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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-21
(45)【発行日】2024-10-29
(54)【発明の名称】調味用組成物及び飲食品
(51)【国際特許分類】
   A23L 27/00 20160101AFI20241022BHJP
   A23L 23/00 20160101ALI20241022BHJP
   A23L 35/00 20160101ALI20241022BHJP
【FI】
A23L27/00 D
A23L23/00
A23L35/00
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020114192
(22)【出願日】2020-07-01
(65)【公開番号】P2021013377
(43)【公開日】2021-02-12
【審査請求日】2023-04-27
(31)【優先権主張番号】P 2019128020
(32)【優先日】2019-07-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】519250992
【氏名又は名称】株式会社FDJ
(73)【特許権者】
【識別番号】591045471
【氏名又は名称】アピ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】大和 敏彦
【審査官】手島 理
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-075101(JP,A)
【文献】特開平11-187841(JP,A)
【文献】特開平05-227911(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)塩化カリウムと、
(B)アスパラギン酸塩と、
(C)甘味料として糖アルコールと、
(D)アスパラギン酸塩以外の1種以上のうま味成分とを含有し、
前記(A)塩化カリウムと前記(C)甘味料との含有量の質量比が1~100:1であり、前記(D)うま味成分と前記(C)甘味料との含有量の質量比が1~100:1であることを特徴とする調味用組成物。
【請求項2】
(A)塩化カリウムと(B)アスパラギン酸塩との含有量の質量比が0.1~10:1であることを特徴とする請求項1に記載の調味用組成物。
【請求項3】
(A)塩化カリウムと(C)甘味料との含有量の質量比が~100:1であることを特徴とする請求項1又は2に記載の調味用組成物。
【請求項4】
(D)うま味成分と(C)甘味料との含有量の質量比が~100:1であることを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の調味用組成物。
【請求項5】
前記(B)アスパラギン酸塩がアスパラギン酸ナトリウムであり、
前記(C)甘味料がマンニトールであり、
前記(D)うま味成分がグルタミン酸塩を含む
ことを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載の調味用組成物。
【請求項6】
前記(D)うま味成分が核酸系物質を含むことを特徴とする請求項1~5のいずれか一項に記載の調味用組成物。
【請求項7】
酸味、甘味、塩味の味覚センサーの出力値がいずれも、同量のグルタミン酸塩の出力値の1.0倍以上であり、うま味が同量のグルタミン酸塩の出力値の-3.0以上であることを特徴とする請求項1~6のいずれか一項に記載の調味用組成物。
【請求項8】
全量100質量部あたり、(a)塩化カリウムが5~50質量部、(b)アスパラギン酸ナトリウムが5~50質量部、(c)マンニトールが0.1~25質量部、及び(d)グルタミン酸ナトリウムが5~50質量部を含有し、酸味、甘味、塩味の味覚センサーの出力値がいずれも、同量のグルタミン酸ナトリウムの1.0倍以上であり、うま味が同量のグルタミン酸塩の出力値の-3.0以上であることを特徴とする請求項1に記載の調味用組成物。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載の調味用組成物を含有する飲食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品の呈味を改善するとともに減塩に寄与する調味用組成物及び飲食品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、料理や食品の呈味を改善するための調味料として、グルタミン酸ナトリウムを主成分とするうま味調味料が広く用いられている。
ヒトが食したときに「おいしい」と感じる味覚は、「五原味」、すなわち、味蕾を通じて知覚される酸味、甘味、塩味、苦味、そして、うま味の5つの感覚要素が複合して成立しているとされる。この五原味の優れたバランスによって高度なおいしさを追求する「五味調和」という概念が古来から知られている。グルタミン酸ナトリウムは、この中の特にうま味について食品の呈味を向上させるための調味料として用いられており、その普及は目覚ましい。グルタミン酸ナトリウムは、工業的に大量生産が可能で、安価かつ大量に供給可能であることから、呈味を手軽に改善するために、加工食品から飲食店や個々の家庭まで、食に関する様々な段階で広く利用されている。
【0003】
種々の料理や加工食品においてヒトをより「おいしい」と感じさせるべく、食品の呈味におけるうま味を突出して強化するためにグルタミン酸ナトリウムが添加されている。うま味調味料主体の調味が主流となり、あらゆる場面でうま味調味料が多用されるようになって、「おいしい」という概念が、「うま味が強い」ということと同義であるかのような風潮すら生じているが、本来の「おいしさ」とは五味の調和からもたらされる。食材本来の持ち味を引き出し、まとめあげる調味によってこそ、本当の「おいしさ」が成立する。
【0004】
一方で、グルタミン酸ナトリウムの呈するうま味をさらに改善するために、他の成分を配合する技術も開発されており、種々利用可能になっている。例えば、特許文献1には、グルタミン酸とグルタチオンを配合することで、呈味を向上させる技術が開示されている。
【0005】
また、近年、ナトリウム過剰摂取によって高血圧等の成人病の発症リスクが高まるおそれがあることから、食品における減塩が求められている。ナトリウムの過剰摂取につながりやすい調味料を避けて減塩するために、塩化ナトリウムの代わりに塩化カリウムなどカリウム塩を用いた調味料が研究されている。例えば、特許文献2には、塩化ナトリウムと塩化カリウムとを含有し、糖類、昆布エキス等を配合した調味料が開示されている。
【0006】
しかし、一般に塩化カリウムには苦味やエグ味が伴う。そのため、特許文献2の技術のように種々の配合による呈味改善の工夫がなされている。しかしながら、呈味の問題を十分に解決するには至っておらず、塩化カリウムを用いた減塩調味料は普及していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特公昭63-13661号公報
【文献】特開2002-325554号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このような状況にあって、グルタミン酸ナトリウムが家庭の食卓、外食店、そして加工食品一般で常用されるうちに、総合的なおいしさではなく、うま味を向上させることがすなわち「おいしい」食品を提供することであるという観念が定着し、ついにはグルタミン酸ナトリウムを中心としたうまみ調味料が過剰に用いられるようになった。その結果、五味調和の概念からは遠ざかり、五原味の中でもうま味が突出した呈味の食品が氾濫し画一化が生じるようになった。さらには、多量のグルタミン酸ナトリウムを含む食品に慣れることでヒトの味覚に変性が生じ、食材・食品のもつ本来のおいしさに対する知覚が鈍くなるなど、味覚力の低下が生じ、ひいてはおいしさがよくわからなくなってしまうという問題も生じるようになった。
【0009】
塩分摂取と健康との関係に目を向けると、グルタミン酸ナトリウムを多量に摂取すると、ナトリウムの過剰摂取につながるおそれがある。また、従来のグルタミン酸ナトリウムを主とするうま味調味料は、五味のうち「うま味」を強化することに特化しているため、食品の総合的なおいしさをさらに追求する場合、さらなる塩分を必要とする。このため、従来のうま味調味料によっては画期的な減塩の実現は困難であった。従来のうま味調味料を多用すると食塩摂取も亢進しがちであり、ナトリウムの一層の過剰摂取によって高血圧などの健康被害をもたらすおそれがある。このため、グルタミン酸ナトリウムの使用を控えながら、総合的にバランスのよいおいしさを向上させることの可能な調味用組成物が求められていた。
【0010】
本発明の目的は、上記の実情を鑑み、総合的なバランスのとれた呈味をもたらす調味用組成物及び飲食品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するための調味用組成物は、(A)塩化カリウムと、(B)アスパラギン酸塩と、(C)甘味料と、(D)アスパラギン酸塩以外の1種以上のうま味成分とを含有することを特徴とする。
【0012】
上記調味用組成物において、(A)塩化カリウムと(B)アスパラギン酸塩との含有量の質量比が0.1~10:1であってもよい。
上記調味用組成物において、(A)塩化カリウムと(C)甘味料との含有量の質量比が1~100:1であってもよい。
【0013】
上記調味用組成物において、(D)うま味成分と(C)甘味料との含有量の質量比が1~100:1であってもよい。
上記調味用組成物において、前記(B)アスパラギン酸塩がアスパラギン酸ナトリウムであり、前記(C)甘味料がマンニトールであり、前記(D)うま味成分がグルタミン酸塩を含んでもよい。
【0014】
上記調味用組成物において、前記(D)うま味成分が核酸系物質を含んでもよい。
上記調味用組成物において、酸味、甘味、塩味の味覚センサーの出力値がいずれも、同量のグルタミン酸塩の出力値の1.0倍以上であり、うま味が同量のグルタミン酸塩の出力値の-3.0以上であってもよい。
【0015】
上記課題を解決するための調味用組成物は、全量100質量部あたり、(a)塩化カリウムが5~50質量部、(b)アスパラギン酸ナトリウムが5~50質量部、(c)マンニトールが0.1~25質量部、及び(d)グルタミン酸ナトリウムが5~50質量部を含有し、酸味、甘味、塩味の味覚センサーの出力値がいずれも、同量のグルタミン酸ナトリウムの1.0倍以上であり、うま味が同量のグルタミン酸塩の出力値の-3.0以上であることを特徴とする。
【0016】
上記課題を解決するための飲食品は、前記調味用組成物を含有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、総合的なバランスのとれた呈味をもたらすことができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(第1実施形態)
以下、本発明の調味用組成物を具体化した第1実施形態を説明する。
本発明の調味用組成物は、(A)塩化カリウムと、(B)アスパラギン酸塩と、(C)甘味料と、(D)アスパラギン酸塩以外の1種以上のうま味成分とを含有する。
【0019】
(B)アスパラギン酸塩の具体例としては、例えばアスパラギン酸ナトリウム、アスパラギン酸カルシウム、アスパラギン酸カリウム、アスパラギン酸マグネシウム等が挙げられる。しかしながら、これらに限定されるものではなく、本発明の優れた効果を奏する範囲で飲食品に適用される種々のアスパラギン酸塩を使用できる。(B)アスパラギン酸塩は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0020】
(C)甘味料の具体例としては、例えばラクチトール、マルチトール、マンニトール、ソルビトール、エリスリトール、キシリトール等の糖アルコール、ブドウ糖、果糖、麦芽糖、ショ糖、オリゴ糖等の糖類、アセスルファムカリウム、アスパルテーム、スクラロース、トレハロース等の人工甘味料、砂糖、黒糖、蜂蜜、メープルシロップ、アガベシロップ等の天然素材から得られるもの等が挙げられる。しかしながら、これらに限定されるものではなく、本発明の優れた効果を奏する範囲で飲食品に適用される種々の甘味料を使用できる。(C)甘味料は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0021】
(D)うま味成分としては、例えば昆布、魚介類、椎茸、その他の食材から得られるエキス、一般にうま味調味料として使用されるアミノ酸類(アスパラギン酸塩を含まない)、核酸系物質、有機酸類等が挙げられる。アミノ酸類の具体例としては、例えばグルタミン酸、タウリン、ベタイン、グリシン、クレアチン、アラニン等のアミノ酸類と、それらのナトリウム塩、カルシウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩等が挙げられる。核酸系物質の具体例としては、例えばイノシン酸、グアニル酸、アデシン酸、シチジル酸等と、これらのナトリウム塩、カルシウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩等が挙げられる。有機酸類の具体例としては、例えばコハク酸、リンゴ酸等と、これらのナトリウム塩、カルシウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩等が挙げられる。これらは具体例に限定されるものではなく、本発明の優れた効果を奏する範囲で飲食品に適用される種々のうま味成分を使用することができる。(D)うま味成分は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。(D)うま味成分としては、グルタミン酸ナトリウムが好ましいが、他のグルタミン酸塩であってもよいし、その他の(D)うま味成分を用いるようにしてグルタミン酸ナトリウムを一切含有しないものとしてもよい。
【0022】
本発明の調味用組成物は、(D)うま味成分として核酸系物質を含むものが好ましい。本構成によると、(B)アスパラギン酸塩に加えて(D)うま味成分として核酸系物質を含むことで、総合的な呈味をさらに優れたものにすることができる。なお、本構成においても、(D)うま味成分は、核酸系物質のみに限られるものではなく、核酸系物質以外の他のうま味成分を併せて含有するものであってもよい。
【0023】
また、本発明の調味用組成物は、(A)塩化カリウムと(B)アスパラギン酸塩との含有量の質量比が0.1~10:1であることが好ましく、0.5~5:1であることがより好ましく、0.8~2:1であることがさらに好ましい。本構成によると、(A)塩化カリウムと(B)アスパラギン酸塩との所定割合の配合により、(A)塩化カリウムの呈する不快なエグ味を効果的に抑制し、総合的に呈味のよい調味用組成物を提供することができる。
【0024】
また、本発明の調味用組成物は、(A)塩化カリウムと(C)甘味料との含有量の質量比が0.1~100:1であることが好ましく、1~100:1であることがより好ましく、5~20:1であることがさらに好ましい。本構成によると、(C)甘味料の所定割合の配合により、(A)塩化カリウムの呈する不快なエグ味を効果的に抑制し、さらに呈味のよい調味用組成物を提供することができる。
【0025】
また本発明の調味用組成物は、(D)うま味成分と(C)甘味料との含有量の質量比が1~100:1であることが好ましく、5~20:1であることがより好ましい。本構成によると、(D)うま味成分と(C)甘味料の所定割合の配合により、(A)塩化カリウムの呈する不快なエグ味を効果的に抑制し、さらに呈味のよい調味用組成物を提供することができる。
【0026】
また、本発明の調味用組成物は、(B)アスパラギン酸塩がアスパラギン酸ナトリウムであり、(C)甘味料がマンニトールであり、(D)うま味成分がグルタミン酸塩を含むものであることが好ましい。本構成によると、安価かつ一般に入手しやすい素材の組み合わせによりながら、従来のうま味調味料よりも五原味のバランスを大幅に向上させた調味用組成物を提供することができる。なお、本構成において、(D)うま味成分は、グルタミン酸塩のみに限られるものではなく、グルタミン酸塩とその他の上述したうま味成分を含む2種類以上の素材を含有するものであってもよい。
【0027】
また、本発明の調味用組成物は、酸味、甘味、塩味の味覚センサーの出力値がいずれも同量のグルタミン酸塩の1.0倍以上であり、うま味が同量のグルタミン酸塩の出力値の-3.0以上であるとすることもできる。
【0028】
味覚測定装置は、生体膜を模倣した構造であって脂質と高分子を配合した人口の脂質膜電極を用いた味物質受容部を備えており、脂質膜電極が、味物質と電気的な相互作用をしたり、味物質を吸着したりすることで、味物質の性質を電圧に変換する。用いる脂質膜の種類と測定された応答電位とによって、人間が舌で感じる酸味、甘味、塩味、苦味、うま味の五味を数値化することができ、各味覚物質の濃度に応じて0~120mV程度の強度範囲の電気信号として出力する。このような味覚測定装置としては、種々のものが市場に提供されている。例として、株式会社インテリジェントセンサーテクノロジーのTS-5000Z、フランスのアルファモス社のASTREE等が挙げられるが、これらに限定されるものではなく、種々の味覚測定装置を用いることができる。
【0029】
上述した本発明の調味用組成物は、(A)塩化カリウム、(B)アスパラギン酸塩、(C)甘味料及び(D)うま味成分を配合することで、五原味のバランスをとり、特に酸味、甘味、塩味、苦味を向上させることで、添加した食品が従来のうま味調味料を主とした調味よりも食材本来のおいしさを引き出した深みのある味となり、食したときによりおいしく感じられるようになる。
【0030】
本発明の調味用組成物中における(A)塩化カリウムの含有量は、適宜設定されるが好ましくは5~50質量%、より好ましくは10~50質量%、さらに好ましくは20~40質量%である。かかる範囲に規定することにより、呈味のバランス向上と、グルタミン酸塩や食塩の使用を抑制することができる。
【0031】
本発明の調味用組成物中における(B)アスパラギン酸塩の含有量は、適宜設定されるが、好ましくは5~50質量%、より好ましくは10~50質量%、さらに好ましくは20~40質量%である。かかる範囲に規定することにより、呈味のバランス向上と、グルタミン酸塩の使用を抑制することができる。
【0032】
本発明の調味用組成物中における(C)甘味料の含有量は、適宜設定されるが、好ましくは0.1~25質量%、より好ましくは1~10質量%、さらに好ましくは2~5質量%である。かかる範囲に規定されることにより、呈味のバランス向上と、グルタミン酸塩等のうま味成分の過剰使用を抑制することができる。
【0033】
本発明の調味用組成物中における(D)うま味成分の含有量は、適宜設定されるが、好ましくは5~50質量%、より好ましくは10~40質量%、さらに好ましくは20~35質量%である。かかる範囲に規定されることにより、呈味のバランス向上の向上を図ることができ、グルタミン酸塩等のうま味成分の過剰使用の抑制を図ることができる。特にグルタミン酸ナトリウムを用いる場合には、ナトリウム摂取の抑制の点からも上記の範囲の含有量とすることが好ましい。
【0034】
また、(D)うま味成分の中でも核酸系物質の調味用組成物中における含有量は、適宜設定されるが、好ましくは0.1~20質量%、より好ましくは1~10質量%、さらに好ましくは2~5質量%である。かかる範囲に規定されることにより他の成分との相乗効果によるうま味向上の効果を図ることができる。
【0035】
本発明の調味用組成物は、例えばそれぞれ粉末状の(A)塩化カリウム、(B)アスパラギン酸塩、マンニトール等の(C)甘味料、グルタミン酸ナトリウム等の(D)うま味成分を混合して製造することができる。また、(A)塩化カリウム、(B)アスパラギン酸塩、(C)甘味料、(D)うま味成分のうち、2種類以上の素材を水に溶解させたのち、熱風乾燥、フリーズドライ、スプレードライ等の一般的な方法で乾燥粉末を得るようにしてもよい。
【0036】
調味用組成物の配合は、本発明の主旨に合致する範囲において種々に変えることができ、従来の化学調味料と比較してバランスのとれた五原味を呈するので、調味料として種々の食品に用いることができる。また、グルタミン酸ナトリウム及び食塩の使用を抑制または除外することができるので、呈味を損なうことなく塩分の過剰摂取を抑制することができる。
【0037】
例えば調味用組成物として(A)塩化カリウム、(B)アスパラギン酸塩、マンニトール、グルタミン酸ナトリウムが含有される場合、それらの各々の配合量は、種々に定めることができる。特に(A)塩化カリウムと(B)アスパラギン酸塩との質量比を0.1~10:1とすると、グルタミン酸ナトリウムからなるうま味調味料と比較して、五原味のバランスが顕著に改善される。また、かかる構成において(A)塩化カリウムとマンニトールとの質量比を0.1~100:1とすると、グルタミン酸ナトリウムからなるうま味調味料と比較して、五原味のバランスが顕著に改善される。また、(A)塩化カリウム、アスパラギン酸塩、マンニトールを組み合わせることで、五原味のバランスを顕著に改善し、うま味成分としてグルタミン酸ナトリウムを用いずとも呈味のよい調味用組成物とすることができる。
【0038】
(第2実施形態)
以下、本発明の調味用組成物を具体化した第2実施形態を説明する。本発明の調味用組成物は、全量100質量部あたり、(a)塩化カリウムが5~50質量部、(b)アスパラギン酸ナトリウムが5~50質量部、(c)マンニトールが0.1~25質量部、(d)グルタミン酸ナトリウムが5~50質量部を含有する。また、酸味、甘味、塩味の味覚センサーの出力値がいずれも同量のグルタミン酸塩の1.0倍以上であり、うま味が同量のグルタミン酸塩の出力値の-3.0以上である。
【0039】
本構成によると、従来のグルタミン酸ナトリウム主体のうま味調味料よりも五原味のバランスがよく、呈味を向上させた調味用組成物を提供することができる。
本実施形態の調味用組成物の効果について説明する。
【0040】
(1)上記調味用組成物において、上述した(A)~(D)成分を配合した。したがって、総合的なバランスのとれた呈味をもたらすことができる。
(2)また、グルタミン酸ナトリウムの使用を抑制しながら、グルタミン酸ナトリウムを主成分とする従来のうま味調味料よりも高度に総合的なバランスのとれた呈味のよい調味用組成物を提供できる。これにより、グルタミン酸ナトリウムによらずとも食材のおいしさを引き出す調味が可能となる。
【0041】
(3)また、本発明の調味用組成物によると、ナトリウムをカリウムで代替して減塩を図る場合に生じるエグ味・不快感を、(B)アスパラギン酸塩、(C)甘味料及び(D)うま味成分によるマスキング効果によって抑制することができる。一方で、カリウムによる適度な苦味を加えることで、酸味、甘味、塩味、苦味及びうま味の五原味に関して、従来のグルタミン酸塩単体のうま味調味料よりも総合的なバランスに優れた呈味の調味用組成物を提供できる。
【0042】
(4)また、従来のグルタミン酸ナトリウムを中心としたうま味調味料に依存した調味の場合と比較して、成分中のナトリウムをカリウムで代替するとともに、うま味調味料の五原味のバランスを向上させて総合的なおいしさを高めることで、食塩の使用量を低減させて、塩化ナトリウムの摂取を抑制することができる。
【0043】
(5)さらに、(A)塩化カリウムには、摂取したヒトの体内でナトリウムを吸着して体外に排出する作用があるので、減塩効果をさらに高めることができる。
(6)上記調味用組成物は、酸味、甘味、塩味、苦味について、いずれもグルタミン酸ナトリウムを主成分とする従来のうま味調味料を大きく上回り、うま味を含めた五原味を含めた総合的な呈味においても、従来よりもおいしい調味用組成物を提供することができる。上記調味用組成物は、グルタミン酸ナトリウムを基準とした場合に、酸味、甘味、塩味についての味覚計測値が、いずれも同量のグルタミン酸ナトリウムの1.0倍以上の度合いとなる。そして、うま味を同量のグルタミン酸塩の出力値の-3.0未満に低下させることなく、酸味、甘味、塩味のいずれも高めることができ、五原味のバランスを顕著に向上させることができる。
【0044】
本実施形態の調味用組成物は、グルタミン酸ナトリウムからなるうま味調味料と塩分含有量を比較したときに高い減塩効果をもたらすことができる。例えば塩化カリウムと甘味料の含有量を合計で55質量%として、うま味成分としてグルタミン酸ナトリウムを、アスパラギン酸塩としてアスパラギン酸ナトリウムを用いる場合、食塩換算でナトリウムを最大で約50%減らすことができる。同様に、塩化カリウムと甘味料の含有量を合計で10質量%とした場合にも、食塩換算でナトリウムを最大で約50%減らすことができる。上記調味用組成物のアスパラギン酸ナトリウムとグルタミン酸ナトリウムの含有量を合計で69質量%以下とすれば、食塩換算で25%以上減塩することができる。
【0045】
なお、上記実施形態は以下のように変更して実施できる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施できる。
・上記調味用組成物の実施形態である調味用組成物は、種々の飲食品に適用することができる。例えばうどん、そば、吸い物、味噌汁、煮物、炊き込みご飯等の料理の他、和風に限らず様々な料理において呈味の改善を図ることができる。また、弁当、漬物、その他調理済みの食品、菓子など、各種の加工食品に利用してもよい。また、粒状や顆粒状にする場合など、必要に応じて一般に用いられ得る賦形剤等を添加してもよい。
【0046】
利用方法としては、調味料として加えられるグルタミン酸ナトリウムの全て又は一部を上記調味用組成物に置き換えることにより適用してもよい。それにより飲食品のバランスのとれた呈味を向上させることができる。また、上記飲食品に加えることにより適用してもよい。それによりバランスのとれた呈味に近づけることができる。
【実施例
【0047】
次に、実施例及び比較例を挙げて前記実施形態を更に具体的に説明する。尚、本発明は、実施例欄記載の構成に限定されるものではない。
以下、実施例5,9,12~14は、参考例5,9,12~14に読み替えるものとする。
<試験例1:呈味官能試験>
(a)試験群1
下記表1に示される粉末状の各成分を所定の配合割合で混合することにより各例の調味用組成物を調製した。なお、表1中におけるGluNaは、グルタミン酸ナトリウムを示す。AspNaは、アスパラギン酸ナトリウムを示す。核酸系物質はイノシン酸ナトリウムとグアニル酸ナトリウムを各50質量%の割合で配合したものを使用した。実施例1は、甘味料としてマンニトールを使用した。実施例2、比較例2,3は、甘味料としてマルチトールを使用した。
【0048】
各例の調味用組成物を水に溶解し、濃度0.7質量%に調整して得られた各例の調味用組成物の水溶液をパネリストが口に含み、塩味、酸味、甘味、苦味、うま味に基づいて5原味のバランスが取れた呈味を感じるか否かについて官能評価を行った。12名のパネルで行い、以下の基準で評価した。
【0049】
非常に5原味のバランスが取れとても良い呈味を感じる場合を5点、5原味のバランスが取れ良い呈味を感じる場合4点、5原味のバランスがやや取れていて呈味がやや良いと感じる場合を3点、原味のバランスがやや欠けていて呈味がやや悪いと感じる場合を2点、原味のバランスが欠けていて呈味が悪いと感じる場合を1点として評価した。12名の点数から平均点を算出し、グルタミン酸ナトリウムのみを用いた参考例1の平均点を100とした場合、他の例の調味用組成物の点数の相対値を算出した。結果を表1に示す。
【0050】
【表1】
実施例1は、参考例1の調味用組成物に対してグルタミン酸ナトリウムの量が約1/3であるが、参考例1よりもバランスの良い呈味を感じることが確認された。グルタミン酸ナトリウムの使用を抑制しながら、グルタミン酸ナトリウムを主成分とする従来のうま味調味料よりも高度に総合的なバランスのとれた呈味のよい調味用組成物を提供できることが確認された。比較例1~3に示されるように、本願発明のいずれの成分が欠けても、5原味のバランスが崩れ、呈味の良さが損なわれることが確認された。
【0051】
また、実施例1は、同量のグルタミン酸ナトリウムに対してより優れた呈味でありながら、参考例1の従来のうま味調味料と比較して28%の減塩率となっており、飲食品の減塩における有効性が高い。
【0052】
(b)試験群2
下記表2に示される各例の配合割合からなる調味用組成物を調製した。なお、表2中における表記は表1と同様である。実施例3~6は、甘味料としてマルチトールを使用した。試験群1と同様の基準及び方法にて、官能評価を行った。実施例6の官能評価に基づく平均点を100とした場合、実施例3~5の調味用組成物の点数の相対値を算出した。結果を表2に示す。
【0053】
【表2】
表2に示されるように、アスパラギン酸塩に含有量に対するKClの含有量が0.1を下回る実施例5は、実施例4に対して呈味の総合評価が著しく低下してくることが確認された。アスパラギン酸塩に含有量に対するKClの含有量が10を上回る実施例6は、実施例3に対して呈味の総合評価が著しく低下してくることが確認された。
【0054】
(c)試験群3
下記表3に示される各例の配合割合からなる調味用組成物を調製した。なお、表3中における表記は表1と同様である。実施例7~9,比較例4は、甘味料としてマルチトールを使用した。試験群1と同様の基準及び方法にて、官能評価を行った。比較例4の官能評価に基づく平均点を100とした場合、実施例7~9の調味用組成物の点数の相対値を算出した。結果を表3に示す。
【0055】
【表3】
表3に示されるように、甘味料の含有量に対するKClの含有量が1を下回ってくる実施例9は、実施例8に対して呈味の総合評価が著しく低下してくることが確認された。また、KClを含まない比較例4は、各実施例に対して呈味の総合評価がさらに低下することが確認された。
【0056】
(d)試験群4
下記表4に示される各例の配合割合からなる調味用組成物を調製した。なお、表4中における表記は表1と同様である。実施例10~14は、甘味料としてマルチトールを使用した。試験群1と同様の基準及び方法にて、官能評価を行った。実施例14の官能評価に基づく平均点を100とした場合、実施例10~13の調味用組成物の点数の相対値を算出した。結果を表4に示す。
【0057】
【表4】
表4に示されるように、甘味料に含有量に対するグルタミン酸ナトリウムの含有量が1を下回ってくる実施例12~14は、実施例11に対して呈味の総合評価が低下してくることが確認された。
【0058】
(e)試験群5
下記表5に示される各例の配合割合からなる調味用組成物を調製した。なお、表5中における表記は表1と同様である。実施例15,16は、甘味料としてマルチトールを使用した。試験群1と同様の基準及び方法にて、官能評価を行った。参考例1の官能評価に基づく平均点を100とした場合、実施例15,16の調味用組成物の点数の相対値を算出した。結果を表5に示す。
【0059】
【表5】
表5に示されるように、グルタミン酸ナトリウムの含有量が半分以下である実施例15,16は、グルタミン酸ナトリウム100%の参考例1と遜色ない程度に呈味の総合評価に優れることが確認された。グルタミン酸ナトリウムの使用を抑制しながら、グルタミン酸ナトリウムを主成分とする従来のうま味調味料よりも高度に総合的なバランスのとれた呈味のよい調味用組成物を提供できることが確認された。
【0060】
<試験例2:味覚センサー試験>
調味用組成物を調製し、味覚センサーを用いて測定値を求めた。味覚センサー試験は、株式会社キューサイ分析研究所に委託して実施した。
【0061】
表6に示される組成からなる参考例1及び実施例17,18の調味用組成物を調製した。実施例17,18は、甘味料としてマルチトールを使用した。
酸味、うま味、塩味、苦味の測定は、味覚センサーとして市販の味認識装置(インテリジェントセンサーテクノロジー社製、TS-5000Z)を使用した。甘味の測定は、味覚センサーとして電子味覚システム(アルファ・モス・ジャパン社製:ASTREE)を使用した。各例の粉末状の調味用組成物と蒸留水とを1:1で混合した液を測定に使用した。
【0062】
測定温度は20℃とした。測定した酸味、うま味、塩味、苦味の値は、単純な出力値ではなく、味の有無及び強さを示す値である補間加算値(出力値)として算出した。甘味は、段階的な濃度変化を設けたマルチトールについて、官能評価による点数と味覚センサーによる測定値とにより検量線を作成し、検体の測定値(出力値)から点数を求めた。参考例1の値を0基準として測定値差を求めた。結果を表6に示す。なお、味覚センサーで測定した値差について、+、-共に人の舌で感じられる差は、1.0以上が目安となる。
【0063】
【表6】
各実施例の調味用組成物によれば、市販のうま味調味料(グルタミン酸ナトリウム)よりもグルタミン酸ナトリウムが少量でも豊かな呈味をもたらすことができることが確認された。
【0064】
また、各実施例の調味用組成物によれば、グルタミン酸ナトリウムの配合量が少量であってもおいしく調味することができるので、従来のグルタミン酸ナトリウムからなるうま味調味料と比較して優れた減塩効果を実現することができる。以下の調理例に示すように、グルタミン酸ナトリウムや食塩の使用量を少なくしても呈味を損なうことがないので、種々の食品において減塩効果をもたらすことができる。
【0065】
<試験例3:調理例>
実施例1の調味用組成物を用いて、下記に示される飲食品素材(実施例A~C)を調理した。実施例1の調味用組成物を使用しない飲食品素材(比較例A~C)も併せて調理した。得られた飲食品素材を食した際の「おいしさ」、「味のバランス」について評価した。
【0066】
「おいしさ」は、5名からなるパネルが、各比較例の飲食品素材に対して、どの程度おいしいか、まずいかを下記に示される基準で評価し、平均点を算出した。その上で、どのようにおいしいかを自由記述式でコメントした。
【0067】
「おいしさ」の基準は、+2(おいしい)、+1(ややおいしい)、±0(どちらともいえない)、-1(ややまずい)、-2(まずい)の5段階で評価した。
「味のバランスの良さ」は、5名からなるパネルが、各比較例の飲食品素材に対して、どの程度バランスが良いか悪いかを下記の示される基準で評価し、平均点を算出した。味のバランスが良いとは、五原味のいずれかが突出したり薄く感じられたりすることがなく、呈味において違和感を与えない満足な状態をいう。味のバランスが悪いとは、五原味の一部のみが強く感じられたり、逆に一部の味が薄いと感じたりするような不満な状態をいう。
【0068】
「味のバランス」の基準は、+2(とてもバランスがよい)、+1(やや良い)、±0(どちらでもない:同等)、-1(やや悪い)、-2(とてもバランスが悪い)の5段階で評価した。
【0069】
(ア)調理例1:うどんつゆ
表7に示す配合に従い、実施例A及び比較例Aのうどんつゆを製造した。評価結果を表8に示す。
【0070】
【表7】
【0071】
【表8】
(イ)調理例2:コーンポタージュ
表9に示す配合に従い、実施例B及び比較例Bのコーンポタージュを製造した。実施例Bのコーンポタージュの製造方法を以下に示す。まず、バターを溶かしてコーンを炒め、牛乳を加えてひと煮立ちさせた。約2分間ミキサーにかけ、裏ごしをおこなった。鍋に戻し、本発明の実施例1の調味用組成物、砂糖、塩で調味して完成させた。比較例Bについても同様にして製造した。評価結果を表10に示す。
【0072】
【表9】
【0073】
【表10】
(ウ)調理例3:炒飯
表11に示す配合に従い、実施例C及び比較例Cの炒飯を製造した。実施例Cの炒飯の製造方法を以下に示す。まず、米を研ぎ、タマネギをみじん切りにした。卵以外の材料を表11に示す実施例Cの配合に従って混ぜ合わせ、炊飯器に入れて炊いた。炊き上がり後に溶き卵を入れて再加熱した。再加熱後、しゃもじで混ぜて完成させた。比較例Cについても同様にして製造した。評価結果を表12に示す。
【0074】
【表11】
【0075】
【表12】