(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-21
(45)【発行日】2024-10-29
(54)【発明の名称】析出物および/または介在物の抽出方法
(51)【国際特許分類】
G01N 1/32 20060101AFI20241022BHJP
C25F 3/02 20060101ALI20241022BHJP
G01N 1/28 20060101ALI20241022BHJP
G01N 33/202 20190101ALI20241022BHJP
【FI】
G01N1/32 B
C25F3/02 B
G01N1/28 F
G01N33/202
(21)【出願番号】P 2024544876
(86)(22)【出願日】2024-05-27
(86)【国際出願番号】 JP2024019344
【審査請求日】2024-07-26
(31)【優先権主張番号】P 2023140684
(32)【優先日】2023-08-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100168985
【氏名又は名称】蜂谷 浩久
(72)【発明者】
【氏名】菅原 誠也
【審査官】外川 敬之
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2021/106705(WO,A1)
【文献】実開平01-152238(JP,U)
【文献】特開昭61-079135(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第113447509(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 1/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属材料中の析出物および/または介在物を抽出する方法であって、
電解液を流動させながら前記金属材料を電解する、析出物および/または介在物の抽出方法。
【請求項2】
前記電解液を前記金属材料の前記電解液と接する面である電解面の少なくとも一部に沿って流動させながら、前記電解を実施する、請求項1に記載の析出物および/または介在物の抽出方法。
【請求項3】
前記電解面に沿って流動する前記電解液の流動速度が、0.48mm/s以上である、請求項2に記載の析出物および/または介在物の抽出方法。
【請求項4】
前記金属材料および前記電解液が電解槽に収容され、
前記電解液を、前記電解槽に対して注入および排出することにより、前記電解液を流動させる、請求項1~3のいずれか1項に記載の析出物および/または介在物の抽出方法。
【請求項5】
前記電解の後、前記金属材料の表面に露出した前記析出物および/または前記介在物を抽出する、請求項1~3のいずれか1項に記載の析出物および/または介在物の抽出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、析出物および/または介在物の抽出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄鋼材料などの金属材料中に存在する析出物および/または介在物(以下、「析出物等」とも呼ぶ)は、その存在量や形態によって、金属材料の特性に影響を与える。このため、金属材料の特性を制御するうえで、析出物等の分析は重要である。
【0003】
従来、金属材料中の析出物等を分析する場合は、金属材料を、電解液を用いて電解する(特許文献1)。すなわち、金属材料のマトリックス元素(金属材料が鉄鋼材料である場合はFe)を溶解させることにより、析出物等を金属材料の電解面(電解液と接する面)に露出させ、露出した析出物等を観察したり、捕集したりする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者は、金属材料として、数質量%のNiおよびMoを含有する鉄鋼材料を用い、この金属材料を電解し、析出物等を抽出した。
その結果、Fe、NiおよびMoが、抽出対象である析出物等の表面上で、何らかの化合物(「電解生成物」とも称する)を形成する場合があることが分かった。
この場合、析出物等は、正確に(本来の状態のまま)抽出されない。
析出物等の表面上に形成された電解生成物は、その析出物等の分析に影響を及ぼすため、電解生成物の形成を抑制する必要がある。
【0006】
ところで、特許文献1には、同様の問題に対処するため、析出物等を正確に抽出することを妨げる元素(以下、「妨害元素」とも呼ぶ)と錯体を形成する薬剤を電解液に添加する技術が開示されている。
【0007】
しかし、特許文献1に記載された技術を採用する場合、妨害元素(例えば、Fe、NiおよびMo)ごとに、適切な薬剤を準備する必要があり、非常に煩雑である。また、妨害元素によっては、適切な薬剤を準備できない場合もある。
このため、妨害元素に応じた薬剤を準備することなく(すなわち、簡便に)、析出物等を抽出できる方法が望まれる。
【0008】
本発明は、以上の点を鑑みてなされたものであり、金属材料中の析出物等を正確に、かつ、簡便に抽出できる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討した。
その結果、
a)電解生成物は、金属材料を電解する際に、金属材料を構成する元素(妨害元素)が電解液に溶出し、何らかの反応により、析出物等の表面上に形成されると推察されること、
b)上記反応の発生を回避するためには、金属材料を電解する際に、電解液に溶出した妨害元素を、金属材料の電解面に露出した析出物等から遠ざければよいこと、
を見出し、本発明を完成させた。
【0010】
すなわち、本発明は、以下の[1]~[5]を提供する。
[1]金属材料中の析出物および/または介在物を抽出する方法であって、電解液を流動させながら上記金属材料を電解する、析出物および/または介在物の抽出方法。
[2]上記電解液を上記金属材料の上記電解液と接する面である電解面の少なくとも一部に沿って流動させながら、上記電解を実施する、上記[1]に記載の析出物および/または介在物の抽出方法。
[3]上記電解面に沿って流動する上記電解液の流動速度が、0.48mm/s以上である、上記[2]に記載の析出物および/または介在物の抽出方法。
[4]上記金属材料および上記電解液が電解槽に収容され、上記電解液を、上記電解槽に対して注入および排出することにより、上記電解液を流動させる、上記[1]~[3]のいずれかに記載の析出物および/または介在物の抽出方法。
[5]上記電解の後、上記金属材料の表面に露出した上記析出物および/または上記介在物を抽出する、上記[1]~[3]のいずれかに記載の析出物および/または介在物の抽出方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、金属材料中の析出物等を正確に、かつ、簡便に抽出できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】金属材料の電解に用いる電解システムを示す模式図である。
【
図2A】電解システムの別の一例を示す模式図である。
【
図2B】電解システムの別の一例を示す模式図である。
【
図2C】電解システムの別の一例を示す模式図である。
【
図2D】電解システムの別の一例を示す模式図である。
【
図2E】電解システムの別の一例を示す模式図である。
【
図2F】電解システムの別の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本実施形態について説明する。
まず、
図1に基づいて、本実施形態において、金属材料13の電解に用いる電解システム1を説明する。
【0014】
〈電解システムの概要〉
図1は、金属材料13の電解に用いる電解システム1を示す模式図である。
電解システム1は、概略的には、電解装置10、電解液タンク20、ポンプ30、チューブ35、および、電気化学測定装置40を備える。
【0015】
電解装置10は、開口部11aを有する電解槽11を備え、更に、陰極12と、金属材料13により構成される陽極14とを備える。
電解槽11の内部は、電解液5で満たされており、陰極12および陽極14(金属材料13)は、電解液5に浸漬している。
なお、
図1に示す金属材料13は、その全体が電解液5に浸漬しているが、これに限定されず、金属材料13は、その一部が電解液5に浸漬していればよい。
【0016】
以下、電解システム1が備える各部を、より詳細に説明する。
【0017】
〈金属材料および陽極〉
金属材料13としては、析出物および/または介在物(析出物等)を含有する金属材料であれば特に限定されないが、鉄鋼材料が好ましい。
鉄鋼分野では、鉄鋼材料中に存在する析出物等の量および形態を緻密に制御することにより、鉄鋼材料に新規な特性を付与したり、従来の特性を向上させたりしている。このため、鉄鋼材料中の析出物等を精度良く分析することが重要である。
【0018】
鉄鋼材料としては、例えば、数質量%のNiおよびMoを含有する鉄鋼材料が挙げられる。この鉄鋼材料を電解する場合、鉄鋼材料のマトリックス金属である鉄(Fe)のほかに、ニッケル(Ni)およびモリブデン(Mo)も、電解液5に溶出する。
このような鉄鋼材料は、析出物等として、例えば、MnS、Cr化合物を含有する。
【0019】
金属材料13の形状は、特に限定されないが、後述するように、金属材料13の電解面に沿って電解液5を流動させる観点からは、電解液5の流動を妨げない形状(例えば、円柱状、直方体形状など)が好ましい。
【0020】
陽極14は、金属材料13と、金属材料13に巻き付けられたリード線25とによって構成される。リード線25の素材としては、プラチナ(Pt)などの不活性な金属が好適に挙げられる。リード線25を金属材料13に巻き付けることにより、金属材料13の導通を取ると共に、金属材料13を固定する。
【0021】
なお、金属材料13の位置を固定する方法は、これに限定されず、例えば、金属材料13の特定面(例えば、電解後にSEMを用いて観察する面)を電解する場合は、この特定面以外の面にリード線25をはんだ付けしてもよい。
また、リード線25が接続されたワニ口クリップ(図示せず)を用いて、金属材料13を挟んでもよい。
【0022】
金属材料13が磁性を有する場合は、リード線25に代えて、リード線25と同じ素材で作られた筒状部材(図示せず)を用いてもよい。
筒状部材は、一方の端面が底板で塞がれており、底板を下側に向けて、電解槽11の内部に配置される。そのうえで、底板の上面側(筒状部材の内側)に、ネオジム磁石などの磁石を置き、磁石の磁力によって、底板の下面側(筒状部材の外側)に、金属材料13を密着させる。こうして、金属材料13を吊り下げた状態で位置固定できる。
【0023】
なお、
図1においては、金属材料13の全体が電解液5に浸漬しているから、金属材料13の表面のうち、リード線25が巻かれていない領域(巻かれたリード線25と接していない領域)は、全て、電解液5と接する電解面と言える。
金属材料13の表面のうち、電解が不要な面を、絶縁性の樹脂などを用いて被覆してもよい。
【0024】
陽極14(より詳細には、陽極14を構成するリード線25)は、導線15を用いて、電気化学測定装置40に接続している。
【0025】
〈陰極〉
陰極12としては、現在実用化されている各種の対極を適宜使用できる。
なかでも、電解液5に対して安定性が高く、電解液5を汚染する可能性が低いという理由から、プラチナ(Pt)が好ましい。
陰極12は、導線16を用いて、電気化学測定装置40に接続している。
【0026】
〈電気化学測定装置〉
電気化学測定装置40としては、例えば、金属材料13の電位を制御して金属材料13を電解する場合には定電位電解装置を用い、金属材料13の電流を制御して金属材料13を電解する場合には定電流電解装置を用いればよい。どちらの機能も兼ね備えるポテンショ・ガルバノスタットを用いてもよい。
【0027】
電気化学測定装置40を駆動させることによって、金属材料13の電位または電流が制御されて、金属材料13に対する電解が実施される。電解条件は、特に限定されないが、抽出される析出物等が分解されない電位または電流が好ましい。
【0028】
なお、
図1に示す電解システム1は、2電極法を採用しているが、参照電極を使用する3電極法を用いてもよい。3電極法の方が、制御の観点で好ましい。
【0029】
〈電解液タンク、チューブおよびポンプ〉
電解システム1においては、電解槽11だけでなく、電解液タンク20にも、電解液5が収容されている。
電解液タンク20には、チューブ35の一端が接続している。チューブ35は、シリコンなどの軟質な素材によって形成されている。チューブ35の他端(注入口19)は、電解槽11の開口部11aに配置されている。すなわち、電解液タンク20と電解槽11とは、チューブ35によって接続されている。
【0030】
チューブ35の途中には、ポンプ30が配置されている。ポンプ30としては、電解液5に接触せずに汚染が少ないという理由から、ペリスタポンプが好適に用いられる。
ポンプ30が駆動することによって、電解液タンク20から電解液5が吸い上げられる。吸い上げられた電解液5は、チューブ35の内部を通り、チューブ35の端部である注入口19から、電解槽11の内部に注入される。
【0031】
〈電解槽〉
電解槽11は、上述したように、開口部11aを有する。
電解槽11が開口部11aを有しない密閉系である場合、金属材料13の電解によって生成するガスが溜まることで、電解槽11の内部が陽圧となり、電解液5の注入が阻害される可能性がある。このため、電解槽11は、開口部11aを有する開放系であることが好ましい。
【0032】
電解槽11における開口部11aとは反対側であって、注入口19と対面する位置には、管状の排出口17が設けられている。排出口17の途中には、開閉自在なコック18が配置されている。コック18を開いた状態にすることで、電解槽11の内部から、電解液5が排出される。
【0033】
〈電解液〉
電解液5としては、特に限定されず、従来公知の組成を有する電解液を適宜使用できる。もっとも、金属材料13の析出物等が溶解しない組成を有する電解液が好ましい。具体的には、例えば、AA電解液(アセチルアセトン-塩化テトラメチルアンモニウム-メタノール)、MS電解液(4体積%サリチル酸メチル-1質量%サリチル酸-メタノール)、クエン酸電解液(10質量%クエン酸ナトリウム-1質量%臭化カリウム-純水-クエン酸(pH調整用))等が好適に挙げられる。
なお、例えば、金属材料13が鉄鋼材料である場合、電解液5に溶出したFeが水酸化鉄などを形成し、排出口17が詰まる可能性があるため、その場合、Feを錯体化する薬剤を電解液5に添加してもよい。
【0034】
〈電解〉
このような構成において、電気化学測定装置40を駆動させることにより、金属材料13の電解面(電解液5と接する面)が電解されて、析出物等が露出する。
ここで、金属材料13として、数質量%のNiおよびMoを含有する鉄鋼材料を用いる場合、これを構成するFe、NiおよびMoが妨害元素として電解液5に溶出し、露出した析出物等の表面上で電解生成物を形成し得る。
【0035】
そこで、本実施形態においては、金属材料13の電解中、コック18を開いた状態にしたうえで、ポンプ30を駆動させる。これにより、電解液5が、注入口19から電解槽11に注入されつつ排出口17から排出される。すなわち、電解液5を流動させながら、金属材料13の電解が実施される。
【0036】
電解液5が流動することにより、たとえ電解液5に妨害元素が溶出しても、溶出した妨害元素は、金属材料13の電解面に露出した析出物等から遠ざかる。
こうして、妨害元素に応じた薬剤を用いたりすることなく、簡便に、析出物等の表面上での電解生成物の形成を抑制できる。
【0037】
本実施形態において、電解液5は、金属材料13の電解面の少なくとも一部(例えば、電解後に、SEMを用いて観察する面)に沿って流動させることが好ましい。
換言すれば、金属材料13、注入口19および排出口17などの各部は、それぞれ、金属材料13の電解面の少なくとも一部に沿って電解液5が流動するように、配置することが好ましい。
例えば、
図1に示す電解システム1においては、電解液5は、少なくとも、円柱状である金属材料13の側面に沿って流動する。
【0038】
電解液5の流動速度は、例えば、電解生成物が生成する反応(電解液5に溶出した妨害元素の反応)によって決定されるため、金属材料の組成などに応じて、適宜設定される。
反応時間が増加すると、電解生成物の生成量も増加する。
一方、金属材料13の電解面(例えば、円柱状である金属材料13の側面)に沿って流動する電解液5の流動速度を速くすることにより、この電解面において、妨害元素が留まる時間が短くなり、反応時間は減少する。
また、そもそも、電解液5の流動速度が速い場合は、金属材料13の電解面に露出した析出物等から妨害元素を遠ざける効果がより優れる。
このため、金属材料として、例えば、上述したNiおよびMoを含有する鉄鋼材料を用いる場合、電解面に沿って流動する電解液5の流動速度は、0.48mm/s以上が好ましく、0.65mm/s以上がより好ましく、0.75mm/s以上が更に好ましく、1.33mm/s以上が特に好ましい。上限は特に限定されず、例えば、2.00mm/sである。
電解液5の流動速度を測定する方法については、後述する([実施例]を参照)。
【0039】
排出口17から電解槽11の外に排出された電解液5については、電解液タンク20に戻し、再び注入口19から電解槽11に注入してもよい。すなわち、電解液5は、循環させてもよい。
もっとも、排出口17から排出される電解液5には、金属材料13から溶出した妨害元素が含まれている。このため、妨害元素を金属材料13の電解面から遠ざける観点からは、電解液5は、循環させないことが好ましい。循環させる場合は、イオン交換樹脂などを用いて、電解液5から妨害元素を除去することが好ましい。
【0040】
〈抽出〉
その後、金属材料13の表面に露出した析出物等を、公知の方法により抽出する。
例えば、電解後の金属材料13を、メタノールなどのアルコール中に浸漬させ、超音波振動を付与することにより、露出した析出物等をアルコール中に剥離させる。次いで、このアルコールを、フィルタ(ろ紙)を用いてろ過することにより、析出物等を捕集する。
【0041】
なお、析出物等を、金属材料13から剥離させて捕集することなく、金属材料13の表面に露出した状態のまま、走査型電子顕微鏡(SEM)等を用いて観察することも、「抽出」として扱う。
【0042】
抽出された析出物等は、その表面上での電解生成物の形成が抑制されている。すなわち、析出物等を正確に(本来の状態のまま)抽出できるから、精度良く分析できる。
【0043】
〈電解システムの別の構成例〉
図2A~
図2Fは、それぞれ、電解システム1の別の一例を示す模式図である。
なお、
図2A~
図2Fでは、電解槽11、注入口19、排出口17、金属材料13およびリード線25の一部のみを図示しており、それ以外の各部については、図示を省略している。
【0044】
本実施形態に用いる電解システム1の構成としては、電解液5を流動させながら金属材料13を電解できれば、
図1に基づいて説明した構成に限定されない。
【0045】
例えば、
図1に基づいて説明した電解システム1では、排出口17と対面する位置に注入口19を配置したが、これに限定されず、
図2Aに示すように、注入口19の位置は、排出口17と対面しない位置であってもよい。
【0046】
また、
図1に基づいて説明した電解システム1では、排出口17は、電解槽11の底面に設けたが、これに限定されず、例えば、
図2Bに示すように、排出口17は、電解槽11の側面に設けてもよい。
【0047】
また、
図1に基づいて説明した電解システム1では、注入口19を電解槽11の開口部11aに配置したが、これに限定されず、例えば、
図2Cおよび
図2Dに示すように、電解槽11の側面に穴を開け、これに注入口19を接続してもよい。
更には、例えば、
図2Eおよび
図2Fに示すように、電解槽11の底面に穴を開け、これに注入口19を接続してもよい。
【0048】
なお、
図1および
図2A~
図2Fでは、電解液5を注入口19から電解槽11に注入しつつ排出口17から排出する方法(方法A)を説明した。
もっとも、電解液5を流動させる方法としては、この方法Aに限定されず、例えば、電解槽11の内部に注入された電解液5を、排出口17から排出することなく、スターラー等を用いて高速回転させる方法(方法B)を用いてもよい。
例えば、析出物等を金属材料13の表面に露出した状態のままSEMを用いて観察する場合は、通常、金属材料13の電解量は少なくてよいため、電解液5に溶出する妨害元素の量も少ない。この場合、方法Bであっても、上述した効果が期待できる。
もっとも、金属材料13の表面に露出した析出物等を捕集して、定量分析する場合は、金属材料13の電解量は相対的に多いことから、電解液5を流動させる方法としては、上述した効果を十分に得る観点からは、方法Aが好ましい。
【実施例】
【0049】
以下に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。ただし、本発明は、以下に説明する実施例に限定されない。
【0050】
〈発明例1〉
図1に基づいて説明した電解システム1を用いて、以下に説明するように、金属材料13を電解し、その後、析出物等を抽出した。
【0051】
陰極12としては、Pt板を用いた。
陽極14を構成する金属材料13として、2.1質量%のNiおよび1.1質量%のMoを含有する円柱状(直径:3.8mm、長さ:33.6mm)の鉄鋼材料を用いた。円柱状の金属材料13の側面に、Pt製のリード線25を巻き付けることにより、陽極14を作製した。
【0052】
電解液5としては、AA電解液(アセチルアセトン-塩化テトラメチルアンモニウム-メタノール)を用いた。アセチルアセトンの含有量は、10体積%であった。また、電解液100mL中の塩化テトラメチルアンモニウムの含有量は、1gであった。
【0053】
電解槽11としては、一面側に開口部11aを有する円柱状の容器を用いた。容器の開口部11aとは反対側の面に穴を開け、コック18が付いたホースを取り付けることにより、排出口17を形成した。
シリコン製のチューブ35の一端を電解液タンク20に接続し、他端を注入口19として、電解槽11の開口部11aに配置した。より詳細には、注入口19は、排出口17と対向する位置に配置した。チューブ35の途中には、ペリスタポンプであるポンプ30を配置した。
電解槽11の内部に、陰極12および陽極14(金属材料13)を配置し、ポテンショ・ガルバノスタットである電気化学測定装置40を接続した。
このとき、注入口19と排出口17とを結ぶ直線と、陽極14を構成する円柱状の金属材料13の側面とを平行にした。更に、注入口19の真下に、円柱状の金属材料13の上面を配置した。
【0054】
排出口17のコック18を開けた状態で、ポンプ30を駆動させた。
これにより、電解液5を、注入口19から電解槽11の内部に注入しつつ、排出口17から排出した。このように、電解液5の注入および排出を実施することにより、電解液5を円柱状の金属材料13の側面に沿って流動させた。
このとき、電解液5の流動速度を0.75mm/sとした。流動速度は、排出口17から排出される電解液5の単位時間あたりの体積(単位:mm3/s)を計測し、これを電解槽11の底面の面積(単位:mm2)で除することにより求めた。
【0055】
なお、別途、電解槽11の中に、浮きを入れて、金属材料13の側面に沿って流動する電解液5の流動速度を求めたところ、上記と変わらない結果が得られた。
【0056】
この状態において、電気化学測定装置40を駆動させた。こうして、電解液5を流動させながら、金属材料13の電解面を電解した。電解による金属材料13の溶解量(電解量)は、0.02g程度とした。
【0057】
電解後の金属材料13をメタノール中に浸漬させて超音波振動を付与し、その後、このメタノールを、ろ紙を用いてろ過した。ろ紙としては、グローバルライフサイエンステクノロジーズジャパン社製の「ニュークリポアメンブレン」(孔径:0.2μm)を用いた。ろ紙上の残渣を、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察した。
【0058】
図3は、発明例1の残渣を示すSEM像である。
図3中に矢印で示すように、SEM像においては、球体状の析出物等が明瞭に確認できた。更に、SEMに搭載されたエネルギー分散型X線分析装置(EDS)を用いて分析したところ、球体状の析出物等は、MnSであることが分かった。
このとき、球体状の析出物等の表面上には、Fe、NiおよびMoを含有する電解生成物は観察されなかった。
【0059】
〈比較例1〉
比較例1では、電解槽11として市販のビーカーを用いることにより電解液5を流動させなかったこと以外は、発明例1と同様にして、金属材料13を電解し、その後、ろ紙を用いてろ過を実施した。
【0060】
図4は、比較例1の残渣を示すSEM像である。
図4中に矢印で示すように、SEM像においては、球体状の析出物等のほかに、その表面を覆う被覆物が確認された。
SEMに搭載されたEDSを用いて分析したところ、球体状の析出物等はMnSであること、および、被覆物はFe、NiおよびMoを含有する化合物であることが分かった。
この化合物は、電解を実施する前の金属材料13の表面を観察したSEM像(図示せず)においては確認されなかったことから、電解により生成した化合物(電解生成物)であると推測できる。
【0061】
以上のことから、電解液5を流動させながら金属材料13を電解した発明例1においては、析出物等の表面上に電解生成物が形成されることを抑制できたと言える。
【0062】
〈発明例2~5〉
発明例2~5では、電解液5の流動速度を、1.33mm/s(発明例2)、0.48mm/s(発明例3)、0.37mm/s(発明例4)または0.12mm/s(発明例5)に変更した。それ以外は、発明例1と同様にして、金属材料13を電解し、その後、ろ紙を用いてろ過を実施した。
SEMを用いて、ろ紙上の残渣を観察した。その結果、発明例4~5のSEM像(図示せず)においては、析出物等の表面上に、微量の電解生成物が観察される場合があった。これに対して、発明例2~3のSEM像(図示せず)においては、発明例1と同様に、析出物等の表面上に電解生成物は観察されなかった。
【符号の説明】
【0063】
1:電解システム
5:電解液
10:電解装置
11:電解槽
11a:開口部
12:陰極
13:金属材料
14:陽極
15:導線
16:導線
17:排出口
18:コック
19:注入口
20:電解液タンク
25:リード線
30:ポンプ
35:チューブ
40:電気化学測定装置
【要約】
電解液を流動させながら金属材料を電解する。これにより、金属材料中の析出物および/または介在物(析出物等)を正確に、かつ、簡便に抽出できる。上記電解液を上記金属材料の上記電解液と接する面である電解面の少なくとも一部に沿って流動させながら、上記電解を実施することが好ましい。上記電解面に沿って流動する上記電解液の流動速度が、0.48mm/s以上であることが好ましい。上記金属材料および上記電解液が電解槽に収容され、上記電解液を、上記電解槽に対して注入および排出することにより、上記電解液を流動させることが好ましい。