(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-21
(45)【発行日】2024-10-29
(54)【発明の名称】櫛板の破損検出装置
(51)【国際特許分類】
B66B 29/06 20060101AFI20241022BHJP
【FI】
B66B29/06 A
(21)【出願番号】P 2024510577
(86)(22)【出願日】2022-03-28
(86)【国際出願番号】 JP2022014935
(87)【国際公開番号】W WO2023187884
(87)【国際公開日】2023-10-05
【審査請求日】2024-05-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000236056
【氏名又は名称】三菱電機ビルソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003199
【氏名又は名称】弁理士法人高田・高橋国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】和田 敏裕
(72)【発明者】
【氏名】小林 翔一
(72)【発明者】
【氏名】辻田 亘
【審査官】山田 拓実
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-131691(JP,A)
【文献】特開2009-96581(JP,A)
【文献】特開2015-178415(JP,A)
【文献】特開昭63-272772(JP,A)
【文献】特開2009-84012(JP,A)
【文献】国際公開第2016/173770(WO,A1)
【文献】独国特許出願公開第10259149(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66B 21/00-31/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
左右方向に並んで配置された複数の櫛歯を有する櫛板
を含む乗客コンベアに適用され、
絶縁体からなり、ステップの上面に取り付けられ、前後方向に沿って互いに平行になるように左右方向に並んで設けられた複数の溝部を有し、循環移動する前記ステップが前記櫛板を前後方向に通過するときに前記複数の溝部の各々を前記複数の櫛歯のいずれかが通るクリート部と、
前記複数の溝部の各々に配置され、配置された溝部において左右方向に互いに対向するように溝壁に配置された複数の電極対と、
前記複数の溝部の各々に配置された電極対の間の静電容量を計測する計測部と、
前記ステップが前記櫛板を通過する間に前記複数の溝部のいずれかに配置された電極対について前記計測部の計測する静電容量の変化量が予め設定された閾値より小さいときに、前記複数の櫛歯のうち当該溝部を通過する櫛歯の破損を検出する検出部と、
を備える、櫛板の破損検出装置。
【請求項2】
前記複数の溝部の少なくともいずれかについて、当該溝部に配置された電極対は、当該溝部に隣接する溝部に配置された電極対と前後方向において互いにずれた位置に配置される、
請求項1に記載の櫛板の破損検出装置。
【請求項3】
前記複数の溝部のうち互いに隣接する第1溝部および第2溝部について、
前記第1溝部に配置された電極対のうちの前記第2溝部に近い側の電極、および前記第2溝部に配置された電極対のうちの前記第1溝部に近い側の電極は互いに電気的に接続され、
前記第1溝部に配置された電極対のうちの前記第2溝部から遠い側の電極、および前記第2溝部に配置された電極対のうちの前記第1溝部から遠い側の電極は電気的に接地され、
前記計測部は、前記第1溝部に配置された電極対の間の静電容量および前記第2溝部に配置された電極対の間の静電容量の和を計測し、
前記検出部は、前記ステップが前記櫛板を通過する間に前記計測部の計測する前記第1溝部に配置された電極対の間の静電容量および前記第2溝部に配置された電極対の間の静電容量の和の変化量が予め設定された閾値より小さいときに、前記第1溝部または前記第2溝部を通過する櫛歯の破損を検出する、
請求項1に記載の櫛板の破損検出装置。
【請求項4】
循環移動する前記ステップが前記櫛板に接近していることを検知する接近検知部
を備え、
前記計測部は、前記接近検知部が接近を検知していないときに、静電容量を計測する処理を行わず、
前記検出部は、前記接近検知部が接近を検知していないときに、前記複数の櫛歯のいずれかの破損を検出する処理を行わない、
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の櫛板の破損検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、乗客コンベアの櫛板の破損検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、乗客コンベアに適用される非接触式の櫛板の破損検出装置の例を開示する。乗客コンベアのステップは、クリート面を有する。クリート面において、複数の溝が形成される。櫛板は、クリート面のいずれかの溝を通る複数の櫛歯を有する。破損検出装置は、クリート面の溝ごとに配置された光センサを備える。光センサは、上方に向かって光を照射する。光センサは、照射した光が溝を通る櫛歯に当たって反射するときに光信号を出力する。いずれかの櫛歯に対応する光センサが光信号を出力しないときに、櫛板の破損が検出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、乗客コンベアのステップにおいて、例えば埃または付着物などによる汚れが生じうる。特許文献1の破損検出装置において、このような汚れで光センサが覆われることなどにより、櫛板の破損が検出されなくなる可能性がある。
【0005】
本開示は、このような課題の解決に係るものである。本開示は、ステップの汚れの影響を受けにくい非接触式の櫛板の破損検出装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示に係る櫛板の破損検出装置は、左右方向に並んで配置された複数の櫛歯を有する櫛板を含む乗客コンベアに適用され、絶縁体からなり、ステップの上面に取り付けられ、前後方向に沿って互いに平行になるように左右方向に並んで設けられた複数の溝部を有し、循環移動する前記ステップが前記櫛板を前後方向に通過するときに前記複数の溝部の各々を前記複数の櫛歯のいずれかが通るクリート部と、前記複数の溝部の各々に配置され、配置された溝部において左右方向に互いに対向するように溝壁に配置された複数の電極対と、前記複数の溝部の各々に配置された電極対の間の静電容量を計測する計測部と、前記ステップが前記櫛板を通過する間に前記複数の溝部のいずれかに配置された電極対について前記計測部の計測する静電容量の変化が予め設定された閾値より小さいときに、前記複数の櫛歯のうち当該溝部を通過する櫛歯の破損を検出する検出部と、を備える。
【発明の効果】
【0007】
本開示に係る櫛板の破損検出装置であれば、ステップの汚れの影響を受けにくくなる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施の形態1に係る乗客コンベアの構成図である。
【
図2A】実施の形態1に係る破損検出装置の構成図である。
【
図2B】実施の形態1に係る破損検出装置の構成図である。
【
図3A】実施の形態1に係る破損検出装置による破損の検出の例を示す図である。
【
図3B】実施の形態1に係る破損検出装置による破損の検出の例を示す図である。
【
図4】実施の形態1に係る破損検出装置の主要部のハードウェア構成図である。
【
図5】実施の形態2に係る破損検出装置の構成図である。
【
図6】実施の形態3に係る破損検出装置の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本開示の対象を実施するための形態について添付の図面を参照しながら説明する。各図において、同一または相当する部分には同一の符号を付して、重複する説明は適宜に簡略化または省略する。なお、本開示の対象は以下の実施の形態に限定されることなく、本開示の趣旨を逸脱しない範囲において、実施の形態の任意の構成要素の変形、または実施の形態の任意の構成要素の省略が可能である。
【0010】
実施の形態1.
図1は、実施の形態1に係る乗客コンベア1の構成図である。
【0011】
乗客コンベア1は、利用者を乗せて輸送する装置である。乗客コンベア1は、例えばエスカレーターである。この例において、乗客コンベア1は、複数の階床を有する建物に適用される。乗客コンベア1は、建物の上階および下階の間において掛け渡される。このとき、乗客コンベア1は、上階および下階の間で利用者を輸送する。施設の上階側および下階側において、乗客コンベア1の乗降口2が設けられる。乗降口2は、利用者が乗客コンベア1から乗降する場所である。一方の乗降口2は、利用者が乗客コンベア1に乗り込む出発側の乗降口2である。他方の乗降口2は、利用者が乗客コンベア1から降りる到着側の乗降口2である。各々の乗降口2において、乗客コンベア1の床板3が配置される。床板3における乗客コンベア1の中央側の端部に、櫛板4が設けられる。
【0012】
乗客コンベア1は、駆動装置5と、複数のステップ6と、一対の移動手摺7と、を備える。
【0013】
駆動装置5は、駆動力を発生させる装置である。駆動装置5は、例えばモータなどである。
【0014】
各々のステップ6は、駆動装置5が発生させる駆動力によって循環移動する機器である。各々のステップ6は、出発側の乗降口2から到着側の乗降口2まで往路を移動し、到着側の乗降口2から出発側の乗降口2まで往路より下方の帰路を移動する。各々のステップ6は、乗降口2において前後方向に移動して床板3の下方を通過する。出発側の乗降口2において、各々のステップ6は、床板3の下方から往路に出る。到着側の乗降口2において、各々のステップ6は、往路から床板3の下方に潜り込む。このとき、各々のステップ6は、櫛板4を前後方向に通過する。櫛板4は、ステップ6が床板3の下方に潜り込むときに当該ステップ6上の異物などが引き込まれることを防ぐ機器である。複数のステップ6は、往路において階段状に配置される。
【0015】
各々の移動手摺7は、駆動装置5が発生させる駆動力によって循環移動する機器である。各々の移動手摺7は、出発側の乗降口2から到着側の乗降口2まで往路を移動し、到着側の乗降口2から出発側の乗降口2まで往路より下方の帰路を移動する。各々の移動手摺7は、可撓性を有する環状の部材からなる。一方の移動手摺7は、複数のステップ6の左側に配置される。他方の移動手摺7は、複数のステップ6の右側に配置される。
【0016】
通常運転において、乗客コンベア1は、例えば一方の移動手摺7を掴みながらいずれかのステップ6の上に立ち止まっている利用者を、駆動装置5が発生させる駆動力によって輸送する。このとき、各々のステップ6は、例えば予め設定された通常速度で移動する。各々の移動手摺7は、各々のステップ6に合わせた移動速度で循環移動する。
【0017】
乗客コンベア1において、櫛板4の破損を検出する破損検出装置8が適用される。
【0018】
図2は、実施の形態1に係る破損検出装置8の構成図である。
図2Aにおいて、左右方向に垂直な鉛直面による乗降口2の断面図が示される。
図2Bにおいて、前後方向に垂直な鉛直面による破損検出装置8の断面図が示される。
ここで、左右方向とは前後方向に垂直な方向、かつ鉛直方向に垂直な方向である。
【0019】
各々のステップ6の上面において、クリート面9が形成される。クリート面9において、複数の溝が設けられる。複数の溝は、前後方向に沿って互いに平行になるように設けられる。複数の溝は、左右方向に並んで設けられる。
【0020】
乗客コンベア1の床板3は、乗降口2のフレーム10に支持される。フレーム10は、乗客コンベア1が適用される建物に固定されている。このため、乗客コンベア1の床板3は、先端に配置される櫛板4とともに建物に固定されている。櫛板4は、複数の櫛歯11を有する。各々の櫛歯11は、例えば、比誘電率の大きな材料で形成される。あるいは、各々の櫛歯11は、導電体で形成されてもよい。また、各々の櫛歯11は、導電体で被覆されていてもよい。複数の櫛歯11は、左右方向に並んで配置される。各々の櫛歯11は、ステップ6の上面のクリート面9に設けられたいずれかの溝に対応する。各々の櫛歯11は、ステップ6が櫛板4を前後方向に通過するときに、当該ステップ6のクリート面9において対応する溝を通るように配置される。各々の櫛歯11は、先端から根本に向かうにつれてクリート面9から離れるように傾いて配置されているので、ステップ6が床板3の下方に潜り込むときに当該ステップ6上の異物が櫛歯11によって掬い上げられることで引き込みが防がれる。
【0021】
破損検出装置8は、クリート部12と、複数の電極対13と、蓄電池14と、接近検知部15と、計測部16と、検出部17と、通信部18と、を備える。破損検出装置8は、少なくともいずれかのステップ6に搭載される。破損検出装置8は、1つのみのステップ6に搭載されていてもよい。あるいは、破損検出装置8は、全てのステップ6に搭載されていてもよい。
【0022】
クリート部12は、絶縁体からなる。クリート部12は、ステップ6の上面に取り付けられる。クリート部12において、複数の溝部19が設けられる。複数の溝部19は、前後方向に沿って互いに平行になるように設けられる。複数の溝部19は、左右方向に並んで設けられる。クリート部12の隣り合う溝部19の間において、凸部20が設けられる。クリート部12の複数の溝部19は、ステップ6の上面のクリート面9の複数の溝と1対1で対応するように配置される。ステップ6のクリート面9および破損検出装置8のクリート部12において、対応する溝および溝部19の左右方向の位置は、互いに一致している。このため、櫛板4の各々の櫛歯11は、ステップ6が櫛板4を前後方向に通過するときに、当該ステップ6のクリート面9の溝と同様にクリート部12の溝部19を通過する。
【0023】
蓄電池14は、電力を蓄積する部分である。蓄電池14は、蓄積している電力を、破損検出装置8の各部分に供給する。
【0024】
接近検知部15は、破損検出装置8の搭載されたステップ6が櫛板4に接近していることを検知する機能を搭載する部分である。接近検知部15は、例えば、ステップ6の移動方向を検出するモーションセンサなどを含んでもよい。このとき、例えば、ステップ6の移動方向が斜め方向から水平面内の前後方向になったときに、接近検知部15は、ステップ6が櫛板4に接近していることを検知する。あるいは、接近検知部15は、例えば、乗降口2に配置された磁石を検知する磁気センサなどを含んでもよい。あるいは、接近検知部15は、例えば、乗降口2に配置された無線ビーコンまたはRFID(Radio Frequency IDentifier)などの無線信号を受信する受信機などを含んでもよい。あるいは、乗降口2に非接触給電装置が配置されている場合に、接近検知部15は、非接触給電装置から電力の供給を受ける受電装置を含んでもよい。このとき、例えば、接近検知部15は、受電装置が電力の供給を非接触で受けているときにステップ6が櫛板4に接近していることを検知する。
【0025】
複数の電極対13は、クリート部12の複数の溝部19に1対1で対応する。各々の電極対13は、クリート部12の対応する溝部19に配置される。この例において、各々の電極対13は、一対の電極板21からなる。各々の電極対13は、対応する溝部19において、一対の電極板21が左右方向に互いに対向するように配置される。各々の電極板21は、溝壁に配置される。一対の電極板21は、互いに平行に配置される。
【0026】
計測部16は、各々の電極対13の間の静電容量を計測する機能を搭載する部分である。計測部16は、例えば交流インピーダンスを測定する回路を含んでもよい。あるいは、計測部16は、計測対象の静電容量とインダクタとで共振回路を構成し、その共振周波数を測定する回路を含んでもよい。
【0027】
検出部17は、計測部16による静電容量の計測結果に基づいて、櫛板4の破損を検出する機能を搭載する部分である。検出部17は、櫛板4の破損を検出するときに、検出結果を通信部18に出力する。
【0028】
通信部18は、破損検出装置8の外部の機器または装置などの間との通信を行う機能を搭載する部分である。通信部18は、例えば無線通信などによって情報を通信する。通信部18は、例えば、乗客コンベア1の図示されない制御盤などとの間で情報を通信する。通信部18は、検出部17が櫛板4の破損を検出するときに、検出結果を例えば乗客コンベア1の制御盤などに出力する。
【0029】
続いて、
図3を用いて、検出部17による破損の検出の例を説明する。
図3は、実施の形態1に係る破損検出装置8による破損の検出の例を示す図である。
【0030】
図3Aにおいて、櫛歯11が溝部19を通っていないときの状態の例が示される。このとき、空気の誘電率をε
a、電極対13における電極板21の間隔をd、各々の電極板21の面積をAとすると、電極対13の間の静電容量C
0は、次の式(1)で表される。
【0031】
【0032】
一方、
図3Bにおいて、櫛歯11が溝部19を通っているときの状態の例が示される。このとき、櫛歯11の厚みをκd、櫛歯11の誘電率をε
fとすると、電極対13の間の静電容量C
fは、次の式(2)で表される。なお、櫛歯11は溝部19を非接触で通るので、係数κは0<κ<1の条件を満たす。
【0033】
【0034】
ここで、例えば、櫛歯11の厚みが溝部19の幅の半分であり(κ=1/2)、櫛歯11の比誘電率が2である場合に、空気の比誘電率は約1であるから、櫛歯11が溝部19を通っているときの電極対13の間の静電容量Cfは、次の式(3)で近似される。
【0035】
【0036】
このように、櫛歯11が溝部19を通っているか否かによって、電極対13の間の静電容量は有意に変化する。このため、破損検出装置8が搭載されたステップ6が櫛板4を前後方向に通過する間に計測部16が計測している静電容量の変化がないときに、検出部17は、当該溝部19を通る櫛歯11の破損を検出する。検出部17は、例えば、計測部16が計測する静電容量の変化が予め設定された閾値より小さいときに、静電容量の変化がないと判定する。当該閾値は、例えば、計測誤差などの範囲で式(1)および式(2)の間の静電容量の変化を判定可能な値に設定される。検出部17は、例えば、複数の電極対13のうちのいずれかのみに静電容量の変化がなく、かつ、その他の電極対13に静電容量の変化がある場合に、静電容量の変化がなかった電極対13が配置された溝部19を通る櫛歯11が破損していたと判定する。このとき、検出部17は、他の電極対13の静電容量の変化を検出することによって、ステップ6が櫛板4を前後方向に通過するタイミングを検出している。
【0037】
検出部17は、他の方法によってステップ6が櫛板4を前後方向に通過するタイミングを検出してもよい。検出部17は、例えば、接近検知部15がステップ6の櫛板4への接近を検知しているときを、当該ステップ6の櫛板4を前後方向に通過するタイミングとしてもよい。
【0038】
なお、櫛歯11に部分的な破損がある場合に、例えば櫛歯11の実効的な厚みなどが変動しうる。このため、破損した櫛歯11が溝部19を通るときの静電容量の変化量は、破損していない櫛歯11が溝部19を通るときの静電容量の変化量より小さくなることがある。検出部17において、このような部分的な破損を検出しうるような変化量の閾値が設定されていてもよい。すなわち、検出部17は、静電容量が変化した場合であっても、その変化量が十分大きくない場合に、櫛歯11の部分的な破損を検出してもよい。
【0039】
以上に説明したように、実施の形態1に係る破損検出装置8は、櫛板4を含む乗客コンベア1に適用される。櫛板4は、左右方向に並んで配置された複数の櫛歯11を有する。破損検出装置8は、クリート部12と、複数の電極対13と、計測部16と、検出部17と、を備える。クリート部12は、絶縁体からなる。クリート部12は、ステップ6の上面に取り付けられる。クリート部12は、前後方向に沿って互いに平行になるように左右方向に並んで設けられた複数の溝部19を有する。クリート部12において、循環移動するステップ6が櫛板4を前後方向に通過するときに、各々の溝部19をいずれかの櫛歯11が通る。電極対13は、各々の溝部19に配置される。電極対13は、溝部19において左右方向に互いに対向するように溝壁に配置される。計測部16は、各々の溝部19に配置された電極対13の間の静電容量を計測する。検出部17は、ステップ6が櫛板4を通過する間にいずれかの溝部19に配置された電極対13について計測部16の計測する静電容量の変化が予め設定された閾値より小さいときに、当該溝部19を通過する櫛歯11の破損を検出する。
【0040】
このような構成により、空気に対する櫛歯11の比誘電率の違いを利用するので、埃または付着物などの体積の小さい不透明な異物による汚れがある場合であっても、櫛歯11の破損が検出されるようになる。また、静電容量の変化量を観測することで、櫛歯11の破損の程度を検出できるようになる。また、櫛歯11の破損を非接触で検出するので、櫛歯11に接触する部分による摩耗などの影響を抑えることができる。また、櫛歯11を比誘電率の大きな材料で形成することで、櫛歯11が溝部19を通過するか否かによる静電容量の変化量が大きくなるので、検出感度をより高めることができるようになる。同様に、櫛歯11を導電体で形成すること、または櫛歯11を導電体で被覆することなどによっても、検出感度が高められるようになる。
【0041】
なお、破損検出装置8は、接近検知部15を備えてもよい。接近検知部15は、循環移動するステップ6が櫛板4に接近していることを検知する。このとき、計測部16は、接近検知部15が接近を検知しているときに静電容量を計測する処理を行い、接近検知部15が接近を検知していないときに静電容量を計測する処理を行わないようにしてもよい。また、検出部17は、接近検知部15が接近を検知しているときに櫛歯11の破損を検出する処理を行い、接近検知部15が接近を検知していないときに櫛歯11の破損を検出する処理を行わないようにしてもよい。
【0042】
このような構成により、破損検出装置8が継続して稼働し続ける場合より、破損検出装置8において消費される電力が低減される。このため、蓄電池14などに蓄積されている電力が節約される。これにより、破損検出装置8がより長期間稼働できるようになる。また、蓄電池14の容量を低減できる場合に、破損検出装置8をよりコンパクトに構成しうる。
【0043】
また、クリート部12は、ステップ6の上面の踏み板と一体であってもよい。
【0044】
また、乗客コンベア1は、エスカレーターでなくてもよい。乗客コンベア1は、例えば水平式または傾斜式の動く歩道などであってもよい。
【0045】
続いて、
図4を用いて、破損検出装置8のハードウェア構成の例について説明する。
図4は、実施の形態1に係る破損検出装置8の主要部のハードウェア構成図である。
【0046】
破損検出装置8の各機能は、処理回路により実現し得る。処理回路は、少なくとも1つのプロセッサ100aと少なくとも1つのメモリ100bとを備える。処理回路は、プロセッサ100aおよびメモリ100bと共に、あるいはそれらの代用として、少なくとも1つの専用ハードウェア200を備えてもよい。
【0047】
処理回路がプロセッサ100aとメモリ100bとを備える場合、破損検出装置8の各機能は、ソフトウェア、ファームウェア、またはソフトウェアとファームウェアとの組み合わせで実現される。ソフトウェアおよびファームウェアの少なくとも一方は、プログラムとして記述される。そのプログラムはメモリ100bに格納される。プロセッサ100aは、メモリ100bに記憶されたプログラムを読み出して実行することにより、破損検出装置8の各機能を実現する。
【0048】
プロセッサ100aは、CPU(Central Processing Unit)、処理装置、演算装置、マイクロプロセッサ、マイクロコンピュータ、DSPともいう。メモリ100bは、例えば、RAM、ROM、フラッシュメモリ、EPROM、EEPROMなどの、不揮発性または揮発性の半導体メモリなどにより構成される。
【0049】
処理回路が専用ハードウェア200を備える場合、処理回路は、例えば、単一回路、複合回路、プログラム化したプロセッサ、並列プログラム化したプロセッサ、ASIC、FPGA、またはこれらの組み合わせで実現される。
【0050】
破損検出装置8の各機能は、それぞれ処理回路で実現することができる。あるいは、破損検出装置8の各機能は、まとめて処理回路で実現することもできる。破損検出装置8の各機能について、一部を専用ハードウェア200で実現し、他部をソフトウェアまたはファームウェアで実現してもよい。このように、処理回路は、専用ハードウェア200、ソフトウェア、ファームウェア、またはこれらの組み合わせで破損検出装置8の各機能を実現する。
【0051】
実施の形態2.
実施の形態2において、実施の形態1で開示される例と相違する点について特に詳しく説明する。実施の形態2で説明しない特徴については、実施の形態1で開示される例のいずれの特徴が採用されてもよい。
【0052】
図5は、実施の形態2に係る破損検出装置8の構成図である.。
図5において、上方から見た破損検出装置8が示される。
【0053】
複数の電極対13は、前後方向に交互にずらして配置される。複数の電極対13は、前方位置または後方位置への配置を、左右方向から見て2つ周期で繰り返すように配置される。各々の電極対13の前後方向の位置は、隣の溝部19に配置された電極対13に対して互いにずれた位置に配置されている。これにより、隣り合う溝部19に配置された電極対13の電極板21同士が、溝部19の間の凸部20を介して電気的に結合しにくくなる。すなわち、電極対13の間の静電容量が、隣の溝部19に配置された電極対13の影響を受けにくくなる。これにより、検出部17による破損の検出がより正確なものになる。
【0054】
なお、複数の電極対13の配置は、前方位置または後方位置への配置を、左右方向から見て2つ周期で繰り返すような配置に限定されない。隣り合う溝部19に配置された電極対13の位置が前後方向に互いにずれていればよいので、複数の電極対13の配置は、前方位置、中間位置、または後方位置への配置を、左右方向から見て3つ周期で繰り返すような配置であってもよい。同様に、左右方向から見て4つ以上の周期で繰り返す配置であってもよく、左右方向から見て周期的でない配置であってもよい。
【0055】
実施の形態3.
実施の形態3において、実施の形態1または実施の形態2で開示される例と相違する点について特に詳しく説明する。実施の形態3で説明しない特徴については、実施の形態1または実施の形態2で開示される例のいずれの特徴が採用されてもよい。
【0056】
図6は、実施の形態3に係る破損検出装置8の構成図である。
図6において、前後方向に垂直な鉛直面による破損検出装置8の断面図が示される。
【0057】
複数の電極対13において、同じ凸部20の両面の溝壁に配置された電極板21は、電気的に互いに接続される。また、左右方向から見て1つおきの凸部20の両面の溝壁に配置された電極板21は、電気的に接地されている。
【0058】
この例において、接地されていない電極板21が配置された凸部20の左側の溝部19を溝部19aとする。当該凸部20の右側の溝部19を溝部19bとする。溝部19aおよび溝部19bの一方は、第1溝部の例である。溝部19aおよび溝部19bの他方は、第2溝部の例である。このとき、溝部19aに配置された電極対13aのうちの溝部19bに近い側の電極板21a1、および溝部19bに配置された電極対13bのうちの溝部19aに近い側の電極板21b1は、互いに電気的に接続されている。また、溝部19aに配置された電極対13aのうちの溝部19bから遠い側の電極板21a2、および溝部19bに配置された電極対13bのうちの溝部19aから遠い側の電極板21b2は、電気的に接地されている。
【0059】
計測部16は、電極板21a1および電極板21b1に接続され、電極対13aの間の静電容量および電極対13bの間の静電容量の和を計測する。このため、いずれの櫛歯11も溝部19を通っていないとき、計測される静電容量は次の式(4)のようになる。
【0060】
【0061】
また、櫛歯11が溝部19に設けられた電極対13の間を同時に通っているとき、計測される静電容量は次の式(5)のようになる。
【0062】
【0063】
一方、溝部19aまたは溝部19bを通る櫛歯11のいずれかが破損して電極対13aまたは電極対13bの間を通らないとき、計測される静電容量は次の式(6)のようになる。
【0064】
【0065】
このように、溝部19aまたは溝部19bを通る櫛歯11のうちの一方の破損であっても、ステップ6が櫛板4を通過するときの静電容量の変化量は小さくなることがわかる。このため、計測部16が電極対13aの間の静電容量および電極対13bの間の静電容量の和を計測する構成であっても、検出部17は、例えば静電容量の和の変化量が予め設定された閾値より小さいか否かを判定することなどによって、溝部19aまたは溝部19bを通る櫛歯11のいずれかの破損を検出できる。
【0066】
このような構成により、隣り合う2つの溝部19に対して1つの計測部16を設ければよいようになるので、破損検出装置8の部品点数などが低減される。これにより、例えばコスト低減などによって、破損検出装置8の適用がより容易になる。さらに、隣り合う2つの溝部19aおよび溝部19bを計測単位として、当該計測単位に隣接する凸部20の両側に配置された電極板21は、全て接地されている。このため、隣り合う計測単位は互いに電気的に結合せず、ある計測単位の静電容量が隣の計測単位の静電容量の影響を受けなくなる。これにより、検出部17による破損の検出がより正確なものになる。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本開示に係る破損検出装置は、乗客コンベアの櫛板の破損の検出に適用できる。
【符号の説明】
【0068】
1 乗客コンベア、 2 乗降口、 3 床板、 4 櫛板、 5 駆動装置、 6 ステップ、 7 移動手摺、 8 破損検出装置、 9 クリート面、 10 フレーム、 11 櫛歯、 12 クリート部、 13、13a、13b 電極対、 14 蓄電池、 15 接近検知部、 16 計測部、 17 検出部、 18 通信部、 19、19a、19b 溝部、 20 凸部、 21、21a1、21a2、21b1、21b2 電極板、 100a プロセッサ、 100b メモリ、 200 専用ハードウェア