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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-21
(45)【発行日】2024-10-29
(54)【発明の名称】殺菌剤組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A01N 59/08 20060101AFI20241022BHJP
   A01P 3/00 20060101ALI20241022BHJP
   A01N 59/00 20060101ALI20241022BHJP
   A01N 25/02 20060101ALI20241022BHJP
   A01N 59/06 20060101ALI20241022BHJP
   C23F 11/18 20060101ALI20241022BHJP
【FI】
A01N59/08 A
A01P3/00
A01N59/00 C
A01N25/02
A01N59/06 Z
C23F11/18 102
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2024023527
(22)【出願日】2024-02-20
(62)【分割の表示】P 2020050469の分割
【原出願日】2020-03-23
(65)【公開番号】P2024045641
(43)【公開日】2024-04-02
【審査請求日】2024-02-20
(73)【特許権者】
【識別番号】391003576
【氏名又は名称】株式会社トクヤマデンタル
(72)【発明者】
【氏名】高橋 歩
(72)【発明者】
【氏名】坂田 英武
【審査官】長谷川 大輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-161011(JP,A)
【文献】特開2016-117048(JP,A)
【文献】再公表特許第2019/139134(JP,A1)
【文献】特開2013-001702(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0369065(US,A1)
【文献】特開2002-249407(JP,A)
【文献】特開2011-173858(JP,A)
【文献】特開2010-202564(JP,A)
【文献】国際公開第2006/057311(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N1/00-65/48
A01P1/00-23/00
C23F11/00-11/18
14/00-17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)沈殿皮膜型防錆剤200ppm~1600ppmと、(B)多価金属イオン100ppm以上を含有する、有効塩素濃度が100ppm~2000ppmの弱酸性次亜塩素酸水からなる殺菌剤組成物を製造する方法であって、
次亜塩素酸塩水溶液からなる原料水溶液をイオン交換樹脂で処理するイオン交換法により得られた、弱酸性次亜塩素酸水溶液を必用に応じて水で希釈して有効塩素濃度が100ppm~2000ppmであり、多価金属イオン、有機酸、及びその塩を実質的に含有しない弱酸性次亜塩素酸水からなる原料弱酸性次亜塩素酸水を準備する工程、並びに
上記工程で準備された所定量の原料弱酸性次亜塩素酸水と、多価金属の金属塩又は金属水酸化物、及びポリリン酸塩系沈殿皮膜型防錆剤又はポリケイ酸塩系沈殿被覆型防錆剤と、を混合する混合工程
を含み、
前記混合工程において、混合後の水溶液中に含まれる沈殿皮膜型防錆剤及び多価金属イオン濃度を夫々前記範囲内とする、
ことを特徴とする殺菌剤組成物の製造方法。
【請求項2】
多価金属イオン含有量が780ppm以下である殺菌剤組成物を製造する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記金属塩又は金属水酸化物として前記多価金属の塩化物を混合する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記塩化物が塩化カルシウム及び/又は塩化ストロンチウムである、請求項3に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防錆効果を高めた弱酸性次亜塩素酸水からなる殺菌剤組成物を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水溶液中の次亜塩素酸は、pHによって存在形態が変化する。具体的には、pHが3~6程度の弱酸性領域では殆どが分子型の次亜塩素酸(HClO)として存在し、pH9以上の塩基性領域では解離した次亜塩素酸イオン(OCl)としての存在が優勢となり、また強酸性領域(たとえばpH3未満)ではpHの低下に伴い塩素分子(Cl)の発生が優勢となる。これら存在形態の中では分子型次亜塩素酸(HClO)が極めて高い殺菌効果を有し、その殺菌効果はイオン型次亜塩素酸(OCl)の約80倍であるとも言われている。このような高い殺菌効果を有する分子型次亜塩素酸を多く含むpH3~6の弱酸性次亜塩素酸水は、人体に対する安全性も比較的高いことから、医療、歯科、農業、食品加工等、様々な分野における除菌剤又は殺菌剤として使用されている。
【0003】
しかしながら、塩素系の除菌剤や殺菌剤は、金属腐食性があることで知られており、弱酸性次亜塩素酸においても同様である。さらに、pHの高い次亜塩素酸ナトリウム等の次亜塩素酸塩水溶液に比べ、弱酸性次亜塩素酸水の腐食性は高く、より低濃度、短時間で金属を腐食させてしまう。このような問題に対して、防錆剤を添加した殺菌洗浄剤(特許文献1)や緩衝剤を添加した殺菌洗浄剤(特許文献2)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2002-161011号公報
【文献】国際公開2006/057311号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記特許文献1及び2に記載された技術において、防錆効果は確認されているものの、金属対象は主に金属の中でも腐食されにくいとされているステンレスである。錆を嫌う用途や場所には一般的にステンレスが使用されているが、加工性や価格の観点から、その他の金属が使用される場合があり、例えば歯科では、歯牙を削るための研削バーにスチールが使用されている。本発明者らの検討によれば、スチールの研削バーを有効塩素濃度250ppm程度の低濃度の弱酸性次亜塩素酸水に浸漬した場合、特許文献1に記載の防錆剤を添加しても短時間で錆が発生してしまう。また、殺菌効果を向上させるため、有効塩素濃度を高めていくと、錆も速く発生する。そのため、一般的にスチールのような錆やすい金属に対しては、低濃度、短時間での使用が必須であり、結果として殺菌力を犠牲にしていた。また、ステンレスのような錆にくい金属に対しても、錆の虞があるため、安全で高い殺菌力を有する殺菌剤であるにも関わらず、積極的な使用はされていない。
【0006】
そこで本発明は、防錆効果を高めた弱酸性次亜塩素酸殺菌剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、防錆剤の中でも沈殿皮膜型防錆剤に着目し、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った。その結果、弱酸性次亜塩素酸水に、沈殿皮膜型の防錆剤を200ppm~1600ppm添加することに加え、多価金属イオンを100ppm以上添加することで、防錆効果が向上し、スチールのような錆やすい金属に対して、錆が発生するまでの時間を延長させることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、(A)沈殿皮膜型防錆剤200ppm~1600ppmと、(B)多価金属イオン100ppm以上を含有する、有効塩素濃度が100ppm~2000ppmの弱酸性次亜塩素酸水からなる防錆効果を向上させた殺菌剤組成物(以下、「本発明の殺菌剤組成物」ともいう。)を製造する方法であって、
次亜塩素酸塩水溶液からなる原料水溶液をイオン交換樹脂で処理するイオン交換法により得られた、弱酸性次亜塩素酸水溶液を必用に応じて水で希釈して有効塩素濃度が100ppm~2000ppmであり、多価金属イオン、有機酸、及びその塩を実質的に含有しない弱酸性次亜塩素酸水からなる原料弱酸性次亜塩素酸水を準備する工程、並びに
上記工程で準備された所定量の原料弱酸性次亜塩素酸水と、多価金属の金属塩又は金属水酸化物、及びポリリン酸塩系沈殿皮膜型防錆剤又はポリケイ酸塩系沈殿被覆型防錆剤と、を混合する混合工程
を含み、
前記混合工程において、混合後の水溶液中に含まれる沈殿皮膜型防錆剤及び多価金属イオン濃度を夫々前記範囲内とする、
ことを特徴とする殺菌剤組成物の製造方法である。
【0009】
多価金属イオンの含有量が780ppm以下である殺菌剤組成物を製造することが好ましい。
【0010】
また、前記多価金属の金属塩又は金属水酸化物として前記多価金属の塩化物を混合する、ことが好ましいく、塩化カルシウム及び/又は塩化ストロンチウムを混合することが、より好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明の殺菌剤組成物によれば、腐食性の高い弱酸性次亜塩素酸水においても、腐食を抑制することが可能となる。この腐食抑制効果により、多価金属イオンを添加した殺菌剤は、沈殿皮膜型の防錆剤のみを添加した殺菌剤と比較し、錆が発生するまでの時間が倍以上に延長する。本発明の殺菌剤は、これまで低濃度、短時間での処理が求められていた錆びやすい金属に対して、これまでよりも高濃度での殺菌や、長時間浸漬が可能となる。さらに、ステンレスのような錆びにくい金属に対しては、錆のリスクがより一層軽減され使用の幅が広がる。
【0012】
本発明の殺菌剤組成物において、腐食性の高い弱酸性次亜塩素酸水においても腐食を抑制することが可能となるのは、弱酸性次亜塩素酸水に沈殿被膜型防錆剤に加え、多価金属イオンを添加することにより、殺菌対象の金属を殺菌剤組成物に浸漬した際に金属表面から溶出する僅かな金属イオンによって、沈殿被膜型防錆剤が素早く不溶成分として析出し、金属表面に沈着して被膜を形成することによると推測される。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明における弱酸性次亜塩素酸水のpHは、通常3~6程度であり、このようなpH範囲内であれば殆どが水溶液中で分子型の次亜塩素酸として存在させることができる。このような弱酸性次亜塩素酸水は、次亜塩素酸塩水溶液からなる原料水溶液をイオン交換樹脂で処理するイオン交換法により製造することができる。
【0014】
また、本発明においては、殺菌剤組成物の使用時の有効塩素濃度は100ppm~2000ppmである。有効塩素濃度が100ppm以下であると、十分な殺菌効果が得られず、2000ppm以上では、濃度を濃くしても殺菌効果に変化がないばかりか腐食力が高まり、防錆剤による腐食抑制が難しくなる。また、より効率良く殺菌するという観点から、120ppm~1500ppmが好ましく、150~1000ppmがより好ましい。調製方法は、弱酸性次亜塩素酸水の製造時に上記範囲内となるように製造しても良いし、高濃度の弱酸性次亜塩素酸水を製造しておき、殺菌剤組成物の調製時に上記範囲内となるように希釈して使用しても良い。
【0015】
沈殿皮膜型防錆剤としては、例えば、無機系防錆剤では、リン酸塩、ポリリン酸塩、ホスホン酸塩、オルトリン酸塩等のリン酸塩系防錆剤;ケイ酸塩、メタケイ酸塩等のケイ酸塩系防錆剤クロム酸塩が挙げられ、これらは一般的にナトリウム塩である。有機系防錆剤では、ベンゾトリアゾール、トリルトリアゾール、メルカトベンゾチアゾール等が挙げられる。本発明の殺菌剤組成物では、弱酸性次亜塩素酸水中での安定性の観点から、無機系防錆剤であるポリリン酸塩系沈殿皮膜型防錆剤又はポリケイ酸塩系沈殿被覆型防錆剤を使用する。
【0016】
沈殿皮膜型防錆剤の配合量は、200ppm~1600ppmである。200ppm以下の場合、皮膜が十分に形成されず、防錆効果が発揮されない。一方、防錆剤を1600ppm以上添加しても、明らかな防錆向上効果の向上は期待できない。また、効率的により素早く均一な皮膜形成を獲得するという観点から、220ppm~1200ppmが好ましく、240ppm~800ppmがより好ましい。
【0017】
本発明の殺菌剤組成物の(B)多価金属イオンは、沈殿皮膜型防錆剤と結合し、金属表面に皮膜を形成する2価以上の金属イオンであり、例えば、カルシウム、ストロンチウム、亜鉛、鉄、アルミニウム、クロム、チタン等の金属のイオンが挙げられる。多価金属イオンとしては、入手のしやすさや、取り扱いが容易であることから、カルシウムイオン、ストロンチウムイオン、亜鉛が好ましい。多価金属イオンを添加する方法としては、例えば、金属塩や金属水酸化物を弱酸性次亜塩素酸水に溶解させる方法や、多価金属イオン放出性フィラーから多価金属イオンを溶出させた溶液を弱酸性次亜塩素酸水に添加する等が挙げられるが。多価金属イオンを添加する方法としては、濃度の調整が容易であることから、金属塩や金属水酸化物を弱酸性次亜塩素酸水に溶解させる方法を採用する。金属塩化物を溶解させる方法がより好ましい。
【0018】
多価金属イオンの配合量は、100ppm以上である。100ppm未満であると、皮膜形成スピードが遅く、厚みも薄くなるため、防錆の十分な持続効果が得られない。一方、多価金属イオンの配合量が多くなると、十分な持続効果は得られるものの多価金属イオンと沈殿皮膜型防錆剤との結合が進行し沈殿してしまうことがある。さらに、金属表面に偏析し、表面に析出した成分を洗い流す必要がある。なお、より均一な皮膜形成を獲得するという観点から、120ppm~550ppmが好ましく、150ppm~500ppmがより好ましい。
【0019】
本発明の殺菌剤組成物は、殺菌効果が高く、殺菌対象物への損傷が低いことから、病院、食品加工工場、教育施設、介護施設等の幅広い分野での殺菌に有用である。また、塩素系殺菌剤の欠点であった、金属腐食に対する抑制効果があるため、殺菌対象物の素材も特に制限されず、金属が含まれる物品への消毒にも使用可能である。特に、錆にくい金属であるステンレス以外の、スチール、コバルトクロム、銀、亜鉛、真鍮等への使用も可能である。中でも、有効塩素濃度が260ppmの弱酸性次亜塩素酸水に浸漬し、5分以内に錆が発生する金属(例えば、スチール、亜鉛、真鍮等)への使用に適している。
【0020】
使用方法は、例えば、殺菌したい場所へスプレー噴霧した後拭きとる、殺菌対象物を浸漬した後水洗するという方法が挙げられる。
【0021】
また、本発明の殺菌剤組成物は、あらかじめ全ての成分を所定濃度となるように混合しておいても良いが、使用直前に混合して使用(用時調製)することも可能である。用時調製の一例としては、高濃度の弱酸性次亜塩素酸水を所望の濃度に希釈後、防錆剤および多価金属イオン、例えば、金属塩化物を必要量添加し、溶解させた溶液を殺菌剤として使用するという方法が挙げられる。
【実施例
【0022】
以下、本発明を具体的に説明するために、実施例および比較例を挙げて説明するが、本発明はこれらにより何等制限されるものではない。
【0023】
先ず、実施例及び比較例で使用した、弱酸性次亜塩素酸水、沈殿皮膜型防錆剤、金属イオン化合物、および、高濃度弱酸性次亜塩素酸水製造に使用した原料について説明する。
【0024】
[弱酸性次亜塩素酸水]
・デントジア(トクヤマデンタル社製):有効塩素濃度743ppm pH4.2
[沈殿皮膜型防錆剤]
・ポリリン酸塩系防錆剤
オルキレートNAL(ポリリン酸ナトリウム塩40wt%、水60wt%) (オルガノ株式会社製、以下、「NAL」と略記する。)
・ポリケイ酸塩系防錆剤
オルキレートSIL(ポリケイ酸ナトリウム塩35wt%、水65wt%) (オルガノ株式会社製、以下、「SIL」と略記する。)
[多価金属イオン源]
・塩化カルシウム(以下、「CaCl」と略記する。)
・水酸化カルシウム(以下、「Ca(OH)」と略記する。)
・塩化ストロンチウム(以下、「SrCl」と略記する。)
[その他防錆剤]
・酢酸
[高濃度弱酸性次亜塩素酸水製造に使用した原料]
・有効塩素濃度12.0質量%NaClO水溶液(ネオラックススーパー:供給元 島田商店)
・弱酸性イオン交換樹脂 アンバーライトIRC-76(H形、オルガノ株式会社製、以下、「IRC76」と略記する。)。
【0025】
(1)高濃度弱酸性次亜塩素酸水(有効塩素濃度1250ppm)の調製
前記12.0質量%NaClO水溶液をイオン交換水で希釈して有効塩素濃度が1500ppmとなるよう調整して、原料水溶液を1200ml調製した。次に、弱酸性イオン交換樹脂IRC76を100ml計りとり、原料水溶液を全量添加し、30分間フッ素樹脂製撹拌羽を用いて弱酸性イオン交換樹脂が均一に分散するように撹拌して混合を行った。撹拌中、混合液のpHをモニターし、pHが低下して5.5に到達した時点で撹拌を停止した。撹拌終了後、樹脂が沈降するまで静置させ、デカンテーションにより上澄み液である次亜塩素酸水溶液を、樹脂が入りこまないように#200の濾布を通してポリエチレン容器に回収した。pH安定のため、24時間液を室温にて放置した。試験に供した弱酸性次亜塩素酸水は、有効塩素濃度1250ppm、pH4.5であった。
【0026】
(2)評価方法
(2-1)有効塩素濃度測定
次亜塩素酸ナトリウム水溶液および弱酸性次亜塩素酸水の一部をサンプル溶液とし、当該サンプル溶液を原料溶液の有効塩素濃度に応じ、下記希釈倍率でイオン交換水を用いて希釈し、測定用試料を調製し、有効塩素濃度測定キットAQ-202型(柴田科学株式会社)にて希釈後の有効塩素濃度を測定した。測定結果及び希釈倍率からサンプル溶液の有効塩素濃度を求めた。
【0027】
・原料溶液の有効塩素濃度301~900ppm:希釈倍率3倍
・原料溶液の有効塩素濃度901~3000ppm:希釈倍率10倍
・原料溶液の有効塩素濃度3001~15000ppm:希釈倍率50倍
・原料溶液の有効塩素濃度15001~120000ppm:希釈倍率500倍。
【0028】
(2-2)pH測定
弱酸性次亜塩素酸水及び殺菌剤組成物のpHは、pHメーターF-55型(株式会社堀場製作所)を用いて測定した。
【0029】
(2-3)錆の評価
50ccガラス瓶に45mlのサンプル溶液を入れ、その溶液に歯科用スチールバー(「エラスチールバー(松風社製)」)又は真鍮板を浸漬した。有効塩素濃度257ppmのサンプル溶液では、23℃で2分、10分、20分、30分で錆の有無を目視で確認した。また、有効塩素濃度1250ppmのサンプル溶液では、5秒、30秒、1分、1分30秒で錆の有無を目視で確認した。
○:錆が確認されなかった。
△:僅かに錆が確認された。
×:明らかに錆が確認された。
【0030】
(2-4)液の状態評価
殺菌剤組成物を調製後、液の状態を目視で観察した。
【0031】
(2-5)保存安定性評価
100ccガラス瓶に55mlのサンプル溶液を入れ、室温(10~23℃)にて1週間保管後、有効塩素濃度およびpHを測定し、初期値との変化を確認した。
【0032】
実施例1
有効塩素濃度743ppmのデントジア170mlにイオン交換水を330ml、NALを1.25g、CaClを0.28g添加し、スターラーで2分間撹拌し、殺菌剤組成物を調製した。
調製した殺菌剤組成物を用いて、歯科用スチールバーに対する錆の評価を行った。
殺菌剤組成物の組成、pH、有効塩素濃度、及び錆の評価結果を表1に示した。
【0033】
実施例2~11、15、比較例1~6、9、10
デントジアを希釈するイオン交換水の量、防錆剤の量、多価金属イオンの種類・量を変更した以外は実施例1と同様の手順で殺菌剤組成物を調製し、錆の評価を行った。
殺菌剤組成物の組成、pH、有効塩素濃度、及び錆の評価結果を表1、表3に示した。また、実施例15の組成において、保存安定性評価を行った結果を表4に示した。
【0034】
実施例12
(1)高濃度弱酸性次亜塩素酸水(有効塩素濃度1250ppm)の調製で調製した有効塩素濃度1250ppmの弱酸性次亜塩素酸水500mlに、イオン交換水を160ml、NALを1.65g、CaClを1.01g添加し、スターラーで2分間撹拌し、殺菌剤組成物を調製した。
調製した殺菌剤組成物を用いて、歯科用スチールバーに対する錆の評価を行った。
殺菌剤組成物の組成、pH、有効塩素濃度、及び錆の評価結果を表2に示した。
【0035】
実施例13、14、比較例7、8
有効塩素濃度1250ppmの弱酸性次亜塩素酸水を使用したこと、および、防錆剤の種類・量、多価金属イオンの量を変更した以外は実施例12と同様の手順で殺菌剤組成物を調製し、錆の評価を行った。
殺菌剤組成物の組成、pH、有効塩素濃度、及び錆の評価結果を表2に示した。
【0036】
【表1】
【0037】
【表2】
【0038】
【表3】
【0039】
【表4】
【0040】
有効塩素濃度260ppmの殺菌剤組成物において、実施例1~8は20分まで錆は確認されなかった。防錆剤が少ない実施例9では、10分まで錆は確認されなかったものの、20分で僅かに錆が確認された。また、防錆剤濃度が高い実施例10、有効塩素濃度が150ppmである実施例11では、30分の時点で錆は確認されなかった。一方、防錆剤のみであり濃度が低い比較例1及び防錆剤を添加していない比較例5では、2分で明らかに錆が確認された。防錆剤の濃度を高くした比較例2、3では、2分では錆は確認されなかったが、10分で僅かに錆が確認された。多価金属イオンの濃度が低い比較例4も同様であった。また、有効塩素濃度950ppmおよび1250ppmの殺菌剤組成物においては、実施例12~14では、1分まで錆は確認されなかった。一方、防錆剤のみである比較例7では、30秒で錆が確認された。なお、防錆剤を添加していない比較例8では、5秒で錆が確認された。
【0041】
さらに、評価金属として真鍮を用いた場合においても、スチールを用いた評価と同様に、防錆剤および多価金属イオンを添加した実施例15では、20分まで錆は確認されなかった。一方、防錆剤のみである比較例9および10では2分で錆が確認された。
【0042】
防錆剤のみを添加した弱酸性次亜塩素酸の殺菌剤と比較し、多価金属イオンを添加した殺菌剤は倍以上の時間、錆を抑制できた。
また、実施例15の組成において、1週間室温にて保管した本発明の殺菌剤組成物は、有効塩素濃度およびpHは初期値から変化がなかった。