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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-21
(45)【発行日】2024-10-29
(54)【発明の名称】スライドドア開保持治具
(51)【国際特許分類】
   B60J 5/06 20060101AFI20241022BHJP
   B62D 65/06 20060101ALI20241022BHJP
【FI】
B60J5/06 Z
B60J5/06 A
B62D65/06 A
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021195246
(22)【出願日】2021-12-01
(65)【公開番号】P2023081492
(43)【公開日】2023-06-13
【審査請求日】2024-01-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000110321
【氏名又は名称】トヨタ車体株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000394
【氏名又は名称】弁理士法人岡田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中村 功祐
(72)【発明者】
【氏名】中園 諒
【審査官】高島 壮基
(56)【参考文献】
【文献】実開昭59-26175(JP,U)
【文献】特開2017-88813(JP,A)
【文献】実開昭56-140685(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60J 5/06
B62D 65/06
E05F 15/00-15/79
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体側部に前後方向にスライド可能なように連結されるスライドドアを所定の開き位置に保持するスライドドア開保持治具であって、
前記スライドドアに付属するセンタローラを下方から支持する前記車体側部のセンタレールに固定される固定部と、
前記センタレールの前記センタローラが転がる接地面上に設置され、前記スライドドアのスライドに伴い前記センタローラが進行方向に乗り越えることで該センタローラの戻り方向の移動を当接により規制可能となる凸部を備える戻り規制部と、
前記センタローラが前記凸部を前記進行方向に乗り越えることで前記スライドドアに付属する付属部材に前記進行方向から対向し、前記スライドドアの前記進行方向の移動を前記付属部材との当接により規制する移動規制部と、を有するスライドドア開保持治具。
【請求項2】
請求項1に記載のスライドドア開保持治具であって、
前記凸部が、前記進行方向に上り勾配となる第1傾斜面と、該第1傾斜面を上った先の下り勾配を成す第2傾斜面と、を有し、該第2傾斜面が、前記第1傾斜面よりも急勾配に形成されて前記センタローラの前記戻り方向の移動を前記センタローラとの当接により規制するスライドドア開保持治具。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のスライドドア開保持治具であって、
前記固定部が、前記センタレールの車幅方向を向く側面部に形成された締結孔にボルトにより締結されるスライドドア開保持治具。
【請求項4】
請求項3に記載のスライドドア開保持治具であって、
前記締結孔が、前記センタレールを前記車体側部に締結するために前記センタレールに形成される複数の締結孔のうちの1つとされるスライドドア開保持治具。
【請求項5】
請求項3又は請求項4に記載のスライドドア開保持治具であって、
前記センタレールの前記側面部又は前記車体側部に形成された差込孔への差し込みにより当該スライドドア開保持治具の前記車体側部に対する前記固定部まわりの回転を規制する回転規制部を更に有するスライドドア開保持治具。
【請求項6】
請求項5に記載のスライドドア開保持治具であって、
前記差込孔が、前記センタレールにレールエンドキャップを取り付けるために前記車体側部に形成される取付孔とされるスライドドア開保持治具。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれかに記載のスライドドア開保持治具であって、
前記付属部材が、前記センタローラの前記進行方向側に並ぶセンタローラブラケットとされるスライドドア開保持治具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スライドドア開保持治具に関する。詳しくは、車体側部に前後方向にスライド可能なように連結されるスライドドアを所定の開き位置に保持するスライドドア開保持治具に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、自動車の車体に塗装を施す工程で用いられるスライドドア開保持治具が開示されている。このスライドドア開保持治具は、車体側部に設けられるスライドドアの前端を車体のドア枠に対して回転により車幅方向に開閉できる状態に連結する構成とされる。スライドドア開保持治具は、スライドドアを所定の開き位置に保持することにより、車体のドア枠にシーラー塗装を施したりスライドドアに室内側から手吹き塗装を施したりする際の作業性を向上させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平9-206644号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の構成では、スライドドアの基端部、すなわちスライドドア開保持治具により支持される基端部では、スライドドアの開き幅が狭くなってしまう問題がある。そこで、本発明は、スライドドアを車体に対して適切に開いた状態に保持することが可能なスライドドア開保持治具を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明のスライドドア開保持治具は次の手段をとる。
【0006】
すなわち、本発明のスライドドア開保持治具は、車体側部に前後方向にスライド可能なように連結されるスライドドアを所定の開き位置に保持するスライドドア開保持治具であり、固定部と、戻り規制部と、移動規制部と、を有する。固定部は、スライドドアに付属するセンタローラを下方から支持する車体側部のセンタレールに固定される。戻り規制部は、センタレールのセンタローラが転がる接地面上に設置され、スライドドアのスライドに伴いセンタローラが進行方向に乗り越えることでセンタローラの戻り方向の移動を当接により規制可能となる凸部を備える。移動規制部は、センタローラが凸部を進行方向に乗り越えることでスライドドアに付属する付属部材に進行方向から対向し、スライドドアの進行方向の移動を付属部材との当接により規制する。
【0007】
上記構成によれば、スライドドアを進行方向にスライドさせることにより、センタローラがスライドドア開保持治具の戻り規制部の凸部を進行方向に乗り越える。また、スライドドアの付属部材が、スライドドア開保持治具の移動規制部と進行方向に対向する。それにより、スライドドアが、上記スライドした所定の開き位置にて、進行方向及び戻り方向の双方向に移動が規制された状態となる。このように、スライドドアに付属するセンタローラとセンタローラが転がる車体側部のセンタレールの構成を利用した合理的な構成により、スライドドアを適切に開いた状態に保持することができる。
【0008】
また、本発明のスライドドア開保持治具は、更に次のように構成されていても良い。凸部が、進行方向に上り勾配となる第1傾斜面と、第1傾斜面を上った先の下り勾配を成す第2傾斜面と、を有する。第2傾斜面が、第1傾斜面よりも急勾配に形成されてセンタローラの戻り方向の移動をセンタローラとの当接により規制する。
【0009】
上記構成によれば、スライドドアを進行方向にスライドさせる移動により、センタローラを凸部の緩勾配となる第1傾斜面上に円滑に乗り上がらせて第1傾斜面の奥へと乗り越えさせることができる。また、センタローラが凸部を乗り越えた後は、センタローラの戻り方向の移動を急勾配となる第2傾斜面との当接により適切に規制することができる。
【0010】
また、本発明のスライドドア開保持治具は、更に次のように構成されていても良い。固定部が、センタレールの車幅方向を向く側面部に形成された締結孔にボルトにより締結される。
【0011】
上記構成によれば、固定部をセンタレールに対して簡便かつ適切に固定することができる。
【0012】
また、本発明のスライドドア開保持治具は、更に次のように構成されていても良い。締結孔が、センタレールを車体側部に締結するためにセンタレールに形成される複数の締結孔のうちの1つとされる。
【0013】
上記構成によれば、固定部をセンタレールに対してセンタレールに備わる締結孔を利用して合理的に固定することができる。
【0014】
また、本発明のスライドドア開保持治具は、更に次のように構成されていても良い。スライドドア開保持治具が、センタレールの側面部又は車体側部に形成された差込孔への差し込みによりスライドドア開保持治具の車体側部に対する固定部まわりの回転を規制する回転規制部を更に有する。
【0015】
上記構成によれば、スライドドア開保持治具を車体側部に対してより適切にガタ抑えした状態に固定することができる。
【0016】
また、本発明のスライドドア開保持治具は、更に次のように構成されていても良い。差込孔が、センタレールにレールエンドキャップを取り付けるために車体側部に形成される取付孔とされる。
【0017】
上記構成によれば、回転規制部を車体側部に対して車体側部に備わる取付孔を利用して合理的に係合させることができる。
【0018】
また、本発明のスライドドア開保持治具は、更に次のように構成されていても良い。付属部材が、センタローラの進行方向側に並ぶセンタローラブラケットとされる。
【0019】
上記構成によれば、センタローラブラケットを移動規制部に当接させる構成により、スライドドアの所定の開き位置からの進行方向の移動をより適切に規制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】第1の実施形態に係るスライドドア開保持治具の概略構成を表す側面図である。
図2】センタローラユニットの構成を可視化して表す斜視図である。
図3】スライドドア開保持治具がセンタレールに取り付けられた状態を表す斜視図である。
図4】スライドドア開保持治具をセンタレールから外した状態を表す分解斜視図である。
図5】センタローラが戻り規制部に乗り上がる前の状態を表す斜視図である。
図6】センタローラが戻り規制部の凸部を乗り越えた状態を表す斜視図である。
図7図6のVII部拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に、本発明を実施するための形態について、図面を用いて説明する。
【0022】
《第1の実施形態》
(スライドドア開保持治具1の概略構成)
始めに、本発明の第1の実施形態に係るスライドドア開保持治具1の構成について、図1図7を用いて説明する。なお、以下の説明において、前後上下左右等の各方向を示す場合には、各図中に示されたそれぞれの方向を指すものとする。各図中、前方向は車両進行方向を指す。また、以下の説明において、「車幅方向」と示す場合には、各図中の左右方向を示す。また、以下の説明において、具体的な参照図を示さない場合、或いは参照図に該当する符号がない場合には、図1図7のいずれかの図を適宜参照するものとする。
【0023】
図1に示すように、本実施形態に係るスライドドア開保持治具1は、自動車の車体側部2に塗装を施す工程において、車体側部2に取り付けられたスライドドア3を所定の開き位置に保持するために用いられる金属製の治具として構成される。スライドドア3は、車両右側の車体側部2に対し、前後方向にスライド可能なように連結されている。スライドドア3は、車体側部2に対する前後方向のスライドにより、車体側部2に形成されたドア開口部2Aを開閉する。スライドドア3は、車体側部2の外側部上を前後方向にスライドする。
【0024】
スライドドア3は、車体側部2に対して後方(進行方向)にスライドすることにより、ドア開口部2Aを開くように動作する。また、スライドドア3は、車体側部2に対して前方(戻り方向)にスライドすることにより、ドア開口部2Aを閉じるように動作する。スライドドア3は、具体的には、その内側部に取り付けられたガイドローラユニット10が、車体側部2に取り付けられた前後方向に延びるガイドレール20に連結された構成により、車体側部2に対して前後方向にスライド可能なように連結されている。
【0025】
ガイドローラユニット10は、スライドドア3の内側部の前端上部に取り付けられたアッパローラユニット10Aを有する。また、ガイドローラユニット10は、スライドドア3の内側部の後端中部に取り付けられたセンタローラユニット10Bを有する。また、ガイドローラユニット10は、スライドドア3の内側部の前端下部に取り付けられたロアローラユニット10Cを有する。
【0026】
ガイドレール20は、車体側部2のドア開口部2Aの上縁に沿って前後方向に延びるように設けられたアッパレール20Aを有する。また、ガイドレール20は、車体側部2のドア開口部2Aよりも後側の領域を前後方向に延びるように設けられたセンタレール20Bを有する。また、ガイドレール20は、車体側部2のドア開口部2Aの下縁に沿って前後方向に延びるように設けられたロアレール20Cを有する。
【0027】
アッパローラユニット10Aは、ガイドレール20のアッパレール20Aに対して、前後方向にスライド可能なように連結される。また、センタローラユニット10Bは、ガイドレール20のセンタレール20Bに対して、前後方向にスライド可能なように連結される。また、ロアローラユニット10Cは、ガイドレール20のロアレール20Cに対して、前後方向にスライド可能なように連結される。
【0028】
具体的には、アッパローラユニット10Aとロアローラユニット10Cとは、それぞれ、アッパレール20Aとロアレール20Cとに対して車幅方向の両側から支持された状態に連結される不図示の横向きのローラを有する構成とされる。それにより、アッパローラユニット10Aとロアローラユニット10Cとは、アッパレール20Aとロアレール20Cとに対して、それぞれ、不図示の横向きのローラの転動を伴って、車幅方向にガタつくことなく前後方向にスムーズにスライドすることができるように連結された構成とされる。
【0029】
また、ロアローラユニット10Cは、更に、ロアレール20Cに対してスライドドア3の荷重を支えられるように下方から支持された状態に設けられる不図示の縦向きのローラを有する構成とされる。それにより、ロアローラユニット10Cは、ロアレール20Cに対して、不図示の縦向きのローラの転動を伴って前後方向にスムーズにスライドすることができるように連結された構成とされる。
【0030】
図2に示すように、センタローラユニット10Bは、センタレール20Bに対して車幅方向の両側から支持された状態に連結される前後一対の横向きのガイドローラ11を有する。また、センタローラユニット10Bは、センタレール20Bに対してスライドドア3の荷重を底板部21上の接地面21Aで支えられるように下方から支持された状態に設けられる縦向きのロードローラ12を有する。ここで、ロードローラ12が、本発明の「センタローラ」に相当する。
【0031】
センタローラユニット10Bは、センタレール20Bに対して、各ガイドローラ11を介した連結により、各ガイドローラ11の転動を伴って、車幅方向にガタつくことなく前後方向にスムーズにスライドできるように連結された構成とされる。また、センタローラユニット10Bは、センタレール20Bに対して、ロードローラ12を介した連結により、ロードローラ12の転動を伴って前後方向にスムーズにスライドできるように連結された構成とされる。
【0032】
前後一対の横向きのガイドローラ11は、それぞれ、スライドドア3の内側部から一体的に張り出す各ガイドローラブラケット13の天板上に、上下方向に延びる支軸13Aを介して回転可能なように連結されている。縦向きのロードローラ12は、スライドドア3の内側部から車幅方向の内側(図示左側)に向かって張り出す左右方向に延びる支軸12Aを介して、スライドドア3に回転可能なように連結されている。ロードローラ12は、前後一対の横向きのガイドローラ11の間に挟まれた位置に配置されている。
【0033】
(スライドドア開保持治具1の各部構成)
図3図4に示すように、スライドドア開保持治具1は、複数の板材や丸棒材が前後方向に長尺な長尺物を成す形に組まれた構成とされる。詳しくは、スライドドア開保持治具1は、センタレール20Bの長手方向の全域に亘って形成された車幅方向の外側(図示右側)に開口する細長い外開口Pからセンタレール20B内に組み付けることが可能な前後方向に細長く延びる形に組まれた構成とされる。
【0034】
具体的には、スライドドア開保持治具1は、センタレール20Bの内側板部22に形成された締結孔22AにボルトA2により締結される通し孔A1を備えた固定部1Aを有する。ここで、センタレール20Bの内側板部22が、本発明の「側面部」に相当する。また、スライドドア開保持治具1は、固定部1Aの後端から後斜め上方に延び出して車体側部2に形成された差込孔2Bへの差し込みによりスライドドア開保持治具1の回り止めをする回転規制部1Bを有する。
【0035】
また、スライドドア開保持治具1は、前述したロードローラ12(図2参照)が転がるセンタレール20Bの底板部21上に敷かれた状態にセットされる戻り規制部1Cを有する。また、スライドドア開保持治具1は、固定部1Aの図示前端部に結合された移動規制部1Dを有する。
【0036】
固定部1Aは、車幅方向に表裏面を向けて前後方向に長尺状に延びる金属製の板状部材から成る。固定部1Aの前後方向の中間部には、板厚方向(車幅方向)に貫通する通し孔A1が形成されている。固定部1Aは、次のようにセンタレール20Bの内側板部22に固定された状態に組み付けられる。先ず、固定部1Aの裏面である図示左側の側面を、センタレール20Bの内側板部22にあてがって、通し孔A1を内側板部22に形成された最後端側の孔である締結孔22Aに合わせる。次に、これら通し孔A1と締結孔22Aとに車幅方向の外側(図示右側)からボルトA2を差し込んで締結する。
【0037】
これにより、固定部1Aが、センタレール20Bの内側板部22に一体的に重ね合わされた状態に固定される。上記締結孔22Aは、センタレール20Bの内側板部22を車体側部2にボルト締結するために内側板部22の前後方向の複数箇所に形成された複数の締結孔22Aのうちの最後端側の孔とされる。センタレール20Bの内側板部22は、底板部21の車幅方向の内側の縁部から上向きに直角に立ち上がる形に曲げられた形状とされる。
【0038】
回転規制部1Bは、平面視U字状を成す形に曲げられた金属製の丸棒部材から成る。回転規制部1Bは、その前端部が、固定部1Aの後ろ下側の角部に形成された窪みに当てられて一体的に溶接されている。回転規制部1Bは、上記固定部1Aと溶接された箇所から図示後斜め上方向きに真っ直ぐ延び出すアーム部B1と、アーム部B1の延び出た先の端部から車幅方向の内側(図示左側)に直角に折れ曲がる折曲げ部B2と、を有する。
【0039】
回転規制部1Bは、次のように車体側部2に形成された差込孔2Bに差し込まれた状態に組み付けられる。すなわち、先ず、前述した固定部1Aをセンタレール20Bの内側板部22にあてがう際に、併せて、回転規制部1Bの折曲げ部B2を車体側部2に形成された丸孔状の差込孔2B内に車幅方向の外側(図示右側)から差し込む。それにより、折曲げ部B2が、差込孔2Bに対して前後方向及び上下方向の位置が決められた状態にセットされる。
【0040】
そしてその状態で、後述する戻り規制部1Cをセンタレール20Bの底板部21上に接地させることにより、固定部1Aの通し孔A1がセンタレール20Bの内側板部22に形成された最後端側の締結孔22Aに合わされた状態にセットされる。したがって、この状態から、通し孔A1と締結孔22AとにボルトA2が差し込まれて固定部1Aが内側板部22に締結されることにより、回転規制部1Bの折曲げ部B2が差込孔2Bに差し込まれた状態に固定される。
【0041】
上記差込孔2Bは、車体側部2のセンタレール20Bから後上側に外れた箇所に車幅方向に貫通して形成されている。上記差込孔2Bは、一連の塗装処理後にセンタレール20Bの後端部に車幅方向の外側から装着される不図示のレールエンドキャップを取り付けるための取付孔として形成されているものである。したがって、上記のように回転規制部1Bの折曲げ部B2が車体側部2の差込孔2Bに差し込まれると共に、固定部1Aがセンタレール20Bの内側板部22にボルトA2により締結されることにより、スライドドア開保持治具1のボルトA2を中心としたセンタレール20Bに対する双方向の回転が規制される。
【0042】
戻り規制部1Cは、固定部1Aの前端下部から前方に延びる金属製の板状部材から成る底板部C1と、底板部C1の図示左側の縁部から上向きに直角に立ち上がるように底板部C1に溶接された金属製の板状部材から成る側板部C2と、を有する。底板部C1は、概ね、上下方向に表裏面を向けて前後方向に平板状に延びる形状とされるが、その前端部に、上向きに山状に突出する凸部C3が形成された構成とされる。凸部C3は、底板部C1の平板状に延びる一般面部の上面よりも上方に高く突出する形に形成されている。凸部C3は、底板部C1の板幅方向(左右方向)の全域に亘って同一断面形状で延びる形に形成されている。
【0043】
図7に示すように、凸部C3は、その山の図示前側の斜面を成す第1傾斜面Caと、第1傾斜面Caを上った先の山の図示後側の斜面を成す第2傾斜面Cbと、を有する凸形状とされる。第1傾斜面Caは、その傾斜を図示前側に下った先の底縁が、底板部C1の平板状に延びる一般面部の上面よりも低い位置まで延び出して底板部C1の前縁を成す構成とされる。
【0044】
第2傾斜面Cbは、第1傾斜面Caを図示後側に上った先の上縁から折れ曲がり状に連続する下り勾配を成す形に形成されている。第2傾斜面Cbは、その傾斜を図示後側に下った先の底縁が、底板部C1の平板状に延びる一般面部の上面と繋がる形状とされる。第2傾斜面Cbは、第1傾斜面Caよりも前後方向の幅が狭く、かつ、第1傾斜面Caよりも急勾配となる形に形成されている。
【0045】
図3図4に示すように、側板部C2は、左右方向に表裏面を向けて前後方向に平板状に延びる形状とされる。側板部C2は、その下縁部が、底板部C1の図示左側の縁部に図示左側から当てられて溶接されている。また、側板部C2は、その後縁部が、固定部1Aの図示前側の縁部に図示左側から当てられて溶接されている。側板部C2は、底板部C1の第1傾斜面Caの傾斜の途中箇所から底板部C1の後端にかけての前後方向の広範囲に亘って延びるように底板部C1の図示左側の縁部に配設されている。
【0046】
戻り規制部1Cは、上記底板部C1と側板部C2とでL字板を成す形に組まれて固定部1Aに溶接されていることで、固定部1Aに対して強固に一体的に接合されると共に、曲げや捩りに対する構造強度が適切に高められた構成とされる。上記戻り規制部1Cは、スライドドア開保持治具1の固定部1Aと回転規制部1Bとが、センタレール20Bの締結孔22Aと車体側部2の差込孔2Bとに前述の手順で組み付けられることにより、底板部C1がセンタレール20Bの底板部21上に接地された状態にセットされる。それにより、戻り規制部1Cは、その第1傾斜面Caが、センタレール20Bの底板部21上の接地面21Aと高さ方向の僅かな段差を介して繋がる後上がりの緩勾配を成す形にセットされる。
【0047】
移動規制部1Dは、固定部1Aの前縁部に溶接された左右方向に延びる金属製の四角柱状の部材から成る。移動規制部1Dは、その図示後面が固定部1Aの前縁に当てられて溶接されている。移動規制部1Dは、底板部C1の後端領域の直上域を左右方向に延びる状態に設けられ、その図示前面が前方に真っ直ぐ向けられた状態とされる。
【0048】
上記スライドドア開保持治具1は、図5に示すように、そのセンタレール20Bに対する取り付け箇所からセンタローラユニット10Bが前方に動かされた状態(退かされた状態)で、センタレール20Bと車体側部2とに跨って組み付けられる。そして、スライドドア開保持治具1は、上記組み付けの後、スライドドア3を後方へとスライドさせることにより、図6に示すように、ロードローラ12を戻り規制部1Cの凸部C3へと乗り上がらせて凸部C3を図示後方に越えた底板部C1の一般面部上へと乗り上がらせる。
【0049】
その際、ロードローラ12は、図7に示すように、センタレール20Bの底板部21の接地面21A上から凸部C3の緩勾配を成す第1傾斜面Ca上へと乗り上がることから、第1傾斜面Ca上を図示後方に向かって円滑に移動して、凸部C3を後方に乗り越えられるようになっている。凸部C3を後方に乗り越えたロードローラ12は、その背後となる図示前側の位置に、凸部C3の急勾配を成す第2傾斜面Cbが立ちはだかる状態となる。
【0050】
それにより、ロードローラ12は、凸部C3の急勾配を成す第2傾斜面Cbとの当接により、そのセンタレール20Bに対する図示前方への戻り移動が規制される状態となる。その結果、スライドドア3が、上記開かれた位置にて、図示前方にスライドさせる閉動作が規制される状態となる。また、図6に示すように、ロードローラ12が戻り規制部1Cの凸部C3を図示後方に乗り越えて一般面部上に乗り上がることにより、図示後側のガイドローラブラケット13の後面に、移動規制部1Dが図示後方から近付けられて対向する状態となる。
【0051】
それにより、図示後側のガイドローラブラケット13は、そのセンタレール20Bに対する図示後方への移動が移動規制部1Dとの当接により規制される状態となる。その結果、スライドドア3が、上記開かれた位置にて、図示後方にスライドさせる開動作も規制される状態となる。以上により、スライドドア3を、上記スライド方向の双方向の移動が規制される所定の開き位置にて保持することができる。ここで、図示後側のガイドローラブラケット13が、本発明の「付属部材」及び「センタローラブラケット」に相当する。
【0052】
上記スライドドア3の開保持状態は、作業者がスライドドア3に対し、ロードローラ12が凸部C3の第2傾斜面Cb上を前方に乗り越えられる強い閉じ方向の力を掛けることにより解除することができる。具体的には、作業者がスライドドア3に対して上記強い閉じ方向の力を掛けることにより、ロードローラ12が第2傾斜面Cb上に乗り上がって凸部C3を図示前方に乗り越える。それにより、ロードローラ12が、センタレール20Bの底板部21の接地面21A上へと戻されて、スライドドア開保持治具1との係合状態から外される。
【0053】
上記ロードローラ12をスライドドア開保持治具1上から前方に外しても、スライドドア開保持治具1は、センタレール20Bと車体側部2とに跨って組み付けられた状態のまま保持される。したがって、スライドドア開保持治具1をセンタレール20Bと車体側部2とに跨って組み付けた状態のまま、スライドドア3を繰り返し何度でも開け閉めしたり、所定の開き位置に開けた状態に保持したりすることができる。
【0054】
よって、図1に示す車体側部2のドア開口部2Aのまわりにシーラー塗装を施したり、スライドドア3に室内側から手吹き塗装を施したり、その後の仕上がり検査を行ったりする一連の作業の作業性を向上させることができる。スライドドア開保持治具1は、図3図4で示したボルトA2をセンタレール20Bの締結孔22Aに対する締結から外すことにより、センタレール20Bに対する取り付け状態から簡便に取り外すことができる。また、スライドドア開保持治具1は、上記取り外し後、再び何度でも再利用することができる。
【0055】
スライドドア開保持治具1は、車体側部2のセンタレール20Bに取り付けられる構成とされることから、車両外側に立つ作業者から手を届かせやすく、かつ、視認しやすい位置で、センタレール20Bへの取り付け・取り外し作業を簡便に行うことができる構成とされる。
【0056】
以上をまとめると、本実施形態に係るスライドドア開保持治具1は、次のような構成となっている。なお、以下において括弧書きで付す符号は、上記実施形態で示した各構成に対応する符号である。
【0057】
すなわち、スライドドア開保持治具(1)は、車体側部(2)に前後方向にスライド可能なように連結されるスライドドア(3)を所定の開き位置に保持する治具として構成される。スライドドア開保持治具(1)は、固定部(1A)と、戻り規制部(1C)と、移動規制部(1D)と、を有する。固定部(1A)は、スライドドア(3)に付属するセンタローラ(12)を下方から支持する車体側部(2)のセンタレール(20B)に固定される。
【0058】
戻り規制部(1C)は、センタレール(20B)のセンタローラ(12)が転がる接地面(21A)上に設置され、スライドドア(3)のスライドに伴いセンタローラ(12)が進行方向に乗り越えることでセンタローラ(12)の戻り方向の移動を当接により規制可能となる凸部(C3)を備える。移動規制部(1D)は、センタローラ(12)が凸部(C3)を進行方向に乗り越えることでスライドドア(3)に付属する付属部材(13)に進行方向から対向し、スライドドア(3)の進行方向の移動を付属部材(13)との当接により規制する。
【0059】
上記構成によれば、スライドドア(3)を進行方向にスライドさせることにより、センタローラ(12)がスライドドア開保持治具(1)の戻り規制部(1C)の凸部(C3)を進行方向に乗り越える。また、スライドドア(3)の付属部材(13)が、スライドドア開保持治具(1)の移動規制部(1D)と進行方向に対向する。それにより、スライドドア(3)が、上記スライドした所定の開き位置にて、進行方向及び戻り方向の双方向に移動が規制された状態となる。このように、スライドドア(3)に付属するセンタローラ(12)とセンタローラ(12)が転がる車体側部(2)のセンタレール(20B)の構成を利用した合理的な構成により、スライドドア(3)を適切に開いた状態に保持することができる。
【0060】
また、凸部(C3)が、進行方向に上り勾配となる第1傾斜面(Ca)と、第1傾斜面(Ca)を上った先の下り勾配を成す第2傾斜面(Cb)と、を有する。第2傾斜面(Cb)が、第1傾斜面(Ca)よりも急勾配に形成されてセンタローラ(12)の戻り方向の移動をセンタローラ(12)との当接により規制する。
【0061】
上記構成によれば、スライドドア(3)を進行方向にスライドさせる移動により、センタローラ(12)を凸部(C3)の緩勾配となる第1傾斜面(Ca)上に円滑に乗り上がらせて第1傾斜面(Ca)の奥へと乗り越えさせることができる。また、センタローラ(12)が凸部(C3)を乗り越えた後は、センタローラ(12)の戻り方向の移動を急勾配となる第2傾斜面(Cb)との当接により適切に規制することができる。
【0062】
また、固定部(1A)が、センタレール(20B)の車幅方向を向く側面部(22)に形成された締結孔(22A)にボルト(A2)により締結される。上記構成によれば、固定部(1A)をセンタレール(20B)に対して簡便かつ適切に固定することができる。
【0063】
また、締結孔(22A)が、センタレール(20B)を車体側部(2)に締結するためにセンタレール(20B)に形成される複数の締結孔(22A)のうちの1つとされる。上記構成によれば、固定部(1A)をセンタレール(20B)に対してセンタレール(20B)に備わる締結孔(22A)を利用して合理的に固定することができる。
【0064】
また、スライドドア開保持治具(1)が、車体側部(2)に形成された差込孔(2B)への差し込みによりスライドドア開保持治具(1)の車体側部(2)に対する固定部(1A)まわりの回転を規制する回転規制部(1B)を更に有する。上記構成によれば、スライドドア開保持治具(1)を車体側部(2)に対してより適切にガタ抑えした状態に固定することができる。
【0065】
また、差込孔(2B)が、センタレール(20B)にレールエンドキャップを取り付けるために車体側部(2)に形成される取付孔とされる。上記構成によれば、回転規制部(1B)をセンタレール(20B)に対してセンタレール(20B)に備わる取付孔を利用して合理的に係合させることができる。
【0066】
また、付属部材(13)が、センタローラ(12)の進行方向側に並ぶセンタローラブラケット(13)とされる。上記構成によれば、センタローラブラケット(13)を移動規制部(1D)に当接させる構成により、スライドドア(3)の所定の開き位置からの進行方向の移動をより適切に規制することができる。
【0067】
《その他の実施形態について》
以上、本発明の実施形態を1つの実施形態を用いて説明したが、本発明は上記実施形態のほか、以下に示す様々な形態で実施することができるものである。
【0068】
1.本発明のスライドドア開保持治具は、自動車の車体に塗装を施す工程で用いられるものの他、塗装以外の時にスライドドアを所定の開き位置に保持するために用いられるものであっても良い。また、スライドドア開保持治具は、鉄道等の自動車以外の車両の車体側部に連結されるスライドドアを所定の開き位置に保持する用途に適用される構成であっても良い。
【0069】
2.スライドドア開保持治具の固定部は、車体側部のセンタレールに対し、ボルト等の差し込み式の締結構造の他、スナップフィット嵌合構造を用いて固定される構成であっても良い。固定部をボルトにより締結するためのセンタレールの側面部に形成される締結孔は、センタレールを車体側部に締結するためにセンタレールに形成される締結孔以外の孔から成るものであっても良い。
【0070】
3.戻り規制部の凸部は、進行方向に上り勾配となる第1傾斜面と第1傾斜面を上った先の下り勾配を成す第2傾斜面とが互いに同一の勾配から成る構成であっても良い。また、凸部は、第2傾斜面に代えて段差状に立ち上がる段差面や凸湾曲面や凹湾曲面状に立ち上がる湾曲面から成るものであっても良い。
【0071】
4.移動規制部は、戻り規制部の凸部のように、センタローラとの当接によりスライドドアの移動を規制する凸状の構成であっても良い。なお、その場合には、センタローラが、移動規制部と当接する「スライドドアに付属する付属部材」となる。
【0072】
5.回転規制部が差し込まれる差込孔は、車体側部に形成されるレールエンドキャップの取付孔以外の孔から成るものであっても良い。また、差込孔は、車体側部の他、センタレールの側面部に形成される孔であっても良い。
【符号の説明】
【0073】
1 スライドドア開保持治具
1A 固定部
1B 回転規制部
1C 戻り規制部
1D 移動規制部
A1 通し孔
A2 ボルト
B1 アーム部
B2 折曲げ部
C1 底板部
C2 側板部
C3 凸部
Ca 第1傾斜面
Cb 第2傾斜面
2 車体側部
2A ドア開口部
2B 差込孔
3 スライドドア
10 ガイドローラユニット
10A アッパローラユニット
10B センタローラユニット
10C ロアローラユニット
11 ガイドローラ
12 ロードローラ(センタローラ)
12A 支軸
13 ガイドローラブラケット(付属部材、センタローラブラケット)
13A 支軸
20 ガイドレール
20A アッパレール
20B センタレール
20C ロアレール
21 底板部
21A 接地面
22 内側板部(側面部)
22A 締結孔
P 外開口
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7