(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-21
(45)【発行日】2024-10-29
(54)【発明の名称】航空システム
(51)【国際特許分類】
G01W 1/16 20060101AFI20241022BHJP
B64F 1/36 20240101ALI20241022BHJP
G08G 5/00 20060101ALI20241022BHJP
【FI】
G01W1/16 A
B64F1/36
G08G5/00 A
(21)【出願番号】P 2021045045
(22)【出願日】2021-03-18
【審査請求日】2024-02-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(73)【特許権者】
【識別番号】503361400
【氏名又は名称】国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構
(74)【代理人】
【識別番号】110000936
【氏名又は名称】弁理士法人青海国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】津端 裕之
(72)【発明者】
【氏名】宮木 博光
(72)【発明者】
【氏名】岡田 孝雄
【審査官】前田 敏行
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-151866(JP,A)
【文献】特開平04-009792(JP,A)
【文献】米国特許第07868811(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01W 1/16
B64F 1/36
G08G 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の電界センサと、前記複数の電界センサと通信を確立可能な地上設備と、を含む航空システムであって、
前記地上設備において、コンピュータが、
前記複数の電界センサそれぞれから電界強度を取得し、地上面の電界分布を生成する情報取得部と、
所定高度の水平面に仮設定した複数の電荷を乗じることで、前記地上面の電界分布となる行列を導出する行列導出部と、
前記行列に対する疑似逆行列を導出する疑似逆行列導出部と、
前記疑似逆行列に前記地上面の電界分布を乗じて、前記水平面における電荷分布を導出する電荷分布導出部と、
前記電荷分布に基づいて飛行経路の電界分布を導出する電界分布導出部
として機能する航空システム。
【請求項2】
前記電荷分布導出部は、
導出した前記電荷分布を平滑化し、
前記電界分布導出部は、
平滑化した前記電荷分布に基づいて、前記地上面の電界分布を導出し、
前記情報取得部が生成した地上面の電界分布と、前記導出した地上面の電界分布との比である比例定数を導出し、
前記平滑化した前記電荷分布に前記比例定数を乗じ、
前記比例定数を乗じた電荷分布に基づいて前記飛行経路の電界分布を導出する請求項1に記載の航空システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、航空システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、イオン放出により落雷を回避する技術が検討されている。例えば、特許文献1には、コロナ放電を起こして霧に付着させたイオンを地上から放出してイオン雲を形成し、地上への直接の落雷回避を図る落雷防止装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
落雷は、地上の施設のみならず、航空機に対しても生じ得る。航空機は導電体であり、雷雲下の空間の電界が航空機に集中することで、航空機をトリガとした落雷が生じることが多い。そのため、航空機への落雷を抑制する技術の開発が希求される。
【0005】
例えば、雷雲の出現位置を予測し、雷雲を回避可能な飛行経路を導出することが考えられる。しかし、航空機をトリガとした落雷を引き起こす位置を正確に予測することは困難であり、雷雲の位置と実際の落雷位置とが異なる場合が生じ得る。落雷の位置は、航空機の飛行経路上の電界の影響が大きいことが知られている。しかし、飛行経路といった広い範囲の電界を適切に推定する有効な手段が存在しない。
【0006】
本発明は、このような課題に鑑み、航空機への落雷の影響を抑制することが可能な航空システムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、複数の電界センサと、複数の電界センサと通信を確立可能な地上設備と、を含む本発明の航空システムでは、地上設備において、コンピュータが、複数の電界センサそれぞれから電界強度を取得し、地上面の電界分布を生成する情報取得部と、所定高度の水平面に仮設定した複数の電荷を乗じることで、地上面の電界分布となる行列を導出する行列導出部と、行列に対する疑似逆行列を導出する疑似逆行列導出部と、疑似逆行列に地上面の電界分布を乗じて、水平面における電荷分布を導出する電荷分布導出部と、電荷分布に基づいて飛行経路の電界分布を導出する電界分布導出部として機能する。
【0008】
電荷分布導出部は、導出した電荷分布を平滑化し、電界分布導出部は、平滑化した電荷分布に基づいて、地上面の電界分布を導出し、情報取得部が生成した地上面の電界分布と、導出した地上面の電界分布との比である比例定数を導出し、平滑化した電荷分布に比例定数を乗じ、比例定数を乗じた電荷分布に基づいて飛行経路の電界分布を導出してもよい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、航空機への落雷の影響を抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、飛行経路と電界との関係を説明するための説明図である。
【
図2】
図2は、航空システムの概略的な構成を示した説明図である。
【
図3】
図3は、地上設備の概略的な構成を示したブロック図である。
【
図4】
図4は、電界導出処理の流れを示すフローチャートである。
【
図5】
図5は、行列導出部の処理を説明するための説明図である。
【
図6】
図6は、行列導出部の処理を説明するための説明図である。
【
図7】
図7は、行列導出部の処理を説明するための説明図である。
【
図8】
図8は、電界導出処理の計算例を示した説明図である。
【
図9】
図9は、電界導出処理の計算例を示した説明図である。
【
図10】
図10は、航空機の概略的な構成を示した説明図である。
【
図11】
図11は、姿勢制御部の処理を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値等は、発明の理解を容易とするための例示にすぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0012】
(航空システム)
航空機は、落雷を回避するため、雷雲から離れた飛行経路を飛行するのが望ましい。したがって、航空システムでは、雷雲の出現位置を予測し、雷雲を回避可能な飛行経路を導出する。航空機をトリガとした落雷を引き起こす位置は、航空機の飛行経路上の雷雲のみならず、雷雲によって生じる電界の影響が大きいことが知られている。
【0013】
ここでは、雷雲全体の電荷分布を雲底の電荷分布に等価的に置き換えて航空機への影響を検討する。具体的に、雲底より垂直下方の空間における電界が等しくなるように、雷雲の垂直方向および水平方向に分布した電荷と等価的な電荷を雲底の電荷分布として仮想的に設定する。
【0014】
図1は、飛行経路14と電界との関係を説明するための説明図である。
図1の例では、上空に2つの雲底10があり、一方の雲底10aは正極側に帯電し、他方の雲底10bは負極側に帯電しているとする。そうすると、雲底10a、10bにより、
図1に示すような等電位面12が形成される。
【0015】
このような電界中において、破線で示す飛行経路14を航空機110が飛行すると、雲底10a、10bによる電界の影響を受ける。例えば、飛行経路14中の各ポイントで、
図1中、実線の矢印で示したような電界の影響を受ける。かかる電界の大きさや方向によっては、航空機110をトリガとして落雷が生じるおそれがある。
【0016】
ここで、航空システムでは、航空機110自体の電荷分極を求め、航空機110の飛行位置における電界を推定することが考えられる。しかし、かかる電界は、現在の飛行位置近傍における電界のみとなるので、航空機110の今後の飛行経路14全体における電界を把握することはできない。
【0017】
そこで、航空システムでは、地上面16における電界分布18を求め、その電界分布18から、本来、雷雲全体に分布している電荷が雲底10にのみ等価的に分布していると仮定した場合の電荷分布20を推定する。そして、航空システムは、推定した電荷分布20を静電解析することで飛行経路14における電界分布22を推定する。こうして、精度の高い避雷システムを構築することができる。
【0018】
図2は、航空システム100の概略的な構成を示した説明図である。航空システム100は、航空機110と、地上に配置された複数の電界センサ112と、地上に配置された地上設備114とを含む。ここでは、航空機110として旅客機を例示するが、大気中を飛行する様々な機械を採用することができる。
【0019】
(電界センサ112)
電界センサ112は、地上面16における任意の領域、例えば、被雷の影響が大きい滑走路周辺に、他の電界センサ112と所定距離(例えば数百m)だけ間隔を開けて設置される。電界センサ112は、回転型電界計測器(フィールドミル)等、少なくとも、電界センサ112が位置している地点の電界強度を測定することができる。また、電界センサ112は、測定した電界強度を地上設備114に送信することができる。
【0020】
(地上設備114)
図3は、地上設備114の概略的な構成を示したブロック図である。地上設備114は、中央処理装置(CPU)、プログラム等が格納されたROM、ワークエリアとしてのRAM等を含むコンピュータで構成される。地上設備114は、電界センサ112および航空機110と通信を確立する。また、地上設備114は、プログラムと協働して、情報取得部120、行列導出部122、疑似逆行列導出部124、電荷分布導出部126、電界分布導出部128、情報伝達部130としても機能する。ここでは、本実施形態の目的である落雷回避に関連する構成を説明し、本実施形態に関係のない構成については説明を省略する。
【0021】
図4は、電界導出処理の流れを示すフローチャートである。情報取得処理S100において、情報取得部120は、複数の電界センサ112それぞれから電界強度を取得し、地上面16の電界分布18を生成する。行列導出処理S102において、行列導出部122は、所定高度の雲底面(水平面)に仮設定した複数の電荷を乗じることで、地上面16の電界分布18となる係数マトリクス(行列)を導出する。疑似逆行列導出処理S104において、疑似逆行列導出部124は、係数マトリクスに対する疑似逆行列を導出する。
【0022】
そして、電荷分布導出処理S106において、電荷分布導出部126は、疑似逆行列に地上面16の電界分布18を乗じて、雲底面における電荷分布20を導出する。電界分布導出処理S108において、電界分布導出部128は、電荷分布20に基づいて飛行経路14の電界分布22を導出する。情報伝達処理S110において、情報伝達部130は、航空機110の飛行経路14の電界分布を、航空機110に送信する。以下、各処理を詳述する。
【0023】
(情報取得処理S100)
情報取得部120は、複数の電界センサ112それぞれから電界強度を取得する。情報取得部120は、既知の電界センサ112の位置に、取得した電界強度を対応付け、地上面16の電界分布18を生成する。
【0024】
また、情報取得部120は、所定の航空機110が所定時間内に飛行を予定している飛行経路14を取得する。情報取得部120は、観測施設から、雲(雷雲)の位置、高さ、大きさを取得する。
【0025】
(行列導出処理S102)
図5~
図7は、行列導出部122の処理を説明するための説明図である。まず、行列導出部122は、飛行経路14の近傍であり、航空機110が飛行する可能性がある対象領域24を設定する。例えば、行列導出部122は、航空機110の飛行経路14を、
図5のように、水平方向に延在させた水平面の所定範囲を対象領域24として設定する。
【0026】
続いて、行列導出部122は、対象領域24を鉛直方向に投影した対象空間26における雲底10の位置、高さ、大きさに基づき、対象空間26において占有面積が大きい雲底10の高度に、水平方向に延在する仮想の雲底面28を定義する。
【0027】
そして、行列導出部122は、雲底面28にのみ電荷が分布すると仮定し、雲底10の電荷を仮想的に設定する。例えば、行列導出部122は、
図5における雲底面28に、縦横に所定間隔隔てた網目(メッシュ)30を形成し、その交点に相当する複数の仮想点32に電荷が存在すると仮設定する。ただし、この時点では、各仮想点32の電荷は未知数である。
【0028】
行列導出部122は、鏡像法および電荷重畳法に基づいて、係数マトリクス(行列)を導出する。具体的に、行列導出部122は、
図6の縦断面に示すように、地上面16と、雲底面28とを定義する。かかる雲底面28の仮想点32それぞれには、電荷34a、34bが仮定され、その電荷34a、34bによって、地上面16の電界センサ112a、112bそれぞれに電界が生じる。なお、仮想点32および電界センサ112は3以上存在するが、ここでは、説明の便宜上、2つの仮想点32および2つの電界センサ112を挙げて説明する。
【0029】
ここでは、地上面16を導体とみなし、導体の表面に生じる電荷密度を、仮想的な電荷を定義することで求める鏡像法を用いる。例えば、行列導出部122は、地上面16を対称軸とし、雲底面28の線対称の面を鏡像面36と定義し、電荷34a、34bの線対称の位置にある電荷を仮想電荷38a、38bと定義する。なお、電荷34aと仮想電荷38aとは正負の符号を反転した関係であり、電荷34bと仮想電荷38bとは正負の符号を反転した関係である。
【0030】
このような電荷34a、34bと、仮想電荷38a、38bとによって、地上面16の電界センサ112a、112bの位置には、実線矢印で示したクーロン力40(
図6中40a~40hで示す)が働く。具体的に、電界センサ112aの位置には、電荷34aによるクーロン力40a、電荷34bによるクーロン力40b、仮想電荷38aによるクーロン力40c、仮想電荷38bによるクーロン力40dが働く。電界センサ112bの位置には、電荷34aによるクーロン力40e、電荷34bによるクーロン力40f、仮想電荷38aによるクーロン力40g、仮想電荷38bによるクーロン力40hが働く。
【0031】
このように、電界センサ112に働くクーロン力40を合成すると白抜き矢印で示した電界強度42a、42bとなる。かかる電界強度42a、42bを、電荷重畳法に基づいて、各電荷に対する電界強度の積算値で表すと、
図7のような線形代数方程式となる。
【0032】
図7の線形代数方程式における雲底高度は、
図6に示すように、雲底面28と地上面16との距離であり、点間距離は、仮想点32と電界センサ112との距離である。また、(2×雲底高度/点間距離)のうち、雲底高度/点間距離は、クーロン力40の電界方向の成分を示す。ここで、雲底高度/点間距離を2倍しているのは、1の電荷34について、電荷34および仮想電荷38の2箇所からクーロン力40が発生するからである。
【0033】
なお、電荷34と仮想電荷38とは、地上面16を対称軸として線対称となっているので、電界の方向は、
図6に示したように、必ず地上面16と垂直となる。行列導出部122は、
図7の線形代数方程式に基づいて、雲底面28の各電荷34に乗じる係数マトリクスを導出する。
【0034】
このように、地上面16の電界分布18と、係数マトリクスとが特定されると、地上面16の電界分布18に係数マトリクスの逆行列を乗じることで、仮想点32の電荷34を導出することができるはずである。しかし、地上面16における同一の電界分布18を形成する電荷分布20は複数存在するので、電荷分布20を単純に導出することはできない。そこで、本実施形態では、線形代数学における逆行列の概念を一般化した、所謂、疑似逆行列を用いる。
【0035】
(疑似逆行列導出処理S104)
疑似逆行列導出部124は、技術計算言語、例えば、MATLAB(登録商標)を用いて、係数マトリクスから疑似逆行列を導出する。
【0036】
(電荷分布導出処理S106)
電荷分布導出部126は、疑似逆行列導出部124が求めた疑似逆行列を用い、疑似逆行列と、地上面16の電界分布18とを乗じることで、雲底面28の電荷分布20を導出する。
【0037】
ただし、ここでは、純粋な逆行列ではなく、疑似逆行列を用いているので、電荷分布20が本来の値から歪む場合がある。そこで、電荷分布導出部126は、平滑化フィルタ、例えば、畳み込みフィルタを用いて、電荷分布20を平滑化する。
【0038】
電荷分布導出部126は、畳み込みフィルタを用い、例えば、任意の仮想点32を中心とする縦3×横3の仮想点群の電荷34の平均値を、その任意の仮想点32の電荷34とする。電荷分布導出部126は、仮想点32を順次移動(スイープ)して、仮想点32毎に、このような平滑化処理を実行する。なお、ここでは、畳み込みフィルタを例示しているが、かかる場合に限らず、様々な平滑化フィルタを用いることができる。
【0039】
(電界分布導出処理S108)
電界分布導出部128は、電荷分布導出部126が平滑化した電荷分布20を静電解析することで、地上面16の電界分布を導出する。かかる静電解析については、既存の任意の技術を用いることができるので、ここでは、その詳細な説明を省略する。
【0040】
また、電界分布導出部128は、電荷分布導出部126が電荷分布20を平滑化したことで変化した絶対量を校正する。具体的に、電界分布導出部128は、情報取得部120が生成した地上面16の電界分布18と、導出した地上面16の電界分布との比である比例定数を導出する。比例定数は、例えば、(情報取得部120が生成した地上面16の電界分布18のピーク値)/(導出した地上面16の電界分布のピーク値)で表される。なお、ここでは、ピーク値に基づいて比例定数を求めたが、かかる場合に限らず、平均値や中心値に基づいて比例定数を導出してもよい。
【0041】
電界分布導出部128は、電荷分布導出部126が平滑化した電荷分布20に比例定数を乗じ、平滑化後の電荷分布20を補正する。そして、電界分布導出部128は、その比例定数を乗じた電荷分布20に基づき、様々な位置の電界分布を導出する。例えば、電界分布導出部128は、比例定数を乗じた電荷分布20に基づき、航空機110の飛行経路14の電界分布を導出する。
【0042】
(情報伝達処理S110)
情報伝達部130は、電界分布導出部128が導出した電界分布のうち、航空機110の飛行経路14に対応する領域の電界分布22を、航空機110に送信する。
【0043】
図8、
図9は、電界導出処理の計算例を示した説明図である。ここでは、技術計算言語としてMATLABを用いる。まず、
図8の(a)~(d)のプログラムコードによって、地上面16の電界分布(E1)が仮想的に設定される。具体的に、
図8の(a)のプログラムコードによって、雲底面28の高度、範囲、網目の数等の初期設定が行われ、
図8の(b)のプログラムコードによって雲底面28に、2箇所に電荷が配された電荷分布(C0)が仮設定される。また、
図8の(c)のプログラムコードによって、地上面16の電界分布(E1)と電荷分布(C0)との線形代数方程式の係数マトリクス(k)が導出され、
図8の(d)のプログラムコードによって、係数マトリクス(k)と電荷分布(C0)との積である電界分布E0を地上面16の電界分布(E1)とする。こうして、地上面16の電界分布(E1)が仮想的に設定される。
【0044】
このように設定された地上面16の電界分布(E1)を地上面16に展開すると、その電界強度は
図9の(a)のようになる。かかる図では、左上から右下に移行するに連れ、電界強度が高くなっている。ここでは、情報取得部120が地上面16の電界分布(E1)を生成し、行列導出部122が係数マトリクス(k)を導出したとする。
【0045】
疑似逆行列導出部124は、MATLABの関数pinvによって、係数マトリクス(k)の疑似逆行列(pinv(k))を導出する。電荷分布導出部126は、
図8の(e)のプログラムコードによって、地上面16の電界分布(E1)に、係数マトリクス(k)の疑似逆行列(pinv(k))を乗じて、雲底面28の電荷分布(C1)を導出する。雲底面28の電荷分布(C1)を展開すると、そのクーロン力は
図9の(b)のようになる。
図9の(b)では、左上に負の電荷が、右下に正の電荷が生じている。
【0046】
ただし、
図9の(b)を参照して理解できるように、雲底面28の電荷分布(C1)は、部分的に歪んでいる。そこで、電荷分布導出部126は、
図8の(f)のプログラムコードによって、雲底面28の電荷分布(C1)に畳み込みフィルタ処理(filter2)を行い、平滑化された電荷分布(C2)を求める。こうして、
図9の(c)のような、電荷が滑らかに変化する電荷分布(C2)を得ることができる。
【0047】
電界分布導出部128は、
図8の(g)のプログラムコードによって、平滑化した電荷分布(C2)に基づいて、地上面16の電界分布(E2)を導出する。こうして、
図9の(d)に示すような地上面16の電界分布(E2)が得られる。電界分布導出部128は、
図8の(h)のプログラムコードによって、情報取得部120が取得した電界分布(E1)と、導出した電界分布(E2)との比である比例定数を導出する。電界分布導出部128は、平滑化した電荷分布(C2)に比例定数を乗じ、比例定数を乗じた電荷分布(C2)に基づき、飛行経路14の電界分布を導出する。
【0048】
(航空機110)
図10は、航空機110の概略的な構成を示した説明図である。航空機110は、飛行機構150と、飛行制御装置152とを備える。飛行機構150は、主翼150a、水平尾翼150b、垂直尾翼150c等の固定翼と、推進力を得る内燃機関(例えば、ジェットエンジンやレシプロエンジン)150dとで構成され、推進力により翼周りに揚力を生じさせることで、機体が大気中に浮上した状態を維持する。
【0049】
飛行制御装置152は、中央処理装置(CPU)、プログラム等が格納されたROM、ワークエリアとしてのRAM等を含むコンピュータで構成され、航空機110を操縦するパイロットの操作入力を受け付け、飛行機構150を制御して航空機110の飛行を維持する。また、飛行制御装置152は、プログラムと協働して、情報送信部160、情報受信部162、姿勢制御部164、経路補正部166としても機能する。ここでは、本実施形態の目的である落雷回避に関連する構成を説明し、本実施形態に関係のない構成については説明を省略する。
【0050】
情報送信部160は、航空機110の位置と、所定時間内に飛行を予定している飛行経路14とを地上設備114に送信する。情報受信部162は、航空機110の飛行経路14の電界分布22を受信する。こうして、飛行経路14における電界の強度および方向を把握することができる。姿勢制御部164は、電界の方向に基づいて、航空機110の姿勢を、被雷確率を下げる姿勢となるように制御する。経路補正部166は、姿勢制御部164が導出した航空機110の姿勢を保持できるように、飛行経路14を補正する。
【0051】
図11は、姿勢制御部164の処理を説明するための説明図である。例えば、電界が
図11の(a)のような電界方向70に生じていれば、姿勢制御部164は、鉛直上方に突出した航空機110の突出部で形成される突出平面72と電界方向70とが垂直に交わるように、ピッチ軸回りの角(ピッチ角)をα°傾ける。また、電界が
図11の(b)のような電界方向70に生じていれば、姿勢制御部164は、突出平面72と電界方向70とが垂直に交わるように、ロール軸回りの角(ロール角)をβ°傾ける。こうして、航空機110の突出部における電界強度を均等にすることができ、航空機110をトリガとして落雷を引き起こす可能性を低減することが可能となる。
【0052】
本実施形態においては、航空機110の近傍のみならず、飛行を予定している飛行経路14全体の電界を推定しているので、避雷可能な飛行経路14をより正確に導出でき、被雷確率を低減することが可能となる。また、飛行経路14全体の電界を推定しているので、航空機110は、その電界方向に応じて姿勢を変更し、より被雷確率を低減することが可能となる。
【0053】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0054】
また、コンピュータを各機能部として機能させるプログラムや、当該プログラムを記録した、コンピュータで読み取り可能なフレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD、DVD、BD等の記憶媒体も提供される。ここで、プログラムは、任意の言語や記述方法にて記述されたデータ処理手段をいう。
【0055】
また、上述した実施形態では、地上設備114および航空機110それぞれに各機能部が搭載されている例を挙げて説明したが、地上設備114の機能部の一部または全部を航空機110において機能させることや、航空機110の機能部の一部または全部を地上設備114において機能させることもできる。
【0056】
なお、本明細書の電界導出処理の各工程は、必ずしもフローチャートとして記載された順序に沿って時系列に処理する必要はなく、並列的あるいはサブルーチンによる処理を含んでもよい。
【符号の説明】
【0057】
100 航空システム
110 航空機
112 電界センサ
114 地上設備
120 情報取得部
122 行列導出部
124 疑似逆行列導出部
126 電荷分布導出部
128 電界分布導出部
130 情報伝達部