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  • 特許-植物油溶剤抽出システム 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-21
(45)【発行日】2024-10-29
(54)【発明の名称】植物油溶剤抽出システム
(51)【国際特許分類】
   C11B 1/10 20060101AFI20241022BHJP
【FI】
C11B1/10
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2024022762
(22)【出願日】2024-02-19
【審査請求日】2024-02-19
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】523365790
【氏名又は名称】川島 悟一
(72)【発明者】
【氏名】川島 悟一
【審査官】井上 恵理
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-069575(JP,A)
【文献】特開2011-255340(JP,A)
【文献】特開2018-072100(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C11B 1/00-15/00
C11C 1/00- 5/02
C10L 1/00- 1/32
A23D 7/00- 9/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料設置(4a)、植物油抽出(4b)、溶剤分離(4c)、抽出粕取り出し(4d)の4つの工程を順次行う植物油の溶剤抽出システムにおいて、原料設置(4a)では、原料容器(2)に圧搾後の菜種や糠を入れて、その原料容器(2)を抽出器(1)の内部に設置すること、ここで原料容器(2)の底部は網(1e)で構成されていること、植物油抽出(4a)では、溶剤を抽出器(1)に投入し、抽出器内で、溶剤をノズル(1d)から噴霧させ、原料に溶剤を含侵させて、溶剤は、原料内の油脂を溶かして、原料容器(2)の網(1e)から下に落ち、落ちた溶剤は、溶剤等排出管(1c)から気液ポンプにて蒸発器に送られ、蒸発器では、電熱線により、溶剤が溶剤の沸点以上の温度に加熱され、溶剤が蒸発し、液体として植物油が分離され、気体となった溶剤は、凝縮器にて、液体ポンプで送られてきた冷却水に冷やされ、液化し、溶剤タンクに貯められ、溶剤を抽出器(1)に投入するところからここまでの過程を連続的に行うことで、植物油を抽出し、追加的な植物油が生じなくなったところで、植物油抽出(4b)の工程が終了させること、溶剤分離(4c)では、蒸発器の電熱線等の加熱機能を停止させ、コンプレッサを稼働させ、電磁誘導コイル(1f)に通電し、原料容器(2)を電磁誘導によって加熱し、加熱された原料容器(2)から熱伝導で原料(1e)が過熱され、原料と混ざっていた溶剤の沸点を超え、溶剤が蒸発し、弁1と蒸発器を通り、凝縮器に送られ、溶剤は、凝縮器にて液化し、溶剤タンクに貯められ、蒸発した溶剤は、液化しなかった気体は、コンプレッサにより逆止弁を介して、抽出器に送られ、溶剤が初期状態の時の量に戻れば、気液ポンプとコンプレッサを停止させ、抽出粕取り出し(4d)では、蓋(1a)を開け、抽出粕の残った原料容器(2)を取り出すことを特徴とする植物油の溶剤抽出システム。
【請求項2】
請求項1の溶剤抽出過程のうち、原料容器(2)を加熱する電磁誘導コイル(1f)を電熱線とした植物油の溶剤抽出システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物油の溶剤抽出に関する。
【背景技術】
【0002】
脱化石燃料の社会的動向に伴い、機械燃料としての植物油の活用が広がっている。トラクタ等の農業機械においても、植物油を燃料として利用することは可能であり、農家や農村が米糠や菜種などから植物油を自給することで、外部に燃料を依存しない持続可能な農業が実現されると考えられる。
【0003】
植物油の抽出には、圧搾法と溶剤抽出法がある。溶剤抽出法は、圧搾法よりも植物中の脂質を効率的に抽出することが可能であり、現在の植物油抽出においては、一般的に用いられている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
現在、植物油の溶剤抽出においては、ロータリー式抽出器等により、連続的な処理を可能にし、効率的な植物油抽出を行っている。ただし、こうした連続処理のシステムは、大規模でこそ効率性が発揮されるものの、植物油の年間生産量の小さい規模、例えば、農家や農村といった単位での植物油生産では、設備過剰となり、非効率的である。
【0005】
年間生産量の小さい場合の植物油抽出には、バッチ式で行う方が効率的である。しかし、植物油抽出後の抽出粕には、ヘキサン等の溶剤が含まれており、原料を加熱して溶剤を分離する必要がある。抽出器から人が抽出粕を取り出せば、有害物質である溶剤に暴露してしまう可能性があり、その手間も必要となる。また、機械にて抽出粕を溶剤分離の装置に移すことが考えられるが、可動部分が多く、設備コストが高くなり、抽出粕の&#22169;み込みなどのトラブルの可能性が高くなってしまう。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のシステムは、図1図3に示すように、同一の抽出器(1)に、溶剤抽出に必要な機能と溶剤分離に必要な機能を設けている。
【0007】
植物油を抽出する原料を、抽出器から取り出せる別の容器(これを「原料容器」という)に入れることと、原料容器(2)の中に入れたまま、植物油抽出(4b)と溶剤分離(4c)の工程を済ませることで、原料や抽出粕を抽出システムの他の部位に接触させることなく、原料や抽出粕の噛み込みなどのトラブルを最小化している。また、原料容器(2)を取り外せることから、原料容器を丸洗いできるようにしている。原料容器(2)を別にすることで、人による作業は、抽出工程前後での原料容器の出し入れと、システムの起動だけとなり、農家など専門家でなくとも扱うことが可能となる。
【0008】
原料容器(2)は、底が網(2b)になっており、液体や気体を下に流し出せる特徴を持たせた構造とする。
【0009】
原料容器(2)を電磁誘導によって加熱する金属とし、原料容器(2)ごと抽出容器に入れることで、抽出容器に内臓された電磁誘導コイル(1f)で、原料容器(2)を加熱させ、その熱伝導で原料を加熱、原料に混ざっている溶剤を蒸発させることを特徴としている。
【0010】
原料に混ざった溶剤を蒸発させるための原料の加熱方法として、電磁誘導コイル(1f)による加熱の他、電熱線による加熱の方法もあり得る。この場合、電熱線から原料容器に熱伝導が効率的に行われるよう、電熱線と原料容器が密着する必要がある。これを実現させるため、溶剤分離の工程にて、加熱された原料容器が熱膨張することで、抽出器の内壁に密着するように設計されることが好ましい。
【0011】
図3に示すシステム全体は、抽出器の蓋を閉じた状態で閉鎖系とする。抽出器内は、溶剤の蒸発により正圧となることから、抽出器(1)内の気体等が漏洩しないよう、蓋(1a)は、抽出器を密閉できるものとする。
【0012】
溶剤分離では、長時間かけて抽出粕を加熱することで溶剤を完全に除去する。熱効率を高めるため、抽出器の外壁には断熱材を用いられることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、同一の抽出器(1)で植物油抽出(4b)と溶剤分離(4c)ができ、植物油抽出(4b)と溶剤分離(4c)との工程の間で、溶剤の混ざった抽出粕を移動させる必要がなくなり、手間と必要な設備を減らすことができる。
【0014】
溶剤の混ざった抽出粕を移動させる必要がなくなることで、作業者が有毒性のある溶剤に暴露するリスクを最小化することができる。
【0015】
溶剤の混ざった抽出粕を移動させる必要がなくなることで、抽出粕が機械に噛み込むようなトラブルがなくなり、植物油抽出(4b)と溶剤分離(4c)を無人で行うリスクが最小化され、人件費を削減することができる。
【0016】
原料容器(2)の導入により、専門性のない農家等であっても作業可能にしている。具体的には、農家等は、原料を原料容器に入れ、それを抽出容器の内部に設置する。溶剤抽出システムを稼働させて、全ての過程が終わったときに、抽出容器から原料容器を取り出すだけである。
【0017】
本発明により農家や農村といった小さい規模で、溶剤抽出システムを導入することが可能になり、農家が自ら抽出システムに原料を持ち込み、植物油を持ち帰ることができるようになる。大規模の抽出システムの場合、農家から原料を回収し、抽出システムのある工場まで搬送し、精算された植物油を農家まで配送するコストが必要となってしまう。また、農家や農村の単位で国家の食料安全保障を支えられるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明である抽出器の本体の斜視図および断面図である。
図2】原料容器の斜視図である。
図3】本発明の溶剤抽出システムの構成図である。
図4】本発明の一実施形態の工程である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の一実施形態について図4に沿って説明する。実施形態は、大きく4つの工程からなる。具体的には、原料設置(4a)、植物油抽出(4b)、溶剤分離(4c)、抽出粕取り出し(4d)の4つの工程である。
【0020】
工程を行う前は、弁1、弁2,弁3は閉じられており、気液ポンプ、液体ポンプ1、液体ポンプ2、コンプレッサは停止しており、電磁誘導コイル(1f)と蒸発器の電熱線等の加熱機能も停止している状態である。
【0021】
原料設置(4a)では、原料容器(2)に圧搾後の菜種や糠などの植物油を抽出する原料を入れて、上面を平らにし、その原料容器(2)を抽出器(1)の蓋(1a)を開け、内部に設置する。蓋(1a)が完全に閉まったことを確認して、原料設置(4a)の工程が終了し、次の工程に進む。
【0022】
植物油抽出(4b)では、弁1,弁2、弁3を開く。次に、液体ポンプを稼働させ、溶剤等投入管(1b)を介して、溶剤を抽出器(1)に投入する。抽出器内では、溶剤をノズル(1d)から噴霧させ、原料に溶剤を含侵させる。溶剤は、原料内の油脂を溶かして、網(1e)から下に落ちる。落ちた溶剤は、溶剤等排出管(1c)から気液ポンプにて蒸発器に送られる。蒸発器では、電熱線等により、溶剤が溶剤の沸点以上の温度に加熱され、溶剤が蒸発し、液体として植物油が分離される。気体となった溶剤は、凝縮器にて、液体ポンプで送られてきた冷却水に冷やされ、液化し、溶剤タンクに貯められる。溶剤を抽出器(1)に投入するところからここまでの過程を連続的に行うことで、植物油を抽出する。追加的な植物油が生じなくなったところで、植物油抽出(4b)の工程が終了し、次の工程に進む。
【0023】
溶剤分離(4c)では、蒸発器の電熱線等の加熱機能を停止させ、コンプレッサを稼働させる。電磁誘導コイル(1f)に通電し、原料容器(2)を電磁誘導によって加熱する。加熱された原料容器(2)から熱伝導で原料(1e)が温められ、原料と混ざっていた溶剤の沸点を超え、溶剤が蒸発する。弁1と蒸発器を通り、凝縮器に送られる。溶剤は、凝縮器にて液化し、弁2を通り、溶剤タンクに貯められる。蒸発した溶剤は、液化しなかった気体は、主に空気であり、コンプレッサにより逆止弁を介して、抽出器に送られる。溶剤が初期状態の時の量に戻れば、気液ポンプとコンプレッサを停止させ、弁1、弁2、弁3を閉じ、次の工程に進む。
【0024】
抽出粕取り出し(4d)では、抽出器内の温度及び圧力が安全なレベルまで下がっていることを確認した上で、蓋(1a)を開け、抽出粕の残った原料容器(2)を取り出す。取り出したら、蓋を閉じることで、全工程が終了する。
【0025】
本発明のシステムに使用される原料の例として、米糠や菜種の圧搾粕が考えられる。米糠は、精米時に発生するものを活用できる。菜種は、耕地の一部を活用して栽培することとなる。特に、温暖な地域であれば、水稲との2毛作が可能であり、水稲の作付面積を減らすことなく、菜種を生産することが可能である。また、抽出後の抽出粕は、飼料や堆肥原料として用いることができるため、農村に設置可能な規模の抽出システムは、農村単位での資源循環に資する。
【0026】
農村に設置され、農家が利用する場合の使用方法の一例として、本発明のシステムが設置された製油所に、農家が午後に米糠を持ち込み、米糠や菜種の圧搾粕を原料容器(2)に入れ、抽出システムに設置し、植物油排出口に植物油を入れる容器を設置し、抽出システムを稼働させ、システムが自動で稼働し、植物油を抽出して、抽出粕からの溶剤の分離も終えて、農家が翌日の午前中に、原料容器を取り出し、抽出粕を飼料や堆肥原料として回収した後、原料容器を洗浄して、植物油を持ち帰るという方法が考えられる。これにより、植物油抽出(4b)と溶剤分離(4c)で12時間以上の時間が与えられ、植物油抽出(4b)、溶剤分離(4c)、その後のシステム冷却において十分な時間が使えるようになる。また、十分な時間が使えることで、設備の規模を最小化でき、コストを削減できる。
【0027】
抽出器(1)の構造の例を説明する。抽出器(1)は、円筒形の底部が円錐形になった形である。蓋(1a)が設けられ、原料を入れた原料容器(2)を内部に設置することができる。蓋(1a)を閉じる際、抽出器(1)と蓋(1a)の間に隙間ができないよう蓋に圧力をかけて固定する機構を設ける。溶剤分離(4c)の工程における熱ロスを最小化させるために、断熱材で覆われていても良い。抽出器(1)の内部は、図1の断面図(1ロ)のように、上部に溶剤等投入管(1b)に接続されたノズル(1d)があり、ノズル(1d)には、原料に均一に溶剤が降りかかるよう、多数の穴が開けられている。抽出器(1)の側面の壁内には、原料容器(2)と同じ高さに電磁誘導コイル(1f)が入っている。抽出器(1)内部の底部は、下に萎む円錐形であり、最下部に溶剤等排出管(1c)が接続している。
【0028】
原料容器(2)の構造の例を説明する。原料容器(2)は、円筒形で天部が開いており、底部が網(2b)となっている。天部から植物油を抽出する原料、圧搾後の菜種粕や米糠を中に投入することができる。容器の筒状の外枠(2a)の材質は、電磁誘導コイル(1f)の電磁波により加熱する金属である。
【0029】
本発明で使われる原料の一例は、菜種や米糠などである。菜種については、圧搾後の搾り粕が用いられることが考えられる。いずれの原料でも対応できるよう、原料容器(2)の網(2b)は、十分に目の細かいものが用いられることが好ましい。また、原料上部からコンプレッサによる正圧、網の下部から気液ポンプによる負圧によって、目の細かい網でも溶剤が網を通るようにしている。
【0030】
本発明に用いられる溶剤の一例は、ノルマルヘキサンである。ノルマルヘキサンの沸点は、68.7度である。植物油抽出(4b)の工程では、蒸発器にて、溶剤に溶けた植物油を蒸発させることなく、溶剤だけを蒸発させることが可能である。溶剤分離(4c)の工程では、抽出器の抽出粕に混ざった水を蒸発させることなく、溶剤だけを蒸発させることが可能である。
【符号の説明】
【0031】
1 抽出器
1イ 抽出器の斜視図
1ロ 抽出器の断面図
1a 蓋
1b 溶剤等注入管
1c 溶剤等排出管
1d ノズル
1e 原料
1f 電磁誘導コイル
2 原料容器
2イ 原料投入口を上にした原料容器の斜視図
2ロ 網を上にした原料容器の斜視図
2a 外枠
2b 網
3 システム構成図
4 抽出工程
4a 原料設置
4b 植物油抽出
4c 溶剤分離
4d 抽出粕取り出し
【要約】
【課題】生産量の小さい場合の植物油抽出には、バッチ式で行う方が効率的であり、抽出後の原料には、ヘキサン等の溶剤が含まれており、原料を加熱して溶剤を分離する必要があるが、抽出器から人が原料を取り出せば、有害物質である溶剤に暴露してしまう可能性があり、その手間も必要となる。また、機械にて別の容器に移すことが考えられるが、可動部分が多く、設備コストが高くなり、原料の&#22169;み込みなどのトラブルの可能性が高くなってしまう。
【解決手段】抽出器に設置できる容器に原料を入れて、植物油を抽出できるようにした上で、電磁誘導コイルもしくは電熱線により、原料の入った容器を加熱することで、溶剤の分離も同一の抽出器内にて行うことを可能にする。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4