(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-21
(45)【発行日】2024-10-29
(54)【発明の名称】鼻腔投与による効果的な脳伝達技術
(51)【国際特許分類】
C08G 65/334 20060101AFI20241022BHJP
A61K 31/17 20060101ALI20241022BHJP
A61K 31/337 20060101ALI20241022BHJP
A61K 31/4188 20060101ALI20241022BHJP
A61K 31/475 20060101ALI20241022BHJP
A61K 31/685 20060101ALI20241022BHJP
A61K 31/711 20060101ALI20241022BHJP
A61K 33/24 20190101ALI20241022BHJP
A61K 35/76 20150101ALI20241022BHJP
A61K 35/761 20150101ALI20241022BHJP
A61K 35/763 20150101ALI20241022BHJP
A61K 35/765 20150101ALI20241022BHJP
A61K 38/18 20060101ALI20241022BHJP
A61K 38/19 20060101ALI20241022BHJP
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A61K 38/22 20060101ALI20241022BHJP
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A61K 38/49 20060101ALI20241022BHJP
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A61K 41/00 20200101ALI20241022BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20241022BHJP
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A61K 48/00 20060101ALI20241022BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20241022BHJP
A61P 25/14 20060101ALI20241022BHJP
A61P 25/18 20060101ALI20241022BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20241022BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20241022BHJP
C08G 73/04 20060101ALI20241022BHJP
【FI】
C08G65/334
A61K31/17
A61K31/337
A61K31/4188
A61K31/475
A61K31/685
A61K31/711
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A61K35/76
A61K35/761
A61K35/763
A61K35/765
A61K38/18
A61K38/19
A61K38/20
A61K38/21
A61K38/22
A61K38/48
A61K38/49
A61K38/55
A61K39/395 U
A61K41/00
A61K45/00
A61K47/59
A61K48/00
A61P25/00
A61P25/14
A61P25/18
A61P25/28
A61P35/00
C08G73/04
(21)【出願番号】P 2022554169
(86)(22)【出願日】2020-11-06
(86)【国際出願番号】 KR2020015459
(87)【国際公開番号】W WO2021091281
(87)【国際公開日】2021-05-14
【審査請求日】2022-05-09
(31)【優先権主張番号】10-2019-0141988
(32)【優先日】2019-11-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】522186815
【氏名又は名称】インダストリー-ユニバーシティ・コーペレーション・ファウンデーション・ハンヤン・ユニバーシティ
(73)【特許権者】
【識別番号】507324290
【氏名又は名称】マサチューセッツ・インスティトュート・オブ・テクノロジー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】チェ・オク・ユン
(72)【発明者】
【氏名】ス・ファン・イ
(72)【発明者】
【氏名】ダヤナンダ・カサラ
(72)【発明者】
【氏名】ロバート・エス・ランガー
【審査官】久保田 葵
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-537445(JP,A)
【文献】国際公開第2019/235746(WO,A1)
【文献】Dual tumor targeting with pH-sensitive and bioreducible polymer-complexed oncolytic adenovirus,Biomaterials,2015年
【文献】金沢貴憲、高島由季,高分子ミセルをキャリアとする経鼻投与による脳への薬物・核酸デリバリー,Drug Delivery System,日本,2013年,pp.318-327
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 65/334
A61K 31/17
A61K 31/337
A61K 31/4188
A61K 31/475
A61K 31/685
A61K 31/711
A61K 33/24
A61K 35/76
A61K 35/761
A61K 35/763
A61K 35/765
A61K 38/18
A61K 38/19
A61K 38/20
A61K 38/21
A61K 38/22
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A61K 38/49
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A61K 41/00
A61K 45/00
A61K 47/59
A61K 48/00
A61P 25/00
A61P 25/14
A61P 25/18
A61P 25/28
A61P 35/00
C08G 73/04
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化学式1で表現されることを特徴とする、ポリマー:
【化1】
前記式で、
Xは、5,000~10,000Daの分子量を有するPEGであり、
Yは
、アルギニン-コンジュゲートされたPEI(polyethyleneimine)であり、PEIは、分枝されたPEIであり、
nは、1~10である。
【請求項2】
下記化学式1で表現されるポリマー;及び
治療剤及び診断剤からなる群より選択された一つ以上の薬物を含むことを特徴とする、薬物伝達体:
【化2】
前記式で、
Xは、5,000~10,000Daの分子量を有するPEGであり、
Yは
、アルギニン-コンジュゲートされたPEI(polyethyleneimine)であり、PEIは、分枝されたPEIであり、
nは、1~10である。
【請求項3】
薬物伝達体は、鼻腔投与用であることを特徴とする、請求項2に記載の薬物伝達体。
【請求項4】
前記ポリマー及び前記薬物は、複合体を形成した形態で含まれることを特徴とする、請求項2に記載の薬物伝達体。
【請求項5】
治療剤は、遺伝子伝達システム、光感覚剤及び薬剤学的活性成分からなる群より選択された一つ以上であることを特徴とする、請求項2に記載の薬物伝達体。
【請求項6】
前記遺伝子伝達システムは、(i)ネイキッド(naked)組換えDNA分子、(ii)プラスミド、(iii)ウイルスベクター及び(iv)前記ネイキッド組換えDNA分子又はプラスミドを内包するリポソーム又はニオソームの形態であることを特徴とする、請求項5に記載の薬物伝達体。
【請求項7】
ウイルスベクターは、組換えアデノウイルス、アデノ-関連ウイルス(Adeno-associated viruses:AAV)、レトロウイルス、レンチウイルス、単純ヘルペスウイルス、ワクシニアウイルス、レオウイルス、ポックスウイルス、セムリキ森林ウイルス及び麻疹ウイルス(Measles virus)からなる群より選択された一つ以上であることを特徴とする、請求項6に記載の薬物伝達体。
【請求項8】
光感覚剤は、ポルフィリン系(phorphyrins)化合物、クロリン系(chlorins)化合物、バクテリオクロリン系(bacteriochlorins)化合物、フタロシアニン系(phthalocyanines)化合物、ナフタロシアニン系(naphthalocyanines)化合物及び5-アミノレブリンエステル系(5-aminolevuline esters)化合物からなる群より選択された一つ以上であることを特徴とする、請求項5に記載の薬物伝達体。
【請求項9】
薬剤学的活性成分は、抗癌剤、抗生剤、ホルモン、ホルモン拮抗剤、インターロイキン、インターフェロン、成長因子、腫瘍怪死因子、エンドドキシン、リンフォトキシン、ウロキナーゼ、ストレプトキナーゼ、組織プラスミノーゲン活性剤、プロテアーゼ阻害剤、アルキルホスホコリン、放射線同位元素標識成分、界面活性剤、心血関系薬物及び神経系薬物からなる群より選択された一つ以上であることを特徴とする、請求項5に記載の薬物伝達体。
【請求項10】
抗癌剤は、ベバシズマブ(bevacizumab)、テモゾロミド(temozolomide)、ニトロソウレア(nitrosourea)、シスプラチン(cisplatin)、PCV(procarbazine+CCNU+vincristine)、ビンブラスチン(vinblastine)、ビンクリスチン(vincristine)、ビンフルニン(vinflunine)、ビンデシン(vindesine)、ビノレルビン(vinorelbine)、カバジタキセル(cabazitaxel)、ドセタキセル(docetaxel)、ラロタキセル(larotaxel)、オルタタキセル(ortataxel)、パクリタキセル(paclitaxel)、テセタキセル(tesetaxel)、イクサベピロン(ixabepilone)、ハーセプチン(herceptin)、アービタックス(erbitux)、シクロホスファミド(Cyclophosphamide)、ドキソルビシン(Doxorubicin)、エトポシド(Etoposide)、トポテカン(Topotecan)、カルボプラチン(carboplatin)、プロカルバジン(procarbazine)、メクロレタミン(mechlorethamine)、イホスファミド(ifosfamide)、メルファラン(melphalan)、クロラムブシル(chlorambucil)、ビスルファン(bisulfan)、ダクチノマイシン(dactinomycin)、ダウノルビシン(daunorubicin)、ブレオマイシン(bleomycin)、プリコマイシン(plicomycin)、マイトマイシン(mitomycin)、タモキシフェン(tamoxifen)、トランスプラチン(transplatinum)、5-フルオロウラシル(5-fluorouracil)又はメトトレキサート(methotrexate)からなる群より選択された一つ以上であることを特徴とする、請求項9に記載の薬物伝達体。
【請求項11】
薬物伝達体は、中枢神経系疾患、神経退行性疾患又は脳腫瘍のうちいずれか一つの予防又は治療のためのものであることを特徴とする、請求項2に記載の薬物伝達体。
【請求項12】
中枢神経系疾患は、認知障害、知的障害、小脳症、脳電症、神経発達障害、認知症、自閉スペクトラム障害、ダウン症候群、レット症侯群、脆弱X症侯群からなる群より選択されたいずれか一つであることを特徴とする、請求項11に記載の薬物伝達体。
【請求項13】
神経退行性疾患は、虚血性脳卒中(ischemic stroke)、外傷性脳損傷、急性散在性脳脊髄炎(acute disseminated encephalomyelitis)、筋萎縮性側索硬化症(amyotrophic lateral sclerosis、ALS)、色素性網膜炎(retinitis pigmentosa)、軽度認知障害、アルツハイマー病、ピック病、老人性認知症、進行性核上性麻痺(progressive supranuclear palsy)、皮質下認知症、ウィルソン病、多発性梗塞(multiple infarct disease)、動脈硬化性認知症(arteriosclerotic dementia)、AIDS関連認知症、小脳変性(cerebellar degeneration)、脊髓小脳変性症侯群(spinocerebellar degeneration syndromes)、フリードライヒ運動失調症(Friedreichs ataxia)、毛細管拡張性運動失調症(ataxia telangiectasia)、癲癇関連脳損傷、脊髓損傷、レストレスレッグス症侯群(restless legs syndrome)、ハンチントン病、パーキンソン病、線条体黒質変性症(striatonigral degeneration)、脳血管炎(cerebral vasculitis)、ミトコンドリア脳筋肉病症(mitochondrial encephalomyopathies)、神経セロイドリポフスチン症(neuronal ceroid lipofuscinosis)、脊髄性筋萎縮症(spinal muscular atrophies)、中枢神経系と関連した脂質沈着疾患(lysosomal storage disorder)、白質萎縮症(leukodystrophies)、尿素サイクル異常症(urea cycle defect disorder)、肝性脳症(hepatic encephalopathies)、腎性脳症(renal encephalopathies)、代謝性脳症(metabolic encephalopathies)、ポルフィリン症(porphyria)、細菌性髄膜炎(bacterial meningitis)、ウイルス性髄膜炎(viral meningitis)、髄膜脳炎(meningoencephalitis)、プリオン病(prion diseases)、神経毒性化合物中毒(poisonings with neurotoxic compounds)、ギランバレー症候群(Guillain Barre syndrome)、慢性炎症性神経障害(chronic inflammatory neuropathies)、多発性筋炎(polymyositis)、皮膚筋炎(dermatomyositis)又は放射能-誘導性脳損傷(radiation-induced brain damage)からなる群より選択されたいずれか一つであることを特徴とする、請求項11に記載の薬物伝達体。
【請求項14】
脳腫瘍は、神経膠腫(glioma)、乏突起膠腫(oligodendroglioma)、膠芽腫(glioblastoma)、コロイド嚢胞(colloid cyst)、類表皮嚢胞(epidermoid cyst)、髄膜腫(meningioma)、血管芽腫(hemangioblastoma)、リンパ腫(lymphoma)、下垂体腺腫(pituitary adenoma)、転移癌(metastatic tumor)又はこれらの組み合わせであることを特徴とする、請求項11に記載の薬物伝達体。
【請求項15】
診断剤は、近赤外線系列の蛍光物質、放射性医薬品又は造影剤であることを特徴とする、請求項2に記載の薬物伝達体。
【請求項16】
薬物伝達用担体として下記化学式1で表現されるポリマーを含むことを特徴とする、鼻腔投与を通じた脳への薬物伝達用組成物:
【化3】
前記式で、
Xは、5,000~10,000Daの分子量を有するPEGであり、
Yは
、アルギニン-コンジュゲートされたPEI(polyethyleneimine)であり、PEIは、分枝されたPEIであり、
nは、1~10である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬物伝達体として使用できるpH-感応型生体還元性ポリマーを鼻腔投与を通じて効果的に脳に伝達することによって、中枢神経系疾患、神経退行性疾患又は脳腫瘍の診断、予防又は治療に用いる鼻腔投与による効果的な脳伝達技術に関する。
【背景技術】
【0002】
疾病部位のリアルタイム及び非侵襲的イメージングは、中枢神経系又は脳腫瘍の治療において非常に好ましい。例えば、疾病組織の非侵襲的追跡及びイメージングは、日常的に行われる診断手続きにより早期発見を可能にして疾病の適時介入及び患者の全般的な改善された予後を誘導し得る。
【0003】
中枢神経系疾患の治療のための治療剤の伝達において最大の障壁となる血液脳関門(Blood-Brain Barrier)を迂回し得る新しい伝達システムとして鼻腔投与(intra-nasal delivery)が台頭している。
【0004】
鼻腔投与を通じた脳への伝達効果を高めるために多様な物質が開発されており、本発明は、その伝達体としてポリマーを用いる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、薬物伝達体として使用できるpH-感応型生体還元性ポリマー及びそれの薬剤学的用途を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を逹成するために、本発明は、下記化学式1で表現されるポリマーを提供する:
【0007】
【0008】
前記式で、
【0009】
Xは、2,000~10,000Daの分子量を有するPEGであり、
【0010】
Yは、
【化2】
【化3】
又はアルギニン-コンジュゲートされたPEI(polyethyleneimine)であり、PEIは、分枝されたPEIであり、
【0011】
nは、1~10である。
【0012】
また、本発明は、薬物伝達用担体として前記化学式1で表現されるポリマーを含む鼻腔投与を通じた脳への薬物伝達用組成物を提供する。
【0013】
また、本発明は、前記化学式1で表現されるポリマー;及び治療剤及び診断剤からなる群より選択された一つ以上の薬物を含む薬物伝達体を提供する。
【0014】
また、本発明は、前記薬物伝達体を個体に鼻腔投与する段階を含む鼻腔投与を通じた脳への薬物伝達方法を提供する。
【0015】
また、本発明は、前記薬物伝達体を必要とする個体に薬学的に有効な量で鼻腔投与する段階を含む、中枢神経系疾患、神経退行性疾患又は脳腫瘍のうちいずれか一つを治療する方法を提供する。
【発明の効果】
【0016】
本発明のpH-感応型生体還元性ポリマーは、鼻腔投与を通じて血液脳関門を迂回して薬物の生体利用率を改善して薬物の投与量を低めることによって副作用を減らすことができる。
【0017】
また、鼻腔投与された薬物は、初期に全身循環のための血流を通過せず脳の標的疾病部位に到達することによって、過多投与による否定的な副作用を最小化する。また、本発明は、脳組織の多くの部分に效率的に薬物を伝達し得るので、中枢神経系疾患、神経退行性疾患又は脳腫瘍の治療に適合する。また、本発明のpH-感応型生体還元性ポリマーは、診断用標識物質で標識されて鼻腔投与を通じて脳組織に伝達されることによって、中枢神経系疾患、神経退行性疾患又は脳腫瘍の診断に用いられ得る。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は、Ad/PPA-IR780の生体蛍光イメージを示す。
【
図2】
図2は、同所性膠芽腫に対するAd/PPA-IR780複合体の強力な抗腫瘍効果を示す。
【
図3】
図3は、多様な器官でのEx vivo IVISイメージング及び脳組織のEx vivo NIR及び光学イメージングを示す。
【
図4】
図4は、多様なAd/高分子複合体の抗腫瘍効能を示す。
【
図5】
図5は、多様なAd/高分子複合体の生体内分布を示す。
【
図6】
図6は、同所性脳腫瘍で生体発光イメージングを用いた多様なAd/高分子複合体の抗腫瘍効能を示す。
【
図7】
図7は、多様なAd/高分子複合体の抗腫瘍効能を比較した図である。
【
図8】
図8は、多様な投与経路によるAd/PPA-IR780の抗腫瘍効能を示す。
【
図9】
図9は、oAd/PPA-IR780の強力な治療的効能を示す。
【
図10】
図10は、oAd/PPA-IR780の強力な治療的効能を示す。
【
図11】
図11は、脳腫瘍保有マウスモデルでPPA-PTX-IR780の鼻腔又は静脈投与後の脳組織の多様な領域でのPTX濃度を示す。
【
図12】
図12は、正常マウスモデルでPPA-PTX-IR780の鼻腔又は静脈投与後の脳組織の多様な領域でのPTX濃度を示す。
【
図13】
図13は、腫瘍保有マウスモデル又は正常マウスの脳でPTXの生体利用率を示す。
【
図14】
図14は、膠芽腫保有マウスモデルでsiRNA-Cy5.5/PPA-IR780の鼻腔投与後の脳の領域別siRNA分布プロファイルを示す。
【
図15】
図15は、脳腫瘍保有マウスモデルでpDNA-FITC/PPA-IR780の鼻腔又は静脈投与後のpDNA強度-時間プロファイルを示す。
【
図16】
図16は、正常マウスモデルでpDNA-FITC/PPA-IR780の鼻腔又は静脈投与後のpDNA強度-時間プロファイルを示す。
【
図17】
図17は、腫瘍保有マウスモデル又は正常マウスの脳でpDNAの生体利用率を示す。
【
図18】
図18は、正常マウスモデルでpDNA-FITC/ポリマー複合体の鼻腔投与後の脳の領域別pDNA分布プロファイルを示す。
【
図19】
図19は、鼻腔投与によるoAd/PPA-Cu-64-DOTA-ハーセプチン複合体の効率的な伝達をPET/CTイメージングを通じて示す。
【
図20】
図20は、正常マウスで鼻腔投与によるPPA-Erbitux伝達効率を示す。
【
図21】
図21は、鼻腔投与後のPPA-IR780-PTXの生体利用率を示す。
【
図22】
図22は、鼻腔投与によるPPA-PTXの強力な抗腫瘍効能をMRイメージングで示す。
【
図23】
図23は、U87MG/Fluc同所性脳腫瘍モデルで鼻腔投与によるPPA-PTXの強力な抗腫瘍効能を示すH&E染色結果である。
【
図24】
図24は、U87MG/Fluc同所性脳腫瘍モデルで鼻腔投与によるPPA-PTXの強力な抗腫瘍効能を示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の構成を具体例に説明する。
【0020】
本発明は、下記化学式1で表現されるポリマーに関する。
【0021】
【0022】
前記式で、
【0023】
Xは、2,000~10,000Daの分子量を有するPEGであり、
【0024】
Yは、
【化5】
【化6】
又はアルギニン-コンジュゲートされたPEI(polyethyleneimine)であり、PEIは、分枝されたPEIであり、
【0025】
nは、1~10である。
【0026】
前記Yは、1級アミン基を有するように追加で変形され得る。アミン基は、薬物又は標的化部分のコンジュゲーションに用いられ得る。
【0027】
本発明の化学式1のポリマーは、細胞内pH範囲(約pH6.0)で高い吸収率を通じて流入され、低いpHの低酸素性腫瘍微細環境を標的とする生分解性とpH敏感性を有する化合物であって、(i)兔疫反応回避性部位(escapable portion from immune reactions)、(ii)電荷性部位(chargeable portion)及び(iii)ジスルフィド結合を含む生体還元性部位(bioreducible portion)からなる。
【0028】
より具体例に、前記化学式1のポリマーは、一名PP又はPPAであってもよい。
【0029】
もし、Yが
【化7】
又は
【化8】
である場合、化学式1のポリマーは、PPで示す。すなわち、PEG-Pip-N,N'-シスタミンビスアクリルアミド(CBA)[PEG-Pip-N,N'-cystamine bisacrylamide(CBA)]である。本明細書で、PPは、PPCBAとも言う。また、下記実施例で、PPは、PP5とも言い、5kDa PEGを用いたPPを意味する。もし、Yがアルギニン-コンジュゲートされたPEIである場合、化学式1のポリマーは、PPAで示し、PEG-Pip-CBA(PP)及びアルギニン-コンジュゲートされたPEI(PEI-Arg)の反応により合成される。本明細書で、PEIは、1,000~10,000Daの分子量を有する分枝されたPEIあってもよく、アルギニンは、PEIの1級アミンにコンジュゲートされ得る。Yは、1級アミン基を有するように追加で変形され得る。アミン基は、薬物又は標的化部分のコンジュゲーションに用いられ得る。下記実施例で、PPAは、PPA2又はPPA5とも示されることがあり、それぞれ2kDa又は5kDa PEGを用いたPPAを意味する。
【0030】
前記化学式1で、PEGは、兔疫反応回避性部位として作用し、アルギニンは、ポリマーに陽電荷を付与する電荷性部位である。アルギニンは、ポリマーに陽電荷を付与して陰電荷性表面(例えば、アデノウイルスの陰電荷性表面)とイオン性相互作用により結合することで複合体を形成し得るようにする。N,N'-シスタミンビスアクリルアミド(CBA)は、ジスルフィド結合を含む生体還元性部位として作用する部分であり、ポリマーのpH敏感性を提供する部分は、ピペラジン(Pip)である。
【0031】
例えば、PPAの合成過程を簡略に説明すると、次の通りである:
【0032】
まず、PEI-Argを合成するために、EDC/NHSのカップリング反応を通じてアルギニンとポリエチレンイミンをコンジュゲーションさせる。
【0033】
PEG-Pip-CBA(PP)の合成のために、PEG-アクリレート(5kDa)、N,N'-シスタミンビスアクリルアミド(CBA)及びピペラジン(Pip)を反応させた後、PEI-Argを添加してPPCBA-PEI-Arg(PPA)を合成する。ここで、PEG-アクリレートは、多様な活性化されたPEG-アクリレートを含み、例えば、メトキシ-、オルトピリジルジスルフィド(ortho pyridyl disulfide(OPSS))、COOH-、NH2-又はマレイミド-PEGアクリレートが用いられ得る。一具体例で、EPG-アクリレートは、メトキシ-PEG-アクリレートであってもよい。代案として、ペグ化のために、他のPEG誘導体がPEG-アクリレートの代わりに用いられ得る。
【0034】
より具体例に、本発明のポリマーは、下記化学式2で表現される:
【0035】
【0036】
前記式で、
【0037】
Yは、
【化10】
【化11】
又はアルギニン-コンジュゲートされたPEIであり、PEIは、分枝されたPEIであり、
【0038】
nは、1~10であり、
【0039】
mは、44~228である(PEGは、2,000~10,000Daの分子量を有する)。
【0040】
Yは、1級アミン基を有するように追加で変形される。アミン基は、薬物又は標的化部分のコンジュゲーションに用いられ得る。
【0041】
本発明のPPAポリマーは、pH感応型として、特に、低酸素条件の腫瘍細胞の微細環境を標的とするため、腫瘍細胞に薬物を伝達することができる。また、表面の陽電荷性により陰電荷性表面を有する標的成分と結合して薬物などを生体内に伝達する担体として用いられ得る。したがって、PPAポリマーは、腫瘍細胞以外にも標的疾病部位に薬物を伝達し得る。
【0042】
また、本発明のpH-感応型ポリマーは、鼻腔投与を通じて血液脳関門を迂回して脳組織に流入され得るので、薬物担体として用いられ得る。
【0043】
したがって、本発明のまた他の実施様態として、本発明は、薬物伝達用担体として前記化学式1で表現されるポリマーを含む鼻腔投与を通じた脳への薬物伝達用組成物を提供する。
【0044】
本発明のまた他の実施様態として、本発明は、前記化学式1で表現されるポリマー;及び治療剤及び診断剤からなる群より選択された一つ以上の薬物を含む薬物伝達体を提供する。
【0045】
本発明のPPAポリマーは、薬物伝達のための担体で用いられ得、腫瘍の微細環境を標的とするか、標的成分との結合を通じて腫瘍細胞以外にも標的疾病部位に薬物を伝達することができ、光感覚剤と結合して腫瘍細胞に伝達され、700-900nm波長範囲の近赤外線の照射時に光熱療法を通じて腫瘍細胞を死滅することができる。
【0046】
また、本発明のPPAポリマーは、表面に診断剤と結合して鼻腔投与を通じて血液脳関門を迂回して脳組織に流入されて脳疾患の診断に用いられ得る。
【0047】
前記薬物伝達体は、好ましくは、鼻腔投与用薬物伝達体であってもよい。本発明のPPAポリマーは、鼻腔投与を通じて血液脳関門を迂回して脳組織に流入されて硬化的に薬物を伝達することができる。
【0048】
本発明の薬物伝達体は、PPAポリマーと薬物の複合体形態で含むことができる。
【0049】
前記治療剤は、遺伝子伝達システム、光感覚剤及び薬剤学的活性成分からなる群より選択された一つ以上であってもよい。
【0050】
前記遺伝子伝達システムは、(i)ネイキッド(naked)組換えDNA分子、(ii)プラスミド、(iii)ウイルスベクター及び(iv)前記ネイキッド組換えDNA分子又はプラスミドを内包するリポソーム又はニオソームの形態であってもよい。
【0051】
通常的な遺伝子治療に用いられる全ての遺伝子伝達システムが適用され得、好ましくは、プラスミド;アデノウイルス(Lockett LJ、et al.、Clin.Cancer Res.3:2075-2080(1997))、アデノ-関連ウイルス(Adeno-associated viruses:AAV、Lashford LS.、et al.、Gene Therapy Technologies、Applications and Regulations Ed.A.Meager、1999)、レトロウイルス(Gunzburg WH、et al.、Retroviral vectors.Gene Therapy Technologies、Applications and Regulations Ed.A.Meager、1999)、レンチウイルス(Wang G.et al.、J.Clin.Invest.104(11):R55-62(1999))、単純ヘルペスウイルス(Chamber R.、et al.、Proc.Natl.Acad.Sci USA 92:1411-1415(1995))、ワクシニアウイルス(Puhlmann M.et al.、Human Gene Therapy 10:649-657(1999))、レオウイルス、ポックスウイルス、セムリキ森林ウイルス、麻疹ウイルス(Measles virus)などのウイルスベクター;前記ネイキッド組換えDNA分子又はプラスミドを内包するリポソーム(Methods in Molecular Biology、Vol 199、S.C.Basu and M.Basu(Eds.)、Human Press 2002)又はニオソームが用いられ得る。
【0052】
i.アデノウイルス
【0053】
アデノウイルスは、中間程度のゲノムサイズ、操作の便宜性、高いタイター、広範囲なターゲット細胞及び優れた感染性のため、遺伝子伝達ベクターとして多く用いられている。ゲノムの両末端は、100-200bpのITR(inverted terminal repeat)を含み、これは、DNAの複製及びパッケージングに必須的なシスエレメントである。ゲノムのE1領域(E1A及びE1B)は、転写及び宿主細胞遺伝子の転写を調節するタンパク質をコーディングする。E2領域(E2A及びE2B)は、ウイルスDNA複製に関与するタンパク質をコーディングする。
【0054】
現在、開発されたアデノウイルスベクターのうち、E1領域が欠けた複製不能アデノウイルスが多く用いられている。一方、E3領域は、通常的なアデノウイルスベクターで除去されて外来遺伝子が挿入される位置を提供する(Thimmappaya、B.et al.、Cell、31:543-551(1982);及びRiordan、J.R.et al.、Science、245:1066-1073(1989))。したがって、細胞内に運搬しようとする目的ヌクレオチド配列は、欠失したE1領域(E1A領域及び/又はE1B領域、好ましくは、E1B領域)又はE3領域に挿入されることが好ましく、より好ましくは、欠失したE1領域に挿入される。本明細書でウイルスゲノム配列と関連して用いられる用語、「欠失」は、該当配列が完全に欠失したものだけでなく、部分的に欠失したものも含む意味を有する。
【0055】
アデノウイルスは、42個の相異なる血清型及びA-Fのサブグループを有する。このうち、サブグループCに属するアデノウイルスタイプ2及びタイプ5が本発明のアデノウイルスベクターを得るための最も好ましい出発物質である。アデノウイルスタイプ2及びタイプ5に対する生化学的及び遺伝的情報は、よく知られている。
【0056】
アデノウイルスにより運搬される外来遺伝子は、エピソームと同一の方式で複製され、それによって、宿主細胞に対して遺伝的毒性が非常に低い。したがって、本発明のアデノウイルス遺伝子伝達システムを用いた遺伝子治療が非常に安全であると判断される。
【0057】
ii.レトロウイルス
【0058】
レトロウイルスは、自分の遺伝子を宿主のゲノムに挿入させ、大量の外来遺伝物質を運搬し得、感染させ得る細胞のスペクトラムが広いため、遺伝子伝達ベクターとして多く用いられている。
【0059】
レトロウイルスベクターを構築するために、細胞内に運搬しようとする目的ヌクレオチド配列は、レトロウイルスの配列の代わりにレトロウイルスゲノムに挿入されて複製不能のウイルスを生産する。ウイルスを生産するために、gag、pol及びenv遺伝子を含むが、LTR(long terminal repeat)とΨ配列はないパッケージング細胞株を構築する(Mann et al.、Cell、33:153-159(1983))。運搬しようとする目的ヌクレオチド配列、LTR及びΨ配列を含む組換えプラスミドを前記細胞株に移入すると、Ψ配列は、組換えプラスミドのRNA転写体の生産を可能にし、その転写体は、ウイルスでパッケージングされ、ウイルスは、培地に排出される(Nicolas and Rubinstein「Retroviral vectors」、In:Vectors:A survey of molecular cloning vectors and their uses、Rodriguez and Denhardt(eds.)、Stoneham:Butterworth、494-513(1988))。組換えレトロウイルスを含有する培地を収集して濃縮して遺伝子伝達システムで用いる。
【0060】
2世代レトロウイルスベクターを用いた遺伝子伝達が発表された。Kasahara et al.Science、266:1373-1376(1994))は、モロニーマウス白血病ウイルス(MMLV)の変異体を製造した。ここで、EPO(erythropoietin)配列をエンベロープ部位に挿入して新しい結合特性を有するキメラタンパク質を生産した。本発明の遺伝子伝達システムもこのような2世代レトロウイルスベクターの構築戦略によって製造し得る。
【0061】
iii.AAVベクター
【0062】
アデノ-関連ウイルス(AAV)は、非分裂細胞を感染させ得、多様な種類の細胞に感染し得る能力を有しているため、本発明の遺伝子伝達システムに適合する。AAVベクターの製造及び用途に対する詳細な説明は、アメリカ特許第5,139,941号及び第4,797,368号に詳細に開示されている。
【0063】
遺伝子伝達システムとしてのAAVに対する研究は、LaFace et al、Viology、162:483-486(1988)、Zhou et al.、Exp.Hematol.(NY)、21:928-933(1993)、Walsh et al、J.Clin.Invest.、94:1440-1448(1994)及びFlotte et al.、Gene Therapy、2:29-37(1995)に開示されている。
【0064】
典型的に、AAVウイルスは、二つのAAV末端リピートが横に位置している目的の遺伝子配列(細胞内に運搬しようとする目的ヌクレオチド配列)を含むプラスミド(McLaughlin et al.、J.Virol.、62:1963-1973(1988);及びSamulski et al.、J.Virol.、63:3822-3828(1989))及び末端リピートがない野生型AAVコーディング配列を含む発現プラスミド(McCarty et al.、J.Virol.、65:2936-2945(1991))を同時形質転換させて製造される。
【0065】
iv.他のウイルスベクター
【0066】
他のウイルスベクターも本発明の遺伝子伝達システムで用いることができる。ワクシニアウイルス(Puhlmann M.et al.、Human Gene Therapy 10:649-657(1999);Ridgeway、「Mammalian expression vectors」、In:Vectors:A survey of molecular cloning vectors and their uses。Rodriguez and Denhardt、eds.Stoneham:Butterworth、467-492(1988);Baichwal and Sugden、「Vectors for gene transfer derived from animal DNA viruses:Transient and stable expression of transferred genes」、In:Kucherlapati R、ed.Gene transfer.New York:Plenum Press、117-148(1986)及びCoupar et al.、Gene、68:1-10(1988))、レンチウイルス(Wang G.et al.、J.Clin.Invest.104(11):R55-62(1999))又は単純ヘルペスウイルス(Chamber R.、et al.、Proc.Natl.Acad.Sci USA 92:1411-1415(1995))から由来したベクターも目的ヌクレオチド配列を細胞内に運搬し得る運搬システムとして用いることができる。
【0067】
その外にも、ウイルスベクターとしては、レオウイルス、ポックスウイルス、セムリキ森林ウイルス及び麻疹ウイルス(Measles virus)などがある。
【0068】
v.リポソーム
【0069】
リポソームは、水相に分散したリン脂質により自動的に形成される。外来DNA分子をリポソームで成功的に細胞内に運搬した例は、Nicolau及びSene、Biochim.Biophys.Acta、721:185-190(1982)及びNicolau et al.、Methods Enzymol.、149:157-176(1987)に開示されている。一方、リポソームを用いた動物細胞の形質転換に最も多く利用される試薬としては、リポフェクタミン(Lipofectamine、Gibco BRL)がある。運搬しようとする目的ヌクレオチド配列を内包したリポソームは、エンドサイトーシス、細胞表面への吸着又はプラズマ細胞膜との融合などの機序を通じて細胞と相互作用して細胞内に目的ヌクレオチド配列を運搬する。
【0070】
本発明の一具体例で、前記遺伝子伝達システムは、組換えアデノウイルスであってもよい。
【0071】
遺伝子伝達ベクターとして組換えアデノウイルスのさまざまな長所が浮き彫りとなり癌遺伝子治療においてその使用頻度は持続的に増加している趨勢である。特に、遺伝子治療剤で癌を治療しようとする場合、長期的で且つ持続的な治療遺伝子の発現が不必要であるという長所がある。また、ベクターで用いられるウイルスにより誘導される宿主の免疫反応が大きく問題とならないか、むしろ利点として作用し得るので、組換えアデノウイルスは、癌治療用遺伝子伝達体として脚光を浴びている。
【0072】
前記組換えアデノウイルスは、複製不能アデノウイルス又は腫瘍殺傷アデノウイルスであってもよい。
【0073】
複製不能アデノウイルスは、アデノウイルスの複製に必須的なE1遺伝子(全部又は一部)の代わりに治療用遺伝子を挿入して組み換えられたものであって、アデノウイルスが導入された細胞内で複製されないように作ったものである。
【0074】
腫瘍殺傷アデノウイルスは、E1B 55kDa遺伝子が部分的に欠損されたアデノウイルスであって、p53が機能的に非活性化された細胞でのみ増殖が可能である。p53の機能が抑制されている癌細胞では、ウイルスの増殖が活発に起きるようになる一方、正常細胞では、ウイルスの増殖が抑制される。したがって、腫瘍殺傷アデノウイルスは、正常細胞には影響を与えず、癌細胞のみ選択的に死滅させ得るので、癌治療において特に有利である。
【0075】
本発明の一具体例で、組換えアデノウイルスは、非活性化されたE1B 19kDa遺伝子、E1B 55kDa遺伝子又はE1B 19kDa/E1B 55kDa遺伝子を有し、好ましくは、非活性化されたE1B 19kDa及びE1B 55kDa遺伝子を有する。
【0076】
本明細書で、遺伝子と関連して用いられる用語「非活性化」は、その遺伝子の転写及び/又は解読が正常的に行われず、その遺伝子によりコーディングされる正常的なタンパク質の機能が現われないことを意味する。例えば、非活性化E1B 19kDa遺伝子は、その遺伝子に変異(置換、付加、部分的欠失又は全体的欠失)が発生して活性のE1B 19kDaタンパク質を生成できない遺伝子である。E1B 19kDa遺伝子が欠如する場合には、細胞枯死能を増加させ得、E1B 55kDa遺伝子が欠如した場合には、腫瘍細胞特異性を有することになる(参照:大韓民国特許出願第2002-0023760号)。
【0077】
本発明の一具体例によると、本発明の組換えアデノウイルスは、活性のE1A遺伝子を含むことができる。E1A遺伝子を含む組換えアデノウイルスは、複製可能な特性を有することになる。本発明のより好ましい具体例によると、本発明の組換えアデノウイルスは、非活性化されたE1B 19kDa/E1B 55kDa遺伝子及び活性のE1A遺伝子を含む。
【0078】
本発明の一具体例で、遺伝子伝達システムは、E1部位が欠失した複製-不能(replication-incompetent)腫瘍選択的殺傷アデノウイルスであってもよい。
【0079】
また、前記ベクターは、選別マーカーを追加で含むことが好ましい。本発明で用語「選別マーカー(selection marker)」とは、shRNA発現カセットが導入されて形質転換された細胞の選別を容易にするためのものである。本発明のベクターで使用できる選別マーカーとしては、ベクターの導入有無を容易に検出又は測定し得る遺伝子であれば、特に限定されないが、代表的に、薬物耐性、栄養要求性、細胞毒性剤に対する耐性又は表面タンパク質の発現のような選択可能表現型を付与するマーカー、例えば、GFP(緑色蛍光タンパク質)、ピューロマイシン(puromycin)、ネオマイシン(Neomycin:Neo)、ハイグロマイシン(hygromycin:Hyg)、ヒスチジノールデヒドロゲナーゼ(histidinol dehydrogenase gene:hisD)又はグアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(guanine phosphosribosyltransferase:Gpt)などがある。
【0080】
また、前記光感覚剤は、ポルフィリン系(phorphyrins)化合物、クロリン系(chlorins)化合物、バクテリオクロリン系(bacteriochlorins)化合物、フタロシアニン系(phthalocyanines)化合物、ナフタロシアニン系(naphthalocyanines)化合物及び5-アミノレブリンエステル系(5-aminolevuline esters)化合物からなる群より選択され得る。
【0081】
好ましくは、700-900nm波長範囲の近赤外線下で光熱硬化を示すIR-780、Cu-64-DOTAなどであってもよい。
【0082】
また、本発明の薬剤学的活性成分の種類は、特に限定されず、例えば、抗癌剤、抗生剤、ホルモン、ホルモン拮抗剤、インターロイキン、インターフェロン、成長因子、腫瘍怪死因子、エンドトキシン、リンフォトキシン、ウロキナーゼ、ストレプトキナーゼ、組織プラスミノーゲン活性剤、プロテアーゼ阻害剤、アルキルホスホコリン、放射線同位元素標識成分、界面活性剤、心血関系薬物及び神経系薬物からなる群より選択された一つ以上を挙げることができる。
【0083】
上記のうち抗癌剤は、ベバシズマブ(bevacizumab)、テモゾロミド(temozolomide)、ニトロソウレア(nitrosourea)、シスプラチン(cisplatin)、PCV(procarbazine+CCNU+vincristine)、ビンブラスチン(vinblastine)、ビンクリスチン(vincristine)、ビンフルニン(vinflunine)、ビンデシン(vindesine)、ビノレルビン(vinorelbine)、カバジタキセル(cabazitaxel)、ドセタキセル(docetaxel)、ラロタキセル(larotaxel)、オルタタキセル(ortataxel)、パクリタキセル(paclitaxel)、テセタキセル(tesetaxel)、イクサベピロン(ixabepilone)、ハーセプチン(herceptin)、アービタックス(erbitux)、シクロホスファミド(Cyclophosphamide)、ドキソルビシン(Doxorubicin)、エトポシド(Etoposide)、トポテカン(Topotecan)、カルボプラチン(carboplatin)、プロカルバジン(procarbazine)、メクロレタミン(mechlorethamine)、イホスファミド(ifosfamide)、メルファラン(melphalan)、クロラムブシル(chlorambucil)、ビスルファン(bisulfan)、ダクチノマイシン(dactinomycin)、ダウノルビシン(daunorubicin)、ブレオマイシン(bleomycin)、プリコマイシン(plicomycin)、マイトマイシン(mitomycin)、タモキシフェン(tamoxifen)、トランスプラチン(transplatinum)、5-フルオロウラシル(5-fluorouracil)又はメトトレキサート(methotrexate)などを挙げることができる。
【0084】
本発明の薬物伝達体は、PPA5ポリマーの腫瘍標的性を通じて脳腫瘍の予防又は治療のために用いられ得、その外の標的成分との結合を通じて標的疾病部位に薬物を伝達することができるので、中枢神経系疾患又は神経退行性疾患の予防又は治療のために用いられ得る。
【0085】
前記中枢神経系疾患は、認知障害、知的障害、小脳症、脳電症、神経発達障害、認知症、自閉スペクトラム障害、ダウン症候群、レット症侯群、脆弱X症侯群などを挙げることができる。
【0086】
前記神経退行性疾患は、虚血性脳卒中(ischemic stroke)、外傷性脳損傷、急性散在性脳脊髄炎(acute disseminated encephalomyelitis)、筋萎縮性側索硬化症(amyotrophic lateral sclerosis、ALS)、色素性網膜炎(retinitis pigmentosa)、軽度認知障害、アルツハイマー病、ピック病、老人性認知症、進行性核上性麻痺(progressive supranuclear palsy)、皮質下認知症、ウィルソン病、多発性梗塞(multiple infarct disease)、動脈硬化性認知症(arteriosclerotic dementia)、AIDS関連認知症、小脳変性(cerebellar degeneration)、脊髓小脳変性症侯群(spinocerebellar degeneration syndromes)、フリードライヒ運動失調症(Friedreichs ataxia)、毛細管拡張性運動失調症(ataxia telangiectasia)、癲癇関連脳損傷、脊髓損傷、レストレスレッグス症侯群(restless legs syndrome)、ハンチントン病、パーキンソン病、線条体黒質変性症(striatonigral degeneration)、脳血管炎(cerebral vasculitis)、ミトコンドリア脳筋肉病症(mitochondrial encephalomyopathies)、神経セロイドリポフスチン症(neuronal ceroid lipofuscinosis)、脊髄性筋萎縮症(spinal muscular atrophies)、中枢神経系と関連した脂質沈着疾患(lysosomal storage disorder)、白質萎縮症(leukodystrophies)、尿素サイクル異常症(urea cycle defect disorder)、肝性脳症(hepatic encephalopathies)、腎性脳症(renal encephalopathies)、代謝性脳症(metabolic encephalopathies)、ポルフィリン症(porphyria)、細菌性髄膜炎(bacterial meningitis)、ウイルス性髄膜炎(viral meningitis)、髄膜脳炎(meningoencephalitis)、プリオン病(prion diseases)、神経毒性化合物中毒(poisonings with neurotoxic compounds)、ギランバレー症候群(Guillain Barre syndrome)、慢性炎症性神経障害(chronic inflammatory neuropathies)、多発性筋炎(polymyositis)、皮膚筋炎(dermatomyositis)又は放射能-誘導性脳損傷(radiation-induced brain damage)などであってもよい。
【0087】
前記脳腫瘍(brain tumor又はencephaloma)は、脳実質と脳膜から生じる腫瘍を言う。前記脳腫瘍は、神経膠腫(glioma)、乏突起膠腫(oligodendroglioma)、膠芽腫(glioblastoma)、コロイド嚢胞(colloid cyst)、類表皮嚢胞(epidermoid cyst)、髄膜腫(meningioma)、血管芽腫(hemangioblastoma)、リンパ腫(lymphoma)、下垂体腺腫(pituitary adenoma)、転移癌(metastatic tumor)又はこれらの組み合わせであってもよい。例えば、膠腫は、多形性膠芽腫(glioblastoma multiforme:GBM)である。前記脳腫瘍は、原発性脳腫瘍又は他の癌から転移した腫瘍であってもよい。
【0088】
また、本発明のPPAポリマーは、診断剤(診断用標識物質)が標識され得、標識物質により標識されたポリマーは、生体内で追跡され得るので、中枢神経系疾患、神経退行性疾患又は脳腫瘍の光学的検出及びイメージングが可能である。
【0089】
前記診断剤は、標的細胞を探知して認識可能にし得る物質であれば、制限なしに用いることができる。例えば、生体を透過し得る近赤外線系列の蛍光物質、例えば、シアニン、アロフィコシアニン(allophycocyanin)、フルオレセイン(fluorescein)、テトラメチルローダミン(tetramethylrhodamine)、ボディピー(BODIPY)又はアレクサ(Alexa)など;Calcium-47、Carbon-11、Carbon-14、Chromium-51、Cobalt-57、Cobalt-58、Erbium-169、Fluorine-18、Gallium-67、Gallium-68、Hydrogen-3、Indium-111、Iodine-123、Iodine-131、Technetium-99mのような放射線医薬品;又はMRI造影剤などを挙げることができる。
【0090】
本発明の薬物伝達体は、診断対象から分離した組織又は細胞に投与してPPAポリマー及び/又は診断剤が信号を感知して映像を収得することに用いられ得る。このような信号を感知するためには、磁気共鳴映像装置又は光学映像装置を用いることができる。前記磁気共鳴映像装置は、強力な磁場中に生体を入れて特定周波数の電波を照射して生体組織にある水素などの原子核にエネルギーを吸収させてエネルギーが高い状態にした後、前記電波を中断して前記水素などの原子核エネルギーが放出されるようにし、このエネルギーを信号に変換してコンピュータで処理して映像化した装置である。磁気又は電波は、骨に妨害を受けないので、堅い骨の周囲又は脳や骨髓の腫瘍に対して縦断、横断、任意の角度で鮮明な立体的な断層像を得ることができる。特に、前記磁気共鳴映像装置は、T2スピンースピン弛緩磁気共鳴映像装置であることが好ましい。
【0091】
本発明の薬物伝達体は、薬学的に許容可能な担体を追加で含むことができ、担体とともに製剤化され得る。本発明で用語「薬学的に許容可能な担体」とは、生物体を刺激せず投与化合物の生物学的活性及び特性を阻害しない担体又は希釈剤を言う。液状溶液に製剤化される薬物伝達体において許容される薬剤学的担体としては、滅菌及び生体に適合するものであって、食塩水、滅菌水、リンゲル液、緩衝食塩水、アルブミン注射溶液、デキストロース溶液、マルトデキストリン溶液、グリセロール、エタノール及びこれら成分のうち1成分以上を混合して用いることができ、必要に応じて、抗酸化剤、緩衝液、静菌剤など他の通常の添加剤を添加することができる。また、希釈剤、分散剤、界面活性剤、結合剤及び滑剤を付加的に添加して水溶液、懸濁液、乳濁液などのような注射用剤形、丸薬、カプセル、顆粒又は錠剤に製剤化することができる。
【0092】
本発明の薬物伝達体を有効成分で含む鼻腔投与用剤形としては、注射用形態又は呼吸器を通じて吸入を可能にするエアゾール剤などスプレー用に製剤化することができる。注射用剤形に製剤化するためには、本発明の薬物伝達体を安定剤又は緩衝剤とともに水に混合して溶液又は懸濁液として製造し、これをアンプル又はバイアルの単位投与用に製剤化することができる。エアゾール剤などのスプレー用に製剤化する場合、水分散された濃縮物又は湿潤粉末が分散されるように推進剤などが添加剤とともに配合され得る。
【0093】
本発明の薬物伝達体は、鼻腔-脳伝達用薬物伝達装置を通じて鼻腔-脳投与経路に噴射され得る。
【0094】
前記鼻腔-脳伝達用薬物伝達装置は、公知のネブライザー形態を用いることができる。
【0095】
本発明の薬物伝達体は、単独の療法で用いられ得るが、他の通常的な化学療法又は放射線療法とともに用いられてもよく、このような並行療法を実施する場合には、より効果的に疾患治療が可能である。
【0096】
したがって、本発明のまた他の実施様態として、本発明は、前記薬物伝達体を個体に鼻腔投与する段階を含む鼻腔投与を通じた脳への薬物伝達方法を提供する。
【0097】
本発明のまた他の実施様態として、本発明は、前記薬物伝達体を必要とする個体に薬学的に有効な量で鼻腔投与する段階を含む、中枢神経系疾患、神経退行性疾患又は脳腫瘍のうちいずれか一つを治療する方法を提供する。
【0098】
本発明の用語「薬学的に有効な量」は、医学的治療に適用可能な合理的な受恵/危険割合で疾患を治療するのに十分な量を意味する。本発明の薬物伝達体の適合する投与量は、製剤化方法、投与方式、患者の年齢、体重、性別、疾病症状の程度、飲食、投与時間、排泄速度及び反応感応性のような要因によって多様であり、普通、熟練した医師は、目的とする治療に効果的な投与量を容易に決定及び処方することができる。一般的に、本発明の薬物伝達体は、1X105-1X1015pfu/mlのポリマー又はポリマー-遺伝子伝達システム、光感覚剤又は薬剤学的活性成分の複合体を含み、通常的に、1X1010pfuを二日に一回ずつ2週間注射する。
【0099】
本発明の用語「個体」は、本発明による薬物伝達体の投与により症状が好転し得る疾病を有したウマ、ヒツジ、ブタ、ヤギ、ラクダ、カモシカ、イヌなどの動物又はヒトを含む。本発明による薬物伝達体を個体に投与することによって、疾病を効果的に予防及び治療することができる。本発明による前記治療方法は、ヒトを除いた動物を治療する方法であってもよいが、これに制限されない。すなわち、ヒトの場合、本発明による薬物伝達体の投与により症状が好転し得る疾病を有することを考慮するとき、ヒトの治療においても十分に用いられ得る。
【0100】
以下、本発明の実験例を通じて詳しく説明する。下記の実験例は、本発明を例示するものに過ぎず、本発明の範囲が下記の実験例によって限定されるものではない。本実験例は、本発明の開示が完全となるようにし、本発明が属する技術分野において通常の知識を有した者に発明の範疇を完全に知らせるために提供されるものであり、本発明は、請求項の範疇により定義される。
<発明の実施のための形態>
【0101】
<実施例1>PPCBA-PEI-Argの合成
【0102】
(1)ポリ(エチレンイミン)-アルギニン(PEI-Arg)の合成
【0103】
アルギニンをポリエチレンイミンに参考文献によってコンジュゲーションした(Journal of Colloid and Interface Science 348(2010)360-368、Biomaterials 31(2010)8759-8769)。アルギニンアミノ酸(350mg、2.0mmol)のカルボン酸基をPBS(phosphate saline buffer、pH=7.4(PBS、3.0mL)でEDC/NHS(EDC、384mg、2.0mmol及びNHS=230mg 2.0mmol)試薬と4℃で4時間の間カップリングさせることで活性化させた。その後、ポリエチレンイミン(polyethylenimine(PEI)(360mg、0.2mmol))を添加してアルギニンを活性化させ、反応は、室温で18時間の間行った。反応産物を2次蒸溜水に対して1日間透析して(MWCO 1.0kDa)未反応化合物を除去して凍結乾燥して、白色物質としてPEI-Argを得た。化学構造は、1H NMR(600MHz、D20)を通じて確認した。PEIの特徴的なピーク(2.0~3.0ppm)及びアルギニンのピーク(1.66-(-HCCH2CH2CH2NH-);1.86(-HCCH2CH2CH2NH-);3.24(-HCCH2CH2CH2NH-);3.86(-HCCH2CH2CH2NH-)を確認した。
【0104】
(2)PPCBA-PEI-Arg(PPA)の合成
【0105】
pH-感応型及び生体還元性ポリマーを生成するために、mPEG-acrylate(125mg、0.025mM(PEG=5.0kDa又は2.0kDa;Laysan Bio、Inc))及びN,N'-cystamine bisacrylamide(71.5mg、0.275mM)(PolySciences Inc.、Warrington、PA)をメタノール(5.0mL)に溶かした。その後、ピペラジン(19.5mg)(Sigma-Aldrich)を添加し、反応混合物は、100%窒素大気下で、50℃-60℃で48時間の間暗条件で撹拌し、室温で冷却した後、PEI-Arg(12mg)を添加した。結果的な反応混合物を室温で一日間撹拌し、最終ポリマーは、二次蒸溜水に対して一日間透析(MWCO 3.5kDa、Pro Spectrum、dialysis membrane)した後に凍結乾燥して、白色物質としてPPCBA-PEI-Argを得た。PPCBA-PEI-Argの化学構造は、mPEG及びPEI-Argの特徴的なピークとともにピペラジンの-N(CH2-CH2)メチレン陽性子及びCBAの-S-CH2-CH2-NH-CO-陽性子に該当する2.3-2.8及び3.6ppmでの共鳴ピークを通じて1H NMR(600MHz、D20)を用いて確認した。
【0106】
(3)細胞株及び細胞の培養
【0107】
U87MG-Fluc細胞株をAmerican Type Culture Collection(ATCC、Manassas、VA)から購入し、10% FBS(Gibco BRL)及びHEPES(Gibco BRL)を含んでいるDMEM(Gibco BRL、Grand Island、NY)培地で37℃、5% CO2条件で培養した。
【0108】
(4)アデノウイルス(Ad)の準備
【0109】
E1部位でCMVプロモーター調節下でGFP(green fluorescent protein)を発現する非複製性Ad(dE1/GFP)及び腫瘍殺傷Ad(DWP418、RdB/IL-12/Decorin又はHE5cT-Rd19-k35/Decorin;oAd)を用い、基本的に、本発明者らの既存研究に記載したような方法を用いた(Kim、E.et al.Hum.Gene Ther.2003、14、14151428;Kim、J.H.et al.J.Natl.Cancer Inst.2006、98、14821493;Choi、J.W.et al.Gene Ther.2013、20、880892;Kim、P.H.et al.Biomaterials 2011、32、93289342)。全てのAdをHEK293細胞で繁殖させた後、CsCl(Sigma、St Louis、MI)濃度勾配精製をした。ウイルス粒子(VP)の数をOD260測定で吸光度1を1012VP/mlと同等のものとして計算した。HEK293細胞に対する限界希釈検定法を用いてウイルス力価(Infectious titers、PFU/mL)を決定した。dE1/GFP及びDWP418のウイルスパーティクル/PFUの割合は、それぞれ29:1及び81:1であった。MOIをウイルス力価から計算した。
【0110】
(5)Ad/PPA複合体の準備
【0111】
Ad/PPA複合体を製作するために、Ad粒子(2×1010VP/PBS、pH7.4)を多様な濃度のPPAポリマーと混合した。その結果、ポリマー当たりAd粒子のモル割合は、1X105及び1X106となった。使用する前に溶液を室温で30分間培養した。
【0112】
(6)統計分析
【0113】
データを平均±標準偏差(SD)で示した。統計分析を両側Student t検定(SPSS 13.0 software;SPSS、Chicago、IL)で行い、P値が0.05未満である場合に、統計的に有意であるものと見なした。
【0114】
<実験例1>Ad/PPA-IR780の生体内蛍光イメージ
【0115】
Ad/PPA-IR780複合体の生体内分布を分析するために、複合体を鼻腔経路に注射し、投与後、5分、6、12、18、24、48hにNIRイメージングを行った。
【0116】
図1は、注射後5分~18hまで信号が類似して残っており、その後、48hまで時間依存的方式で徐徐に減少することを示す。Ad/PPA-IR780複合体が腫瘍組織に流入されることによって腫瘍保有脳領域に多くの蛍光信号が維持された:腫瘍領域での最大蛍光強度は、照射後5分に達成された。この結果は、Ad/PPA-IR780複合体が鼻腔経路を通じて脳腫瘍を標的とする適当な治療剤であることを示唆する。
【0117】
<実験例2>Ad/PPA-IR780複合体の強力な抗癌効果
【0118】
脳腫瘍モデルを構築するために、ホタルルシフェラーゼ遺伝子を安定的に発現するヒト膠芽腫細胞株であるU87MG-Flucをハミルトン注射器を用いて脳に定位的に注射した。非侵襲的に腫瘍成長をモニタリングするために、6日おきに生体発光イメージングを行った。21日目にAd/PPA5-IR780複合体を鼻腔注射した後、投与後6時間目に脳腫瘍に対してレーザーを照射した。
【0119】
図2に示したように、腫瘍細胞注射後30日目に、Ad/PPA5-IR780(7.26X10
6p/s)処理されたマウスの同所脳腫瘍から得たルシフェラーゼ信号は、ビヒクル処理群で観察されるものより有意的に低く、PBS(9.48X10
8p/s)より131倍低い腫瘍蛍光強度を示した。これら結果は、Ad/PPA5-IR780複合体が高度の凝集性同所膠芽腫の腫瘍成長抑制を誘導し得ることを示す。
【0120】
<実験例3>腫瘍標的化及び抗腫瘍効果のモニタリングのためのEx vivoイメージング
【0121】
Ex vivo生体発光イメージングを行って同所腫瘍の蛍光強度を評価した。
【0122】
図3に示したように、蛍光強度は、PBS-処理群(1.26X10
9p/s)に比べてAd/PPA5-IR780-処理群(7.64X10
6p/s)で165倍低かった。この結果は、鼻腔投与されたAd/PPA5-IR780複合体の強力な抗腫瘍効果を確認させる。
【0123】
また、Ex vivoNIRイメージング及び光学写真の比較を通じてAd/PPA5-IR780複合体の強力な抗腫瘍効果を再確認した。
【0124】
<実験例4>Ad/PPA5-IR780の抗腫瘍効能及び生体内分布
【0125】
U87MG-Fluc同所膠芽腫モデルを用いてAd及び多様な類型のIR780-結合されたポリマーを用いたナノ複合体の多様な鼻腔投与の治療的効能及び生体内分布プロファイルを比較した。全ての処理は、細胞注射後6日目に鼻腔経路を通じて投与された。全ての腫瘍に対して処理の鼻腔投与後6時間目にレーザーを照射した。
【0126】
図4に示したように、腫瘍細胞の注射後13日目に、Ad/PPA5-IR780、Ad/PPA2-IR780、Ad/PP-IR780投与されたマウスの同所腫瘍から得たルシフェラーゼ信号は、PPにより減殺した。
【0127】
生体内で多様なAd/ポリマー複合体の生体内分布プロファイルを評価するために、腫瘍細胞注射後6日目に、治療剤の1次鼻腔投与後に24時間ごとにNIRイメージングを実施した。
【0128】
図5に示したように、Ad/PPA2-IR780又はAd/PPA5-IR780処理されたマウスは、Ad/PAMAM(G2)-IR780処理されたマウスに比べて脳組織で一層高い蛍光強度を示した;Ad/PAMAM(G2)-IR780を投与した後に脳領域では、最小蛍光乃至は蛍光が検出されなかった。この結果は、鼻腔注射を通じた効率的な脳伝達がPPA-基盤ポリマーの一般的な機能であることを示唆する。
【0129】
<実験例5>Ad/PPA-IR780の抗腫瘍効能:生体発光イメージング
【0130】
細胞注射後6日目に、生体発光イメージングを通じて同所脳腫瘍の確立を確認した。処理のために、マウス(腫瘍光子値が1X106p/sに近接する)に20μlのPBS、ネイキッドAd(5X1010VP)、Ad/APP(APPは、Biomaterials 33(2012)8122-8130に開示する)、Ad/PP5-PTX-Erbitux又はAd/PPA5-IR780(1X105、1X106;ポリマー:Adモル割合)を3日ごとに計3回鼻腔注射した。鼻腔投与後6hに、全ての腫瘍に対してレーザーを照射した。
【0131】
図6に示したように、腫瘍細胞注射後20日目に、Ad/PPA5-IR780(1X10
5モル割合)処理されたマウスの同所腫瘍から得たルシフェラーゼ信号は、他の処理群と比較して一層効果的に減殺し、Ad/APP、Ad/PP5-PTX-Erbitux又はAd/PPA5-IR780(1X10
6モル割合)に比べてそれぞれ3.40-、2.32-又は1.44-倍さらに高い治療的効能を示した。これら結果は、PP-基盤のpH-感応型ポリマー(PP及びPPA)が鼻腔注射により脳にAdを効率的に伝達し得ることを示唆する。
【0132】
<実験例6>Ad/PPA-IR780の抗腫瘍効能及び相異なる投与経路
【0133】
多様なAd/ポリマー複合体の抗腫瘍効果を比較するために、3日おきに計3回のAd/PAMAM-PEG、Ad/PPSA(PPSAは、KR10-2016-0103078に開示)、Ad/APP又はAd/PPA5-IR780をマウスに鼻腔投与した。一群のマウスは、静脈経路を通じてAd/PPA5-IR780を受けた(Ad/PPA5-IR780(I.V.)群と命名)。全ての腫瘍に対して処理した後6h目にレーザーを照射した。
【0134】
図7に示したように、腫瘍細胞の注射後26日目に、Ad/PPA5-IR780(I.N.注射)処理されたマウスの同所腫瘍から得たルシフェラーゼ信号は、他の群に比べて著しく低く、Ad/PAMAM-PEG、Ad/PPSA、Ad/APP又はAd/PPA5-IR780(I.V.注射)処理された群に比べてそれぞれ30.5-、29.5-、9.66-、or 27.9-倍低い腫瘍蛍光を示したので、PPA5-IR780-媒介された鼻腔伝達は、静脈に伝達されることに比べて一層良い治療的効能を誘導することを示す。
【0135】
また、
図8に示したように、生体内分布に対して調査した結果、Ad/PPA5-IR780(I.N.注射)から得た蛍光信号が全体観察時期の間脳から検出される一方、Ad/PPA5-IR780を静脈投与したときは、脳組織から信号が検出されなかった。これは、鼻腔投与が脳腫瘍でAd/PPA5-IR780の蓄積及びそれの強力な抗腫瘍効果に重要であることを示唆するものである。
【0136】
<実験例7>同所(orthotopic)脳癌モデルでのoAd/PPA-IR780の強力な治療的効能
【0137】
生体内で腫瘍殺傷Ad(oAd)及びIR780による光熱治療の併用された治療的効能を評価するために、ルシフェラーゼを発現する同所脳腫瘍にoAd/PPA5-IR780を静脈(I.V.)注射するか、PBS、oAd又はoAd/PPA5-IR780を鼻腔(I.N.)注射した。注射後24時間目に、腫瘍に対して808nmレーザーを3分間照射した。
【0138】
図9に示したように、oAd/PPA-IR780の鼻腔投与と併用してレーザーの照射を通じて他の群と比較して顕著に高い抗腫瘍効果を誘発した。腫瘍細胞の注射後27日目に、レーザーの照射(9.8X10
5+/-2.1X10
5p/s)と併用してoAd/PPA5-IR780(I.N.)が処理されたマウスの同所脳腫瘍から得たルシフェラーゼ信号は、他の処理群と比較して有意的に減殺され(P<0.01)、レーザー(6.6X10
7+/-2.7X10
7p/s)とPBS処理、レーザーなし(4.0X10
7+/-8.6X10
6p/s)oAd/PPA5-IR780(I.V.)処理、レーザー(4.8X10
7+/-2.4X10
7p/s)とoAd処理、又はレーザーなし(7.3X10
6+/-2.1X10
6p/s)とoAd/PPA5-IR780(I.N.)処理の結果と比較してそれぞれ67.5-、40.8-、101.8-、49.2-又は7.5-倍低いルシフェラーゼ信号を示す(
図10)。これら結果は、鼻腔投与後のレーザー処理とともにとoAd/PPA5-IR780の強力な治療的効能を立証する。
【0139】
<実験例8>PPA-IR780-PTXの鼻腔投与後の脳組織でPTXの分布プロファイル
【0140】
PPA-IR780ポリマーに結合されたPTXが脳組織に効率的に伝達されるかを測定するために、PTX-結合されたポリマー変異体(PPA5-PTX-IR780)を静脈又は鼻腔経路のうちいずれか一つを通じて投与した。注射後、0.5、1、2及び6h目に、脳組織を収穫し、脳組織の多様な解剖領域でのPTX量をLC-MS/MSにより測定した。
【0141】
図11に示したように、脳腫瘍保有マウスモデルで、脳の下位領域でPTX量は、0.5h内に不規則に上昇し、鼻腔注射後、2h目に頂上に到逹した。鼻腔注射2h後の腫瘍内のPTX濃度は、脳の下位領域のうち最も高かった。
【0142】
正常マウスモデルで、PPA5-PTX-IR780の鼻腔注射は、
図11で、腫瘍保有マウスで観察されたものと類似してPTXの脳組織への効率的な流入を誘導する(
図12);類似する生体内分布パターンが二つのマウスで観察できされるが、腫瘍保有マウスより正常マウスでPTXの総量が多少低かった。これら結果は、腫瘍の存在がPPA5-PTX-IR780の効率的な脳伝達において必須的ではないことを示唆する。重要なことは、これら結果は、PPA5-IR780ポリマーバックボーンが中枢神経系疾患、神経退行性疾患又は脳腫瘍の治療のための薬物伝達体に用いられ得ることを示唆する。
【0143】
PPA5-PTX-IR780の鼻腔伝達後のPTXのDTP(鼻-脳への直接伝達)効率は、
図11及び
図12から得た値を用いてDTP(nose-to-brain direct transport)及びDTE(drug targeting efficiency)を計算して分析した。DTP%は、嗅覚経路を通じて脳に直接的に伝達される薬物の割合を示す。PPA5-PTX-IR780は、最も高いDTE%(腫瘍モデルで1620.95+/-38.81及び正常モデルで1019.17+/-28.39)及びDTP%(腫瘍モデルで93.83+/-0.97及び正常モデルで90.18+/-0.96)を示して、鼻腔経路を通じたPPA5-PTX-IR780投与は、鼻腔の嗅覚領域を通じた効率的な伝達によって静脈注射よりは脳への治療剤伝達が一層よく行われるようにすることを示す。
【0144】
図13に示したように、鼻腔経路を通じて脳に伝達したPTXの量は、腫瘍モデル及び正常モデルを比較したとき、腫瘍モデルで一層高かった。
【0145】
<実験例9>siRNA-Cy5.5/PPA-IR780の鼻腔投与後のsiRNAの脳分布
【0146】
siRNAがPPA5-IR780ポリマーにより鼻腔に伝達され得るかを評価するために、Cy5.5-labeled siRNA(siRNA-Cy5.5)を鼻腔投与のためにPPA5-IR780と複合体を形成した。0.5、1、2及び6h注射後、蛍光リーダーを用いて脳組織でのsiRNA-Cy5.5存在を試した。
【0147】
図14に示したように、鼻腔投与されたCy5.5-labeled siRNAの蛍光強度は、2hの照射後の同所脳腫瘍で最も高いレベルに到逹した;腫瘍領域でこの時間の強度は、脳の他の全ての領域で観察されたものより上位にあった。これら結果は、siRNAも伝達体としてPPA-IR780を用いて鼻腔経路を通じて腫瘍に効率的に伝達され得ることを示す。
【0148】
<実験例10>pDNA-FITC/PPA-IR780の鼻腔投与後のpDNAの脳分布
【0149】
pDNAが鼻腔を通じて脳に伝達されるかを測定し、それの伝達効率を評価するために、FITC-labeled pDNA(pDNA-FITC)を鼻腔伝達のためにPPA5-IR780と複合体を形成した。pDNA-FITC/PPA5-IR780複合体を静脈及び鼻腔経路を通じて投与した。注射後、0.5、1、2及び6hに、蛍光リーダーを用いてpDNAの存在を脳組織で試した。
【0150】
図15に示したように、静脈投与と比較して脳の多様な部分で顕著に高いレベルの鼻腔投与されたFITC-labeled pDNAが観察された。重要なことは、pDNAの最も高い量は、2~6h注射後の腫瘍組織から検出されて、PPA5-IR780が腫瘍へのpDNAの友好的な流入を促進することを立証する。
【0151】
正常マウスモデルで、pDNA-FITC/PPA5-IR780の鼻腔投与は、
図15の腫瘍保有マウスで観察されたものと類似して脳組織へのpDNAの効率的な流入を誘導した(
図16);類似した生体内分布パターンが二つのマウスから観察されるが、腫瘍保有マウスより正常マウスでpDNAの総量が多少低かった(
図17)。これら結果は、腫瘍の存在がPPA5-IR780によりpDNAの効率的な脳伝達に必須的ではないことを示唆する。
【0152】
PPA5-IR780ポリマーのどの成分が鼻腔経路を通じた効率的な脳流入に重要であるかを評価するために、pH-反応性又はIR780部分のうちいずれか一つがないPPA5-IR780のいくつかのポリマー誘導体を生産した。pH-反応性がない誘導体の生産のために、pH-反応部分であるピペラジンをpH-反応性がないジチオトレイトール(DTT)部分に置換してP(DTT)PA5-IR780を生産した。また、PPA5-IR780及びP(DTT)PA5-IR780に対して光感覚剤がない対照群ポリマーを生産して、結果的にそれぞれPPA5及びP(DTT)PA5ポリマーを生産した。PPA5-IR780と一つ又は二つの機能性部分がないその誘導体の脳伝達効率比較するために、pDNA-FITCをP(DTT)PA5、P(DTT)PA5-IR780、PPA5又はPPA5-IR780ポリマーと複合体を形成してから鼻腔経路に投与した。注射後0.5、1、2及び6hに、蛍光リーダーを用いて脳組織の多様な領域でpDNAの存在を試した。
【0153】
図18に示したように、FITC強度は、非-pH反応性ポリマーと複合体を形成したpDNA-FITCが処理された群(グループ2及び3)と比較してpH反応性ポリマーと複合体を形成したpDNA-FITCが処理されたマウス(グループ4及び5)で一層高かった。また、これら結果は、鼻腔投与されたpDNA/ポリマー複合体の脳流入効率は、グループ2及び4が脳組織の多様な領域でグループ3及び5と類似した蓄積を示したように、光感作性IR780部分に依存しないことを示した。また、これら結果は、pH敏感度が鼻腔経路を通じた治療剤の有効なポリマー-媒介伝達に重要であることを示唆する。
【0154】
<実験例11>鼻腔投与によるoAd/PPA-Cu-64-DOTA-ハーセプチン複合体の効率的な伝達:PET/CTイメージング
【0155】
PET/CTイメージングを通じて鼻腔投与、腹腔投与及び静脈投与を通じたoAd/PPA-Cu-64-DOTA-ハーセプチン複合体の脳への伝達効率を測定した。
【0156】
図19に示したように、注射後1h目に、鼻腔伝達は、他の伝達方法と比較脳領域で最も強い信号を示した。
【0157】
<実験例12>正常マウスでPPA-Erbitux伝達
【0158】
LC-MS/MS実験を用いて静脈投与と鼻腔投与時の治療抗体が結合されたPPAの脳への伝達効率を比較した。
【0159】
図20に示したように、治療抗体とPPA5の結合を通じて比較群であるPBSや静脈投与(IV)を通じた伝達より鼻腔投与した実験群で効果的に脳に伝達された。また、脳組織で時間による投与効率を比較した結果、投与後2時間後に初期投与量の20%と最も高い割合で検出された。
【0160】
<実験例13>鼻腔投与後のPPA-IR780-PTXの生体利用率
【0161】
LC-MS/MS実験を用いて静脈投与と鼻腔投与時の治療薬物であるPTXが結合されたPPA-IR780の脳への伝達効率を比較した。
【0162】
図21に示したように、PTXは、鼻腔伝達により脳の多様な領域で成功的に伝達された。また、脳組織で初期投与量の12%まで高い割合で検出された。
【0163】
<実験例14>PPA-PTXの強力な抗腫瘍効能:MRイメージング
【0164】
図22に示したように、MRイメージングを通じて、PPA5-PTXの鼻腔伝達は、PTX I.V.伝達及びPTX I.N.伝達より一層優れた抗腫瘍効能を示し、PPA5-PTX(I.N.)は、脳腫瘍の完全な退化を誘導したことを示した。
【0165】
また、U87MG/Fluc同所脳腫瘍モデルで、注射後13日目にH&E染色結果、PTX濃度(I.N.伝達)の1/25投与量は、脳腫瘍の完全な退化を誘導した(
図23)。
【0166】
また、
図24に示したように、U87MG/Fluc同所脳腫瘍モデルでPPA5-PTXの鼻腔伝達は、PTX I.V.伝達及びPTX I.N.伝達より一層優れた抗腫瘍効能を示し、PTX濃度(I.N.伝達)の1/25投与量は、静脈伝達より一層優れた効能を示した。
【産業上の利用可能性】
【0167】
本発明は、中枢神経系疾患、神経退行性疾患又は脳腫瘍の診断及び治療分野で用いることができる。