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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-21
(45)【発行日】2024-10-29
(54)【発明の名称】電線圧力検知システム
(51)【国際特許分類】
   G01L 1/14 20060101AFI20241022BHJP
【FI】
G01L1/14 J
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2023552680
(86)(22)【出願日】2021-11-26
(86)【国際出願番号】 JP2021043345
(87)【国際公開番号】W WO2023058252
(87)【国際公開日】2023-04-13
【審査請求日】2024-03-18
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2021/036963
(32)【優先日】2021-10-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】395011665
【氏名又は名称】株式会社オートネットワーク技術研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000183406
【氏名又は名称】住友電装株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002158
【氏名又は名称】弁理士法人上野特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小森 洋和
(72)【発明者】
【氏名】薗田 不二夫
(72)【発明者】
【氏名】大嶋 拓実
【審査官】井亀 諭
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-510876(JP,A)
【文献】特開2001-4462(JP,A)
【文献】特開平11-258011(JP,A)
【文献】特開平8-271356(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0312907(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01L 1/00-1/26
G01L 5/00-5/28
G01R 31/08
H01B 7/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
弾性を有する誘電体より構成されたテープ状の基材と、前記基材の両面にそれぞれ設けられた導電性の被覆層と、を備えたセンサ部と、
前記センサ部を構成する2層の前記被覆層の間の特性インピーダンスを計測する検出部と、
前記検出部にて計測された前記特性インピーダンスの変化の履歴を記録する記録部と、を有し、
前記センサ部は、前記被覆層の一方を電線の側面に沿わせた状態で、前記電線の外周に配置されている、電線圧力検知システム。
【請求項2】
前記センサ部は、前記電線の外周に、螺旋状に巻き付けられている、請求項1に記載の電線圧力検知システム。
【請求項3】
前記特性インピーダンスの変化量、または前記変化量を前記センサ部あるいは前記電線の変形量に変換した量を、指標量として、
前記記録部は、前記履歴として、
前記指標量の積算値、
前記指標量が、1つまたは複数の基準値のそれぞれを超えた回数、
前記指標量が、複数の基準値のそれぞれを超えた回数を、前記基準値によって区画される領域ごとに重みづけし、重みづけ後の前記回数の和をとったもの、
の少なくとも1つを記録する、請求項1または請求項2に記載の電線圧力検知システム。
【請求項4】
前記基材はゴムより構成されている、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の電線圧力検知システム。
【請求項5】
前記検出部はさらに、前記被覆層のインダクタンスを計測する、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の電線圧力検知システム。
【請求項6】
前記検出部はさらに、前記被覆層の抵抗を計測する、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の電線圧力検知システム。
【請求項7】
前記電線は、自動車用ワイヤーハーネスを構成している、請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の電線圧力検知システム。
【請求項8】
前記電線は、自動車の電動ブレーキ用複合電線を構成している、請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の電線圧力検知システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電線圧力検知システムに関する。
【背景技術】
【0002】
種々の電気・電子機器や輸送用機器、建造物、公共設備等において、電線が搭載、また敷設されるが、屈曲をはじめとする変形や、周囲の物体との接触等の物理的刺激が電線に加えられると、電線に損傷が発生する場合がある。損傷に起因して電線の性能に深刻な影響が及ぶのを回避するために、損傷の発生を、早期に、また敏感に検知することが望まれる。電線の損傷を検出する方法として、例えば特許文献1に、診断対象のケーブル経路において複数の区間ごとにパルス電気信号の伝播速度を設定する設定手段と、ケーブル経路内に送信されたパルス電気信号の反射特性の測定結果と、区間ごとに設定された伝播速度とから、ケーブル経路内の不具合箇所の位置を推定する推定手段と、を有するケーブル診断装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2007-333468号公報
【文献】特開2018-056287号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のケーブル診断装置におけるパルス電気信号の反射特性のように、電線に損傷が生じた場合に変化が生じる特性に着目し、その変化を検出できるようにしておけば、その特性に変化が生じたことをもって、損傷の発生を早期に検知することが可能となる。しかし、電線に生じる損傷としては、急に発生または進行するものに加え、小さな負荷が何度も印加されて蓄積された結果として生じるものもある。例えば、電線の屈曲や他の部材との接触等により、電線に圧力が印加される。そのような圧力の印加は、一度で電線の損傷に至ることはなくても、何度も繰り返されることで、電線の構成材料に負荷が蓄積し、電線導体の破断等の損傷につながる可能性がある。このような電線への圧力の印加による負荷の蓄積を継続的に監視することができれば、損傷の発生の予兆を、早期から把握できる可能性がある。
【0005】
以上に鑑み、電線への圧力の印加を継続的に監視することができる電線圧力検知システムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示にかかる電線圧力検知システムは、弾性を有する誘電体より構成されたテープ状の基材と、前記基材の両面にそれぞれ設けられた導電性の被覆層と、を備えたセンサ部と、前記センサ部を構成する2層の前記被覆層の間の特性インピーダンスを計測する検出部と、前記検出部にて計測された前記特性インピーダンスの変化の履歴を記録する記録部と、を有し、前記センサ部は、前記被覆層の一方を電線の側面に沿わせた状態で、前記電線の外周に配置されている。
【発明の効果】
【0007】
本開示にかかる電線圧力検知システムは、電線への圧力の印加を継続的に監視することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、本開示の一実施形態にかかる電線圧力検知システムの構成を示す模式図である。
図2図2Aおよび図2Bは、上記電線圧力検知システムを構成するセンサテープの断面を示す図である。図2Aは圧力が印加されていない状態を示し、図2Bは圧力が印加された状態を示している。
図3図3は、上記センサテープを電線に設置した状態を示す斜視図である。
図4図4は、本開示の一実施形態にかかる電線圧力検知システムを、屈曲角度が制限される電線に設けた例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[本開示の実施形態の説明]
最初に、本開示の実施態様を説明する。
本開示の電線圧力検知システムは、弾性を有する誘電体より構成されたテープ状の基材と、前記基材の両面にそれぞれ設けられた導電性の被覆層と、を備えたセンサ部と、前記センサ部を構成する2層の前記被覆層の間の特性インピーダンスを計測する検出部と、前記検出部にて計測された前記特性インピーダンスの変化の履歴を記録する記録部と、を有し、前記センサ部は、前記被覆層の一方を電線の側面に沿わせた状態で、前記電線の外周に配置されている。
【0010】
上記電線圧力検知システムにおいては、弾性を有する誘電体より構成された基材の両面に導電性の被覆層を設けたセンサ部を、電線の外周に配置しており、屈曲等によって電線に側方から圧力が印加されると、センサ部において、誘電体が厚さ方向に圧縮され、2層の被覆層の間の距離が近づく変形を起こす。このセンサ部の変形により、2層の被覆層の間の特性インピーダンスが変化する。この特性インピーダンスの変化を検出部にて検出することで、電線に圧力が印加されたことを検知することができる。センサ部の基材が弾性を有する材料より構成されていることにより、電線の屈曲の解消等により、印加された圧力が除かれると、センサ部においても変形が解消され、2層の被覆層の間の距離が元の状態、あるいはそれに近い状態に戻り、特性インピーダンスも、元の値、あるいはそれに近い値に戻る。しかし、一旦特性インピーダンスが変化した履歴が記録部に残される。
【0011】
ある期間にわたって、検出部による特性インピーダンスの変化の検出と、記録部による特性インピーダンスの変化履歴の記録を継続することで、記録部に残された特性インピーダンスの変化の履歴から、電線への圧力の印加の履歴についての情報を得ることができる。このように、記録部に記録された履歴をもとに、電線への圧力の印加を継続的に監視することができる。そして、電線への圧力の印加の履歴に関する情報を、電線への負荷の蓄積や、損傷の発生の予兆を示す情報として利用することができる。
【0012】
ここで、前記センサ部は、前記電線の外周に、螺旋状に巻き付けられているとよい。すると、センサ部を電線の外周に安定に保持できるとともに、屈曲等によって電線に圧力が印加される方向が異なっても、同様の感度でその圧力の印加を検知することができる。
【0013】
前記特性インピーダンスの変化量、または前記変化量を前記センサ部あるいは前記電線の変形量に変換した量を、指標量として、前記記録部は、前記履歴として、前記指標量の積算値、前記指標量が、1つまたは複数の基準値のそれぞれを超えた回数、前記指標量が、複数の基準値のそれぞれを超えた回数を、前記基準値によって区画される領域ごとに重みづけし、重みづけ後の前記回数の和をとったもの、の少なくとも1つを記録するとよい。この場合に、記録部において指標量を記録する形態を選択することで、電線への圧力の印加の履歴を、多様な観点から監視することができる。指標量の積算値は、圧力によって加えられた負荷の蓄積量を反映するものとなる。指標量が1つまたは複数の基準値をそれぞれ超えた回数は、所定以上の負荷が印加された回数を示すものとなる。また、その回数を基準値によって区画される領域ごとに重みづけしたものの和は、1回ごとの負荷の印加量を加味して、負荷が印加された回数を数えたものに相当する。
【0014】
前記基材はゴムより構成されているとよい。すると、センサ部の耐久性が高くなり、長期にわたって電線への圧力の印加の監視を継続することができる。好ましくは、基材が高誘電率のゴムより構成されているとよい。
【0015】
前記検出部はさらに、前記被覆層のインダクタンスを計測するとよい。電線が大きな衝撃を受けた際に、センサ部の被覆層が面方向に引き伸ばされ、厚みが小さくなる場合がある。すると、被覆層のインダクタンスが変化する。よって、検出部において、被覆層のインダクタンスを計測することで、電線への継続的な圧力の印加に加え、突発的な衝撃の印加も検知することができる。
【0016】
前記検出部はさらに、前記被覆層の抵抗を計測するとよい。電線が非常に大きな衝撃を受けた際に、センサ部の被覆層に破断が生じる場合がある。すると、被覆層の抵抗が変化する。よって、検出部において、被覆層の抵抗を計測することで、電線への継続的な圧力の印加に加え、突発的な大きな衝撃の印加も検知することができる。
【0017】
前記電線は、自動車用ワイヤーハーネスを構成しているとよい。自動車に配置されるワイヤーハーネスには、車両の振動や構成部材の運動、周囲の部材との接触等に起因して、圧力が印加されやすい。そこで、自動車用ワイヤーハーネスに、本開示の実施形態にかかる電線圧力検知システムを設け、圧力の印加を継続的に監視することで、ワイヤーハーネスへの圧力の印加に起因する負荷の蓄積の状況を把握し、大きな損傷に至る前に、ワイヤーハーネスの交換等の対策を施すことができる。
【0018】
あるいは、前記電線は、自動車の電動ブレーキ用複合電線を構成しているとよい。自動車の電動ブレーキ用複合電線は、屈曲を受けやすい電線であり、屈曲の履歴を監視することで、過度の屈曲や想定されない方向への屈曲に起因する負荷の蓄積が起こった場合に、それを把握することで、電線の交換等によって、電動ブレーキの動作への深刻な影響を予防することができる。
【0019】
[本開示の実施形態の詳細]
以下、図面を用いて、本開示の実施形態にかかる電線圧力検知システムについて詳細に説明する。本明細書において、直線状、螺旋状等、各種構成部材の形状や配置を示す語には、幾何的に厳密な概念のみならず、電線において許容される範囲の誤差を含むものとする。
【0020】
<電線圧力検知システムの構成>
本開示の一実施形態にかかる電線圧力検知システム1の構成の概略を、図1に示す。本実施形態にかかる電線圧力検知システム1は、電線Wに取り付けられ、電線Wへの圧力の印加を検知するものである。電線圧力検知システム1は、自動車等、電線Wが搭載される機器に、電線Wとともに配備される。
【0021】
電線圧力検知システム1は、センサ部2と、検出部3と、記録部4と、を有する。センサ部2が電線Wに取り付けられ、電線Wへの圧力の印加が、センサ部2に変形として反映される。そのセンサ部2の変形が、検出部3によって検出される。そして、検出部3による検出結果の履歴が、記録部4に記録される。
【0022】
センサ部2は、センサテープとして構成され、図2Aに断面を示すように、弾性を有する誘電体より構成されたテープ状の基材21と、基材21の両面にそれぞれ設けられた導電性の被覆層22,22を備えている。基材21の両面の被覆層22,22は相互に絶縁されている。基材21および被覆層22,22の具体的な構成材料は特に限定されるものではないが、基材21はゴムより構成されることが好ましく、被覆層22,22は、銅または銅合金等の金属材料より構成されることが好ましい。被覆層22,22は、接着や金属材料の蒸着、めっき等により、基材21の表面に固着されている。一方の被覆層22の表面には、センサテープ2を電線Wに固定するための接着層または粘着層が任意に設けられてもよい(不図示)。センサテープ2の具体的な形状も、テープ状であれば特に限定されない。なお、テープ状であるとは、厚さおよび幅よりも長手方向の寸法が大きい、長尺状のシート体であることを指す。
【0023】
図1および図3に、センサテープ2を電線Wに設置した状態を示す。センサテープ2は、2層の被覆層22,22の一方を、電線Wの側面に沿わせた状態で、電線Wの外周に配置されている。センサテープ2は、電線Wの側面に一方の被覆層22の面が沿わせられていれば、どのように配置されていてもよく、例えば、センサテープ2の長手方向を電線Wの軸線方向に沿わせてまっすぐにして(直線的に)配置されていても、図3に示すとおり、電線Wの外周に螺旋状に巻き付けられていてもよい。センサテープ2を螺旋状に巻く形態は、電線Wの外周へのセンサテープ2の保持の安定性、および圧力の印加方向によらずに圧力印加を検知できる点で優れている一方、センサテープ2を電線Wの軸線方向に沿わせる形態は、後に図4を参照して説明する形態のように、特定の方向への圧力の印加を敏感に検知できる点で優れている。センサテープ2を螺旋状に巻く場合に、図3に示すとおり、螺旋のターン間に間隙を設けて巻いても、あるいは間隙を設けずに密に巻いても、いずれでもよい。間隙を設けずに巻く場合には、適宜、センサテープ2に設けた接着層または粘着層による電線Wへの固定を利用して、ターン間で被覆層22の絶縁を確保すればよい。電線Wの外周に配置されたセンサテープ2は、外部の環境に露出していても、電線Wの外周にセンサテープ2を配置した集合体の外周に、シース層等、別の層がさらに設けられていてもよい。センサテープ2は、電線Wの長手方向に沿って一部の領域に設けられても、全領域に設けられてもよい。
【0024】
センサテープ2を設置する電線Wの構造や種類は、特に限定されるものではない。単独の状態の絶縁電線にセンサテープ2を配置しても、複数の絶縁電線を含むワイヤーハーネスにセンサテープ2を配置してもよい。ワイヤーハーネスにセンサテープ2を配置する場合に、ワイヤーハーネスを構成する一部の絶縁電線の外周にセンサテープ2を配置してもよいが、好ましくは、ワイヤーハーネス全体に対する圧力の印加を監視する観点から、ワイヤーハーネス全体としての外周にセンサテープ2を配置するとよい。
【0025】
検出部3は、センサテープ2を構成する2層の被覆層22,22の間の特性インピーダンスを計測する計測装置である。特性インピーダンスの計測は、交流成分を含む電気信号を被覆層22,22に入力して、応答信号の特性インピーダンスを計測する。特性インピーダンスの測定は、透過法によって行っても、反射法によって行っても、いずれでもよいが、センサテープ2の一端に検出部3を接続して計測を行える点で、反射法を利用することが好ましい。さらに、検出部3が、特性インピーダンスの測定を、時間領域法または周波数領域法によって行うものであることが好ましい。検出部3は、被覆層22,22に対して、特性インピーダンス以外の電気的特性も合わせて計測できるものであってもよい。特性インピーダンス以外に計測することが好ましい特性として、インダクタンスおよび抵抗を挙げることができる。
【0026】
記録部4は、記憶装置等として構成され、検出部3より、センサテープ2を構成する被覆層22,22の間の特性インピーダンスの計測結果を入力される。そして、記録部4は、その特性インピーダンスの変化の履歴を記録する。ここで、特性インピーダンスの変化の履歴とは、所定の期間の間、特性インピーダンスがどのように変化したかを示す情報である。具体的にどのような情報を履歴として記録するかについては、後に詳しく説明するが、例えば、特性インピーダンスの変化量が所定の基準値を超えた回数を、履歴として記録する。
【0027】
電線圧力検知システム1においては、検出部3による特性インピーダンスの測定および記録部4による履歴の記録を、連続的に実施する。好ましくは、自動車等、電線Wが搭載された機器が稼働している間、特性インピーダンスの測定と履歴の記録を、常時実施するものであるとよい。そして、記録部4は、記録した履歴を、所定の期間が経過した後に、機器の管理者等が認知可能な状態で出力する。例えば、自動車の車検時に、車検作業者が履歴を閲覧できるようにすればよい。あるいは、記録部4は、履歴を記録している期間の途中に、それまでに記録した履歴を出力する。例えば、自動車の計器パネルに、連続的あるいは断続的に、その時点で記録されている履歴を表示し、運転者が認識できるようにすればよい。
【0028】
<センサ部による電線圧力の検知>
図1,3に示すように、センサテープ2を外周に配置した電線Wが、圧力を受ける場合について考える。ここで、電線Wに印加される圧力とは、電線Wの側方から電線Wを圧迫する方向に印加される力であり、他の物体との接触や衝撃の印加等によって外部から印加される圧力の他、電線W自体が屈曲された際に、その屈曲によって印加される圧力が考えられる。
【0029】
電線Wが圧力を受けると、電線Wの外周に配置されているセンサテープ2にも圧力が印加されることになる。つまり、センサテープ2が、厚み方向に圧縮する圧力を受ける。センサテープ2の基材21が弾性を有する材料より構成されていることにより、図2Bに示すように、センサテープ2が圧力Fを受けると、基材21が圧縮方向に弾性変形を生じ、局所的に厚みが小さくなる。この際、基材21の圧縮に伴って、基材21の表面に固着された被覆層22,22の少なくとも一方が変位し、2層の被覆層22,22の間の距離が縮まる。すると、検出部3によって検出される2層の被覆層22,22の間の特性インピーダンスに変化が生じる。変化の方向としては、センサテープ2が単純な平面状に配置されているとみなせる場合には、キャパシタンス成分の増大により、特性インピーダンスが低下する方向となる。電線Wに大きな圧力が印加され、センサテープ2に大きな変形が起こるほど、特性インピーダンスの変化量も大きくなる。このように、センサテープ2の被覆層22,22の間の特性インピーダンスの変化が検出部3によって検出されると、その変化の履歴が記録部4に記憶される。
【0030】
電線Wの屈曲の解除等により、電線Wに印加されていた圧力が除去され、センサテープ2に印加されていた圧力Fも除去されると、弾性を有する基材21の復元力により、基材21が当初の厚みに戻る(あるいは当初に近い状態に戻る;以下、当初の状態への復帰について言及する場合において同様)。2層の被覆層22,22も、当初の位置関係に復帰する。すると、被覆層22,22の間の特性インピーダンスも、当初の値に復帰する。電線Wに対する圧力の印加と除去が繰り返される状況では、センサテープ2において、基材21の弾性による変形と復元に伴い、2層の被覆層22,22の間のインピーダンスが、変化と、変化前の状態への復帰を繰り返す。その繰り返しが継続される間、特性インピーダンスの変化の履歴が、記録部4に記録され、記録部4にその履歴が蓄積される。このように、弾性を有する誘電体よりなる基材21の両面に導電性の被覆層22,22を備えたセンサテープ2を、電線Wの外周に配置しておくことで、基材21の弾性による可逆的な圧縮変形を利用して、電線Wに圧力が繰り返して印加される状況において、圧力が印加されるたびに、その圧力の印加を被覆層22,22の間の特性インピーダンスの変化として検出し、記録することができる。
【0031】
上記のように、基材21の構成材料は弾性を有する誘電体であれば特に限定されるものではなく、各種発泡樹脂、エラストマー、ゴム等を好適に用いることができる。しかし、センサテープ2による圧力印加の検知を長期にわたって高感度に継続する観点から、基材21は、圧力の印加/除去に敏感に追随して、弾性変形/復元を起こし、かつ高い耐久性を有する材料より構成されることが好ましい。その観点から、基材21はゴムより構成されることが好ましい。ゴムの種類は特に限定されるものではなく、シリコーンゴム、クロロプレンゴム、ニトリルゴム等を好適に用いることができるが、周囲の環境による劣化を抑制して耐久性を高く保つ観点から、ポリエステル系ウレタンゴム等、加水分解を起こしやすいゴムは避けた方がよい。また、基材21は、高い誘電率を有することが好ましい。基材21の誘電率が高いほど、基材21の変形量に対する特性インピーダンスの変化量が大きくなり、電線Wへの圧力の印加を敏感に検出できるからである。ゴム等の弾性を有する有機材料に、チタン酸バリウム等の強誘電体よりなる無機フィラーを添加すれば、基材21の誘電率を効果的に高めることができる。
【0032】
屈曲等によって電線Wが圧力を印加される位置が、電線Wの長手方向において変化しうる場合に、検出部3による特性インピーダンスの計測に、時間領域法または周波数領域法を用いれば、圧力が印加された位置を特定することもできる。時間領域法の場合には、パルス電気信号を被覆層22,22に入力し、特性インピーダンスに変化が現れた時間を電線Wの軸線方向に沿った位置に変換することにより、圧力が印加された位置を知ることができる。周波数領域法の場合には、複数の周波数成分を含む電気信号を被覆層22,22に入力し、応答信号をフーリエ変換して、周波数の情報を電線W上の位置の情報に変換すればよい。これらの方法によって得られた圧力印加の位置に関する情報も、記録部4に記憶することができる。
【0033】
<記録部による履歴の記録と圧力印加の監視>
上記のように、電線Wへの圧力印加に伴ってセンサテープ2が変形すると、2層の被覆層22,22の間の特性インピーダンスが変化するが、圧力の除去に伴って特性インピーダンスの変化も解消される。しかし、特性インピーダンスが一旦変化したという履歴は、記録部4に記録され、蓄積される。電線Wの屈曲等に伴う電線Wへの一時的な圧力の印加は、多くの場合、即座に電線Wに損傷を発生させるものとはならないが、負荷として電線Wに蓄積されうる。よって、何度も圧力の印加が繰り返されると、電線Wの損傷や経年劣化の原因となる。例えば、電線Wを構成する導体の破断の原因となる場合がある。
【0034】
本実施形態にかかる電線圧力検知システム1においては、被覆層22,22の特性インピーダンスの変化を介して検出され、記録部4に情報として蓄積されたセンサテープ2の変形に関する履歴から、電線Wへの圧力の印加の履歴の情報を得ることができる。この履歴の情報に基づいて、電線Wへの負荷の印加を継続的に監視することが可能となる。屈曲等に伴い、電線Wに圧力が印加された際には、電線Wに負荷が印加されるが、この負荷は、小さなものであれば、電線W自体、あるいはセンサテープ2に検知可能な不可逆変化をもたらすものとはならない。よって、圧力が印加されうる環境で所定期間にわたって使用した後の電線Wやセンサテープ2に対して、電気的特性の測定等の検査を行っても、過去に負荷が印加されたか否か、あるいはどの程度の負荷が印加されたかを判別することは難しい。しかし、本実施形態にかかる電線圧力検知システム1により、電線Wに圧力による負荷が印加される度に、その履歴を記録しておくことで、経時的な負荷の印加を監視することができる。例えば、記録部4に蓄積された履歴の情報が、電線Wへの圧力の印加が、所定の基準を超える回数や強度で起こったことを示している場合には、電線Wに基準以上の負荷が蓄積されていると捉え、さらに、損傷が生じる予兆が発生しているとみなすことができる。そして、負荷の蓄積への対処として、電線Wのメンテナンスや交換等の処置を検討すればよい。すると、金属疲労による電線導体の破断等、圧力の印加による負荷の蓄積に起因した不可逆的な損傷が電線Wに起こるのを回避し、適時に対策を施すことができる。
【0035】
記録部4に特性インピーダンスの変化の履歴を残すに際し、残す履歴の形態は、特に限定されるものではない。履歴に基づいて把握したい情報に応じて、適した形態で履歴を残せばよい。圧力印加の指標として履歴に残す指標量は、被覆層22,22の特性インピーダンスの変化量そのものであっても、あるいは、特性インピーダンスの変化量を、センサテープ2または電線Wの変形量に変換した量であってもよい。ここで、センサテープ2または電線Wの変形量とは、センサテープ2や電線Wに加えられた変形の大きさを示す量であり、圧力印加による寸法の変化量(基材21の圧縮量や電線Wの圧迫変形の大きさ)、屈曲角度、屈曲の曲率等を例示することができる。寸法の変化量が大きいほど、また屈曲角度、つまり屈曲による角度の変化量が大きいほど、そして屈曲の曲率が大きいほど(曲率半径が小さいほど)、電線Wに大きな圧力が印加されていることを示す。検出部3が、電線Wに屈曲が加えられた位置に関する情報も取得している場合には、その情報も記録部4に合わせて残すとよい。
【0036】
記録部4には、上記の指標量、つまり特性インピーダンスの変化量、またはその変化量をセンサテープ2または電線Wの変形量に変換したものを、そのまま記録しても、所定の統計的処理を加えた統計値として記録してもよい。指標量をそのまま記録する形態としては、指標量が所定の閾値を超えた場合に、その指標量を、蓄積する形態が考えられる。この形態では、記録部4に、指標量の多数の値が、時系列に沿って記録されることになる。指標量の値と合わせて、それぞれの値が得られた時間の情報を記録してもよい。この形態によると、電線Wへの圧力の印加の履歴に関して詳細な情報を得ることができる反面、記録部4に記録されるデータの量が多くなるとともに、電線Wが搭載される機器の管理者等が、電線Wにどのような圧力が印加されたかに関する情報を簡便に、また明快に認識し、電線Wのメンテナンスや交換等の処置に適切につなげることが難しくなる。そこで、電線Wへの履歴の情報を簡素で明快な形で記録する方法として、指標量を統計値の形で記録する形態を採用することが好ましい。
【0037】
統計値は、指標量を所定の基準で処理して得られる量を指し、電線Wへの圧力の印加による負荷の蓄積量が大きくなるほど、大きな数値を与える量となるように、指標量に統計的処理を加えればよい。記録部4に記録すべき統計値としては、以下のものを例示することができる。
(i)指標量の積算値
(ii)指標量が、1つまたは複数の基準値のそれぞれを超えた回数
(iii)指標量が、複数の基準値のそれぞれを超えた回数を、基準値によって区画される領域ごとに重みづけし、重みづけ後の回数の和をとったもの
【0038】
上記のうち、(i)の形態は、単純に、指標量を所定の期間にわたって積算するものである。例えば、指標量が電線Wの屈曲角度である場合に、90°+150°+120°+...のように、屈曲角度の角度値を経時的に足し合わせればよい。この際、所定の時間間隔ごとに、得られた指標量を全て足し合わせる形態としても、指標量に閾値を設け、その閾値を超えた場合にのみ、得られた指標量を足し合わせる形態としてもよい。(i)の形態で得られる統計値は、圧力の印加によって電線Wに印加された負荷の総量を、よく反映するものとなる。
【0039】
上記のうち(ii)の形態は、指標量が所定の基準値を超えた回数を計数するものである。例えば、指標量が電線Wの屈曲角度であり、基準値を90°とした場合に、90°を超えて電線Wが屈曲された回数を計数する。基準値を複数設ける場合には、小さい方からi番目の基準値をTとして、指標量がTを超え、かつTi+1以下に収まっている回数を、基準値Tごとに計数すればよい(ただし、最も大きい基準値については、その基準値を超えた回数を計数する)。例えば、指標量が電線Wの屈曲角度であり、90°、120°、150°の3つの基準値を設けた場合に、電線Wの屈曲角度が90°超かつ120°以下となった回数、120°超かつ150°以下となった回数、150°超となった回数を、それぞれ独立に数えればよい。屈曲等による電線Wへの圧力の印加は、ある程度小さいものであれば、負荷として実質的に蓄積されない。しかし、圧力がある程度の大きさを超え、電線Wの構成材料に印加される応力振幅が大きくなると、材料の疲労として負荷が蓄積され、何度も印加されることで不可逆的な損傷につながる可能性が生じる。そこで、指標量に閾値を設け、その閾値を超えた回数を計数することで、電線Wの構成材料に負荷を与えうる大きさの圧力の印加を選択的に監視することができる。
【0040】
(iii)の形態は、指標量が所定の基準値を超えた際に、単純にその超えた回数を計数するのではなく、指標量の大きさに応じて重みづけしたうえで、回数を計数するものである。つまり、指標量に複数の基準値を設定するとともに、その基準値によって区画される領域ごとに、指標量の値が大きい領域ほど大きい重みづけ係数を設定しておく。そして、各領域に入る指標量が取得された回数に、対応する重みづけ係数を乗じたものを、全領域で足し合わせる。基準値をn個設ける場合に、小さい方からi番目の基準値をTとして、指標量がTを超え、かつTi+1以下に収まる領域の重みづけ係数をK、その領域の指標量が観測された回数をx回とする(ただし、i=nの場合には、指標量が基準値Tを超えた回数をx回とする)。この場合に、得られる統計値は、以下のようになる。
【数1】
例えば、指標量が電線Wの屈曲角度であり、90°、120°、150°の3つの基準値を設け、重みづけ係数を、90°超かつ120°以下の領域で1、120°超かつ150°以下の領域で2、150°超の領域で3とする場合を想定する。この場合に、観測された屈曲角度が、90°超かつ120°以下となったのが5回、120°超かつ150°以下となったのが3回、150°超となったのが1回であれば、統計値として、1×5+2×3+3×1で14との値が得られる。屈曲等によって電線Wに圧力を印加した際に、電線Wの構成材料に印加される応力振幅が大きいほど、圧力印加の回数が少なくても、材料に大きな負荷が蓄積されることになる。そこで、応力振幅の大きさと負荷印加の回数の両方を考慮して、負荷の蓄積の程度を評価するための指標として、この(iii)の形態の統計値を利用することができる。
【0041】
このように、(i)~(iii)の各統計値は、電線Wの屈曲に伴う負荷の印加を、異なる観点から監視するものであり、所望の監視形態に合わせて、少なくとも1つの形態の統計値を記録部4に記録することが好ましい。電線Wの種類や特性、電線Wが配置される環境等に応じて、着目すべき観点から電線Wを監視できるように、指標量の種類、および統計値の種類、また統計値の算出に用いる基準値や係数の大きさを選択すればよい。複数の統計値を併用することも好ましい。電線Wが複数の位置で屈曲しうる場合には、検出部3での特性インピーダンスの計測に、時間領域法または周波数領域法を採用して、電線Wにおける位置ごとに、統計値を取得し、記録部4に記憶する形態としてもよい。電線Wが搭載された機器の管理者等は、統計値が大きな数値を示しているほど、電線Wに圧力印加による大きな負荷が蓄積していると判断し、電線Wのメンテナンスや交換等の処置の指標とすればよい。
【0042】
<電線の屈曲の監視の具体例>
ここで、本開示の実施形態にかかる電線圧力検知システム1を用いて電線Wへの圧力の印加を監視する形態の一例として、屈曲角度が制限される電線Wに電線圧力検知システム1を設置する場合について説明する。ここでは、図4に示すように、電線Wが、中途部において、ブラケットBに固定されている。ブラケットBに固定された箇所を境に、一方側の領域が、運動しない固定部W1となっており、他方側の領域が、ブラケットBへの固定箇所を支点として回転運動可能な状態に支持された可動部W2となっている。可動部W2は、初期状態において、固定部W1に対して90°屈曲されており、この状態から、可動部W2は、固定部W1から離れる方向(屈曲許容方向D1)には、屈曲してもよい。しかし、屈曲許容方向D1であっても、90°を超える屈曲は、好ましくなく、回数制限の対象となっている。また、可動部W2が固定部W1に近づく方向(屈曲制限方向D2)への屈曲も好ましくなく、回数制限の対象となっている。
【0043】
ここで、固定部W1に対して可動部W2を90°曲げて立ち上げた図4に示す初期状態において、ブラケットBに固定された部位を含んで、電線Wの外周にセンサテープ2を配置しておく。この際、センサテープ2を電線Wに螺旋状に巻き付けておいてもよいが、図示した形態のように、電線Wが屈曲することが好ましくない方向の側面に、センサテープ2を軸線方向に沿わせて配置しておく形態が、好ましくない方向への屈曲を敏感に検知する意味で、より有効である。ここでは、屈曲制限方向D2に対応する電線Wの左側に、センサテープ2を配置しておくことが好ましい。
【0044】
この初期状態において、電線WがブラケットBへの固定箇所で既に屈曲されていることから、センサテープ2はある程度の変形を受けている。この状態から、電線Wが、屈曲制限方向D2への屈曲を受けることがあると、センサテープ2の変形がさらに大きくなり、特性インピーダンスの計測値が低下する。この特性インピーダンスの変化量(あるいはそれに対応するセンサテープ2または電線Wの変形量;以下でも同じ)が、上記(i)~(iii)のいずれかの規則に従って、履歴として記録部4に記録される。
【0045】
一方、電線Wが、初期状態から屈曲許容方向D1への屈曲を受けた場合には、90°まで(固定部W1に対して直線状になるまで)は、初期状態においてセンサテープ2に加えられていた変形が解消される方向となるため、特性インピーダンスの計測値の低下は実質的に起こらない。よって、屈曲許容方向D1への90°以下の屈曲では、記録部4への履歴の記録は行われない。しかし、屈曲許容方向D1への屈曲が90°を超えると、再びセンサテープ2の変形が増大する状態となる。すると、特性インピーダンスが減少することになる。この特性インピーダンスの変化量が、上記(i)~(iii)のいずれかの規則に従って、履歴として記録部4に記録される。
【0046】
このように、電線Wにおいて、屈曲制限方向D2への屈曲、および屈曲許容方向D1への90°を超える屈曲が起こると、圧力印加に伴うセンサテープ2の変形による被覆層22,22の特性インピーダンスの変化として、その屈曲の履歴が記録部4に記録される。記録された屈曲の履歴が、所定の許容レベルを超えると、例えば所定の許容屈曲回数を超えると、適宜、警報装置を通じて、電線Wが搭載された機器の管理者等に報知され、電線Wのメンテナンスや交換が促される。記録部4への履歴の記録においては、適宜、複数の閾値を設定してもよい。例えば、屈曲許容方向D1への屈曲に関し、90°を超え、100°以下の屈曲と、100°を超える屈曲とを区別し、上記(ii)の形態において独立に回数を計数する方式や、上記(iii)の形態において、後者の屈曲に大きい重みづけ係数を適用して回数を積算する方式が考えられる。
【0047】
このように、屈曲方向および屈曲角度が制限される電線Wの例として、自動車の電動ブレーキ用複合電線を例示することができる。電動ブレーキ用複合電線は、電源線と通信線を含む複数の絶縁電線を撚り合わせた芯線を有しており、その芯線の外周に、センサテープ2が配置される。そして、センサテープ2の外周に、適宜押さえ巻きテープが配置されたうえで、シースが形成される。自動車用の電線やワイヤーハーネスの中には、車両の振動や構成部材の運動、他の部材との接触等により、屈曲を受けやすく、また圧力印加による負荷の蓄積によって損傷を起こすと、自動車の機能に大きな影響を与える可能性を有するものがあり、圧力印加の監視を継続的に行うことが望まれる。電動ブレーキ用複合電線も、自動車の足回りに配置されるため、振動等による屈曲を受けやすいが、屈曲によって長期にわたって負荷が蓄積されると、導体の断線等、重大な影響を生じる可能性があり、屈曲が加えられた履歴を継続的に監視し、負荷の蓄積による影響を適切に予防できるようにすることが望ましい。
【0048】
<不可逆的な損傷の検知>
以上においては、電線Wの屈曲等による電線Wへの圧力の印加の履歴を、センサテープ2の可逆的な変形を利用して検知する形態について説明した。そのように、センサテープ2を可逆的に変形させるような圧力は、電線Wにおいて、即座に損傷を与えるものとはなりにくく、経時的な負荷の蓄積を、圧力印加の履歴によって監視している。しかし、電線Wに大きな衝撃が印加されると、電線Wに不可逆的な変化が生じ、電線Wに損傷を与える場合もある。本実施形態にかかる電線圧力検知システム1は、圧力による負荷の蓄積の監視に加え、そのような電線Wの不可逆的な変化の検知にも、利用することができる。
【0049】
電線Wに、極端な屈曲や、他の物体との衝突等により、一時に大きな衝撃が印加されると、電線Wを構成する電線導体や被覆材に、破断や亀裂等の不可逆的な損傷が発生する場合がある。この時、電線Wの外周に配置したセンサテープ2においても、被覆層22,22に、破断や亀裂等、不可逆な変形が発生する。これらの損傷が生じると、検出部3で計測している2層の被覆層22,22の間の特性インピーダンスに、変化が生じる。この特性インピーダンスの変化が生じると、上で説明した圧力印加時の基材21の弾性変形に伴う可逆的な特性インピーダンス変化とは異なり、変化した状態がそのまま維持されることになる。このような不可逆な特性インピーダンスの変化を検出することで、電線Wに、不可逆な変化が生じていることを検知できる。この際、電線圧力検知システム1から警報等を発するように構成しておき、電線Wが搭載された機器の管理者等に、早期に電線Wの状態を確認し、メンテナンスや交換等の処置を検討するように促すとよい。
【0050】
さらに、検出部3において、被覆層22,22の特性インピーダンスに加えて、インダクタンスや抵抗を計測できるように構成しておけば、被覆層22,22の不可逆的な変化を検知するのに、それらの特性の計測結果を利用することができる。電線Wが、極端な屈曲や、他の物体との衝突等により、急に大きな衝撃を受けた際に、センサテープ2にも、テープ面を引き伸ばす方向に、大きな力が印加される場合がある。この際、弾性体よりなる基材21は、その力に追随して伸長することができ、金属より構成された被覆層22,22も、基材21の伸長に追随して、引き伸ばされる場合がある。すると、被覆層22,22は、面方向に引き伸ばされたぶん、厚みが薄くなる。この被覆層22,22の引き伸ばしに伴って、被覆層22,22のインダクタンスが変化する。基本的には、インダクタンスは上昇する方向に変化する。2層の被覆層22,22の間、あるいは少なくとも一方の被覆層22とアース電位の間のインダクタンスを計測して監視しておき、インダクタンスが不可逆に変化することをもって、電線Wに不可逆的な変化が生じていることの指標とすればよい。
【0051】
電線Wにさらに大きな衝撃が突発的に印加されると、センサテープ2にも非常に大きな力が加えられる。この際、金属よりなる被覆層22,22が弾性体の伸長に追随しきれず、亀裂や破断を生じる場合がある。被覆層22,22に亀裂や破断が生じると、被覆層22,22の抵抗値が変化する。基本的には、抵抗値は上昇する方向に変化する。センサテープ2の両端部の間で、少なくとも一方の被覆層22の抵抗を計測して監視しておき、抵抗値が不可逆に変化することをもって、電線Wに大きな不可逆変化が生じていることの指標とすればよい。
【0052】
以上、本開示の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。
【符号の説明】
【0053】
1 電線圧力検知システム
2 センサテープ(センサ部)
21 基材
22 被覆層
3 検出部
4 記録部
B ブラケット
D1 屈曲許容方向
D2 屈曲制限方向
F センサテープに印加される圧力
W 電線
W1 固定部
W2 可動部
図1
図2
図3
図4