(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-21
(45)【発行日】2024-10-29
(54)【発明の名称】車両用衝突検知装置
(51)【国際特許分類】
B60R 21/0136 20060101AFI20241022BHJP
B60R 21/00 20060101ALI20241022BHJP
B60R 19/48 20060101ALI20241022BHJP
【FI】
B60R21/0136 320
B60R21/00 310A
B60R21/00 310H
B60R19/48 G
(21)【出願番号】P 2021178328
(22)【出願日】2021-10-29
【審査請求日】2024-02-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】萩原 久史
【審査官】田邉 学
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2019/0375359(US,A1)
【文献】特開2008-007059(JP,A)
【文献】特開2007-216803(JP,A)
【文献】特開2016-068901(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 21/0136
B60R 21/00
B60R 19/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のバンパ内のうちバンパリンフォースの前面に配設され、内部にチャンバ空間が形成されたチャンバ部材と、
前記チャンバ空間内の圧力変化を検出可能な圧力センサと、
前記圧力センサによって検出された前記圧力変化が設定された圧力閾値を超える場合に、前記バンパと物体との衝突を検知する衝突検知部と、
前記車両の車高を検出する車高センサから得られた車高に関連する物理量が所定の高さ閾値未満である場合に、前記所定の高さ閾値以上である場合に比して前記圧力閾値を小さくする圧力閾値変更部と、
を含む車両用衝突検知装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は車両用衝突検知装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、車両バンパ内でバンパリンフォースの前面に配設され且つチャンバ空間が内部に形成されたチャンバ部材を含み、チャンバ空間内の圧力変化を圧力センサによって検出する車両用衝突検知装置が記載されている。チャンバ部材は、車両バンパへ衝突が発生した場合に、衝突物とバンパリンフォースとの間で圧縮変形する変形部と、変形部と共にチャンバ空間を一体的に形成し且つ衝突物とバンパリンフォースとの間で圧縮変形しない非変形部とが、それぞれ車両幅方向に沿って形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の技術は、車両の車高が低くなった場合に、バンパと物体との衝突における高さ位置が低くなるために、衝突時に物体に作用する回転モーメントの影響で、圧力センサの検出値が通常時に比して小さくなり、衝突を精度良く検知できなくなる虞があった。
【0005】
本開示は上記事実を考慮して成されたもので、車両の車高が低い状態においても衝突を精度良く検知できる車両用衝突検知装置を得ることが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の態様に係る車両用衝突検知装置は、車両のバンパ内のうちバンパリンフォースの前面に配設され、内部にチャンバ空間が形成されたチャンバ部材と、前記チャンバ空間内の圧力変化を検出可能な圧力センサと、前記圧力センサによって検出された前記圧力変化が設定された圧力閾値を超える場合に、前記バンパと物体との衝突を検知する衝突検知部と、前記車両の車高を検出する車高センサから得られた車高に関連する物理量が所定の高さ閾値未満である場合に、前記所定の高さ閾値以上である場合に比して前記圧力閾値を小さくする圧力閾値変更部と、を含んでいる。
【0007】
第1の態様では、チャンバ部材の内部に形成されたチャンバ空間内の圧力変化を検出可能な圧力センサによる検出結果が設定された圧力閾値を超える場合に、バンパと物体との衝突を検知する。そして、車両の車高を検出する車高センサから得られた車高に関連する物理量が所定の高さ閾値未満である場合に、前記所定の高さ閾値以上である場合に比して圧力閾値を小さくする。これにより、車両の車高が低い状態、すなわち物体との衝突時に発生する圧力が低い状態においても、衝突を精度良く検知することが可能となる。
【発明の効果】
【0008】
本開示は、車両の車高が低い状態においても衝突を精度良く検知できる、という効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施形態に係る車載システムを示す概略ブロック図である。
【
図2】圧力チューブセンサの概略構成を示す斜視図である。
【
図4】(A)は通常時、(B)は物体衝突時におけるバンパ内の状態を各々示す概略図である。
【
図5】ポップアップフード装置が作動した状態を示す斜視図である。
【
図6】ポップアップフード制御ECUの機能ブロック図である。
【
図7】フロントおよびリアの車高センサを示す概略図である。
【
図8】(A)は通常車高時、(B)は低車高時における、6歳児模擬ダミーを用いた衝突実験の結果を各々示すイメージ図である。
【
図9】ポップアップフード制御ECUにより実行されるポップアップフード制御処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して本開示の実施形態の一例を詳細に説明する。
図1には車載システム10が示されている。車載システム10は、CAN(Controller Area Network)などの規格に準拠したシステムバス12に、ポップアップフード制御ECU(Electronic Control Unit)14、ランプ制御ECU60および車速センサ72などが互いに通信可能に接続されている。ポップアップフード制御ECU14には圧力チューブセンサ32およびポップアップフード装置50が接続されている。
【0011】
図2に示すように、圧力チューブセンサ32は、中空で内部にチャンバ空間が形成されたチューブ34と、チューブ34の両端に各々接続されチューブ34のチャンバ空間内の圧力変化を検出可能な一対の圧力センサ36と、を含んでいる。圧力センサ36は、チャンバ空間内の圧力変化の検出結果をポップアップフード制御ECU14へ出力する。なお、チューブ34は本開示におけるチャンバ部材の一例であり、圧力センサ36は本開示における圧力センサの一例である。
【0012】
図3に示すように、チューブ34は、車両40(
図5,7参照)のバンパ42内に設けられたバンパリンフォース44の前面に、長手方向が車両幅方向に沿うように配設されている。バンパカバー46とバンパリンフォース44との間には、フォーム材から成り、車両40のバンパ42と人体との衝突時に人体の脚部を保護するためのバンパアブソーバ48が設けられている。バンパアブソーバ48は、バンパリンフォース44と対向する面に、車両幅方向に沿って溝部48Aが形成されており(
図4(A)も参照)、チューブ34はこの溝部48A内に収容されている。
【0013】
バンパ42は、人体などとの衝突時に、
図4(B)に示すように、車両前方からの荷重によってバンパアブソーバ48が車両前後方向に圧縮され、これに伴い溝部48Aの深さが小さくなることでチューブ34が圧縮変形される。そして、チューブ34が圧縮変形されることで、チューブ34のチャンバ空間内の圧力が増加し、チャンバ空間内の圧力の変化が圧力センサ36によって検出される。
【0014】
ポップアップフード装置50は、
図5に示すように、車両40のエンジンフード52の前端部付近を上方へ持ち上げることが可能な第1のアクチュエータ54と、エンジンフード52の後端部付近を上方へ持ち上げることが可能な第2のアクチュエータ56と、を含んでいる。ポップアップフード制御ECU14は、圧力センサ36によって検出された圧力変化に基づき、車両40のバンパ42が人体に衝突したと判定した場合にポップアップフード装置50を作動させる。これにより、車両40のバンパ42に衝突した人体の頭部がエンジンフード52にぶつかることによる頭部の傷害値が低減される。
【0015】
なお、
図5において、符号「58」は歩行者保護エアバッグである。歩行者保護エアバッグ58も、車両40のバンパ42が歩行者などに衝突したと判定した場合に展開され、歩行者の保護に供せられるが、本明細書では詳細な説明は省略する。
【0016】
ポップアップフード制御ECU14は、CPU(Central Processing Unit)16と、ROM(Read Only Memory)およびRAM(Random Access Memory)などのメモリ18と、を含んでいる。また、ポップアップフード制御ECU14は、HDD(Hard Disk Drive)またはSSD(Solid State Drive)などの不揮発性の記憶部20と、車載システム10のランプ制御ECU60などとの通信を司る通信部22と、を含んでいる。CPU16、メモリ18、記憶部20および通信部22は内部バス24を介して互いに通信可能に接続されている。
【0017】
記憶部20にはポップアップフード制御プログラム26が予め記憶されている。ポップアップフード制御ECU14は、ポップアップフード制御プログラム26が記憶部20から読み出されてメモリ18に展開され、メモリ18に展開されたポップアップフード制御プログラム26がCPU16によって実行されることで、
図6に示す衝突検知部28および圧力閾値変更部30として機能する。
【0018】
衝突検知部28は、圧力センサ36による検出結果(チャンバ空間内の圧力変化ΔP)が設定された圧力閾値Pthを超える場合に、バンパ42と物体との衝突を検知する。また、圧力閾値変更部30は、車両40の車高を検出する車高センサ62、64(後述)から得られた車高に関連する物理量(圧力チューブセンサ32の高さ位置H)が所定の高さ閾値未満Hthである場合に、所定の高さ閾値以上である場合に比して圧力閾値Pthを小さくする。
【0019】
ランプ制御ECU60は、フロント車高センサ62、リア車高センサ64およびランプユニット66が各々接続されている。
図7に示すように、フロント車高センサ62は車両40のフロントサスペンション68に連結されており、車両40のフロント側の車高を検出する。また、リア車高センサ64は車両40のリアサスペンション70に連結されており、車両40のリア側の車高を検出する。フロント車高センサ62およびリア車高センサ64は本開示における車高センサの一例である。
【0020】
ランプ制御ECU60は、ポップアップフード制御ECU14と同様に、CPU、メモリ、記憶部および通信部を含んでいる(図示省略)。ランプ制御ECU60は、フロント車高センサ62によって検出された車両のフロント側の車高検出値と、リア車高センサ64によって検出された車両のリア側の車高検出値と、に基づいて、ランプユニット66から射出される光の光軸の俯角を算出する。ランプユニット66は射出光の光軸の俯角を外部から変更可能とされており、ランプ制御ECU60は、算出した俯角が所定の範囲内に入るようにランプユニット66を制御する。
【0021】
次に本実施形態の作用を説明する。車高が低下するようにサスペンションを改造した車両40では、車高に関して無改造の車両40と比較して、バンパリンフォース44およびチューブ34(圧力チューブセンサ32)の高さ位置が低くなる。これにより、車高が低下するようにサスペンションを改造した車両40では、バンパ42と物体との衝突の高さ位置が低くなるために、特に、重心位置の低い子供などと車両40が衝突した場合に、
図8(B)を
図8(A)と比較しても明らかなように、衝突時に人体に回転モーメントが作用する。そして、この影響で、圧力センサ36の検出値が通常時に比して小さくなり、衝突を精度良く検知できなくなる虞がある。
【0022】
これに対し、本実施形態に係るポップアップフード制御ECU14は、車両のイグニッションスイッチがオンの間、
図9に示すポップアップフード制御処理を実行することで、車両の車高が低い状態、すなわち物体との衝突時に発生する圧力が低い状態においても、バンパ42と物体との衝突の精度良く検知することを可能としている。
【0023】
すなわち、ステップ100において、圧力閾値変更部30は、車速センサ72から車両40の現在の車速Vを取得する。ステップ102において、圧力閾値変更部30は、ステップ100で取得した車両40の現在の車速Vが所定値(一例としては3km/h)以下か否かに基づいて、車両40が現在停車中か否か判定する。ステップ102の判定が否定された場合はステップ100に戻り、ステップ102の判定が肯定される迄、ステップ100、102を繰り返す。
【0024】
ステップ102の判定が肯定された場合はステップ104へ移行する。ステップ104において、圧力閾値変更部30は、車高センサ62、64によって検出された車高検出値を、ランプ制御ECU60からシステムバス12を経由して取得する。ステップ106において、圧力閾値変更部30は、ステップ104で取得した車高検出値から圧力チューブセンサ32の高さ位置H(
図7参照)を演算する。
【0025】
ステップ108において、圧力閾値変更部30は、圧力チューブセンサ32の高さ位置Hが、予め設定された高さ閾値Hth以上か否か判定する。ステップ108の判定が肯定された場合、車両40は車高に関して改造されていないと判断できる。このため、ステップ108の判定が肯定された場合はステップ110へ移行し、ステップ110において、圧力閾値変更部30は、圧力閾値Pthに通常車高用の圧力閾値P1を設定する。
【0026】
また、ステップ108の判定が否定された場合、車両40は車高が低下するようにサスペンションが改造されていると判断できる。このため、ステップ108の判定が否定された場合はステップ112へ移行し、ステップ112において、圧力閾値変更部30は、圧力閾値Pthに低車高用の圧力閾値P2を設定する。なお、低車高用の圧力閾値P2は、通常車高用の圧力閾値P1よりも小さい値である。
【0027】
ステップ110またはステップ112で圧力閾値Pthを設定するとステップ114へ移行する。ステップ114において、衝突検知部28は、圧力センサ36によって検出された圧力変化ΔPを取得する。ステップ116において、衝突検知部28は、ステップ114で取得した圧力変化ΔPが、ステップ110またはステップ112で設定した圧力閾値Pthよりも大きいか否か判定する。
【0028】
ステップ116の判定が否定された場合、車両40のバンパ42が物体と衝突していないと判断できるので、ステップ114に戻り、ステップ116の判定が肯定される迄、ステップ114、116を繰り返す。
【0029】
また、ステップ116の判定が肯定された場合、車両40のバンパ42が物体と衝突したと判断できるので、ステップ118へ移行する。ステップ118において、衝突検知部28は、ポップアップフード装置50を作動させる。これにより、車両40のエンジンフード52の前端部付近が第1のアクチュエータ54によって上方へ持ち上げられると共に、エンジンフード52の後端部付近が第2のアクチュエータ56によって上方へ持ち上げられる。従って、車両40のバンパ42に衝突した人体の頭部がエンジンフード52にぶつかることによる頭部の傷害値が低減される。
【0030】
以上説明したように、本実施形態において、圧力チューブセンサ32のチューブ34は、車両40のバンパ42内のうちバンパリンフォース44の前面に配設され、内部にチャンバ空間が形成されている。また、圧力センサ36は、チューブ34のチャンバ空間内の圧力変化を検出可能とされている。また、衝突検知部28は、圧力センサ36による検出結果(圧力変化ΔP)が設定された圧力閾値Pthを超える場合に、バンパ42と物体との衝突を検知する。そして圧力閾値変更部30は、車両40の車高を検出する車高センサ62、64から得られた車高に関連する物理量(圧力チューブセンサ32の高さ位置H)が所定の高さ閾値Hth未満である場合に、所定の高さ閾値Hth以上である場合に比して圧力閾値Pthを小さくする。これにより、車両40の車高が低い状態、すなわち物体との衝突時に発生する圧力が低い状態においても、バンパ42と物体との衝突を精度良く検知することが可能となる。
【0031】
なお、上記の実施形態では、歩行者保護エアバッグ58の作動制御について特に説明していないが、バンパ42と物体との衝突を検知してポップアップフード装置50を作動させる際に、歩行者保護エアバッグ58も展開させるようにしてもよい。
【0032】
また、上記の実施形態では、圧力チューブセンサ32の高さ位置Hを算出し、圧力チューブセンサ32の高さ位置Hが予め設定された高さ閾値Hth以上か否かに応じて、圧力閾値Pthを切り替える態様を説明したが、これに限定されるものではない。例えば、車高に関する物理量として、圧力チューブセンサ32の高さ位置Hに代えて、エンジンフード52の前端部の高さ位置などを用いてもよい。
【0033】
また、上記ではポップアップフード制御プログラム26が記憶部20に予め記憶(インストール)されている態様を説明したが、ポップアップフード制御プログラム26は、HDD、SSD、DVD等の非一時的記録媒体に記録されている形態で提供することも可能である。
【符号の説明】
【0034】
10 車載システム
14 ポップアップフード制御ECU
28 衝突検知部
30 圧力閾値変更部
32 圧力チューブセンサ
34 チューブ(チャンバ部材)
36 圧力センサ
42 バンパ
44 バンパリンフォース
48 バンパアブソーバ
50 ポップアップフード装置
62 フロント車高センサ
64 リア車高センサ