(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-21
(45)【発行日】2024-10-29
(54)【発明の名称】誘電体磁器組成物および積層セラミックコンデンサ
(51)【国際特許分類】
C04B 35/475 20060101AFI20241022BHJP
H01G 4/30 20060101ALI20241022BHJP
H01G 4/12 20060101ALI20241022BHJP
【FI】
C04B35/475
H01G4/30 515
H01G4/30 201L
H01G4/12 180
(21)【出願番号】P 2023529609
(86)(22)【出願日】2022-03-29
(86)【国際出願番号】 JP2022015559
(87)【国際公開番号】W WO2022264626
(87)【国際公開日】2022-12-22
【審査請求日】2023-10-11
(31)【優先権主張番号】P 2021100335
(32)【優先日】2021-06-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】村田 智城
(72)【発明者】
【氏名】赤松 寛文
【審査官】神▲崎▼ 賢一
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-162691(JP,A)
【文献】特開平07-267732(JP,A)
【文献】国際公開第2015/119112(WO,A1)
【文献】特開2001-342059(JP,A)
【文献】特開2016-108217(JP,A)
【文献】国際公開第2006/013981(WO,A1)
【文献】特開2004-323315(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/475
H01G 4/30
H01G 4/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Bi
2Ti
4O
11型構造を有する主成分と、副成分とを含有する誘電体磁器組成物であって、
前記主成分は、Bi、Ca、Sr、Baおよび希土類元素からなる群より選ばれる少なくとも1種のA群元素と、Ti、ZrおよびNbからなる群より選ばれる少なくとも1種のB群元素とを含み、
前記副成分は、Mn、Cu、Fe、Co、VおよびSiからなる群より選ばれる少なくとも1種のC群元素を含み、
前記B群元素の合計量を100mol%とした場合、前記C群元素の合計量が0.2mol%以上4.0mol%以下であり、
前記B群元素に占めるTiの量が95%以上であり、
前記B群元素に占めるNbの量が2.5%以下であり、
前記A群元素に占めるBiの量が85%以上であり、
前記A群元素に占めるBiおよびLaの合計量が95%以上であり、
前記A群元素に占めるCaの量が2.5%以下であり、
前記B群元素に対する前記A群元素の比率が0.485以上0.530以下である、誘電体磁器組成物。
【請求項2】
前記B群元素がTiであり、
前記A群元素がBiおよびLaであり、
前記A群元素に占めるLaの量が7%以上15%以下である、請求項1に記載の誘電体磁器組成物。
【請求項3】
請求項1または2に記載の誘電体磁器組成物を含有する複数の誘電体層と、前記誘電体層間に配置された複数の内部電極層とを含む積層体と、
前記積層体の外表面に配置され、前記内部電極層と電気的に接続されている複数の外部電極とを備える、積層セラミックコンデンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘電体磁器組成物および積層セラミックコンデンサに関する。
【背景技術】
【0002】
積層セラミックコンデンサの代表的な構成として、特許文献1には、BaTiO3系のセラミック粒子からなる誘電体層と、Ni粉末を主成分とする導電ペーストを焼成した内部電極とが交互に積層されている積層セラミックコンデンサが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の積層セラミックコンデンサのように、従来の積層セラミックコンデンサでは、BaTiO3をはじめとする強誘電体材料が主材料として用いられている。そのため、直流電圧を印加すると、誘電率の低下に伴って静電容量が大きく低下する。この特性は負バイアス特性と呼ばれており、強誘電体材料が主材料として用いられている積層セラミックコンデンサを含む電気回路は、負バイアス特性を前提として設計せざるを得ない。これに対して、直流電圧下において誘電率が向上する正バイアス特性は、サージ吸収および蓄積エネルギー密度の点で利点を有する。このような正バイアス特性は、特に高周波および高電圧の用途において、これまでにない利点を有する特性である。
【0005】
本発明は、誘電体として実用可能な絶縁性を有し、かつ、正バイアス特性を発現する誘電体磁器組成物を提供することを目的とする。さらに、本発明は、上記誘電体磁器組成物を用いた積層セラミックコンデンサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の誘電体磁器組成物は、Bi2Ti4O11型構造を有する主成分と、副成分とを含有する誘電体磁器組成物であって、上記主成分は、Bi、Ca、Sr、Baおよび希土類元素からなる群より選ばれる少なくとも1種のA群元素と、Ti、ZrおよびNbからなる群より選ばれる少なくとも1種のB群元素とを含み、上記副成分は、Mn、Cu、Fe、Co、VおよびSiからなる群より選ばれる少なくとも1種のC群元素を含み、上記B群元素の合計量を100mol%とした場合、上記C群元素の合計量が0.2mol%以上4.0mol%以下であり、上記B群元素に占めるTiの量が95%以上であり、上記B群元素に占めるNbの量が2.5%以下であり、上記A群元素に占めるBiの量が85%以上であり、上記A群元素に占めるBiおよびLaの合計量が95%以上であり、上記A群元素に占めるCaの量が2.5%以下であり、上記B群元素に対する上記A群元素の比率が0.485以上0.530以下である。
【0007】
本発明の積層セラミックコンデンサは、本発明の誘電体磁器組成物を含有する複数の誘電体層と、上記誘電体層間に配置された複数の内部電極層とを含む積層体と、上記積層体の外表面に配置され、上記内部電極層と電気的に接続されている複数の外部電極とを備える。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、誘電体として実用可能な絶縁性を有し、かつ、正バイアス特性を発現する誘電体磁器組成物を提供することができる。さらに、本発明によれば、上記誘電体磁器組成物を用いた積層セラミックコンデンサを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の誘電体磁器組成物を用いた積層セラミックコンデンサの一例を模式的に示す断面図である。
【
図2】試料番号17、19および21における電界強度と誘電率との関係を示すグラフである。
【
図3】試料番号17、19および21における電界強度と誘電損失との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の誘電体磁器組成物および積層セラミックコンデンサについて説明する。
しかしながら、本発明は、以下の構成に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において適宜変更して適用することができる。なお、以下において記載する本発明の個々の望ましい構成を2つ以上組み合わせたものもまた本発明である。
【0011】
[誘電体磁器組成物]
本発明の誘電体磁器組成物は、Bi2Ti4O11型構造を有する主成分と、副成分とを含有する。
【0012】
主成分は、Bi、Ca、Sr、Baおよび希土類元素からなる群より選ばれる少なくとも1種のA群元素と、Ti、ZrおよびNbからなる群より選ばれる少なくとも1種のB群元素とを含む。希土類元素としては、例えば、La、Nd、Gd等を使用することができる。
【0013】
副成分は、Mn、Cu、Fe、Co、VおよびSiからなる群より選ばれる少なくとも1種のC群元素を含む。
【0014】
本発明の誘電体磁器組成物においては、A群元素、B群元素およびC群元素の量が以下のように制限されている。
B群元素の合計量を100mol%とした場合、C群元素の合計量が0.2mol%以上4.0mol%以下である。
B群元素に占めるTiの量が95%以上である。B群元素に占めるTiの量は100%であってもよい。
B群元素に占めるNbの量が2.5%以下である。B群元素に占めるNbの量は0%であってもよい。
A群元素に占めるBiの量が85%以上である。A群元素に占めるBiの量は100%であってもよい。
A群元素に占めるBiおよびLaの合計量が95%以上である。A群元素に占めるLaの量は0%であってもよい。
A群元素に占めるCaの量が2.5%以下である。A群元素に占めるCaの量は0%であってもよい。
B群元素に対するA群元素の比率が0.485以上0.530以下である。
【0015】
本発明の誘電体磁器組成物においては、B群元素がTiであり、A群元素がBiおよびLaであり、A群元素に占めるLaの量が7%以上15%以下であることが好ましい。この場合、B群元素に占めるTiの量は100%であることが好ましいが、Ti以外のB群元素が微量含まれていてもよい。例えば、B群元素に占めるTiの量が99.5%程度であってもよい。同様に、A群元素に占めるBiおよびLaの合計量は100%であることが好ましいが、BiおよびLa以外のA群元素が微量含まれていてもよい。例えば、A群元素に占めるBiおよびLaの合計量が99.5%程度であってもよい。
【0016】
上述したように、BaTiO3をはじめとする強誘電体では、直流電界を印加すると、分極飽和に伴って誘電率が単調に減少するという問題がある。これに対して、本発明の対象であるBi2Ti4O11材料は、この材料に固有の反強誘電的な分極構造を有する。本発明では、副成分としてC群元素を添加してBi2Ti4O11材料の絶縁性を大きく向上させることで、直流電界下における相転移が可能となり、これによって直流電界下で誘電率が上昇する正バイアス特性が得られる。さらに、A群元素およびB群元素の量を制限することで、本材料に固有の反強誘電的な分極構造を維持し、正バイアス特性を発現させることができる。特に、本材料では、ゼロ電場での誘電率が60以上150以下の範囲に対して正バイアス特性が得られるという特徴を有する。また、以下に述べるA群元素およびB群元素の組成を限定し、A群元素に占めるLaの量を制限した場合においては、特に実用上好適な特性が得られている。
【0017】
上記に加えて、さらにA群元素およびB群元素の組成を限定し、A群元素に占めるLaの量を制限することで、電界下の強誘電相を安定化させ、相転移に必要な電界強度を低下させることができる。これにより、実用上好適な電界強度領域に誘電率ピークを持ち、かつ、高い正バイアス特性を発現する誘電体磁器組成物を得ることが可能となる。
【0018】
本発明の誘電体磁器組成物は、本発明の効果を損なわない範囲内において、上述したA群元素、B群元素およびC群元素以外に、他の元素を微量含有していてもよい。
【0019】
本発明の誘電体磁器組成物は、種々の電子部品または車載部品等として使用される積層セラミックコンデンサに好適に使用することができる。
【0020】
[積層セラミックコンデンサ]
図1は、本発明の誘電体磁器組成物を用いた積層セラミックコンデンサの一例を模式的に示す断面図である。
【0021】
図1に示す積層セラミックコンデンサ1は、複数の誘電体層11と、誘電体層11間に配置された複数の内部電極層12とを含む積層体10と、積層体10の外表面に配置され、内部電極層12と電気的に接続されている複数の外部電極13aおよび13bとを備える。内部電極層12は、積層体10の対向する端面14aおよび14bにおいて、交互に積層体10の表面に露出している。積層体10の両端面14aおよび14bには、内部電極層12を電気的に接続するように一対の外部電極13aおよび13bが形成されている。
【0022】
積層セラミックコンデンサ1において、誘電体層11は本発明の誘電体磁器組成物を含有する。内部電極層12は金属を含む電極層である。内部電極層12に含まれる金属としては、例えばPt、Pd、Ni、Cu、Ag等が挙げられる。外部電極13aおよび13bとしては、例えばPt、Pd、Ni、Cu、Ag等を主成分として含む電極が挙げられ、公知の構成の電極を使用することができる。
【0023】
本発明の誘電体磁器組成物および積層セラミックコンデンサは上述の実施形態にのみ限定されるものではなく、本発明の範囲内において、種々の応用、変更を加えることが可能である。
【実施例】
【0024】
以下、本発明の誘電体磁器組成物および積層セラミックコンデンサをより具体的に開示した実施例を示す。なお、本発明は、これらの実施例のみに限定されるものではない。
【0025】
[試料の作製]
試料番号1~32は、Bi2O3、La(OH)3、Nd(OH)3、Gd2O3、BaCO3、SrCO3、CaCO3、TiO2、ZrO2、Nb2O5を準備して、表1の主成分に示した組成になるように秤量した後、2mmφの部分安定化ジルコニア(PSZ)ボール、純水、分散剤、消泡剤とともにボールミルにより湿式混合し、スラリーを乾燥、整粒後に750℃にて大気中で仮焼を行うことで、Bi2Ti4O11型構造を有する仮焼粉を合成した。なお、各元素の酸化物、水酸化物もしくは炭酸塩を原料として使用したが、各元素の他の化合物を用いても同様の効果が得られる。また、共沈法、水熱法、蓚酸法等の他の合成方法で作製しても構わない。
【0026】
この仮焼粉に、副成分としてMn、Cu、Fe、Co、V、Siの酸化物または炭酸塩の粉末を加え、表1の副成分に示した組成になるように秤量した。これにポリビニルブチラール系バインダー、可塑剤およびエタノール、トルエンを加えて、PSZボールとともにボールミルにより湿式混合し、シート成形用のセラミックスラリーを作製した。このスラリーをドクターブレード法により、シート厚みが20μmになるようにシート成形し、矩形のセラミックグリーンシートを得た。上記セラミックグリーンシート上に、Ptを導電成分として含む導電性ペーストをスクリーン印刷し、内部電極層を構成するための導電性ペースト層を形成した。
【0027】
導電性ペースト層が印刷されたセラミックグリーンシートを、導電性ペーストの引き出されている側が互い違いになるように積層し、積層体を得た。この積層体の端面のうち導電性ペースト層が露出している面にPt電極を塗布し、500℃にて大気中で加熱することで脱脂処理した。脱脂後の積層体を、大気中において1100℃以上1250℃以下で120分間の熱処理を行うことで緻密なセラミック積層体を得た。熱処理の際、同一組成の仮焼粉とともに緻密アルミナサヤに同梱して蓋をすることでBiの揮発を抑制し、仕込み量通りの組成のセラミックスを作製した。積層体を溶解し、ICP(Inductively Coupled Plasma)分析をしたところ、内部電極層成分のPtを除いて、表1に示すような組成であった。また、この積層体のXRD(X-Ray Diffraction)構造解析を行ったところ、異相のないBi2Ti4O11型構造を有することが明らかになった。
【0028】
上記のようにして得られた試料の外形寸法は、幅2.7mm、長さ3.6mm、厚さ0.56mmであり、内部電極層間に介在する誘電体層の厚みは16μm、内部電極層の厚みは1μmであった。また、対向電極面積は3.1mm2であった。
【0029】
[試料の評価]
作製した試料番号1~32に対して、室温においてLCRメーターを用いて1V、1kHzの条件で静電容量および誘電損失を測定し、この静電容量から誘電率を算出した。ここで、一般に誘電損失は材料の誘電特性を示す値であるが、試料の絶縁性が不充分でありリーク電流を生じるときは、その分だけ誘電損失の値が大きくなることが知られている。本材料系の誘電特性に由来する誘電損失の値は概ね3%未満であったから、誘電損失の値が3%以上と大きいときは、これをリーク電流の寄与とみなして絶縁性不充分と判定した。以上の理由から、誘電損失が3%未満であるものを絶縁性良好としてG(良好)判定とし、3%以上であるものを絶縁性不良としてNG(不良)判定とした。結果を表2に示す。
【0030】
絶縁性良好と判定された試料に対して、LCRメーターと外部電源を組み合わせ、電圧を0Vから800Vまで33.3V刻みで印加した際の静電容量を測定し、0Vからの誘電率の変化率を算出した。誘電率が電圧下において正の変化(正バイアス特性)を示したものをG(良好)と判定し、単調減少であるものをNG(不良)と判定した。正バイアス特性が得られた組成に対しては、誘電率が増加から減少に転じる電界強度をピーク電界強度と定義し、さらにピーク電界強度における正バイアスの大きさを正バイアスのピーク値と定義した。ピーク電界強度が30MV/m未満であり、正バイアスのピーク値が10%以上であるものを、実用上好適な特性と判断し、G+(優良)判定とした。結果を表2に示す。
【0031】
また、試料番号1~32の代表例として、試料番号17、19および21における電界強度と誘電率との関係を
図2に示し、試料番号17、19および21における電界強度と誘電損失との関係を
図3に示す。
【0032】
【0033】
【0034】
表1および表2において、試料番号に*印を付した試料は、本発明の範囲外となる比較例である。
【0035】
本実施例にて作製した試料番号1~32のうち、GまたはG+を付与した試料は、良好な絶縁性と正バイアス特性を両立する特性を得ることができた。
【0036】
試料番号1のようにMnの量がBの量に対して0.2mol%よりも少ない試料では、絶縁性が不充分であり、正バイアス特性を得られなかった。一方で、試料番号8のようにMnの量がBの量に対して4.0mol%よりも多い試料では、添加されたMnが偏析することによって絶縁性が低下し、正バイアス特性を得られなかった。
【0037】
試料番号9に示すようにB群元素に対するA群元素の比率が0.485未満である場合、あるいは、試料番号12に示すようにB群元素に対するA群元素の比率が0.530よりも大きい場合には、異相析出を生じて絶縁性が低下し、正バイアス特性を得られなかった。また、試料番号23に示すようにA群元素に占めるCaの量が2.5%より多い場合においても、Caに由来する異相析出を生じて絶縁性が低下し、正バイアス特性が得られなかった。
【0038】
試料番号21に示すようにA群元素に占めるBiの量が85%未満である場合には、Bi分極の密度が低下し、正バイアス特性が得られなかった。
【0039】
試料番号26、28および30に示すようにA群元素に占めるBiおよびLaの合計量が95%未満である場合、および、試料番号26に示すようにB群元素に占めるNbの量が2.5%より多い場合には、分極構造が変化することで正バイアス特性が消失した。
【0040】
試料番号32に示すようにB群元素に占めるTiの量が95%未満である場合には、誘電応答そのものが低減し、誘電率が低下するとともに正バイアス特性が消失した。
【符号の説明】
【0041】
1 積層セラミックコンデンサ
10 積層体
11 誘電体層
12 内部電極層
13a、13b 外部電極
14a、14b 積層体の端面