IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ トヨタ自動車株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-タンクの製造方法 図1
  • 特許-タンクの製造方法 図2
  • 特許-タンクの製造方法 図3
  • 特許-タンクの製造方法 図4
  • 特許-タンクの製造方法 図5
  • 特許-タンクの製造方法 図6
  • 特許-タンクの製造方法 図7
  • 特許-タンクの製造方法 図8
  • 特許-タンクの製造方法 図9
  • 特許-タンクの製造方法 図10
  • 特許-タンクの製造方法 図11
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-21
(45)【発行日】2024-10-29
(54)【発明の名称】タンクの製造方法
(51)【国際特許分類】
   F17C 1/06 20060101AFI20241022BHJP
   F16J 12/00 20060101ALI20241022BHJP
【FI】
F17C1/06
F16J12/00 A
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2022005772
(22)【出願日】2022-01-18
(65)【公開番号】P2023104646
(43)【公開日】2023-07-28
【審査請求日】2023-07-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000028
【氏名又は名称】弁理士法人明成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】飯田 康博
【審査官】小原 一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-019954(JP,A)
【文献】特開2016-044792(JP,A)
【文献】特開2021-121750(JP,A)
【文献】国際公開第2020/085054(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2021/0404603(US,A1)
【文献】特開2016-223569(JP,A)
【文献】特開2002-106787(JP,A)
【文献】特開2007-198531(JP,A)
【文献】特開2017-155836(JP,A)
【文献】特開2019-108937(JP,A)
【文献】特開2022-168671(JP,A)
【文献】特開平9-178097(JP,A)
【文献】特開2018-149737(JP,A)
【文献】特開2023-003533(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第108188301(CN,A)
【文献】独国特許出願公開第102015105830(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F17C 1/06
F16J 12/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体を内部に収容するためのタンクの製造方法であって、
中心軸を有する円筒形状の胴体部と、前記胴体部の両端に配置されたドーム部と、を有するライナーを準備する工程と、
前記ライナー上に、繊維を含む補強層を形成する工程と、を備え、
前記補強層を形成する工程は、前記胴体部上にフープ層を形成する工程と、前記フープ層上と前記ドーム部上とに亘ってヘリカル層を形成する工程と、を有し、
前記フープ層を形成する工程は、フープ本体層と、前記フープ本体層に接続され、前記中心軸に沿った軸方向における端部に位置するフープ端部層と、を形成する工程を有し、
前記フープ端部層は、
前記フープ本体層よりも前記胴体部の径方向外側に突出する形状であり、前記径方向の最も外側に位置する頂点部と、前記頂点部から前記ドーム部の外表面に向かって延び、前記外表面の形状に沿った斜面とを有
前記斜面は、
前記ライナーとは異なる部材にシート繊維が巻回された後に、前記ライナーとは異なる前記部材が抜かれた筒状部材の形状が前記フープ層の形状となるように加工が行われることで形成される、タンクの製造方法
【請求項2】
請求項1に記載のタンクの製造方法であって、
前記中心軸を通り、前記中心軸に平行な面で前記タンクを切断したときの断面において、前記斜面の距離は、前記ヘリカル層の形成に用いられる繊維束の幅以上である、タンクの製造方法
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のタンクの製造方法であって、
前記径方向における前記頂点部と前記胴体部の外表面との距離は、前記フープ本体層の厚みの1.05倍以上1.10倍以下である、タンクの製造方法
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載のタンクの製造方法であって、
前記斜面および前記ドーム部の外表面は、等張力曲面を形成する、タンクの製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、流体を内部に収容するためのタンクの技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、天然ガス自動車や燃料電池自動車などに用いられる燃料を貯蔵するタンクが知られている(特許文献1)。従来のタンクは、ライナーと、ライナー上に配置された補強層とを有する。補強層は、ライナーのストレート部上に配置されたシート層(フープ層とも呼ぶ。)と、シート層上とライナーのドーム部上に配置されるヘリカル層と、を有する。ヘリカル層は、繊維をシート層上とドーム部上にヘリカル巻きすることで形成される。シート層の両端部は、ドーム部の外表面に沿った形状に加工されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-223569号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ヘリカル層を形成するためのヘリカル巻きは、繊維に張力をかけた状態で行われるが、従来の技術では、シート層の両端部上では所望の張力をかけることができない場合が生じ得る。この場合、シート層とヘリカル層との間に隙間が形成されて、タンクの強度が向上できない場合が生じ得る。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示は、以下の形態として実現することが可能である。
【0006】
(1)本開示の第1形態によれば、流体を内部に収容するためのタンクが提供される。このタンクは、中心軸を有する円筒形状の胴体部と、前記胴体部の両端に配置されたドーム部と、を有するライナーと、前記ライナー上に配置された、繊維を含む補強層と、を備え、前記補強層は、前記胴体部上に配置されたフープ層と、前記フープ層上と前記ドーム部上とに亘って配置されたヘリカル層と、を有し、前記フープ層は、フープ本体層と、前記フープ本体層に接続され、前記中心軸に沿った軸方向における端部に位置するフープ端部層と、を有し、前記フープ端部層は、前記フープ本体層よりも前記胴体部の径方向外側に突出する形状であり、前記径方向の最も外側に位置する頂点部と、前記頂点部から前記ドーム部の外表面に向かって延び、前記外表面の形状に沿った斜面とを有する。この形態によれば、フープ端部層がフープ本体層よりも径方向外側に突出する形状であることで、斜面の軸方向に対する傾斜の程度を、フープ端部層がフープ本体層よりも径方向外側に突出していない形状である場合よりも大きくできる。これにより、フープ端部層の斜面上にヘリカル巻きによって繊維を巻回させる場合に、繊維をフープ端部層側に押し付ける力が分散することを抑制できるため、繊維に所望の張力をかけることができる。これにより、所望の張力に応じた繊維のフープ端部層側への押圧力によってヘリカル層とフープ層との密着の程度を向上できるので、ヘリカル層とフープ層(特にフープ端部層)との間に隙間が生じる可能性を低減できる。
(2)上記形態において、前記中心軸を通り、前記中心軸に平行な面で前記タンクを切断したときの断面において、前記斜面の距離は、前記ヘリカル層の形成に用いられる繊維束の幅以上であってもよい。この形態によれば、ヘリカル巻きの際に繊維束にかけた所望の張力に応じた押圧力のより多くを斜面に加えることができるので、ヘリカル層とフープ端部層との密着の程度を向上できる。よって、ヘリカル層とフープ層(特にフープ端部層)との間に隙間が生じる可能性をさらに低減できる。
(3)上記形態において、前記径方向における前記頂点部と前記胴体部の外表面との距離は、前記フープ本体層の厚みの1.05倍以上1.10倍以下であってもよい。この形態によれば、斜面の軸方向に対する傾斜の程度を、ヘリカル巻きの際に繊維をフープ端部層側に押し付ける力が分散することを抑制できる程度に大きくできると共に、径方向外側へのフープ端部層の突出の程度を抑制することでヘリカル層のひずみ発生を抑制できる。
(4)上記形態において、前記斜面および前記ドーム部の外表面は、等張力曲面を形成していてもよい。この形態によれば、斜面上およびドーム部の外表面上に形成された補強層の繊維にかかる張力の偏りを低減できるので、タンクの強度をさらに向上できる。
(5)上記形態において、前記フープ層は、前記ライナーとは異なる部材に前記繊維を巻き付けて形成された筒状部材によって形成されていてもよい。この形態によれば、フープ層を筒状部材によって容易に形成できる。
また、本開示は、以下の形態として実現できる。
(6)本開示の第2形態によれば、流体を内部に収容するためのタンクの製造方法が提供される。このタンクの製造方法は、中心軸を有する円筒形状の胴体部と、前記胴体部の両端に配置されたドーム部と、を有するライナーを準備する工程と、前記ライナー上に、繊維を含む補強層を形成する工程と、を備え、前記補強層を形成する工程は、前記胴体部上にフープ層を形成する工程と、前記フープ層上と前記ドーム部上とに亘ってヘリカル層を形成する工程と、を有し、前記フープ層を形成する工程は、フープ本体層と、前記フープ本体層に接続され、前記中心軸に沿った軸方向における端部に位置するフープ端部層と、を形成する工程を有し、前記フープ端部層は、前記フープ本体層よりも前記胴体部の径方向外側に突出する形状であり、前記径方向の最も外側に位置する頂点部と、前記頂点部から前記ドーム部の外表面に向かって延び、前記外表面の形状に沿った斜面とを有し、前記斜面は、前記ライナーとは異なる部材にシート繊維が巻回された後に、前記ライナーとは異なる前記部材が抜かれた筒状部材の形状が前記フープ層の形状となるように加工が行われることで形成される。
(7)上記形態において、前記中心軸を通り、前記中心軸に平行な面で前記タンクを切断したときの断面において、前記斜面の距離は、前記ヘリカル層の形成に用いられる繊維束の幅以上であってもよい。
(8)上記形態において、前記径方向における前記頂点部と前記胴体部の外表面との距離は、前記フープ本体層の厚みの1.05倍以上1.10倍以下であってもよい。
(9)上記形態において、前記斜面および前記ドーム部の外表面は、等張力曲面を形成していてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】タンクの断面図。
図2】タンクをさらに説明するための図。
図3】タンクの製造方法を示す工程図。
図4】工程P10の説明図。
図5】引き抜き工程によってマンドレルが抜かれた加工前フープ層の断面図。
図6】配置前フープ層の断面図。
図7】胴体部上にフープ層が形成された様子を示す模式図。
図8】低角度ヘリカル巻きを説明するための図。
図9】高角度ヘリカル巻きを説明するための図。
図10】参考例のタンクを説明するための図。
図11】ヘリカル層形成工程をさらに説明するための図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
A.実施形態:
図1は、本実施形態のタンク10の断面図である。図1は、タンク10の胴体部42の中心軸AXを通り、中心軸AXに平行な面でタンク10を切断したときの断面(所定断面)を示している。タンク10は、高圧の流体を内部に収容するために用いられる。本実施形態では、タンク10は、燃料電池自動車などに用いられる高圧の燃料ガスを収容する。タンク10は、ライナー40と、ライナー40上に配置された補強層50と、第1口金部14と、第2口金部15とを備える。第1口金部14は、タンク10の内部と外部とを連通させる開口部14aを備える。第2口金部15は、開口部14aを備えていない。
【0009】
ライナー40は、内部に流体を収容するための収容室25を形成する中空容器である。ライナー40は、例えば、ポリアミド樹脂などのガスバリア性を有する樹脂によって形成されている。なお、ライナー40は、樹脂に代えて、金属によって形成されてもよい。ライナー40は、中心軸AXを有する円筒形状の胴体部42と、胴体部42の両端に配置された一対のドーム部44,46とを有する。一対のドーム部44,46のうち、一方を第1ドーム部44とも呼び、他方を第2ドーム部46とも呼ぶ。第1ドーム部44は、胴体部42のうちで中心軸AXに沿った軸方向DAxにおける一方の端部に接続されている。第2ドーム部46は、胴体部42のうちで軸方向DAxにおける他方の端部に接続されている。第1ドーム部44と第2ドーム部46とはそれぞれ、軸方向DAxにおいて胴体部42から離れるに従って外径が縮小するドーム形状である。
【0010】
補強層50は、ライナー40を補強するための層である。補強層20は、ライナー40の外表面を覆う。補強層20は、繊維を含む。本実施形態では、補強層20は、予めエポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂が含浸された炭素繊維束によって形成されている。
【0011】
図2は、タンク10をさらに説明するための図である。図2は、図1に示すタンク10のうちで、胴体部42と第1ドーム部44との境界を含む領域を模式的に示している。なお、胴体部42と第2ドーム部46との境界を含む領域についても同様の構成であるため、以下では、胴体部42と第1ドーム部44との境界を含む領域を用いて、タンク10の詳細構成を説明する。
【0012】
補強層50は、胴体部42上に配置されたフープ層53と、フープ層53上とドーム部44上とに亘って配置されたヘリカル層58と、を有する。フープ層53を構成する繊維の巻回方向は、胴体部42の周方向に沿った方向である。つまり、フープ層53の繊維の巻回方向と、軸方向DAxとの成す角度は、概ね90°である。本実施形態では、フープ層53は、ライナー40とは異なる部材に、熱硬化性樹脂が含浸されたシート状の繊維を巻き付けて形成された筒状部材をライナー40の胴体部42に配置することで形成される。フープ層53の形成方法の詳細は後述する。ヘリカル層58は、熱硬化性樹脂が含浸された繊維束に予め定めた張力をかけた状態で、フープ層53と第1ドーム部44と第2ドーム部46を覆うように繊維束を巻回させることで形成される。ヘリカル層58は、低角度ヘリカル巻きと高角度ヘリカル巻きとの少なくともいずれか一方を用いて繰り返し繊維束をタンク10に巻回させることで形成される。ヘリカル層58の形成方法の詳細は後述する。
【0013】
フープ層53は、一定の厚みを有するフープ本体層51と、フープ端部層52とを有する。胴体部42の径方向において胴体部42の外表面42faとフープ本体層51の外表面との距離、すなわちフープ本体層51の厚みは、厚みTbである。フープ端部層52は、軸方向DAxにおいてフープ本体層51の両端部に位置する2つの層である。ここでは、両端部に位置する2つのフープ端部層52のうち一方のフープ端部層52について説明するが、他方のフープ端部層52の構成についても同じである。フープ端部層52は、フープ本体層51に接続され、フープ層53のうちで軸方向DAxにおける端部に位置する。
【0014】
フープ端部層52は、フープ本体層51よりも胴体部42の径方向外側に突出する凸形状である。具体的には、フープ端部層52は、フープ端部層52のうちで径方向の最も外側に位置する頂点部54p、すなわちフープ端部層52のうちで最も厚みの大きい中間部54と、中間部54とフープ本体層51とを繋ぐフープ基端部55と、軸方向DAxにおいて中間部54を挟んでフープ基端部55とは反対側に位置するフープ先端部57とを有する。フープ基端部55は、軸方向DAxにおいて、フープ本体層51から中間部54に向かうに従い、厚みが次第に大きくなる。フープ基端部55の外表面は、軸方向DAxに対して傾斜する斜面であり、例えば曲面形状である。フープ先端部57は、軸方向DAxにおいて中間部54から離れるに従い、すなわち、ドーム部(ここでは第1ドーム部44)に向かうに従い、厚みが次第に小さくなる。フープ先端部57の外表面である斜面53faは、頂点部54pからドーム部(ここでは第1ドーム部44)の外表面44faに向かって延び、軸方向DAxに対して傾斜する。斜面53faと外表面44faとの境界は段差を形成することなく滑らかな曲面を形成している。すなわち斜面53faは、外表面44faの形状と同じ関係を有するように外表面44faを延長した形状であり、外表面44faの形状に沿った曲面形状である。本実施形態では、軸方向DAxにおいて同じ側に位置する斜面53faおよびドーム部(ここでは第1ドーム部44)の外表面44faは、等張力曲面を形成する。図2に示すタンク10の所定断面において、斜面53faの距離Ltは、ヘリカル層58の形成に用いられる繊維束の幅Wt以上であることが好ましい。距離Ltは、頂点部54pから斜面53faのうちでドーム部(ここでは第1ドーム部44)側の端部57pまでの斜面53faに沿った距離である。これにより、ヘリカル巻きの際に繊維束の幅全体を斜面53fa上に配置できるので、繊維束にかけた所望の張力に応じた押圧力のより多くを斜面53faに加えることができる。これにより、ヘリカル層58とフープ端部層52との密着の程度をより向上できる。
【0015】
また、フープ端部層52の最大厚み、すなわち胴体部42の径方向における頂点部54pと胴体部42の外表面42faとの距離Taは、フープ本体層51の厚みTbの1.05倍以上であることが好ましい。こうすることで、斜面53faの軸方向DAxに対する傾斜の程度を、ヘリカル巻きの際に繊維束をフープ端部層52側に押し付ける力が分散することを抑制できる程度に大きくできる。また、距離Taは、厚みTbの1.10倍以下であることが好ましい。こうすることで、径方向外側へのフープ端部層52の突出の程度を抑制することができるので、ヘリカル層58を構成する繊維束80のひずみ発生を抑制できる。
【0016】
図3は、タンク10の製造方法を示す工程図である。本実施形態の製造方法では、ライナー40上のフープ層53を配置するフープ層形成工程が行われた後に、フープ層53上とドーム部44,46上にヘリカル層58を配置するヘリカル層形成工程が実行される。
【0017】
フープ層形成工程では、まず、ライナー40よりも剛性が高いマンドレル(芯金)にシート繊維を巻回させる巻回工程が行われる(工程P10)。
【0018】
図4は、工程P10の説明図である。工程P10では、まず、ライナー40とは異なる部材である、加工前フープ層62の型となるマンドレル70が用意される。マンドレル70は、ステンレスや鉄、銅などの金属によって形成された円柱状の形状を有している。マンドレル70の外径は、ライナー40の胴体部42の外径よりも若干(例えば、0.5mm程度)大きい。また、マンドレル70の軸AXに沿った長さは、ライナー40の胴体部42の長さよりも長い。本実施形態では、マンドレル70の剛性は、ライナー40の剛性よりも高い。
【0019】
マンドレル70が用意されると、続いて、マンドレル70の周方向に沿って、シートワインディング法(以下、「SW法」という)によって熱硬化性樹脂が含浸されたシート繊維60が複数回巻回されることで、加工前フープ層62が完成する。本実施形態では、シート繊維60の幅は、ライナー40の胴体部42の軸方向DAxにおける長さと同じである。シート繊維60がマンドレル70に巻回される際には、シート繊維60には予め定めた張力がかけられる。SW法において、シート繊維60にかける単位幅あたりの張力は、例えば、一般的なフィラメントワインディング法(以下、FW法という)において繊維束にかける張力の2倍程度とする。
【0020】
加工前フープ層62の完成後、続いて、加工前フープ層62からマンドレル70を抜く工程が行われる(図2の工程P20)。この工程P20のことを引き抜き工程ともいう。
【0021】
図5は、引き抜き工程によってマンドレル70が抜かれた加工前フープ層62の断面図である。図5に示すように、マンドレル70が引き抜かれた後の加工前フープ層62は、円筒状になっている。
【0022】
引き抜き工程後、加工前フープ層62を加工して、フープ本体層51とフープ端部層52とを有する筒状部材としての配置前フープ層63を形成する(図2の工程P30)。この工程P30のことを、加工工程ともいう。
【0023】
図6は、配置前フープ層63の断面図である。加工工程では、加工前フープ層62の形状が、フープ層53の形状となるように切削加工や研削加工によって加工が行われる。
【0024】
加工工程の後、配置前フープ層63内にライナー40を嵌める工程が行われる(図2の工程P40)。この工程P40のことを、嵌め工程ともいう。この嵌め工程によって、配置前フープ層63は、ライナー40の胴体部42上に配置されてフープ層53となる。
【0025】
図7は、嵌め工程によってライナー40の胴体部42上にフープ層53が形成された様子を示す模式図である。嵌め工程後、第1口金部14を通じてライナー40の内部を加圧してライナー40の胴体部42の外表面42faをフープ層53の内表面に密着させる工程が行われる(図2の工程P50)。この工程P50のことを、加圧工程ともいう。
【0026】
加圧工程後、ライナー40の内部を加圧した状態のまま、ヘリカル層形成工程が実行される(工程P60)。ヘリカル層形成工程では、まず、FW法によって、ライナー40上に熱硬化性樹脂が含浸された繊維束をヘリカル巻きによって複数回巻回することにより複数の層からなるヘリカル層58を形成する。ヘリカル巻きは、高角度ヘリカル巻きと低角度ヘリカル巻きの少なくとも一方を用いて行われる。本実施形態では、高角度ヘリカル巻きと低角度ヘリカル巻きとを組み合わせてヘリカル層58が形成される。
【0027】
図8は、低角度ヘリカル巻きを説明するための図である。図9は、高角度ヘリカル巻きを説明するための図である。図8に示すように、低角度ヘリカル巻きでは、繊維束80が、2つのドーム部44,46に掛け渡るよう螺旋状に繰り返し巻回される。低角度ヘリカル巻きによって形成された層では、繊維束80の巻回方向と軸方向DAxとの成す角度α1は、例えば、5°以上40°以下の範囲のいずれかの角度(例えば、15°)である。
【0028】
図9に示すように、高角度ヘリカル巻きによって形成された層では、繊維束80の巻回方向と軸方向DAxとの成す角度α2は、低角度ヘリカル巻きの角度α1よりも大きい。角度α2は、例えば65°以上87°以下の範囲のいずれかの角度(例えば80°)である。
【0029】
ヘリカル層形成工程が行われた後、フープ層53およびヘリカル層58を一体的に加熱硬化させるための熱硬化処理が行われる(図2の工程P70)。熱硬化処理が行われた後、ライナー40に対する加圧が解除される(工程P80)。以上で説明した一連の工程により、タンク10は完成する。
【0030】
図10は、参考例のタンク10tを説明するための図である。図10は、図2に相当する図である。タンク10tと、図2に示す実施形態のタンク10との違いは、フープ端部層52tの形状である。その他の構成については、タンク10tとタンク10とでは同様であるので、同様の構成については適宜説明を省略する。
【0031】
タンク10tのフープ端部層52tは、フープ本体層51よりも胴体部42の径方向外側に突出しておらず、フープ本体層51からドーム部(図10では、第1ドーム部44)に向かって従いに厚みが小さくなる。フープ端部層52tの外表面は曲面形状であり、軸方向DAxに対して傾斜する斜面53tfaを形成する。図2および図10に示す所定断面において、斜面53tfaは斜面53faよりも緩やかに傾斜する。つまり、所定断面において、軸方向DAxの各地点における斜面53tfa,53faの接線と、軸方向DAxとの成す角度は、斜面53tfaの方が斜面53faよりも小さい。
【0032】
フープ端部層52tの斜面53tfa上に繊維束80をヘリカル巻きによって巻回させる場合に、繊維束80の巻回方向FDと、フープ端部層52tのうちで繊維束80が巻き付けられる部分の接線との成す角度β1が、90°よりも大きく外れて小さくなる。これにより、繊維束80を、フープ端部層52t側に押し付けた場合に、フープ端部層52を繊維束80によって押し付ける力が分散して、所望の張力をかけることができない場合が生じる。これにより、フープ端部層52とヘリカル層58との密着の程度が低下し、フープ端部層52とヘリカル層58との間の領域Rgに隙間が生じ、この隙間によってボイドが生じたりフープ端部層52とヘリカル層58とが剥離したりする場合がある。ボイドが生じたり、剥離が生じたりすることで、タンク10tの強度が低下して、収容室25に高圧の燃料ガスを充填した場合に、補強層50のうちでフープ層53とドーム部44,46との境界領域に位置する肩部において生じる応力(例えば、剪断力)によって、肩部に亀裂などが生じる場合がある。
【0033】
図11は、ヘリカル層形成工程をさらに説明するための図である。図11は、図2に相当する図である。本実施形態のフープ端部層52の斜面53fa上に繊維束80をヘリカル巻きする場合に、繊維束80の巻回方向FDと、フープ端部層52のうちで繊維束80が巻き付けられる部分との接線との成す角度β2は、図10に示す角度β1よりも大きく、より90°に近づけることができる。つまり、フープ端部層52がフープ本体層51よりも径方向外側に突出する形状であることで、斜面53faの軸方向DAxに対する傾斜の程度を、図10に示すフープ端部層52tがフープ本体層51よりも径方向外側に突出していない形状である場合よりも大きくできる。これにより、フープ端部層52の斜面53fa上にヘリカル巻きによって繊維束80を巻回させる場合に、繊維束80をフープ端部層52側に押し付ける力が分散することを抑制できるため、繊維束80に所望の張力をかけることができる。これにより、所望の張力に応じた繊維束80のフープ端部層52側への押圧力によってヘリカル層58とフープ層53との密着の程度を向上できるので、ヘリカル層58とフープ層(特にフープ端部層52)との間に隙間が生じる可能性を低減できる。よって、タンク10の強度が低下することを抑制できる。
【0034】
また上記実施形態によれば、図2に示すように、斜面53faおよびドーム部44の外表面44faは、等張力曲面を形成している。これにより、斜面53fa上および外表面44fa上に形成された補強層50の繊維束80にかかる張力の偏りを低減できるので、タンク10の強度をさらに向上できる。また上記実施形態によれば、図4から図7に示すように、フープ層53は、ライナー40とは異なる部材であるマンドレル70にシート繊維60を巻き付けて形成された筒状部材としての配置前フープ層63を熱硬化処理することで形成されている。これにより、フープ層53を配置前フープ層63によって容易に形成できる。
【0035】
B.他の実施形態:
B-1.他の実施形態1:
上記実施形態では、フープ層53は、シート繊維60を用いて形成した配置前フープ層63を熱硬化処理することで形成されていたが、これに限定されるものではない。例えば、フープ層53は、ライナー40の胴体部42に熱硬化性樹脂を含浸した繊維をフープ巻きすることで形成してもよい。フープ巻きの繊維の巻回方向は、胴体部42の周方向に沿った方向である。繊維をフープ巻きすることでフープ層53を形成する場合、積層する層の数を変更することでフープ本体層51とフープ端部層52とを形成してもよし、一定の厚みに繊維を積層した後にフープ層53の形状となるように切削加工や研削加工を行ってもよい。
【0036】
本開示は、上述の実施形態に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する実施形態の技術的特徴は、上述の課題の一部又は全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。
【符号の説明】
【0037】
10,10t…タンク、14…第1口金部、14a…開口部、15…第2口金部、20…補強層、25…収容室、40…ライナー、42…胴体部、42fa…外表面、44…第1ドーム部、44fa…外表面、46…第2ドーム部、50…補強層、51…フープ本体層、52,52t…フープ端部層、53…フープ層、53fa…斜面、53tfa…斜面、54…中間部、54p…頂点部、55…フープ基端部、57…フープ先端部、57p…端部、58…ヘリカル層、60…シート繊維、62…加工前フープ層、63…配置前フープ層、70…マンドレル、80…繊維束、AX…中心軸、DAx…軸方向、FD…巻回方向、Rg…領域
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11