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7574888コーヒー飲料及びインスタントコーヒー飲料用組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-21
(45)【発行日】2024-10-29
(54)【発明の名称】コーヒー飲料及びインスタントコーヒー飲料用組成物
(51)【国際特許分類】
   A23F 5/24 20060101AFI20241022BHJP
   A23F 5/28 20060101ALI20241022BHJP
   A23F 5/36 20060101ALI20241022BHJP
【FI】
A23F5/24
A23F5/28
A23F5/36
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2023116521
(22)【出願日】2023-07-18
【審査請求日】2023-09-26
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000066
【氏名又は名称】味の素株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【弁理士】
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(74)【代理人】
【識別番号】100211122
【弁理士】
【氏名又は名称】白石 卓也
(72)【発明者】
【氏名】持田 尚宏
(72)【発明者】
【氏名】高倉 康彰
(72)【発明者】
【氏名】浜名 芳輝
(72)【発明者】
【氏名】尾崎 和人
(72)【発明者】
【氏名】吉田 健二
(72)【発明者】
【氏名】熊王 俊男
【審査官】澤田 浩平
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-169598(JP,A)
【文献】特開昭63-024851(JP,A)
【文献】特開2023-012054(JP,A)
【文献】国際公開第2022/230798(WO,A1)
【文献】特開2019-180298(JP,A)
【文献】特開2023-111064(JP,A)
【文献】特開2016-106605(JP,A)
【文献】特開2018-068281(JP,A)
【文献】特表2022-532963(JP,A)
【文献】特開2009-279010(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23F 5/24
A23F 5/28
A23F 5/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
可溶性コーヒー固形分を含有しており、
(a)飲料のリンゴ酸濃度が、12.16mg/100mL以上30mg/100mL以下であり、かつ
(b)飲料のフェニルアセトアルデヒド濃度が、2.87μg/100mL以上25μg/100mL以下であ
飲料のリンゴ酸濃度に対するフェニルアセトアルデヒド濃度の比([フェニルアセトアルデヒド濃度(μg/100mL)]/[リンゴ酸濃度(mg/100mL)])が、0.3以上0.8以下であることを特徴とする、コーヒー飲料。
【請求項2】
飲料のカフェイン濃度に対するリンゴ酸濃度の比([リンゴ酸濃度(mg/100mL)]/[カフェイン濃度(mg/100mL)])が、0.100以上である、請求項1に記載のコーヒー飲料。
【請求項3】
飲料のカフェイン濃度に対するフェニルアセトアルデヒド濃度の比([フェニルアセトアルデヒド濃度(μg/100mL)]/[カフェイン濃度(mg/100mL)])が、0.09以上である、請求項1に記載のコーヒー飲料。
【請求項4】
飲料のリナロール濃度が、0.10μg/100mL以上40μg/100mL以下であり、かつ
飲料のカフェイン濃度に対するリナロール濃度の比([リナロール濃度(μg/100mL)]/[カフェイン濃度(mg/100mL)])が、0.003以上である、請求項1に記載のコーヒー飲料。
【請求項5】
飲料のゲラニオール濃度が、0.05μg/100mL以上40μg/100mL以下であり、かつ
飲料のカフェイン濃度に対するゲラニオール濃度の比([ゲラニオール濃度(μg/100mL)]/[カフェイン濃度(mg/100mL)])が、0.002以上である、請求項1に記載のコーヒー飲料。
【請求項6】
液体と混合してコーヒー飲料を調製するためのインスタントコーヒー飲料用組成物であって、
可溶性コーヒー固形分を含有し、
(a’)リンゴ酸の含有量が、前記インスタントコーヒー飲料用組成物を液体と混合して得られるコーヒー飲料のリンゴ酸濃度が、12.16mg/100mL以上30mg/100mL以下となる量であり、かつ
(b’)フェニルアセトアルデヒドの含有量が、前記インスタントコーヒー飲料用組成物を液体と混合して得られるコーヒー飲料のフェニルアセトアルデヒド濃度が、2.87μg/100mL以上25μg/100mL以下となる量であり、
リンゴ酸の含有量とフェニルアセトアルデヒドの含有量が、前記インスタントコーヒー飲料用組成物を液体と混合して得られるコーヒー飲料のリンゴ酸濃度に対するフェニルアセトアルデヒド濃度の比([フェニルアセトアルデヒド濃度(μg/100mL)]/[リンゴ酸濃度(mg/100mL)])が0.3以上0.8以下となる量であることを特徴とする、インスタントコーヒー飲料用組成物。
【請求項7】
リンゴ酸の含有量が、前記インスタントコーヒー飲料用組成物を液体と混合して得られるコーヒー飲料のカフェイン濃度に対するリンゴ酸濃度の比([リンゴ酸濃度(mg/100mL)]/[カフェイン濃度(mg/100mL)])が0.100以上となる量である、請求項に記載のインスタントコーヒー飲料用組成物。
【請求項8】
フェニルアセトアルデヒドの含有量が、前記インスタントコーヒー飲料用組成物を液体と混合して得られるコーヒー飲料のカフェイン濃度に対するフェニルアセトアルデヒド濃度の比([フェニルアセトアルデヒド濃度(μg/100mL)]/[カフェイン濃度(mg/100mL)])が0.09以上となる量である、請求項に記載のインスタントコーヒー飲料用組成物。
【請求項9】
リナロールの含有量が、前記インスタントコーヒー飲料用組成物を液体と混合して得られるコーヒー飲料のカフェイン濃度に対するリナロール濃度の比([リナロール濃度(μg/100mL)]/[カフェイン濃度(mg/100mL)])が0.003以上となり、かつリナロール濃度が0.10μg/100mL以上となる量である、請求項に記載のインスタントコーヒー飲料用組成物。
【請求項10】
ゲラニオールの含有量が、前記インスタントコーヒー飲料用組成物を液体と混合して得られるコーヒー飲料のカフェイン濃度に対するゲラニオール濃度の比([ゲラニオール濃度(μg/100mL)]/[カフェイン濃度(mg/100mL)])が0.002以上となり、かつゲラニオール濃度が0.05μg/100mL以上となる量である、請求項に記載のインスタントコーヒー飲料用組成物。
【請求項11】
(a)飲料のリンゴ酸濃度が、12.16mg/100mL以上30mg/100mL以下、かつ
(b)飲料のフェニルアセトアルデヒド濃度が、2.87μg/100mL以上25μg/100mL以下であり、さらに
飲料のリンゴ酸濃度に対するフェニルアセトアルデヒド濃度の比([フェニルアセトアルデヒド濃度(μg/100mL)]/[リンゴ酸濃度(mg/100mL)])が、0.3以上0.8以下
となるように、リンゴ酸及びフェニルアセトアルデヒドからなる群より選択される1種以上の濃度を調整することを特徴とする、コーヒー飲料の製造方法。
【請求項12】
コーヒー飲料の好ましい酸味と華やかな香りを改善するために、
(a)飲料のリンゴ酸濃度が、12.16mg/100mL以上30mg/100mL以下、かつ
(b)飲料のフェニルアセトアルデヒド濃度が、2.87μg/100mL以上25μg/100mL以下であり、さらに
飲料のリンゴ酸濃度に対するフェニルアセトアルデヒド濃度の比([フェニルアセトアルデヒド濃度(μg/100mL)]/[リンゴ酸濃度(mg/100mL)])が、0.3以上0.8以下
となるように、リンゴ酸及びフェニルアセトアルデヒドからなる群より選択される1種以上の濃度を調整することを特徴とする、コーヒー飲料の風味改善方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、好ましい酸味とコーヒーらしい華やかな香りが改善されたコーヒー飲料、及び当該コーヒー飲料を調製するためのインスタントコーヒー飲料用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
インスタントコーヒーをはじめとする可溶性コーヒー固形分を主要原料とするインスタントコーヒー飲料用組成物は、一般的に粉末であって、水等の可食性液体に溶解させることによりコーヒー飲料を手軽に楽しめる。特に、クリーミングパウダー及び甘味料を配合したインスタントコーヒー飲料用組成物は、お湯や牛乳に溶解させることによって、カフェオレやカフェラテの様なコーヒー飲料を簡便に提供しうる。この手軽さとおいしさによって、インスタントコーヒー飲料用組成物の市場は、目覚ましい勢いで成長している。
【0003】
コーヒー飲料においては、飲んでいる時に感じるコーヒーの香りが重要であり、おいしさと密接に関係している。しかし、インスタントコーヒー飲料用組成物から調製されたコーヒー飲料(インスタントコーヒー飲料)は、焙煎した豆を粉砕して抽出するいわゆるレギュラーコーヒーと比べて、香りが弱い。また、容器に充填されるいわゆるRTDのコーヒー飲料も、市場に流通される際に殺菌処理が行われるため、こちらもレギュラーコーヒーと比べて、香りが弱い。このため、これらのコーヒー飲料では、よりコーヒーらしい香りを増強して、風味を改善することが試みられている。
【0004】
おいしさを改善するために、インスタントコーヒー飲料用組成物にコーヒーの香り成分を添加することによって香りを強化することが考えられる。ここで、例えば非特許文献1に示すように、コーヒーにどのような香り成分が含まれているかについては報告がある。しかしながら、コーヒーに含まれている多種多様な香り成分のうち、どの香り成分がどの程度含まれていればおいしさに繋がるのか、飲用した人が「おいしい」と感じられるのかについては、未だ不明である。このため、従来、コーヒーの香りを強化するためには、焙煎コーヒーから水蒸気蒸留や溶剤抽出等を用いて抽出された天然香料が用いられていた。
【0005】
また、コーヒー飲料は、カフェインに由来する苦味を主な特徴とする飲料であるが、コーヒーらしい風味には酸味も重要である。コーヒー飲料の酸味は、主に飲料中の有機酸組成に依存しており、例えば特許文献1には、コーヒーの酸味には良質の酸味と不快な酸味があり、リンゴ酸と酢酸の含有量比を特定の範囲内に調整することにより、インスタントコーヒー飲料の酸味の質と香りを改善できることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2017-169598号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】Pua,et.al.,Food Chemistry, 2020, vol.302, 125370.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、好ましい酸味とコーヒーらしい華やかな香りが改善されたコーヒー飲料、及び、水等の可食性液体に溶解させるだけで当該コーヒー飲料を簡便に調製し得るインスタントコーヒー飲料用組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、コーヒー飲料に、リンゴ酸、フェニルアセトアルデヒド、リナロール、及びゲラニオールからなる群より選択される1種以上の化合物を所定量含有させることにより、好ましい酸味とコーヒーらしい華やかな香りが改善されることを見出し、本発明を完成させた。すなわち、本発明は以下の通りである。
【0010】
[1] 可溶性コーヒー固形分を含有しており、
下記(a)~(d)
(a)飲料のリンゴ酸濃度が、3.10mg/100mL以上である、
(b)飲料のフェニルアセトアルデヒド濃度が、2.87μg/100mL以上である、
(c)飲料のリナロール濃度が、0.10μg/100mL以上である、
(d)飲料のゲラニオール濃度が、0.05μg/100mL以上である、
のいずれかであることを特徴とする、コーヒー飲料。
[2] 飲料のカフェイン濃度に対するリンゴ酸濃度の比([リンゴ酸濃度(mg/100mL)]/[カフェイン濃度(mg/100mL)])が、0.100以上である、前記[1]のコーヒー飲料。
[3] 飲料のカフェイン濃度に対するフェニルアセトアルデヒド濃度の比([フェニルアセトアルデヒド濃度(μg/100mL)]/[カフェイン濃度(mg/100mL)])が、0.09以上である、前記[1]又は[2]のコーヒー飲料。
[4] 飲料のカフェイン濃度に対するリナロール濃度の比([リナロール濃度(μg/100mL)]/[カフェイン濃度(mg/100mL)])が、0.003以上である、前記[1]~[3]のいずれかのコーヒー飲料。
[5] 飲料のカフェイン濃度に対するゲラニオール濃度の比([ゲラニオール濃度(μg/100mL)]/[カフェイン濃度(mg/100mL)])が、0.002以上である、前記[1]~[4]のいずれかのコーヒー飲料。
[6] 飲料のリンゴ酸濃度に対するフェニルアセトアルデヒド濃度の比([フェニルアセトアルデヒド濃度(μg/100mL)]/[リンゴ酸濃度(mg/100mL)])が、0.2以上である、前記[1]~[5]のいずれかのコーヒー飲料。
[7] 液体と混合してコーヒー飲料を調製するためのインスタントコーヒー飲料用組成物であって、
可溶性コーヒー固形分を含有し、
下記(a’)~(d’)
(a’)リンゴ酸の含有量が、前記インスタントコーヒー飲料用組成物を液体と混合して得られるコーヒー飲料のリンゴ酸濃度が、3.10mg/100mL以上となる量である、
(b’)フェニルアセトアルデヒドの含有量が、前記インスタントコーヒー飲料用組成物を液体と混合して得られるコーヒー飲料のフェニルアセトアルデヒド濃度が、2.87μg/100mL以上となる量である、
(c’)リナロールの含有量が、前記インスタントコーヒー飲料用組成物を液体と混合して得られるコーヒー飲料のリナロール濃度が、0.10μg/100mL以上となる量である、
(d’)ゲラニオールの含有量が、前記インスタントコーヒー飲料用組成物を液体と混合して得られるコーヒー飲料のゲラニオール濃度が、0.05μg/100mL以上となる量である、
のいずれかであることを特徴とする、インスタントコーヒー飲料用組成物。
[8] リンゴ酸の含有量が、前記インスタントコーヒー飲料用組成物を液体と混合して得られるコーヒー飲料のカフェイン濃度に対するリンゴ酸濃度の比([リンゴ酸濃度(mg/100mL)]/[カフェイン濃度(mg/100mL)])が0.100以上となる量である、前記[7]のインスタントコーヒー飲料用組成物。
[9] フェニルアセトアルデヒドの含有量が、前記インスタントコーヒー飲料用組成物を液体と混合して得られるコーヒー飲料のカフェイン濃度に対するフェニルアセトアルデヒド濃度の比([フェニルアセトアルデヒド濃度(μg/100mL)]/[カフェイン濃度(mg/100mL)])が0.09以上となる量である、前記[7]又は[8]のインスタントコーヒー飲料用組成物。
[10] リナロールの含有量が、前記インスタントコーヒー飲料用組成物を液体と混合して得られるコーヒー飲料のカフェイン濃度に対するリナロール濃度の比([リナロール濃度(μg/100mL)]/[カフェイン濃度(mg/100mL)])が0.003以上となる量である、前記[7]~[9]のいずれかのインスタントコーヒー飲料用組成物。
[11] ゲラニオールの含有量が、前記インスタントコーヒー飲料用組成物を液体と混合して得られるコーヒー飲料のカフェイン濃度に対するゲラニオール濃度の比([ゲラニオール濃度(μg/100mL)]/[カフェイン濃度(mg/100mL)])が0.002以上となる量である、前記[7]~[10]のいずれかのインスタントコーヒー飲料用組成物。
[12] リンゴ酸の含有量とフェニルアセトアルデヒドの含有量が、前記インスタントコーヒー飲料用組成物を液体と混合して得られるコーヒー飲料のリンゴ酸濃度に対するフェニルアセトアルデヒド濃度の比([フェニルアセトアルデヒド濃度(μg/100mL)]/[リンゴ酸濃度(mg/100mL)])が0.2以上となる量である、前記[7]~[11]のいずれかのインスタントコーヒー飲料用組成物。
[13] 下記(a)~(d)
(a)飲料のリンゴ酸濃度が、3.10mg/100mL以上である、
(b)飲料のフェニルアセトアルデヒド濃度が、2.87μg/100mL以上である、
(c)飲料のリナロール濃度が、0.10μg/100mL以上である、
(d)飲料のゲラニオール濃度が、0.05μg/100mL以上である、
のいずれかとなるように、リンゴ酸、フェニルアセトアルデヒド、リナロール、及びゲラニオールからなる群より選択される1種以上の濃度を調整することを特徴とする、コーヒー飲料の製造方法。
[14] コーヒー飲料の好ましい酸味と華やかな香りを改善するために、
下記(a)~(d)
(a)飲料のリンゴ酸濃度が、3.10mg/100mL以上である、
(b)飲料のフェニルアセトアルデヒド濃度が、2.87μg/100mL以上である、
(c)飲料のリナロール濃度が、0.10μg/100mL以上である、
(d)飲料のゲラニオール濃度が、0.05μg/100mL以上である、
のいずれかとなるように、リンゴ酸、フェニルアセトアルデヒド、リナロール、及びゲラニオールからなる群より選択される1種以上の濃度を調整することを特徴とする、コーヒー飲料の風味改善方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、好ましい酸味とコーヒーらしい華やかな香りが改善された、嗜好性の高いコーヒー飲料や、当該コーヒー飲料を容易に調製可能なインスタントコーヒー飲料用組成物が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明及び本願明細書において、「インスタントコーヒー飲料用組成物」(「IC飲料用組成物」と略記することもある。)とは、水や牛乳等の液体に溶解、希釈、又は分散させることによって、コーヒー飲料を調製し得る組成物を意味する。IC飲料用組成物は、粉末や顆粒等の固形物であってもよく、液体であってもよい。
【0013】
本発明及び本願明細書において、「粉末」とは粉粒体(異なる大きさの分布をもつ多くの固体粒子からなり,個々の粒子間に,何らかの相互作用が働いているもの)を意味する。また、「顆粒」は粉末から造粒された粒子(顆粒状造粒物)の集合体である。粉末には、顆粒も含まれる。
【0014】
本発明及び本願明細書において、「ppm」及び「ppb」は、それぞれ、「質量ppm(0.0001質量%)」及び「質量ppb(0.0000001質量%)」を意味する。
【0015】
本発明及び本願明細書において、「X~X(X及びXは、X<Xを充たす実数)」は、「X以上X以下」の数値範囲を意味する。
【0016】
本発明においては、リンゴ酸、フェニルアセトアルデヒド、リナロール、及びゲラニオールを風味改善剤として利用し、これらの風味改善剤のコーヒー飲料中の濃度を所定の濃度以上に調製することによって、好ましい酸味とコーヒーらしい華やかな香りの両方を改善する。以降においては、特に記載のない限り、「風味改善効果」とは、リンゴ酸、フェニルアセトアルデヒド、リナロール、又はゲラニオールのいずれかによるコーヒー飲料の好ましい酸味とコーヒーらしい華やかな香りの両方を改善する効果を意味する。
【0017】
本発明に係るコーヒー飲料は、リンゴ酸、フェニルアセトアルデヒド、リナロール、及びゲラニオールからなる群より選択される1種以上の飲料中の濃度を、所定の濃度以上に調整することにより、好ましい酸味とコーヒーらしい華やかな香りの両方が改善されたコーヒー飲料である。具体的には、本発明に係るコーヒー飲料は、可溶性コーヒー固形分を含有しており、かつ、下記(a)~(d)のいずれかであることを特徴とする。
(a)飲料のリンゴ酸濃度が、3.10mg/100mL以上である。
(b)飲料のフェニルアセトアルデヒド濃度が、2.87μg/100mL以上である。
(c)飲料のリナロール濃度が、0.10μg/100mL以上である。
(d)飲料のゲラニオール濃度が、0.05μg/100mL以上である。
【0018】
本発明に係るコーヒー飲料は、前記(a)~(d)のうちの少なくとも1つを満たしているコーヒー飲料である。本発明に係るコーヒー飲料は、前記(a)~(d)のうちの2つ以上を満たしているコーヒー飲料であってもよく、前記(a)~(d)の全てを満たしているコーヒー飲料も好ましい。
【0019】
原料として用いられる可溶性コーヒー固形分は、焙煎されたコーヒー豆から熱水抽出された抽出物(以下、「コーヒー抽出液」ということがある)に含まれている可溶性の固形分である。原料とする可溶性コーヒー固形分は、1種類の原料コーヒー豆の焙煎豆から抽出された固形分であってもよく、2種類以上の品種の焙煎コーヒー豆から抽出された固形分であってもよい。原料とする可溶性コーヒー固形分が2種類以上の原料コーヒー豆の焙煎豆から抽出された固形分である場合、原料の複数種類の焙煎コーヒー豆を混合した混合物から可溶性コーヒー固形分を調製してもよく、それぞれの焙煎コーヒー豆から調製した可溶性コーヒー固形分を混合してもよい。なお、本発明及び本願明細書において、「特定の品種のコーヒー豆を主原料とする」とは、原料とする焙煎コーヒー豆の50質量%以上が、当該特定の品種のコーヒー豆の焙煎豆であることを意味する。
【0020】
原料のコーヒー豆としては、特に限定されるものではない。例えば、アラビカ種、ロバスタ種(カネフォラ種)、リベリカ種のいずれの品種のコーヒー豆であってもよく、これらの品種から派生した品種(例えば、ティピカ種、ブルボン種、カトゥーラ種、ムンドノーボ種、カトゥアイ種、カチモール種、ヴェリダコロンビア種など)のコーヒー豆であってもよい。
【0021】
原料コーヒー豆の焙煎や焙煎されたコーヒー豆からの熱水抽出は、ペーパやネル等を用いたドリップ法、サイフォン式やパーコレータ式等の蒸気圧を利用した方法、エスプレッソマシン等を用いた高圧抽出法、フレンチプレス法、エアロプレス法、多段抽出式や向流式連続抽出式等の高温高圧抽出法等、各種の公知の抽出方法の中から適宜選択して用いることができる。抽出時の湯量は抽出効率や得られるコーヒー抽出液の組成に影響を与える。抽出時の湯量は、例えば、コーヒー豆重量に対して2、4、6、8、10、12、14倍量を用いることができる。
【0022】
粉末又は水溶系である可溶性コーヒー固形分は、常法により製造することができ、また、市販されているものを用いてもよい。例えば、可溶性コーヒー固形分のみを粉末化したもの(インスタントコーヒー(IC)粉末)は、焙煎したコーヒー豆から熱水を用いて可溶性の固形分を抽出し、得られた抽出物を乾燥することにより得られる。抽出物の乾燥方法としては、凍結乾燥、噴霧乾燥、真空乾燥等が挙げられる。また、コーヒー豆からの抽出物は、乾燥前に、必要に応じて濃縮してもよい。当該濃縮方法としては、熱濃縮方法、冷凍濃縮方法、逆浸透膜や限外濾過膜等を用いた膜濃縮方法等の汎用されている濃縮方法により行うことができる。
【0023】
リンゴ酸は、可溶性コーヒー固形分に含まれる有機酸の1種であり、アラビカ豆から調製されたコーヒー抽出液、特に浅煎りのアラビカ豆から調製されたコーヒー抽出液に多く含まれる。コーヒー飲料のリンゴ酸濃度を3.10mg/100mL以上に調整することにより、ジューシーな酸味が増強されて好ましい酸味が改善されることに加えて、華やかな香りも増強される。コーヒー飲料のリンゴ酸の濃度を高めることによって、酸味だけではなく、華やかな香りも増強できることは、本願発明者らにより初めて見いだされた知見である。
【0024】
本発明に係るコーヒー飲料のリンゴ酸濃度としては、3.10mg/100mL以上であれば特に限定されるものではない。本発明に係るコーヒー飲料のリンゴ酸濃度としては、4.00mg/100mL以上が好ましく、10.00mg/100mL以上がより好ましく、15.00mg/100mL以上がさらに好ましく、20.00mg/100mL以上がよりさらに好ましい。また、リンゴ酸に由来する酸味がコーヒー飲料の異味となりにくい点から、本発明に係るコーヒー飲料のリンゴ酸濃度としては、180mg/100mL以下が好ましく、150mg/100mL以下がより好ましく、120mg/100mL以下がさらに好ましく、100mg/100mL以下がよりさらに好ましい。
【0025】
本発明に係るコーヒー飲料としては、コーヒー飲料らしい呈味バランスの点から、飲料のカフェイン濃度に対するリンゴ酸濃度の比([リンゴ酸濃度(mg/100mL)]/[カフェイン濃度(mg/100mL)])(以下、「リンゴ酸/カフェイン比」)が、0.100以上であることが好ましく、0.150以上であることがより好ましく、0.200以上であることがさらに好ましく、0.300以上であることがよりさらに好ましい。また、本発明に係るコーヒー飲料のリンゴ酸/カフェイン比は、3.200以下であることが好ましく、3.000以下であることがより好ましく、2.500以下であることがさらに好ましい。
【0026】
コーヒー飲料中のリンゴ酸濃度は、例えば、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)法により測定でき、なかでも、BTB(ブロモチモールブルー)を使用したポストカラム法により測定することができる。また、コーヒー飲料中のリンゴ酸濃度は、飲料の製造に用いられた各原料に含まれているリンゴ酸含有量と当該原料の配合量から算出することができる。
【0027】
フェニルアセトアルデヒドは、はちみつ様やヒヤシンスの香りのような甘い香りの香気成分であり、コーヒー抽出液に含まれている香気成分の1種である。フェニルアセトアルデヒドをコーヒー抽出液に含有させると、すっきりとした柑橘系の香りが感じられる。コーヒー飲料のフェニルアセトアルデヒド濃度を2.87μg/100mL以上に調整することにより、すっきりとした柑橘系の香りが増強されて華やかな香りが改善されることに加えて、好ましい酸味も増強される。コーヒー飲料のフェニルアセトアルデヒドの濃度を高めることによって、華やかな香りだけではなく、好ましい酸味も改善できることは、本願発明者らにより初めて見いだされた知見である。
【0028】
本発明に係るコーヒー飲料のフェニルアセトアルデヒド濃度としては、2.87μg/100mL以上であれば特に限定されるものではない。本発明に係るコーヒー飲料のフェニルアセトアルデヒド濃度としては、3.00μg/100mL以上が好ましく、4.00μg/100mL以上がより好ましく、6.00μg/100mL以上がさらに好ましく、7.00μg/100mL以上がよりさらに好ましい。また、フェニルアセトアルデヒドに由来する香味がコーヒー飲料の異味となりにくい点から、コーヒー飲料中のフェニルアセトアルデヒド濃度は、例えば、90μg/100mL以下が好ましく、80μg/100mL以下がより好ましい。
【0029】
本発明に係るコーヒー飲料としては、コーヒー飲料らしい呈味バランスの点から、飲料のカフェイン濃度に対するフェニルアセトアルデヒド濃度の比([フェニルアセトアルデヒド濃度(μg/100mL)]/[カフェイン濃度(mg/100mL)])(以下、「フェニルアセトアルデヒド/カフェイン比」)が、0.09以上であることが好ましく、0.120以上であることがより好ましく、0.200以上であることがさらに好ましい。また、本発明に係るコーヒー飲料のフェニルアセトアルデヒド/カフェイン比は、2.20以下であることが好ましく、1.80以下であることがより好ましく、1.00以下であることがさらに好ましい。
【0030】
コーヒー飲料中のフェニルアセトアルデヒド濃度は、例えば、ガスクロマトグラフィー-質量分析法(GC/MS法)により測定することができる。また、コーヒー飲料中のフェニルアセトアルデヒド濃度は、飲料の製造に用いられた各原料に含まれているフェニルアセトアルデヒド含有量と当該原料の配合量から算出することができる。
【0031】
リナロールは、ラベンダーやローズウッド、ベルガモット、スイートオレンジのような香りの香気成分であり、コーヒー抽出液に含まれている香気成分の1種である。リナロールをコーヒー抽出液に含有させると、すっきりとした柑橘系の香りが感じられる。コーヒー飲料のリナロール濃度を0.10μg/100mL以上に調整することにより、すっきりとした柑橘系の香りが増強されて華やかな香りが改善されることに加えて、好ましい酸味も増強される。コーヒー飲料のリナロールの濃度を高めることによって、華やかな香りだけではなく、好ましい酸味も改善できることは、本願発明者らにより初めて見いだされた知見である。
【0032】
本発明に係るコーヒー飲料のリナロール濃度としては、0.10μg/100mL以上であれば特に限定されるものではない。本発明に係るコーヒー飲料のリナロール濃度としては、0.20μg/100mL以上が好ましく、0.50μg/100mL以上がより好ましく、1.00μg/100mL以上がさらに好ましく、10.00μg/100mL以上がよりさらに好ましい。また、リナロールに由来する香味がコーヒー飲料の異味となりにくい点から、コーヒー飲料中のリナロール濃度は、例えば、40μg/100mL以下が好ましく、30μg/100mL以下がより好ましく、20μg/100mL以下がさらに好ましい。
【0033】
本発明に係るコーヒー飲料としては、コーヒー飲料らしい呈味バランスの点から、飲料のカフェイン濃度に対するリナロール濃度の比([リナロール濃度(μg/100mL)]/[カフェイン濃度(mg/100mL)])(以下、「リナロール/カフェイン比」)が、0.003以上であることが好ましく、0.004以上であることがより好ましく、0.010以上であることがさらに好ましい。また、本発明に係るコーヒー飲料のリナロール/カフェイン比は、0.800以下であることが好ましく、0.700以下であることがより好ましく、0.500以下であることがさらに好ましい。
【0034】
コーヒー飲料中のリナロール濃度は、例えば、ガスクロマトグラフィー-質量分析法(GC/MS法)により測定することができる。また、コーヒー飲料中のリナロール濃度は、飲料の製造に用いられた各原料に含まれているリナロール含有量と当該原料の配合量から算出することができる。
【0035】
ゲラニオールは、リナロールに似ているバラのような香りの香気成分であり、コーヒー抽出液に含まれている香気成分の1種である。ゲラニオールをコーヒー抽出液に含有させると、すっきりとした柑橘系の香りが感じられる。コーヒー飲料のゲラニオール濃度を0.05μg/100mL以上に調整することにより、すっきりとした柑橘系の香りが増強されて華やかな香りが改善されることに加えて、好ましい酸味も増強される。コーヒー飲料のゲラニオールの濃度を高めることによって、華やかな香りだけではなく、好ましい酸味も改善できることは、本願発明者らにより初めて見いだされた知見である。
【0036】
本発明に係るコーヒー飲料のゲラニオール濃度としては、0.05μg/100mL以上であれば特に限定されるものではない。本発明に係るコーヒー飲料のゲラニオール濃度としては、0.10μg/100mL以上が好ましく、0.20μg/100mL以上がより好ましく、0.50μg/100mL以上がさらに好ましく、1.00μg/100mL以上がよりさらに好ましい。また、ゲラニオールに由来する香味がコーヒー飲料の異味となりにくい点から、コーヒー飲料中のゲラニオール濃度は、例えば、40μg/100mL以下が好ましく、30μg/100mL以下がより好ましく、20μg/100mL以下がさらに好ましい。
【0037】
本発明に係るコーヒー飲料としては、コーヒー飲料らしい呈味バランスの点から、飲料のカフェイン濃度に対するゲラニオール濃度の比([ゲラニオール濃度(μg/100mL)]/[カフェイン濃度(mg/100mL)])(以下、「ゲラニオール/カフェイン比」)が、0.002以上であることが好ましく、0.003以上であることがより好ましく、0.005以上であることがさらに好ましい。また、本発明に係るコーヒー飲料のゲラニオール/カフェイン比は、1.800以下であることが好ましく、1.600以下であることがより好ましく、1.200以下であることがさらに好ましい。
【0038】
コーヒー飲料中のゲラニオール濃度は、例えば、ガスクロマトグラフィー-質量分析法(GC/MS法)により測定することができる。また、コーヒー飲料中のゲラニオール濃度は、飲料の製造に用いられた各原料に含まれているゲラニオール含有量と当該原料の配合量から算出することができる。
【0039】
例えば、本発明に係るコーヒー飲料が前記(a)と(b)を満たしている場合、より高い風味改善効果が得られる点から、当該コーヒー飲料のリンゴ酸濃度に対するフェニルアセトアルデヒド濃度の比([フェニルアセトアルデヒド濃度(μg/100mL)]/[リンゴ酸濃度(mg/100mL)])(以下、「フェニルアセトアルデヒド/リンゴ酸比」)が、0.2以上であることが好ましく、0.3以上であることがより好ましい。また、本発明に係るコーヒー飲料のフェニルアセトアルデヒド/リンゴ酸比は、2.5以下であることが好ましく、1.5以下であることがより好ましく、1.0以下であることがさらに好ましく、0.8以下であることがよりさらに好ましい。
【0040】
リンゴ酸、フェニルアセトアルデヒド、リナロール、及びゲラニオールは、いずれも焙煎コーヒー豆に含まれている成分であり、コーヒー抽出液にも含まれている。すなわち、リンゴ酸、フェニルアセトアルデヒド、リナロール、及びゲラニオールは、可溶性コーヒー固形分を構成する成分である。本発明に係るコーヒー飲料が前記(a)を満たす場合、当該コーヒー飲料中のリンゴ酸は、可溶性コーヒー固形分のみに由来するものであってもよく、可溶性コーヒー固形分以外の原料に由来するものが含まれていてもよい。同様に、本発明に係るコーヒー飲料が前記(b)を満たす場合、当該コーヒー飲料中のフェニルアセトアルデヒドは、可溶性コーヒー固形分のみに由来するものであってもよく、可溶性コーヒー固形分以外の原料に由来するものが含まれていてもよい。本発明に係るコーヒー飲料が前記(c)を満たす場合、当該コーヒー飲料中のリナロールは、可溶性コーヒー固形分のみに由来するものであってもよく、可溶性コーヒー固形分以外の原料に由来するものが含まれていてもよい。本発明に係るコーヒー飲料が前記(d)を満たす場合、当該コーヒー飲料中のゲラニオールは、可溶性コーヒー固形分のみに由来するものであってもよく、可溶性コーヒー固形分以外の原料に由来するものが含まれていてもよい。
【0041】
本発明に係るコーヒー飲料は、可溶性コーヒー固形分以外にも、コーヒー飲料に一般的に含まれている成分を含有していてもよい。当該成分としては、ミルク風味を付与する原料(以下、ミルク原料ということがある)、甘味料、香料(ただし、フェニルアセトアルデヒド、リナロール、及びゲラニオールを除く)、酸化防止剤、pH調整剤、増粘剤、乳化剤等が挙げられる。
【0042】
リンゴ酸、フェニルアセトアルデヒド、リナロール、又はゲラニオールによる風味改善効果は、ミルク原料の存在下でも発揮される。そこで、本発明に係るコーヒー飲料としては、可溶性コーヒー固形分に加えて、さらにミルク原料を含有することが好ましい。ミルク原料としては、乳、クリーミングパウダー、及び植物性ミルク等が挙げられる。これらのミルク原料は、1種類のみを含有していてもよく、2種類以上を組み合わせて含有させてもよい。
【0043】
乳としては、例えば、全脂粉乳、脱脂粉乳、ホエイパウダー、牛乳、低脂肪乳、濃縮乳、脱脂濃縮乳、無糖練乳、加糖練乳、無糖脱脂練乳、加糖脱脂練乳、乳糖、生クリーム、バター等が挙げられる。なお、全脂粉乳及び脱脂粉乳は、それぞれ、牛乳(全脂乳)又は脱脂乳を、スプレードライ等により水分を除去して乾燥し粉末化したものである。
【0044】
クリーミングパウダーは、例えば、ヤシ油、硬化ヤシ油、パーム油、水添パーム油、パーム核油、水添パーム核油、大豆油、コーン油、綿実油、ナタネ油、こめ油、サフラワー油(ベニバナ油)、ひまわり油、中鎖脂肪酸トリグリセライド、乳脂、牛脂、豚脂等の食用油脂;シヨ糖、グルコース、澱粉加水分解物等の糖質;カゼインナトリウム、第二リン酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、脱脂粉乳、乳化剤等のその他の原料等を、望まれる品質特性に応じて選択し、これらの原料を水中で混合し、次いで乳化機等で水中油型乳化液(O/Wエマルション)とした後、水分を除去することによって製造することができる。水分を除去する方法としては、噴霧乾燥、噴霧凍結、凍結乾燥、凍結粉砕、押し出し造粒法等、任意の方法を選択して行うことができる。得られたクリーミングパウダーは、必要に応じて、分級、造粒及び粉砕等を行ってもよい。
【0045】
植物性ミルクとしては、豆類のミルク、ナッツのミルク、穀類のミルクが挙げられる。豆類のミルクとしては、豆乳、ピーナッツミルク等が挙げられる。ナッツのミルクとしては、アーモンドミルク、クルミ(ウォールナッツ)ミルク、ピスタチオミルク、ヘーゼルナッツミルク、カシューナッツミルク、ピーカンナッツミルク等が挙げられる。穀類のミルクとしては、ライスミルク、オーツミルク等が挙げられる。これらの乳や植物性ミルクは、常法により製造することができる。
【0046】
本発明に係るコーヒー飲料は、可溶性コーヒー固形分に加えて、甘味料を含有させることができ、ミルク原料と甘味料とを含有させることも好ましい。甘味料は、1種類のみを含有していてもよく、2種類以上を組み合わせて含有させてもよい。甘味料としては、ショ糖、オリゴ糖、ブドウ糖、果糖、果糖ブドウ糖液糖等の糖類、ソルビトール、マルチトール、エリスリトール、キシリトール、還元水あめ等の糖アルコール、アスパルテーム、アセスルファムカリウム、スクラロース、ネオテーム、アドバンテーム、サッカリン等の高甘味度甘味料、ステビア等が挙げられる。ショ糖としては、グラニュー糖であってもよく、粉糖であってもよく、ショ糖型液糖であってもよい。
【0047】
香料としては、コーヒー香料、ミルク香料等が挙げられる。また、シナモン、キャラメル、チョコレート、ハチミツ等の、一般的にフレーバーコーヒーに添加される香料も好ましく用いられる。
【0048】
酸化防止剤としては、例えば、ビタミンC(アスコルビン酸)、ビタミンE(トコフェロール)、エリソルビン酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、二酸化硫黄、クロロゲン酸、カテキン等が挙げられる。
【0049】
pH調整剤としては、例えば、クエン酸、酢酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、グルコン酸等の有機酸(但し、コハク酸を除く)や、リン酸等の無機酸、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム(重炭酸ナトリウム)、二酸化炭素等が挙げられる。
【0050】
増粘剤としては、デキストリン等の澱粉分解物、麦芽糖、トレハロース等の糖類、難消化性デキストリン、ペクチン、グアーガム、カラギーナン等の食物繊維、カゼイン等のタンパク質等が挙げられる。
【0051】
乳化剤としては、例えば、モノグリセライド、ジグリセライド、有機酸モノグリセライド、ポリグリセリンエステル等のグリセリン脂肪酸エステル系乳化剤;ソルビタンモノステアレート、ソルビタンモノオレエート等のソルビタン脂肪酸エステル系乳化剤;プロピレングリコールモノステアレート、プロピレングリコールモノパルミテート、プロピレングリコールオレエート等のプロピレングリコール脂肪酸エステル系乳化剤;ショ糖ステアリン酸エステル、ショ糖パルミチン酸エステル、ショ糖オレイン酸エステル等のシュガーエステル系乳化剤;レシチン、レシチン酵素分解物等のレシチン系乳化剤等が挙げられる。
【0052】
本発明に係るコーヒー飲料は、例えば、水等の可食性液体に溶解させることによって、前記(a)~(d)のいずれかを満たすコーヒー飲料を製造することができる可溶性コーヒー固形分を原料とすることにより調製できる。前記(a)~(d)のいずれかを満たすコーヒー飲料を製造することができる可溶性コーヒー固形分は、1種類の焙煎コーヒー豆から調製されてもよく、2種類以上の焙煎コーヒー豆から調製されてもよい。
【0053】
リンゴ酸、フェニルアセトアルデヒド、リナロール、及びゲラニオールの可溶性コーヒー固形分における含有量は、原料のコーヒー生豆(種類、原産地、栽培方法等)、焙煎度、焙煎プロトコル、熱水抽出の方法や条件等に依存する。例えば、アラビカ種コーヒー豆を原料とした場合には、ロバスタ種コーヒー豆を原料とした場合よりも、リンゴ酸濃度の高いコーヒー抽出液を調製しやすい。また、焙煎度が浅煎りのコーヒー豆を原料とした場合には、深煎りコーヒー豆を原料とした場合よりも、リンゴ酸濃度の高いコーヒー抽出液を調製しやすい。その他、エチオピア産アラビカ種コーヒー豆を原料とした場合には、その他の産地のアラビカ種コーヒー豆を原料とした場合よりも、リナロール等の香気成分の含有量がより多いコーヒー抽出液を調製しやすい。
【0054】
このため、コーヒー生豆、焙煎度、焙煎プロトコル、熱水抽出の方法や条件等を適宜調整することにより、前記(a)~(d)のいずれかを満たすコーヒー飲料を製造することができる可溶性コーヒー固形分が得られる。また、2種類以上の可溶性コーヒー固形分を適当な比率で混合することによって、前記(a)~(d)のいずれかを満たすコーヒー飲料を製造することができる可溶性コーヒー固形分を調製することもできる。
【0055】
本発明に係るコーヒー飲料は、可溶性コーヒー固形分に、リンゴ酸、フェニルアセトアルデヒド、リナロール、及びゲラニオールからなる群より選択される1種以上を添加することによっても製造できる。原料として使用されるリンゴ酸、フェニルアセトアルデヒド、リナロール、又はゲラニオールは、合成品や精製品であることが好ましく、不純物の含有量が少ないものがより好ましい。市販品をそのまま用いてもよい。また、フェニルアセトアルデヒド、リナロール、又はゲラニオールを含有する香料組成物を、コーヒー飲料に添加してもよい。当該香料組成物に含有されているその他の香気成分は、フェニルアセトアルデヒド、リナロール、又はゲラニオールによる風味改善効果を損なわない限り、特に限定されるものではない。
【0056】
本発明に係るコーヒー飲料は、焙煎されたコーヒー豆から抽出されたコーヒー抽出液、すなわち、可溶性コーヒー固形分が溶解している抽出液をそのまま原料としてもよく、当該抽出液から可溶性コーヒー固形分のみを粉末化したIC粉末を原料としてもよい。IC粉末を原料とする場合、粉末をそのまま原料としてもよく、予め可食性液体に溶かして調製された水溶液を原料としてもよい。当該可食性液体としては、例えば、水、牛乳等の乳、植物性ミルク等が挙げられる。
【0057】
コーヒー抽出液をそのまま原料とする場合には、本発明に係るコーヒー飲料は、例えば、焙煎されたコーヒー豆から熱水で抽出されたコーヒー抽出液に、必要に応じてその他の原料を添加して溶解させたり、可食性液体で希釈することにより製造することができる。前記(a)~(d)のいずれかを満たすコーヒー抽出液を原料とする場合には、当該コーヒー抽出液に必要に応じてその他の原料を添加することにより、本発明に係るコーヒー飲料を製造できる。また、可食性液体で希釈することによって前記(a)~(d)のいずれかを満たすことができるコーヒー抽出液を原料とする場合には、当該コーヒー抽出液に適量の可食性液体と必要に応じてその他の原料を添加することにより、本発明に係るコーヒー飲料を製造できる。そのままで又は適宜希釈することによって前記(a)~(d)のいずれかを満たすコーヒー抽出液は、1種類のコーヒー抽出液であってもよく、2種類以上のコーヒー抽出液の混合液であってもよい。前記(a)~(d)のいずれも満たさないコーヒー抽出液を原料とする場合には、当該コーヒー抽出液にリンゴ酸、フェニルアセトアルデヒド、リナロール、及びゲラニオールからなる群より選択される1種以上を適量添加し、さらに必要に応じてその他の原料を添加することにより、本発明に係るコーヒー飲料を製造できる。
【0058】
前記(a)~(d)のいずれかを満たすコーヒー飲料を製造することができる可溶性コーヒー固形分からなるIC粉末を原料とする場合には、本発明に係るコーヒー飲料は、IC粉末を可食性液体で溶解又は希釈させた後、必要に応じてその他の原料を添加することによっても製造できる。IC粉末に代えて、IC粉末に各種の原料を配合して調製されたIC飲料用組成物を用いてもよい。例えば、IC粉末にリンゴ酸、フェニルアセトアルデヒド、リナロール、及びゲラニオールからなる群より選択される1種以上を添加し、さらに必要に応じてその他の原料を添加して調製されたIC飲料用組成物を、可食性液体に溶解又は希釈させることによっても、本発明に係るコーヒー飲料を製造できる。当該IC飲料用組成物は、公知の各種の製造方法やそれを適宜改変した製造方法で製造されたIC飲料用組成物に、リンゴ酸、フェニルアセトアルデヒド、リナロール、及びゲラニオールからなる群より選択される1種以上を添加することにより得られる。
【0059】
本発明に係るコーヒー飲料は、前記(a)~(d)のいずれも満たさないコーヒー飲料や、前記(a)~(d)を満たさないコーヒー飲料を調製するためのIC飲料用組成物を水又は牛乳で溶解又は希釈させて得られたコーヒー飲料に、前記(a)~(d)のいずれかを満たすようにリンゴ酸、フェニルアセトアルデヒド、リナロール、及びゲラニオールからなる群より選択される1種以上を添加させることによっても製造できる。例えば、市販されているコーヒー飲料に、リンゴ酸、フェニルアセトアルデヒド、リナロール、及びゲラニオールからなる群より選択される1種以上を添加したり、市販されているIC飲料用組成物を水又は牛乳で溶解又は希釈させて得られたコーヒー飲料に、リンゴ酸、フェニルアセトアルデヒド、リナロール、及びゲラニオールからなる群より選択される1種以上を添加してもよい。多種多様な原料や組成で調製されたコーヒー飲料であっても、リンゴ酸、フェニルアセトアルデヒド、リナロール、及びゲラニオールからなる群より選択される1種以上を添加して、前記(a)~(d)のいずれかを満たすように調整することにより、好ましい酸味とコーヒーらしい華やかな香りが改善される。
【0060】
酸味を有していないにもかかわらず、好ましい酸味とコーヒーらしい華やかな香りの両方を改善する効果を有するのは、フェニルアセトアルデヒド、リナロール、及びゲラニオールに特有の効果である。同様に、コーヒーらしい華やかな香りを有していないにもかかわらず、好ましい酸味とコーヒーらしい華やかな香りの両方を改善する効果を有するのは、リンゴ酸に特有の効果である。例えば、フルフリルメチルスルフィドは、硫黄臭の香気成分であり、深煎り焙煎豆のコーヒー抽出液に多く含まれている香気成分の1種であって、コーヒーの焙煎香の特徴成分である。コーヒー飲料のフルフリルメチルスルフィド濃度を1.90μg/100mL以上に調整することにより、焙煎香が増強されて香り立ちが改善されるが、酸味の改善効果は得られない。
【0061】
コーヒー飲料のフルフリルメチルスルフィド濃度としては、2.00μg/100mL以上が好ましく、2.30μg/100mL以上がより好ましく、3.00μg/100mL以上がさらに好ましく、4.00μg/100mL以上がよりさらに好ましい。フルフリルメチルスルフィドに由来する香味がコーヒー飲料の異味となりにくい点から、コーヒー飲料中のフルフリルメチルスルフィド濃度は、例えば、100μg/100mL以下が好ましく、50μg/100mL以下がより好ましく、10μg/100mL以下がさらに好ましい。コーヒー飲料らしい呈味バランスの点から、コーヒー飲料のカフェイン濃度に対するフルフリルメチルスルフィド濃度の比([フルフリルメチルスルフィド濃度(μg/100mL)]/[カフェイン濃度(mg/100mL)])(以下、「フルフリルメチルスルフィド/カフェイン比」)が、0.043以上であることが好ましく、0.050以上であることがより好ましく、0.075以上であることがさらに好ましく、0.100以上であることがよりさらに好ましい。コーヒー飲料のフルフリルメチルスルフィド/カフェイン比は、3.5以下であることが好ましく、2.0以下であることがより好ましく、0.50以下であることがさらに好ましい。コーヒー飲料中のフルフリルメチルスルフィド濃度は、飲料の製造に用いられた各原料に含まれているフルフリルメチルスルフィド含有量と当該原料の配合量から算出することができる。コーヒー飲料のフルフリルメチルスルフィド濃度と共にリンゴ酸濃度も最適化することにより、香り立ちと好ましい酸味の両方を改善させることができる。より高い改善効果が得られる点から、当該コーヒー飲料のリンゴ酸濃度が4.0~55mg/100mLであり、かつフルフリルメチルスルフィド濃度が0.5~10μg/100mLであることが好ましい。IC飲料用組成物においても同様である。
【0062】
<IC飲料用組成物>
本発明に係るIC飲料用組成物は、可溶性コーヒー固形分を含有しており、可食性液体と混合して、前記(a)~(d)のいずれかであるコーヒー飲料を調製するためのIC飲料用組成物である。具体的には、本発明に係るIC飲料用組成物は、可食性液体と混合してコーヒー飲料を調製するためのIC飲料用組成物であって、可溶性コーヒー固形分を含有し、さらに、下記(a’)~(d’)のいずれかであることを特徴とする。
(a’)リンゴ酸の含有量が、前記インスタントコーヒー飲料用組成物を液体と混合して得られるコーヒー飲料のリンゴ酸濃度が、3.10mg/100mL以上となる量である。
(b’)フェニルアセトアルデヒドの含有量が、前記インスタントコーヒー飲料用組成物を液体と混合して得られるコーヒー飲料のフェニルアセトアルデヒド濃度が、2.87μg/100mL以上となる量である。
(c’)リナロールの含有量が、前記インスタントコーヒー飲料用組成物を液体と混合して得られるコーヒー飲料のリナロール濃度が、0.10μg/100mL以上となる量である。
(d’)ゲラニオールの含有量が、前記インスタントコーヒー飲料用組成物を液体と混合して得られるコーヒー飲料のゲラニオール濃度が、0.05μg/100mL以上となる量である。
【0063】
本発明に係るIC飲料用組成物中のリンゴ酸の含有量は、当該IC飲料用組成物を液体と混合して得られるコーヒー飲料におけるリンゴ酸濃度が、4.00mg/100mL以上となる量が好ましく、10.00mg/100mL以上となる量がより好ましく、15.00mg/100mL以上となる量がさらに好ましく、20.00mg/100mL以上となる量がよりさらに好ましい。また、本発明に係るIC飲料用組成物中のリンゴ酸の含有量は、当該IC飲料用組成物を液体と混合して得られるコーヒー飲料におけるリンゴ酸濃度が、180mg/100mL以下となる量が好ましく、150mg/100mL以下となる量がより好ましく、120mg/100mL以下となる量がさらに好ましく、100mg/100mL以下となる量がよりさらに好ましい。
【0064】
本発明に係るIC飲料用組成物中のリンゴ酸の含有量は、当該IC飲料用組成物を液体と混合して得られるコーヒー飲料におけるリンゴ酸/カフェイン比([リンゴ酸濃度(mg/100mL)]/[カフェイン濃度(mg/100mL)])が、0.100以上となる量であることが好ましく、0.150以上となる量であることがより好ましく、0.200以上となる量であることがさらに好ましく、0.300以上となる量であることがよりさらに好ましい。また、本発明に係るIC飲料用組成物中のリンゴ酸の含有量は、当該IC飲料用組成物を液体と混合して得られるコーヒー飲料におけるリンゴ酸/カフェイン比が、3.200以下となる量であることが好ましく、3.000以下となる量であることがより好ましく、2.500以下となる量であることがさらに好ましい。
【0065】
本発明に係るIC飲料用組成物中のフェニルアセトアルデヒドの含有量は、当該IC飲料用組成物を液体と混合して得られるコーヒー飲料におけるフェニルアセトアルデヒド濃度が、3.00μg/100mL以上となる量が好ましく、4.00μg/100mL以上となる量がより好ましく、6.00μg/100mL以上となる量がさらに好ましく、7.00μg/100mL以上となる量がよりさらに好ましい。また、本発明に係るIC飲料用組成物中のフェニルアセトアルデヒドの含有量は、当該IC飲料用組成物を液体と混合して得られるコーヒー飲料におけるフェニルアセトアルデヒド濃度が、90μg/100mL以下となる量が好ましく、80μg/100mL以下となる量がより好ましい。
【0066】
本発明に係るIC飲料用組成物中のフェニルアセトアルデヒドの含有量は、当該IC飲料用組成物を液体と混合して得られるコーヒー飲料におけるフェニルアセトアルデヒド/カフェイン比([フェニルアセトアルデヒド濃度(μg/100mL)]/[カフェイン濃度(mg/100mL)])が、0.09以上となる量であることが好ましく、0.120以上となる量であることがより好ましく、0.200以上となる量であることがさらに好ましい。また、本発明に係るIC飲料用組成物中のフェニルアセトアルデヒドの含有量は、当該IC飲料用組成物を液体と混合して得られるコーヒー飲料におけるフェニルアセトアルデヒド/カフェイン比が、2.200以下となる量であることが好ましく、2.000以下となる量であることがより好ましく、1.800以下となる量であることがさらに好ましく、1.000以下となる量であることがよりさらに好ましい。
【0067】
本発明に係るIC飲料用組成物中のリナロールの含有量は、当該IC飲料用組成物を液体と混合して得られるコーヒー飲料におけるリナロール濃度が、0.20μg/100mL以上となる量が好ましく、0.50μg/100mL以上となる量がより好ましく、1.00μg/100mLとなる量以上がさらに好ましく、10.00μg/100mL以上となる量がよりさらに好ましい。また、本発明に係るIC飲料用組成物中のリナロールの含有量は、当該IC飲料用組成物を液体と混合して得られるコーヒー飲料におけるリナロール濃度が、40μg/100mL以下となる量が好ましく、30μg/100mL以下となる量がより好ましく、20μg/100mL以下となる量がさらに好ましい。
【0068】
本発明に係るIC飲料用組成物中のリナロールの含有量は、当該IC飲料用組成物を液体と混合して得られるコーヒー飲料におけるリナロール/カフェイン比([リナロール濃度(μg/100mL)]/[カフェイン濃度(mg/100mL)])が、0.003以上となる量であることが好ましく、0.004以上となる量であることがより好ましく、0.010以上となる量であることがさらに好ましい。また、本発明に係るIC飲料用組成物中のリナロールの含有量は、当該IC飲料用組成物を液体と混合して得られるコーヒー飲料におけるリナロール/カフェイン比が、0.800以下となる量であることが好ましく、0.700以下となる量であることがより好ましく、0.500以下となる量であることがさらに好ましい。
【0069】
本発明に係るIC飲料用組成物中のゲラニオールの含有量は、当該IC飲料用組成物を液体と混合して得られるコーヒー飲料におけるゲラニオール濃度が、0.10μg/100mL以上となる量が好ましく、0.20μg/100mL以上となる量がより好ましく、0.50μg/100mL以上となる量がさらに好ましく、1.00μg/100mL以上となる量がよりさらに好ましい。また、本発明に係るIC飲料用組成物中のゲラニオールの含有量は、当該IC飲料用組成物を液体と混合して得られるコーヒー飲料におけるゲラニオール濃度が、40μg/100mL以下となる量が好ましく、30μg/100mL以下となる量がより好ましく、20μg/100mL以下となる量がさらに好ましい。
【0070】
本発明に係るIC飲料用組成物中のゲラニオールの含有量は、当該IC飲料用組成物を液体と混合して得られるコーヒー飲料におけるゲラニオール/カフェイン比([ゲラニオール濃度(μg/100mL)]/[カフェイン濃度(mg/100mL)])が、0.002以上となる量であることが好ましく、0.003以上となる量であることがより好ましく、0.005以上となる量であることがさらに好ましい。また、本発明に係るIC飲料用組成物中のゲラニオールの含有量は、当該IC飲料用組成物を液体と混合して得られるコーヒー飲料におけるゲラニオール/カフェイン比が、1.800以下となる量であることが好ましく、1.600以下となる量であることがより好ましく、1.200以下となる量であることがさらに好ましい。
【0071】
本発明に係るIC飲料用組成物から調製されるコーヒー飲料が前記(a)と(b)を満たしている場合、より高い風味改善効果が得られる点から、本発明に係るIC飲料用組成物中のリンゴ酸とフェニルアセトアルデヒドの含有量は、当該コーヒー飲料のフェニルアセトアルデヒド/リンゴ酸比([フェニルアセトアルデヒド濃度(μg/100mL)]/[リンゴ酸濃度(mg/100mL)])が、0.2以上となる量であることが好ましく、0.3以上となる量であることがより好ましい。また、本発明に係るIC飲料用組成物中のリンゴ酸とフェニルアセトアルデヒドの含有量は、当該コーヒー飲料のフェニルアセトアルデヒド/リンゴ酸比が、2.5以下となる量であることが好ましく、1.5以下となる量であることがより好ましく、1.0以下となる量であることがさらに好ましく、0.8以下となる量であることがよりさらに好ましい。
【0072】
IC飲料用組成物の原料として用いられる可溶性コーヒー固形分や、リンゴ酸、フェニルアセトアルデヒド、リナロール、及びゲラニオールとしては、前記の本発明に係るコーヒー飲料において原料として用いられるものと同様のものを用いることができる。
【0073】
原料として用いられるリンゴ酸、フェニルアセトアルデヒド、リナロール、及びゲラニオールは、粉末状であってもよく、液状であってもよい。液状のものとしては、例えば、水、アルコール類、グリセリン類、油脂、又はこれらの混合溶媒に溶解したものが挙げられる。使いやすさの観点から、原料として用いられるリンゴ酸、フェニルアセトアルデヒド、リナロール、及びゲラニオールは、粉末が好ましい。また、原料として用いられるリンゴ酸、フェニルアセトアルデヒド、リナロール、及びゲラニオールは、合成品や精製品であることが好ましく、不純物の含有量が少ないものがより好ましい。市販品をそのまま用いてもよい。
【0074】
原料として用いられるフェニルアセトアルデヒド、リナロール、及びゲラニオールとしては、フェニルアセトアルデヒド、リナロール、及びゲラニオールを粉末に固定した香料を使用してもよい。粉末は、デキストリン等の澱粉分解物、麦芽糖、トレハロース等の糖類、及び難消化性デキストリン等の食物繊維から選択される。必要に応じてカゼイン等のタンパク質をさらに添加してもよい。
【0075】
本発明に係るIC飲料用組成物の製造においては、可溶性コーヒー固形分の他に、望まれる品質特性によってその他の原料を用いることができる。当該その他の原料としては、ミルク原料、甘味料、香料(但し、フェニルアセトアルデヒド、リナロール、及びゲラニオールは除く。)、酸化防止剤、pH調整剤、増粘剤、乳化剤、賦形剤、結合剤、流動性改良剤等のインスタントコーヒー飲料に配合可能な粉末が挙げられる。ミルク原料、甘味料、香料、酸化防止剤、pH調整剤、増粘剤、乳化剤等は、前記で挙げられたものを適宜用いることができる。
【0076】
賦形剤や結合剤としては、デキストリン等の澱粉分解物、麦芽糖、トレハロース等の糖類、難消化性デキストリン等の食物繊維、カゼイン等のタンパク質等が挙げられる。なお、賦形剤や結合剤は、造粒時の担体としても用いられる。
流動性改良剤としては、微粒酸化ケイ素、第三リン酸カルシウム等の加工用製剤が用いられてもよい。
【0077】
IC飲料用組成物は、可溶性コーヒー固形分と、必要に応じてその他の原料とを、混合することによって製造される。混合の順番は特に限定されるものではなく、全ての原料を同時に混合してもよく、順次混合させてもよい。
【0078】
本発明に係るIC飲料用組成物としては、粉末等の固形であってもよく、液状であってもよい。全ての原料が粉末の場合には、全ての原料をそのまま混合することによって、粉末のIC飲料用組成物が製造される。可溶性コーヒー固形分が液体(水溶液)である場合には、可溶性コーヒー固形分にその他の原料を添加し、溶解させることによって、液体のIC飲料用組成物が製造される。また、粉末のIC飲料用組成物を製造した後、可食性液体に溶解させることによっても、液体のIC飲料用組成物が製造される。
【0079】
本発明に係るIC飲料用組成物は、飲用1杯分を小パウチなどに個包装したり、使用時に容器から振り出したりスプーンで取り出したりして使用するように瓶などの容器に数杯分をまとめて包装して商品として供給することもできる。
【0080】
個包装タイプとは、スティック状アルミパウチ、ワンポーションカップなどにコーヒー飲料1杯分の中身を充填包装するものであり、容器を開けて指で押し出すなどの方法で中身を取り出すことができる。個包装タイプは、1杯分が密閉包装されているので取り扱いも簡単で、衛生的であるという利点を有する。
【実施例
【0081】
次に実施例及び参考例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例等に限定されるものではない。
【0082】
<リンゴ酸の測定>
コーヒー抽出液やコーヒー飲料中のリンゴ酸の含有量は、HPLCとBTBを使用したポストカラム法により測定した。
【0083】
<カフェインの測定>
コーヒー抽出液やコーヒー飲料中のカフェインの含有量は、HPLC法により測定した。
【0084】
<リナロール、ゲラニオール、及びフルフリルメチルスルフィドの測定>
コーヒー抽出液やコーヒー飲料中のリナロール、ゲラニオール、及びフルフリルメチルスルフィドの含有量は、GC/MS法により下記の測定条件で測定した。
【0085】
(GC/MS装置)
システム:GCMS-QP2020(島津製作所製)
多機能オートサンプラー:AOC-6000plus(島津製作所製)
(GC部)
カラム:InertCap Pure-WAX(60m、膜厚0.25μm、内径0.25mm)
注入量:1μL
気化室温度:250℃
注入モード:スプリットレス
パージ流量:3.0mL/分
制御モード:圧力一定(83.5kPa)
カラムオーブン温度:50℃
カラムオーブンプログラム:50℃(5分間)→10℃/分→250℃(10分間)
(MS部)
インターフェース温度:240℃
イオン源温度:200℃
イオン化法:EI
測定モード:Scan
イベント時間:0.3秒間
(SPME)
SPMEファイバー:PDMS(フェーズ厚100μm、外径1.1mm)
コンディショニング温度:270℃
プレコンディショニング時間:5分間
インキュベーション温度:60℃(フルフリルメチルスルフィドでは、40℃)
インキュベーション時間:8分間
攪拌速度:250rpm
サンプル抽出時間:30分間
サンプル溶出時間:2分間(フルフリルメチルスルフィドでは、3分間)(250℃)
【0086】
(標準液)
内部標準液(I.S.):2,3-ジメトキシトルエン(DMT)=145mg/L
標準元液:ゲラニオール=924mg/L、リナロール=878mg/L、フルフリルメチルスルフィド=1570mg/L(エタノール)
標準液:ゲラニオール及びリナロール=0.002mg/L、0.004mg/L(標準元液を500000倍又は250000倍希釈)、フルフリルメチルスルフィド=1.57μg/L(標準元液を1000倍希釈)
調製方法:HS用バイアルに、NaCl3.5gと、標準液10mLと、内部標準液10μLとを添加して調製した。
(ICサンプル)
調製方法:HS用バイアルに、NaCl3.5gと、ICサンプル125mg(実績値記録)とを計量し、HO10mLと内部標準液10μLとを添加して調製した。
【0087】
各化合物の濃度は、クロマトグラフのピーク面積比から算出した。具体的には、まず、標準液のクロマトグラムから、内部標準物質(DMT)とのピーク面積比を算出し、標準品濃度から検量線を作成した。なお、各化合物のピークトップは、ゲラニオールはm/z69、リナロールはm/z71、フルフリルメチルスルフィドはm/z81、DMTはm/z152であった。
次いで、サンプルのクロマトグラムから、各化合物のピーク面積比を算出し、検量線に基づいて、各化合物のサンプル中の濃度を算出した。各化合物のピークトップは、ゲラニオールはm/z69、リナロールはm/z71、フルフリルメチルスルフィドはm/z81、DMTはm/z152であった。
各化合物の濃度の測定は、低濃度側での2点検量(フルフリルメチルスルフィドのみ、1点検量)、N=1分析により算出した。
【0088】
<フェニルアセトアルデヒドの測定>
コーヒー抽出液やコーヒー飲料中のフェニルアセトアルデヒドの含有量は、GC/MS法により下記の測定条件で測定した。
【0089】
(MPS-TDU)
パージ温度(撹拌):80℃(10分間のインキュベーション)
トラップ温度:25℃
パージ容量:60mL(10mL/分)
乾燥温度:40℃
乾燥容量:900mL(50mL/分)
トラップ吸着剤:Tenax TA
TDU:40℃→260℃(720℃/分、5分間保持)
CIS:10℃(0.5分間)→260℃(12℃/秒、10分間保持)
(GC-MS)
GC装置:7890A(アジレントテクノロジー社製)
MS装置:5977B(アジレントテクノロジー社製)
圧力:194.78kPa
セプタムパージ流量:3mL/分
試料導入:スプリットレスモード
カラム:InertCap WAX-HT(0.25μm×0.25mm×60m)
オーブン温度:35℃(5分)→250℃(5℃/分、10分間保持)
総時間:58分間
流量:2mL/分
平均線速度:36.169cm/秒
コンスタントプレッシャー
【0090】
(標準液)
内部標準液(I.S.):シクロヘキサナール=22mg/100mL
標準元液:フェニルアセトアルデヒド=190mg/L
標準液:1.9μg/L、19μg/L、190μg/L
調製方法:100mL容メスフラスコに、IC粉末A(実施例1で用いた市販品)0.5gと、内部標準液100μLと、標準液100μLとを添加して、超純水で100mLにメスアップして調製した。
(ICサンプル)
調製方法:100mL容メスフラスコに、ICサンプル0.5gと内部標準液100μLとを添加して、超純水で100mLにメスアップして調製した。
【0091】
各化合物の濃度は、クロマトグラフのピーク面積比から算出した。具体的には、まず、標準液のクロマトグラムから、内部標準物質(シクロヘキサナール)とのピーク面積比を算出し、標準品濃度から検量線を作成した。なお、各化合物のピークトップは、フェニルアセトアルデヒドはm/z91、シクロヘキサナールはm/z57であった。
次いで、サンプルのクロマトグラムから、各化合物のピーク面積比を算出し、検量線に基づいて、各化合物のサンプル中の濃度を算出した。各化合物のピークトップは、フェニルアセトアルデヒドはm/z91、シクロヘキサナールはm/z57であった。
各化合物の濃度の測定は、低濃度側での3点検量、N=1分析により算出した。
【0092】
<官能評価>
各コーヒー飲料の好ましい酸味、華やかな香り、及びおいしさについて、官能評価を行った。官能評価は、トレーニングされた専門パネル4名(フルフリルメチルスルフィドを添加した試験区では5名)が、合議制にて5段階(1が最も弱く、5が最も強い。)でスコア付けを行った。各官能評価点は、リンゴ酸、フェニルアセトアルデヒド、リナロール、及びゲラニオールのいずれも添加していないコーヒー飲料の評価点を1とした。
【0093】
[実施例1]
市販のIC粉末(IC粉末A)に、リンゴ酸、リナロール、及びゲラニオールを添加して、風味に対する影響を調べた。
【0094】
1.25gのIC粉末Aに、100mLの熱湯を注いでコーヒー飲料(試験区1-0)を調製し、これをベース液とした。また、このベース液に、表1~4に示す量のリンゴ酸、リナロール、ゲラニオール、及びフェニルアセトアルデヒドを添加して、各試験区のコーヒー飲料を調製した。なお、試験区1-0のコーヒー飲料のリンゴ酸、リナロール、ゲラニオール、及びカフェインの含有量を調べたところ、リンゴ酸濃度は2.50mg/100mL、リナロール濃度は0.075μg/100mL、ゲラニオール濃度は0.025μg/100mLであった。
【0095】
製造された各コーヒー飲料について、好ましい酸味、華やかな香り、及びおいしさの官能評価を行った。評価結果を表1~4に示す。
【0096】
【表1】
【0097】
【表2】
【0098】
【表3】
【0099】
【表4】
【0100】
表1~3に示すように、リンゴ酸、リナロール、及びゲラニオールはいずれも、添加量依存的に、好ましい酸味と華やかな香りの両方が改善され、おいしさも改善されていた。また、リンゴ酸、リナロール、及びゲラニオールによる風味改善効果は、最適な添加量があり、添加量が多くなりすぎると弱くなることも確認された。さらに、表4に示すように、試験区1-4にさらにフェニルアセトアルデヒドを添加した試験区1-26は、好ましい酸味と華やかな香りの両方がさらに改善されており、この試験区1-26にさらにリナロール及びゲラニオールを添加した試験区1-27も、好ましい酸味と華やかな香りとおいしさのいずれも評価が高く、嗜好性に優れていた。
【0101】
[実施例2]
牛乳を入れたミルクコーヒー飲料に、リンゴ酸、リナロール、及びゲラニオールを添加して、風味に対する影響を調べた。
【0102】
具体的には、実施例1で調製した試験区1-0のコーヒー飲料70mLに牛乳30mLを混合してミルクコーヒー飲料(試験区2-0)を調製し、これをベース液とした。このベース液に、表5~8に示す量のリンゴ酸、リナロール、ゲラニオール及びフェニルアセトアルデヒドを添加して、各試験区のコーヒー飲料を調製した。
【0103】
製造された各コーヒー飲料について、好ましい酸味、華やかな香り、及びおいしさの官能評価を行った。評価結果を表5~8に示す。
【0104】
【表5】
【0105】
【表6】
【0106】
【表7】
【0107】
【表8】
【0108】
表5~7に示すように、リンゴ酸、リナロール、及びゲラニオールはいずれも、添加量依存的に、好ましい酸味と華やかな香りの両方が改善され、おいしさも改善されていた。また、リンゴ酸、リナロール、及びゲラニオールによる風味改善効果は、最適な添加量があり、添加量が多くなりすぎると弱くなることも確認された。さらに、表8に示すように、試験区2-4にさらにフェニルアセトアルデヒドを添加した試験区2-26や、さらにリナロール及びゲラニオールを添加した試験区2-27も、好ましい酸味と華やかな香りとおいしさのいずれも評価が高く、嗜好性に優れていた。これらの結果から、リンゴ酸、リナロール、及びゲラニオールによる風味改善効果は、ミルクコーヒー飲料でも得られることがわかった。
【0109】
[実施例3]
市販のIC粉末(IC粉末B)に、フェニルアセトアルデヒドを添加して、風味に対する影響を調べた。
【0110】
2.0gのIC粉末Bに、160mLの熱湯を注いでコーヒー飲料(試験区3-0)を調製し、これをベース液とした。また、このベース液に、表9に示す量のフェニルアセトアルデヒドを添加して、各試験区のコーヒー飲料を調製した。なお、試験区3-0のコーヒー飲料のフェニルアセトアルデヒド濃度は1.96μg/100mLであった。
【0111】
製造された各コーヒー飲料について、好ましい酸味、華やかな香り、及びおいしさの官能評価を行った。評価結果を表9に示す。
【0112】
【表9】
【0113】
表9に示すように、フェニルアセトアルデヒドを添加したコーヒー飲料では、添加量依存的に、好ましい酸味と華やかな香りの両方が改善され、おいしさも改善されていた。また、フェニルアセトアルデヒドによる風味改善効果は、最適な添加量があり、添加量が多くなりすぎると弱くなることも確認された。
【0114】
なお、市販されているインスタントコーヒー粉末8製品について、粉末中のフェニルアセトアルデヒド濃度と、各製造販売元から推奨されている濃度で調製されたコーヒー飲料のフェニルアセトアルデヒド濃度(飲用濃度)について測定した。この結果、粉末中のフェニルアセトアルデヒド濃度の平均値は1.9ppm(最小値1.6ppm、最大値2.6ppm)であり、フェニルアセトアルデヒドの飲用濃度の平均値は2.3μg/100mL(最小値1.68μg/100mL、最大値3.22μg/100mL)であった。これらの結果から、一般的なインスタントコーヒー飲料のフェニルアセトアルデヒド濃度は低いことが確認された。
【0115】
[実施例4]
牛乳を入れたミルクコーヒー飲料に、フェニルアセトアルデヒドを添加して、風味に対する影響を調べた。
【0116】
具体的には、実施例3で調製した試験区3-0のコーヒー飲料70mLに牛乳30mLを混合してミルクコーヒー飲料(試験区4-0)を調製し、これをベース液とした。このベース液に、表10に示す量のフェニルアセトアルデヒドを添加して、各試験区のコーヒー飲料を調製した。
【0117】
製造された各コーヒー飲料について、好ましい酸味、華やかな香り、及びおいしさの官能評価を行った。評価結果を表10に示す。
【0118】
【表10】
【0119】
表10に示すように、フェニルアセトアルデヒドを添加したコーヒー飲料では、添加量依存的に、好ましい酸味と華やかな香りの両方が改善され、おいしさも改善されていた。また、フェニルアセトアルデヒドによる風味改善効果は、最適な添加量があり、添加量が多くなりすぎると弱くなることも確認された。これらの結果から、フェニルアセトアルデヒドによる風味改善効果は、ミルクコーヒー飲料でも得られることがわかった。
【0120】
[実施例5]
市販のコーヒーポーション(ICポーションB)に、リンゴ酸、フェニルアセトアルデヒド、リナロール、及びゲラニオールを添加して、風味に対する影響を調べた。
【0121】
17gのICポーションBに150mLの水を注いで100mLのコーヒー飲料(試験区5-0)を調製し、これをベース液とした。また、このベース液に、表11~15に示す量のリンゴ酸、フェニルアセトアルデヒド、リナロール、及びゲラニオールを添加して、各試験区のコーヒー飲料を調製した。なお、試験区5-0のコーヒー飲料のリンゴ酸、フェニルアセトアルデヒド、リナロール、ゲラニオール、及びカフェインの含有量を調べたところ、リンゴ酸濃度は2.16mg/100mL、フェニルアセトアルデヒド濃度は1.061μg/100mL、リナロール濃度は0(検出限界値以下)μg/100mL、ゲラニオール濃度は0(検出限界値以下)μg/100mLであった。
【0122】
製造された各コーヒー飲料について、好ましい酸味、華やかな香り、及びおいしさの官能評価を行った。評価結果を表11~15に示す。
【0123】
【表11】
【0124】
【表12】
【0125】
【表13】
【0126】
【表14】
【0127】
【表15】
【0128】
表11~15に示すように、リンゴ酸、フェニルアセトアルデヒド、リナロール、及びゲラニオールはいずれも、添加量依存的に、好ましい酸味と華やかな香りの両方が改善され、おいしさも改善されていた。また、リンゴ酸、フェニルアセトアルデヒド、リナロール、及びゲラニオールによる風味改善効果は、最適な添加量があり、添加量が多くなりすぎると弱くなることも確認された。
【0129】
[実施例6]
コーヒー飲料に、リンゴ酸及びフェニルアセトアルデヒドを添加して、風味に対する影響を調べた。
【0130】
具体的には、実施例3で調製した試験区3-0のコーヒー飲料100mLをベース液とした。このベース液に、最終濃度が表16に記載の濃度となるようにフェニルアセトアルデヒドとリンゴ酸を添加して各試験区のコーヒー飲料を調製した。
【0131】
製造された各コーヒー飲料について、好ましい酸味、華やかな香り、及びおいしさの官能評価を行った。評価結果を表16に示す。なお、官能評価では、リンゴ酸、フェニルアセトアルデヒド、リナロール、及びゲラニオールのいずれも添加していないコーヒー飲料の評価点を1とし、試験区6-1のコーヒー飲料の評価点を4とした5段階評価で行った。
【0132】
【表16】
【0133】
表16に示すように、リンゴ酸とフェニルアセトアルデヒドの両方の濃度を高くすることにより、好ましい酸味と華やかな香りの両方が改善されていた。特に、フェニルアセトアルデヒド/リンゴ酸比が0.2~0.8である試験区6-1、6-4、6-5、6-7~6-9のコーヒー飲料では、非常に高い風味改善効果が得られた。
【0134】
[実施例7]
コーヒー飲料に、リンゴ酸以外の有機酸とフェニルアセトアルデヒドを添加して、風味に対する影響を調べた。リンゴ酸以外の有機酸として、乳酸及び酒石酸を用いた。
【0135】
具体的には、実施例1で調製した試験区1-0のコーヒー飲料100mLをベース液とした。このベース液に、表17に示す量のリンゴ酸、乳酸、酒石酸、及びフェニルアセトアルデヒドを添加して、各試験区のコーヒー飲料を調製した。
【0136】
製造された各コーヒー飲料について、好ましい酸味、華やかな香り、及びおいしさの官能評価を行った。評価結果を表17に示す。
【0137】
【表17】
【0138】
表17に示すように、リンゴ酸とフェニルアセトアルデヒドを添加した試験区7-1のコーヒー飲料では、華やかな香りは4点であったものの、好ましい酸味とおいしさはいずれも5点であり、非常に嗜好性に優れていた。フェニルアセトアルデヒドのみを添加してフェニルアセトアルデヒド濃度を約12~27μg/100mLとした試験区3-7及び3-8のコーヒー飲料の評価点は、おいしさ5点、好ましい酸味2~3点、華やかな香り4~5点(表9)であったことから、フェニルアセトアルデヒドによる好ましい酸味と華やかな香りの改善効果と、リンゴ酸による好ましい酸味と華やかな香りの改善効果は、互いに協調して発揮されることが示唆された。一方で、リンゴ酸とフェニルアセトアルデヒドを添加した試験区7-1のコーヒー飲料に比べて、乳酸と酒石酸を添加した試験区7-2及び7-3のコーヒー飲料では、好ましい酸味と華やかな香りのいずれも評価が低かった。これらの結果から、リンゴ酸以外の有機酸では、リンゴ酸のような風味改善効果は発揮されず、フェニルアセトアルデヒドと組みあわせた場合でも、かえってフェニルアセトアルデヒドによる風味改善効果を阻害してしまうことがわかった。
【0139】
[参考例1]
市販のIC粉末(IC粉末A)に、フルフリルメチルスルフィドを添加して、風味に対する影響を調べた。
【0140】
実施例1のベース液(試験区1-0のコーヒー飲料)に、表18~20に示す量のフルフリルメチルスルフィド及びリンゴ酸を添加して、各試験区のコーヒー飲料を調製した。なお、試験区1-0のコーヒー飲料のフルフリルメチルスルフィドの含有量を調べたところ、フルフリルメチルスルフィド濃度は1.840μg/100mLであった。
【0141】
製造された各コーヒー飲料について、好ましい酸味、香り立ち、及びおいしさの官能評価を行った。官能評価は、トレーニングされた専門パネル5名が、合議制にて10段階(1が最も弱く、10が最も強い。)でスコア付けを行った。各官能評価点は、リンゴ酸、フェニルアセトアルデヒド、リナロール、ゲラニオール、及びフルフリルメチルスルフィドのいずれも添加していないコーヒー飲料の評価点を5とした。評価結果を表18~20に示す。
【0142】
【表18】
【0143】
【表19】
【0144】
【表20】
【0145】
表18に示すように、フルフリルメチルスルフィドを添加した場合には、添加量依存的に香り立ちが改善され、おいしさも改善されていた。また、フルフリルメチルスルフィドによる風味改善効果は、最適な添加量があり、添加量が多くなりすぎると弱くなることも確認された。さらに、表19及び20に示すように、フルフリルメチルスルフィドとリンゴ酸を組み合わせることにより、好ましい酸味と香り立ちの両方が改善され、おいしさも改善されていた。
【0146】
[参考例2]
市販のコーヒーポーション(ICポーションB)に、フルフリルメチルスルフィドを添加して、風味に対する影響を調べた。
【0147】
実施例5のベース液(試験区5-0のコーヒー飲料)に、表21~23に示す量のフルフリルメチルスルフィド及びリンゴ酸を添加して、各試験区のコーヒー飲料を調製した。なお、試験区1-0のコーヒー飲料のフルフリルメチルスルフィドの含有量を調べたところ、フルフリルメチルスルフィド濃度は0.032μg/100mLであった。
【0148】
製造された各コーヒー飲料について、好ましい酸味、香り立ち、及びおいしさの官能評価を参考例1と同様にして行った。評価結果を表21~23に示す。
【0149】
【表21】
【0150】
【表22】
【0151】
【表23】
【0152】
表21に示すように、フルフリルメチルスルフィドを添加することにより、添加量依存的に香り立ちが改善され、おいしさも改善されていた。また、フルフリルメチルスルフィドによる風味改善効果は、最適な添加量があり、添加量が多くなりすぎると弱くなることも確認された。さらに、表22及び23に示すように、フルフリルメチルスルフィドとリンゴ酸を組み合わせることにより、好ましい酸味と香り立ちの両方が改善され、おいしさも改善されていた。これらの結果から、フルフリルメチルスルフィドによる香り立ちと美味しさの改善効果は、ポーションコーヒー飲料でも得られることがわかった。
【0153】
[参考例3]
牛乳を入れたミルクコーヒー飲料に、フルフリルメチルスルフィドを添加して、風味に対する影響を調べた。
【0154】
具体的には、実施例2で調製したミルクコーヒー飲料(試験区2-0)をベース液とし、これに、表24~26に示す量のフリルメチルスルフィド及びリンゴ酸を添加して、各試験区のコーヒー飲料を調製した。
【0155】
製造された各コーヒー飲料について、好ましい酸味、香り立ち、及びおいしさの官能評価を参考例1と同様にして行った。評価結果を表24~26に示す。
【0156】
【表24】
【0157】
【表25】
【0158】
【表26】
【0159】
表24に示すように、フルフリルメチルスルフィドを添加することにより、添加量依存的に香り立ちが改善され、おいしさも改善されていた。また、フルフリルメチルスルフィドによる風味改善効果は、最適な添加量があり、添加量が多くなりすぎると弱くなることも確認された。さらに、表25及び26に示すように、フルフリルメチルスルフィドとリンゴ酸を組み合わせることにより、好ましい酸味と香り立ちの両方が改善され、おいしさも改善されていた。これらの結果から、フルフリルメチルスルフィドによる香り立ちと美味しさの改善効果は、ミルクコーヒー飲料でも得られることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0160】
本発明に係るコーヒー飲料やIC飲料用組成物は、好ましい酸味とコーヒーらしい華やかな香りが改善されたコーヒー飲料を簡便に調製し得る。このため、本発明は、コーヒー飲料やIC飲料用組成物の製造分野で利用が可能である。
【要約】
【課題】好ましい酸味とコーヒーらしい華やかな香りが改善されたコーヒー飲料、及び、水等の液体に溶解させるだけで当該コーヒー飲料を簡便に調製し得るインスタントコーヒー飲料用組成物の提供。
【解決手段】可溶性コーヒー固形分を含有しており、(a)飲料のリンゴ酸濃度が、3.10mg/100mL以上である、(b)飲料のフェニルアセトアルデヒド濃度が、2.87μg/100mL以上である、(c)飲料のリナロール濃度が、0.10μg/100mL以上である、及び(d)飲料のゲラニオール濃度が、0.05μg/100mL以上である、のいずれかであることを特徴とする、コーヒー飲料。
【選択図】なし