(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-21
(45)【発行日】2024-10-29
(54)【発明の名称】エレベータの磁気テープ固定装置
(51)【国際特許分類】
B66B 3/02 20060101AFI20241022BHJP
B66B 1/46 20060101ALI20241022BHJP
【FI】
B66B3/02 R
B66B1/46 B
(21)【出願番号】P 2024509610
(86)(22)【出願日】2022-03-24
(86)【国際出願番号】 JP2022014142
(87)【国際公開番号】W WO2023181300
(87)【国際公開日】2023-09-28
【審査請求日】2024-05-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003199
【氏名又は名称】弁理士法人高田・高橋国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】横井 彰敏
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 陽介
(72)【発明者】
【氏名】井上 甚
(72)【発明者】
【氏名】水田 崇聖
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 佳正
【審査官】山田 拓実
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-77546(JP,A)
【文献】国際公開第2020/115901(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2021/0078826(US,A1)
【文献】特開2015-113180(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0367323(US,A1)
【文献】特開2019-81647(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66B 1/00-3/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エレベータの昇降路内に吊設された磁気テープの中間部を固定する磁気テープ固定装置であって、
前記磁気テープは、
前記昇降路内に昇降自在に設けられた乗りかごの昇降方向に沿って予め設定された第1配列で磁極が形成された硬磁性体を有するとともに、
前記乗りかごに設けられた読取装置により、予め設定された読取側から前記硬磁性体の磁極の配列が読み取られ、
前記磁気テープ固定装置は、
前記昇降路内における前記磁気テープの前記読取側とは反対側に配置され、前記昇降路の壁面に固定された土台部と、
前記土台部に設けられ、前記昇降方向に沿って予め設定された第2配列で磁極が形成された磁石部と、を備え、
前記磁石部から発する磁力により、前記磁気テープの前記読取側とは反対側の面を吸着するエレベータの磁気テープ固定装置。
【請求項2】
前記第2配列は、前記磁気テープの前記磁石部に対向する部分における前記第1配列と同一である請求項1に記載のエレベータの磁気テープ固定装置。
【請求項3】
前記第2配列は、前記磁気テープの前記磁石部に対向する部分における前記第1配列と異なる請求項1に記載のエレベータの磁気テープ固定装置。
【請求項4】
エレベータの昇降路内に吊設された磁気テープの中間部を固定する磁気テープ固定装置であって、
前記磁気テープは、
前記昇降路内に昇降自在に設けられた乗りかごの昇降方向に沿って予め設定された第1配列で並べられた軟磁性体を有するとともに、
前記乗りかごに設けられた読取装置により、予め設定された読取側から前記軟磁性体の配列が読み取られ、
前記磁気テープ固定装置は、
前記昇降路内における前記磁気テープの前記読取側とは反対側に配置され、前記昇降路の壁面に固定された土台部と、
前記土台部に設けられ、前記昇降方向に沿って予め設定された第2配列で磁極が形成された磁石部と、を備え、
前記磁石部から発する磁力により、前記磁気テープの前記読取側とは反対側の面を吸着するエレベータの磁気テープ固定装置。
【請求項5】
前記磁石部の前記磁気テープに対向する面に設けられ、軟磁性体からなる保護板をさらに備え、
前記保護板の前記磁気テープに対向する面から発する磁力により、前記磁気テープの前記読取側とは反対側の面を吸着する請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のエレベータの磁気テープ固定装置。
【請求項6】
前記磁石部の前記磁気テープに対向する面に設けられ、非磁性体からなる保護板をさらに備え、
前記保護板の前記磁気テープに対向する面から発する磁力により、前記磁気テープの前記読取側とは反対側の面を吸着する請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のエレベータの磁気テープ固定装置。
【請求項7】
前記土台部は、軟磁性体からなる請求項1から請求項6のいずれか一項に記載のエレベータの磁気テープ固定装置。
【請求項8】
前記磁石部は、硬磁性体からなる請求項1から請求項7いずれか一項に記載のエレベータの磁気テープ固定装置。
【請求項9】
前記磁石部は、電磁石からなる請求項1から請求項7のいずれか一項に記載のエレベータの磁気テープ固定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、エレベータの磁気テープ固定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エレベータの昇降路内に固定された安定化機構であって、伸長位置と後退位置とに移動可能な伸縮部と、伸縮部に設けられ、伸縮部が伸長位置にあるときに昇降路に吊り下げられたテープを部分的に囲んで安定させるガイドと、エレベータの乗りかごに設けられ、安定化機構と係合するときに伸縮部を伸長位置から後退位置に移動させるローラーカムと、を備えたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】米国特許出願公開第2021/0078826号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に示されるような技術においては、特に伸長位置にある伸縮部が昇降路内に大きく突出しているため、地震等の大きな揺れが生じると、伸縮部に磁気テープが引っ掛かる可能性がある。また、伸縮する伸縮部と、のりかごの走行時に伸縮部を移動させるためのローラーカムという可動する機械的構成が必要であるため、走行時の騒音の原因になったり、煩雑なメンテナンスが必要であったりする。
【0005】
本開示は、このような課題を解決するためになされたものである。その目的は、昇降路内に大きく突出することなく、かつ、可動する機械的構成を必要とすることなく昇降路内の磁気テープを拘束可能であるエレベータの磁気テープ固定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示に係るエレベータの磁気テープ固定装置は、エレベータの昇降路内に吊設された磁気テープの中間部を固定する磁気テープ固定装置であって、前記磁気テープは、前記昇降路内に昇降自在に設けられた乗りかごの昇降方向に沿って予め設定された第1配列で磁極が形成された硬磁性体を有するとともに、前記乗りかごに設けられた読取装置により、予め設定された読取側から前記硬磁性体の磁極の配列が読み取られ、前記磁気テープ固定装置は、前記昇降路内における前記磁気テープの前記読取側とは反対側に配置され、前記昇降路の壁面に固定された土台部と、前記土台部に設けられ、前記昇降方向に沿って予め設定された第2配列で磁極が形成された磁石部と、を備え、前記磁石部から発する磁力により、前記磁気テープの前記読取側とは反対側の面を吸着する。
【0007】
あるいは、本開示に係るエレベータの磁気テープ固定装置は、エレベータの昇降路内に吊設された磁気テープの中間部を固定する磁気テープ固定装置であって、前記磁気テープは、前記昇降路内に昇降自在に設けられた乗りかごの昇降方向に沿って予め設定された第1配列で並べられた軟磁性体を有するとともに、前記乗りかごに設けられた読取装置により、予め設定された読取側から前記軟磁性体の配列が読み取られ、前記磁気テープ固定装置は、前記昇降路内における前記磁気テープの前記読取側とは反対側に配置され、前記昇降路の壁面に固定された土台部と、前記土台部に設けられ、前記昇降方向に沿って予め設定された第2配列で磁極が形成された磁石部と、を備え、前記磁石部から発する磁力により、前記磁気テープの前記読取側とは反対側の面を吸着する。
【発明の効果】
【0008】
本開示に係るエレベータの磁気テープ固定装置によれば、昇降路内に大きく突出することなく、かつ、可動する機械的構成を必要とすることなく昇降路内の磁気テープを拘束可能であるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施の形態1に係る磁気テープ固定装置を備えたエレベータの全体構成を模式的に示す断面図である。
【
図2】実施の形態1に係るエレベータの磁気テープ固定装置の構成を模式的に示す断面図である。
【
図3】実施の形態1に係る磁気テープ固定装置を備えたエレベータの全体構成を模式的に示す断面図である。
【
図4】実施の形態1に係るエレベータの磁気テープ固定装置の別例の構成を模式的に示す断面図である。
【
図5】実施の形態1に係るエレベータの磁気テープ固定装置における磁路の例を説明する図である。
【
図6】実施の形態2に係るエレベータの磁気テープ固定装置における磁気テープの構成を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本開示に係るエレベータの磁気テープ固定装置を実施するための形態について添付の図面を参照しながら説明する。各図において、同一又は相当する部分には同一の符号を付して、重複する説明は適宜に簡略化又は省略する。以下の説明においては便宜上、図示の状態を基準に各構造の位置関係を表現することがある。なお、本開示は以下の実施の形態に限定されることなく、本開示の趣旨を逸脱しない範囲において、各実施の形態の自由な組み合わせ、各実施の形態の任意の構成要素の変形、又は各実施の形態の任意の構成要素の省略が可能である。
【0011】
実施の形態1.
図1から
図5を参照しながら、本開示の実施の形態1について説明する。
図1及び
図3は磁気テープ固定装置を備えたエレベータの全体構成を模式的に示す断面図である。
図2はエレベータの磁気テープ固定装置の構成を模式的に示す断面図である。
図4はエレベータの磁気テープ固定装置の別例の構成を模式的に示す断面図である。
図5はエレベータの磁気テープ固定装置における磁路の例を説明する図である。
【0012】
この実施の形態に係る磁気テープ固定装置は、エレベータに設けられる。
図1に示すように、エレベータの昇降路1内には、乗りかご2が設置されている。乗りかご2は、図示しないガイドレールに案内されて昇降路1内を昇降する。乗りかご2の上端には主ロープ4の一端が連結されている。主ロープ4の他端は釣合い重り3の上端に連結されている。釣合い重り3は昇降路1内に昇降自在に設置されている。
【0013】
主ロープ4の中間部は、昇降路1の頂部に設置された巻上機5の綱車に巻き掛けられている。また、主ロープ4の中間部は、昇降路の頂部に綱車に隣接して設けられたそらせ車9にも巻き掛けられている。このようにして、乗りかご2及び釣合い重り3は、主ロープ4によって昇降路内で互いに相反する方向に昇降するつるべ式に吊るされている。すなわち、ここで説明する構成例では、エレベータは、いわゆるトラクション式のエレベータである。ただし、この実施の形態に係るエレベータは、トラクション式に限られず、巻胴式、油圧式等であってもよい。
【0014】
巻上機5は、綱車を回転させる。巻上機5が綱車を回転させると、主ロープ4と綱車との間の摩擦力により、主ロープ4が移動する。主ロープ4が移動すると、主ロープ4に吊られている乗りかご2及び釣合い重り3が昇降路内を互いに相反する方向へと昇降する。
【0015】
乗りかご2が停止可能な階のそれぞれには、乗場6が設けられている。乗場6は、エレベータの利用者が乗りかご2に対して乗降するための場所である。各階の乗場6には、扉7が設けられている。乗りかご2が停止していない階の扉7は閉じている。また、乗りかご2にも図示しない扉が設けられている。乗りかご2の走行中には、乗りかご2の扉は閉じている。乗りかご2がある階に停止すると、乗りかご2の扉と乗りかご2が停止している階の扉7とが連動して開く。これにより、乗りかご2の停止階の乗場6と乗りかご2内との行き来が可能となり、エレベータの利用者が乗りかご2に乗降する。
【0016】
この実施の形態に係るエレベータは、磁気テープ10及び読取装置30を備えている。磁気テープ10及び読取装置30は、乗りかご2の昇降路1内における位置を検出するためのものである。磁気テープ10は、昇降路1内に吊設されている。すなわち、磁気テープ10は、昇降路1内において乗りかご2の昇降方向(以下、単に「昇降方向」ともいう)に沿うようにして配設される。
【0017】
磁気テープ10の上端側は、固定金具21により昇降路1頂部の内壁に固定されている。磁気テープ10の下端側は、引っ張り機構22を介して昇降路1底部のピットに固定されている。引っ張り機構22は、例えば引きバネ等の弾性体又は重りを有している。引っ張り機構22は、弾性体又は重りにより、磁気テープ10の下端側を下方向に引く力を磁気テープ10に加えている。これにより、磁気テープ10が、たるむことなく張った状態にできる。
【0018】
図2に示すように、この実施の形態においては、磁気テープ10は、バックプレート11と硬磁性体12とを有している。バックプレート11は、例えば、ステンレス鋼製である。硬磁性体12は、バックプレート11の一側面に固着されている。硬磁性体12は、永久磁石であり、N極及びS極の磁極を有する。磁気テープ10は、硬磁性体12を備えることで、磁石(一対のN極及びS極)が昇降方向に沿って複数並べられた構造を有している。磁気テープ10における昇降方向に沿った磁極の配列は、予め設定された第1配列になっている。このようにして、磁気テープ10には、昇降方向に沿って予め設定された第1配列で磁極が形成されている。
【0019】
図1に示すように、昇降路1の頂部には、制御盤8が設置されている。制御盤8は、乗りかご2の昇降動作等を含むエレベータの運転動作全般を制御する。制御盤8の制御回路には、例えば、図示しないプロセッサ及びメモリが備えられている。制御盤8は、メモリに記憶されたプログラムをプロセッサが実行することによって予め設定された処理を実行し、エレベータを制御する。制御盤8においてメモリに記憶されたプログラムをプロセッサが実行し、制御盤8のハードウェアとソフトウェアとが協働することによって、制御盤8が備える機能が実現される。
【0020】
プロセッサは、CPU(Central Processing Unit)、中央処理装置、処理装置、演算装置、マイクロプロセッサ、マイクロコンピュータあるいはDSPともいう。メモリには、例えば、RAM、ROM、フラッシュメモリー、EPROM及びEEPROM等の不揮発性又は揮発性の半導体メモリ、あるいは、磁気ディスク、フレキシブルディスク、光ディスク、コンパクトディスク、ミニディスク及びDVD等が該当する。
【0021】
なお、制御盤8の制御回路は、例えば、専用のハードウェアとして形成されてもよい。制御盤8の制御回路の一部が専用のハードウェアとして形成され、かつ、当該制御回路にプロセッサ及びメモリが備えられていてもよい。一部が専用のハードウェアとして形成される制御回路には、例えば、単一回路、複合回路、プログラム化したプロセッサ、並列プログラム化したプロセッサ、ASIC、FPGA、又は、これらを組み合わせたものが該当する。
【0022】
乗りかご2には、読取装置30が設けられている。読取装置30は、磁気テープ10の磁極の配列を読み取る磁気センサ(図示せず)を有している。読取装置30による検出結果は、制御盤8に入力される。制御盤8は、読取装置30により読み取られた磁気テープ10の磁極配列に基づいて、乗りかご2の現在位置を特定する。
【0023】
ここで、昇降路1の長さは有限であり、磁気テープ10の長さも有限である。磁気テープ10の磁極配列すなわち前述した第1配列は、この有限長の範囲で、同じ磁極配列パターンが出現しないように設定されている。このような磁極配列は、例えば、0と1の2値からなるM系列等の擬似ランダム符号をマンチェスタ符号化して得られた配列において、0をN極及びS極の一方に、1をN極及びS極の他方にそれぞれ対応付けることで設定できる。このような第1配列を設定することで、制御盤8は、読取装置30により読み取られた磁気テープ10の磁極配列パターンから、乗りかご2の絶対位置を特定できる。制御盤8は、特定した乗りかご2の絶対位置に応じて、巻上機5等の動作を制御し、乗りかご2の昇降動作を制御する。
【0024】
読取装置30には、テープ通し部31が形成されている。テープ通し部31は、読取装置30に形成された溝又は貫通孔等である。磁気テープ10の中間部は、読取装置30のテープ通し部31に通されている。読取装置30の磁気センサは、読取装置30のテープ通し部31に通された磁気テープ10の硬磁性体12側に配置されている。読取装置30は、磁気テープ10の磁極配列を、磁気テープ10の硬磁性体12側から読み取る。以降においては、磁気テープ10の硬磁性体12側を「読取側」ともいう。このようにして、磁気テープ10は、読取装置30により、予め設定された読取側から硬磁性体12の磁極の配列が読み取られる。
【0025】
この実施の形態に係るエレベータは、固定装置100を備えている。固定装置100は、昇降路1内に吊設された磁気テープ10の中間部を固定するためのものである。固定装置100は昇降路1内に1つ又は複数設けられる。
図1に示す構成例では、昇降路1内に2つの固定装置100が設置されている。
【0026】
図2に示すように、固定装置100は、土台部101及び磁石部102を備えている。固定装置100は、昇降路1内における磁気テープ10のバックプレート11側に配置されている。磁気テープ10のバックプレート11側は、前述した読取側とは反対側である。したがって、固定装置100が備える土台部101(及び磁石部102)は、昇降路1内における磁気テープ10の読取側とは反対側に配置されている。土台部101は、昇降路1の壁面に固定されている。土台部101には、磁石部102が設けられている。磁石部102は、硬磁性体からなる永久磁石である。磁石部102は、乗りかご2の昇降方向に沿って予め設定された第2配列で磁極が形成されている。そして、固定装置100は、磁石部102から発する磁力により、磁気テープ10のバックプレート11側の面すなわち磁気テープ10の読取側とは反対側の面を吸着する。
【0027】
このようにして、固定装置100は、磁気テープ10の中間部を磁力で吸着して固定する。前述したように、磁気テープ10の中間部は、読取装置30のテープ通し部31に通されている。乗りかご2が昇降すると、乗りかご2の位置にある磁気テープ10の部分が読取装置30により読取側に引かれる。このため、乗りかご2が固定装置100の近傍にくると固定装置100の磁力に抗して磁気テープ10が読取側に引かれるため、磁気テープ10の当該部分は固定装置100の拘束から外れる。
【0028】
図1に示すのは、乗りかご2が下層階を走行中の状態である。この状態においては、昇降路1の下層側の磁気テープ10が乗りかご2の読取装置30により読取側に引かれて、昇降路1の下層側にある固定装置100による磁気テープ10の拘束が外れている。したがって、固定装置100と読取装置30とが干渉することなく、読取装置30により磁気テープ10の磁極配列を読み取ることができる。一方、昇降路1の上層側にある固定装置100により磁気テープ10は拘束されているため、磁気テープ10の揺れが抑制される。
【0029】
図3に示すのは、乗りかご2が上層階を走行中の状態である。
図1の状態から乗りかご2が上昇すると、乗りかご2が上昇するにつれて昇降路1の下層側においては磁気テープ10が次第に固定装置100に近づき、昇降路1の下層側にある固定装置100により磁気テープ10が吸着されて拘束される。一方、昇降路1の上層側においては、磁気テープ10が乗りかご2の読取装置30により読取側に引かれて、昇降路1の上層側にある固定装置100による磁気テープ10の拘束が外れる。したがって、固定装置100と読取装置30とが干渉することなく、読取装置30により磁気テープ10の磁極配列を読み取ることができる。
【0030】
以上のように、この実施の形態に係るエレベータの磁気テープ固定装置によれば、可動する機械的構成を必要とすることなく、乗りかご2の昇降に応じて固定装置100による磁気テープ10の拘束と開放とが行われる。このため、乗りかご2の走行時における騒音を抑制できるとともに、メンテナンスも容易である。また、固定装置100は昇降路1内に固定されているため、例えば、磁気テープ10を昇降路1の内壁に十分近づけて配置することができ、固定装置100を昇降路1内に大きく突出させる必要もない。このため、地震等の大きな揺れが生じても、固定装置100に磁気テープ10が引っ掛かってしまうことを抑制できる。
【0031】
図2に示すように、固定装置100は、保護板111をさらに備えてもよい。保護板111は、磁石部102の磁気テープ10に対向する面を覆うようにして設けられている。保護板111は、軟磁性体又は非磁性体である。磁石部102から発する磁力は、保護板111を貫通して磁気テープ10に作用する。したがって、固定装置100は、保護板111の磁気テープ10に対向する面から発する磁力により、磁気テープ10のバックプレート11側の面すなわち磁気テープ10の読取側とは反対側の面を吸着する。このような保護板111を備えることで、固定装置100が磁気テープ10を吸着する際における磁石部102及びバックプレート11の損傷等を抑制できる。
【0032】
固定装置100の磁石部102の磁極配列である第2配列は、当該磁石部102に対向する部分における、磁気テープ10の磁極配列である第1配列と同一であってもよいし、異なっていてもよい。以降においては、冗長な表現を避けるため、固定装置100の磁石部102に対向する部分における、磁気テープ10の磁極配列である第1配列を、単に磁気テープ10の第1配列ともいう。なお、磁気テープ10の第1配列とは、磁気テープ10の読取側に現れる磁極の配列を指している。また、固定装置100の第2配列とは、固定装置100の磁気テープ10側に現れる磁極の配列を指している。
【0033】
図2に示すのは、固定装置100の第2配列が、磁気テープ10の第1配列と同じ場合の例である。固定装置100の第2配列と磁気テープ10の第1配列とを同一にすることで、固定装置100と磁気テープ10とで異なる磁極同士が対向するようにすることができる。このため、固定装置100による磁気テープ10の吸着力を容易に強くすることが可能であり、より確実に磁気テープ10の中間部を固定装置100で固定できる。
【0034】
一方、前述したように、磁気テープ10の第1配列は、昇降方向において同一の磁極配列パターンが存在しないように設定される。このため、固定装置100の第2配列と磁気テープ10の第1配列とを同一にするには、昇降方向における固定装置100の位置に応じて、固定装置100の第2配列を異なるものにしなくてはならない。特に、エレベータの設置現場において固定装置100の位置を調節する必要が生じる可能性も鑑みると、固定装置100の第2配列を固定装置100の工場出荷時等に予め設定しておくことは難しい。このため、エレベータの設置現場で、固定装置100の位置に応じた磁気テープ10の第1配列を読み取って固定装置100の第2配列を設定しなければならない。
【0035】
そこで、固定装置100の第2配列を、磁気テープ10の第1配列と異なるものにしてもよい。
図4に示すのは、固定装置100の第2配列が、磁気テープ10の第1配列と異なる場合の例である。固定装置100の第2配列を、磁気テープ10の第1配列と異なるものにすることで、昇降方向における固定装置100の位置によらずに、固定装置100の第2配列を同一にできる。このため、固定装置100の第2配列を固定装置100の工場出荷時等に予め設定しておくことが可能であり、エレベータの設置現場で固定装置100の第2配列を設定する必要がない。
【0036】
ただし、固定装置100の第2配列を、磁気テープ10の第1配列と異なるものにした場合、一部において固定装置100と磁気テープ10とで同一の磁極同士が対向することが起こり得る。一部において同一の磁極同士が対向すると、当該磁極同士では反発するため、固定装置100による磁気テープ10の吸着力が弱くなるおそれがある。
【0037】
そこで、固定装置100の第2配列を、磁気テープ10の第1配列と異なるものにする場合、保護板111を軟磁性体にするとよい。
図5に示すのは、軟磁性体の保護板111を備え、かつ、第2配列を昇降方向においてN極とS極とが交互に配置されるものにした場合の例である。同図に示すように、固定装置100と磁気テープ10とで同一の磁極同士が対向する部分において、磁石部102からの磁路が軟磁性体である保護板111を通る閉回路になる。このため、固定装置100の磁石部102と磁気テープ10の硬磁性体12との間で生じる反発力を低減し、固定装置100が磁気テープ10を吸着する力の低下を抑制できる。
【0038】
固定装置100の磁石部102の数、大きさ、第2配列等は、固定装置100により磁気テープ10の中間部を適切に拘束するために必要な吸着力を見積もることで決定できる。固定装置100により磁気テープ10の中間部を適切に拘束するために必要な吸着力は、磁気テープ10に掛かる張力及び磁気テープ10に生じる振動等の条件により変化する。磁気テープ10の張力、振動等に係る条件としては、例えば、以下の項目を挙げることができる。
【0039】
・読取装置30が磁気テープ10を前述した読取側に引く量
・磁気テープ10の自重
・磁気テープ10の温度特性
・昇降路1内における固定装置100の位置
・乗りかご2の位置(乗りかご2の昇降範囲)
・引っ張り機構22が弾性体を有する場合、その弾性体の形状(長さ)
・引っ張り機構22が弾性体を有する場合、その弾性体の温度特性
・引っ張り機構22が重りを有する場合、その重りの重量
・磁気テープ10とエレベータが設置された建屋との共振
・地震による磁気テープ10の振動
・風による磁気テープ10の振動
・乗りかご2の昇降による磁気テープ10の振動
【0040】
なお、固定装置100の土台部101は、非磁性体であっても軟磁性体であってもよい。土台部101を軟磁性体にすることで、磁石部102からの磁路が軟磁性体である土台部101を通るようにでき、磁束密度を大きくすることが可能である。このため、固定装置100が磁気テープ10を吸着する力を向上できる。
【0041】
また、固定装置100の磁石部102を永久磁石でなく電磁石にしてもよい。この場合、制御盤8は電磁石である磁石部102への通電を制御する。制御盤8は、例えば、固定装置100に乗りかご2が近づいたら磁石部102への通電を停止し、乗りかご2が固定装置100を通過したら磁石部102への通電を開始する。このようにすることで、固定装置100による磁気テープ10の吸着と開放を円滑に行うことができる。また、電磁石である磁石部102への通電方向を切り替えることで、磁石部102の極性及び第2配列を変更できる。これにより、磁気テープ10の磁極配列(第1配列)に合わせて磁石部102の磁極配列及び吸引力を容易に設定可能である。
【0042】
実施の形態2.
図6を参照しながら、本開示の実施の形態2について説明する。
図6は、エレベータの磁気テープ固定装置における磁気テープの構成を模式的に示す断面図である。
【0043】
ここで説明する実施の形態2は、前述した実施の形態1の構成において、磁気テープ10が硬磁性体12に代えて軟磁性体13を有するようにしたものである。以下、この実施の形態2に係るエレベータの磁気テープ固定装置について、実施の形態1との相違点を中心に説明する。説明を省略した構成については実施の形態1と基本的に同様である。以降の説明においては、実施の形態1と同様の又は対応する構成について、原則として実施の形態1の説明で用いたものと同じ符号を付して記載する。
【0044】
この実施の形態に係るエレベータの磁気テープ固定装置においては、
図6に示すように、磁気テープ10はバックプレート11と軟磁性体13とを備えている。バックプレート11は、実施の形態1と同様に、例えば、ステンレス鋼製である。軟磁性体13は、バックプレート11の前述した読取側の面に固着されている。軟磁性体13は昇降方向に沿って上端から下端まで連続して並べられているのではなく、バックプレート11の読取側の面には、軟磁性体13が存在しない空隙部14が形成されている。磁気テープ10における昇降方向に沿った軟磁性体13及び空隙部14の配列は、前述した第1配列になっている。このようにして、磁気テープ10には、昇降方向に沿って予め設定された第1配列で軟磁性体13が配置されている。
【0045】
昇降路1の長さは有限であり、磁気テープ10の長さも有限である。磁気テープ10の軟磁性体13の磁極配列すなわち前述した第1配列は、この有限長の範囲で、同じ配列パターンが出現しないように設定されている。このような配列は、例えば、0と1の2値からなるM系列等の擬似ランダム符号をマンチェスタ符号化して得られた配列において、0を軟磁性体13及び空隙部14の一方に、1を軟磁性体13及び空隙部14の他方にそれぞれ対応付けることで設定できる。
【0046】
この実施の形態においては、読取装置30は、磁気テープ10の軟磁性体13の有無を検出可能な図示しないセンサを備えている。読取装置30は、磁気テープ10の軟磁性体13及び空隙部14の配列を読み取ることができる。読取装置30による検出結果は、制御盤8に入力される。制御盤8は、読取装置30により読み取られた磁気テープ10の軟磁性体13及び空隙部14の配列に基づいて、乗りかご2の現在の絶対位置を特定する。そして、制御盤8は、特定した乗りかご2の絶対位置に応じて、巻上機5等の動作を制御し、乗りかご2の昇降動作を制御する。
【0047】
この実施の形態における固定装置100の構成は、実施の形態1と同様である。すなわち、固定装置100は、昇降路1内に吊設された磁気テープ10の中間部を固定するためのものである。固定装置100は昇降路1内に1つ又は複数設けられる。実施の形態1で参照した
図2、4、5等に示すように、固定装置100は、土台部101及び磁石部102を備えている。固定装置100は、昇降路1内における磁気テープ10のバックプレート11側に配置されている。土台部101は、昇降路1の壁面に固定されている。土台部101は、軟磁性体又は非磁性体である。土台部101には、磁石部102が設けられている。磁石部102は、硬磁性体からなる永久磁石又は電磁石である。磁石部102は、乗りかご2の昇降方向に沿って予め設定された第2配列で磁極が形成されている。
【0048】
磁石部102から発する磁力により、磁気テープ10の軟磁性体13が吸引される。このため、固定装置100は、磁石部102から発する磁力により、磁気テープ10のバックプレート11側の面すなわち磁気テープ10の読取側とは反対側の面を吸着可能である。
【0049】
固定装置100の磁石部102の磁極配列である第2配列は、当該磁石部102に対向する部分における、磁気テープ10の磁極配列である第1配列と同一であってもよいし、異なっていてもよい。磁気テープ10の軟磁性体13は固定された磁極を有さないため、磁石部102の磁極配列(第2配列)がどのような配列であっても、固定装置100で磁気テープ10を吸着して拘束できる。
【0050】
以上のように構成されたエレベータの磁気テープ固定装置においても、実施の形態1と同様の効果を奏することができる。すなわち、磁力により磁気テープ10の中間部を吸着して拘束することで、磁気テープ10の振動等を抑制できる。この際、可動する機械的構成を必要とすることなく、乗りかご2の昇降に応じて固定装置100による磁気テープ10の拘束と開放とが行われる。このため、乗りかご2の走行時における騒音を抑制できるとともに、メンテナンスも容易である。また、固定装置100を昇降路1内に大きく突出させる必要がなく、固定装置100に磁気テープ10が引っ掛かってしまうことを抑制できる。
【0051】
なお、固定装置100は、保護板111をさらに備えてもよい。保護板111は、磁石部102の磁気テープ10に対向する面を覆うようにして設けられている。保護板111は、軟磁性体又は非磁性体である。磁石部102から発する磁力は、保護板111を貫通して磁気テープ10に作用する。したがって、固定装置100は、保護板111の磁気テープ10に対向する面から発する磁力により、磁気テープ10のバックプレート11側の面すなわち磁気テープ10の読取側とは反対側の面を吸着する。このような保護板111を備えることで、固定装置100が磁気テープ10を吸着する際における磁石部102及びバックプレート11の損傷等を抑制できる。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本開示は、エレベータの昇降路内に吊設された磁気テープの中間部を固定する磁気テープ固定装置に利用できる。
【符号の説明】
【0053】
1 昇降路
2 乗りかご
3 釣合い重り
4 主ロープ
5 巻上機
6 乗場
7 扉
8 制御盤
9 そらせ車
10 磁気テープ
11 バックプレート
12 硬磁性体
13 軟磁性体
14 空隙部
21 固定金具
22 引っ張り機構
30 読取装置
31 テープ通し部
100 固定装置
101 土台部
102 磁石部
111 保護板