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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-21
(45)【発行日】2024-10-29
(54)【発明の名称】判定装置、判定システム及び判定方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 22/00 20060101AFI20241022BHJP
   G01N 22/04 20060101ALI20241022BHJP
   G01K 11/12 20210101ALI20241022BHJP
【FI】
G01N22/00 S
G01N22/00 V
G01N22/04 Z
G01K11/12 Z
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2022087115
(22)【出願日】2022-05-27
(65)【公開番号】P2023075010
(43)【公開日】2023-05-30
【審査請求日】2022-12-08
(31)【優先権主張番号】P 2021187852
(32)【優先日】2021-11-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006507
【氏名又は名称】横河電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡田 修平
【審査官】田中 洋介
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-008308(JP,A)
【文献】特開2007-163324(JP,A)
【文献】国際公開第2016/132979(WO,A1)
【文献】特開2011-163998(JP,A)
【文献】国際公開第2022/186308(WO,A1)
【文献】特開2000-162081(JP,A)
【文献】Katsutoshi Hori,SPLIT-RING-SHAPED BIODEGRADABLE pH SENSOR FOR WIRELESS AND BATTERY-FREE MONITORING OF AGRICULTURAL FIELDS,Transducers 2021 Virtual Conference,2021年06月20日,No.B5-517c,pp.863-866
【文献】堀克紀,生分解性材料を用いた土壌pHワイヤレスセンサ,日本機械学会関東支部 第27期総会・講演会 講演論文集,2021年03月03日,No.210-1,pp.11B14-1~4
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 22/00-22/04
G01K 11/00-11/324
G01N 21/00-21/958
G01N 27/00-27/24
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物に設けられたメタマテリアルに向けた電磁波の発信、及び、前記メタマテリアルを透過した又は前記メタマテリアルで反射した前記電磁波の受信を制御する制御部と、
受信した前記電磁波から得られる取得データと、参照データとに基づいて、前記対象物の状態を判定する判定部と、
を備え、
前記メタマテリアルは、前記電磁波に対する透過又は反射の周波数特性が前記対象物の状態によって変化するように、複数の構造体を含んで構成され、
前記電磁波は、サブテラヘルツ帯域の周波数であって、
前記対象物の状態は、前記対象物の水分状態を含み、
前記メタマテリアルは、鉄であって、水分に晒されることによって腐食または変形し
前記判定部は、前記対象物の水没の有無を判定する、
判定装置。
【請求項2】
前記取得データは、スペクトルを含み、
前記参照データは、参照スペクトルを含み、
前記判定部は、前記スペクトルと前記参照スペクトルとの差分に基づいて、前記対象物の状態を判定する、
請求項1に記載の判定装置。
【請求項3】
前記差分は、スペクトルの特徴量の差分であり、
前記特徴量は、ピーク強度、ピーク周波数及びベースライン強度の少なくとも1つを含む、
請求項2に記載の判定装置。
【請求項4】
前記メタマテリアルは、カプセル化されている、
請求項1~3のいずれか1項に記載の判定装置。
【請求項5】
前記メタマテリアルは、前記対象物に埋め込まれている、
請求項1~3のいずれか1項に記載の判定装置。
【請求項6】
前記対象物は、部材どうしの接着部分である、
請求項1~3のいずれか1項に記載の判定装置。
【請求項7】
前記取得データは、スペクトルの特徴量を含み、
前記参照データは、スペクトルの特徴量から湿度を算出する参照式を含み、
前記判定部による判定は、前記取得データに含まれるスペクトルの特徴量と、前記参照式とを用いて、前記対象物の湿度を算出することを含む、
請求項1~3のいずれか1項に記載の判定装置。
【請求項8】
前記メタマテリアルは、前記対象物の状態によって導電率及び誘電率の少なくとも一方が変化する、
請求項1~3のいずれか1項に記載の判定装置。
【請求項9】
前記対象物の状態は、前記対象物の水分状態を含み、
前記判定部は、部材どうしの接着部分である前記対象物の水分状態を判定することによって、前記部材どうしの接着状態を判定する、
請求項1~3のいずれか1項に記載の判定装置。
【請求項10】
対象物の状態を判定する判定装置と、
前記対象物に設けられたメタマテリアルと、
を備え、
前記判定装置は、
前記メタマテリアルに向けた電磁波の発信、及び、前記メタマテリアルを透過した又は前記メタマテリアルで反射した前記電磁波の受信を制御する制御部と、
受信した前記電磁波から得られる取得データと、参照データとに基づいて、前記対象物の状態を判定する判定部と、
を含み、
前記メタマテリアルは、前記電磁波に対する透過又は反射の周波数特性が前記対象物の状態によって変化するように、複数の構造体を含んで構成され、
前記電磁波は、サブテラヘルツ帯域の周波数であって、
前記対象物の状態は、前記対象物の水分状態を含み、
前記メタマテリアルは、鉄であって、水分に晒されることによって腐食または変形し
前記判定部は、前記対象物の水没の有無を判定する、
判定システム。
【請求項11】
対象物に設けられたメタマテリアルに向けて電磁波を発信することと、
前記メタマテリアルを透過した又は前記メタマテリアルで反射した前記電磁波を受信することと、
受信した前記電磁波から得られる取得データと、参照データとに基づいて、前記対象物の状態を判定することと、
を含み、
前記メタマテリアルは、前記電磁波に対する透過又は反射の周波数特性が前記対象物の状態によって変化するように、複数の構造体を含んで構成され、
前記電磁波は、サブテラヘルツ帯域の周波数であって、
前記対象物の状態は、前記対象物の水分状態を含み、
前記メタマテリアルは、鉄であって、水分に晒されることによって腐食または変形し
前記対象物の水没の有無を判定する、
判定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、判定装置、判定システム及び判定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
温度状態判定等に関するさまざまな技術が提案されている。例えば特許文献1には、半導体素子を利用する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2018/211554号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば対象物の内部のようなアクセス困難な箇所の温度状態判定に課題が残る。温度状態判定に限らず、さまざまな状態判定についても同様である。本発明の一側面は、状態判定箇所の自由度を高めることを可能にする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
一側面に係る判定装置は、対象物に設けられたメタマテリアルに向けた電磁波の発信、及び、メタマテリアルを透過した又はメタマテリアルで反射した電磁波の受信を制御する制御部と、受信した電磁波から得られる取得データと、参照データとに基づいて、対象物の状態を判定する判定部と、を備え、メタマテリアルは、電磁波に対する透過又は反射の周波数特性が対象物の状態によって変化するように、複数の構造体を含んで構成され、対象物の状態は、温度状態及び水分状態の少なくとも一方を含む。
【0006】
一側面に係る判定システムは、対象物の状態を判定する判定装置と、対象物に設けられたメタマテリアルと、を備え、判定装置は、メタマテリアルに向けた電磁波の発信、及び、メタマテリアルを透過した又はメタマテリアルで反射した電磁波の受信を制御する制御部と、受信した電磁波から得られる取得データと、参照データとに基づいて、対象物の状態を判定する判定部と、を含み、メタマテリアルは、電磁波に対する透過又は反射の周波数特性が対象物の状態によって変化するように、複数の構造体を含んで構成され、対象物の状態は、温度状態及び水分状態の少なくとも一方を含む。
【0007】
一側面に係る判定方法は、対象物に設けられたメタマテリアルに向けて電磁波を発信することと、メタマテリアルを透過した又はメタマテリアルで反射した電磁波を受信することと、受信した電磁波から得られる取得データと、参照データとに基づいて、対象物の状態を判定することと、を含み、メタマテリアルは、電磁波に対する透過又は反射の周波数特性が対象物の状態によって変化するように、複数の構造体を含んで構成され、対象物の状態は、温度状態及び水分状態の少なくとも一方を含む。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、状態判定箇所の自由度を高めることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施形態に係る判定装置を含む判定システムの概略構成の例を示す図である。
図2】メタマテリアルの概略構成の例を示す図である。
図3】メタマテリアルの周波数特性の例を示す図である。
図4】メタマテリアルの変形の例を示す図である。
図5】メタマテリアルの周波数特性の変化の例を示す図である。
図6】判定装置の概略構成の例を示す図である。
図7】取得データの例を示す図である。
図8】参照データの例を示す図である。
図9】判定装置において実行される処理(判定方法)の例を示すフローチャートである。
図10】判定装置において実行される処理(判定方法)の例を示すフローチャートである。
図11】メタマテリアルの変形の例を示す図である。
図12】メタマテリアルの周波数特性の変化の例を示す図である。
図13】カプセル化されたメタマテリアルの例を示す図である。
図14】対象物の例を示す図である。
図15】判定装置の概略構成の例を示す図である。
図16】メタマテリアルの概略構成の例を示す図である。
図17】判定システムの概略構成の例を示す図である。
図18】メタマテリアルの腐食の例を示す図である。
図19】メタマテリアルの周波数特性の変化の例を示す図である。
図20】メタマテリアルの腐食及び変形の例を示す図である。
図21】判定装置において実行される処理(判定方法)の例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しつつ実施形態について説明する。同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明は適宜省略する。
【0011】
図1は、実施形態に係る判定装置を含む判定システムの概略構成の例を示す図である。判定システム100では、対象物3の状態が判定される。状態の例は、温度状態、水分状態等であり、以下では、温度状態を例に挙げて説明する。対象物3は、後述の電磁波をある程度透過させる物であればよく、固体、液体及び気体のいずれであってもよい。対象物3の一例は、樹脂、コンクリート、接着剤等である。
【0012】
判定システム100は、判定装置1と、メタマテリアル2とを含む。メタマテリアル2は、対象物3に設けられ、この実施形態では、対象物3に熱的に接触するように設けられる。熱的に接触するとは、例えば、メタマテリアル2の温度が対象物3の温度と実質的に同じになるように設けられることを意味する。メタマテリアル2は、少なくとも一部が対象物3の内部に位置するように、対象物3に埋め込まれてもよい。図1に示される例では、メタマテリアル2は、全部が対象物3内に位置するように、対象物3に埋め込まれている。図1には、メタマテリアル2及び対象物3に関するXYZ座標系が示される。この例では、メタマテリアル2及び対象物3は、X軸、Y軸及びZ軸それぞれに長さを有する立方体で模式的に図示される。ただし、メタマテリアル2及び対象物3の形状は、図1に例示される形状に限定されない。
【0013】
判定装置1には、発信器11及び受信器12が接続される。発信器11及び受信器12は、判定装置1の構成要素であってもよいし、判定装置1の構成要素でなくてもよい。図1に示される例では、発信器11及び受信器12は、メタマテリアル2及び対象物3を挟んで互いに反対側に配置される。
【0014】
発信器11は、メタマテリアル2に電磁波が照射されるように、メタマテリアル2に向けて電磁波を発信する。電磁波の周波数の例は、数百GHz~数THzであり、より特定的には数百GHz程度のサブテラヘルツ帯域の周波数であってよい。発信器11は、例えば、高周波信号を電磁波として放射するアンテナ、高周波信号の生成、増幅、フィルタリングを行うための回路等を含んで構成される。
【0015】
受信器12は、発信器11によって発信され、メタマテリアル2を透過した電磁波を受信する。受信器12は、例えば、電磁波を高周波信号として受信するアンテナ、高周波信号の増幅、フィルタリング等を行うための回路等を含んで構成される。
【0016】
なお、発信器11及び受信器12の配置は、判定装置1のユーザ等が手動で行ってもよいし、ロボット等が自動で行ってもよい。判定装置1のさらなる詳細は後述する。
【0017】
メタマテリアル2は、周波数特性を有する。周波数特性の例は、電磁波に対する透過の周波数特性(透過スペクトル)、電磁波に対する反射の周波数特性(反射スペクトル)等である。
【0018】
図2は、メタマテリアルの概略構成の例を示す図である。メタマテリアル2は、複数の構造体21を含む。構造体21は、例えば電磁波の波長以下の寸法を有する微細なエレメントである。構造体21の材料の例は、導電性材料であり、具体的には金属等である。金属は、2種類以上の金属を含む合金であってもよい。
【0019】
図2に示される例では、複数の構造体21は、3次元状に等間隔に、且つ、各構造体21の向きが揃うように、整列して配列される。ただし、構造体21の配置は、図2に示される例に限定されない。複数の構造体21は、2次元状に配置されてもよい。複数の構造体21は、間隔がランダム、向きがランダム、又は間隔及び向きがランダムとなるように配置されてもよい。
【0020】
複数の構造体21が、メタマテリアル2の周波数特性を与える。構造体21は、レゾネータ(共振器)であってよい。図2に示される例では、構造体21は、スプリットリングレゾネータである。構造体21は、リング形状の一部にギャップが設けられたC型リング形状を有する。構造体21の電気特性は、例えばコイルとコンデンサとの並列回路で表される。並列回路の共振周波数において、電磁波の透過率が最も小さくなる(ボトムになる)。換言すれば、反射率が最も大きくなる(ピークになる)。このような透過率や反射率のボトムやピークが、メタマテリアル2の周波数特性に現れる。
【0021】
図3は、メタマテリアルの周波数特性の例を示す図である。グラフの横軸は周波数fを示し、グラフの縦軸は透過率ηを示す。例示される周波数特性には、透過率ηの1つのボトムが現れる。だたし、メタマテリアル2の構造や着目する帯域によっては、透過率ηのボトムではなくピークが現れることも想定される。また、反射に着目すると、反射率のボトムやピークが現れることも想定される。以下、透過や反射におけるピークやボトムを単に「ピーク」と称する。矛盾の無い範囲において、ピークは、ボトムを含む意味に解されてよく、また、ボトムに適宜読み替えられてよい。
【0022】
ピークを、ピークpと称し図示する。ピークpにおける透過率η及び周波数fを、ピーク透過率ηp及びピーク周波数fpと称し図示する。また、ベースラインの透過率ηを、ベースライン透過率ηbと称し図示する。ベースライン透過率透過率ηbは、ピークp及びその裾野部分を除く周波数fにおける透過率ηに相当する。
【0023】
なお、1つの周波数特性に複数のピークpが現れてもよい。例えば、メタマテリアル2を構成する各構造体21の共振周波数を異ならせることで、異なる共振周波数に対応する複数のピークpが現れる。
【0024】
温度状態判定用の実施形態では、メタマテリアル2は、温度特性(熱特性)を有するように構成される。温度特性は、温度による電気特性の変化を指し示す。電気特性の変化の例は、インピーダンス等の変化である。以下では、メタマテリアル2の電気特性の変化が、メタマテリアル2の変形によってもたらされる場合を例に挙げて説明する。メタマテリアル2の変形は、各構造体21の膨張、収縮、融解等による変形を含み得る。メタマテリアル2の変形により、メタマテリアル2の周波数特性も変化する。
【0025】
図4は、メタマテリアルの変形の例を示す図である。メタマテリアル2の融解による変形の例が示される。具体的なメタマテリアル2の融点は、用途等に応じて適宜設計される。融点は、例えば50℃程度の低融点であってもよい。
【0026】
図4の(A)には、変形前のメタマテリアル2が模式的に示される。図4の(B)には、変形後のメタマテリアル2が模式的に示される。メタマテリアル2の温度、すなわち対象物3の温度がメタマテリアル2の融点を超えると、メタマテリアル2が融解して変形する。例えば図4の(B)に示されるように、各構造体21が面方向(XZ平面方向やYZ平面方向)に広がるように変形し、メタマテリアル2は平面を有する形状になる。その結果、メタマテリアル2の周波数特性は、ほぼ全周波数範囲の電磁波を反射するように変化する。
【0027】
図5は、メタマテリアルの周波数特性の変化の例を示す図である。実線グラフ線は、変形前のメタマテリアル2(例えば図4の(A))の周波数特性を示す。破線グラフ線は、変形後のメタマテリアル2(例えば図4の(B))の周波数特性を示す。周波数特性の変化により、ピークに関する値、例えば先に説明した図3のピーク透過率ηp、ピーク周波数fp及びベースライン透過率ηbも変化する。
【0028】
図1に戻り、判定装置1は、上述のようなメタマテリアル2の温度による周波数特性の変化を利用して、対象物3の温度を判定する。
【0029】
図6は、判定装置の概略構成の例を示す図である。判定装置1は、制御部13と、演算部14と、判定部15と、入出力部16と、記憶部17とを含む。
【0030】
先に入出力部16及び記憶部17について簡単に説明する。入出力部16は、判定装置1のユーザに情報を提示したり、ユーザによる判定装置1の操作を受け付けたりする。入出力部16は、ユーザインタフェース部ともいえる。
【0031】
記憶部17は、判定装置1で用いられる情報を記憶する。記憶部17に記憶される情報として、参照データ171及びプログラム172が例示される。参照データ171については後述する。プログラム172は、判定装置1での処理をコンピュータに実行させるプログラム(ソフトウェア)である。判定装置1は、例えば、汎用のコンピュータをプログラム172に従って動作させることによって実現される。コンピュータは、例えば、バス等で相互に接続される通信装置、表示装置、記憶装置、メモリ及びプロセッサ等を含んで構成される。プロセッサが、プログラム172を記憶装置等から読み出してメモリに展開することで、コンピュータを、判定装置1として機能させる。なお、プログラム172は、インターネットなどのネットワークを介して配布されてもよい。プログラム172は、ハードディスク、フレキシブルディスク(FD)、CD-ROM、MO(Magneto-Optical disk)、DVD(Digital Versatile Disc)などのコンピュータで読み取り可能な記録媒体に記録されてもよい。なお、当然ながら、汎用のコンピュータではなく、プログラム172に従って動作する専用のハードウェアが用いられてもよい。
【0032】
制御部13は、判定装置1の各要素を制御することによって、判定装置1の全体を制御する。例えば、制御部13は、発信器11を制御することにより、メタマテリアル2に向けた電磁波の発信を制御する。例えば、発信器11によって発信される電磁波の周波数や強度、発信器11のオン、オフ(電磁波の発信タイミング)等が制御される。制御部13は、受信器12を制御することにより、メタマテリアル2を透過した電磁波の受信を制御する。例えば、受信器12のオン、オフ(電磁波の受信タイミング)等が制御される。
【0033】
演算部14は、受信器12によって受信された電磁波に基づいて演算を行う。演算部14での演算により、受信器12によって受信された電磁波からさまざまなデータが得られる(構築される)。こうして得られたデータを、取得データ141と称し図示する。
【0034】
図7は、取得データの例を示す図である。この例では、取得データ141は、スペクトル141aを含む。スペクトル141aは、受信器12によって受信された電磁波の周波数スペクトルである。グラフの横軸は周波数fを示し、グラフの縦軸は強度を示す。例えば、演算部14は、電磁波の時間波形をフーリエ変換することによってスペクトル141aを取得する。フーリエ変換の例は、離散フーリエ変換等である。
【0035】
電磁波の時間波形を得る手法はとくに限定されないが、例えばTDS(時間領域分光法(Time domain spectro-scopy))が用いられてよい。電磁波の周波数がTHzオーダーの高い周波数である場合にとくに有用である。TDSが用いられる場合の電磁波は、パルス波である。発信器11は、パルス波のメタマテリアル2までの経路長を変化させつつ、パルス波を繰り返し発信する。受信器12は、メタマテリアル2を透過したパルス波を繰り返し受信する。受信器12によって受信された各パルス波の測定結果を合成することで、時間波形が得られる。
【0036】
メタマテリアル2の周波数特性が温度によって変化し得るので、得られるスペクトル141aも、メタマテリアル2の温度によって異なり得る。図7には、2通りのスペクトル141aが例示される。左側のスペクトル141aには、変形前のメタマテリアル2の周波数特性(例えば図4の(A)及び図5の実線グラフ線)が反映されている。右側のスペクトル141aには、変形後のメタマテリアル2の周波数特性(例えば図4の(B)及び図5の破線グラフ線)が反映されている。
【0037】
スペクトルには、いくつかの特徴量が現れる。図7には、特徴量として、ピーク強度Lp、ピーク周波数fp及びベースライン強度Lbが例示される。ピーク周波数fpは、先に説明したメタマテリアル2の周波数特性におけるピーク周波数fpと同じである。ピーク強度Lpは、ピーク周波数fpにおけるスペクトルの強度である。ベースライン強度Lbは、スペクトルのベースラインの強度であり、ピークp及びその裾野部分を除く周波数fにおけるスペクトルの強度に相当する。
【0038】
図6に戻り、判定部15は、取得データ141と、参照データ171とに基づいて、対象物3の温度状態を判定する。先に述べたように、参照データ171は、記憶部17に記憶されている。図8を参照して説明する。
【0039】
図8は、参照データの例を示す図である。この例では、参照データ171は、参照スペクトル171aと、参照式171bとを含む。
【0040】
参照スペクトル171aは、周波数特性が変化する前の(初期状態の)メタマテリアル2を透過した電磁波が受信器12で受信された場合に得られるスペクトルを示す。参照スペクトル171aのピーク強度Lpを、ピーク強度Lprefと称し図示する。ピーク周波数fpを、ピーク周波数fprefと称し図示する。ベースライン強度Lbを、ベースライン強度Lbrefと称し図示する。
【0041】
参照スペクトル171aは、基準温度(常温、室温等)でのスペクトルであってよい。参照スペクトル171aは、発信器11、受信器12及びメタマテリアル2の設計データ、シミュレーションデータ、実測データ等に基づいて予め準備される。実測データは、メタマテリアル2が対象物3に対して設けられ、且つ、判定装置1の発信器11や受信器12がメタマテリアル2及び対象物3に対して配置された段階で実際に測定されたデータであってもよい。設計データやシミュレーションデータからでは正確な予測等が難しい場合でも、正確な参照スペクトル171aが得られる。
【0042】
参照式171bは、対象物3の温度を算出するために用いられる。図8には、参照式171bとして、以下の式(1)~式(3)が例示される。式中のTは、温度を示す。g1~g3は、カッコ内の変数を引数とする関数である。式(1)は、ピーク強度Lpから温度Tを算出する参照式171bである。式(2)は、ピーク周波数fpから温度Tを算出する参照式171bである。式(3)は、ベースライン強度Lbから温度Tを算出する参照式171bである。
T=g1(Lp) (1)
T=g2(fp) (2)
T=g3(Lb) (3)
【0043】
関数g1~関数g3の具体的な形態はとくに限定されない。スペクトルの特徴量とメタマテリアル2の温度との間に関連性(相関関係等)が存在し、その関係性が数式で近似等しやすいほど、対象物3の温度を精度よく算出できるようになる。
【0044】
図6に戻り、判定部15による判定は、対象物3の温度状態変化の有無、より具体的には温度異常の有無を判定することを含んでよい。なお、とくに説明がある場合を除き、温度状態変化は、温度上昇を指し示すものとする。例えば、判定部15は、スペクトル141aと、参照スペクトル171aとの差分に基づいて、対象物3の温度状態変化の有無を判定する。判定は、対象物3の温度が閾値以上であるか否かの閾値判定であってよい。
【0045】
判定に用いられる差分は、特徴量の差分であってよい。差分は、参照スペクトル171aを基準としたときの、スペクトル141aの変化量ともいえる。例えば、スペクトル141aのピーク強度Lp、ピーク周波数fp及びベースライン強度Lbの少なくとも1つと、参照スペクトル171aの対応する特徴量との差分に基づいて、対象物3の温度状態変化の有無が判定される。
【0046】
判定部15は、差分が閾値よりも大きい場合に、対象物3の温度状態変化が有ると判定してよい。例えば、下記の式(4)~式(6)のうちの1つ以上の判定式が成立する場合に、温度状態変化が有ると判定される。式中のε1~ε3は、閾値の例である。閾値ε1~閾値ε3は、判定システム100の設計条件等に応じて適宜設定されてよい。例えば、発信器11の出力(電磁波強度、発信周波数等)の再現性や、受信器12による受信(受信強度、受信周波数等)の再現性におけるずれを吸収するように設定される。
|Lp-Lpref|>ε1 (4)
|fp-fpref|>ε2 (5)
|Lb-Lbref|>ε3 (6)
【0047】
例えば、先に説明した図7の左側に示されるスペクトル141aの場合には、差分が小さいので、上記の式(4)~式(6)はいずれも成立せず、対象物3の温度状態変化は無いと判定される。逆に、先に説明した図7の右側に示されるスペクトル141aの場合には、差分が大きいので、上記の式(4)~式(6)の少なくとも1つが成立し、対象物3の温度状態変化が有ると判定される。例えば先に説明した図4の(B)のようにメタマテリアル2の周波数特性がほぼ全周波数範囲の電磁波を反射するように変化する場合には、ベースライン強度Lbの差分から温度異常の有無が判断されてよい。
【0048】
判定部15による判定は、対象物3の温度の算出を含んでよい。例えば、判定部15は、上述の差分に基づいて、対象物3の温度を算出する。差分が大きくなるほど、対象物3の温度が基準から離れるという関係性に基づいて、対象物3の温度を算出できる。上述の参照式171bが用いられてよい。判定部15は、スペクトル141aの特徴量と、参照式171bとに基づいて、対象物3の温度を算出する。例えば、判定部15は、ピーク強度Lpを上述の式(1)に代入することによって得られるTを、対象物3の温度として算出する。ピーク周波数fp及び式(2)が用いられてもよいし、ベースライン強度Lb及び式(3)が用いられてもよい。
【0049】
判定部15による判定が、対象物3の温度の算出を含み得るので、この意味において、判定部15は、測定部(又は算出部)とも呼ぶことができる。判定装置1は、測定装置とも呼ぶことができる。判定システム100は、測定システムとも呼ぶことができる。測定は推定の意味に解されてもよい。
【0050】
入出力部16は、判定部15の判定結果を出力する。例えば、判定部15によって判定された対象物3の温度異常の有無や、判定部15によって算出された対象物3の温度が、図示しないディスプレイを介して表示され、判定装置1のユーザに知らされる。
【0051】
入出力部16は、対象物3の温度異常を知らせるためのアラームを発動してもよい。アラームの例は、ランプ点灯、音出力等である。対象物3の温度異常をより確実にユーザに知らせることができる。なお、入出力部16は、判定部15の判定結果を、図示しないネットワーク等を介して外部の装置に送信してもよい。
【0052】
図9及び図10は、判定装置において実行される処理(判定方法)の例を示すフローチャートである。とくに説明がある場合を除き、各処理は、制御部13の制御のもとで実行される。なお、前提として、対象物3にはメタマテリアル2が設けられ、また参照データ171が予め準備され記憶部17に記憶されているものとする。発信器11及び受信器12は、対象物3に対して配置されている。
【0053】
図9を参照すると、ステップS1において、発信器11は、対象物3に設けられたメタマテリアル2に向けて電磁波を発信する。ステップS2において、受信器12は、メタマテリアル2を透過した電磁波を受信する。電磁波が受信された後、発信器11による電磁波の発信は停止される。
【0054】
ステップS3において、演算部14は、取得データ141を得る。ステップS4において、判定部15は、取得データ141と参照データ171とに基づいて、対象物3の温度状態を判定する。ステップS5において、入出力部16は、判定部15の判定結果を出力する。その後、フローチャートの処理は終了する。具体例が、図10において、ステップS3A~ステップS5Aとして示される。
【0055】
図10を参照すると、ステップS3Aにおいて、演算部14は、スペクトル141aを得る。例えば、演算部14は、受信器12によって受信された電磁波の時間波形をフーリエ変換し、それによってスペクトル141aを構築する。ステップS4Aにおいて、判定部15は、スペクトル141aと参照スペクトル171aとの間に差異があるか否かを判定する。例えば、判定部15は、両スペクトルの特徴量の差分が閾値よりも大きい場合に、差異があると判定する。差異がある場合(ステップS4A:Yes)、ステップS5Aに処理が進められる。そうでない場合(ステップS4A:No)、フローチャートの処理は終了する。ステップS5Aにおいて、入出力部16は、温度異常アラームを発動する。その後、フローチャートの処理は終了する。
【0056】
なお、先のステップS4において、対象物3の温度が算出されてもよい。その場合には、例えば、判定部15は、先に説明したようにスペクトル141aの特徴量と、参照式171bと用いて、対象物3の温度を算出する。
【0057】
例えば以上のようにして、メタマテリアル2が設けられた対象物3の温度状態が判定される。温度異常判定等のアプリケーションであれば、温度状態判定だけで足り、温度算出までは不要である。温度算出を行う場合には、例えば数℃レベルの精度が得られる。
【0058】
以上で説明した判定システム100によれば、メタマテリアル2を設けることのできるさまざまな箇所の温度状態判定が可能である。すなわち、温度状態判定箇所の自由度が高められる。例えば、対象物3の内部のような、環境的にアクセス困難な箇所や電子機器等の設置が困難な箇所の温度状態判定も可能である。また、対象物3の深部の温度状態判定も可能である。対象物3に対する配線等が不要になるので、非破壊による温度状態判定も可能である。配線等を用いると、1つの箇所での欠陥が他の箇所での温度状態判定にも影響し得るが、そのようなリスクも回避される。配線のわずらわしさも解放される。例えば冒頭で述べた特許文献1の技術からでは得ることが困難なさまざまなメリットが、判定システム100によってもたらされる。
【0059】
他の技術として、例えば、遠赤外線を利用するサーマルカメラが知られているが、表面から放射される遠赤外線を利用するため、深部の温度状態判定は行えない。光ファイバを用いる技術も知られているが、ファイバの切断が発生すると、それ以降の位置における温度状態判定が出来なくなる。また、敷設に関して場所や構造物の制約を受ける場合がある。このような課題も、判定システム100によって対処され得る。
【0060】
<他の実施形態>
開示される技術は、上記の実施形態に限定されない。他の実施形態のいくつかの例について説明する。
【0061】
上記実施形態では、メタマテリアル2が融解して変形する場合を例に挙げて説明した。ただし、融解以外の他の変形も可能である。他の変形の例は、メタマテリアル2の材料の形状記憶に基づく変形である。メタマテリアル2の材料は、形状記憶合金であってよい。形状記憶合金は、温度によって、構造体21のリング形状のギャップの距離が変化するように形状記憶されていてよい。例えばメタマテリアル2の温度が所定温度を上回ると、ギャップの距離が大きくなるように設計される。熱膨張係数の異なる2種類以上の材料が用いられてもよい。ギャップの距離が変化することで、構造体21の等価回路のコンデンサの容量が変化し、共振周波数がシフトする。図11及び図12を参照して説明する。
【0062】
図11は、メタマテリアルの変形の例を示す図である。図11の(A)には、変形前のメタマテリアル2が模式的に示される。図11の(B)には、変形後のメタマテリアル2が模式的に示される。メタマテリアル2の温度が所定温度を超えると、例えば、図11の(B)に示されるように、Cリング形状のギャップが大きくなる。メタマテリアル2の周波数特性も変化する。
【0063】
図12は、メタマテリアルの周波数特性の変化の例を示す図である。実線グラフ線は、変形前のメタマテリアル2(例えば図11の(A))の周波数特性を示す。破線グラフ線は、変形後のメタマテリアル2(例えば図11の(B))の周波数特性を示す。周波数特性の変化により、ピークに関する値、例えば先に説明した図3のピーク透過率ηp、ピーク周波数fp及びベースライン透過率ηbも変化する。これまでに説明した原理により、対象物3の温度状態判定が可能である。例えばピーク強度Lpの差分から温度異常の有無が判断されてよい。
【0064】
一実施形態において、メタマテリアル2はカプセル化されてよい。図13を参照して説明する。
【0065】
図13は、カプセル化されたメタマテリアルの概略構成の例を示す図である。この例では、メタマテリアル2を構成する複数の構造体21それぞれが、対応するカプセル22に収容される。カプセル22の材料の例は、樹脂等である。構造体21と対象物3との直接接触が回避され、構造体21の変形が制限されにくくなる。温度によるメタマテリアル2の周波数特性の変化をより確実に生じさせることができる。
【0066】
一実施形態において、対象物3は、部材どうしの接着部分であってよい。対象物3の温度状態の判定だけでなく、部材どうしの接着状態も判定可能である。図14及び図15を参照して説明する。
【0067】
図14は、対象物の例を示す図である。互いに接着される部材4及び部材5が例示される。この例では、対象物3は、部材4と部材5との間に位置する接着層である。接着層は、例えば、接着剤が固化(又は硬化)することによって形成される。メタマテリアル2は、接着剤に混ぜ入れられて用いられる。
【0068】
部材4と部材5との接着が十分でないと、振動等によって摩擦が生じ、対象物3の温度が上昇する。この原理に基づき、部材4及び部材5どうしの接着状態の判定が可能である。その場合の判定装置1の構成について、図15を参照して説明する。
【0069】
図15は、判定装置の概略構成の例を示す図である。判定装置1は、振動付与部18をさらに含む。振動付与部18は、対象物3、部材4及び部材5を振動させる。振動付与の具体的な手法はとくに限定されないが、例えば超音波出力による振動付与技術が用いられてよい。その場合、振動付与部18は、振動を付与するための超音波を、対象物3、部材4及び部材5に向けて出力する。
【0070】
判定部15は、振動付与部18によって振動が付与されている間、又は付与された後で、対象物3の温度状態を判定し、さらに、部材4及び部材5どうしの接着状態を判定する。例えば、判定部15は、対象物3の温度状態変化が有ると判定した場合に、接着状態が十分でないと判定する。これにより、接着不良の非破壊検知が可能になる。
【0071】
なお、上記では、対象物3が部材4と部材5との間の接着層であり、メタマテリアル2がその対象物3すなわち接着層内に配置される場合を例に挙げて説明した。ただし、メタマテリアル2は、部材4及び部材5の少なくとも一方の内部に配置されてもよい。その場合は、部材4及び部材5の少なくとも一方が、メタマテリアル2が設けられた対象物3にもなる。メタマテリアル2は、部材4と部材5との接着界面に配置されてもよい。
【0072】
先にも述べたように、メタマテリアル2を構成する複数の構造体21は、2次元状に間隔がランダム、向きがランダム、又は間隔及び向きがランダムとなるように配置されてよい。図16を参照して説明する。
【0073】
図16は、メタマテリアルの概略構成の例を示す図である。各構造体21の配置間隔や配置方向が異なっていたり、構造体21自体の向きが異なっていたりする。整列配置された場合(図2等)と比較して、周波数特性のピークpの鋭さが低下したりベースライン透過率ηbが変動したりし得る。この場合でも、周波数特性が存在し、また、温度によって周波数特性が変化するので、これまで説明した原理を用いて、対象物3の温度状態を判定したり温度を算出したりすることが可能である。なお、複数の構造体21は、3次元状に間隔がランダム、向きがランダム、又は間隔及び向きがランダムとなるように配置されてもよい。
【0074】
スペクトル141aの取得は必須ではない。特定の周波数における受信器12の受信強度だけに基づいて、対象物3の温度状態が判定されてもよい。特定の周波数の例は、参照スペクトル171aのピーク周波数fpであり、これは既知の周波数であってよい。そのピーク周波数fpの電磁波だけが発信器11によって発信され、受信器12によって受信されてよい。演算部14は、受信器12による電磁波の受信強度を、ピーク強度Lpとして取得すればよい。判定部15は、ピーク強度Lpと、参照データ171とに基づいて、対象物3の温度状態を判定したり算出したりしてよい。
【0075】
上記実施形態では、受信器12が、メタマテリアル2を透過した電磁波を受信する場合を例に挙げて説明した。ただし、受信器12は、メタマテリアル2で反射した電磁波を受信してもよい。図17を参照して説明する。
【0076】
図17は、判定システムの概略構成の例を示す図である。発信器11及び受信器12は、いずれもメタマテリアル2に対して同じ側に配置される。受信器12は、発信器11によって発信され、メタマテリアル2で反射した電磁波を受信する。スペクトル141aに示されるスペクトルには、メタマテリアル2の反射スペクトルが反映される。この場合も、これまで説明した原理によって対象物3の温度状態判定が可能である。本開示における「メタマテリアル2を透過した電磁波」は、「メタマテリアル2で反射した電磁波」や「メタマテリアル2を透過した又はメタマテリアル2で反射した電磁波」に適宜読み替えられてよい。
【0077】
メタマテリアル2は、温度により双方向変形してもよい。例えば、形状記憶合金とバネを併用したり、変形開始温度や熱膨張係数の異なる材料を張り合わせたりすることで、双方向の変形が実現される。メタマテリアル2の繰り返しの使用が可能になる。
【0078】
メタマテリアル2の変形は必須ではない。例えば、メタマテリアル2の電気特性が温度によって変化するだけでも、メタマテリアル2の周波数特性が変化し、従って、対象物3の温度状態判定が可能である。
【0079】
メタマテリアル2を構成する構造体21は、スプリットリングレゾネータに限定されない。温度によって変化する周波数特性をメタマテリアル2に与えることが可能なあらゆる構造体が、構造体21として用いられてよい。
【0080】
冒頭でも触れたように、対象物3の状態の別の例は、水分状態である。この場合のメタマテリアル2は、水分によって電気特性が変化するように構成される。例えば、メタマテリアル2は、水分によって導電率及び誘電率の少なくとも一方が変化するように構成される。そのようなメタマテリアル2の材料の例は、金属、樹脂等である。金属の例は、鉄等である。
【0081】
一実施形態において、メタマテリアル2は、水分に晒されることによって腐食し、それによってメタマテリアル2の電気特性が変化してよい。図18及び図19を参照して説明する。
【0082】
図18は、メタマテリアルの腐食の例を示す図である。図18の(A)には、腐食前のメタマテリアル2が模式的に示される。図18の(B)には、腐食後のメタマテリアル2が模式的に示される。メタマテリアル2が水分に晒されて時間が経過すると、例えば図18の(B)に示されるように、メタマテリアル2が腐食する。その結果、メタマテリアル2の導電率が低くなり(共振回路の抵抗値が増大し)、メタマテリアル2の電気特性が変化する。
【0083】
図19は、メタマテリアルの周波数特性の変化の例を示す図である。実線グラフ線は、腐食前のメタマテリアル2(例えば図18の(A))の周波数特性を示す。破線グラフ線は、腐食後のメタマテリアル2(例えば図18の(B))の周波数特性を示す。周波数特性の変化により、ピークに関する値、この例ではとくに先に説明した図3のピーク透過率ηpが変化する。
【0084】
さらに時間が経過してメタマテリアル2の腐食が進行すると、メタマテリアル2は、その形状を維持することが難しくなり、構造が崩壊して変形し得る。図20を参照して説明する。
【0085】
図20は、メタマテリアルの腐食及び変形の例を示す図である。この例では、メタマテリアル2に含まれる複数の構造体21のうちの少なくとも一部の構造体21が崩壊する。これにより、メタマテリアル2が変形し、メタマテリアル2の電気特性がさらに変化する。例えば、ピーク透過率ηpだけでなく、ピーク周波数fp及びベースライン強度Lbも変化し、スペクトル形状に著しい変化が現れる。
【0086】
判定装置1(図6)は、上述のようなメタマテリアル2の周波数特性の変化を利用して、対象物3の水分状態を判定する。水分状態の例は、対象物3の水没の有無、湿度等である。判定は、これまでも説明したように、取得データ141と参照データ171とに基づいて行われる。ここでの参照データ171は、対象物3の水分状態判定用に準備されたデータである。先にも述べたように、参照データ171は、設計データ、シミュレーションデータ、実測データ等に基づいて準備されてよい。
【0087】
参照データ171は、メタマテリアル2の周波数特性が変化する前のデータであってよい。この場合の実測データは、水分状態が変化する前の(初期の)対象物3を用いて実測されたデータであってよい。例えば、判定部15は、スペクトル141aと、参照データ171の参照スペクトル171aとの差分に基づいて、対象物3の水没の有無を判定する。例えば、説明した式(4)~式(6)のうちの1つ以上の判定式が成立する場合に、対象物3の水没が有ると判定される。
【0088】
参照データ171は、メタマテリアル2の周波数特性が変化した後のデータであってもよい。この場合の実測データは、例えば、製造された複数の対象物3のうちの一部の対象物3及びこれに設けられたメタマテリアル2を実際に水没させた後のその対象物3を用いて実測されたデータであってよい。この場合は、差分が閾値よりも小さい場合に、対象物3の水没があると判定されてよい。例えば下記の式(7)~式(9)のうちの1つ以上の判定式が成立する場合に、対象物3の水没が有ると判定される。式中のε4~ε6は、閾値の例である。
|Lp-Lpref|<ε4 (7)
|fp-fpref|<ε5 (8)
|Lb-Lbref|<ε6 (9)
【0089】
なお、同様の原理により、先に説明した対象物3の温度状態判定用の参照データ171(図8等)にも、メタマテリアル2の周波数特性が変化した後のデータを用いることができる。
【0090】
判定部15による判定は、対象物3の湿度の算出を含んでよい。例えば、判定部15は、上述の差分に基づいて、対象物3の湿度を算出する。差分が大きくなるほど、対象物3の湿度が基準から離れたり基準に近づいたりするという関係性に基づいて、対象物3の湿度を算出できる。例えば参照データ171の参照式171bが用いられてよい。この場合の参照式171bは、特徴量、例えばピーク強度Lp、ピーク周波数fp、ベースライン強度Lb等から湿度を算出する式を含む。
【0091】
入出力部16は、判定部15の判定結果を出力する。例えば、判定部15によって判定された対象物3の水没の有無や、判定部15によって算出された対象物3の湿度が、図示しないディスプレイを介して表示され、判定装置1のユーザに知らされる。入出力部16は、対象物3の水没等を知らせるためのアラームを発動してよい。対象物3の水没等の異常をより確実にユーザに知らせることができる。
【0092】
図21は、判定装置において実行される処理(判定方法)の例を示すフローチャートである。先に説明した図10のステップS4A及びステップS5Aの代わりに、ステップS4B及びステップS5Bの処理が実行される。
【0093】
ステップS4Bにおいて、判定部15は、スペクトル141aと参照スペクトル171aとの間に差異があるか否かを判定する。ここでの参照スペクトル171aは、水分状態判定用のスペクトルであり、より具体的には、メタマテリアル2の周波数特性が変化する前のスペクトルである。差異がある場合(ステップS4B:Yes)、ステップS5Bに処理が進められる。そうでない場合(ステップS4B:No)、フローチャートの処理は終了する。ステップS5Bにおいて、入出力部16は、水没検知アラームを発動する。その後、フローチャートの処理は終了する。
【0094】
例えば以上のようにして、対象物3の水分状態を判定することができる。説明した実施形態によれば、適当な周波数帯にピークpが得られるようなメタマテリアル2を水腐食性の高い材料(例えば鉄等)で作り込むことにより、遮蔽物の影響を極力受けず、感度の高い非破壊水没検知が可能になる。いくつかの従来技術と対比して説明する。
【0095】
例えば、水没によって変色するシールが知られているが、不透明な材料内に水没シールが存在する場合には非破壊での状態判定が困難である。これに対し、本実施形態によれば、水分によって不可逆的に導電率(誘電率でもよい)が変化するメタマテリアル2を例えば水没検知マーカーとして用いることで、非破壊での状況確認が行える。
【0096】
また、鉄材料の赤錆を電磁波で検出するような技術もあるが、赤錆の透過性が高いので、錆が顕著に進行しないと状態判定は困難である。これに対し、本実施形態によれば、錆発生のような材料の科学的特性のみに頼るのではなく、その材料で適当な物理的構造が作り込まれたメタマテリアル2が用いられる。そのため、単純に錆を検出する場合よりも検出感度ひいては判定精度を向上させることができる。
【0097】
なお、矛盾の無い範囲において、先に説明した温度判定についての各種実施形態の手法が適用されてよい。例えば図14を参照して説明したように、メタマテリアル2が設けられた対象物3は、部材4及び部材5どうしの接着部分であってよい。接着に用いられる接着剤は、水によって不可逆劣化するモードがある(乾燥しても戻らない)ことが知られている。そのため、判定部15は、対象物3の水分状態を判定することによって、部材4及び部材5どうしの接着状態を判定できる。すなわち、水分による接着強度の劣化を非破壊検知することができる。
【0098】
以上で説明した技術は、例えば次のように特定される。開示される技術の1つは、判定装置1である。図1図10及び図17等を参照して説明したように、判定装置1は、制御部13と、判定部15と、を備える。制御部13は、対象物3に設けられたメタマテリアル2に向けた電磁波の発信、及び、メタマテリアル2を透過した又はメタマテリアル2で反射した電磁波の受信を制御する。判定部15は、受信した電磁波から得られる取得データ141と、参照データ171とに基づいて、対象物3の状態を判定する。メタマテリアル2は、電磁波に対する透過又は反射の周波数特性が温度によって変化するように、複数の構造体21を含んで構成される。対象物3の状態は、温度状態及び水分状態の少なくとも一方を含む。
【0099】
上記の判定装置1によれば、メタマテリアル2を設けることのできるさまざまな箇所の状態判定が可能である。従って、状態判定箇所の自由度を高めることができる。
【0100】
図7及び図8等を参照して説明したように、取得データ141は、スペクトル141aを含み、参照データ171は、参照スペクトル171aを含み、判定部15は、スペクトル141aと参照スペクトル171aとの差分に基づいて、対象物3の温度を判定してよい。差分は、スペクトルの特徴量の差分であり、特徴量は、ピーク強度Lp、ピーク周波数fp及びベースライン強度Lbの少なくとも1つを含んでよい。例えばこのようにスペクトルの特徴量に基づいて、対象物3の温度を判定することができる。
【0101】
図4図5図11図12及び図18図20等を参照して説明したように、メタマテリアル2は、対象物3の状態によって変形してよい。例えば、メタマテリアル2は、温度上昇によって融解し、それによって変形してよい。メタマテリアル2は、材料の形状記憶に基づいて変形してよい。メタマテリアル2は、熱膨張係数の異なる2種類以上の材料で構成されてよい。メタマテリアル2は、双方向変形可能なように、例えばバネを含んで構成されてよい。メタマテリアル2は、水分に晒されることによって腐食が進行し、その形状が崩壊することで変形してもよい。例えばこのようなメタマテリアル2の変形を利用して、メタマテリアル2の周波数特性を変化させることができる。
【0102】
図13等を参照して説明したように、メタマテリアル2は、カプセル化されていてよい。これにより、対象物3との直接接触によって変形が制限されることを抑制し、メタマテリアル2の周波数特性の変化をより確実に生じさせることができる。
【0103】
図1等を参照して説明したように、メタマテリアル2は、対象物3に埋め込まれていてよい。これにより、対象物3の内部の温度状態を判定したり水分状態を判定したりすることができる。
【0104】
図14及び図15等を参照して説明したように、対象物3は、部材4及び部材5どうしの接着部分であってよい。判定部15は、振動が付与された部材4及び部材5どうしの接着部分である対象物3の温度状態を判定することによって、部材4及び部材5どうしの接着状態を判定してよい。或いは、判定部15は、部材4及び部材5どうしの接着部分である対象物3の水分状態を判定することによって、部材4及び部材5どうしの接着状態を判定してよい。これにより、例えば接着不良の非破壊検知が可能になる。
【0105】
図7及び図8等を参照して説明したように、取得データ141は、スペクトル141aの特徴量(例えばピーク強度Lp、ピーク周波数fp、ベースライン強度Lb)を含み、参照データ171は、スペクトルの特徴量から温度を算出する参照式171bを含み、判定部15による判定は、取得データ141に含まれるスペクトル141aの特徴量と、参照式171bとを用いて、対象物3の温度及び湿度の少なくとも一方を算出することを含んでよい。このようにして対象物3の温度を測定したり湿度を測定したりすることもできる。
【0106】
メタマテリアル2は、対象物3の状態によって導電率及び誘電率の少なくとも一方が変化してよい。これにより、メタマテリアル2の電気特性を対象物3の状態によって変化させることができる。
【0107】
図18図20等を参照して説明したように、メタマテリアル2は、水分に晒されることによって腐食してよい。判定部15は、対象物3の水没の有無を判定してよい。これにより、対象物3の水没の有無を、例えば非破壊で精度よく判定することができる。
【0108】
上述の各特徴のうちの排他的でない特徴は任意に組み合わされてよい。
【0109】
図1及び図17等を参照して説明した判定システム100も、開示される技術の1つである。判定システム100は、上述の判定装置1と、メタマテリアル2とを備える。図9等を参照して説明した判定方法も、開示される技術の1つである。判定方法は、対象物3に設けられたメタマテリアル2に向けて電磁波を発信すること(ステップS1)と、メタマテリアル2を透過した又はメタマテリアル2で反射した電磁波を受信すること(ステップS2)と、受信した電磁波から得られる取得データ141と、参照データ171とに基づいて、対象物3の状態を判定すること(ステップS4)と、を含む。これらの判定システム100や判定方法によっても、これまで説明したように、状態判定箇所の自由度を高めることができる。
【符号の説明】
【0110】
1 判定装置
11 発信器
12 受信器
13 制御部
14 演算部
141 取得データ
141a スペクトル
15 判定部
16 入出力部
17 記憶部
171 参照データ
171a 参照スペクトル
171b 参照式
172 プログラム
18 振動付与部
2 メタマテリアル
21 構造体
22 カプセル
3 対象物
4 部材
5 部材
100 判定システム
Lp ピーク強度
fp ピーク周波数
Lb ベースライン強度
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21