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特許7575010フィンガージョイントカッター、木材加工品及びその製造方法
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  • 特許-フィンガージョイントカッター、木材加工品及びその製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-21
(45)【発行日】2024-10-29
(54)【発明の名称】フィンガージョイントカッター、木材加工品及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B27D 1/10 20060101AFI20241022BHJP
   B27F 1/16 20060101ALI20241022BHJP
【FI】
B27D1/10 B
B27F1/16
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021528269
(86)(22)【出願日】2020-06-16
(86)【国際出願番号】 JP2020023614
(87)【国際公開番号】W WO2020262118
(87)【国際公開日】2020-12-30
【審査請求日】2023-03-14
(31)【優先権主張番号】P 2019120413
(32)【優先日】2019-06-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000165398
【氏名又は名称】兼房株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】501186173
【氏名又は名称】国立研究開発法人森林研究・整備機構
(74)【代理人】
【識別番号】110000604
【氏名又は名称】弁理士法人 共立特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】土屋 敦
(72)【発明者】
【氏名】平松 靖
(72)【発明者】
【氏名】藤本 清彦
【審査官】田辺 義拓
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-048203(JP,A)
【文献】実開平03-036804(JP,U)
【文献】特開平09-099404(JP,A)
【文献】金森勝義,木材のフィンガー切削について(第1報),林産試験場月報,日本,1986年,1986年1月号
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B27D 1/10
B27F 1/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィンガーの長さLが10.5mm未満、4mm超、スカーフ傾斜比tanθが1/10以下、突き合わせ方向の単位断面積(1mm2)あたりの接着面積sが6.0mm2以上、前記フィンガー長さL(mm)/フィンガーピッチP(mm)が3.0以上であるフィンガージョイントにてたて継ぎされた木材からなる、
構造用集成材用ラミナ、直交集成板(CLT)用ラミナ、及び、枠組壁工法構造用たて継ぎ材のうちの何れかである木材加工品。
【請求項2】
前記フィンガー長さLがmm以下である請求項1に記載の木材加工品。
【請求項3】
前記フィンガー先端厚さt1(mm)/フィンガーピッチP(mm)が0.18以下である請求項1又は2に記載の木材加工品。
【請求項4】
回転軸を中心に回転することにより被切削体を切削するフィンガージョイントカッターであって、
前記回転軸を軸として刃部を1回転してできる立体の前記回転軸を含む面での断面形状の外形が、請求項1~のうちの何れか1項に記載の前記フィンガージョイントの前記フィンガーのピッチ方向及び長さ方向を含む面での断面形状と略相補的形状をもつフィンガージョイントカッター。
【請求項5】
前記刃部は、
全体の質量を基準として、0.5%以上0.8%以下のCと、4%以上6%以下のCrと、0%以上2%以下のWと、2%以上6%以下のMoと、1%以上2%以下のVと、主成分としてのFeとを含有するマトリクスハイス鋼または超硬合金からなる母材と、
少なくともCr、Nを含み、PVDにより表面に形成された硬質皮膜と、
からなる請求項に記載のフィンガージョイントカッター。
【請求項6】
請求項又はに記載のフィンガージョイントカッターを用いて、前記被切削体を切削して前記フィンガーを形成するフィンガー形成工程を有し、
一刃あたりの送り量は、0.5mm以上、1.75mm以下である、
木材加工品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィンガージョイントカッター、木材加工品及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
集成材は、複数の板材それぞれの端部にジグザグにカットして形成したフィンガージョイント同士を付き合わせたたて継ぎにて接着・接合して形成されたラミナを積層することで製造する(非特許文献1)。フィンガージョイントの長さ(フィンガー長さ)は、できるだけ短い方が加工コスト・エネルギーの低減、切屑の減少などの観点からは望ましいが、フィンガー長さを短くすると相対的な接合強度が低下することになる。例えば、構造用集成材ではなく、造作用の集成材においては、構造用集成材よりも短いフィンガーが採用されている。
【0003】
ここで、フィンガージョイントの形成はフィンガージョイントカッターと称される刃物による切削加工により行われることが一般的である(非特許文献2など)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】集成材の日本農林規格(平成30年3月29日農林水産省告示第683号)
【文献】兼房株式会社、チップソー・ビット・ドリルなどの製品情報、木材(木質材料)加工:替刃式フィンガーカッター、http://www.kanefusa.co.jp/products/001980.html
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記実情に鑑み完成したものであり、フィンガー長さを短くしても高い強度が実現できる形状をもつフィンガージョイントが形成できるフィンガージョイントカッターを提供することを解決すべき課題とする。また、従来よりも高い強度が実現できる形状をもつフィンガージョイントを有する木材加工品及びその製造方法を提供することも解決すべき課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決する目的で本発明者らはフィンガージョイントの形状について種々の検討を行った。その結果、フィンガージョイントの形状を所定の形状にすることでフィンガー長さを短くしても高い接合強度が実現できることを見出し以下の発明を完成した。
【0007】
上記課題を解決する本発明の木材加工品は、フィンガーの長さLが12.0mm未満、スカーフ傾斜比tanθが1/8.8以下、突き合わせ方向の単位断面積(1mm2)あたりの接着面積sが4.67mm2以上であるフィンガージョイントをもつ。このフィンガージョイントにてたて継ぎされた木材からなる。
【0008】
本発明の木材加工品は、構造用集成材用ラミナ、直交集成板(CLT)用ラミナ、及び、枠組壁工法構造用たて継ぎ材のうちの何れかである。これらは何れも大きな外力が加わりうる部位に用いることが想定され、高い強度が要求される。
【0009】
上記課題を解決する本発明のフィンガージョイントカッターは、回転軸を中心に回転することにより被切削体を切削するフィンガージョイントカッターである。
【0010】
本発明のフィンガージョイントカッターは、前記回転軸を軸として刃部を1回転してできる立体の前記回転軸を含む面での断面形状の外形が、本発明の木材加工品における前記フィンガージョイントの前記フィンガーのピッチ方向及び長さ方向を含む面での断面形状と略相補的形状をもつ。代表的な形態としては、円筒形の本体をもち、その円筒形の外周面に外方に向けて突出する刃部が複数形成された構成が例示され、本体を構成する円筒形の中心軸を回転軸として回転させてフィンガージョイントカッターとしての用途に供することになる。
【0011】
上記課題を解決する本発明の木材加工品の製造方法は、本発明のフィンガージョイントカッターを用いて、前記被切削体を切削して前記フィンガーを形成するフィンガー形成工程を有する。その場合に、一刃あたりの送り量は、0.5mm以上、1.75mm以下である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の木材加工品は、上記構成を有することからフィンガージョイントによるたて継ぎの存在にかかわらず高い強度をもつ。本発明のフィンガージョイントカッター及び本発明の木材加工品の製造方法は、上記構成を有することから効率的に本発明の木材加工品を製造することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本実施形態の木材加工品の概略図である。
図2】本実施形態のフィンガージョイントカッターの概略図である。
図3A】本実施形態のフィンガージョイントカッターの概略図である。
図3B】本実施形態のフィンガージョイントカッターの概略図である。
図4】本実施例における試験試料において単位面積あたりの接着面積sと引張強度との関係を示すグラフである。
図5】本実施例における試験試料において単位面積あたりの接着面積sと曲げ強度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の木材加工品及びその製造方法並びにフィンガージョイントカッターについて実施形態に基づき詳細に説明を行う。本実施形態の木材加工品は、構造用集成材用ラミナ、直交集成板(CLT)用ラミナ、及び、枠組壁工法構造用たて継ぎ材のうちの何れかである。これらは全てひき板などの板材をたて継ぎ(木材の繊維方向での継ぎ合わせ)により接合したものである。たて継ぎによる接合は、接合面に形成されたフィンガージョイント同士を付き合わせることで行われている。構造用集成材用ラミナ及び直交集成板(CLT)用ラミナは、複数枚を厚み方向に重ねて集成材、及び、CLTを構成する。本実施形態において説明に使用する図面は模式図であり、個々の寸法、相対位置、個々の要素の数などは適宜変更することが可能である。なお、本明細書中において特に記載が無い場合には長さの単位にはmm、面積の単位にはmm2を使用する。
【0015】
(木材加工品)
本実施形態の木材加工品を図1に基づき説明する。本実施形態の木材加工品は、図1に示すように、第1部材10と第2部材20との間をフィンガージョイントにて接合している。図の幅方向(図中のPに対応して記載の矢印方向:以下「P方向」)両端は記載を省略している。また、図1においては、突き合わせにより嵌合していないフィンガーが存在するが(フィンガー13、14)、これは便宜上のものであり、このような嵌合していないフィンガーが存在してもしなくても良い。なお、強度向上の観点からは、接合に関与しないフィンガーが少ない方が好ましい。例えば、第1部材10及び第2部材20それぞれに形成されるフィンガーの数が同じであるか、又は、一方のフィンガーの数が他方のフィンガーの数+1とすることが好ましい。
【0016】
第1部材10及び第2部材20は、図の上下方向(図中のLに対応して記載の矢印方向:以下「L方向」)がほぼ木材の繊維方向である。第1部材10及び第2部材20を構成する木材の種類は特に限定されない。木材加工品が用いられる用途に求められる強度、外観などにより適宜選択される。
【0017】
第1部材10は、ひき板を切削加工して製造したものであり、フィンガー11~14をもつ。フィンガー11~14は、ひき板における、図の紙面上下方向の断面形状が一定であり、その断面形状は、図の上方向に向けて幅が狭くなる台形であり、略等脚台形であることが好ましい。
【0018】
ここで、ひき板の形状は、木材の繊維方向(長手方向)、木材の繊維方向に直交する方向のうちの長い方向である幅方向、木材の繊維方向及び幅方向に直交する方向であり幅方向よりも短い方向である厚み方向の3つの方向にて特定する。ひき板に対してフィンガー11~14を形成する方向は、幅方向とP方向とが一致するようにしても良いし、厚み方向とP方向とが一致するようにしても良い。また、幅方向及び厚み方向の双方に対して一致せず斜め方向に一致するようにしても良い。
【0019】
台形の先端厚さ(フィンガー先端厚さ)はt1(mm)である。フィンガー11~14は、隣のフィンガーとの間に隙間(フィンガーの底部幅)t2(mm)を介して配設されている。つまり、フィンガー11~14は、(フィンガー11~14のL方向での下側の厚み)+(フィンガーの底部幅t2)で算出されるフィンガーピッチP(mm)にて配設されている。
【0020】
フィンガー11~14は、フィンガー11~14が形作る等脚台形の脚に相当する部分bであるスカーフbをもつ。スカーフbは、L方向との角度θで表される「スカーフ傾斜比:tanθ」にて形状が規定される。スカーフbの表面は、滑らかな方が望ましい。
【0021】
本実施形態の木材加工品におけるフィンガージョイントの構成は以下の通りである。フィンガー長さLが12mm未満、スカーフ傾斜比tanθが1/8.8以下、突き合わせ方向の単位断面積(1mm2)あたりの接着面積sが4.67mm2以上である。Lについては、好ましい上限値として、11mm、10.5mm、10mm、9mm、8mm、7mm、6.5mm、6.0mm、5.5mm、5.0mmが挙げられる。好ましい下限値としては4mmが挙げられる。
【0022】
tanθについては、好ましい上限値として、1/9、1/10、1/11、1/12が挙げられる。突き合わせ方向の単位断面積(1mm2)あたりの接着面積sについては、好ましい下限値として、5.0mm2、5.5mm2、6.0mm2、6.5mm2、7.0mm2、7.5mm2が挙げられる。
【0023】
ここで、突き合わせ方向の断面積は、図1における第1部材10のP方向での断面積である。通常、第1部材10及び第2部材20は突き合わせ方向で同じ断面形状をもつ部材である。ただし、木材加工品を製造する際に第1部材10と第2部材20とを接合する際の両者の突き合わせ方向での断面形状が同じである必要は必ずしも無い。両者を同じ断面形状にしなくても、接合後にプレーナなどにより加工することで断面形状を変化(例えば同一断面形状にする)させることができる。
【0024】
接着面積sは付き合わせられる第2部材20のフィンガーと接する部分の面積である。つまり、第1部材10が第2部材20と付き合わせられる方向において、接着される部分の面積の総和である。例えば、フィンガー11~14のスカーフの表面のうち、接着に関与していないAの部分の面積を除いた面積である。なお、フィンガー11~14が配設された両端にバット部が形成された場合、そのバット部は接着面積には算入しない。
【0025】
接着面積sを大きくするには、Lを大きく、Pを小さく、フィンガー先端厚さt1及びフィンガー底部幅t2は小さくする。フィンガー数を多くするには、スカーフ傾斜比tanθは小さくする。Pが同一である場合には接着面積を大きくするために、1ピッチ内ではスカーフ傾斜比tanθはできるだけ大きくする(t1及びt2を小さくすることでPが同じであってもスカーフ傾斜比tanθが大きくできる)。接着面積sを大きくすると接合部分の強度向上が実現できる。
【0026】
フィンガー長さLとフィンガーピッチPとの関係は特に限定しないが、L/Pが2.19超であることが好ましく、3.0以上であることがより好ましく、3.2以上であることが更に好ましい。フィンガー先端厚さt1とフィンガーピッチPとの関係も特に限定しないが、t1/Pが0.28以下であることが好ましく、0.18以下であることが更に好ましい。
【0027】
第2部材20についても第1部材10と同様のフィンガーが形成されている。特に第1部材10と第2部材20とのフィンガージョイントは相補的な形状であることが望ましいため、第2部材20における好ましい形状は第1部材10にて説明したものと同様の形状である。
【0028】
(フィンガージョイントカッター)
本実施形態のフィンガージョイントカッターは、回転により被切削体を切削することでフィンガージョイントを形成することができる。例えば、図2に示すように、円筒形の本体部30(円筒の中心軸が回転軸となる)と、本体部30の外周面に配設される刃部40とから構成することができる。
【0029】
同図には、複数の刃部40を本体部30の外周面に、本体部30の軸方向について単列で配したフィンガージョイントカッターの一例についての斜視図を示し、図3A及び図3Bには、複数の刃部40を本体部30の軸方向について複列で配したフィンガージョイントカッターの一例についての斜視図を示す。なお、図2~3に記載のフィンガージョイントカッターは、それぞれ異なる構成をもつが、本体部30、刃部40との共通の符号を付けている。
【0030】
フィンガージョイントカッターを使用したとき(回転させたとき)に刃部40の先端の軌跡の回転径(切削円弧径)は特に限定しない。例えば、従来設備(従来のフィンガージョイントカッターを用いた設備)を流用することを考慮した場合に、従来のフィンガージョイントカッターと同程度(例えばφ150mm~φ280mm程度)とする事が好ましい。また、本体部30の直径は切削円弧径から刃部40の径方向の長さである8mm~15mm程度を半径から差し引くことが望ましい。
【0031】
また、本体部30は、複数の部材から構成することで整備性が向上する。例えば、円筒形の軸方向に分割したり、円周方向に分割したり、半径方向に分割したり、それらの分割方向を組み合わせて分割したりできる。図2及び3に示したフィンガージョイントカッターでは、刃部40を替刃締結ボルト41にて取り外し自在に締結している。
【0032】
刃部40は、本実施形態のフィンガージョイントカッターを使用状態と同様に1回転させて形成される軌跡の回転軸を含む面での断面形状が前述の本実施形態の木材加工品におけるフィンガーの長さ方向L及びピッチ方向Pを含む面での断面形状と略相補的形状をもつ。
【0033】
つまり、刃部が1つの場合はその刃部の形状は、そのままフィンガージョイントの形状と略相補的形状になっている。そして、刃部が複数設けられている場合には、複数の刃部を組み合わせた形状がフィンガージョイントの略相補的形状になっていることもできる。なお、フィンガージョイントカッターがもつ刃部の全てが形作る形状がフィンガージョイントの略相補的形状になっていなくても、切削加工するために被切削体に接触する部分が形作る部分形状が略相補的形状になっていれば充分である。
【0034】
刃部を複数設ける場合の例としては、本体部30の外周面に周方向に分散させたり、回転軸方向に分散させたりできる。刃部40は、本体部30に固定されるが、その固定方法は、簡単に着脱可能な方法であっても、溶接などの簡単には着脱できない方法であってもどちらでも良い。
【0035】
刃部を構成する材料としては、一般的な木材加工用の刃物の材料が採用できる。例えば、全体の質量を基準として、0.5%以上0.8%以下のCと、4%以上6%以下のCrと、0%以上2%以下のWと、2%以上6%以下のMoと、1%以上2%以下のVと、主成分としてのFeとを含有するマトリクスハイス鋼または超硬合金からなる母材からなるものが挙げられる。更に、その母材の表面に硬質皮膜を形成することができる。硬質皮膜は、少なくともCr、Nを含み、PVDにより形成されるものが挙げられる。刃部すくい面の表面粗さとしてはRa0.30μm以下にすることが好ましく、Ra0.10μm以下にすることが更に好ましい。
【0036】
(木材加工品の製造方法)
本実施形態の木材加工品の製造方法は、本実施形態のフィンガージョイントカッターを用いて、被切削体を切削して本実施形態の木材加工品におけるフィンガーからなるフィンガージョイントを形成するフィンガー形成工程を有する。本実施形態の木材加工品の製造方法によらなくても上述の本実施形態の木材加工品は製造できるが、本実施形態の木材加工品の製造方法によることが好ましい。ここで、一刃あたりの送り量は、0.5mm以上、1.75mm以下である。
【0037】
フィンガー形成工程により形成したフィンガージョイント同士を突き合わせて噛み合わせることで2つの部材を接着・接合する。接着に際しては適正な接着剤を用いる。接着剤としては、水性高分子―イソシアネート系接着剤、レゾルシノール樹脂接着剤、レゾルシノール・フェノール共縮合樹脂接着剤、メラミン樹脂接着剤、メラミン・ユリア共縮合樹脂接着剤、一液型ポリウレタン接着剤、酢酸ビニル樹脂エマルジョン接着剤が例示できる。接着に際しては、適正な圧力を加えながら行うことが望ましく、その圧力としては4MPa以上が例示でき、8MPa以上とすることが好ましい。
【実施例
【0038】
・試験1
スギについて等級L50及びL80の2つの材料を用いた実施例に基づき、本発明の木材加工品及びその製造方法を説明する。
【0039】
・試験試料の製造
スギ(等級L50、L80)のそれぞれについて、フィンガー長さL、フィンガーピッチP、フィンガー先端厚さt1、フィンガーの底部幅t2、単位断面積(1mm2)あたりの接着面積sを表1の値としたフィンガージョイントを持つ1組の試験片(それぞれ幅125mm、厚み33mm、長さ435mm)を作成し、それらのフィンガージョイント同士を突き合わせて接着した。接着剤としてはレゾルシノール樹脂を用い、突き合わせ方向に5~10MPaとなるような外力を加えながら10秒間加圧した後、20℃、相対湿度55~60%の雰囲気下で1ヶ月間保持した。その後、4面をプレーナで加工して幅120mm、厚み29mm、長さ約840mmの試験試料を製造した。試験試料の製造にあたり、それぞれ形成したフィンガーの形状と相補的形状を有するフィンガージョイントカッターを製造して切削加工(フィンガー形成工程)した。得られた各試験試料について引張強度及び曲げ強度を測定した。その結果を表1に合わせて示す。なお、試験試料0として木材自体の強度を示す。
【0040】
【表1】
【0041】
表1より明らかなように、L/P、単位断面積あたりの接着面積sが大きくなるにつれて引張強度も高くなる傾向が確認できた。L/Pは2.19超であると更に高い引張強度が実現できることが分かった。単位断面積あたりの接着面積sは4.4mm2以上であると更に高い引張強度が実現でき、7.09mm2以上でL80及びL50双方の基準を満たす高い強度を示した。
【0042】
t1/Pは小さい方が高い引張強度が実現できた。t1/Pは0.28未満、更には0.20以下や、0.18以下にすることで更に高い引張強度が実現できることが分かった。tanθは1/8.8以下で高い引張強度を得ることができた。
【0043】
ここで、集成材のJAS規格における構造用集成材用ラミナの強度性能の平均値基準は、引張強度が、L50では16.5N/mm2、L80では21.5N/mm2、曲げ強度が、L50では27.0N/mm2、L80が36.0N/mm2である。これらの平均値基準と比較すると、下線を付した強度値が上回っており、L50で作成した場合は試験試料1~3、6、L80で作成した場合は試験試料1、2がそれらの平均値基準を充足していた。
【0044】
なお、表1を参考に別のフィンガージョイントカッターを製作する場合、フィンガー長さL、フィンガーピッチP、フィンガー先端厚さt1、フィンガーの底部幅t2、接着面積sとして表1に記載した各値は、それぞれ増減させることができる。増減できる幅としては、1%、2%、5%、10%程度にすることができる。
【0045】
単位断面積あたりの接着面積sと強度との関係を表す近似曲線(対数近似)を実験結果から導き出した。図4(引張強度)及び図5(曲げ強度)に導出結果を示す。図中、実線が、集成材のJAS規格における構造用集成材用ラミナの等級L50に、破線がL80にそれぞれ対応する。それぞれ上述した集成材のJAS規格における構造用集成材用ラミナの強度性能の平均値基準の強度に対応する接着面積が分かるように補助線を記している。
【0046】
図4及び5から明らかなように、それぞれ集成材のJAS規格における構造用集成材用ラミナの強度性能の平均値基準を満足する接着面積は、引張強度ではL50が3.24mm2、L80が3.95mm2、曲げ強度ではL50が3.27mm2、L80が4.67mm2となった。従って、構造用集成材用ラミナとして集成材のJAS規格のL80を満足するためには単位面積あたりの接着面積sが4.67mm2以上あることが好ましいことが分かった。
【符号の説明】
【0047】
10…第1部材 11~14…フィンガー
20…第2部材 21~22…フィンガー
L…フィンガー長さ P…フィンガーピッチ
t1…フィンガー先端厚さ t2…フィンガーの底部幅
s…単位断面積あたりの接着面積 b…フィンガーのスカーフ
θ…スカーフの傾斜角
30…本体部
40…刃部
図1
図2
図3A
図3B
図4
図5