真空中、又は還元雰囲気等の様々な焼成環境にも対応できる点で、金属粒子(A)は銀であることがより好ましい。
【0031】
本発明では、特定の平均粒子径を有する金属粒子(A)を用いることが重要である。本明細書でいう「平均粒子径」とは、実施例に記載した測定方法よって求められた体積基準の50%積算粒子径分布粒子径(d50)を意味する。金属粒子(A)のd50は1~1000nmであり、好ましくは180~400nm、より好ましくは、200~300nmである。
【0032】
金属粒子(A)は表面を有機成分(a)で被覆されていることが好ましい。有機成分(a)で被覆されていると、金属粒子含有組成物や接合用ペーストの保存安定性が増すことが期待できる。有機成分(a)としては、脂肪酸、脂肪族アミン、脂肪族アルコール等が挙げられるが、飽和又は不飽和の脂肪酸であることが好ましく、炭素数が3~18の飽和又は不飽和の脂肪酸であることがより好ましく、炭素数が6~18の飽和又は不飽和の脂肪酸であることがさらに好ましい。有機成分(a)は1種又は2種以上含んでいてもよい。
【0033】
金属粒子(A)は、単独で使用してもよいし、複数組み合わせて使用してもよい。また、必要に応じて、金属粒子(A)以外の金属粒子を併用してもよい。その場合は、平均粒子径1000nmを超える粒子径の金属粒子を組み合わせて使用することが好ましい。
【0034】
<多価脂肪酸(B)>
次に、多価脂肪酸(B)について説明する。多価脂肪酸(B)とは、分子内にカルボキシ基を複数個有し、炭化水素を基本骨格とする化合物を指す。多価脂肪酸(B)の炭素数は、20~80であることが好ましい。多価脂肪酸(B)の炭素数は、分子内にあるカルボキシ炭素も多価脂肪酸(B)の炭素数とみなす。
【0035】
多価脂肪酸(B)は、焼結時に金属粒子含有組成物を流動性のある液状に維持する作用があると考えられ、被接合部との接合界面における濡れ性を増加させると推察される。そのため、仮に接合層中に空隙が生じても、欠陥部に流入し、欠陥の少なく接合強度の高い接合層を得ることが可能であると考えられる。
【0036】
多価脂肪酸(B)の性状は、特に限定されないが、本発明の金属粒子含有組成物が焼成される通常の温度領域である200℃~350℃において、液状であることが好ましい。多価脂肪酸(B)は、常温(25℃)で固体状でも液状でもよいが、金属粒子含有組成物中に均一に分散して、効果的に作用しうる点で、常温で液状であることがより好ましい。
【0037】
多価脂肪酸(B)の価数、すなわち、カルボキシ基の数は、2又は3であることが好ましい。
【0038】
多価脂肪酸(B)は、直鎖構造でもよいし、分岐及び/又は環状構造を有していてもよいが、分岐及び/又は環状構造を有することが好ましい。分岐及び/又は環状構造を有する場合、結晶性が低く、良好な流動性を有する液状となりやすい点で、好ましい。また、多価脂肪酸(B)とポリアミン(C)とから形成されるポリアミドの柔軟性が高まると、接合強度の向上と低下抑制に繋がる点でも、分岐及び/又は環状構造であることが好ましい。
【0039】
多価脂肪酸(B)の価数をmとした場合、多価脂肪酸(B)はm価の炭化水素基(D)を有することが好ましい。多価脂肪酸(B)において、カルボキシ基を除いた骨格は、m価の炭化水素のみからなることがより好ましい。
【0040】
m価の炭化水素基(D)の炭素数が30~60である場合、初期及びサイクル試験後の接合強度が特に高くなる点でより好ましい。
【0041】
多価脂肪酸(B)の具体例としては、直鎖構造としては、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、マレイン酸、フマル酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、ヘキサデカン二酸、オクタデカン二酸、エイコサン二酸、ヘネイコサン二酸、ドコサン二酸、テトラコサン二酸、トリアコンタン二酸、ドトリアコンタン二酸、テトラコンタン二酸、ペンタコンタン二酸、ヘキサコンタン二酸等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0042】
また、分岐及び/又は環状構造としては、メチルマロン酸、ダイマー酸、トリマー酸、テトラマー酸等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0043】
これらの具体例の中で、多価脂肪酸(B)は、ダイマー酸及び/又はトリマー酸を含むことがより好ましい。
【0044】
ダイマー酸、トリマー酸及びテトラマー酸は、不飽和脂肪酸の多量化反応で製造することができる。例えば、オレイン酸(炭素数18)とリノール酸(炭素数18)とのDiels-Alder反応や、ラジカル反応によって製造することができる。ダイマー酸、トリマー酸及びテトラマー酸は、炭素数がそれぞれ、36若しくは44、54及び72であることが好ましい。また、原料となる不飽和脂肪酸の炭素数を適宜変更することで、上記以外の炭素数を有する多価脂肪酸(B)を製造することが可能である。
尚、本明細書では、炭素数12以上の不飽和脂肪酸の二量体、三量体及び四量体を、それぞれダイマー酸、トリマー酸及びテトラマー酸と呼称するものとする。
【0045】
多価脂肪酸(B)は、製法上、多量化度が異なる化合物の混合物である場合があるが、異なる多量体の混合物として使用してもよいし、特定の単一化合物を使用してもよい。
【0046】
<ポリアミン(C)>
次に、ポリアミン(C)について説明する。ポリアミン(C)は分子中に、複数個のアミノ基(-NH2基)を有する化合物を意味する。ポリアミン(C)の炭素数は、20~80であることが好ましい。
【0047】
ポリアミン(C)において、アミノ基を除いた骨格(部分構造)は、有機残基であるが、炭化水素基又は炭化水素基がヘテロ原子を含んでもよい連結基で結合された基であることが好ましい。このようなヘテロ原子を含む連結基としては、例えば、-O-基(エーテル基)、-C(=O)-基(カルボニル基)、-C(=O)-O-基(エステル基、オキシカルボニル基ともいう)、-C(=O)-NH-基(アミド基、イミノカルボニル基ともいう)が挙げられる。また、フェニレン基、ナフチレン基等のアリーレン基も連結基に含まれる。
【0048】
ポリアミン(C)は、多価脂肪酸(B)と同様、金属粒子含有組成物を焼結時に流動性のある液状に維持する作用があると考えられ、被接合部との接合界面における濡れ性を増加させると推察される。そのため、仮に接合層中に空隙が生じても、金属粒子欠陥部に流入し、欠陥の少なく接合強度の高い接合層を得ることが可能であると考えられる。
【0049】
ポリアミン(C)の性状は、特に限定されないが、本発明の金属粒子含有組成物が焼成される通常の温度領域である200℃~350℃において、液状であることが好ましい。ポリアミン(C)は、常温(25℃)で固体でも液状でもよいが、金属粒子含有組成物中に均一に分散して、効果的に作用しうる点で、常温で液状であることがより好ましい。
【0050】
ポリアミン(C)中のアミノ基(-NH2)の数は、2又は3であることが好ましい。ポリアミン(C)は、ジアミン及び/又はトリアミンを含むことが好ましい。
【0051】
ポリアミン(C)は、直鎖構造を有してもよいし、分岐及び/又は環状構造を有していてもよいが、分岐及び/又は環状構造を有することが好ましい。分岐及び/又は環状構造を有する場合、結晶性が低く、良好な流動性を有する液状となりやすい点で、好ましい。
【0052】
ポリアミン(C)のアミノ基(-NH2)の数をnとした場合、ポリアミン(C)はn価の炭化水素基(E)を有することが好ましい。ポリアミン(C)において、アミノ基(-NH2)を除いた骨格はn価の炭化水素のみからなることがより好ましい。n価の炭化水素基(E)の炭素数が30~60である場合、初期及びサイクル試験後の接合強度が特に高くなる点でより好ましい。
【0053】
ポリアミン(C)の内、直鎖構造を有するポリアミンとしては、例えば、エチレンジアミン、1,3-プロパンジアミン、1,4-ブタンジアミン、1,6-ヘキサンジアミン、1,7-ヘプタンジアミン、1,9-ノナンジアミン、1,12-ジアミノドデカンが挙げられ、分岐及び/又は環状構造を有するポリアミンとしては、例えば、メタキシレンジアミン、イソホロンジアミン、ノルボルナンジアミン、1,2-シクロヘキサンジアミン、1,3-シクロヘキサンジアミン、1,4-シクロヘキサンジアミン、4,4’―ジアミノジシクロヘキシルメタン、ピペラジン等が挙げられる。また、ダイマージアミン、トリマートリアミン、テトラマーテトラミンもポリアミン(C)に含まれる。これらの具体例の中で、ポリアミン(C)は、ダイマージアミン及び/又はトリマートリアミンを含むことがより好ましい。
【0054】
なお、ダイマージアミンはダイマー酸のカルボキシ基を、トリマートリアミンはトリマー酸のカルボキシ基を、テトラマーテトラミンはテトラマー酸のカルボキシ基を、それぞれ、アミノ基に官能基変換した構造を有している。ダイマージアミン、トリマートリアミン及びテトラマーテトラミンは、炭素数がそれぞれ、36、54及び72であることが好ましい。
【0055】
多価脂肪酸(B)とポリアミン(C)との組み合わせは限定されないが、多価脂肪酸(B)がダイマー酸及び/又はトリマー酸を含み、ポリアミン(C)がダイマージアミン及び/又はトリマートリアミンを含む組み合わせであることがより好ましい。
【0056】
本発明の金属粒子含有組成物は、金属粒子(A)100質量部に対して、多価脂肪酸(B)の配合量が0.05質量部~1質量部であることが好ましく、0.1質量部~0.5質量部であることがより好ましい。また、金属粒子(A)100質量部に対して、ポリアミン(C)の配合量は、0.05質量部~1質量部であることが好ましく、さらに、0.1質量部~0.5質量部であることがより好ましい。この配合量の範囲にあると、焼結時の流動性が増すことが期待できるため、初期及び長期のサイクル耐性に優れた接合体が得られやすい点で好ましい。
【0057】
多価脂肪酸(B)とポリアミン(C)の配合比率は限定されないが、ポリアミドが形成されやすい点で、多価脂肪酸(B)/ポリアミン(C)の質量比が、0.1/0.9~0.9/0.1であることが好ましく、0.3/0.7~0.7/0.3であることがより好ましい。
【0058】
<分散媒(F)>
本発明の接合用ペーストは、分散媒(F)を含有する。分散媒(F)は、金属粒子(A)、多価脂肪酸(B)、ポリアミン(C)を分散する機能を担う。
分散媒(F)は、金属粒子(A)、多価脂肪酸(B)、ポリアミン(C)を分散することできればよく、具体例としては、ターピネオール、ジヒドロターピネオール、ジヒドロターピニルアセテート、テルソルブMTPH(日本テルペン株式会社製)、テキサノール(2,2,4-トリメチルペンタン―1,3-ジオールモノイソブチラート)、カルビトール、カルビトールアセテート、ブチルカルビトール、イソホロン、γ-ブチルラクトン、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールメチル-n-プロピルエーテル、3-メトキシ-3-メチルブチルアセテート、エチレングリコール、ヘキサン酸、プロピレングリコールジアセテート、ジプロピレングリコールメチルエーテルアセテート、1,3-ブチレングリコール、炭化水素系溶剤に含まれるイソパラフィン系溶剤等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0059】
これら分散媒(F)の中で、ターピネオール、ジヒドロターピネオール、テルソルブMTPH、テキサノール、カルビトール、カルビトールアセテート、ブチルカルビトール、イソホロン、γ-ブチルラクトン、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、イソパラフィン系溶剤が、より好ましく用いられる。これら分散媒(F)は、単独又は複数を組み合わせて用いることができる。
【0060】
本発明の接合用ペーストは、多価脂肪酸(B)とポリアミン(C)とが共存することで、分散媒(F)の一部又は全部が揮発した後も、被接合部と密着性が良好な接合界面を形成することができる。
【0061】
本発明の接合用ペーストは、金属粒子(A)と多価脂肪酸(B)とポリアミン(C)とを組み合わせて用いることにより、金属粒子(A)を高濃度に含有しても、すなわち分散媒(F)の含有比率が少ない場合であっても、優れた流動性を有しているため、被接合部への印刷適性に優れている。また、本発明の接合用ペーストは、ポリアミド樹脂を添加する場合に比較して、成分の相溶性が低下して不均一化したり、流動性が損なわれたりする恐れもない。その結果、より欠陥の少ない強固な接合体を得ることが可能である。
【0062】
接合用ペーストは、金属粒子(A)と多価脂肪酸(B)とポリアミン(C)と分散媒(F)との質量の和に占める金属粒子(A)の質量の割合が、80質量%~95質量%であることが好ましく、85質量%~94質量%であることがより好ましい。上記範囲で含むことにより、接合用ペーストとして良好な印刷適性を確保できる。さらに、上記範囲で含むことにより、接合体中での分散媒(F)の残留を抑制でき、分散媒(F)由来の空隙(ボイド)が発生し難いため、良好な接合強度を発現できる。
【0063】
<その他成分>
本発明の接合用ペーストは、さらに添加剤等のその他成分を含むことができる。上記その他成分としては、例えば、焼結促進剤、バインダー樹脂、低分子の分散剤や樹脂型分散剤等の分散剤が挙げられる。
本発明の接合用ペーストが含んでもよい分散剤としては、分子量が150~600である低分子の分散剤が好ましく、炭素数18~22の不飽和脂肪酸、又は、炭素数18~22の不飽和脂肪酸アミドであることがより好ましい。不飽和脂肪酸は不飽和結合を有する1価の脂肪酸であり、具体例としては、オレイン酸、エライジン酸、リノール酸、リノレン酸、リシノール酸、エルカ酸等が挙げられる。不飽和脂肪酸アミドは不飽和結合を有する1価の脂肪酸アミドであり、具体例としては、オレアミド(オレイン酸アミド)、エルカ酸アミド等を挙げることができる。これらの分散剤を含有することで、接合ペースト中の金属粒子(A)がより均一にほぐれ、さらに空隙(ボイド)の偏りの少ない強固な接合体を得ることが可能となるため好ましい。
低分子の分散剤の量は限定されないが、金属粒子(A)の良好な分散と接合層の緻密化を両立てきる点で、好ましくは金属粒子(A)100質量部に対して、好ましくは0.1~5質量部、より好ましくは0.1~3質量部、さらに好ましくは、0.2~2質量部である。
【0064】
金属粒子(A)、化合物(B)及び分散媒(C)とから接合用ペーストを調製する装置としては、ディスパー、3本ロール、ビーズミル、超音波分散機、自公転式撹拌機等が挙げられる。
【0065】
<接合体>
本発明の接合用ペーストによって、第一の被接合部と第二の被接合部とを接合し、接合体を得ることができる。詳細には、本発明の接合体は、第一の被接合部と第二の被接合部とが接合層を介して接合された接合体であって、該接合体は、例えば、平均粒子径が1nm~1000nmである金属粒子(A)と、多価脂肪酸(B)と、ポリアミン(C)と、分散媒(F)とを含有する接合用ペーストを第一の被接合部に塗布し、第二の被接合部を載置して焼結を行う工程を含む製造方法により製造できる。
接合用ペーストを被接合部に塗布する方法としては、部材上に均一に塗布できる方法であれば特に限定されるものではない。例えば、スクリーン印刷、フレキソ印刷、オフセット印刷、グラビア印刷、メタルマスク印刷、グラビアオフセット印刷等の各種印刷法、ディスペンサーを使用した吐出法等が挙げられ、本発明の接合用ペーストは、高濃度で金属粒子を含有していても流動性に優れているため、特にメタルマスク印刷と組み合わせて用いることが好ましい。
【0066】
本発明の接合用ペーストを塗布した第一の被接合部に第二の被接合部を載置させる際に、圧力をかけながら載置させる事もできる。圧力としては、接合用ペーストの粘度やペーストの乾燥状態により適宜設定されるが、好ましくは0.1~40MPa、更に好ましくは0.3~30MPaである。
【0067】
第一の被接合部に第二の被接合部を載置した積層体を接合するための焼結の条件は、適宜変更されるが、例えば、大気圧下、窒素雰囲気、真空中、又は還元雰囲気で200~350℃等の条件を挙げることができる。焼成装置としては、熱風オーブン、赤外線オーブン、リフローオーブン、マイクロウエーブオーブン、ホットプレート、光焼成装置等が挙げられる。これら装置を適宜、単独で又は複数用いることができる。また、焼結を行いながら圧力を加えてもよい。圧力としては、接合用ペーストの粘度やペーストの乾燥状態により適宜設定されるが、好ましくは0.1~40MPa、更に好ましくは0.3~30MPaである。
【0068】
焼成工程の前に、接合塗膜中の有機成分を取り除く目的で、適宜予備乾燥工程を入れることもできる。例えば、焼成装置と同様な装置を用いて60~220℃の範囲での条件が挙げられる。
【0069】
2つの被接合部を接合する好ましい方法としては、本発明の接合用ペーストを、第一の被接合部に塗布した後、第二の被接合部を載置し、300℃程度まで、2℃/分程度の昇温速度で昇温し焼結を行う方法が挙げられる。昇温終了後、昇温終了時の温度よりも高い温度で10分間~2時間程度維持することが好ましい。
【0070】
被接合部の種類は特に限定されず、金属材料、半導体材料、プラスチック材料、セラミック材料等を挙げることができる。また、電子素子を挙げることができる。
【0071】
金属としては、例えば、銅、金、アルミニウム等を挙げることができる。
半導体材料としては、シリコン(ケイ素)、ゲルマニウム、ヒ化ガリウム、リン化ガリウム、硫化カドミウム、窒化珪素、黒鉛、酸化イットリウム、酸化マグネシウム、炭化ケイ素、窒化ガリウム、酸化ガリウム等を挙げることができる。
プラスチック材料としては、ポリイミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリエチレンナフタレート等を挙げることができる。
セラミック材料としては、例えば、ガラス、シリコン等を挙げることができる。
また、電子素子としては、半導体素子、LED素子、パワーデバイス素子等を挙げることができる。
【0072】
第一の被接合部及び第二の被接合部は、同じ種類だけではなく、異なる種類の部材であってもよい。被接合部は、接合された箇所の接合強度を大きくするため、被接合部の表面をコロナ処理、メッキ処理等で施されていてもよい。
【0073】
本発明の金属粒子含有組成物や接合用ペーストで被接合部を接合した際に形成される接合層の膜厚に制限はないが、3μm~500μmが好ましく、10μm~200μmがより好ましく、20μm~100μmがさらに好ましい。
【実施例】
【0074】
以下、実施例及び比較例を用いて本発明を詳細に説明するが、本発明の技術的範囲はこれに限定されるものではない。尚、例中、特に断りがない限り「部」とは「質量部」を、「%」とは「質量%」をそれぞれ表し、表中の数値は、特に断りがない限り「部」を表す。
【0075】
<金属粒子の製造>
(製造例1)金属粒子A1
窒素雰囲気下、25℃で攪拌しながらトルエン200部及びヘキサン酸銀22.3部を混合し、0.5Mの溶液とした後に、分散剤としてジエチルアミノエタノール1.6部、オレイン酸0.28部を添加し溶解させた。その後、還元剤として濃度20%のコハク酸ジヒドラジド(以下、SUDH)水溶液73.1部を滴下すると液色が淡黄色から濃茶色に変化した。さらに反応を促進させるために40℃に昇温し、反応を進行させた。静置、分離した後、水相を取り出すことで過剰の還元剤や不純物を除去し、さらにトルエン層に数回蒸留水を加え、洗浄、分離を繰り返した後、トルエンを加え遠心分離後に上澄み液を除去する工程を2回繰り返した。沈殿物を乾燥させて、銀粒子がヘキサン酸及びオレイン酸で被覆された金属粒子A1を得た。金属粒子A1の粒子径を後述する方法で求めたところ、d50は210nmであった。
【0076】
(製造例2)金属粒子A2
ジエチルアミノエタノール1.8部、オレイン酸の量を0.31部とした以外は、製造例1と同様にして、金属粒子A2を得た。d50は185nmであった。
(製造例3)金属粒子A3
ジエチルアミノエタノール1.2部、オレイン酸の量を0.18部とした以外は、製造例1と同様にして、金属粒子A3を得た。d50は290nmであった。
(製造例4)金属粒子A4
ジエチルアミノエタノール1.0部、オレイン酸の量を0.14部とした以外は、製造例1と同様にして、金属粒子A4を得た。d50は390nmであった。
(製造例5)金属粒子A5
ジエチルアミノエタノール2.1部、オレイン酸の量を0.71部とした以外は、製造例1と同様にして、金属粒子A5を得た。d50は85nmであった。
(製造例6)金属粒子A6
ジエチルアミノエタノール0.6部、オレイン酸の量を0.070部とした以外は、製造例1と同様にして、金属粒子A6を得た。d50は1100nmであった。
上記の方法で製造された金属粒子の内、金属粒子A1~A5が金属粒子(A)に該当し、金属粒子A6が金属粒子(A)ではない金属粒子に該当する。
【0077】
[粒子径の測定]
各金属粒子(A)にイソプロピルアルコールを加え超音波分散機にて分散し、0.5質量%の分散液を得た。得られた分散液をナノトラックUPA-EX150(日機装社製)を用いて、分散液中の金属粒子(A)の粒子径を測定し、平均粒子径(d50)を求めた。
【0078】
[脂肪酸、アミン及びその他成分]
実施例及び比較例に用いた脂肪酸及びアミン等の材料は下記の通りである。括弧内に、炭素数、材料名、25℃での性状を示す。下記の内、プリポール及びプリアミンは、クローダジャパン株式会社製、オレイン酸アミドは東京化成工業株式会社製の試薬、その他の材料は、Sigma-Aldrich社製の試薬を使用した。なお、脂肪酸B1~B3、B5及びB6は多価脂肪酸(B)に相当し、アミンC1~C3はポリアミン(C)に相当する。脂肪酸B4及び脂肪酸アミドG1は、本発明に添加してもよい分散剤に相当する。
【0079】
脂肪酸B1:プリポール1009(炭素数36の水添ダイマー酸、2つのカルボキシ基と、分岐及び環状構造を有する二価の炭化水素基とからなる。液状の多価脂肪酸)
脂肪酸B2:プリポール1040(炭素数54のトリマー酸、3つのカルボキシ基と、分岐及び環状構造を有する三価の炭化水素基とからなる。液状の多価脂肪酸)
脂肪酸B3:直鎖2塩基酸(炭素数22、ドコサン二酸、2つのカルボキシ基と、直鎖構造を有する二価の炭化水素とからなる。固体状の多価脂肪酸)
脂肪酸B4:オレイン酸(炭素数18の一価の直鎖脂肪酸。液状の1価不飽和脂肪酸)
脂肪酸B5:マロン酸(炭素数3の直鎖二塩基酸。固体状の多価脂肪酸)
脂肪酸B6:プリポール1004(炭素数44の水添ダイマー酸、2つのカルボキシ基と、分岐及び環状構造を有する二価の炭化水素基とからなる。液状の多価脂肪酸)
アミンC1:プリアミン1071[炭素数36のダイマージアミン(2つのアミノ基と分岐及び環状構造を有する二価の炭化水素基とからなる、液状のポリアミン)と炭素数54のトリマートリアミン(3つのアミノ基と分岐及び環状構造を有する三価の炭化水素基とからなる、液状のポリアミン)との混合物]
アミンC2:プリアミン1075(炭素数36のダイマージアミン、2つのアミノ基と、分岐及び環状構造を有する二価の炭化水素基とからなる。液状のポリアミン)
アミンC3:1,12-ジアミノドデカン(炭素数12、2つのアミノ基と、直鎖構造を有する二価の炭化水素基とからなる、固体状のポリアミン)
アミンC4:オレイルアミン(炭素数18の一価の直鎖モノアミン。液状)
脂肪酸アミドG1:オレイン酸アミド(個体の1価不飽和脂肪酸アミド)
【0080】
(製造例7)フェノール性水酸基を含有するポリアミド(ポリアミドP1)
ポリアミドP1は、特開2017-137375号公報を参考に下記のように合成した。撹拌機、還流冷却管、窒素導入管、導入管、温度計を備えた4口フラスコに、プリポール1009を202.9g(二塩基酸換算で0.35mol)、5-ヒドロキシイソフタル酸を25.7g(0.14mol)、テレフタル酸35.1g(0.21mol)、炭素数36のポリアミン化合物としてプリアミン1074(クローダジャパン株式会社製)を313.9g(ジアミン換算で0.59mol)、水を100g仕込み、発熱の温度が一定になるまで撹拌した。温度が安定したら110℃ まで昇温し、水の流出を確認してから、30分後に温度を120℃に昇温し、その後、30分ごとに10℃ずつ昇温しながら脱水反応を続けた。温度が230℃になったら、そのままの温度で3時間反応を続け、約2kPaの真空下で1時間保持した後、放冷し、重量平均分子量9,800のフェノール性水酸基を含有するポリアミドP1を得た。
【0081】
(製造例8)フェノール性水酸基を含有するポリアミド(ポリアミドP2)
製造例7において、202.9gのプリポール1009(二塩基酸換算で0.35mol)を、243.1gのプリポール1004(二塩基換算で0.35mol)に置き換えた他は同一の手順で、重量平均分子量11,700のフェノール性水酸基を含有するポリアミドP2を得た。
【0082】
[分散媒(F)]
分散媒(F)としては、下記の材料を使用した。括弧内に入手したメーカー名、補足情報を記載した。
分散媒F1:ジヒドロターピネオール(日本テルペン化学株式会社製)
分散媒F2:イソボルニルシクロヘキサノール(日本テルペン化学株式会社製)
分散媒F3:アイソパーL(安藤パラケミー株式会社製)
分散媒F4:テキサノール(東京化成工業株式会社製、試薬)
【0083】
<接合用ペーストの製造>
[実施例1]
金属粒子A1(92部)とジヒドロターピネオール(8部)と脂肪酸B1(0.15部)とアミンC2(0.15部)とを自公転式攪拌機を用いて混合し、接合用ペーストを調製した。その後、後述する方法で接合体を作製して評価した。結果を表1に示した。
【0084】
[実施例2~39]、[比較例1~8]
表1に記載の組成に従い、材料の種類と配合量を変更した以外は、実施例1と同様にして接合用ペースト及び接合体を得た後、評価した。結果を表1に示した。
【0085】
<接合用ペーストの評価>
[接合体の作製]
下記の被接合部1のメッキ処理された面に各接合用ペーストをそれぞれ、下記の印刷条件にて1回印刷した後、下記被接合部2(チップ)のメッキ処理面を接合ペースト面に向けて載置し、下記焼結条件にて加熱し、接合体をそれぞれ得た。
<被接合部1>
・金メッキ処理銅基材:20×20×3mm
<被接合部2>
・金メッキ処理SiCチップ:5×5×0.3mm
<印刷条件(メタルマスク印刷)>
・メタルマスク:開口部4mm角、板厚50μm(セリアコーポレーション社製)
・メタルスキージ:40mm×250mm、厚み1mm(セリアコーポレーション社製)<焼結条件>
熱風オーブンに焼結前の接合体を入れ、25℃から300℃まで2℃/分の条件にて昇温し、300℃に達した後、300℃で2時間保持した。
[評価基準(印刷適性)]
○:被接合部1に印刷することができた。
×:被接合部1に印刷することができなかった。
【0086】
[接合強度(初期、冷熱サイクル試験後]
得られた接合体について、下記測定装置、試験条件にて接合強度(ダイシェア強度)を測定した。なお、表1中の※(米印)は、印刷することができなかったため、本評価を実施していないことを示す。
測定装置:万能型ボンドテスタ( デイジ・ジャパン株式会社製、4000シリーズ)
<試験条件>
・測定高さ:100μm
・測定スピード:500μm/s
【0087】
具体的には、接合体を被接合部1の部位で固定し、被接合部1と接合層との界面を起点として被接合部2に向かって高さ100μmの位置を、500μm/sの速度で押し、接合が破壊される接合強度を求めた。接合体を作製した直後の接合強度(初期強度)と下記サイクル試験後の接合強度について測定し、下記評価基準に基づいて評価した。接着強度の数値が大きいものほど良好であり、15MPa以上が実用範囲内である。評価基準の数値の大きいものほど良好であり、評価基準の数値が2以下のものは不良であることを示す。
【0088】
6: 40MPa以上
5: 30MPa以上40MPa未満
4: 20MPa以上30MPa未満
3: 15MPa以上20MPa未満
2: 5MPa以上15MPa未満
1: 5MPa未満
【0089】
<冷熱サイクル試験>
接合体を-40℃で30分間保持した後、25℃で15分間保持し、150℃で30分間保持する工程を1サイクルとし、500サイクルの保管を実施した。その後、前述の接合強度評価法と同一の手順及び基準にて評価をした。さらに、長期耐性試験として、1000サイクル後の同様の評価を実施した。
【0090】
比較例の接合用ペーストでは、高濃度に金属粒子を含む場合(比較例1、5、7)に印刷することができなかった。金属粒子濃度を低減することにより、印刷が可能となったが、得られた接合体の接合強度は著しく低く、ダイシェア試験後に破壊されたサンプルを観察すると、金メッキ処理SiCチップと接合層との界面で破壊されていた。
一方、実施例の接合用ペーストでは、高濃度に金属粒子を含有する場合であっても印刷適性に優れ、得られた接合体の接合強度が非常に高く、冷熱サイクル試験を実施した後も、接合強度の低下が抑止されていることが確認された。なお、実施例1~39において、接合強度の評価を実施した後のサンプルをトルエンに浸して、残存する有機物を抽出して濃縮し、IRを測定したところ、いずれのサンプルからもアミド結合に帰属されるピークが検出され、接合体中に多価脂肪酸(B)とポリアミン(C)とが縮合したポリアミドが生成していることが確認された。
【0091】
【0092】
【0093】