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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-21
(45)【発行日】2024-10-29
(54)【発明の名称】弾性表面波デバイス
(51)【国際特許分類】
   H03H 9/25 20060101AFI20241022BHJP
【FI】
H03H9/25 C
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2023530404
(86)(22)【出願日】2022-06-16
(86)【国際出願番号】 JP2022024130
(87)【国際公開番号】W WO2022270406
(87)【国際公開日】2022-12-29
【審査請求日】2023-10-17
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2021/023478
(32)【優先日】2021-06-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】100143834
【弁理士】
【氏名又は名称】楠 修二
(72)【発明者】
【氏名】門田 道雄
(72)【発明者】
【氏名】田中 秀治
【審査官】石田 昌敏
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/097016(WO,A1)
【文献】特開2019-036963(JP,A)
【文献】特開2020-065158(JP,A)
【文献】国際公開第2011/046117(WO,A1)
【文献】特開2020-182137(JP,A)
【文献】国際公開第2020/081573(WO,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03H 9/145-9/76
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
LiNbOまたはLiTaOの単結晶から成る圧電基板と、
前記圧電基板の一方の表面に設けられ、密度が8100kg/m以上のすだれ状電極と、
弾性波の伝搬に関して等方性の材料または水晶から成り、前記圧電基板の他方の表面に設けられた下地基板とを有し、
前記圧電基板は、LiNbOの単結晶から成るとき、オイラー角が(-5°~35°,95°~110°,0°±5°)であり、LiTaOの単結晶から成るとき、オイラー角が(-5°~35°,113°~142°,0°±5°)であり、
前記下地基板は、伝搬する縦波の音速が8431m/sよりも低速である、または、伝搬する横波の音速が5341m/sよりも低速である、または、密度が前記圧電基板の密度よりも小さく、
励振され伝搬する弾性表面波の音速が3000m/s以下であることを
特徴とする弾性表面波デバイス。
【請求項2】
前記圧電基板は、LiNbOの単結晶から成り、オイラー角が(-5°~35°,95°~106°,0°±5°)であり、
前記下地基板は、水晶基板から成ることを
特徴とする請求項1記載の弾性表面波デバイス。
【請求項3】
前記圧電基板は、LiNbOの単結晶から成り、オイラー角が(-5°~35°,97°~110°,0°±5°)であり、
前記下地基板は、ガラス基板から成ることを
特徴とする請求項1記載の弾性表面波デバイス。
【請求項4】
前記圧電基板は、LiTaOの単結晶から成り、
前記下地基板は、ガラス基板から成ることを
特徴とする請求項1記載の弾性表面波デバイス。
【請求項5】
前記圧電基板は、LiTaOの単結晶から成り、オイラー角が(-5°~35°,115°~125°または127°~140°,0°±5°)であり、
前記下地基板は、ガラス基板から成ることを
特徴とする請求項1記載の弾性表面波デバイス。
【請求項6】
前記すだれ状電極は、Cu電極から成り、その波長をλ、メタライゼーション比をMRとすると、厚みが0.077λ×0.5/MR~0.4λ×0.5/MRであることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の弾性表面波デバイス。
【請求項7】
前記すだれ状電極は、Cu以外の材料から成り、その波長をλ、メタライゼーション比をMRとし、平均密度をρaveとすると、厚みが0.077λ×8930×0.5/(MR×ρave)~0.4λ×8930×0.5/(MR×ρave)であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の弾性表面波デバイス。
【請求項8】
前記すだれ状電極の波長をλとすると、前記圧電基板の厚みが、0.14λ~5λであることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の弾性表面波デバイス。
【請求項9】
前記すだれ状電極は、Cu電極から成り、
前記下地基板は、水晶基板から成り、
前記すだれ状電極の厚みをh、波長をλとすると、前記圧電基板の厚みtは、
0.06λ≦h<0.16λのとき、
t≧11.2-125.3×h+228×h+796.5×h
0.16λ≦h≦0.4λのとき、
t≧2-21.7×h+84.1×h-108.1×h
であることを特徴とする請求項1または2記載の弾性表面波デバイス。
【請求項10】
前記すだれ状電極は、Cu以外の材料から成り、
前記下地基板は、水晶基板から成り、
前記すだれ状電極の厚みをh、波長をλ、メタライゼーション比をMR、平均密度をρaveとし、H=h×MR×ρave/(8930×0.5)とすると、前記圧電基板の厚みtは、
0.06λ≦H<0.16λのとき、
t≧11.2-125.3×H+228×H+796.5×H
0.16λ≦H≦0.4λのとき、
t≧2-21.7×H+84.1×H-108.1×H
であることを特徴とする請求項1または2記載の弾性表面波デバイス。
【請求項11】
前記すだれ状電極は、Cu電極から成り、
前記下地基板は、ガラス基板から成り、
前記すだれ状電極の厚みをh、波長をλとすると、前記圧電基板の厚みtは、
(I)前記下地基板の密度が3100kg/m~8015kg/mでは、
0.06λ≦h<0.4λのとき、
t≧5.1-60.9×h+257.7×h-361.3×h
(II)前記下地基板の密度が2225kg/m~3100kg/mでは、
0.06λ≦h<0.13λのとき、
t≧1.956-28×h+311×h-1376.8×h
0.13λ≦h<0.4λのとき、
t≧3.5-40.5×h+163.4×h-218.2×h
(III)前記下地基板の密度が2100kg/m~2225kg/mでは、
0.06λ≦h<0.4λのとき、
t≧5.07-62.3×h+265.7×h-373×h
であることを特徴とする請求項1、3、4または5のいずれか1項に記載の弾性表面波デバイス。
【請求項12】
前記すだれ状電極は、Cu以外の材料から成り、
前記下地基板は、ガラス基板から成り、
前記すだれ状電極の厚みをh、波長をλ、メタライゼーション比をMR、平均密度をρaveとし、H=h×MR×ρave/(8930×0.5)とすると、前記圧電基板の厚みtは、
(I)前記下地基板の密度が3100kg/m~8015kg/mでは、
0.06λ≦H<0.4λのとき、
t≧5.1-60.9×H+257.7×H-361.3×H
(II)前記下地基板の密度が2225kg/m~3100kg/mでは、
0.06λ≦H<0.13λのとき、
t≧1.956-28×H+311×H-1376.8×H
0.13λ≦H<0.4λのとき、
t≧3.5-40.5×H+163.4×H-218.2×H
(III)前記下地基板の密度が2100kg/m~2225kg/mでは、
0.06λ≦H<0.4λのとき、
t≧5.07-62.3×H+265.7×H-373×H
であることを特徴とする請求項1、3、4または5のいずかれ1項に記載の弾性表面波デバイス。
【請求項13】
前記下地基板は、線膨張係数が4.0×10-6(1/℃)以下であることを特徴とする請求項1、3、4または5のいずれか1項に記載の弾性波デバイス。
【請求項14】
前記圧電基板は、LiNbOの単結晶から成り、前記すだれ状電極の波長をλとすると、厚みが0.06λ~2λであり、
前記下地基板は、水晶基板から成ることを
特徴とする請求項1記載の弾性表面波デバイス。
【請求項15】
LiNbOまたはLiTaOの単結晶から成る圧電基板と、
前記圧電基板の一方の表面に設けられ、密度が8100kg/m以上のすだれ状電極と、
前記圧電基板の他方の表面に設けられた水晶基板とを有し、
前記圧電基板の接合面と前記水晶基板の接合面との組合せが、オイラー角で、
(0°,90°~270°、0°)の裏面と(0°、θ、90°)の表面、
(0°,270°~450°、0°)の裏面と(0°、θ、270°)の表面、
(0°,90°~270°、0°)の裏面と(0°、θ、0°)の表面、
(0°,270°~450°、0°)の裏面と(0°、θ、0°)の表面
のうちのいずれか1つであり(θは任意の角度)
励振され伝搬する弾性表面波の音速が3000m/s以下であることを
特徴とする弾性表面波デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性表面波デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
スマートフォン等で主に使用されている700MHzから3GHzの周波数帯には、80近くのバンドがあり、非常に混雑している。これらの帯域のうち、700MHzから1.3GHzの低周波数の帯域が、電波障害が最も少なく、周波数を最も有効利用することができる。このため、スマートフォン等で利用される低周波帯のデュプレクサ(Duplexer)などのフィルタには、近年のスマートフォン等の高機能化により、小型化が要求されている。
【0003】
従来、デュプレクサなどのフィルタには、AlNやScAlNなどの圧電薄膜を用いたバルク弾性波(BAW;Bulk Acoustic Wave)デバイスや、LiNbO(LN)やLiTaO(LT)を用いた弾性表面波(SAW)デバイスが用いられている。BAWデバイスでは、用いられるAlN膜やScAlN膜などがc軸配向の多結晶膜であるため、用いるバルク波の振動モードは、縦波の厚み縦振動のみとなる。この縦波の音速は、(c33/密度)1/2で表され(c33は弾性スティッフネス定数)、共振周波数は、基本的に音速/(2×膜厚)で決定される。c軸配向では、縦波の半分の音速を有する横波は励振できないため、共振周波数を低くするためには、縦波を用いたまま、その圧電薄膜を厚くしなければならないが、厚い圧電薄膜を成膜すると下地のSi基板が大きく反ったり割れたりし、また、圧電薄膜の厚みに比例して電極サイズも大きくなる。このため、BAWデバイスでは、低周波数領域でのフィルタのサイズが極端に大きくなり、その実現が困難であった。
【0004】
一方、LNやLTを用いたSAWデバイスでは、その共振周波数fは、基板の音速をV、すだれ状電極(IDT)の周期(波長)をλとすると、f=V/λで決まる。このため、共振周波数を低くするためには、λを大きくするか、Vを小さくすればよい。しかし、波長λを大きくすると、素子サイズが大きくなってしまうため、小型化の要求に対応することができない。そこで、Vが小さい低音速の基板を用いて、低周波数化を図る試みが行われている。例えば、一般的に使用されているLNやLTの音速は、3800m/sであるが、すだれ状電極として高密度電極を用いることにより、基板の音速を低下させたものがある(例えば、非特許文献1参照)。このときの音速の低下量は18%であり、実際の音速は、3026m/sである。また、そのときのインピーダンス比は、66dBである。
【0005】
なお、フィルタでは、用途に応じ、5%~30%の帯域が要求される。そのフィルタの帯域は、共振子の帯域の約2倍となり、共振子の比帯域は、おおよそ結合係数の自乗/2で与えられる。このように、帯域が結合係数に依存しているため、従来、フィルタの帯域に必要な結合係数を有するLN基板やLT基板が使用されてきた。一方、インピーダンス比は高ければ高いほうがよく、一応の目安として、65dB以上であることが望ましいとされている。
【0006】
ここで、インピーダンス比(Impedance ratio)は、共振周波数frにおけるインピーダンスをZr、反共振周波数faにおけるインピーダンスをZaとすると、20×log(Za/Zr)である。また、帯域(Bandwidth)は、(fa-fr)/frである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【文献】M. Mimura, D. Ajima, C. Konoma, and T. Murase, “Small sized band 20 SAW duplexer using low acoustic velocity Rayleigh SAW on LiNbO3 substrate”, Proc. IEEE Ultrasonics Symp. 2017, DOI: 10.1109/ULTSYM.2017.8092596
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
非特許文献1に記載の、すだれ状電極として高密度電極を用いた弾性表面波デバイスでは、伝搬する弾性表面波の音速を約3000m/s程度まで低下させることができるが、より低い周波数の弾性表面波を利用するためには、音速をさらに低下させる必要があるという課題があった。
【0009】
本発明は、このような課題に着目してなされたもので、伝搬する弾性表面波の音速をさらに低下させることができ、小型化および低周波数化を図ることができる弾性表面波デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明に係る弾性表面波デバイスは、LiNbOまたはLiTaOの単結晶から成る圧電基板と、前記圧電基板の一方の表面に設けられ、密度が8100kg/m以上のすだれ状電極と、弾性波の伝搬に関して等方性の材料または水晶から成り、前記圧電基板の他方の表面に設けられた下地基板とを有し、前記圧電基板は、LiNbOの単結晶から成るとき、オイラー角が(-5°~35°,95°~110°,0°±5°)であり、LiTaOの単結晶から成るとき、オイラー角が(-5°~35°,113°~142°,0°±5°)であり、前記下地基板は、伝搬する縦波の音速が8431m/sよりも低速である、または、伝搬する横波の音速が5341m/sよりも低速である、または、密度が前記圧電基板の密度よりも小さく、励振され伝搬する弾性表面波の音速が3000m/s以下であることを特徴とする。
【0011】
本発明に係る弾性表面波デバイスは、密度が、Alの密度(2700kg/m)の3倍以上、すなわち8100kg/m以上の高密度のすだれ状電極を用いると共に、伝搬する縦波の音速が8431m/sよりも低速である下地基板、または、伝搬する横波の音速が5341m/sよりも低速である下地基板、または、密度が圧電基板の密度よりも小さい下地基板を用いることにより、伝搬する弾性表面波の音速をさらに低下させることができる。下地基板として、弾性波の伝搬に関して等方性のガラス基板や、水晶基板を用いることにより、励振され伝搬する弾性表面波の音速を3000m/s以下にまで低下させることができる。これにより、伝搬する弾性表面波の共振周波数も低下させることができ、低周波数化を図ることができる。また、伝搬する弾性表面波の波長を変えることなく、その音速を低下させることができる。このため、素子サイズを大きくする必要がなく、小型化を図ることができる。
【0012】
本発明に係る弾性表面波デバイスは、圧電基板として、オイラー角が(-5°~35°,95°~110°,0°±5°)のLiNbOの単結晶や、オイラー角が(-5°~35°,113°~142°,0°±5°)のLiTaOの単結晶を用いることにより、スプリアスを抑えることができ、インピーダンス比を高めることができる。
【0013】
本発明に係る弾性表面波デバイスで、すだれ状電極は、密度が8100kg/m以上であれば、いかなる材料から成っていてもよく、例えば、Cu電極や、Mo電極、Pt電極、合金、多層金属膜などから成っていてもよい。
【0014】
本発明に係る弾性表面波デバイスで、前記圧電基板がLiNbOの単結晶から成り、前記下地基板が水晶基板から成るとき、圧電基板のオイラー角が(-5°~35°,95°~106°,0°±5°)であることが好ましい。また、前記圧電基板がLiNbOの単結晶から成り、前記下地基板がガラス基板から成るとき、圧電基板のオイラー角が(-5°~35°,97°~110°,0°±5°)であることが好ましい。また、前記圧電基板がLiTaOの単結晶から成るとき、前記下地基板がガラス基板から成ることが好ましく、特に、圧電基板のオイラー角が(-5°~35°,115°~125°または127°~140°,0°±5°)であることが好ましい。この場合、スプリアスをより効果的に抑えることができ、比較的高いインピーダンス比を得ることができる。
【0015】
本発明に係る弾性表面波デバイスで、前記すだれ状電極は、Cu電極から成り、その波長をλ、メタライゼーション比をMRとすると、厚みが0.077λ×0.5/MR~0.4λ×0.5/MRであることが好ましい。この場合、励振され伝搬する弾性表面波の音速を、3000m/s以下にまで低下させることができる。また、伝搬する弾性表面波の音速をさらに低下させるために、すだれ状電極の厚みが0.08λ×0.5/MR以上であることが好ましく、0.115λ×0.5/MR以上であることがより好ましく、0.123λ×0.5/MR以上であることがさらに好ましい。
【0016】
本発明に係る弾性表面波デバイスで、前記すだれ状電極は、Cu以外の材料から成り、その波長をλ、メタライゼーション比をMRとし、平均密度をρaveとすると、厚みが0.077λ×8930×0.5/(MR×ρave)~0.4λ×8930×0.5/(MR×ρave)であることが好ましい。この場合、伝搬する弾性表面波の音速を、3000m/s以下にまで低下させることができる。また、伝搬する弾性表面波の音速をさらに低下させるために、すだれ状電極の厚みが0.08λ×8930×0.5/(MR×ρave)以上であることが好ましく、0.115λ×8930×0.5/(MR×ρave)以上であることがより好ましく、0.123λ×8930×0.5/(MR×ρave)以上であることがさらに好ましい。
【0017】
本発明に係る弾性表面波デバイスは、前記すだれ状電極の波長をλとすると、前記圧電基板の厚みが、0.14λ~5λであることが好ましい。この場合、リップルの発生を抑えて、比較的高いインピーダンス比を得ることができる。
【0018】
本発明に係る弾性表面波デバイスで、前記すだれ状電極は、Cu電極から成り、前記下地基板は、水晶基板から成り、前記すだれ状電極の厚みをh、波長をλとすると、前記圧電基板の厚みtは、
0.06λ≦h<0.16λのとき、
t≧11.2-125.3×h+228×h+796.5×h
0.16λ≦h≦0.4λのとき、
t≧2-21.7×h+84.1×h-108.1×h
であることが好ましい。この場合にも、リップルの発生を抑え、高いインピーダンス比を得ることができる。
【0019】
本発明に係る弾性表面波デバイスで、前記すだれ状電極は、Cu以外の材料から成り、前記下地基板は、水晶基板から成り、前記すだれ状電極の厚みをh、波長をλ、メタライゼーション比をMR、平均密度をρaveとし、H=h×MR×ρave/(8930×0.5)とすると、前記圧電基板の厚みtは、
0.06λ≦H<0.16λのとき、
t≧11.2-125.3×H+228×H+796.5×H
0.16λ≦H≦0.4λのとき、
t≧2-21.7×H+84.1×H-108.1×H
であることが好ましい。この場合にも、リップルの発生を抑え、高いインピーダンス比を得ることができる。
【0020】
本発明に係る弾性表面波デバイスで、前記すだれ状電極は、Cu電極から成り、前記下地基板は、ガラス基板から成り、前記すだれ状電極の厚みをh、波長をλとすると、前記圧電基板の厚みtは、
(I)前記下地基板の密度が3100kg/m~8015kg/mでは、
0.06λ≦h<0.4λのとき、
t≧5.1-60.9×h+257.7×h-361.3×h
(II)前記下地基板の密度が2225kg/m~3100kg/mでは、
0.06λ≦h<0.13λのとき、
t≧1.956-28×h+311×h-1376.8×h
0.13λ≦h<0.4λのとき、
t≧3.5-40.5×h+163.4×h-218.2×h
(III)前記下地基板の密度が2100kg/m~2225kg/mでは、
0.06λ≦h<0.4λのとき、
t≧5.07-62.3×h+265.7×h-373×h
であることが好ましい。この場合にも、リップルの発生を抑え、高いインピーダンス比を得ることができる。
【0021】
本発明に係る弾性表面波デバイスで、前記すだれ状電極は、Cu以外の材料から成り、前記下地基板は、ガラス基板から成り、前記すだれ状電極の厚みをh、波長をλ、メタライゼーション比をMR、平均密度をρaveとし、H=h×MR×ρave/(8930×0.5)とすると、前記圧電基板の厚みtは、
(I)前記下地基板の密度が3100kg/m~8015kg/mでは、
0.06λ≦H<0.4λのとき、
t≧5.1-60.9×H+257.7×H-361.3×H
(II)前記下地基板の密度が2225kg/m~3100kg/mでは、
0.06λ≦H<0.13λのとき、
t≧1.956-28×H+311×H-1376.8×H
0.13λ≦H<0.4λのとき、
t≧3.5-40.5×H+163.4×H-218.2×H
(III)前記下地基板の密度が2100kg/m~2225kg/mでは、
0.06λ≦H<0.4λのとき、
t≧5.07-62.3×H+265.7×H-373×H
であることが好ましい。この場合にも、リップルの発生を抑え、高いインピーダンス比を得ることができる。
【0022】
本発明に係る弾性表面波デバイスで、前記下地基板は、線膨張係数が4.0×10-6(1/℃)以下であることが好ましく、下地基板の厚みと圧電基板の厚みの比が15以上であることが好ましい。この場合、温度変化による影響を抑えることができる。また、この場合、温度変化による影響をさらに抑えるために、下地基板は、線膨張係数が0.5×10-6(1/℃)以下であることが好ましく、下地基板の厚みと圧電基板の厚みの比が10以上であることが好ましい。
【0023】
本発明に係る弾性表面波デバイスで、前記圧電基板は、LiNbOの単結晶から成り、前記すだれ状電極の波長をλとすると、厚みが0.06λ~2λであり、前記下地基板は、水晶基板から成ることが好ましい。この場合、インピーダンス比を高めることができる。
【0024】
なお、本発明に係る弾性表面波デバイスは、LiNbOまたはLiTaOの単結晶から成る圧電基板と、前記圧電基板の一方の表面に設けられ、密度が8100kg/m 以上のすだれ状電極と、前記圧電基板の他方の表面に設けられた水晶基板とを有し、前記圧電基板の接合面と前記水晶基板の接合面との組合せが、オイラー角で、
(0°,90°~270°、0°)の裏面と(0°、θ、90°)の表面、
(0°,270°~450°、0°)の裏面と(0°、θ、270°)の表面、
(0°,90°~270°、0°)の裏面と(0°、θ、0°)の表面、
(0°,270°~450°、0°)の裏面と(0°、θ、0°)の表面
のうちのいずれか1つであり、励振され伝搬する弾性表面波の音速が3000m/s以下であってもよい。この場合、大きなインピーダンス比を得ることができる。
【0025】
ここで、オイラー角(φ、θ、ψ)は、右手系であり、圧電基板の切断面と、弾性波の伝搬方向とを表現するものである。すなわち、圧電基板を構成するLTまたはLNの結晶軸X、Y、Zに対し、Z軸を回転軸としてX軸を反時計廻りにφ回転し、X’軸を得る。次に、そのX’軸を回転軸としてZ軸を反時計廻りにθ回転しZ’軸を得る。このとき、Z’軸を法線とし、X’軸を含む面を、圧電基板の切断面とする。また、Z’軸を回転軸としてX’軸を反時計廻りにψ回転した方向を、弾性波の伝搬方向とする。また、これらの回転によりY軸が移動して得られる、X’軸およびZ’軸と垂直な軸を、Y′軸とする。
【0026】
オイラー角をこのように定義することにより、例えば、40°回転Y板X方向伝搬は、オイラー角で(0°、-50°、0°)と表され、40°回転Y板90°X方向伝搬は、オイラー角で(0°、-50°、90°)と表される。なお、圧電基板を所望のオイラー角で切り出す際には、オイラー角の各成分に対して、最大で±0.5°程度の誤差が発生する可能性がある。弾性波の特性に関しては、(φ、θ、ψ)のオイラー角のうち、φ、ψに関しては、±5°程度のずれによる特性差はほとんどない。また、オイラー角(0°、θ、0°)に対し、(0°、θ+360°、0°)は、オイラー角で等価な面である。一方、(0°、θ+180°、0°)は、(0°、θ、0°)とはオイラー角で等価な面ではないが、基板の表裏の関係にある。しかし、弾性波デバイスでは、表と裏でも同じ特性を示すため、ここでは、基板の表裏の関係の方位も、例えば下記の図15に示すような、ある条件の接合基板以外は、等価な面とみなす。
【0027】
また、すだれ状電極(IDT)のメタライゼーション比(MR)は、弾性表面波の伝搬方向に沿って、すだれ状電極の電極指の幅Fを、電極指の周期(λ)の半分(電極指の幅Fと電極指間の隙間Gとの和)で除した比率であり、MR=F/(F+G)=2×F/λである。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、伝搬する弾性表面波の音速をさらに低下させることができ、小型化および低周波数化を図ることができる弾性表面波デバイスを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】本発明の実施の形態の弾性表面波デバイスを示す側面図である。
図2】従来の(a)Al電極(厚み0.08λ)/(0°,38°,0°)LN構造、(b)Al電極(厚み0.08λ)/(0°,97°,0°)LN構造の、弾性表面波デバイスの周波数特性を示すグラフである。
図3】本発明の実施の形態の、Cu電極(厚み0.18λ)/(0°,97°,0°)LN(厚み0.6λ)/(0°,132°45’,0°)水晶から成る弾性表面波デバイスの周波数特性を示すグラフである。
図4】本発明の実施の形態の、Cu電極(厚み0.18λ)/(0°,120°,0°)LN(厚み0.6λ)/(0°,132°45’,0°)水晶から成る弾性表面波デバイスの周波数特性を示すグラフである。
図5】本発明の実施の形態の、Cu電極(厚み0.18λ)/(0°,θ,0°)LN(厚み0.6λ)/(0°,132°45’,0°)水晶、および、Cu電極(厚み0.18λ)/(0°,θ,0°)LN(厚み0.6λ)/(0°,132°45’,90°)水晶から成る弾性表面波デバイスの、LN基板のオイラー角θと共振音速(Phase velocity)との関係を示すグラフである。
図6図5に示す弾性波デバイスの、(a)LN基板のオイラー角θと帯域(Bandwidth)との関係を示すグラフ、(b) (a)の一部を拡大したグラフ、(c)LN基板のオイラー角θとインピーダンス比(Impedance ratio)との関係を示すグラフ、(d) (c)の一部を拡大したグラフである。
図7】本発明の実施の形態の、Cu電極(厚み0.14λ)/(0°,101°,0°)LN(厚み1.5λ)/(0°,θ,0°)水晶、および、Cu電極(厚み0.14λ)/(0°,101°,0°)LN(厚み1.5λ)/(0°,θ,90°)水晶から成る弾性表面波デバイスの、水晶基板(Quartz)のオイラー角θとインピーダンス比(Impedance ratio)との関係を示すグラフである。
図8】本発明の実施の形態の、Cu電極(厚み0.12λ)/(0°,θ,0°)LT(厚み0.8λ)/ZEガラス、および、Cu電極(厚み0.12λ)/(0°,θ,0°)LT(厚み1.0λ)/ZEガラスから成る弾性表面波デバイスの、(a)LT基板のオイラー角θと、低速側(LSAW)の共振音速のインピーダンス比(Impedance ratio)との関係を示すグラフ、(b) (a)の一部を拡大した、LT基板のオイラー角θと、低速側および高速側(レイリー波)の共振音速のインピーダンス比との関係を示すグラフである。
図9】本発明の実施の形態の、(a)Cu電極/(0°,101°,0°)LN(厚み1λ)/(0°,132°45’,0°)水晶、(b)Cu電極/(0°,101°,0°)LN(厚み1λ)/ガラス(BIガラス、ZEガラス、石英ガラス)から成る弾性表面波デバイスの、Cu電極の厚みと共振音速(共振周波数frのときの音速Vr、および、反共振周波数faのときの音速Va)との関係を示すグラフである。
図10】本発明の実施の形態の、Cu電極(厚み0.10λ、0.13λ、0.20λ)/(0°,101°,0°)LN/ZEガラスから成る弾性表面波デバイスの、LN基板の厚みとインピーダンス比(Impedance ratio)との関係を示すグラフである。
図11】本発明の実施の形態の、(a)Cu電極(厚み0.05λ)/(0°,101°,0°)LN(厚み0.4λ)/(0°,160°,90°)水晶、(b)Cu電極(厚み0.14λ)/(0°,101°,0°)LN(厚み1.0λ)/(0°,160°,90°)水晶から成る弾性表面波デバイスの周波数特性を示すグラフである。
図12】本発明の実施の形態の、Cu電極/(0°,101°,0°)LN/(0°,160°,90°)水晶から成る弾性表面波デバイスの、Cu電極の厚みhとLN基板の厚みtとの関係を示すグラフである。
図13】本発明の実施の形態の、Cu電極/(0°,101°,0°)LN/下地基板から成る弾性表面波デバイスの、下地基板の密度が(a)グループI(3100kg/m~8015kg/m)、(b)グループII(2225kg/m~3100kg/m)、(c)グループIII(2100kg/m~2225kg/m)のときの、Cu電極の厚みhとLN基板の厚みtとの関係を示すグラフである。
図14】本発明の実施の形態の弾性表面波デバイスの、(a)下地基板の厚みとLN基板の厚みとの比、(b)下地基板の厚みとLT基板の厚みとの比と、周波数温度係数(TCF)との関係を示すグラフである。
図15】本発明の実施の形態の、LN基板の表面にCu電極(厚み0.12λ)を形成し、(a)LN基板のプラス面と70°Y90°X水晶基板、(b)LN基板のマイナス面と70°Y90°X水晶基板とを接合した弾性表面波デバイスの、LN基板の厚みとインピーダンス比(Impedance ratio)との関係を示すグラフである。
図16】本発明に関する実施の形態の、Cu電極(厚み0.08λ)/11°YXLN(厚み0.7λ)/単結晶Siから成る弾性表面波デバイスの周波数特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、図面および実施例に基づいて、本発明の実施の形態について説明する。
図1乃至図16は、本発明の実施の形態の弾性表面波(SAW)デバイスを示している。
図1に示すように、弾性表面波デバイス10は、圧電基板11とすだれ状電極(IDT)12と下地基板13とを有している。
【0031】
圧電基板11は、LiNbOの単結晶(LN)またはLiTaOの単結晶(LT)から成っている。圧電基板11は、すだれ状電極12の電極指の周期(波長)をλとすると、厚みが、0.14λ~0.5λであることが好ましい。すだれ状電極12は、密度が、Alの密度(2700kg/m)の3倍以上、すなわち8100kg/m以上の材料から成り、圧電基板11の一方の表面にフォトリソグラフィー工程等により形成されている。すだれ状電極12は、例えば、Cu電極や、Mo電極、Pt電極、合金、多層金属膜などから成っている。
【0032】
下地基板13は、弾性波の伝搬に関して等方性の材料や、水晶から成っている。また、下地基板13は、伝搬する縦波の音速が8431m/sよりも低速である材料、または、伝搬する横波の音速が5341m/sよりも低速である材料、または、密度が圧電基板11の密度よりも小さい材料から成っている。下地基板13は、圧電基板11の他方の表面、すなわち、すだれ状電極12とは反対側の表面に設けられている。また、下地基板13は、線膨張係数が4.0×10-6(1/℃)以下であることが好ましい。下地基板13は、例えば、水晶基板やガラス基板から成っている。
【0033】
次に、作用について説明する。
弾性表面波デバイス10は、密度が8100kg/m以上の高密度のすだれ状電極12を用いると共に、伝搬する弾性波の音速が、圧電基板11を伝搬する弾性波の音速よりも低速の下地基板13を用いることにより、伝搬する弾性表面波の音速をさらに低下させることができる。これにより、伝搬する弾性表面波の共振周波数も低下させることができ、低周波数化を図ることができる。また、伝搬する弾性表面波の波長を変えることなく、その音速を低下させることができる。このため、素子サイズを大きくする必要がなく、小型化を図ることができる。
【0034】
以下に、弾性表面波デバイス10の実施例および比較例を示すが、それらの構造を、「すだれ状電極(IDT)/圧電基板/下地基板」や、「すだれ状電極(IDT)/圧電基板」(比較例の場合)のように記載する。
【0035】
[従来の弾性表面波デバイス]
現在、実用化されている、Al電極(厚み0.08λ)/(0°,38°,0°)LN構造のSAW共振子の周波数特性を求め、図2(a)に示す。ここで、λは、すだれ状電極の電極指の周期(波長)である(以下同じ)。図2(a)では、横軸を、IDTの波長λと周波数とを乗じた音速表示で示す。図2(a)に示すように、共振音速は3810m/s、反共振音速は3960m/sであった。また、帯域(BW)は3.8%、インピーダンス比は50dBであった。
【0036】
同様に、Al電極(厚み0.08λ)/(0°,97°,0°)LN構造のSAW共振子の周波数特性を求め、図2(b)に示す。図2(b)でも、横軸を、IDTの波長λと周波数とを乗じた音速表示で示す。図2(b)に示すように、共振音速は3790m/s、反共振音速は4460m/sであった。また、帯域(BW)は17.7%、インピーダンス比は62dBであった。この方位角の圧電基板では漏洩成分が大きいため、帯域内に多くのリップルが生じており、このままでは使用できないと考えられる。
【0037】
[本発明の実施例]
図2(b)と同じLN基板に、高密度電極から成るすだれ状電極、および水晶基板を組み合わせた、Cu電極(厚み0.18λ)/(0°,97°,0°)LN(厚み0.6λ)/(0°,132°45’,0°)水晶から成るSAW共振子の周波数特性を求め、図3に示す。なお、すだれ状電極のメタライゼーション比(MR)は、0.5である(以下、同じ)。図3に示すように、共振音速は2020m/s、反共振音速は2310m/sであった。また、帯域(BW)は14.5%、インピーダンス比は80dBであった。
【0038】
図3に示すように、図2(a)に示す従来のSAW共振子と比較すると、共振音速が47%減、インピーダンス比が30dB上昇していることが確認された。また、図2(b)に示す従来のSAW共振子と比較すると、共振音速が47%減、インピーダンス比が18dB上昇しており、さらにリップルがなく、漏洩成分がなくなっていることが確認された。このことから、図3に示す弾性表面波デバイスは、非常に良好な特性を有しているといえる。
【0039】
次に、Cu電極(厚み0.18λ)/(0°,120°,0°)LN(厚み0.6λ)/(0°,132°45’,0°)水晶から成るSAW共振子の周波数特性を求め、図4に示す。なお、このSAW共振子は、図3のものとは、LN基板の方位角のみが異なっているものである。図4に示すように、この場合でも、低周波側に漏洩SAW(LSAW)による広帯域かつ高インピーダンス比を有する共振子特性が得られているが、高速度域にレイリー波による大きなスプリアスが生じていることが確認された。図3および図4に示す結果から、LN基板やLT基板では、スプリアスの生じない最適な方位角が存在すると考えられる。
【0040】
次に、Cu電極(厚み0.18λ)/(0°,θ,0°)LN(厚み0.6λ)/(0°,132°45’,0°)水晶、および、Cu電極(厚み0.18λ)/(0°,θ,0°)LN(厚み0.6λ)/(0°,132°45’,90°)水晶から成るSAW共振子の、LN基板のオイラー角θと、低速側(LSAW)および高速側(レイリー波)の共振音速(Phase velocity)、帯域(Bandwidth)およびインピーダンス比(Impedance ratio)との関係を求め、それぞれ図5図6(a)~(d)に示す。また、図6(c)および(d)には、下地基板を、水晶基板からパイレックス(Pyrex;登録商標)ガラスから成るガラス基板に変えたときの、オイラー角θとインピーダンス比との関係も示している。
【0041】
図4に示すように、スプリアスにより2つの共振特性が認められることがある。図5および図6中の○、▲、*はそれぞれ、(0°,132°45’,0°)および(0°132°45’,90°)の水晶基板を用いたときの低速側の共振音速を示し、図5および図6中の□、▼、×はそれぞれ、(0°,132°45’,0°)および(0°132°45’,90°)の水晶基板を用いたときの高速側の共振音速を示している。図5に示すように、水晶基板の方位角の違いによる共振特性の差は、ほとんどないことが確認された。なお、オイラー角(φ、θ、ψ)のφが-5°~35°の範囲では、φ=0°のときとほぼ同じ値を示す。
【0042】
図6(a)に示すように、低速側の共振音速で、θ=58°~125°で6%以上、70°~117°で10%以上の帯域が得られることが確認された。しかし、図6(a)を拡大した図6(b)に示すように、θが94°以下および107°以上では、わずかに高周波側のレイリー(Rayleigh)波が励振されており、全く励振されていないのはθ=95°~106°であることが確認された。また、図6(c)に示すように、水晶基板のとき、低速側の共振音速で、θ=69°~117°で70dB以上、θ=78°~110°で75dB以上、θ=80°~104°で80dB以上のインピーダンス比が得られることが確認された。しかし、図6(c)を拡大した図6(d)に示すように、θ=90°~94°ではもっとも大きなインピーダンス比が得られるが、わずかにレイリー波の励振が認められた。その励振が見られないのは、θ=95°~106°であり、このオイラー角のLN基板を用いることが、最も好ましいといえる。また、図6(c)に示すように、ガラス基板のとき、低速側の共振音速で、θ=81°~123°で66dB以上、θ=83°~120°で68dB以上、θ=87°~114°で70dB以上のインピーダンス比が得られることが確認された。しかし、図6(d)に示すように、レイリー波によるスプリアスが励振されない方位角は、θ=97°~110°であり、このオイラー角のLN基板を用いることが、最も好ましいといえる。なお、ガラス基板では、SiOの成分が50%を占めるものは、同じ傾向を示す。
【0043】
次に、Cu電極(厚み0.14λ)/(0°,101°,0°)LN(厚み1.5λ)/(0°,θ,0°)水晶、および、Cu電極(厚み0.14λ)/(0°,101°,0°)LN(厚み1.5λ)/(0°,θ,90°)水晶から成るSAW共振子の、水晶のオイラー角θとインピーダンス比との関係を求め、図7に示す。図7に示すように、水晶基板のオイラー角によらず、インピーダンス比は一定であることが確認された。
【0044】
1℃当たりの温度変化に対する周波数のズレを表す周波数温度特性(TCF)は、LN基板やLT基板では、その方位角にかかわらずマイナスを示すが、水晶基板では、プラスのTCFを示す方位角も存在する。このため、マイナスのTCFを示すLN基板やLT基板と、プラスのTCFを示す方位角の水晶基板とを組み合わせることにより、TCFは改善される。このため、水晶基板は、レイリー波のTCFがプラスを示すオイラー角θを有することが好ましく、(0°±5°、0°~132°、0°±5°)、(0°±5°、0°~45°、90°±5°)、または(0°±5°、172°~180°、90°±5°)であることが好ましい。また、水晶基板は、漏洩SAW(LSAW)のTCFがプラスを示すオイラー角θを有していてもよく、(0°±5°、0°~17°、0°±5°)、(0°±5°、25°~65°、0°±5°)、(0°±5°、132°~180°、0°±5°)、(0°±5°、0°~42°、90°±5°)、または(0°±5°、125°~180°、90°±5°)であることが好ましい。なお、オイラー角(φ、θ、ψ)のφが-5°~35°の範囲では、φ=0°±5°のときとほぼ同じ値を示す。
【0045】
次に、Cu電極(厚み0.12λ)/(0°,θ,0°)LT(厚み0.8λ)/ZEガラス、および、Cu電極(厚み0.12λ)/(0°,θ,0°)LT(厚み1.0λ)/ZEガラスから成るSAW共振子の、LT基板のオイラー角θと、低速側(LSAW)および高速側(レイリー波)の共振音速のインピーダンス比との関係を求め、図8(a)および(b)に示す。なお、ZEガラスは、密度が2500kg/m、縦波音速が6498m/s、横波音速が3979m/s、ヤング率が95GPa、ポアソン比が0.2のガラスである。図8(a)に示すように、LT基板の厚みによらず、ほぼ同じ関係が得られることが確認された。また、θ=80°~126°で66dB以上、90°~118°で70dB以上のインピーダンス比が得られることが確認された。しかし、図8(a)を拡大した図8(b)に示すように、高音側(レイリー波)のスプリアスが4dB以下のオイラー角はθ=113°~142°であり、2dB以下のオイラー角はθ=115°~125°および127°~140°である。このことから、これらのオイラー角のLT基板を用いることが好ましいといえる。なお、ガラス基板では、SiOの成分が50%を占めるものは同じ傾向を示す。
【0046】
次に、Cu電極/(0°,101°,0°)LN(厚み1λ)/(0°,132°45’,0°)水晶から成るSAW共振子の、Cu電極の厚みと共振音速(共振周波数frのときの音速Vr、および、反共振周波数faのときの音速Va)との関係を求め、図9(a)に示す。図9(a)に示すように、音速Vrでは、Cu電極の厚みが0.06λ以上で3300m/s以下、0.08λ以上で3000m/s以下、0.123λ以上で2500m/s以下の共振音速が得られることが確認された。
【0047】
次に、Cu電極/(0°,101°,0°)LN(厚み1λ)/ガラス(BIガラス、ZEガラス、石英ガラス)から成るSAW共振子の、Cu電極の厚みと共振音速(共振周波数frのときの音速Vr、および、反共振周波数faのときの音速Va)との関係を求め、図9(b)に示す。なお、BIガラスは、密度が5630kg/m、縦波音速が4373m/s、横波音速が2491m/s、ヤング率が90GPa、ポアソン比が0.26のガラスである。図9(b)に示すように、ガラスの種類による音速の差は、ほとんどないことが確認された。また、音速Vrでは、Cu電極の厚みが0.077λ以上で3000m/s以下、0.115λ以上で2500m/s以下の共振音速が得られることが確認された。なお、図9(a)および(b)のいずれの場合も、Cu電極を厚くすればするほど共振音速は低下するが、現在の露光技術では、電極厚は0.4λが限界である。
【0048】
なお、図9(a)および(b)は、Cu電極のメタライゼーション比が0.5のときのものであり、共振音速はメタライゼーション比に反比例する。このため、Cu電極のメタライゼーション比をMRとすると、ある共振音速を得ることができるCu電極の厚みは、メタライゼーション比が0.5のときの厚みに、0.5/MRを掛けた値となる。
【0049】
また、共振音速は、メタライゼーション比だけでなく、すだれ状電極の電極密度およびその膜厚にも反比例する。このため、Cu電極以外の、Mo電極、Pt電極、合金、多層金属膜などを使用する場合、その電極のメタライゼーション比をMR、平均密度をρaveとすると、所定の共振音速での膜厚hは、その共振音速が得られるCu電極(メタライゼーション比0.5)の膜厚をhCu、密度をρCu(8930kg/m)として、次の(1)式により求めることができる。
h=hCu×ρCu×0.5/(MR×ρave) (1)
【0050】
この(1)式を利用すると、すだれ状電極がCu以外の電極から成るとき、同じ共振音速を得ることができる電極の厚みは、メタライゼーション比が0.5のCu電極の厚みに、8930×0.5/(MR×ρave)を掛けた値となる。
【0051】
次に、Cu電極(厚み0.10λ、0.13λ、0.20λ)/(0°,101°,0°)LN/ZEガラスから成るSAW共振子の、LN基板の厚みとインピーダンス比との関係を求め、図10に示す。図10に示すように、Cu電極がいずれの厚みであっても同様の傾向を示し、LN基板の厚みが0.17λ~5λのとき、70dB以上のインピーダンス比が得られることが確認された。また、LNの厚みが0.15λ以下のときには、リップルが発生することが確認された。
【0052】
次に、Cu電極(厚み0.05λ)/(0°,101°,0°)LN(厚み0.4λ)/(0°,160°,90°)水晶、および、Cu電極(厚み0.14λ)/(0°,101°,0°)LN(厚み1.0λ)/(0°,160°,90°)水晶から成るSAW共振子の、周波数特性を求め、それぞれ図11(a)および(b)に示す。図11に示すように、(a)では2.8GHz付近にリップルが発生しており、(b)ではリップルが発生していないことが確認された。このことから、すだれ状電極の電極厚と圧電基板の厚みとの関係には、リップルが発生しない最適な範囲が存在していると考えられる。
【0053】
そこで、Cu電極/(0°,101°,0°)LN/(0°,160°,90°)水晶から成るSAW共振子において、Cu電極の厚みとLN基板の厚みとを変化させて、リップルが発生しない範囲を求めた。その結果を、図12に示す。図12に示す曲線より上の範囲が、リップルが発生しない範囲であり、LNの厚みが0.14λより小さいときには、リップルが発生することが確認された。なお、図5図8に示すLN基板および水晶基板の方位角では、図12と同じ結果が得られることを確認している。また、Cu電極のメタライゼーション比は、0.5である。
【0054】
Cu電極の厚みをh、LN基板の厚みをtとすると、リップルが発生しない範囲を、図12に示す曲線の近似曲線から、以下のように表すことができる。
0.06λ≦h<0.16λのとき、
t≧11.2-125.3×h+228×h+796.5×h
0.16λ≦h≦0.4λのとき、
t≧2-21.7×h+84.1×h-108.1×h
なお、図12には図示していないが、Cu電極の厚みが0.4λのときのLN基板の厚みは、Cu電極の厚みが0.3λのときとほぼ同じである。また、LN基板の厚みが5λまでは、同じインピーダンス比を示している。
【0055】
また、Cu電極以外の電極を使用する場合、その電極の膜厚hは、(1)式により求めることができる。このため、(1)式のhCuをHとし、LNの厚みをtとすると、リップルが発生しない範囲を、以下のように表すことができる。
0.06λ≦H<0.16λのとき、
t≧11.2-125.3×H+228×H+796.5×H
0.16λ≦H≦0.4λのとき、
t≧2-21.7×H+84.1×H-108.1×H
ここで、H=h×MR×ρave/(8930×0.5)である。
【0056】
また、下地基板が水晶基板ではなく、ガラス基板などの等方体基板の場合には、基板の密度によりリップルが発生しない範囲が異なる。Cu電極/(0°,101°,0°)LN/下地基板から成るSAW共振子において、下地基板の材料を、密度により、グループI(3100kg/m~8015kg/m)、グループII(2225kg/m~3100kg/m)、グループIII(2100kg/m~2225kg/m)の3つに分けて、それぞれのグループについてリップルが発生しない範囲を求めた。その結果を、それぞれ図13(a)~(c)に示す。各図中に示す曲線より上の範囲が、リップルが発生しない範囲であり、LNの厚みが0.17λより小さいときには、リップルが発生することが確認された。また、各グループに含まれるガラス基板等の例を、表1に示す。なお、表1には、参考として、水晶、LN、LT、単結晶Si、多結晶Siの密度、縦波音速、横波音速も示している。
【0057】
【表1】
【0058】
Cu電極の厚みをh、LN基板の厚みをtとすると、リップルが発生しない範囲を、各図に示す曲線の近似曲線から、以下のように表すことができる。
図13(a)に示すグルーブIでは、
0.06λ≦h≦0.4λのとき、
t≧5.1-60.9×h+257.7×h-361.3×h
図13(b)に示すグルーブIIでは、
0.06λ≦h<0.13λのとき、
t≧1.956-28×h+311×h-1376.8×h
0.13λ≦h≦0.4λのとき、
t≧3.5-40.5×h+163.4×h-218.2×h
図13(c)に示すグルーブIIIでは、
0.06λ≦h≦0.4λのとき、
t≧5.07-62.3×h+265.7×h-373×h
である。なお、図示していないが、LN基板の厚みの上限は、5λである。
【0059】
また、Cu電極以外の電極を使用する場合、その電極の膜厚hは、(1)式により求めることができる。このため、(1)式のhCuをHとし、LN基板の厚みをtとすると、リップルが発生しない範囲を、以下のように表すことができる。
図13(a)に示すグルーブIでは、
0.06λ≦H≦0.4λのとき、
t≧5.1-60.9×H+257.7×H-361.3×H
図13(b)に示すグルーブIIでは、
0.06λ≦H<0.13λのとき、
t≧1.956-28×H+311×H-1376.8×H
0.13λ≦H≦0.4λのとき、
t≧3.5-40.5×H+163.4×H-218.2×H
図13(c)に示すグルーブIIIでは、
0.06λ≦H≦0.4λのとき、
t≧5.07-62.3×H+265.7×H-373×H
である。ここで、H=h×MR×ρave/(8930×0.5)である。
【0060】
次に、圧電基板がLN基板から成るとき、様々な線膨張係数を有する下地基板について、下地基板の厚みとLN基板の厚みとの比と、1℃当たりの温度変化に対する周波数のズレを表す周波数温度係数(TCF)との関係を求め、図14(a)に示す。図14(a)に示すように、線膨張係数が0.5×10-6(1/℃)以下の下地基板が、特にTCFの絶対値が小さく、厚みの比が10以上のとき、TCFの絶対値が20ppm/℃以下になることが確認された。また、線膨張係数が4.0×10-6(1/℃)以下の下地基板で、厚みの比が15以上のとき、TCFの絶対値が30ppm/℃以下になることが確認された。このため、温度変化による影響を抑えるためには、例えば、線膨張係数が4.0×10-6(1/℃)以下の下地基板を用い、下地基板の厚みとLN基板の厚みの比が15以上になるよう、下地基板およびLN基板の厚みを決定すればよいといえる。
【0061】
同様に、圧電基板がLT基板から成るとき、様々な線膨張係数を有する下地基板について、下地基板の厚みとLT基板の厚みとの比と、1℃当たりの温度変化に対する周波数のズレを表す周波数温度係数(TCF)との関係を求め、図14(b)に示す。図14(b)に示すように、線膨張係数が0.5×10-6(1/℃)以下の下地基板が、特にTCFの絶対値が小さく、厚みの比が10以上のとき、TCFの絶対値が10ppm/℃以下になることが確認された。また、線膨張係数が4.0×10-6(1/℃)以下の下地基板で、厚みの比が15以上のとき、TCFの絶対値が15ppm/℃以下になることが確認された。また、線膨張係数が8.4×10-6(1/℃)以下の下地基板で、厚みの比が15以上のとき、TCFの絶対値が20ppm/℃以下になることが確認された。このため、温度変化による影響を抑えるためには、例えば、線膨張係数が4.0×10-6(1/℃)以下の下地基板を用い、下地基板の厚みとLT基板の厚みの比が15以上になるよう、下地基板およびLT基板の厚みを決定すればよいといえる。ここで、基板を構成可能な各種材料の線膨張係数の例を、表2に示す。
【0062】
【表2】
【0063】
次に、オイラー角で(0°,105°,0°)のLN基板の表面(マイナス面)に、Cuから成るすだれ状電極(厚み0.12λ)を形成し、LN基板の裏面(プラス面)と等価な面と、70°Y90°X[オイラー角で(0°,160°,90°)]の水晶基板の表面(マイナス面)とを接合したSAW共振子、および、オイラー角で(0°,285°,0°)のLN基板の表面(プラス面)に、Cuから成るすだれ状電極(厚み0.12λ)を形成し、LN基板の裏面(マイナス面)と等価な面と、70°Y90°Xの水晶基板の表面(マイナス面)とを接合したSAW共振子の、LN基板の厚みとインピーダンス比との関係を求め、図15に示す。図15に示すように、LN基板の厚みが0.06λ~2λのとき、LN基板のプラス面と水晶基板とを接合したものの方が、LN基板のマイナス面で水晶基板と接合したものに比べて、インピーダンス比が0.3~3.5dB大きくなっていることが確認された。
【0064】
次に、厚み0.17λの(0°,101°または281°,0°)LN基板と、(0°,160°または340°,0~270°)水晶基板とを接合し、LN基板の表面にCuから成るすだれ状電極(厚み0.1λ)を形成したSAW共振子の、帯域およびインピーダンス比(Z比)について調べた結果を、表3に示す。なお、オイラー角(φ、θ、ψ)のθ=-90°~90°(±360°)のとき、各基板の表面がプラス面、裏面がマイナス面である。また、θ=90°~270°(±360°)のとき、各基板の表面がマイナス面、裏面がプラス面である。例えば、表3に記載の(0°,101°,0°)LNと(0°,281°,0°)LNとは表裏の関係にあり、前者のLN基板は表面がマイナス面、裏面がプラス面であり、後者のLN基板は表面がプラス面、裏面がマイナス面である。すなわち、表3中の「極性」の欄の左側の符号が基板の表面の極性を示し、右側の符号が基板の裏面の極性を示している。
【0065】
【表3】
【0066】
表3に示すように、LNと(0°,160°または340°,90°または270°)水晶の組み合わせについては、(0°,101°,0°)LN裏面(プラス面)と、(0°,160°,90°)水晶表面(マイナス面)あるいは(0°,340°,90°)水晶表面(プラス面)とを接合したSAW共振子は、同じオイラー角のLN裏面(プラス面)と、(0°,160°,270°)水晶表面(マイナス面)あるいは(0°,340°,270°)水晶表面(プラス面)とを接合したSAW共振子より、2.0dB大きなインピーダンスを示すことが確認された。
【0067】
一方、(0°,281°,0°)LN裏面(マイナス面)と、(0°,160°,270°)水晶表面(マイナス面)あるいは(0°,340°,270°)水晶表面(プラス面)とを接合したSAW共振子も、同じオイラー角のLN裏面(マイナス面)と、(0°,160°,90°)水晶表面(マイナス面)あるいは(0°,340°,90°)水晶表面(プラス面)とを接合したSAW共振子より、2.0dB大きなインピーダンスを示すことが確認された。このように、接合させる面の極性を変えても、インピーダンス比およびその差が同じ値を示していることから、LN基板や水晶基板のプラス面、マイナス面よりも、LN基板の方位角と水晶基板の方位角との組み合わせの方が重要であるといえる。
【0068】
次に、表3に示すように、LNと(0°,160°または340°,0°または180°)水晶の組み合わせについては、(0°,101°,0°)LN裏面(プラス面)と、(0°,160°,0°)水晶表面(マイナス面)あるいは(0°,340°,0°)水晶表面(プラス面)とを接合したSAW共振子は、同じオイラー角のLN裏面(プラス面)と、(0°,160°,180°)水晶表面(マイナス面)あるいは(0°,340°,180°)水晶表面(プラス面)とを接合したSAW共振子より、2.2dB大きなインピーダンスを示すことが確認された。
【0069】
一方、(0°,281°,0°)LN裏面(マイナス面)と、(0°,160°,0°)水晶表面(マイナス面)あるいは(0°,340°,0°)水晶表面(プラス面)とを接合したSAW共振子も、同じオイラー角のLN裏面(マイナス面)と、(0°,160°,180°)水晶表面(マイナス面)あるいは(0°,340°,180°)水晶表面(プラス面)とを接合したSAW共振子より、2.2dB大きなインピーダンスを示すことが確認された。このように、接合させる面の極性を変えても、インピーダンス比およびその差が同じ値を示していることから、この組合せにおいても、LN基板や水晶基板のプラス面、マイナス面よりも、LN基板の方位角と水晶基板の方位角との組み合わせの方が重要であるといえる。
【0070】
また、表3に示すように、LN基板や水晶基板のプラス面、マイナス面に関わらず、LN基板や水晶基板の方位角の組み合わせにより、得られる帯域やインピーダンス比が異なることも確認された。なお、Cu電極以外のAl電極やPt電極等でも同じ結果が得られており、この現象は電極材料によらないことも確認された。
【0071】
表3の結果から、LN基板と水晶基板との組み合わせについては、以下の4種の組み合わせで大きなインピーダンス比が得られると考えられる。
(0°,90°~270°、0°)LNと(0°、θ、90°)水晶
(0°,270°~450°、0°)LNと(0°、θ、270°)水晶
(0°,90°~270°、0°)LNと(0°、θ、0°)水晶
(0°,270°~450°、0°)LNと(0°、θ、0°)水晶
【0072】
また、より大きなインピーダンス比が得られるLN基板の方位を考慮すると、より望ましい組合せは以下のようになる。
(0°,95°~110°、0°)LNと(0°、θ、90°)水晶
(0°,275°~290°、0°)LNと(0°、θ、270°)水晶
(0°,95°~110°、0°)LNと(0°、θ、0°)水晶
(0°,275°~290°、0°)LNと(0°、θ、0°)水晶
【0073】
次に、厚み0.17λの(0°,132°または312°,0°)LT基板と(0°,150°または330°、ψ)水晶基板とを接合し、LT基板の表面にCuから成るすだれ状電極(厚み0.08λ)を形成したSAW共振子の、帯域(BW)およびインピーダンス比(Z ratio)について調べた結果を、表4に示す。なお、(0°,132°,0°)LTと(0°,312°,0°)LTとは、前述のLN同様、裏表の関係にあり、前者の表面がマイナス面、裏面がプラス面である。後者はその逆である。
【0074】
【表4】
【0075】
表4に示すように、LTと(0°,150°または330°,90°または270°)水晶の組み合わせについては、(0°,132°,0°)LT裏面(プラス面)と、(0°,150°,90°)水晶表面(マイナス面)あるいは(0°,330°,90°)水晶表面(プラス面)とを接合したSAW共振子は、同じオイラー角のLT裏面(プラス面)と、(0°,150°,270°)水晶表面(マイナス面)あるいは(0°,330°,270°)水晶表面(プラス面)とを接合したSAW共振子より、1.6dB大きなインピーダンスを示すことが確認された。
【0076】
一方、(0°,312°,0°)LT裏面(マイナス面)と、(0°,150°,270°)水晶表面(マイナス面)あるいは(0°,330°,270°)水晶表面(プラス面)とを接合したSAW共振子も、同じオイラー角のLT裏面(プラス面)と、(0°,150°,90°)水晶表面(マイナス面)あるいは(0°,330°,90°)水晶表面(プラス面)とを接合したSAW振子より、1.6dB大きなインピーダンスを示すことが確認された。このように、接合させる面の極性を変えても、インピーダンス比およびその差が同じ値を示していることから、LN基板や水晶基板のプラス面、マイナス面よりも、LN基板の方位角と水晶基板の方位角との組み合わせの方が重要であるといえる。
【0077】
次に、表4に示すように、LTと(0°,150°または330°,0°または180°)水晶の組み合わせについては、(0°,132°,0°)LT裏面(プラス面)と、(0°,150°,0°)水晶表面(マイナス面)あるいは(0°,330°,0°)水晶表面(プラス面)とを接合したSAW共振子は、同じオイラー角のLT裏面(プラス面)と、(0°,150°,180°)水晶表面(マイナス面)あるいは(0°,330°,180°)水晶表面(プラス面)とを接合したSAW共振子より、約2.4dB大きなインピーダンスを示すことが確認された。
【0078】
一方、(0°,312°,0°)LT裏面(マイナス面)と、(0°,150°,0°)水晶表面(マイナス面)あるいは(0°,330°,0°)水晶表面(プラス面)とを接合したSAW共振子も、同じオイラー角のLT裏面(マイナス面)と、(0°,150°,180°)水晶表面(マイナス面)あるいは(0°,330°,180°)水晶表面(プラス面)とを接合したSAW共振子より、2.4dB大きなインピーダンスを示すことが確認された。このように、接合させる面の極性を変えても、インピーダンス比およびその差が同じ値を示していることから、この組合せにおいても、LN基板や水晶基板のプラス面、マイナス面よりも、LN基板の方位角と水晶基板の方位角との組み合わせの方が重要であるといえる。
【0079】
また、表4に示すように、LT基板や水晶基板のプラス面、マイナス面に関わらず、LT基板や水晶基板の方位角の組み合わせにより、得られる帯域やインピーダンス比が異なることも確認された。なお、Cu電極以外のAl電極やPt電極等でも同じ結果が得られており、この現象は電極材料によらないことも確認された。
【0080】
表4の結果から、LT基板と水晶基板との組合せについては、以下の4種の組合せで大きなインピーダンス比が得られると考えられる。
(0°,90°~270°、0°)LTと(0°、θ、90°)水晶
(0°,270°~450°、0°)LTと(0°、θ、270°)水晶
(0°,90°~270°、0°)LTと(0°、θ、0°)水晶
(0°,270°~450°、0°)LTと(0°、θ、0°)水晶
【0081】
また、より大きなインピーダンス比が得られるLT基板の方位を考慮すれば、より望ましい組合せは以下のようになる。
(0°,113°~142°、0°)LTと(0°、θ、90°)水晶
(0°,293°~322°、0°)LTと(0°、θ、270°)水晶
(0°,113°~142°、0°)LTと(0°、θ、0°)水晶
(0°,293°~322°、0°)LTと(0°、θ、0°)水晶
【0082】
なお、下地基板がガラス基板の場合には、LN基板やLT基板の接合面のプラス、マイナスでの差は認められないことも確認された。
【0083】
次に、Cu電極(厚み0.08λ)/11°YXLN(厚み0.7λ)/単結晶Si(縦波音速8431m/s、横波音速5844m/s)から成るSAW共振子の周波数特性を求め、図16に示す。図16に示すように、下地基板として、高音速の単結晶Si基板を用いているため、音速が大きくなっていることが確認された。また、共振音速の約1.4倍の音速を有する高次モードで、大きなスプリアスが励振されており、良好な特性は得られないことが確認された。また、下地基板として、縦波音速8945m/s、横波音速5341m/sの多結晶Siを用いたときも、同様に大きなスプリアスの励振が確認された。また、下地基板として、縦波音速6360m/s、横波音速4676m/sの水晶を用いたときには、スプリアスがない良好な特性を示すことが確認された。このことから、縦波音速が8431m/sよりも低速である下地基板、または、横波音速が5341m/sよりも低速である下地基板を使用するのが望ましいといえる。
【符号の説明】
【0084】
10 弾性表面波デバイス
11 圧電基板
12 すだれ状電極
13 下地基板
図1
図2
図3
図4
図5
図6
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図9
図10
図11
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図16