(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-21
(45)【発行日】2024-10-29
(54)【発明の名称】内燃機関の制御装置
(51)【国際特許分類】
F02D 19/12 20060101AFI20241022BHJP
【FI】
F02D19/12 A
(21)【出願番号】P 2022065836
(22)【出願日】2022-04-12
【審査請求日】2023-12-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 雄貴
(72)【発明者】
【氏名】土屋 富久
【審査官】佐々木 淳
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2018/0171936(US,A1)
【文献】米国特許第09945310(US,B1)
【文献】特開2021-011824(JP,A)
【文献】特表2020-537089(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 19/00-45/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸気通路に水を噴射する水噴射弁と、
前記吸気通路と気筒との接続口を開閉する吸気バルブと、
前記水噴射弁に供給する水の圧力を調整する圧力調整装置と、
を有する内燃機関を制御対象とし、
前記吸気バルブの開弁中に前記水噴射弁から水を噴射させる第1噴射処理、及び前記吸気バルブの閉弁中に前記水噴射弁から水を噴射させる第2噴射処理を実行し、
前記第2噴射処理では、前記第1噴射処理に比べて、前記水噴射弁に供給する水の圧力が高くなるように前記圧力調整装置を制御
し、
前記第1噴射処理の開始タイミングよりも規定期間前に前記第2噴射処理が終了するように、前記第2噴射処理の開始タイミングを設定する
内燃機関の制御装置。
【請求項2】
前記第1噴射処理の実行中は、前記水噴射弁に供給する水の圧力を予め定められた第1値となるように前記圧力調整装置を制御し、
前記第2噴射処理の実行中は、前記水噴射弁に供給する水の圧力を予め定められた第2値となるように前記圧力調整装置を制御し、
前記圧力調整装置が水の圧力を前記第2値から前記第1値に変更するのに要する最小限の期間を必要期間としたとき、前記規定期間を前記必要期間に設定する
請求項
1に記載の内燃機関の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、内燃機関の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、内燃機関及びその制御装置が開示されている。特許文献1に開示された内燃機関は、気筒、気筒に接続している吸気通路、及び吸気通路の途中に位置する水噴射弁を有する。また、特許文献1に開示された制御装置は、内燃機関が高負荷の運転状態にある場合、水噴射弁から水を噴射させる。水噴射弁が噴射した水は、吸気通路を介して気筒内に流入する。この水は気筒内で蒸発する。このときの気化熱で気筒内の温度が低下する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のように吸気通路を介して気筒内に水を供給する上では、吸気通路と気筒との接続口を開閉する吸気バルブの開弁中に水噴射弁から水を噴射することになる。しかし、要求される水の量等によっては、吸気バルブの開弁中の期間のみでは当該要求される量の水を水噴射弁が噴射しきれないことがある。この場合の対策として、吸気バルブの開弁中のみならず、吸気バルブの開弁前の閉弁中に水噴射弁から水を噴射させることが考えられる。ここで、吸気バルブの閉弁中に水噴射弁が噴射した水は、吸気バルブが開弁するまでの期間は吸気通路内を滞留する。この滞留の期間に水が吸気通路の壁面に膜状に付着することがある。このとき壁面に付着する水の量が多いと、液膜の厚みが大きくなるとともに、液膜から水が蒸発し難くなる。この場合、液膜の分の水が吸気通路に留まることから、必要な量の水を気筒内に供給できないおそれがある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するための内燃機関の制御装置は、吸気通路に水を噴射する水噴射弁と、前記吸気通路と気筒との接続口を開閉する吸気バルブと、前記水噴射弁に供給する水の圧力を調整する圧力調整装置と、を有する内燃機関を制御対象とし、前記吸気バルブの開弁中に前記水噴射弁から水を噴射させる第1噴射処理、及び前記吸気バルブの閉弁中に前記水噴射弁から水を噴射させる第2噴射処理を実行し、前記第2噴射処理では、前記第1噴射処理に比べて、前記水噴射弁に供給する水の圧力が高くなるように前記圧力調整装置を制御する。
【0006】
上記構成では、第2噴射処理によって吸気バルブの閉弁中に水噴射弁から水を噴射させる場合、水噴射弁に供給する水の圧力を高くする。この場合、水噴射弁からの水の噴射圧が高くなる。これに伴い、水噴射弁が噴射した水は、吸気通路内において局所に集中せず、広範囲に拡散する。この場合、水が吸気通路の壁面に付着するにしても、当該壁面の箇所毎における水の付着量は極僅かになる。このことから、付着した水で構成される液膜の厚みも小さくなる。したがって、壁面に付着した水は速やかに蒸発する。そして、蒸発した水は吸気バルブの開弁中に気筒内に流入する。したがって、気筒内に供給する水の量が低下することを防止できる。
【0007】
内燃機関の制御装置は、前記第1噴射処理の開始タイミングよりも規定期間前に前記第2噴射処理が終了するように、前記第2噴射処理の開始タイミングを設定してもよい。
上記構成では、第2噴射処理の終了タイミングから第1噴射処理の開始タイミングまでに水の圧力を変更する期間を確保できる。このようにして、2つの噴射処理の間で水の圧力を変更できると、次のことが可能になる。すなわち、第2噴射処理については、その終了時点まで高い噴射圧で水を噴射できる。且つ、第1噴射処理についてはその開始時点から低い噴射圧で水を噴射できる。したがって、第2噴射処理を実行する全期間と第1噴射処理を実行する全期間とで別々の噴射圧を利用することができる。
【0008】
内燃機関の制御装置は、前記第1噴射処理の実行中は、前記水噴射弁に供給する水の圧力を予め定められた第1値となるように前記圧力調整装置を制御し、前記第2噴射処理の実行中は、前記水噴射弁に供給する水の圧力を予め定められた第2値となるように前記圧力調整装置を制御し、前記圧力調整装置が水の圧力を前記第2値から前記第1値に変更するのに要する最小限の期間を必要期間としたとき、前記規定期間を前記必要期間に設定してもよい。
【0009】
吸気通路の壁面に付着する水の量を極力少なくする上では、次のことが求められる。すなわち、第2噴射処理で吸気バルブの閉弁中に水噴射弁から水を噴射させるにあたって、当該噴射した水が吸気通路内を滞留している期間を極力短くする必要がある。そのためには、第1吸気バルブの開弁タイミングに極力近いタイミングで第2噴射処理を行う必要がある。
【0010】
上記構成では、第2噴射処理の終了タイミングから第1噴射処理の開始タイミングまでの期間に水噴射弁からの水の噴射圧の変更を完了する上で、これら第2噴射処理の終了タイミングから第1噴射処理の開始タイミングまでの期間を最小限に留めることができる。したがって、第2噴射処理を実行する全期間と第1噴射処理を実行する全期間とで別々の噴射圧を利用する場合において、吸気バルブの開弁タイミングに極力近いタイミングで第2噴射処理を実行できる。したがって、吸気通路の壁面に水が付着することをより効果的に防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図2】
図2は、水噴射制御に伴う噴射処理の態様と水圧との対応関係を表したタイムチャートである。
【
図3】
図3は、水噴射制御の処理手順を表したフローチャートである。
【
図4】
図4は、水噴射弁からの水の噴射範囲についての模式図である。
【
図5】
図5は、水噴射弁からの水の移動距離についての模式図である。
【
図6】
図6は、水噴射弁に係る構成の変更例を表した模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、内燃機関の制御装置の一実施形態を、図面を参照して説明する。
<内燃機関の概要>
図1に示すように、車両300は、内燃機関10を有する。内燃機関10は、車両300の駆動源である。
【0013】
内燃機関10は、シリンダブロック81、複数の気筒11、複数のピストン17、複数のコネクティングロッド19、クランク室83、及びクランクシャフト18を有する。なお、
図1では、複数の気筒11のうちの1つのみを示している。ピストン17及びコネクティングロッド19についても同様である。気筒11の数は、4つである。気筒11は、シリンダブロック81に区画された空間である。気筒11内では吸入空気(以下、吸気と記す。)と燃料との混合気が燃焼する。クランク室83は、シリンダブロック81及び図視しないオイルパンで区画された空間である。クランク室83は、気筒11から視て下に位置している。クランク室83は、各気筒11と連通している。クランク室83は、クランクシャフト18を収容している。ピストン17は、気筒11毎に設けられている。ピストン17は、気筒11内に位置している。ピストン17は、気筒11内を往復動する。ピストン17は、コネクティングロッド19を介してクランクシャフト18に連結している。ピストン17の動作に応じてクランクシャフト18は回転する。
【0014】
内燃機関10は、シリンダヘッド82、複数の点火プラグ16、及び複数の燃料噴射弁15を有する。なお、
図1では、複数の点火プラグ16のうちの1つのみを示している。燃料噴射弁15についても同様である。点火プラグ16及び燃料噴射弁15は、シリンダヘッド82に取り付けられている。点火プラグ16は、気筒11毎に設けられている。点火プラグ16は、気筒11内の混合気に点火を行う。燃料噴射弁15は、気筒11毎に設けられている。燃料噴射弁15は、後述の吸気通路12を介さずに気筒11内に直接燃料を噴射する。
【0015】
内燃機関10は、吸気通路12、及びスロットルバルブ3を有する。吸気通路12は、気筒11に吸気を導入するための通路である。吸気通路12は、各気筒11に接続している。詳細には、吸気通路12の下流の部分は、シリンダヘッド82の内部に区画された複数の吸気ポート12Aとして構成されている。吸気通路12は、その途中の位置でこれら複数の吸気ポート12Aに分岐している。なお、
図1では、複数の吸気ポート12Aのうちの1つのみを示している。吸気ポート12Aは、気筒11毎に設けられている。吸気ポート12Aは、気筒11に接続している。スロットルバルブ3は、吸気通路12における、複数の吸気ポート12Aへの分岐箇所から視て上流側に位置している。スロットルバルブ3は、吸気通路12を流れる吸気の量GAを調整する。
【0016】
内燃機関10は、複数の水噴射弁14を有する。水噴射弁14は、気筒11毎に設けられている。水噴射弁14は、シリンダヘッド82に取り付けられている。水噴射弁14の先端は、吸気ポート12A内に位置している。水噴射弁14は、吸気ポート12A内に水を噴射する。水噴射弁14が噴射した水は、吸気ポート12Aを介して気筒11内に至る。
【0017】
内燃機関10は、排気通路13を有する。排気通路13は、気筒11から排気を排出するための通路である。排気通路13は、各気筒11に接続している。なお、排気通路13における上流の部分は、シリンダヘッド82の内部に区画された複数の排気ポート13Aとして構成されている。
図1では、複数の排気ポート13Aのうちの1つのみを示している。
【0018】
内燃機関10は、複数の吸気バルブ23、複数の吸気ロッカアーム86、吸気カム軸25、及び吸気バルブ可変装置27を有する。これら吸気用の動弁機構は、シリンダヘッド82に取り付けられている。なお、
図1では、複数の吸気バルブ23のうちの1つのみを示している。吸気ロッカアーム86についても同様である。吸気バルブ23は、吸気ポート12A毎に設けられている。吸気バルブ23は、吸気ポート12Aと気筒11との接続口に位置している。吸気バルブ23は、吸気ロッカアーム86を介して吸気カム軸25と連結している。吸気バルブ23は、吸気カム軸25が回転することに応じて動作する。その動作によって、吸気バルブ23は、吸気ポート12Aと気筒11との上記接続口を開閉する。吸気カム軸25には、クランクシャフト18の回転が伝達される。すなわち、吸気カム軸25は、クランクシャフト18と連動して回転する。吸気バルブ可変装置27は、クランクシャフト18の回転位置(以下、クランク位置と記す。)Scrに対する吸気カム軸25の相対的な回転位置を変更する。その結果として、クランク位置Scrに対して吸気バルブ23の開閉タイミングが変わる。吸気バルブ可変装置27は、例えば、電動モータで駆動される電気式である。
【0019】
内燃機関10は、複数の排気バルブ24、複数の排気ロッカアーム87、排気カム軸26、及び排気バルブ可変装置28を有する。これら排気用の動弁機構は、シリンダヘッド82に取り付けられている。なお、
図1では、複数の排気バルブ24のうちの1つのみを示している。排気ロッカアーム87についても同様である。排気バルブ24は、排気ポート13A毎に設けられている。排気バルブ24は、排気ポート13Aと気筒11との接続口に位置している。排気バルブ24は、排気ロッカアーム87を介して排気カム軸26と連結している。排気バルブ24は、排気カム軸26が回転することに応じて動作する。その動作によって、排気バルブ24は、排気ポート13Aと気筒11との上記接続口を開閉する。排気カム軸26には、クランクシャフト18の回転が伝達される。すなわち、排気カム軸26は、クランクシャフト18と連動して回転する。排気バルブ可変装置28は、クランク位置Scrに対する排気カム軸26の相対的な回転位置を変更する。その結果として、クランク位置Scrに対する排気バルブ24の開閉タイミングが変わる。排気バルブ可変装置28は、例えば、電動モータで駆動される電気式である。
【0020】
内燃機関10は、水供給機構70を有する。水供給機構70は、タンク78、供給通路74、ポンプ77、複数の分岐通路75、複数のリターン通路79、及び複数の調整バルブ76を有する。タンク78は、水を貯留している。供給通路74は、タンク78から延びている。分岐通路75は、水噴射弁14毎に設けられている。分岐通路75は、供給通路74から分岐している。分岐通路75は、それぞれが対応する水噴射弁14に接続している。ポンプ77は、供給通路74の途中に位置している。ポンプ77は、電動モータで駆動される電気式である。ポンプ77は、供給通路74を通じてタンク78内の水を各分岐通路75に圧送する。リターン通路79は、分岐通路75毎に設けられている。リターン通路79は、分岐通路75とタンク78とを接続している。リターン通路79は、分岐通路75からタンク78内へと水を戻すための通路である。
図1では、リターン通路79を点線で示している。調整バルブ76は、リターン通路79毎に設けられている。調整バルブ76は、リターン通路79の途中に位置している。調整バルブ76は、電動モータで駆動される電気式である。調整バルブ76は、バタフライ式である。すなわち、調整バルブ76は、開度調整が可能である。調整バルブ76の開度Dに応じてリターン通路79の流路面積が変わる。それとともにリターン通路79を介してタンク78へと戻る水の量が変わる。それとともに、分岐通路75における、リターン通路79との接続箇所から視て下流側の圧力、すなわち水噴射弁14に供給する水の圧力が変わる。すなわち、調整バルブ76は、水噴射弁14に供給する水の圧力を調整する圧力調整装置である。各調整バルブ76の開度Dに応じて、複数の水噴射弁14に供給する水の圧力が個々に変わる。
【0021】
内燃機関10は、クランクポジションセンサ34、吸気カムポジションセンサ36、排気カムポジションセンサ35、及びエアフロメータ31を有する。クランクポジションセンサ34は、クランク位置Scrを検出する。吸気カムポジションセンサ36は、吸気カム軸25の回転位置CGを検出する。排気カムポジションセンサ35は、排気カム軸26の回転位置CEを検出する。エアフロメータ31は、吸気通路12における、スロットルバルブ3から視て上流側に位置している。エアフロメータ31は、吸気通路12における、当該エアフロメータ31の設置箇所を流れる吸気の量GAを検出する。これらの各センサは、自身が検出した情報に応じた信号を後述の制御装置100に繰り返し送信する。
【0022】
内燃機関10は、複数の水圧センサ30、及び複数の開度センサ32を有する。なお、
図1では、複数の水圧センサ30のうちの1つのみを示している。開度センサ32についても同様である。水圧センサ30は、分岐通路75毎に設けられている。水圧センサ30は、水噴射弁14に供給する水の圧力(以下、水圧と記す。)WPを検出する。開度センサ32は、調整バルブ76毎に設けられている。開度センサ32は、調整バルブ76の開度Dを検出する。これらの各センサは、自身が検出した情報に応じた信号を後述の制御装置100に繰り返し送信する。
【0023】
車両300は、アクセルセンサ38及び車速センサ39を有する。アクセルセンサ38は、車両300におけるアクセルペダルの踏み込み量をアクセル操作量ACCとして検出する。車速センサ39は、車両300の走行速度を車速SPとして検出する。これらの各センサは、自身が検出した情報に応じた信号を後述の制御装置100に繰り返し送信する。
【0024】
<制御装置の概略構成>
図1に示すように、車両300は、制御装置100を有する。制御装置100は、コンピュータプログラム(ソフトウェア)に従って各種処理を実行する1つ以上のプロセッサとして構成し得る。なお、制御装置100は、各種処理のうち少なくとも一部の処理を実行する、特定用途向け集積回路(ASIC)等の1つ以上の専用のハードウェア回路、またはそれらの組み合わせを含む回路(circuitry)として構成してもよい。プロセッサは、CPU111及び、RAM並びにROM等のメモリ112を含む。メモリ112は、処理をCPU111に実行させるように構成されたプログラムコードまたは指令を格納している。メモリ112すなわちコンピュータ可読媒体は、汎用または専用のコンピュータでアクセスできるあらゆる利用可能な媒体を含む。メモリ112は、電気的に書き換え可能な不揮発性メモリを含む。
【0025】
制御装置100は、車両300における各種センサからの検出信号を繰り返し受信する。制御装置100は、受信した検出信号に基づいて、以下のパラメータを随時算出する。制御装置100は、クランクポジションセンサ34が検出するクランク位置Scrに基づいて、クランクシャフト18の回転速度である機関回転速度NEを算出する。また、制御装置100は、機関回転速度NE、及びエアフロメータ31が検出する吸気の量GAに基づいて機関負荷率KLを算出する。機関負荷率KLは、現状の機関回転速度NEにおいてスロットルバルブ3を全開とした状態で内燃機関10を定常運転したときの気筒流入空気量に対する、現状の気筒流入空気量の比率を表している。なお、気筒流入空気量は、吸気行程において1つの気筒11内に流入する吸気の量である。
【0026】
制御装置100は、内燃機関10を制御対象とする。制御装置100は、アクセル操作量ACC、車速SP、機関回転速度NE、及び機関負荷率KL等に基づいて、例えば、燃料噴射弁15の燃料噴射、点火プラグ16の点火時期、スロットルバルブ3の開度調整といった内燃機関10の各種事項についての制御を行う。そうした制御を通じて、制御装置100は、複数の気筒11で順に混合気を燃焼させる。
【0027】
制御装置100は、内燃機関10の各種制御の一環として、吸気バルブ23の開閉タイミング(以下、吸気バルブタイミングと記す。)、及び排気バルブ24の開閉タイミングについての制御を行う。例えば、吸気バルブタイミングの制御に関して、制御装置100は次のような処理を行う。本実施形態において、制御装置100は、吸気バルブタイミングが最も遅角側のタイミングになっている状態を初期値の「0」として取り扱う。そして、制御装置100は、この初期値からの吸気バルブタイミングの進角量を調整することによって吸気バルブタイミングを調整する。制御装置100は、吸気バルブタイミングを調整するにあたり、機関回転速度NE及び機関負荷率KL等に基いて、吸気バルブタイミングの進角量の目標値である目標進角量を算出する。そして、制御装置100は、実際の吸気バルブタイミングの進角量が目標進角量と一致するように、吸気バルブ可変装置27を制御する。制御装置100は、吸気バルブタイミングが初期値となっているときに各気筒11の吸気バルブ23が開弁タイミングTSとなるクランク位置Scrを予め記憶している。したがって、制御装置100は、このクランク位置Scrに対して目標進角量だけ進角したクランク位置Scrを算出することで、現状において吸気バルブ23が開弁タイミングTSとなるクランク位置Scrを把握できる。同様に、制御装置100は、吸気バルブタイミングが初期値となっているときに各気筒11の吸気バルブ23が閉弁タイミングTCとなるクランク位置Scrを予め記憶している。したがって、制御装置100は、現状において吸気バルブ23が閉弁タイミングTCとなるクランク位置Scrを把握できる。このようにして、制御装置100は、初期値に対応するクランク位置Scrと目標進角量とに基づいて、各気筒11の吸気バルブ23が開弁タイミングTSとなるクランク位置Scr、及び閉弁タイミングTCとなるクランク位置Scrを常時把握している。
【0028】
<水噴射制御の概要>
制御装置100は、水噴射制御を実行可能である。水噴射制御は、水噴射弁14からの水の噴射タイミング、噴射量、及び噴射圧を制御するためのものである。なお、本実施形態では、ある特定の気筒11で吸気バルブ23が閉弁した時点から、当該吸気バルブ23が一旦開いた後に再度閉弁する時点までを1燃焼サイクルと呼称する。すなわち、
図2に示すように、1燃焼サイクルは、吸気バルブ23の閉弁時点である閉弁タイミングTCから、吸気バルブ23の開弁時点である開弁タイミングTSを経て再び吸気バルブ23の閉弁タイミングTCAとなるまでの期間である。この1燃焼サイクルの中で、上記特定の気筒11は、圧縮行程、膨張行程、排気行程、吸気行程を1度ずつ迎えることになる。以下では、吸気バルブ23が閉弁状態となっている期間、すなわち吸気バルブ23の閉弁タイミングTCから開弁タイミングTSまでの期間を吸気バルブ23の閉弁中U1と呼称する。また、吸気バルブ23が開弁状態となっている期間、すなわち吸気バルブ23の開弁タイミングTSから閉弁タイミングTCAまでの期間を吸気バルブ23の開弁中U2と呼称する。
【0029】
制御装置100は、水噴射制御の一環として、目標算出処理を実行可能である。目標算出処理は、内燃機関10の運転状態に基づいて、1燃焼サイクルの中で1つの気筒11内に供給する水の量の目標値である目標噴射量Qsを算出する処理である。制御装置100は、目標噴射量Qsを算出するための情報として、目標水量マップM1を予め記憶している。目標水量マップM1は、機関回転速度NEと、機関負荷率KLと、1燃焼サイクルにおいて1つの気筒11に供給する必要のある水の量である要求水量との関係を表したものである。目標水量マップM1において、機関回転速度NEと機関負荷率KLと要求水量とは、基本的には次のような関係になっている。機関負荷率KLが後述の設定負荷率未満の場合、機関回転速度NEの大小に拘わらず要求水量は「0」である。一方、機関負荷率KLが設定負荷率以上の場合、機関回転速度NEの大小に拘わらず要求水量は「0」よりも大きい。詳細には、機関負荷率KLが設定負荷率以上の場合、ある機関回転速度NEについてみると、機関負荷率KLが高いほど要求水量は多くなっている。ここで、水噴射弁14が噴射した水は気筒11内で蒸発する。このときの気化熱で気筒11内の温度は低下する。目標水量マップM1に設定されている要求水量は、各機関運転状態に応じて要求される気筒11内の冷却を実現できる値になっている。また、上記の設定負荷率は、水噴射弁14からの水の供給により、気筒11内の温度を低下させることが必要な機関負荷率KLの最低値である。目標水量マップM1は、例えば実験又はシミュレーションを基に作成されている。
【0030】
制御装置100は、水噴射制御の一環として、判定処理を実行可能である。判定処理は、1燃焼サイクルの中での吸気バルブ23の開弁中U2に水噴射弁14から目標噴射量Qsの水を気筒11内に供給できるか否かを判定する処理である。ここで、1燃焼サイクルの中での吸気バルブ23の開弁中U2に水噴射弁14からの水の噴射によって1つの気筒11内に供給可能な水の量の最大値を許容噴射量Qvと呼称する。許容噴射量Qvは、水圧WPが、後述の第1噴射処理で利用する値であることを前提としたものである。制御装置100は、判定処理では、許容噴射量Qvが目標噴射量Qs以上であるか否かを判定する。制御装置100は、許容噴射量Qvを算出する上で必要な情報として、到達期間Lを予め記憶している。到達期間Lは、水噴射弁14が水を噴射したタイミングから、その水が気筒11内に至るまでの時間の長さである。到達期間Lは、例えば実験又はシミュレーションを基に定められている。本実施形態において、到達期間Lは固定値である。また、制御装置100は、許容噴射量Qvを算出する上で必要な情報として、噴射マップM2を予め記憶している。一定の水圧WPの下で一定の噴射期間に亘って1つの水噴射弁14から水噴射を行ったとする。このとき、水噴射弁14が噴射する水の量を可能噴射量と呼称する。可能噴射量は噴射期間に応じて変わる。なお、噴射期間は、上記のとおり、水噴射弁14からの水噴射を継続する期間のことである。噴射マップM2は、噴射期間と、水圧WPと、可能噴射量との関係を表したものである。噴射マップM2において、噴射期間と水圧WPと可能噴射量とは、基本的には次のような関係になっている。ある水圧WPでみたとき、噴射期間が長いほど可能噴射量は多くなる。また、ある噴射期間でみたとき、水圧WPが高いほど可能噴射量は多くなる。噴射マップM2は、例えば実験又はシミュレーションを基に作成されている。
【0031】
制御装置100は、水噴射制御の一環として、第1噴射処理及び第2噴射処理を実行可能である。第1噴射処理は、1燃焼サイクルの中での吸気バルブ23の開弁中U2に、水噴射弁14から水を噴射させる処理である。第2噴射処理は、1燃焼サイクルの中での吸気バルブ23の閉弁中U1に、水噴射弁14から水を噴射させる処理である。制御装置100は、判定処理の判定結果が肯定の場合、第1噴射処理のみを行う。この場合、制御装置100は、第1噴射処理で、水噴射弁14から目標噴射量Qsの水を噴射させることになる。一方、制御装置100は、判定処理の判定結果が否定の場合、
図2の(a)に示すように、第1噴射処理と第2噴射処理との双方を行う。この場合、制御装置100は、第1噴射処理で、水噴射弁14から許容噴射量Qvの水を噴射させる。一方、制御装置100は、第2噴射処理で、水噴射弁14から設定噴射量Qrの水を噴射させる。設定噴射量Qrは、許容噴射量Qvと目標噴射量Qsとの差分の量である。このように、制御装置100は、判定処理の判定結果が否定の場合、2つの噴射処理を行うことによって水噴射弁14から目標噴射量Qsの水を噴射させる。
【0032】
制御装置100は、
図2の(b)に示すように、第1噴射処理と第2噴射処理とでは、異なる水圧WPを設定する。具体的には、制御装置100は、第1噴射処理の実行中は、水圧WPが第1値WP1になるように調整バルブ76を制御する。制御装置100は、第2噴射処理の実行中は、水圧WPが第2値WP2になるように調整バルブ76を制御する。第2値WP2は、第1値WP1よりも高い。すなわち、制御装置100は、第2噴射処理では、第1噴射処理に比べて水圧WPが高くなるように調整バルブ76を制御する。このことは、実質的には次のことを意味する。すなわち、制御装置100は、第2噴射処理では、第1噴射処理に比べて水噴射弁14からの水の噴射圧を高くする。第1値WP1は、例えば実験又はシミュレーションで予め定められている。第2値WP2は、例えば実験又はシミュレーションで予め定められている。制御装置100は、第1値WP1及び第2値WP2を予め記憶している。なお、第1噴射処理と第2噴射処理とで水圧WPを変更する理由は後述の作用の欄で記載する。その理由の記載に合わせて、第1値WP1および第2値WP2がどのような値であるかも説明する。なお、本実施形態において、制御装置100は、第1噴射処理の実行中は、その全期間に亘って水圧WPを第1値WP1にする。また、制御装置100は、第2噴射処理の実行中は、その全期間に亘って水圧WPを第2値WP2にする。
【0033】
制御装置100は、上記のように各噴射処理に応じて水圧WPを制御するにあたり、実質的には調整バルブ76の開度Dを変更する。いま、ポンプ77による水の吐出量がある一定の設定吐出量であるとする。この状態を第1状態と呼称する。この第1状態のときに水圧WPを第1値WP1にするのに必要な調整バルブ76の開度Dを第1開度D1と呼称する。また、第1状態のときに水圧WPを第2値WP2にするのに必要な調整バルブ76の開度Dを第2開度D2と呼称する。また、ポンプ77の吐出量を設定吐出量とする上で必要なポンプ77の回転速度を設定回転速度と呼称する。制御装置100は、第1開度D1、第2開度D2、及び設定回転速度を予め記憶している。第1開度D1、第2開度D2、及び設定回転速度は、ポンプ77の吐出能や調整バルブ76の開度Dに応じた流路面積を考慮して、例えば実験又はシミュレーションを基に定められている。なお、制御装置100は、調整バルブ76の開度Dを第1開度D1又は第2開度D2に変更するにあたり、必要に応じて開度センサ32の検出値を参照しつつ、要求される開度Dになるように調整バルブ76の電動モータを制御する。
【0034】
制御装置100は、水噴射制御の一環として、第1噴射タイミング算出処理を実行可能である。第1噴射タイミング算出処理は、第1噴射処理の開始タイミング(以下、第1開始タイミングV1Aと記す。)及び第1噴射処理の終了タイミング(以下、第1終了タイミングV1Bと記す。)を算出する処理である。
図2の(a)に示すように、制御装置100は、第1噴射タイミング算出処理では、第1開始タイミングV1Aを吸気バルブ23の開弁タイミングTSとする。また、制御装置100は、第1噴射タイミング算出処理では、第1終了タイミングV1Bを限界タイミング以前とする。限界タイミングは、吸気バルブ23の閉弁タイミングTCAから上記の到達期間Lだけ遡ったタイミングである。なお、ここでいう吸気バルブ23の閉弁タイミングTCAは、1燃焼サイクルの終了タイミングである。
【0035】
制御装置100は、水噴射制御の一環として、第2噴射タイミング算出処理を実行可能である。第2噴射タイミング算出処理は、第2噴射処理の開始タイミング(以下、第2開始タイミングV2Aと記す。)及び第2噴射処理の終了タイミング(以下、第2終了タイミングV2Bと記す。)を算出する処理である。制御装置100は、第2噴射タイミング算出処理では、第1開始タイミングV1Aよりも規定期間K前に第2噴射処理が終了するように、第2開始タイミングV2Aを決定する。そのことを実現するために、制御装置100は、第2開始タイミングV2A及び第2終了タイミングV2Bを次のように定める。すなわち、制御装置100は、第1開始タイミングV1Aよりも規定期間Kだけ前のタイミングを第2終了タイミングV2Bとする。そして、水噴射弁14から設定噴射量Qrを噴射させるのに必要な期間だけ第2終了タイミングV2Bから遡ったタイミングを第2開始タイミングV2Aとする。水圧WPを第2値WP2から第1値WP1に変更するのに要する最小限の期間を必要期間と呼称する。必要期間は、調整バルブ76の開度Dを第2開度D2が第1開度D1に変更するのに要する期間である。本実施形態において、制御装置100は、規定期間Kとして必要期間を設定する。制御装置100は、必要期間を予め記憶している。必要期間は、例えば実験又はシミュレーションを基に予め定められている。なお、
図2に示す水圧WPの推移、及び各噴射処理の流れの詳細については、後述の作用の欄で説明する。
【0036】
<水噴射制御の具体的な処理内容>
以下に説明する水噴射制御の一連の処理は、1つの気筒11を対象としたものである。すなわち、制御装置100は、以下の水噴射制御の一連の処理を気筒11毎、つまり水噴射弁14毎に行う。制御装置100は、内燃機関10の運転中、すなわち機関回転速度NEが「0」よりも大きいときに、水噴射制御を繰り返し行う。制御装置100は、各気筒11について、1燃焼サイクルにつき1度、水噴射制御の一連の処理を行う。制御装置100は、各燃焼サイクルにおいて、1燃焼サイクルの開始タイミング、すなわち、吸気バルブ23の閉弁タイミングTCで水噴射制御を開始する。制御装置100は、クランクポジションセンサ34から受信する最新のクランク位置Scrに基づいて水噴射制御の開始のタイミングを判断する。すなわち、制御装置100は、最新のクランク位置Scrが、吸気バルブ23が閉弁タイミングTCとなるクランク位置Scrと一致することをもって、吸気バルブ23が閉弁タイミングTCになったと判断する。逐一の説明は割愛するが、制御装置100が水噴射制御の一連の処理で参照したり利用したりする吸気バルブ23の閉弁タイミングTC及び開弁タイミングTSは、当該水噴射制御の実行対象の気筒11についてのものである。なお、制御装置100は、内燃機関10の運転中は、ポンプ77の回転速度が設定回転速度と一致するようにポンプ77を制御する。また、制御装置100は、内燃機関10の始動時点では、調整バルブ76の開度Dが第1開度D1と一致するように調整バルブ76を制御する。したがって、内燃機関10の始動後に初めて水噴射制御を実行する場合、当該水噴射制御の開始時点での調整バルブ76の開度Dは第1開度D1になっている。
【0037】
図3に示すように、制御装置100は、水噴射制御を開始すると、先ずステップS110の処理を行う。ステップS110において、制御装置100は、目標噴射量Qsを算出する。具体的には、制御装置100は、最新の機関回転速度NE、最新の機関負荷率KL、及び目標水量マップM1を参照する。目標水量マップM1は、上記のとおり、機関回転速度NEと、機関負荷率KLと、気筒11に供給する必要のある水の量である要求水量との関係を表したものである。制御装置100は、この目標水量マップM1に基づいて、最新の機関回転速度NEと最新の機関負荷率KLとに対応する要求水量を目標噴射量Qsとして算出する。この後、制御装置100は、処理をステップS120に進める。なお、ステップS110の処理は、目標算出処理である。
【0038】
ステップS120において、制御装置100は、許容噴射量Qvを算出する。以下のとおり、許容噴射量Qvは、吸気バルブ23の開弁中U2の期間のうち、到達期間Lを除いた期間において水噴射弁14が噴射できる水の量である。なお、上記のとおり、到達期間Lは、水噴射弁14が噴射した水が気筒11内に至るまでの時間の長さである。制御装置100は、許容噴射量Qvを算出する上で、先ず、最新の機関回転速度NEに基づいて、到達期間Lを最新の機関回転速度NEに応じたクランク回転量に換算する。そして、制御装置100は、得られた値をオフセット値とする。クランク回転量は、クランクシャフト18がある回転位置から別の回転位置に回転する間のクランクシャフト18の回転角度の大きさである。機関回転速度NEが高いほどオフセット値は大きくなる。制御装置100は、オフセット値を算出すると、限界クランク位置を算出する。具体的には、制御装置100は、吸気バルブ23が閉弁タイミングTCAとなるクランク位置Scrからオフセット値だけ遡ったクランク位置Scrを限界クランク位置として算出する。上記の閉弁タイミングTCAは、
図2に示すように、今回の燃焼サイクルの終了タイミングである。制御装置100は、限界クランク位置を算出すると、許容回転量を算出する。許容回転量は、吸気バルブ23が開弁タイミングTSとなるクランク位置Scrから、限界クランク位置までのクランク回転量である。制御装置100は、許容回転量を算出すると、最新の機関回転速度NEに基づいて、当該許容回転量を最新の機関回転速度NEに応じた時間の長さに換算する。そして、制御装置100は、得られた値を許容期間とする。なお、同一の許容回転量に対して、機関回転速度NEが高いほど許容期間は短くなる。この後、制御装置100は、第1噴射処理用の水圧WPである第1値WP1と、噴射マップM2とを参照する。上記のとおり、噴射マップM2は、噴射期間と、水圧WPと、可能噴射量との関係を表したものである。制御装置100は、この噴射マップM2に基づいて、第1値WP1と上記の許容期間とに対応する可能噴射量を許容噴射量Qvとして算出する。このとき、制御装置100は、噴射マップM2における噴射期間に上記の許容期間を当てはめればよい。
図3に示すように、制御装置100は、許容噴射量Qvを算出すると、処理をステップS130に進める。
【0039】
ステップS130において、制御装置100は、ステップS120で算出した許容噴射量Qvが、ステップS110で算出した目標噴射量Qs以上であるか否かを判定する。この判定が肯定である場合、1燃焼サイクルの中での吸気バルブ23の開弁中U2に水噴射弁14から目標噴射量Qsの水を気筒11内に供給できることになる。制御装置100は、許容噴射量Qvが目標噴射量Qs以上である場合(ステップS130:YES)、処理をステップS140に進める。なお、ステップS130の処理は、判定処理である。
【0040】
ステップS140において、制御装置100は、第1噴射タイミングを算出する。具体的には、制御装置100は、第1噴射処理の開始タイミングである第1開始タイミングV1A及び第1噴射処理の終了タイミングである第1終了タイミングV1Bを算出する。先ず、制御装置100は、第1開始タイミングV1Aを算出する。具体的には、制御装置100は、吸気バルブ23が開弁タイミングTSとなるクランク位置Scrを、第1開始タイミングV1Aのクランク位置Scrとする。次に、制御装置100は、第1終了タイミングV1Bを算出する。具体的には、制御装置100は、第1噴射処理用の水圧WPである第1値WP1と、ステップS110で算出した目標噴射量Qsと、噴射マップM2とを参照する。そして、制御装置100は、この噴射マップM2に基づいて、第1値WP1と目標噴射量Qsとに対応する噴射期間を通常噴射期間として算出する。この後、制御装置100は、最新の機関回転速度NEに基づいて、通常噴射期間を最新の機関回転速度NEに応じたクランク回転量に換算する。制御装置100は、得られた値を通常回転量とする。この後、制御装置100は、第1開始タイミングV1Aのクランク位置Scrから通常回転量だけ遅角したクランク位置Scrを第1終了タイミングV1Bのクランク位置Scrとして算出する。制御装置100は、第1終了タイミングV1Bを算出すると、処理をステップS150に進める。ステップS140の処理は、第1噴射タイミング算出処理である。なお、制御装置100は、水噴射制御の開始後、ステップS110からステップS140までの処理を速やかに行う。したがって、処理がこの後のステップS150に進むタイミングは、実質的に1燃焼サイクルの開始時点と略同じである。
【0041】
ステップS150において、制御装置100は、第1噴射処理を行う。具体的には、制御装置100は、ステップS140で算出した第1開始タイミングV1Aまで待機する。そして、制御装置100は、第1開始タイミングV1Aになると、水噴射弁14から水の噴射を開始させる。この後、制御装置100は、ステップS140で算出した第1終了タイミングV1Bまで水の噴射を継続させる。そして、制御装置100は、第1終了タイミングV1Bになると、水噴射弁14からの水の噴射を終了させる。この第1噴射処理の実行中における水圧WPは、水噴射制御を前回実行したときのステップS260の処理との関連で、第1値WP1となっている。なお、制御装置100は、このステップS150において第1噴射処理を開始するにあたり、第1開始タイミングV1Aに至ったことを次のように判断する。すなわち、制御装置100は、クランクポジションセンサ34から受信する最新のクランク位置Scrを繰り返し参照する。そして、制御装置100は、最新のクランク位置Scrが第1開始タイミングV1Aのクランク位置Scrと一致することをもって、第1開始タイミングV1Aに至ったと判断する。制御装置100は、同様の要領で、最新のクランク位置Scrが第1終了タイミングV1Bのクランク位置Scrと一致することをもって、第1終了タイミングV1Bに至ったと判断する。制御装置100は、第1噴射処理を実行すると、水噴射制御の一連の処理を一旦終了する。そして、制御装置100は、1燃焼サイクルの開始タイミングになると、再度ステップS110の処理を実行する。
【0042】
一方、ステップS130において、制御装置100は、許容噴射量Qvが目標噴射量Qs未満である場合(ステップS130:NO)、処理をステップS210に進める。
ステップS210において、制御装置100は、第1噴射タイミングを算出する。すなわち、制御装置100は、ステップS140と同様、第1開始タイミングV1A及び第1終了タイミングV1Bを算出する。このステップS210でも、制御装置100は、吸気バルブ23の開弁タイミングTSとなるクランク位置Scrを、第1開始タイミングV1Aのクランク位置Scrとする。制御装置100は、第1終了タイミングV1Bについては、次のタイミングとする。すなわち、制御装置100は、ステップS120で許容噴射量Qvを算出するのに合わせて算出した限界クランク位置を、第1終了タイミングV1Bのクランク位置Scrとする。この後、制御装置100は、処理をステップS220に進める。ステップS210の処理は、第1噴射タイミング算出処理である。
【0043】
ステップS220において、制御装置100は、目標噴射量Qsと許容噴射量Qvとの差分である設定噴射量Qrを算出する。具体的には、制御装置100は、目標噴射量Qsから許容噴射量Qvを減算した値を設定噴射量Qrとする。この後、制御装置100は、処理をステップS230に進める。
【0044】
ステップS230において、制御装置100は、第2噴射タイミングを算出する。具体的には、制御装置100は、第2噴射処理の噴射開始タイミングである第2開始タイミングV2A及び第2噴射処理の終了タイミングである第2終了タイミングV2Bを算出する。制御装置100は、先ず第2終了タイミングV2Bを算出する。具体的には、制御装置100は、最新の機関回転速度NEと、予め記憶している必要期間とを参照する。そして、制御装置100は、最新の機関回転速度NEに基づいて、必要期間を最新の機関回転速度NEに応じたクランク回転量に換算する。制御装置100は、得られた値を必要回転量とする。機関回転速度NEが高いほど必要回転量は大きくなる。この後、制御装置100は、ステップS210で算出した第1開始タイミングV1Aのクランク位置Scrから必要回転量だけ遡ったクランク位置Scrを、第2終了タイミングV2Bのクランク位置Scrとして算出する。次に、制御装置100は、第2開始タイミングV2Aを算出する。具体的には、制御装置100は、第2噴射処理用の水圧WPである第2値WP2と、ステップS220で算出した設定噴射量Qrと、噴射マップM2とを参照する。そして、制御装置100は、噴射マップM2に基づいて、第2値WP2と、ステップS220で算出した設定噴射量Qrとに対応する噴射期間を設定噴射期間として算出する。この後、制御装置100は、最新の機関回転速度NEに基づいて、設定噴射期間を最新の機関回転速度NEに応じたクランク回転量に換算する。そして、制御装置100は、得られた値を設定回転量とする。必要回転量と同様、同一の設定噴射期間に対して、機関回転速度NEが高いほど設定回転量は大きくなる。この後、制御装置100は、上で算出した第2終了タイミングV2Bのクランク位置Scrから設定回転量だけ遡ったクランク位置Scrを第2開始タイミングV2Aのクランク位置Scrとする。制御装置100は、第2開始タイミングV2Aを算出すると、処理をステップS240に進める。ステップS230の処理は、第2噴射タイミング算出処理である。なお、ステップS140で説明したのと同様、制御装置100は、水噴射制御の開始後、ステップS110からステップS230までの処理を速やかに行う。したがって、処理がこの後のステップS240に進むタイミングは、実質的に1燃焼サイクルの開始時点と略同じである。
【0045】
ステップS240において、制御装置100は、水圧WPを第2値WP2に変更する。なお、このステップS240に処理が進んだ時点での水圧WPは、水噴射制御を前回実行したときのステップS260の処理との関連で第1値WP1である。そして、調整バルブ76の開度Dは第1開度D1である。ステップS240の具体的な処理として、制御装置100は、調整バルブ76の開度Dが第2開度D2と一致するように調整バルブ76を制御する。これに伴い、調整バルブ76の開度Dは第1開度D1から第2開度D2に変更される。制御装置100は、ステップS240の処理を実行すると、処理をステップS250に進める。
【0046】
ステップS250において、制御装置100は、第2噴射処理を行う。具体的には、制御装置100は、ステップS230で算出した第2開始タイミングV2Aまで待機する。そして、制御装置100は、第2開始タイミングV2Aになると、水噴射弁14から水の噴射を開始させる。この後、制御装置100は、ステップS230で算出した第2終了タイミングV2Bまで水の噴射を継続させる。そして、制御装置100は、第2終了タイミングV2Bになると、水噴射弁14からの水の噴射を終了させる。なお、第2開始タイミングV2A及び第2終了タイミングV2Bの判断の仕方は、ステップS150で説明したものと同様である。制御装置100は、第2噴射処理を実行すると、処理をステップS260に進める。
【0047】
ステップS260において、制御装置100は、水圧WPを第2値WP2から第1値WP1に変更する。具体的には、制御装置100は、調整バルブ76の開度Dが第1開度D1と一致するように調整バルブ76を制御する。これに伴い、調整バルブ76の開度Dは第2開度D2から第1開度D1に変更される。この開度の変更には、必要期間、すなわち本実施形態の規定期間Kを要する。制御装置100は、ステップS260の処理を実行すると、処理をステップS270に進める。なお、第2終了タイミングV2Bの設定上、この後のステップS270に処理が進むタイミングのクランク位置Scrは、第1開始タイミングV1Aのクランク位置Scrになっている。
【0048】
ステップS270において、制御装置100は、第1噴射処理を行う。具体的には、制御装置100は、処理がステップS270に進むと速やかに水噴射弁14から水の噴射を開始させる。この後、制御装置100は、ステップS210で算出した第1終了タイミングV1Bまで水の噴射を継続させる。そして、制御装置100は、第1終了タイミングV1Bになると、水噴射弁14からの水の噴射を終了させる。なお、第1開始タイミングV1A及び第1終了タイミングV1Bの判断の仕方は、ステップS150で説明したものと同様である。制御装置100は、第1噴射処理を実行すると、水噴射制御の一連の処理を一旦終了する。そして、制御装置100は、1燃焼サイクルの開始タイミングになると、再度ステップS110の処理を実行する。
【0049】
<実施形態の作用>
(A)水噴射制御に伴う水噴射弁からの水噴射及び水圧の変更の流れについて
1燃焼サイクルの開始時点、すなわち吸気バルブ23の閉弁タイミングTCでは、調整バルブ76の開度Dが第1開度D1になっている。これに伴い、
図2の(b)に示すように、吸気バルブ23の閉弁タイミングTCでは、水圧WPは第1値WP1になっている。さて、目標噴射量Qsが多かったり、機関回転速度NEが高かったりすること等に起因して、許容噴射量Qvが目標噴射量Qs未満(ステップS130:NO)になることがある。この場合、
図2の(b)に示すように、制御装置100は、吸気バルブ23の閉弁タイミングTCから速やかに調整バルブ76の開度Dを第1開度D1から第2開度D2に変更する(ステップS240)。それに伴い、水圧WPが第1値WP1から第2値WP2に変わる。この後、制御装置100は、
図2の(a)に示すように、水圧WPを第2値WP2としたまま、吸気バルブ23の閉弁中U1に第2噴射処理を実行する(ステップS250)。そして、制御装置100は、設定噴射量Qrの水を水噴射弁14から噴射させる。制御装置100は、吸気バルブ23の開弁タイミングTSよりも規定期間Kだけ前のタイミングである第2終了タイミングV2Bで第2噴射処理を終了する。この後、制御装置100は、調整バルブ76の開度Dを第2開度D2から第1開度D1に変更する(ステップS260)。これに伴い、
図2の(b)に示すように、水圧WPが第2値WP2から第1値WP1に変わる。この水圧WPの変更には、規定期間Kとして設定されている上記の必要期間を要する。したがって、水圧WPの変更を終えた時点で吸気バルブ23の開弁タイミングTSを迎える。すると、
図2の(a)に示すように、制御装置100は、第1噴射処理を実行する(ステップS270)。そして、制御装置100は、吸気バルブ23の開弁中U2に許容噴射量Qvの水を水噴射弁14から噴射させる。制御装置100は、このようにして第1噴射処理と第2噴射処理との双方を実行することにより、1燃焼サイクルの中でトータルとして目標噴射量Qsの水を水噴射弁14から噴射させる。
【0050】
なお、
図2では、第2噴射処理と第1噴射処理との間で水圧WPを変更している様子をわかり易くするために、水圧WPを第2値WP2から第1値WP1に変更するのに要する期間である必要期間を誇張して表している。水圧WPを第1値WP1から第2値WP2に変更する期間についても同様である。また、
図2に示す第1噴射処理の噴射期間、及び第2噴射処理の噴射期間は、あくまでも一例であり、実際の噴射期間とは必ずしも一致しない。
【0051】
(B)第1噴射処理と第2噴射処理とで水圧を変える理由について
いま、水噴射弁14から水を噴射したとする。仮に、噴射した水が、吸気ポート12Aの壁面のある一箇所に集中して付着したとする。この場合、付着した水は、吸気ポート12Aの壁面の上記箇所に粗大水滴を形成する。こうした粗大水滴が構成する液膜の厚みは大きいことから、当該粗大水滴は蒸発し難い。この粗大水滴は、そのまま吸気ポート12Aの壁面に残存したり、吸気とともに気筒11内に流入したりする。粗大水滴が気筒11内に流入した場合、この粗大水滴は、気筒11の壁面を伝ってやがてクランク室83へと流入する。したがって、気筒11内の冷却には寄与しない。さて、上記のように吸気ポート12Aで形成された粗大水滴が気筒11内に流入するのとは別に、気筒11の壁面に粗大水滴が直接形成されることもある。例えば、気筒11の壁面のある一箇所に水が集中して付着したとする。この場合、付着した水は、気筒11の壁面における上記箇所で粗大水滴を形成する。こうした粗大水滴も、基本的には気筒11内で蒸発することなくクランク室83へと流入する。また、仮に蒸発する場合でも、このときの気化熱は気筒11の壁面そのものの冷却に寄与する一方で、気筒11内のガスの冷却には寄与し難い。このように、吸気ポート12A又は気筒11内で液膜の厚みが大きい粗大水滴が形成された場合、この粗大水滴は気筒11内でのガスの蒸発冷却に寄与し難い。したがって、目標噴射量Qsの水を水噴射弁14から噴射させた場合でも、上記のような粗大水滴ができてしまうと、狙い通りに気筒11内を冷却できないことになる。
【0052】
そこで、本実施形態は、上記のような粗大水滴の形成を回避できるように、水噴射制御の内容を工夫している。具体的には、第1噴射処理と第2噴射処理とで水圧WPを変えている。詳細には、第2噴射処理の水圧WPを、第1噴射処理の水圧WPよりも高くしている。このことは、実質的には、第2噴射処理における水噴射弁14の噴射圧を、第1噴射処理における水噴射弁14の噴射圧よりも高くすることを意味する。このような態様を採用している理由を説明する。
【0053】
いま、吸気バルブ23が閉弁中U1であるとする。そして、水噴射弁14が吸気ポート12A内に水を噴射したとする。このとき、水噴射弁14の噴射圧が高いと、水は水噴射弁14の噴孔から勢いよく四方八方に飛散する格好となる。そのため、水噴射弁14の噴射圧が高い場合、水噴射弁14が噴射した水は広域的に分散する。つまり、
図4のY1で示すように、噴射圧が高い場合における水の噴射範囲は、
図4のY2で示す噴射圧が低い場合の噴射範囲に比べて広くなる。同じ量の水を噴射するにしても、水の噴射範囲が広ければ、その分、吸気ポート12Aの壁面の箇所毎における水の付着量は少なくなる。したがって、吸気ポート12Aの壁面の各箇所では、付着した水で構成される液膜の厚みも小さくなる。液膜の厚みが小さければ、液膜は速やかに蒸発する。このように、水噴射弁14の噴射圧を高くすると、吸気ポート12Aの壁面での粗大水滴の形成を回避できる。こうした観点において、制御装置100は、第2噴射処理において水圧WP、ひいては水噴射弁14の噴射圧を高く設定している。ここで、吸気バルブ23が閉弁中U1である状況下において、粗大水滴の形成を回避できる程度に広域的に水を噴射できる噴射圧を第2噴射圧J2と呼称する。第2噴射処理用の水圧WPである第2値WP2は、水噴射弁14の噴射圧が第2噴射圧J2になるときの水圧WPである。第2値WP2、及びその基となる第2噴射圧J2は、例えば実験又はシミュレーションで予め定めた値である。なお、第2噴射圧J2を定めるにあたっては、例えば、目標噴射量Qsが「0」よりも大きいときの機関運転状態に応じた吸気の圧力を考慮している。吸気の圧力と、水噴射弁14からの噴射圧との差異は、噴射範囲に影響し得る。
【0054】
さて、上記のとおり、水噴射弁14からの噴射圧を高くすることは、吸気ポート12Aの壁面での粗大水滴の形成の回避に有効である。一方で、水噴射弁14からの噴射圧を高くすることは、気筒11の壁面での粗大水滴の形成を回避する上では有効ではない。その理由を説明する。いま、吸気バルブ23が開弁中U2であるとする。この状況下において高い噴射圧で水噴射弁14から水を噴射させたとする。この場合、水の噴射範囲が広くなることとの関連で、水はより遠くに至るようになる。その上、吸気バルブ23の開弁中U2は、気筒11に向かう吸気の流れが存在する。水噴射弁14が噴射した水は、この吸気の流れで気筒11に向けて流される。これら、気筒11に向かう吸気の流れと、水噴射弁14がより遠くまで水を噴射する事とがおり重なると、水噴射弁14が噴射した水は勢いよく気筒11内に流入する。それとともに、
図5のZ1で示すように、水の移動距離が長くなる。そして、水はそのまま気筒11の壁面に至り得る。このとき、水が局所に集中して気筒11の壁面に付着すると、付着した水は粗大水滴を形成する。つまり、吸気バルブ23の開弁中U2に水噴射弁14の噴射圧を高くすると、かえって粗大水滴の形成を招き得る。この点、水噴射弁14からの水の噴射圧を低くすると、
図5のZ2で示すように、水噴射弁14から噴射した水の移動距離が相応に短くなる。この場合、気筒11の壁面に水が至ることを回避できる。こうした観点において、制御装置100は、第2噴射処理において水圧WP、ひいては水噴射弁14の噴射圧を低く設定している。ここで、吸気バルブ23が開弁中U2である状況下において、水噴射弁14が噴射した水が気筒11の壁面まで至らない噴射圧を第1噴射圧J1と呼称する。第1噴射処理用の水圧WPである上記の第1値WP1は、水噴射弁14の噴射圧が第1噴射圧J1になるときの水圧WPである。第1値WP1、及びその基となる第1噴射圧J1は、例えば実験又はシミュレーションで予め定めた値である。第1噴射圧J1を定めるにあたっては、例えば、目標噴射量Qsが「0」よりも大きいときの機関運転状態に応じた吸気の量GAを考慮している。吸気の量GAは、水噴射弁14から噴射した水の移動距離に影響し得る。
【0055】
<実施形態の効果>
(1)制御装置100は、許容噴射量Qvが目標噴射量Qs未満の場合、吸気バルブ23の開弁中U2に第1噴射処理を行うことに加え、吸気バルブ23の閉弁中U1に第2噴射処理を行う。そのことによって、制御装置100は、1燃焼サイクルの中で目標噴射量Qsの水を水噴射弁14から噴射させる。このようにして、吸気バルブ23の開弁中U2と閉弁中U1との双方で噴射処理を行う上で、制御装置100は、それぞれの噴射処理で、粗大水滴の形成の回避に適した水圧WPを設定する。このことにより、水噴射弁14から噴射した目標噴射量Qsの水のほとんどは、粗大水滴になることなく微粒子状態のまま気筒11内に流入する。したがって、本実施形態は、目標噴射量Qsの水を略全て気筒11内での蒸発に寄与させることができる。
【0056】
(2)制御装置100は、第2噴射処理の終了タイミングである第2終了タイミングV2Bを、第1噴射処理の開始タイミングである第1開始タイミングV1Aから規定期間Kだけ遡ったタイミングに設定する。この場合、第2噴射処理を終えてから、第1噴射処理を開始するまでの間に調整バルブ76の開度Dを第2開度D2から第1開度D1に変更する期間を確保できる。つまり、水圧WPを変更する期間を確保できる。このようにして、2つの噴射処理の間で水圧WPを変更できると、次のことが可能になる。すなわち、第2噴射処理では、その終了時点である第2終了タイミングV2Bまで水圧WPを第2値WP2に維持できる。つまり、第2噴射処理の終了時点まで第2噴射圧J2を維持できる。また、第1噴射処理では、その開始時点である第1開始タイミングV1Aから水圧WPを第1値WP1にできる。つまり、第1噴射処理の開始時点から第1噴射圧J1を利用できる。したがって、制御装置100は、第2噴射処理を実行する全期間と第1噴射処理を実行する全期間とで別々の噴射圧を利用できる。このことで、目標噴射量Qsの水を略全て気筒11内での蒸発に寄与させるという(1)の効果をより確実に得られる。
【0057】
(3)吸気ポート12Aの壁面に付着する水の量、ひいては粗大水滴の形成を極力少なくする上では、次のことが求められる。すなわち、第2噴射処理で吸気バルブ23の閉弁中U1に水噴射弁14から水を噴射させるにあたって、当該噴射した水が吸気ポート12A内を滞留している期間を極力短くする必要がある。そのためには、吸気バルブ23の開弁タイミングTSに極力近いタイミングで第2噴射処理を行う必要がある。
【0058】
本実施形態は、第2終了タイミングV2Bから第1開始タイミングV1Aまでの期間である規定期間Kを、水圧WPの変更に必要な最小限の期間である必要期間に設定している。したがって、第2終了タイミングV2Bから第1開始タイミングV1Aまでの間に水圧WPを変更するにあたって、第2終了タイミングV2Bから第1開始タイミングV1Aまでの期間を最小限に留めることができる。したがって、上記(2)に記載したように、第2噴射処理を実行する全期間と第1噴射処理を実行する全期間とで別々の噴射圧を利用する構成を採用した上で、さらに、吸気バルブ23の開弁タイミングTSに極力近いタイミングで第2噴射処理を実行できる。吸気バルブ23の開弁タイミングTSに極力近いタイミングで第2噴射処理を実行できることで、吸気ポート12Aの壁面での粗大水滴の形成をより効果的に防止できる。
【0059】
<変更例>
なお、上記実施形態は、以下のように変更して実施することができる。上記実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0060】
・第1噴射処理の実行途中で水圧WPを変更したり、第2噴射処理の実行途中で水圧WPを変更したりしてもよい。例えば、これらの噴射処理の実行中に内燃機関10の運転状態が変化することもあり得る。そして、それに応じて噴射処理の実行期間の中で、粗大水滴の形成回避に適した水噴射弁14の噴射圧が変わることもあり得る。こうした点を考慮し、内燃機関10の運転状態に応じて水圧WPを変更してもよい。例えば、内燃機関10の運転状態と、最適な水圧WPとの関係を表したマップを予め作成しておけば、噴射処理の実行途中で水圧WPを変更することも可能である。
【0061】
・規定期間Kは、上記実施形態の例に限定されない。すなわち、規定期間Kとして必要期間とは異なる時間の長さを設定してもよい。例えば、規定期間Kは必要期間より長くてもよい。この場合でも、第1開始タイミングV1Aの前までに水圧WPを第2値WP2から第1値WP1に変更できる。したがって、第2噴射処理では、その終了時点まで水圧WPを第2値WP2にできる。また、第1噴射処理では、その開始時点から水圧WPを第1値WP1にできる。規定期間Kを必要期間よりも長くする場合、規定期間Kにおけるどのタイミングで水圧WPを変更してもよい。例えば、第2終了タイミングV2Bから予め定められた期間後に調整バルブ76の開度Dを変更してもよい。また、内燃機関10の運転状態に基づいて調整バルブ76の開度Dを変更するタイミングを算出してもよい。
【0062】
・規定期間Kを廃止してもよい。そして、第2噴射処理と第1噴射処理とを連続させてもよい。この場合、例えば、第2噴射処理の途中で水圧WPを低下させ始め、第1噴射処理の開始時点において水圧WPが第1噴射処理に適した値になるようにしてもよい。第2噴射処理の実行中における少なくとも一部の期間の水圧WPが、第1噴射処理の実行中における少なくとも一部の期間の水圧WPよりも高ければよい。そうすれば、少なくとも一部の期間では粗大水滴の形成を回避できる。
【0063】
・第1開始タイミングV1Aは、上記実施形態の例に限定されない。すなわち、第1開始タイミングV1Aを、吸気バルブ23の開弁タイミングTSよりも後のタイミングにしてもよい。例えば、目標噴射量Qsが許容噴射量Qvよりも相応に少ない場合、第1開始タイミングV1Aを、吸気バルブ23の開弁タイミングTSよりも後のタイミングにしても次のことが可能である。すなわち、吸気バルブ23の開弁中U2に目標噴射量Qsの水を水噴射弁14から噴射しきることが可能である。
【0064】
・水供給機構70の構成は、上記実施形態の例に限定されない。水供給機構70は、水噴射弁14に対する水圧WPを適切に調整できるように構成されていればよい。例えば、上記実施形態のように分岐通路75毎にリターン通路79を設けることに代えて、水供給機構70においてリターン通路を1つのみにしてもよい。それとともに、水供給機構70において調整バルブ76を1つのみとしてもよい。この場合、上記実施形態と同様にしてタンク78から延びる供給通路74の途中にポンプ77を設けるとともに、供給通路74から各分岐通路75を分岐させる。その上で、供給通路74における、ポンプ77よりも下流側且つ各分岐通路75への分岐箇所よりも上流側の部分と、タンク78とを、リターン通路で接続する。そして、リターン通路の途中に調整バルブ76を設ける。この場合、調整バルブ76の開度Dに応じて、供給通路74における、ポンプ77よりも下流側の水の圧力が変わる。それに伴い、全ての水噴射弁14に対する水圧WPが変わる。このようにして、全ての水噴射弁14に対して共通の調整バルブを設け、その調整バルブによって全ての水噴射弁14に対する水圧WPを一括して変更してもよい。目標水量マップM1における目標噴射量Qsの設定等との兼ね合いで、ある気筒11に対して第1噴射処理を実行する期間と、別の気筒11で第2噴射処理を実行する期間とが重ならないことが予め判っているのであれば、上記のような態様を採用してもよい。
【0065】
・ポンプ77は、電動モータによって駆動されるものに限定されない。ポンプ77は、例えば、クランクシャフト18で駆動されるタイプのものでもよい。この場合でも、適切な水圧WPを得ることができるように、ポンプ77の駆動状態に合わせて調整バルブ76の開度Dを調整すればよい。
【0066】
・調整バルブ76の構成は、上記実施形態の例に限定されない。調整バルブ76は、水圧WPを変更できる構成であればよい。調整バルブ76として、例えばボールバルブを採用してもよい。
【0067】
・圧力調整装置は、上記実施形態の例に限定されない。例えば、ポンプ77の吐出量と調整バルブ76の開度Dとの双方を変更することで水圧WPを変更してもよい。この場合、ポンプ77と調整バルブ76とが圧力調整装置を構成する。また、例えば、ポンプ77の吐出量のみを変更することで水圧WPを変更してもよい。この場合、ポンプ77が圧力調整装置を構成する。圧力調整装置は、ポンプ、バルブ以外のものでもよい。圧力調整装置は、水圧WPを適切に変更できるものであればよい。制御装置100は、圧力調整装置の構成に合わせて、対象となる圧力調整装置を適宜制御すればよい。圧力調整装置の構成によっては、水圧センサ30の検出値を参照しつつ、適切な水圧WPを実現できるように当該圧力調整装置をフィードバック制御してもよい。
【0068】
・到達期間Lは、固定値でなく、例えば吸気の量GA等に応じて可変に設定してもよい。到達期間Lを「0」にしてもよい。この場合でも、目標噴射量Qsのうちの概ねの量の水は気筒11内に至る。
【0069】
・目標水量マップM1の内容は、上記実施形態の例に限定されない。目標水量マップM1は、機関運転状態に応じて、気筒11内を必要な分だけ冷却する上で必要な水を噴射できるように設定してあればよい。
【0070】
・吸気バルブ23が開弁タイミングTSとなるクランク位置Scrを把握する手法は、上記実施形態の例に限定されない。例えばクランクポジションセンサ34、及び吸気カムポジションセンサ36の検出値を利用して吸気バルブ23の開弁タイミングTSとなるクランク位置Scrを把握してもよい。吸気バルブ23が開弁タイミングTSとなるクランク位置Scrを適切に把握できるのであれば、その手法は問わない。吸気バルブ23が閉弁タイミングTCとなるクランク位置Scrについても同様である。
【0071】
・内燃機関10の全体構成は、上記実施形態の例に限定されない。例えば、気筒11の数を変更してもよい。内燃機関10は、水噴射弁14と、吸気バルブ23と、圧力調整装置とを有していればよい。
【0072】
・気筒11毎の水噴射弁14の数は、上記実施形態の例に限定されない。例えば、
図6に示すように、1つの気筒11につき2つの水噴射弁14を設けてもよい。そして、吸気ポート12Aを介して1つの気筒11に対して2つの水噴射弁14から水を噴射させてもよい。以下ではこれら2つの水噴射弁14を第1水噴射弁14A及び第2水噴射弁14Bと呼称する。1つの気筒11につき第1水噴射弁14Aと第2水噴射弁14Bを設ける場合、次のような態様を採用してもよい。すなわち、第1水噴射弁14Aと第2水噴射弁14Bとに別々の水圧WPの水を供給するように水供給機構70Aを構成しておく。具体的には、第1水噴射弁14Aには、タンク78から延びる第1通路171を接続する。また、第2水噴射弁14Bには、タンク78から延びる第2通路172を接続する。第1通路171の途中には、第1圧力調整装置191として、例えば第1ポンプを設ける。また、第2通路172の途中には、第2圧力調整装置192として、例えば第2ポンプを設ける。そして、制御装置100は、第1水噴射弁14Aに供給する水圧WPが上記第1値WP1となるように第1ポンプの駆動を制御する。また、制御装置100は、第2水噴射弁14Bに供給する水圧WPが第1値WP1より大きい上記第2値WP2となるように第2ポンプの駆動を制御する。そして、制御装置100は、第1水噴射弁14Aを第1噴射処理専用の水噴射弁14として利用し、第2水噴射弁14Bを第2噴射処理専用の水噴射弁14として利用する。この構成の場合、上記実施形態のように共通の水噴射弁14で第1噴射処理と第2噴射処理との双方を行う場合とは異なり、それぞれの噴射処理の実行に合わせて圧力調整装置によって水圧WPを変更する必要がない。したがって、水圧WPの変更のための規定期間Kを設けなくても、第2噴射処理を実行する全期間と第1噴射処理を実行する全期間とで別々の噴射圧を利用できる。つまり、2つの噴射処理の全期間で別々の噴射圧を利用しつつ、第2噴射処理と第1噴射処理とを連続させることができる。なお、
図6では、気筒11を1つのみ示しているが、別の気筒11についても同様にして1つの気筒11に対して第1水噴射弁14Aと第2水噴射弁14Bとを設ければよい。そして、他の気筒11に対応する第1水噴射弁14Aには、第1通路171における第1圧力調整装置191よりも下流側から分岐した第1分岐通路181を接続すればよい。他の気筒11に対応する第2水噴射弁14Bには、第2通路172におけるから第2圧力調整装置192よりも下流側から分岐した第2分岐通路182を接続すればよい。なお、気筒11毎の水噴射弁14を複数にする場合における水供給機構の構成は、
図6に示す例に限定されない。適切な水圧WPの水を各水噴射弁14に供給できるように水供給機構を構成すればよい。
【0073】
・車両300の全体構成は、上記実施形態の例に限定されない。車両300は、例えば、当該車両300の駆動源として内燃機関10のみならず発電電動機を有していてもよい。
【0074】
・第1噴射処理で水噴射弁14から噴射させる水の量は、上記実施形態の例に限定されない。第2噴射処理で水噴射弁14から噴射させる水の量も、上記実施形態の例に限定されない。例えば、許容噴射量Qvが目標噴射量Qs未満である場合において、第1噴射処理で水噴射弁14から噴射させる水の量を許容噴射量Qvより少なくしてもよい。そして、その分、第2噴射処理で水噴射弁14から噴射させる設定噴射量Qrを多くしてもよい。
【0075】
・ある燃焼サイクルの第2噴射処理と、別の燃焼サイクルの第1噴射処理との比較において、これらで互いに水圧WPが異なっていることも粗大水滴の形成回避において有効である。こうした点を考慮して、例えば次のような構成を採用することも考えられる。ある燃焼サイクルの中で、第1噴射処理と第2噴射処理のうち、第2噴射処理のみを行う。その際、その第2噴射処理の水圧WPを、別の燃焼サイクルにおける第1噴射処理の水圧WPに比べて高くする。
【符号の説明】
【0076】
10…内燃機関
11…気筒
12…吸気通路
14…水噴射弁
23…吸気バルブ
75…調整バルブ
100…制御装置