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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-21
(45)【発行日】2024-10-29
(54)【発明の名称】トランス
(51)【国際特許分類】
   H01F 37/00 20060101AFI20241022BHJP
   H01F 30/10 20060101ALI20241022BHJP
   H01F 38/10 20060101ALI20241022BHJP
   H01F 41/12 20060101ALI20241022BHJP
【FI】
H01F37/00 J
H01F30/10 M
H01F30/10 R
H01F38/10 501B
H01F41/12 B
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2023124685
(22)【出願日】2023-07-31
【審査請求日】2024-04-12
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 IEEE Magnetics Society(IEEE磁気学会)及び公益社団法人日本磁気学会が共催する研究集会IEEE International Magnetics Conference(IEEE磁気工学国際会議)『INTERMAG2023』に研究発表者として参加したことにより、発明の記載された講演予稿がインターネットで公開され、発明の記載されたポスターの前で講演(ポスター発表)を行い、このポスター発表を録画した動画がインターネットで公開された。以下に詳細を記載する。 ・講演予稿について:ウェブサイトに掲載された講演予稿の掲載日:令和5年5月15日、掲載アドレス:https://intermag.org/、研究集会名:INTERMAG2023、講演予稿タイトル:Application of Magnetic Composite Materials in Windings to Reduce Alternating-Current Resistance in Leakage Transformers(講演予稿タイトルの日本語訳:リーケージトランスの交流抵抗低減のための巻線への磁性複合材料の適用) ・ポスター発表について:研究集会名:INTERMAG2023、開催日:令和5年5月15日~19日開催の内の5月16日にポスター発表、開催場所:宮城県仙台市青葉区青葉山無番地 仙台国際センター、ポスター発表タイトルは上記の講演予稿タイトルと同じ ・ポスター発表を録画した動画の公開について:ウェブサイトに掲載された動画の掲載日:令和5年5月19日~同年8月19日まで、掲載アドレス:https://intermag2023_vod.next-link.site/ https://intermag2023_vod.next-link.site/viewing/631 動画タイトルは上記の講演予稿タイトルと同じ
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和5年度 文部科学省科学技術試験研究委託事業「磁気異方性軟磁性材料を用いた高周波・電力変換用トランス・インダクタの開発」、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
(74)【代理人】
【識別番号】100144130
【弁理士】
【氏名又は名称】中山 実
(72)【発明者】
【氏名】水野 勉
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 光秀
(72)【発明者】
【氏名】志村 和大
【審査官】右田 勝則
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-307933(JP,A)
【文献】特開2002-313632(JP,A)
【文献】特表2012-526387(JP,A)
【文献】特開2020-161645(JP,A)
【文献】特開2019-204945(JP,A)
【文献】特開平05-275247(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 37/00
H01F 30/10
H01F 38/10
H01F 41/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一次巻線と、
二次巻線と、
前記一次巻線と前記二次巻線とが間を開けて巻回されている中央脚部、並びに、前記一次巻線及び前記二次巻線の外周側に設けられている側脚部を有するコアとを備えるトランスであって、
前記一次巻線の巻線材表面の少なくとも一部に接して配置された、磁性紛及びマトリックス材を含む磁性複合材で形成された第1磁性部材と、
前記二次巻線の巻線材表面の少なくとも一部に接して配置された、磁性紛及びマトリックス材を含む磁性複合材で形成された第2磁性部材と、
一次巻線と二次巻線との間に配置された、磁性紛及びマトリックス材を含む磁性複合材で形成された第3磁性部材とを、備え
前記二次巻線が、前記一次巻線を間に挟む位置関係で配置されるように2分割されて構成されており、
2分割されたうちの一方の前記二次巻線と前記一次巻線との間に第1の前記第3磁性部材が配置され、
2分割されたうちの他方の前記二次巻線と前記一次巻線との間に第2の前記第3磁性部材が配置されていることを特徴とするトランス。
【請求項2】
前記一次巻線の巻線材表面に接してその巻線材表面を覆うように前記第1磁性部材が層状に付されていて隣接し合う層状の前記第1磁性部材同士が接触しないように設けられており、
前記二次巻線の巻線材表面に接してその巻線材表面を覆うように前記第2磁性部材が層状に付されていて隣接し合う層状の前記第2磁性部材同士が接触しないように設けられていることを特徴とする請求項1に記載のトランス。
【請求項3】
前記一次巻線を封止するように前記第1磁性部材が設けられており、
前記二次巻線を封止するように前記第2磁性部材が設けられていることを特徴とする請求項1に記載のトランス。
【請求項4】
前記一次巻線の巻線材表面の外周部側及び内周部側の端部に接して前記第1磁性部材が設けられており、
前記二次巻線の巻線材表面の外周部側及び内周部側の端部に接して前記第2磁性部材が設けられていることを特徴とする請求項1に記載のトランス。
【請求項5】
前記第3磁性部材が、前記中央脚部及び前記側脚部に接触しないように設けられていることを特徴とする請求項1に記載のトランス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばリーケージトランスのような低磁気結合のトランスに関する。
【0002】
トランスは種々の電気回路に用いられている。例えば、電気回路としてDC-DC(直流-直流)コンバータなどの電源回路が挙げられる。DC-DCコンバータの小型化には、スイッチング周波数の高周波化が有効である。シリコン系パワーデバイスを超える特性を有する窒化ガリウム(GaN)系や炭化ケイ素(SiC)系のパワーデバイスの開発により、DC-DCコンバータは、より高いスイッチング周波数で機能することが可能になった。パワーデバイスは、周波数が高くなるにつれてスイッチング損失が発生する。LLC共振型DC-DCコンバータは、ソフトスイッチングにより高周波でのスイッチング損失を低減できる低損失なDC-DCコンバータである。LLC共振型DC-DCコンバータは、2つのL(インダクタ)と1つのC(キャパシタ)による共振を利用することからこの名前が付いている。
【0003】
LLC共振型DC-DCコンバータには、共振用インダクタ及びトランスが使用される。この共振用インダクタ及びトランスとして、低磁気結合のトランスであるリーケージトランスが使用されている(例えば、特許文献1)。リーケージトランスのリーケージインダクタンス(漏れインダクタンス)を共振用インダクタとして代用できるからである。リーケージトランスを使用すると、共振用インダクタを部品として備えなくてもよいため、部品点数を削減でき、コンバータの小型化が可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平10-12554号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
リーケージトランスのような低磁気結合のトランスには、一次巻線と二次巻線の結合係数が小さいため、高い漏れ磁束を生じ、この漏れ磁束がトランスの巻線導体を貫通すると導体内部で発生する渦電流によって交流抵抗が増加するという問題がある。このため、交流抵抗の増加を抑制することが課題となっている。
【0006】
本発明は、前記の課題を解決するためになされたもので、低磁気結合でありながら交流抵抗の小さなトランスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載のトランスは、一次巻線と、二次巻線と、前記一次巻線と前記二次巻線とが間を開けて巻回されている中央脚部、並びに、前記一次巻線及び前記二次巻線の外周側に設けられている側脚部を有するコアとを備えるトランスであって、前記一次巻線の巻線材表面の少なくとも一部に接して配置された、磁性紛及びマトリックス材を含む磁性複合材で形成された第1磁性部材と、前記二次巻線の巻線材表面の少なくとも一部に接して配置された、磁性紛及びマトリックス材を含む磁性複合材で形成された第2磁性部材と、一次巻線と二次巻線との間に配置された、磁性紛及びマトリックス材を含む磁性複合材で形成された第3磁性部材とを、備え、前記二次巻線が、前記一次巻線を間に挟む位置関係で配置されるように2分割されて構成されており、2分割されたうちの一方の前記二次巻線と前記一次巻線との間に第1の前記第3磁性部材が配置され、2分割されたうちの他方の前記二次巻線と前記一次巻線との間に第2の前記第3磁性部材が配置されていることを特徴とする備えることを特徴とする。
【0008】
請求項2に記載のトランスは、請求項1に記載のものであり、前記一次巻線の巻線材表面に接してその巻線材表面を覆うように前記第1磁性部材が層状に付されていて隣接し合う層状の前記第1磁性部材同士が接触しないように設けられており、前記二次巻線の巻線材表面に接してその巻線材表面を覆うように前記第2磁性部材が層状に付されていて隣接し合う層状の前記第2磁性部材同士が接触しないように設けられていることを特徴とする。
【0009】
請求項3に記載のトランスは、請求項1に記載のものであり、前記一次巻線を封止するように前記第1磁性部材が設けられており、記二次巻線を封止するように前記第2磁性部材が設けられていることを特徴とする。
【0010】
請求項4に記載のトランスは、請求項1に記載のものであり、前記一次巻線の巻線材表面の外周部側及び内周部側の端部に接して前記第1磁性部材が設けられており、前記二次巻線の巻線材表面の外周部側及び内周部側の端部に接して前記第2磁性部材が設けられていることを特徴とする。
【0011】
請求項5に記載のトランスは、請求項1に記載のものであり、前記第3磁性部材が、前記中央脚部及び前記側脚部に接触しないように設けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明を適用するトランスでは、一次巻線の巻線材表面に接して磁性複合材で形成された第1磁性部材を配置し、二次巻線の巻線材表面に接して磁性複合材で形成された第2磁性部材を配置し、一次巻線と二次巻線との間に磁性複合材で形成された第3磁性部材を配置した。磁性複合材は高周波での損失が少なく、透磁率が低く、飽和磁束密度が高いので、巻線を貫通して損失を発生させる磁束が磁性複合材によって誘導・遮蔽されるため、低磁気結合でありながら巻線内部で発生する渦電流を低減でき、交流抵抗の小さなトランスとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明を適用するトランスの縦断面図である。
図2図1中の破線枠で囲んだ部分の拡大図である。
図3】本発明を適用するトランスの回路図である。
図4】本発明を適用する別のトランスの縦断面図である。
図5図4中の破線枠で囲んだ部分の拡大図である。
図6】本発明を適用するさらに別のトランスの縦断面図である。
図7図6中の破線枠で囲んだ部分の拡大図である。
図8】比較例2のトランスの部分拡大断面図である。
図9】比較例3のトランスの部分拡大断面図である。
図10】LLC共振型DC-DCコンバータのゲイン特性である。
図11】コア材MC2及び磁性複合材の複素比透磁率の周波数特性である。
図12】ニ次側を開放したときの一次側インダクタンスのシミュレーション結果を示す周波数特性である。
図13】二次巻線3aを短絡したときの一次側抵抗のシミュレーション結果を示す周波数特性である。
図14】二次巻線3aを短絡したときの一次側インダクタンスのシミュレーション結果を示す周波数特性である。
図15】結合係数kのシミュレーション結果を示す周波数特性である。
図16】第3磁性部材の磁束密度のシミュレーション結果を示すグラフである。
図17】作製したリーケージトランスの外観及び製造工程を示す写真である。
図18】ニ次側を開放したときの一次側インダクタンスの測定値及びシミュレーション結果を示す周波数特性である。
図19】二次巻線3aを短絡したときの一次側抵抗の測定値及びシミュレーション結果を示す周波数特性である。
図20】二次巻線3aを短絡したときの一次側インダクタンスの測定値及びシミュレーション結果を示す周波数特性である。
図21】結合係数kの測定値及びシミュレーション結果を示す周波数特性である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。なお、各図において共通する部分については、同一のまたは対応する符号を付して説明を省略する場合がある。
【0016】
最初に、本発明を適用するトランス1,101,201の主要構成を記載する。図1図3にトランス1を示し、図4図5にトランス201を示し、図6図7にトランス301を示している。
本発明を適用するトランス1,101,201は、一次巻線2と、二次巻線3(3a,3b)と、一次巻線2と二次巻線3(3a,3b)とが間を開けて巻回されている中央脚部71(71a,71b)、並びに、一次巻線2及び二次巻線3(3a,3b)の外周側に設けられている側脚部72(72a,72b)を有するコア7(一側コア片7a,他側コア片7b)とを備えている。
このトランス1,101,201は、一次巻線2の巻線材表面の少なくとも一部に該表面に接して配置された、磁性紛及びマトリックス材を含む磁性複合材で形成された第1磁性部材21,22,23と、二次巻線3(3a,3b)の巻線材表面の少なくとも一部に該表面に接して配置された、磁性紛及びマトリックス材を含む磁性複合材で形成された第2磁性部材31,32,33と、一次巻線2と二次巻線3(3a,3b)との間に配置された、磁性紛及びマトリックス材を含む磁性複合材で形成された第3磁性部材4(4a,4b)とを、備えている。
以下、各実施形態について説明する。
【0017】
[第1実施形態]
図1は、本発明を適用するトランス1の縦断面図である。図2は、図1中の破線枠で囲んだ部分の拡大図である。図3は、トランス1の回路図である。
【0018】
本発明を適用する第1実施形態のトランス1は、一次巻線2の巻線材表面に接してその巻線材表面を覆うように第1磁性部材21が層状に付されていて、隣接し合う層状の第1磁性部材21同士が接触しないように設けられており、二次巻線の線材表面に接してその巻線材表面を覆うように第2磁性部材31が層状に付されていて、隣接し合う層状の第2磁性部材31同士が接触しないように設けられていることを特徴とするものである。
以下、詳細に説明する。
【0019】
トランス1は、一次巻線2、二次巻線3(3a,3b)、第1磁性部材21、第2磁性部材31、第3磁性部材4(4a,4b)、及びコア7を有している。
【0020】
図3に、トランス1の回路図を示す。トランス1は、一次巻線2及び二次巻線3によって構成されている。二次巻線3は、二次巻線(第1巻線部)3aと二次巻線(第2巻線部)3bとの2つに分割されている。二次巻線3は、2分割されたうちの一方の二次巻線3aと、2分割されたうちの他方の二次巻線3bとが直列接続されて構成されており、接続部分が二次巻線3のセンタータップになっている。二次巻線3aは、一例として、2つの巻線(巻線材)が並列接続されて構成されている。二次巻線3bは、一例として、2つの巻線(巻線材)が並列接続されて構成されている。なお、このトランス1の回路は一例であり、二次巻線3a、3bが各々2つの巻線を並列接続して構成した例を示したが、二次巻線3a、3bを各々1つの巻線で構成してもよい。また、二次巻線3をセンタータップの無い構成にしてもよい。
【0021】
図1の縦断面図に示すように、コア7は、対をなす一側(上側)コア片7a及び他側(下側)コア片7bが対向して構成されている。一側コア片7a及び他側コア片7bは対称形に形成されている。一側コア片7aは、中央脚部71a及び側脚部72aを有している。中央脚部71a及び側脚部72aはベース部73aに繋がっている。他側コア片7bは、中央脚部71b及び側脚部72bを有している。中央脚部71b及び側脚部72bはベース部73bで繋がっている。中央脚部71a及び中央脚部71bが対向して中央脚部71が構成され、側脚部72a及び側脚部72bが対向して側脚部72が構成されている。この例では、一側コア片7aと他側コア片7bとがギャップを開けるように対向して配置されている。ギャップの有無やギャップの間隔は、必要とされる特性に合わせて適宜決めればよい。
【0022】
コア7(一側コア片7a,他側コア片7b)は、公知の磁性材料で形成されており、例えば、FeSiCrB等の鉄系アモルファス磁性粉を含有する磁性コンポジット材やフェライト、電磁鋼板、センダスト、パーマロイ、Ni系、Fe系の強磁性材料等で構成することができる。コア7は、例えば、公知の磁性材料を圧縮成形し熱処理を施して製造される。コア7は、軟磁性金属粉末の周囲に絶縁層を形成して、それを加圧成形した圧粉磁心であってもよい。
【0023】
一次巻線2及び二次巻線3(3a,3b)は、コア7の中央脚部71(71a,71b)に、互いに重なり合いや接触が生じることなく、別個に巻回されている。一次巻線2及び二次巻線3(3a,3b)は、コア7の側脚部72(72a,72b)によって外周側の少なくとも一部を覆われている。つまり、中央脚部71(71a,71b)は、一次巻線2及び二次巻線3(3a,3b)の内周側に位置しており、側脚部72(72a,72b)は、一次巻線2及び二次巻線3(3a,3b)の外周側に位置している。
【0024】
コア7の中央脚部71(71a,71b)の横断面形状(図示せず)に限定はなく、例えば、角柱形状、円柱形状、楕円形状、多角形形状、オーバル形状、角丸長方形状(陸上競技場のトラックのような形状)など、任意の形状である。中央脚部71が角柱形状の場合、一側コア片7a及び他側コア片7bはEコアとも呼ばれている。中央脚部71が円柱形状の場合、一側コア片7a及び他側コア片7bはERコアとも呼ばれている。ここでは、一例として、中央脚部71が角丸長方形状であるものとする。
【0025】
一次巻線2は、中央脚部71の中間位置(中央脚部71a及び中央脚部71bが対面している位置)がほぼ中央になるように、中央脚部71(中央脚部71a及び中央脚部71b)に巻回されている。一次巻線2は、中央脚部71に直接接触しないように、ボビン、絶縁シート等を介して中央脚部71に巻回されていてもよい(図示省略)。図1には、一次巻線2が10ターンで巻回されている例を示している。
【0026】
二次巻線3は、一次巻線2を間に挟む位置関係で中央脚部71に巻回されて配置されるように、一方の二次巻線(第1巻線部)3aと他方の二次巻線(第2巻線部)3bとに2分割されて構成されている。二次巻線3aは一次巻線2よりも一側(上側)の中央脚部71(中央脚部71a)に、一次巻線2とは間を開けて巻回されている。二次巻線3bは一次巻線2よりも他側(下側)の中央脚部71(中央脚部71b)に、一次巻線2とは間を開けて巻回されている。二次巻線3(3a,3b)は、中央脚部71に直接接触しないように、ボビン、絶縁シート等を介して中央脚部71に巻回されていてもよい(図示省略)。
【0027】
二次巻線3aは、一例として、2本の巻線材が平行になるように間隔を開けて巻回(平行巻き)されて形成されている。この2本の巻線材は電気的に並列接続されている。図1には、二次巻線3aが2ターンで巻回されている例を示している。同様に、二次巻線3bは、一例として、2本の巻線材が平行になるように間隔を開けて巻回(平行巻き)されて形成されている。この2本の巻線材は電気的に並列接続されている。図1には、二次巻線3bが2ターンで巻回されている例を示している。
【0028】
一次巻線2、二次巻線3(3a,3b)の巻線材は、一例として、断面が板状(矩形)の導体である。このような巻線材として、平角線、リボン線を使用してもよい。一次巻線2の巻線材は、複数本の線を撚り合わせたリッツ線を略矩形断面の形状としたものであってもよい。
【0029】
一方の二次巻線3aと一次巻線2との間に、漏れインダクタンスを形成するための第1の第3磁性部材4aが配置されている。第1の第3磁性部材4aは、環状の板形状(リング形状)に形成されている。第1の第3磁性部材4aは、磁性紛及びマトリックス材を含む磁性複合材で形成されている。
【0030】
他方の二次巻線3bと一次巻線2との間に、漏れインダクタンスを形成するための第2の第3磁性部材4bが配置されている。第2の第3磁性部材4bは、環状の板形状(リング形状)に形成されている。第2の第3磁性部材4aは、磁性紛及びマトリックス材を含む磁性複合材で形成されている。磁性複合材については後述する。
【0031】
図2に、図1中の破線枠で囲んだ部分の拡大図を示す。なお、破線枠の中間部分の図示は省略している。
【0032】
同図に示すように、一次巻線2には、その巻線材の表面(ひょうめん)に接し表面(ひょうめん)全体を覆うように第1磁性部材21が層状に付されている。この例では、一次巻線2の板状の巻線材のおもて面(図の上面)、裏面(図の下面)、外周部(図に向かって左側部)、内周部(図に向かって右側部)に接しこれらを覆うように第1磁性部材21が層状に付されている。
【0033】
一次巻線2の隣接し合う巻線材に付された層状の第1磁性部材21同士が接触しないように、隣接し合う第1磁性部材21同士の間には隙間が設けられている。この隙間は、隣接し合う第1磁性部材21同士の間に、例えば、樹脂シートのような絶縁性シート(図示省略)が挟まれて形成されている。第1磁性部材21は、磁性紛及びマトリックス材を含む磁性複合材で形成されている。磁性複合材については後述する。
【0034】
同図に示すように、二次巻線3(3a)には、その巻線材の表面(ひょうめん)に接し表面(ひょうめん)全体を覆うように第2磁性部材31が層状に付されている。この例では、二次巻線3aの板状の巻線材のおもて面(図の上面)、裏面(図の下面)、外周部(図に向かって左側部)、内周部(図に向かって右側部)に接しこれらを覆うように第2磁性部材31が層状に付されている。
【0035】
二次巻線3aの隣接し合う巻線材に付された層状の第2磁性部材31同士が接触しないように、隣接し合う第2磁性部材31同士の間には隙間が設けられている。この隙間は、隣接し合う第2磁性部材31同士の間に、例えば、樹脂シートのような絶縁性シート(図示省略)が挟まれて形成されている。第2磁性部材31は、磁性紛及びマトリックス材を含む磁性複合材で形成されている。磁性複合材については後述する。
【0036】
図示しないが、二次巻線3bは、二次巻線3aと同様であり、その巻線材の表面(ひょうめん)に接し表面(ひょうめん)全体を覆うように第2磁性部材31が層状に付されており、隣接し合う第2磁性部材31同士の間には隙間が設けられている。この隙間には、同様に絶縁性シートが挟まれている。
【0037】
第3磁性部材4(4a)は、一次巻線2の第1磁性部材21に接触しないように第1磁性部材21から隙間を開けて設けられている。また、第3磁性部材4(4a)は、二次巻線3aの第2磁性部材31に接触しないように第2磁性部材31から隙間を開けて設けられている。これら隙間は、例えば、樹脂シートのような絶縁性シート(図示省略)が挟まれて形成されている。
【0038】
図示しないが、第3磁性部材4bは、第3磁性部材4aと同様であり、一次巻線2の第1磁性部材21に接触しないように隙間を開けて設けられていると共に、二次巻線3bの第2磁性部材31に接触しないように隙間を開けて設けられている。この隙間は、同様に絶縁性シートが挟まれて形成されている。
【0039】
第3磁性部材4(4a,4b)は、中央脚部71及び側脚部72に接触しないように設けられていることが好ましい。後述するように、第3磁性部材4が中央脚部71及び側脚部72に接触していると、第3磁性部材4の磁束密度が高くなり、第3磁性部材4で生ずる損失が大きくなる恐れがあるためである。
【0040】
第1磁性部材21、第2磁性部材31、第3磁性部材4(4a,4b)は、いずれもマトリックス材中に磁性紛が分散している磁性複合材で形成されている。このような磁性複合材は、成型し易く、高周波での損失が少なく、透磁率が低く、飽和磁束密度が高いという特徴がある。複合磁性材において透磁率の大きさは、後述する磁性粉の形状や種類、大きさ、また、マトリックス材に対する磁性粉の混合比を変えることで制御可能である。比透磁率の大きさは、一次巻線2と二次巻線3の間の結合係数と磁性複合材のシールド効果との兼ね合いから、5以上50以下であることが好ましい。
【0041】
磁性紛の形状は任意である。磁性紛として、例えば、球状、塊状および扁平状の粉体から選ばれる1種または複数種を混合したものを用いることができる。また、磁性紛として、異なる形状、異なるサイズの粉体を混合して用いることができる。磁性紛の形状に限定はないが、球状や立方体のような形状磁気異方性のない形状のものが好ましい。磁性紛のサイズに限定はないが、一例として、数百nmから100μm程度のサイズのものが好ましい。
【0042】
磁性紛は、軟磁性体であれば材質は限定されない。磁性紛として、例えば、鉄粉、Si-Fe紛、アモルファス粉、フェライト粉(Mn-Zn、Ni-Zn)、ファインメット(登録商標)粉、センダスト紛、Fe-Si-Al紛から選ばれる1種または複数種を用いることができる。磁性紛として、表面を絶縁材で覆われた被覆付き磁性粉を用いてもよい。磁性紛の量に限定はないが、一例として、磁性複合材中に60~80体積%程度含まれていることが好ましい。
【0043】
マトリックス材は、複合材料における母材であり、非磁性で絶縁性を有する材料であって、液状(スラリー状)から硬化する材料であれば特に限定されない。マトリックス材は、例えば、シリコーン、エポキシ、アクリル等の樹脂材料、水ガラス等の無機材料を用いることができる。これらの中でも、機械的強度を向上させる点で、樹脂材料が好ましい。樹脂として、液状態から硬化する樹脂であって、例えば熱可塑性樹脂、シリコーンエラストマなどの熱硬化性樹脂、又は硬化剤により架橋可能な樹脂等を用いることができる。例えば、樹脂材料の中では、シリコーン、エポキシを好ましく使用できる。
【0044】
磁性紛と液状のマトリックス材とを混合して、マトリックス材中に磁性紛を均一に分散させ、液状のマトリックス材を硬化させることで磁性複合材になる。混合する際に、必要性に応じて溶剤、添加剤、結合剤等を適宜加えてもよい。
【0045】
第1磁性部材21、第2磁性部材31、第3磁性部材4に用いる磁性紛の種類及び分量は、それぞれ同様であってもよいし、各々で異なっていてもよい。第1磁性部材21、第2磁性部材31、第3磁性部材4に用いるマトリックス材の種類及び分量は、それぞれ同様であってもよいし、各々で異なっていてもよい。必要とする特性に合わせて、各々に用いる磁性紛の種類及び分量を適宜決めればよい。
トランス1の電磁界シミュレーションの結果や、試作品の測定結果については後述する。
【0046】
[第2実施形態]
図4は、本発明を適用するトランス101の縦断面図である。図5は、図4中の破線枠で囲んだ部分の拡大図である。トランス101の回路図は図3と同様である。
【0047】
本発明を適用する第2実施形態のトランス101は、一次巻線2を封止するように第1磁性部材22が設けられており、二次巻線3(3a,3b)を封止するように第2磁性部材32が設けられていることを特徴とする。
以下、詳細に説明する。
【0048】
トランス101は、一次巻線2、二次巻線3(3a,3b)、第1磁性部材22、第2磁性部材32、第3磁性部材4(4a,4b)、及びコア7を有している。一次巻線2、二次巻線3(3a,3b)、第3磁性部材4(4a,4b)、及びコア7は、既に説明したトランス1と同様のものである。
【0049】
図5に、図4の破線枠で囲んだ部分の拡大図を示す。なお、破線枠の中間部分の図示は省略している。
【0050】
同図に示すように、一次巻線2は、巻線間も含め全体が第1磁性部材22によって封止(モールド、封入)されている。第1磁性部材22は、既に説明したトランス1の第1磁性部材21と同様の材質のものであり、磁性紛及びマトリックス材を含む磁性複合材で形成されている。第1磁性部材22と第3磁性部材4(4a)との間には隙間が形成されている。第1磁性部材22とコア7(中央脚部71,側脚部72)との間には隙間が形成されている。
【0051】
同図に示すように、二次巻線3aは、巻線間も含め全体が第2磁性部材32(第1の第2磁性部材)によって封止(モールド、封入)されている。第2磁性部材32は、既に説明したトランス1の第2磁性部材31と同様の材質のものであり、磁性紛及びマトリックス材を含む磁性複合材で形成されている。第2磁性部材32と第3磁性部材4(4a)との間には隙間が形成されている。第2磁性部材32とコア7(中央脚部71,側脚部72)との間には隙間が形成されている。
【0052】
図示しないが、二次巻線3bは、二次巻線3aと同様であり、全体が第2磁性部材32(第2の第2磁性部材)によって封止されている。第2磁性部材32と第3磁性部材4bとの間には隙間が形成されている。第2磁性部材32とコア7(中央脚部71,側脚部72)との間には隙間が形成されている。
トランス101の電磁界シミュレーションの結果については後述する。
【0053】
[第3実施形態]
図6は、本発明を適用するトランス201の縦断面図である。図7は、図6中の破線枠で囲んだ部分の拡大図である。トランス201の回路図は図3と同様である。
【0054】
本発明を適用する第3実施形態のトランス201は、一次巻線2の巻線材表面の外周部側及び内周部側の端部に接して第1磁性部材23が設けられており、二次巻線3(3a,3b)の巻線材表面の外周部側及び内周部側の端部に接して第2磁性部材33が設けられていることを特徴とする。
以下、詳細に説明する。
【0055】
トランス201は、一次巻線2、二次巻線3(3a,3b)、第1磁性部材23、第2磁性部材33、第3磁性部材4(4a,4b)、及びコア7を有している。一次巻線2、二次巻線3(3a,3b)、第3磁性部材4(4a,4b)、及びコア7は、既に説明したトランス1と同様のものである。
【0056】
図7に、図6の破線枠で囲んだ部分の拡大図を示す。なお、破線枠の中間部分の図示は省略している。
【0057】
同図に示すように、一次巻線2は、巻線材の外周部側の端部において巻線材に接して第1磁性部材23(外周側の第1磁性部材)が設けられると共に、巻線材の内周部側の端部において巻線材に接して第1磁性部材23(内周側の第1磁性部材)が設けられている。巻線材の外周側の端面だけでなく、巻線材の外周部側のおもて面及び裏面に掛かるように第1磁性部材23が設けられている。巻線材の内周側の端面だけでなく、内周部側のおもて面及び裏面に掛かるように第1磁性部材23が設けられている。巻線材の外周部側及び内周部側を除くおもて面及び裏面の中央部には第1磁性部材23は設けられていない。また、同図に示すように、一次巻線2の隣接し合う巻線材に設けられた第1磁性部材23同士が接触しないように隙間が設けられていてもよい。隙間は、例えば、樹脂シートのような絶縁性シート(図示省略)が挟まれて形成されている。
【0058】
第1磁性部材23は、既に説明したトランス1の第1磁性部材21と同様の材質のものであり、磁性紛及びマトリックス材を含む磁性複合材で形成されている。
【0059】
同図に示すように、二次巻線3(3a)は、巻線材の外周部側の端部において巻線材に接して第2磁性部材33(外周側の第2磁性部材)が設けられると共に、巻線材の内周部側の端部において巻線材に接して第1磁性部材33(内周側の第2磁性部材)が設けられている。巻線材の外周側の端面だけでなく、巻線材の外周部側のおもて面及び裏面に掛かるように第2磁性部材33が設けられている。巻線材の内周側の端面だけでなく、巻線材の内周部側のおもて面及び裏面に掛かるように第2磁性部材33が設けられている。巻線材の外周部側及び内周部側を除くおもて面及び裏面の中央部には第1磁性部材33は設けられていない。また、同図に示すように、二次巻線3(3a)の隣接し合う巻線材に設けられた第2磁性部材33同士が接触しないように隙間が設けられていてもよい。隙間は、例えば、樹脂シートのような絶縁性シート(図示省略)が挟まれて形成されている。
【0060】
第2磁性部材33は、既に説明したトランス1の第2磁性部材31と同様の材質のものであり、磁性紛及びマトリックス材を含む磁性複合材で形成されている。
【0061】
図示しないが、二次巻線3bは、二次巻線3aと同様であり、巻線材の外周部側の端部に第2磁性部材33(外周側の第2磁性部材)が設けられると共に、巻線材の内周部側の端部に第1磁性部材33(内周側の第2磁性部材)が設けられている。
トランス201の電磁界シミュレーションの結果については後述する。
【0062】
なお、第1実施形態のトランス1では磁性複合材を層状に付した一次巻線2及び二次巻線3の組み合わせ、第2実施形態のトランス101では磁性複合材で封止した一次巻線2及び二次巻線3の組み合わせ、第3実施形態のトランス201では磁性複合材を外周部側及び内周部側に付した一次巻線2及び二次巻線3の組み合わせについて説明したが、一次巻線2と二次巻線3とに設ける磁性複合材の位置の組み合わせを変えてもよい。例えば、磁性複合材を層状に付した一次巻線2と磁性複合材で封止した二次巻線3とを組み合わせたトランスとしてもよいし、磁性複合材で封止した一次巻線2と磁性複合材を層状に付した二次巻線3とを組み合わせたトランスとしてもよいし、磁性複合材を層状に付した一次巻線2と磁性複合材を外周部側及び内周部側に付した二次巻線3とを組み合わせたトランスとしてもよいし、磁性複合材を外周部側及び内周部側に付した一次巻線2と磁性複合材を層状に付した二次巻線3とを組み合わせたトランスとしてもよいし、磁性複合材で封止した一次巻線2と磁性複合材を外周部側及び内周部側に付した二次巻線3とを組み合わせたトランスとしてもよいし、磁性複合材を外周部側及び内周部側に付した一次巻線2と磁性複合材で封止した二次巻線3とを組み合わせたトランスとしてもよい。一次巻線2に配置する磁性複合材の位置は任意である。ニ次巻線3に配置する磁性複合材の位置は任意である。必要とする仕様に合わせて適宜決めればよい。
【0063】
[電磁界解析によるシミュレーション]
電磁界解析によるシミュレーションを実施した。ここでは実施例1として図1,2に示した実施形態1(一次巻線2、二次巻線3の巻線材の表面全体に層状に磁性複合材を設けたトランス1)、実施例2として図4,5に示した実施形態2(一次巻線2、二次巻線3a,3bの各々の巻線材を磁性複合材で封止したトランス101)、実施例3として図6,7に示した実施形態3(一次巻線2、二次巻線3の巻線材の外周部、内周部に磁性複合材を設けたトランス301)に対してシミュレーションを行った。
【0064】
比較例1として、実施例1のトランス1から全ての磁性複合材を取り除いた構成、すなわち一次巻線2に第1磁性部材21が設けられておらず、二次巻線3(3a,3b)に第2磁性部材31が設けられておらず、第3磁性部材4(4a,4b)が設けられていない構成に対してシミュレーションを行った。
【0065】
比較例2として、図8の破線部拡大図に示すトランス901に対してシミュレーションを行った。同図に示すように、トランス901は、一次巻線2に第1磁性部材が設けられておらず、二次巻線3(3a,3b)に第2磁性部材が設けられていない点がトランス1と異なっている。同図は、図2に示したトランス1の破線部の拡大図に対応している。トランス901は、トランス1と同様の第3磁性部材4(4a,4b)を有している。
【0066】
比較例3として、図9の破線部拡大図に示すトランス902に対してシミュレーションを行った。同図に示すように、トランス902は、一次巻線2に第1磁性部材が設けられておらず、二次巻線3(3a,3b)に第2磁性部材が設けられておらず、第3磁性部材94(94a,94b)を備えている点がトランス1と異なっている。第3磁性部材94(94a,94b)は、第3磁性部材4(4a,4b)を幅広に形成したもので、コア7の中央脚部71及び側脚部72に接触(密着)している。第3磁性部材94(94a,94b)の材質は、トランス1の第3磁性部材4(4a,4b)と同様である。
【0067】
[LLC共振型DC-DCコンバータとリーケージトランスの仕様]
電磁界シミュレーションを行うトランスがLLC共振型DC-DCコンバータ(以下、LLCコンバータとも言う)に用いるリーケージトランスであるものとして、目標とする各仕様を設定した。LLCコンバータの基本仕様を、入力電圧360~400V、出力電圧48V、出力電力1kWのバスコンバータとした。共振周波数1MHz、スイッチング周波数0.7~1MHzとした。デッドタイムは共振周波数1MHzの周期の2.0%~3.0%である20~30nsに設定した。励磁インダクタンスは、デッドタイム、一次側パワーデバイスの出力容量、最大スイッチング周波数、ゼロ電圧スイッチング条件から9.8~14.8μHに決定した。一次パワーデバイスに型名GS-065-060-3-T(GaN Systems Inc.社)を使用するものとして、この出力容量Cossを127pFとした。
リーケージトランスを部品数を削減できるハーフブリッジ手法とセンタータップ整流を使用したLLCコンバータで使用するものとして、リーケージトランスの巻数比を、一次巻線2の巻数:二次巻線3aの巻数:二次巻線3bの巻数=5:1:1とした(図1参照)。
【0068】
図10に、LLCコンバータのゲイン特性を示す。結合係数が増加するにつれて、動作周波数はより低い周波数にシフトする。したがって、励磁電流を低減できる高周波での動作を可能にするには、リーケージトランスの結合係数を0.8~0.9にする必要がある。
【0069】
[シミュレーション条件]
コア材には高周波特性に優れた型名MC2(JFEフェライト株式会社)を採用した。コアは、中央脚部が角丸長方形状である型名EERI(JFEフェライト株式会社)とした。
【0070】
図1に示す中心yから一次巻線2及び二次巻線3a,3aの内周端部までの長さ3.7mm、外周端部までの長さ9.9mmとした。一次巻線2と二次巻線3a,3aの導体の厚さはそれぞれ0.1mmと0.2mmとした。一次巻線2及び二次巻線3a,3aの隣接する巻線材同士の間の距離0.2mm、一次巻線2から二次巻線3a,3aまでの間の距離0.9mmとした。図1に示す中心yから第3磁性部材4a,4bの内周端部までの長さ3.5mm、外周端部までの長さ10.1mmとした。第3磁性複合部材の厚さ0.5mmとした。
【0071】
コア7の中心yから中央脚部71の幅3.16mm、側脚部72の内側までの距離10.415mm、側脚部の外側までの距離12.5mm、図1に示す状態のコア7の下部から上部までの長さ12.58mm、一側コア片7aと他側コア片7bとのギャップ0.3mmとした。
【0072】
一次巻線2の巻数10、一方の二次巻線3aの巻数2、他方の二次巻線3bの巻数2とした。二次巻線3a、3bは2つの並列巻線を有している。結合係数を低減するために、一次巻線と二次巻線は独立して巻かれている。
【0073】
図1,2に示す第1実施形態の場合、一次巻線2及び二次巻線3a,3aのおもて面及び裏面に付された磁性複合材の層の厚さ0.05mmであり、両側面に付された磁性複合材部の層の厚さ0.2mmとした。
【0074】
図4,5に示す第2実施形態の場合、一次巻線2及び二次巻線3a,3aは磁性複合材に内部は封止されているが、一次巻線2及び二次巻線3a,3aの上下の両端面より外側に磁性複合材が0.05mm出ており、両側面より外側に磁性複合材が厚さ0.2mm出ているものとした。
【0075】
図6,7に示す第3実施形態の場合、一次巻線2及び二次巻線3a,3aの両側面から外側に向かって付された磁性複合材部の層の厚さ0.2mmであり、磁性複合材部は両端面から0.1mmだけ内側に向かって、おもて面及び裏面に磁性複合材が層状に厚さ0.05mmで設けられているものとした。
【0076】
図11にコア材MC2の複素比透磁率(カタログ値)と磁性複合材の複素比透磁率(実測値)の周波数特性を示す。磁性複合材は鉄を主成分とした非晶質球状粉末を樹脂と混合して作られており、高周波での損失が低いという特徴を有する。インピーダンスアナライザー(Agilent Technologies, Inc.社、型名4294A)を使用して複素比透磁率を測定した。複素比透磁率は、試験対象の材料であるトロイダルコアを治具(KEYSIGHT Technologies社、型名16454A)に挿入することによって形成した1回巻インダクタのインダクタンスから導出した。磁性複合材は低損失であるため、治具の接触抵抗は磁性複合材の複素比透磁率μ’”の虚数部に大きく影響する。したがって、磁性複合材のμ”は低周波で増加する。ここでは磁性複合材のμ”を0.01としてシミュレーションを行った。表1にシミュレーション条件を示す。
【0077】
【表1】
【0078】
二次側が開放された状態の一次インダクタンスLp、一方の二次巻線3aが短絡された状態の一次側抵抗(交流抵抗)Rsh1、一方の二次巻線3aが短絡された状態の一次インダクタンスLsh1をシミュレーションする。他方の二次巻線3bを短絡した場合の一次インピーダンス特性は一方の二次巻線3aを短絡した場合と同じであるため省略する。
結合係数kは次の式(1)から計算されます。
【0079】
【数1】
ここで、Lpは二次側が開放された状態の一次インダクタンス、Lshは二次側が短絡された状態の一次インダクタンスである。
【0080】
[シミュレーション結果]
図12はニ次側を開放した状態の一次側インダクタンスLpを示す。周波数1MHzにおけるリーケージトランスのLpは、実施例1が14.1μH、実施例2が14.8μH、実施例3が13.8μH、比較例1が13.1μH、比較例2が13.5μHであった。磁性複合材は、一次巻線とニ次巻線の間や巻線材の表面の少なくとも一部に配置され、主磁路より経路長の短い磁路を形成する。その結果、実施例1~3のように磁性複合材を設けた方がインダクタンスLpが増大する。
【0081】
図13は、二次巻線3aを短絡した状態の一次側抵抗Rsh1である。周波数1MHzにおけるリーケージトランスのRsh1は、実施例1が358mΩ、実施例2が388mΩ、実施例3が460mΩ、比較例1が584mΩ、比較例2が507mΩであった。実施例1~3の方が、比較例1,2よりも一次側抵抗Rsh1が小さくなった。これは、巻線を貫通して損失を発生させる磁束が磁性複合材によって誘導・遮蔽されるためである。実施例1のように磁性複合材を層状に適用することで、磁性複合材を適用しない比較例1に比べ、Rsh1を39%低減することができた。実施例1の構造が最も抵抗が小さくなった。実施例2の構造は、すべての巻線が磁性複合材に封止されているため、漏れ磁束が発生しやすく、実施例1の層状の磁性複合材よりも高い抵抗値を示した。実施例3の構造は表皮効果による交流抵抗の低減に有効である。しかし、巻線導体表面の一部(外周部・内周部)しか磁性複合材で覆われていないため、近接効果による交流抵抗の低減効果は小さい。
【0082】
図14は、二次巻線3aを短絡した状態の一次側インダクタンスLsh1である。周波数1MHzにおけるリーケージトランスのLsh1は、実施例1が3.9μH、実施例2が4.5μH、実施例3が3.9μH、比較例1が1.5μH、比較例2が2.8μHであった。実施例1~3のように磁性複合材を一次巻線と二次巻線の間や導体外周に配置すると、漏れ磁束の経路ができ、Lsh1が増加した。
【0083】
図15は、結合係数kを示したものである。周波数1MHzにおけるリーケージトランスの結合係数kは、実施例1が0.85、実施例2が0.83、実施例3が0.88、比較例1が0.94、比較例2が0.89であった。実施例1~3のように磁性複合材を適宜配置することで、漏れ磁束の経路を作り、結合係数を下げることができる。
【0084】
[第3磁性部材の磁束密度]
第3磁性部材の磁束密度についてシミュレーションを行った。図16に、周波数1MHz、電流8Aにおける第3磁性部材の磁束密度を示す。比較例3は第3磁性部材がコアに接触(密着)し、比較例2及び実施例1~3は第3磁性部材がコアに接触していない。同図の比較例3に示すように、コアに接触していると第3磁性部材の磁束密度が高くなる。鉄損は磁束密度の増加とともに大きくなるため、第3磁性部材の磁束密度が高くなると、第3磁性部材で生ずる損失が増える。また、今回のシミュレーションで第3磁性部材は磁気飽和していないが、電流をさらに大きくしたときに磁気飽和やシールドとしての機能が低下する可能性がある。
【0085】
[リーケージトランスの作製]
実施例4として、リーケージトランスを作製した。作製するリーケージトランスとして、シミュレーションで最も抵抗値の低かった実施例1に相当するトランスを作製した。また、比較例4として、磁性複合材を用いない、つまり第1磁性部材21、第2磁性部材31及び第3磁性部材4が設けられていない比較例1に相当するトランスを作製した。
【0086】
図17に、作製したリーケージトランスの外観及び製造工程を示す写真を示す。第1磁性部材21、第2磁性部材31及び第3磁性部材4の磁性複合材は同じ材質で形成した。磁性複合材の磁性紛として鉄系アモルファス球状粉末、マトリックス材としてシリコーン樹脂を用いた。鉄系アモルファス球状粉末にシリコーン樹脂を混合して磁性複合材スラリーを調製した。一次巻線及び二次巻線の1巻き(1枚)の巻線材ごとに、メタルマスクを用いて巻線材上に磁性複合材スラリーを塗布した。なお、同図ではメタルマスクの大きさを小さく表わしている。メタルマスクの開口部を巻線材のサイズよりも多少大きく形成することで、磁性複合材スラリーを巻線材の片面に塗布する際に、巻線材の側端面にも磁性複合材スラリーが塗布されるようにした。塗布した磁性複合材スラリーを加熱し硬化させた後、同様に巻線材の裏面に磁性複合材スラリーを塗布し加熱し硬化させた。同様に、一次巻線及び二次巻線の全ての巻線材に対して、磁性複合材を層状に形成した。また、磁性複合材スラリー及びメタルマスクを用いて、樹脂シート上に第3磁性部材を作製した。
【0087】
図1,2に示すように、コア7に、一次巻線及び二次巻線になる磁性複合材付きの巻線材、並びに第3磁性部材をセットした。一側コア片7aと他側コア片7bとの間に樹脂シートを挟んで既定のギャップを形成した。巻線材同士の間や、第3磁性部材の両側に樹脂シートを挟んで所定の隙間を形成した。図3に示した一次巻線、二次巻線の接続になるように、各巻線材を電気的に接続して、実施例4のトランスを作製した。
【0088】
比較例4として、磁性複合材を用いずに、コア7に一次巻線及び二次巻線になる巻線材をセットして、一次巻線、二次巻線の接続になるように各巻線材を電気的に接続して、トランスを作製した。
【0089】
[作製したリーケージトランスの評価]
作製した実施例4及び比較例4のリーケージトランスのインピーダンス特性を測定した。測定にはインピーダンスアナライザー(KEYSIGHT Technologies社製、E4990A)を使用した。測定結果を図18図21に示す。また、各図には、先に説明した実施例1及び比較例1のシミュレーション結果も示す。
【0090】
図18に、二次側を開放した状態の一次側インダクタンスLpを示す。実施例4のLpは13.8μH、比較例4のLpは13.8μHであった。磁性複合材の有無でLpに差はなかった。これは、コアの寸法公差とギャップ長の誤差によるものと思われる。
【0091】
図19は、二次巻線3aを短絡した状態の一次側抵抗Rsh1である。比較例4のRsh1は743mΩ、実施例4のRsh1は501mΩであった。磁性複合材を適用することで、磁性複合材を適用しない場合に比べてRsh1が33%低減した。シミュレーションと同様に、磁性複合材を適用することで、損失の原因となる磁束が遮断・誘導され、Rsh1が低減されたものと思われる。試作品とシミュレーションモデルの違い(引き出し線、ビア)により、シミュレーション結果よりも実測値はRsh1が増加した。
【0092】
図20は、二次巻線3aを短絡した状態の一次側インダクタンスLsh1である。比較例4のLsh1は1.8μH、実施例4のLsh1は4.5μHとなった。シミュレーションと同様に、磁性複合材による漏れ磁束の経路を作ることで、Lsh1が増加した。試作品とシミュレーション結果との違いは、Rsh1が増加した理由と同様である。
【0093】
図21は結合係数kを示したもので、比較例4のkは0.93、実施例4のkは0.82となった。シミュレーション結果と同様に、磁性複合材からなる漏洩磁路の形成により、結合係数を低減することができた。
【0094】
なお、上記実施例では前記の[LLC共振型DC-DCコンバータとリーケージトランスの仕様]に適合するように各部寸法を決定した。今回の仕様の場合には、交流抵抗が最も小さくなるリーケージトランスは実施形態1のトランス1であった。しかしながら、目標とする仕様によっては、実施形態2のトランス101や実施形態3のトランス201が最適になる場合もあり得る。
【0095】
測定値とシミュレーション値に多少の違いはあったが、引き出し線やビアなどによる影響による誤差と考えられ、シミュレーションの設定や算出値は概ね正しいと考えられる。
【符号の説明】
【0096】
1・101・201はトランス、2は一次巻線、3は二次巻線、3aは2分割したうちの一方の二次巻線、3bは2分割したうちの他方の二次巻線、4は第3磁性部材、
4aは第1の第3磁性部材、4bは第2の第3磁性部材、7はコア、7aは一側コア片、7bは他側コア片、21・22・23は第1磁性部材、31・32・33は第2磁性部材、71・71a・71bは中央脚部、72・72a・72bは側脚部、73・73a・73bはベース部、94は第3磁性部材、94aは第1の第3磁性部材、94bは第2の第3磁性部材、901・902はトランスである。
【要約】
【課題】低磁気結合でありながら交流抵抗の小さなトランスを提供することを目的とする。
【解決手段】トランス1は、一次巻線2と、二次巻線3と、一次巻線2と二次巻線3とが間を開けて巻回されている中央脚部71、並びに、一次巻線2及び二次巻線3の外周側に設けられている側脚部72を有するコア7とを備え、一次巻線2の巻線材表面の少なくとも一部に接して配置された、磁性紛及びマトリックス材を含む磁性複合材で形成された第1磁性部材21と、二次巻線3の巻線材表面の少なくとも一部に接して配置された、磁性紛及びマトリックス材を含む磁性複合材で形成された第2磁性部材31と、一次巻線2と二次巻線3との間に配置された、磁性紛及びマトリックス材を含む磁性複合材で形成された第3磁性部材4とを備える。
【選択図】図1
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