IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 多摩川精機株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-磁歪式トルクセンサのステータ構造 図1
  • 特許-磁歪式トルクセンサのステータ構造 図2
  • 特許-磁歪式トルクセンサのステータ構造 図3
  • 特許-磁歪式トルクセンサのステータ構造 図4
  • 特許-磁歪式トルクセンサのステータ構造 図5
  • 特許-磁歪式トルクセンサのステータ構造 図6
  • 特許-磁歪式トルクセンサのステータ構造 図7
  • 特許-磁歪式トルクセンサのステータ構造 図8
  • 特許-磁歪式トルクセンサのステータ構造 図9
  • 特許-磁歪式トルクセンサのステータ構造 図10
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-21
(45)【発行日】2024-10-29
(54)【発明の名称】磁歪式トルクセンサのステータ構造
(51)【国際特許分類】
   G01L 3/10 20060101AFI20241022BHJP
【FI】
G01L3/10 301J
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020175999
(22)【出願日】2020-10-20
(65)【公開番号】P2022067336
(43)【公開日】2022-05-06
【審査請求日】2023-10-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000203634
【氏名又は名称】多摩川精機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110423
【弁理士】
【氏名又は名称】曾我 道治
(74)【代理人】
【識別番号】100111648
【弁理士】
【氏名又は名称】梶並 順
(74)【代理人】
【識別番号】100221729
【弁理士】
【氏名又は名称】中尾 圭介
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 貴広
(72)【発明者】
【氏名】古平 健幸
(72)【発明者】
【氏名】石橋 和之
【審査官】松山 紗希
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-148758(JP,A)
【文献】特開平08-193894(JP,A)
【文献】特開2009-210346(JP,A)
【文献】特開2001-124639(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01L 3/00-3/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性膜を付与された軸(20)の周囲に複数の磁気コアブロック(100A)が環状に配置される磁歪式トルクセンサのステータ構造であって、
前記磁気コアブロック(100A)は、
前記軸(20)に対向する端面(102)を有する中央ティース(101)と、
前記軸(20)に対向する端面(112)を有する第1ティース(111)と、
前記軸(20)に対向する端面(122)を有する第2ティース(121)と、
軸方向に対して第1の傾きを有し、第1巻線が巻回される第1巻線コア(115)と、
軸方向に対して前記第1の傾きと反対向きの第2の傾きを有し、第2巻線が巻回される第2巻線コア(125)と、を備え、
前記中央ティース(101)は、
窪み(150)が設けられ、
前記第1巻線コア(115)を介して前記第1ティース(111)と一体に形成され、
前記第2巻線コア(125)を介して前記第2ティース(121)と一体に形成されて構成される、
磁歪式トルクセンサのステータ構造。
【請求項2】
前記磁気コアブロック(100A)は、
一対の基礎磁気コアブロック(100)同士が接合され、
前記基礎磁気コアブロック(100)に設けられた前記窪み(150)同士が向かい合い、
前記端面(102)に垂直な方向の穴(160)が形成される、
請求項1に記載の磁歪式トルクセンサのステータ構造。
【請求項3】
前記磁気コアブロック(100A)は、
前記軸(20)に対向する端面(132)を有する第3ティース(131)と、
前記軸(20)に対向する端面(142)を有する第4ティース(141)と、
前記第1の傾きを有し、第3巻線が巻回される第3巻線コア(135)と、
前記第2の傾きを有し、第4巻線が巻回される第4巻線コア(145)と、
を更に備え、
前記中央ティース(101)は、
前記窪み(150)により、前記端面(102)に垂直な方向の穴(160)が形成され、
前記第3巻線コア(135)を介して前記第3ティース(131)と一体に形成され、
前記第4巻線コア(145)を介して前記第4ティース(141)と一体に形成されて構成される、
請求項1に記載の磁歪式トルクセンサのステータ構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁歪式トルクセンサのステータ構造に関し、特に、磁歪式トルクセンサの渦電流による影響の改善に関する。
【背景技術】
【0002】
トルク検出において、トルクが作用する軸の表面に磁歪特性を有する磁性膜を設けておき、磁性膜の磁歪特性の変化を巻線によって測定することにより、軸に作用するトルクを検出する手法が知られている。
【0003】
磁性膜を設けた軸にトルクを作用させると、軸表面の磁性膜に歪みが生じ、ビラリ(Villari)効果により磁性膜の透磁率が変化する。この磁性膜の透磁率の変化に応じて、軸の周囲に設けられた磁歪式トルクセンサの巻線のインピーダンスが変化する。この結果、磁歪式トルクセンサにおいて、軸に作用するトルクに応じたインピーダンス変化から検出電圧を得ることができる。
【0004】
また、磁歪式トルクセンサは、軸の軸方向に対して+45°の透磁率の変動と-45°の透磁率の変動とを、それぞれの角度に応じて配置された巻線の検出電圧を測定することにより、軸に印加されたトルクの向き及び大きさを検出することができる。このような構成の磁歪式トルクセンサは、特許文献1に記載されている。
【0005】
特許文献1に記載の従来の磁歪式トルクセンサにおいて、巻線及びコアを有する巻線部と、軸及び巻線部の間に磁束を流すステータとの間で、磁路が分離された構成になっている。このような磁路の分離により、磁気的損失が発生し、更に加工及び組立のばらつきにより個体差が発生する課題を存在していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2010-54236号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
磁歪式トルクセンサにおいて、磁気的損失を改善し、ばらつきによる個体差を抑えるため、ステータと巻線部とを一体化した磁路一体型に構成することが考えられる。一方、磁歪式トルクセンサの巻線部とステータと一体化した磁路一体型の構成とした場合、ステータの中央付近に、励磁巻線からの励磁磁束に起因した渦電流が発生する可能性がある。そして、この渦電流により励磁磁束の発生を妨げられるため、磁路一体型に構成された磁歪式トルクセンサの感度が低下するという新たな課題を生じる。
【0008】
本発明は、以上のような課題を解決するためになされたもので、渦電流による影響を改善可能な磁路一体型の磁歪式トルクセンサのステータ構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明に係る磁歪式トルクセンサのステータ構造は、磁性膜を付与された軸の周囲に複数の磁気コアブロックが環状に配置される磁歪式トルクセンサのステータ構造であって、磁気コアブロックは、軸に対向する端面を有する中央ティースと、軸に対向する端面を有する第1ティースと、軸に対向する端面を有する第2ティースと、軸方向に対して第1の傾きを有し、第1巻線が巻回される第1巻線コアと、軸方向に対して第1の傾きと反対向きの第2の傾きを有し、第2巻線が巻回される第2巻線コアと、を備え、中央ティースは、窪みが設けられ、第1巻線コアを介して第1ティースと一体に形成され、第2巻線コアを介して第2ティースと一体に形成されて構成される、ことを特徴とする。
【0010】
この発明に係る磁歪式トルクセンサのステータ構造において、磁気コアブロックは、一対の基礎磁気コアブロック同士が接合され、一対の基礎磁気コアブロックの窪み同士が向かい合い、端面に垂直な方向の穴が形成される、ことを特徴とする。
【0011】
この発明に係る磁歪式トルクセンサのステータ構造において、磁気コアブロックは、端面が軸に対向する第3ティースと、端面が軸に対向する第4ティースと、第1の傾きを有し、第3巻線が巻回される第3巻線コアと、第2の傾きを有し、第4巻線が巻回される第4巻線コアと、を更に備え、中央ティースは、窪みにより端面に垂直な方向の穴が形成され、第3巻線コアを介して第3ティースと一体に形成され、第4巻線コアを介して第4ティースと一体に形成されて構成される、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
この発明に係る磁歪式トルクセンサのステータ構造は、それぞれの磁気コアブロックにおいて、中央ティースは、窪みが設けられ、軸方向に対して第1の傾きを有する第1巻線コアを介して第1ティースと一体に形成され、軸方向に対して第1の傾きと反対向きの第2の傾きを有する第2巻線コアを介して第2ティースと一体に形成されることで、磁路一体型になっている。これにより磁歪式トルクセンサは、軸方向に対して第1の傾きの軸の透磁率の変動と、軸方向に対して第2の傾きの軸の透磁率の変動とを、それぞれの角度に応じて配置された第1巻線及び第2巻線の検出電圧により検出することで、軸に印加されたトルクを検出することができる。そして、中央ティースには、第1励磁磁束と第2励磁磁束とが軸20に向かって共通して通るが、窪み150により磁気抵抗が上昇する。これにより、窪み150の周囲に励磁磁束を分散させ、渦電流を細分化させる。このため、磁路一体型に構成した磁歪式トルクセンサにおいて、ステータに生じる渦電流の影響を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施の形態1に係る磁歪式トルクセンサにおける基礎磁気コアブロックを示す構成図である。
図2】本発明の実施の形態1に係る磁歪式トルクセンサにおける一対の基礎磁気コアブロックが接合された磁気コアブロックを示す構成図である。
図3図2の磁気コアブロックを複数組み合わせたステータを用いる磁歪式トルクセンサの全体構成を示す斜視図である。
図4】比較例の磁気コアブロックに巻線を装着し、巻線に生じる磁束とティースに生じる渦電流とを示す模式図である。
図5図2の磁気コアブロックに巻線を装着し、巻線に生じる磁束とティースに生じる渦電流とを示す模式図である。
図6】本発明の実施の形態2に係る磁歪式トルクセンサにおける磁気コアブロックを示す構成図である。
図7図6の磁気コアブロックを複数組み合わせた磁歪式トルクセンサの全体構成を示す斜視図である。
図8】比較例の磁気コアブロックに巻線を装着し、巻線に生じる磁束とティースに生じる渦電流とを示す模式図である。
図9図7の磁気コアブロックに巻線を装着し、巻線に生じる磁束とティースに生じる渦電流とを示す模式図である。
図10】磁気コアブロックの変形例を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の磁歪式トルクセンサのステータ構造の実施の形態につき、図面を用いて説明する。なお、各図において、同一部分には同一符号を付している。
【0015】
実施の形態1.
はじめに、実施の形態1における磁歪式トルクセンサ1のステータ構造について、図1図3を参照して説明する。
【0016】
図1は、本発明の実施の形態1に係る磁歪式トルクセンサ1における基礎磁気コアブロック100を示す構成図である。ここで、図1の(a)は、基本となる1個の基礎磁気コアブロック100を示している。図1の(b)は、図1の(a)に示した基礎磁気コアブロック100を上下に180°回転させた状態の基礎磁気コアブロック100を示している。
【0017】
図2は、本発明の実施の形態1に係る磁歪式トルクセンサ1における一対の基礎磁気コアブロック100が接合された磁気コアブロック100Aを示す構成図である。
【0018】
[磁歪式トルクセンサの構成]
まず、図3を用いて、磁歪式トルクセンサ1の構成を説明する。図3は、図2の磁気コアブロック100Aを複数組み合わせたステータ10を用いる磁歪式トルクセンサ1の全体構成を示す斜視図である。
【0019】
磁歪式トルクセンサ1は、図3に示すように、主に、ステータ10と、軸20とを有している。ステータ10は、軸20の周囲に環状に配置された複数の磁気コアブロック100Aにより構成されている。
【0020】
図3は、軸20の周囲に環状に配置された複数の磁気コアブロック100Aの様子を分かりやすく示すため、手前側の磁気コアブロック100Aを省略した状態の破線で示している。磁気コアブロック100Aのそれぞれには、後述するように、巻線コアに巻線が巻回される。また、図3において、磁気コアブロック100Aの軸20に対向する各端面が曲面であるように示しているが、軸20に対向する各端面は平面であってもよい。
【0021】
軸20には、表面に磁歪特性を有する磁性膜が付与されている。軸20は、トルクを与えられると、表面の磁性膜に歪みが生じ、磁性膜の透磁率が変化する。
【0022】
磁歪式トルクセンサ1は、軸20に作用するトルクに応じた磁性膜の磁歪特性の変化を、ステータ10に巻回された巻線によって測定することにより、軸20に作用するトルクを検出することができる。
【0023】
[磁気コアブロックの構成]
次に、図1及び図2を用いて、ステータ10の構成要素である基礎磁気コアブロック100及び磁気コアブロック100Aの構成を説明する。
【0024】
図1の(a)と(b)とにおいて、基礎磁気コアブロック100は、中央ティース101と、第1ティース111と、第2ティース121と、第1巻線コア115と、第2巻線コア125と、を備えている。
【0025】
中央ティース101は、軸20に対向する端面102を有する。中央ティース101には、窪み150が設けられている。第1ティース111は、軸20に対向する端面112を有する。第2ティース121は、軸20に対向する端面122を有する。
【0026】
中央ティース101と第1ティース111とは、軸方向に対して第1の傾きを有する第1巻線コア115を介して一体に形成されている。第1巻線コア115には、後述する第1巻線171が巻回される。中央ティース101と第2ティース121とは、軸方向に対して第1の傾きと反対向きの第2の傾きを有する第2巻線コア125を介して一体に形成されている。第2巻線コア125には、後述する第2巻線172が巻回される。ここで、中央ティース101、第1巻線コア115、第1ティース111、第2巻線コア125、及び第2ティース121は、強磁性体の連続体として構成されている。
【0027】
図1の具体例において、第1の傾きは、軸20に対して+45°程度であり、第2の傾きは、軸20に対して-45°程度である。これら第1の傾きと第2の傾きは、軸20に印加されたトルクの向き及び大きさを検出するためのものであり、±45°付近であることが望ましいが、厳密に±45°に設定する必要はない。
【0028】
中央ティース101は、端面102に垂直な接合面103を備えている。この接合面103は、一対の基礎磁気コアブロック100により、後述する磁気コアブロック100Aを構成する際に使用される。この接合面103には、端面102から、端面102とは反対側の端面に向かって伸びる溝状の窪み150が設けられている。
【0029】
図2に示すように、図1の(a)と(b)とに示す一対の基礎磁気コアブロック100の接合面103同士を接合することにより、磁気コアブロック100Aが形成される。磁気コアブロック100Aは、上下及び左右が対称になり、安定した形状を有している。このため、図3に示したように、複数の磁気コアブロック100Aを、軸20の周囲に環状に配置することにより、ステータ10を構成することができる。
図2において、図1の(a)と(b)とに示す一対の基礎磁気コアブロック100の接合面103同士を接合すると、一対の基礎磁気コアブロック100それぞれの窪み150同士が向かい合うことにより、端面102に垂直な方向の穴160が形成される、
【0030】
[磁気コアブロックの巻線と渦電流の説明]
次に、図4及び図5を用いて、比較例の磁気コアブロック100Xと実施の形態1の磁気コアブロック100Aとにおける、巻線による磁束と渦電流の関係とについて説明する。ここで、比較例の磁気コアブロック100Xと、実施の形態1の磁気コアブロック100Aとを構成する左右の磁気コアブロックは、強磁性体の連続体として構成されている。
【0031】
図4は、比較例として窪み150を有さない磁気コアブロック100Xに第1巻線171及び第2巻線172を装着し、第1巻線171及び第2巻線172に生じる磁束と、中央ティース101に生じる渦電流とを示す模式図である。図5は、図2の磁気コアブロック100Aに第1巻線171及び第2巻線172を装着し、第1巻線171及び第2巻線172に生じる磁束と、中央ティース101に生じる渦電流とを示す模式図である。図4及び図5において、第1巻線171及び第2巻線172に生じる磁束は、第1巻線171及び第2巻線172の巻回方向と直交する方向の両矢印により模式的に示している。
【0032】
図4及び図5において、中央ティース101と第1ティース111とは、軸方向に対して第1の傾きを有する第1巻線コア115を介して一体に形成されている。中央ティース101と第2ティース121とは、軸方向に対して第1の傾きと反対向きの第2の傾きを有する第2巻線コア125を介して一体に形成されている。第1巻線コア115には、第1巻線171が巻回される。この第1巻線171の内部には、第1励磁巻線と第1検出巻線とが含まれている。第2巻線コア125には、第2巻線172が巻回される。この第2巻線172の内部には、第2励磁巻線と第2検出巻線とが含まれている。
【0033】
以上のような構成において、第1巻線171中の第1励磁巻線に励磁電流を流すことより発生する第1励磁磁束は、第1巻線コア115、中央ティース101、軸20、第1ティース111、第1巻線コア115、の経路で循環する。そして、このように循環する第1励磁磁束を、第1巻線171中の第1検出巻線によって検出する。ここで、第1検出巻線に現れる検出電圧は、軸20に作用したトルクによる磁性膜の透磁率の変化に対応している。従って、第1検出巻線に現れる検出電圧の変化により、軸20に作用したトルクを検知することができる。
同様に、第2巻線172中の第2励磁巻線に励磁電流を流すことより発生する第2励磁磁束は、第2巻線コア125、中央ティース101、軸20、第2ティース121、第2巻線コア125、の経路で循環する。そして、このように循環する第2励磁磁束を、第2巻線172中の第2検出巻線によって検出する。ここで、第2検出巻線に現れる検出電圧は、軸20に作用したトルクによる磁性膜の透磁率の変化に対応している。従って、第2検出巻線に現れる検出電圧の変化により、軸20に作用したトルクを検知することができる。更に、第1検出巻線に現れる検出電圧と第2検出巻線に現れる検出電圧との差分をとることにより、検出精度を高めることができる。
【0034】
図4に示す比較例の磁気コアブロック100Xの構成において、左右の基礎磁気コアブロックそれぞれにおいて、第1巻線171中の第1励磁巻線により発生する第1励磁磁束と、第2巻線172中の第2励磁巻線により発生する第2励磁磁束とは、共に、中央ティース101を通って軸20に向かう。ここで、中央ティース101は、第1励磁磁束と第2励磁磁束との貫通方向に大きな断面を有しており、渦電流損を発生しやすい。従って、左側の基礎磁気コアブロックの中央ティース101の中央付近に、第1励磁磁束と第2励磁磁束とに起因した渦電流180aが発生する。同様に、右側の基礎磁気コアブロックの中央ティース101の中央付近に、第1励磁磁束と第2励磁磁束とに起因した渦電流180bが発生する。これら渦電流180a及び180bは、磁束の変化を妨げる性質を有するため、励磁電流に対して生じる励磁磁束を弱めて、磁歪式トルクセンサ1の感度を低下させる不具合を有している。
【0035】
図5に示す実施の形態1の磁気コアブロック100Aの構成において、左右の基礎磁気コアブロックそれぞれにおいて、第1巻線171中の第1励磁巻線により発生する第1励磁磁束と、第2巻線172中の第2励磁巻線により発生する第2励磁磁束とは、共に、中央ティース101を通って軸20に向かう。ここで、左右の中央ティース101には、それぞれ窪み150が設けられている。左右の中央ティース101それぞれに設けられた窪み150は、窪み150付近における中央ティース101の磁気抵抗を上昇させる。このため、第1励磁磁束と第2励磁磁束とは、中央ティース101上で窪み150を避けて分散する。この結果、渦電流も窪み150の周囲に分散し、渦電流181及び182、渦電流183及び184のように細分化された状態で発生する。このように中央ティース101に窪み150を設けることにより、細分化された渦電流181及び182、渦電流183及び184において、励磁磁束の変化を妨げる性質は比較例よりも小さくなる。
このため、図5に示す実施の形態1の磁歪式トルクセンサ1は、中央ティース101に窪み150を設けることにより、渦電流の影響を改善し、比較例よりも感度の向上を実現できる。この感度向上に伴って、処理回路の増幅度を抑えることにより、ノイズ耐性も向上する。また、磁歪式トルクセンサ1全体で励磁電流を低く抑え、省電力に貢献できる。
【0036】
実施の形態2.
次に、実施の形態2における磁歪式トルクセンサ1のステータ10の構造について、図6及び図7を参照して説明する。
【0037】
図6は、本発明の実施の形態2に係る磁歪式トルクセンサ1における磁気コアブロック100Bを示す構成図である。ここで、図6に示す磁気コアブロック100Bは、一対の基礎磁気コアブロック100が接合された磁気コアブロック100A(図2参照)を、1つの連続体の磁気コアブロックとした構成になっている。
【0038】
[磁歪式トルクセンサの構成]
まず、図7を用いて、磁歪式トルクセンサ1の構成を説明する。
図7は、図6の磁気コアブロック100Bを複数組み合わせたステータ10を用いる磁歪式トルクセンサ1の全体構成を示す斜視図である。
【0039】
磁歪式トルクセンサ1は、図7に示すように、主に、ステータ10と、軸20とを有している。ステータ10は、軸20の周囲に環状に配置された複数の磁気コアブロック100Bにより構成されている。
【0040】
図7は、軸20の周囲に環状に配置された複数の磁気コアブロック100Bの様子を分かりやすく示すため、手前側の磁気コアブロック100Bを省略した状態の破線で示している。このステータ10の磁気コアブロック100Bのそれぞれには、後述するように、巻線コアに巻線が巻回される。
【0041】
[磁気コアブロックの構成]
次に、図6を用いて、ステータ10の構成要素である磁気コアブロック100Bの構成を説明する。
図6において、磁気コアブロック100Bは、中央ティース101と、第1ティース111と、第2ティース121と、第3ティース131と、第4ティース141と、第1巻線コア115と、第2巻線コア125と、第3巻線コア135と、第4巻線コア145と、を備えている。
【0042】
中央ティース101は、軸20に対向する端面102を有する。中央ティース101には、端面102から、端面102とは反対側の端面に向かって伸びる窪み150が、穴160として貫通した状態に設けられている。第1ティース111は、軸20に対向する端面112を有する。第2ティース121は、軸20に対向する端面122を有する。第3ティース131は、軸20に対向する端面132を有する。第4ティース141は、軸20に対向する端面142を有する。
【0043】
中央ティース101と第1ティース111とは、軸方向に対して第1の傾きを有する第1巻線コア115を介して、一体に形成されている。中央ティース101と第2ティース121とは、軸方向に対して第1の傾きと反対向きの第2の傾きを有する第2巻線コア125を介して一体に形成されている。中央ティース101と第3ティース131とは、軸方向に対して第1の傾きを有する第3巻線コア135を介して、一体に形成されている。中央ティース101と第4ティース141とは、軸方向に対して第1の傾きと反対向きの第2の傾きを有する第4巻線コア145を介して一体に形成されている。
【0044】
ここで、中央ティース101、第1巻線コア115、第1ティース111、第2巻線コア125、第2ティース121、第3巻線コア135、第3ティース131、第4巻線コア145、及び第4ティース141は、強磁性体の連続体として構成されている。第1巻線コア115~第4巻線コア145には、それぞれ後述する第1巻線~第4巻線が巻回される。
【0045】
図6の具体例において、第1巻線コア115と第3巻線コア135における第1の傾きは、軸20に対して+45°程度である。第2巻線コア125と第4巻線コア145における第2の傾きは、軸20に対して-45°程度である。これら第1の傾きと第2の傾きは、軸20に印加されたトルクの向き及び大きさを検出するためのものであり、±45°付近であることが望ましいが、厳密に±45°に設定する必要はない。なお、図6図7とにおいて、磁気コアブロック100Bの軸20に対向する各端面が曲面であるように示しているが、軸20に対向する各端面は平面であってもよい。
【0046】
[磁気コアブロックの巻線と渦電流の説明]
次に、図8及び図9を用いて、比較例の磁気コアブロック100Yと実施の形態2の磁気コアブロック100Bとにおける、巻線による磁束と渦電流の関係とについて説明する。
【0047】
図8は、比較例として穴160を有さない磁気コアブロック100Yに第1巻線171~第4巻線174を装着し、第1巻線171~第4巻線174に生じる磁束と、中央ティース101に生じる渦電流とを示す模式図である。
図9は、図6に示した磁気コアブロック100Bに第1巻線171~第4巻線174を装着し、第1巻線171~第4巻線174に生じる磁束と、中央ティース101に生じる渦電流とを示す模式図である。図8及び図9において、第1巻線171~第4巻線174に生じる磁束は、第1巻線171~第4巻線174の巻回方向と直交する方向の両矢印により模式的に示している。
【0048】
図8及び図9において、中央ティース101、第1ティース111、第2ティース121、第3ティース131、第4ティース141、第1巻線コア115、第2巻線コア125、第3巻線コア135、及び第4巻線コア145は、一体に形成されている。
【0049】
第1巻線コア115~第4巻線コア145のそれぞれには、第1巻線171~第4巻線174が巻回される。
【0050】
図8に示す比較例の磁気コアブロック100Yの構成において、第1巻線171中の第1励磁巻線により発生する第1励磁磁束と、第2巻線172中の第2励磁巻線により発生する第2励磁磁束と、第3巻線173中の第3励磁巻線により発生する第3励磁磁束と、第4巻線174中の第4励磁巻線により発生する第4励磁磁束とは、共に、中央ティース101を通って軸20に向かう。
【0051】
ここで、中央ティース101は、第1励磁磁束~第4励磁磁束の貫通方向に大きな断面を有しており、渦電流損を発生しやすい。従って、磁気コアブロック100Yの中央ティース101の中央付近に、第1励磁磁束~第4励磁磁束に起因した渦電流180が発生する。この渦電流180は、磁束の変化を妨げる性質を有するため、励磁電流に対して生じる励磁磁束を弱めて、磁歪式トルクセンサ1の感度を低下させる不具合を有している。
【0052】
図9に示す実施の形態2の磁気コアブロック100Bの構成において、第1巻線171中の第1励磁巻線により発生する第1励磁磁束と、第2巻線172中の第2励磁巻線により発生する第2励磁磁束と、第3巻線173中の第3励磁巻線により発生する第3励磁磁束と、第4巻線174中の第4励磁巻線により発生する第4励磁磁束とは、共に、中央ティース101を通って軸20に向かう。
【0053】
ここで、中央ティース101の中央付近には、穴160が設けられている。中央ティース101それぞれに設けられた穴160は、穴160付近における中央ティース101の磁気抵抗を上昇させる。このため、第1励磁磁束~第4励磁磁束とは、中央ティース101上で穴160を避けて分散する。この結果、渦電流は穴160の周囲に分散し、渦電流181~184のように細分化された状態になる。
【0054】
このように中央ティース101に穴160を設けることにより、細分化された渦電流181~184において、励磁磁束の変化を妨げる性質は比較例よりも小さくなる。このため、図9に示す実施の形態2の磁歪式トルクセンサ1は、中央ティース101に穴160を設けることにより、渦電流の影響を改善し、比較例よりも感度の向上を実現できる。この感度向上に伴って、処理回路の増幅度を抑えることにより、ノイズ耐性も向上する。また、磁歪式トルクセンサ1全体で励磁電流を低く抑え、省電力に貢献できる。
【0055】
[その他の実施の形態]
実施の形態1における基礎磁気コアブロック100について、中央ティース101の窪み150は、中央ティース101を貫通した状態を示しているが、これに限定されるものではない。例えば、図10に示すように、窪み150は、中央ティース101を貫通せず、一部で塞がった状態であってもよい。
この場合も、中央ティース101において、窪み150が磁気抵抗を上昇させるため、渦電流を抑えることができる。
実施の形態2における磁気コアブロック100Bにおける中央ティース101の穴160についても、同様に非貫通とする変形が可能である。
【0056】
[実施の形態により得られる効果]
以上説明したように、本発明の実施の形態1及び2の磁歪式トルクセンサ1によると、以下のような効果を得ることができる。
磁性膜を付与された軸20の周囲に複数の磁気コアブロック100Aが環状に配置される磁歪式トルクセンサ1のステータ構造であって、中央ティース101と第1ティース111とは、軸方向に対して第1の傾きを有する第1巻線コア115を介して一体に形成され、中央ティース101と第2ティース121とは、軸方向に対して第1の傾きと反対向きの第2の傾きを有する第2巻線コア125を介して一体に形成され、中央ティース101には、窪み150が設けられている。
これにより磁歪式トルクセンサ1は、軸方向に対して第1の傾きの軸の透磁率の変動と、軸方向に対して第2の傾きの軸の透磁率の変動とを、それぞれの角度に応じて配置された第1巻線及び第2巻線の検出電圧により検出することで、軸20に印加されたトルクの向き及び大きさを検出することができる。
中央ティースには、第1励磁磁束と第2励磁磁束とが軸20に向かって共通して通るが、窪み150が磁気抵抗を上昇させる。これにより、窪み150の周囲に励磁磁束を分散させることで、渦電流は細分化された状態になる。このため、磁路一体型に構成した磁歪式トルクセンサにおいて、ステータに生じる渦電流の影響を改善することができる。
【0057】
一対の基礎磁気コアブロック100が接合された磁気コアブロック100Aが環状に複数配置される磁歪式トルクセンサ1のステータ構造であって、磁気コアブロック100Aは、各基礎磁気コアブロック100同士が接合され、窪み150同士が向かい合い、端面102に垂直な方向の穴160が形成される。中央ティース101において、向かい合った窪み150による穴160は、中央ティース101の磁気抵抗を上昇させ、窪み150の周囲に励磁磁束を分散させることで、渦電流を細分化させる。このため、磁路一体型に構成した磁歪式トルクセンサにおいて、ステータに生じる渦電流の影響を改善することができる。
【0058】
磁歪式トルクセンサ1において、磁気コアブロック100Bは、更に、中央ティース101と第3ティース131とは、第1の傾きを有する第3巻線コア135を介して一体に形成され、中央ティース101と第4ティース141とは、軸方向に対して第2の傾きを有する第4巻線コア145を介して一体に形成され、窪み150により、端面102に垂直な方向の穴160が形成される。中央ティースには、第1励磁磁束~第4励磁磁束が軸20に向かって共通して通るが、窪み150による穴160が磁気抵抗を上昇させ、穴160の周囲に励磁磁束を分散させることで、渦電流を細分化させる。このため、磁路一体型に構成した磁歪式トルクセンサにおいて、ステータに生じる渦電流の影響を改善することができる。
【符号の説明】
【0059】
1 磁歪式トルクセンサ、10 ステータ、20 軸、100 基礎磁気コアブロック、100A,100B,100X,100Y 磁気コアブロック、101 中央ティース、102 端面、111 第1ティース、112 端面、115 第1巻線コア、121 第2ティース、122 端面、125 第2巻線コア、131 第3ティース、132 端面、135 第3巻線コア、141 第4ティース、142 端面、145 第4巻線コア、150 窪み、160 穴、171 第1巻線、172 第2巻線、173 第3巻線、174 第4巻線、180,180a,180b 渦電流、181~184 渦電流。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10