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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-21
(45)【発行日】2024-10-29
(54)【発明の名称】特性検査システム
(51)【国際特許分類】
   A61B 3/024 20060101AFI20241022BHJP
   A61B 3/113 20060101ALI20241022BHJP
【FI】
A61B3/024
A61B3/113
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020184793
(22)【出願日】2020-11-05
(65)【公開番号】P2022074616
(43)【公開日】2022-05-18
【審査請求日】2023-10-13
(73)【特許権者】
【識別番号】501401618
【氏名又は名称】株式会社ファインデックス
(74)【代理人】
【識別番号】100121773
【弁理士】
【氏名又は名称】相原 正
(72)【発明者】
【氏名】相原 輝夫
【審査官】後藤 昌夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-141848(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0009714(US,A1)
【文献】国際公開第2008/139137(WO,A1)
【文献】特開2011-161122(JP,A)
【文献】特開2015-181868(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 3/024
A61B 3/113
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ディスプレイ上に視標を表示してユーザーの視線の動きからユーザーの特性を検査する特性検査システムにおいて、
前記ユーザーの視線を検出して前記視線の方向に関する視線情報を出力する視線検出部と、
前記ディスプレイ上に前記視標を表示する視標表示部と、
前記視標の位置情報と前記視線情報とに基づき、前記ユーザーが前記視標を視認しているか否かを判定する視認判定部と、
前記視標表示部を制御し、前記視標が表示された際の前記視線の動きに基づいて前記ユーザーの特性を検査する特性検査部と、を備え、
前記特性検査部は、複数の前記視標を前記ディスプレイ上に同時に表示した際の前記視線検出部から得られる前記ユーザーの前記視線の動きから前記ユーザーの特性を検査する複数視標検査部を備え、
前記複数視標検査部は、2つの前記視標を前記視線の位置から等距離の位置に同時に表示して検査することを特徴とする特性検査システム。
【請求項2】
前記特性検査部は、前記視線から離れた位置に前記視標が表示された際に、前記視標に対して前記ユーザーが可視状態であったか否かを判定する可視判定部を備え、
前記可視判定部は、前記複数視標検査部の検査により、複数の前記視標を同時に表示した際に、前記視線が複数の前記視標の真ん中に進み留まっている場合に、複数の前記視標が全て可視状態であると判定することを特徴とする請求項1記載の特性検査システム。
【請求項3】
前記特性検査部は、前記視線から離れた位置に前記視標が表示された際に、前記視標に対して前記ユーザーが可視状態であったか否かを判定する可視判定部を備え、
前記可視判定部は、前記複数視標検査部の検査により、複数の前記視標を同時に表示した際に、前記視線が、初期位置、何れかの前記視標及び複数の前記視標の真ん中以外の場所に進み留まっている場合に、複数の前記視標が全て不可視状態であると判定することを特徴とする請求項1記載の特性検査システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼の動きからユーザーの特性を検査する特性検査システムに関する。
【背景技術】
【0002】
ユーザーの眼の動きからユーザーの特性を検査する装置が従来から提供されており、例えば、下記特許文献1には、視線検出装置によりユーザーが視ている方向である視線を自動的に検出し、ユーザーが視標を視ているかどうかを自動的に判定することで、ユーザーの視野を計測する視野検査装置が開示されている。
【0003】
また、下記特許文献2には、眼の動きからユーザーの認知症を検出したり、鬱による認知機能の低下等を検出したりする装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2011-161122号公報
【文献】特開2017-176302号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、視標を使ってユーザーの特性を検査する装置は、順次表示される全ての視標をユーザーが実際に視たかどうかを判定しており、ユーザーの特性検査に時間がかかり、ユーザーへの検査の負担も大きい。
【0006】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであり、眼の動きから効率良くユーザーの特性を検査することのできる特性検査システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明に係る特性検査システムは、ディスプレイ上に視標を表示してユーザーの視線の動きからユーザーの特性を検査する特性検査システムにおいて、前記ユーザーの視線を検出して前記視線の方向に関する視線情報を出力する視線検出部と、前記ディスプレイ上に前記視標を表示する視標表示部と、前記視標の位置情報と前記視線情報とに基づき、前記ユーザーが前記視標を視認しているか否かを判定する視認判定部と、前記視標表示部を制御し、前記視標が表示された際の前記視線の動きに基づいて前記ユーザーの特性を検査する特性検査部と、を備え、前記特性検査部は、複数の前記視標を前記ディスプレイ上に同時に表示した際の前記視線検出部から得られる前記ユーザーの前記視線の動きから前記ユーザーの特性を検査する複数視標検査部を備え、前記複数視標検査部は、2つの前記視標を前記視線の位置から等距離の位置に同時に表示して検査することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、複数の視標を表示した際の視線の動きに基づいて、ユーザーの特性を効率良く検査することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、本発明の実施形態に係る特性検査システムの構成を概略的に示す模式図である。
図2図2は、本発明の実施形態に係るHMDの構成を概略的に示す要部断面図である。
図3図3は、本発明の実施形態に係るHMDの構成を概略的に示す要部斜視図である。
図4図4は、本発明の実施形態に係る視標表示部による視標の表示位置を示す図である。
図5図5は、本発明の実施形態に係る可視判定部の判定処理の流れを示すフローチャートである。
図6図6は、本発明の実施形態に係る可視判定領域を説明するための図である。
図7図7は、本発明の実施形態に係る複数視標検査部の反応検査の流れを示すフローチャートである。
図8図8は、本発明の実施形態に係る複数視標表示反応検査における複数視標の表示位置を示す図である。
図9図9は、本発明の実施形態に係る心因性視覚障害検査における複数視標の表示位置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態である特性検査システム1について詳細に説明する。特性検査システム1は、ユーザーの眼が視ている方向である視線を自動的に検出し、視標を表示した際の視線の動きに基づいてユーザーの特性を検査する。本実施形態では、複数の視標を同時に表示しながらユーザーの特性を検査することを特徴とする。
【0011】
特性検査システム1は、ヘッドマウントディスプレイ(HMD)10と、制御装置30と、HMD10と制御装置30とを接続する通信用のケーブル80とを備えている。HMD10は、被験者であるユーザーの頭に装着するためのベルトを含む筐体11と、ディスプレイ13と、凸レンズ14と、カメラ15と、ホットミラー16と、近赤外線の発光部18とを備えており、後述する視線検出部31と協働して、HMD10を装着するユーザーの眼が視ている方向である視線を自動的に検出する視線検出機能を備えている。
【0012】
ディスプレイ13は、液晶ディスプレイであり、ユーザーの右眼用ディスプレイ13a、左眼用ディスプレイ13bが、それぞれ左右の眼の前に対向して設置されている。ディスプレイ13とユーザーの眼との間には、左右それぞれに右眼用凸レンズ14a、左眼用凸レンズ14bが設置されている。ディスプレイ13に表示される画像は、凸レンズ14を介して、ユーザーの眼に映る。
【0013】
カメラ15は、ユーザーの眼を撮像する近赤外線カメラであり、非可視光である近赤外線に基づいて、ユーザーの左右の眼を撮影する。カメラ15も右眼用カメラ15aと左眼用カメラ15bが設置されている。
【0014】
ディスプレイ13と凸レンズ14との間には、近赤外線を反射し、可視光を透過させる多層膜が施されたホットミラー16a,16bが左右それぞれに設置されている。ディスプレイ13から照射される映像の可視光はホットミラー16を透過し、発光部18から照射される近赤外線の非可視光はホットミラー16で反射される。
【0015】
発光部18は、ユーザーの眼を撮影するための照明として近赤外線を照射するLED(IR-LED)である。発光部18a,18bは、凸レンズ14の周囲にユーザーの左右の眼に対向して、左右にそれぞれ設置されている。
【0016】
カメラ15は、ホットミラー16に対して、ディスプレイ13と反対側の眼側に設置されている。発光部18から直接ユーザーの眼に照射される近赤外線は、ユーザーの眼で反射してから凸レンズ14を介してホットミラー16で反射され、カメラ15へと到達して撮像される。
【0017】
制御装置30は、各種演算を行うためのCPU(Central Processing Unit)等の演算装置70と、各種情報を記憶するためのHDD(Hard Disc Drive)や演算処理のワークエリアとして使用されるRAM(Random Access Memory)等の記憶装置75とを備えている。
【0018】
記憶装置75は、後述する視線検出部31が出力する視線情報を記録する視線ログ記憶部76と、ディスプレイ13に表示する視標情報を記録する視標記憶部77とを備えている。
【0019】
また、制御装置30は、機能的に、視線検出部31と、視標表示部33と、視認判定部40と、特性検査部50とを備えており、これらの機能は、演算装置70が記憶装置75に記憶されている所定のプログラムを実行することで実現される。
【0020】
視線検出部31は、カメラ15の出力であるユーザーの眼の撮影画像に基づいてユーザーが視ている方向、すなわち、視線を検出する。視線を検出した視線検出部31は、極座標(球面座標)系上の2つの角度θ,φを視線の方向を表す視線情報(視線角)として出力する。本実施形態では、正面中心を原点として、角度θは、正面中心(原点)を向く視線から水平方向(横方向)の角度(°)を示し、角度φは、同じく正面中心から垂直方向(縦方向)の角度(°)を示している。
【0021】
上記極座標系の設定は、視野計測開始前のキャリブレーションにおいて行われる。具体的には、予め指定する視標を凝視させ、その画像を極座標の原点(眼球中心)と対応させた後、指定した別の極座標となる点を凝視させた画像を記憶する。各々の画像に捉えた瞳の中心の位置と、それぞれを凝視させた極座標の相関を求めることで、画像から極座標系における視線角(θ,φ)を求めることができる。
【0022】
この視線検出部31による視線の検出は、右眼、左眼に対して独立して行われ、約15ms毎に視線情報が視線ログ記憶部76に時系列に記録される。視線ログ記憶部76に記録される視線情報には、上述した視線角(θ,φ)が含まれる。
【0023】
視標表示部33は、視標記憶部77に記録されている視標情報に基づき、ディスプレイ13上に所定の大きさの視標を所定の位置に表示させる。なお、視標記憶部77に記憶される視標情報には、各視標の表示位置を示す位置情報として、上記極座標系における2つの角度θ,φが用いられ、水平角度θと垂直角度φから、視標の表示位置を表す視標角(θ,φ)が定められる。
【0024】
図4は、ディスプレイ13上に表示される視標の表示位置を示しており、水平角度θを横軸、垂直角度φを縦軸としている。各軸の目盛は、10°、20°、30°を示している。視標角(θ,φ)の位置に表示された視標をユーザーが視認しているときに、視野角(θ,φ)となる。本実施形態では、正面中心から水平方向及び垂直方向の双方において、視野角度30°以内に視標が表示される。
【0025】
なお、各視標をディスプレイ13上に表示する際には、視標表示部33は、各視標にユーザーの視線が到達して視認した際の視線角が当該視標の視標角と同じになるように、ユーザーの眼を中心とする極座標上に上記視標角で表示される視標と原点とを結ぶ直線をディスプレイ13上の平面まで延長した位置に各視標を表示する。
【0026】
視認判定部40は、衝突判定部41を備えており、視線検出部31により検出した視線とディスプレイ13上に表示された視標の座標とに基づいて、ユーザーの視線が視標に到達しているか否か、すなわち、ユーザーが視標を実際に視認しているか否かを判定する。
【0027】
衝突判定部41は、所定の座標系上で視線検出部31が検出した視線方向の延長線が対象となる視標と物理的に衝突するか否かで、ユーザーが視標を視認しているか否かを判定する。具体的には、衝突判定部41は、視線検出部31が検出した視線角と、対象となる視標の位置を表す視標角とを対比し、角度差が2°以内であれば、衝突したとして視認したと判定する。
【0028】
なお、視認判定部40は、視線情報のログから論理的な判定手法により視認判定するようにしても良い。例えば、視線が対象となる視標に近接し、且つ、当該視標の近くに位置(凝視)し続けている場合に、視認判定部40が論理的に視認判定するように構成しても良い。
【0029】
特性検査部50は、特性検査システム1を使用するユーザーの各種特性を検査する機能を有しており、可視判定部51と、視野検査部55と、複数視標検査部60と、軽度認知障害(MCI)検査部62と、集中力検査部65と、心因性視覚障害検査部67とを備えている。
【0030】
可視判定部51は、可視判定領域設定部52を備えており、ディスプレイ13上において、ユーザーの視線位置から離れた位置にある視標がユーザーから見えている(目でとらえている)かどうか、すなわち可視状態であるか否かを判定する。
【0031】
可視判定部51は、視標がディスプレイ13上に表示された後、表示された時点の視線位置から当該視標に到達するまでの視線の到達軌跡と到達時間から可視判定を行う。ユーザーの視線が視標に到達したか否かは、視認判定部40により判定する。
【0032】
到達軌跡に関し、可視判定部51は、視標表示時点の視線位置から視標に到達するまでの視線の軌跡(到達軌跡)が所定の可視判定領域X内を移動したか否かの判定を行う。
【0033】
可視判定領域設定部52は、この可視判定領域Xを設定する(図6参照)。本実施形態では、可視判定領域設定部52は、視標表示時点の視線の初期位置91と当該視標92の表示位置の二点を結ぶ直線を直線Aとして、直線Aを内部に含む、直線Aに平行な長辺をもつ長方形を可視判定領域Xとして設定する。
【0034】
より詳細には、可視判定領域Xは、直線Aの長さをLとして、可視判定領域Xの視線91側の短辺と視線の初期位置91との距離が0.3L、視標92側の短辺と視標92位置との距離が0.7L、視線の初期位置91から視標92に向かって進行方向右側の長辺と直線Aとの距離が0.5L、同じく視線の初期位置91から視標92に向かって進行方向左側の長辺と直線Aとの距離が0.2Lに設定される。すなわち、長方形状の可視判定領域Xの長辺の長さは2L、短辺の長さは0.7Lに設定される。
【0035】
なお、上記可視判定領域Xは右眼用であり、左眼の場合には、視線から視標に向かって、左右を反転させれば良い。すなわち、左眼用の可視判定領域Xは、進行方向左側が進行方向右側に比べて広くなる。
【0036】
到達時間に関し、可視判定部51は、視標表示時点の視線の初期位置91から視標92に到達するまでの到達時間tが862ms以下であるか否かの判定を行う。
【0037】
続いて、図5を参照しながら、可視判定部51の可視判定の処理の流れについて説明する。可視判定部51は、S1において、視認判定部40によりユーザーが視標92を視認しているか否かを確認し、視認していた場合には、S2へと進む。
【0038】
S2において、可視判定領域設定部52が可視判定領域X設定を行い、S3では、可視判定部51は、到達軌跡Cが可視判定領域X内を移動したか否かを確認する。可視判定領域X内を移動していた場合(図6において、C1の場合)には、S4へと進み、到達軌跡Cが可視判定領域Xの外を通過していた場合(図6において、C2の場合)には、当該視標92は不可視であったと判定して、判定処理を終了する。
【0039】
S4に進むと、可視判定部51は、到達時間tが862ms以下であるか否かを確認する。862ms以下の場合には、当該視標92が可視であったと判定し、到達時間が862msを越えていた場合には、当該視標92は不可視であったと判定して判定処理を終了する。
【0040】
可視判定に際して、到達軌跡Cが可視判定領域X内を移動するのを要求するのは、視線の初期位置91から視標92までの最短軌跡(直線A)から大きく離れた場合、視標表示時点では、ユーザーが暗点の存在により視標を目でとらえておらず、視線がふらふらと動くうちに、視標92が暗点から外れて、途中で視標92が見えるようになったと考えられるからである。
【0041】
また、可視判定に際して、到達時間tが所定の時間以下であることを要求するのは、視線の初期位置91から視標92までの到達時間が所定時間よりかかる場合には、同じく、視標表示時点では、ユーザーが視標92を目でとらえていなかったと考えられるからである。
【0042】
以上、可視判定部51は、視標表示時点の視点の初期位置91から視標92に到達するまでの到達軌跡と、到達するまでの到達時間とに基づいて、視標表示時点でユーザーが当該視標92に対して可視状態であったか否かを時間的に遡って判定する。
【0043】
なお、可視判定領域Xの形状やサイズ、到達時間tの判定閾値(862ms)は、過去の測定データに基づき、経験則で設定されたものであり、適宜変更可能である。例えば、可視判定領域Xは、長方形ではなく、楕円形状や長方形以外の多角形であっても良いし、サイズも適宜変更できる。
【0044】
但し、経験則上、可視判定領域Xは、右眼の場合は到達軌跡の進行方向右側、左眼の場合は到達軌跡の進行方向左側に膨らんでおり、さらに、視線の初期位置91から視標92へと向かう進行方向の奥側に向かって膨らんでいることが望ましい。
【0045】
また、可視判定領域Xの外縁は、視線の初期位置91から視標92までの最短軌跡(直線A)から大きく離れないようにする必要があるため、可視判定領域Xのサイズは、可視判定領域Xの外縁が直線Aから距離L以内に位置する大きさとするのが望ましい。
【0046】
また、本実施形態では、到達軌跡及び到達時間の双方に基づき、可視判定を行っているが、到達軌跡と到達時間との何れか一方に基づいて可視判定を行っても良い。
【0047】
視野検査部55は、視標表示部33、視認判定部40及び可視判定部51を制御し、視標表示部33により、視野検査のための計測用視標を順次所定の位置に表示しながら、可視判定部51により各計測用視標の可視判定を順次行うことで、ユーザーの視野検査を行う。
【0048】
視標表示部33は、視野検査を行う場合の視標の表示方法として、視線を正面中心付近に戻して注視(固視)させるための注視用視標と、視野を測定するための計測用視標との2種類の視標を使用するモードと、注視用視標を用いないで計測用視標のみを使用するモードとを備えている。本実施形態では、基本的には、計測用視標のみを使用するモードで視野検査を行う。視野検査は、ハンフリー視野検査(中心30-2)等に従って行うことができる。
【0049】
ここで、複数視標検査部60による複数の視標を表示する反応検査について説明する。この複数視標検査部60による複数視標表示反応検査の結果は、可視判定部51、視野検査部55、MCI検査部62、集中力検査部65及び心因性視覚障害検査部67での処理において、各検査を効率化するために用いられる。
【0050】
複数視標検査部60は、2つの視標をディスプレイ13上に同時に表示した際のユーザーの視線の動きの反応を検査するものであり、図7に示すように、時系列的に、第一反応、第二反応、第三反応による検査を行う。
【0051】
複数視標検査部60は、まず、視標を2つ同時に表示する。図8は、複数視標表示反応検査において表示される2つの視標の位置を示す図であり、上記図4と同様に視標の表示位置を極座標系の視標角で示している。同図において、濃い黒色の点が視標であり、薄いグレーの点は、視標を表示可能な位置を示しており、図9においても同様である。
【0052】
2つの視標は、現在の視線位置から等距離であって、視線の位置を中心として、図8において時計回り方向に90°離れた位置に表示される。同図では、視線が中心原点に位置した状態を例示しているが、視線が原点から離れた位置の場合であっても、複数視標検査部60は、同様に現在の視線の位置を中心として、等距離且つ時計回りに90°離れた位置に2つの視標を表示する。
【0053】
もちろん2つの視標の表示位置は、適宜変更可能であり、検査によっては、現在の視線位置から等距離でなくても良いし、現在の視線の位置を中心とする回転角度も90°でなくても良い。例えば、後述する心因性視覚障害判定の場合には、現在の視線位置から異なる距離の位置に2つの視標を表示する。但し、後述する可視判定の場合には、等距離であるのが望ましい。
【0054】
複数視標検査部60は、2つの視標を同時に表示した後、まず、第一反応について判定を行う。第一反応では、複数視標検査部60は、視標の表示直後に、視線がそのまま初期位置に留まっているか否かを判定する。視線がそのまま留まっている場合には、「A」と判定し、素早く動き始めた場合には、「B」と判定する。
【0055】
ここで、視線が留まっているか否か、すなわち、ユーザーが所定の座標位置近傍を見続けているか否かの凝視判定は、例えば、視線ログ記憶部76に記録されている直近の所定の個数(例えば、15個)の視線情報の各成分が、当該座標位置の視線角の±2°以下であれば、ユーザーが当該座標位置を凝視していると判定する。
【0056】
もちろん、凝視判定の方法は適宜変更可能であり、例えば、直近の所定の個数の視線情報の標準偏差をそれぞれ算出し、全ての成分の標準偏差の値が所定の閾値以下の場合に、凝視していると判定するようにしても良い。
【0057】
第一判定後、第二判定を行う。第二判定では、視線がどちらかの視標にまっすぐ進み留まった場合には「1」と判定し、視線が2つの視標の中央付近にまっすぐ進み留まった場合は「2」と判定し、視線が初期位置にそのまま留まっている場合は「3」と判定し、1~3以外の場合には、「4」と判定する。
【0058】
反応判定2においては、「4」の場合には、視線が、2つの視標、2つの視標の真ん中、初期位置以外の場所に留まっている場合を意味している。なお、通常、視線がずっと動き続けていることはなく、移動した後にどこかに留まるものである。また、第二判定の「1」、「2」において、視線がまっすぐ進んだか否かは、上記可視判定部51による可視判定領域Xを用いた可視判定により判定することができる。
【0059】
第二判定後、第三判定を行う。第三判定では、第二判定後、視線がどちらかの視標に向けてまっすぐ進むか否かを判定し、どちらかの視線に進んだ場合には「a」と判定し、そのまま留まっている場合には「b」と判定する。ここでも、視線がまっすぐ進んだか否かは、可視判定部51による可視判定領域Xを用いた可視判定により判定することができる。
【0060】
以上、第一判定~第三判定において、各判定は250ms以内で行われ、各判定の開始後、250ms経過しても視標がそのまま留まっている場合には、留まっていると判定(凝視判定)される。
【0061】
以上、複数視標検査部60の判定の内容について説明したが、第一~第三判定の結果の組合せ(第一判定,第二判定,第三判定)について、各組合せが意味する視線の動きについて説明する。
【0062】
A,1,a:初動は遅れたが、両方の視標を視認した。
A,1,b:初動は遅れたが、どちらかの視標を見た
A,2,a:初動は遅れて、どちらの視標を見るか悩んでどちらかを見た。
A,2,b:初動は遅れて、どちらの視標を見るか悩んだがどちらも見なかった。
A,3,a:初動がかなり遅れたが、どちらかの視標を見た。
A,3,b:探さなかった。
A,4,a:初動は遅れたが、探して、どちらかの視標を見た。
A,4,b:初動が遅れて探し始めたが、探さなくなった。
【0063】
B,1,a:素早く、両方の視標を見た。
B,1,b:素早く、どちらかの視標を見た。
B,2,a:素早く反応したが、どちらの視標を見るか悩んで、どちらかを見た。
B,2,b:素早く反応したが、どちらの視標を見るか悩み、どちらも見なかった。
B,3,a:(組合せ無し)
B,3,b:(組合せ無し)
B,4,a:素早く反応し、探して、どちらかの視標を見た。
B,4,b:素早く反応し、探し始めたが、探さなくなった。
【0064】
続いて、複数視標検査部60の検査結果を利用した特性検査部50が行う各種特性検査について説明する。まず、可視判定部51が行う可視判定について説明する。可視判定部51は、第一判定及び第二判定に基づいて、視線位置から離れた位置に表示された2つの視標が何れも可視状態であるか否かを判定する。
【0065】
可視判定部51は、複数視標検査部60により、反応(A,2)又は反応(B,2)の判定結果が出た場合には、視標表示時点において2つの視標が両方とも可視状態であったと判定する。
【0066】
これは、第二反応の終了時点において、ユーザーの視線が2つの視標の真ん中に進み、そこで留まっていることを示しており、視標表示時点において、ユーザーが2つの視標の双方が見えており、どちらに視線を移動させようか迷った結果、2つの視標の真ん中に留まっていると考えられるからである。
【0067】
上述したように、通常、可視判定部51は、視認判定部40により視線が視標に到達したことを前提として、視標表示時に当該視標が可視状態であったか否かを判定しており、2つの視標が表示された場合には、視線が双方の視標に到達しないと双方の視標が可視であると判定できない。
【0068】
これに対して、複数視標検査部60による判定結果を用いることで、視線が視標に到達しなくても2つの視標の可視判定を同時に行うことができ、可視判定の時間を大幅に短縮することができる。
【0069】
また、可視判定部51は、第一判定及び第二判定に基づいて、視線位置から離れた位置に表示された2つの視標が何れかも不可視状態であるか否かを判定する。可視判定部51は、複数視標検査部60により、反応(A,4)又は反応(B,4)の判定結果が出た場合には、視標表示時点において2つの視標が両方とも不可視状態であったと判定する。
【0070】
これは、第二反応の終了時点において、ユーザーの視線が初期位置、何れかの視標及び2つの視標の真ん中以外の場所に進んで留まっていることを示しており、ユーザーが2つの視標の双方が見えていないため、その他の場所に視線を移動させて留まっていると考えられるからである。この場合にも、可視判定部51は、可視判定の時間を大幅に短縮することができる。
【0071】
視野検査部55は、このように2つの視標を同時に表示して判定時間を短縮した可視判定部51による可視判定を利用することで、視野検査の大幅な時間短縮を実現することができる。
【0072】
続いて、MCI検査部62が行う軽度認知障害検査について説明する。MCI検査において、ユーザーは、ディスプレイ13上に表示される視標を見るように指示を受ける。MCI検査部62は、複数視標検査部60による判定結果の組合せ毎に、下記に示すポイント(5点満点)を付与し、ポイント数により軽度認知障害であるか否かを検査する。なお、MCI検査部62による検査の場合には、複数視標検査部60による第一反応の凝視判定は、250msではなく、その3倍の750ms間留まっているか否かで凝視判定を行っている。
【0073】
A,1,a:1
A,1,b:1
A,2,a:1
A,2,b:5
A,3,a:3
A,3,b:5
A,4,a:1
A,4,b:3
【0074】
B,1,a:0
B,1,b:0
B,2,a:0
B,2,b:5
B,4,a:0
B,4,b:3
【0075】
学術的に痴呆患者は初動時間の延長が見られるため、第一反応が「A」となる場合、初動が遅いため、全ての組合せにおいて加点対象としている。反応(A,3,b)は、探すという指示が理解できていないとして、MCIの疑いが強く、ポイントを高く設定している。反応(A,2,b)及び反応(B,2,b)は、2つの視標の双方が可視状態であったのに何れの視標も見ていないとして、ポイントを高く設定している。
【0076】
また、反応(A,3,a)は、反応が遅すぎるため、ポイントを中程度に設定している。反応(A,4,b)及び反応(B,4,b)は、視標を探していないが、疲労による影響も考慮して、ポイントを中程度に設定している。
【0077】
MCI検査部62は、複数視標検査部60による検査を複数回行い、累計ポイントが0.8×検査回数以上の場合に、MCIの疑いあり、と判定する。例えば、複数視標検査部60による検査を20回行う場合には、合計ポイントが16ポイント以上であれば、MCI検査部62は、MCIの疑いあり、と判定する。
【0078】
続いて、MCI検査部62による第二の軽度認知障害検査について説明する。本検査では、2つの視標を異なる色でディスプレイ13上に表示し、ユーザーには、一方の色を見るように指示を出す。例えば2つの視標を赤色と青色でそれぞれ表示し、ユーザーに赤色の視標を見るように指示を出す。
【0079】
MCI検査部62は、第二の軽度認知障害検査においても、複数視標検査部60による判定結果の組合せごとに、下記に示すポイント(5点満点)を付与し、ポイント数により軽度認知障害であるか否かを検査する。
【0080】
A,1,a:最終的に、赤色の視標を見れば1、青色の視標を見れば5
A,1,b:最終的に、赤色の視標を見れば1、青色の視標を見れば5
A,2,a:最終的に、赤色の視標を見れば1、青色の視標を見れば5
A,2,b:5
A,3,a:最終的に、赤色の視標を見れば3、青色の視標を見れば5
A,3,b:5
A,4,a:最終的に、赤色の視標を見れば1、青色の視標を見れば5
A,4,b:3
【0081】
B,1,a:最終的に、赤色の視標を見れば0、青色の視標を見れば5
B,1,b:最終的に、赤色の視標を見れば0、青色の視標を見れば5
B,2,a:最終的に、赤色の視標を見れば0、青色の視標を見れば5
B,2,b:5
B,4,a:最終的に、赤色の視標を見れば0、青色の視標を見れば5
B,4,b:3
【0082】
MCI検査部62は、複数視標検査部60による検査を複数回行い、累計ポイントが0.8×検査回数以上の場合に、MCIの疑いあり、と判定する。第二の軽度認知障害検査においても上記軽度認知障害検査と同様の作用効果を奏するが、各判定結果のポイントが高いため、より短い時間で検査を行うことが可能となる。
【0083】
続いて、集中力検査部65が行う集中力検査について説明する。集中力検査において、ユーザーは、ディスプレイ13上に表示される視標をできるだけ早く見るように指示を受ける。集中力検査部65は、複数視標検査部60による判定結果の組合せ毎に、下記に示すポイント(5点満点)を付与し、ポイント数によりユーザーが集中できているか否かを検査する。
【0084】
A,1,a:3
A,1,b:3
A,2,a:3
A,2,b:0
A,3,a:1
A,3,b:0
A,4,a:3
A,4,b:0
【0085】
B,1,a:5
B,1,b:5
B,2,a:5
B,2,b:0
B,4,a:5
B,4,b:0
【0086】
集中力検査部65は、複数視標検査部60による検査を複数回行い、累計ポイントが、満点の80%以上なら集中できていると判定する。例えば、複数視標表示反応検査を20回行う場合には、累計ポイントが80点以上なら集中できていると判定する。
【0087】
続いて、心因性視覚障害検査部67が行う心因性視覚障害判定について説明する。心因性視覚障害判定において、ユーザーは、ディスプレイ13上に順次表示される2つの視標の双方を見るように指示される。
【0088】
図9は、心因性視覚障害検査において表示される2つの視標の位置を示しており、複数視標検査部60は、上述した図8に示した場合と異なり、現在の視線位置からの距離が異なる位置に2つの視標を同時に表示する。
【0089】
具体的には、2つの視標のうち一方の視標(内側視標)を現在の視線の位置である正面中心から水平角度及び垂直角度の双方が10°以内となる位置に表示し、他方の視標(外側視標)を水平角度及び垂直角度の双方が20°以上の位置に表示するように視標表示部33を制御する。また、2つの視標は、正面中心の現在の視標位置とそれぞれの視標とを結ぶ直線が90°となる位置に表示される。
【0090】
心因性視覚障害とは、子供に多くみられる疾患であり、心理的ストレスにより視力が低下したりする。本実施形態では、心因性視覚障害の患者であれば、検査が進むにつれて、ユーザーの視野が狭くなり、内側の視標のみを視認する回数が増加すると想定される。
【0091】
本実施形態では、複数視標検査部60による第一判定及び第二判定を複数回行い、第二反応に関して、判定「1」であって内側視標を見た回数、判定「1」であって外側視標を見た回数、判定「2」の回数をカウントし、内側視標を見た比率を算出する。
【0092】
心因性視覚障害検査部67は、複数視標検査部60による検査を100回行い、後半50回における内側視標を見た比率が、前半50回における内側視標を見た比率より1.5倍以上高い場合は、心因性視覚障害の疑いありと判定する。
【0093】
以上、本実施形態に係る特性検査システム1について説明したが、本実施形態では、複数視標検査部60により2つの視標を表示した際のユーザーの視線の動きを検査することで、特性検査部50がユーザーの種々の特性を効率的に判定することができる。
【0094】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲内で種々の変形が可能である。例えば、視線や視線の位置情報として、極座標系を採用したが、三次元直交座標系を採用しても良い。
【0095】
また、上記実施形態では、左眼用ディスプレイと右眼用ディスプレイとして独立したディスプレイを採用したが、1つの大型ディスプレイを右眼用と左眼用の領域に分けて使用するようにしても良い。
【0096】
また、上記実施形態では、複数視標検査部は、複数の視標として、2つの視標を同時に表示した際のユーザーの視線の動きを検査したが、もちろん、3つ以上の視標を同時に表示した際のユーザーの視線の動きを検査するようにしても良い。
【0097】
3つの以上の視標を同時に表示した際の可視判定部による判定は、ユーザーの視線が複数の視標の中央にあたる真ん中に移動して留まった場合に、全ての視標が可視状態であると判定することができる。また、同様に、ユーザーの視線が初期位置、何れかの視標及び複数の視標の真ん中以外の場所に進み留まっている場合に、全ての視標が不可視状態であると判定することができる。
【符号の説明】
【0098】
1 特性検査システム
10 HMD
11 筐体
13 ディスプレイ
14 凸レンズ
15 カメラ
16 ホットミラー
18 発光部
30 制御装置
31 視線検出部
33 視標表示部
40 視認判定部
41 衝突判定部
50 特性検査部
51 可視判定部
52 可視判定領域設定部
55 視野検査部
60 複数視標検査部
62 MCI(軽度認知障害)検査部
65 集中力検査部
67 心因性視覚障害検査部
70 演算装置
75 記憶装置
76 視線ログ記憶部
77 視標記憶部
80 ケーブル
91 視線の初期位置
92 視標
A 直線(最短軌跡)
C 到達軌跡
X 可視判定領域
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9