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  • 特許-硫化物系固体電解質 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-21
(45)【発行日】2024-10-29
(54)【発明の名称】硫化物系固体電解質
(51)【国際特許分類】
   H01B 1/10 20060101AFI20241022BHJP
   C01B 25/14 20060101ALI20241022BHJP
   H01M 6/18 20060101ALI20241022BHJP
   H02M 1/06 20060101ALI20241022BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALN20241022BHJP
【FI】
H01B1/10
C01B25/14
H01M6/18 Z
H02M1/06 A
H01M10/0562
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2022023370
(22)【出願日】2022-02-18
(65)【公開番号】P2023120475
(43)【公開日】2023-08-30
【審査請求日】2023-12-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 達人
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 典輝
(72)【発明者】
【氏名】南 圭一
【審査官】小林 秀和
(56)【参考文献】
【文献】特表2022-502341(JP,A)
【文献】特開2011-129407(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第109301336(CN,A)
【文献】LIANG, Jianwen et al.,Li10Ge(P1-xSbx)2S12 Lithium-Ion Conductors with Enhanced Atmospheric Stability,Chemistry of Materials,Volume 32, Issue 6,米国,American Chemical Society,2020年03月24日,p.2664-2672,ISSN 0897-4756
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 1/10
C01B 25/14
H01M 6/18
H02M 1/06
H01M 10/0562
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成がLiGe1+bSb2-b-c12で表される硫化物系固体電解質であって、
10≦a≦10.65、0.35≦b≦0.65、0.075≦c≦0.15である、硫化物系固体電解質。
【請求項2】
0.35≦b≦0.5である、請求項1に記載の硫化物系固体電解質。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、硫化物系固体電解質に関する。
【背景技術】
【0002】
近年におけるパソコン、ビデオカメラおよび携帯電話等の情報関連機器や通信機器等の急速な普及に伴い、その電源として利用される電池の開発が重要視されている。また、自動車産業界等においても、電気自動車用あるいはハイブリッド自動車用の高出力かつ高容量の電池の開発が進められている。
【0003】
非特許文献1には、Li10Ge12組成中のPの一部をSbに置換した硫化物系固体電解質が開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Chem.Mater.2020,32,2664-2672
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
Li10Ge12組成中のPの一部をSbに置換した硫化物系固体電解質は、耐水性向上が期待できるが、PをSbに置換することによってイオン伝導度が急激に低下する。また、PのSbへの置換量を多くすることができないため、耐水性が十分ではない。
【0006】
本開示は、上記実情に鑑みてなされたものであり、イオン伝導度が高く耐水性が高い硫化物系固体電解質を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の硫化物系固体電解質は、組成がLiGe1+bSb2-b-c12で表される硫化物系固体電解質であって、
10≦a≦10.65、0.35≦b≦0.65、0.075≦c≦0.15である。
【0008】
本開示の硫化物系固体電解質においては、0.35≦b≦0.5であってもよい。
【発明の効果】
【0009】
本開示は、イオン伝導度が高く耐水性が高い硫化物系固体電解質を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は実施例1~4、比較例1~6の各硫化物系固体電解質中のPの量(モル)xに対するイオン伝導度の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書において数値範囲を示す「~」とは、その前後に記載された数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
また、数値範囲における上限値と下限値は任意の組み合わせを採用できる。
【0012】
本開示の硫化物系固体電解質は、組成がLiGe1+bSb2-b-c12で表される硫化物系固体電解質であって、
10≦a≦10.65、0.35≦b≦0.65、0.075≦c≦0.15である。
【0013】
本開示の硫化物系固体電解質は、LiGe1+bSb2-b-c12で表される組成において、aが、10≦a≦10.65、bが、0.35≦b≦0.65、cが、0.075≦c≦0.15である。本開示の硫化物系固体電解質においては、PのGeへの置換量が0.35mol~0.65molであり、且つ、PのSbへの置換量が0.075mol~0.15molである。
本開示の硫化物系固体電解質においては、上記組成において、bが、0.35≦b≦0.5であってもよい。すなわち、本開示の硫化物系固体電解質においては、PのGeへの置換量が0.35mol~0.5molであってもよい。
本開示の硫化物系固体電解質は、上記組成において、Liが10mol~10.65molであってもよく、Pが1.275mol~1.575molであってもよく、Geが1.35mol~1.65molであってもよく、1.35mol~1.5molであってもよく、Sbが、0.075mol~0.15molであってもよい。
【0014】
標準組成がLi10GeP12のLGPS型固体電解質において、PサイトをSbのみで置換すると、少量の置換量でもイオン伝導度が低下する。また、PとSbではイオン半径が大きく異なるため、Pサイトの置換量が限られている。
本開示によれば、LGPS型固体電解質において、Pの一部をSbだけでなくGeでも置き換えることでP量が少ない組成においてもLPGS構造を保持することができ、イオン伝導度を維持することができ、且つ、P量が従来組成より少ないことにより耐水性を向上させることができ、高イオン伝導性と高耐水性を両立することができる。
【0015】
本開示の硫化物系固体電解質は、種々の電池の固体電解質として用いてもよい。
電池としては、一次電池であっても良く、二次電池であっても良いが、中でも二次電池であってもよい。二次電池は繰り返し充放電が可能である。二次電池は、例えば車載用電池として有用である。
電池は、水系電池、非水系電池、及び、全固体電池等であってもよい。
また、電池は、リチウム電池、及び、リチウムイオン電池等であってもよい。
さらに、全固体電池は、全固体リチウム二次電池、及び、全固体リチウムイオン二次電池等であってもよい。
電池の用途は、特に限定されないが、例えば、ハイブリッド自動車(HEV)、プラグインハイブリッド自動車(PHEV)、電気自動車(BEV)、ガソリン自動車、ディーゼル自動車等の車両の電源が挙げられる。特に、ハイブリッド自動車、プラグインハイブリッド自動車または電気自動車の駆動用電源に用いられてもよい。また、本開示における電池は、車両以外の移動体(例えば、鉄道、船舶、航空機)の電源として用いられてもよく、情報処理装置等の電気製品の電源として用いられてもよい。
【実施例
【0016】
(実施例1)
[Li10.35Ge1.35Sb0.0751.57512の合成]
LiS(フルウチ化学製)、GeS(高純度化学製)、Sb(高純度化学製)、S(高純度化学製)、P(アルドリッチ製)をモル比で10.35:1.35:0.075:0.15:1.575になるように秤量し乳鉢で混合した後に500mlZrOポットに投入し、5mmφのZrOボールを入れた状態で、300rpm-1hの条件の撹拌を20サイクル実施することで前駆体を得た。これをArフロー雰囲気中の管状炉にて結晶化温度以上の温度で6h焼成することよって上記組成のGe、Sb置換LGPSを得た。
【0017】
(実施例2)
[Li10.5Ge1.5Sb0.0751.42512の合成]
秤量時のモル比がLiS:GeS:Sb:S:P=10.5:1.5:0.075:0.15:1.425となるように秤量したこと以外は実施例1と同様の方法で上記組成のGe、Sb置換LGPSを得た。
【0018】
(実施例3)
[Li10.5Ge1.5Sb0.151.3512の合成]
秤量時のモル比がLiS:GeS:Sb:S:P=10.5:1.5:0.15:0.3:1.35となるように秤量したこと以外は実施例1と同様の方法で上記組成のGe、Sb置換LGPSを得た。
【0019】
(実施例4)
[Li10.65Ge1.65Sb0.0751.27512の合成]
秤量時のモル比がLiS:GeS:Sb:S:P=10.65:1.65:0.075:0.15:1.275となるように秤量したこと以外は実施例1と同様の方法で上記組成のGe、Sb置換LGPSを得た。
【0020】
(比較例1)
[Li10Ge12の合成]
秤量時のモル比がLiS:GeS:Sb:S:P=10:1:0:0:2となるように秤量したこと以外は実施例1と同様の方法で上記組成のLGPSを得た。
【0021】
(比較例2)
[Li10GeSb0.0751.92512の合成]
秤量時のモル比がLiS:GeS:Sb:S:P=10:1:0.075:0.15:1.925となるように秤量したこと以外は実施例1と同様の方法で上記組成のSb置換LGPSを得た。
【0022】
(比較例3)
[Li10GeSb0.151.8512の合成]
秤量時のモル比がLiS:GeS:Sb:S:P=10:1:0.15:0.3:1.85となるように秤量したこと以外は実施例1と同様の方法で上記組成のSb置換LGPSを得た。
【0023】
(比較例4)
[Li10GeSb0.31.712の合成]
秤量時のモル比がLiS:GeS:Sb:S:P=10:1:0.3:0.6:1.7となるように秤量したこと以外は実施例1と同様の方法で上記組成のSb置換LGPSを得た。
【0024】
(比較例5)
[Li10GeSb0.51.512の合成]
秤量時のモル比がLiS:GeS:Sb:S:P=10:1:0.5:1:1.5となるように秤量したこと以外は実施例1と同様の方法で上記組成のSb置換LGPSを得た。
【0025】
(比較例6)
[Li10.8Ge1.8Sb0.0751.12512の合成]
秤量時のモル比がLiS:GeS:Sb:S:P=10.8:1.8:0.075:0.15:1.125となるように秤量したこと以外は実施例1と同様の方法で上記組成のGe、Sb置換LGPSを得た。
【0026】
[イオン伝導度測定]
実施例1~4および比較例1~6の固体電解質を用い、以下の条件で、固体電解質のイオン伝導度の評価を実施した。
固体電解質100mgをシリンダー内に充填し、6tプレスすることで圧粉セルを作製した。これをデシケータに入れた状態で、25℃恒温槽にてインピーダンス測定を実施した。得られた抵抗値とサンプル厚みからイオン伝導度を算出した。
その結果を図1に示す。
イオン伝導度は、実施例1が、8.56mS/cm、実施例2が、8.33mS/cm、実施例3が、5.3mS/cm、実施例4が、5.2mS/cm、比較例1が、8.11mS/cm、比較例2が、6.2mS/cm、比較例3が、5.51mS/cm、比較例4が、5.3mS/cm、比較例5が、2.12mS/cm、比較例6が、1.87mS/cmであった。
【0027】
[評価結果]
図1は実施例1~4、比較例1~6の各硫化物系固体電解質中のPの量(モル)xに対するイオン伝導度の結果を示す図である。
図1に示すように、比較例1~5の結果から、PのSbへの置換量が0.5mol以上では、所望のイオン伝導度が得られないことがわかる。実施例1~4の各硫化物系固体電解質は、比較例5~6の各硫化物系固体電解質よりもイオン伝導度が高く、室温25℃で5mS/cm以上の高イオン伝導性を有し、比較例1~4の各硫化物系固体電解質よりも組成中のPの量が少ないためこれらよりも耐水性が高く、高イオン伝導性と高耐水性を両立することができる。
図1