(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-21
(45)【発行日】2024-10-29
(54)【発明の名称】バッテリー管理システムおよび車両
(51)【国際特許分類】
G01R 19/00 20060101AFI20241022BHJP
H02J 7/00 20060101ALI20241022BHJP
H02J 7/10 20060101ALI20241022BHJP
H01M 10/48 20060101ALI20241022BHJP
B60L 3/00 20190101ALI20241022BHJP
B60L 53/62 20190101ALI20241022BHJP
【FI】
G01R19/00 N ZHV
H02J7/00 P
H02J7/10 H
H01M10/48 P
H01M10/48 301
B60L3/00 S
B60L53/62
(21)【出願番号】P 2022137259
(22)【出願日】2022-08-30
【審査請求日】2022-10-19
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000170
【氏名又は名称】いすゞ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西村 怜馬
【審査官】島▲崎▼ 純一
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-078377(JP,A)
【文献】特開2019-125558(JP,A)
【文献】特開2001-327002(JP,A)
【文献】特開2019-106834(JP,A)
【文献】特開2010-273523(JP,A)
【文献】特開2019-033656(JP,A)
【文献】国際公開第2014/087450(WO,A1)
【文献】特開2014-102220(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 19/00
H02J 7/00
H02J 7/10
H01M 10/48
B60L 3/00
B60L 53/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
充電器からバッテリーに電力が供給されるとともに、前記充電器から補機に電力が供給されるバッテリー管理システムであって、
前記充電器から流れる電流値が定電流領域である場合に前記充電器から流れる電流値Ikおよび前記充電器から補機に流れる電流値Iaを記憶するとともに、前記充電器からバッテリーに流れる充電電流の電流値と、前記バッテリーの端子電圧、前記バッテリーの周囲温度および前記バッテリーの残容量との関係を示す特性マップを記憶する記憶部と、
前記充電器から前記バッテリーに流れる充電電流が電流計測デバイスにより計測される場合において、前記充電器から流れる電流値が定電流領域である場合、前記電流計測デバイスの計測値を取得する取得部と、
複数の前記計測値の平均値を算出する平均値算出部と、
前記電流値Ikから前記電流値Iaを減算した電流値(Ik-Ia)に基づいて、前記特性マップを参照して、前記充電電流の電流値を推定する推定部と、
推定された前記電流値と前記平均値との差分が所定範囲を超えた場合、前記電流計測デバイスのオフセットを補正する補正部と、
を備える、バッテリー管理システム。
【請求項2】
前記バッテリーおよび前記補機が搭載され、請求項1に記載のバッテリー管理システムを備えた車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、バッテリー管理システムおよび車両に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1には、充電設備側の電流計測デバイスにより計測された電流の計測値と、車両側の電流計測デバイスにより計測された電流の計測値に基づいて、車両側の電流計測デバイスの計測値を補正する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、電流計測デバイスのオフセットを補正するタイミングとして、バッテリーの充放電電流がゼロのときにオフセットを補正するなど、電流値が既知な状態で補正をする方法がある。
【0005】
しかしながら、充放電電流がゼロにならずに絶えず充放電電流が変化している機器に上記のオフセットを補正する方法を応用する場合、補正するタイミングを取ることが困難となる。
【0006】
本開示の目的は、絶えず充放電電流が変化している場合でも、電流計測デバイスのオフセットを補正することが可能なバッテリー管理システムおよび車両を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するため、本開示におけるバッテリー管理システムは、
充電器からバッテリーに電力が供給されるとともに、前記充電器から補機に電力が供給されるバッテリー管理システムであって、
前記充電器から流れる電流値が定電流領域である場合に前記充電器から流れる電流値Ikおよび前記充電器から補機に流れる電流値Iaを記憶するとともに、前記充電器からバッテリーに流れる充電電流の電流値と、前記バッテリーの端子電圧、前記バッテリーの周囲温度および前記バッテリーの残容量との関係を示す特性マップを記憶する記憶部と、
前記充電器から前記バッテリーに流れる充電電流が電流計測デバイスにより計測される場合において、前記充電器から流れる電流値が定電流領域である場合、前記電流計測デバイスの計測値を取得する取得部と、
複数の前記計測値の平均値を算出する平均値算出部と、
前記電流値Ikから前記電流値Iaを減算した電流値(Ik-Ia)に基づいて、前記特性マップを参照して、前記充電電流の電流値を推定する推定部と、
推定された前記電流値と前記平均値との差分が所定範囲を超えた場合、前記電流計測デバイスのオフセットを補正する補正部と、
を備える。
【0008】
本開示における車両は、
上記のバッテリーおよび上記の補機が搭載され、
上記のバッテリー管理システムを備える。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、絶えず充放電電流が変化している場合でも、電流計測デバイスのオフセットを補正することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、本開示の実施の形態に係るEV駆動システムの構成を模式的に示す図である。
【
図2】
図2は、本開示の実施の形態に係る制御部の構成を示すブロック図である。
【
図3】
図3は、本実施の形態に係る制御部の動作の一例を示すフローチャートである。
【
図4】
図4は、充電電流の電流値と、バッテリーモジュールの端子電圧および周囲温度並びにSOCとの関係を示す特性マップを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
図1は、本開示の実施の形態に係るEV駆動システム100の構成を模式的に示す図である。本開示の実施の形態に係るEV駆動システム100は、バッテリーモジュール10と、モーター11と、インバーター12と、充電器13と、電流計測デバイス14と、バッテリー管理システム20と、VCU40(車両制御ユニット)と、ジャンクションボックス50とを備える。なお、本開示の実施の形態に係るEV駆動システム100は、EV(電気自動車)に適用されるが、本開示はこれに限らず、プラグインハイブリッド車、ハイブリッド車、フォークリフト、産業ロボット、および、蓄電池システムに適用されてもよい。
【0012】
バッテリーモジュール10は、複数のバッテリーセル(不図示)を直列に接続して構成される。バッテリーセルは、例えば、正極板、負極板を交互に組み合わせて、電解液を注入して作られる。
【0013】
バッテリーモジュール10にはインバーター12を介してモーター11が接続されている。
【0014】
モーター11は、ステーターとローターとを有する。ステーターは、ケース側に固定される。ローターは、ステーターに流れる電流を回転エネルギーとして受け取る回転体である。
【0015】
インバーター12は、バッテリーモジュール10の出力である直流電力を、モーター11を駆動する交流電流に変換する装置である。
【0016】
充電器13は、コネクター(不図示)を有し、コネクターがEVのポート(充電口)に接続される。これにより、充電器13からバッテリーモジュール10に電力が供給され、バッテリーモジュール10が充電可能となる。また、充電器13から補機(不図示)に電力が供給される。なお、補機には、車両制御を行うための電源としての補機バッテリーが含まれる。
【0017】
VCU40は、車両の状態を判定し、最適な状態に維持するためにインバーター12などの各コンポーネントを制御する装置である。例えば、VCU40は、充電器13から流れる電流値Ikを定電流領域に調整する制御を実行する。
【0018】
ジャンクションボックス50は、リレー回路51およびリレー回路52を有する。バッテリーモジュール10とインバーター12とはリレー回路51を介して接続されている。充電器13とバッテリーモジュール10とはリレー回路52を介して接続されている。
【0019】
電流計測デバイス14は、バッテリーモジュール10の充放電電流を計測する。電流計測デバイス14が計測した計測値I(
図2を参照)は、所定の時間間隔でバッテリー管理システム20に送信される。
【0020】
本開示の実施の形態に係るバッテリー管理システム20は、バッテリーモジュール10を安全かつ効率的に活用するシステムである。
【0021】
バッテリー管理システム20は、電池監視部21と、制御装置30とを備える。
【0022】
電池監視部21は、バッテリーモジュール10の残容量(State Of Charge:SOC)を監視する。また、電池監視部21は、バッテリーモジュール10の端子電圧(以下、単に、端子電圧)およびバッテリーモジュール10の周囲温度(以下、単に、周囲温度)を測定する。また、電池監視部21は、端子電圧および周囲温度、並びに、SOCを制御装置30に送信する。
【0023】
図2は、本開示の実施の形態に係る制御装置の構成を示すブロック図である。
制御装置30は、記憶部31、取得部32および制御部33を有する。
【0024】
記憶部31は、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)及びハードディスク等を含む記憶媒体である。記憶部31は、制御部33が実行するプログラムを記憶する。また、記憶部31は、充電器13から補機に流れる既知の電流値Iaを記憶する。また、記憶部31は、充電器13から流れる電流値Ikを記憶する。また、記憶部31は、オフセット(オフセット値ともいう)を記憶する。
【0025】
取得部32は、電流計測デバイス14からバッテリー管理システム20に所定の時間間隔で送信される計測値Iを取得する。また、取得部32は、電池監視部21から送信される端子電圧および周囲温度、並びに、SOC(残容量)を取得する。
【0026】
電流計測デバイス14のオフセットを補正するタイミングとして、バッテリーモジュール10の充放電電流がゼロのときにオフセットを補正するなど、電流値が既知な状態で補正する方法がある。しかし、充放電電流がゼロにならずに絶えず充放電電流が変化している駆動システムに上記のオフセットを補正する方法を応用する場合、補正するタイミングを取ることが困難となる。
【0027】
本実施の形態に係る制御部33は、平均値算出部34、差分算出部35、補正部36、定電流判定部37、電流値算出部38および推定部39を有する。
【0028】
制御部33は、例えばCPU(Central Processing Unit)等のプロセッサを含む計算リソースである。制御部33は、記憶部31に記憶されたプログラムを実行することにより、制御部33が有する諸機能を実現する。
【0029】
平均値算出部34は、取得部32により取得された所定複数の計測値Iの平均値Iaveを算出する。
【0030】
定電流判定部37は、VCU40の制御情報に基づいて、充電器13から流れる電流値Ikが高精度に調整された定電流領域(既知の電流値)であるか否かを判定する。
【0031】
電流値算出部38は、電流値Ikが定電流領域(既知の電流値)である場合、既知の電流値Ikから既知の電流値Iaを減算することで、電流値(Ik-Ia)を算出する。電流値(Ik-Ia)は、記憶部31に記憶される。
【0032】
差分算出部35は、電流値(Ik-Ia)と平均値Iaveとの差分を算出する。
【0033】
図4は、充電電流の電流値と、バッテリーモジュール10の端子電圧および周囲温度並びにSOCとの関係を示す特性マップを示す図である。
図4に、温度違いによるバッテリーモジュール10の特性を実線、破線および一点鎖線で示す。
図4に示す特性マップは、実験やシミュレーションにより作成される。推定部39は、バッテリーモジュール10の端子電圧および周囲温度並びにSOCに基づいて、
図4に示す特性マップを参照して、充電電流の電流値I
sを推定する。
【0034】
補正部36は、算出された差分が所定範囲を超えている場合、電流計測デバイス14のオフセットを補正する。なお、所定範囲は、例えば、電流計測デバイス14の性能、特性に基づいて予め設定される。補正部36は、推定された電流値Isに基づいて、オフセットを補正する。
【0035】
次に、本実施の形態に係る制御部33の動作の一例について
図3を参照して説明する。
図3は、本実施の形態に係る制御部の動作の一例を示すフローチャートである。本フローは、充電器13のコネクターがEVのポート(充電口)に接続されることで開始される。なお、以下の説明では、制御部33の諸機能をCPUが実行するものとして説明する。CPUは、充電器13から流れる電流値I
kおよび充電器13から補機に流れる電流値I
aを取得する。
【0036】
先ず、ステップS100において、CPUは、電流値Ikが定電流領域(既知の電流値)である場合、電流値Ikから電流値Iaを減算した電流値(Ik-Ia)を算出する。記憶部31は、電流値(Ik-Ia)を記憶する。
【0037】
次に、ステップS110において、CPUは、電流計測デバイス14からバッテリー管理システム20に所定の時間間隔で送信される計測値Iを取得する。
【0038】
次に、ステップS120において、CPUは、所定複数の計測値Iの平均値Iaveを算出する。
【0039】
次に、ステップS130において、CPUは、充電器13から流れる電流値Ikが高精度に調整された定電流領域(既知の電流値)であるか否かを判定する。電流値Ikが定電流領域である場合(ステップS130:YES)、処理はステップS140に遷移する。電流値Ikが定電流領域でない場合(ステップS130:NO)、処理はステップS100の前に戻る。
【0040】
ステップS140において、CPUは、電流値(Ik-Ia)と平均値Iaveとの差分を算出する。
【0041】
次に、ステップS150において、CPUは、差分が所定範囲を超えるか否かについて判定する。差分が所定範囲を超える場合(ステップS150:YES)、処理はステップS160に遷移する。差分が所定範囲を超えない場合(ステップS150:NO)、処理はステップS100の前に戻る。
【0042】
次に、ステップS160において、CPUは、バッテリーモジュール10の端子電圧および周囲温度、並びに、SOC(残容量)に基づいて、特定マップを参照して充電電流の電流値Isを推定する。
【0043】
次に、ステップS170において、CPUは、推定された電流値Isに基づいて、電流計測デバイス14のオフセットを補正する。これにより、CPUは、オフセット補正後の電流計測デバイス14から新たな計測値Iを取得することになる。その後、本フローは終了する。
【0044】
上記実施の形態に係るバッテリー管理システム20は、充電器13からバッテリーモジュール10に流れる充電電流が電流計測デバイス14により計測される場合において、電流計測デバイス14の計測値Iを取得する取得部32と、計測値Iの平均値Iaveを算出する平均値算出部34と、充電器13から流れる電流値Ikが定電流領域(既知の電流値)であるか否かを判定する定電流判定部37と、既知の電流値Ikおよび充電器13から補機に流れる既知の電流値Iaに基づいてバッテリーモジュール10に流れる充電電流の電流値(Ik-Ia)を算出する電流値算出部38と、算出された電流値(Ik-Ia)と平均値Iaveとの差分を算出する差分算出部35と、差分が所定範囲を超えた場合、バッテリーモジュール10の端子電圧および周囲温度並びにSOCに基づいて、特性マップを参照して充電電流の電流値を推定する推定部39と、推定された推定値Isに基づいて電流計測デバイス14のオフセットを補正する補正部36と、を備える。
【0045】
上記構成によれば、絶えず充放電電流が変化している場合であっても、充電時において、定電流領域で充電電流が既知のとき、特性マップを参照して、充電電流を推定し、その推定値Isに基づいて、電流計測デバイス14のオフセットを補正することが可能となる。また、オフセットアナライザーでのオフセットの補正の他に補正の機会が与えられるようになるため、電流計測デバイス14による電流計測精度を向上することが可能となる。
【0046】
さらに、電流値(Ik-Ia)と平均値Iaveとの差分を算出し、差分に基づいてオフセットを補正するため、電流値(Ik-Ia)と計測値Iとの差分を算出する場合に比べて、より適切なタイミングでオフセットを補正することができる。さらに、差分が所定範囲を超えた場合、補正部36がオフセットを補正し、その所定範囲が電流計測デバイス14の性能、特性に基づいて設定されているため、的確なタイミングでオフセットの補正することができる。
【0047】
また、上記のバッテリー管理システム20では、充電器13から補機に流れる既知の電流値Iaに基づいて、電流値(Ik-Ia)を算出したが、本開示は補機に限らず、その他の既知の電流値に基づいて電流値(Ik-Ia)を算出してもよい。
【0048】
その他、上記実施の形態は、何れも本開示の実施をするにあたっての具体化の一例を示したものに過ぎず、これらによって本開示の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。すなわち、本開示はその要旨、またはその主要な特徴から逸脱することなく、様々な形で実施することができる。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本開示は、絶えず充放電電流が変化している場合でも、電流計測デバイスのオフセットを補正することが要求されるバッテリー管理システム装置を備えたEV動力システムに好適に利用される。
【符号の説明】
【0050】
10 バッテリーモジュール
11 モーター
12 インバーター
13 充電器
14 電流計測デバイス
20 バッテリー管理システム
21 電池監視部
30 制御装置
31 記憶部
32 取得部
33 制御部
34 平均値算出部
35 差分算出部
36 補正部
37 定電流判定部
38 電流値算出部
39 推定部
40 VCU
50 ジャンクションボックス
51 リレー回路
52 リレー回路
100 EV駆動システム