(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-21
(45)【発行日】2024-10-29
(54)【発明の名称】エンコーダ用反射型光学式スケール及び反射型光学式エンコーダ
(51)【国際特許分類】
G01D 5/347 20060101AFI20241022BHJP
【FI】
G01D5/347 110A
(21)【出願番号】P 2022512584
(86)(22)【出願日】2021-03-30
(86)【国際出願番号】 JP2021013676
(87)【国際公開番号】W WO2021201024
(87)【国際公開日】2021-10-07
【審査請求日】2023-11-07
(31)【優先権主張番号】P 2020063476
(32)【優先日】2020-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002897
【氏名又は名称】大日本印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【氏名又は名称】山下 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【氏名又は名称】岸本 達人
(72)【発明者】
【氏名】中澤 伸介
(72)【発明者】
【氏名】戸田 剛史
(72)【発明者】
【氏名】小田 直哉
【審査官】榮永 雅夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-158710(JP,A)
【文献】特開昭58-184908(JP,A)
【文献】特開2001-296146(JP,A)
【文献】国際公開第2013/100061(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01D 5/26- 5/38
G01B11/00-11/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に高反射領域と低反射領域とが交互に配置されたエンコーダ用反射型光学式スケールであって、
前記低反射領域は、前記基材の一方の表面に配置された金属クロム膜と、前記金属クロム膜の前記基材とは反対側の表面に順不同に配置された、酸化クロム膜及び窒化クロム膜と、を有する低反射部を含み、
前記高反射領域は、前記エンコーダ用反射型光学式スケールの前記基材とは反対側から入射する光の反射率が前記低反射領域よりも高い、エンコーダ用反射型光学式スケール。
【請求項2】
前記低反射領域の最表面が、前記酸化クロム膜又は前記窒化クロム膜である、請求項1に記載のエンコーダ用反射型光学式スケール。
【請求項3】
前記低反射領域は、前記金属クロム膜と、前記金属クロム膜の前記基材とは反対側の表面に配置された前記窒化クロム膜と、前記窒化クロム膜の前記金属クロム膜とは反対側の表面に配置された前記酸化クロム膜とを有する請求項1または請求項2に記載のエンコーダ用反射型光学式スケール。
【請求項4】
前記高反射領域は、前記基材上に形成された前記金属クロム膜を有する、請求項1から請求項3までのいずれかに記載のエンコーダ用反射型光学式スケール。
【請求項5】
前記高反射領域は、前記基材上に形成された、金属銀膜または銀を主成分とする銀合金膜を有する、請求項1から請求項3までのいずれかに記載のエンコーダ用反射型光学式スケール。
【請求項6】
前記高反射領域の波長領域550nm~950nmの範囲内のいずれかの波長における反射率が、60%以上であり、下記式で表されるS/N比の値が、100以上である、請求項1から請求項5までのいずれかに記載のエンコーダ用反射型光学式スケール。
S/N比=高反射領域の反射率/低反射領域の反射率
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれかに記載のエンコーダ用反射型光学式スケールと、
前記エンコーダ用反射型光学式スケールの前記低反射部が配置された側の表面に光を照射する光源と、
前記光源の前記エンコーダ用反射型光学式スケールからの反射光を検出する光検出器と、を備えることを特徴とする反射型光学式エンコーダ。
【請求項8】
透明基材上に高反射領域と低反射領域とが交互に配置されたエンコーダ用反射型光学式スケールであって、
前記低反射領域は、前記透明基材の一方の表面に順不同に配置された酸化クロム膜及び窒化クロム膜と、前記酸化クロム膜又は前記窒化クロム膜の
前記透明基材とは反対側の表面に配置された金属クロム膜と、を有する光反射部を含み、
前記高反射領域は、前記エンコーダ用反射型光学式スケールの前記透明基材側から入射する光の反射率が前記低反射領域よりも高い、エンコーダ用反射型光学式スケール。
【請求項9】
前記低反射領域は、前記透明基材の一方の表面に配置された前記酸化クロム膜と、前記酸化クロム膜の
前記透明基材とは反対側の表面に配置された前記窒化クロム膜と、前記窒化クロム膜の前記酸化クロム膜とは反対側の表面に配置された前記金属クロム膜と、を有する請求項8に記載の反射型光学式エンコーダ用反射型光学式スケール。
【請求項10】
前記高反射領域は、前記透明基材の前記光反射部が配置された側の表面に配置された前記金属クロム膜を有する、請求項8または請求項9に記載のエンコーダ用反射型光学式スケール。
【請求項11】
前記高反射領域は、前記透明基材の前記光反射部が配置された側の表面に配置された金属銀膜または銀を主成分とする銀合金膜を有する、請求項8または請求項9に記載のエンコーダ用反射型光学式スケール。
【請求項12】
前記高反射領域の波長領域550nm~950nmの範囲内のいずれかの波長における反射率が、60%以上であり、下記式で表されるS/N比の値が、15以上である、請求項8から請求項11までのいずれかに記載のエンコーダ用反射型光学式スケール。
S/N比=高反射領域の反射率/低反射領域の反射率
【請求項13】
請求項8から請求項12のいずれか1項に記載のエンコーダ用反射型光学式スケールと、
前記エンコーダ用反射型光学式スケールの前記光反射部が配置された側とは反対側の表面に光を照射する光源と、
前記光源の前記エンコーダ用反射型光学式スケールからの反射光を検出する光検出器と、を備えることを特徴とする反射型光学式エンコーダ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、エンコーダ用反射型光学式スケール及びエンコーダに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、測定機等の分野において、高精度に寸法等の測定ができる光学式エンコーダが使用されている。光学式エンコーダには、透過型エンコーダと反射型エンコーダがあるが、反射型エンコーダは透過型エンコーダに比べて光路が短く、小型化、薄型化が容易であり、また、発光素子や受光素子の位置決めが不要であり組み立てが容易であるという利点を有する。
【0003】
反射型光学式エンコーダは、反射型光学式スケール、スケールに光を照射するLED等の光源、及びスケールからの反射光を検出する光検出器を含む。反射型光学式スケールは、反射領域(高反射領域)と非反射領域(低反射領域)が交互に配置され、反射領域における光の反射率は、非反射領域における光の反射率よりも高い。これにより、スケールから反射し光検出器に入射する光の強さは、スケールの位置の変化により強弱を生じる。光検出器は、スケールの位置が測長方向に移動することによって生じる光の強弱を検出する。反射型光学式エンコーダは、検出された光の強弱にしたがって、このスケールの位置の変位情報を処理し、位置情報を取得しうる。
【0004】
反射型光学式スケールに形成されている反射領域および非反射領域において、光検出器による誤検出を防ぎ、信号の検出精度を高めるためには反射領域の反射率を高く、非反射領域の反射率を低くする必要がある。
【0005】
例えば、特許文献1には、反射型光学式スケールの非反射領域を、金属Ti、SiO2、TiO2、およびSiO2がこの順に積層された多層膜構造とし、低反射化し、高反射領域での反射光の強度と、低反射領域での反射光の強度との差を大きくした反射型光学式スケールが開示されている。しかしながら、使用されるSiO2膜が高コストであり、成膜用原料もTiとSiの2種類必要であり、コストの面で不利であった。
【0006】
また、特許文献2では、表面反射率の高い基板の片面の一部領域を、金属酸化膜や金属窒素物からなる非反射パターンで被覆した反射型光学式スケールが開示されている。
【0007】
特許文献3には、反射膜よりも光の反射率が低いパターン形成膜を形成する材料として、クロム、若しくはクロム酸化物及びクロム窒化物等のクロム化合物を用いることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2019-158710号公報
【文献】実開昭61-197510号公報
【文献】特開2005-241248号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述したように反射型光学式スケールの様々な構成が提案されているが、本発明者らは、従来のエンコーダ用反射型光学式スケールの低反射領域の構成では、赤色/近赤外領域での反射率を十分に低減することができないことを知見した。そのため、低反射領域の更なる反射率の低減が望まれる。
【0010】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、低反射領域での反射率を十分に低減することが可能なエンコーダ用反射型光学式スケールを提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本開示は、基材上に高反射領域と低反射領域とが交互に配置されたエンコーダ用反射型光学式スケールであって、上記低反射領域は、上記基材の一方の表面に配置された金属クロム膜と、上記金属クロム膜の上記基材とは反対側の表面に順不同に配置された、酸化クロム膜及び窒化クロム膜と、を有する低反射部を含み、上記高反射領域は、上記エンコーダ用反射型光学式スケールの上記基材とは反対側から入射する光の反射率が上記低反射領域よりも高い、エンコーダ用反射型光学式スケールを提供する。
【0012】
本開示によれば、低反射領域が、基材上に形成された金属クロム膜と、金属クロム膜上に順不同に形成された、酸化クロム膜及び窒化クロム膜と、からなる低反射部を有することにより、低反射領域での反射率を低減することが可能なエンコーダ用反射型光学式スケールとすることができる。
【0013】
本開示においては、上記低反射領域の最表面が、上記酸化クロム膜又は上記窒化クロム膜であることが好ましい。また、上記低反射領域は、上記金属クロム膜と、上記金属クロム膜の上記基材とは反対側の表面に配置された上記窒化クロム膜と、上記窒化クロム膜の上記金属クロム膜とは反対側の表面に配置された上記酸化クロム膜とを有することが好ましい。低反射領域での反射率をより低減することができるからである。
【0014】
本開示においては、上記高反射領域は、上記基材上に形成された上記金属クロム膜を有することが好ましい。製造工程を簡略化することが可能となり、コスト低減につながるからである。
【0015】
本開示においては、上記高反射領域は、上記基材上に形成された、金属銀膜または銀を主成分とする銀合金膜を有するものとすることができる。このような金属銀膜または銀合金膜であれば、高反射領域における反射率をより高くすることができるからである。
【0016】
本開示においては、さらに、上記高反射領域の波長領域550nm~950nmの範囲内のいずれかの波長における反射率が、60%以上であり、下記式で表されるS/N比の値が、100以上であるものとすることができる。
S/N比=高反射領域の反射率/低反射領域の反射率
なお、上記式における高反射領域の反射率、および低反射領域の反射率は、同一波長での反射率を示すものである。
【0017】
本開示においては、上述したエンコーダ用反射型光学式スケールと、上記エンコーダ用反射型光学式スケールの上記低反射部が配置された側の表面に光を照射する光源と、上記光源の上記エンコーダ用反射型光学式スケールからの反射光を検出する光検出器と、を備えることを特徴とする反射型光学式エンコーダを提供する。
【0018】
本開示における反射型光学式エンコーダは、上述したエンコーダ用反射型光学式スケールを含むため、高反射領域での反射率と低反射領域での反射率の差を大きくすることができるため、光検出器の誤検出を防止することができる。
【0019】
本開示においては、透明基材上に高反射領域と低反射領域とが交互に配置されたエンコーダ用反射型光学式スケールであって、上記低反射領域は、上記透明基材の一方の表面に順不同に配置された酸化クロム膜及び窒化クロム膜と、上記酸化クロム膜又は上記窒化クロム膜の上記基材とは反対側の表面に配置された金属クロム膜と、を有するの光反射部を含み、上記高反射領域は、上記エンコーダ用反射型光学式スケールの上記透明基材側から入射する光の反射率が上記低反射領域よりも高い、エンコーダ用反射型光学式スケールを提供する。
【0020】
本開示によれば、低反射領域が、透明基材上に順不同に形成された酸化クロム膜及び窒化クロム膜と、酸化クロム膜又は窒化クロム上に形成された金属クロム膜と、からなる光反射部を有することにより、低反射領域での反射率を低減することが可能なエンコーダ用反射型光学式スケールとすることができる。
【0021】
本開示においては、上記低反射領域は、上記透明基材の一方の表面に配置された上記酸化クロム膜と、上記酸化クロム膜の上記透明基板とは反対側の表面に配置された上記窒化クロム膜と、上記窒化クロム膜の上記酸化クロム膜とは反対側の表面に配置された上記金属クロム膜と、を有することが好ましい。低反射領域での反射率をより低減することが可能となるからである。
【0022】
本開示においては、上記高反射領域は、上記透明基材の上記光反射部が配置された側の表面に配置された上記金属クロム膜を有することが好ましい。製造工程を簡略化することが可能となり、コスト低減につながるからである。
【0023】
本開示においては、上記高反射領域は、上記透明基材の上記光反射部が配置された側の表面に配置された金属銀膜または銀を主成分とする銀合金膜を有するものとすることができる。このような金属銀膜または銀合金膜であれば、高反射領域における反射率をより高くすることができるからである。
【0024】
本開示においては、さらに、上記高反射領域の波長領域550nm~950nmの範囲内のいずれかの波長における反射率が、60%以上であり、下記式で表されるS/N比の値が、15以上とすることができる。
S/N比=高反射領域の反射率/低反射領域の反射率
なお、上記式における高反射領域の反射率、および低反射領域の反射率は、同一波長での反射率を示すものである。
【0025】
本開示においては、上述したエンコーダ用反射型光学式スケールと、上記エンコーダ用反射型光学式スケールの上記光反射部が配置された側とは反対側の表面に光を照射する光源と、上記光源の上記エンコーダ用反射型光学式スケールからの反射光を検出する光検出器と、を備える反射型光学式エンコーダを提供する。
【0026】
本開示における反射型光学式エンコーダは、上述した光反射部を有するエンコーダ用反射型光学式スケールを含むため、高反射領域での反射率と低反射領域での反射率の差を大きくすることができるため、光検出器の誤検出を防止することができる。
【0027】
本開示においては、さらに、透明基材上に高反射領域と低反射領域とが交互に配置されたエンコーダ用反射型光学式スケールであって、上記低反射領域は、少なくとも3層の無機層が積層されてなる低反射部を有し、上記低反射領域における反射率が5%以下であり、上記高反射領域は、少なくとも1層の無機層が積層されてなり、上記高反射領域における反射率が60%以上であり、下記式で表されるS/N比の値が、6以上である、エンコーダ用反射型光学式スケールを提供する。
S/N比=高反射領域の反射率/低反射領域の反射率
【発明の効果】
【0028】
本開示のエンコーダ用反射型光学式スケールは、低反射領域での反射率を十分に低減することが可能となる、といった作用効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】本開示のエンコーダ用反射型光学式スケール(第一実施形態)の一例を示す概略断面図である。
【
図2】本開示のエンコーダ用反射型光学式スケール(第一実施形態)の一例を示す概略断面図である。
【
図3】本開示のエンコーダ用反射型光学式スケール(第一実施形態)の一例を示す概略断面図である。
【
図4】本開示のエンコーダ用反射型光学式スケール(第二実施形態)の一例を示す概略断面図である。
【
図5】本開示のエンコーダ用反射型光学式スケール(第二実施形態)の一例を示す概略断面図である。
【
図6】本開示のエンコーダ用反射型光学式スケール(第二実施形態)の一例を示す概略断面図である。
【
図7】本開示の反射型光学式エンコーダの一例を示す概略斜視図及び概略断面図である。
【
図8】実施例1のシミュレーション結果を示す表及びグラフである。
【
図9】実施例2のシミュレーション結果を示す表及びグラフである。
【
図10】実施例3のシミュレーション結果を示す表及びグラフである。
【
図11】実施例4のシミュレーション結果を示す表及びグラフである。
【
図12】比較例1のシミュレーション結果を示すグラフ及び低反射領域の概略断面図である。
【
図13】比較例2のシミュレーション結果を示すグラフ及び低反射領域の概略断面図である。
【
図14】比較例3のシミュレーション結果を示すグラフ及び低反射領域の概略断面図である。
【
図15】比較例4のシミュレーション結果を示すグラフ及び低反射領域の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本開示は、エンコーダ用反射型光学式スケールおよび反射型光学式エンコーダを実施態様に含む。以下、本開示の実施態様を、図面等を参照しながら説明する。但し、本開示は多くの異なる態様で実施することが可能であり、以下に例示する実施の態様の記載内容に限定して解釈されるものではない。また、図面は説明をより明確にするため、実施の態様に比べ、各部の幅、厚み、形状等について模式的に表される場合があるが、あくまで一例であって、本開示の解釈を限定するものではない。また、本明細書と各図において、既出の図に関して前述したものと同様の要素には、同一の符号を付して、詳細な説明を適宜省略することがある。また、説明の便宜上、上方又は下方という語句を用いて説明する場合があるが、上下方向が逆転してもよい。
【0031】
また、本明細書において、ある部材又はある領域等のある構成が、他の部材又は他の領域等の他の構成の「上に(又は下に)」あるとする場合、特段の限定がない限り、これは他の構成の直上(又は直下)にある場合のみでなく、他の構成の上方(又は下方)にある場合を含み、すなわち、他の構成の上方(又は下方)において間に別の構成要素が含まれている場合も含む。
【0032】
また、本明細書において、「エンコーダ用反射型光学式スケール」を単に「光学式スケール」と称する場合がある。また、光学式スケールに入射する光とは、光源から光学式スケールに入射角θで入射した波長λの光をいう。
【0033】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討を行ったところ、エンコーダ用反射型光学式スケールの従来の低反射領域(非反射領域)の構成では、赤色および近赤外領域での反射率が十分に下がらないことを知見した。そして、本発明者らは、反射率を十分に下げることができる非反射領域の構成について検討を行った結果、金属クロム膜と、金属クロム膜上に順不同に形成された酸化クロム膜及び窒化クロム膜からなる低反射部を有する構成であれば、低反射部の金属クロム膜側とは反対側から入射する光の反射率を十分に低減させることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0034】
本開示のエンコーダ用反射型光学式スケール及びエンコーダとしては、後述する光学式スケールの基材とは反対側から光が入射する第一実施形態、および基材側から光が入射する第二実施形態を挙げることができる。
【0035】
A.エンコーダ用反射型光学式スケール(第一実施形態)
本実施形態のエンコーダ用反射型光学式スケールは、基材上に高反射領域と低反射領域とが交互に配置されたエンコーダ用反射型光学式スケールであって、上記低反射領域は、上記基材上に形成された金属クロム膜と、上記金属クロム膜上に順不同に形成された、酸化クロム膜及び窒化クロム膜と、からなる低反射部を含み、上記高反射領域は、上記エンコーダ用反射型光学式スケールの上記基材とは反対側から入射する光の反射率が上記低反射領域よりも高いことを特徴とする。
【0036】
このような本実施形態の光学式スケールでは、低反射領域として、基材側から、金属クロム膜と、金属クロム膜上に順不同に形成された酸化クロム膜及び窒化クロム膜との3層構造を有する低反射部を含み、光学式スケールの基材とは反対側に位置する光源から入射する光が低反射部によって反射されるため、波長領域550nm~950nmの範囲内のいずれかの波長において、低反射領域での反射率を10%以下、好ましくは5%以下、更には1%以下まで下げることができる。そのため、高反射領域での反射率と低反射領域での反射率との差を大きくすることができる。
本明細書内において上記反射率は、計測装置としてScanning Spectrophotometer UV‐3100PC(島津製作所製)を用い、測定することで得られる。
【0037】
一方、金属クロム膜と酸化クロム膜との2層構造、金属クロム膜と窒化クロム膜との2層構造、他の金属膜と酸化クロム膜及び/又は窒化クロム膜との組み合わせを含む低反射部では、低反射領域の反射率を十分に低減することができない。
【0038】
また、金属クロムのみを準備すれば、反応性スパッタ等を利用することにより、容易に酸化クロム膜及び窒化クロム膜を形成することができる。更に、高精細のパターニングも酸化ケイ素膜と比較して容易に行うことができる。
【0039】
本明細書において、「金属クロム膜上に順不同に形成された、酸化クロム膜及び窒化クロム膜」とは、金属クロム膜、酸化クロム膜、および窒化クロム膜の順で形成されていてもよいし、金属クロム膜、窒化クロム膜、および酸化クロム膜の順で形成されていてもよいことを意味する。
【0040】
図1(a)、(b)は、本実施形態のエンコーダ用反射型光学式スケールの一例を示す概略断面図である。
図1(a)、(b)に示す本実施形態の光学式スケール10は、基材1上に高反射領域12と低反射領域11とが交互に配置されている。高反射領域12は、基材1の上に形成された金属クロム膜2を有し、金属クロム膜2によって光L1を反射する。
図1(a)では、低反射領域11は、基材1上に形成された金属クロム膜2と、上記金属クロム膜2上に形成された窒化クロム膜3と、窒化クロム膜3上に形成された酸化クロム膜4と、からなる第一仕様の低反射部20Aを有し、低反射部20Aで光L1を反射する。一方、
図1(b)では、低反射領域11は、基材1上に形成された金属クロム膜2と、上記金属クロム膜2上に形成された酸化クロム膜4と、酸化クロム膜4上に形成された窒化クロム膜3と、からなる第二仕様の低反射部20Bを有し、低反射部20Bで光L1を反射する。
【0041】
図1に示す光学式スケールは、層構成が少なく済み、コスト面で有利である。また、低反射領域での波長領域550nm~950nmの範囲内のいずれかの波長における反射率を10%以下、好ましくは5%以下まで、更には膜厚を調整することによって1%以下まで下げることができる。
【0042】
(1)低反射領域
本開示における低反射領域は、低反射部を有している。低反射部は、基材上に形成された金属クロム膜と、上記金属クロム膜上に順不同に形成された、酸化クロム膜及び窒化クロム膜と、からなる。具体的には、金属クロム膜、窒化クロム膜、酸化クロム膜がこの順に配置されたもの、または、金属クロム膜、酸化クロム膜、窒化クロム膜がこの順に配置されたものであり、光学式スケールにおいて、金属クロム膜が基材側となるように配置される。低反射領域の最表面は、低反射部の酸化クロム膜又は窒化クロム膜の表面であることが好ましく、特に、酸化クロム膜の表面であることが好ましい。より効果的に、低反射領域での反射率を低減することができるからである。
【0043】
以下、「金属クロム膜、窒化クロム膜、酸化クロム膜がこの順に配置された低反射部」を第一仕様の低反射部、「金属クロム膜、酸化クロム膜、窒化クロム膜がこの順に配置された低反射部」を第二仕様の低反射部と称する。
【0044】
(i)第一仕様の低反射部
本仕様の低反射部は、基材側から、金属クロム膜、窒化クロム膜、酸化クロム膜がこの順に配置されている。本仕様の低反射部を有する低反射領域は、光源から照射された光の波長領域550nm~950nmの範囲内のいずれかの波長における反射率を5%以下、特に0.5%以下まで下げることができるとともに、波長変化に対する反射率変化が緩やかであり、反射率の制御が容易となる。以下、各層について詳細に説明する。
【0045】
(a)金属クロム膜
本仕様においては、金属クロム膜は基板上に設けられている。金属クロム膜は、金属クロムからなる層である。金属クロム膜は、実質的に光源から照射された光を透過しない層であり、透過率が1.0%以下であることが好ましい。透過率は、(株)島津製作所製の分光光度計(MPC-3100)等を用いて測定することができる。
膜厚は、例えば、40nm以上、好ましくは、70nm以上である。
【0046】
ここで、各部材の「厚み」とは、一般的な測定方法によって得られる厚みをいう。厚みの測定方法としては、例えば、触針で表面をなぞり凹凸を検出することによって厚みを算出する触針式の方法や、分光反射スペクトルに基づいて厚みを算出する光学式の方法等を挙げることができる。具体的には、ケーエルエー・テンコール株式会社製の触針式膜厚計P-15を用いて厚みを測定することができる。なお、厚みとして、対象となる部材の複数箇所における厚み測定結果の平均値が用いられてもよい。
【0047】
金属クロム膜の形成方法としては、例えばスパッタリング法、イオンプレーティング法、真空蒸着法などの物理蒸着法(PVD)が用いられる。
【0048】
(b)窒化クロム膜
本仕様における窒化クロム膜は、金属クロム膜と酸化クロム膜との間に配置されている。窒化クロム膜は、酸化窒化クロムや酸化窒化炭化クロム等とは異なり、その主成分がクロム及び窒素であり、クロム及び窒素以外の不純物を実質的に含有しない。
【0049】
窒化クロム(CrNx)膜のCrとNとの原子比率を表すxとしては、0.4以上1.1以下であることが好ましい。
【0050】
また、窒化クロム膜は、膜全体を100原子%として、クロム及び窒素の割合が80~100%の範囲内、中でも、90~100%の範囲内の純度が好ましい。不純物としては、例えば、水素、酸素、炭素等が含まれていても良い。
【0051】
窒化クロム膜の膜厚(TN)は、好ましくは5nm~100nmの範囲内、特に10nm~80nmの範囲内であることが好ましい。また、後述する酸化クロム膜の膜厚(TO)との関係において、波長が850nmの場合には、TNとTOとの合計が40nm以上、波長が550nmの場合には、TNとTOとの合計が20nm以上であることが好ましい。このような膜厚範囲であれば、上記範囲外である場合に比べ、低反射領域における反射率を容易に、10%以下、特には5%以下と低くすることができる。更には、窒化クロム膜の膜厚(TN)は、緑色~赤外(500~1000nm程度)領域全域における反射率を低減することが容易となるため、10nm~80nmの範囲内が好ましい。
【0052】
窒化クロムの形成方法としては、例えば反応性スパッタリング法、イオンプレーティング法、真空蒸着法などの物理蒸着法(PVD)が用いられる。反応性スパッタ法の利用に際しては、アルゴン(Ar)ガス中に窒素を導入し、Crターゲットを用いた反応性スパッタリング法にて窒化クロム膜を成膜することができる。この際、窒化クロム膜の組成の制御は、Arガス、窒素ガスの割合を制御することにより行うことができる。
【0053】
(c)酸化クロム膜
酸化クロム膜は、窒化クロム膜上に形成されており、その主成分がクロム及び酸素であり、酸化窒化クロムや酸化窒化炭化クロム等とは異なり、クロム及び酸素以外の不純物を実質的に含有しない。
【0054】
酸化クロム(CrOy)膜のCrとOとの原子比率を表すyとしては、1.4以上2.1以下であることが好ましい。
【0055】
具体的には、酸化クロム膜は、膜全体を100原子%として、クロム及び酸素の割合が80~100%の範囲内、中でも、90~100%の範囲内の純度が好ましい。不純物として、水素、窒素、炭素等が含まれていても良い。
【0056】
酸化クロム膜の膜厚は、特に限定されないが、好ましくは5nm~100nmの範囲内、特に10nm~80nmの範囲内であることが好ましい。
また、酸化クロムの膜厚(TO)は、窒化クロム膜の膜厚(TN)との合計膜厚が上記「(i)第一仕様の低反射部 (b)窒化クロム膜で記載した範囲となることが好ましい。更には、酸化クロム膜の膜厚(TO)は、緑色~赤外(500~1000nm程度)領域全域における反射率を低減することが容易となるため、10nm~65nmの範囲内が好ましい。
【0057】
酸化クロムの形成方法としては、例えば反応性スパッタリング法、イオンプレーティング法、真空蒸着法などの物理蒸着法(PVD)が用いられる。反応性スパッタ法の利用に際しては、アルゴン(Ar)ガス中に酸素を導入し、Crターゲットを用いた反応性スパッタリング法にて酸化クロム膜を成膜することができる。この際、酸化クロム膜の組成の制御は、Arガス、酸素ガスの割合を制御することにより行うことができる。
【0058】
(ii)第二仕様の低反射部
本仕様の低反射部は、基材側から、金属クロム膜、酸化クロム膜、窒化クロム膜がこの順に配置されている。本仕様の低反射部を有する低反射領域は、光源から照射された光の波長領域550nm~950nmの範囲内のいずれかの波長における反射率を5%以下、特に1%以下まで下げることができる。
以下、各層について詳細に説明する。
【0059】
(a)金属クロム膜
本仕様における金属クロム膜は、基材上に形成されている。金属クロム膜の詳細は上述した「(ii)第一仕様の低反射部 (a)金属クロム膜」と同様であるため、ここでの説明は省略する。
【0060】
(b)酸化クロム膜
本仕様における酸化クロム膜は、金属クロム膜と窒化クロム膜との間に配置されている。膜厚は、特に限定されないが、例えば、好ましくは5nm~60nm、特に10nm~50nmの範囲内であることが好ましい。
さらに、後述する窒化クロム膜の膜厚との関係を満たすことが好ましい。より確実に、低反射領域の波長領域550nm~950nmの範囲内のいずれかの波長における反射率を10%以下、特には5%以下と低くすることができるからである。
【0061】
更には、酸化クロム膜の膜厚(TO)は、緑色~赤外(500~1000nm程度)領域全域における反射率を低減することが容易となるため、5nm~35nmの範囲内が好ましい。
【0062】
その他の酸化クロム膜の物性、組成及び形成方法の詳細は、上述した「(ii)第一仕様の低反射部 (c)酸化クロム膜」と同様であるため、ここでの説明は省略する。
【0063】
(c)窒化クロム膜
本仕様の窒化クロム膜は、酸化クロム膜上に形成されている。本仕様の窒化クロム膜の膜厚は特に限定されないが、例えば、好ましくは5nm~100nmの範囲内、特に10nm~80nmの範囲内であることが好ましい。更に、酸化クロム膜の膜厚(TO)との関係において、波長が850nmの場合には、TNとTOとの合計が30nm以上、波長が550nmの場合には、TNとTOとの合計が15nm以上であることが好ましい。更には、本仕様の窒化クロム膜の膜厚(TN)は、緑色~赤外(500~1000nm程度)領域全域における反射率を低減することが容易となるため、10nm~60nmの範囲内が好ましい。
【0064】
(2)基材
本開示において、基材に用いられる材料としては、例えば、ガラス、金属、樹脂、シリコン等を用いることができるが、中でもガラスを用いたガラス基板であることが好ましい。ガラスは、線膨張係数が小さく、使用環境の温度変化に伴う寸法変化を抑制することができるからである。基材の形状は、限定されるものではなく、例えば、ロータリーエンコーダに用いられるものは、その形状を平面視で略円形とし、リニアエンコーダに用いられるものは、その形状を平面視で略長方形とすることができる。
【0065】
(3)高反射領域
本実施形態における高反射領域は、エンコーダ用反射型光学式スケールの基材側とは反対側から入射する光の反射率が低反射領域よりも高ければ、その構成は特に限定されない。高反射領域における光の波長領域550nm~950nmの範囲内のいずれかの波長における反射率は、60%以上、中でも80%以上、特には90%以上であることが好ましい。例えば、
図1における高反射領域12は、基材1の上に配された金属クロム膜2を有し、金属クロム膜によって光を反射する。
【0066】
(4)製造方法
本実施形態の光学式スケールの製造方法は特に限定されないが、選択エッチングやリフトオフによって製造することができる。具体的には、基材上に、例えば、スパッタ法等により、金属クロム膜を形成し、その後、窒化クロム膜及び酸化クロム膜を形成する。次に、窒化クロム膜及び酸化クロム膜をフォトリソグラフィ及びエッチングによってパターニングすることで、
図1に示す光学式スケールを製造することができる。
【0067】
また、別の方法としては、基材上に金属クロム膜を形成後、金属クロム膜上にレジストパターンを形成し、スパッタリング法等の公知の真空製膜法を用いて、窒化クロム膜及び酸化クロム膜を形成する。その後、レジストパターンを除去することでレジストパターン直上に形成された窒化クロム膜、酸化クロム膜をリフトオフし、窒化クロム膜及び酸化クロム膜のパターンを得る方法によっても形成することができる。
【0068】
(5)変形例1
図2は、本実施形態のエンコーダ用反射型光学式スケールの別の一例を示す概略断面図である。
図2に示す本実施形態の光学式スケール10は、基材1上に高反射領域12と低反射領域11とが交互に配置されている。基材1上には、高反射金属膜5および保護膜6がこの順に形成されている。
【0069】
高反射領域12は、上記高反射金属膜5により光が反射される。一方、低反射領域11は、上記保護膜5上に、金属クロム膜2と、金属クロム膜2上に順不同に形成された、酸化クロム膜4及び窒化クロム膜3と、を有する低反射部20が形成されている。
【0070】
(i)高反射金属膜
上記高反射金属膜としては、高反射率を有する金属から構成されていることが好ましく、例えば、銀、アルミニウム、ロジウム、クロムおよびこれらの金属を主成分とする合金等が挙げられる。また近赤外領域にて特に反射率の高い金属膜として、金、銅およびこれらの金属を主成分とする合金等が挙げられる。
【0071】
(ii)保護膜
上記高反射金属膜が腐食を受けやすい性質を有する場合、高反射金属膜上に保護膜を形成することが好ましい。保護膜としては、一般的な光学機能部材の保護膜として用いられる材料と同様とすることができ、例えば、感光性ポリイミド樹脂、エポキシ樹脂およびアクリル樹脂等の光硬化型樹脂または熱硬化型樹脂、および無機材料等が挙げられる。また、その他の材料として、重合開始剤や各種添加剤等が挙げられる。保護膜の厚みについては、適宜選択することができる。また、保護膜の形成方法については、例えば、スピンコート法、ダイコート法等の公知の塗布方法を挙げることができる。
【0072】
(6)変形例2
図3(a)、(b)は、本実施形態のエンコーダ用反射型光学式スケールの別の一例を示す概略断面図である。
図3(a)に示す本実施形態の光学式スケール10は、基材1と、金属クロム膜2と、金属クロム膜2上に順不同に形成された、窒化クロム膜3及び酸化クロム膜4とを含む積層体上に、パターン状に形成された金属クロム膜9が形成された態様である。
【0073】
図3(b)は、上記積層体上に、パターン状に形成された高反射金属膜5が形成された態様である。
図3に示す光学式スケールは、基材1上に高反射領域12と低反射領域11とが交互に配置され、高反射領域12がパターン状に形成された金属クロム層9又は高反射金属膜5を有し、金属クロム層9又は高反射金属膜5で光を反射する。低反射領域11は、基材1上に形成された金属クロム膜2と、金属クロム膜2上に順不同に形成された、窒化クロム膜3及び酸化クロム膜4とを有する低反射部20を含み、低反射部20によって光が反射される。
図3(b)に示すように、高反射金属膜5が腐食を受けやすい性質を有する場合には、高反射金属膜5上には、保護膜6が形成されていてもよい。この場合、高反射金属膜をパターニングする際に使用したレジストをそのまま残すことによって保護膜6とすることができる。一方、金属クロム膜は腐食に対する耐性に優れるため、パターン状に形成された金属クロム膜9上に保護膜は形成されていなくてもよい。
【0074】
(7)S/N比
本実施形態のエンコーダ用反射型光学式スケールは、上述した通り、低反射領域の反射率を低減することが可能となることから、下記式で表されるS/N比を高くすることを可能とする。
S/N比=高反射領域の反射率/低反射領域の反射率
なお、上記式における高反射領域の反射率、および低反射領域の反射率は、同一波長での反射率を示すものである。
【0075】
本実施形態においては、上記S/N比を、6以上とすることが可能であり、中でも15以上、好ましくは100以上、特に好ましくは200以上とすることができる。
上記S/N比の値の根拠については、後述する実施例において示す。
【0076】
(8)光学式スケール
本開示における光学式スケールは、ロータリーエンコーダ用であってもよいし、リニアエンコーダ用であってもよい。
【0077】
B.エンコーダ(第一実施形態)
本開示においては、上述したエンコーダ用反射型光学式スケールと、上記エンコーダ用反射型光学式スケールに波長λの光を照射する光源と、上記光源の上記エンコーダ用反射型光学式スケールからの反射光を検出する光検出器と、を備えることを特徴とする反射型光学式エンコーダを提供する。
【0078】
図7(a)は本開示の反射型光学式エンコーダの一例を示す概略斜視図であり、
図7(b)は、
図1(a)の低反射領域11を含む光学式スケール10を備える光学式エンコーダの概略断面図である。本開示における反射型光学式エンコーダ100は、上述したエンコーダ用反射型光学式スケール10を含み、更に、光源31と、光検出器32とを含む。
更に、光検出器32とエンコーダ用反射型光学式スケール10との間に固定スリット33を含んでもよい。固定スリット33を設けることで、光検出器32が受光する光量の変化が大きくなり検出感度を向上させることができる。固定スリット33は、光源31とエンコーダ用反射型光学式スケール10との間に設けてもよい。
【0079】
本開示における反射型光学式エンコーダ100は、高反射領域での反射率と低反射領域での反射率の差が大きいため、光検出器32の誤検出を防止することができる。その結果、反射型光学式エンコーダ100では、光学式スケール10の読み取りが容易であり、良好なエンコーダ特性を有する。
図7はロータリーエンコーダであるが、リニアエンコーダであってもよい。以下、本開示のエンコーダ用反射型光学式スケールについて詳細に説明する。
【0080】
(1)エンコーダ用反射型光学式スケール
エンコーダ用反射型光学式スケールとしては、上述した「A.エンコーダ用反射型光学式スケール(第一実施形態)」の項で説明したものと同様であるため、ここでの説明は省略する。
【0081】
(2)光源
光源としては、例えばLED(発光ダイオード)やレーザー等である。光源から照射される光L1の波長λは、例えば、緑色~赤外(500~1000nm程度)領域である。
本開示における光学式スケールにおける低反射領域は、これらの波長領域の光の反射率を低減することが可能であるが、特に、赤色~赤外(600~1000nm程度)領域の光の反射率を低減することがより効果的である。
【0082】
光学式スケール10に対する光L1の入射角は、例えば、5°以上45°以下である。入射角θは、
図7(b)に示すように、基材の表面の垂線Pと、光源からの光L1の射出方向とがなす角度である。
【0083】
(3)光検出器
光検出器は、光学式スケールで反射された光L2を検出する。光検出器は、例えば、フォトダイオードや撮像素子などの受光素子(例、光電変換素子)を含む。
【0084】
C.エンコーダ用反射型光学式スケール(第二実施形態)
本実施形態のエンコーダ用反射型光学式スケールは、透明基材上に高反射領域と低反射領域とが交互に配置されたエンコーダ用反射型光学式スケールであって、上記低反射領域は、上記透明基材上に順不同に形成された酸化クロム膜及び窒化クロム膜と、上記酸化クロム膜又は上記窒化クロム上に形成された金属クロム膜と、を有する光反射部を含み、上記高反射領域は、上記エンコーダ用反射型光学式スケールの上記透明基材側から入射する光の反射率が上記低反射領域よりも高い、ことを特徴とする。
【0085】
本開示における第二実施形態は、光学式スケールの透明基材側から光が入射する場合の実施形態である。このような本実施形態の光学式スケールでは、低反射領域として、透明基材側から、順不同に形成された酸化クロム膜及び窒化クロム膜と、金属クロム膜との3層構造を有する光反射部を含み、光反射部によって光を反射するため、透明基材側から入射する光の低反射領域での波長領域550nm~950nmの範囲内のいずれかの波長における反射率を10%以下、好ましくは5%以下まで下げることができ、高反射領域での反射率と低反射領域での反射率との差を大きくすることができる。
【0086】
一方、金属クロム膜と酸化クロム膜との2層構造、金属クロム膜と窒化クロム膜との2層構造、他の金属膜と酸化クロム膜及び窒化クロム膜の少なくとも一方との組み合わせを含む光反射部では、低反射領域の反射率を十分に低減することができない。
【0087】
また、金属クロムのみを準備すれば、反応性スパッタ等を利用することにより、容易に酸化クロム膜及び窒化クロム膜を形成することができる。更に、高精細のパターニングも酸化ケイ素膜と比較して容易に行うことができる。
【0088】
更には、反射面がガラスで覆われているため、外部からの損傷を受けにくく、また、反射面の洗浄が容易であるという利点を有する。
【0089】
本明細書において、「透明基材上に順不同に形成された酸化クロム膜及び窒化クロム膜と、酸化クロム膜又は窒化クロム上に形成された金属クロム膜」とは、透明基材側から、酸化クロム膜、窒化クロム膜、および金属クロム膜の順で形成されていてもよいし、窒化クロム膜、酸化クロム膜、および金属クロム膜の順で形成されていてもよいことを意味する。
【0090】
図4(a)、(b)は、本実施形態のエンコーダ用反射型光学式スケールの一例を示す概略断面図である。
図4(a)、(b)に示す本実施形態の光学式スケール50は、透明基材7上に、高反射領域22と低反射領域21とが交互に配置されている。高反射領域22は、透明基材上に形成された金属クロム膜2を有し、金属クロム膜2によって光を反射する。
図4(a)では、低反射領域21は、透明基材7上に形成された酸化クロム4と、酸化クロム膜4上に配置された窒化クロム膜3と、窒化クロム膜3上に配置された金属クロム膜2とからなる第一仕様の光反射部20Aを有する。一方、
図4(b)では、低反射領域21は、透明基材7上に形成された窒化クロム3と、窒化クロム膜3上に配置された酸化クロム膜4と、酸化クロム膜4上に配置された金属クロム膜2とからなる第二仕様の光反射部20Bを有する。
図4(c)では、透明基材7の光反射部とは反対側に、反射防止膜8が配置されている。
【0091】
(1)低反射領域
低反射領域は光反射部を有していればよい。光反射部は、透明基材上に順不同に形成された酸化クロム膜及び窒化クロム膜と、上記酸化クロム膜又は上記窒化クロム上に形成された金属クロム膜と、からなる。具体的には、透明基材側から、酸化クロム膜、窒化クロム膜、金属クロム膜がこの順に配置されたもの(第一仕様の光反射部)、または、窒化クロム膜、酸化クロム膜、金属クロム膜がこの順に配置されたもの(第二仕様の光反射部)であり、光学式スケールにおいて、金属クロム膜が透明基材と反対側となるように配置される。
本実施形態においては、第一仕様の光反射部が低反射領域をより低反射とすることが可能であるので、好ましい。
【0092】
(i)第一仕様の光反射部
本仕様における光反射部は、透明基材側から、酸化クロム膜、窒化クロム膜、金属クロム膜がこの順に配置されたものである。酸化クロム膜、窒化クロム膜、金属クロム膜の組成や形成方法は、上述の「A.エンコーダ用反射型光学式スケール(第一実施形態) (1)低反射領域 (i)第一仕様の低反射部」の項で説明したものと同様とすることができるため、ここでの説明は省略する。
【0093】
(a)酸化クロム膜
本仕様の酸化クロム膜は、透明基材上に形成されている。本仕様の酸化クロム膜の膜厚は、特に限定されないが、例えば、好ましくは5nm~100nmの範囲内、特に10nm~80nmの範囲内であることが好ましい。上記範囲内であれば、範囲外である場合に比べ、低反射領域における反射率を低減することができ、更に、緑色~赤外(500~1000nm程度)領域全域における反射率を低減することが容易となるからである。
【0094】
(b)窒化クロム膜
本仕様の窒化クロム膜は、酸化クロム膜と金属クロム膜との間に配置されている。窒化クロム膜の膜厚TNは特に限定されないが、好ましくは10nm~100nmの範囲内、特に15nm~80nmの範囲内であることが好ましい。
また、酸化クロム膜の膜厚TOとの関係において、波長が850nmの場合には、TNとTOとの合計が30nm以上、波長が550nmの場合には、TNとTOとの合計が20nm以上であることが好ましい。更には、緑色~赤外(500~1000nm程度)領域全域における反射率を低減することが容易となるため、20nm~80nmの範囲内が好ましい。
【0095】
(c)金属クロム膜
本仕様の金属クロム膜は、窒化クロム膜の酸化クロムとは反対側に形成されている。金属クロム膜の窒化クロム膜とは反対側には、保護膜を配置してもよいし、配置しなくてもよい。金属クロム膜の膜厚は、特に限定されないが、上述の「A.エンコーダ用反射型光学式スケール(第一実施形態) (1)低反射領域 (i)第一仕様の低反射部」の項で説明したものと同様とすることができるため、ここでの説明は省略する。
【0096】
(ii)第二仕様の光反射部
本仕様における光反射部は、透明基材側から、窒化クロム膜、酸化クロム膜、金属クロム膜がこの順に配置されたものである。窒化クロム膜、酸化クロム膜、金属クロム膜の組成や形成方法は、上述の「A.エンコーダ用反射型光学式スケール(第一実施形態) (1)低反射領域 (i)第一仕様の低反射部」の項で説明したものと同様とすることができるため、ここでの説明は省略する。
【0097】
(a)窒化クロム膜
本仕様の窒化クロム膜は、酸化クロム膜と透明基材との間に配置されている。窒化クロム膜の膜厚は特に限定されないが、好ましくは5nm~80nmの範囲内、特に10nm~60nmの範囲内であることが好ましい。また、酸化クロム膜の膜厚TOとの関係において、波長が850nmの場合には、TNとTOとの合計が30nm以上、波長が550nmの場合には、TNとTOとの合計が15nm以上であることが好ましい。更には、窒化クロム膜の膜厚は、緑色~赤外(500~1000nm程度)領域全域における反射率を低減することが容易となるため、5nm~40nmの範囲内が好ましい。
【0098】
(b)酸化クロム膜
本仕様の酸化クロム膜は、透明基材上に形成されている。酸化膜の膜厚としては特に限定されず、好ましくは5nm~80nmの範囲内、特に10nm~60nmの範囲内であることが好ましい。更には、酸化クロム膜の膜厚は、緑色~赤外(500~1000nm程度)領域全域における反射率を低減することが容易となるため、10nm~45nmの範囲内が好ましい。
【0099】
(c)金属クロム膜
本仕様の金属クロム膜は、酸化クロム膜の基材とは反対側に形成されている。金属クロム膜の酸化クロム膜とは反対側には、保護膜を配置してもよいし、配置しなくてもよい。金属クロム膜の膜厚は、特に限定されないが、上述の「A.エンコーダ用反射型光学式スケール(第一実施形態) (1)低反射領域 (i)第一仕様の低反射部」の項で説明したものと同様とすることができるため、ここでの説明は省略する。
【0100】
(2)高反射領域
本実施形態における高反射領域は、エンコーダ用反射型光学式スケールの透明基材側から入射する光の反射率が低反射領域よりも高ければ、その構成は特に限定されない。高反射領域における光の波長領域550nm~950nmの範囲内のいずれかの波長における反射率は、60%以上、中でも80%以上、特には90%以上であることが好ましい。例えば、
図4(a)、(b)における高反射領域は、透明基材の上に配された金属クロム膜を有し、透明基材及び金属クロム膜によって光を反射する。
【0101】
(3)透明基材
透明基材としては、波長領域550nm~950nmに対する全光線透過率が80%以上、中でも85%以上、特に90%以上であることが好ましい。透明基材の厚さとしては、所望の光透過性を示すことが可能な厚さであればよく、例えば、0.1mm~2.0mmの範囲内が好ましい。
【0102】
具体的には、ガラス、透明樹脂基板等を使用することができる。中でも、ガラスが好ましい。ガラスは高強度であり、線膨張係数が小さく、使用環境の温度変化に伴う寸法変化を抑制することができるからである。透明樹脂基板としては、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエチレン(PE)、ポリカーボネート(PC)、アクリル、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアルコール、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、フェノール樹脂等から選ばれる透明樹脂材料から構成されるものが挙げられる。
【0103】
(4)反射防止膜
本実施形態では、
図4(c)に示すように、透明基材7上に、反射防止膜8を設けても良い。反射防止膜を設けることにより、より一層、低反射領域における反射率を低減することができ、光学式スケールからの反射光による像のコントラストを高くすることができる。
【0104】
反射防止膜としては、所定の反射防止機能を発揮することが可能であれば、有機層であってもよく無機層であってもよい。例えば、SiO2やMgF2、Al2O3、TiO3等の低屈折の薄膜が挙げられる。また、高屈折率物質からなる薄膜(以下、高屈折率膜とする。)と、上記高屈折率物質よりも屈折率が低い低屈折率物質からなる薄膜(以下、低屈折率膜とする。)と、を交互に積層した多層膜とすることができる。ただし、上記多層膜の最も視認側には、低屈折率膜が形成される。なお、上記多層膜における薄膜数および各薄膜の屈折率は、特に限定されるものではない。
【0105】
(5)製造方法
本実施形態の光学式スケールの製造方法は特に限定されないが、選択エッチングやリフトオフによって製造することができる。具体的には、透明基材上に、例えば、スパッタ法等により、窒化クロム膜及び酸化クロム膜を形成し、フォトリソグラフィ及びエッチングによってパターニングし、その後、パターン状の窒化クロム膜及び酸化クロム膜の上から、金属クロム膜を形成することで、
図4に示す光学式スケールを製造することができる。また、上記パターニングは、リフトオフにより行うこともできる。
【0106】
(6)変形例1
図5(a)、(b)は、本実施形態のエンコーダ用反射型光学式スケールの一例を示す概略断面図である。
図5に示す本実施形態の光学式スケール50における低反射領域21は、上記透明基材7上に順不同に形成された酸化クロム膜4及び窒化クロム膜3と、上記酸化クロム膜又は上記窒化クロム上に形成された金属クロム膜2と、からなる光反射部20を有する。高反射領域22は、透明基材上に形成された高反射金属膜5を有し、透明基材7と高反射金属膜5とで光を反射する。
図5(b)に示すように、高反射金属膜5が腐食を受けやすい性質を有する場合には、高反射金属膜5上に保護膜6を形成することが好ましい。また、透明基材7の光反射部20とは反対側に、反射防止膜8を設けても良い。
【0107】
(7)変形例2
図6(a)、(b)、(c)は、本実施形態のエンコーダ用反射型光学式スケールの他の例を示す概略断面図である。
図6(a)に示す本実施形態の光学式スケール50は、低反射領域21が、上記透明基材7上に順不同に形成された酸化クロム膜4及び窒化クロム膜3と、上記酸化クロム膜又は上記窒化クロム上に形成された金属クロム膜2と、からなる光反射部を有する。高反射領域22は、透明基材上にパターン状に形成された金属クロム膜9を有する。また、
図6(b)は、高反射領域22が、透明基材上にパターン状に形成された高反射金属膜5を有する場合である。また、
図6(a)、(b)の透明基板7の光反射部20とは反対側には、反射防止膜8を設けても良い(
図6(c))。反射防止膜を設けることにより、より一層、光学式スケールからの反射光による像のコントラストを高くすることができる。更に、金属クロム膜2の、窒化クロム膜3及び酸化クロム膜4とは反対側には、保護膜を設けてもよい。
【0108】
(8)S/N比
本実施形態のエンコーダ用反射型光学式スケールは、上述した通り、低反射領域の反射率を低減することが可能となることから、下記式で表されるS/N比を高くすることを可能とする。
S/N比=高反射領域の反射率/低反射領域の反射率
なお、上記式における高反射領域の反射率、および低反射領域の反射率は、同一波長での反射率を示すものである。
【0109】
本実施形態においては、上記S/N比を6以上とすることが可能であり、中でも15以上、好ましくは100以上、特に好ましくは200以上とすることができる。
上記S/N比の値の根拠については、後述する実施例において示す。
【0110】
D.光学式エンコーダ(第二実施形態)
本開示においては、上述したエンコーダ用反射型光学式スケールと、上記エンコーダ用反射型光学式スケールに波長λの光を照射する光源と、上記光源の上記エンコーダ用反射型光学式スケールからの反射光を検出する光検出器と、を備えることを特徴とする反射型光学式エンコーダを提供する。
【0111】
(1)エンコーダ用反射型光学式スケール
エンコーダ用反射型光学式スケールとしては、上述した「C.エンコーダ用反射型光学式スケール(第二実施形態)」の項で説明したものと同様であるため、ここでの説明は省略する。
【0112】
(2)光源及び光検出器
光源及び光検出器としては、上述した「B.エンコーダ用反射型光学式スケール(第一実施形態)」の項で説明したものと同様であるため、ここでの説明は省略する。
【0113】
E.エンコーダ用反射型光学式スケール(第三実施形態)
本実施形態のエンコーダ用反射型光学式スケールは、透明基材上に高反射領域と低反射領域とが交互に配置されたエンコーダ用反射型光学式スケールであって、上記低反射領域は、少なくとも3層の無機層が積層されてなる低反射部を有し、上記低反射領域における反射率が5%以下であり、上記高反射領域は、少なくとも1層の無機層が積層されてなり、上記高反射領域における反射率が60%以上であり、下記式で表されるの値が、6以上であることを特徴とする。
S/N比=高反射領域の反射率/低反射領域の反射率
なお、上記式における高反射領域の反射率、および低反射領域の反射率は、同一波長での反射率を示すものである。
【0114】
本実施形態開示における低反射領域を構成する低反射部は、少なくとも3層の無機層が積層されたものである。このような無機層としては、金属層であっても金属酸化物、金属窒化物等の金属化合物であってもよい。
このような無機層を構成する材料としては、例えば金属クロム、酸化クロム、窒化クロム、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化チタン、フッ化マグネシウム等を挙げることができる。
【0115】
上記低反射領域における、波長領域550nm~950nmの範囲内のいずれかの波長での反射率は、5%以下であり、特に好ましくは1%以下である。
また、上記高反射領域の構成については、特に限定されるものなく、波長領域550nm~950nmの範囲内のいずれかの波長における反射率が、60%以上となるものであればよい。例えば、上記「A.エンコーダ用反射型光学式スケール(第一実施形態)」および「C..エンコーダ用反射型光学式スケール(第二実施形態)」において説明したもの等を挙げることができる。
【0116】
上記高反射領域における波長領域550nm~950nmの範囲内のいずれかの波長における反射率は、60%以上であり、特に80%以上であることが好ましく、中でも90%&以上であることが好ましい。
本実施形態におけるS/N比は、6以上であればよく、中でも15以上、好ましくは100以上、特に好ましくは、200以上である。
【0117】
本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【実施例】
【0118】
以下に実施例および比較例を示し、本発明をさらに詳細に説明する。
(実施例1)
第一実施形態において低反射部が第一の仕様である場合(
図1(a))、低反射部20の酸化クロム膜4及び窒化クロム膜3の膜厚を変化させて(金属クロム膜2の膜厚設定:100nm)、ガラス(基材1)とは反対側から波長850nmの光L1が低反射領域11に入射した場合の反射率をシミュレーションにより算出した。結果を
図8(a)に示す。
図8中、△は反射率20%以下、〇は反射率10%以下、◎は反射率5%以下である。酸化クロム膜の膜厚が50nm、窒化クロム膜の膜厚が30nm、金属クロム膜の膜厚が100nmの場合における、反射率の波長依存性を
図8(b)に示す。
【0119】
実施例1において、金属クロム膜2が配置された高反射領域における反射率(波長850nm)は、64.1%であった。また、各層の膜厚を上記値に調製した低反射領域における反射率(波長850nm)は、0.3%であった。
この場合のS/N比は、214であった。
【0120】
一方、上記金属クロム膜2に替えて、高反射金属膜として銀が配置された高反射領域における反射率(波長850nm)は、91.1%であった。
この場合のS/N比は、304であった。
【0121】
(実施例2)
第二実施形態において低反射部が第一の仕様である場合(
図4(a))、低反射部20の酸化クロム膜及び窒化クロム膜の膜厚を変化させて(金属クロム膜の膜厚設定:100nm)、透明基材(ガラス)から波長850nmの光が低反射領域に入射した場合の反射率をシミュレーションにより算出した。結果を
図9(a)に示す。また、酸化クロム膜の膜厚が25nm、窒化クロム膜の膜厚が45nm、金属クロム膜の膜厚が100nmの場合における、反射率の波長依存性を
図9(b)に示す。なお、ここでの金属クロム膜の膜厚は、低反射領域21における膜厚を示すものであり、低反射領域21における窒化クロム3の酸化クロム4とは反対側の表面に配置された金属クロム2の膜厚を示す。
【0122】
実施例2において、金属クロム膜2が配置された高反射領域における反射率(波長850nm)は、70.0%であった。また、各層の膜厚を上記値に調製した低反射領域における反射率(波長850nm)は、4.1%であった。
この場合のS/N比は、17であった。
【0123】
一方、上記金属クロム膜2に替えて、高反射金属膜として銀が配置された高反射領域における反射率(波長850nm)は、97.0%であった。
この場合のS/N比は、24であった。
【0124】
(実施例3)
第一実施形態において低反射部が第二の仕様である場合(
図1(b))、低反射部の酸化クロム膜及び窒化クロム膜の膜厚を変化させて(金属クロム膜の膜厚設定:100nm)、ガラスとは反対側から波長850nmの光が低反射領域に入射した場合の反射率をシミュレーションにより算出した。結果を
図10(a)に示す。酸化クロム膜の膜厚が20nm、窒化クロム膜の膜厚が40nm、金属クロム膜の膜厚が100nmの場合における、反射率の波長依存性を
図10(b)に示す。
【0125】
実施例3において、金属クロム膜2が配置された高反射領域における反射率(波長850nm)は、64.1%であった。また、各層の膜厚を上記値に調製した低反射領域における反射率(波長850nm)は、0.6%であった。
この場合のS/N比は、107であった。
【0126】
一方、上記金属クロム膜2に替えて、高反射金属膜として銀が配置された高反射領域における反射率(波長850nm)は、91.1%であった。
この場合のS/N比は、152であった。
【0127】
(実施例4)
第二実施形態において低反射部が第二の仕様である場合(
図4(b))、低反射部の酸化クロム膜及び窒化クロム膜の膜厚を変化させて(金属クロム膜の膜厚設定:100nm)、ガラス側から波長850nmの光が低反射領域に入射した場合の反射率をシミュレーションにより算出した。結果を
図11(a)に示す。また、酸化クロム膜の膜厚が40nm、窒化クロム膜の膜厚が20nm、金属クロム膜の膜厚が100nmの場合における、反射率の波長依存性を
図11(b)に示す。なお、ここでの金属クロム膜の膜厚は、低反射領域21における膜厚を示すものであり、低反射領域21における酸化クロム4の窒化クロム3とは反対側の表面に配置された金属クロム2の膜厚を示す。
【0128】
実施例4において、金属クロム膜2が配置された高反射領域における反射率(波長850nm)は、70.0%であった。また、各層の膜厚を上記値に調製した低反射領域における反射率(波長850nm)は、4.1%であった。
この場合のS/N比は、17であった。
【0129】
一方、上記金属クロム膜2に替えて、高反射金属膜として銀が配置された高反射領域における反射率(波長850nm)は、97.0%であった。
この場合のS/N比は、24であった。
【0130】
(比較例1)
図12(b)に示すように、ガラス51上に、金属クロム膜52及び窒化クロム膜53をこの順に有する薄膜多層膜を形成して低反射領域とした場合の、ガラスと反対側から入射した光の低反射領域の反射率(縦軸)を、窒化クロムの膜厚(横軸)に応じてシミュレーションで算出した。波長は550nm、650nm、750nm、850nmとした。金属クロム膜の膜厚が100nmの場合における結果を
図12(a)に示す。
【0131】
(比較例2)
図13(b)に示すように、ガラス51上に、金属クロム膜52及び酸化クロム膜54をこの順に有する薄膜多層膜を形成して低反射領域とした場合の、ガラスと反対側から入射した光の低反射領域の反射率(縦軸)を、酸化クロムの膜厚(横軸)に応じてシミュレーションを行った。金属クロム膜の膜厚が100nmの場合における結果を
図13(a)に示す。
【0132】
(比較例3)
図14(b)に示すように、ガラス51上に、窒化クロム膜53及び金属クロム膜52をこの順に有する薄膜多層膜を形成して低反射領域とした場合の、ガラス側から入射した光の低反射領域の反射率(縦軸)を、窒化クロムの膜厚(横軸)に応じてシミュレーションを行った。金属クロム膜の膜厚が100nmの場合における結果を
図14(a)に示す。
【0133】
(比較例4)
図15(b)に示すように、ガラス51上に、酸化クロム膜54及び金属クロム膜52をこの順に有する薄膜多層膜を形成して低反射領域とした場合の、ガラス側から入射した光の低反射領域の反射率(縦軸)を、酸化クロムの膜厚(横軸)に応じてシミュレーションを行った。金属クロム膜の膜厚が100nmの場合における結果を
図15(a)に示す。
【0134】
実施例1~実施例4の結果によれば、低反射領域における反射率を10%以下、特には5%以下と低減することが可能であった。一方で、比較例1~4の結果によれば、実施例に比べ、反射率を十分に低減することができなかった。また、実施例1、3では、反射率変化の波長依存性が小さいことが示唆された。
【符号の説明】
【0135】
1 … 基材
2 … 金属クロム膜
3 … 窒化クロム膜
4 … 酸化クロム膜
20 … 低反射部
11 … 低反射領域(第一実施形態)
12 … 高反射領域(第一実施形態)
21 … 低反射領域(第二実施形態)
22 … 高反射領域(第二実施形態)