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特許7574969圧延エミュレーション装置、圧延エミュレーションプログラム、及び圧延制御システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-21
(45)【発行日】2024-10-29
(54)【発明の名称】圧延エミュレーション装置、圧延エミュレーションプログラム、及び圧延制御システム
(51)【国際特許分類】
   B21B 38/00 20060101AFI20241022BHJP
   B21B 37/00 20060101ALI20241022BHJP
   B21B 38/04 20060101ALI20241022BHJP
   B21C 51/00 20060101ALI20241022BHJP
   G05B 23/02 20060101ALI20241022BHJP
【FI】
B21B38/00 E
B21B37/00 240
B21B37/00 300
B21B38/04 B
B21C51/00 Q
G05B23/02 302V
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2024522682
(86)(22)【出願日】2023-09-04
(86)【国際出願番号】 JP2023032229
【審査請求日】2024-04-16
(73)【特許権者】
【識別番号】501137636
【氏名又は名称】株式会社TMEIC
(74)【代理人】
【識別番号】110003199
【氏名又は名称】弁理士法人高田・高橋国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】長尾 英紀
【審査官】中西 哲也
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-043565(JP,A)
【文献】特開平07-056608(JP,A)
【文献】特開平09-192713(JP,A)
【文献】特開昭60-102312(JP,A)
【文献】特開昭61-231607(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第101000501(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21B 1/00-99/00
G05B 23/00-23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の圧延機が上流側から順々に並んだ圧延ラインを模擬した圧延エミュレーション装置であって、
通信インタフェースを介して前記複数の圧延機を制御するコントローラに接続されたプロセッサと、
前記圧延ラインにおける被圧延材の搬送を模擬した圧延搬送モデルを格納した記憶装置と、を備え、
前記プロセッサは、
前記コントローラから前記複数の圧延機の制御に用いられる制御信号を取得する処理と、
前記制御信号を前記圧延搬送モデルに入力して前記被圧延材の搬送をエミュレーションする処理と、
前記圧延搬送モデルによるエミュレーション結果に基づき前記圧延ラインに設けられた複数のセンサから出力されるセンサ信号を模擬した模擬センサ信号を生成する処理と、
前記複数のセンサから出力される実センサ信号を取得する処理と、
前記模擬センサ信号と前記実センサ信号との差を小さくするためのモデル補正値を前記圧延搬送モデルに反映させる学習処理と、
前記差が第1閾値以上の場合、前記複数の圧延機のうち、いずれかの圧延機で異変が生じていると判定する異常判定処理と、
を実行するように構成されたことを特徴とする圧延エミュレーション装置。
【請求項2】
請求項1に記載の圧延エミュレーション装置であって、
前記プロセッサは、更に、
前記差が前記第1閾値以上の場合、前記圧延機の異変であることを前記コントローラの上流に接続された上位装置に対して通知する処理、
を実行するように構成されたことを特徴とする圧延エミュレーション装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の圧延エミュレーション装置であって、
前記プロセッサは、前記学習処理において、
前記差が第1閾値未満、且つ、前記第1閾値よりも小さい第2閾値以上の場合、前記モデル補正値を前記圧延搬送モデルに反映させるように構成されたことを特徴とする圧延エミュレーション装置。
【請求項4】
複数の圧延機が上流側から順々に並んだ圧延ラインを模擬した圧延エミュレーションプログラムであって、
通信インタフェースを介して前記複数の圧延機を制御するコントローラから前記複数の圧延機の制御に用いられる制御信号を取得する処理と、
前記圧延ラインにおける被圧延材の搬送を模擬した圧延搬送モデルに前記制御信号を入力して前記被圧延材の搬送をエミュレーションする処理と、
前記圧延搬送モデルによるエミュレーション結果に基づき前記圧延ラインに設けられた複数のセンサから出力されるセンサ信号を模擬した模擬センサ信号を生成する処理と、
前記複数のセンサから出力される実センサ信号を取得する処理と、
前記模擬センサ信号と前記実センサ信号との差を小さくするためのモデル補正値を前記圧延搬送モデルに反映させる学習処理と、
前記差が第1閾値以上の場合、前記複数の圧延機のうち、いずれかの圧延機で異変が生じていると判定する異常判定処理と、
をコンピュータに実行させるように構成されている、
ことを特徴とする圧延エミュレーションプログラム。
【請求項5】
複数の圧延機が上流側から順々に並んだ圧延ラインを制御する圧延制御システムであって、
通信インタフェースを介して前記複数の圧延機を制御するコントローラと、
前記コントローラの上流に接続され、前記コントローラを介して前記複数の圧延機に入力される制御信号の設定値を生成する上位装置と、
前記複数の圧延機と前記コントローラとの間に並列して設けられ、前記圧延ラインにおける被圧延材の搬送を模擬した圧延搬送モデルを用いて、前記被圧延材の搬送をエミュレーションする圧延エミュレーション装置と、
を備え、
前記圧延エミュレーション装置は、前記複数の圧延機と前記コントローラとの間が非接続状態、且つ、前記圧延ラインに設けられた複数のセンサと前記コントローラとの間が非接続状態の場合、
前記コントローラから前記複数の圧延機の制御に用いられる制御信号を取得する処理と、
前記制御信号を前記圧延搬送モデルに入力して前記被圧延材の搬送をエミュレーションする処理と、
前記圧延搬送モデルによるエミュレーション結果に基づき前記複数のセンサから出力されるセンサ信号を模擬した模擬センサ信号を生成する処理と、
前記模擬センサ信号を前記コントローラに出力する処理と、
を実行するように構成され、
前記上位装置は、前記模擬センサ信号に基づいて、前記圧延ラインの圧延状態が適正範囲内かどうかを判定する判定処理を実行するように構成されたことを特徴とする圧延制御システム。
【請求項6】
請求項5に記載の圧延制御システムであって、
前記上位装置は、前記判定処理において、前記圧延状態が前記適正範囲内でない場合、前記制御信号の前記設定値を変更するように構成されたことを特徴とする圧延制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、圧延ラインを模擬する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、圧延ラインの状態をシミュレーションする圧延シミュレーション装置を開示している。具体的には、圧延シミュレーション装置は、圧延ラインにおける各プロセスを模擬したモデル式を用いて、金属材料の圧延の目標値及びプロセスを変更した場合の被圧延材の状態予測値を算出する。更に、圧延シミュレーション装置は、被圧延材の状態予測値と圧延ラインの駆動に用いられるアクチュエータの制御目標値とを比較した比較値に基づいて、モデル式のパラメータを更新する。これにより、経年変化によって変化するパラメータ等が更新され、モデル式の予測精度を高めることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2016/038705号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
圧延ラインの圧延状態は圧延ラインに設けられセンサの実測値に表れる。圧延状態の実測値が不適正となる原因の一つとして圧延ラインを構成するいずれかの圧延機で異変が生じていることが考えられる。その場合、圧延ラインを模擬したモデルの変更を行わずに、圧延機で異変が生じていることを作業者に通知すればよい。しかし、特許文献1に示す圧延シミュレーション装置では、圧延機の経年劣化による変化と判定され、モデル式の更新が行われてしまう。これにより、異常が生じているにもかかわらず圧延ラインの稼働が中断されずに継続するおそれがある。
【0005】
更に、圧延機に入力される制御信号の設定値が適切でないことも、圧延状態の実測値が不適正となる原因になりうる。この場合においても、特許文献1に示す圧延シミュレーション装置では、圧延ラインの圧延状態の異常が検知されることなく、モデル式の更新が行われてしまう。
【0006】
本開示の一つの目的は、圧延ラインを模擬したモデルの精度を向上させつつ、圧延ラインの圧延状態の異常を検知することのできる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の第1の観点は、複数の圧延機が上流側から順々に並んだ圧延ラインを模擬した圧延エミュレーション装置に関連する。圧延エミュレーション装置は、通信インタフェースを介して複数の圧延機を制御するコントローラに接続されたプロセッサと、圧延ラインにおける被圧延材の搬送を模擬した圧延搬送モデルを格納した記憶装置と、を備えている。プロセッサは、コントローラから複数の圧延機の制御に用いられる制御信号を取得する処理と、制御信号を圧延搬送モデルに入力して被圧延材の搬送をエミュレーションする処理と、圧延搬送モデルによるエミュレーション結果に基づき圧延ラインに設けられた複数のセンサから出力されるセンサ信号を模擬した模擬センサ信号を生成する処理と、複数のセンサから出力される実センサ信号を取得する処理と、模擬センサ信号と実センサ信号との差を小さくするためのモデル補正値を圧延搬送モデルに反映させる学習処理と、当該差が第1閾値以上の場合、複数の圧延機のうち、いずれかの圧延機で異変が生じていると判定する異常判定処理と、を実行する。
【0008】
本開示の第2の観点は、複数の圧延機が上流側から順々に並んだ圧延ラインを制御する圧延制御システムに関連する。圧延制御システムは、通信インタフェースを介して複数の圧延機を制御するコントローラと、コントローラの上流に接続され、コントローラを介して複数の圧延機に入力される制御信号の設定値を生成する上位装置と、複数の圧延機とコントローラとの間に並列して設けられ、圧延ラインにおける被圧延材の搬送を模擬した圧延搬送モデルを用いて、被圧延材の搬送をエミュレーションする圧延エミュレーション装置と、を備えている。圧延エミュレーション装置は、複数の圧延機とコントローラとの間が非接続状態、且つ、圧延ラインに設けられた複数のセンサとコントローラとの間が非接続状態の場合、コントローラから複数の圧延機の制御に用いられる制御信号を取得する処理と、制御信号を圧延搬送モデルに入力して被圧延材の搬送をエミュレーションする処理と、圧延搬送モデルによるエミュレーション結果に基づき複数のセンサから出力されるセンサ信号を模擬した模擬センサ信号を生成する処理と、模擬センサ信号をコントローラに出力する処理と、を実行する。また、上位装置は、模擬センサ信号に基づいて、圧延ラインの圧延状態が適正範囲内かどうかを判定する判定処理を実行する。
【0009】
上記プロセッサの動作は、圧延エミュレーションプログラムがプロセッサによって実行されることにより実現されてもよい。
【発明の効果】
【0010】
本開示の第1の観点によれば、圧延ラインにおいて上流側から順々に並べられた複数の圧延機を制御するコントローラから複数の圧延機の制御に用いられる制御信号が取得される。制御信号は圧延ラインにおける被圧延材の搬送を模擬した圧延搬送モデルに入力され、被圧延材の搬送がエミュレーションされる。そして、圧延搬送モデルによるエミュレーション結果に基づき圧延ラインに設けられた複数のセンサから出力されるセンサ信号を模擬した模擬センサ信号が生成される。また、模擬センサ信号の生成と並行して、複数のセンサから出力される実センサ信号が取得される。そして、模擬センサ信号と実センサ信号との差を小さくするためのモデル補正値が圧延搬送モデルに反映されることによって圧延搬送モデルが学習される。ただし、当該差が第1閾値以上の場合、複数の圧延機のうち、いずれかの圧延機で異変が生じていると判定される。これにより、模擬センサ信号と実センサ信号との差に基づく学習によって圧延搬送モデルの精度を更に向上させつつ、圧延ラインの圧延状態の異常を検知することができる。
【0011】
本開示の第2の観点によれば、複数の圧延機とコントローラとの間が非接続状態、且つ、圧延ラインに設けられた複数のセンサとコントローラとの間が非接続状態の場合、コントローラから複数の圧延機の制御に用いられる制御信号が取得される。制御信号は圧延ラインにおける被圧延材の搬送を模擬した圧延搬送モデルに入力され、被圧延材の搬送がエミュレーションされる。そして、圧延搬送モデルによるエミュレーション結果に基づき複数のセンサから出力されるセンサ信号を模擬した模擬センサ信号が生成される。その後、模擬センサ信号に基づいて、圧延ラインの圧延状態が適正範囲内か否かが判定される。これにより、圧延ライン2の圧延状態が不適正となった場合、圧延ラインの圧延状態の異常を検知するとともに、制御信号の設定値が適切かどうかを確認することができる。更に、圧延ラインの一部を変更する場合や新たに圧延ラインを設置する場合、制御信号の設定値が適切であることを確認した上で、圧延ラインの稼働が開始される。従って、圧延ラインの稼働中において、複数の圧延機に入力される制御信号の設定値を調整する頻度が低減され、被圧延材の仕上げ精度の向上が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施の形態1に係る圧延制御システムの概要を説明するための図である。
図2】実施の形態1に係る圧延エミュレーション装置の構成例を示すブロック図である。
図3】実施の形態1に係る圧延エミュレーション装置の処理例を示すブロック図である。
図4】実施の形態1に係る圧延エミュレーション装置の処理例を示すフローチャートである。
図5】実施の形態2に係る圧延制御システムの概要を説明するための図である。
図6】実施の形態2に係る圧延制御システムの処理例を示すブロック図である。
図7】実施の形態2に係る圧延制御システムの処理例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
添付図面を参照して、本開示の実施の形態に係る圧延制御システム、圧延エミュレーション装置、及び圧延エミュレーションプログラムについて説明する。また、各図において共通する要素には、同一の符号を付して重複する説明を省略する。
【0014】
1.実施の形態1
1-1.圧延制御システムの概要
図1は、実施の形態1に係る圧延制御システム1Aの概要を説明するための図である。圧延制御システム1Aは、圧延ライン2を制御する。圧延ライン2は、例えば、熱間圧延ラインあるいは冷間圧延ラインである。圧延ライン2は、被圧延材3の搬送方向に沿って並設される複数の圧延機4を備える。つまり、圧延ライン2は、複数の圧延機4を上流側から順々に配置したものである。
【0015】
圧延ライン2は、更に、複数のセンサ6を備える。複数のセンサ6は、被圧延材3の圧延状態を計測する。複数のセンサ6は、例えば、被圧延材3の搬送方向の最初(最上流側)の圧延機4の入力側に設けられてもよいし、被圧延材3の搬送方向の最後(最下流側)の圧延機4の出力側に設けられてもよいし、圧延機4間に設けられてもよい。つまり、複数のセンサ6が配置される場所は様々である。複数のセンサ6としては、板速度計、板厚計、等が例示される。尚、複数のセンサ6により取得された情報は、コントローラ8に入力される。また、センサ6により取得された情報は、実センサ信号とも称される。
【0016】
複数の圧延機4のそれぞれは、アクチュエータ7を含んでおり、アクチュエータ7により駆動される。アクチュエータ7は、圧延機4ごとに設けられている。アクチュエータ7は、コントローラ8から出力される制御信号に従って駆動制御を行う。コントローラ8から出力される制御信号は、例えば、アクチュエータ7に入力されるパラメータである。パラメータとしては、圧延機4に含まれるロールの回転速度、当該ロールの開度等が例示される。アクチュエータ7に入力されるパラメータは、コントローラ8で生成されてもよいし、上位装置50で生成されてもよい。
【0017】
圧延記録システム1は、上述した圧延ライン2と、コントローラ8と、圧延エミュレーション装置10と、上位装置50とを備えている。
【0018】
コントローラ8は、通信インタフェースを介して複数の圧延機4を制御する。具体的には、コントローラ8は、アクチュエータ7に入力される制御信号のシーケンス制御と、所定の情報を上位装置50に送信する制御と、を実行する。所定の情報は、センサ6で取得された実センサ信号(圧延状態の実測値等)を含んでいる。更に、所定の情報には、制御信号の関連情報(アクチュエータ7に入力される制御信号の情報等)を含んでいてもよい。
【0019】
コントローラ8は、例えば、1又は複数のプロセッサ(不図示)と1又は複数の記憶装置(不図示)を備えていてもよいし、1又は複数の専用のハードウェア(不図示)を備えていてもよい。具体例として、コントローラ8は、PLC(Programmable Logic Controller)である。
【0020】
上位装置50は、圧延ライン2の圧延状態を管理する。具体的には、上位装置50は、圧延機4(アクチュエータ7)に入力される制御信号の設定値(パラメータ)を生成する。制御信号の設定値は、圧延ライン2の圧延状態をシミュレーションするための専用ツールにより解析されたシミュレーション結果に基づいて生成されてもよいし、シミュレーション結果による圧延状態の予測値と実センサ信号との差分値に基づいて生成されてもよい。尚、制御信号の設定値は、単に制御信号とも称される。
【0021】
上位装置50は、コントローラ8の上流に接続されている。また、上位装置50は、例えば、1又は複数のプロセッサ(不図示)と1又は複数の記憶装置(不図示)を備えている。
【0022】
圧延エミュレーション装置10は、圧延ライン2における被圧延材3の搬送をエミュレーションする。被圧延材3の搬送のエミュレーションには、被圧延材3の搬送を模擬した圧延搬送モデル(不図示)が用いられる。ここでの圧延搬送モデルは、一定以上の学習を経たモデルを前提とする。これを踏まえ、例えば、圧延搬送モデルから得られる圧延状態が実際の圧延状態と異なる場合、圧延エミュレーション装置10は、圧延搬送モデルの精度を更に向上させる必要があるか否か、圧延機4に異常がないか等を判定する。これにより、圧延搬送モデルの精度を更に向上させつつ、圧延ライン2の圧延状態の異常を検知することができる。
【0023】
圧延エミュレーション装置10による処理の概要は次のとおりである。圧延エミュレーション装置10は、圧延ライン2において上流側から順々に並べられた複数の圧延機4を制御するコントローラ8から複数の圧延機4の制御に用いられる制御信号を取得する処理と、圧延搬送モデルに制御信号を入力して被圧延材3の搬送をエミュレーションする処理と、圧延搬送モデルによるエミュレーション結果に基づき圧延ライン2に設けられた複数のセンサ6から出力されるセンサ信号を模擬した模擬センサ信号を生成する処理と、複数のセンサ6から出力される実センサ信号を取得する処理と、模擬センサ信号と実センサ信号との差を小さくするためのモデル補正値を圧延搬送モデルに反映させる学習処理と、当該差が第1閾値以上の場合、複数の圧延機のうち、いずれかの圧延機で異変が生じていると判定する異常判定処理と、を実行する。圧延エミュレーション装置10による処理の詳細については後述される。
【0024】
圧延エミュレーション装置10が設けられる位置について考える。圧延エミュレーション装置10では、模擬センサ信号と実センサ信号との差を比較する処理が行われる。この場合、圧延エミュレーション装置10で模擬センサ信号が生成される時間と圧延エミュレーション装置10が実センサ信号を取得する時間との差が小さいことが望ましい。その一方で、制御信号の設定値が圧延機4に入力されてからセンサ6による実センサ信号が出力されるまでの時間は短いことが想定される。このことから、圧延エミュレーション装置10は、圧延機4と同様にコントローラ8の下流側に設けられていることが望ましい。ゆえに、圧延エミュレーション装置10は、複数の圧延機4とコントローラ8との間に並列して設けられている。
【0025】
1-2.圧延エミュレーション装置の例
1-2-1.構成例
図2は、実施の形態1に係る圧延エミュレーション装置10の構成例を示すブロック図である。
【0026】
圧延エミュレーション装置10は、1又は複数のプロセッサ20(以降、単にプロセッサ20と称す)と、1又は複数の記憶装置30(以降、単に記憶装置30と称す)とを備えている。プロセッサ20は、各種処理を実行する。プロセッサ20としては、CPU(Central Processing Unit)が例示される。記憶装置30は、プロセッサ20による処理に必要な各種情報を格納する。記憶装置30としては、揮発性メモリ、不揮発性メモリ、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)、等が例示される。
【0027】
記憶装置30に格納される各種情報は、圧延搬送モデル31と、圧延エミュレーションプログラムとを含んでいる。圧延搬送モデル31は、上述したとおり、圧延ライン2の被圧延材3の搬送を模擬したモデルである。圧延エミュレーションプログラム(不図示)は、プロセッサ20によって実行されるコンピュータプログラムである。プロセッサ20が圧延エミュレーションプログラムを実行することにより、圧延エミュレーション装置10の各種機能が実現されてもよい。尚、圧延エミュレーションプログラムは、記憶装置30に限られず、コンピュータ読み取り可能な記憶媒体に記録されてもよい。
【0028】
1-2-2.処理例
図3は、実施の形態に係る圧延エミュレーション装置10の処理例を示すブロック図である。
【0029】
具体的には、圧延エミュレーション装置10(より具体的には、プロセッサ20)は、コントローラ8から出力される制御信号を入力する。そして、圧延エミュレーション装置10は、制御信号に基づいて、被圧延材3の搬送をエミュレーションするエミュレーション処理11を実行する。エミュレーション処理11では、記憶装置30に格納された圧延搬送モデル31を読み込む処理が行われる。更に、圧延エミュレーション装置10は、エミュレーション処理11において、圧延搬送モデル31によるエミュレーション結果に基づいて、複数のセンサ6から出力されるセンサ信号を模擬した模擬センサ信号を生成する。
【0030】
更に、圧延エミュレーション装置10は、複数のセンサ6から出力される実センサ信号を取得する。そして、圧延エミュレーション装置10は、模擬センサ信号と実センサ信号に基づいて、差分判定処理12を行う。差分判定処理12において、圧延エミュレーション装置10は、模擬センサ信号と実センサ信号との差が第1閾値未満か否かを判定する。当該差が第1閾値未満の場合、圧延エミュレーション装置10は、当該差を小さくするためのモデル補正値を生成するモデル補正値生成処理13を行う。モデル補正値生成処理13の実行後、圧延エミュレーション装置10は、モデル補正値を圧延搬送モデル31に反映させる学習処理を実行する。これにより、圧延搬送モデル31の精度を更に向上させることができる。
【0031】
尚、当該差が小さい場合、圧延搬送モデルは一定以上の精度を有していることが考えられる。この場合、圧延エミュレーション装置10は、当該差を圧延搬送モデルに反映させないようにしてもよい。従って、圧延エミュレーション装置10は、学習処理において、当該差が第1閾値未満、且つ、第1閾値よりも小さい第2閾値以上の場合、モデル補正値を圧延搬送モデル31に反映させるようにしてもよい。
【0032】
一方、当該差が第1閾値以上の場合、圧延エミュレーション装置10は、差分判定処理12において、複数の圧延機4のうち、いずれかの圧延機4で異変が生じていると判定する異常判定処理を実行する。この場合、圧延エミュレーション装置10は、圧延機4の異変であることをコントローラ8を介して上位装置50に対して通知を行う。これにより、圧延ライン2の圧延状態の異常を検知することができる。尚、圧延機4の異変とは、例えば、圧延機4の状態を示すパラメータの変化量が所定値以上となることを意味する。そのパラメータの変化量が所定値以上となる要因としては、圧延機4の経年劣化、圧延機4の故障、等が例示される。
【0033】
また更に、圧延エミュレーション装置10は、差分判定処理12の実行後、模擬センサ信号と実センサ信号との差分値や各種センサ信号の状態を保存する保存処理14を行ってもよい。これにより、圧延ライン2の圧延状態が不適正となる原因が発生したときの差分値や各種センサ信号の状態の履歴を確認することができる。ゆえに、圧延ラインの圧延状態が不適正となる原因の特定が容易となる。
【0034】
図4は、圧延エミュレーション装置10の処理例を要約的に示したフローチャートである。
【0035】
ステップS100において、圧延エミュレーション装置10は、各種情報を取得する。その後、処理はステップS110に進む。各種情報には、コントローラ8から出力される制御信号と、複数のセンサ6から出力される実センサ信号とが含まれる。
【0036】
ステップS110において、圧延エミュレーション装置10は、圧延搬送モデル31を用いて、被圧延材3の搬送をエミュレーションする。その後、処理はステップS120に進む。
【0037】
ステップS120において、圧延エミュレーション装置10は、圧延搬送モデル31によるエミュレーション結果に基づいて、複数のセンサ6から出力されるセンサ信号を模擬した模擬センサ信号を生成する。その後、処理はステップS130に進む。
【0038】
ステップS130において、圧延エミュレーション装置10は、模擬センサ信号と実センサ信号との差を算出する。その後、処理はステップS140に進む。
【0039】
ステップS140において、圧延エミュレーション装置10は、模擬センサ信号と実センサ信号との差が閾値未満か否かを判定する。当該差が閾値未満と判定された場合(ステップS140;Yes)、処理はステップS150に進む。それ以外の場合(ステップS140;No)、処理はステップS170に進む。
【0040】
ステップS150において、圧延エミュレーション装置10は、当該差を小さくするためのモデル補正値を生成する。その後、処理はステップS160に進む。
【0041】
ステップS160において、圧延エミュレーション装置10は、モデル補正値を圧延搬送モデル31に反映させる学習処理を行う。
【0042】
尚、上述したとおり、当該差が第1閾値未満であり、且つ、第1閾値よりも小さい第2閾値以上の場合、圧延エミュレーション装置10は、モデル補正値を圧延搬送モデル31に反映させるようにしてもよい。
【0043】
ステップS170において、圧延エミュレーション装置10は、複数の圧延機4のうち、いずれかの圧延機4で異変が生じていると判定する。その後、処理はステップS180に進む。
【0044】
ステップS180において、圧延エミュレーション装置10は、圧延機4の異変であることをコントローラ8を介して上位装置50に通知する。
【0045】
1-3.効果
本実施の形態によれば、圧延ライン2において上流側から順々に並べられた複数の圧延機4を制御するコントローラ8から複数の圧延機4の制御に用いられる制御信号が取得される。制御信号は圧延ライン2における被圧延材3の搬送を模擬した圧延搬送モデル31に入力され、被圧延材3の搬送がエミュレーションされる。そして、圧延搬送モデル31によるエミュレーション結果に基づき圧延ライン2に設けられた複数のセンサ6から出力されるセンサ信号を模擬した模擬センサ信号が生成される。また、模擬センサ信号の生成と並行して、複数のセンサ6から出力される実センサ信号が取得される。そして、模擬センサ信号と実センサ信号との差を小さくするためのモデル補正値が圧延搬送モデル31に反映されることによって圧延搬送モデル31が学習される。ただし、当該差が第1閾値以上の場合、複数の圧延機4のうち、いずれかの圧延機4で異変が生じていると判定される。これにより、模擬センサ信号と実センサ信号との差に基づく学習によって圧延搬送モデル31の精度を更に向上させつつ、圧延ライン2の圧延状態の異常を検知することができる。
【0046】
2.実施の形態2
2-1.圧延制御システムの概要
図5は、実施の形態2に係る圧延制御システム1Bの概要を説明するための図である。例えば、圧延ライン2の圧延状態が不適正となる原因が、圧延搬送モデルの精度でも、圧延機4の異変でもなく、圧延機4に入力される制御信号の設定値にある場合を考える。この場合、上述した実施の形態1に係る圧延制御システム1Aの圧延エミュレーション装置10では、その原因を特定することができない。従って、圧延制御システム1Bでは、圧延ライン2の圧延状態が不適正の場合、複数の圧延機4に入力される制御信号の設定値が適切であるか否かが判定される。
【0047】
圧延制御システム1Bの基本構成は、上述した圧延制御システム1Aと同じである。圧延制御システム1Aと異なる点としては、図5に示すように、複数の圧延機4とコントローラ8との間が非接続状態(第1非接続状態)となっている点と、複数のセンサ6とコントローラ8との間が非接続状態(第2非接続状態)となっている点と、圧延エミュレーション装置10で生成される模擬センサ信号がコントローラ8に出力される点、等が挙げられる。
【0048】
第1非接続状態は、例えば、複数の圧延機4とコントローラ8との間の配線が遮断されている状態、圧延機4(アクチュエータ7)に入力される制御信号を使用しないように制限されている状態、等である。第2非接続状態は、例えば、複数のセンサ6とコントローラ8との間の配線が遮断されている状態、センサ6からのセンサ信号の出力が制限されている状態、等である。
【0049】
尚、圧延制御システム1Aと圧延制御システム1Bとの間の切り替えは、上位装置50により制御される。例えば、圧延ライン2の動作モードが運用モードの場合、圧延制御システム1Aが選択され、圧延ライン2の動作モードが点検モードの場合、圧延制御システム1Bが選択される。更に、圧延制御システム1Bが選択された場合には、第1非接続状態への切り替えと第2非接続状態への切り替えとが行われる。
【0050】
圧延制御システム1Bによる処理の概要は次のとおりである。圧延制御システム1Bは、複数の圧延機4とコントローラ8との間が非接続状態、且つ、複数のセンサ6とコントローラ8との間が非接続状態の場合、複数の圧延機4を制御するコントローラ8から複数の圧延機4の制御に用いられる制御信号を取得する処理と、圧延搬送モデル31に制御信号を入力して被圧延材3の搬送をエミュレーションする処理と、圧延搬送モデル31によるエミュレーション結果に基づき圧延ライン2に設けられた複数のセンサ6から出力されるセンサ信号を模擬した模擬センサ信号を生成する処理と、模擬センサ信号をコントローラ8に出力する処理と、模擬センサ信号に基づいて圧延ライン2の圧延状態が適正範囲内かどうかを判定する処理と、を実行する。圧延制御システム1Bによる処理の詳細については後述される。
【0051】
2-2.処理例
図6は、実施の形態2に係る圧延制御システム1Bの処理例を示すブロック図である。圧延制御システム1Bの処理は、圧延エミュレーション装置10と上位装置50のそれぞれの処理を含んでいる。
【0052】
圧延エミュレーション装置10の処理例について説明する。具体的には、圧延エミュレーション装置10(プロセッサ20)は、コントローラ8から出力される制御信号を入力する。そして、圧延エミュレーション装置10は、制御信号に基づいて、被圧延材3の搬送をエミュレーションするエミュレーション処理11を実行する。更に、圧延エミュレーション装置10は、エミュレーション処理11において、圧延搬送モデル31によるエミュレーション結果に基づいて、複数のセンサ6から出力されるセンサ信号を模擬した模擬センサ信号を生成する。その後、圧延エミュレーション装置10は、模擬センサ信号をコントローラ8に出力する。
【0053】
続いて、上位装置50の処理例について説明する。具体的には、上位装置50は、制御信号の設定値を生成する処理(制御信号の設定値の生成処理51)を実行する。制御信号の設定値の生成処理51の実行後、上位装置50は、制御信号をコントローラ8を介して圧延エミュレーション装置10に出力する。更に、上位装置50は、圧延エミュレーション装置10から出力される模擬センサ信号をコントローラ8を介して取得する。そして、上位装置50は、模擬センサ信号に基づいて、圧延ライン2の圧延状態が適正範囲内かどうかを判定する処理(圧延状態の判定処理52)を実行する。その後、上位装置50は、圧延ライン2の圧延状態が適正範囲内でないと判定された場合、制御信号の設定値を変更する処理(制御信号の設定値の変更処理53)を実行する。尚、圧延状態の判定処理52は、図6に示すように、異常判定処理を含んでいる。異常判定処理とは、圧延ライン2の圧延状態が適正範囲内でないと判定された場合、複数の圧延機4のうち、いずれかの圧延機4で異変が生じていると判定する処理を意味する。これにより、圧延ライン2の圧延状態の異常を検知することができる。
【0054】
図7は、圧延制御システム1Bの処理例を要約的に示したフローチャートである。
【0055】
ステップS200において、圧延制御システム1Bは、制御信号の設定値を生成する。その後、処理はステップS210に進む。
【0056】
ステップS210において、圧延制御システム1Bは、圧延搬送モデル31に制御信号を入力して被圧延材3の搬送をエミュレーションする。その後、処理はステップS220に進む。
【0057】
ステップS220において、圧延制御システム1Bは、圧延搬送モデル31によるエミュレーション結果に基づいて、複数のセンサ6から出力されるセンサ信号を模擬した模擬センサ信号を生成する。その後、処理はステップS230に進む。
【0058】
ステップS230において、圧延制御システム1Bは、圧延ライン2の圧延状態が適正範囲内か否かを判定する。圧延ライン2の圧延状態が適正範囲内であると判定された場合(ステップS230;Yes)、処理は終了する。それ以外の場合(ステップS230;No)、処理はステップS240に進む。
【0059】
ステップS240において、圧延制御システム1Bは、制御信号の設定値を変更する。
【0060】
2-3.効果
本実施の形態によれば、複数の圧延機4とコントローラ8との間が非接続状態、且つ、圧延ライン2に設けられた複数のセンサ6とコントローラ8との間が非接続状態の場合、コントローラ8から複数の圧延機4の制御に用いられる制御信号が取得される。制御信号は圧延ライン2における被圧延材3の搬送を模擬した圧延搬送モデル31に入力され、被圧延材3の搬送がエミュレーションされる。そして、圧延搬送モデル31によるエミュレーション結果に基づき複数のセンサ6から出力されるセンサ信号を模擬した模擬センサ信号が生成される。その後、模擬センサ信号に基づいて、圧延ライン2の圧延状態が適正範囲内か否かが判定される。これにより、圧延ライン2の圧延状態が不適正となった場合、圧延ライン2の圧延状態の異常を検知するとともに、制御信号の設定値が適切かどうかを確認することができる。
【0061】
更に、圧延ライン2の一部を変更する場合や新たに圧延ライン2を設置する場合、制御信号の設定値が適切であることを確認した上で、圧延ライン2の稼働が開始される。従って、圧延ライン2の稼働中において、複数の圧延機4に入力される制御信号の設定値を調整する頻度が低減され、被圧延材3の仕上げ精度の向上が期待できる。
【符号の説明】
【0062】
1A,1B…圧延制御システム、2…圧延ライン、3…被圧延材、4…圧延機、6…センサ、7…アクチュエータ、8…コントローラ、10…圧延エミュレーション装置、11…エミュレーション処理、12…差分判定処理、13…モデル補正値生成処理、14…保存処理、20…プロセッサ、30…記憶装置、31…圧延搬送モデル、32…圧延エミュレーションプログラム、50…上位装置、51…制御信号の設定値の生成処理、52…圧延状態の判定処理、53…制御信号の設定値の変更処理
【要約】
圧延エミュレーション装置は、通信インタフェースを介して複数の圧延機を制御するコントローラから複数の圧延機の制御に用いられる制御信号を取得する処理と、圧延ラインにおける被圧延材の搬送を模擬した圧延搬送モデルに制御信号を入力して被圧延材の搬送をエミュレーションする処理と、圧延搬送モデルによるエミュレーション結果に基づき圧延ラインに設けられた複数のセンサから出力されるセンサ信号を模擬した模擬センサ信号を生成する処理と、複数のセンサから出力される実センサ信号を取得する処理と、模擬センサ信号と実センサ信号との差を小さくするためのモデル補正値を圧延搬送モデルに反映させる学習処理と、当該差が第1閾値以上の場合、複数の圧延機のうち、いずれかの圧延機で異変が生じていると判定する異常判定処理と、を実行する。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7